ベビーパンサー「ガキ共が苛めてきてウザイです」 (笑える体験談) 40429回

2011/01/04 00:23┃登録者:小鳥のパイズリ┃作者:名無しの作者
1: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:26:45.78 ID:VEx1Z0wv0 
「猫捕まえたぞ!猫!!」 

ガキが嬌声を上げる。ベビーパンサー一生の不覚。 
餌をとりに来た途中にこんな奴に捕獲されるなんて… 
ここはどこだ?なんか小さな村だが… 
「マジで!?」 
家の中からもう一人出てきやがった。ウゼェ。 
「さっそく確認ww」 
そいつが俺の前足を持ち上げる。 
ちょ、やめろ。この体勢は犬で言うところのチンチン。 
つまり陰部丸出し。てかガキがすごい勢いで凝視してるんだが。 
見られる趣味はないぞ。 
3: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:28:33.55 ID:VEx1Z0wv0 
「なーんだ、雄か」 
ガキが呟く。 
なんで微妙に残念そうなんだ。お前ら雌だったら何するつもりだったんだ。 
ったく、この村じゃガキが獣をおk 

アアアアアアアアああああああああああああああああああああ 
6: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:30:51.06 ID:VEx1Z0wv0 
突如、股間に強烈な鈍痛を感じた俺は、恥も外聞もなく転げまわった。 
ガキ共の大笑いが聞こえる。 
てめぇら…何しやがった… 
「うはwwww金玉でこぴんwwwww」 
「見てるだけで痛ぇwwwww」 

殺される。瞬間、俺はそう思った。 
ガキに殺される。なんてことだ。ガキを怯えさせ泣かせる立場であるこの俺が… 

転げ回る俺を、ガキ共は嬉々として蹴ってくる。痛ぇ 
7: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:32:58.22 ID:VEx1Z0wv0 
畜生…俺はベビーパンサーだぞ。立派な牙や爪も持ってるんだ。 
あと数年してキラーパンサーに成長したら、お前らを一瞬でSATSUGAIできるんだ… 
殺してやる…殺してやるぞ… 

背中にガキ共の足の感触を感じながら、俺は誓った。 
知らず知らずの内に、涙が流れていた。 
だがそれすらもガキ共にとっては笑いの種にしかならないようだ。 
「こいつ泣いてるぜwwwww」 
「蹴られて嬉しいんだろwwwドM猫wwwww」 

股間の痛みは、まだ消えない。 
8: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:34:51.12 ID:VEx1Z0wv0 
「やめなさいよ!!」 
頭上で、女の子の声が聞こえた。ガキ共の暴行が止まる。 
なんだ…? 
俺は顔を上げる。金髪お下げの女の子がいた。その後ろには紫のターバンを巻いたガキ。 
なんてセンスの悪い格好だ。 
女の子は俺を虐めてたガキ2人を睨みつけている。後ろのターバンは… 
なんだ?しゃがみ込んでいる。蟻でも見てるのか?ったく、これだから空気の読めないガキは… 
いやしかし蟻を見ている割には視線がチラチラ上に行ってるな… 
!!違う。こいつは蟻を見ているんじゃない。地面になんかまったく興味は無いんだ。 
こいつは、女の子がガキ共に気を取られている隙に、女の子のスカートの中を見ているんだ。 
なんて…なんて奴だ。こいつは何事も動じない鋼の精神とあくなきスケベ心を持っている! 
末恐ろしいガキだぜ… 
俺はかすかに身震いする。こいつには一生敵わない。なぜかそんな気がした。 

「じゃぁ猫ちゃん、きっと助けてあげるから待っててね」 
は? 
9: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:37:15.72 ID:VEx1Z0wv0 
クソ、エロターバンに気を取られてて何があったのかまったくわからない。 
この女の子は俺を救い出そうとしてくれてる…のか? 
だとしたら、なんて…なんていい子なんだ! 
ターバンと並んで歩いていく女の子の後姿が、俺には神々しく見えた。 
ターバンが女の子のケツを揉んでいるように見えるが、気のせいだろう。 
そして女の子がまんざらでもなさそうなのも、きっと気のせいだ。 
10: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:40:03.98 ID:VEx1Z0wv0 
「ぜってぇ無理だぜ。あいつらが幽霊退治なんてよぉ」 
幽霊退治?ああ、あの何ちゃら城にいるとかいう奴か。 
俺も母親にちょっと聞いたことがある。………カーチャン 
まぁとにかく、俺がこいつらから離れられるかどうかはあの女の子とターバンにかかってるわけだ。 
ハッキリ言って望みは薄いが、とりあえず待ってみて損は無いだろう。 

その夜、俺はガキ共の家の前で杭に繋がれた。寒ぃ。もう3月だってのにこの寒さはなんだ。 
まるで春が来ないで冬が続いてるようだ。 
杭の前で寝そべっていると、この村唯一の宿屋からターバンと女の子が出てくるのが見えた。 
せいぜい頑張ってくれよ。 
11: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:42:21.76 ID:VEx1Z0wv0 
おい、確かあいつら何とか城へ幽霊退治に行くんだよな?俺のために。 
なのになんでさっきから村の入り口付近をウロウロしてモンスターを惨殺してんだ? 
はよ行けや何とか城。寒ぃんだよマジで。 
「そろそろいいかな?」 
ターバンの声が聞こえる。お、いよいよ幽霊退治か。期待してるぞガキ共。 
……あ、あれ?なんか村に戻ってきたんだが。あぁ、道具屋とか武器屋でアイテム入手か。 
さすが抜け目な…あ、あれ、宿屋戻っちゃったんですけど。おーい。 
13: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:45:13.78 ID:VEx1Z0wv0 
結局2人は、その夜出てこなかった。次の日もその次の日も、夜になれば 
宿屋を抜け出して村の外へは行くんだが、一向に城へは向かわない。 
モンスターを惨殺して、しばらくしたら宿屋に逆戻り。 
こんなガキ共に期待した俺が馬鹿だったのか… 

俺を捕まえたガキ共の暴行は止まない。 
26: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:57:01.22 ID:VEx1Z0wv0 
村で捕獲されてから一週間が経った。 
いつになればあの2人は幽霊を退治しに行くんだろうか。 
ガキ共の暴行は相変わらずだ。最近は、股間へのちょっとした衝撃ならば 
まったく何も感じなくなった。いらねぇよこんな設定。 

ターバンは…ブーメランを投げている。どうやら昨日武器屋で買ったようだ。 
28: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 13:59:51.74 ID:VEx1Z0wv0 
ブーメラン…そういや噂では聞いたことあるな。 
「序盤では必須」 
序盤って何だ?まぁいい。とにかくあのターバンはそのブーメランを手に入れたわけだ。 
これは期待していいのか?いいんだよな? 

ガキがブーメランを使って女性のスカートをめくっているのは、見ないことにしよう。 
32: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:06:17.33 ID:VEx1Z0wv0 
その夜、例によって女の子とターバンが宿屋から出てくる。 
が、2人の表情はいつもより引き締まっているように見える…ような気がする。 
そんな俺の期待を裏付けるかのように、2人は入り口からまっすぐ城の方向へ 
進んでいった。遂に幽霊退治が始まるわけだ! 
頑張れお下げ!頑張れターバン!! 
明日には遂に俺も自由の身だ。…自由の身だよな?まさか2人に飼われるなんて事は… 
ないよな? 

そんなことを考えていると、村の入り口付近に人影が見えた。 
お、勇者達の帰還か?でもちょっと早すぎる気がするが… 
「もー、しっかりしてよ」 
お下げが、気絶したターバンを担いできていた。 
33: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:10:48.54 ID:VEx1Z0wv0 
また3日が経過した。 
城で気絶するまでボコされたことが余程トラウマだったんだろう。 
再び村の入り口付近でモンスターを惨殺する夜が続く。 
「レベルを上げるんだ!」 
やる気に満ちたターバンの声が聞こえる。感心感心。期待してんぜ旦那。 
「男としてのレベルを!そしてビアンカが…ブフフ」 
前言撤回。 
35: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:15:54.29 ID:VEx1Z0wv0 
目的はどうあれ、とりあえず「レベル」とやらは上がったらしい。 
俺が杭につながれ始めてから11回目の夜、遂に2人は何たら城の 
幽霊を退治したらしい。俺はその次の朝に首輪、そしてあの憎たらしい 
ガキ共から解放された。 
やったぜ!これで自由だ。これでカーチャンの元へと帰れる!! 
ありがとなお下げと… 
「ねぇビアンカ、この王様の幽霊からもらったヤツ僕にも2つ付いてるんだよw」 
…………ターバン。 
37: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:20:46.80 ID:VEx1Z0wv0 
とりあえずこの村、そしてお下げとターバンともお別れだ。 
2人には本当に感謝している。お礼を言いに行こう。 
そう思って、俺は2人に近づいた。 
ありがとな。またいつかどこかで会お 
「あ、私の家猫ちゃん飼えないんだ。リュカ(仮名)が連れてってくれない?」 
あれ? 
「うん、いいよ。僕もお父さんと2人だけじゃ寂しいからね」 
あれれ? 
「じゃぁ、「猫ちゃん」じゃなくて、ちゃんとした名前付けてあげなきゃね」 
えー…… 
42: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:29:28.63 ID:VEx1Z0wv0 
どうやら、この2人とあのクソガキ共が交わした約束は 
「俺を自由にする」ではなく「俺を譲る」だったらしい。 
何てことだ。結局俺に自由は来ないらしい。しかもお下げに飼われるんならまだしも 
よりによってエロターバンだ。そりゃ今までのガキ共と比べりゃマシだろうが… 
まぁいい。これも運命だ。受け容れるしかない。素直に俺に授けられる名前を待とう。 
「あ、こんなのどう?」 
考え込んでいたお下げ――ビアンカが口を開く。 
その口から放たれる4つの単語。 

……え、これ名前?え、俺この4つの中から命名されるの? 
え、ビアンカは割りとまともな女の子だと思ってたんだけど。何このセンス。 
おいちょっと待てよエロターバン。何真面目に考えてんだ。異議を申し立てろ。 
ヤダって俺こんなの。まぁこん中だとプックルが一番マシだけどさ。 
こん中で選ぶんならプックルにしろよ。なぁエロターバン、お前ならわかってくるはず… 

「ゲレゲレで」 



死ね。 
47: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:38:41.45 ID:VEx1Z0wv0 
こうして俺の名前はゲレゲレに決まった。 
ビアンカもターバンもビアンカの両親も、そして今までずっと風邪を引いており 
ターバンたちが幽霊を退治した途端に治ったという随分都合のいい体質をした半裸の髭親父も、 
すげー笑顔で俺をゲレゲレ呼ばわりする。お前らこれがおかしいと思わないのか? 

そうこうしている間にターバンと半裸髭が荷物をまとめ始めた。どうやらこの父子は 
元々この村の人間じゃないらしい。なんかビアンカの瞳が潤み始めたぞ。 
「またきっと会おうね、リュカ(仮名)」 
「うん、きっと」 
なんか爽やかだなターバン。いくらお前といえどやっぱり別れ際はかっこよく決めたいんだな。 
気持ちはよく分かる。 
「今度会ったら……」 
ビアンカの声が詰まる。ターバンがビアンカの手を優しく握る。 
「うん…子供作ろうね」 




死ねよエロガキ。 
50: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:45:07.36 ID:VEx1Z0wv0 
「よし、行くか」 
村の入り口で半裸髭――パパスが荷物を担ぎながら言う。 
「うん」 
ターバンが答える。その声は心なしか悲しそうだ。そりゃそうだ。 
10日以上もの間冒険を共にした幼馴染と別れるんだからな。 
まぁその別れ際を台無しにしたのはお前だが。 
俺の尻尾には赤いリボンが結び付けられている。ビアンカのものだ。 
なんだかいい匂いがするな。……決して変な意味じゃないぞ。 

俺達はビアンカの村を発ち、ターバンの故郷――サンタローズへ向かった。 
56: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:51:26.63 ID:VEx1Z0wv0 
道中はなかなか大変だった。モンスターの大群が襲い掛かってくるんだからな。 
まぁそこはそれ。俺も<荒野の殺し屋>キラーパンサー。の幼少期ベビーパンサー。 
名はゲレゲレ。それなりの戦力にはなるぜ! 
やはりパパスには敵わないがターバンとはどっこいの戦闘力だ。2人で協力して敵を倒す! 
「2人はプリキュア!!」 
いやうるせぇよターバン。お前はエロキュアだろうが。 

「大丈夫か?リュカ(仮名)」 
戦闘が終わった後、パパスがターバンにホイミをかける。優しい親父だ。 
実は俺もちょっと怪我してたんだ。ありがとうござますご主人様。 
… 
…… 
……… 
………… 
…………… 
俺だけ無しっすかwwwwwwww 
61: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 14:59:31.23 ID:VEx1Z0wv0 
ま…まぁ親は子供を第一にすべきだからな。いくらなんでも今日パーティに 
加わったばかりのペットにいきなりホイミはかけないよな、うん。 
それにホイミなら嬉しいことにターバンがかけてくれるしな。 
けっこう優しいことあるじゃないか。…何ニヤニヤしてんだターバンてめぇ。 
「リュカ、サンタローズではお父さんは調べ物があるんだ。悪いが遊んでやれないぞ」 
「うん、大丈夫だよ!ゲレゲレがいるしね!!」 
その名前で呼ぶんじゃねっつの。てか2人ともすげー会話弾んでやがる。 
まぁ父子だから当然だよな。 
… 
…… 
……… 
………… 
…………… 
俺に話しかけてくれてもいいじゃない。 
65: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:06:11.90 ID:VEx1Z0wv0 
ビアンカの村を発って2日目の昼、サンタローズに到着した。 
「だいたい2週間ぶりだな…懐かしい」 
パパスが感慨深げに呟く。いや2週間ってそこまで長くないだろ。 
夏休みにじいちゃんちに帰省した小学生でもそんくらいは過ごすぞ。 

3人で村に入る。余談だが、この2日でまぁまぁこの2人とも馴染めた。 
相変わらず親父はホイミかけてくれないけどな。 
てか寒っ!なんだこの寒さは。ビアンカの村も寒かったがここはそれ以上だ。 
さすがのパパスもコートを羽織……るわけないな。この半裸親父が。だから風邪ひくんだ。 
と、ターバンが軽く舌打ちする。なんだ? 
「こんな寒くちゃ女が厚着しちゃうじゃねえか」 
こいつの更正は無理だ。 
71: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:11:26.38 ID:VEx1Z0wv0 
この村には、子供はターバン以外にいない。 
道中で言っていたように、パパスはずっと「調べ物」とやらをしている。 
必然的に、ターバンと俺は2人で遊ぶことが多くなった。 
家にいるデブが作ってくれる食事を食べる以外は、常に外で俺と走り回っている。 
何だかんだいってもこいつも子供だな。遊んでいる顔はあどけない。 
俺が雄でよかったよ。いやホント。 

どうやら母親は幼い頃に死んだらしい。それ以来赤ん坊の頃からずっと親父と 
2人旅。こいつもなかなか苦労しているようだ。 
78: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:18:27.05 ID:VEx1Z0wv0 
今日も今日とてこいつと遊ぶ。 
か…勘違いすんなよな。俺が退屈だから遊んでるだけだ! 
「あれ、あの人誰だろ」 
ターバンが呟く。ターバンの目線の先には…ターバンがいた。 
おいおいなんてこった。この世にこんなセンス悪いターバン巻いてるヤツが 
もう一人いたなんて。何?流行ってんのそれ。言っちゃ悪いがダサいぜ。 
年は…いくつくらいだ?見た目は20代前半ってとこだが、雰囲気は30代くらいだなぁ。 

「………」 
黙ったまま、大人ターバンがこっちを見る。 
俺はなぜかそこから動けなかった。エロターバンも呆然と立ち尽くしている。 
「君…」 
大人ターバンが口を開く。何だ?何しようってンだこの野郎。 
「君の金玉、見せてくれないか?」 




は? 
89: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:26:15.89 ID:VEx1Z0wv0 
「金…玉…」 
エロターバンが呟く。いや、お前なにそんな湿っぽい声出してんだ。 
「わかり…ました…」 
いや待ておいやめろって。ダメだろそりゃ。おい、お前の童貞はビアンカに 
捧げるんじゃないのか!?おい!ガキ!!リュカ(仮名)!!! 

「このゴールドオーブを見てくれ。こいつをどう思う?」 
………あ、ゴールドオーブか。何だ勘違いしちゃったよ僕。 
「すごく…ピカピカです」 
大人ターバンがそれに手を伸ばす。そして―― 
「はい、どうもありがとう」 
普通に返した。 
94: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:31:35.66 ID:VEx1Z0wv0 
こうして特に何もしないまま男は帰っていった。 
普通に優しそうな奴だったな。一瞬でもショタだと疑った自分が恥ずかしいぜ。 
つーかゴールドオーブ見せてもらいたいんなら普通に言えよあの野郎! 
なんかビアンカのリボンを装備してから随分耳年増になってしまった気がする… 
98: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:37:28.44 ID:VEx1Z0wv0 
数日が経った。 
今、村は怪奇現象の噂で持ち切りだ。 
酒場のイスが勝手にテーブルに積み上げられてたり夕飯用に煮込んでいた 
シチューが消えたり…こんなことが連日続いているらしい。 
「また幽霊がイタズラしてるのかな?僕らで解決しようよ!ゲレゲレ!!」 
ターバンが目をキラキラさせながら俺に語りかける。 
まぁいいだろう。正直こいつとの鬼ごっこやかくれんぼも飽きてきたとこだ。 
こういう冒険もいいかもしれない。 
この騒ぎに乗じて僕らもイタズラしよう、とか言い出すんじゃないかと思ってたが、 
そんな心配は無用だったな。 

「なんか私の下着が盗まれちゃったのよねー」 
シスターがこんなことを言ってるのが聞こえたが…まさかな。 
102: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:42:26.26 ID:VEx1Z0wv0 
サンタローズの怪奇現象はなおも続いた。今まではまぁまぁ可愛いいたずらだったが、 
そこに下着泥棒まで加わって村は正に戦々恐々としてる。村のほとんどの女性(除ブス)が 
犠牲になっている。 
まずい、村の皆を安心させるためにも俺達が頑張らなければ!! 
……なんかエロガキのターバンが日に日に膨らんでいるように見えるのは気のせいだよな。 

そんなこんなで、俺達は酒場で妖精を発見した。 
111: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:52:08.97 ID:VEx1Z0wv0 
「ってわけなのよー。あたしの姿見えてるのあんたらだけだしさ、 
妖精の国来てくんない?」 

ウゼェ。なんだよこの女。人にもの頼む時にはもっとこう… 
言い方ってもんがあるだろうが。さすがのターバンも怒りに身を… 
震わせてるわけないよな。妖精の格好見てからずっと前屈みだし。 
「もちろん行くよ。妖精の王女様に会いに」 
はいはい、それが目的なんだよな。 
「じゃ、あたし先行ってるから。待ってるよ。場所は地下室のある家」 
そういって妖精――ベラは消えた。 
「地下室のある家――って、どこだろ?」 
お前んちだよボケ。 
115: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 15:58:20.54 ID:VEx1Z0wv0 
地下室を抜けると――そこは不思議の国でした。 

やべぇ俺ってマジ詩人。コピーライターなれるんじゃね?糸井重里?誰だよそれ。 

「妖精!妖精!!早く王女様に会いに行くよゲレゲレ!!」 
あーはいはい分かったよ。そんなにはしゃぐな。 
俺達はでっかい木の内部へ入っていった。 
中には妖精がたくさん。さっそく前屈みになりやがったこのエロガキ。 
俺?俺はビアンカの村のクソガキ共がやったデコピンのせいで既に不能だよ。 
120: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:05:00.36 ID:VEx1Z0wv0 
階段を上へ上へ上がっていく。 
そして最上階には、明らかに今まで妖精とは違ったオーラの妖精がいた。 
これがポワン様か。王女様ではないんだよな。え?いや間違えてたわけじゃないから。 
ターバンが勝手に勘違いしてただけだから。………悪かったよ間違えてたんだよ。 

「ようこそ…」 
ポワン様が透き通った声で囁く。ターバンも、そして俺も思わず身震いするほど 
ええ声だった。 
「お目にかかれて光栄ですポワン様」 
おぉ!?ターバンが礼儀正しく跪いたぞ!すげぇ、お前そんなこと出来るのか!! 
悪いな、俺はお前を勘違いしてた…あぁ、跪いたらちょうどポワン様のスカートの 
中が見えるのか。 
126: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:11:15.78 ID:VEx1Z0wv0 
なんか、春風のフルート持って来いとか言われたんですけど。 
あ〜ぁめんどくせぇ。何でもかんでも安請け合いしやがってこのエロガキが。 
「そんな不満そうな顔しないでよゲレゲレ。スカートの中見せてもらったんだからさ」 
見せてもらったってなんだよコラ。お前が勝手に見たんだろーがクソが。 
「でもさ、跪いた僕でも見えるんだから、当然ゲレゲレにも見えてたんだよね?」 
…………しまったアアああああぁぁぁぁあああああ!! 
そうだった!俺は四足歩行のチビ猫だった!!畜生、なんで今まで気付かなかったんだ… 
………まぁ不能だから関係ないか。 
134: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:18:34.11 ID:VEx1Z0wv0 
「さ、喋ってないで早く行くよ」 
はいはいわかりましたよ。てかお前が指図すんなよベラ。 
一応俺の飼い主はこのターバンなんだぞ。認めたくない事実だけどな。 
お前はターバンは連れて行きたいって言い出したからパーティに加われたんぞ。 
そこを分かれよ。分かったらさっさと最後尾につけ。 

「はいゲレゲレ」 
ターバンがなんか渡してきた。これは…石の牙と皮の腰巻? 
ついに…ついに俺に装備が!!今まで全裸で頑張ってきた俺に装備が!! 
サンキューターバン!お前はいい飼い主だ、俺は今まで誤解していたよう… 
「はい、ベラはこれね」 
おい、なんでこの時点でてめーがエッチな下着持ってんだよ。 
140: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:25:29.90 ID:VEx1Z0wv0 
結局ターバンが持ってた下着は、どれもベラのサイズには合わなかった。 
前にも言ったが、サンタローズにはこいつ以外子供がいないからな。 

春風のフルートを取り戻すには、何やら盗賊の鍵の技法とやらが必要らしい。 
当初はさすがのターバンもめんどくさがっていたが、その盗賊の鍵の技法を 
手に入れれば、たいていの鍵を開ける事ができるようになると聞き俄然やる気がでてきたようだ。 
目の色を変えてドワーフの洞窟へ向かった。 
石の牙を装備した俺とブーメランを持つ俺たちに敵は無い。ベラもなかなか強い。 
3人で力を合わせて敵を倒すぜ! 
「3人はプリキュア!」 
意味わかんねえよ。 
145: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:32:45.19 ID:VEx1Z0wv0 
盗賊の鍵の技法はあっさり手に入れた。もっと大変だと思ってたんだが… 
いいのかこんなんで。 
「じゃ、氷の館へ急ぐわよ」 
ベラが言う。 
「その前に、妖精の村に戻って一休みしようよ」 
この提案はターバン。珍しくまともなことを言う。 
ってわけで俺達は再び妖精の村へ戻ってきた。 
ベラは自分の家、俺達は宿屋で一晩を過ごした。 

チャーラーラーラーチャッチャッチャー 

「何か昨日、厳重に鍵のかかったポワン様の寝室に、何者かが侵入したらしいよ」 
朝になって合流したベラがこんなことを言ったが無視しとこう。 
恍惚な表情をしているターバンも無視しとこう。 
152: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:38:01.43 ID:VEx1Z0wv0 
「さ、急ぐわよ。氷の館まで」 
だから指図すんなっての。なんでこいつ倒置法で喋ってんだ。 
「氷の館には何がいるんだっけ?」 
「えーと、春風のフルートを盗んだ張本人であるドワーフの子供と、 
その子供を操った本当の黒幕、雪の女王」 
「急ぐよ2人とも!!」 
ターバンが走り出す。おいおい、すごいスピードだな。俺より速いんじゃないか? 
「でも『女王』って言っても、見た目は完全にモンスターだよ?」 
ターバンの歩みが止まった。 
155: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:41:59.95 ID:VEx1Z0wv0 
氷の館に到着。 
ターバンが手に入れた盗賊の鍵の技法で侵入する。 
それにしても随分手馴れた鍵の開け方だったな。まるで昨日から何回も試したかのような。 
まぁいい。細かいことを気にしてたらこいつとはやっていられない。 
俺達はどんどんと奥に進む。 

というわけでまぁこれまたアッサリとドワーフの小僧と雪の女王を倒して、春風のフルートを 
奪還したわけだ。 
160: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:49:47.65 ID:VEx1Z0wv0 
「春風のプルート、よくぞ取り戻してくれましたリュカ(仮名)。心から感謝します。 
そしてベラ、あなたもご苦労様」 
おいコラ、俺は無視かポワンてめぇ。俺もけっこう頑張ったんだぞ畜生が。 
あ〜ぁそれにしても寒かったぜ。これでようやくサンタローズにも春が訪れるんだな。 
やっぱ冬より春っしょ。春のぽかぽか陽気の中こいつと過ごすのも楽しそうだな。 

「さ、帰ろうゲレゲレ」 
わかったわかった。じゃぁなポワン様、ベラ。 
165: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 16:56:20.22 ID:VEx1Z0wv0 
サンタローズは活気に溢れていた。 
そりゃそうだ。今までの長い長い陰鬱な冬が終わり春が訪れ、桜が満開になったんだから。 
こりゃ明日は花見だな。俺とターバンとデブとパパスの4人で… 

「すまんリュカ(仮名)。父さんちょっと出かける用事ができた。 
ちょっとラインハットってとこまで行ってくるぞ」 
………こんのクソ親父がああああああああ!!!! 
まぁこいつのことだから多分堪えないだろうな。シスターと遊んでもらえる〜とか言って… 
「僕も行っていい?」 
あら、なんか予想外の返答。やっぱり多少は寂しかったんだろうか? 
170: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:03:17.09 ID:VEx1Z0wv0 
「そうか、わかった。すまん、サンチョ」 
あーあ、また旅ですか。多分また俺だけホイミ無いんだろうなぁ… 
「ゲレゲレと2人で留守番しててくれないか?」 
な、なんだってー 

おいおい何、まさかこの親父俺のこと嫌いだった?いや薄々感づいてはいたけどさぁ… 
まさかここまでだと思わなかったぜ正直? 
行ってこいよ2人で。楽しんで来いラインハットを。あそこはなかなか栄えてるらしいからなぁ… 
ははは…結局ペットってこんなもんだよね。 
「冗談に決まってるでしょ。真に受けんなよゲレゲレ」 
だよねーwwww 
178: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:09:01.81 ID:VEx1Z0wv0 
いやーまさかパパスがこんな冗談を言う人だとは思わなかったぜ。 
冗談キツイよ全く。なんかちょっと舌打ち音が聞こえた気がするけど気のせい気のせいw 

というわけで、俺達はラインハットを目指して旅立った。 
「ラインハットって美人が多いらしいよwwww」 
あぁ、それでかエロターバン。 

「リュカ(仮名)……とゲレゲレ」 
しばらく歩き、パパスが口を開いた。なんか仕方ないから俺の名前付け足したって 
感じがするんだけど。 
「ラインハットでの用事が片付いたら、旅をひと段落してしばらくサンタローズで 
のんびりしようと思う。今まで遊んでやれなくてすまなかったな」 
その言葉を聞き、ターバンの顔に笑顔が浮かぶ。俺もなんだか嬉しくなった… 

あれ?これって俗に言う死亡フラg(ry 
190: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:20:26.22 ID:3rmqIZRe0 
数日歩いたら、なんか関所みたいなとこに到着した。 
だが関所なんざ問題ではない。我らがパパスは顔パスだぜ!! 
関所には、展望台のようなのがあり、そこから広がる景色はかなりいいものらしい。 
そんなことをパパスと関所の兵士が話している。俺達はその展望台へと上がる。 
「見えるか?リュカ。お父さんが抱っこしてやろう」 
おーおー、いい父子愛だぜ。ターバンめ、ちょっと照れてやがる。 
まさかこいつに羞恥心のようなものがあったとはな。 
「さて、行くか」 
パパスがターバンを下ろし、俺達はラインハットを目指す。 
「………あれ?」 
方向逆ですぜ、旦那。 
197: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:25:28.44 ID:VEx1Z0wv0 
「私としたことが道を間違えるとはな。ハッハッハ」 
っとに、しっかりしろよこの親父は。まだボケる年じゃないだろうが。 
てことで俺達は方向転換。今度こそ本当にラインハットを目指す。 
……なんか、このまま戻った方が良かった気がするのは、俺の気のせいだよな。 

「ラインハットって、すごいね」 
ターバンが幸せそうに呟く。ああ、確かに凄い。確かに栄えている。 
……が、こいつは俺とは違う意味でこの言葉を言っている。絶対に。 
まぁ確かにこの国の女性はなかなかレベルが高い。サンタローズでの 
シスター級に美女がゴロゴロいやがる。……不能の俺には関係ないが。 
「すげー」 
「すげー」 
お前ら父子揃ってヨダレ垂れてんぞ。 
202: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:30:33.67 ID:VEx1Z0wv0 
パパスの「用事」とやらを済ます為に、俺達はラインハット城を訪れた。 
「町でこれなら城の中は…ブフフ」 
うるせぇエロガキ。 

「お父さんは王様と大事な話があるから、お前達は城の中を探検でもしてなさい」 
で、俺達は厄介払いされてしまいましたよ。まぁいいけどな。大人の話なんて 
聞いててもつまらんし。 
「こっちから美女の反応があるよ、ゲレゲレ」 
なんだその機能は。 
俺達が進んだ方向には、素晴らしき美女…ではなく、緑のおかっぱ頭の 
ガキがいた。こいつのセンサーも当てにならんな。 
209: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:36:39.18 ID:VEx1Z0wv0 
「何だ、お前ら」 
ガキが言う。こっちの台詞だバーロー。と思ったが、俺達は客だからな。 
こっちから名乗るのが筋ってか、普通… 
「お前が誰だよ」 
ターバンwwwwwお前男相手だと厳しいのな。ポワンの時は跪いてたくせに。 
それもエロ目的だったが。 
「…知ってるぞ、お前パパスとか言う奴の息子だろ」 
知ってたのかよ。 
「そう。リュカっていうんだ。君は?」 
「僕はヘンリー。このラインハットの第一皇子だ」 
俺はゲレゲレ。ベビーパンサーだ。 
「お前、僕の子分にしてやろうか?」 
はいはい無視ですよね。そりゃそうですよねー。 
「子分の証を取ってきたら子分にしてやろう。ほら、行って来い」 
「貴方の子分になることで私に何のメリットがあるのでしょうか?」 
「…………」 
ビアンカの時は素直だったくせに。 
217: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:42:18.58 ID:VEx1Z0wv0 
「い、いいから早くとって来い!!」 
あーあー、こいつ涙目だよ。どーすんだターバン。 
「はぁ…仕方ねぇなぁ。クソガキが」 
お前もだろ。 
「子分になったら…城の侍女を好きにしていいぞ…」 
「☆ミ(o*・ω・)ノイッテキマ-ス!!」 
おお、さすが王子。一瞬にしてこいつの性格を把握したのか。 
てわけで俺達は隣の部屋に入る。わざとらしく宝箱が置いてある。 
「子分の証ってのは、こん中かな?」 
ターバンが宝箱を開ける。……空っぽ。 
「(♯^ω^)ビキビキ」 
223: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 17:46:29.63 ID:VEx1Z0wv0 
「親分、子分の証ないっすよぉ?」 
ターバンが言いながら扉をヘンリーの部屋へ続く扉を開ける。 
………いねぇ。 
ターバンもポカンとしてる。 
まさか…さらわれたとか、ないよな? 
「…お父さんに知らせなきゃ!!」 
ターバンが飛び出す。俺も駆け出す。 
「お父さん、大変なんだ!!おやぶ…ヘンリーが消えた!!」 

341: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 20:37:22.30 ID:VEx1Z0wv0 
つづき 

「何、王子が消えた!?」 
パパスが凄い形相で問い詰めてくる。 
「それは真か!!?」 
いやこえーよ。こえーから。 
「うん。来て、お父さん」 
ターバンが駆け出す。その後をパパスが追い、ちょっと遅れて俺も走り出す。 
「こっちだよ!」 
さすが父子。いい連携じゃないですか。 
やっぱり…あたしが付け入る隙なんて…ないのかな…… 
なんてことを考えている内にヘンリーの部屋の前に到着。パパスが扉を開く。 
「お…王子!!」 
いやだから王子いねーって言ってんじゃん。 
あぁあれか、電話切れた後の「もしもし!?もしもし!!?」みたいなもん… 
「何を騒いでるんだお前達」 


王子いるし。 
345: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 20:45:10.86 ID:VEx1Z0wv0 
「あ…あれ?」 
「王子…いるぞ、リュカ」 
何でいんだこいつ。この部屋からパパスの居た場所までは直線距離。 
隠れられるような場所も無い。俺達やパパスにも見付かることなく 
出たり入ったりは不可能だ。つまりここは完全な密室だったことになる!! 

それは本当なのはじめちゃん!!? 

いやいらないからこんなの。とにかく何でこいつ優雅に茶なんか啜りながら座ってんだ。 
「いえ、リュカが、息子が王子がいなくなったというもので」 
「はぁ?僕はずっとここにいるぞ。お前の息子には虚言癖でもあるのか?」 
「…リュカ、とりあえずお父さんは戻るぞ」 
「うん。ごめんなさい…」 
落ち込むターバン。無理もない。親父に迷惑をかけてしまったってのは 
こいつにとってはかなりの凹みポイントだ。 
俺に迷惑かけることには何も感じてないようだがな。 
「まったく、父が父なら子も子か」 
「(♯^ω^)ビキビキ」 
(♯^ω^)ビキビキ 
350: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 20:52:10.71 ID:VEx1Z0wv0 
「で、リュカ。約束の子分の証は?」 
足を組みながらヘンリーが言う。マジウゼェ。 
「いや、宝箱は置いてあったけど、中身は空だったよ?」 
ああ空だった。俺も見た。 
「そんわけないだろ?おい、もう一度見て来い!!」 
うはwwww殴りてえwwwwww 
思わず唸り声が出てしまっていたようだ。ヘンリーが俺に目を向ける。 
「おい、この猫、僕に向かって唸ってきているぞ。無礼だな。 
しっかりしつけとけよ!!」 
おいターバン、こいつ引っかいていいよな? 
ターバンはちらりと俺を見て、そしてヘンリーを睨みながら、言った。 

「これ以上言ったら、僕がブチ切れる」 

お前…いい奴だな。 
353: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 20:56:38.44 ID:VEx1Z0wv0 
ヘンリーが押し黙る。そりゃそうだ、こいつはちょっとしたモンスターなら 
軽く捻りつぶせるんだぜ? 
黙ったまま、ターバンは隣の部屋へ歩いていく。一応もう一度子分の証とやらを 
取りに行くんだろう。俺もついて行く。隣の部屋の扉を閉めると―― 
ターバンがいきなりニヤッと笑った。 
「いやー、一度言ってみたかったんだよねーあの台詞。やっぱいい男たる者流行の 
漫画くらいは知ってなきゃいかんからねー」 
ああ、お前はそういう奴だったよ。 

もう一度宝箱を開ける。やっぱり何も無い。 
再びヘンリーの部屋へと戻る。 


―――また消えやがったあのクソガキ。 
359: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:00:51.43 ID:VEx1Z0wv0 
どーせまたパパスを呼びに言ってもさっきと同じパターンになるだけだよな。 
多分この部屋に隠れてるんだよなあいつ。 
ものすげー放っといてどっか行きたいんだけど、そういうわけにはいかんよなさすがに。 
ってことで2人して部屋を探す。タンスの中、机の下。ベッドの下―― 
ん?ベッドの下になんかあるぞ。引っ張り出すか。 

『萌え上がる募集若妻』 

こいつ…あの年で…… 
「うはwwwwゲレゲレ超GJwwwwww」 
飛びついてきたよエロガキが。さっそくターバンの中に収納しやがった。 
371: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:07:13.91 ID:VEx1Z0wv0 
「もっと探そうもっとwwww」 
俄然元気になったなこの野郎。床に這いつくばってベッドの下に手を伸ばすターバン。 
「すご!!いっぱいあるwww」 
見る見る内にターバンのターバンが膨らんでいく。 
「ターバンだけじゃなくドラゴンの杖も膨らんできたwww」 
うるせぇよ、そんなんどこで覚えたんだ。 
「いやー凄かったねゲレゲレ。さ、帰ろうか」 
駄目だろボケ。こいつ完全に王子のこと忘れてやがる。 

というわけで王子探し再開。頭が重いのか、ターバンはフラフラしている。 
ん?おい、椅子の下に隠し扉あるぞ隠し扉。 
「お、さすがゲレゲレ。きっとこの下にはすごいコレクションがあるんだろうね」 
いや、ヘンリー本人だと思う。 
378: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:14:31.21 ID:VEx1Z0wv0 
隠し扉を開けてみる。下はどうやらかなり広いようだ。てか、隠し通路か? 
思ったとおり、ヘンリーの緑髪が見える。…けど、なんか様子変じゃね? 
「何だお前らは!」 
は?何だよ何だお前らはって。お前の子分のリュカとそのペットのゲレゲレだよ。 
さっき自己紹介しただろうが。無視しやがったけどなお前。 
「うるせぇクソガキ」 
え?何か別の声聞こえたんだけど… 
「黙って俺達についてきやがれ!」 
なんか2人のいかつい男がヘンリーを囲んでる。男の一人に捕まったヘンリーは、 
そのまま外へと連れて行かれた。 
「…………」 
………… 

まさか…アッー!――じゃなくて、誘拐?ホントにヘンリー誘拐された? 
え、何。ちょ、どうしよ? 
「…お父さんに知らせる?」 
…うん。 
386: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:21:36.36 ID:VEx1Z0wv0 
「何!?王子が誘拐された!!?」 
いやだからこえーって。顔近いよおっさん。 
「うん。王子の部屋に隠し通路があるから、来てお父さん」 
駆け出すリュカ。追うパパス。ちょっと遅れて俺。 
さっきの事があるのに素直に息子を信じるパパスって、いいななんか。 
「ここだよ!」 
「よし!!」 
躊躇うことなく飛び降りるパパス。俺達もそれに続く。 
扉を開けると―― 
「助けてくれ!!」 
袋から顔だけ出したヘンリーが叫んだ。誘拐犯たちが乗った小船が遠くに見える。 
「王子今行きますぞ!!」 
都合のいいことに小船はもう一隻ある。パパスはそれに飛び乗ると、勇んで出航していった。 




…………あれ?俺達は? 
394: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:29:25.87 ID:VEx1Z0wv0 
「で、どーすりゃいいんだろうね?」 
とりあえずラインハットの城下町から出た。『パパスを追う』ということで 
互いの意見が一致したからだ。つーかターバンの決定には逆らえないんだがな、俺は。 
が、しかしそこからどうすりゃいいのか皆目見当がつかない。 
「僕のセンサーは西だって言ってるんだけど」 
うるせぇ。お前のセンサーはヘンリーを美女と認識するほど低機能だろうが。 
つーか西って俺らが来た方向だろ。海と関所しかないっつの。 

というわけで俺らは東に歩を進めた。まぁ仮に間違ってても大丈夫だろ。 
パパスの事だ。死にゃしない。そこに関しては、俺達は安心していた。 
407: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:35:25.36 ID:VEx1Z0wv0 
どうやら東で正解だったようだ。 
モンスターの惨殺死体がそこかしこに転がっている。 
スライムの死体が3つにスライスされている。パパスの野郎、スライムにまで 
2回攻撃しやがったのか。てか何であいつ2回攻撃できるんだろうな? 

「やっぱり僕のセンサーの通りだったな」 
黙れ腐れターバン。 
更に進むと、なんか遺跡のようなものが見えた。今や誰も出入りしないような 
古代の遺跡…の割には入り口は妙にきれいだ。そして3つにスライスされた 
大木槌。間違いない。ここが誘拐犯のアジト。パパスもここに入っていったのだ。 
「よし、行くよゲレゲレ」 
おぅ。俺達は遺跡の入り口をくぐった。 


なんかすげー背筋が寒くなったような気がしたんだが、気のせいだよな。 
423: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:41:06.91 ID:VEx1Z0wv0 
遺跡に入った俺達が最初に目にした物は… 
モンスターと戦うパパス。スライムナイトやらドラキーやら。 
なんか手こずってるっぽい。パパスが手こずるんだから相当の敵なんだろう。 
「助けに行こう!」 
行からいでか。言われなくても分かってるよターバン。 
俺達は走った。途中誘拐犯たちの詰め所のようなところに入り、そいつらの 
会話からヘンリーもここにいることが分かった。 
つかここ酒臭いし肉臭いし…早く出ようぜターバン。 
――てめえ何宴会に参加してんだボケ!!! 
435: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:47:13.88 ID:VEx1Z0wv0 
遺跡内部にもやはり多くのモンスター達がいた。 
まぁ大体は軽く一掃出来るんだが、やはり傷を負う。 
俺も骸骨兵から割りと痛いのをもらってしまった。 
「ホイミ!」 
助かったぜターバン。回復役はお前しかいないからなぁ。薬草も尽きたし… 
あれ、てかお前手ぇ怪我してんじゃん。回復させろよ。 
「ああ、大丈夫だよこれくらい。MPは温存しなきゃね」 
いや、大丈夫じゃないだろ…そうだ、これ使えこれ。 
俺はターバンに向かって尻尾を振った。ビアンカのリボンが巻かれている尻尾を。 
ターバンは一瞬躊躇ったが、ビアンカのリボンを包帯代わりに手に巻く。 
「じゃ、行こうか」 
おぅ。俺達は再び走り出した。 

「………まるでビアンカが僕の手の中にいるようだ。ハァハァ」 
死んでしまえ。 
453: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 21:52:58.21 ID:VEx1Z0wv0 
ようやくパパスのいる中央広場のようなところに到着する。 
パパスは未だに交戦中だ。余程の強敵だったんだろう。 
俺達が来たところで大丈夫だろうか?いや、そんなことは考えるな。 
行くぞターバン! 
「行くよゲレゲレ!!お父さん、助けに来たよ!!」 
「!リュカ!!」 
俺達3人の戦闘が始まった。 
気をつけろよターバン、こいつらはパパス相手にこれほど粘る相手… 

パパスの攻撃!スライムナイトを倒した。 
パパスの攻撃!ドラキーを倒した。 

「……………」 
…………… 
あんた今まで何やってたんだよ。 
478: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:00:23.09 ID:VEx1Z0wv0 
「ふぅ、助かったぞリュカ、ゲレゲレ」 
なんもやってねーよ。 
「怪我ないか?リュカ」 
あるわけねーだろ。つーかまた俺には無しかよ。 
「よし行こう。今度はお父さんが後ろについてやるからな」 
いや前行けよ前。先頭。息子が滅多打ちにされるぞ。 

まぁ俺が何を思うが無駄なわけでして。ターバン、俺、パパスの陣形で 
遺跡の奥へ進んでいく。水路を筏で渡ると、牢屋が並んでいた。 
一番奥の牢屋にうずまっくてるのは――ヘンリーだ。 
膝を抱えて座っている。まるで引きこもり。 
「ヘンリー!今助けるからね。――でもどうしよう。鍵がないと助けられない」 
「どいてろリュカ」 
パパスが牢屋の前に立つ。何やるつもりだこの人。 

「ぬおおおおおおおおおおおおお」 

牢屋の扉が外れた!! 

「……………」 
…………… 

さすがパパス!俺達にできないことを平然とやってのける! 
そこにしびれる!憧れるゥ!! 
501: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:08:44.49 ID:VEx1Z0wv0 
「さぁ、行きますよ。王子」 
呆然としている俺らなんか意に介さずパパスはヘンリーに話しかける。 
盗賊の鍵の技法とか……なんだか全てが虚しい。 
「王子!何を言っているのです」 
お、なんかパパスが怒鳴ってるぞ。面白い展開でもあったのかな? 
「俺なんか…俺なんか帰らなくてもいいんだ!継母は俺を疎んでる。 
俺がいなくなりゃ王位継承問題も一気に解決するしな」 
「王子…」 

バチーン 

「うわっ」 
うおっ 
「王子、あなたは王の、あなたの父の気持ちを考えたことが…あ、あれ?」 
「気絶してるね」 
ビンタするならもっと力抜けよ… 
520: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:18:54.66 ID:VEx1Z0wv0 
ヘンリーの意識の回復を待って、俺達は牢屋から出た。 
ったく、このおっさんは力の加減を知らないようだ。 
白目むいて泡吹いた奴なんて初めて見たわ。 
「うわぁっ!」 
ターバンが牢屋のヘリに躓いてすっ転んだ。何やってんだお前。 
同時にターバンのターバンが取れる。ターバンの中身がバラバラと… 
「!僕の秘蔵コレクションじゃないか!!」 
「リュカ!お前なんて物を持ってるんだ!!道理で頭が大きいと思った!」 
「いや、これは…その…」 
あーあ、やっちゃったよ。まぁ天罰だな。6歳のくせに好き勝手やるから… 
「!敵だ!!!」 
突如、何匹もの骸骨兵が現れた。何匹かをすぐさまパパスが切り捨てる。 
床に転がる夥しい骸骨兵とエロビ。なんてシュールなんだ。 
「お前達は先に行け!私はきっと後から追いつく」 
アイアイサー。よし行くぞ、ターバン。 
「お父さん、きっとだよ!きっと追いついてね!!」 
パパスの返事は無い。ターバンの言葉は届かなかったようだ。 

パパスが床に落ちてる物を拾い集めてるように見えるんだが、気のせいだよね。 
536: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:25:19.35 ID:VEx1Z0wv0 
「よし、出口に向かって走ろう!」 
ターバンが言い、俺達は駆け出した。こんなかぼちゃパンツじゃ走りにくいだろうに、 
ヘンリーも文句一つ言わずついてくる。先ほどのパパスの言葉が余程胸に響いたんだろう。 
――いや、気絶してたから響いたのはビンタそのものか。 
とにかく俺達は走りに走った。出口へ向かって。出口へ向かって。出口へ―― 
そっちは誘拐犯の詰め所だぞアホターバン!!!! 

「あとはここをまっすぐ走れば出口だ!」 
俺達は橋を駆け渡る。出口へ。ラインハットへ―― 






《ほっほっほっほ》 
553: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:29:42.44 ID:VEx1Z0wv0 
おいターバン、てめぇ何ふざけてんだこんな時に。気でも触れたのか? 
「ヘンリー、君随分変わった笑い方だね」 
「おい、お前の猫は喉の病気かなんかか?」 

ん? 
「え?」 
「は?」 

「みーつけた」 

………なんだこいつ。 
564: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:34:35.46 ID:VEx1Z0wv0 
緑の肌に、マント――ピッコロさん?アホか。 
ただどちらにしても、どう見ても―― 
「敵…だよな、こいつ」 
ヘンリーの足がガクガクと震える。あれ、お前のタイツって黄色かったっけ? 
「誰だ…お前」 
さしものターバンの声も少し震えている。 

「私が誰かなんてどうでもいいことです」 

こいつはヤバイ。今まで倒してきたモンスターとは段違いだろ。 
敵うはずがない。逃げるしかない。逃げるしか… 

なんで足が動かないの? 
「あ、足が…」 
「……!!」 
579: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:41:42.20 ID:VEx1Z0wv0 

「鬼ごっこはもう終わりだよ、坊やたち」 

怖い。怖い怖い怖い。逃げたい逃げたい逃げたい。 
でも逃げられない。 

「うわああああああああ」 
ヘンリーの叫び声が聞こえた。化け物に向かって走っている。 
完全に錯乱している。そして―― 
ボンッ 
赤い閃光が走った。ヘンリーが倒れている。貴族の服に、ポッカリとした 
焦げ穴が空いている。 

「かるーくメラを撃ってみました。安心してください。死んではいません」 

「見えなかった…何かが、光ったとしか…」 
ターバン――リュカの声が、酷く空虚に聞こえた。 
597: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:46:11.12 ID:VEx1Z0wv0 

「幼いときに絶望を与える、というのもいいものですね」 

化け物が言った。その声の中には、紛れもなく歓喜が含まれている。 
どうしようもな。どうしようもないけど。 

戦うしかないよな? 

俺はリュカを見た。 
リュカも俺を見た。 

「僕は…僕はパパスの息子だ!!」 
そして俺はそのリュカのペットだ!! 
俺達はそろって化け物に飛び掛った。 
618: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 22:50:49.57 ID:VEx1Z0wv0 
目が霞む…頭がガンガンする… 
いや、まさかたった一撃でこうなるとは思わなかったんですが… 
あいつが、あの化け物がちょっと手を動かしたと思ったら、俺もリュカも 
地面に打ち付けられていた。 
悔しさと絶望で…涙さえ零れてきやがる。こんなこと前にもあったな… 

そうだ、ビアンカの村であのクソガキどもに苛められてた時だ。 
そうだ、あの時はビアンカが助けてくれた… 
そうだ、それが俺とリュカとの初めての出会いだったんだ… 

今は、今は誰かが助けてくれるのかな……? 






「待て!!」 

661: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:01:39.47 ID:VEx1Z0wv0 
俺とリュカは互いに顔を見合す。リュカの顔には安堵が浮かんでいた。 

きっと俺も同じような顔をしているはずだ。 

パパスが来た。リュカに輪をかけてスケベな、リュカの父親。 
そう、史上最強の父親が、来たんだ。 

「―――――――」 
「―――――――」 

パパスと化け物が何か言葉を交わしている。でも俺にはもう聞こえない。 
何も聞こえない。気絶しないよう意識を保つのが、精一杯… 

剣が風を裂き、肉を絶つ音がかすかに聞こえる。 
2体のでかい魔物が倒れ込むのが見える。 
パパスが化け物に何かを怒鳴るのが見える。 
化け物が――リュカの首に大鎌を構えるのが見える。 
さっきの2体の魔物が、無抵抗のパパスを殴るのが見える。 

ふざけるなよクソが。俺の、俺の大切な飼い主に…仲間に… 
相棒に何てことしやがる!! 

気付いたら、俺は化け物の脚に噛み付いていた。 
化け物の冷たい視線が突き刺さる。化け物が軽く脚を振ると、俺はあっさりと 
振りほどされた。地面に叩きつけられる。 

―――――それが、最後だった。 
681: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:05:57.42 ID:VEx1Z0wv0 
ああ……体が痛ぇ、これ、骨何本かイってるよな。なぁ、リュカ。 
今度こそ俺にホイミかけてくれよ、パパス。 




俺は、目を開けた。 






そこには、誰も、いなかった。 
697: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:08:11.41 ID:VEx1Z0wv0 
何だこりゃ。どうなってんだおい。 

ちょっとまてよ。 

ヘンリーは? 


パパスは? 



リュカは? 




俺の大切な家族は? 
726: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:13:57.39 ID:VEx1Z0wv0 
ツンとした臭いが鼻につく。何か…肉が焼けるような。 
でも、その中に、知っている人の匂いも、かすかに、ある。 

前方に、焦げ跡が見える。 
アレは何だろう? 
俺はゆっくりと近づく。できるだけ時間をかけて。 
右に行ったり左に行ったり。 
見たくない。でも、見なきゃならない。 
焦げ跡の前に立つ。人の影のよう見える。 
傍には、見覚えのある剣が転がっている。 
推測は確信に変わる。 
紛れもなく。 





パパスの匂いが、した。 
762: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:20:26.56 ID:VEx1Z0wv0 
パパスは、死んだ。偉大な戦士は、ここで死んだ。 

俺は必死に思い出す。 
パパスは無抵抗のまま、2匹のでかい魔物の攻撃を受けていた。 
きっとリュカが人質に取られたのだ。あの大鎌を持った化け物に。 

俺達がいなければ。俺が、ラインハットでリュカを止めていれば。 
俺は結局、パパスの役に立つことなんて出来なかった。 
畜生…畜生… 




そうだ、リュカは? 
783: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:25:46.62 ID:VEx1Z0wv0 
リュカの匂いも、そしてヘンリーの匂いもない。 
血の臭いもない。 

リュカもヘンリーも、死んでない…? 

……………!! 
かすかに、がさつな笑い声が聞こえる。 
誘拐犯たちの詰め所だ。あの、肉と酒と煙草の臭いに充満した―― 

まさか? 

俺は最悪の考えが浮かんでしまった。急いで振り払おうとするが… 
無理だ。一度思いついてしまったらそう簡単には忘れられない。 

俺は詰め所へと全力で走った。 
805: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:33:05.37 ID:VEx1Z0wv0 
体がミシミシと軋む。前足から血が流れ出ているのに気付いた。 
だが――知ったことか。俺は詰め所の扉を押し開く。 
ムッとした熱気と臭気が俺を襲う。 
一瞬男達は談笑を止め俺の方を見たが、またすぐに喧騒が戻ってきた。 
俺はテーブルに飛び乗る。 
「なんだニャン助、お前も肉食うか?」 
笑いながら荒くれが話しかけてくる。うるさい。 
俺は無視して肉の臭いを嗅ぐ。全て。一つ残らず。 
リュカの匂いも、ヘンリーの匂いも、しない。 

よかった―― 

やっぱり、やっぱりあいつらは死んでいない。 
そうだ、パパスが、最強の戦士パパスが命を賭して守ろうとしたんだ。 
死んでいてたまるか。男達に食われてんじゃないかなんて、くだらないことを 
考えた自分を呪い殺したい。まったく馬鹿げている。 

「そういや、お前といっしょにいた坊主はどうした?あいつなかなか旨そうだったよな。 
ガハハハハ」 










は? 
817: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:40:20.59 ID:VEx1Z0wv0 
……………… 



気付いたら、そこは血の海。 
何人の死体が転がっているだろう? 
1…2…3… 
やめた。数えても無駄だ。わかりっこない。なんせ、全員バラバラなんだから。 

何やってんだ?俺は。なんでこんな… 

いや、これこそが魔物の本分だろ?そうだ、俺みたいなモンスターが人間の仲間に 
なるなんて、どだい無理な話だったんだ。 

いや待てよ。今まではうまくやってただろ?パパスとも、リュカとも。 

うまくやってたからこそ、失った悲しみはこんなにも大きい。もう嫌だ。こんな思い。 



《放っときなさい。所詮魔物。いずれ野生に戻ります》 

誰の言葉だっけ?これ。 
838: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:46:37.00 ID:VEx1Z0wv0 
帰ろう… 

どこに? 

サンタローズだ。決まってる。俺の故郷はあそこだ。 

違う。俺の故郷はサンタローズじゃない。俺の故郷は… 

違う!サンタローズだ。俺の故郷はサンタローズだ。サンタローズに帰るんだ!! 


俺はパパスの剣を咥えると、遺跡を出た。 
ここにずっと居ればいつかリュカが迎えに来てくれるのではないか? 
そんなことを思ったが、やめた。ここは血の臭いに満ちている。とても耐えられない。 



血の臭いに満ちている? 
  そ う し た の は 誰 だ ?  
872: 愛のVIP戦士 2007/03/04(日) 23:56:27.82 ID:VEx1Z0wv0 
外はもう暗かった。 

来る時は楽しかった。パパスが負けるなんてことはあるはずないと思ってた。 
パパスと共にヘンリーを助け出し、ラインハットへ凱旋帰国。そんな未来しか 
思い浮かばなかった。 

血にまみれ、一人トボトボと歩く俺の姿を誰が想像しただろう。 
こんな俺を見たら、リュカは何を思うだろう。何を言うだろう。 

帰る場所なんかどこにもない。 

ある、サンタローズだ。そこに帰ってサンチョと共にリュカを探すんだ。 
――さっきからまったく魔物が襲ってこないな。夜なんて特に危険なのに。 

当然だ。魔物は仲間を襲ったりしない。 

魔物は――仲間を―― 



歩き続けてどれ程の日数が流れただろう?何日目の夜だろう? 
ラインハットの関所が見えた。 
905: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 00:05:43.93 ID:5z9/mMb80 
「おい、起きろ。魔物だ」 
「ベビーパンサーだな。しかしどっかで見たような…」 

ああ、俺もあんたに見覚えあるぜ。ここを通る時パパスと会話してたよな。 
ほんの数日前の出来事だ。――数日前?数週間前?数ヶ月前? 
――――いつだったっけ。 
まぁいい。とにかく通らせてもらうぜ。あの時と同じように。 

「!侵入してきたぞ!!」 
「落ち付け。2人がかりならきっと殺せるはずだ!!」 


――殺す?俺を?おいおい、何言ってんだあんた。 

いや、これが普通なんだ。人間にとって、魔物なんてのはこんな存在だ。 

今までは大丈夫だったのに。 

リュカとパパスがいたからだ。皆心の底ではお前を恐れ、怯えていたんだ。 
ビアンカも。ヘンリーも。ベラも。ポワンも。サンチョも――な。 


「出て行け化け物ぉお!!」 

兵士が、槍を掲げて襲い掛かってきた。 
922: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 00:12:42.37 ID:5z9/mMb80 
2人の兵士が倒れている。一人は肩から血を流し、もう一人は脚を抑えて呻いている。 
俺がやった。俺が肩に噛み付き脚を引き裂いた。 


止めを刺さなきゃ。 

刺す必要はない。こいつらはもう動けない。 

こいつらを生かしたら俺が狙われる。 

大丈夫だ。ベビーパンサーなんていくらでも居る。俺だなんてバレる事はない。 


俺は2人をそのままにして、関所の階段を降りた。そうだ、パパスは一度道を 
間違えたんだよな。そのまま進んでいれば、こんなことにはならなかったんだよな。 

そんなことを思うと、少し涙が出た。 
遺跡で目を覚ましてから、初めての涙だった。 
949: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 00:20:21.65 ID:5z9/mMb80 
ここって…サンタローズ、だよな。 

関所を越えてからまた十数日。歩きに歩き、迷いに迷い、俺はサンタローズに 
到着した。――はずだった。 

でも、なんだ、これ… 

家は?武器屋は?教会は?武器屋の主人は?シスターは?――サンチョは? 
なんでだ、どういうことだ?おい、どういうことだよ!!!! 

滅んだんだ。 

何で。何で滅ぶんだよ。こんな短い間に。 
――ビアンカは。ビアンカはどこだ! 

ビアンカも消えたんだ。 

いや――ビアンカは違う村だ。ビアンカはこの村の人間じゃない。 
行こう。ビアンカの村に。ビアンカなら俺を分かってくれる―― 
982: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 00:29:58.38 ID:5z9/mMb80 
ビアンカ。俺を助けてくれた女の子。俺に初めて優しく知れくれた女の子。 
そして――リュカが童貞を捧げる予定の相手だ。あんなエロガキを受け容れてくれるのは、 
ビアンカだけだ。そうだ、ビアンカがいなきゃ、俺も――リュカも―― 

村が見える。ビアンカの村だ。名前は――知らない。とにかくビアンカの村だ。 

――門番だ。門番が居る。 

殺せばいい。 

ふざけるな。殺すのは駄目だ。殺したら――ビアンカが受け容れてくれないかもしれない。 


見付からないように。俺は壁を飛び越えた。 
ビアンカの家は宿屋だ。この村で一番大きい建物。 
俺はそこに飛び込んだ。 

「いらっしゃい。あら、猫ちゃんか」 

――誰だ?こいつ。ビアンカのお母さん――じゃない。あの人はもっと綺麗だった。 
俺は宿屋を駆け回る。泊り客の悲鳴や怒鳴り声が聞こえる。 
うるさい、黙っていろ。 
宿屋を出て村中を走り回る。ビアンカは――いない。どこにも。 

ビアンカは居なくなってしまった。ビアンカも消えてしまった。 




俺は、一人だ。 
32: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 00:42:30.39 ID:5z9/mMb80 
――ここはどこだろう? 

森の中だ。 

なんで森の中に? 

俺の故郷だからだ。 

俺の故郷?俺の故郷はサンタローズだ。 

違う。俺の故郷はここだ。この森だ。俺はここで生まれた。 

ここで… 

そうだ。ここで生まれたんだ。ここで。母親であるキラーパンサーと暮らしてた。 

そうだ、覚えている。俺はここで生まれた。 

そう。あれは初めて自力で餌を取ることを母に許された日だった。 

うん、嬉しかった。母親が一人前だと認めてくれたようで。 

そう、俺はもう一人前だ。餌は自分で取り魔物を殺し―― 

人間を殺し―― 

そうだ。俺は―― 

キラーパンサーだ。 
54: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 00:51:26.29 ID:5z9/mMb80 
そう俺はキラーパンサーだ。 
一匹の魔物だ。名前なんてない。 
その通りだ。魔物に名前なんて要らない。 
これからはどうすればいい。 
殺せばいい。魔物は人間を怯えさせ泣かせる立場だ。 
立派な牙や爪も持っている。 
人間なんて一瞬で殺害できる。 

ただ――殺す必要はない。 

………何を考えているんだ?俺は。 
必要がないだと。何を――馬鹿な。 
……どこか。寝床を探さなければ。ここは人里に近すぎる。 
――人里に近くて何の問題がある? 
……ここは寝心地が悪い… 

俺は走り出した。剣を背負って。どこに?知らない。 
69: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 01:03:03.26 ID:5z9/mMb80 
どれくらい時間が経っただろう。 
俺は走り続けていた。暗かった空は、今や白み始めている。 
だが俺は立ち止まらなかった。立ち止まることは出来なかった。 
ここはどこだろう?わからない。 
俺は何をすればいいんだろう?わからない。 


何も分からない。 


疲れた。立ち止まろう。寝よう。 

――いや、無理だ。ここで立ち止まったら。ここで寝たら。何かを失う気がする。 
何か大切なものを失う気がする。 

俺は走ることしか出来ない。 

足が滑る感触がした。体が大きく傾く。 
下は、海だ。 
落ちる。 

いや、落ちよう。落ちてしまえばいい。 
死んでしまえば、楽になる気がする。全ての苦しみが、無くなる気がする―― 
182: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 09:42:29.12 ID:5z9/mMb80 
つづき 

…眩しい。目を閉じていてもわかる。 
太陽の白い光が、瞼を通して突き刺さる。 
どうやらざらついた砂の上に横たわっているようだ。 
何ともいえない気持ち悪い感触が肌に伝わる。 
心地よい波の音が、聞こえてくる。 

目を開ける。 
そこは海辺の砂浜。傍らには、剣。 

身体は動くか?――動く。なんとか。 

生きてるんだな。俺は。海に落ちて、そのままここに流れ着いたのか。 
正に奇跡だな。俺は自分の強運を嘆いた。 
――嘆く?なんでだ。喜ばしいことじゃないか。 

剣を拾い上げる。 
この剣は何だ?わからない。 
だが、そのままにしてはいけないような気がする。 
前方には森が広がっている。俺はとりあえず、北に下った。 
185: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 09:51:22.66 ID:5z9/mMb80 
初めての土地だ。 

植物も、そこらを歩く魔物も、土の質も、全てがいままで見たこともないものだ。 
大陸そのものが違うんだろう。どれほど流されたんだろうか? 
…そんなことを考えても意味はない。流れ着いてしまったものはしょうがない。 
この大陸で暮らしていくしかない。寝床を探そう。 

森を抜け、草原を歩き、更に森を通り抜けると。 

――町だ。町がある。 
…自分おかしな村だ。迷路のように複雑で、風車が設置されている。 
町の中心からは紫色の煙が立ち上っている。 

なんだここは。 

どうする?いや、どうも何もない。 
こんな町に用はない。 
人間に見付かったら厄介だ。 
――殺せばいいじゃないか。 
いや、とにかく、厄介だ。 

俺は更に北へと下る。 
186: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:00:04.63 ID:5z9/mMb80 
北へ、北へ。 
何故北へ行くのか、自分でも分からない。 
適当に進めば、いつかは丁度いい無人の洞窟にでも行き着くだろう。 

数日が経った。 
思ったとおりだ。何て勘が冴えてるんだ。俺は。 
洞窟だ。岩石が積まれ半ば塞がっている入り口は苔だらけ。 
人の出入りがない紛れもない証拠。 
ここだ。ここを俺の根城にしよう。ここは今日から魔物の住処になるんだ。 

俺はその洞窟へと駆け出す。と、凄まじい地響きが起こった。 
その地響きはどんどん近づいてくる。俺の方へ。 
…何だ? 

――パオームの大群が、凄まじい勢いで走ってくる。 

え、ちょ、何。これは……無理。 
うわあああああああああ 

俺は走り出した。この集団から逃げるために。 
188: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:07:43.57 ID:5z9/mMb80 
自分の馬鹿差加減を呪う。 

何でわざわざこの大群の進行方向に駆け出したんだ。俺は。 
普通に脇に逸れてやり過ごせばよかったじゃないか。 
後悔してももう遅い。 
パオーム、図体の割りにめちゃくちゃ速ぇ。もはや脇に避ける暇もない。 
てーかこいつらいつまで走ってんだよ。早く止めたいんだがこんな追いかけっこ。 
――いや、こいつらは俺を追いかけてるつもりはないんだよな。 
俺が勝手に逃げてるだけだ。 

くそ、疲れてきたぞこれは。足が重い。 
自分のスピードがぐんぐん落ちてるのが分かる。 
やばい、追いつかれる。こんな超重量級の奴らに追いつかれたら―― 
考えたくもない。くそ、パオームの行軍に鉢合わせるなんて。 
あぁ、ヤバイ。マジでもう限界。 
あ、でも俺強運だし案外助かったりするんじゃね? 

お父さーん! シンバー!! 

いやなんだこれ。意味分からん。 
うわっ!しま……あああああああああああ 


ズドドドドドドド……… 
191: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:17:51.78 ID:5z9/mMb80 
… 
…… 
……… 
………… 
…………… 
………………ほらな、生きてる。 
でも、体が動かね。ピクリとも。 
ったく、何なんだ次から次へと。どんな星の下に生まれりゃこうも不運が 
続くんだ。いや、でも死んでないから幸運?あーもうわけわからん。 
この不幸の始まりは何だ。俺の不幸はどこから始まったんだ。 

……思い出せない。思い出せる最古の記憶は…なんか森をひたすら走ってるところだ。 
走って走って海に落ちて――じゃぁ俺の不幸の始まりはここからか? 
そう考えると実はあんまり不幸続いてないな。なんで『続いてる』なんて思ったんだ? 
――やめよ。考えるのは。頭こんがらがってきた。 
あ、そういや剣はどうした?どこの誰のかもわからないあの剣…さすがにどっかいった… 
あるよ。俺の横に転がってるよ。なんだこれ、すげー。運命ってやつ? 
でもまぁ、その運命ももうすぐ終わりだ。俺はこのまま死ぬわな。 
だって身体動かねぇもん。死因は何になるんだろ。餓死かな?やーでも怪我しまくって 
腹も減らねえや。 
あーそうこう考えてるうちにマジでヤバイ。目の前が…霞んできた…… 

「大丈夫?」 

ん?なんか声が聞こえる。幻聴か? 
頑張って目を開けてみる。誰だ。本当に人がいるんなら…どうしよ。 

幻聴ではなかった。 
青い髪の少女が、いた。 
194: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:27:09.12 ID:5z9/mMb80 
…なんだこいつ。キラキラした目でこっち見やがって。 
くそ、俺が万全ならお前みたいな小娘一瞬でSATSUGAIできんのによ。 
なんだよ、見せもんじゃねーぞ。さっさとどっか行け鬱陶しい。 

「お父さーん」 

青髪娘が叫ぶ。 
お父さんだと?ふざけんな。大人連れてこられたら…殺される…… 

「どうしたんだい?フローラ」 
最悪だ…そうでもないかも。虫も殺せないような恰幅のいいおっさんだ。 
「この子猫ちゃん、怪我してる」 
あぁ?誰が子猫ちゃんだ。俺は“地獄の殺し屋”キラーパンサー。 
あ、でも見た目はまだベビーパンサー、か…。 
「こりゃ大変だ。家に連れ帰って治療してやろう」 
おぉ?何言ってんだこのおっさん。魔物の恐ろしさを知らんのか。 
なめんなよボケ。なめんな… 

あぁ、おっさんに抱き上げられた。こいつら本当に俺のこと連れて行くつもりか。 
青髪娘が心配そうな目をこちらに向けてくる。 
ふざけんな。同情すんなら肉をくれ… 

でも、この暖かさ、ちょっと気持ちいいかも… 
199: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:35:51.67 ID:5z9/mMb80 
あー…あったけぇ… 
あー…このふかふか毛布超気持ちいい… 

でも身体は動かない。包帯でぐるぐる巻きにされている。 
まだ体中が痛い。まぁそんなすぐに治るわけもないけどな。 

「一応治療は施しましたが…怪我が治ったら。いえ、完全に治る前の方がいいでしょう。 
森に帰してください。必ず。パンサーは決して人には懐きませんから」 
「わかってますよ先生。私も本当は気が進まなかったんだが…娘の前じゃなぁ。ハハハハハ」 

こーゆーのが聞こえちゃうのはあんま気持ちのいいモンじゃないな。 
俺はとっくに意識戻してますぜ旦那方。 
「あ、猫ちゃん気が付いた!!」 
青髪娘が走って来る。 
ハッ、今は怪我してるから大人しいがな、治ったら食ってやるぞ小娘。 
「私フローラ。よろしくね」 
フローラ、か。俺は…俺はただのキラーパンサーだ。 
202: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:46:16.27 ID:5z9/mMb80 
身体の動かない俺と、フローラとの生活が始まった。 

どうやらこの家は相当でかいようだ。家というよりもう屋敷だな。屋敷。 
俺の寝床はフローラの部屋の隅。フローラの親父の平八みたいな頭した 
おっさん――ルドマンは最初はそれを渋っていたんだが、俺がまだ動けない 
ってことと娘の懇願で許した。 
この親父相当娘に甘いぞ。その割にはフローラはわがまま娘ってわけじゃないが。 

フローラは毎日毎日俺の寝床――どうやらフローラが昔使ってたベビーベッドのようだ。 
ふざけんな――の側に座って、俺に話しかけてくる。ウゼェ。てかお前友だちいねえのかよ。 
子供なんだから外で遊べよ。子供は外で駆け回るもんだぞ。鬼ごっこしたりかくれんぼしたり、 
女性の下着盗んだり……何を言ってるんだ?俺は。 
とにかくフローラは俺の持っている子供像(ソースは不明)から大きくかけ離れた子だった。 
キレイなドレスを着て常に室内にいる。外に出る時といやぁ、親父や母親といっしょだ。 
これがお嬢様ってもんなのか?まぁどうでもいい。どうせいつかは食う家族だ。 

俺の身体はまだ動かない。 
206: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 10:57:06.62 ID:5z9/mMb80 
「暑いねー猫さん。もう夏だもんねー」 
ベッドの側に座りながら、フローラがのんびりと言う。 
そりゃ暑いだろうな。そんな大層なドレス着てんだから。 
夏用に多少は薄手の生地で作られてるが、それでもキツイだろう。 
………まぁ、もこもこ毛皮の俺が言うのもなんだが。 
フローラはさっきから部屋の中をウロウロしている。退屈なんだろう。 
ルドマンも母親も出かけてる。何でかは知らんが、とにかく金持ちってのは 
忙しいらしい。 

「あ、猫さんは、猫さん、なんて呼ばれるの、嫌だよね?」 
もちろんだ。猫さん、なんてふざけやがって。 
まぁ自分で気付いたのは偉い。心を入れ替えて今日から俺のことはキラパン様と… 
「私が名前付けてあげるね」 
は?おいおいマジかよ。まぁいい。格好いいのを頼むぞ。お嬢様ならいいセンスしてるだろうしな。 
「私のお気に入りの絵本のキャラクターから付けてあげる」 
絵本?絵本って…まぁ絵本にだってカッコいい名前の奴はいるだろう。 
フローラはしばらく本をめくり… 
「これに決めた!あなたは今日から…」 


「ゲレゲレよ」 






絶対殺す。 
213: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:06:38.77 ID:5z9/mMb80 
こうして俺の名前はゲレゲレになった。 
「ゲレゲレ、早く怪我が治るといいね」 
早くもゲレゲレ呼ばわりだ。なんだこいつのセンス。クソ、お嬢様に期待した 
俺が馬鹿だった。お嬢様がいいセンスを持ってるわけなかったな。畜生が。 
あぁ、もし仮に今度名前をつけられるような事があるとしたら……どっかの村娘がいいな。 
宿屋の娘とかな。絶対にいいセンスをしているはずだ。少なくともこいつよりは。 

と、窓の外から町のガキ共の歓声が聞こえた。 
その声に反応したのか、フローラが窓から外を眺める。どこか寂しそうだ。 
「……うるさいねぇ、ゲレゲレ」 
嘘つけよ。思ってないだろそんなこと。外遊び行きたいんだろ? 
俺でもそれくらいはわかるぞ。 

フローラは鏡台に座って髪いじりを始めた。 
両親が帰ってくるまで、俺に話しかけることはなかった。 
218: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:15:12.57 ID:5z9/mMb80 
フローラの家に来てから、早くも2週間が経った。 
外はもう夏真っ盛りだ。まぁようやく爪の出し入れが出来るようになっただけの 
俺には関係ないけどな。……そして、フローラもな。 
どんなに楽しげに話しかけてきても、外から元気に遊ぶ子供たちの声が聞こえてくると 
一瞬にして元気がなくなる。こんなんなるなら遊びいきゃいいのによ… 
と俺は思うのだが、それは無理なようだった。 
ルドマンが許さないのだ。ルドマンは娘を愛している。そりゃもう気持ち悪いくらい愛してる。 
傍から見てると完全に変態だ。だからこそ、フローラを一人で外に出さない。 
確かに外では何が起こるかわからんからな。川に落っこちたり転んだり魔物に襲われたり… 
あ、そーいや俺も魔物だったっけ。 
これも一つの愛情表現だとは思うけど…なんだかなー 
224: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:25:58.11 ID:5z9/mMb80 
夏が過ぎ、秋が来た。 
この家に来て…もう2ヶ月か。俺は既に手足は自由に動く。 
が、家の奴らや医者の前では動かないふりをしている。なぜかって? 
フハハ、それはこの家の奴らを油断させきっていっきにガブリといくためだ! 
………いやホントだから。手足が自由に動くことがバレたら家から追い出されて 
フローラと会えなくなるとか、そんなことは決して考えてないからな。 
部屋に誰もいない時はリハビリを兼ねて床を歩いている。誰かが階段を上がってくる音が 
したら、すぐさまベッドに戻れるように耳を澄ませながらな。 

ある日、フローラは相変わらず外には出ないで俺に話しかけていた。 
絵本を読んだり、母といった買い物の感想を言ってきたり。いつもそうだ。 
こいつの話は、こいつの周りの狭い世界で完結してしまう。 

「だーるーまーさーんーがー…」 

町のガキ共の快活な声が響いてきた。あ〜あ、フローラの顔が暗くなる。 
いつものフローラなら、何もなかったかのような振りをして俺に話しかけるか、 
そのまま鏡台で髪いじりを始めるか、黙って絵本を読むかだったんだが、今日は違った。 

「外で遊びたいなぁ。ゲレゲレと、遊びたいなぁ…」 

言った。小さな小さな声で。だが俺は聞き逃さない。 
今言ったな。外で遊びたいって、言ったな。 
そこまで頼み込まれちゃぁしょうがない。 
俺は、動くようになった手足を駆使してベッドから飛び降りた。 
230: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:33:36.07 ID:5z9/mMb80 
で、その日から俺はフローラと外で走り回った。 
家政婦や侍女たちに気付かれないよう窓からこっそりと外に出て、誰もいない 
森の中を走り回る。ただそれだけ。それだけでもフローラは楽しんでいるようだ。 
そう、走り回っているうちに、きっと身体は引き締まり肉の味がよくなるはずだ。 
フローラを食う時が待ち遠しいぜ。…うん、食うよ。 

家の中ではバレないように俺はまだ体が動かないふりをし、フローラも何もないかのように 
おとなしく過ごしてた。……が、子供に隠し事は難しい。 
だんだん、外で遊ぶ快活なフローラと家の中でのおとなしいフローラとの境界線は、 
なくなっていった。 
236: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:42:36.68 ID:5z9/mMb80 
俺がこの家に来て…どれくらいが経ったんだ? 
とにかく俺の身体も少しは大きくなりフローラも成長した。 
今の活発なフローラは、ルドマンの中のフローラ像とは大きくかけ離れてしまったようだ。 
戸惑ったルドマンが下した決断は… 

フローラは海辺の修道院へ花嫁修業に行く。 

……まぁ、いつかはこうなる気がしてたんだけどな。帰ってくるのは何年後だったかな。 
戻ってくる頃にはルドマン好みのおしとやかな女の子になっているだろう。 

港町、ポートセルミ。 
フローラを乗せた船が出港していった。もう会うことは無いだろうな。 
俺もルドマン家に戻るつもりなんて毛頭ない。 
とりあえず、元気でやれよ。 


あぁ、結局誰も食えなかったな。 
239: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:50:46.10 ID:5z9/mMb80 
剣を背負って、歩く。歩く。 
全く残念だ。ルドマンは俺がルドマン家にいる間ますます太った。 
食い甲斐があったに違いない。 
フローラも旨そうに成長した。ったく、何のために俺はルドマン家にこんな長いこと 
居座ったんだよ。 
結局寂しがり屋の小娘と遊んだだけじゃねーか。森の中を2人で走り回っただけじゃねーか。 
変な名前までつけられてよ。いいことなんか一つもなかったぜ。畜生が。 
あぁ悔しい。悔しくて涙が出てくる。ふざけんな。やっぱ人間なんかと過ごすもんじゃないな。 
ふざけんなよ、クソが。 
244: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 11:58:20.37 ID:5z9/mMb80 
なんか激しく田舎な村の側を通り抜け、俺は久しぶりにあの洞窟へと到着した。 
辺りを慎重に見回す。パオームの大群は来ないよな? 
そうしてゆっくりと洞窟内部へ入っていく。中は意外と広い。 
つーか地下へと続く階段まである。凄いな。昔は人間も住んでたんだろうか? 

俺は下へ下へと降りていく。魔物が何匹か住んでいるが、気にしない。 
こんな奴らに俺が負けるわけない。 
最下層に到着する。いい感じの広さの部屋があった。こりゃマジで昔は 
誰かが住んでたな。部屋の中心にはおあつらえ向きに藁が敷き詰められている。 
俺は背負った剣を奥に置いておくと、藁の上で眠った。 
ここで暮らそう。一生をここで過ごそう。そう、決めた。 

疲れた。本当に。 
249: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:10:28.22 ID:5z9/mMb80 
数年が経った。 

俺は相変わらず洞窟――魔物の住処――で暮らしている。 
身体もでっかくなった。立派なキラーパンサーだ。 
猫さんなんてもう呼ばせない。――誰に?知らん。 

「あの、親分」 
ドロヌーバが話しかけてくる。 
なんだようるせーな。こちとら物思いに耽ってたんだよ。空気嫁よ。 
まぁ仕方ない。いい親分ってのは子分を大事にするモンなんだ。 
「何だ?」 
「あのーですね。親分、強いじゃないですか?」 
ブフフ、そりゃそうだ。俺は強いぜ。何てったって“地獄の殺し屋”。 
俺の強さに惹かれてたくさんの魔物が慕ってきた。 
このドロヌーバもそうだった。 

(キラーパンサーさん、俺を子分にして下さい!) 
(おいおい、いいのかい?ほいほい子分になっちまって。 
俺は泥だって構わず食っちまう魔物なんだぜ) 
(ええ、俺、キラーパンサーさんみたいな魔物、好きですから) 
(嬉しいこと言ってくれるじゃないの) 

とまぁこんなわけだ。 

「(仲間に) な ら な い か ? 」 

この一言でどんな奴らも一撃だ。 
258: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:19:41.63 ID:5z9/mMb80 
「で、俺の強さがどうしたんだ?俺の強さが」 
「いや、あのですね。阿部さん…じゃない、親分、今までそこら辺の魔物は 
その強さで、狩りして、餌にしてたでしょ?俺らの食料も必要ですし」 
「ああ、してたな。たくさん食ったなー」 
この食ったというのはもちろん性的な意味ではない。なぜなら俺は不能だから。 
「でですね、親分の噂が知れ渡っちまいまして…食料となるモンスターたちが 
まったくこっち方面にやってこなくなったんですよ」 
な、なんだってー 
なんてこった。強すぎるということも罪なものだったんだな… 
通りでここ一ヶ月の飯が雑草やら泥やらだったんだ。 

「どうすりゃいいでしょうかねぇ…」 
「…………あ」 
260: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:25:17.40 ID:5z9/mMb80 
「何か思いついたんですか?」 
「いい事考えた。お前カボチ村に行って作物奪って来い」 
「えー、カボチ村へですかー!?」 
「男は度胸、なんでも試してみるもんさ」 
俺はウインクしながらドロヌーバの胸を小突いた。足が冷たい泥の中にズブリとはまる。 
ひああああああああん 
「でも俺、HPには自信ありますが防御力はてんでダメなんすよ。人間に攻撃されたら…」 
そうだ。こいつはそんな特徴があったんだ。 
はぁ…仕方ない。 
「わかったよ。俺が行ってやる」 
「あ、ありがとうございます親分!!」 
上に立つものは辛いぜ。 
265: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:31:35.40 ID:5z9/mMb80 
その夜。 
俺は慎重に洞窟から出た。 
「本当に大丈夫なんですよね」 
ドロヌーバが不安げに聞く。 
「当然だ。俺の牙を見てくれ。こいつをどう思う?」 
「すごく…大きいです…」 
「こんな素晴らしい牙を持つ俺が負けるわけないだろ。 
待ってろ、お前らに旨いモン腹いっぱい食わせてやるからな」 
そう言って俺は颯爽と夜の草原を駆け出す。 
「親分…それ死亡フラグ…」 
ドロヌーバがなんか言ってるが、気のせいだよな。 
273: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:42:38.39 ID:5z9/mMb80 
田舎の夜は早い。 
カボチ村の連中はみんな寝静まっているようだ。 
だがそれ故に村はシーンとしていた。少しでも物音を立てたら、気付かれる。 
慎重に、そう慎重に。俺は“地獄の殺し屋”。 
慎重に…ゆっくりと………大根を引き抜く。よし。次はきゅうりだ。 
つづいて白菜、ナス…にんじんは嫌いだから放っておく。 
よし、こんなもんでいいかな。ついでに牛を一頭くらい貰っておくか。 
俺は素早く牛をかみ殺す。即死。牛を担いで… 
よし、そろそろ帰るか…あ。 

女がいた。家の前の階段に座って、何かしていたようだ。 
クソッ、なんで気付かなかった。どうする?殺すか…?騒がれたら厄介だ。 
…いや、あっちはこちらに気付いていない。何か別のことに集中しているようだ。 
殺す必要はないな。…ハッ、静まれ俺の右腕!! 

そうこうしている内に女が家の中へ戻っていった。コロン。何かが転がる。 
ったく、それにしても俺に気付かないってどんだけ鈍感な女なんだ。 
まぁ逆に助かったがな。 
俺は女が座っていた場所へとゆっくりと近づく。 
妙に湿ったナスが落ちていた。 



………一応これも貰っておくか。 
285: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:50:57.45 ID:5z9/mMb80 
「おら、どうだお前ら」 
俺はカボチ村からの収穫を子分達に披露する。 
たくさんの野菜、牛一頭。 
「さすが親分!俺達にできないことを平然と(ry」 
まぁこんだけありゃ一週間はもつんじゃね? 
やー食糧問題も一挙解決!さすがは俺だ!! 


甘かった。 
この洞窟の食糧難はどうやら俺が思っていた以上に深刻だったようだ。 
こいつらホントよく食うったらありゃしない。 
「よっぽど空腹だったんだな。腹ん中がパンパンだぜ」 
あっと言う間に俺の収穫が消える。牛まで骨だけになりやがった。 
「あの…親分?」 
ん? 
「何?明日も行って来い!?お前ら俺を農家か何かと勘違いしてるんじゃないのか?」 
「しーましぇーん」 
俺は今後もカボチ村へ行かなきゃいけないらしい。 
298: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 12:57:47.26 ID:5z9/mMb80 
こうして俺は夜な夜なカボチ村へ侵入しては野菜や肉を収穫していった。 
それらは早くて1日、長くても3日くらいで消費してしまう。 
そうして何度もカボチ村へ侵入する俺。『湿った野菜シリーズ』も随分揃ってきた。 
湿ったナス、湿ったにんじん、湿ったきゅうり、湿ったごぼう…… 
昨日なんかは湿った大根が落ちていた。 

でもまぁあれだよな。こう何度も侵入してたらカボチ村の奴らも気付くよなぁ。 
だんだん俺への警戒態勢が強くなっていった。まぁ、人間ごときがつくるバリケードなんか 
軽く突破できるが。 
313: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:07:05.94 ID:5z9/mMb80 
「あの…」 
ある日、藁の上で寝そべる俺にドロヌーバが話しかけてきた。 
「何だ?」 
「あのですね、この洞窟へ…人間が向かっているようなんです」 
「こんな所に人間が?珍しいなぁ」 
「珍しいってか、初めてですよね?」 
「あ、あぁ…そうだな、初めてだ」 
実は初めてではない。ほんの1年程前に、青いフードを被った、銀髪で目つきの鋭い 
ガキがゴーレムやらたくさんの魔物を引き連れて突如天井から現れたことがある。 
……えぇ、ボッコボコにされましたよ。あの魔物どもやたら強ぇの。 
しかもあいつの目ぇ見てたら仲間になりたくなっちゃったしな。こんな事子分には言えんわ。 
「なんかその人間、カボチの奴らが雇ったみたいですよ」 
「…あぁ、農作物荒らしまくったもんな。俺ら」 
「でも、その人間殺せば餌にもなるじゃないですか。頑張ってくださいね、親分」 
は?俺が戦うのかよ。てめぇらが頑張れよマジで。 
…とは言えないわけで。 
「あぁ、わかった…」 
あーぁ、ま、いっちょ人間相手に頑張りますかね。 
328: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:14:46.94 ID:5z9/mMb80 
「あ、親分。入ってきましたよ、人間が」 
「オッケー、じゃお前らも頑張れよ。祖国(洞窟)の為に、みな一丸となって戦うのだ!」 
「おー!!!」 
「ええ、玉砕しましょうね!」 
玉砕しちゃいかんだろうがバカヌーバが。 


… 
…… 
……… 
………… 
…………… 
どうやら洞窟に入ってきた人間はかなり強いらしい。洞窟内のほとんどの魔物が 
斬られてしまったらしい。畜生。すまんなブラザーたち。 
だがここまで来るのは相当キツイぞ人間どもよ。迷いに迷って野垂れ死ぬのがオチだ!! 

「あ、ここが魔物の部屋のようだね」 


来ちゃった。 
344: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:21:51.10 ID:5z9/mMb80 
入り口に、複数の影が立つ。 
逆行で姿はよく見えない。入り口が塞がれ、部屋の中も暗くなる。 
「あ…」 
侵入者達が中に入ってくる。 
なめやがって。ボコボコにしてやんよ。 
数は…4人か。入り口から光が差し込む。侵入者達がハッキリと見えた。 
人間が1人と、魔物が3匹。 

…………は? 
おいちょっと待て、何で魔物いんだコラ。まるであの銀髪小僧の再現じゃねーか。 

「君は…」 
人間が口を開く。 
は?君は?何言ってんだこいつ。ダッセーターバン巻きやがってよぉ。 
354: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:27:31.66 ID:5z9/mMb80 
人間は、なかなか精悍な顔をした男だ。身体は鍛え上げられている。 
だけどこーゆー奴に限って頭ん中はエロが渦巻いてんだよこのムッツリが!! 
んで、魔物の方はスライムナイトにスライムに腐った死体。 
また随分とありふれたパーティだな。お前のことだからもっと凄まじいの 
連れてるかと思ったぜ。――お前のことだから? 
てかあのスライムナイトの野郎、生意気にももう剣抜いてやがる。ウゼェ。 

俺だってこの辺いったいの魔物の親分だ。おめーらなんかに負けるはずないわ。 
グハハハハー貴様らの内臓を喰らい尽くしてくれるわー 

俺は侵入者どもに飛び掛った。 
364: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:31:35.75 ID:5z9/mMb80 
ガキッ! 

いってぇ、スライムナイトが構えた鋼の剣が俺の牙におもっくそ当たった。 
この野郎、マジでボッコボコにしてやる。 
喰らえ!猫パンチ!! 
スライムナイトが吹っ飛ぶ。 
「貴様…」 
あ?なんだおめー人間の言葉喋れるのか。変わった奴だなぁ。 
スライムナイトが剣を構えて走って来る…弾んでくるって言った方がいいか。 
まぁとにかく、まずはこいつから切り裂いてやるか。 





「待て!!」 
376: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:36:45.72 ID:5z9/mMb80 
何か人間が叫んだ。 
スライムナイトの動きがぴたっと止まる。 
でも俺は止まりませ〜んwwww 
再びの猫パンチ。スライムナイトは壁に叩きつけられる。 
次はお前だターバン!!防御しないと大変なことになるぜぇ。 
俺は、今度はターバンに飛び掛る。 
口を開いてはいガブリンチョ。 

俺の牙がターバンの肩を貫いた。 
ターバンは何もしなかった。 
防御も、攻撃も、避けることさえも。 

………なんだこいつ。 
396: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:43:55.02 ID:5z9/mMb80 
口の中がターバンの血で溢れる。 
俺はターバンから離れた。 
こいつの血を飲むのが気持ち悪かったからだ。それ以外の理由はない。 
畜生、次はどんな攻撃をしてやろう……ん?なんか股間に違和感が。 

スライムが飛び上がって俺の金玉に頭突きをかましていた。 
ハッ、そんなん痛くも痒くもないわ。俺の金玉はかなりの強度を誇っている。 
何故かは知らんがな。そして不能なのだ!何故かは知らんがな。 
でも痛くないとはいえ鬱陶しい。俺はスライムを蹴り飛ばす。 
スライムナイトが再び剣を構えるのがちらりと見える。つーか4対1って卑怯だべ? 

「やめるんだ、ピエール、スラリン!!」 
ターバンが叫ぶ。 
「やめないと今度から、君らに僕のコレクション貸さないぞ!!」 
スライムナイトとスライムが静止する。 

コレクション…なんだそりゃ。 
417: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:49:39.63 ID:5z9/mMb80 
「まったく、あんたらって相変わらずよね」 
今まで黙っていた腐った死体が口を開く。…ってかこいつメスかよ!! 
「そうは言ってもスミ子、やはり性欲処理は男にとっては必要なことだよ。 
そして性欲処理のためには何らかの道具は必要なんだ」 
スライムナイトの野郎…すげー冷静にとんでもなく変態的なこと言ってやがる。 
「うんうん、そうだよね。そういう意味では裏オラクル屋は大いに助かるよ」 
ターバンまでなんか言ってやがる。 
「でもあんたその年でまだ童貞なのよねー」 
「僕には決めた相手がいるからねー」 
「「「アハハハハハハ」」」 


今のうちに攻撃していいか? 

437: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 13:55:27.02 ID:5z9/mMb80 
「で、あんた何さっきから待て待て言ってるのよ。寸止めは程ほどにしてよね」 

「そうですよ、我々はあいつを倒すためにここに来たんでしょう?」 
スライムナイト――ピエールっつったか?――が俺を指差す。 
「さっさと首をもらって謝礼貰いましょ。そしてそのお金で……デヘヘ」 
「ああ…ごめんピエール、裏オラクル屋は今夜はなしだ」 
「な、なんだってー」 
「ピ、ピッピキピー」 
「こいつの首を貰うわけには……いかない」 

なんだ。なんかターバンが潤んだ瞳でこっちを見て来るんだが。 
454: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 14:01:07.49 ID:5z9/mMb80 
ターバンがゆっくりとこっちに近づいてくる。 
な、なんだ。やるならやるぞ。来いよ。今度こそ引き裂いてやる。 
俺に出来るのか?――は?何言ってんだ。やるに決まってんだろ。 
やってやる。やってやるぞ… 

「君は…ゲレゲレだね?」 

――ゲレゲレ?は、何だそれ。もしかして名前か? 
ダッサ、だっせぇ。そんなふざけた名前あるかっつーの。っとに。 
馬鹿か。大笑いだぜ。大笑いだ……爆笑モンだぜ… 




涙が出てるのは何で? 
472: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 14:05:56.92 ID:5z9/mMb80 
「ゲレゲレだってwww何それふざけてるのwwwwww」 
「うはwwwwDQNネームwwwww」 
「ピwwwキwwwピwwwキwwwww」 

魔物3人が何か言っている。だが俺には聞こえない。 
いや、聞こえるんだが脳まで届かない。 
畜生、なんだこのターバンは。こいつの目ぇ見てると…動けない。 
初めてだ…こんな懐かしい気分は… 
「会いたかったよ…ゲレゲレ…」 
ターバンが俺の毛皮に顔を埋める。こいつも泣いてるのか…? 
「今まで、何してたんだい?」 
今まで…今まで、俺はこの洞窟のボスだった… 
今まで?違う、今もだ!!! 

俺はターバンを弾き飛ばしていた。 
502: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 14:14:29.24 ID:5z9/mMb80 
「ゲレゲレ……僕だよ…わからない?」 
呻きながら、ターバンが言う。 
「あーあー、やっぱ駄目よ。もうこいつ完全に野生よ?」 
「変な名前付けられて恨んでるんじゃないですかね」 
ピエールがターバンを回復しながら言う。 
「ピキー!ピキキー」 
日本語でおk 

「いや、ゲレゲレなら、きっと分かってくれるはずだ」 
ターバンが再び俺に近付いて来る。 
止めろ。来るな。来るな来るな来るなああああああ!!! 

魔物3人が後ろで会話している。でも、聞こえるが聞こえない―― 

「それにしても…ゲレゲレw誰がつけたのよこんなの」 
「やっぱリュカじゃないですか?」 
「ピキー、ピキキー」 
「え?『リュカの初恋の女の子じゃね?』」 
「リュカの初恋の人ならもっといいセンスしてるでしょwww」 
「そーいえばなんて名前だったけ?」 
「えーと、ミレーユ…マリベル…アリーナ…」 
「ゼシカ…ハッサン…」 
「ピピンピー!」 
「あ…」 
「「「ビアンカだ!」」」 
531: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 14:21:25.51 ID:5z9/mMb80 
ビアンカ……そんな名前知らない。知らないけど… 
知らないけど…知ってる… 

「ビアンカ…そうだ!」 
ターバンが鞄の中をまさぐる。 
「これ…ゲレゲレ、これなら覚えてるだろ!?」 
ターバンの手の中には、赤い布切れ。所々が擦れて、所々が赤黒く汚れているが。 
紛れもなく―― 
「お前が尻尾に巻いてたリボンだ。あの遺跡で、お前が僕に包帯代わりに巻いてくれたリボンだ」 
これは…これは―― 
「ビアンカのリボンだ」 
ビアンカのリボンだ。 

ビアンカの匂い…ああ、懐かしい。俺は…俺は… 

ゲレゲレだ。 

変な名前だと馬鹿にされようが、俺はゲレゲレだ…… 

「おいで、ゲレゲレ」 

リュカが、優しく微笑んでいた。 
563: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 14:33:24.75 ID:5z9/mMb80 
「親分……本当に行っちゃうんですか?」 
ドロヌーバが俺を見上げる。 
「……ああ、悪いな。俺の本当の飼い主は、この人だ」 
「そんな、残念です」「いかねえでくだせえ」「ここに残っててくださいよ!」 
「ここでずっと俺らのパシ…親分でいてください!!」 
「お前ら…」 
涙が零れるぜチキショー。でも、でも駄目だ。俺には… 
「お前ら!!」 
!ドロヌーバ… 
「お前ら、今まで親分に散々お世話になっていたじゃねーか。親分に迷惑 
かけまくったじゃねーか。最後くらい、キレイに、潔く別れるぞ!!」 
「……………!!! 
「そうだ…その通りだ!」「親分、お達者で」「辛かったらいつでも帰って来てくださいよ」 
「ずっと待ってますから」 
ドロヌーバ…お前ら……お前らは、子分なんかじゃねえ。俺の、俺の大切な、仲間だ!! 
この洞窟にも世話になった。子分、いや、仲間達にも世話になった。最後に…お礼を言いたい… 

「……長い間!クソお世話になりました!!このご恩は一生…!!忘れません!!!」 

「おやぶーん!」「おやぶーん!!」 


「行くか。ゲレゲレ」 
おぅ。 
591: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 14:41:30.54 ID:5z9/mMb80 
はぁ〜あ、久々に泣きまっくたぜチキショー 
「おおぅ…おーうおうおう」 
「男って…なんでこんなに馬鹿なのよ…ヒック」 
「ピキ…ピキーキーキー」 
お前らいつまで泣いてんだよ… 

「立派だったな、ゲレゲレ」 
それはこっちの台詞だボケ。こんなに成長しやがって。 
「まあ一番立派になったのは僕のドラゴンの杖だけどねwwww」 
中身は変わってないんだなクソターバンが。 

あ、そうだ、お前に渡すモンがあった。ほらよ。 
「これは……まさか、パパスの剣…?お前が持ってたのか…」 
また泣くのかよ泣き虫ターバンwww 

「あんたらの友情…最高よ」 
「おぉう…」 
「ピキ…」 
うるせぇよ。 
638: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 15:15:15.93 ID:5z9/mMb80 
「あー疲れた。ところでどーすんの?カボチ村、行くの?」 
スミ子がリュカに尋ねる。 
「いや、行かない。約束は首を貰うことだったからね。それに…」 
それに? 
「あそこ若い子一人もいないしwwwババアばっかwwww」 
!!? 
「一番若い人で42ですからねーwwwww」 
な、なんだってー。 
じゃ…じゃあ俺がコツコツ集めた湿った野菜シリーズは! 
湿った野菜シリイイいィィィィズはぁぁああああああ!!!? 
「どうしたんだいゲレゲレ、顔が真っ青だよ?」 
止めてくれ…話しかけないでくれ。 

「うし、それじゃ行きますか。天空の勇者と、リュカのお母さんを探しに!」 
は?え、リュカのお母さん?天空の勇者? 
状況がつかめねえ。 
「その辺はおいおい説明するよ。ゲレゲレ」 
またなんか厄介なことに巻き込まれてるんだろうな。 
まぁどこまででもついてってやるよ。 

「じゃ、行くか。ゲレゲレ」 
おぅ。 
644: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 15:17:43.34 ID:5z9/mMb80 








       月日は流れる 





650: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 15:24:26.05 ID:5z9/mMb80 
俺の周りには、たくさんの人がいる。 
リュカ、リュカの子供、リュカの嫁さん、サンチョ、ピピン、スミ子、ピエール、スラリン… 
みんな大切な仲間だ。かけがえのない、大切な家族だ。 

「ゲレゲレ…」 

リュカが俺の前足を握る。あったけぇなぁ…お前の手は本当にあったけぇ。 

「何でだよ…」 

何でだよ?ハハッ、仕返しだよ仕返し。いつもいつも何も言わずに消えやがってよぉ。 
毎回心配すんのは俺の方だったよな。遺跡でも、デモンズタワーでも。 
お前が石になったとき、どれだけ俺達が悲しんだか…ストロスの杖を見つけたとき、 
どれだけ俺達が喜んだか… 
おいおい、泣くなよ。ゲマを倒して、イブールを倒して、ミルドラースを倒して… 
泣く理由なんかどこにある?お前はもう立派な男だ。立派な父親だ。 
子供の前で……涙を見せるな… 
672: 愛のVIP戦士 2007/03/05(月) 15:33:49.35 ID:5z9/mMb80 
「ゲレゲレ…」 
その声は…嫁さんか。ホント、俺は嬉しいよ。あんたみたいな綺麗な人がリュカと結婚してくれて。 
妻としても母親としても最高の人だ。もちろん女としてもな。惜しむらくは…ネーミングセンスだな。 
そこさえどーにかなればなぁ。完璧な人なんだが…ハハ… 

「ゲレゲレ…」「ゲレゲレ…」 
ガキ共……お前らは俺にとっても本当の子供みたいな存在だったよ。おかしいよな。俺不能なのに。 
俺が一番惜しいのは、お前らの成長が見れなくなることだ… 
これだけは覚えとけよ。お前らの父ちゃんも母ちゃんも、じいちゃんもばあちゃんも、 
本当に立派な人たちだ。越えろよ。この人たちを。お前らなら出来る。 


はぁ…てかお前らうるせーよw眠いんだから、騒がないでくれよ… 
リュカ…お前と出会ってから20年以上経つのに…一緒に過ごした期間の方が短いんだよな。 
でもその短い期間…すげぇ良かったわ…。 

じゃぁな。 





あぁ、パパス…今度こそ、俺にホイミかけてくれよな。 






おわり 


出典:2ちゃんねるSS図書館
リンク:http://ss.saloon.jp/archives/999
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