バイクの気持ち (泣ける体験談) 37287回

2009/02/22 12:05┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:◆qxKWjjpiWg
696 : ◆qxKWjjpiWg  :2009/02/19(木) 05:42:45 ID:HSV07uNX
僕の名前はGU76A。みんなは僕を「カタナ」って呼ぶから
兄弟達のご主人以外で僕の本名まで知ってる人はあんまりいない。
よく覚えていないんだけど、僕は「しずおか」ってところで生まれたらしい。
僕らは生まれるとすぐ船に乗せられて、何だか凄く蒸し暑いところに連れて行かれた。
一緒に連れてこられた兄弟達と何だかここ錆びちゃいそうでイヤだね、なんて
箱越しに話をしていると結局船から降りないままに再び僕たちは生まれたこの国に帰ってきた。
僕たちはそこで離ればなれになり、僕はそこでトラックに乗せられて
見たこともない街に連れてこられた。

そこには50歳くらいのおじさんと30歳いかないくらいのツナギを着たお兄さんがいて
「やっとカタナのイレブン入ってきましたねー」なんて話をしていた。
トラックから降ろされた僕はツナギを着たお兄さんの手で
お店の窓際に停められた。僕の兄弟は一人もいなかったけれど、見たこともない
知らない人がそこにはたくさんいた。僕と同じように一度海外旅行して
帰ってきた人や生まれてすぐここに来た人、それに色んな理由でご主人と
お別れした人がいた。僕は他にすることもなくて暇だったから、そんな先輩達から
色々な話を聞いた。ご主人に綺麗にしてもらって嬉しかった話や日本中を旅した話、
「みーてぃんぐ」とかいう集まりで工場を出て以来離ればなれになっていた兄弟と
何年かぶりに出会ったなんて楽しい話もあったけど、
一方では買ってくれたご主人がちっとも面倒を見てくれなくて体調が悪いのに目一杯走らされて
おかげで今でも体調が悪いまんまだって話や毎日野良猫におしっこをかけられた話、
中には知らないお兄さんにさらわれたこともあるなんて怖い話もあった。
まだご主人に巡り会ってない僕はそんな話をワクワクしたりビクビクしたりしながら聞いていた。 

お店には毎日色々なお客さんが来た。若い人やおじさん、男の人が多かったけれど 
時々女の人もいた。お客さんの中には僕のことをしげしげと眺めたり色んな所を 
触ってみたりする人もいて、その度に僕はドキドキしたけれど、殆どの人はそのまま行ってしまうか、 
「欲しいんだけどなぁ」なんて言いながら名残惜しそうに帰って行く人も何人かいたけれど、 
中には「タイヤ細えー」とか「今更カタナでもないよねー」とか「鈴菌w」とか僕に聞こえてないと思って 
酷いことを言う人もいた。僕より後に入ってきたゼファー君やスティードさんなんかすぐご主人の下に 
行ってしまったのに僕は相変わらずお店の窓から同じ風景を眺めているだけ。 
このまま誰も僕のご主人になってくれないんじゃないかと思ったりもした。 

そんなある日の午後、いつものようにボーッと外を眺めていた時に僕を見つめる視線に気が付いた。 
その人はお店のガラス越しに食い入るような目で僕を見ていた。10分ぐらい眺めてその人は 
帰って行ったけれど、その後何故か6日おきの午後に現れるようになった。いつも同じジーンズに 
ちょっとくたびれたシャツとブルゾンで現れてはお店にも入らないし何も言わないで僕のことを 
あまりにもじーっと見てるもんだから、僕はこの人が前に聞いた人さらいじゃないかとちょっと怖くなった。 

きちんと数えた訳じゃないからおおよそなんだけど、その人が悪い人じゃないって解ったのは 
その人が来るようになってから10回目、2ヶ月位経った頃だったと思う。いつもと同じように現れたその人は 
僕をチラリと見るといつもと違ってお店の中に入ってきた。その後お店のおじさんとお話ししたり 
紙に何か書いたりハンコを押したりしていたんだけど、それが終わると僕の所にやってきて 
凄く嬉しそうな顔で「やっと取れたよ〜長かったよ〜♪」だとか「買っちゃったよ〜♪」だとか言いながら 
いつもより長く僕のことを眺めた後、ポケットからおもむろにカメラを取り出して 
何枚か僕の写真を撮ってからウキウキしながら帰って行った。 
こうして僕のご主人が決まった。 

「売約済」と書かれた紙をおでこに貼って貰った次の日からお店のお兄さん達が仕事の合間にワックスを 
かけてくれたりお店の奥でガソリンを入れてくれたりエンジンだとかメーターだとかブレーキだとか 
あちこち点検してくれたりして僕も日に日に気分が高揚していった。 
お尻にナンバープレートをつけて貰ったときは凄く誇らしかったのを今でも覚えている。 
その数日後にご主人が僕を迎えに来てくれた。 
「ならしちゅう」だからってゆっくり走っただけだけど、僕もご主人もとてもご機嫌だった。 
やっと3月になったばかりで夜はとっても寒かったんだけど、寒さもバスの排気ガスの臭いも気にならなかった。 
30分位走って辺りの民家がまばらになってきた頃、僕らはご主人の家に着いた。 
ご主人の家は途中で見た他の家より大きくてとても古く、僕らが入ったのとは別に立派な門があって 
木の看板に大きな字で「専法寺」って書いてあった。母屋の勝手口の脇にガレージがあり、ご主人は 
僕を停めるとガレージの鍵を開け、ガラガラと大きな音を立ててシャッターを開けた、 
ここが僕の部屋か、でもちょっと大きすぎるかもなんて思ったけど残念ながら僕の個室じゃなかった。 
そこには二人の先輩が居たんだ。 


そこにいた二人の先輩は僕よりもかなり年上だった。一人はご主人のGPz400さん、もう一人は 
ご主人のパパさんがお仕事で使ってるジョグさんだった。ジョグさんはお喋り好きで色々と教えてくれた。 
ご主人は東京の大学を出てすぐ京都でお坊さんの専門学校みたいな所に1年通って今年の春から 
パパさんの仕事を手伝ってること、GPzさんとご主人は大学の頃からのつきあいであること、 
ご主人は僕に乗るために仕事が暇な「ともびき」の日に「げんていかいじょ」とかいう難しい試験を受けたん 
だけど10回以上落ちたこと、ご主人は4人姉弟の末っ子でお姉さんが三人いること、お姉さん達は 
みんなお嫁に行ったんだけど二番目のお姉さんは旦那さんともうすぐこの家に引っ越してくるらしいこと・・・ 
僕は一々へえ、とか、そうなんですかーって返事してたものだから段々調子に乗りすぎちゃったみたいで 
つい「でもあれね、この子が来たからアンタもアタシとおんなじ下駄に格さ・・」と言って急に口を閉ざし 
「ゴメン、言い過ぎた」と言ってそれきり黙ってしまった。しばらくの間何となく気まずい空気が漂って 
居心地の悪さを感じていると、今まで黙っていたGPzさんが「俺はここに居れりゃそれでも別に構わんよ」と 
おもむろに口を開き、「俺の前のご主人はそれはもう酷い人でなぁ」と問わず語りにGPzさんは話し始めた。 


「車検も通らねぇようなマフラー買ってきて馬鹿みたいにでかい音たてて走ったり車と車の狭い隙間を 
意味もなくすり抜けて得意がったり急ぎでもないくせにキチガイみたいにすっ飛ばしてみたり 
怪しげな添加剤俺に飲ませて“やっぱこれだよな”なんてこきやがったりよう。あんなもん飲まされたら 
こっちは却って調子悪くなるっつんだよ」と吐き捨てるように言い、「挙げ句の果てにゃ峠で無茶して自爆して 
飛んでった先のガードレールで頸椎やっちまって再起不能よ。そんで用済みになった俺は横っ腹の擦り傷だけで 
済んだこともあってさ、すぐ入院代の足しにって売られちまってよ。売られた先にはご主人を事故で 
亡くしちゃって悲しんだり自分を責めてる奴も居て俺も同情されたりしたけど悪いが俺ぁ清々したね。」と 
一息にしゃべった後、ふっと穏やかな声になって「それに比べると今のご主人はすげえいい人だよ。 
俺を買ってくれたときもよ、あれだ、お前さんを見に行ってたときと同じよ。毎日俺が居た店の窓に 
羽虫みてぇにへばりついてよ、じーっと俺のこと見てんだよ。碌に運動もやってないくせに夜中に土方の 
バイトしたりどっかの治験のバイトしたりでいつもフラフラしててよ。んで俺買った後もよ、前の馬鹿が 
無茶したせいでちょこちょこ色んなトコ悪くなるんだけどあの人文句の一つも言わねぇで修理してくれてよ、 
金が無ぇもんだから自分はだまーってパンの耳かじって一週間暮らしてよう。だから俺ぁあの人のトコに 
居られるんなら下駄でも草履でも構わねぇんだ」そう言った後俺に「坊主、お前さんホントついてるよ、 
良かったな」と言ってちょっと恥ずかしくなったのか「ま、そんかわり女には見事なくらいもてねぇぞ。 
見てくれはそれなりに男前なんだが押しが弱ぇっつーか、いい人過ぎるっつーのかな。 
兎に角俺ぁ足かけ6年一緒にいるがその間あの人に女ができたことは一回もねぇ。」そういって笑った。 

4月に入った最初の週末にご主人のお姉さん夫婦がこの家にやってきた。昼頃やってきたトラックから 
荷物を運び込む様子をガレージのシャッター越しに聞いているとカチャリと鍵が開きシャッターが開いた。 
そこに立っていたのはご主人ではなく初めて見るおじさんと呼ぶにはちょっと早いくらいの男の人だった。 
背がすらりと高く、それでいて鍛えているのか全体にがっしりした感じで、悪い人ではないけどちょっと 
目つきが鋭くて、僕は最初その人が少しだけ怖かった。 
その人は勝手知ったる、といった感じで中に入ってくると僕を見て「おー、トモ君ホントに限定解除 
取ったんだなあ。カタナかぁ〜綺麗に乗ってんじゃん・・・ってまだ慣らしも終わってねーのか」なんて 
独り言を言って再びシャッターを閉めてどこかへ行ってしまった。その人が居なくなるとジョグさんが 
「あの人がお姉さんの旦那さんよ。白バイに乗ってんの。なんでも異動で官舎から遠くなるからってのと 
マイホーム資金貯めるのにお姉さんが昔勤めてた保育園でまた働くからってんで引っ越してきたらしいわよ」と 
相変わらずの地獄耳で得た情報を提供してくれた。 

僕達はその人を白バイさんと呼ぶことにした。白バイさんの奥さん、つまりご主人のお姉さんは良く言えば 
明朗活発、悪く言えばおっちょこちょい、露骨に言えば粗忽者といった感じの人で、夕ご飯前になると 
「うわーっ!」だの「あちあちあちあち」だのといった声やガッシャーン、パリーンといった音が 
度々漏れ聞こえてきて、僕たちはその度にまたやったかとクスクス笑いあった。それでもお姉さんは 
毎朝早く起きて白バイさんの非番の日以外は自分と白バイさんのお弁当をきちんと作ってから仕事に出掛けた。 
白バイさんが非番の日にはよくご主人が白バイさんに色々教わっていた。勿論僕も一緒にだ。 
近所にある潰れたホームセンターの駐車場で白バイさんのバイク講座は行われ、最初に白バイさんが 
僕に乗ってお手本を見せるんだけど、白バイさんは流石プロだけあって僕が僕じゃないみたいな動きを 
させてくれたりした。ご主人は白バイさんに比べると上手ではなかったけれど、それでも白バイさんに 
教わる度にちょっとすつ上手になっていった。 



白バイさんが非番の日は僕らの仕事が一つ増えた。いつもは毎朝ちゃんと起きるお姉さんが必ずといって良い程 
寝坊するのだ。お姉さんはお化粧もそこそこに「お母さーん!ごめーん!お昼はバイク便で宜しくー!」と 
大声で言い残して慌ただしく出掛けていった。GPzさんは「またかよ。懲りねぇ人だよな」と言いながらも 
嬉しそうにご主人とお姉さんのお弁当を乗せていそいそと出て行った。 
そんなある日、いつものようにお弁当を届けて戻ってきたGPzさんがニヤニヤしながら「おい坊主、 
バイク便の仕事な、あれ次からおめぇの仕事になるかもしんねぇぞ。いや、絶対なるね。」と僕に断言した。 

果たして次のバイク便の日、ご主人の手には本当に僕のキーが握られていた。僕は狐につままれたような 
気分だったがお姉さんの働く保育園へといつもよりちょっぴりスピードを出して走った。保育園に着いて 
僕を駐輪場に停めるとご主人はヘルメットを脱ぎ、僕のミラーを覗き込みながら乱れた髪を整えていた。 
初めて見る仕草だった。更に入り口と正反対の子供達が居る方へと鼻歌交じりに歩いていき、 
5分位してほんの少し上気した顔で戻ってくると来たときと同じようにちょっとだけハイペースで、 
今度はちょっとだけ遠回りをして家に帰ってきた。 


ガレージのシャッターが降りると待ちかねたようにGPzさんが「な?な?俺の言ったとおりだべ?」と 
話しかけてきた。一部始終を話してそれでもまだ“?”マークを浮かべている僕を見て 
「ったくガキだなあ。女だよ女。俺の3倍近いエンジン積んでんだろ?3倍っつったらシャア専用じゃねぇか。 
それなのにそんなこともわかんねぇのかよ。」なんてワケの解らない事を言っていたが、 
GPzさんによるとどうやらその保育園にはどえらい美人の保母さんがいて、あろうことかご主人は 
その保母さんに一目惚れしてしまったらしい。「だからよ」といってGPzさんは 
「今日はおめぇに乗って行ったべ?ありゃあ本人格好付けてるつもりなんだよ。バイクに乗らねぇ女にゃ 
俺で行こうがおめぇで行こうが一緒だっつうのにな。その辺が解ってねぇんだよ」と続け、「まあ、俺も 
チラッと見ただけだがありゃあ無理だな。相手が上玉過ぎらぁ。どうせいつものように何も出来ねぇで 
指くわえて見てる間に他の男にかっさらわれるか、さもなきゃ当たって砕けてサヨウナラ。どっちにしても 
無理無理。ま、そんときゃ多分おめぇが失恋旅行のお供だろうからよ。どこに行くか知らねぇが精々頑張って 
あの人を慰めてやれや。」とフォローのかけらもない見解を述べた。 

その次からバイク便は毎回僕の仕事になり、帰ってくるとガレージで待つ二人に進捗状況を報告するのが 
習慣になった。その内に段々ご主人が戻ってくるまでの時間が長くなり、戻ってきたときのご主人の顔は 
とても幸せそうだった。6月に入り、もうすぐ梅雨を迎える頃、バイク便のために出てきたご主人は 
昨日買ったばかりのお洒落な服を着ていた。いつもより随分早く戻ってきたご主人は、幸せそうと言うより 
夢見心地といった雰囲気だった。その日の帰り、ご主人は2回も車の列に突っ込みそうになった。 


僕が初めてご主人の意中の人、由佳さんを見たのはその週の週末だった。由佳さんはご主人が自分の服と同じ日に 
買ってきたばかりのヘルメットを被り、僕の後ろにちょこんと座った。僕たちは最近綺麗に作り直された 
眺めの良い海沿いの道をしばし走ったあと、ちょっと遠くの遊園地へ行った。僕はその間一人で 
お留守番だったけど、初めてのタンデムだった筈なのにご主人結構上手だったな、白バイさんのお陰かなぁとか 
思い返したり、ご主人と同じように女の人と仲良く歩いてる男の人を見たり、ジェットコースターから 
聞こえてくる歓声を聞きながら、ご主人達も楽しんでるのかななんて想像してたからそんなに寂しくなかった。 

まもなく梅雨に入り、僕がご主人と出かける機会は一気に減ってしまったけれど、ご主人は週末になると 
朝から出掛けるようになった。何だか凄く帰りが遅い日もあった。あんまり帰ってこないので僕が 
ご主人遅いけど大丈夫かなあって言ったらGPzさんが「ばーか、帰りが遅いから大丈夫なんだよ。」って 
またよく解らないことを言った。意味を聞いたけど「ガキにゃわかんねぇよ」といって取り合ってくれなかった。 


そうして朝から降り始めた雨がふっと止んだある日の夜、台所の換気扇がカシャンと音を立てて切られたかと 
思うとその横にある窓が勢いよく開けられた。珍しくご主人とお姉さんが二人で飲んでいたようで、 
開け放たれた窓から二人の会話が僕らの所にも聞こえてきた。 
「・・・だからさぁ、アンタ自分がどれだけあり得ない状態にあるか解ってんの?」どうやらお姉さんは 
多少酒癖がよろしくないようでご主人はお姉さんの言うことをうんとかいや、それは・・・と返すくらいで 
殆どお姉さんの独演会になっていた。 
「あのね、本来ならね、由佳ちゃんみたいないーーーーーい娘がね、アンタみたいな冴えないバイク小僧の 
相手するなんてあり得ないわけ。あんだけさぁ、綺麗で明るくって性格も良くって立ち居振る舞いや 
礼儀作法もしっかりしてる娘だったらね、もーーーーーーっといーーーーーーいオトコと一緒にいるのが 
世の中の道理ってもんでしょうが。」それに何事かご主人が反論していたが、お姉さんは畳みかけるように 
「大体さぁ、大学生じゃあるまいし、いい年した男がこんな田舎でバイクでデートなんてありえないっしょ。 
あのね、アンタ多分解ってないだろうけどさ、バイクだとさぁ、女の子がお洒落できないワケよ。わかる? 
スカートもはけないし綺麗にセットした髪はヘルメットでグシャグシャ。おまけに顔も腕も煤や埃まみれに 
なっちゃうしさぁ。お年頃の女の子がそんなのいつまでも我慢できるとでも思ってんの?できっこないわよ。 
とにかくね、アンタ、あの子逃したら次はないよ。年末ジャンボ1等プラス前後賞三連チャンくらいの 
幸運なんだからね。バイクなんかとっとと叩き売ってさ、良い車買えなんて言わないからせめてもうちょっと 
カッコに気を遣うとかさ、した方が良いんじゃないの?あたしゃね、アンタを責めてるワケじゃな・・・」 
お姉さんは尚も続けようとしたが再び降り出した雨に慌てて窓を閉め、それきり雨の音しか聞こえなくなった。 
僕が何だか心細くなって「僕達・・・売られちゃうのかなぁ・・・」って言ったらGPzさんがフン、と笑って 
「おめぇはほんっと解ってねぇな。あの人からバイク取り上げて何が残んだよ。少なくともおめぇさんは大丈夫さ。」と 
言ってくれたけど、それきり黙ってしまった。僕も何だかモヤモヤした気持ちが残った。 


梅雨が明けて夏が来て再び僕がご主人と出かける機会が増えた一方で、GPzさんがご主人と出かける機会は 
ますます減っていった。GPzさんは気にすんな、楽しんで来いよっていつも言ってくれたけど、 
何だか申し訳ない気持ちだった。そんなある日、非番の白バイさんとご主人がガレージにやってきた。 
いつものバイク講座かと思いきや二人はヘルメットもグローブも持っていなかった。白バイさんが 
「なあ、ホントにコイツ手放しちゃうの?」っていきなり言うもんだから寝耳に水の僕らはびっくりした。 
「学生ん時からずっと乗ってきたし、愛着もあるんですけど・・・コイツにまで乗る暇が無くて。」 
「まぁなー、飾りモンじゃないんだしバイクは乗ってナンボだしなあ。で、いつ持ってくの?」 
「このまま渡すわけにいかないですから・・・とりあえず社長のとこには早めに持って行こうかと思ってるんで 
お義兄さんの都合の良い日で。」白バイさんはひい、ふう、みい・・・と指折り数えて 
「んじゃ来週の水曜でいい?」「はい、じゃそれでお願いします。」といって二人は家の中に戻っていった。 
GPzさんがよそに貰われていくことが決まった。 


僕が何て声を掛けて良いか解らなくって、それでもGPzさんのことが気になってチラチラ見てたら 
そんな僕の気持ちに気づいたのか、GPzさんが「ほらほら、そんなしょぼくれてんじゃねぇよ。ああ、もう 
これじゃ気になって売られていく処じゃねぇだろうがよ。シャンとしろよ。」と言って「俺もよ、いつか 
こんな日が来るだろうなーって思ってたんだよ。何しろ俺ぁ見ての通り中古で買われた10年以上前の 
ポンコツだしよ。俺が先にくたばるかあの人が先に俺を売っぱらうかどっちが先かでちっとばかし 
俺が長生きし過ぎただけよ。・・・おっと、あの人のお陰で今日までくたばらずに長生きできたんだから 
そんなこと言っちゃいけねぇな。 
ま、事故にも遭わず売られもせず飽きられもせずで最期まで面倒見て貰ってあの世にいけるバイクなんざ 
滅多にねぇんだからよ。それこそ年末ジャンボ3連チャンだよな。」明るくそう言ったけれど、 
それが強がりだというのはまだガキの僕にでも解った。 
GPzさんが売られていく日が近づいても、ご主人は最後にお別れのツーリングに行くでもなく、 
綺麗に掃除してあげるでもなくいつもと同じように過ごしていた。僕はそんなご主人を冷たい人だと思った。 


そしてとうとうGPzさんが売られていく日になった。冷たいご主人は別段いつもと変わった様子もなく、 
GPzさんのエンジンに火を入れた。アイドリングの間、朝からずっと黙っていたGPzさんが俺に 
「坊主、あの人のこと頼んだぞ。」と僕に向かって言った。うん、と頷くまもなく「こけそうになったら 
おめぇが踏ん張るんだぞ。雨の日は気をつけろよ。あと砂浜の近くとかマンホールの上とかも油断すんなよ。 
それから・・・・」最後は言葉にならなかった。ご主人はそんな人の気も知らず、GPzさんに跨ると 
車に乗った白バイさんと一緒に出て行き、2時間程で帰ってきた。 

その日から僕はご主人に反抗するようになった。GPzさんに最後に言われたことを忘れたわけではなかったけれど、 
ご主人のしたことがどうにも許せなくて、アクセル開けられても息を止めてわざとゆっくり走ってやった。 
そんなことを数日続けていると流石にご主人も気になったのかキャブやプラグを触ってみたり、 
白バイさんに見て貰ったりしたが、白バイさんも首をひねるばかり。それも当然で僕はどこも悪くないんだから 
何も解るわけ無いし、それに悪いのは僕じゃなくて冷たいご主人の方なんだ。 
毎日がつまらなかった。いっそのこと僕も売ってくれよって思った。 

それからおよそ1ヶ月後、ご主人は僕をお店に連れて行き、お店の人に僕の状態を告げ、来週の連休に 
ちょっと長距離走る予定があって心配なんで見て貰えますかと頼んだ。お店の人もあちこち見ていたが 
悪くない物は見つけようもなく、いや、これで調子悪いなんて考えられないですけどねぇと言った。 
そしてふと思い出したようにこないだのGPz、あれ先方さん取りに来られましたから、と言った。 
ご主人は余り関心無さそうに、あ、もう来ましたか。とだけ言った。いつもなら待ち遠しい遠出が 
鬱陶しかった。雨でも降ればいいのにと思った。 

そして当日、僕の願いは神様には聞いて貰えなかったようで、見事なまでのバイク日和だった。 
いつにも増してご機嫌で、僕はそれがとても癇に障った。後ろにテントや寝袋なんかをてんこ盛りにして 
僕らは出発した。いつものようにすぐに高速に乗るのかと思いきや、反対方向へ向かった。 
向かう先には由佳さんの住むアパートがあった。おいおいこの上由佳さんもかよ。そんなの無理だろJK・・・ 
という僕の嘆きを無視して最後の角を曲がると、そこには既に準備万端の由佳さんと、同じく荷物てんこ盛りの 
GPzさんの姿があった。驚いて声も出ない僕にGPzさんは「よう坊主、久しぶりだな。元気か?」と 
何事もなかったかのように声を掛けてきた。「なんだよ、シカトしてんじゃねぇよ」と笑って 
「まあいい、すぐ出発みたいだから話はまた後でな。」そうして僕らは走り出した。 

走り出して2時間程で僕らは道の駅に停まり、待ってる間に僕はその間の出来事を聞いた。 
由佳さんがつい最近バイクの免許を取ったこと、タダで譲るとはいえきっちりオーバーホールするために 
引き取られていったこと、憂鬱な気分で待っていると引き取りに現れたのが由佳さんで心底びっくりしたこと、 
由佳さんから僕の調子が悪いと聞いて僕が拗ねてるんだとすぐにピンときたこと・・・ 
「ったくやっぱおめぇはまだガキだな。あの人のこと頼むぞって言ったべ?あんくらいで拗ねてんなよ。」 
といって「それによ、由佳さんだけどよ。流石に免許取り立てだから危なっかしいし気が気じゃねぇんだけどよ。 
あの人さ、いいケツしてんだよなあ。オーバーホールもして貰って絶好調だし、いやいや長生きはするもんだねぇ。 
智英様々だよ」と一人で悦に入っていた。余りの豹変ぶりに呆気にとられてる僕にGPzさんは 
「そうそう、すぐじゃねぇとは思うんだけどよ。その内多分俺あの家に帰ると思うからよ。由佳さん込みで。」 
と言った。あの、それってもしかして・・・とい言いかけた僕に「お、なんだ。解ったのか?ガキがちったぁ 
大人になったみてぇだな。」と言って笑った。 


(ご愛読ありがとうございました) 



















出典:バイクにまつわる泣けた話【5発目】
リンク:?
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