俺は今小さな港町で小さな診療所をやっている。 もともと俺は山崎豊子の『白い巨塔』を見て医者に憧れたクチなんだ。つっても、里美じゃなくて財前のほうに。 後ろに若手や弟子筋を引き連れた回診シーンなんかかっこいいなあと思った。権力闘争に勝ち抜いてこそ、立派な男になれるんだ、と信じていた。 それで死ぬほど勉強して医学部入って、人様のお金で海外修行も経験させてもらって、医局に戻って、しかし出世競争に敗れて地方に飛ばされて発狂。 キャリアを全部かなぐりすてて、地縁も何もない田舎町に開業したのが七年前だ。年は当時、三十五だった。 結構堅物な育ちだったからさ、それまで娯楽とか知らなかったんだよ。パソコンも仕事と勉強でしか使わなかった。 でも、ネットって面白いんだな!教えてGOOとかで健康相談に答えて感謝の言葉をかけてもらったり、Eメールで遠くの友達とやりとりしたり、精神科の医者をからかったりしているうちに、頭がおかしくなったのも治っちまった。世界が狭かったなあ、としみじみ思うよ。 この萌えコピにも、ネットをいじくってるうちにたどり着いた。玉石混交だけど、殿堂入りしてる話なんかは読み物としてじゅうぶん楽しめる。『愛美』という作品はすばらしいね、小さい頃似たような経験をしたのが懐かしく思い出されたよ。この一年で追加されたものの中では、『うさぎのウサギ』ってやつがよかった。まだの人は読んでみてくれ。 ネットという新しい趣味を見つけられたことで、今は結構楽しく仕事に打ち込んでいる。田舎のジジババはヒマさえあれば野菜持って世間話しにきてくれるし、留学中におぼえた海釣りも楽しんでる。 そんな中、少し萌えるエピソードが溜まったんで、恩返しの意味をこめてこちらに投稿させて戴きたいと思う。工夫して書いたつもりだけれど、なにぶん俺はちょっと感性が普通の人とずれてるから、面白くないかもしれない。予め謝らせてくれ。 あ、最近よく見る「今の俺の嫁さんです」オチではない。安心して欲しい。 この話に出てくる紫ちゃん(偽名)とは、家から車で20分ほどの大学病院で出会った。 当時彼女は高校三年生で、ハンドボールのゴールキーパーをやっていた。背が高く、髪は短く切りそろえて、煥発そうな風貌をしていた。 俺は当時、貯金を切り崩しながら、心療内科に通っていた。実績も能力も下だと思っていた同僚に出し抜かれ、医局でのポストと失った俺は、プライドをぼろぼろにされ、立ち直れていなかったんだ。 担当医には、失業中のフリーターだと嘘をついて、貰いたい薬が処方してもらえるように問診に答えた。失脚した研究畑の人間だなんて、同業者相手には恥ずかしくて口が裂けても言えなかった。 その日も、いつものように薬を貰って、そして玄関を出ようとした。 そこには、壮絶な風貌の女性二人が立っていた。印象的だった。 頬に青痣、右手にギプス。息を荒くしている緑ジャージ姿の紫ちゃんと、 その左肩に抱えられ、真っ青な顔色の中年女性(彼女のお母さん)。 紫ちゃんは、「お母さん、着いたからね…」などとしきりに声をかけながら、引きずるようにして玄関を通っていった。 呆然として見送っていると、ベンチの前で二人が転んだ。俺は慌てて駆け寄った。「大丈夫ですか」 女性一人の体重を抱えあげただけなのに、ものすごく重い。薬に頼る生活のせいで、当時の俺はガリガリだった。 「すみません」 そう言って紫ちゃんはまたお母さんを抱え上げようとした。その時、俺の手が彼女の肩に触れて、彼女は痛そうに顔をゆがめた。 このとき、俺は脳みそがかつての仕事モードになってしまった。というのも、紫ちゃんの肩が腫れているような感触があったからだ。「ちょっと失礼」と言って、紫ちゃんの肩を触診してみると、やっぱり腫れていた。骨が折れているようだった。 「鎖骨が…」 と言いかけた俺の頬を、紫ちゃんは思い切りひっぱたいた。気がつくと、周囲からは冷たい視線がバンバン飛んできていた。 今思えば、そりゃそうなるだろう。傍目には、不審な男が女子高生の肩を突然揉み始めたようにしか見えないのだから。しかも「ちょっと失礼」とか言って。ただの痴漢と思われても仕方がない。 彼女は逃げるように、お母さんを抱えてまたずるずると病院の廊下を歩いて行った。 妙な誤解をされたままではまずいと思った。その後もその病院には通わないといけないからだ。俺は、ひそひそ話をしている婆たちのところへツカツカと歩み寄り、自分が医師免許を持っていること、さっきは女の子の肩の腫れが気になって触ったのであって痴漢をはたらいたのではないこと、彼女が戻ってきたら整形外科の受診も勧めるつもりであることを詳しく弁解してまわった。この土地では医者であることは隠していたが仕方なかった。俺は感染症が専門だが、海外遊学中整形外科で修行していたこともある。 必死に説明して回る俺に気圧されたのか、入り口前のロビーは閉院後のように閑散とした。かくして誤解は一掃された。 俺は満足して、ベンチに座って、オレンジページを読み始めた。鶏肉の特集号だったからだ。鶏はヘルシーで旨い。食欲がなかった当時も鶏だけは食っていた。 ほどなくして、女の子が一人だけでロビーに戻ってきた。人気のなさにぎょっとしたあと、俺の姿を認めてもう一度ぎょっとした。さらに、俺がツカツカと近づくと、さらにもう一遍ぎょっとして後ずさった。 俺は「心外だ」と思いながらも、逃げられてしまっては誤解が解けないので、笑顔を無理に作り出し、早足で歩み寄った。 「きゃー!」 悲鳴をあげられ、さらに駆けつけた医師に俺は取り押さえられた。「心外だ」と言おうとしたが、苦しくて声が出ない。 対応した医師は坂出と言って、今では友人のひとりだが、その時の坂出にとっての俺は変質者以外の何でもなかったらしかった。俺は体格のいい坂出と警備員のおじさんに両脇を固められ、警備室へ連行された。 だが、これは却って好都合だった。 俺「あなたは何科の医者ですか」 坂出「ん?整形外科だけど?」 俺「それは丁度よかった。さっきの女の子ですが、鎖骨のあたりが腫れているようだ。レントゲンをとったほうがいい」 坂出「へえ。なんでそんなことがあんたにわかるんだい」 俺「俺も医者だからね、まあ専門は感染症だが」 坂出「……はあ。精神科にまわるかい?警察呼ぶかい?」 俺「いや、精神科はさっき受診してきたばかりだ。警察もいらない。特に犯罪に巻き込まれてはいない」 坂出「はあ。じゃ私から伝えておくので、今日はもう帰って良いよ」 俺「面倒をかけますね。それでは失礼」 というわけで、代わりに誤解を解いておいてくれるという坂出医師の申し出に甘えて、俺はスーパーで鶏肉を買い、みかんと一緒に煮て食った。 次回、大学病院に行くと、精神科の医師の様子が変だった。 精神「(俺)さん?あなたの職業はなんですか?」 俺「(さすがにばれたか) ……医師です。ただし現在は失職中です」 精神「ああ……。また振り出しか…。じゃあお薬出しておきますねお大事に」 看護「くすくす」 よくわからなかったが、薬はもらえた。その帰り、玄関で坂出に呼び止められた。 坂出「いやあ、こないだの女の子の肩、あんたの見立てどおりでしたよ。私が処置をしておきました」 俺「そうでしたか」 坂出「しかし変な冗談をおっしゃって。本当に精神科の患者さんかと思いましたよ。こちらへは出向ですか?それとも講義で?」 俺「?? いえ、受診に来ている。医師としては失職中ですよ」 坂出「(俺の手の処方箋を見て)あ、あれ?ほんとに患者さん?」 俺「そうです」 坂出「あー、あー、そうでしたか。ともあれありがとうございましたお気を付けてペコリスタスタ」 こうして二人の医師とのやりとりを整理してみると、俺がよりいっそうの誤解を受けていたことがわかる。結局、 謎に思った坂出医師が精神科の医師に俺の氏名を照会 (精神病者のたわごとにしては見立てが正しかったからだそうだ) ↓ 坂出、俺と同じ大学の二年後輩であると判明、かつては優秀だった俺の名前を知っていた ↓ 俺のかつての勤務先に照会。俺が失脚後、失踪同然に辞職した事を確認 ↓ 坂出、精神科医師に説明 ↓ 次回診療の際精神科医師からこっぴどく叱られる(嘘をついていたので) という流れになった。ちなみに、この縁がきっかけで、病気の快癒後に大学病院の講座をひとつ、非常勤として担当することになった。 車を運転して帰宅する途中で、片手で自転車をこぐ紫ちゃんの姿を見つけた。俺が声をかけると、彼女は一瞬顔を引きつらせたが、やがて自転車を降り、押しながら近づいてきた。 紫「この前は、肩を診てくださってたんだそうで…。なんか、勘違いして済みませんでした」 (やけに車から距離をとっている) 俺「いや、あれは誤解をしかねない状況だったから仕方ないね。それにしても、片手で運転するのは危ないよ、良かったら乗せていこうか」 紫「いや!…あ、いやっていうのはその、いえ、ともかく、結構です!」 (走り去る) しかし、偶然と言うかなんというか、彼女がたどる道順はことごとく俺の帰り道と一致していた。 道幅が狭いので、片手で運転する紫ちゃんを轢かないように、そっと後ろを徐行運転してついていく。彼女は後ろをちらちら見ながら必死でこいでいるが、そのせいで余計ふらふらして危ない。 俺が 「危ないから前見て!前!」 と声をかけても、彼女は涙目になるばかりで振り向くのをやめようとしない。なぜだろう? 「ついてこないで下さい!」(たぶんこう言ってたんだと思う、泣きながら) 「心配ない、私もこっちなんだ」(穏やかな微笑を湛えて) そして、土手に差し掛かったところで、彼女は絶叫とともに自転車ごと転がり落ちた。慌てて車から降りて、気を失っている彼女を抱え上げ、自宅で保護。ジャージの首元のチャックを緩め、ギプスと鎖骨を動かさないようにして、ベッドに寝せておいた。 やがて二時間くらいが経ち、外が俄かに騒がしくなる。サイレンの音が聞こえてきた。前日から牛すじを煮込んでいた俺は「なんだ物騒だな」と思った。 気がついたのか、寝室のドアが開き、紫ちゃんがキッチンに入ってきた。俺と目が合うと、のどの奥で「ひっ」と言った。 だてに医者をやってたわけではないので、それがしゃっくりではなく恐怖や驚きを示すものだとすぐにわかった。 さらに言えば、満腹感はリラックスをもたらす。 俺はじっくり手間と時間をかけた牛すじの煮込みを皿に盛った。大根も豆腐もよく煮汁を吸って、一様に黒くつやめき、濃厚な香りを放っている。見た目は少し悪いが、なかなかうまくできた、と思った。 「お腹すいてないかい?」 皿を差し出すと、また紫ちゃんはなぜかまた失神した。 彼女をまたソファに寝かせたあと、台所で牛すじをつまんでいると、大家さんと警官が尋ねてきた。ちなみに、大家さんは俺の素性を知っている。精神病から立ち直ったら、医師不足のこの地区で開業するということを条件に、全くよそ者で保証人もいない俺に家を貸してくれた恩人だ。 警官「すみません警察ですちょっといいですかね」 俺「はい、どうしました?何かあったんですか」 警官「(俺をじろじろ見る)実は先刻、この辺で女の子が行方不明になりましてね、何かご存知のことはありませんか」 大家「二軒隣の原田(偽名)さんちの娘さんなんだけどね、腕を骨折してる子」 俺「原田さん…。うーむ。ご近所とはまだ付き合いが浅いからちょっとわかりません。が、骨折している女の子なら奥で一人寝ています。いま呼んできましょう」 二人「はあ!?」 俺「ちょっと失礼」スタスタ→家の奥へ 俺「(ユサユサ)あの、君、ちょっと起きて」 紫「ん…?(起きる)ひっ」 俺「そんなに怖がらなくても。牛すじ苦手だったかい」 紫「いや…助けて…家に、帰してください…」 俺「…?何を言っているんだ。ねえ君、名前は?ハラダさんかい?」 紫「(枕許に置いておいた通学カバンを引き寄せ)見たんですか!」 俺「ん?何を? ところで、なんかハラダさんという女子高生を探しているらしくて、今玄関に警官が来てるんだけども」 紫「へ?」 俺「で、きみはハラダさん?」 紫「は…?はい原田です」 俺「やっぱりそうか。じゃあちょっと来て」スタスタ 紫「はあ…」スタスタ 俺「お待たせしました」 大家「へ?紫ちゃん?なんでここにいたの?」この時、ゆかりという名前を知った 紫「さあ、あたしも何がなにやら…(俺のほうを向いて)あたしなんでここにいるんですか?」 俺「ほら、君が土手から転げ落ちて、それを保護したんだよ」 紫「(思い出した!という顔)な、なんであたしをつけてたんですか?」 警官「(目が光る、疑惑の視線→俺)」 俺「どうも、家が近所だったようだね。俺も変だと思ったんだ、帰りの道順が思い切りかぶっていたからね」 紫「(玄関の外を見回す)あ、この玄関うちと同じつくり…?なんだ、そういうこと…。ご、ごめんなさい!またあたし勘違いしてしまって!」 警官「???」 紫「(説明)」 俺「(説明)」 警官「なんだ、そういうこと…」 紫「(謝罪&帰宅)」 翌日、紫ちゃんが家を訪ねてきた。背後には大家さんとお母さん。調子がいいのか血色の良い顔つきだった。 この一帯の貸家は、大家さんが若い頃からやっていて、建物自体はかなり古い。手入れをまめにしているから、住みにくくはないが、家賃はべらぼうに安い。そんなところに原田さん一家が住むのは、理由があった。 まず、お母さんが呼吸器系の持病もちで、内職しかこなせないという事情がある。父親は運送会社の勤務中、倉庫で積荷が崩れる事故に巻き込まれ、紫ちゃんが中学生の時に亡くなったらしい。それまで住んでいたアパートは、家賃が高く住み続けることができなくなった。 そこで、お母さんの叔父にあたる大家さんが、タダ同然で空き物件を提供したのだそうだ。 大家「そんなわけでね、実はアンタに部屋貸そうと思ったのも、近くに医者がいたらいいかなと思ったからなんだよ」 俺「なるほど」それは確かに思いやりのある考えだ。大家さんらしい。 紫母「先日は、うちの子を助けてくださったそうで、ありがとうございました」 紫「ご迷惑をおかけしてすいませんでした」 紫母「なにぶん暮らしが少し苦しいもんですから、こんなものしかなくって…。もしお気を悪くされませんでしたら、お試しくださいね」 渡されたのは、タッパーに入った筑前煮だった。 そこで俺も、台所へ立ち、タッパーに牛すじの煮込みを詰めた。暮らしが苦しいということなので、タッパー二つにぎゅうぎゅうに詰めた。 紫「ひっ」 紫母「まあすいません」 大家「うまそうだねえ」←大家さんにもひとパックあげた 紫「???(食えるの?みたいな顔)」 俺「牛すじの煮込みだ。嫌いかい」 紫「ギュースジって何ですか?」 紫母「まあやだねこの子ったら(笑)」 俺「牛のスジだよ」 「え?じゃあこれ牛肉なんですか…」 紫ちゃんはゴクリと、かなり大きくのどを鳴らした。若者が食欲旺盛なのはじつに結構なことである。 俺は精神科には欠かさず通った。が、そのうちに診療を拒否されるようになった。 精神「だから、ね?もうあなたに薬は要らないんですってば」 俺「そんな気は私もしています」 精神「わかったなら、ね?もう治ったんですから」 俺「いや、しかし。私は気が狂っていたんだから正常な判断ができている自信がない。なぜもう診察が不要なのか見立てを詳しく話してください」 精神「説明は少し込み入りますから…。それにあなた医師免許持ってるんだったら一通り勉強したでしょ?知ってるでしょ?」 俺「問題ない。時間ならあります。もともと精神医学は多少不勉強なところがあったのだ。ぜひくわしくご教示いただきたい」 精神「(諦め・説明)」 俺「なるほど…。うん、合点がいきました」 精神「はい。ではお大事にね、次の人呼んで」 看護「あ、はい」 俺「いやちょっと待った。次回はいつですか」 精神「だから、ね?もう来なくていいんですってば」 看護「くすくす」 俺「(心外だ)」 俺としてはちっとも治った気などしなかったのだが、どうやらこれはつまり、治ったということのようだった。 その事を大家さんに報告すると、さっさと開業しろと急かされたので、大家さんの敷地の隣にある空きビルをまるごと買い取り(田舎なので3桁!だった)、二階を部屋に、一階を診療所に改築して、患者を診始めた。 過疎地域だから大して人も来ないだろうと思って、待合室よりも立派な雑誌コーナーを設えたのに、いざ開けてみると休む暇もなかった。 内訳(概略:俺診療所調べ) ・腰の調子が悪い(56パーセント) ・膝の調子が悪い(38パーセント) ・船の調子が悪い(3パーセント) ・息子に嫁が来ない(2パーセント) ・その他《重病人など》(1パーセント) 重病人が少ないのがせめてもの救いだったが、ジジババが来るわ来るわ。 結局一人で捌くのは困難になった。そこで、その頃にはすっかり飲み友達になっていた坂出に泣きつくことにした。 坂出「なんだいこの金は」 俺「これでひとつ、看護師を頼む」 坂出「はぁ?」 俺「足りないか?昔、うちの医局ではナースの人事を好きにするのにこのくらい積んでたけども」 坂出「おいおい金なんか要らないよ。新人でもいいの?」 俺「学生上がりでも駄目なことはないが、できればある程度経験のある看護師がいい」 坂出「ふうむ。わかった」 そうして坂出が紹介してきたのは、精神科でくすくす笑っていたあの心外な看護師だった。名前は久保(偽名)さんという。4年制の学校を出たので、職歴は当時3年足らずだったが、その分保健師の資格も取得していた。 この人はよくわからない人だった。俺をおちょくって遊んでいるようなところのある人だった。そもそも大学病院勤務を辞めて個人の診療所に来る神経からしてわからなかった。ちなみに既婚で、理学療法士の旦那さんがいる。 紫ちゃんからは、不幸な行き違いから当初変な誤解を受けてしまったが、すぐに仲良くなることができた。 よほど牛すじが気に入ったのか、 《朝》 紫「(自転車で俺家前を通りかかる)あ、斜陽さんおはようございます」 (以下 俺=斜陽) 俺「(盆栽に水遣り)おはよう。学校?」 紫「はい、部活があるんです」 俺「腕折れてるじゃないか」 紫「でも、球拾いとかしないと。あ、牛すじすごく美味しかったです!」 俺「そう」 《夕方》 俺「(原田家へ)ピンポーン」 紫「はーい。あ、斜陽さん」 俺「これどうぞ」 紫「???」 俺「おでんだよ」 紫「牛すじの?」 俺「うん」 紫「(ゴクリ)」 紫母「まあ、すみません」 《翌朝》 同文 《夕方》 ―略 俺「カレーだよ」 紫「牛すじの?」 俺「うん」 紫「(ゴクリ)」 紫母「まあ、すみません」 こんな具合に、原田家のメインは時折、俺の牛スジ料理になった。 開業後、お母さんと紫ちゃんは時々診療所を訪れた。 俺はお母さんのためにアトムメディカル製のネブライザを取り寄せ設置した。 お母さんは、処置が必要なときもあったけれど、大抵は吸入で落ち着いた。だから、どうせなら部屋にネブライザを一台置いたらどうですかと勧めたが、お母さんはそれを固辞した。小さいものならお貸ししますよと言っても、「結構です」、と言われてしまった。 お母さんが吸入をする間、俺はちょっとだけ紫ちゃんの勉強を見てやっていた。 わからないところをほったらかしにしたまま三年生になった彼女は、成績が激しく乱高下していた。しかし、割合と筋は良かった。 紫母「あの子は、たぶん高校までしか行かせてやれないんです。あつかましいお願いですけど、私が薬吸っている間だけで構いませんから、勉強を見てやって下さいませんか」 お母さんがわざわざ診療所に来ることにこだわっていたのはこういう理由だ。 俺は三十手前まで学生をやらせてもらっていたし、お金をもらって外国で勉強させてもらったこともある。もちろん俺なりに努力もしたし苦労も味わったけれど、世間様からすればずいぶんな遊行にうつるだろう。 引け目を感じた、というわけではないが。 とりあえず俺は申し出を受けて、できる限り紫ちゃんの勉強を見てやるようにした。 診察室の隣の受付の机が紫ちゃんの勉強机になった。俺は、じいさんばあさんの愚痴や世間話をこなしながら、少し手が空けばそこへ行って、彼女の質問を聞いてやるのだ。 でも、紫ちゃんは良くも悪くも高校生だった。だから、勉強とは関係ない質問をしてくることがしょっちゅうあった。 紫「(久保さんを見て)あの看護婦さんて、斜陽先生の奥さんですか?」 俺「違うよ。苗字がちがうだろう」 紫「先生は結婚してるんですか?」 俺「してそうに見えるか」 紫「うん」 紫「斜陽先生、休みの日は何してるんですか?」 俺「趣味の時間にしてる」 紫「趣味?」 俺「料理だな」 紫「彼女に作ってあげたりとか?」 俺「いや。一人で食う。時々近所におすそ分けするけども」 答えにくい質問ばかりだった。特に、 紫「斜陽先生はどうしてお医者になったんですか?」 と、あどけない顔で言われたときには、情けないことに答えにつまってしまった。 紫ちゃんは基本的には丈夫な子だったのだが、一度だけ診察したことがある。そのときのことはよく覚えている。 その日、紫ちゃんは、吸入を終えたお母さんを自宅に送った後、しばらくしてから診察室に戻ってきた。夜の9時をまわっていただろうか。久保さんも、受付のパートのおばちゃんも帰った後、カルテの整理をしていたところだった。 紫「斜陽先生こんばんは」 俺「? どうした」 紫「ちょっと、具合が悪いんです」 俺「そうか。どこだい?」 紫「(周りを見て)看護婦さんは?」 俺「さっき帰ったよ。で、どこが痛いんだ」 紫「や、やっぱりいいです」 俺「うん?そうか。あんまり我慢するなよ、いつでも診てあげるからな」 三十分後、また来た。 俺「なんか顔色が暗いぞ。どうしたんだいったい」 紫「ちょっと、変な病気みたいなんです」 紫ちゃんの顔は真っ赤で、手を後ろに組んでもじもじしていた。 俺「うん。で、どこが痛いんだ」 紫「痛いっていうか…。じんじんと痺れるような感じで。 勉強が、手につかないんです」 俺「うん、うん。で、どこが痺れているんだ」 紫「学校も部活も身が入らなくて、どうしたらいいのかな、って」 俺「それは辛いな。で、俺はどこを診ればいいんだ」 紫「できれば恥ずかしいから、最初は看護婦さんに相談しようと思ったんです。 でももう我慢できないんです」 俺「(イライラ)うん、そんなに辛いなら早く治そう。で、患部はどこだね」 紫「わ、笑わないでくれますか?」 俺「仕事で笑うことはない。言ってみなさい」 紫ちゃんは顔を伏せながら言った。 紫「お、お…」 俺「お?」 紫「おしりが…」 俺「肛門か。なんだ、痔か」 当時の俺はピントのずれた奴だったから、紫ちゃんがなぜあんなに恥ずかしがっていたのかわからなかったのだ。診察室の寝台をばんばん叩いて 俺「どれ、ちょっと見せてみなさい」 と平然言い放った俺は、ちょっと無神経だったかもしれない。 紫「……やっぱり見せなきゃだめですか」 俺「当たり前だろう。薬を塗ってあげるから」 紫「(ぺろり←ジャージとパンティを脱ぐ)」 俺「それじゃよく見えない。患部を見せてみなさい」 紫「(真っ赤)」 俺「さ、はやく。もう遅いから。この(寝台の)上でね」 紫「(目をつぶって仰向けに寝て、脚を開く)」 俺「ん?何してるんだ。膣を見せるんじゃなくて肛門を見せなさい」 紫「ど、どうすればいいんですか…」 俺「四つんばいになって…そうそう。で脚を軽く開いて。 うん、それでいい」 俺は医者だ。研修で産科や肛門科に行ってた経験もあるから、若い女性の肛門くらいではびっくりしない。痔というのは血行の悪さが原因だからけっこう若い人でも患う人はいる。 そもそも俺はあんまり女性に興味を抱かずに生きてきた。時期になれば上司から適当な家格の女の人をあてがわれて、お見合い結婚して、その家庭をそつなく経営しながら医者をし続けるものだと思っていた。 だから、性的興奮で勃起することなんかほとんどないのだ。 俺「そんなにひどくはないな。 (ぐりぐり←薬品塗布)」 紫「ん、ふっ…」 手袋ごしに俺の指が紫ちゃんの肛門に触れたとき、彼女が軽く息を漏らした。 俺「(ぬりぬり)」 紫「あ、ふう…(歯を食いしばっている)」 大した事なくて良かった、痔はひどいと大変だからな…。俺は安堵して、肛門に薬を塗りこみながら、微笑を浮かべていた。そこへ、突然第三者の声がひびいた。 紫母「あの…。何なさってるんです?」 夜中に黙って家を空けた紫ちゃんを探しに来た、彼女のお母さんだった。 俺「(説明)!!!」 紫「(涙目)」 二人して真っ赤な顔で誤解だと説き続けて、ようやく理解してもらえたときには日付が変わってしまっていた。俺は、(少なくとも当時は)肛門への性的嗜好なんか持っていなかったのだ。本当だ。 俺の教え方は、わかりやすくて良い、と、紫ちゃんには好評だった。好評だと、俺のほうも悪い気はしないわけで、より熱心に教えるようになる。外にも出ないで煮込み料理や燻製を作ってばかりいた休日を、少しずつ紫ちゃんのために使う時間が増えた。街に出たときには書店によって、良さそうな参考書をいろいろ眺めたりした。その甲斐あってか、乱高下していた彼女の成績は高度を高く保つようになり、高校(そこそこの進学校)で行われた業者の模擬試験でもかなりの偏差値をたたき出すようになった。 こうなると、教え子のことを過分に案じてしまうのが師のすなおな心というものだ。お母さんは相変わらず喉を止んだまま、細々と内職をしてしのいでいる状況、「紫には申し訳ない」というのを口癖にしていたのだが、俺はどうしても考えてしまった。どうにかして紫ちゃんを大学に行かせてやれないだろうか、と。 ところが、当の本人は世をはかなむでもなく不遇をかこつでもなく、達観していた。 紫「大学?お金掛かりますから。勉強も、もう十分したからたくさんです。 生涯賃金?そんなの、都会の話でしょ?田舎なら高卒でも変わりませんよ。 学生生活?うーん興味はありますけど。いまも十分楽しいです…」 俺「…というふうに言ってるんだが。久保さんはどう思う」 久保「訊くまでもないんじゃないですか?あの子無理してますよ。 先生に勉強教わってるときすごく楽しそうにしてるもの。 きっと、もっと勉強したいと思ってるんじゃないかなあ」 俺「やっぱりそうだよな」 久保「ここだけの話。 わたし県立医大の看護出身なんですけどね」 俺「知ってるぞそんなこと。履歴書に書いてあったじゃないか」 久保「そうじゃなくて。 紫ちゃんが、『どんな雰囲気ですか』って、聞いてきたことがあって」 俺「なんと」 なんとか大学に行かせてやりたい…。そう思っていたところ、偶然チャンスがめぐってきた。 金曜日の午後二時からは、医大病院への出講のため休診にしている。が、その日は大学の学園祭と重なったため、講義は休みだった。暇をもてあまして、紫ちゃん用に置いてある生物の問題集を解いていると、お母さんから電話があった。 紫母「すみません、ケホ、ケホ、発作…」 俺「なんと。すぐ行きます」 俺「(到着)」 紫母「(涙目で咳き込んでいる)」 俺「さあ、早くこれ飲んで、これ吸って。咳しそうになったら管から口外して下さいね」 紫母「(枕許にあるプリントを指差す)」 俺「進路に関する保護者面談…。今日ですね」 紫母「(申し訳なさそうに)」 俺「なんと。すぐ行ってきます。安静にしていてください」 すぐさま車を飛ばして、紫ちゃんの通う高校へと飛んでいった。 担任の教諭も紫ちゃんも驚いていた。 担任「お父様ですか?担任の茂木です。お若くてらっしゃるのねぇ」 紫「え?ええ?なんで斜陽先生が来てるんですか」 俺「(担任に)いえ、父親ではありませんが、保護者の委任を受けてきました。 (紫ちゃんに)お母さん発作で、代わりに行くよう頼まれた」 担任「あらまあ大変」 俺「そういうわけですのでさっそく本題をお願いします」 担任は優しそうな眼鏡の中年女性だった。彼女も、教え子のことを気にかけずにはおれなかったようで、しきりに俺と紫ちゃんに進学を勧めてきた。 紫「いや、だ・か・ら。うちはお金あんまりないんですってば!」 担任「でもねえ、原田さんの成績なら奨学金とか…」 紫「それはとうに調べてます。奨学金もらってもバイトしなきゃ生活できない。 でも成績下がったら奨学金は打ち切られる。だから無理です」 担任「給付のものは厳しいかもしれないけど、貸与の奨学金なら…」 紫「無理です。お母さんを養わなきゃいけないんだから、 就職後に自分の借金をこつこつ返すなんて余裕はないです」 紫ちゃん親娘、大家さん、常連のじいさんばあさんたちとのかかわりを通して、だいぶ人間らしい感情と精神の安寧を取り戻しつつあった俺には、このやりとりがとても悲しいものに聞こえた。紫ちゃんは半ば呆れ顔で、しつこく進学を勧めてくる担任教諭をあしらおうとしている。でも、本心じゃないのは明らかだ。奨学金のことも、彼女は自分で調べたのだ。大学で勉強できる方法は何かないか、彼女にとってのネックである経済面で、何か救済措置がないものか…。彼女なりに必死で探してみたんだろう、そしてやっぱり無理なんだと、彼女なりに観念したんだろう。 なんと無常なことだろうか…。 自然と口をついて出ていた。 俺「お金はなんとかなります。大学にこの子を行かせてやってください」 担任「お父さ…、いえ、先生もそう思われますか!」 紫「ちょっと、先生まで。何を勝手にそんなこと」 俺「君は勉強はもう十分やったといってたな」 紫「はい。もう十分。だから働くんです」 俺「それは嘘だ。君は看護学部志望だ。志望校は県立医大。違うか?」 紫「………!」 俺「茂木先生。私は医者をしております」 担任「え?は、はあ」 俺「一応開業医です。で、当院でも実は奨学金制度を設けている」 紫「ちょっと先生、何言ってんですか?」 俺「黙って聞いてなさい。 当院の奨学金制度は完全給付制。 成績評価による打ち切りや減額はありません。 医療関係学部学科限定ですがね。 それに採用するつもりでいるんですよ」 担任「まあ」 紫「やめてください! 斜陽先生にはお世話になってますけど、赤の他人です。 そんなこと言われてもされても迷惑なんです! あたしははやく、お母さんを楽にしてあげなきゃいけないんだ!」 俺「こっちこそ、ただで学費をくれてやると思われては迷惑だ。 受付がおばちゃん一人じゃ足りないんだ。 勉強もしながら、ちゃんと労働だってやってもらうに決まっている」 嫌みったらしくあてこするような言い方は、医局の出世競争の中で自然に身についてしまったものだ。やな癖だ。今現在も、感情が高ぶると出てしまう。 威圧的だったからか、それとも勉強ができるうれしさからなのか、紫ちゃんは泣き出した。しゃくりあげながら俺に何度も礼を言い、担任の先生に「よろしくお願いします」と言っていた。 帰りの車の中。俺も何も言わず、紫ちゃんもしばらくは黙っていた。 紫「なんであんなでまかせ言ったんですか?」 俺「出まかせじゃない。もともと奨学金制度は検討していたんだ」 紫「本当にいいんですか?」 俺「かまわん。医療の未来には、俺もすべからく貢献しなければならない」 紫「前にも聞いたんですけど、また聞いてもいいですか?」 俺「ん?何を?」 紫「斜陽先生は、どうしてお医者になろうと思ったの?」 俺「……………。答えにくいな。 ん?ひょっとして君は」 紫「そうです。看護じゃなくて、医学部に行きたいんです。 あたし、お医者になりたい。お医者になりたいんです」 俺「なんと。そうだったのか」 紫「斜陽先生のお仕事見てて、そう思ったんです。 近所のおじいちゃんたち、先生の前ではヤブ医者だとか言ってるけど、 本当はみんな信頼してるんですよ。 あたしも、お母さんもそうです。 先生は優しいし。大学で授業するくらい偉い人だし」 俺「(心外だ)」 本当に心外だ。俺は偉くなりそこねた負け犬なんだ。負け犬の優しさなんて美徳でもなんでもない。卑屈さの裏返しにすぎないのだから。 俺「 」 紫「え…え!なんで泣いてるんですか?! ちょ、これ使って。涙拭いて…」 家に帰ったら帰ったで、今度はお母さんが俺の申し出にひどく恐縮されて、そっちの説得も大変だった。散々な一日なのにはまちがいなかった。だが、一度だけとはいえ、背中を押してしまった責任はあるのだ。俺は紫ちゃんが卒業するまでは面倒を見よう、そう決意した。 医者としてのスタンス。 最近読んだんだが、『ブラックジャックによろしく』という漫画にも書いてあったな。患者は他称・三人称代名詞であるべきで、対称代名詞になってはいけない。「あなた」であってはいけない。患者にかかわりすぎてはならない。 俺が紫ちゃんの学費の面倒を見ようなんて考えたのはまったく狂気の沙汰だ。それでも、自分がパトロンになることを、俺はあくまで例外的なこととして考えていたのだ。つまり、経済面でだけのことだと。別に俺が、彼女の家族代わりになるわけではない、と。一歩さがった関係なのだと。 それが崩れてしまう日が来るのを、内心恐れていたんだと思う。事実、彼女がセンター試験を終えて、意気消沈して帰ってきたあの晩、俺はついにやらかしてしまった。 紫ちゃんは、制服にマフラーを巻いたまま、コートも着たまんま、俺が後片付けをしているところへ入ってきた。 紫「帰りました」 俺「おう、おかえ…(表情が暗いのに気付いて)、どうした、ミスしたのか」 紫「はい」 俺「そ、そうか」 紫「う、うううう〜」 うめくような声をあげ、その場にうずくまった紫ちゃんは、ごめんなさい、ごめんなさいと、うつろな目で俺に詫び続けた。 戸締りを済ませたところだったから、もう暖房が切れている。少し寒い。紫ちゃんの手は真っ白で、氷のように冷えて硬くなっていた。 俺「まだまだ大丈夫だ、二次試験で挽回すればいい」 紫「 」 俺「いざとなったら、私立って手もあるんだ」 紫「 」 こんな日に限って、お母さんは検査入院で県医大の病院に行ってしまっている。こんな子に限って、そつなく慰めてあげられる父親がいない。 まったく、自分でもどうかしていたと思う。 俺は、丸まったまま動かない紫ちゃんを抱えて、二階にある自室への階段をのぼった。そしてベッドに放って、頭をかき抱いて、へたくそな子守唄を歌った。 紫ちゃんのほうも、受験の失敗からか、おかしくなっていた。 紫「ぱぱ…」 まるで幼い子どものような声だった。その晩は、二人で抱き合って眠った。 県立医大のセンター比率からすると、後期日程は絶望的。前期日程でも楽ではない。絶望的な状況だった。 それだけに、大きめの封筒を持った郵便屋さんが原田家にやってきたときの、俺たちの喜びようといったらなかった。 紫「やったよ!斜陽先生!」 こうして、彼女は医者への一歩を踏み出すことができた。 本当なら、サークル活動のひとつくらいやってかまわないと思っていたのだが、紫ちゃんはきわめて責任感が強かった。大学が終わると飛んで帰ってきて、すぐに受付に入って、ばりばりと働き始めた。 暇ができれば掃除をしたり、じじばばの話し相手をしたり。 紫「学校行ってた時間ぶん、残業します!」 とか言って、俺一人でやっていた後片付けや、果ては炊事洗濯といった診療所とは無関係の仕事までやり始めるようになった。やらなくていい、と言っても聞く耳をもたない。 日ごとに、紫ちゃんが診療所や、診療所の二階にある俺の部屋にいる時間が長くなっていった。久保さんにあやしまれるくらいだった。 そして、実際にあやしい行為を、してしまうことになった。 俺が県立医大の講義から少し早く戻ると、紫ちゃんが解剖学の本のページを熱心に見ていたのだ。 俺「ずいぶん熱心に見てるんだな」 紫「!!!」 俺「膣の模式図か。どのみち研修では婦人科にも行くからな。」 紫「(急に居住まいを正して)斜陽先生、ちょっと相談があるんですけど」 俺「なんだよ」 紫「最近ね、具合が悪いんです」 俺「そうは見えないけどな」 紫「なんか、痺れるような感じがして、勉強が手に付かないんです」 俺「(こんなやりとりしたことあったきがするなあ)痔か?」 紫「ちがう(ちゅ)」 俺「 」 紫「せ、先生と、変なこと、したくて…。 あの、お薬つけてくれませんか?今度はこっちにも」 そう言って、紫ちゃんは穿いていたスエットとパンティを下ろして、仰向けに横になり、脚をゆっくりとひろげた。 (省略されました…ワッフルでも食べててください) 昨春国家試験をパスした紫ちゃんは、現在、俺の診療所で薄給にもめげずがんばって働いている。 え?結局「今の俺の嫁さんです」オチじゃないかって? 違う、違うんだよ。まだ嫁じゃないんだ。これから行くんだよ、嫁になってもらいに(屁理屈でごめんな)。 ここにわざわざ書かせてもらったのは、もし面白い、萌える話なら皆に読んで貰いたいと思ったという理由もあるし、これまでの自分の人生をまとめて見たかったというのもあるんだ。もちろん、いわゆる「フェイク」というやつを巧妙に入れてはいるがな。 こうして振り返ってみると挫折のあとの人生のほうが、豊かで楽しくて充実しているのがはっきりわかる、自信になる。 「医者の不養生」と言うが、俺は長生きするよ。俺と4つしか違わない義母さんの最期も、あわよくば18も下の彼女の最期も、俺が手をとって看取ってやろうと思うんだ。 もちろんその時期は、遅ければ遅いほど良い。 医者をあきらめないでいて良かった。この知識と技術があれば、きっとそれを、遅くすることができるだろう。 では行ってくる。柄にもなく、市内のいいレストランに席をとってあるんだ。 まさか今更断られないとは思うが(笑)、どうか応援していて欲しい。 皆にも幸せがありますように。 出典:オリジナル リンク:オリジナル |
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