萌えロワ 前半戦 (その他) 38855回

2010/12/09 18:22┃登録者:えっちな名無しさん◆Sk3lCpwY┃作者:名無しの作者
男子1番 ざーみるく   女子1番 恋 
男子2番 まなぶ     女子2番 ナナ 
男子3番 玄米      女子3番 愛 
男子4番 岸利徹       女子4番 みやこ 
男子5番 修一       女子5番 痛(。・_・。)風 
男子6番 駁       女子6番 唐橋ユミ) 
男子7番 ぱいくー     女子7番 ナターシャ 
男子8番 刺身野郎     女子8番 エリコ 
男子9番 健太      女子9番 ぺしぺし


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東萌都、萌山市にあるコピペサイト。メジャーコテ少数、単発コテ少々しかいないサイト。
今居るコテ・・いわゆるあたし達、古参が卒業したらここのサイトは閉鎖になる。そのサイトの名前は「萌えた体験談コピペ保管庫中学校」。
そんな少人数の私達は、冬休みを迎えようとしていた。
その日は別に、いつもと変わらない。
冬の寒さとか、より静かに感じる掲示板とか・・それから、名無しの様子なんかも何も変わらない。
かわっちゃ、いない、ハズなのに。





『なぁ、お前はそれで満足なワケ?楽しいかよ、それが、お前の正義かよ。』 




[プロローグ]



・・大切なのは、相手の心を掴むこと。


「じゃ、俺1枚交換な。」
「私、2枚ね」
「あたしも2枚」
「オレ・・3枚!」
「えー・・オレ・・あー全部!5枚」
「チャレンジャーだなぁ・・俺は・・いいや。つぅは?」
【駁(ばく)】は少し猫のような形をしている口をニッと笑うように動かすと、隣の【痛風(つうふう)】を向いた。

痛風は自分の目の前にある5枚のトランプを見比べた。ダイヤの6とクローバーの7、ハートの8とスペードの10、それからスペードの4。運良く数字が並んでいるので狙えるとすればストレートだけど、10を捨てるか4を捨てるか
「・・うーん・・1枚交換・・」
とりあえずスペードの4を捨てる。どうせ運だ。そして山からカードを引くと、クローバーの9がでた。よし、これでストレート!顔に出ないようにしないと。


そんなこんなで現在、仲良しメンバーにてポーカー中。ここからは腹の探り合い。

「じゃ、親の俺からだな・・俺、このままコールで」
コール、コインを上乗せせずに進める、と言う意味だが。そう言ったのは【ざーみるく】で、彼はは隣の【ナターシャ】を向いた。
ナターシャは全員の顔を一通り見る。
表情を読み取っているらしが、しばらく悩んだ後答える。
「んー・・私もコール。」
「あたしも・・」
自信なさ気に呟いたのは【みやこ】だった。見るからにいい手札じゃなかったのだろうか。
「みやこ、お前いい手札じゃないんだな?」
くっくっく、と笑いながら【修一(しゅういち)】がいうと、みやこはギクリ、とこれまた分かりやすい表情になる。
「そっ・・それより、はやく進めてよ。誰?」
「あ、オレもそのまま・・コールで。」
【岸利徹(きしりとおる)】が言うと修一を向いた。
「なんだー誰もレイズ(※チップをかけること)しないのか?・・俺、2枚レイズな」
「ふーん、手札全部交換してレイズするなんて、運がいいんだね?」
修一の次に当たる駁が言うと、修一はさーな、といった。
心理を探るのも大事だけど、口で言われると墓穴を掘りそうで怖い。
「じゃあ、俺それでコールね」
駁はそう言うと、チップの代わりに使っているゲームセンターのコインを2枚出した。(1人20枚づつ所持。修一がどこからか持ってきたやつ。)で、痛風を向いた。
「つぅは?」
「う・・」
手札はストレート。よくもなく、悪くもなくと言った感じだ。修一は多分ハッタリな気がするけど、駁はあなどれない。一枚も交換していなかったけど、もともと揃ってる可能性は少ない、けどあたしも揃ってたし・・わざと自身ありげにしている可能性だって、あるはず。うん、ある。
「じゃあ、あたしもコール。」
「えー・・俺、降りるよ。」
言うとざーみるくは手札を表向きに置いた。ツーペアだ。これだとどっちにしろ痛風には負けている。ナターシャも同じく降りる、といって手札を捨てた。彼女も同じツーペアだ。
「・・修一はともかく、駁が怖いからな・・あたしも。」
そう言ってみやこも手札を捨てる。もしかして強いんじゃ、と一瞬考えたりしたがみやこの手札はワンペアでしかも弱い。その上にカードが5枚乗った。岸利徹のだ。
「オレも降りるよ、5のワンペア!」
「なーんだ、皆弱えーな。俺、このまま続けるからな。駁は?」
修一はあくまで勝負に出るらしい。獏がニッと笑った。
「まさか、降りるなんてしないよ・・」
「つぅは?」
修一が痛風を向く。なんだかこの言いようだと駁は本当にやばい気がする。本当にこの人は読めない・・
「・・降りない。勝負!」
そういって手札を見せる。
「ストレート!」
「俺はフルハウスだ!」
修一は自慢げにカードを並べた。ハートとダイヤの7、そしてスペード、ハート、クローバーのKが揃っている。5枚一気に引いてこの手札が出るとは・・
「嘘っ・・!」
思わず口に出る。
「すげー修一・・」
岸利徹は眺めて呟いていたが、その上に重ねるように駁が5枚カードを置いた。Aが4枚と、クローバーの2。ニッとまた駁が笑った。満面の笑み。
「フォーカード。俺の勝ち」
「ええぇ!!!最初からこれだったの!?」
みやこがひょんな声を出して前のめりに先ほどのカードを見比べる。
「嘘だろ・・俺、絶対にいけると思ったのにー・・」
「本当・・だって駁のことだからハッタリと思うじゃんか」
過去数回、役を作れていなくても賭けにかけて相手を降ろさすという手段をとる駁のことだ。だから、今回もと思ったのに。しかしまぁ、一発でこんな手札を引き当てるとは・・侮れない
「しっかり読まないからじゃないか?ポーカーフェイスって言葉があるくらいだし」
「そ−だけどさー・・」
とりあえず、コイン貰うね、と駁が言うと1人一枚ずつ出したコインと、修一と痛風の+2枚を手元に持っていく。本当に駁は読めない・一番要注意。ついでに修一の幸運も。
「よし、次々!!負けないから!」
トランプをそのままグチャグチャに混ぜる。一層気合が入っているようでそこまでしなくていいだろ、と思うくらい混ぜる。どうやら修一が一気に引いてフルハウスという組み合わせんなったのが気にくわなかったのだろう。
負けず嫌いなみやこのこと、勝つまでやめないのは分かっている。
「次の親だーれ?」
「あ。私〜」
ざーみるくから時計回りだから当然分かりきっていただろうが、ナターシャが手を上げる。みやこがソレを手渡してナターシャの手もついでに握る。
「ナターシャ、ここはいっちょ強いのたのむよ?」
「えー無理無理。トランプに頼んで」
にこっと笑ってナターシャはトランプを混ぜる。みやこが小さくため息をついた。
「ポーカーってホント、運でもあるよね」
「ワンペアも程度ってよほど運がないよな」
くっくっく、と修一が笑って言うと、みやこがむっとした表情になる。
「まぁまぁ、運がないのはみやこちゃんだけじゃないしさ・・ね、岸利徹」
駁が笑いながら言う。岸利徹がうっせーな、とだけ言うと、ナターシャを向く。そして両手を合わせた。
「いいカード、頼んだ。」
「だから無理だってば!出来るなら自分に強いカード持ってくるよ」
苦笑いしてナターシャはざーみるくから順に一枚ずつ配っていく。と、そんなナターシャの背中に誰かがぶつかって椅子が動く。それからガタンッと大きな音が響いて、トランプが数枚床に落ちた。
「きゃっ・・何?」
ナターシャが後ろを振り返る。皆は何が起こっているのかは既にわかっていて、そちらを眺めている。
「・・ナナ、やりすぎだって・・」
ナターシャにぶつかってきたのは【刺身野郎(さしみやろう)】この声の主は【ぱいくー】だった。彼がやりすぎ、というのは事実であのぶつかり方は尋常じゃないような、と痛風は考えた。ってか、また、始まったのか。
「もしかしてナターシャさんのことが好きなんじゃないの〜?」
次に言ったのは【ナナ】だった。その横で【ぺしぺし】がバカみたく大声を上げて笑った。
「あっはっはっは・・!マジか!知らなかった〜」
「ちょっと、ぺしぺし笑いすぎ。」
隣で【エリコ】が少し落ち着いた笑いで言う。そんなエリコの前の席に座っている【唐橋ユミ(からはしユミ)】と、その隣の席の【まなぶ】は苦笑いしてその光景を見ている。
「・・またかよ」
ポツリ、と岸利徹が小さく呟いた。ざーみるくが目でやめておけ、と伝えているように見える。



刺身野郎は、ハッキリ言うと虐められている。
イジメの理由は“ハッキリ”とはしていない“らしい”が、大体は予測はついている“らしい”。
少し前にぱいくーやナナ率いる、萌えコピの不良グループ(と痛風は勝手に解釈しているサイトの大半はそう思っているはず。)の一部が連投や自演をし、そのことを“誰か”が管理人の【もえたろう】に密告した。
数日アクキンを受けた後、彼らが取ったのは密告した犯人探しだ。

全員に聞いたのかは“知らない”が、最終的に犯人として名前をあげれられたのは刺身野郎だった。
本人は最初は否定していた“らしい”けど、今は何も言わずにやられることに耐えているように見える。

犯人が、本当に刺身野郎かどうかは“知らない”けど



「・・よく、飽きないな・・」
ボソッとみやこが呟く。本人たちに聞こえない程度に。
止めるべきか、といわれればそうかもしれないけど、そこまでする度胸はない。ただ、岸利徹はいい加減にした方がいいんじゃないか、とよく言っている。けど、そんなことして止まるようにも思えない。
どうせ、自演のこととかはナナ達ももう気にはしていないのかもしれない。多分、言うならいじめを楽しんでいる、のかも知れない。人の考えまでは知ったこっちゃないけど。

そんな事を考えていると刺身野郎が無言でトランプをしていた痛風たちを向いた。聞こえたか、とみやこが眉を少しよせて眺める。刺身野郎の目線は、痛風を向いていた。ほとんど、睨んでいるように見える。
「・・何?」
「ちょっと、いい?」
刺身野郎がまともに口を聞いたのは久々な気がする。ちょっといい、と言うが。これは間違いなく痛風に言っているのだ。
「・・着いてきて」
若干低く感じるその声が響くと、刺身野郎は歩き出していた。その背中をしばらく眺めていたが、刺身野郎が教室のドアを閉めると同時に先ほどまでトランプをしていたメンバーを向いた。
「あたし、なんかした?」
「わかんない」
駁が小首をかしげる。もしかして、とみやこが言った。
「もしかして、あたしの言ったこと・・つぅと勘違いしたのかも」
「けど、それでアイツが何か言うか?」
修一が言うとみやこは分からないけど、と言った。
「もしかして、告白とかじゃないの〜?」
ぺしぺしだった。さっきまで大笑いしていたのにいつの間にか笑うのはやめていた。
「あはは、そうかもね。行ってきてよ、痛風サン」
ナナがそう言うと、痛風は立ち上がった。ナナがそう言うならしかたがない。逆らえば何を言われるのか分からないし、降りかかる火の子は避けておきたい。
「分かった。」
立ち上がる。そして、刺身野郎が向かった先はどこだろうと考えながらドアを開けた。


刺身野郎がいたのは、教室の近くの階段だった。階段にある窓から外をボーっと眺めていた。ゆっくりと歩きよると足音で気がついたのか刺身野郎が振り返った。
「よかった。来なかったらどうしようと思った」
「放置でも別に良かったんだけどね」
痛風が少し皮肉をこめて言うと刺身野郎は笑った。彼の笑うところを見るのは久しぶりだ。いつ以来?
「で、何?」
「お前にさ、ずっと聞きたい事があって。」
「聞きたいこと?」
眉を寄せて尋ねると、刺身野郎は少し笑いを押さえた。真顔とまでは行かない。
「萌えコピ、楽しい?」
「楽しいよ。」
即答する。ナナ達がうるさく騒いで先生たちに怒られる姿(というより、なぜかまとめてクラスごと起こられたりとか)を見ていると腹立つし、イヤになるけど友達が居るし、授業も何とかついていけるから悩むことはないし、むしろ楽しくて毎日来たいくらい。
「ふーん。」
聞いておいてちょっと興味無さそうに言うと、少しむっとなった。自分が楽しくないからかどうかは知らないけど。
「それだけ?もういい?」
腹立ったので戻ろうとすると、刺身野郎が腕を掴んで止めた。意外と力が強くて痛い、と言ってしまった。刺身野郎は謝りもせずに、今度こそ真顔だった。
「聞きたいことがあるんだ。」
さっきも言ったじゃないか、と思いながらむっとした表情のまま刺身野郎を見た。
「何?」
「あのさ・・」



「あっ、つぅちゃん!」
ドアを開けるとナターシャが気がついて名前を呼んだ。そんなナターシャを思わず睨むようにしてみてしまう。さすがに驚いたらしいナターシャはこれ以上何も言わなかったが、修一が尋ねてきた。トランプはもうやめたみたいで、今は痛風の代わりに【恋(こい)】がみやこやナターシャと会話していたらしく、一緒になってこっちをみた。
「どうした?」
スッと後ろから誰か・・言うまでもなく、刺身野郎が通りすぎる。その背中を睨みつけた。刺身野郎は止まることなくまっすぐ進み続ける。【玄米(げんまい)】と話している【健太(ばか)】の大事にしているトランペットを入れているケースを蹴ってしまっても謝りもしない。(健太はかなり怒っているが、玄米が無言で位置を戻した。)
ついに窓枠まで来た。
「告白、終わったの?」
ぺしぺしがまたふざけて尋ねる。刺身野郎はそんなぺしぺしを完全に無視して、窓を開けた。全員がそれを眺める。見ていると、刺身野郎が窓枠に足をかけて立ち上がった。その一番近い席で寝ていた【愛(あい)】が異変に気がついて起き上がった。そして光景を見て小さく「ビキッ」と言った。
「何・・」
「ちょっ・・何して・・」
突然のその行動にナナやぱいくーが驚いて声を出す。岸利徹がガタンッと大きな音を鳴らして立ち上がった。
「刺身!!何してんだ!?」
言うと、刺身野郎はここでもまた、笑った。大声で。先ほどのようなのとは比べ物にならないくらい。ここで、目がふとあった。



「これが、お前たちの正義かよ、バーカ。」



目を見開いた。

ゆっくりと、刺身野郎の姿が消えた。頭から落ちていく。 


「・・きゃああああっ!!!」
「嘘だろっ!!!」
一間置いてクラス中の悲鳴。泣き声、驚愕。様々な感情が教室中に充満する。
「・・どっちが、バカだっていうのよ・・」
痛風は、小さく呟いた。



それが、冬休みの始まる一日前のこと。




[新学期]


 刺身野郎の自殺騒動から数週間。短い冬休みも終わって新学期が始まった。 


 正月があけて新学期が始まっても、やはりいつもと変わった気はしない。ただ、会うのが久々、それだけだ。
 岸利徹は教室に入ると早々、目に付いたざーみるくの元へカバンを持ったまま歩きよった。ざーみるくが気がついて、よぉ。と片手を挙げた。
「久しぶり」
「久しぶり!元気だった?」
「数週間で入院するほどヤワじゃねーよ」
 岸利徹はソレこそ笑顔で言ったものの、言ってから思い出してしまった。早々そんな話を持ち出すのもどうか、とは思ったけど言うに越したことがないからいいと思った。
「そういえば、刺身野郎・・意識取り戻したらしいよ」
 刺身野郎の名前をだす。自殺騒動を起してから数週間、彼は入院生活をしている。ざーみるくは少し・・ほんの少しだけ眉を寄せると(それは気のせいかもしれなかった。)呟く。
「そうなんだ・・って、重症なのか?」
 その辺りの情報は誰にも入っていないらしい。なぜなら、誰一人として見舞いにも行かなかったらしいから。わざわざ冬休みに、虐められている刺身野郎の見舞いに誰が行くのだろうか、とそういえば誰かが言っていた。誰だっけ?
「・・ほら、ここ2階だし、下は植木だろ?左足骨折となんか植木で顔の右側が裂けて、あと軽く頭を打ったとか何とか・・」
「しばらく入院?」
「だと思うけど」
 ふーん、とざーみるくが言った。
「・・見舞い、行ったのか?」
「うん」
 別に隠す必要もない。ざーみるくがそうか、と言った。
「まぁ、死ななくて良かったよな。」
「そうだけど・・痛々しかったな。」
 脳裏に当時の映像が思い浮かぶ。あのあと走って覗き込むと顔面血だらけに倒れている刺身野郎だった。しかも動かないから死んだとさえ思った。だから生きてると知ったときは安堵したけど。
「なんかマスコミとかきてたよな」
 あのあとどこから情報が入るのかは知らないが数人のマスコミを見た。先生達にも来ていたらしいが、とりあえず何も言うな、と口止めされている。イジメ、とかそういうのが大っぴらになると後々大変らしい。どうせ、今学期が終わって全員が卒業したら廃校になるのに。
「ってか、なんで刺身野郎そうなったんだろうな。」
「・・さーな」
 ざーみるくがそう言うと、少し考える。


 ”詳しくは”知らない。”聞いても”知らないと”全員”答えるし。

 何かがあった矢先らしいけど。


「ざーみるく、岸、なに話してんだ?」
「んー刺身野郎の話―」
 尋ねてきた修一にざーみるくがすこしヤル気無さそうに答える。
「新学期早々、その話か・・」
 どこも、そんな話ばっかりだぜ?と修一が付け加える。岸利はグルッと見回してみた。まだ予鈴もなっていないから登校していない生徒も多い。いつも話す駁やみやこはまだ来ていない。
 女子ではナターシャが来ているが、仲のいい恋と2人で話している。
「あれ?つぅは?」
 いつも早めに来ているはずの痛風の姿が見えなかったので、岸利は尋ねてみた。珍しい。それには修一が答える。
「さっき管理人に呼ばれてたよ。」
「・・やっぱり、刺身野郎の件?」
「だろうな。つぅも呼び出されて何を言われたのか結局答えなかったしな・・」
 刺身野郎が飛び降りる寸前、痛風は刺身野郎に呼び出されていた。その時のことを痛風は何も話さない。先に戻ってきた時少し怒っているようにも見えたけど。
 管理人にそのことが伝わってなんの話だったか聞かれているのだろう。
「でもさ、結局原因ってイジメ・・」
「それにしても、みやこはいつも遅いよな」
 岸利の言葉をとぎってざーみるくが言った。
「もうすぐチャイム鳴るって言うのにさ」
「みやこが遅いのはいつも・・あ。駁来た。」
 修一がドアの方を向いて手を振った。駁が笑って歩いてくる。駁の席はざーみるくの隣だ。荷物を置いて椅子に座る。
「おはよう。そしてあけましておめでとう。」
「おーおめでとう!今年もよろしく。」
 1月の8日。冬休みがあけて初めての登校。間違った挨拶じゃないけれど、話していた内容が内容だったからなんとなく適切に感じれない。
「おはよう、駁」
「どうしたの?何か暗いね」
 駁が小首を傾げて言うと岸利はそうか?と言った。
「ほら、休み明けだからいまいちテンションひくいんだよ、な」
 ざーみるくが岸利の頭をぐしゃぐしゃにすると、笑って言った。

 しばらくしてチャイムが鳴った。いつの間にかみやこがナターシャと恋の会話に入っている。後ろの方ではぺしぺしがいつも見たく大声で笑っている。その横でナナはコンビニで買ってきたのか朝ごはんと思われるパンを口にしながらお喋り。エリコも同様で彼女はおにぎりだ。同じグループでも唐橋ユミだけは別で新学期早々、と言うのにノートを書いている。勉強しているのか、と思ったけどよくは見えない。
 まなぶはぱいくーと何か会話をしているようだが、女子軍に比べると大分静かだ。けどチャイムがなっていることに変わりはない。

 ドアが開いて、遅れて痛風が入ってきた。そしてそこから叫んだ。 

「皆聞いてー!放送壊れて使えないから、すぐに体育館集合だって!」
 どうやら管理人先生からの伝言らしい。目線を集めるようにブンブンてを振り回す。全員が千波を向いた。
「遅刻厳禁だよー!」
「体育館か行くか」
 ざーみるくが立ち上がると隣の駁も立ち上がる。痛風の言うことを聞いてゾロゾロ全員がドアに進む。
「あけましておめでとー」
 その波にまぎれてこちらにやってきたみやこが笑顔で言った。
「うん、おめでとう。」
 けれども、どこかやっぱりなんとなく、違和感がある気がする。不思議だ。そう考えつつも全員足を進める。
「つぅ、いくよ。」
「あ、うん!最後の人鍵しめてねー!」
 痛風が後ろで叫ぶのが聞こえた。きっと、ナナやぺしぺしあたりに言っているのだろう。そしてパタパタと足音が聞こえてきたと思うと一番端にいた駁の隣から顔を覗かした。
「おはよー久しぶりだね」
「久しぶりだな。明けましておめでとう。」
 修一が言うと、痛風はあ、そっか新年なんだね、と言って挨拶をした。
「来て早々先生に呼ばれたりしたからなー・・なんか違和感感じるかも。」
 岸利が思っていたことを痛風も言った。ソレについて触れようとしたが、先に横からみやこが出てきた。
「それよりさ、放送壊れてるんだね?」
「うん、なんかマイクがつかないって。先生たちバタバタしてたよ。」
「そうなんだ。放送なんて滅多に使わないのにね。」
 この萌えコピ中学校の常連は少ししかない。だから用件が有るときは誰かに伝言を頼むのが大抵だ。
「ま、滅多使わないから壊れたんじゃない?」
 駁がそう言うと一番前を歩いていたざーみるくがそうかもな、と続けた。
「どうせ俺らで終わりだし―・・あれ?」
 校舎を出て体育館への向かう道の途中。入り口の方向を眺めてざーみるくが首をかしげた。どうしたの?とざーみるくの後ろを歩いていたナターシャが言う。そしてその方向を向いて、ナターシャも足を止めた。
「何・・?あの人たち・・」
「何かあるのか?」
 修一がざーみるくの背中を押す。それで岸利徹もその光景を見ることが出来た。
 ゾロゾロと名無しが体育館の横にある扉から出て行く姿。その横には迷彩服を着た兵士、と思われる人たちが銃を構えて立っている。
「あれ・・名無しか?ほら、トリップ付きもいる・・」
 冷静に修一が呟いた。トリップ付き、と言うのはただの自尊心が無駄に強いだけの名無しだ。その後ろでみやこは少しこわばって言った。
「なによ、あれ・・あれって・・、まさか・・」
「プログラム、じゃないかな」
 みやこの代わりに答えたのは顔色一つ変えないで、これまた冷静に駁だった。驚いて目を見開いている痛風が続けた。
「まさか・・1組が選ばれたって言うの?」
「だって、そうじゃない?アレはどうみても、さ」
「でも、私達も普通に収集かけられたんでしょ?」
 ナターシャは前の光景を眺めたまま、痛風に言った。痛風は驚きを隠せないまま頷く。
「うん、だって・・放送使えないから、直接言ってきてってもえたろう先生、言ってたよ?」
「・・・」
 そのまま誰も何も言わずに時間だけが過ぎていた。最後の名無し、と思われる名無しが出てきた。それと同時だ。
「どうしたの?」
 道の途中で止まっていたままの7人に誰かが声をかけた。振り返るとソレは案の定遅れて出てきたナナたちだった。ナナは前の光景を眺めてまさか?と言った。
「あれ・・まさか・・?」
 唐橋ユミが祈るように手を組んで尋ねる。岸利は答えようかどうか悩んだけど、駁が先に言った。
「・・プログラムじゃないか、とは思うけど」
「じゃあ、俺たち・・」
 ぱいくーがぎゅっと眉を寄せて明らか不安そうな表情になる。岸利はソレに答えた。
「ううん、さっき名無し達が兵士に連れられてた・・」
「名無し!?」
 大声を上げてエリコが言った。既に目に涙が溜まっている。行き場の無い手が彼女の顔の前で震えていた。動揺しているのは見て分かった。
「うそ・・でしょ!?Hな名無しは!?」
 Hな名無し、と言うのはただの名無しより少し自己顕示欲の強いただの名無しでエリコの彼氏だ。ぱいくーのように茶髪だしピアス空けてるしで、言うなら不良に入るような奴だが。
「わからない、けど・・」
「でもよ、俺らより先に行った奴はどうなってんだよ?」
 まなぶが尋ねると、ああ、そういえば。と岸利徹は脳内を整理した。痛風が呼びかけて先に数人・・例えば玄米と健太はもう出ていたし、愛も無言で出て行くところを見た。そういえばいつの間にか恋もいなくなっている。
「そういえば・・私が呼びかけたとき先に出た人・・」
「全員がどこかに行くわけないだろ?ってことは」
「中・・じゃないの?」
 咲が言った。そのままその場に居る13人は呆然と顔を見合わせる。誰もがなんで、と言う疑問を持ったかもしれない。全員が黙る中、正彦が口を開いた。
「ずっと・・ここに居るわけにもいかねーよな」
「そう、だけど・・ねぇ、つぅちゃん。もえたろう先生何か言ってた?」
 みやこが痛風を向く。痛風はまた首を横に振った。
「何も聞いてないよ?」
「じゃあ、何の話してたの?」
 ナナだった。痛風とお互い顔を合わしている。
「それはー・・刺身野郎、クンのことだけど・・」
 少しぎこちなく痛風は答えた。やはり呼び出しの原因は刺身野郎のことで、興味ありげに不良(と言うのか)グループが痛風を向いた。
「結局さ、アイツ何言ってたの?」
 ナナが尋ねる。痛風はどう答えようか困っている表情をしていたが、それをエリコが止めた。
「そんなの後でいいじゃない!体育館に行きましょ?・・名無し達がプログラムなんて・・」
 言うとエリコは泣き出していた。ぺしぺしが慌ててごめん、と謝る。痛風にじゃない。エリコに。
「そうだな、一応、行くしか・・」
 そう言うと一番前のざーみるくが歩き出した。次にエリコ、ぺしぺし、ナターシャ・・と前から進んでいく。
「・・本当に、何も知らないんだよね?」
 岸利の後ろでナナの声がした。
「知らないよ。本当に何も・・」
 そして、痛風の声。そこからは2人とも無言だった。 


 ・・そして、体育館に入ってから始めて気がついた。

 実際、プログラムに選ばれたのは自分達だ、と言うことに。 


【残り17人】



 体育館に入って目に映ったのは壁の前に立つ数人の銃を持った迷彩服の兵士と、真ん中に直に座り込んでいる恋や愛、そして玄米と健太が愕然と(あるいは泣いて)座っている姿だった。
 そして正面の舞台の上にマイクを持ったもえたろう(担当教官)がいる。表情は少しご立腹だ。ただ、あの垂れ目で睨みつけられてもあまり怖くない。左手で肩までの髪を少しいじっている。

 痛風はあまりの光景に呆然となっていた。こんなこと、本当に聞いていない。さっき呼び出されたとき、自殺未遂を起こした刺身野郎についてとクラスの様子を聞かれただけだ。こんなこと、一言も。


「13人!遅刻ですよ!」
 普段は笑顔で少し流されやすいもえたろうだったが、今は違う。マイクだと言うのに突然大声で怒鳴りつける。
「早く中央に来なさい!!」
 キーンとマイクがなり、そして少しビリビリする。周りの兵士の一部も驚いたようで肩を動かしていた。そしてため息を吐くようにして続ける。
「ったく。本当に馬鹿馬鹿しい」
「なんだよ・・これ・・」
 隣で岸利徹が言いながらそれでもしたがっていた。耳を塞いでいたざーみるくと修一、まなぶとぱいくーも従い同時に歩き出す。みやこは泣きながらナターシャにくっ付いて歩き出している。ナターシャも普段は何か泣いている子には優しく声を掛けるのだが本人も一杯一杯らしく涙を堪えていた。
 そんな光景を眺めつつ、痛風も歩こうとした。が、隣でナナが叫んだためその足を止めた。
「なんなんだよ、これ!!ふざけるなっ!!」
 そして走りだした。その後を追ってぺしぺしも一瞬戸惑い、けれども走りだしていた。
「ナナさん、ぺしぺしさん!止まって!」
 これがもし、本当にプログラムなら。噂には聞いたことはある。こんな銃を持っている兵士が沢山いるくらいだ。痛風は叫んだ。
「止まれ!!」
 同様に岸利が叫んだ。そして、抜かしたナナの手首を掴む。
「離せっ!岸!」
「離すから落ち着け!」
 岸利がナナを止めると、ぺしぺそも同様に止まっていた。暴れるナナを止めるのは岸利だけでは無理らしく、修一と近くにいたぱいくーが一緒に抑えた。さすがに男子3人につかまれると走るに走れず、そのまま前を睨みつけた。
「ナナさん、死にたくなかったら落ち着いて。さっさと座る。」
 マイクを通してもえたろうの声がした。死にたくなければ、と言うことはやっぱり・・
 そう考えながらも最初に足を動かして、岸利達の横を抜かして真ん中まで進んで座った。その傍らにいた恋を見ると、目が潤んでいた。
 岸利と修一、ぱいくーがナナを抑えて真ん中まで連れて行き、座った。それを全員が眺めつつ、最後に駁が座るともえたろうがよろしい、と言った。
 その瞬間周りにいた兵士達が近づいてきて一人一人名前を確認してきた後、首輪を付けられた。ナナやぺしぺしはなんだよ、と暴れていたがそれ以外はみんな大人しく従っている。痛風も例外ではなく重苦しい銀色の首輪が付けられた。そして、同時に現実を改めて知った。

「あーあ。予定が過ぎちゃったじゃない。あなたたち遅刻よ。痛風さん。ちゃんと皆を呼んでくれたの?」
 確かに痛風の収集から入るまで結構時間が経っている。遅刻と言うのも頷けるけど。
「あ・・あたしは、いつもどおりに・・」
「・・まぁ、一部遅れてくることはいつものことだけど。」
 コホン、ともえたろうが咳払いをして全員の顔を見た。
「言うまでもないよね。今からプログラムを始めます」
 今更誰も何も言わなかった。ナナでさえ、座らされてからは黙り込んでいたからそれは大きかったのかもしれない。
「・・誰も何も言わないようだから説明するから、聞いておくように。」
 痛風はじっともえたろうの顔を見ていた。笑顔だ。どこか嬉しそうな・・気味が悪い。
「まず、会場のことだけど、この萌えコピ中学校の校舎だけだから。ただし、体育館と運動場、それから別館は別。本館のみなんで気をつけてください。名無しとか関係ないコテたちは別の場所に行っているので誰もいません。」
 さっきの光景はそれか、と痛風は納得する。飛んだ勘違いだった。選ばれるのが名無しかコテかでこんなにも違うなんて。
「本館にあるものは全部使用自由です。それから学校中の鍵も全部開いていますので隠れるのも自由ね・・質問ある人?」
 時間が遅れている、と言ったくらいだ。説明はさっさと済ませようとするのは目に見えた。誰一人手を挙げない事を確認するともえたろうは続けた。
「時間は・・朝の10時から晩の10時まで。たかが17人だからすぐに終わると思います。」
 たかが17人?
「もえたろう先生、刺身野郎・・君はどうなるんですか?」
 痛風は手を挙げて尋ねた。クラスは18人で入院しているのが1人・・刺身は一体どうなるのだろうか。
「今回は参加せずに、後のどこかのプログラムで転校生としてすることになると思う」
 参加せずに、と言うことはとりあえずここの所は命拾いをしていると言うことだ。痛風が口を聞いたからか、ナナが話し始めた。
「なぁ、もえたろう、こんなことしてタダですむと思ってんの?」
「・・皆にはディパックと言うバックを配ります。」
 ナナの言うことを無視してもえたろうは続けた。足元に置いてあった黒い袋を手に取る。そんな光景を眺めてナナは眉間にしわを寄せて呟く。
「聞いてんのかよ・・?」
「おい、ナナ。今は黙れって」
 言い方などでなんとなく危険を感知して静かに修一が言った。ナナは聞かない。
「答えろよ、もえたろうっ!!!」
 ついにナナは岸利達の手を振り解いて立ち上がった。さっきまでは大人しくしていたから緩めていたらしい。もてろうの目が怪訝そうにナナを向く。
「今は話を聞きなさい。」
「私は質問してる!」
 立ち上がったナナは睨みつけるように言う。すると、もえたろうはああ、と言った。
「分かりにくい言い方しか出来ないのね。そういうのは、あなたが生き残ってからいくらでも聞いてあげるわ」
「なっ・・」
「さて・・で、ディパックと言うのが配られて中には・・」
 持ったままだった黒い、例のディパックと言う袋を開ける。
「名簿と、校内図、それから・・」
「なんなんだよ、さっきから!!」
 ナナはまた叫んだ。それにつられたのかは知らないがぺしぺしもいつの間にか立っている。
「ナナ、落ち着けって!!」
「なんでぺしぺしも立つんだよ!座れよ!」
 岸利とぱいくーがそれぞれ止めようとするが、2人は聞かない。ナナはついに歩き出そうとしていた。そのナナのスカートの裾を思わず痛風は掴んでしまった。危ないんだ。絶対。
「ダメだよ、落ち着いて」
「っせーな。大体アンタさ」
 ナナは振り返って痛風を見下すようにすると、何、と聞く前にナナは続けた。
「本当は知ってたんじゃないの?こうなるって」
「し、知らないよ!!」
「ここに来る前呼ばれてたんでしょ?」
「そう、だけどあたし、本当に知らない!」
 全員の目線がこちらに集中している。ついにはまさか、と言わんばかりにナターシャや恋までもがそう言う目で見ている。たしかに寸前呼ばれていた、けれど


 あたし、本当に知らない・・


 その目線に耐えれなくて少しだけ涙が出た。けど。
 ナナのスカートの裾を離して、痛風も立ち上がった。
「あたし、本当に知らない!」
 そしてもえたろうを見た。じっとこちらを眺めている。
「先生!本当ですよね!!あたし、なにも聞いていませんよね!?」
 先生に振るのは今更だけど、誰か1人の承認でも取って置かないと・・このまま、だと。
 もえたろうの横にスッと1人兵士が現れた。そして先生に何か耳打ちした後、何か変なリモコンを取り出す。先生は少し目を見開いていた。

 ピッピッとかいう、変な音が体育館に響いた。
 全員がやはりこっちを見ている。音の発信源は、自分の先ほど付けられた首輪だ。ドクン、と心臓が跳ねた。

「何・・何の音・・?」
「止めろ!!今すぐ!!」
 叫んだのは以外にももえたろうだった。<尚更理解できない。> 「早く!!聞いてんのかっ!?」
 横にいた兵士は驚いた表情を見せた後すぐにリモコンをいじった。すると音が止まった。
「・・ぁ・・」
 痛風の体が一気に力が抜けて膝を着いた。
 何、これ、何なの?一体?
 ソレを尋ねるためにもえたろうを向いた。しかし、もえてろうは兵士と何かを小声で会話した後、
「とにかく、変に暴れないように。」
 そう向き直って言うと続けた。先ほどまでのがまるでなかったかのように。あれだけ急に叫んだにもかかわらず。
「ディパックには武器も入っています。ただ、ハズレと思われるのもあります。それから3時間ごとに校内放送します。死んだ人と禁止教室の発表をします。禁止教室とは時間ごとに入ると首輪が爆発するように設定された教室のことです。本館以外に入ると同様にその首輪爆発するから・・あ。空き教室が多いので、名称のない教室にはアルファベットが書いてあります・・そんなもんかな。」
 時間が少ないことと、先ほどのことを無かったことにしようとしているのか、一気にザッと説明をする。先ほどの余興があったせいかナナは立ったままだが大人しくしているのは幸いだった。
 もえたろうが時計を見た。そしてなんとかいけそう、と独り言を呟くとマイクに口を向けて全員を見た。
「10時になったら出発してもらいます・・ついでに順番はクジです」
 言うと先ほどリモコンを持っていた兵士が小さな箱を持ってまた現れた。もえたろうは手を入れて一枚紙を引いた。ひらくと、口を開く。
「・・痛風」


 ザワッと全員が一気に声を上げた、ように聞こえた。

 よりによってあたしからなんて尚更分が悪すぎる。 

 そう、思った。

【残り17人】

「やっぱりよ、痛風知ってたんじゃねーの?」
「え・・でも、知らないって言ってじゃねーか」
 ぱいくーが言うと、隣に座っていたまなぶが呟くように言った。その方向を修一は見ていたが、前のもえたろう(管理人)の方向を向いた。正しくはその光景を眺めた。
「どうなの!なんでこんなことになってるの?」
 ナナだった。痛風が出発してからすぐに立ち上がり講義を始めていた。初めの方はぱいくーや岸利徹が説得していたが止めれずにこうやって舞台の下から叫んでいる。最初はナナだけだったがのちにぺしぺしも加わっていた。もえたろうは特に何も答えずにいつの間にか用意されていた椅子に腰掛けて時計を見ている。
「・・次、修一」
 呼ばれて修一は立ち上がった。次だ、とずっとそわそわしていたわけだ。楽しみだからとか、そういのは間違ってもない。これからどうすれば、と考えてまだ出発が早いほうだから、全員と合流できる可能性は大いにある。いや、出来る。
「おいこら!!無視すんなよっ!痛風サンは知ってたのかってきいてるんだけど!」
「そうだ!大体、アタシ達に死ねってか!?」
 入り口(出口というか)に向かおうとした足が止まった。振り返ると、ナナがついに舞台に上ろうとしている。ぺしぺしもつられてか、舞台に手を乗せて足を上げる。
「ナナさん、ぺしぺしさん、いい加減にしなさい」
 スッともえたろうが立ち上がって先ほど兵士から手渡されたリモコンを取り出すのが遠目で分かった。それに反応してナナが舞台に登るのをやめて、一歩はなれた。実際そうとは言っていなかったが首についている首輪が爆発する、と禁止教室の説明時に言っていたから首のは爆弾、そして痛風の時を思い返してあのリモコンは起爆装置、と思うのにそんなに時間はかからない。
 リモコンに気がつかなかったのか、ぺしぺしが舞台上に登りきって、立ち上がった。そしてナナが登っていないことに気がついたのか、え。と言うのが静かになった体育館に響いた。
「いい加減にしなさい、と言ったでしょ?・・できるだけこんなことはしたくなかったんだけど。」
 スッとそのリモコンの先をぺしぺしに向けた。ぺしぺしの目線はピッタリとそれにくっ付いている。
「ちょ・・ちょっと、待ってよ」
 喉から搾り出したらしい、若干かすれた声が静かな体育館に響いた。
「それで・・あ、アタシを・・」
「先生、何回忠告しました?」
 ついに遠目からも分かるくらいぺしぺしは震えだしていた。忠告・・というより、警告じゃないか。確かに数回言っていたしオレや痛風も止めた。(直接的じゃなかったけど、それでも止めようとしたことには変わりはなかった。)ナナの真似・・と言っていいのかは知らないけど、それでもぺしぺしはやりすぎだ。
 こうなっている以上、止めれない。悪いけど。今すぐオレがこんな一番離れた所から走ってもきっと無駄だ・・
 でも、このままだと危ないのも見えている。どうすればいい。誰かが死ぬのは、ダメだ。
「・・ぅ・・あ・・ご、ごめんなさい・・」
 考えているとぺしぺしの口から謝罪の言葉が出た。震えたまま、そしてリモコンから目を離さないまま言葉を出している。
「ごめんなさい・・」
「どうしようかな。」
 釈然、ともえたろうが言った。いつもぺしぺしやナナが管理人を怒らせているのはサイト中の誰もがご存知の通りだ。その時、授業中とか見ている限りでも「はいはい、ごめんねー」とか茶化すように言っておしまい。そのあと馬鹿笑いして、結局そのまま説教に入りこんでいくのはもう日常茶飯事といっても過言じゃなかった。
 たまに、うんざりとした痛風が言っていることを思い出す。
“何度注意されても分からないってさ本当のバカじゃないの?”
 クラスの1部がうるさいだけで全員まとめて説教に入っていく。それは同じ教室内で、同じ授業を受けているから仕方ないと言えば仕方ない。確かに関係ないのに怒られるのは気持ちのいいものじゃない。けど、まぁ、先生には悪いけど、楽しいならそれでもいいんじゃないかって思うときもある。
 だって、俺達だって授業中喋り始めて、うっかり大笑いすることもあるから。
 とまぁ、先生に言っても怒られるだけなんだけど。
「普段が普段だからね」
 関係ない方向に思考が飛んで、少し後悔した。そんな事を考えている間にも助ける方法が思いついたかもしれないのに。
「ごめんなさい!!」
 ぺしぺしの声はだんだん大きく、そして涙声になっていた。普通だったら、許してやるものだ。・・普通だったら。
「・・っ!!先生!もう、いいじゃないですか!こんなにも謝ってる!」
 叫びながら立ち上がったのは岸利で、ぺしぺしの謝罪の声をとぎる。体育館に声が響いた。全員の目線が舞台上から岸利に変わった。岸利はさすがに少し戸惑っていたが、しばらくして口を開いた。
「こんなにも、謝ってるから・・いいじゃないですか」
 言ったことの内容は先ほどと一緒だ。もえたろうは少し目を見開いて、けれども笑顔に変わった。笑顔から笑い声が漏れて、それがだんだんと大きくなる。それがあまりに理解できなくて、気味が悪い。
「・・あははっ!!あはっ!!さすが岸利徹君だ。」
 全員・・中でも特に岸利は呆然、とその光景を眺める。同じように気味の悪さを感じたらしく何も言わずにただ、眺めていた。
「けど、まさか岸利君がそう言うとは思わなかった・・」
 もえたろうは笑顔を抑えると、今度はぺしぺし・・いや、それを越してナナを見た。ナナは身構えるように体を動かしていた。こちらからは表情は見えないが、睨みつけている可能性が高そうだ。
「先生、ナナさんが止めたら許そうと思ったのにな」
「・・じゃあ・・許してあげてよ・・」
 ナナらしくない口調だった。緊張感に満ち溢れた声。表情は、相も変わらず見えない。きっとそれは舞台上のぺしぺし以外のクラスメート全員見えていないはずだ。どうやら想像している強気に睨んでいる姿ではなかったのかもしれない。
「ちょっと遅かったかな。」
「・・そ、そんなっ!!」
 ぺしぺしが叫んだ。そんなぺしぺしは無視して、もえたろうは岸利徹を向いた。
「けど・・まさか岸利君がそう言うなんて思わなかったから・・この意外性があまりにおかしいから、許してあげよう。」
「・・っ・・あ・・」
 ペタン、とぺしぺしがその場に崩れ落ちた。安心したのか、そのまま泣きじゃくる。その光景を見てどことなくため息が聞こえた。
 そんな光景を修一は見ていたわけだが、不意にもえたろうのもとに痛風の時と同じく、そして同じ兵士がやってきて何か耳打ちをした。それを聞いてもえたろうが怪訝そうな顔をする。そして何かを言い返して小声で話をした。最終的にもえたろうが諦めた雰囲気を漂わせて時計を見た。
 それで、嫌な予感がする。
 もえたろうの目線がこちらを向いた。しかも目が合った。マイクを手に取る。
「修一君が時間通り出発してくれなかったので、予定が大幅にずれちゃいました。」
 なんだよ、それ、俺のせいかよ!?そう叫ぼうとしたが、ここは落ち着いた。取り乱したらダメだ。
「そう言うことで・・どうしましょう。」
 どうしましょう、って、それはどういうことだ?
 もえたろうはしばらくどうするか考えるしぐさをした。そのうちに出て行け、と脳内で命令が起こった。一歩一歩後ずさりするように足を動かす。
「せ、先生・・!だったら、2人ずつ出発させるとか、すればいいじゃないですか・・!」
 立ちっぱなしだった岸利徹が提案を出す。そして岸利を見て少し微笑んだ。
「岸利君は面白いこと、言うね・・今度は違う人がそう言うこと言ってくれたら同じように受理したかも知れないけどね」
 意外性が無い、ともえたろうは続けた。意外性があるか無いかで命運を決められても困る。
 くそ、このままいても本当に死ぬ。それだけは、ゴメンだ。
 踵を返して後ろを振り返る。そして猛ダッシュした。入り口の脇で兵士が何か・・黒いディパックだ、を投げ渡す。取り落としかけたけど何とか紐を掴んでそれはま脱げた。入り口から右に出たところで少し息を整える。マイク越しのもえたろうの声が聞こえた。
『・・ああ、もう面倒だしいいわ。』
 何が面倒なのかは分からない。なにかその前に会話があったのだろうか?
『出発しなかった修一クンでも良かったんだけど、もう出発したしね』
 良かった?それで殺されても大迷惑・・とか、もうそんなレベルは超えている。
『そういうことで、元の元凶のぺしぺしさん。』
 はっきりと聞こえないが、ピッピッと音がしている気がする・・スイッチを押したのだろう。その途端外にいてもなんとなく分かるくらい体育館の中が緊迫した空気に包まれた。
『止めて!!止めれるんでしょ!?早く!!早くっ!!!』
 ぺしぺしはもえたろうに懇願する声が聞こえる。
『ねぇ!ナナぁっ!!助けて!!たすけて!!!!』
 悲鳴だけが聞こえる。ナナはどうするのだろうか。分からない、わからないけど。
 同時に、ドンッと鈍い音が後ろで響いて、あとは残ったクラスメートの悲鳴が大きく響く。ゾクッと鳥肌が立った。


「・・なんだってんだよ」
 少し離れてため息をつく。
 ・・多分、首輪が爆発したのだと思う。あの音と、流れと、この悲鳴。それがまさに表されている。それは・・死んだ、と言うことだ。
 許してもらえると思った矢先だった。あまりに、残酷だ。酷すぎる。
 けど、俺1人では何も出来ない。今、武器を持って殴りこみに行っても仕方ない。舞台に上がって殺される・・いや、その前に兵士に撃ち殺される。或いは首輪の爆発・・予想できた。爆発して、首が飛ぶ。それは・・誰から聞いたっけ、頚動脈が切れたら勢いよく噴水みたいに、吹き出て辺りを赤く染めるって。そして倒れる体と、ボール状になった頭と・・そういえば、昔、サッカーって人の頭でやってたんだっけ。罪人とかなんとか。それ・・誰だっけ?とにかく、誰かから聞いてサッカー、やろうとしたけどやめたんだっけ・・


 ・・ここは、ぺしぺしには悪いけど、俺のせいかもしれないけど・・見なかっただけでも、良かったと思おう。これ以上、自分自身考えたくない・・

 とりあえず・・誰かと合流しよう。1人がダメなら2人、3人。いや、全員。まだ幸いにも痛風以外は中に居る。後ろは振り向かずに先ほど自分のグループや不良グループと言ったメンバーで会話していたところに目をつける。ここはまだ兵士が近いからやり辛い。あそこなら。
 あそこで全員と待ち合わせしよう、と歩き出す。
「待って!修一クン」
 振り向かなかった後ろから声がした。一瞬びくついて振り返った。そこには唐橋ユミが黒いディパックを持って立っていた。微妙に涙ぐんでいる。
「びっくりした・・唐橋サンか」
「あのさ、修一クンはこのゲームどう思う?殺す?皆?」
 びっくりした、ことより先にと、唐橋ユミが単刀直入に尋ねてきた。
「どうって・・あ、ここはちょっと・・さ、あっちの方に行こう」
 兵士のことを考慮して校舎への位置の真ん中辺りを指差した。すると唐橋もそうだね、と言って着いてくる。
「どうって、間違っても絶対に殺さない・・っていうか、本当にプログラムなのか?」
 学校で、と言う時点でイマイチ実感がわかない。なんだか文化祭にあるようなちょっとしたイベントみたいな感覚さえある。(まぁ、中にいる連中は人の死ぬ瞬間を見ただろうから、そんな感覚は持たないかもしれなかったけど)唐橋がそうだよね、と言った。
「違う場所に連れて行かれたワケじゃないからさ、なんかどうにかなると思うんだけど」
 どうにか、というのはどうにかする、とそのままの意味だろうがどうにかして抜け出そうとするのは修一も考えていることだった。
「だから、とりあえず皆と合流しようよ。今のところ、痛風サン以外は全員待ってたら合流できるからさ。」
「あ。俺もそう思ってたところ。」
 唐橋ユミもそう考えてくれていたならそれは好都合だ。
「次は・・駁だな」
 駁がそろそろ出てくるはず。駁は同じグループでよく知っているし。時計を見るとあと数秒。
「全員捕まえたら後はつぅだな。」
「そうだね、痛風サン、すぐ見つかったらいいね。」
「そうだな・・あ、駁!!」
 駁が出てきた。彼のつり上がった猫目が修一と唐橋を捕らえて怪訝そうな顔をした。
「・・なにしてるの?」
 少し小首傾げに駁が言った。思いのほかの言葉に思わず「え」と言ってしまった。
「何って、全員集まってなんとかしようと・・」
「なんとかって、何を?」
 駁ははっきりと言うと、甘いね、と言った。
「分かってる?コレはプログラムだよ?全員でとか甘いコト、言ってる場合でもないさ」
「何で・・」
 修一が続けようとしたが、駁が右手を拳銃のような形にすると修一の鼻先に向けた。
「バン・・いつ、誰が裏切っても文句、言えないよ?」
 バン、と言った後にまるでソレが本物のように指先を少し上に動かした。修一は呆然と眺める。
「制限時間は12時間。ソレで何とか出来たらそれでいいよ?けど、ハッキリ言って無理だと思うなぁ。」
 無理。こんなにハッキリ言われて、なんだかドクン、と胸が痛んだ。考え直すと確かにそうかもしれない。なんだかんだでプログラム。戦闘実験。それは、そうだけど・・
「やってもないのに無理っていうの、やめようよ」
 ショックを受けた修一の変わりに唐橋が言った。
「駁クンがそう思うのはいい・・出来ればやめて欲しいけど、ユミは、やるよ。」
 駁がハッキリと無理と言ったように、駁も同様にハッキリと言い返した。駁が少し笑っていたように見えていた口を(もともとそんな形をしているとずっと前に言ってたけど)、キュッと閉じた。そしてつり目の目を軽く細めた。
「まぁ、勝手にしてよ。俺は悪いけど、ムリだね」
 そう言うと駁は踵を返して歩き出した。待てよ、と止めようとしたが何故か声が出なかった。この気持ちは、なんだろう。
「・・大丈夫だよ。まだ、クラスメートはいるんだから・・?」
 ドアを向き直った唐橋の口調は疑問系だった。修一もその方向を見ると丁度、ぱいくーが出てくるところだった。
「なんで、ナターシャサンは・・?」
修貴一は慌てて時計を見た。駁が出てきてからすでに6分、立っている。と言うことはナターシャを見逃してしまったのだ。



ぺしぺし 死亡
【残り16人】


唐橋ユミは時計を眺めた後、隣でただ呆然としている修一向いた。彼のグループに所属している駁に考えを打ち砕かれ合流できなかったことと、それから同じくナターシャとも合流し損ねたのは大きなダメージだったのかもしれない。
 ユミ自身、考えれることとしては、ナターシャは修一や駁、そしてユミの姿は見えていたはずだ。ここから体育館の入り口が見えるように、逆に体育館の入り口からここは見えるのだ。それをナターシャはあえて、避けたのかもしれない。三人とも気がつかなかったとして(事実そうなんだけれども)、恐らく校舎の脇を通って何処かの窓から入るか、或いは靴箱から入るかのどちらかに分かれる。
 そして、痛風以外はここにいたのだ。だから校舎内で誰かに会うこともないだろう。
 とりあえずナターシャはナターシャ、今は出てきてこちらを見ているぱいくーと合流するのを先決にしよう。
「ぱいくー!」
 じっとこちらを見ていた彼の名前を呼ぶと、ぱいくーは少し戸惑った表情に変わり、それからしばらくして唐橋ユミから見て左手の方向に走りだす。
「あっ!ぱいくー!!」
 名前を呼んで、どうするか悩んだ。追いかけるか、それとも次のエリコを待つかどうか。いや、追いかけないと。これ以上人数が集まらなくても困る。
「修一クン!ユミ、ぱいくー追いかけるから、次のエリコ任せるね!!」
 言うと同時に走り出す。後ろで修一が「ええ?」と言っているけど気にしていられない。今は1人でも多く合流することが先決だ。

「ぱいくー!!待ってよっ!!」
 運動場まで来てしまう。ぱいくーは以前止まろうとはせずに走っている。ユミの足の速さはお世辞にも早い、とは言い辛い。追いかけても距離が離れるだけだ。
「待ってって・・きゃっ・・」
 前しか見ていなかったせいか、足元の段差に気がつかなくて思いっきり転んでしまう。膝がジャリですりむけて、ついでに額をぶつける。ゴン、と音がした。
「いったぁ・・っ」
 額より膝が相当痛く感じたから様子を見た。ものの見事にズルむけててすでに真っ赤に染め上がっていた。その血はふくらはぎを伝って黒のハイソックスにしみを作った。
「・・おい、大丈夫かよ・・」
「ぱいくー・・?」
 転んで、心配したらしいぱいくーがここで走って戻ってきた。顔は少しなんだか自分の起した矛盾に少し照れているようだけど。
「大丈夫か?」
「・・痛い。」
 素直に感想を述べると、仕方ないなと言いながらぱいくーはポケットからハンカチを取り出して傷口に当てた。意外に見えるけどぱいくーは意外とハンカチやティッシュを持ち歩く派だ。
 そしてユミに手を貸すと少し先の手洗い場に連れて行って水を出した。
 ユミの膝の傷口を見てイタタ・・とぱいくーが呟く。ソレを見て思わず笑ってしまった。
「あはは・・やっぱり変わらないじゃん」
「何がだよ・・ほら、傷口洗え。バイキン入るぞ。」
 怪訝そうな表情をするぱいくーの言うことにしたがって冷たい水に膝を入れる。なんだかんだでまだ1月だ。冷たい。ジンジンと痺れが起こる。
 そう感じながらぱいくーの表情を見た。顔をちょっとゆがめてやっぱりいたそう、と思っているのがすぐに分かる。
 ぱいくーはワル=かっこいい、と思っているからそんな身振りをしているだけで、本当はものすごく優しくて、感情が表にすぐ出るから実は嘘も付けない。そんな性格をしているのは仲良くなってすぐに分かった。(というか、ぱいくーの幼馴染のまなぶから聞いた。まぁ、分かりやすかったけど。)
「あー・・絆創膏教室。」
「いいよ、大丈夫・・それより」
 絆創膏も持ち歩いている。女の子みたい、と思いながらソレを言うのはやめて話題を現実に戻した。水から膝を離すとまたジワリ、と血がにじんで濡れた所を伝うように流れていく。透明の水が赤く染まる。
「あのね、このままバラバラにいても仕方ないでしょ?だからね、とりあえず皆で集まろうって話をしたの」
「そうか・・でもさ、これ・・」
 プログラムだろ?ぱいくーがそう尋ねようとしているのは目に見えた。だからいいにくそうな彼の変わりに答えてあげる。
「分かってるよ。プログラムだよ。殺し合いだよ・・けど、ぱいくーは、出来るの?」
 何を、と言うのは言わない。言わなくても分かるはずだ。ぱいくーもちゃんと理解したようで少し顔を伏せた。
「ユミは、ぱいくーも、まなぶも、ナナも、エリコも・・もう、いないけどぺしぺしも・・それだけじゃなくて、皆・・殺せるわけがないよ。修一クンは、ユミと同じ意見だって・・だから」
 エリコを説得してくれているハズの修一を思い返す。彼はうまくやってくれているだろうか。
「・・なぁ、ユミ」
 不意にぱいくーが名前を呼んだ。ユミは何?と尋ねると少し口ごもって、言った。
「言い方、悪いかもしれない。先に言っとくな。」
「・・うん。」
 今から言うことはいい事か悪いことか、と言えば多分・・絶対、後者だろう。こんなところでいい事はあまり期待しちゃいけない気がする。
「殺し合いになった以上・・大事なのは信じること、だと思う。」
「・・うん」
 とりあえず相槌を打つ。その通りだ。駁も言っていたけど。裏切られても文句は言えない・・これが、一応分かっていなければならない現実の一つだ。
「オレは、ハッキリ言うと・・信用しきる自信がない。」
「・・ナナ?」
 ユミはナナの名前を出した。彼女の恐ろしさは知っている。自分のためだったらどんな物でも敵に回す・・今回、もえたろうに当たり前のように喧嘩を売ったように。怖い物知らずな性格も度が過ぎる。だから、怖い。
「オレの独断、だけど、あいつらが舞台に上がった時ナナは途中で降りただろ?」
 脳裏に思い返す。ナナが登ろうとして、ぺしぺしも登り始める。そして、もえたろうがリモコンを取り出すとナナはすぐに大人しく降りた。もし、仮にぺしぺしがそれに気がついていなかったとしても、そこは普通ナナは止めるべきではなかっただろうか?
 これ以上関与したくなかったから、自分にまで被害が恐れるのが怖いというのは・・今まで見ている以上では、それはナナらしくない。本来の彼女ならば降りろ、と叫ぶか引きずり落としているはず。
 それを、止めなかった。
「・・ユミもちょっと、思ったかも・・」
 けど、それはほんの少しだ。ナナだって人間だ。その時思考が停止して動かなかった、という可能性だって、絶対にあるはず。それはナナにしか分からない。ユミは、ユミ。ぱいくーはぱいくー。
「だろ?登って、気がついて降りるのはいいとして・・それでも止めていたはずだ・・多分。」
「・・けどさ、ユミもぱいくーも、ナナじゃないから、ナナの考えてることなんて・・分からないでしょ?」
「・・・」
 ここでこそぱいくーは無言だった。信じていたいくせにして、ソレなのにどこか矛盾して信じれなくなりかけている。
 ユミだってそれは同じと言えた、けど、このままじゃダメ。ユミはぱいくーに向き直った。
 信じること前提で進めないといけない。そうじゃないと、合流なんて、ましてや脱出なんて無理だ。
「仮に、ナナがそうだとしても・・数人固まってれば、ナナも変に手を出さないでしょ?」
 少なくとも、修一クンがいるし、と付け加えた。
 けど、実際自信はどうだ、と聞かれるとハッキリとは言い切れないと思う。ユミ自信、ナナの考えていることがハッキリ分からない。
 ・・今も、知り合った当初からも。
「それに、1人で居るほうがよほど危ないって・・ユミは思う。」
「そう・・だよな・・」
 呟くと、ぱいくーがユミの傷口にもう一度塗らしたハンカチを当てた。よく見ると青いハンカチがみるみる赤に染まっていくのが分かる。
「まだ、決め付けるには・・早いよな」
「うん、だから、行こう?絶対なんて言い切っちゃ・・ダメだよね」
 自分にも言い聞かせるようにして、ユミは言った。
「じゃあ、とりあえずさっきの場所に戻るか?」
「うん。」
 さっきの場所、とは言うまでもなく修一のいる場所だ。そこに、エリコもいるといいんだけど。
 そして立ち上がる。ズキン、と足が痛んだけど悠長なことも言っていられない。
「急ごう」
 はやくエリコとも合流しておきたい。そう思ってユミは痛みを堪えて早歩きをした。ぱいくーもつられて少し、スピードを速めている。

「・・やめろっ・・!!」
 あとは右に曲がれば修一が待っているところに来たあたりで、まさにその方面から声が聞こえた。なんだ、と思ってユミは一度止めた足をもう一度進めて、その方面を見た。そしてその光景に呆然となる。ぱいくーも隣で同様にしていて、その光景を見た。
 そして、叫ぶ。
「健太!!何してるんだ!」
 声に気がついて健太が振り返った。手にはライターを持っており、何故か膝を着いている修一に向けていた。
「なに・・何があったの!?」
 何があったのかイマイチ理解できないけど、ただ言えるなら。
「君達も合流とか考えてるの?」
 健太は少し微笑んでライターの先を修一に近づけた。まだ火は出ていないけど、あの位置で火を出されると頬がやけるか、或いは髪に引火でもすると最悪だ。
「・・ぅ・・」
 小さく修一が呻き声を上げる。何がどうなって修一はこんな状態になったのだろうか?
「・・やばいな」
 ボソッとぱいくーが呟いた。ユミはぱいくーの表情を確認しなかったが、怪訝そうな表情をしているに違いない。ユミは開けっ放しの黒いディパックに手を突っ込んだ。中身は確認済みだ。そこにあった固い棒状の物を掴む。
「言っとくけどね、合流しても無駄だと思う」
 健太もまた、かつての駁の様に言った。
「何でって、こんなバラバラなクラスがまとまるわけ、ないだろ?」
 何で、とも別に尋ねたわけではないがご親切に健太は答えた。ユミはなにも言い返せなかった。ユミやぱいくー達がいるグループと、修一や駁の居るグループ、残りは特に誰、と言ったものはない。ほとんど隣のクラスの人と仲がいいのは知っている。
 グループ同士で仲がいいのか、と聞かれるとどちらかと言うとNOだ。ユミ自身、修一や駁、そして健太とも会話らし会話をしたのは久々だ。
「別に、お前にとやかく言われたくねーな・・」
 ぱいくーが隣で言った。健太がまた笑った。
「ははっ・・そうかもね。僕、ぱいくーのこともよく知らないし。唐橋も、修一も知らないけど。」
「・・ユミも、健太のことはよく知らないけど・・ユミはやることはちゃんとするよ?」
「することって、合流のこと?」
「うん・・そうだよ」
 そう答えると、健太は分かってないな、と言った。
「第一、合流してどうするんだ?・・管理人だって、僕達を売ってるんだよ?」
「それはー・・」
 その通りだ。もえたろうは自ら担当教官を受け持っているのだ。考え直すとソレを降りることも可能かもしれないのに。
「それから」
 健太は押し付けたままだったライターを一度修一の頬から話すと、親指を動かして点火した。明らかにそれは通常のライターとは違い、通常の3倍の威力がありそうな炎が上がった。あれは、どうやら【改造ライター】らしかった。
「僕は別に、プログラムに逆らおうと思いもしないし。大人に喧嘩売っても、僕達は結局は子供・・力の差なんて見えてるじゃないか。」
 その火は修一を向いた。修一がそれを睨んで、脇にあったディパックを掴んだ。そしてそれを振り回す。ゴッと音がすると健太の手からライターが落ちる。それは転がって遠く離れた位置に回転して、止まった。
「あっ!」
 確認すると修一は立ち上がった。ぱいくーがユミの腕を引っ張った。そして叫ぶ。
「逃げるぞ!走れるか!?」
「う、うん・・」
 言われて足を動かす。やっぱり痛むけど、殺されるとなるならソレは別。ユミが先に走り出し、後ろではぱいくーが修一に大丈夫か、と声をかけていた。
「逃がさない!!」
 健太が叫ぶ。一人になったユミを狙って、武器を拾うことなく。追いかけてきた。
「こっ・・こないでっ!」
 最初はディパックの中で掴んでいるだけだった支給武器の【ピッケル】が走り出すと同時にディパックから出ていた。それを思わず振りまわす。
「うわっ・・!」
 フォンッと風の切る音がして健太は一歩下がった。そして素手では勝ち目がない、と思ったらしく後ずさりすると、ライターを拾いなおす。
「・・早く!ぱいくーっ!修一クンっ!!」
 その隙に、急かして2人を先にする。そしてピッケルを握り締めたまま走り出した。
 本館に入って、入り口を閉める。健太は諦めたのかは知らないが、とりあえずドアを開ける様なマネもしなかった。(おそらく、ピッケルには適わないと思ったのかもしれない。それに、こっちは三人だし)
 鍵をかけようか悩んでいたがやめた。
「・・まだ、他にもいるからな・・あけておこう」
 ぱいくーが言う。そして階段の手前に有る防火扉を閉めると、足を早めに動かした。無意識に動かしている足だが。行き先は?
「教室に、行こう」
 修一が考えを読み取ってか提案する。そんな修一を見ながらぱいくーは心配の言葉をかけた。
「修一、大丈夫か?」
「ああ・・大丈夫」
「ところで・・何があったの?」
 結局教室に足を進めながらユミは尋ねた。修一がソレに答える。何があってあの状況になっていたのかは一応知っておくべきだ、とユミは考えた。
「実はな、エリコを止めようとしたんだが・・俺1人ではちょっと難しくて」
 ここでクラスのグループ同士、あまり交流がないことが裏目に出た。
「で、色々話しているうちに【スタンガン】当てられて・・」
「スタンガン?」
 エリコの支給武器がスタンガン、と言うことだろう。説明書見ながら歩きでもしていたのかもしれないけど、早急に使うとは。
「エリコはそのまま逃げて、その後クラついているときに健太が来て」
「・・それで、ああなった、と」
 修一が頷いた。ユミ達がいなくなった途端急に運が低下したような。
「けど、来てくれて助かったよ・・」
「まぁな。逃げて悪かった。」
 ぱいくーが素直に謝る。と、教室が見えた。
「あ。そういえばオレら鍵閉めてないな」
 ぱいくーが思い返して言う。最後に出る人は閉めろ、と言われていたが。
「いいじゃん、どうせその教室もあいてるんでしょ?」
 ユミが先にドアノブに手をのせて、捻る。ガチャガチャと音はするが開かない。
「あれ?鍵かかってる・・?」
 小首をかしげてドアの小窓から中を覗き込む。教室の電気は消えている。けど、鍵を閉めた記憶は最後まで居たユミ達に記憶はない、と言うことは誰かがいる、と言うことだ。
 首を回して小さい窓から目を凝らす。
「・・誰かいるのか?」
 後ろでぱいくーが尋ねる。けど、少なくともユミには見えない。
「分からない、けど・・ユミ達鍵閉めてないよね?」
「・・聞いてみるのが早いだろ?」
 修一がちょっとゴメン、と言ってユミの方に手をかけてドアの前に立った。そして今更ドアを3回ノックした。
「おーい、誰かいるんだろ?」
「・・・」
 返事はない。一瞬だけシン、と聞こえた気がする。修一は小首をかしげた。そして、そうだ、と独り言を呟いてもう一度口を開いた。
「つぅか?それとも、ナターシャか?」
 修一のグループの2人の名前。呼んでみると動揺したのかガタン、と机が動くような音がした。2人は出発した人たちの中で唯一、まだ見ていない。
「どっちだ。俺だ、。修一。ぱいくーと唐橋もいる」
 しばらくそのまま時間が経っていた。数分、あるいはたった数秒。ガチャッとドアが開いて修一の前に誰か現れた。
「・・なんで、皆が一緒にいるの?」
 ユミは一歩横に動いて、その人物を見た。
 それは、痛風だった。


【残り16人】


 一番初めに出発した痛風3年2組のドア側の壁に背中を付けて座っていた。ここだとドアについている小窓から見えないはずだ。

 ボーっと、考え事をする。


 見下すようなナナの顔が脳裏に浮かぶ。そして、その口が開いて言う。

 “本当は知ってたんじゃないの?こうなるって”

 ソレを聞いた後の、クラス中のなんとも言いがたい目線。
 まさか、とか、そうなのか、とか。信じた人に限っては冷たくて、アイツが、と言うような軽蔑された目。

 知らない。本当に知らない。あたしはそんなこと、聞いていない。

 あたしが寸前に先生と話していたことは、紛れもなくクラスの素行だけ。それ以外は何も聞いちゃいない、本当に、嘘なんかじゃない。自分で断言できるし、先生だって知っているはずだ。だって、本当のことだから嘘じゃない、嘘なんかじゃない。

 なのに、一部は信じてくれないような目つきをしていた。

 こんなことが始まる前、先生に呼び出された。刺身野郎が自殺未遂を起した時、アイツはあたしを呼びつけた。

 そのせいだ、全部、全部・・

 だれが、あたしを信じてくれるだろうか。一気に注がれた目線が脳裏に浮かぶ。

 怖い、怖い、怖い、怖い。プログラムに巻き込まれたことより、あの目線の方が、よほど。


 あたしは、どっちかと言うと全員一緒に、“なんとか”出来たらいいとその時までは思っていた。

 けど、どうなる?あたしが信じても、皆は?

 だれが、あたしを信じて、信じて、信じて、お願いだから、信じてー・・



「・・・!」
 ガチャ、ガチャとドアを捻る音が聞こえた。極力身を縮めて膝を両手で押さえた。息を潜める。誰か着た。教室だから誰か来る可能性もあったけど、それでも今誰かに会うのは気が引ける。
 一体、誰?皆の冷たい目線が蘇る。
 何を言われる、イヤ、怖い。何を言われるのか怖い。あたしを見たその人がどんな目をして見てくる?軽蔑?それとも?

「・・ユミ達、鍵閉めてないよね?」
 誰かの声がする。ユミ、本人もそう言っているじゃない、唐橋ユミだ。いやだ、来ないで、来ないでー・・・!息を潜めて心の中で叫ぶ。来ないで、来ないで来ないで・・!!!
「・・聞いてみると早いだろ?」
 ・・この声は、ユミとは別人だ。誰、聞いたことある。ある、それは当たり前だ。そしてノックをされた。3回。ゆっくりと。あたししかいない教室にそれは無常に響き渡る。
「おーい、誰かいるんだろ?」
「・・・」
 この声は知っている。自分のグループに居る。けど、ユミと一緒に居るわけがない。だって。グループが違うもの。クラスはほとんど分裂されている。そのこと、先生だって寸前に話していた。クラスのグループ同士、交流はあるのかって、聞いてきた。あたしだって、答えた。正直に。

 “ハッキリ言うと、ないですね・・2つのグループと、あとは個人、隣のクラスの人との方が仲がよかったり・・とか”

 だから、一緒なんて・・ありえるはずが、ないんだ。

「つぅか?それとも、ナターシャか?」
 不意に名前を呼ばれる。驚いた。まさか名前を呼ばれるなんて思いもしなくて、身をもっと小さくしようと頭も引っ込めた。勢い余って一番近い机の足に頭をぶつけた。痛い。何よりも、誰もいないはずの教室にガタンっと大きな音が響いた。これで、誰かが居ることは向こうにも分かっただろう。
「どっちだ。俺だ、修一。ぱいくーと唐橋もいる」
 やっぱり、思ったとおり声の主は修一だった。だから、尚更ありえない、と考える。ユミとそれからぱいくーが一緒にいるのだと言う。
 まさか、だって、そんな事。
「・・・」
 ここで、2つの考えが浮かんだ。このまま出ずに引きこもっているか、それとも顔を出してそれが本当かを確認すること。
 修一は嘘はそんなにつかないし、そもそもユミ自身自分で名乗っていた。ぱいくーが実際いるのかは知らないが、ユミは“ユミ達、鍵閉めてないよね?”と誰かに問いかけるようにも聞こえていたから、誰か寸前まで教室にいた誰かと一緒に居る可能性は大いにある。だから、それもきっと嘘じゃない。
 修一は大好きなグループの友達だ。けど、ぱいくーは全然話したこともないし、ユミはー・・・

 少し、悩んで立ち上がった。そろそろと壁伝いに歩いてドアノブに手をあてる。中からはそのまま捻ると鍵は開く。小窓から見えるその人は、紛れもなく修一だった。
 確認するとドアノブを捻った。ガチャッと音がして、修一の後ろを見た。言っていた通りユミとぱいくーが立っている。

「・・なんで、皆が一緒にいるの?」
 考えが思いのほか簡単に口から言葉となってでた。自分がどんな表情をしているのかは、察しが着かない。修一がそんな痛風の顔を眺めて、静かに言った。
「なんでって、合流したからだろ?」
「だから、何で?」
 また、じっと修一を眺める。修一はその意味を理解したらしく、静かに口を開いた。
「今は、命をかけてる状況だ・・信じないとまず意味はない」
 そうだ、そのとおり。コレは命をかけてる。誰が一番信じてもらえないか、といわれれば今の所は・・きっと、自分。
「俺はユミもぱいくーも信じてるし、もちろん、つぅも・・駁も。」
 駁の名前を出すと、どことなく曇った表情に見えた。けど、それを見て今度は痛風が続けた。
「あたしなんか、信じれないでしょ・・?皆、間違いないよ・・」
 自分で言っておいて脳裏にはまた、みんなの目線。きっと、クラス中が見ていたはずだ。
「なんでだ?」
 思いのほかのことを修一が言う。通風は無言で修一を向いた。
「なんで、そう言いきれる?」
「なんでって、分からないの!?」
 思わず叫んでしまう。分からないわけがない。だって、みんなの目にはあんなにも。
「どうせ皆、あたしを疑ってる!このプログラムに関して!!」
「けど・・知らないんだろ?」
 知らない。知ってたら、皆にそう言ってる。そして、皆を集めてなんとか、出来るかもしれないって、そう、考えれる。
「・・知らない、けど、皆・・」
「痛風サン。」
 今まで黙っていたユミが口を開いた。痛風はその方向を見ないで俯いた。つま先の赤い上靴の脇にポタッと水滴が落ちた。
「ユミね、痛風サンが嘘ついてるって思ってないよ?」
「なんで、そう・・」
「だって、泣いてまで知らないって言うんだから、知らないんでしょ?」
 泣いてまで・・?自分の目元に手を持っていく。本当だ、これは・・涙?
「知らない・・本当に、知らないの」
「・・俺はな、全員で合流して脱出しようと思っててな。」
 修一が不意に話の話題を変えた。全員で合流して、それは痛風も是非したいと思っていたことだ。頭を上げた。
「あたしも、それ、考えてた・・」
「そっか」
 少し笑顔になって言うと、ユミも笑ってくれた。
「本当は待ち伏せしてたんだけど・・色々あって・・」
「色々?」
 尋ねるとさっきまで黙っていたぱいくーが口を開いた。
「ま、先に教室に入ろうぜ。ユミの足、手当てしとかないとな。」
 そういいながら脇を通って教室に入る。そしてまっすぐに机に向かっていた。ユミがソレについていく。よく見ると膝がズルむけて血だらけだ。何があったと言うのか。
 ぱいくーがユミに座れ、と言って椅子を差し出す。そしてカバンから何故か消毒液が出てきてテキパキと治療を始める。
「ぱいくー・・お前そんなの持ち歩いてるのか?」
 修一がユミの座っている隣の席の机の上に座ってため息を吐くように呟いた。痛風はその傍らに立って様子を見た。黙っているぱいくーの代わりにユミが続けた。
「それだけじゃないんだよ。ハンカチとかティッシュとかも用意周到」
「へー・・以外・・」
 痛風も思わず呟いてしまう。ぱいくーが悪かったな、とだけ言うとまたカバンを漁りだす。こんな一面なんて見たことがなかった。いつもワル、っていうイメージしかなかったんだけど。(けど、風の噂で以外とヘタレとも聞いた。冗談と思ってたけど)
「普通の絆創膏じゃ無理そう・・」
 ユミがそう言うとぱいくーがそうだな、とだけ言ってかばんから箱ごと絆創膏を取り出す。まさか不良(?)と思っていた人物のカバンから出てくるものにはあまりに似つかわしくなくて修一が噴出していた。
「くくっ・・箱ごと持ってる奴、始めてみた・・!」
「や、役にたったんだからいいだろ・・っ!」
 少し照れたらしく、どもりながら言う。そして箱から膝を丸々包むタイプの大判の絆創膏を取り出してユミの膝に貼り付けた。残ったゴミをキッチリたたんでゴミ箱に入れた。いつも教室中はゴミが散らばっている。この人たちのグループと思っていたのだけど、どうやら少なくともぱいくーは違うらしい。イメージが180度近く変わった気がして、不思議だ。
「・・凄い、几帳面なんだね・・?」
 思わず呟くとユミが笑って答えた。
「そうそう、バリバリのA型。見た目合わないでしょ?」
「おう・・ごめん、俺今までぱいくーの事なんか誤解していた。怖い奴と思ってた。」
 素直に修一が頭を下げるとぱいくーが照れたように首を横に振った。
「な、なんでそんな話になるんだよ!俺は・・」
「人は見た目で判断しちゃだめだね」
 ユミがにこやかに言ってから、そしてすぐ真顔になった。それにぱいくーが気がついて口を開いた。
「・・で、これからだよな。」
 そう言うとディパックを漁りだす。そして中身一つ一つ並べだして顔をしかめた。
「【木刀】・・」
 武器が入っている、ともえたろうは言っていた。ソレがその武器なんだろうけどぱいくーはソレを傍らに置くと名簿を取り出した。そして右手の時計を見る。
「誰が出発したくらいだ?」
「えっと・・健太クンがでてからまだそんなに・・だから」
 ユミが時計と名簿を見合わせる。
「ざーみるくクンが出発したくらいじゃないかな?」
「ざーみるくか・・」
 修一がざーみるくの名前を出すと立ち上がろうとして、とため息をついた。
「万一考えて、出ないほうがいいか?」
「そうだな・・まだ健太がいる可能性、あるしな・・」
 話が見えない。痛風が小首を傾げるとユミが説明をしてくれた。

「・・そっか、じゃあ、変に動くと危ないよね・・?」
 一通りの説明を聞いて脳を回転させる。駁の名前を出した時、修一の顔が曇ってた理由とか、ナターシャが逃げてしまったことはちょっとショックだったがまだ合流して話せばいい・・向こうは、あたしを信じてくれるかは分からない、けど、どうせやるしかないだろうし。
 とりあえず、今は合流する、方法、を・・
「・・あ!」
 全員黙って方法を考えていたが、ユミが急に大声を出したので全員そっちを向いた。ユミがポケットを漁って取り出す。淡いピンク色の携帯電話。
「これ、使えないかな?」
 言いながらユミが携帯を開く。パチン、と音がした。
「なるほどな。けど、使えるのか・・?」
 ぱいくーが不安そうに尋ねるとユミはわかんないけど、と言った。
「ぱいくー、ちょっと電話かけてみる」
「・・分かった。」
 ぱいくーはカバンから黒い携帯電話を取り出す。しばらくすると光りだした。画面には[着信あり]と書かれていて、ぱいくーが確認すると笑顔になった。
「お・・使えるみたいだぜ」
 着信はまさにこの時刻、ユミからのものだった。これはチャンスだ。修一と、ソレから痛風も携帯電話を取り出す。
「じゃあ、皆にメールを送ろ!皆のメアド、分かる?」
 ユミが思いのほかの幸運に興奮は隠し切れずに嬉しそうに尋ねる。痛風は頷いた。
「うん。ざーみるくと駁、岸利徹と修一、みやこちゃんと、ナターシャ・・グループの分だけだけど」
 グループ、と言う単語を使おうかどうか迷って、使ってしまった。しかし誰も気にせずに、隣で修一が頷いた。
「俺も一緒だ・・それ以外は、特に・・」
「オレはまなぶ、ユミ、ナナ・・だな。エリコは知らん。」
「あ。ユミ知ってるよ。」
 そう言いながら全員で携帯電話を弄繰り回す。クラスは18人、参加人数は17人、自分達を除いて13人。そのうち連絡が取れるのは8人・・これは大きい。5人、誰とも連絡を取れないのは全員だと探せば見つかるだろう。
 ふと、ここで疑問が浮かぶ。この“5人”って、誰?名簿を見る。
 玄米、健太、恋、愛・・それから?
「・・ぺしぺしさんは?」
 ぺしぺしだ。一応、ユミやぱいくーと同じグループのはずだ。ぱいくーは知らないとしても、ユミは知っているはずだ。
 全員、顔を曇らせて押し黙っていた。何が何だか分からないままでいるとユミが言った。
「・・死んだよ」
「・・え・・?」
 死んだよ、今、ユミはそう言った。死んだよ?・・なんで?
「痛風サンが出発した後、首輪、爆発させられて・・」
 ユミは言いながら目元を拭った。首輪、そういえば出発する前説明時、自分も一度、変な音がした。あの時を思い出す。あれは、もしかして、爆発の寸前、だったと言うことか。
 だったら、先生はそれを止めた。だったら、だったら、尚更首輪を止めたとして・・信じてもらえない、可能性だって・・あるんじゃ、ないの・・?
「俺が予定狂わせて・・逃げたからだ」
 もしかすると痛風の気持ちを察したのかもしれない。修一が静かに言ったけど、それはハッキリと意味が分からない。何故修一が関与していることになっているのか。
 それについて尋ねようとしたが、ユミが続いて口をあけて、また静かに言った。
「・・もう、この話はやめよ?」
 友達が死んだ、なんて安易にはいえない。しかも、目の前で、だ。それはどんな光景かは、痛風は知らない。この首輪が爆発したとなると、きっとその破片が首の頚動脈を切り裂いて、真っ赤な鮮血を辺りに散らばせていたのかもしれない。それとも、もしかするとそんな生易しい物ではなく首が肉片、と化すまでの物かもしれない。爆発の仕方によれば骨だってふっとんで、脳が散らばったのかもしれない・・考えると、吐き気がした。人の考えは尽きないものだ。こんなこと、考えるんじゃなかった。
「今は・・みんなを集めること、だよ。」
 ユミの言うことに誰も反論しなかった。痛風も黙って携帯を打つ。


 [みやこちゃんと、ナターシャへ。]
 このメールを読んだら、3年2組まで来て!
 私と、修一と、唐橋サンとぱいくー君がいるから、
 皆で合流しようって考えてるの。
 お願い、私を・・


 私を、信じて。そう書こうとして、やめた。その部分を消す。そして続けた。


 きっと、皆で力をあわせたらなんとかなるって思う、だから、お願い。

 ・・あたしは、皆を信じたい。


「・・送信。」
 呟くとそれぞれ終わっていたようで、携帯電話を握り締めてこちらを見ていた。
「・・一応、オレ達もアドレス交換しといたほうが良くないか?」
 ぱいくーが言うと修一がそうだな、と言った。万一・・といった可能性だってあるのだ。ユミが笑顔で携帯を近づけた。
「赤外線、使えるよね?」
「あ・・うん。」
「じゃあ、先にユミの送るね?」
 言いながら手早く携帯をいじる。隣を見ると修一とぱいくーも同じ様なことをしていた。
 

 ・・不覚にも、もし、プログラムがなかったらこんな2人の光景、なかっただろうなと考えてしまう、自分がいた。


【残り16人】


おねがい、お願いだから、繋がって・・!!

 被服室、と呼ばれるところにエリコは泣きながら耳に携帯電話を押し付けていた。
 どうしていいのか分からなくなった矢先、目に付いたのは携帯電話だった。だから、もしかすると、という可能性に賭けて今こうして電話をかけている。相手はHな名無し、と言う隣のクラスの彼氏、だ。

 トゥルルル、トゥルルル、とコール音がする。

 おねがい、お願い・・Hな名無し、出てよ、お願いっ・・! 

 願う気持ちで目を閉じる。トゥルルル、トゥルル・・ガチャッ
『エリコっ!?エリコか?』
 こちらが何かを言う前に、Hな名無しは名前を呼びかけてくれた。だから尚更少し、安心したのか知らないが涙が尚更出て止まらない。
「Hな名無しぃ・・うっ・・えぅっ・・もっ、やだぁ・・助けてよぉっ・・」
『・・その様子だと、やっぱりか?』
 やっぱりか、ソレはイコール、プログラム。答えずに嗚咽だけをあげていると孝之が続けた。先ほどよりかは断然冷静になったらしく、声が静かになった。
『・・てっきり、俺らが選ばれたものだと思ってたけど・・な』
「ぅっ・・ひっく・・っ・・」
 それは、エリコだって思っていた。だから、イヤだと思って最初、泣いていたのに状況は逆。
「・・やだよぉ・・っ・・」
『待てよ、エリコ。本当にそれって、プログラムか?学校だろ?それに、こうやって連絡も出来てるし・・』
 それも、思っていた。けど、状況が状況だ。右手に携帯電話、そして左手には似た形をしたスタンガン。
「だって・・っく・・ぺしぺし、殺されっ・・」
『まさか・・それ、マジか?』
 この現場にいないHな名無しにはソレは簡単には理解できていないらしい。その証拠に、セリフの割には言い方は冷静だ。それが尚更遠く感じる。Hな名無しとの距離と、それから自分の居る現実と。
「本当だよぉっ!・・うぐっ・・ごほっ・・」
 思わず叫んでしまって咳き込む。電話の向こうでHな名無しが何かを言っていたが、お構いナシに続けた。
「これっ・・本当に、プログラム・・なんだよぉっ!?分かってんの!?」
『分かったから、落ち着いて・・』
「あっ、エリコっ・・それに、修一クンに攻撃だって・・しちゃったしっ・・」
 左手のスタンガンをもう一度見た。使い方なんて知らないけど、スイッチを押すだけでその効果は発揮された。
 出発した後、修一から声をかけられたときのことを、思い出す・・



 ディパックを抱きしめるように出発して、そして昇降口で修一クンに出会った。
 特に・・今思えば何ももっていなかったけど、ソレでも怖かった。
「エリコ、あのな、俺達合流しようと思ってるんだけど」
 俺達、まずこの単語に引っ掛る。
「俺達って・・誰?」
 恐々、聞いてみる。だって、他に誰もいないんだもの。エリコ自身と、よく知らない修一クン以外。
「あ。唐橋ユミとぱいくーがちょっと向こうに・・」
「向こうって・・どこ?」
 不意に、不安が一気に膨れ上がった。考えられるいくつもの可能性。それが、本当と言う可能性、嘘と言う可能性。
 けど、どれが本当かなんて分からない。だって、修一クンはよく知らない。小学校から一緒だったけど(このクラス、ほとんど同じだけど・・)それでも最初からグループが違うからよく知らない。
「・・って、聞いてる?」
 考えていると、その時急に修一クンが顔を覗き込んできた。身長もだいぶ差があるから、わざわざしゃがみこんでまで覗き込んできた。
 その時、どうかしていたのかもしれない。びっくりした。あるいは、変な可能性が脳裏に出てきてしまったのだ。
 嘘だと言うなら、もしかすると、隠し持っているナイフか何かで刺し殺してくるかもしれないと言う、可能性だって・・
「ひっ・・いやああ!!!」
 そんな可能性は、ほとんどなかったと思う。武器だって持ってなかったはずだ。今なら言える。けど、とっさのことだった。その時手にしていたスタンガンを思わず前に突き出す。そして、無造作に指を動かした。カチッと手ごたえがあって、同時にバチバチバチっという音と、修一クンの悲鳴。
「うわあああっ!!!」
 すぐにドタン、と鈍い音がして修一クンが左肩から綺麗に倒れる。持っているスタンガンからはまだバチバチバチと火花が散っている。
「・・ぅぅっ・・」
「・・っ・・!!!」
 倒れている修一クンの様子をただ、眺める。けど、けど、まだ修一クンが名前を出した唐橋ユミやぱいくーが戻ってくる気配もない。
 だから、修一クンが言っていたことはきっと・・そうだ、嘘だ。


 けど、今思えばソレはただの正当化。



「ど・・しよっ・・も・・ダメだよっ・・」
『・・大丈夫だって、な、だから・・』
 電話の向こうで、慰めようとしているのかHな名無しが静かに言った。
『俺だって、修一のことよく知らねーしさ・・まぁ、やりすぎ、かも知れないけど・・』
「・・もし、もしもだよっ?」
 鼻を啜って、制服の裾で目元を拭った。制服のグレーをより一層濃くする熱い涙は止まらない。
「修一クンが言ってた事、本当だったら・・どうしよう、って・・」
 もし、そうだったら・・勘違いでも起されたらどうなるか分からない。くどいけど、修一クンのことは、よく知らない。ううん、むしろ、グループ以外なんて全然知らないに等しいのに。


「修一の言ってたコトって、合流のコトかい?」


 ビクンッと大げさに思うほど方が揺れた。自分の声と電話先のHな名無しの声。そして、第三者。
 恐る恐る頭を上げた。あまりに必死になりすぎて気がつかなかった。自分のほぼ後ろに、その人物は歩き寄ってきていたのだ。
「あ。カギはちゃんと締めておいた方がイイと思うんだけど?」
 独特のネコッ口がニッと動いた。そしてまた、独特の細めも笑ってか尚更細くなる。その人物の名前は、駁だ。修一と同じグループで・・だから、尚更よく知らない。
「・・っ!!」
 どうしよう、と迷ってとりあえず電話を耳に当てたまま、左手のスタンガンを突き出した。今更だけど、利き手の右にスタンガンを持っていればよかった、と震える左手を見ながら後悔をする。
「まぁまぁ、落ち着いてよ。俺は別に殺しにきたワケじゃないしさ。」
 落ち着かせようとして笑っているのかは知らないが、駁は両手を挙げてそう言った。肩からかけているディパックは口は閉まってるけど・・
「それより。修一の合流の件だけど」
「あ・・あれって・・」
「アレ、本当だよ」
 ニッコリ、と駁は続けた。安心していいのか、或いは絶望していいのか分からない。そんなエリコを傍らに駁は続けた。
「メール・・読んでないの?」
「・・メール?」
 ずっと電話していたからそんなの読んでない。聞こえていたのか、電話の向こうでHな名無しが「一度、切るな」と言って一方的に切ってしまっていた。個人的な意見としてはそのままでいて欲しかった、んだけど・・
 スタンガンを向けたまま片手で操作をする。右手だけだからまだらくだ。コレばかりは携帯を持つのは利き手でよかったとか・・いってる場合でも、ないけど・・
「・・あ。」
 受信は3件。そのうちの1件はユミからだった。ソレを開いて読む。


[エリコへ★]

合流しよ!
ぱいくーとか、修一クンとかもいるから、みんなで脱出しよ!
3年2組にいるから!大丈夫、皆信じれるよ。ユミも信じて。


「・・ユミ・・」
 やっぱり。本当だったのか、と胸がジンとなった。エリコ、なんで、あんなことしたんだろう、自己嫌悪になる。
「で、君はどうするんだい?・・俺は向かおうと思ってたんだけど、声が聞こえたからさ。」
 途中アレだけ興奮して叫んでしまったのだ。声が筒抜けだったのは致し方ないけど。
「・・でも、エリコ、修一クン攻撃・・しちゃったし・・」
「けど、メール届いてるんだよね?じゃ、大丈夫だよ。修一はそんなに気にする性格してないし。」
 ようは、能天気。直人が笑って付け加えた。
「・・ま、俺もさっき突き放したんだけどさ、性懲りもなく考え直せよってメール着たしね」
 ポケットから携帯を取り出すと、適当にいじってエリコに画面を見せる。送信者 修一、タイトルはざーみるく、駁、岸利徹へ。内容はエリコとほぼ同じ。よく見ると最後に駁へ。考え直してくれ。俺は何とかなると思ってるからな。と付け加えている。
「ま、そーいうことだから・・ソレ、降ろしてくれるとありがたいんだけど。」
 ソレ、と指差すのはスタンガンだった。スイッチも入れていないからそのまま素直に下げる。
「あ・・うん・・ごめん・・」
「で、君はどうするんだい?」
 不意に駁が小首を傾げて尋ねる。どうする、とは?
「俺はさっきも言ったけど、教室に向かおうと思ってる」
 ああ、そういうこと・・か。
「うん・・ユミたちも居るみたいだし・・」
「じゃ、行こうか?」
 駁は踵を返して歩き出した。黒いディパックを担ぎなおす。エリコは立ち上がって追いかける。そして話しかけた。
「あのっ・・聞いて・・いい?」
「?」
 駁は小首をかしげながら足を止めて振り返った。エリコは一瞬迷いながら、尋ねた。
「あの・・エリコとか、信じれるの?」
 エリコだけじゃなく、エリコのグループ。と続けた。駁は一瞬だけ間を空けて答えた。
「信じれないとかじゃなくて、信じないといけないんじゃないかな?」
 凄く、曖昧な言い方だな、とエリコは思ったりしたが駁の言うことは間違っちゃいない。
「このクラス、バラバラだよね。」
「うん・・エリコ達のグループと、駁クン達のグループと」
 あとは余り・・なんて言い方は似つかわしくないけど。駁はそれでも言い返すことはなく頷いた。
「だから・・よく知らない人が多すぎる。」
 エリコが思っていたことを駁が言った。いや、もしかするとエリコだけでなく、駁と、それからそれ以外のクラスメートも考えているのかもしれない。グループ以外の交流が全くないゆえにほとんど知らない、存在なのかもしれない。
「もし・・脱出とかするんだったらさ、どれだけ信じないとダメなのか・・これが課題になるかもしれない、ってことかな?」
「さぁ・・?そうだとするんだったら、難しいんじゃない?」
 またニッと・・今度は少しだけ、嫌味が入った気がした。まぁ、駁はよく知らないけど、それでもなんだか理解できるようなそんな感じ。だから、余計に気持ち悪くて一瞬鳥肌が立った。
「む、難しい、って?」
「そのままの意味さ。」

 ピシャリ、と直人は言葉を出した。そして続ける。「一応、この状況ってコト、忘れちゃダメだからね。」
 この状況、と言うのはこれがプログラム、と言うことだ。それは・・忘れちゃいないけど。
「けど、信じないとダメ。それって、信じてる相手に命を預けているようなモノだよ?」
「・・それって?」
 イマイチ理解できずに小首をかしげる。駁は心なしに分からないのかい?と言いたげに少し皮肉を浮かべた笑いを出した。(エリコは少しムッとなったけど、もしかすると元々駁はこういう性格なのかもしれない、と勝手に解釈した。)
「ま、簡単に言ったら・・信じて殺されても文句は言えない、ってコト。誰かが誰かを殺しても、何で殺した?なんて聞けないさ」
 また一瞬、駁の言っている事に混乱を起こしそうだったが、何とか落ち着けて解釈した。
「それは・・状況が状況だから?」
 何で殺した?と聞いても、その誰かは間違いなく、こう答える。
「コレは、殺し合い、って言われたら・・何も言えないだろう?」
 ニッと、彼特有の笑いが目の前で起こっていたが、つられて笑う気にはなれない。分かっていた気もするが、これが状況で現状。
「・・・」
 なんとも言えなくなって黙ってそれを見ていたが、不意に駁が真顔になってエリコを見た。
「・・じゃあ、質問するよ?」
 少し間を空けて駁が言った。質問?急に何を言い出すのか、と思ったがそれを尋ねる前に駁が口を開いた。
「君は、俺を信じきれる?」
 何と単刀直入な聞き方だ、と逆に心臓が跳ねた。簡単なくせに、凄く回答は難しい。信じる、と答えるとする、そしたらさっきの会話を思い出す。
 信じたら殺されても文句は言えない。その通り。信じない、と言ったらどうなる?それだったらユミ達の誘いが無駄になる。けど、エリコはそんな事、望んでいない。
「・・・」
 答えれずに無言になってしまう。壁にかけてある時計がチッチッと音がするのが耳に届いた。それ以外はなんの音も聞こえない。
「・・難しい、質問だった?」
 駁がそう言うと手に持っていたディパックをドアに近い机の上に置いた。そして、両手を腰に当ててもう一度エリコを見た。
「俺は今、見ての通り何も持ってない・・けど、君は持ってるね。」
 右手に握りなおしていたスタンガンを少し強く握り締めた。今、駁は何も持っていないし、例のディパックも以前閉まったままだ。まさに素手。万一に絞め殺す、と言う手があったとしても、こっちにはスタンガンがあるから変には動けないはず。

「俺は今君を“信じて”素手でココに居る。だからソレで攻撃されても文句は言わないよ」
「攻撃なんかしないよ・・」
 信じる、信じないを別として、とりあえず言えることがあった。
「エリコは、誰も殺したくないし・・」
 これは絶対。駁がそうか、と言った。
「じゃ、これでいいかい?」
「何が?」
 急にこれでいい?なんて聞かれても理解できないんだけど。と思った矢先駁が分かっていないことに気が付き補足した。
「さっき聞いたよね?エリコとか、信じれるの?って」
 ああ、そうだった。色々と飛躍しすぎて忘れてた。そこから話は始まったんだっけ。
「あ・・うん。ごめんね、変なこと聞いて・・」
「いいよ。別に。」
 駁はそう言うとディパックを拾いなおして肩にかけた。
「ただ、俺だってこう見えて怖がりなんだからソレ。怖いんだけどね」
 ソレ、と駁は分かりやすくスタンガンを指差した。それにしても、駁がこんな発言をするなんて思わなかったんだけど。
「・・怖がり、なの?」
 尋ねながら駁は二ッと口元をゆがめて目を吊り上げて笑った。苦笑い。
「意外に見える?」
「うん・・まさかこう言われるとか、思ってなかったから。」
 そういいながら右手を自分のディパックの後ろに隠した。それを駁がじっと見やった。それに気がついて、エリコが続けた。
「・・ご、ごめんね、本当は・・なおすとか、するんだろうけど・・」
 普通は、そうだろう。けど、駁だってさっき言っていた。状況が状況。だからこれは手から離してはいけない。それが・・信じていない、と思われるかもしれないけど。
「けど、エリコ、みんなを信じようと思ってるから・・」
「・・大丈夫だよ。別にムジュンとか、思ってない。」
 それより、早く行こう、と駁が促してドアを出る。怒ってるかな、と思いながらエリコは着いていくことにした。右手のスタンガンが無意識に前に突き出る。何を言っても離すことが出来ないのは、怖いからだ。
「難しい・・んだよね・・」
 独り言を呟いて、歩き出した。


【残り16人】


 教室は、ここから出て左の方向だ。右に行くと化学室しかない。あるいは準備室がある。駁はドアの前で一度立ち止まって、なぜか科学室のほうに足を進めていた。どうかしたんだろうか、とエリコはドアから出ずに顔だけ覗き込むようにして、見た。
 駁はそこにいた。少し向こうの化学室に向けて足を動かしている。行き先は3年2組のハズなのに。と、エリコの中で疑問が浮かび上がる。
 すると、駁が急に振り返って手招きをした。そして口パクで何かを言っているけど、何かは分からない。けど、多分ちょっと来て、とかそんなのだろう。
 迷ったけどとりあえず極力ゆっくり、そして急いで足を動かした。駁は化学室の前で立ち止まっている。よく見ると化学室のドアが半開きで黒と緑のカーテンが中を見せないように入り口を覆っていた。パッと見、なんだか文化祭などのお化け屋敷、みたいな。(どうでもいいけど、この学校はもう生徒がいないから行事は他校と一緒にまとめてやられる。だからこの学校でこんな光景は見たことなかったけど。)
「・・誰か、いるのかもしれない」
 近くにいてかろうじて聞こえるような小さな声で駁がいい、エリコはそのカーテンを見つめた。完全に遮断されているため中は見えないけど、もしかすると誰かが息を潜めているのかもしれない。駁とエリコの会話を聞き、隠れて、ドアを閉めると音がするかもしれないから開けっ放しで、けど、中を見られるのは嫌だからカーテンを閉めて。
「俺、ちょっと見てくるよ。で、何かあったら呼ぶからソコで待ってて」
「え・・でも、危ないよ・・もし・・」
 駁の目線に気がついて、言葉を途切った。危ない、なんてことはきっと考えてはいけないのかもしれない。だって、信じることを前提に全員と合流しようとしているのだから。
「・・分かった。けど、無理はしないように」
「大丈夫だよ。」
 そんなエリコの心中を悟ったのか、淡々と答えるとカーテンに手をかけた。そして初めは顔だけ覗かして、そしてゆっくりと入っていった。入るときに少し中が見えたが、カーテンは全部閉まっており真っ暗だった。そんななかカーテンを開けると、明かりが入って誰か入ってきたかきっとバレバレだ。大丈夫、だといいんだけど。
 ううん、大丈夫って何が?信じること前提だって何度も思っているのに。いや、その前提、と言うのが一番の課題かもしれない。最初にするべきことで、一番難しい課題。
 エリコは、信じているから教室に向かおうとしている。駁クンもエリコと、皆を信じてるから一緒にいてくれている。そして、ユミたちも信じてくれてるからメールをくれた。
 大丈夫、きっと、大丈夫。皆、一緒だよ。皆、信じてるから。
 ふぅ、とため息をついた。その時、中からガシャンッというガラスの割れるような・・いや、アレはガラスの割れる音だ。音がして心臓が跳ね上がる。
「な・・何!?」
 思わず声に出してしまう。中では何が起こっている?またガシャン、ガシャンと音は続く。中にいた誰かが何かを投げつけているのかもしれない。どうしよう、どうする?
 悩む。中に入るか、逃げるか・・逃げちゃ、ダメなんだろうけど・・
 右手のスタンガンを強く握る。そういえば・・駁クン、武器、持ってたっけ?
 不意に思い返して余計に不安がよぎる。
「エリコサン!!来てくれっ!」
 何かあったら呼ぶから。この言葉が脳裏に浮かぶ。今、駁は呼んだ。と言うことは、何かがあったのだ。スタンガンを持つ手が汗で滑る。いつの間にか汗をかいてじめじめしている。気持ち悪い。けど、それ所じゃない。
「エリコサンっ!!」
 もう一度、呼ばれた。暗闇で何が起こっているのかわからない。また、ガシャンっと音がした。
 ゴクリ、と生唾を飲み込んで意を決す。カーテンに手を触れて、ガッとひいた。シャーッと音がして目の前に暗がりな世界が広がる。そっちの方向にスタンガンを向ける。今入り口のカーテンを開けたことにより光が入り込む。暗がりの世界。実験に使う台が6つ。それぞれ水道がついている。窓際には水道と、前に実験に使ったビーカーなどが干してある。後ろの方には、皆が気味が悪い、という何かをホルマリン漬けにしているモノ、とか・・
 そして前は先生が使う少し大きめの台と、黒板。台の上には白衣とか、なにか器具が置いてある。そして今度は床。光に反射しているのはガラスだ。さっきまで聞こえていたのはきっと、コレ。
 空を向いているスタンガンの先をほんの少し降ろした。だって、誰も、いない・・?
 そう思った矢先、ガッと横から手首をつかまれた。ビクッと体が勝手に震えると、少し悲鳴が出た。そして状況を把握しようとそっちの方向に目をやる。目が合った。
「・・た、駁クン・・?」
 駁だった。ニッと笑って(このときばかりは、雰囲気も合わさって尚更ゾクっとした)エリコの手をもっと強く握った。
「いっ・・な、何・・離してよ・・」
「んーちょっとムリ、かな。」
 以前少し口元が歪みつつ、駁は言った。ムリ、って何?意味が分からない。
「離して!離してくれないとっ!!」
 親指を無造作に動かす。スイッチの位置は分かっている。それに触れようとした瞬間、親指の付け根に何かが擦った。スッというか、ピッというか。しばらくしてから痛みが走る。
「いたっ・・!?」
 思わず手を引っ込めようとしたが、駁はソレを許さず、手首を力強く握り締めたままだった。だから、目を凝らす。親指の付け根に赤い線が一本。一瞬で状況が把握できなかったが、よくみると駁の左手には何かが握られていた。あれは・・【カッターナイフ】!しかもダンボールを切る時に使う大型の!
 スッとそのカッターナイフがエリコの首筋にやってきた。変に動くと危ない、という本能が体の動きを止める。同時に少し呼吸も止まった気がして、苦しい。
「ふぅん、分かってるじゃん」
 少し上機嫌そうに駁は言った。分かってるじゃん、と言うのは動いたら危ない、と言うことにだろうか。分からない。この、駁という人が分からない。
「とりあえず、死にたくなかったらソレ、離して。」
「・・待ってよ、これ・・どういう・・」
「黙って言うコト、聞いてくれない?」
 ギュッとさらに力を入れて握られる。実際はそんなに力は入っていないのかもしれないけど、無性に痛く感じる。
「っ・・先に・・答えてよ・・何を、考え・・」
「言うコト、聞けよ。」
 ゾクッと寒気がした。全身に鳥肌が立つ。そう感じるほど冷たく、ピシャリと。言われた。彼の口調はどことなく特徴的なのはさっき被服室で話しててなんとなく分かっていた。けど、この口調は彼らしくない。
「・・ぅ・・」
 無意識に喉から呻き声がこぼれて、右手を離した。ズルッと汗のせいで少し滑って、そして冷たい化学室の床に落ちた。ガシャン、とそれは大きな音を立てて落ちた後回転して少し先のガラスが散らばっているその脇に止まった。
 それを確認すると、駁はエリコの手を離して、後ろのカーテンを閉めた。これでまた暗闇に戻る。逃げようと思ったがそれは駁がカーテンを閉めたことにより、叶わなくなった。今すぐ走ってスタンガンを取りに行くのは手だったかもしれない。けど、それは暗くなったことと、そしてこの、恐怖心と言うのがエリコの足を止めていた。正しく言うなら、足がすくんで動けない。
「じゃあ、もう一度質問しようかな。」
 後ろから駁が声をかけてきた。その声が何となしに一層恐怖心を騒ぎ立てて・・ああ、ここで足がガクガク震えているのに気がついた。返事を待たずに駁は続けた。
「コレ、殺し合い中です・・君は、俺を信じきれる?」
 脳内が真っ白になった。そう言う風に感じた。なんともいえずに口をパクパク、酸素が取り込めない魚の用に動かして、目からは大粒の涙がこぼれた。足は以前震えていて、そしてへんに動くと殺されてしまう、と言う考えが白くなった脳内に単語として廻った。
 さっき駁は同じ質問をしていた。けど、殺し合い中です、と言う前提を付けるだけでその意味がなんだか大きく違った気がする。なによりもその状況だと実感してしまったのがダメだったのかもしれない。
「同じ質問、さっきもしたよね?」
「・・さっき・・その時・・駁クン、なんて答えたのよ・・?」
 さっき、同じ質問をした。被服室で。答えなかったエリコの代わりに駁が答えていたじゃないか。
 
“俺は今君を“信じて”素手でココに居る。だからソレで攻撃されても文句は言わないよ“

「それなのに・・」
 クスクス、駁は笑っていた。その光景が怖くてまた硬直する。どこに、笑うところがあるのよ、と考えた矢先に駁が勝手に答えてくれた。
「俺は攻撃してこないコトを“信じた”んだよ?俺が攻撃しないなんて、いつ言った?」
「・・!!!」
 考え直すと、そうだ。駁は一言も攻撃しない、とは言ってなかった。
「なっ・・何で?」
 思わず出た言葉は何か意味があっただろうか。駁は以前笑ったまま、続けた。
「愚問だね。殺し合いだから、そう言われたら何も言えないってさっき話したばかりじゃないの?」
 一気に絶望感が襲ってきた。そして、これは絶体絶命。今、唯一の武器のスタンガンは少し先に転がっている。取りにいこうとしても直人がソレを止めるだろう。それに彼はカッターナイフを持っている。それでも武器になりえることは理解できる。ソレを奪い取る?ムリだ。なんだかんだで男子と女子だ。いくら細身な駁といえども、力には差が有る。
「さて、俺には俺の都合があるから、ちょっとゴメンね?」
 ニッ。駁は笑うと、ポケットからハンカチを取り出した。暗がりだから少し目を凝らしたけど、ただのハンカチ。私物かどうかは知らないけど。だんだんソレが顔の前にやってくる。やってきた、と思った瞬間ソレが口と鼻を覆う。逃げようともがくが、駁の残った左手が頭を押さえる。
「んぐっ・・ん゛っ・・!!!」
「ジッとしてよ。頭ぶつける。」
 苦しい。コレ、なんかドラマとかで見たことある。クロロ・・なんとか?なんかそう言うの?ハンカチにつけて眠らすやつ。けど、苦しいだけで意識はまだある。
「ん゛ーっ・・!!」
 ブンブン、と首を振っていると不意にくらっと立ちくらみがした。気持ち悪くなって動くのをやめたとき、駁がハンカチを離した。慌ててしゃがみ込む。
「ごほっ・・げほっ・・うっ・・」
 眠気、じゃなくて吐き気がする。口元を押さえて吐きそうになるのを堪える。
「・・うぇっ・・うぅっ・・」
「やっぱ、あんなベタな方法じゃダメか。」
 駁がそういいながら、しゃがみ込んだエリコの前に立ちふさがった。バチバチっと聞き覚えのあるような音がしてゆっくりと向いた・・スタンガン。
「クロロホルムって言う薬品だね。見つけたから使ってみたけど・・やっぱあまり効果って薄いようだね。」
 薄いも何も、気持ち悪いだけだ。こんなの実際使えっこないと言うことに、今身をもって分かったけど、そんな悠長なことを言っている場合でもない。駁は気絶目的でそれを使った、と言うことがとっさに考えれた。だとすると、あのスタンガンだって危ない。
 もう、それあげるから逃がして、と願いたかったが、それこそ全くの無意味と言うことに気がつくのに時間はかからない。
 バチバチバチっとスタンガンが青白い光を出すたびに、元々笑っているように見える駁のネコッ口を浮かび上がらせる。
「・・気分、悪いの?」
「・・・っ!」
 駁はしゃがんで、たずねた。それを涙目で見るしか出来ない。走りたいけど、気分が悪いのは事実だ。
「カワイソウに。」
 そういいながらスタンガンを近づけてくる。ソレを避けようと体を後ろに動かした。ドンッとドアにぶつかって、逃げ場を失うのに時間はかからなかった。
「・・いっ・・」
 悲鳴をあげる前に、首筋に熱を感じる。すぐに全身に変な衝動が起きて、エリコはその場に倒れ付した。


【残り16人】

「で、集まった後だよな」
 メール送信後、それぞれお互いに考え事をしているように黙っていたが、しばらくして修一が口を開きだしたため、痛風を初めとする全員が貴一を向いた。それに答えるように声を出したのは唐橋ユミだった。
「とりあえず、どこかに隠れてる人もいると思うから探すのがいいよね」
 クラス全員にメールを送れたわけでもないし、それに絶対に来ると限ったことじゃないのは痛風も分かっていた。
「・・なぁ、ユミ。」
 不意にぱいくーがユミを向いて口を開いたため、今度はぱいくーに目線がいった。ぱいくーはユミだけに話をしようと思っていたせいか、修一と痛風ガ一斉に向いたことに少し驚いていたようだった。
「何?」
「あ・・一応聞くけど・・全員にメール、送ったのか?」
 全員、イコール、クラス全員じゃなくて、ユミやぱいくーのグループ・・ようは
「エリコと・・ナナ?」
 エリコとナナの名前を出す。ナナの名前が出たとき、痛風の中であの時の光景が浮かび上がった。あの、目。名前を聞くだけでゾクッと鳥肌が立つくらいだから相当怖かったんだな、と自分で考え込んだ。
 ユミはナナの名前を出す時、少し戸惑っているようにも見えた。それと同時に、ぱいくーもそれに少し反応していた。何も言わなかったが・・こうやって初めて会話らしい会話や表情を見ているうちに、ぱいくーは結構顔に出るタイプと言うことが分かった。
「・・送って、ない・・」
 小声でユミが言った。顔を少し俯かせる。ぱいくーはそうか、と言ってため息をついた。それがどういうことか痛風にはあまりよく分からない。けど、もしかすると痛風と同様に、ユミや、あるいはぱいくーもナナに抵抗があるんじゃないか、と思う。その理由までは分からないけどこの2人からはそんな感じがする。修一もそれを読み取ったのかもしれない。少し間を空けて他の話題を口に出した。
「とりあえず・・全員が出発し終わるまで待とうぜ。で、来なかった奴を探す、と。」
 これはさっきユミも言っていた通り決定事項だから今更言うものでもない。
「とりあえずそこから始めるとして・・今は大体でいいから今後を少しでも考えよう」
 修一はそういって自分のディパックを漁り、武器を取り出す。やたらとでかいナイフが出てきた。修一自身はすでに確認した後だったようで特に驚く様子は見せていなかった。
「それ・・修一の?」
 言うまでもなくそうなんだろうけど一応尋ねる。修一はそうだ、と言った。
「【ククリナイフ】・・っていうらしいけど、物騒だな」
 怪訝そうな表情をして、かつてぱいくーが置きっぱなしにしていた彼の木刀の隣に置いた。ユミもそれにしたがってずっと持ちっぱなしだったピッケルを置いた。
「ゴツいナイフに、木刀、ピッケルに・・痛風は?」
 ぱいくーが促すようにこちらを向いた。別に隠してるわけでもないからディパックから取り出す。持つ部分は木で出来ていてソレを掴んで引き上げる。先には鎖が数センチ続いている。その先にはトゲのついた鉄球が後から出てきた。ユミやぱいくー、そして修一も目を丸くしてそれを見た。最初、痛風自身もそんなんだったに違いない。
【モーニングスター】それがこの武器の名前。
「なんか、映画で見たこと・・あるな、それ」

「うん・・」 返事をしながら、とりあえずそれも机に並べる。それを修一がマジマジと見つめた。
「兵士?ってさ、銃持ってたよな」
 修一の呟きに脳裏を思い返す。ああ、もっていた。なんか大きい銃。ライフル?っていうのか知らないけど。
「銃持ってる兵士相手じゃ・・こんな武器は難しいね」
「それ以前に首輪、爆発させられるんじゃないのか?」
 ぱいくーの言うことはもっともだった。だから首をうなだれる。禍々しい武器を持ってても、兵士には対抗できないことが理解できて悲しい。
「そもそも・・銃とか支給、されてんのかな・・」
 思わず呟いてしまった。
「参加者が17人・・16人で、ここに居るのは4人で、銃は無し・・」
 ユミが武器を見つめながら言った。17人から16人に言い換えるとき、少し目を伏せていた。
「で、健太クンとエリコも銃じゃなかったから6人は銃じゃないってことだよね」
「残り10人のうち、一つでもあると思う?」
 ユミの考えに水を差すようで悪いけど、と思いながら全員に尋ねた。
「なんとも言えないよな・・今まで聞いた話とかでは普通に銃とかも、あったらしいけど」
 ぱいくーの言いたいことがなんとなく分かる。今まで従来なら銃とかナイフとかあったのかもしれないが、ここは住宅街の端にある学校だし、それに電話が使えると言う時点でどこかおかしい気もする。だからもしかすると普通、じゃないんじゃないかな、とか思ったりしたけど、結局この首輪といい・・これはプログラム、と変わりないことに気がつく。武器があろうと無かろうと、首輪を付けて殺しあうのがプログラム、だから。
「そもそも、銃があっても・・人数以上だぜ、相手」
 ぱいくーは少し、小さめの声で呟くと誰もが無言になった。修一も同じ意見だったのだと思う。その証拠にさっきまで話に入らずに見ているだけだった、と言える。
「・・とりあえず、これは保留しよ?まだ・・」
 ユミが呟いた時、コンコン、と誰かがノックをして全員がその方向を向いた。
 急なことだったに関わらず、驚くなんてことがなかった自分に少し驚いた。
「誰か来たな」
 修一が痛風の脇を通ってドアに近づいた。一応健太の事もあってカギをかけておくことにしておいたのだ。(修一は反対していたけど)修一は特に警戒もせずに鍵を開けると、その先の相手と話し始めた。普通、少しは警戒するべきじゃないかな、と思ったりしたけど(ぱいくーもそう思ったらしい。ユミに武器を持っていくべだよな、と話しているのが聞こえた。)どうやら今回は心配なかったらしい。
「まぁ、入れよ。」
 ソレが合図だったかのように、修一の脇を通って誰か、入ってきた。ばっちりと目が合う。
「よぉ、つぅ。」
 右手を開けて笑いながらそう言ったのは同じグループのざーみるくだった。
「ざーみるく」
「それに、ぱいくーと唐橋も。」
「ざーみるくクン、来てくれたんだね」
 ニコッ。笑ってユミが話しかけている。これもなんだか珍しい。
「まぁな。俺は殺し合いなんて嫌だからな。で、さっきメールに気がついて飛んできた。」
 そういえばざーみるくの出発は健太の次の次だ。だから少し遅れ気味、と言うことに今気が着いた。時計と名簿を組合して今頃玄米が出発した頃かな、と考えてみた。
「それでいいんだよーよかった。誰も来ないからさ」
 修一がそう言うと同じように時計を見て、「今頃、玄米か?」といっていた。やっていることが同じと言うことに少し笑えた。
「そういえば少ないな・・駁は?なんかメールの最後に書いてたよな。」
 不意にざーみるくは駁の名前を出した。メールの最後、というのが何を指しているのかは知らないけど、聞いた話じゃ駁は合流を拒否した、と言っていたけど。
「まだ来てない。」
 来ないんじゃないか、と言うのは分かっていたことかもしれない。修一は来ない、とまだ来てないと解釈して(あるいはそう信じて)答えた。ふーん、とざーみるくがいった。
「ってことは、とりあえず合流待ちか?」
「おう。俺達のグループにはもうメール回しているからな。ぱいくーたちの方もみん・・回してもらっている」
 皆、回してもらっている。と修一は言おうとしたに違いない。けど、言い直していた。全員じゃないと言うことはさっき分かってしまっている。
「・・そうか」
 ざーみるくは何かを感じたのか、とくに追及はしなかった。
「とりあえず今は合流待ちと、あと今後どうするかってことだけど・・なんか案ないか?」
「今後・・か。」
 ざーみるくは腕を組んで何かを考え出したようだった。すぐに口を開く。
「脱出、って言っても校舎周り兵士いっぱいいたぜ?」
 窓から覗いてみたけど、と付け加える。それはなんとなく覚悟していたけど。
「ざーみるくクンは、銃とか・・持ってたりしない?」
「銃?ないない。」
 即答してざーみるくはディパックをあさりだす。そして何か丸っこい物を取り出すとテーブルの上に放り投げた。なんの変哲もない【ビニール紐】
「お前等の武器・・スゲェな。これ、なんだっけ、なんとかスター?」
「モーンングスターだよ」
 掴みながらざーみるくが尋ねる。そして苦笑いした。
「俺・・しょぼいな。」
「今更。」
 修一がからかうように言うと、ざーみるくが少しむくれた。
「ほっとけ」
「悪い悪い」
 そんな会話を2人は続けている。武器を見ながら少し焦りが見えるのは私だけだろうか、と痛風は考えた。けど、その考えをぱいくーが口に出して言っていた。
「・・これで、銃がある可能性も減ったわけだな」
 そう、そういうこと。1丁や2丁の銃が仮にあっても向こうは何丁もある。だから一つでも多くあれば言いと思うけど、もしかすると0の可能性だってあるのだろう。
「0ってことは・・思いたくないよね」
 ため息混じりにユミが言ったことに、痛風はこっそりと頷いた。

 けど、やっぱり1丁の銃が仮にあったとしても・・いや、やめておくことにした。

 とりあえず、全員一緒になればいい。バラバラにならず、とりあえず、それが、とりあえずのあたしの、願い。 

【残り16人】

遠くの方で何かゴソゴソ、音がする。なんだか変なにおいが立ち込めている気がする。
 目の前は真っ暗・・ああ、目を閉じてるからか。
 なんで、こうなったんだっけ?考えるより、見た方が早いのかもしれない。
 エリコはゆっくりと目を開けた。ただ、目を開けた後のこの部屋も暗いせいでいまいち目を開けた間隔も無かったものだから数回瞬きをした。眉を寄せて辺りを見回そうそして、首が動かないことに気がついた。とりあえず目線だけで動かして、正面の入り口からそこが化学室と言うことを理解した。
 そしてすぐに、無理矢理下を向いて・・首に何かが食い込む感じがして首が絞まった。どうやら何か紐で壁のパイプと結び付けているのかも、という結論にたどり着く。
 立ったまま後ろのパイプに首と両手、そして両足が厳重に固定されている。このまま気絶していたら下手すれば首に紐が絡まって窒息死していたかもしれないが、“今現在は”それを免れていた。
 自分のこの状況を再確認すると、急に記憶が鮮明に蘇った。
「やっと気がついた?」
 右方向から声がして(どうでもいいけど、物音も右から声がしていた。)けど、紐のせいで振り向くことは出来なかった。それでも声の主は分かる。記憶はもう完全に蘇った。駁だ。見えないけど、あのネコッ口は笑いに歪んでいるのかもしれない。
「声、でない?」
 駁が見える位置までやってきて、尋ねた。それをキッと睨みつける。
「これ・・何?」
「よかった、声、出るんだね」
 エリコの質問には答えずに駁は笑ってそれだけ言うと、再び視界から消えた。少しそれを目で追って・・見えた。黒板の前の台に置いてあった白衣をマントのように広げてそれを羽織るのが見えた。それを見ると急に、虫の知らせ・・いや、今はそんな悠長なことを行っている場合でもない。事実だ。知らせる以前の問題。今すぐ起こる、現実・・
 心臓が高鳴って呼吸も少し荒くなる。恐怖心に一瞬だけ脳が真っ白になった。
 振り返って、駁はニッと笑った。そしてその横においてあったカッターナイフを手に持った。
「ちょっ・・冗談・・よね・・?」
 その嫌な予感を払いのけたくて尋ねた。
「こんなこと・・しても・・」
「じゃあ、質問するよ」
 また、質問・・これで何度目?3度目だっけ・・2回目の質問の彼の答えには、絶望だってした。今度は、一体・・?
 エリコが何も言わないと思ってか、駁は口を開いた。
「俺のコトどこまで知ってる?何でもいいよ。名前でも、生年月日とかでもいいから」
「・・は?」
 思いがけないことに、思わず我ながら間抜けな声を出してしまった。この期に及んで何を聞く?
「いいから、知ってるコト」
 知ってること?絶望を与えられるよりかはマシだとけど・・とりあえず脳裏に知っている限りの駁の情報を引きずり出す。
「駁クン・・読み方は、バクだよね。」
「うん、そう。」
「で・・えっと・・顔文字の人って呼ばれてるんだよね・・?」
 名前とか呼び名は知ってるけど生年月日なんて知らない。趣味?知ってるわけがない。部活?してなかったと思う・・血液型?そんなのだって知らない。
「えっと・・」
 もともとそんなに話したりもしないのに、知ってるわけがない。知っていたら逆に怖い。
 それは駁自身もきっとそれは分かっていると思う。だからこれ以上は答えないと解釈したようで口を開いた。
「駁。3月6日生まれのうお座でAB型。」
 サラサラと自己紹介を始める。ただ、呆然とソレを聞いてた。
「得意・・好きな教科は化学で苦手教科は体育」
 化学・・いつも満点近いとか聞いたことある・・それに、体育も結構男女混合ですることあるけど・・ああ、そういえば前にバスケしたとき、体力なくて試合早々疲れていた記憶がある。その時、駁クンって体力ないんだねって話をナナとしたような。
「エリコサンって、趣味は何?」
 不意に自分の趣味を聞かれる。こんなの今頃知ってどうするんだろう。答えて開放されるなら、喜んで答えるけど。
 エリコ、9月8日生まれのおとめ座のA型、趣味は
「趣味は・・萌えコピ、かなぁ・・」
 ほら、答えたよ。だから開放してよ。
 そんな考えが脳裏にふと思い浮かんだけど、駁は萌えコピか、と呟いていた。
「俺の趣味、知ってる?」
「知らない・・」
 知ってるわけがないじゃない。心の中で吐き捨てた。
「いいんだよ、知らなくて。皆知らないし」
 今度は口ばかりでなく、目も吊り上げて笑った。見てて上機嫌なんだ、と思えるほど嬉しそうに思える表情を彼は作った。間違っても過去、エリコの前でこんな顔をされたことはない。
 それ故の違和感だってあっただろうし、それに、趣味を知らないと、ソレを言っただけでここまで上機嫌に表すのは明らかに“異常”だ。

 ・・異常。 

 自分でその単語を出しておいて、急に寒気がした。目の前の上機嫌な駁を見た。化学室、白衣、刃物、僅かな明かりのアルコールランプ、机の上に青い手ある様々な実験に使うような器具、縛られている自分自身、そして、誰も知らない趣味の話をして、上機嫌になっている、駁。好きな教科は化学。

 パチン、パチンと一つが一つがパズルのようにくっ付く。出来上がった絵柄は・・

「・・まさか・・まさか・・」
 続きは恐ろしくて口には出来ない。駁が急にこわばった表情を見せたエリコに一瞬だけキョトン、と呆けた表情を見せていたが、それは本当に一瞬だけだった。
「俺の趣味は、グロテスクな画像を集めるコト、かなぁ・・あとあと、それから」
 嬉しそうに続けているが、こんなこと、聞きたくない。
「動物の体を、切り裂くの。小学生の時、よくウサギいなくなってたよね。犯人、俺。」
 サーッと血の気が引いていた。自分の考え、で通したかったけれども、駁自身の口からそう言われてしまった。
「なっ・・なんで、そんなー・・」
 思わず口から言葉がこぼれる。駁は笑って、近づいてきた。グングン近づいてきて顔先が目の前に来る。
「・・っ・・」
 息がかかるほど近づいてきたとき、ゆっくりと口を開いた。
「世の中にはね、変わった人も、沢山いてね。」
 怖くて顔を背けたかった。けど、今逆らえばどうなるのか考えるのも恐ろしくて、涙を湛えた目で見るのに集中した。
「女の体見たり、触ったりするよか、こういうコト性的感覚を得られる人も、居るんだよ。」
 ソレを言うと駁は離れた。急に力が抜けてガクン、と膝をつきたかったが縛られているせいで立ったままを続けなければならない。しかも、力を抜けば首の紐で首が絞まって息が止まる。
 もしかすると気絶している時、首が絞まる体勢になったら駁が戻していたんじゃないか、と言う考えにいたった。窒息で死なないため。何で?それは。
「いっ・・いやあああああああああ!!!!」
 声の出る限り叫んだ。そして逃れようと手を乱暴に動かした。引っ張って、ああ、丁寧に親指どうしでくくられてる。引きちぎろうと力を入れる。
 けど簡単には外れない。なんだか手先が痺れてる気までしてきた。コレ、血が止まってるんじゃないの?と思うくらいに。
「ほどいてっ!お願いだからぁっ!!」
 懇願できる相手は駁だけだ。涙目で叫んで頼んだ。けど、帰ってくる答えは当然とした物だ。
「イヤ」
 キッパリ。100%ダメです。
「っ・・誰かぁ!!助けてっ・・助けてぇえええええええ!!!!」
 固定された紐は外れない。焦りと恐怖が入り混じって泣き叫ぶしか出来ない。助けを呼ぶしか出来ない。誰でもいい、助けて、助けて助けて助けて助けてっ・・!!
「ククッ・・悲鳴上げてくれるのは嬉しいけどー・・ちょっとうるさ過ぎるかな」
 駁はいいながらまた近づいてくる。
「ヤダヤダヤダヤダっ!!来ないでっ・・来ないでよぉーっ!!」
 首を振って抵抗したい。けどソレも叶わない。だから叫ぶことしか出来ない。
「静かにしてくれる?」
 スッと、首元に駁は何かを押し付けた。それが例のごとくカッターナイフと言うことに気がつくのはそう時間はかからなかった。ズキッと右手の親指の付け根が痛んだ。一度切られた場所だ。
「・・ぅっ・・」
 まだ悲鳴が出そうだったけど、それを堪えた。ガクガク震える唇を噛んで止めた。今すぐ死ぬのと、少しでも生き延びるのは次元が違う。一分、一秒・・出来ればもっともっと生き続けたいけど、それは今は贅沢だ。だから、少しでも長く生きるために、さっきまでの悲鳴を誰かが聞いてくれるのを祈るだけだ。
 一度黙ったのを、駁は上機嫌に確認すると潔くカッターナイフを首筋から離してエリコの体を眺めた。なんとなく考えていることは分からないでもないけど、それでも考えたくないことだった。
「・・メスってどこにあるのか知らない?カエルの解剖とか教科書に載ってるくらいだからあると思うんだけど」
 俺のノート知らない?くらいなら、知らないよ?探してあげようか?とか思えるに違いない(あ。けどやっぱりそんな事ないかも。同じグループなら未だしも)
 けど、メス?メスって、手術に使う、ナイフだよね。なんでそんなのがいるの?手術?カエルの解剖?カエルなんてどこに居る?
 ・・そんなことを考えるのは気休め・・もう分かりきっている。分からない方が全然いいのに。
 そうこう考えている間に駁は科学準備室(横にあるドアが準備室。入ったことないけど)に入っていた。まさか本当にメスを探し出しているんじゃ、とゾッとした。けどそれはやはり、その通りなのだと思う。
 スゥと息を吸った。吐いた。深呼吸。とりあえず、落ち着けと脳から命令をだす。
 状況をもう一度、把握しよう。まず、首に紐が巻かれている。食いちぎりたいところだけどそんなに緩くないからムリだ。両手。両手はパイプに回されて固定されている。手首をぐるぐる巻き・・だと思う。そして親指もキッチリ締められている。爪で切り離そうとしたけど・・ああ、もうっ。なんで昨日爪を切っちゃったんだろ・・最悪、最悪っ。
 カリカリカリ、それでも続ければ切れるかもしれない。親指だけでも外れたら少しは変わるかもしれない。それから、足首も固定されている。地面に両足がピッタリとくっついている。そろえるようにして足首とパイプでつながれている。首に巻かれたロープのせいで下のほうは見えないけど・・あれ?
 足首をぐりぐり動かしてみる。手首に比べたら少し、緩い気がする。ううん、少し緩い。ちょっと隙間を感じる・・!
 足を擦り合わせて上靴を脱いだ。そして無理矢理その隙間から抜け出そうと足首を伸ばして奮闘する。
 かかとさえ通ればあとは簡単に抜けるはず。
「・・っ・・!!」
 痛い。簡単に外れるとは思っていないけど、やっぱり痛い。声を出さないようにもう一度唇を噛んだ。喉から勝手に声にならない声が出ているけど・・とりあえず、駁さえ来なければいい。靴下がずれる感触がした。あと少し、あと少し・・!!
 ズルンッと全身が揺れて、抜けた!!靴下が半分脱げたけど、そんなことはいい。抜けた!残りの足は抜けるも何も、必然的に最初から結ばれてなんかいなくなる。
 これで足が自由になった。やった、と叫びたかったけど、喜ぶのは早いし叫ぶのは危険だ。堪えてとりあえず両足を伸ばした。膝を曲げるとパキ、パキと音がした。
 さて、足が抜けた所であとは首と両手と。
 首が絞まるか絞まらないかの所まで下を向いて目線を下のほうに向ける。脱げかけた右足の靴下を左足でふんずけて脱ぐ。そして足を思い切り伸ばした。(しゃがみたかったけど、パイプを固定している金具があるせいで首がそこまでいけない。首が絞まってしまう。)
 そしてアルコールランプの光を少し映している、その、砕け散ったガラスに足を伸ばした。ガラス片を手に入れたら、なんらかの形で使えるかもしれない。さすがに足でソレを使って紐を切断、とかはムリかもしれないけど・・それでも、使える。
 ・・足でガラス片を掴んで・・駁を呼べばいい。で、なんとか近づけさせて・・それでも、無理はあるかもしれないけど、ガラス片で、一発で、駁クンの首筋を切る!
 ・・それは殺すって事だけど、ごめん、死ぬより、エリコはそっちを選ぶ。
 ・だって、そんな尋常じゃない死に方、嫌だから・・
 そのあと、落ち着いて紐を外そう。あるいは、誰かの助けを・・ああ、けどエリコが殺したことに変わりはないけど・・ううん、正当防衛だから・・
 大き目のガラスを選んでそれで足を切らないようにこっちに引きずって寄せた。ジリジリ、ジリジリ、とガラスと床のタイルの擦れる音がかすかに響く。少し準備室の方を見た。ドアは開いているけど、駁の姿は見えない。
 ジリジリ、と言う音か、あるいは駁が派手に探し物をしている音しか聞こえなかった科学室にふさわしくない音・・音楽が流れた。この曲知ってる。エリコ、好きだから・・じゃな、これ・・エリコのポケットから、携帯電話っ!!
「Hな名無し・・っ」
 この曲に設定しているのは、彼氏のHな名無しだ。一度切った後連絡がなかったから、かけてくれたんだっ!!
 少し喜んで、大半嫌だった。タイミングが、悪すぎる。もう少しでガラスが取れそうなのに・・!!思わず力を入れてしまう。少し丸みがかかっていたガラスの中心部に力を入れてしまって、バキッと音がした。砕けたらしい。
「イタッ・・」
 反射神経で足を引っ込める。バカっ!痛みなんて堪えないと・・!!
 もう一度足を動かそうとしたけど、やめた。
「学校ではマナーモードにしないと」
 駁だ。音を聞いて戻って来たのだった。近づいてきて(あと数分・・ううん、数秒後だったら・・)スカートのポケットに手を突っ込んで携帯電話を取り出した。そして勝手に出る。(蹴ろうとしたのに、足が動かなかった。無意識におびえているのだ。畜生。)
「もしもし」
 左耳に携帯電話を押し付けてエリコを向いた。
「なんだ、Hな名無しクンか。・・俺?駁。」
 右手に変な青い箱(クッキー缶みたい・・)を持っていたけど、それを台の上に置いた。そしてもう一度エリコの方を見て(足元を見られた。少し、不機嫌そうな表情になるのが分かった)話し続けていた。
「エリコサン・・さっきちょっと戦闘があって逸れて・・ああ、荷物もってたから」
 猫を思わせるつりあがった目が喋るな、と伝えていた。もし、叫ぶと今度こそ殺されるに違いない。けど・・逆を言えばきっとチャンスだ。
「うん、プログラム中さ・・え?でも、ぺしぺしサン殺されたし」
 叫んで、Hな名無しに声が届けば、上手く行けばHな名無しから仲のいいぱいくーとかに連絡が行くかも。そしたら・・危険性はあるけど、もし、連絡つくのが早かったら、助かるかもしれない・・駁の行動が分からないけど、足がある。蹴る事だって可能だ。
「信じれない・・まぁね。俺だって、そうだし・・全く、人を殺すなんてありえないよ」
 ニッ。分かりやすく笑ってこっちを見た。何、この人。殺すなんてありえない?だったら早く外してよ・・ううん、外してくれないことは十分に分かった。これからどうするのかも、十分に分かった。
 スゥッ、息を吸う。そして、吐くと同時に、叫ぶ。
「Hな名無しっ!!!助けてぇっ!!!言ってるコト、嘘だからっ!!殺される!!助けてっ!!化学室にいるからぁーっ!!!!」
 一気に叫んだため少し酸欠になった。クラッと目線が歪んだけど、キッと睨みつけるようにして堪える。駁が舌打ちをして箱から何かを取り出して近寄ってきた。何を取り出したのかは駁の体に隠れてしまって見えない・・まさか、メス?
「・・やっぱり聞こえた?うん、いるよ。代わって欲しい?」
 言いながら駁は携帯をエリコの耳に押し付けた。開き直ったのだろう。エリコ自身まさかこうなるとは予測していなかったから一瞬呆然、となった。
『エリコ!?これはどういう・・』
「っ!!それより!!早く誰かに仕えて!!助けてって!!化学室!!化学室にいるからって!!」
 ヒョイ。それだけだった。駁は携帯電話を話すと自分の耳に当てた。
「ちょっとショックとかでパニックになってるんだ。落ち着いたらまた連絡させようか?」
「Hな名無しっ!!お願いだからっ!!早く、早くぅっ!!!」
「ああ、コレだけ混乱してるから控えた方がいいと思って・・ゴメンね。」
「余計なこと言わないでよぉっ!!嘘つきっ!!」
 何を言ってる?さっきから。混乱?落ち着いたら?控えた方がいい?ふざけないでっ!!
「Hな名無しっ!!早くっ!!」
 叫ぶ。こんな話聞かなくていい、今は助けて。お願い。
「もう、切れてるよ。」
 携帯を折りたたんで駁はそれを一度眺めた後思い切り壁にたたきつけた。鈍い音がしたけど割れるまではいかなかった。多分、壊れちゃいないだろうけど・・そんなことより。
「さてと、お姫様を助けるために王子様がやってくるのかな?」
「・・・」
 わざわざ目を見てくる。そむけた。見ていたくない。
「誰か来るかな?ぱいくークンかな?」
「・・知らないよ・・そんなの・・」
 まぁ、連絡が行くとするなら多分その辺が妥当だと思う。クラス内の同じグループの誰かだ。
「もしぱいくークンに伝わったら修一とかにも繋がるんだろうね」
 そうだぱいくーとそれから同じグループのユミ、それからこの駁と同じグループの修一は一緒に居るんだった。だからもしぱいくーあたりに、“駁が化学室でエリコを殺そうとしている”と言う情報が回れば必然的に修一や駁のグループにもそれは回る。だから、それは考え直すとよかった。チャンスだ。同じグループの駁を止めるのはエリコやぱいくーよりかは、出来ると思う。(聞くかどうか、だけど。)
 あとは時間さえ稼げばいい。誰か来るまで。


【残り16人】


 もうすぐ、Hな名無しからぱいくー辺りに連絡が行くだろう。だから、それまで耐えればいい。
 エリコはそう考えていたけど、眼前の駁は思いのほか冷静に見えた。何も言わずにただこっちを見てニッと笑っているのに気味が悪くさえ感じる。
「・・今、解いてくれるんだったら、Hな名無しの勘違いだった、って皆に伝えてあげるよ?」
 もちろんコレは嘘だけど、こんな立ったまま苦しい恰好で居るのも疲れる。少し力を抜けば首が絞まりそうだ。
 だけど、駁の返事は思いがけない物だった。
「何言ってるの?」
「・・え?」
 何言ってるの、ってそのままじゃない。今解放してくれたら、殺そうとした現実をなかったことにしてあげる、ってそう言ってるの(嘘だけど)
「本当に、誰か来ると思う?」
「く、来るわよ・・」
「Hな名無しクンがもし、誰にも知らせなかったら・・とか考えないんだ?」
 それは考えもしなかった。けど、そんなことはない。きっと、ハッタリ。嘘だ。騙されるな。思い出せ。エリコは一度騙されたんだ。
「・・言っててよ。絶対に誰か来てくれる・・」
 言いながら何故か不安になる自分がいた。なんで?Hな名無しを信用して・・しろよ、エリコ。
「ま、仮にそうだとしても、止めないけどね。」
「なっ・・」
 駁は左手でエリコの唇を掴んだ。急なことに払おうとしたけど首を固定されている上、肘を使ってまで押し付けられたため無理なことだった。
 それでも足を振り回した。数回当たった感触があるのに駁は怯みもしなかった。それはそうかもしれない。腹部に命中するなら未だしもあたっている場所は足を掠ったり、そんな感じ。怯むほどの痛みもない。それに、体制的にも駁の方が圧倒的に有利だった。
 カチカチと音を鳴らしながらさっき手に取っていた箱の中の何か・・あれは、ホッチキスだ。それを近づけてきた。

 嘘でしょ、まさか・・

「声でばれてもイヤだから、黙っててね」
「・・!!!」
 バチン!唇の真ん中に感覚があった。ピアスをあけるような、そんな感覚・・
 それは一箇所にとどまらない。バチン、バチン、バチン、唇の左右に2箇所ずつ増やしていく。
「・・っ!!んっ!!!」
 痛い・・思い切り口を開けたら・・裂けるだろうけど・・それでも、こじ開けようとした。
「ん゛っ・・んぐっ・・んー」
 痛みに勝手に顔が震える。呼吸も上手く取れない。痛い痛い・・痛いっ・・
「ぐっ・・ん・・」
 その光景を見て駁は笑っている。少し声が漏れるほど。そんなにおかしい表情をしている?多分、自分でも見ていられないような酷い表情をしているのかもしれない。普通の人間だったら痛々しくて見ていられないに違いない・・そうだ、駁は普通じゃない・・異常、だ。さっき、思っていたことじゃないか。
 プツプツと唇が裂ける感触が感じられた。そのたびに痛みに震える唇から悲鳴が出た。あと少しで開けそうだけど、一気にいくのは怖い・・
「・・すぐに開くのも面白くないね」
 そう言いながらまたホッチキスを取り出す。
「・・おっ・・ん゛っ・・てっ」
 もうやめて。言葉に出来きっていないだろうけどそれでもきっと通じているはずだ。けど、ソレを聞くはずもない。血にぬれた唇を掴んだ。ホッチキスを近づけた。避け様にも、やはり避けきれない。目を閉じた。バチン、バチンとまた何度も何度も音がした。何回も。メチャクチャに。
「んっ・・ぅう・・ん゛―ぅう゛っ・・」
 もう、無理、これ以上口を開けようとも思わない。完全に閉じられた口から泣き声が漏れる。閉じた目からは止まらずに涙が溢れる。
 もう、口を開けるのはやめた。前向きに考えてみようかな。誰か来るのを待てばいい。ソレまで、生きていたらいいんだから。ぱいくーか誰かに連絡は行っただろうか?教室だっけ?少し遠いかもしれないけど、出来れば急いでくれると、ありがたいなー・・
「うう゛っ!!ん゛・・むぐっ」
 そうのんきに考えるフリをしても実際は無理だった、勝手に声を出している。もう自分でも何を叫んでいるのか分からない。多分、助けて、とかそんなんだろうけど・・
 駁は上機嫌そうだった。こんな光景を眺めているからだろうか。
 台の方に戻ってホッチキスを直した。そして今度は大型のカッターナイフを取り出した。
「メスは見当たらなかったからさ」
 カチカチカチ、と本体から大きな刃が出てくる。駁はそれを伏せ目がちに見ると、指先で刃に軽く触れた。
「多分あの棚の奥にあると思うんだけど・・まぁ、いっか。」
 刃が欠けていないかどうかを確認して、エリコを向いた。そしてまたジリジリと寄ってくると制服のリボンに手を触れた。制服のリボンはフック形式だから簡単に外れる。
「・・っ!!んむ゛っ!!んーっ!!ぐぅっ!!」
「まだ静かにしておいてよ。大丈夫。裸に興味ないから。」
 今度はグレーのカッターシャツ(今気がついたけど、ブレザーは脱がされていた。何処かの机の上においてあるのかもしれない)のボタンをカッターナイフで一つ一つ外していく。
「んっ!!!ん゛―!!む゛ぅっ!!」
 同じ脱がされるなら、切り裂かれるよりかは、強姦されるほうがまだマシだ。命あるだけ、マシだ!!なんで、エリコはこんな状況になってるの?
「う゛っ・・!!ん゛―!んぐぅっ!」

 助けて、早く、助けて、助けて、早く、早く、早く、助けて、助けて、イヤだ、やめて、やめて、お願い、やめて、助けて、早く、助けて、やめて、イヤだ、イヤだ、イヤだ、お願い、お願い、助けて、助けて、助けて・・・っ!!!

 “異常”な駁にそんな願いが届くわけもなく、ボタンが全部外れて前が開いた。キャミソールとか普段から着ないから上は下着だけだ。普段なら恥ずかしい、か思うかもしれないけど、今はそんな悠長に普段なんていっていれない。
 もうぱいくーだろうと修一だろうと、誰でもいいから助けて欲しい。

「さてと、どこから切ろうかな」
「・・っ!!ん゛っ!!んん゛!!」
「大丈夫大丈夫。大事な血管切らないように気をつけるし、だから動かないでね」
 もう会話も成立しない。いや、初めから成立なんてしていなかったのかもしれない。駁が信じること、の話をしているときから。
「ココ、横に切ると腸が出て来るんだよ」
 スッとへその上を横に指でなぞる。ビクッと体が揺れる。一瞬カッターだと思った。駁はその反応を素直に喜んでいるようだった。
「でもカッターだしね・・上手く出来るかな」
 困ったように、それでも上機嫌だ。そんなに人の体を切るのが楽しみなのか。(そんなに動物の体を切り裂くのが楽しいのか)
 今度は心なしゾクッと冷たく感じる感覚がわき腹辺りに来た。そしてそれとどうじに来るべき時が着てしまった。誰でもいいから、助けに来てと願っていたけど、これももうタイムリミット。
「・・っ・・!!」
 スーッと横に感触が有る。ゆっくりとそれは右方向に動いていく。
「ん゛―っ!!ぐぅっんっ!!!!!」
 痛いなんてものじゃなかった。こんな痛みは今まで受けたこともない。熱い涙が大粒に鳴って落ちる。悲鳴を大きく上げる。ブチブチと唇が裂け始めて血が流れ始めていたけど、それより酷い腹部の痛みでそんなのを気にしている場合でもなかった。
「・・ぅつ・・むぐっ・・」
 ぼやけてはっきりと見えない目を遠くに見た。同時に、痛みと恐怖とで急に目の前が真っ暗になった。



「・・キゼツ、したかな?」
 駁はカッターナイフを腹部からはがすと、エリコのほほを軽く叩いてみた。
「ホラ、起きて起きて」
 瞼が少しピクリ、と動いたためまだ生きていると判断する。それをみて、ニタリ、と笑った。(というより、勝手に動いたんだけどね。)
 腹部は思いのほか切りにくくて内臓まではいたっていない。まだまだ満足するためにはもっと深く切り刻まないと気がすまない。だって、そう言う性癖。誰かが苦しめば苦しむほど。
「ん゛・・っ・・」
 気絶したばかりのエリコをたたき起こす。完全に怯えているその表情を見て、少しゾクッとした。それをエリコも感じてか、泣き始める。
「もっと、楽しませてくれないと。」
「ぐすっ・・んぐっ・・」
 意味なくカッターナイフをカチカチ刃を出し入れしていたが、少し長めに止めてからもう一度・・今度は思い切って差し込もうと両手で構えた。エリコはそれを目をおおきく見開いて、見ていた。
 さすがにこう刺したら、死んじゃうかな?
 そう思ったりしたけど・・考え直した。これがプログラムといえる以上、まだ解剖できる人間はいくらでもいる。殺してもいい人が、まだいる。誰でもいいから捕まえて(スタンガンも手に入ったことだし)またこうやって刻めばいい。今度はソレまでに、メスを探そうかな。どこだろう。きっと化学室だからあると思うんだけど。
「んっ!!うぅう゛っ!!」
 エリコは何度もやめて、とか助けてを繰り返して叫んでいる。目もそう訴えかけている。分かってる、けど
「ありがとう。とりあえず楽しませてくれて。」
 自分でも最高の笑顔を作ると、カッターナイフをそのままさっき線を付けた腹部に突き刺した。カッターナイフだから上手くさせないだろう、と思っていたけど一度切り込みを入れたせいか見事に突き刺さった。そのまま力を入れてもっと深く差し込む。エリコの唇の隙間から悲鳴と、それから血が出てきた。あ。死んだかな、とか考えながら力を入れたままカッターナイフを横に動かす。ズルズル手ごたえがして肉と皮が裂けていく。


 しばらくすると、エリコが痙攣して悲鳴を上げなくなった。
 その頃には、駁のとりあえずの要求としては十分に満たされていた。


エリコ 死亡
【残り15人】

体育館の中は静まり返っていた。それもそのはずだ。さっきまで唯一自分以外に残っていたみやこが出発したことによりみやこのすすり泣く声がなくなったからであって、そして自分と管理人(今は担当教官、とでも言うのかもしれないけど)のもえたろ、そして数人の、置物と思われるほど微動だにしない兵士が居るだけ・・ああ、そうだ。置物といってはアレだけど、ぺしぺしの死体もある。爆発したこの銀色の首輪は破裂すると同時に首の頚動脈を切り裂くらしい。
 あの時、爆発した時。泣きながら懇願していた。止めてと。止めることは可能なはずだ。痛風の時には止めていたから。どうしてもえたろうが痛風の首輪の爆発を止めたのかは分からない。けど、とりあえずは止めれるはずだけど、そうはしなかった。そりゃ、時間の都合とか話していたけど、そんなことでなんてバカらしすぎる。
 一緒に乗り込もうとした(いや、むしろ乗り込もうとした張本人、何故かぺしぺしは彼女のマネばかりしていることは知っている。)ナナが呆然とソレを見ている。痛風の事もあったから誰かを殺す、なんてことはしないだろう、と結論付けていたのかもしれない。だからぺしぺしの首輪が爆発し、死ぬと言うことにナナがかなり驚いていたのを覚えている。
 その後の体育館の中といえば、悲鳴と泣き声。誰かの嘔吐する音さえ聞こえた気もしたけど、悲鳴の方が耳に残っていた。見ていたのは首から血を噴出して倒れるぺしぺしの姿と、それをただ驚いて眺めているナナ、そして・・もえたろうもまた、少し呆然としているように見えたが、それは一瞬だった。その後は死にたくなければ黙りなさい。とマイクを使い全員を静かにさせる。
 それからもう数分。誰も喋ることもなく黙々と出発していく。さすがのナナでさえあの惨劇を目の前で見せ付けられていたのだ。黙って・・少し睨みつけていた気もするけどディパックを受け取って出て行った。
「じゃあ、そろそろ出発しましょうか、岸利徹。」
「・・はい」
 別に返事はしなくて良かったんだろうけど(誰もしてなかったし)なんとなく返事をして岸利徹は立ち上がった。これで考え込む時間も終わり。あとはどうするか。行動をとるしかないけど。
「先生・・あの」
「なんですか?」
「あ・・えっと、これ・・プログラム、なんですよね?」
 もえたろうは小首をかしげる、自分も何で声をかけたのかはいまいち分からない。何を聞いてるんだろうか。
「・・そうですよ・・何か気になることでも?」
「えっ・・あ、なんで学校で、とか。一応住宅街の一角じゃないですか、音とか、迷惑に・・」
 自分は何を聞いているんだろう。思わず話しかけて、聞くことは変だ。
「それはそうかもしれませんね。けど、今回は銃器類はありませんのでそんなにも騒音は起きないと思います」
 岸利徹自身何が言いたいのかわかっていなかったのに、意外とあっさりもえたろうは答えた。
「それより、早く出発しなさい。この辺禁止教室にしますよ。」
「あ・・はい」
 そうなればぺしぺしの二の舞だ。とりあえず出ようと思い、足を進める。30代半ばくらいの兵士が残り2つの内の手前の方の黒いディパックを手に持ってこちらを向いた。あれが自分の武器になる。
 それを無造作に投げつけられて、なさけなく取り損ねた。自分の脇を通って後ろにディパックが吹っ飛ぶ。誰も・・運動が苦手な駁でさえキチンとキャッチしていたのに。
 後ろを振り返ってソレを拾う。頭を上げると気まずくもえたろうと目が合った。あわてて目線を落とすとぺしぺしの死体が目に入る。
「・・ぁ」
 無意識に声が出て、もえたろうはまた首をかしげた。まだ、何かあるのかと言いたげだ。別にそういう事ではない。
 あ、けど、疑問があった。不意にその疑問が浮かぶ。それは多分、オレだけじゃない。クラス、全員が持ったかもしれない疑問。
「あ・・の、なんで、つぅの・・痛風の首輪、爆発」
「早く行きなさい。」
 ピシャリと言い切られる。無駄話をしないで早く行け。と目が訴えている。
 これ以上はやめておいた。くどいけど、二の舞になるのはゴメンだった。
 それに理由があるか否かは分からない。ただ、とりあえずもえたろうは早く行け、とだけ促している。
「・・・」
 グッとディパックを抱きしめると・・結構スカスカしていた。けど、赤ん坊のように抱きしめて、そのまま走り出した。


 ドアを出ると、いつも見慣れているはずの道に関わらずなんとなく違和感を感じる。別にそれも深い意味は無いのかもしれない。ただ、なんとなく。
 ディパックを以前抱きしめたまま、誰か1人くらい居るのではないか、と考えて見回す。自分は一番最後だ。だから、1人くらい居るはず。そろそろと歩き出して、最初の角を曲がる。
 人影が、あった。
「・・岸利!!」
「みやこ!」
 その人影は自分より先に出たみやこだった。以前半泣きになりながら駆け寄ってくる。そしてほとんど抱きつくように・・いや、抱きついてきた。みやこは人に抱きつくクセがあることは当の昔・・とは言っても中2の初めくらいか、から知っている。よく普段からからかって抱きついてきたりしているが、未だに馴れなくてそのたびに赤面している。と、第3者的立場としてざーみるくに言われる。駁もそんなこと・・いや、グループ内の全員がそういって女子軍がからかって抱きついてくることがある。
 今だって急に恥かしさで体温が上がって顔が赤くなっているに違いない。
 けれども、今はその第3者もからかう人もいない状況で、そしてそんな日々も失われつつあるのだ。
「・・み、みやこ・・」
 そんな考えを飛ばそうと思い、名前を呼ぶ。みやこも岸利が毎度ながら照れていることに気が付き、とりあえずゴメン、と言いながら離れた。そしてすぐに笑顔になる。
「えへへ。やっぱり赤面してるー」
 少し目が潤んでいたけど、それでも笑顔でみやこは言った。ちょっと無理しているところがあるということはすぐに見て分かったからそれには突っ込まない。だから逆に乗ることにした。
「うっせー。免疫がないんだよ」
「うん、知ってるよ。」
 みやこも岸利の態度が分かってか乗るように笑いかける。けど、それは思いのほかすぐに崩れて、少しまたみやこの表情が崩れた。
「あはは・・なんでだろ、やっぱり調子・・戻せないな」
 岸利徹は無言で眺めた。苦笑い。本当は極力明るい姿を見せていたい、というのはみやこの性格上では当たり前のことだと思う。いや、自分たちのグループはきっと皆がそういう性格をしていると思うけど。
「それより・・行く?」
「どこに?」
「どこって、メール見てない・・よね、そりゃ。」
 そういいながらみやこはポケットから赤い携帯電話を取り出した。そしてそれを開くと両手でカチカチいじって、画面を見せた。その間に岸利徹も携帯を取り出す。受信か着信かしたのか、光っている。けどソレを開くより先にみやこの携帯を見た。少し反射して見えたので目をしかめる。
 それは痛風からのメールだった。教室にいるから着てくれと、合流しようと言う内容だった。ソレを確認してから携帯をいじる。届いていた。修一からのメール。
「全員合流してるんだ」
 呟いて、みやこを見た。
「行くだろ?」
 尋ねると、みやこは無言で携帯をたたんでポケットにしまいこんだ。てっきり岸利徹自身は即答で返事が返ってくると思っていたからなんとなくそれに違和感を感じた。
「・・みやこ?」
「あのさ」
 俯き加減になっていたみやこが頭を上げた。表情には不安が移っていると同時に、真面目だった。
「・・嫌な奴って、思っていいから」
 小さな声だった。
「あたし・・ちょっとだけ、嫌」
 もともと表情を読みやすいみやこだ(ポーカーのとき、それがよく表れていた。それも大分前の話。)ハッキリ言うと、行きたくなさそうなのは分かっていたけど、実際言われると少しショックだった。
「何で?」
 出来るだけそのショック、という感情を表さないために冷静を装って言った。みやこはそれに気付かなかったようで、これまた小さめな声で続けた。
「だって・・信じれない、もん・・」
「誰を?」
 尋ねてから一定間間が開いた。けど、しばらくすると観念するように、ポツリ、と言った。
「・・つぅと、ナナさん・・」
 痛風の名前が出るのは、予測できないことは無かった。ナナの一言で全員に疑われるような状態になってしまったのだ。
 まさか、仲のいいみやこ・・グループ達に限ってそんなことを言うはずがないと信じていたのに、これほど大きなショックも無かった。
「・・何で?」
「・・・」
 みやこは無言だった。理由は聞くまでも無かったのかもしれない。
「ナナ、っていうのは?」
「・・怖いの。」
 またウルウルと涙が目に溜まっていた。流れるまでにはまだ出ていないが、時間の問題だと思う。
「つぅと、ナナさん・・どっちを信じていいのか、わかんない・・」
「なんで、そんなこと言うんだ?」
 少し言い方がきつかったかもしれない。みやこが少し驚いたように頭を上げた。
「確かに、痛風は怪しい感じはしたけどさ、あいつだって知らないって言ってたじゃないか。」
 言うとみやこは今度こそ、大粒の涙を流した。何か、まずいことでも言っただろうか?
 そんなことを考えていると、みやこが何かを呟いていた。
「・・じゃないっ・・」
「え・・?」
「そんな事・・関係ないよぉ・・」
 みやこが制服の袖で目元を拭う。関係ない?何が?あの時のことは関係ない?じゃあ、なんで?疑問ばかりが浮かぶ。
「けど、どっちにしろ教室には修一とかぱいくーとか、あと唐橋ユミサンも居るんだろ?」
「・・そう、だけど・・」



「なに、ソレ。どういうこと?」




 不意に聞こえた第3者の声。みやこが驚いて肩を震わせていた。岸利もそれは例外ではなく、左方面を見た。
 今、話に出てきていたナナの姿が、そこにあった。みやこはもしかして聞かれていたかも、という不安があったのかもしれない。少し目に怯えが見えた。
 そんなみやこを見て一度怪訝そうな表情をナナはしていたが、少し笑顔になった。間違っても過去こんな笑顔を見せ付けられたことはない。だから岸利も逆に怖くなって、眉を寄せた。
「誤解しないで。私は・・あんた達が思ってるみたいに、こんな下らないことする気は無いの」
 最後は笑顔が無くなってソレこそよく見る不機嫌そうな表情を見せた。
「絶対にもえたろうを許さない・・だから、アイツと話をしに行こうと思ったんだけど・・今の会話、どういう意味?」
 初めの方は怒りが篭った言い方だった。だからもえたろうに対して極度の怒りをもっていると言うことは説明時の行動から思い返して理解できた。みやこもソレを感じ取ってか、怯えが消えつつあるようだった。
「全員で合流して、脱出の方法考えようって・・」
「全員・・?2人とも、そのメールきてたの?」
 ナナはそう言うと自分の携帯を無言で取り出して、すぐに仕舞った。どうやら届いていなかったのかもしれない。
「まぁ、いいわ・・」
 それだけ呟くとナナは黙り込んだ。代わりにみやこが口を開く。
「ねぇ、ナナサン・・」
「・・何?」
「さっきの、聞いてた?」
 おずおず尋ねるとナナは少し目線を逸らして答えた。
「・・私と痛風さんを信じれないって話?」
 聞いてたんだ、とみやこが呟くのを岸利徹は聞いた。ソレについて何かを言おうと思ったが、さきにナナが口を開いたのでやめた。
「別に、いいよ。そう思われても仕方ない奴なんだろうし・・分かってるつもり。私が皆に嫌われてるくらい。」
 ため息をついて、そしてみやこを落ち着かせようとしているか少し笑顔・・苦笑いを見せていた。知らなかった。いままで突っかかるような性格をしているとしか思っていなかったんだけど、実際はそうでもなかったのかもしれない。
 でも、彼女が刺身野郎を虐めていたと言うのは現実だ。理由は知らないけど。
「・・ごめんなさい」
 みやこは素直に頭を下げて謝ると、ナナはいいって、といって腰に手を当てた。
「教室に、ユミとかいるの?」
「うん、ぱいくー達もいるみたい」
「私も一緒に行っていい?・・メールは、来てないけど」
 最後のほう、不機嫌そうだった。のけ者にされたのかどうかは知らないけど、とりあえず痛風や修一からナナにメールが行くことは100%なかったといえる。だから同じグループのこちらからはなんとも言えない。
「オレは全然。」
「あたしも、問題ない、けど・・」
「私と痛風サン?」
 尋ねると、みやこは首を横に振った。
「ナナサンは・・話して分かったけど、痛風はまだ、なんとも言いがたくて・・」
「・・それって、私のせい?」
 みやこは無言で首を横に振った。それは関係ないとさっきみやこ自身も言っていた。その理由は結局聞きそびれているけど、尋ねる前にまたみやこが口を開いた。
「・・行こ。話したら分かるのかも・・」
 みやこが歩き出した。岸利と、それからナナも意味が分からず小首をかしげていたが、先に歩き出したみやこを追って歩き出した。


【残り15人】


「化学室?・・おい、それ・・マジかよ?」
 ぱいくーが電話をしている。痛風と唐橋ユミ、ざーみるく、修一はそれに耳を傾け、無言で見守っていた。
 ぱいくーの電話相手の・・Hな名無しって言う人・・隣のクラスのHな名無しだろう。うん、名前は知ってる。まだ1組がプログラムに選ばれたと思っていたときにエリコが泣きながら心配していた彼だ。
 その彼がわざわざ、電話をしてくれているのだ。エリコ関係と言うことはなんとなく分かった。それから、化学室。エリコが化学室にいると言うことだろう。
 ぱいくーはさっきから相槌くらいしかついていない。あるいは今はプログラムと言う説明をしている。どうやら電話の向こうはそうそう信じてくれていないらしい。
「分かった・・とりあえず向かってみる・・え?あ・・なんとも・・」
 チラリ、とぱいくーは修一の顔を眺めた。修一が「?」という記号を出しながら小首をかしげる。
「まぁ・・オレはこんなのごめんだからな。とりあえず・・うん、やってみる」
 パッと目線を離して今度は机の上のそれぞれの武器を眺める。すこし目を伏せて悲しそうな顔をしているようにみえた。
「大丈夫・・なのかは分からないけど、大丈夫・・生きて帰るから。また、会おうな」
 なんとなく、ズキンと胸が重くなった。生きて帰るから、また、会おうな・・口では簡単に言えるけど実際はものすごく厳しいのだ。殺し合い、学校と言う名前の牢獄。首には爆弾。生きて帰れるのは、1人。けど、あたし達はそれを覆そうと無謀なことを考えている。
 重くて苦しい。聞くだけで泣きたくなってしまった。出来ない可能性があると考えてしまった自分が、いやだ。
 パチン、と携帯電話を折りたたんでぱいくーは武器から目を離して全員を向いた。
「Hな名無しから?」
 ユミが尋ねるとぱいくーは頷いた。そして続ける。
「化学室にエリコがいるらしい・・けど」
 少し言いにくそうな表情をしている。痛風はそれがいい意味ではない、と何となしに理解してぱいくーの次の言葉を待った。ざーみるくが横で緊張した表情をしていた。修一が生唾を飲み込む。考えてることは、同じなのかもしれない。
「・・けど、何?」
 しばらく黙っていたぱいくーを流すようにユミが訪ねた。ぱいくーは自分を説得させるように一度頷くと口を開いた。
「駁と一緒だって。」
「駁と・・?」
 修一が名前を出した。そして彼にしてはかなり珍しく真面目な顔になると何かを考え始めた。駁のことはすでに修一とユミから聞いている。仲間になろうと話しかけたのに拒否された、と言うことだ。ざ^ーみるくにはそれぞれ直接話していなかったけど、メールの内容とそれとこの各々の雰囲気でなんとなく理解はしていたようだった。何も言わずに無言で彼なりに考えているようだ。
「で、エリコが殺される、助けてって叫んでたらしいんだけど・・」
「それじゃあ、早く行かないと!?」
 痛風が大きめの声を出して、ぱいくーに言った。
「それはそうだけど、Hな名無し曰くエリコが修一に攻撃したことを悩んでたみたいでな。」
 名前を出されて修一がぱいくーを見た。ぱいくーはそれを確認しながらまだ続ける。
「で、ほとんどパニックな状況らしい。」
「最初から結構そうだったけどな・・それで?」
「駁は話を聞く限りでは別に普通みたいだし、ここ・・教室に行こうって話もしてたみたいだけど」
 淡々とぱいくーが説明を始めた。パニックになって泣いている時に駁がやってきて、その時駁は考え直した、的なことを話していたらしい。で、ここで一度途切れてもう一度電話をしたら今度は助けて、殺される、と叫んでいるとのことだった。
「でも・・これって、なんとも言えなくないか?」
 説明がザッと終わるとざーみるくが先に口を開いた。
「電話切れてる間は何があったのか分かってないんだろ?」
「うん・・」
 ユミが小さく相槌を打った。
「もし・・それが、本当だったら・・」
 それって、かなりやばいんじゃない?と言おうと思った。けど、修一の目線を感じてやめた。修一はあくまで駁を信じる気だ。
「それはそうかもしれないけど、俺は落ち着くのを待ってるだけだと思う。」
「でも、普通エリコの携帯を取ってまで出るか?」
 ざーみるくがもっともな事を尋ねると修一は黙った。信じたいけど、言われたこととこの状況・・修一自身計り知れていないのだ。だから、修一もなんともいえないのはここに居る全員が理解できたに違いない。
「でも、化学室には向かったほうがいいかもしれないね。エリコも駁クンもいるんでしょ?」
 ユミの提案には誰も反対しない。むしろ賛成だ。
「化学室はちょっと遠いね。全員で行くわけにも行かないでしょ?」
 言うとざーみるくがそうだな、と言った。
「そろそろ全員が出発した頃だな・・最後、岸利だろ?」
 時計を見ると、もうそんな時間だ。同じ出席番号岸利徹の体育館から出てすぐにメールに気がついてくれればそろそろ来てくれてもいいくらいかもしれない。
「みやこがその前だから・・一緒に来る可能性が高いかもな」
「だから、2つに分かれるのがいいんじゃないか?」
「2つ?」
 ぱいくーが首をかしげる。ユミが答えた。
「エリコ達を迎えにいくグループ1と、ここに残るグループ2ってこと?」
「そうだ、で、こういうのもなんだけど・・このクラスは分裂している。」
 これは何度も思っているとおりだ。今更言うまでもなく、全員は特に何も言わずにざーみるくの言葉を待った。
「だから、それぞれのグループは分かれたほうがいいかもな。」
「ってことは、俺とユミは割れるってことだよな?」
「そうそう、それと同様に俺と修一、痛風も分かれる計算だ。」
「・・武器とかも考えて分かれたほうがいいよね」
 ユミがそう言うと、武器を指差した。
「もし・・襲われたときの事を考えた方がいいかもしれない。」
 ユミは適当に武器を手にとって分ける。まず、ククリナイフとモーニングスターという明らかな力を持っていそうなものを分ける。イコール修一と痛風は分けられると言うことだろうけど口は挟まない。次にピッケルと木刀。この2つは別れることに決まっているし、能力的にもそんなものだろう。ユミは女子と男子、と言うことを考えてか木刀をモーニングスターの横に置いた。最後に残ったビニール紐をみて・・それには少し悩んでいた。
「ざーみるくクンは・・まかせるよ。」
「・・俺、なさけないな・・」
 少し苦笑いをしてざーみるくが言うと、ガチャガチャとドアノブが動いた。誰かが来たのだ。痛風は時計を見た。この時間的に、多分。
「岸利か?」
 ぱいくーも時計を見てそういった。修一がやっぱり先に動いて鍵を開ける。ガチャン、と音がした。ドアが開いて、修一が少し驚いた表情をしていた。
 それは痛風も同じだった。ゾクッと寒気もした。
「私も合流していい?・・メールは、来てないんだけど。」
 後ろでユミが「あっ・・」と小さく呟いた。そうだ、ユミはこの人物・・ナナにメールを送ってないと言っていた。
 そのナナの後ろから、岸利と、それからやはり合流したらしいみやこが立っていた。


【残り15人】


出典:中盤戦に続く
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