電気店の親父 (泣ける体験談) 43898回

2011/06/01 13:19┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
俺の母 (http://moemoe.mydns.jp/view.php/24476) ;の
主人公の親父さんの生い立ちで頭に浮かんだ人がいる。

俺が盆休みで、家族と田舎の実家に戻っていた時のこと。
嫁も同郷なんだが、俺の実家の持ちビルで電気工事を
依頼した電気店(電気工事業も請け負っていた)の店主が
その息子と一緒に配線をしながら、ビルの側壁に梯子を
かけて手際良く仕事をこなしていた。
電気工事の専門家だから、その光景は当たり前ではあるが、
その店主の手を見ると、両手共に極端に短い指があったり、
曲がっていたりする。

何か仕事中に大怪我をされたのかな?
それにしても、あの手先で、健常者の俺よりよほど器用に
作業をこなしているとは、流石にプロは違う。
と、感心していた。

翌日、嫁の実家に行くと、そこでもまたその店主親子がいた。
テレビを買い換えたので、アンテナ工事も含めて設置工事を
依頼したのだと言う。
そこで、義母からその店主について、衝撃の生い立ちを聞いた。
店主の年齢を考えれば、戦前のお生まれだろう。
若くして御両親を亡くし、親戚の家を転々とした後、やっと継続
して養ってくれる親戚宅に少年は落ち付いた。

この親戚がひどかった。
戦後の混乱期、皆おしなべて家族が食べて行くことに窮した
時代である。その叔父宅は、伯父と嫁、息子と娘の4人家族
だったというが、引き取られた少年は、家屋裏の人目につか
ない犬小屋に藁を敷いたようなところに住まわされたという。
食事もまた、犬や猫に与えるような、欠けた椀に残飯を盛った
ものを1日1回。ひどい時には何日も貰えない時すらあった。
夏場には腐臭のする残飯を、日に何度かに分けてすすって
飢えを凌いだ。
そして冬場、暖房もない犬小屋のような中で少年は凍え、手の
指先は凍傷で痺れ、赤く腫れる。
それでも医者にかかることもできず、やがて壊疽で指が腐って
いく。どれほどの痛みだったろう。
それでも、本当の犬のように、ボロボロになった手指を丸めて、
椀を抱え、直接口を宛てて残飯を噛む。耐えて耐えて生き
抜いた。
義務教育は一応は修了したようではあるが、満足に学校に
行くことなどできなかっただろう。
今なら、学校や近所の人に虐待で児童相談所に通報され、
救い出されて児童養護施設に入所することになるだろうが、
時代がその少年を放置した。
叔父家族は、そのまま少年が体力を奪われて死んでいくことを
願っていたのではないだろうか。
少しでも早く厄介払いがしたかったのだろう。

数年、そういう酷い仕打ちの中で生き切った少年は、電気工事
業を営む経営者に拾われ、住み込みで仕事を覚えていった。
あの手で、あの指先で手に職をつけるのは、並大抵の苦労では
なかっただろう。どれだけ血の滲むような努力を積み重ねたか。
それでも、あの叔父の家の裏にある犬小屋での生活に比べれば、
将来の自立への夢と希望が持てる生活であったことは、想像に
難くない。
経営者も辛抱強く、仕事を叩き込んで行ったに違いない。
仕事を覚えれば、いつまでも助手として仕事をこなすのでは
なく、独り立ちも必要である。そのためには、弱電や強電の
各種の資格も必要になる。
学校にも満足に行けず、おそらくは読み書きや計算さえも
不自由な学力で、資格試験のための勉強をすることもまた、
どれだけの苦労であるか。
鉛筆などの筆記具は、各指先の根本で交互に挟み、みごとな
筆跡で文字を書いていた。
顧客の中には、奇異な目で少年を見る人もいただろう。
それでも自分を卑下することなく、仕事で疲れ果てた体に
鞭打っての勉強。
しかし、どんな苦労もあの犬小屋から解放された少年にとって、
未来に続く確かな一歩一歩として実感できる楽しさがあった。

人間は、自分の存在を否定されることほど辛いことはない。
彼は、まさに自分を消し去ろうとする抑圧の中で、歯を食い
しばって生き抜き、何も主張することも出来ない、ただ耐える
だけの生活から解放された。
その喜びが、何にも勝るエネルギーとして、彼を突き動かした
のではないだろうか。

やがて彼は大人として成長し、結婚をし、独立した。
俺が実家で彼のことを知って数年後、彼の息子も成長し、
独り立ちできるようになり、店を息子夫婦に譲った。
が、街角の電気店が生業として成り立つ時代ではなく
なっていた。
量販店が幅を利かせ、小さな個人経営の店は、その大波に
呑まれて行った。
彼の経営していた店は、人が良く人情に厚い顧客に支え
られてここまでやって来れたが、そういう客もまた、高齢者
ばかりになり、先細りは目に見えていた。

息子は、親父の生きて来た証である店をたたみ、転職をした。
彼の人生そのものの店の活動は、彼の引退とともに静かに
幕を降ろした。

出典:実話
リンク:なし
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