好きだった福田さん (ジャンル未設定) 40044回

2011/08/12 19:12┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
時は昭和。まだ携帯電話もパソコンもなかった頃の話。
ボクは中2。
自宅の居間の古いラジオからさだまさしの関白宣言が流れていた。

まだ残暑が残る季節。
ある日の放課後、美術部に所属していたボクは学園祭に飾る油絵を描いていた。

2日後に学園祭が迫っている。
まだ7割程度の完成度の絵を仕上げるためボクは必死だった。
思うように進まず、ナイフで絵の具の上に絵の具を重ねて行った。

気がつくといつの間にか美術室にはボクひとり。
外は真っ暗になっていて、時計の針は午後の8時を指そうとしていた。

「いけね、帰ろ。」
あわててキャンバスや絵の具を片付け、帰る支度を始めた時
後ろから人の声がした。

「ねえ、帰る?」
振り向くと福田さんがいた。
エクボがとても可愛い子でボクはずっと想いをよせていた。
でもなかなか自分の気持ちを伝えられずにいた。

福田さんは同じ学年。クラスは違うが同じ部活のよしみでたまに話をする間柄。
彼女が描く作品はその華奢な風貌に合わずダイナミックで力がみなぎっていた。
ボクはその作品にいつも元気をもらっていた。

「確か橘クン、方向一緒だよね。暗くて恐いから一緒に帰って。」
突然福田さんの方からそんなことを言ってきたのでボクの心臓はときめいた。

「あ、ああ。」
ボクはそう言うのが精一杯だった。


ボクと福田さんは暗い廊下を歩いた。
「見える?」
「うん、何とか。」

「福田、ボクの横で絵描いてなかった?いつの間にいなくなってたの?」
「気づかなかった?教室に忘れ物取りに行くって言ったじゃん。」

「え?そんなこと言った?」
「言ったわよ。全然聞いてなかったの?うんって言ってたよ。」
全然聞いてなかった。何かに集中すると生返事するのはボクの悪い癖。

※ちなみに文面では「福田さん」なのに会話では「福田」になってるのは当時のボクの強がり。


ボクと福田さんは宿直の先生に挨拶して裏口から外に出た。
すっかり風が涼しくなってて驚いた。
ふたりの間に会話はない。胸のドキドキが聞こえるんではないかと心配になった。

「もう秋なんだね。」
「うん...」

また無言。間が持たなくてつらかった。
まだ福田さんの家まではかなりの距離がある。ボクは必死で話題を探した。

「なあ、福田が描いている絵って誰?」
福田さんは女性の絵を描いていた。

「え?わからないの?自画像だよ。」
「え?あれ福田なのか?」

「そうだよ。何でわかんないの?」
「ゴメン...」

何か格闘技でもやってそうな強そうな女性像だった。でも自画像と聞くと確かに福田さんだ。
...そうか。
あれが福田さんの憧れなんだ。何となく彼女の心の中が見えたような気がした。

「橘クンが描いてるのはペット?」
「うん、家で飼ってるセキセイインコ。」

「橘クンって上手だよね。いつもそう思ってた。」
「そんなことねえよ。」

自分の才能を褒められたことがなかったボクはわざとつっけんどんに答えた。
それでまた無言に。

静かな住宅街。
ふたりの靴音と虫の声だけが響く。

話題...話題...
あせればあせるほど何にも出てこない。


ああ、福田さんと同じクラスになれたら...
ボクはいつもそう思って部室に足を運んていだ。ここでしか福田さんに会えない。

もう中学にいる間にクラス替えはない。
でも...もし同じ高校に行けたら...


福田さんに自分の気持ちを伝えるチャンスが今であることに気づいた。
そうだ、今しかない...

しかし...
そう思った瞬間、言葉が出ない。
ダメだ...とても言うことなんてできない。

やがてボクの家の前を通過した。
「もしかして私の家まで行ってくれるの?」
「うん。」

「ありがとう。この辺街灯少なくって恐かったんだ。ありがとう。」
「うん。」

福田さんの家までなら自分の気持ちを話すタイミングがつかめるかもしれない。
そう思って遠回りすることに決めた。

しばらく歩くと南高校の前を通過した。
この高校はボクの家と福田さんの家のちょうど中間地点にある。

「ねえこの高校、お姉ちゃんが通ってるんだけど、とってもいい高校なんだって。」
「ふーん。」

「ここのブレザーすごく可愛くて好きなんだー。」
「ふーん。」

「でもレベル高いんだよね、ここ。私は相当頑張らないとムリかな。」
「そんなことねえだろ。」

「橘クンはどこの高校行くの?」
「まだ決めてない。」

「そっかー。私もどこにしようかな。」
「...」

ここの高校はそこそこのレベル。
ボクも福田さんもこれから勉強に集中すれば合格できるかもしれない。
そうすれば...


...「いっしょの高校行こうか」...って言うんだ。
ボクは心の中で思った。でも...でもどうしても言葉が出ない。

喉がカラカラになってた。
心臓のドキドキが止まらない。


やがて福田さんの家の前に。
「橘クンありがとう。わざわざ遠回りしてくれて。」
「い、いや別に。」

...言うんだ!いっしょの高校行こうって。言うんだ!!
「福田、あ、あの...」
「なあに?」

勇気を振り絞れ!!言えるだろそれくらい。
「あ、あのな...」
「うん。」


「今日はおつかれさま。学園祭...成功させような。」
「うん。橘クンありがとね。」

「おやすみ。」
「おやすみ。」

ボクは福田さんに背を向けて歩き出した。
悔しくて...とめどなく涙があふれた。


学園祭もつつがなく終わり、冬が来た。
進学を真剣に考えなければいけない季節になった。クラスの話題もそれで持ちきり。

年が明け、たくさんもらった年賀状の中に福田さんのがあった。
彼女の丸っこい文字を見てボクは涙で霞んでハガキが見えなくなってしまった。


...あけましておめでとう
学園祭の時は送ってくれてありがとう。
一生懸命勉強して、いっしょに南高行こうね。  福田


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