金曜の深夜、俺(上原信二:仮名)は車を飛ばしていた。 急な納期の変更で、残業を余儀なくされた為だ。 「何で金曜のこんな時間まで、俺って仕事してんだろうね・・・ま、彼女いないからいいけど・・・」 時間はもう午前1時。 佐賀の職場から福岡の自宅までは、どう飛ばしても40分はかかる。 道中は眠たさとの戦いでもあった。 と、殆ど車の通らない山の中で、信号に引っかかる。 「ちっ」と舌打ちし、車内で背伸び。 と、突然誰かがドアをノックする。 「助けて下さい!」 女の子が、凄い形相でドアをノックしている。 な、なんだ? 慌ててロックを外し、彼女を車内へ。 「は、早く〜」 彼女に即され、車を走らせる。 何度も後ろを気にする彼女。 殆ど裸に近い格好・・・ 厄介な荷物を運んでるのか? ドアを開けた事を今頃後悔。 「大丈夫?警察に行く?」 「け、警察はだめ!」 しばし沈黙・・・ 「どこで降ろそうか?」 「・・・」 「その格好じゃ、適当に降ろすわけにもいかないよね?」 「・・・」 「どこまで行けばいい?」 「行くとこない・・・」 やっぱ厄介な荷物だぜ・・・ 「そう言われても・・・困るんだけど・・・どっかで降りてもらわないと・・・」 「今夜・・・泊めてもらえませんか?行くとこなくて・・・お願いします!」 「でもね・・・」 自宅アパートの、いつもの駐車場に車を停める。 周囲を見回し、誰もいない事を確認し、車内に声をかける。 「いいよ・・・誰もいない」 俺のジャケットを羽織っただけの少女が、助手席から降りて来る。 二人で駆け足で、アパートの2階の俺の部屋へ。 鍵を開け、中に入って安堵する俺。 思わずへたり込んでしまう。 「助かります・・・」 玄関に立ち尽くした少女が言う。 「まだ、この子がいたんだよね・・・」 とりあえず彼女には、シャワーを浴びてもらう事にする。 手足はドロだらけだし、一枚だけ身につけたショーツも汚れている。 この格好で、部屋に入られても困る。 玄関から浴室まで、彼女の黒い足跡が残った。 それを拭き終え、バスタオルとスエットを用意してやる。 さすがに下着までは持ってないけど。 でも・・・どうすっかな、この子。 訳ありなんだろうな。 そう考えると、頭に不安が残った。 「訳を聞く権利、俺にはあるよね?」 髪を拭きながら出て来た彼女に、俺は怖い顔をして言った。 「それに君には、訳を話す義務があると思う。違う?」 「そうですね・・・」 彼女は小さな声で、訳を話しだした。 名前は、秋野有紀って、本当かどうかは知らないが・・・ 17歳の高校生で、家を飛び出したはいいが、見知らぬ若い男達に拉致られて、輪姦されて・・・ 隙を見てどうにか逃げ出すも、ここがどこかも分からない。 そんな時、たまたま信号待ちしている車を見て、とにかくこの場を離れようと、必死でドアを叩いた。 それが俺との出会いらしい。 「家出なんかするからだろ?家に帰れよ!」 俺は吐き捨てる。 「家に帰ったら・・・お父さんに何されるか分からないんだもん!」 彼女の父親は酒乱で、それを苦にした母親は蒸発。 残された彼女に対して父親は、暴力を振るう。 それだけならいいが、この頃は服を脱がされたり、性的な事も・・・ 「でも・・・結局は家出して、ひどい目にあってんじゃん!」 ちょっと言い過ぎたと思ったけど・・・ 「それは・・・そうなるなんて・・・」 泣き出した彼女。 「ここにいてもさ・・・俺が君に、ひどい事するかもしんないよ」 「お父さんより・・・マシです・・・」 やはり困った荷物だ。 彼女にベッドを占拠され、俺は畳の上で、小さくなって寝る。 参ったな・・・ そう呟いてしまった。 翌朝、いい匂いで目が覚めた。 台所に立つスエットの後姿が、何やら作ってるのが分かる。 俺が起きた事に気付いた彼女が、「おはよーございます」と微笑みかけてきた。 「もうすぐご飯出来ますから、顔を洗っててください」 なんか・・・新婚みたいだぞ・・・ 言われるがまま、顔を洗って待つ俺。 テーブルに並んだのは、ご飯と味噌汁と卵焼き。 「冷蔵庫にあまり入ってなくて、これ位しか・・・お口に合えばいいですけど・・・」 卵焼きを試しに頬張る。 「うまいっ!」 思わず口に出してしまい、「本当ですか〜っ?」と嬉しそうな彼女。 確かに美味い・・・ あっと言う間に食べ尽くした俺。 「良かった〜」 彼女はそう言うと、笑顔で皿を下げていった。 「あのさ〜・・・やっぱ警察に行こうよ・・・」 彼女の後姿に、俺は話し掛けた。 一瞬だけ、彼女の動きが止まった。 「ここにさ〜・・・いつもでも置いとけないよ。警察に行って、事情を話そうよ。」 「・・・家に連れ戻されます・・・」 「そんな事ないんじゃない?福祉とか、きちんと話をすれ」 「お願いっ!」 俺の言葉を遮り、彼女は振り返って叫んだ。 「何でもします!何でも・・・だから、他に行く所が見つかるまで・・・お願いしますっ!」 「他にって、何処に行くのよ?」 「働く場所みつけて、住むとこも・・・それまで」 「甘いね・・・」今度は俺が言葉を遮る。 「君みたいな年齢の子をどこが雇う?住むとこだって、保証人が必要だよ。誰がなるの?」 「最悪は・・・風俗でも・・・」 「馬鹿じゃないの!」 俺は益々声を荒げた。 「警察に行って事情を話せば済むのに、それもやらずに自分を売るの?馬鹿じゃない?」 「でも・・・お父さんの所には・・・」 そこまで言うと彼女は、声を上げて泣き出した。 参ったな・・・ 俺は頭を掻くだけだった。 ブカブカのジーンズを穿き、大きなTシャツと、その上からこれまた大きなトレーナーを着た少女が、俺の横を歩いている。 彼女が着てるのは、まぎれもなく俺の物。 「着る物もないので、就職も探せない」と言われ、借用書を書かせて金を貸す事に。 「『払えない時は、体で支払います』って書きましょうか?」と言われ、頭を小突いた。 「テヘヘ」と笑いながら借用書を書き上げ、「ありがとうございます」と頭を下げる彼女。 嘘偽り無く、可愛いと思った。 とりあえず、下着は絶対。普段着る服や靴も必要。 貸したとは言え、かなりの出費。 一通り揃え、空になった冷蔵庫の補充も必要。 まったく・・・ 舌打ちする俺の横で、少女がくったくない笑顔を浮べていた。 その笑顔を見て、俺も不思議と笑みがこぼれるのであった。 「似合いますか?」 家に帰り、早速買ったばかりのデニムのミニスカに、パーカーを着た彼女が微笑む。 「あー似合うよ」と返すと、微笑む彼女。 「でも・・・下着はまだ着けてなくて・・・」 「はぁ?」 「洗ってから着けないと、なんかイヤで・・・」 ミニスカの下がノーパンだなんて、考えただけで・・・ いや、いかんいかん! そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、「ご飯作りますね〜」と笑顔で言い残し、彼女は台所に向った。 飯食って風呂に入り、布団に入ってテレビを見ていた。 彼女は片付けを終え、「お風呂に入ります」と言って浴室へ。 俺はウトウトしだし、気付いたら・・・ 部屋は何時の間にか真っ暗で、テレビを消えていた。 そして俺の布団の中に、細い裸体が転がっていた。 「ど、どうしたの?」 思わず飛び起きた俺。 「今日は・・・あの・・・ありがとうございました。あの・・・好きにしていいんで・・・私・・・恨みませんから・・・」 「はぁ?」 「感謝してます。本当です!でも私・・・何もお返しが出来ないから・・・」 そう言うと彼女は眼を閉じた。 「いいよ、そんな事しなくて」 暫く沈黙し、俺はそう言った。 沈黙の間、理性が戦っていた事は言うまでもないが・・・ 「有紀ちゃんがいて、正直面倒もあるけどさ・・・少し楽しかったりもするしね。」 「だから・・・服を着て、ベッドで寝なさい。」 俺はそう言うと台所に行き、冷蔵庫からお茶を取り出し、一気に飲んだ。 しかし部屋に戻っても、彼女は布団の中にいた。 泣いていた。 「ありがとう」と何度も繰り返しながら。 俺はベッドに腰掛け、彼女が落ち着くのを待った。 でも布団も被らず、ただ座って泣く彼女・・・ そう・・目の前には、17歳の裸体がね。 「あの・・・」 落ち着きを取り戻した彼女が、やっと口を開き、目を奪われてた自分に気付き、ぎょっとした。 「一緒に寝てくれませんか?」 「な・・・さっき言った事、分かってない?」 「ち、違いますよ!」 彼女は慌てて否定する。 「この家・・・暖かくて・・・なんか・・・甘えたくて・・・添い寝してもらえると、嬉しいなと・・・」 「我侭ですよね・・・困りますよね・・・でも・・・」 俺の横で女が寝るのは、ホント久しぶりの事で・・・ しかも相手は女子高生ときてる。 加えて、何の警戒もなしにクークーと寝息を立て、俺に密着している。 寝れる訳がない! 俺は悶々と過した。 段々外が明るくなって行く。 でも、何時の間にか寝てた俺。 気付くとテーブルに食事が並べてあり、書置きが残されていた。 「仕事探してきます」 「見つかるわけないし」 そう呟く俺。 「見つからなければいいな」 本心でそう思った。 15時頃、ニコニコ笑顔で有紀は帰宅した。 「仕事、見つかりましたぁ!」と。 「えっ?どこよ?」 マジ風俗じゃなかろうなと、心配した俺。 「駅前の、花屋さんです!でも・・・バイトです・・・」 まぁ、バイトでも、一人で探したのだから偉いと思う。 「兄と暮らしてる事になってまして・・・お兄ちゃん、これからもヨロシクお願いします!」 あらら・・・兄になっちゃったよ・・・って、 「えっ?ここから通うの?」 「だって・・・住み込みじゃなかったし・・・あのバイト料じゃ、アパート借りるのも無理です・・・」 「本気で?」 「暫くしたら、もっと給料のいい所探しますから、それまで・・・お願いします!」 「絶対にそうしてよね」 「はい・・・」 と言いながらも、俺の顔はほころんでいたと思う。 その夜奮発して、就職祝いをしてやった。 有紀は嬉しそうに、ずっと笑ってた。 俺もアルコールが入って、上機嫌だった。 しかし酔いが回って・・・ いつの間にか寝てしまってた。 でも・・・ 有紀にキスされて、目が覚めた。 目を開けると、目を閉じた有紀の顔があった。 有紀も俺が起きたのに気付き、目を見開いたが・・・ 「寝て下さい・・・明日・・・早いですから・・・」 有紀はそう言うと目を閉じ、もう一度唇を重ねてきた。 俺も目を瞑り、そしてそのまま眠りについた。 有紀に愛撫され、深い眠りに落ちた。 有紀が転がり込んで来てから、2ヶ月が過ぎていた。 有紀は相変わらず、花屋のバイトを続けていた。 8:00〜15:00の比較的楽なバイト故、毎日働いてもその程度の稼ぎしかなかった。 俺に入れてくれる食費と、着る物を少しだけ買ったら、もう手元には残っていなかった。 光熱費等が俺の負担になっている事に対し、有紀は申し訳なさそうだった。 俺も口では、「まったく・・・もうっ!」とは言うが、悪い気はしなかった。 有紀が来るまでは、ただ寝る為だけの家だったが、有紀が来てからは会話がある。 家に帰る理由が出来た事が、正直嬉しかった。 誰も信じないだろうが、2ヶ月が過ぎても、俺と有紀はプラトニックだった。 俺が不能って訳でも、有紀が不細工って訳でもない。 正直、出来る事なら抱きたかったが・・・ 最初に「体でお礼を・・・」的な事を言われ、理性と欲望が戦った挙句、不幸にも理性が勝ってしまった。 そしてそこで、「いいよ」なんて言ってしまったもんだから・・・ 俺の方から誘うのも格好悪いと思ったし、有紀の方からもあれ以来、「好きにして下さい」とは当然言わないし。 また、バイト先に「兄と同居」と言った為か、ずっと「お兄ちゃん」と呼ばれてるのもあり、「いい兄」になってしまっているのだ。 でも、やはり俺も健康な男。 有紀がバスタオルを巻いた姿で風呂から出て来たり、ベランダに有紀の下着が干してあったりするとね・・・ ついついムラムラしてしまうのも事実であった。 彼女と別れてから有紀が来るまでの7ヶ月間、休みの日はずっと家にいた俺だが、有紀が休みの日曜日、二人でよく出かけた。 デートって感じではないが、街まで出かけてデパート巡りをしたり、時々は遊園地にも行ったりした。 有紀は必ず腕を組んで来たり、手を繋いで来たりと、まぁ人の気も知らないでって所か・・・ 「お兄ちゃん」と、屈託ない笑顔で声を掛けられ、衝動に駆られたいような、自制したいような複雑な心境。 ま、とりあえずは楽しいからいいかと、自分に言い聞かせて自制しているのだ。 そんなある日曜日、「海を見たい」と有紀に言われ、二人で海に沈む夕日を見た帰りに起きた事が、楽しかった日々を粉砕してしまった。 朝早く起きてお弁当を作ったのもあったろうし、はしゃぎすぎたのもあったろう。 帰りの車の中で、有紀は寝息をたてはじめた。 俺の肩にもたれかかるように・・・ またしても理性と欲望が戦い、理性に勝ってもらいたいと思った俺。 衝動を殺さんと、アクセルを強めに踏んだのが失敗だった。 ファーーーーーーーン 後ろからパトランプが近付いて来た時、「1万とウン千円」が消えるのを確信した。 指定された窪地に車を停め、有紀を起こそうとしたところで、窓をノックされた。 窓を開けると、「免許証」とぶっきらぼうに言われる。 言われた通りに免許証を提示すると、「スピード出してたね〜」と言われ、「まぁ・・・」と力なく答えた。 「18km/hオーバーだね・・・ここ、40km/h規制って知ってた?」 「いや・・・」 「知らないと言ってもね・・・ちゃんと標識があるんだから、きちんと確認してなきゃね。って自動車学校で習わなかった?」 「まぁ・・・」 「じゃ、きちんと期限までに納めてね。」 「はぁ・・・」 「しかしそれにしても横のお嬢さん、よく寝てるね?彼女?」 「いや・・・妹です。」 ちょっとドッキリした。 家出少女とは、口が裂けても言えないから。 「ふ〜ん・・・そう・・・可愛い妹さんだね。似なくて良かったね。」 「余計なお世話でしょ!それも仕事ですか?」 「まぁまぁ・・・お嬢さん!お兄さんスピード違反で検挙されちゃったよ!」 「うるさいなー!」 う、う〜ん・・・ 騒ぎで有紀が目を覚ました。 「お嬢さん、おはよ。」 「おは・・・えっ?えっ?な、なに?なんで?」 警官を見て、有紀が明らかに動揺した。 警官も、慌て方が尋常ではないと思ったのか、「ねーお嬢さん、名前は?」 「えっ・・・秋野・・・秋野有紀です・・・」 「えっ?秋野?お兄さんと姓が違うね?」 「それは!」 俺が大声を出して遮った。 「それは・・・俺らの両親が離婚して・・・有紀は母親に引き取られて、姓が変わったんですよ。今日は久々に会って、海が見たいって言うから・・・って、そこまで言わなきゃいけないんですか?」 「いや・・・そう?そうか・・・それは失礼したね・・・じゃ、納期までに支払ってね。」 警官はそう言うと、パトカーに戻って行った。 俺はホッと胸を撫で下ろした。 ピンポーン・・・ 土曜日の昼過ぎ、仕事が休みで家で寝ていたが、チャイムが鳴らされているのに気付いた。 「誰だ?セールスだったら、追い返してやろう・・・」 そう思って玄関を開けると、眼光のきつい中年の男が二人、そこに立っていた。 「上原・・・信二さんですね?」 「そうですけど・・・」 「私は、○○署少年課の者ですが・・・」 な、なんで?私服って事は刑事?なぜ俺の所に? 俺はかなり動揺した。 「この前の日曜日の18:00頃、○○でスピード違反で検挙されてますね?」 「は、はぁ・・・でもまだ、納付期限までは日数ありますよね?」 「その事じゃなくて・・・」 な、なんだよ・・・ 「その時横に乗せていらっしゃったお嬢さん・・・秋野有紀さんの事で聞きたいんですが・・・」 刑事の目が、尚もきつく光った。 俺は力が抜けて行くのが分かった。 「秋野有紀さんは・・・今は・・・いらっしゃいませんね?」 「はい・・・」 「どちらに?」 「駅前の・・・花屋でバイトしてるはずですが・・・」 「そうですね。で、有紀さんとはどちらで?」 「2ヶ月程前に・・・仕事帰りに・・・彼女から突然車のドアを叩かれ・・・」 「有紀さんのお父様から、家出の捜索願いが出されてます。彼女が家出って事は?」 「・・・・・・知ってました・・・」 「そうですか・・・詳しい話しは、署でお聞かせ願えませんか?」 「警察署ですか?」 「あなたには、未成年者略取及び誘拐罪と、営利目的等略取及び誘拐罪、ならびに児童福祉法違反の疑いが持たれてます。署までお越しいただけませんか?」 別に・・・悪い事をした訳じゃない・・・ 俺は自分にそう言い聞かせ、刑事の車に乗った。 俺は警察で、有紀との出会いから今日に至るまでを洗い浚い話した。 洗い浚い話したにも関わらず・・・ 「あのね〜君ね〜・・・2ヶ月も同じ屋根の下にね・・・あんな可愛い子と・・・あり得ないでしょ?」 「でも、本当に・・・何もしてませんって!」 「う〜ん・・・あなたね・・・見ず知らずの子をね・・・しかも全裸に近かった?そんな子をだ・・・」 「保護するのは分かるにしても・・・家に連れて行ったまではいいとして・・・一緒に住む?何処の誰とも分からないのに?」 「それは・・・明るくて・・・いい子だったし・・・」 「ほらっ!そんな子をね・・・放っておける?2ヶ月も?」 「でも・・・」 「君がね!手引きしたんじゃないの?家出しておいでってさ!」 「違いますって!」 そんな問答が繰り返された。 加えて最悪な事に、俺の逮捕状が出され、家宅捜索を受けたのは元より、身柄を拘束される事となった。 3日後、俺は釈放された。 有紀の証言と俺の証言が一致し、また、それが認められるまでに3日を要した。 しかし俺は・・・ 逮捕された事で、職を失った。 無実と判明したにも関わらず、犯罪者のレッテルが貼られてしまった。 でも、そんな事よりも・・・ 当然ながら、有紀がいなくなった。 職を失った事より、社会的信用を失った事よりも、まずは有紀がいなくなった事が悲しかった。 有紀は今、どこで何をしてるのだろう? 暗い部屋で一人、俺はずっと、その事だけを考えていた。 職を失った俺は、アパートを引き上げ、実家に戻る事にした。 稼ぎがなくなった事で、家賃を払えなくなったから、それは当たり前の事だが・・・・ でもそれよりも、有紀と2ヶ月を過したこの部屋で、一人で生活するのは苦痛だった。 転居を決意させたのは、それが一番大きかった。 親は俺の事を優しく受け入れてくれた。 職種は大きく異なるが、俺の働き口も探してくれた。 親が探してくれた仕事は、地元の小さな工場の溶接工見習い。 仕方ないよね・・・ 俺は自分に言い聞かせ、大学を卒業以来、ずっと住んでたアパートを出た。 地元に帰って半年が過ぎた。 資格を取得し、溶接工見習いの「見習い」が外れ、少しだけ所得が増えた。 ま、雀の涙程度だが・・・ その頃になると、親が見合いの話しをしきりに持って来るようになった。 いい加減、うんざり・・・ 「自分の相手位、自分で探すって!」 俺はそう両親に言い放つが、両親は「でも・・・お前ね・・・」と返した。 両親が言いたい事は分かる。 俺が逮捕された事は、周知の事実。 実際は無実であったが、周囲の目は、「逮捕された男」として俺を見る。 また、噂に尾ひれがついて・・・ 「女子高生をアパートに連れ込んで、2ヶ月もの間、毎晩毎晩・・・」 なら、まだ可愛い。 「上原さんちの信二君、女子高生を監禁してさー・・・」 そんな男が、まともな結婚なんて出来る訳ないと、両親は言いたいのだろう。 そして俺自身は・・・ 有紀の事を今も引きずっていた。 「有紀に会いたい」 見合いなんて、結婚なんて・・・正直考える余裕がなかった。 お兄ちゃん、お元気ですか? その節は、お兄ちゃんにいっぱいいっぱい迷惑を掛けて、本当にごめんなさい。 私はあれから、家に連れて帰られました。 そしてお父さんに・・・ 何度も何度も市役所に行って、福祉の人に話しをしたんですが、福祉の人もその都度お父さんに言い包められて。 私の言う事が正しいと分かってもらう為に、少々無茶もしましたが、何とか分かってもらえたようで・・・ お父さんが、警察に捕まりました! やっと私、自由になる事が出来ました! もっと早く、ああなる前に、私がそうしていれば、お兄ちゃんに迷惑をかけずに済んだんですけどね。 お兄ちゃんがこの手紙を読む頃、きっと私は、鹿児島のお婆ちゃんの所にいると思います。 でもお兄ちゃん、まだあのアパートに住んでるのかな・・・ この手紙が、宛先不詳で返って来ない事を願います! ではお兄ちゃん・・・お元気で・・・ いっぱいいっぱい迷惑をかけたけど、お兄ちゃんに会えたから、家出してよかったと思います。 ありがとう!大好きなお兄ちゃん! 有紀 前住所から転送され、不意に飛び込んで来た手紙を、俺は何度も何度も読み直した。 涙が自然と頬を伝った。 勝手な事ばっかり言いやがって! 転居先の住所位書いてよこせよ! そしたら俺・・・ 今すぐでも飛んで行くのに・・・ 手紙を貰った嬉しさと、会うに会えない空しさが、複雑に交錯した。 「もう二度と会えないのか?」 返事を書きたくても書けない自分に、苛立ちを覚えた。 でも・・・会いたい・・・ そう思うが否や、俺は車のエンジンをかけてた。 「鹿児島に行くぞ!」 欲望が理性に打ち勝った瞬間だった。 鹿児島と言っても広いと言う事に、行ってから気付いた馬鹿な俺・・・ 「どうしよう・・・このまま帰るか?」 でも・・・会いたい・・・ 俺は恥も外聞を投げ捨て、鹿児島駅に立った。 「秋野有紀さんを探してます。心あたりの方は、些細な事でも結構です。教えて下さい。上原信二」 ダンボール片にそうマジックで書き、俺は始発から終電まで、駅前に立ち続けた。 しかし当然ながら、簡単には情報なんて入らない。 「働いてる」と騙され、風俗店に連れて行かれた事もあった。 出てきた女は、有紀とは似ても似つかない「ゆき」と言う源氏名の女。 そんな女に会う為に、大金を支払った自分が情けない・・・ 「桜島で見たぞ」と言われ、フェリーに乗ったはいいが、小噴火が発生して怖い目に合った。 「川内だろ?」と言われ、「一緒について行ってやるよ」と、タクシー代わりをさせられた事もある。 そうして一月が過ぎたのに、有紀の情報は皆無だった。 加えて、日数経過と共にみすぼらしくなった格好のお陰で、誰も俺に話しかけてこなくなった。 「ダメかな・・・」 実を言うと、とっくに諦めていた。 会えるなんて思ってない。 ただ自分の為だけに、俺は立っていた。 自分が納得する為だけに、俺は立ち続けた。 「お、お兄ちゃん?」 奇跡が起こった。 「本当に・・・お兄ちゃん?」 体中の力が抜け、俺はその場に崩れ落ちた。 有紀は俺に駆け寄り、崩れ落ちた俺の頭を抱えた。 「な、なんで?なんでこんな所に?ねぇ・・・お兄ちゃん!」 有紀の問いに答える気力は、その時の俺にはなかった。 「お兄ちゃ〜〜〜ん」 有紀は大粒の涙を流した。 有紀が俺の為に泣いている・・・ 今俺は、有紀の腕の中にいる・・・ もう・・・何も望まない・・・ 俺の意識は、徐々に薄れて行った。 病院のベッドに、俺はいた。 極度の栄養失調と貧血だったらしい。 俺が1ヶ月も駅前に立っている事が新聞の投稿欄に掲載され、それを見た有紀の友人が「ねぇ・・・これ・・・有紀の事?」と、半ば冗談で言った事が奇跡を生んだ。 「なんであんな無茶をしたのよ?」 有紀が笑いながら聞く。 「うん・・・」 答えられない俺。 「そんなに私に会いたかった?」 尚も笑いながら、有紀に聞かれた。 「まぁ・・・ね・・・」 「ふ〜ん・・・」 どことなく、満足そうな有紀の顔。 「お兄ちゃん、私の事好き?」 顔が赤くなって行くのが分かった。 しかし答えられない。 「私は・・・」 「会えるかどうかも分からないのに、駅で1ヶ月も待ってくれてる男の人から、『好き』なんて言われたら・・・」 俺は有紀の顔を見た。 「『キモッ』って言っちゃうかもね!」 「な、な・・・」 俺の表情を見て、クスクスと笑い出した有紀。 「でも、すっごく好きな人だったら、例えそんな事しなくても、ただ『好き』と言われるだけで、すっごく嬉しいだろうな・・・ねっ、お兄ちゃん!」 俺は有紀を強く抱きしめた。 抱きしめた耳元で、俺は囁いた。 今までずっと言えなかった事。 そうだと自分で気付いてたのに、あえて気付かない振りをしてた事。 離れてやっと、口にしなかった事を悔やんだ事。 そう・・・もっと早く、そう言ってれば良かったのにと思った一言。 「好きだよ・・・有紀」 「ん?何?聞こえないよ。」 有紀はそう返してきた。 「好きっだって言ってるだろ!」 「アハハハハ」 有紀が笑い出し、俺は有紀の体から離れた。 「アハハハハハ」 有紀のヤツ、まだ笑ってやがる。 「ねぇお兄ちゃん・・・やっと言ってくれたね。2ヶ月もずっと一緒だったのに、私に手も触れようとしなかったのにね。」 「あー・・・あれは・・・」 「女として見てもらえてないんじゃないかと、結構ショックだったんだぞ!」 「ごめん・・・」 「いいよ、謝らなくて。今こうして、皆の前で大きな声で言ってくれたから!」 俺はぎょっとして、辺りを見回した。 そうだよな・・・ 死ぬ訳じゃないし、ただの栄養失調と貧血の俺・・・ 個室じゃないよな。 同室の7人がニコニコと、俺たちを見ていた。 「お兄ちゃん、ねぇ・・・キスしようか?」 有紀が笑いながら尋ねてきた。 「おいおい、姉ちゃん。ここは病院だよ!するならせめて、カーテン位閉めてくれよ!」 年配の患者さんが、そう言って笑った。 「はぁ〜い」 有紀はそう言うとカーテンを閉め、俺に抱きついてきた。 俺と有紀は、そっと唇を重ねた。 「あぁ〜あ・・・やってらんねーなー」 さっきの年配患者の声がした。 「若いっていいな〜」 今度は別の声だった。 プッ 「なんだよ!」 俺は愛撫をやめ、突然噴出した有紀に尋ねた。 「だって・・・」 こうなると有紀は止まらない。 キャハハハハと、涙を流しながら笑い出した。 「なんだよ!」 「だって・・・だって・・・キャハハハハ」 「まったくもう!また思い出し笑いしやがって!」 有紀は俺に抱かれる時、決まって思い出し笑いをする。 「今、こうして抱かれてるんだね〜」 と考えると、 「あの時はさ・・・2ヶ月も放っておいたくせにさ」 と思い出し、 「でも、『キモッ』って言った時の、お兄ちゃんの顔って言ったら・・・」 となったら、もう笑いが止まらなくなるらしい。 「あったま来た!もう、愛撫なんかしてやんえ。無理矢理やっちゃる!」 「だめよ〜やめて〜」 もうすっかり濡れてるのだから、無理矢理でもないが・・・ 「待って〜」と言う有紀の声を無視し、俺は挿入した。 「だ、だめ・・・待って・・・」 有紀が俺の腰を押さえつけた。 「まだ・・・儀式が済んでないよ・・・」 俺は挿入したまま、有紀に囁いた。 「好きだよ・・・」 「私も・・・」 有紀が答える。 唇を重ねあい、ゆっくりと腰を動かし始めた。 有紀の息遣いが、少しづつ荒くなってきた。 出典:ZZZ リンク:ZZZ |
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