男「はぁ、奴隷ですか」 魔「うん、奴隷」 男「断ると死んじゃいますかね?」 魔「どうだろ。メイド長が怒れば死んじゃうかも」 男「あなたは別にいいんですか?」 魔「いや、私としてはちょっとストレス解消に人を拉致ってみたかっただけだし。さらったからには奴隷くらいがちょうどいいかなって思っただけだから」 男「理不尽だなぁ」 魔「魔王ですから」 男「ですよね」 魔「ですよ。で、どうする?」 男「わかりました。奴隷でお願いします」 魔「オッケーです。じゃ、街掃除とトイレ掃除どっちがいい?」 男「街掃除っていうのは?」 魔「虐殺したあとに家屋とかに火をつけて回る役」 男「トイレ掃除で」 魔「ん。ちなみにうちのトイレ千個以上あるから気をつけてね」 男「なんとぉー!?」 メ「私はとても不愉快だ。なぜだかわかるか」 男「トイレの数が多いからです」 メ「そうそういくらなんでも多すぎって違う! なぜ奴隷のお前に私が案内をしなければならんのだ!」 男「いや、魔王さんがそういったんじゃないですか」 メ「……王のきまぐれでなんでこんなことを」 男「お気持ちお察しします」 メ「ああ、ありがとう……ってそうじゃない! 何でお前に慰められにゃならんのだ!」 男「いや、なんとなく」 メ「……一つでもミスしたら殺す」 男「え、それは困りますね」 メ「ふん。当然だろう。奴隷としての身分をわきまえるのだな」 男「そうですね。お互い頑張りましょう」 メ「ああ、私も実質奴隷のようなものだからなっていい加減にしろっ!」 男(面白い人……じゃなくて魔物だなぁ) 男「そういえば、なんで人間と戦争してるんですか?」 魔「んーとね、互いが互いに餌になるからかな」 男「ああ、確かに。城の中に結構美味しそうな魔物さんとかいますよね。門番の亜人さんとか」 魔「いや、あれ結構まずいよ」 男「食ったんですか」 魔「つい……」 男「メイド長、じゃがいもの皮むき終わりました」 メ「よし、向こうに回せ」 男「了解です。でも、意外ですね。魔物もこういうもの食べるなんて」 メ「黙れ人間。下等な貴様が余計な口を叩くな」 男「あ、メイド長。顔汚れてます。ふきますね」 メ「む、すまない……って私の体に触れるな! 汚らわしい!」 男「触れているのはタオルですから問題ありませんよ」 メ「そういう問題ではなく……! お前が王の奴隷でなければこの場で殺すものを……」 男「やめてくださいよ」 メ「ほう……やはり貴様でも命はおしいか」 男「いえ、さっきからコック長がすごい目でにらんでるので、メイド長のじゃがいもも早く片付けたほうがいいんじゃないかと思って」 メ「何っ!? き、貴様そういうことは早く言え! こ、コック長、すぐに終わらせるから待っていろ!」 男(僕にやれって命令すればいいのに) 魔「なー、男。なんでお前私ら怖がらないの?」 男「何ですか、いきなり」 魔「いやさー普通人間って魔物怖がるじゃん。食われるだのなんだのって」 男「そういえばそうですね」 魔「でもお前ここ来てから一回も私ら怖がったことないしさ、結構疑問なんだよね」 男「んーよくわかりせんが、怖がる理由がないじゃないですか」 魔「んー? 殺されるとか思わないの?」 男「なんでですか?」 魔「あれ? なんでだっけ?」 男「?」 魔「?」 男「あ、そんなことより洗剤切れちゃったんで補充の許可もらえますか」 魔「ん、オッケー」 メ(ツッコミたい……王はともかく人間の頭に一発でもいいからツッコミを入れたい……!) 魔物1「おい人間! ここ掃除しといてくれや! 人間はちいせぇから細かいとこまでキレイになるからなぁ!」 魔物2「おう人間! この前のメシはなかなかだったぞ! 次もお前に作らせてやらぁ!」 男「ありがとうございます。この仕事が終わったら順次やらせてもらいますね」 メ「……お前、最近他の奴らから評判がいいじゃないか」 男「あ、メイド長。ええ、みなさんああ言ってくれるのでこっちもやる気が出ますよね」 メ「ふん、気楽な奴だ。ちょっとでも気を損ねれば死ぬというのに」 男「そのときはそのときですよ。そうだ、メイド長明日時間ありますか? 街に一緒に行きたいんですけど」 メ「何っ!? 貴様い、いきなり何を言い出すのだ!」 男「魔王さんの召し物を新調しようかと思って。男の僕じゃあまりよくわかりませんし、魔王さんの趣味ならメイド長が一番よくわかっていると思ったんですけど」 メ「ふん。そういうことか、いいだろう。あくまでもこれは王のためだ。決して貴様と好んで出かけるわけではないからな!」 男(……もしかしてわかって言ってるのかな?) 魔「なぁメイド。男のことどう思う?」 メ「……仕事はそれなりにする者かと。雑用ならばまかせても問題ありませんね」 魔「いい拾い物したよ、ホントに。適当に拉致ったけどここまであたりだとは思わなかったなー」 メ「しかし、態度に問題があります。あいつは何を考えているのかわからない節が多々……」 魔「そう? 面白い奴じゃん。私ら怖がらない人間なんてそうそういないよー?」 メ「それが問題なのです! 王を恐れぬ人間などあってはならぬはずです!」 魔「えー、あいつに怖がられるとなんかやだなぁ。らしくないじゃん」 メ「いいえ、一度奴には我々の恐ろしさを思い知らせる必要があります。腕の一本でももぎ取るべきかと」 魔「そ、じゃあやっちゃっていいよ」 メ「っ!?」 魔(にやにや) メ「……王、戯れもほどほどに」 男「失礼します。魔王さん」 メ「!!」 魔「おう、どうした」 男「ええ、食材が少し足りなくて……どうしたんですかメイド長顔真っ赤ですよ」 メ「なんでもない!」 魔「男ー。肩揉んでー」 男「了解です」 魔「あ〜気持ちいい〜ホントに人間は手先が器用だよな〜」 男「そういってもらえるとこっちも嬉しいです。それにしても、ちょっとは休んだほうがいいんじゃないですか? 最近仕事に掛かりっきりじゃないですか」 魔「ってもなぁ。私が休むとそれだけ魔物が死んじゃうわけだし。ん? これはもしかして人間が殺されないために言ってたりする?」 男「? ああ、そういう捕らえ方も出来ますね。でもそんなことより魔王さんの体の方が心配です」 魔「むぅ。嬉しいこといってくれるじゃないか」 男「知らない人より、知ってる魔物のほうが大事ですから」 魔「……お前私を口説いてるよ」 男「失礼しました」 魔「いや、いいよ。これからも時折口説いてくれ」 男「了解です」 魔「男ー」 男「なんですか?」 魔「結婚しよう」 メ「!?」 男「わかりました」 メ「!!??」 魔「なんだよーもうちょっとびびれよー」 男「といっても僕は奴隷ですから。魔王さんの命令には絶対服従しますよ」 魔「人間の結婚って文化はかなり重大なことって聞いたんだけどなぁ。ま、いっか適当に言っただけだし」 メ(お願いですから適当なことで私の心を乱さないでください、王……) メ「王」 魔「ん? なに?」 メ「その……お召し物の件なのですが」 魔「この服がどうかした?」 メ「いえ、その、魔王としてそのようなひらひらした服はいかがなものかと」 魔「たまにはいーじゃないか。男への褒美代わりでもあるしなぁ」 メ「なんですって!?」 魔「なんでもな、人間の男は今の私のような小さい女の体でこのような「ごすより」という服を着ているとよろこぶそうだ」 メ「ゴスロリです」 魔「そうそれ。いや、意外にこの服着て人間の王に和平結びに行けば、あっさり結んでくれるかもよ?」 メ「王!」 魔「冗談だよーそんなに怒らんでもいいじゃないかー」 メ「……奴がその姿を見る前に、お召し物を交換いたします。こちらへ」 魔「けちー」 メ(……ゴスロリか、あいつもこんなのがいいのか?) メ「失礼します。王、次の襲撃の件ですが……」 男「あ、メイド長。今魔王さん寝ちゃってます」 メ「……見ればわかる。問題はその場所だ」 男「場所? ああ、膝枕じゃ上手く睡眠取れませんね。でも今起こすのはちょっとかわいそうですよ」 メ「……お前は一体何なんだ」 男「えと、人間の奴隷です」 メ「そうじゃない! 何でお前はそんなに私の心をかき乱すんだ!」 男「えーと……?」 メ「私だってな、私だってお前に……!」 魔「というところで目が覚めた」 男「魔王さんの夢は面白いですね。実際そんなことが起こったら向こうの王が和平を申し込んでくるくらいじゃすみませんよ」 メ「……王、少しお話が」 男「最近偵察の方から勇者って人の話を聞くんですが」 魔「ああ、私を殺そうとしてるやつ。どんなやつなんだ?」 男「なんでも、人の家に勝手に押し入って金品を強奪したり、狩りと称して罪もない魔物を無差別に殺戮しているらしいです」 魔「はぁ……そんなのがいるから戦争になるんだよなぁ」 男「同じ人間として恥ずかしいですね。討伐隊の方たちには頑張って欲しいですよ。何しろ人間の王の保障つきですから人間の法では裁かれないらしいです」 魔「信じられないなーホントに王なのかな、そいつ。だから人間って嫌いだよ」 男「申し訳ありません」 魔「んーお前は好きだから謝らなくていいよー」 男「ありがとうございます」 メ「……油断したな」 男「メイド長。珍しいですね、傷だらけで戻ってこられるなんて」 メ「……ふん。汚い不意打ちのせいだ。まったく貴様の同属は下種ばかりだな」 男「失礼します」 メ「!? 離せ! 貴様ごときが私を抱えるなど……首をはね落とすぞ!」 男「ええ、治療室についたらそうしてもらってかまいません。どちらにしろここでメイド長の気遣いが出来ないようじゃ魔王さんに殺されるでしょうから」 メ「貴様!」 男「僕は魔王さんの奴隷なんで、僕は僕のためにメイド長を治療室まで運ばせてもらいます」 メ「……そのエゴ、貴様の命取りにならなければいいがな」 男「そのときはそのときです」 メ(……ばか者) メ(ゴスロリ……人間はこんな服が好きなのか? 理解しがたいな) メ(……まぁ一度くらいためしに着てみても……) メ「着てしまった……ええい、無駄な装飾品がごちゃごちゃと……!」 メ「だが……新しい服というのは、新鮮ではあるな……」 メ「……これを着ていれば私も代わって見えるのだろうか……」 メ「なぁ、人間。鏡に映った私はどう見えるのだろうな」 男「とても綺麗ですよ」 メ「!?」 男「メイド長は凛々しい服もお似合いですが、その服も似合っていると思います」 メ「……いつからそこにいた」 男「えーと、装飾品がごちゃごちゃと、のあたりですね。用事があったんですが、お楽しみのようでしたから待機していました」 メ「……忘れろ。今見たことは全部忘れろ、聞いたこともだ。いいな」 男「はい、わかりました。では後ほど書類を届けに参ります」 メ「……うわああああ!!!!!」 魔「男。お前人間食べたことある?」 男「いえ、ないです」 魔「性的な意味では?」 男「ないですね」 魔「メイド長食べてみたくない?」 男「性的な意味で?」 魔「性的な意味で」 メ「本人の前でそんなことを話さないでください!」 魔「そういやさ、男の給料ってなんかあったっけ?」 男「ないですよ。僕奴隷ですから」 魔「んーなんだかなーお前欲しいものとかないの?」 男「物ではあんまりありませんね」 魔「物以外になんかあるのか?」 男「欲しいものというより、こうであってほしいなってことしか」 魔「また漠然としてるなーどんなことか聞かせてみー」 男「そうですねー魔王さんとメイドさんが楽しそうならそれで嬉しいですよ」 魔「……欲の塊の人間らしからぬ発言だな。なんかずるい」 男「こういう人間なんです」 魔「なんでお前人間に生まれたんだろうなー」 男「たぶん、なんとなく生まれちゃったんです」 魔「お前らしいねー」 魔「お兄ちゃん!」 男「はい、お兄ちゃんです。どうしました魔王さん」 魔「お前はこういうところがつまらないなー本で読んだ反応と違うぞー」 男「魔王さん、その本はかなり知識が偏ってますから。そうですね、メイド長ならいい反応をくれそうですが」 魔「そうだな。よし、やってみよう」 メ「王、何か御用でしょうか」 魔「お姉ちゃん!」 メ「王!?」 魔「お姉ちゃん大好き!」 メ「な、何を言っているのです王! ご乱心なされましたか!」 男「お姉ちゃん!」 メ「お前もか!!」 男「戦争、終わりませんね」 魔「まぁね。『勇者様』が活躍してるみたいだからなーこの前もトロールが殺されちゃったし」 男「ええ、気さくでいい方だったんですが。力仕事で手伝っていただいたことも多々ありました」 魔「ま、人間側からすりゃ魔物の性格なんて知ったこっちゃないんだろうけどな。知ってるか? 人間たちの世界では私たちは世界制服をたくらんでるらしいぞ」 男「たいした大義名分ですね。それで魔物を片っ端から殺していくのだから」 魔「そんなことされるとウチにも面子があるからな。やってやり返しての泥仕合だ」 男「このままだと共倒れですよ」 魔「それでも魔物全てが奴隷になるよりはいいさ。ここにいるやつはそれなりに誇り持って戦ってる」 男「……やっぱり僕は人間です」 魔「お前はそれでいいんだよ」 魔「お前が勇者だったらよかったのになー」 男「そうですか?」 魔「お前が勇者だったら、必要な数だけ殺して戦争が終わりそうだもん」 男「想像がつきません」 魔「で、私とお前が結婚して魔人和平条約を結んで終了だ」 男「ああ、そうなったらいいですね」 魔「そして、私たちの子供が世界制服をたくらむと」 男「なんとぉー!?」 メ「人間」 男「はい、なんですか?」 メ「殺してもいいか?」 男「ええ、どうぞ。お好きなように」 メ「……昨日、また魔物の群れが殺されたよ。相手は『勇者様』だ」 男「もうすぐここに来るんでしょうね。報告場所が近くなってきてますし」 メ「私は今、人を殺してやりたいと思ってる」 男「はい」 メ「……なぜお前は逃げない」 男「メイド長から逃げる意味が特にありませんので」 メ「死ぬかもしれないんだぞ」 男「といわれても、僕は奴隷なわけですし。主のありのままを受け入れるのが役目だと思いますから」 メ「……もういい」 メ(怖いと一言言えば……お前をただ人間として見られるものを……) 魔「最近メイド長の元気がないなー」 男「何かあったんですかね」 魔「男に告白したくてうずうずしてるんじゃないか?」 男「え、僕告白されるんですか?」 魔「うん。私らの場合、私と子作りしてくれってダイレクトな言い方になるんだけど」 男「メイド長綺麗ですから、そうだったら嬉しいですね」 魔「動じないよねーホント」 男「性格ですから」 魔「じゃあ私と子作りしようか」 男「なんとぉー!?」 メ「なぁ、男。お前はなぜそこまで人に無関心でいられる」 男「無関心ってわけじゃないですよ。早く戦争が終わればいいと思ってます」 メ「……今、この瞬間にもお前の知り合いが私たちに殺されているかもしれない状況で、平然としていられるのにか?」 男「ああ、僕孤児院に入れられてたんで、知り合いはそんなにいないです」 メ「……そういうことではなく!」 男「あそこの人たちより、魔王さんやメイド長のほうがよっぽど心配ですよ」 メ「……!」 男「僕はただ平等に見ちゃうだけですよ、多分。だって性格に人も魔物も関係ないでしょう?」 メ「お前は、壊れているんだな」 男「そんな僕でも魔王さんやメイド長が笑ってくれれば、問題ありません」 メ「……お前は、魔物であるべきだった」 男「そうかもしれません」 メ「馬鹿もの……」 男「ああ……ようやく笑ってくれましたね。よかった」 魔「なぁ、メイド長」 メ「はい」 魔「男を奴隷から開放しようと思うんだけどさ」 メ「!?」 魔「いやさーあいつこのままここにいたらいつか死んじゃうでしょ」 メ「……奴隷が死ぬことに問題があるのでしょうか」 魔「強がるなってば。んー私的にあいつ結構好きなんだけど、私らにつき合わせて死なすのってもったいなくない?」 メ「負けを前提とした話はやめていただきたい、王。士気にかかわります」 魔「そんなんじゃないよー寿命の問題のほう。あいつ、このままだと死ぬまでここで奴隷やってそうだからねー放り出して他の事やらせたほうがなーんかいいような気がするんだよね」 メ「……」 魔「ああ、もちろんメイド長もいっしょにくっついて行っていいよ。幸せになれるかはわからないけど、頑張りな」 メ「……人間と共に立つ理由がありません。私は生涯王に仕えます」 魔「頑固だねー」 魔「男。お前今日から奴隷やめていいよ。人間の街までなら送ってあげるから好きに生きな」 男「わかりました。じゃあここの雑用係ってどうすれば就職できますか?」 魔「私がオッケー出せばすぐにでも」 男「じゃあ、オッケーください」 魔「うん。オッケー」 男「それじゃあ掃除行ってきます」 メ「私の決意はどうなる!?」 勇「どうも勇者です」 魔「どうも魔王です」 メ「なぜここに勇者がいる! いますぐ殺せ!」 男「いや、買出しに出かけたときにちょうどそれっぽい人がいたので『勇者さんですか?』って聞いたら『はい、そうですよ』と答えてくれたので、ちょっと来て貰いました」 メ「ノリが軽すぎる!?」 魔「えーと、噂より普通の人なんで交渉するけどこっちとしては魔物に対する虐殺をやめて、謝罪と賠償金を払ってもらえりゃとりあえずそれで収めます」 勇「うーん、そういうことは王様に言ってくれないっすかね。俺はただ王様に『魔王殺しに行け』っていわれただけなんすよ」 魔「そっち王様に会いに行くにもさー私ら見ただけで攻撃してくるじゃん」 勇「いやいや、そっちが問答無用で襲い掛かってくるんじゃないっすか」 魔「私らはだれかれ構わず喧嘩売らないよ、人間じゃないんだから。やられたらやり返すってぐらい」 勇「でもなー襲ってきた奴らはたいていいきなりでしたよ? 俺は自分から殺しにいったことはないっすよ」 魔「えー、私らの間じゃ君は虐殺魔って聞いてるけど」 勇「それいったらあなただって世界制服をたくらむ悪の首領ですよ」 男「話がお互いずれてますね」 メ「あいつが嘘を吐いているのだろう」 男「もう少し様子を見ましょう」 魔「その悪の首領ってのは誰から聞いたの?」 勇「王様です。国中に言ってますよ。『我らが世界を侵略しようとする魔王軍を打ち倒せ』みたいなことを」 魔「んなこと考えたこともないよー私は魔物が平和に暮らしてりゃそれでいいんだ」 勇「うーん、俺の噂ってのはどっから聞きました?」 魔「主に部下からの報告かな。残虐無比な勇者はまた罪もない魔物の群れを殺戮したって。毎日のように来てたよ?」 勇「それおかしいですよ。そりゃあ集団で襲われたときはみんな倒しましたけど、人に害を与えない魔物にはいっさい手を出してないっすよ」 魔「……もしかして、お互いにだまされてない?」 勇「……かもしれないっすね」 男「ややこしくなってきましたね」 メ「……」 魔「男ーちょっと来てー」 男「はい。なんでしょう」 魔「勇者君が嘘付いてるかわかる?」 男「なんで僕に聞くんですか?」 魔「お前に全部の責任押し付けたくなったから。頑張れ雑用係」 メ「王! あなたは自分の行動がどういうことになるかわかっているのですか!」 魔「んー男がミスったら私死んじゃうかもねーでもさ、これって人間側にとっても大事じゃん? だから唯一人間と魔物の中間にいる男に判断任せたほうがいいかなって」 メ「なおさら賛成できません!」 魔「んーとじゃあこれでいいかな。雌として好きな雄に頼りたくなった。これでも不安で死にそうなんだよ」 メ「!……わかりました」 勇「あのー、俺もしかして場違いっすか?」 男「なんだか大役をまかされちゃいましたが、そうですね、勇者さん嘘ついてないと思いますよ」 魔「理由は?」 男「勘です」 メ「勘だと!?」 男「ええと、僕はここで奴隷として長くすごしてきたんですけど、魔物の顔色を見て生活してるとなんていうか知能のある生物に一貫してある特長みたいなものが見えてきまして、嘘をつくときにもそれがあるんですよ。 でも、勇者さんにはそれがなかったんです。それが勘っていう理由ですね」 魔「そ、うん。勇者君、君のところの王様まで案内できる? ああ、もちろんこっちの武装や魔力は解除していくよ」 勇「え、ええ。それはかまわないっすけど、こっちが信用できる理由がないっすよ」 魔「うーんそうだな。あ、じゃあこれでいいや。信用できないならこの場で私の首を切り落としていいよ。抵抗しないし、邪魔させないから」 勇「……ホントにいいんすか。やっちゃうかもしれないんすよ?」 魔「そんときはそんとき。私は男の言葉を信じてるからねー君の言葉も信じれるのさ」 メ「……王。ならばまずは私の首が先でしょう。王の首が切られた後に正気を保てるかわかりません」 魔「にゃー……メイド長も難儀だねぇ」 勇「ああもう、こっちが悪者みたいじゃないっすか! わかりましたよ、大丈夫です。俺が責任持って王様まで取り次ぎますよ」 魔「そ、よかった。もし誤解で起こった戦争ならそれほど無意味なものはないからね。ちょうどいい機会だよ」 勇「準備が整い次第、俺がここまで知らせに来ます。出来る限り早くしますんで、その間揉め事はかんべんっすよ」 魔「ん、了解。そのときを楽しみに待ってるよ」 魔「うーん。行っちゃったね」 男「行っちゃいましたね。あれ、メイド長もう座ってなくていいんですよ。勇者さんいませんから」 メ「……ほうっておけ」 魔「ああ、腰が抜けちゃった?」 メ「ち、違います! 誰が勇者ごときの剣などに!」 男「よいしょっと。部屋まで運びますよ」 メ「離せ! 一人で歩ける!」 魔「おいしいなぁ、メイド長」 メ「王まで部屋についてこられなくても……」 魔「いやいや、メイド長のかわいいところは珍しいからねー」 男「いい経験をさせてもらいました」 メ「貴様……そんなことより! 王。人間の王との会談、通ると思います?」 魔「うん。ほぼ百パーセント通るだろうね」 メ「ですね。王を殺すにはもってこいの機会ですから。建前上とはいえ非武装の王を自陣で狙えるなどこれ一度きりでしょう」 男「ああ、やっぱり誤解って線は考えてないんですね」 魔「だってさー情報の差異がありすぎるんだもん。こっちにも向こうにつながってる奴がいるって考えるのが妥当でしょ」 メ「そんなことまでして、魔物を滅ぼしたいのですね。人間は」 魔「まぁね。向こうは正真正銘の世界制服をしたいんでしょ。私らは邪魔な人間を片付けるのに使われたわけだ」 メ「許せませんね」 魔「うん。魔王をなめた責任は取ってもらうよ」 会談当日 勇「どうも、魔王さん。そっちは予定通り三人だけっすね。じゃあ今から会談場の前まで直接飛びます。あ、あと一応武装と魔力のチェックさせてもらいます」 魔「はいはーい。ま、こんなドレスで武装もくそもあったもんじゃないけどね」 メ「何も私まで同じようなものを着なくても……普段の格好でよろしいのでは?」 魔「こういうのま雰囲気が大切なのさ。男も似合ってるよー執事服」 男「何か一気にランクアップって感じですね。でも、僕まで行く必要があるんですか?」 魔「いっしょに行って欲しいのさ。私『たち』がね」 メ「王!」 魔「それじゃ行こうか。勇者君」 勇「はい、チェックもすんだし、ちゃっちゃとすませましょう。座標確認……発動!」 会場 王「始めまして、お会いできて光栄だ。魔物の王よ」 魔「こちらこそ、人間の王。ふぅん、護衛が勇者含めて三人だけなんだ。ちょっと意外だね」 王「そちらの誠意に対応したまでのこと。ぞろぞろと従者を連れては無礼になる」 魔「いい心がけだよ。さて、本題に入ろう。人間と魔物の戦争をやめにしようじゃないか」 王「ああ、まったくだ。こんなばかばかしいことはそうそうにやめにしよう。これがこちらの譲歩案だ」 魔「……これが譲歩だって? こういう冗談は好きじゃないな」 メ「見せていただけませんか? ……なんですかこれは!」 王「その書面のとおりだよ、魔物の王。そちらの領土の無条件引渡しと魔物に全てに対する隷属指示、それで戦争が終わるなら安いものだろう?」 勇「……王様! 話が違うじゃないか! 向こうの条件は伝えたはずだろう! その条件を汲んで案を作るんじゃなかったのかよ!」 王「勇者よ、お前は腕は立つが頭が悪いのが玉に瑕だ。なぜ人間が魔物の条件を受け入れなければならぬ? この世に魔物など必要ないのだよ。必要なのは人間と家畜だけだ」 魔「まさか、ここまでなめられてるとは思わなかったな……」 王「なめてなどいないよ。妥当な判断を下したまでだ。して? 魔物の王よ、この条件は受け入れてくれるのかね?」 魔「……帰るよ、メイド長、男。こんなゴミの面は一秒でも見たくない」 メ「ですが!」 魔「相手が人間だったら、制裁も加える気になれた。でもそこのそれは、ただのゴミだ。私が直接手を下す価値はない」 王「おやおや、これは残念だ。最大限の譲歩をしたつもりだったのだがねぇ」 勇「王! あんたって人は……! 魔王! 待ってくれ、この条件は俺から見てもおかしい! 改めて議会を通してちゃんとした条件を……」 王「少し黙っていなさい、愚図が」 魔「……互いに武装はなしだという条件だったはずだけど、今使ったのは銃と呼ばれるものじゃない?」 王「おや、よく知っているね。剣や槍に比べてこれは便利だ。もはや、剣と魔法の時代は終わった。これからは文明と科学の時代だよ。そこに魔物の存在は不必要だ」 メ「貴様ぁ!」 王「おっと動かないで欲しい、そこの執事君の頭が吹き飛ぶぞ」 魔「……クズが」 王「クズ以下のカスが何を言う。おや、執事君。君が動いても君の頭は吹き飛ぶぐぇあ!?」 男「……少し黙ってくださいよ。人間様」 王「おやおや、私を殴るとは人類初だよ。裏切り者。おっと、衛兵お前らは何もしなくていい。人間だからおとなしくしていれば拷問だけですんだのだがねぇ。しかし私にも問題があった。まさかここまで堂々と近づいてくるとはおもわなんだよ。ご褒美だ、一発くらいたまえ」 男「っ!」 魔「男っ!?」 男「大丈夫です。動かないでください。……裏切り者といったな、僕は、お前が人間だというのなら、裏切り者で結構だ……」 王「おおう、悲しいかな。魔物に毒されるというのは、こうも人を堕落させるものか。ふぅむ、何発で正気に戻るか試してみよう、今後の勉強になるやもしれん」 男「っ!! ……だけど、お前は人間じゃない。もう、人間ではありえないただの悪だ」 王「そうか悪か。馬鹿馬鹿しい。ほれ、三発目」 メ「くっ……!」 男「…………人間から生まれたお前は、魔物が裁くべきじゃない。同じ人間だった僕が裁く……お前の処理を魔物たちに押し付けるなんてできない……」 王「ほう、長持ちするな。もしやそこの魔物たちの援護を期待しているのかね? だとしたら無駄だよ。この会場は最高の霊脈に上乗せして結界を張ってある。魔王といえど力が出せないのでは意味がなかろう?」 男「……残り全弾僕に撃ってみろよ。それでも僕は死なない、あんたを殺してみせる」 王「……ふははははははは! 魔物に毒されると面白いことをいえるようになるのだなぁ! これが唯一の魔物の使い道かもしれん!」 メ「貴様いい加減に……!」 王「衛兵、その魔物を黙らせろ……裏切り者、いいだろう、やってみたまえ。ここで君が私を殺せたら君を次の王にしてやろうじゃないか」 男「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 王「……」 男「……」 王「……グハッ……」 男「…………………」 王「…………グハハハハハハハハ!!!!! おめでとう裏切り者よ! 最後に私の鼻先に触れることが出来てよかったなぁ! 地獄の門番に自慢するといい!」 勇「……あんたは……人類の汚点だよ……!」 王「おや、生きていたか元勇者様。安心するといい、そこのそれと同じように銃で殺してあげよう。なぁに弾薬はまだある」 魔・メ「……あーあ、やっちゃった」 魔・メ「男が人間だったから我慢してたのに。男が生きてたから我慢することが出来たのに。ダメだよ、殺しちゃったらさ」 王「気味の悪い。何を二匹同時に鳴いている。もう笑い飽きた、貴様らも早々に撃ち殺してやろう……? ん? なぜ私の右手がなくなっている? ……右手?」 魔・メ「それ、見たくないからとっちゃった。でもいいよね、もう使わなくなるんだし」 王「? 私の手は? どこだ? 手? 手は? おい、手を、捜せ。探せ。」 魔・メ「ごめんね、勇者君。ちょっとあなたも殺しちゃうと思う」 勇「……王を殺してくれるなら、ぜひ」 魔・メ「そ。……男、楽しかったよ。変な奴だったけど、お前はとっても面白かった」 魔・メ「ああでも、ごめんね、魔物が処理しちゃって。まぁ、元奴隷なんだし、これくらい、いいよね」 王「手を捜せえええええええええええええ!!!!!!!!!!」 魔・メ「バイバイ、男」 その日。世界は白い輝きに包まれ、一つの王国が大陸から消え去った。 そして、その数ヵ月後、人が立ち入ることができなくなったその王国のあった場所は魔物の楽園となった。 これ以来、魔物と人との争いは激減し、魔物と人の戦争は過去のものへと移り変わっていった…… そして数年後…… ?「あの、『魔物の楽園』ってのはあの山の向こうでいいんですよね」 村人「ああ、そうだが……あんたまさかそこにはいるつもりじゃないだろうな! やめとけ! あそこからはたまに亜人の出稼ぎが出てくるくらいで人は近づけねぇ!」 ?「大丈夫ですよ。これでも体力には自信がありますから」 村人「おめえ、そういう問題じゃあ……」 ?「どうしてもいきたいんですよ」 村人「……ったって何しにあんなところにいくのさ」 勇「勇者がいたころの友人の墓参りに」 勇(あの光のあと、俺は奇跡的に生きていた。海を漂ってたところを漁船に回収されたらしい。もっとも目覚めたのはベッドの上なので詳しくは知らない。 そして体が動くようになってから、数年。ようやく当時の体力を取り戻した俺は、王国のあった場所『魔物の楽園』を目指し、新たな旅をはじめた。 魔物と人間を救った、彼女たちが果てた場所へ……) 勇「っ! たしかにこれは厳しいな……だが、ここをぬければ!」 勇「……これは、すごいな」 勇(そこは確かに楽園だった。岩山の中に隠れるようにある自然の楽園。数多の魔物が住む桃源郷。ここには醜い争いもない、魔物同士が助け合って生きている世界だった) 少女「おじちゃん、誰?」 少年「馬鹿近づくなって! 知らない奴だ!」 勇(亜人の子供……はじめてみるな) 勇「はじめまして、俺は人間って種族なんだ。この岩山の向こうからやってきた」 少女「人間?」 少年「人間! 人間なの! はじめてみる! ほんとにいたんだ!」 勇「はは、ここでの村長……いや、一番偉い人に会えるかな? ちょっと事情を説明して挨拶がしたいんだ」 少女「えらいひと? パパのこと?」 少年「ママじゃない?」 勇「ちょっと難しかったかな。君たちのママとパパはこの近くにいるのかな?」 少女「いるよー!」 少年「あ、あそこあそこー!」 勇(二人が指差した先には、三人の男女がいた。なるほど、二人はちゃんと一番偉い人を知っていたわけだ さて、彼女たちは俺を覚えていてくれるだろうか。覚えていたなら聞いてみよう どうやって生き残ったのか。なぜ彼はあのときのままなのか。そして、二人同時に娶った感想を 俺は、手を上げて三人へと近づいていく) 魔王「今日からお前奴隷ね」 終幕 出典:ドラクエ感動話 リンク:検索したけどなかったよ |
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