続 のび太「それでも僕は……」 (アニメキャラの体験談) 26929回

2008/06/13 08:45┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
136 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:35:34.89 ID:vLqKmyu00
のび太「な、なんだ、いたんだ!よかった……」 

しずか「どうしたの?私、なにかした?」 

のび太「あ、いや。部活にきてなかったし、連絡もなかったから…・・・」 

しずか「あ、ごめんなさい。すっかり忘れていたわ」 

のび太「いや、いいんだ。僕の早とちりだった」 

しずか「早とちり……?」 

のび太「いや、なんでもない」 

悪い想像を、拭い去った。 
そして、出木杉に心の中でわびた。 

のび太「はぁ……」 

しずか「どうしたの?ほんとに」 

のび太「いや、ほんとうになんでもないんだ」 

140 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:38:19.94 ID:vLqKmyu00
しずか「へんなのび太さん。なんか、昔ののび太さんみたいだわ」 

のび太「へへへ……w」 

僕は笑った。 

しずか「ねぇ、せっかくだからその辺を一緒に歩きましょう。お話、したいわ」 

のび太「少し汗臭いかもしれないけど」 

しずか「かまわないわ」 

のび太「僕は気にする」 

しずか「なら、気にしないで」 

しずかちゃんは笑っていった。 

しずか「川原のほうにでも、いってみましょう」 

150 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:44:21.58 ID:vLqKmyu00
日は傾き、雰囲気はそれなりによかったと思う。 
スポーツバッグを背負った学生服と、ピンクのスカート、という妙な取り合わせだったかもしれないが、僕にとっては幸せな時間だった。 

しずか「ドラちゃんがいなくなって、もう何年になるのかしら」 

のび太「うんと……3年、かな?」 

しずか「もう3年もたったのね。ドラちゃん、元気かしら」 

のび太「きっと元気さ」 

しずか「だといいわね」 

彼女の口ぶりはどこか意味深で、僕はいちいちその言葉の意味を頭で考えていた。 

しずか「ドラちゃんにまた、会えると良いね」 

のび太「うん」 


そのときのしずかちゃんは、笑っているのか、よくわからなかった。 

151 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:48:30.45 ID:vLqKmyu00
僕らはコンビニに入ってお弁当を買い河川敷で並んでそれを食べた。 
やはり、コンビニのお弁当はおいしくない。しずかちゃんに作ってもらわないと。 

のび太「もうすぐ大会だよ」 

しずか「ええ」 

のび太「今度こそ、11秒台を出すよ」 

しずか「うん。がんばって」 

のび太「必ず……!」 


しずかちゃんと分かれて、僕は家路についた。 

陸橋の階段を上った、そのときだった。 


出木杉「っ!」 

のび太「……!」 

急に突き出されたナイフ。 

飛び散るのは、僕の血。

165 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:52:02.37 ID:vLqKmyu00
陸橋の上にいた人物。 
出木杉だった。 

僕はあわてて距離をとった。 
顔に手をやる。大丈夫、切れたのは頬だけだ。 

出木杉「はっ!……はっ!」 

手にナイフを持った出木杉。その呼吸は、荒い。 

のび太「出木杉……!」 

出木杉「しずかちゃんは、僕の……」 

のび太「なんだって?!」 

出木杉「しずかちゃんは僕のものだ!」 

叫んで、突っ込んでくる。僕はとっさに背中のスポーツバッグで防御した。 

出木杉「ぐ……!」 


 172 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:54:51.80 ID:vLqKmyu00
のび太「君は何をいってるんだ!?」 

よく、状況がわからない。 

出木杉「君が、君が悪いんだ。しずかちゃんは僕のものなのに……き、君が……!」 

のび太「ま、待て、出木杉!そのナイフを下ろせ!」 

出木杉「うわああああああああ!!」 

ナイフを振りかざし、走ってくる出木杉。 

僕は横っ飛びでそれをかわす。 

なんなんだ、これは?! 


僕は叫びたくなる。 

178 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:58:16.65 ID:vLqKmyu00
陸橋の上で、僕らは二転三転と立ち居地を入れ替えた。 

かつては運動も出来たが、勉強に没頭してまったく運動をしていなかった出木杉と、さっきまで走っていた僕とでは動きが違う。 
繰り出されるナイフはいずれも、かわすことが出来た。 

でも、どちらにしてもこのままではジリ貧だった。 

出木杉「お前は、いつもいつもいつもいつも――!」 

意味のわからないことを言う出木杉。 
もう話しても通じそうにない。 

適当なところで、逃げ出すのが最適だ。 
そしてその後、警察を呼ぼう。 

そう考えたときだった。 


しずか「のび太さん!」 

しずかちゃんお、声がした。 

183 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/11(水) 23:59:56.86 ID:vLqKmyu00
のび太「しずかちゃん、来ちゃだめだ!」 

いっても、もう遅かった。出木杉は、もうめちゃくちゃになっていたのだから。 

こちらにやってくるしずかちゃんに向かって、 

その、手に持ったナイフを投げた。 



しずか「!!」 

のび太「しずかちゃん!」 



体は、反射的に動いていた。 

191 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:03:09.03 ID:rp70/y5r0
出木杉が投げたナイフの延長線上にしずかちゃんがいて、そのすぐ横に僕がいた。 

間に割ってはいるのは、簡単だった。 

僕は空中のナイフを、二の腕で受け止めた。 


のび太「ぐ……!」 

しずか「のび太さん!」 

出木杉はおろおろしている。 
僕の腕から流れる血を見て、正気を取り戻したらしい。 

血の気がさっと、引いて、真っ青な顔になると、その場を逃げ出した。 


しずか「あ、待ちなさい!……の、のび太さん!」 




大丈夫、僕は。 

僕は大丈夫。 

200 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:07:30.79 ID:rp70/y5r0
しずか「は、早く救急車を……」 

しずかちゃんは周りを見渡して電話ボックスを探した。 

いや、一度おちつこう。君は、携帯電話を持ってるよね? 

僕は自分のポケットから携帯電話を取り出してしずかちゃんに渡した。 

しずかちゃんはそれを奪い取るように受け取るとすぐに電話をかけた。 

僕は鞄からタオルを取り出して口で裂いて簡易の包帯を作って二の腕に巻きつけた。 
ナイフは刺さったままだが、とりあえず止血は出来た。 


のび太「しずかちゃん、どうも手に力がはいらないんだ……このナイフを引き抜いてくれないか?」 

しずか「え、ええ!」 

ナイフを抜くその激痛たるや。 

ドラえもんとわかれてから、もう泣かないと決めたのに、涙がにじんできた

205 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:09:54.83 ID:rp70/y5r0
僕は陸橋の上でごろんと横になった。 
少し、楽になった。 

見上げた空は高くて、赤く染まっていた。 
僕は目を閉じた。 


しずかちゃんが何か言っていた。 
その向こうで、白衣を着た人がこちらにやってくるのがみえた。 

210 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:13:42.16 ID:rp70/y5r0
目を覚ましたとき、病院のベッドの上だった。 
腕には包帯が巻かれ、動かすと痛みがあった。 

しずか「のび太さん!」 

目を赤くしたしずかちゃんがそこに座っていて、僕の手をしっかりと握ってくれていた。 

のび太「よかった、無事だったんだ」 

しずか「ええ、でも……!」 

ジャイアン「……出木杉は警察に連れて行かれたよ」 

スネオ「最後までわめいていたけど」 

のび太「そっか……」 


とにかく、しずかちゃんが無事でよかった。 
僕はそう思った。 


そして、大会のことを考えた。 

のび太「(走るだけなら……ね)」 

215 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:17:02.83 ID:rp70/y5r0
僕は病院のベッドの上にいたので知らなかったが、出木杉は留置所で二日間を過ごしたらしい。 
三日して僕は病院を出て、学校に復帰した。 
部活にも顔を出した。先生に怒られたが、先生は泣いていた。 


こんなことで、お前を走らせられなくなるのがつらい。 


先生は言った。 


のび太「大丈夫ですよ」 


僕は言った。 


のび太「またそのうち、ね。今度は10秒台を出しますよ」 

220 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:20:31.67 ID:rp70/y5r0
しずかちゃんは、僕に謝った。 
これでもか、というほど、謝った。 

しずか「ごめんなさい!ほんとうにごめんなさい!私のせいで……!」 

のび太「いや、いいんだよ。大丈夫」 

しずか「でも……!」 

のび太「ドラえもんだって、きっとああしたよ」 

しずか「……」 

のび太「じゃあさ、しずかちゃん。今度は僕、10秒台を目指すから、そのときはまた付き合ってね」 

しずか「え、ええ!付き合うわ!最後まで!」 

僕は笑っていった。 
そのときは、しずかちゃんも笑ってくれた。 

227 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:23:28.13 ID:rp70/y5r0
大会の当日になった。 
空は晴天で、絶好の大会日和だった。 

中学総合体育大会。 

僕は100mと200mにエントリーしていた。 

先生「野比、ほんとうに走るのか?」 

のび太「走りきることくらいなら出来ますよ。スピードは出そうにありませんけどね」 

先生「大丈夫か?」 

のび太「まぁ、最後ですから。走るくらいは、させてください」 

僕は言った。 


のび太「しずかちゃん、アップにいくから。すこし付き合って」 

しずか「わかったわ」 

232 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:26:57.50 ID:rp70/y5r0
サブトラックは人で溢れていた。 

僕は大会当日のサブトラックの雰囲気が好きだった。 
レースを目前にした選手たちがひしめく、緊張感のあるトラック。 

普段の練習の何倍も身が引き締まる。 

のび太「とりあえず二週走って、体操してストレッチをした後流しを二本」 

しずか「うん。……でも、大丈夫?」 

のび太「大丈夫さ」 

僕は言った。 

アップシューズの紐を締めなおし、僕は心の中で思った。 

のび太「(たとえびりになっても……走るきることに意味があるはずさ)」 

235 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:29:37.14 ID:rp70/y5r0
100m、予選。 
僕は三組目の4レーンだった。 

コール。 
僕の名前とゼッケン番号が呼ばれる。 

スターティングブロックを調整して、一本だけ練習した。 
構えた瞬間、腕にビリっと痛みが走った。 

のび太「……」 

スタートラインから見るゴールは、いつもより遠い。 

239 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:33:07.10 ID:rp70/y5r0
後ろの線まで戻って、と言われ、横一列選手が並ぶ。もちろん僕もそのうちに含まれる。 

沈黙。 
心臓が、高鳴る。 

係員「位置について」 

僕は深呼吸をして、ブロックに足をかける。 

係員「用意」 


僕は大きく息を吸い込んだ。 




雷管が、会場に響き渡った。 

244 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:36:11.20 ID:rp70/y5r0
瞬間の反応は、おそらく僕が一番早かったと思う。 

腕の痛みも、その瞬間だけは忘れていた。 

四歩目、ここから僕は本格的に加速する。 

顔を上げていないので、自分の順位を確認できない。 
でも、そんなに悪くないはずだ。 

10歩。僕は顔を上げた。 

現状3位。 
僕は自分の位置を把握した。 
真ん中のレーンだったので、全体を確認しやすいのは幸いだった。 

中間疾走に入る。 
僕の走りは、ここからだ。 


249 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:39:16.91 ID:rp70/y5r0
ストライドが伸びるのが判る。 
腕を大きく振る。痛みは、わすれろ。自分に言い聞かせた。 

僕の体は、カタパルトから射出されたように加速する。 


50mを超えた。 
ここから先が、僕の最高速だ。 

60m。 
大体の選手はここで最高速に達する。 
しかし僕は違う。僕の最高速は、まだ伸びる。 




一気に先行していた二人を追い抜き、引き離した。 

僕は一着でゴールした。 

263 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:42:17.82 ID:rp70/y5r0
ゴールしたその先に、しずかちゃんがいた。 

しずか「のび太さん!」 

のび太「えへへへへ」 

僕は笑った。 
が、同時に二の腕に激痛を感じた。 


参ったな。 


今のレースは、まだ予選だったってのに。 




僕は、速報タイムが表示されるのを待った。 


11秒60。 

僕の自己ベストを、0.5秒近く縮めていた。 

272 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:45:33.98 ID:rp70/y5r0
のび太「……え?」 

一瞬、信じられなかった。 

11秒6。 

せいぜい、12秒1程度だと思っていたのに。 

しずか「すごいわ、のび太さん!」 

のび太「はは、はははははは……」 


信じられない。 


12秒の壁を一気に破り、11秒6。 


僕は、しずかちゃんを思わず抱きしめた。 

それだけ、嬉しかった。 

283 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:49:16.79 ID:rp70/y5r0
大会は、そのまま進んだ。 
ジャイ子が砲丸、円盤、槍投げで三冠を達成した。 
快挙にもほどがある。 



対して僕は、結局優勝できなかった。 
予選はトップで通過したが、やはり決勝は走ることが出来なかったのだ。 

野比のび太 DNS 

電光掲示板にそう表示される。 

僕はそれを遠くを見るように見つめていた。 

297 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:52:15.64 ID:rp70/y5r0
大会が終わったその帰り道。 


僕はしずかちゃんと並んで帰っていた。 


二人とも、押し黙っていた。 

嬉しさ悲しさ、半々くらいだったから。 



のび太「今日は、よかったよ、ほんとに」 


僕は言った。 

323 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:56:51.01 ID:rp70/y5r0
のび太「だってさ、今までいじめられっこだった僕が、11秒だよ。 
     しかも、予選一位通過だし、優勝タイムも、僕よりおそい11秒65だし。 
     十分だよ、ほんとうに。信じられない。僕は……」 

しずか「……」 

のび太「ドラえもんがいなくちゃ、なにも出来なかったのに。 
     初めて、自分だけの力で何かをやり遂げられたと思う。こんなの、僕には出来すぎだよ」 

しずか「……」 

のび太「結局優勝は出来なかったけど、僕は満足してる。しずかちゃん、三年間、そばで支えてくれてありがとう」 


僕は言った。 


しずかちゃんは、僕を見つめてほほえんだ。 

しずか「私の方こそ、ありがとう。今日ののび太さん、ほんとうにかっこよかった。絶対、忘れない」 

彼女は言った。 

339 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 00:59:53.44 ID:rp70/y5r0
交錯する視線。 

差し込むのは、赤い夕日。 


やばい、この雰囲気。 
僕にだって判る。この雰囲気は、やばい。 

しずかちゃんは無言で何かを僕に語りかけているような気がした。 
僕は、生唾を飲み込んだ。 


言えよ、僕。 



のび太「あのっ……!」 
しずか「あのっ……!」 

ほぼ同時に、二人で口を開いた。 

354 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:02:18.11 ID:rp70/y5r0
のび太「あ……」 

赤くなる僕。 
まずい、かっこわるい。 

しずか「じ、じゃあ、のび太さんから……」 

のび太「うん!」 

とりあえず後ろを向いてめがねをはずした。 
しずかちゃんの顔が見えると、やっかいだ。 


のび太「しずかちゃん!」 

しずか「はい」 





言えよ、今まで溜め込んできた言葉を。 


のび太「好きです」 
僕は言った。 

365 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:04:09.60 ID:rp70/y5r0
いった瞬間に顔が赤くなるのが判った。 
まずいまずいまずい。僕は後ろを向いた。 

心臓がどきどきいってる。 
やばい。レース前よりどきどきしてる。 

のび太「……好き、なんだ」 

僕は後ろを向いたままもう一度いった。 

しずかちゃんの、動く気配。 



僕の背中に、抱きつくしずかちゃん。 



しずか「わたしも」 


彼女は言った。 

381 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:06:52.39 ID:rp70/y5r0
僕の頭の中で何かが爆発したような気がする。 

真理の扉を開けたみたいだった。 
無意味にぴーひゃらぴーひゃらと頭の中でメロディが流れた。 


のび太「は、はははははは」 

思わず声が出た。 

僕は振り向いて、しずかちゃんを見た。 







のび太「え……」 

しずかちゃんは、僕にしがみつきながら泣いていた。 

しずか「うっく……えっく……」 


394 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:09:39.26 ID:rp70/y5r0
その大きな目から流れる大粒の涙は、ぽたぽたと地面にたれ、丸い染みを作った。 

しずか「えっく……ぐ」 

のび太「……」 

僕は何もいえない。よく、わからない。 
しずかちゃんのその頭をなでるだけ。 


ひとしきり、しずかちゃんは僕にしがみつきながら泣いた。 

僕がティッシュを渡すと、彼女は受け取って、鼻をかんだ。 

そして、ごめん、と言った。 


しずか「言わなくちゃいけないことがあるの」 



彼女は続けた。 


425 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:13:39.85 ID:rp70/y5r0
僕はうなずいた。 
何に対してうなずいているのか判らないけど。 

のび太「とりあえず、場所を変えよう」 

僕はいった。彼女はこくりとうなずいた。 

僕らは少し歩いて、屋根つきの停留所に向かった。 
途中、僕自動販売機でウーロン茶を買った。しずかちゃんには、ミルクティを渡した。 


彼女はずっと黙っていたが、そのかわりずっと僕の手を握っていた。 

僕はしっかりとその手を握りかえしていた。 


停留所に人はいなかった。好都合だ。 

ベンチにこしかけ、しずかちゃんはミルクティを一口飲んで、いった。 

しずか「前に、部活を無断で休んだことがあったでしょ?」 

449 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:15:21.53 ID:rp70/y5r0
うん、と僕は言った。 

しずか「あのときはごめんなさい」 

のび太「いや、いいんだ」 

しずか「……本当は、のび太さんに一番最初に言うべきだったのよね」 

のび太「……」 







しずか「引越しが決まったの。鹿児島に」 

479 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:17:24.28 ID:rp70/y5r0
のび太「鹿児島?」 

しずか「そう、鹿児島。鹿児島の、出水郡」 

そんな地名を出されても、僕にはよくわからない。 

しずか「あの日は、荷物をまとめてた。引越しの前に、配送しないといけない荷物があるから」 

のび太「それで……」 

しずか「なんで部活を休むのか、のび太さんにはどうしてもいえなかったの。だから……」 



のび太「そう、か」 

僕は、言葉を搾り出した。 


498 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:19:54.30 ID:rp70/y5r0
のび太「高校は?」 

しずか「鹿児島中央。なんとか、推薦で決まったわ」 

のび太「そっか……」 

僕は、残ったウーロン茶を一気に飲んだ。 


しずか「ごめんね、言うのが遅くて」 


のび太「いや、いいんだ」 


僕は言った。 


のび太「それでも、僕は、君が好きだから」 

528 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:23:52.39 ID:rp70/y5r0
しずか「そっか……ありがと。私も、好き」 

彼女は笑っていった。そして、また泣いた。 

今度は、僕はしずかちゃんを抱きしめた。 


のび太「メールするよ。二万字くらいの、ながいやつを。電話もするよ、一日、二時間でも三時間でも」 

しずか「うっく……」 

のび太「そうだ、僕は陸上を続けるよ。だから、しずかちゃんも陸上を続けて。僕、インターハイに出るよ。 
     インターハイの会場で、また、さ」 

しずか「……」 

のび太「他にマネージャーがいても、しずかちゃんに頼むよ!絶対。しずかちゃんがいないと、だめなんだよ」 

僕は続けた。 

のび太「……じゃないと、あんなに速く、走れないよ」 

554 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:27:58.59 ID:rp70/y5r0
しずか「わかった。約束する!だから絶対インターハイまでいってね」 

のび太「うん」 

うん、といった手前、僕はあせり始めていた。 

インターハイ? 

って、10秒半ばの世界だよな…… 

い、い、いや、きっとがんばれば…… 


しずか「のび太さん!」 


のび太「はい!」 


考え事にふけっていた僕は、しずかちゃんの声に間の抜けた返事を返してしまった。 


しずか「また、会おうね」 

彼女は、今度こそ笑っていった。 

580 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:32:41.66 ID:rp70/y5r0
時は重なり、月日は重なり。 


しずかちゃんは、僕の前からいなくなった。 

僕は勉強に没頭し、志望校に合格した。 
そしてすぐに、陸上部に入った。約束を果たすためだった。 

のび太「目標は、インターハイです」 


最初の挨拶でそういった時、先輩は笑っていたと思う。 
それでも僕は、平気だった。大丈夫、この約束は果たせる。 

自分で、そう確信していた。 


しずかちゃんが隣にいないときに見上げる空は、前よりもずっと高かった。 
僕は手を伸ばして、雲をつかもうとした。 

595 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:36:40.99 ID:rp70/y5r0
to しずかちゃん 


鹿児島は慣れましたか? 
僕は、約束どおり陸上部に入りました。 
受験のブランクがあったぶん、体は少し重いよ。 
でも大丈夫、すぐにまた昔みたいに走れるようになるよ。 
約束だからね。 

そういえば最近、ドラえもんが出てくる夢を見ました。 
夢の中で、ドラえもんは笑ってたよ。 
ほんと、笑いかけてくるだけだったけど、嬉しかったなぁ。 


ps 

スネオとジャイアンも、元気にやってます。 
三人で会うことになりました。 

今度は、しずかちゃんも含めた四人で会えると良いね。 

602 名前: 愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 投稿日: 2008/06/12(木) 01:38:35.31 ID:rp70/y5r0
僕はペンを置いて、机の上の写真を見た。 

いつかみんなで撮った写真だった。 
僕と、しずかちゃんと、スネオ、ジャイアン。そして、ドラえもん。 


みんな、にっこりと笑っていた。 


便箋を取り出して、手紙を入れて封をした。 

僕はウインドブレーカーに着替えて、ポストまで走った。 






終わり。 


出典:のび太「それでも僕は……」
リンク:http://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1213190243/l100
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