誰かの復讐の物語 前編 (恐怖の体験談) 34045回

2011/10/19 14:27┃登録者:痛(。・_・。)風◆pvNbTqv.┃作者:名無しの作者
 

【箱】と呼ばれる建物に幽閉された七人の男女。
首には謎の首輪。
脱出するためにはそれぞれの機械に記された【枷】と呼ばれる条件をクリアするしかない。

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各プレイヤーの【枷】について

 【悪】
「特に無し」
自分の機械を他の機械に偽装できる。首輪はしているだけで作動することはないし、いつでも外すことが出来る。

 【偽善】
「建物内でプレイヤーが三人以上死亡するか、建物内で三台の機械の破壊が確認される」
他の機械の特殊機能を無効化できる。

 【平和】
「自分の手で機械を四つ破壊すること」
『箱』内にある壊れていない機械の位置を表示することが出来る。

 【調停】
「三人以上が自爆装置を解除する」
カメラ機能がついている。

 【孤独】
「ゲームの終了する30分前まで生存する」
一度半径3メートル以内に入れたプレイヤーにメールを送ることが出来る
しかし一方的で相手は返事を返すことが出来ず、誰から送られてきたかを知ることは出来ない。

 【信頼】
「『箱』の内部のどこかに存在する球体を3つ以上開ける(箱の場所は各プレイヤーの機械の中に示してある、悪の持っている情報の箱を開けると腕輪が起動)」
メモを書き込むことが出来る。

 【絆】
「ゲーム開始時から三十分以内に指定したプレイヤー一人のゲーム終了30分までの生存」
指定した二人の位置を表示することが出来る。




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プロローグ 【開催前夜】


 深夜一時、真っ暗で人気もない山道を一台の車が走る。
色は黒で大型ワゴン。
足場の悪い道をガコンガコンと走る。
中に乗っているのは黒服の男二人ともう一人性別のわからない一人。

 「今更だけどよ、俺たちって随分凄いことしてると思わないか『ヴァリス』」

 男のうちの一人、助手席に乗っている帽子を眼深に被った針金のような体躯の男が口を開く。
口調は心底楽しそうで、この夜の暗さを吹き飛ばすようだった。
その手では血の付着したナイフをクルクルと回していた。
それにもう一人の男が言葉を返す。

 「『ケット』、無駄話をしていると『クッカ』様に怒られるぞ」

 ワゴンを運転している眼鏡を掛けた細身のヴァリスと呼ばれた男は口を開く。
細身だが決して弱そうでなく、着ているスーツの下は鍛えられているようだった。
その上袖口からはわずかに光を反射する刃も見えている。

 二人が喋るワゴンの一番後ろでは何かがぶつかり合っているような音が響いている。
それは、物ではなく人だ。
死んでいるわけでなく薬品によって眠らされている人間。
それを誘拐してある建物にまで運ぶのがこの二人の仕事だ。

 「まあいいでしょクッカ様、このぐらい会話しても?」

 呼ばれたクッカと呼ばれている人間は口を開かず無言でこくんと首を縦に振った。
それをみたケットはまた楽しそうに会話を続ける。

 「ほらほら。だってさ俺たちって今『人を誘拐して建物に閉じ込めて殺し合いをさせよう』としてるんだぜ?」

 そう言いながら後ろにいる七人の人間をナイフで指した。
愉快な口調で喋るケットをウザそうに対応するクッカとヴァリス。
しかしケットは話すのをやめない。

 「だって俺たちが『個人』にこんなに働かされたのってクッカ様が初めてだぜ? いや正確には『買われたのは』が正しいか」

 クッカは自身の金で普通は雇うだけの何でも屋のヴァリスとケットを買収したのだ。
これで二人は一生クッカの奴隷なわけだが、それを大して気にしていない。

 どこまで言っても所詮は三人は仲間と言うわけではなく、ただの仕事仲間なのだ。
金で動き、命令の通りに使命を実行する。
それだけを生きがいにするヴァリスとケット。
それを利用するクッカ。
こう言う風に三人の関係は金で成り立っているのだ。

 「これで俺たちは悲しき奴隷に成り下がってしまったのか! ああ、なんて悲しいことだろうか!」

 冗談っぽい口調でケットは喚く。
横の風景を眺めてもずっと木ばかりで、景色が変わる様子はない。
恐らく目的地に着くまでずっと景色はこのままだろう。
いや、着いてもこのままなのかもしれない。

 まずこの三人の目指している建物と言うのは廃校になった校舎だった。
そこで七人を降ろしたらとりあえず仕事に一段落が着く。
だが休みと言うわけでなく、数時間でまた仕事を続けなければならない。
恐らく二人に休みが訪れることはないのだろう。
自身かクッカが死ぬそのときまで。

 ケットの言葉に何かを思ったのかクッカは突然口を開いた。

 「奴隷とは人聞きが悪いじゃない。僕は君たちを善意で雇っているんだよ?」

 「買収を雇うって言わないっての」

 クッカの声は口に何かをつけているようで性別は判断できない。
マスクを三重につけているようなくぐもった声。
だが喋り方はどこか女性のように思える。
しかし真実はわからない。
ケットの反論を意に介さずクッカは言葉を続ける。

 「今回は僕の復讐の為のゲームをするんだ。君たちはそのために雇ったキャストってわけ」

 自分の計画を自慢げに語るクッカ。
それはまるでマラソンで一位を取ったことを父親に話す子供のようでもあった。
だがその計画したゲームの内容は殺人ゲーム。

 「俺たちをキャストとして使うなんて信じられないよ」

 そんな会話をしているうちに目的の建物へと辿り着く。
既に廃校になって数十年のはずなのだが、今でも利用されていると勘違いするほどにその校舎は綺麗だった。
クッカと呼ばれている人物があらかじめ修繕していたのだろう。

 ワゴンを止め、後ろのトランクを開く。
そこには無残に寝ている『六人』が居てだらしなく男女が絡まって寝ていた。
薬で寝かされているため数時間は起きないだろう。

 「じゃあこの六人を指定していた部屋に寝かせておいてくれ。それが終わったらまたここに来ること」

 クッカの声に従い二人は三人ずつ人間を運び校舎の中へと入っていった。
校舎の中へ二人が入ったのを確認してクッカは一息つく。
そして天を仰ぎながら言葉を口にした。

 「さて、あと数時間で始まるんだ! 僕の復讐劇が! ああ、楽しみだな楽しみだなあ!」

 心底楽しそうな口調で叫ぶクッカ。
そうこれから行われるのはクッカの復讐劇。
これに巻き込まれた七人+二人の運命はどうなるのか?
この時点では誰も知らない。

 そしてゲームが幕を開ける。


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【GAME START】A

 ――――夕凪 春の意識は目覚めた。

部活の先輩に無理やり酒を飲まされてそのまま酔いつぶれた、あれは確か高校一年の初夏。
次の日にもの凄く嫌な気分で起きたのは二年過ぎた今も記憶に新しい。
俺が眼を覚ましたとき、そんな気分を俺は味わっていた。
お陰で辺りを見渡せるほどの余裕が出来るまでに時間がかかってしまった。

落ち着いた意識と気分の中で俺が起きた場所を見渡してみる。
気持ち悪いくらい清潔感溢れる壁紙。
今寝ているのは俺の部屋にあるものよりも数十倍は寝心地の良さそうなベッド。
辺りに散乱とは無縁に配置された無機質な家具の数々。
元々窓があったと思われる場所にまで壁紙が張られていた。

 「なんだよここ……? 俺の部屋じゃねえよな?」

 俺はそこまで確認してようやく言葉を吐き出す。
体をなんとか持ち上げて自分の服装を確認すると学校指定の制服に身を包んでいることが解った。

胸ポケットの中を探ってみると生徒手帳を発見した。
記入してあったのは学校名と学年、俺自身の名前に生年月日と性別。
名前は夕凪(ゆうなぎ) 春(はる)。
四季咲高校三年生18才、これも間違いないな。
性別は男。

 二日酔いの感覚に見慣れない部屋。
何か犯罪に巻き込まれたのではないかと思い、体が震えた。
奥歯がガチガチとなっているのがわかる。

 そのせいか気分が酷く落ち着かないため喉が渇く。
それを潤すために喉元を唾が通り、ごくと音を鳴した。
そのとき首元に何か違和感を覚え喉元に手を当てる。
ひんやりとした感覚が指先を襲う。それだけでは判断できないがこれは――――

 「首輪……?」

 自分の喉元にあるものが自分で確認出来るはずもないため、疑問形にはなってしまうがこれは恐らく、首輪だった。
しかしそれは犬に着ける様な皮製の物ではない。
先ほどの感触からして、光沢を放っているため金属製だろう。

 さっきの二つの要素に首輪までついてくるとなるといよいよこれは本当に犯罪に巻き込まれたのだと思う。
自分の体が無意識に震えている。
そうか、俺は恐れているのか。
死に、恐怖に、まだ見知らぬ犯人に。

 「本当に、なにがどうなってやがるんだ……?」

 化学薬品をかがされてここに連れてきたという仮定をする。
そこに制服と言う条件をはめ込めばここに連れてこられた経緯はおおよそ推理できるだろう。
多分学校帰りか……。

 そうだ、思い出した。
バイト帰りに背後から黒い服の四人組に薬品を嗅がされたんだ。
それで俺は意識を落として後は今に至る……と。

 そうやって俺の思考が現状に追いついて行くと焦りの波も大きさを拡大させた。
気が動転して景色がぐるりと回っていくような感覚が俺を襲う。
眼の前さえも暗転し、手を目的もなくぶらぶらと動かしても引っかかるものはない。
情けなく口から「うあ、うあ」と声が洩れるがそれは何の解決にもならなかった。

 俺は日常を思い出すことにした。
それは現実逃避でしかないのだが、それでも今の俺を和ませてくれる要因にはなるかもしれない。
眼を瞑り、今までの毎日を思い出した。

 いつも馬鹿して騒いでいた友人。
そんな俺たちを叱ってくれた委員長。
生徒に嫌われていた生活指導の先生。
今になって思う、そんなどうでもいいと思っていたものこそがかけがえのないものだったのだと。

 こんな状態で何よりも一番に思い出される人物が居た。
俺の幼馴染だ。
あいつはいつでも俺の傍に居て、間違いを正してくれて、俺を信じてくれていた。
そしてあいつは子供の頃から口癖の様に言っていることがあった。

 「目の前の現実から逃げるな」

 俺が泣いたりしているといつもあいつはこう言った。
今思うと幼少時にこんなことを言えるのはあいつぐらいのもんだよな。
でもこう言う状況になってやっとその言葉の凄さを理解した。

 よし、俺は立ち向かう。
あいつのいる日常に帰るために犯人を殴り飛ばしてやる。
やる気とモチベーションは上がってきた。
今の俺なら現実から逃げない、と断言できる。

 俺は気合を入れるために頬をぱんと張る。
予想外に痛かったけど気分を切り替えるには丁度良い痛みだ。

 気分が晴れて落ち着いた俺は改めて自分の着ている衣服の中をあさる。
もしかしたら携帯が入っているかもしれないと淡い期待を抱いて。
ごそごそ、ごそごそ、もぞもぞ、ガシッ。
何かの電子機器を掴んだようだ。

 「ってなんだこりゃ?」

 俺の予想に反し、ましてや希望にも反して出てきたそれは世間に出回っているものではipod touchの様なものだった。
機械の殆どがディスプレイになっておりボタンの類は上部についている電源ボタンの様な物だけのようだ。
ipod touchであれば後ろにアップル社のロゴが入っているはずだが、それは着いていなかった。
じゃあこれはなんなのだろうか?
『機械』と単純に俺は呼称することにしよう。

 友達が持っていて触らせてもらった事もある俺はなんとなく扱い方も分かったため、電源を入れて最初から設定されているロックを解除する。
すると画面に映ってきたのはメニュー画面ではなく、ただ機械的な文字で【平和】と書いてあるだけだった。
俺は機械に詳しいわけではないが、これは各個体で設定された壁紙とか言うものなのだろう。

 少し投げやりに画面をもう一度タッチしてみると次こそメニュー画面が表示された。
しかしそこには一般的なipod touchにはあるはずの音楽のアイコンなどが無く、代わりにオリジナルと思われる四個のアイコンが表示されていた。

 アイコンの名称を見てみると「枷」「特殊機能」「メールボックス」「ゲームルール」と書いてあった。(ちなみに後ろの2つは黒くなっていて今は選択できないようだ)
メールボックスはともかく他の三つの意味が分からない。
ゲームルールと言う文字を見る限りもしかするとゲームの世界に紛れ込んだのかもしれない。
正しくは巻き込まれた、か

 「せっかく情報元にありつけたんだし、調べてみるのもわるくないよな」

 タッチ出来る二つのアイコンのうち「枷」のアイコンをタッチして、その機能を立ち上げる。
するとふきだしのようなものがポップアップして来て画面一体を埋め尽くすように数行の文字が羅列された。

 「プレイヤーコード【平和】
『枷』
自身の手で他の機械を四つ破壊すること。
(正確に四つを破壊しなくてはいけない。四つ以上破壊するとその時点で首輪が建物と連動する。また四つ破壊していていない状況で首輪に機械を読み込ませても同じように首輪が作動する)」

 ますます意味が分からなくなってしまった。
ここまで手の込んだ事をする番組が現代の日本にあっただろうか?
少なくとも俺に覚えはない。
ということはやはりこれは事件なのだろうな。
再び恐怖がフィードバックするが、なんとか追い払う。

 続けてもう一つの「特殊機能」をタッチ。
さっきと同じような演出で画面が埋め尽くされた

 「プレイヤーコード【平和】
『特殊機能』
壊れていない機械の位置を表示することが出来る」

 ちなみにこの文章の下には文字通りなのかは分からないが、いくつかの点が動き回っているように見える。
まさか同じような状況の人間が他にも居るのか……?
そんな思考が頭を過ぎったがありえない、と笑い飛ばせる程ありえない話ではない。
ゲームである以上十中八九他にもプレイヤーが居るはずだからだ。
これが殺しあう相手がいてこそ成立するゲームだったら?
嫌な汗が背中を流れる。

 そんなわけでとりあえず俺は物騒なゲームに巻き込まれたことはハッキリした。
この機械の特殊機能は自分の位置だけは他の物と表示の色が違うようで一目瞭然だった。(背景が真っ白で他の点が黒、自身の点がピンクに近い赤色だ)
それに気づいたと同時にもう一つ俺は結論にたどり着く。
誰かがここに向かっているということに。

「明らかにここに向かってきてるよな……。まさか俺をここに連れてきた犯人だったり? なわけないか」

 それが一番自然な答えではあるが、一番不可解な答えではあった。
何故なら犯人が自分の位置を表示出来るようにするとは思えないからだ。
しかしこれが何かのゲームを模した猟奇殺人だとしたならゲームをよりリアルに再現するためにちゃんと再現しているという可能性もある。
近づいてきているのが犯人なのかそれとも他のプレイヤーなのか。
俺に与えられた選択肢としては二つ、戦うか逃げるかの二つだ。

 犯人の体格が良いようなら前者は無理不可能。
普通に考えれば犯人も武器を持っている、最悪銃でも持っているようなら後者さえも不可能となる。

 表示の人物がこの部屋の前にたどり着くまで約二分、部屋の大きさを利用してある程度の縮尺を計ったため割と正確だと思われる。
つまり二分程度で俺は命を懸けた選択肢を選ばなくてはいけないわけだ。
最悪選択肢さえ選べないとかどんなクソゲーだよ。

 「愚痴ってても仕方ないよな。とりあえず――――ん?」

 とりあえず武器になりそうなものはないかと辺りを探してほんの数秒、机の上にいかにもな武器を発見した。
それは一般的に拳銃と呼ばれるそれだった。
更に昔友人から教えてもらった知識を行使して説明するならばこの拳銃の名称はジャッジ。確かブラジル製のものだったはず。
悪意の塊である殺意の象徴。

 簡単に見渡しただけでこれだけが唯一武器と呼べるような武器だった。
唯一の武器は余りに強大。
リボルバー部分を外して中を見てみるとそこには、45ロングコルト弾が四発、410ゲージ散弾が一発が入っていた。

 俺はそれを見た瞬間怯えが止まらなかった。
ただでさえ、殺しあうゲームかもしれないと言う想像をしていたのに、拳銃なんてものが出てきたらそれを信じるしかなくなってしまうからだ。
これが俺の元にあると言うことは、他のプレイヤーも持っている可能性があると言うことだ。
それがどれだけ恐ろしいことかは言うまでもない。

 これがモデルガンなどであればまだ救いはあった。
だがこれは紛れもない本物だ。
この質感、この重量、この弾丸の冷たさ。
どれをとっても模造品とは思えない精巧さだった。

 俺はそれをもう見ないようにポケットへと押し込み、『最悪の事態』に備えた。
それが効果を成したのかは不明だが、俺の震えは拳銃をしまいこんだ右ポケットだけに収まる。

 拳銃なんて物があるのを考えてみると尚更今歩いてきているのが犯人だとは思えなかった。
わざわざ犯人が自分の位置を表示させた上に人を殺せる武器まで用意するだろうか?
答えはノーで間違いない。

 そんな自分から誘拐した人間に殺されたいとしか思えないようなことをする人間がいるはずがない。
つまり今ここに歩いてきているのは他のプレイヤー説が有力だ。

 ならば警戒心を少し緩めるか、と思ったが油断をしていて足元を掬われても救われない為現状をキープ。
少しの油断で人は殺されてしまうのだ。
これゲームから得た情報ね。

 カツンカツンカツンと靴で扉の前の通路を踏み込む音が耳に届く距離にまで近づいてきていた。
残りは三十秒といったところだろう。
さっきまでの焦りがさっきまでとまったく同じように俺に迫ってくる。
俺には選択肢が2つ存在している。

 「逃げるか……戦うか、か」

 カツンカツンカツン。
俺の思考を足音が踏み潰していく、ずかずかと土足で。
脳内の不安と思案が、入ってきた足音によってぐちゃぐちゃにされた。
どこかへ飛んでいった答案を手探りで探す。

 「よし、決めた。」

 俺は拳銃を使わずに相手のマウントを取って、優位に立つ。
冷静に考えてみれば、人に拳銃を向けるなんてそんな馬鹿げたことが出来るはずがない。
そんなことをする人間は、最早ひとでなしだ。

 カツンカツンカツッ。
足音がついに扉の前で停止した。
そしてドアノブがくるりと回りドアが廊下側に引かれる。
俺はそのドアに更なる勢いをつける様に手で押す。

 するとドアの奥の人間は驚いたという言葉が貼り付けてありそうな声を出して尻餅をついたようだ。
そのまま俺はのしかかるようにマウントを取った。
そして両肩を押さえつけて身動きを取れないように――――って、あれ?

 「春……?」

 俺が今マウントを取っているのは……幼馴染の暁(あかつき) 優花(ゆうか)だった。
それは俺が帰ろうとしていた日常の象徴で、まるでさっきまでのことが全て夢だったんじゃないかと一瞬疑ってしまう。
だけど背景は何一つ変わっていない。
それは優花に会えたと言う喜びと同時に、優花もこんな状況に巻き込まれているという悲しみも俺に襲い掛かった。

 ちなみに優花は胸はなかなか――――いやかなり膨らんでおり、同級生の中でも五本の指に入るんじゃないかと男子の間では噂されているくらいだ。
顔は周囲の目線を掻っ攫う程の美人。
その髪型は周りからの目線を全て吸収してしまうように深い黒髪でポニーテール。
性格は厳しく優しくない

 とか冗談と優花のプロフィールを確認してたら、現実に思考が追いついた。
そんな感じに俺は女性(相手が幼馴染とは言えだ)にマウントを取っている形にあることに気がついた。
それが分かってくるとだんだんとこの体勢も恥ずかしくなってくる。
頭の中で考えるよりも早く反射的に出てきた言葉を口にした。

 「プロレスの趣味はあったりする?」

 「な、無いわよ!」

 言い訳が無駄だった所か起爆剤になったようでアッパー気味のブロウが俺の顎を抉った。
簡単にノックダウン寸前。
仰け反るように俺は最初に居た部屋の中へと押し戻され、逆に俺がしりもちをつくような体勢になってしまう。
そんな俺に手を差し出した優花、拒否することなく俺はその手を掴む。
とりあえず立ち話もなんでしょうよ、と冗談ぽく笑いながら言って優花を部屋の中へ招き入れた。

 「とりあえず聞いてみるけど優花も気づいたらここに居たとかって言う俺と同じ境遇?」

 「大体そう、その口からすると春もそうみたいね。首輪もしているみたいだし」

 ベッドに飛び移る優花の胸元をしっかりと凝視しながら、俺は机に腰掛ける。
直後に優花に「行儀が悪いわよ!」と怒られた。
仕方なくフローリングの床に直座り。
なんでこんなことになってるんだか……。

 首輪、そう言われて俺は首にしている金属製のそれを思い出した。
自分で見ることは出来ないから手で触るだけ。
ついでに優花のを触ろうとしたら思い切りはたかれた。

 無機質なこれは今のところプレイヤーが仲間同士だと判断することしか意味を見出せない。
ある意味それだけで充分なのかもしれないけど、俺的には全然不充分だ。
あと俺達を拘束していると分からせるためというのもあるか。
どちらにせよ俺にとっては利益になるとはとても思えない。

 俺は機械を取り出してロック解除。
画面を二回タッチと言う手段で特殊機能を表示させ、2つのアイコンがほぼ零距離で接しているのを確認した。
これでこの特殊機能がキチンと作用しているのが解った。
アイコンの数を数えてみると俺と優花のをあわせて七個。
つまり七人のプレイヤーがいるらしい。
他に五人もこの謎の誘拐事件に巻き込まれていると思うと胸が痛んだ。

 俺がぴこぴこと機械を弄っていると優花が「あ、あ、あ!」と最初の文字だけを口に出して俺に指を指していた。
そして自分のポケットから俺とまったく同じ外見の機械を取り出して俺にビシッと突き出した。

 「これ私が寝ていた部屋に置いてあったの! でも使い方がわからないからどうしようって思って! その横になんか拳銃もあってね!」

 「落ち着け優花。何言ってるか訳がわからなくなってるぞ」

 ベッドの上でバタンバタンとする優花を手で制し、停止させる。
え? え? と動揺する優花の表情は凄く幼く見えた。

 優花が落ち着くのを待って俺は機械の使い方を教え始めた。
最初は困惑していた優花だったがスポンジの様に直ぐに知識を吸収していく秀才様は五分もしないうちに使い方をマスターする。
俺が優花の機械を構うのはよくないと思ったため、優花本人の手で機械を操作させ自身の機械の情報を抜き出して行く。
そして使い方を完璧にし、情報を全て見た優花。
タイミングを見計らって俺は一つの提案をした。

 「お互いの情報交換でもしないか? 情報は出来るだけ多いほうがいいだろうし」

 「それもそうね。いいわよ、乗ってあげる。さっきのお礼に私から言うわね、えーと――――」

 それから俺と優花の情報交換が始まった。
俺から提案したのに優花が先に持っている情報を言うのはなんか良くない気がしたが、先に言うと言い出したのは優花の方だし、まあいいかと思考を中断。

 優花の口と機械を直接見て確認した限りでは優花のプレイヤーコードは【孤独】。
『枷』はゲーム終了30分まで生存するだった。

 そして特殊機能は
「一度半径3メートル以内に入れたプレイヤーにメールを送ることが出来る。しかし一方的で相手は返事を返すことが出来ず、誰から送られてきたかを知ることは出来ない」
と言う物だった。

 正直このゲームが何をするものかが分かっていないためこの特殊機能が有利になるようなものなのか、それとも無意味なものなのかはわからなかった。
俺と優花の『枷』というものを見る限りこのゲームは生存できない場合もあるものらしい。
つまり殺し合いのゲームであるという可能性は十二分にありえる。

 もし本当に殺し合いのゲームなんだとしても俺と優花は競合することのない様にしたいものだ。
優花と殺し合いなんて絶対にしたくない。と言うか出来ない。

 一通り優花側にあって俺側にない情報を教えてもらったところで次は俺の説明の番だ。
機械を取り出して、メニュー画面を表示させる。
俺は既に慣れた手つきで機械を構う。

 「んっ?」

 そのときメニュー画面を開いたところで俺は一つの違和感に気がついた。
アイコンの数が……増えている?
押せるアイコンの数とかではなくアイコンの絶対数が増えていた。
その項目名は、「地図」つまりこの建物のマップの表示機能が追加されていたのだ。
優花に見せることも忘れて地図のアイコンをタッチし、地図を画面上に表示させる。

 するとこの建物の構造がついに明らかになった。
どうやら俺の特殊機能では自分がいるフロアの情報しか表示が出来ないみたいだな。
一階層の広さ、全体の大きさ、部屋の割り当て。この全てが学校の校舎程の大きさくらい。
身代金目的の誘拐の線は既になくなったといっていい。

 「おーい、ちょっと春。聞いてる?」

 「うん、聞こえてない」

 「聞こえてるじゃない」

 ちょんと突かれる程度の勢いででこピンをされた。
顔を見てみるとなにやら不機嫌そうだ。

 弁解の言葉も思い浮かばなければ言い訳も思い浮かばないため、無言のまま情報交換の続きを始めることにした。
やはり不機嫌。
少し理不尽な気もしてならないが普通に考えて悪いのは俺だった。
俺のほうも同じような優花がしたものと同じような説明をして情報交換は終了。

 「で、春」

 「どうしたよ?」

 「春はさ、これがどんなゲームか分かった?」

 答えはノー、と即答。
――――するかちょっと迷った。
ここで俺は半分ノーとかって言うぼかした答え方をして、今分かっているゲームの骨格を説明するのどちらにするかを迷っているところだ。
うーむ迷いますな、優花が怪訝そうな顔をする前に答えなければいけない気する。
顎に手を当てて二分の一の選択肢に揺れる俺の思考。

 「答えはイエスかノーでお願いね」

 「……ノーかなあ」

 俺は大人しく、否定することにした。
確かに中途半端な情報で惑わしてもよくないしな。
仕方ない、ここは正直に食い下がろう。

 「やっぱりそうよね……」

 冗談が過ぎたが今更ながらに冷静な俺に戻ってみると、これはいよいよ笑えない状況になってきた。
幼馴染同士が『偶然』にも、恐らく同じ誘拐犯に『偶然』攫われて、『偶然』最初から銃と電子機器を用意されている。
偶然が重なりすぎるとそれは最早偶然とは呼べない。
誰かが裏で糸を引いているのだろう。
誰かって言ったらあの黒い服の四人組なんだろうなあ。

 「わからないならこれ以上今ある情報で考えても無駄だろうよ。大人しく他のプレイヤーを探しに行かないか?」

 俺の提案に優花は無言で頷き肯定を返した。
部屋に忘れ物がないかを確認の後にいよいよ部屋を出る。
そして部屋から一歩踏み出し一つ目の曲がり角にさしかかろうとした瞬間だった。

 機械が小気味良い電子音を上げて俺の意識を呼び寄せる。
どうやら音が鳴ったのは横に居る優花も同じみたいだ。
慣れた手つきで機械を操作し既に三回目のメニュー画面を呼び出す。

 起こった変化はアイコンが一つ押せるようになっている事。
項目は「メールボックス」。
アイコンをタッチして、メールボックスを画面に充満させるとそこには手紙のアイコンが一つ。
優花が特殊機能で送ったものかと考えたけど、それなら優花の方に届くはずがない。

 それは宛名はない代わりに件名が書いており「案内」とやはり機械的な文字と表示されている手紙だった。
画面をタッチするといつもと同じように画面が文字で埋め尽くされる。
俺はそれに対し既に驚くことはなくなっていた。

 「全てのプレイヤーの起床が確認されました。指示する場所に10分以内に集合して下さい。集まらなかったプレイヤーについての処分は説明いたしませんので悪しからず」

 初めてのメールは集合命令ってわけか。
そして文章中の処分と言う言葉。
状況からしてそれは殺害すると解釈して間違いないだろう。
例えばこの首輪が爆発する……とかね。

 犯人が直接俺達の前に出てきて殺すというのも考えられるがそれはリスクが高すぎる。
そのため首輪が爆発説を俺は唱えた。
こんなに密着している首輪が爆発なんてすれば余裕で首がぶっ飛んで即死亡だろうな。
そんな想像をしながら行かないという選択肢は端からないけど、それでも一応優花に問うことにした。

 「行くよな」

 しかし疑問と言うよりかは命令に近い語感だった。
それに優花は、
「そうだね。処分ってのも怖いし」
と答える。

 その後地図を開きどこに指定された部屋があるかを探す。
黒い点を一つ発見。
恐らく指定された場所は一階の端にある部屋だった。

 地図を信じる限り今居る階層が三階、階段を13段だと仮定しても52段は降りなくてはいけない。
警戒なんて一切せず警戒なステップで階段を下りる。
前に居る優花を見て「気楽なものだな〜」と悠長な感想を浮かべつつ階段から離陸。

 紆余曲折−(ひく)紆余曲折を経て目的の部屋の前に到着した。
予想通りのドアの向きは廊下の直線に真っ直ぐ。
横開きのドアに手を掛け行動停止、一時思考。
戸の持ち手の部分がひんやりと――――痛ッ、静電気!? 緊張も痺れて朽ち果てた。

 「開けるぞ……?」

 「いいわよ……」

 俺は腕に力を込める。
ギリっと奥歯を噛み締めながら思い切り横にスライド。
どうやら一番乗りだったらしく教室にはまだ誰もいなかった。
階段を下ったせいで足に酸素が襲撃しているため、机とセットで配置してある椅子に座ることにした。
最初に俺が居た部屋の家具よりも全体的に少し大きい。

 俺と優花が部屋についてから五分と立たないうちに次なるプレイヤーが入室した。
中学生。
それは見た目から判断した入室者の職業だ。
見た目と背の丈からして中学生に間違いはないだろう、恐らく。

 これが高校生とは絶対にいえないくらいに、目の前の少女は小さかった。
髪は茶色の髪を肩くらいで切り揃えてどことなく現代的な印象を与える。
服装はもちろん制服。
多分同じく学校か塾の帰りにでも誘拐されたのだろう。

 「あーと、えーと」

 初対面の相手に疑問を口にするときは呂律と頭が上手く回らない。
何を言えばいいかを考えずほぼ直感的に露骨な言葉を口にした。

 「君。名前は?」

 「人に名前を聞くときは自分から名乗ろうって親に教わらなかったですか?」

 おい待て中学生。
いきなり毒舌を食らわしてくるとはどういうことだよ。
横にいる優花に目線で助け舟。
アイコンタクトが通じたらしく、優花が言葉を代わりに紡いだ

 「えと、この馬鹿なお兄ちゃんが失礼なこと言ってごめんね。私は暁 優花って言うの。君は?」

 「その馬鹿なお兄ちゃんとやらがまだ名乗っていないので私様は名乗らないです」

 なんだかツッコミどころ満載なのだが、あえて突っ込まず、俺はスルー。
スルーするのは少し心が痛んだが仕方が無い。
 
 気分が落ち着いたところで現状の整理に思考が仕事をし始め俺の記憶へと刷り込ませていく。
確認した限りでは、どうやら俺が名乗らないと話が進まない空気のようだ。

 「俺は夕凪 春。改めて聞くぜ、君。名前は?」

 中学入学式の後の入学式で緊張していたとき以上の適当な自己紹介で幼女に名乗り反応を伺う。
数秒の間のあと、少女は不機嫌ながらもきちんと名前を名乗った。

 「……。入戸(いりと) 遊李(ゆうり)、名前はまだ未定です」

 「わけわかんねえよ」

 「人の渾身のボケを受け流すとか良い度胸してやがりますね。地獄に落ちて登って来れないほどに沈むべきだと思います」

 まさか俺の一言でここまで言われるとは思わなかった。
さすがの俺でも少し傷つく。
俺と入戸の第一印象は余り良いものじゃなかった。

 とまあ妙にギクシャクした感じの二回目のプレイヤーとの遭遇だったわけだが……こうなってくるとまた現実味が増してきた。
出来ることならもっと情報交換をしておきたいところなんだが相手が相手だしなあ。

 「えーと春さんに優花さんでしたか? あっ、私様のことは気軽に遊李と呼んでくれて構いませんです。首輪がついているということは御二方も私様と同じようにこのゲームの奴隷と言う解釈でよろしいですか?」

 首輪で判断したのは正しい判断だ。
しかしゲームの奴隷と言うのは少々戴けない。
少し年上っぽく物言わせてもらおう。

 「奴隷、って言い方はないんじゃないか?」

 「なぜです? だって他の方々はともかく私様と御二方は間違いなくあのメールに従ってここに来ているのですよね? でしたら既に奴らに隷属しているわけですから奴隷で間違いないです」

 その言葉には反論が出来なかった。
いやよく考えれば詭弁でなら出来たかもしれないが、遊李が言っていることが正しいため否定することが出来ない。
正しい言葉の暴力とでも呼称してみようか、これはなかなか言われるときついものがある。

 その会話以降部屋の空気はより一層重くなり会話は無くなった。
それぞれ機械を弄ったり、髪を整えたり、天井を仰いだりと三者三様の動きをするだけとなった。
今は指定された制限時間まで残り数分と言ったところ。
その時間になっても残りの四人のプレイヤーは現れない。
何かの事情があって来れないのか、それともありえないとは思うが来るつもりが無いのか、答えは俺の中に浮かんでは来なかった。

 と思っていると突然、硬く閉ざされていたドアが暴風に吹き飛ばされたように勢い良く開かれた

 「た、助けてくれ……。襲われてるだよ、頼む」

 動揺と恐怖で体を震わせながら教室に飛び込んできた男は学生服を見事に着崩すというヤンキー街道まっしぐらな格好をしていた。
いやこれだけで判断するのは少し失礼かもしれないけど。
それは置いといて、この男の発言が気になる所。
この焦りようからしてもしかして犯人に襲われてるのか?
だとしたら助けるよりも早く俺たちは逃げるべきだろう。

 隣の優花の様子を見てみると何が起こっているのかが理解できないようで、おろおろしていた。
俺の勝手な妄想で逃げ出したとかでは仕方ないからとりあえずは話を聞く。

 「慌ててるのはわかるんだけど何が起こっているか聞かせてもらってもいいか?」

 「そんなのは二の次三の次だ! 早く僕を――――」

 その言葉は最後まで語られることは無かった。
理由としては後ろから現れた一人の青年によって背中を踏まれる形で蹴られたからだ。
青年は今踏みつけている男とは正反対に制服をキッチリと着こなし、模範生徒のようなイメージをさせる。

 しかし髪は紫とも青とも言えるような色で、知らない人間から見れば染色した不良のように見えなくもない。
走ったことで少し蒸れたのか、制服で自身をぱたぱたと仰ぎながら青年は言葉を口にした。

 「さて、」

 後から入ってきた男は先に入ってきた男から足を外し教室の中へと入り込んだ。
そこから更に一歩踏み出し直ぐに教室の後ろの席へと座り込んだ青年。
良く見ると後ろにもう二人女子が居るようだ、美少年の影になってて気づかなかった。

 一人は薄幸な印象の中学生くらいの小さな女の子。
そしてもう一人は俺達と対して年齢が変わらないように見える髪が全体的に外はねな活発な印象の女の子だった。
ほぼ同時に四人のプレイヤーが入ってきたことでついにこのゲームのプレイヤーは全員揃った訳でゲームが始まるまで一分を切る。

 「入り口で寝転んでいる大根役者、次に俺達に危害を加えたときは……この鏡峰湊(かがみね みなと)は一切容赦はしない」

 教室には凛とした青年、鏡峰湊の声が響き渡っていた。


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【GAME START】 B

 ――――鏡峰 湊は眼を覚ます。

昔に頭を思い切り殴られて意識を無くしたことが一度あった。
確かあれは俺が余りにも優秀すぎることに腹を立てたアホが、アホなりに矮小な脳を使って俺を闇討ちした、だったかな。

 今の気分はそんな風に物理的に意識を無くした後に起きたときと同じような感覚だった。
そんな風に頭の中が嫌な風にシェイクされてそれを無茶苦茶に元に戻したようなそんな感じだ。

 「ここ……は、なんだ」

 数秒間嫌な頭痛のする頭を抑えて、気分を落ち着かせた。
こんな意味も解らないところに頭痛がするままに寝かされた状態で落ち着けるはずがない。
落ち着けないから何もしないというのは理由にはならない。

 仕方なく重たい足を持ち上げ、改めて寝ているベッドから立ち上がり、部屋を見渡した。
一面が白で塗り固められた壁紙に、綺麗に配置された一つの机、その上に乗っている一つの機械。
まるで病室だなと一笑する。

 今のこの状況はどうなっている?
俺の部屋はこんなに綺麗に片付いてなどいない。

 状況理解に勤めようとしているうちに緊張し喉がごくりと鳴った。
そのとき首元に少し違和感。
喉を鳴らして気がついたが俺の首にはどうやら首輪のようなものがついているみたいだ。

 自分の目からは見えないため「ようなもの」としか言えないがこれは恐らく首輪。
こんなものをしたままでは気分が悪いため、外すことを試みる。
首と首輪との間に指を入れて……

 「入らない……?」

 どうやら俺の首と首輪の間には指が入る程の隙間はないようだ。
俺の首にあわせたようにしっかりとはまっているらしい。
しかも触感的にこれは金属でできているようなので無理やりに外すことも叶わない。

 客観的に今の状況を見てみると俺は誘拐されたのだろうか?
見知らぬ部屋に首につけられた首輪、そして恐らく密室。
これを誘拐と言わずに何を誘拐と言うのだ。

 
 このまま寝ていても仕方がないため、何か行動を起こそうと企む。
未だに重たい体を無理やりに動かし机の上の機械を掴んだ。

 「これは確か……生徒から没収した物の中にこんなものがあったな。名称は……確かipod touchだったか」

 だがあれとはいくらか見た目が違うな……。
仕方ない、とりあえずは『機械』と呼ぶことにするか。
また正式名称がわかったら変えればいい。

 そうして俺は操作を開始した。
機械類は得意ではないが、これの操作は単純ですぐに使い方に慣れることが出来た。
タッチの操作と言うものはボタンの配置などを覚えることが少ないからだろうか?

 少し苦労しながら操作方法をマスターした所で二回タッチして、メニュー画面に移行する。
メニュー画面には「枷」「特殊機能」「メールボックス」「ゲームルール」の四つのアイコンが並んでいた。
そのうち後半の二つは今はタッチすることが不可能になっていて、黒い。
メニュー画面にもあった「ゲームルール」と言う表示からして俺が巻き込まれたのは、なにかしらのゲームだと言うことはわかった。

 とりあえず今の状況を打開する手段が無いか、タッチできる二つのアイコンを見ていくことにした。
まずは「枷」と書いてある方をタッチする。
すると画面を覆うように文字が表示された。

 「プレイヤーコード【絆】
『枷』
ゲーム開始時から三十分以内に指定したプレイヤ一人以上の生存(一度半径十メートル以内に入れたプレイヤーでなくては選択することは出来ない)」

 これだけを見ても意味不明だった。
まず『枷』と言うものがなんなのかもよくわからない。
俺が巻き込まれたこのゲームでそれがどのくらい重要なのか?
このような理由からこのゲームは理不尽だと俺は思った。

 しかもこの『枷』と言うものを見る限り、生存できない場合もあるらしい。
ここから何をやらされるかもおおよそ、理解できるだろう。
――――殺し合い。

 いきなりこんなところに連れて来られた上にこんなことになるとは本当に踏んだり蹴ったりじゃないか。
俺をここに連れてきたやつに文句が言えない以上俺は黙って一人で悪態をつくしかない。
いや、殺し合いとなってはもう少し物事を冷静に考える必要がある。
俺がいざと言うときに人を殺せるかと聞かれれば、間違いなくノーと答えるだろう。
いざと言うときに俺は引き金を引けるのか?
――――引いてもいいのか?
ここにいないアイツに俺は問いかけた。

 かえってくるはずのない返事を待っていても仕方がないため、俺は次の行動へ移ることにした。
続いてはもう一つの「特殊機能」と書いてあるほうをタッチする。
するとさっきと同じように画面を文字が覆った。

 「プレイヤーコード【絆】
『特殊機能』
『枷』で指定したプレイヤーの位置を表示することが出来る」

 文面を読む限りはさっきの『枷』にしっかりと対応した機能ではある。
もっとも今のところ『枷』に書いてあることを満たしたらどうなのかもわからない。
じゃあこの特殊機能はなんの役にたつのだろうか?

 結果今できる限りのことをした時点で、俺は有力な情報を何一つ手に入れることが出来なかった。
零歩の進歩だったからまだいいと悠長な考えはしてられない。
今俺がどんな状況に巻き込まれているかも正確には判断できていないからだ。
これが誘拐だと言うことはわかっているのに、目の前の置かれていた機械が俺の思考を鈍らせる。

 ――――何故、俺にこんな機械を渡した?いや、残したが正しいのか

 一般的に、もしくは常識的に考えて、人を誘拐しておいて自分の身元が割れるかもしれない機械を置いておくだろうか?
俺の記憶の限りでは元々この機械にそういう個人情報を登録する機能は殆どなかったはず。
だがそれでもこれを警察にでも差し出せば、何か証拠が出るはずだ。
だとすれば、何を目的にこんなことをするか。
その目的を想像する。

 例えば、誘拐後に俺に何かをさせるのが目的と言う場合。
楽観的に考えてみてば、これはもしかして何かのドッキリかもしれない。
密室に閉じ込められてその中で人間はどんな反応を見せるか、そんな企画。
ありえなくはないが今の日本でこんなことをすれば間違いなく刑事訴訟物だ、そのため却下。

 だが一つ言葉を足してみれば状況は変わってくる、誘拐後に俺達に「ゲーム」をさせるのが目的、とすれば。
さっきから俺が考えていたようにこの可能性は多いにありえた。
しかしこの首輪、そして機械、その中に入っていた『枷』と『特殊機能』の情報、俺の思考
これだけ条件が揃っていればまったくの妄言と言うわけでもなさそうだ。

 「それがわかったからどうしろと言うっ!」

 クソッと短く俺は呻いた。
選択肢の先に答えがないのならそれ全てが外れクジとなっていると同意だ。
ならば正解をどこかで貰わなければな、もしくはもう俺が気づかないだけで既にどこかにあるのかもしれない。

 『枷』の文面を信じるならばこのゲームには最低でも他に二人は人間が参加しているようだ。
だとすればまずは他の人間を探すことを目的としてみるか。
見つけたそいつからなにか情報を聞き出せるかもしれない。
最初に出会ったやつが犯人であったなら俺は直ぐにでも殺される可能性もある。
だが今このまま何もしなくてもどうせ殺されてしまうのだ。
だったら今動くのが得策だろう、と俺は考えた。

 行動を開始するかと、部屋のドアへと期待せずに手を掛けてみると予想外にドアは開いた。
この部屋は密室ではなかったらしい。
冷静に考えてみればそれは当たり前だが、俺の思考は今、冷静ではなかった。

 そして三歩目の足を踏み出し、体が完全に部屋から出たと思ったそのとき軽快なリズムを奏でて機械が鳴った。
廊下にも音が響いたことに驚き、人に気づかれないうちに部屋の中へと隠れる。
顔を出して確認してみるが外に人影はない。
とりあえずは一安心と言ったところだろう。

 「いきなりなんだっ!? 犯人に見つかったらどうする!?」

 このメールを送ったのが犯人自身と言うことも否定できない。
だが犯人が俺がここにいることを知らないわけが無い。
そのため脱出しようとした瞬間にメールなんてものが来ればそりゃあ驚く。

 機械を操作し、メニュー画面を表示させる。
そうするとさっきまではタッチできなかった『メール』のアイコンが押せるようになっていた。
怪訝に思いながらもそのアイコンをタッチして起動。
やはり画面を覆うように文字が表示される。

 メールボックスの中に一つの手紙のアイコンがありそれを迷わずタッチする。
手紙の本文と思われる文字列が画面を埋め尽くした。

 「プレイヤーコード【絆】様、机の上に銃が置き忘れておりますのでお忘れないように」

 書いてある文章が本当であるなら俺の背後には今銃が置いてあるようだ。
それどころか俺はさっきまで銃と同じ部屋でぐっすりと寝ていたらしい。
ゆっくりと後ろを振り返り無機質な机の上を見る。

 「……本当に犯人共はどういうつもりだ? 目的が読めん」

 本当に机の上には一丁の拳銃――――正式名称「ジャッジ」が置いてあった。
さっき見たときに俺は気づかなかったのだろうか?
もしくは見えていても脳がこの殺意の塊の存在を否定して見えなくしていたか。

 拳銃なんか昔父が生きていた頃に勤めていたテレビ局でのドラマで偽物を見たことがあるくらいだ。
本物を見る機会が一生巡ってこなと思っていたものがいきなり眼の前に現れた。
そうなれば俺が脳でこの凶器の存在を消していたとしてもおかしくはない。

 ――――いや、まだこれが本物と決まったわけじゃあない。状況が状況なだけに脳が勝手に判断しているに過ぎないかもしれん

 ――――それこそ、この銃の存在を否定していたときの様に

 真偽を確かめるためにジャッジを手にする。
ズシリと手に乗っかる重さ、そして金属特有の冷たさ。
この2つはどうやってもモデルガンなどでは表現しようとしても不可能。
それらしくは出来てもこれに完成させることは絶対に出来ない。

 続けてリボルバーの中を確認すると45ロングコルト弾が四発、410ゲージ散弾が一発を確認。
銃弾もプラスチックなどでは表現できないひんやりと冷たさと重さが備わっていた。
ここまでされては本物だと認めざるを得ない。

 無意識に、俺の手がぶるぶると小刻みに震えているのがわかった。
自分の手に人殺しの道具が握られていることが怖くて、恐ろしくて震えているのだ
震えを止めるために俺は制服のベルトの通し穴にジャッジを無理やり差し込む。
それでなんとか俺の震えは止まった。
右のベルトの部分の違和感は拭えないが、確かに俺自身の震えは止まった

 「まさか……本当に殺し合い、なのかッ!?」

 ギリッ、奥歯を噛み締める。
拳を握る。
そして再び心で悪態を吐く。

 ――――クソッタレがッ!

 まずは犯人に遭遇するリスクを負ってでも他の参加者に会う必要がある。
しかも今の俺には最悪戦闘になっても大丈夫な装備があった。
もう持ちたくもないが、それがあることで安心することもあるとは、なんと皮肉が利いていることだろうか。

 当初目的どおり扉を開き次こそは部屋の外に出る。
さっきはいきなり機械が鳴ったため、詳しくは見れなかったが今改めて廊下を見た。
一見は学校の廊下なのだが全ての窓が内側から小さいシャッターのようなもので、封じられていた。
俺が手に持っているジャッジで撃ってみようかと思ったが、こんな狭い距離で撃ったりしたら反射でどこへ行くかわからないし、鼓膜がどうなるかわかったものじゃない。
それにこれで壊せるようなものを配置してあるとはまったく思えなかった。

 さて、しかしどこへ行こうか。
声でも聞こえれば直ぐにわかるのだが、そんな大声を上げるやつなんていないか。
と、思った直後だ。

 「きゃああああー!!」

 「いきなりか。さて、声の方向は……」

 どこからか聞こえてきた女性の物の悲鳴。
方向は窓を向いた状態での右側。
距離は廊下で反響していて正確にはわからないがそこまで遠くないようだ。
俺はうんざりと頭をかきながら行くか、と決心した。

 ここで恩を作れば後から相当に有利になる……かもしれない。
そんなことを俺は一切考えていなかった。
ただ困っている人があれば助け、正義の為に常に動く。
それこそが三年前からの俺のポリシーであり、モットー。
一度足りとも忘れてしまったことのない、あいつからの言葉だ。

 何故今悲鳴が聞こえたか、その理由を走りながら考えてみる。
襲われていると言うのが一番ありえるな。
足の動きを更に早めて声の在処を探す。
微かな声が消えてなくなってしまわないうちに見つけなければいけない。
あのときのような後悔はもうごめんだから、と足に言い聞かせて俺は今を走る。
相手に余計なお世話と言われようが、無駄な足掻きだと言われていても絶対に助ける。

 声の元の部屋に辿り着き、ドアの前に立つ。
一度深呼吸をして、声を上げた。

 「入るぞ!」

 勢い良くドアを押すと部屋の中には二人の女と一人の男がいた。
女のうち一人は男に押し倒されており口を無理やり塞がれている。
もう一人の女は体こそは自由に動くようだが、口をパクパクと動かすだけで声は出ていないし行動をしていない。
この時点で俺の機械の『枷』に書いてあった人数よりも多い人間が見えていた。

 そんな条件が起こった理由で考えられるのは2つ。
俺の『枷』に書いてある条件以上に人数がいるのか。
それともこの中の一人が俺を――――いや俺達をここに誘拐した犯人であるかだ。

 それも重要だが、とりあえずは男から女を助けるべきか。
どう考えてもこの絵面は男が女二人を襲っているようにしか見えない。
だとしたら俺のやるべきことは一つ。

 「ちょっ、ちょっと待て違う! こっちの事情も聞い――――」

 「悪人に喋らせるほど俺は気楽じゃないんでな。――――寝てろッ!」

 男の胴体を思い切り蹴りつけ女の体から引き剥がす。
蹴る瞬間に女が「ひゃ」と小さなうめき声を上げた。

 飛んでいった男の方には見向きをせず倒れている女の方に眼を移す。
横腹を思い切り蹴りつけたから数分は起きてこないはずだ、気にする必要はないだろう。
服も乱れていないし顔に傷がある様子もないため、なにかをされる前に辿り着くことが出来たようだ。
倒れたままでは可哀想だしとりあえず体を起こしてやるか、と手を伸ばす。

 「大丈夫か? ――――ってお前!」

 「あっ、はい大丈夫です。ってあれ、湊くん?」

 助けた女は俺の幼馴染、滋賀井(しがい) 初音(はつね)だった。
この場所にいることは完全に予想外な人物。
茶色にも見える黒髪を外に好き放題伸ばしている髪形は、中々お目にかかれるものではない。

 そんな冷静に考えてる場合でなく。
何故こいつまでここにいるんだ。
こんな殺し合いの場に。
俺の意識が一瞬飛びかける。

 動揺を行動に出しかけたが、こいつの前で俺まで取り乱している場合じゃない。
表面だけでも俺は落ち着いて初音を守らなくては。
もう一人の少女にも手を差し伸べようと思ったそのときだった。

「痛いじゃん、いきなり何してくれてんの?」

 俺が蹴った右腕を押さえながらイラついた口調でそういう男。
まるで反省の態度が見えない男に対して俺は少し怒りを覚えた。
しかしここで怒りをぶちまけても仕方が無い。
ここではまず犯人かどうかを問い詰めるべきだろう。

 「それはこっちの台詞だ。お前が俺たちをここに連れてきたのか?」

 俺がそう言うと男は愉快そうに笑う。
そして自身の首を指差しながら、こう言った。

 「何、僕を犯人だって言いたいの? これ、見てみなよ。これ」

 指差した先にあったのは金属製の首輪だ。
自分のものと同じかは解らないため、代わりに右にいる初音の首を見る。
二人の首輪はこの距離で見る限りは同じもののようだ。
つまり同時に俺の物も同じと言うことになる。

 「じゃあ質問を変える。お前はこの二人に何をしていた?」

 「別に、何もしてないけど? ただの正当防衛だよ」

 正当防衛。
それは自分が危害を加えられかけたときにする自己防衛の為の反撃だ。
しかし今俺が入ってきたとき明らかに初音を襲っていたのに、正当防衛とこいつは言った。
俺はかなりの年月初音と幼馴染をしているが、こいつが人に手を上げるような真似をするとは思えない。
勘違い、と言う可能性もある。
まずは男と初音に詳しく話しを聞くとしようか。

 「初音、お前は何かをしたのか?」

 「え、いや。ただ私はこれを見せて、『これって本物ですか? 』って聞いただけだよっ」

 そうして初音は足元に転がっていたそれを拾い上げた。
形状だけを見るなら、外見だけで判断するなら。
それは間違いなく俺が持っているものと一緒の「ジャッジ」だった。
もしかしてこれはプレイヤー全員に支給されてるのか?
だとすれば今この部屋にだけ四丁。
下手すればそれ以上存在するのか。
これが、この殺しの道具が……。

 再び体が震えようとするが俺は必死に押さえ込む。
そして目の前の男に再び話しを聞く。

 「おい、貴様。正直に何があったか言え。正直に言うなら今は許してやる。俺もこいつもあっちの女の子もお前も、みんなこのゲームに巻き込まれた被害者なんだ。これからも友好的に協力するためにも、ここは正直に言っとけ」

 言葉だけを聞けば優しく聞こえたかもしれない。
だが声のトーンと言葉に込められた意味はそんなに穏やかではなかった。
この言葉は「今ここで正直に言わなければ、この先お前に協力という二字熟語に縁があると思うなよ」という脅しでもある。
ちゃんと言っておかないとこの生意気な男は正直に物事を話さないだろうしな。
そのためあまり好きではないがこの手段を取るしかなかった。

 「……何もしてないよ」

 協力を拒否したことを俺は愚かと嘲りながら、眼を吊り上げた。

 ――――こいつは俺の協力を拒否した。ってことは犯人って可能性もあるよな

 俺は冷静に判断して、初音が一パーセントでも死ぬ可能性があるならその分子を破壊するまでだ。
男の体を持ち上げ体を浮かせる。
声にならない声を精一杯の力を使って発しているが知ったことではない。
持ち上げた体を更に持ち上げて壁に全力で叩きつけた。
男が口の中に含んでいた空気を全て吐き出すが俺はそれを気にせずそのまま床へと捨て、男の顔の真横に足を振り落とす。
男は短い悲鳴を上げて驚きを表現したが今の俺はそれを悠長に確認しているほど穏やかではない。

 「お前は俺が何を言ったかわからなかったのか? だったら許してやる、それなら許してやるよ。だけどそうじゃないってんなら俺はお前を犯人だと判断する。首輪なんかが言い訳になると思うなよ」

 鋭い眼光で男を睨みつけ威圧する。
蛇に睨まれた蛙とまでは言わないがこの睨みつけも少しは効果があったようだ。
だが睨みつけているだけでは何の解決にもならない。
次の行動はもう一度襟を持ってもちあげることにしてみよう、それで言わなければ……。
そのときは知らん。

 「あ……が……」

 襟をきつく持ちすぎたのか男はうめき声を上げていた。
そんなものは知ったことではない俺は質問を続ける。

 「もう一度だけチャンスをやる、これを逃せば…わかるな。次は正直に何があったか答えるか? イエスなら右手を上げろ、ノーなら左手を上げろ」

 質問というよりも尋問な気もしたが、今はそういう小さなことを気にしている場合じゃない。
答えを待った時間は十秒だったのか一分だったのか、それは定かではない。
定かではないが、男が出した答えはシンプルだった。
どちらの腕も上がってはいない、だが口がパクパクと動いていた。
昔あいつに教わった簡単な読唇術で言っている言葉を読み取る。

 『く』
 『そ』
 『く』
 『ら』
 『え』

 確かに男はそう口で表していた。
俺はもう一度壁へと押し付けようと思ったがそれは叶わない。
男が反撃に移ったのだ。鳩尾付近に強烈な右膝での蹴りが入れられる。
致命的なダメージにこそならなかったものの、掴んでいた右腕の力は無くなり男はいとも簡単に俺の腕の束縛から抜けた。
そしてお返しといわんばかりにもう一度鳩尾に向けて蹴りを打った。
今度はクリーンヒットし、片膝を地面に着く。

 「あーもう痛いなあ。骨とか折れてたらどうすんのさ。まったく、このゲームでは協力が大事なんでショ?はは、人に暴力を振るっといてそれはないなあ」

 「俺はお前みたいな屁理屈ばっかり言う野郎が大嫌いなんだ」

 鳩尾の痛む体を無理に持ち上げて右拳を思い切り男に突き刺した。
腰も力もほとんど入っていない勢いだけの拳だが牽制には丁度いい。
隙だらけの男の体。
そこへ左足の蹴りを打つ。
最初俺が蹴飛ばしたときの状況を再生したかのように男の体を大きく飛ばした。
壁にぶつかって体が停止したかと思うと直後男は動かなくなり、それは気絶したのだと気づく。
壁にぶつかった際に頭でもうちつけたのだろう。
まあどうにせよ、これでとりあえずは一時的には問題解決と。

 「二人とも、怪我はないか?」

 「あー、うん。まったくと言っていいほどないね、うん」

 やたらと落ち着いている初音に少し違和感を覚えながらも、ひとまず怪我がないようだからよかったと胸を撫で下ろす。
目線で「あっちの女の娘は大丈夫なのか?」と訴えると初音の方は言葉でそれに答えた。

「大丈夫だよ、華ちゃん――――ってあの娘の名前なんだけどね。華ちゃんの方は指一本も触れられてないから」

 と言うことは初音が華、とか言う少女を庇ったのだろうか?
まあ普段からの初音を考えればそこまで意外というほどでもないか。
いつも通りで寧ろ安心した。

 しかしさっきから華は一言も喋っていない。
一件被害を受けてないように見えるが実は何か外見には見えない、危害を加えられたのではないだろうか? と俺は心配した。
交流ついで華に近寄り声を掛ける。

 「話しを聞く限り大丈夫みたいだが、さっきからお前は喋っていないだろう? なにかされたか?」

 「……」

 俺が質問しても華は相変わらずの無言のままだった。
無言のまま、着用している学校指定と思われる制服のポケットをあさり始める。
そして何を取り出したかと思うとそれは、ちっちゃなメモ帳とボールペンだった。
カリカリとメモ帳に字を書き連ねて俺にその文字を見せる。

 『助けてくれてありがとう。私は昔の怪我のせいで喋ることができないの』

 よくみると喉に大きな傷跡が痛々しく残っているのが見えた。
俺がついじっくりと見ていると慌てて華は傷を隠す仕草をする。
失礼なことをしたなと反省して俺は軽く頭を下げた。
それを見て華は申し訳なさそうに両手を体の前で振り、メモ帳に文字を書いて俺に見せた。

 『気にしないで。傷を見られたことじゃなくて、あんまり男の人に見られることがなくてびっくりしただけ』

 そっちか、まあどちらにせよ失礼なことをしたのにかわりはないからな。
にしてもあんまり男に見られることがないということは女子校にでも通っているのだろうか?
しかしそれは今詮索するべきではないと思い中断した。

 「そう言えばさっき機械が鳴っていたから見てみたほうが良いかもっ」

 ごそごそと持っている鞄の中から機械を取り出し俺に見せる初音。
そう言われては確認しない理由も無いため胸ポケットにしまっていた機械を取り出した。
画面をタッチしながら操作し、メニュー画面にまで行き「メール」のアイコンがタッチ。
受信箱を開くと、さっきの銃の警告のメール以外に、手紙のアイコンが一つ増えていることに気づき、それをタッチする。
するともう何度か見た動きで画面を文字が多い尽くした。

 「全てのプレイヤーの起床が確認されました。指示する場所に10分以内に集合して下さい。集まらなかったプレイヤーについての処分は説明いたしませんので悪しからず」

 このメールを見た後にメニュー画面に戻るとそこには「地図」のアイコンが追加されていた。
「地図」のアイコンをタッチすると、画面に地図が広がる。
右端には「1F」「2F」「3F」と三つのボタンがあってどうやら、それを押すと階の表示が変わるようだ。
でメールの本文にあった指示する場所とは、1Fにある黒点で間違いないだろう。
どうやらメールが来たのは五分前、急がないと処分とやらを受けてしまうな。

 「俺はとっとと行こうと思うが、お前らはどうする?」

 「行くよ!」

 『行く』

 二人は二つ返事に答えを返し、俺に着いて来ることを肯定した。
さてとこの男はどうするか……。

 と、後ろを振り向いたところでそこにあの男がいないことに気がつく、
さっきまで寝ていたはずの男の姿が消えていた。
ドアを開けて逃げたわけでもあるまいしどこに――――

 「湊くん、右!」

 初音の慌てた声が耳に届く。
俺はその指示通りのあった右側に右足を振る。
すると短い悲鳴と足になにかがあたった感触。
男に俺の脚が当たったのだ。

 足を地面に下ろすと、俺は戦闘態勢を取り来る男の襲撃に備える。
だが男は攻める様には見えず、ただ立ち尽くすだけだった。

 「避けるじゃなくて反撃までする……ね。流石にちょっとビックリかな」

 コキコキと首と右腕を鳴らす男
改めてみるとこの男は学生服に身を包んでいた。
そのため俺と同じかまたは年下の学生らしい。
胸に貼り付けてある名札を見るとそこには「三年。日乃崎」と書かれていて、容易に学年と名前がわかった。
日乃崎……まさかこいつッ!?

 「お前まさか……日食高校の藁人形か?」

 「あれ、僕のこと知ってたの? あはっ、僕って有名人じゃん」

 コキコキと小気味言い音を出して、日乃崎は首を鳴らす。
日食の藁人形と言えば俺の住んでいる地域ではなかなかに有名な人物だ。
表ではかなりの善人だが、日乃崎に対して何か危害を加えればそれ以上の被害を自分が受ける。
それはまるで藁人形の呪いの様に。
俺はそれに気づかないまま日乃崎にどれだけの被害を加えたのだろうか?
それがこのゲームでいつ返ってくるか、それを考えるだけで恐ろしい。

 ――――だとしても俺は恐怖しない

 俺に帰ってくるならまだ良い。
だが藁人形の被害を受けた人間は直接危害を加えたものだけでなく、その関係者というだけで傷つけられた者もいるそうだ。
そうだとすれば俺がやるべきことは恐怖することではなく、初音と華を守ること。
そして日乃崎と言う脅威を取り除くことだ。

 「とりあえずさ、僕に危害を加えた人間がどうなっているかは知ってるよね?」

 邪悪な笑顔を俺達に向ける日乃崎。
後ろの初音がビクっと震えている、こんな人間に笑われちゃそりゃ怖くもなるよな。
あいつがいたら多分すぐさまに殴り返していただろうと苦い思い出が頭を過ぎり頭をズキリとさせた。

 「それよりさ、さっきのことで正直に言わせて貰うとさ、僕は正当防衛を理由にそこの初音ちゃん、だっけ? 危害を加えようと思ったわけ。こんなとこに閉じ込められてストレスも――――」

 悪人の言葉に耳を貸せば精神がゆらぐ、犯罪者の言葉に耳を貸せば精神が崩れるといわれるほどだ。
だから俺は次の言葉を待つより早く日乃崎を廊下へと蹴り飛ばす。
そのまま追う様に俺も廊下へと飛び出した。
そこには既に日乃崎の姿はなく階段に向けて走っているようだ。
直ぐに追いかける、だがその前に言っておくべきことがあった。

 「初音、華、早く行くぞ! 着いて来い」

 二人の返事を待つより早く俺は走り出した。
指定されたタイムリミットが近いというのもある。
だがそれ以上に日乃崎が誰かと接触して、また被害者が出るのを防ぎたいという思いもあったからだ。

 足に力を込めて、全速力で追いかける。
さっき走ったのもあり、俺の足のコンディションは最高潮だ。
それにも関わらず、結局廊下では追いつかず、階段に差し掛かった。
俺は階段を一段ずつ下りるのも面倒だったため、十数段を一気に飛ばして距離を縮める。

 だんだんと距離は縮まるが、結局追いつくことは叶わずに日乃崎は指定されていた部屋へと辿り着いてしまった。
こうなってしまっては手遅れか、問題なしかのどちらかだ。
俺が今急いでも仕方が無いか。
仕方なく、上に置いてきた初音と華が来るのを待つことにした。

 「湊くんっ……早いよぉ」

 「悪い、状況が状況だったからな」

 恐らく初音も藁人形については知っているはずだが、恐らく見た目だけではわかっていない。
華の方は知っているかすらも謎だ、中学生にも有名なところでは有名なはずだが……どうなのだろう。
とりあえず指定された部屋へと歩いていく。
すると未だに部屋に入って直ぐのところに日乃崎が立っていた。

――――まだ善人ぶろうとしてるのかコイツは。

  心でそう呟きうんざりしながら、背中を踏みつけるように蹴る。
すると地面に倒れた日乃崎、俺はその上を歩き適当な椅子に座った。
後ろにはちゃんと初音と華もついてきている。
二人が席に着いたところで俺は部屋全体を見渡した。
俺がまだ会っていなかったプレイヤー数は三人、そのため今この部屋には合計七人のプレイヤーがいることになる。
指定された時間までもう一分ほどしかないため恐らくここにいる七人がこのゲームに参加する全プレイヤーなのだろう。

 「さて、」

 言葉に一端区切りをつけながら足を組む。
そして少し息を吐き出してから、俺はドアの前に寝ている日乃崎にキツイ視線を向けて言葉を投げつけた。

 「入り口で寝転んでいる大根役者。次に俺に――俺以外に危害を加えたときは……容赦はしない」

 部屋には俺の声だけが響いた。


-----------------------------

狂ったゲームのプレイヤー七人がここに集い、今ここに饗宴の幕開く。

――地獄が忘れた罪を返すために
――地獄へと返すために
――地獄へと落ちた者の復讐のために

舞台は整い、ここにゲームは開始される。

『Play Start』



-----------------------------

【PLAYER】 1

――――夕凪 春は周りの様子を窺う

 男――――鏡峰湊が入ってきてから部屋は一層硬直状態が続いていた。
誰が動くというわけでもなく、ただ全員が椅子に座り時間がくるのを待ち続ける。
何かイベントが起こるのを冷静に待ち続けていた。
まるで獲物を狙う獣の様に。

 その凍っている空気を壊すように壁に設置されているスピーカーから機械音のアナウンスが始まった。
前触れ無く突然始まったためほとんどの人間が体を震わせていたのに身が固まる。

 『皆様集合なさっているようですね。折角のプレイヤーがゲームに参加すらせず退場という自体がなくてよかったです』

 抑揚のない機械的音声で発せられたその言葉。
退場、この状況でその言葉が意味するのは間違いなく……死だろう。
それを他のプレイヤーも察したようで顔を青褪めさしているやつ、逆に不敵な笑みを漏らしているやつ、表情を変えないやつと様々だった。
中でも不敵に笑みを漏らしているやつ、それは教室の入り口で真面目そうなプレイヤーに蹴られたプレイヤーだ。

 見た目は少し長い黒髪をだらりと伸ばしている。
名札を見てみると日乃崎と書いてあった。
入ってきた当初は理由もなく暴力を振られているのかと思っていたが、今の表情を見る限りそうでもないみたいだな。
今のところもっとも注意するべきプレイヤーなのかもしれない。

 「質問です」

 誰もが予想していなかったタイミングで遊李が声を出した。
何を目的にしているといわれたら間違いなく、質問をするためだろう。
しかしまだあっちは何も言ってないのに質問ってのはどうかと思うのだが。

 『はいなんでしょう、入戸様』

 「様付けとは教育が行き届いているですね。それはそうとしてです、何故私様達はここに集められたのです?」

 そんな無茶な質問にも抑揚のない言葉を変えず答えた。
と言うかこの状況でよくそんな上からに物を言える遊李の勇気すこし尊敬したいくらい。
しかし真似したいとは思わないね。

 『それについてはルールの解説、とでも言っておきましょうか。あなた方が参加するこのゲームについて説明をさせていただこうと言う次第です。回答についてはこれで満足でしょうか?』

 「はい、充分に満足です」

 偉そうに足を組んで話を聞こうという態度を見せる遊李。
とりあえず敬意はまるで見えない。
遊李は考えているのだろうか?
敵について、その大きさについて、その恐ろしさについて。
恐らく考えてないだろうな。

 『では改めてルールの解説を始めさせていただきます。まずはゲーム概要です』

 ふむ、と俺は顎を下に引く。
それが相手に届いているとは思えないが、自分の満足感を満たすためにしたのだ。
と言うか周りが静か過ぎるためこうでもしないとなんか不安になってくるしな。

 『このゲームは正義六人対悪一人の対戦となります』

 対戦? それは随分と大雑把な説明だ。
スポーツ対決というわけでもなく、カード対決でもなく、カジノ対決というわけでもなく、ただただ対戦。
その大まか過ぎる説明は不思議を超えてかなり謎。
そのうえ正義と悪という分け方も気になる。
いつわけられたのか、どういう基準でわけられたのか、なぜ六対一というアンバランスなわけ方なのか。
謎は積もることを止めない。

 「質問してもいいですかっ?」

 そう言ったのは外はねの元気少女(っぽい見た目の娘)だ。
手を上げて授業などで発表するように手を上げている。
それに機械音は『はい、なんでしょう滋賀井様?』と変わらない声音で言うだけ。
聞いた少女――――滋賀井さんは質問の内容を口に出した。

 「悪と正義ってどうやったらわかるんですか?」

 それは丁度俺も気になっていたから、質問していてくれたのは嬉しい。
だが俺の予想だと……

 『それについては後に説明いたしますので回答を省略させていただきます』

 「は、はいすみませんでした」

 あ、やっぱりか。
それさえも説明しないとなると、このゲームが何をするかもわからないからな。
ぺこぺことスピーカーに謝る滋賀井さん。
そのときにもぴょこぴょこと揺れる外に跳ねた髪がやたらと可愛らしかった。

 『このゲームの勝利条件は正義と悪それぞれで違います。まず人数の少ない悪の方から説明いたしましょう。』

 そこで機械音は一旦切り、再び言葉を紡ぐ。
機械にも呼吸と言うものがあるのだろうか。
それとも喋っているのは実は人間だったりするのか?
俺の疑問は答えが返ってこない。

 『悪の勝利条件は簡単。正義が全員死亡するか制限時間が来ること』

 「死亡っ!?」

 放送を聞いてそう言ったのは隣にいた優花だ。
死亡という言葉を聞いて顔が強張ったのを俺は見逃さなかった。
他のプレイヤーの顔を見てみるとやはり殆どのやつの顔が引きつっているのに対し、一人だけがにやけていた。
もちろんそれは日乃崎だ。
やはりこいつは……異常だ。

 もしかするとこいつがこのゲームで言う『悪』というやつなのかもしれない。
要注意、しておいて損は無いよな。

 『はい、その通り死亡です。それはルール上での死亡でも、もちろん殺害でも構いません。続いては正義の勝利条件です。勝利の勝利条件は悪が死亡していて各々の首輪を解除することすること』

 それには誰も何も言わなかった。
いや言えなくなったが正しいか。

 これで大まかなルールは判明した。
このゲームは人が死亡するということが。
わかりたくなかったが、このゲームでは絶対に全員が生存することは出来ない。
最低一人、『悪』というものが勝ってしまえば六人が死んでしまう。
殺し合い……なんてものがこの日本で許されてしまうのか。
ふざけてやがる……。

 『質問がないようなので続けさせてもらいます。このゲームは制限時間は12時間、ゲームの舞台は『箱』と呼称されるこの建物全体。大きさは学校程で、高さは三階層までです。外に出ることは出来ませんのでご了承ください』

 まあ出れると思うのなら試していただいても構いませんが、とも付け加えた。
12時間で最高六人、最低一人の人間が死ぬ。
これはどう考えても異常。

俺の人生で関わった人間がそんなに多く死んだ事例を未だに経験したことが無い。
その計算で行けば俺の人生で何人の人間が死んでいることになるんだっての。

 それにこの舞台の『箱』ってのが学校ってのも性質(タチ)が悪い。
ここにいる全員は姿格好的に全員が学生だろう。
学生を学校で殺し合いさせるなんて精神がまともなやつのやることじゃねえ。
と、俺は軒並みな文句と辛苦、苦情と現状とを暴露してみた。

 そんなことをしても状況は何も変わらない、良くもならない、悪くはなって行くのかも知れない。
その未来を俺達は知りえないだろう。
誰が生き残り、誰かが生き残るのかさえも。

 『では続けさせていただきます。皆さんが首につけている首輪。それは簡単に言うと処刑道具ということになります。このゲームでは『自爆装置』とルール上では呼んでおります』

 「質問、いいよね? 処刑道具と自爆装置、意味合い的にはまったく違うんだけど?それはどういった理由で。説明されるなら無視しても良いよ」

 間髪入れず日乃崎が軽々とそう口にした。
まるで主催を恐怖してないような物言いだった。
いや実際に恐怖してないのかもしれない、この態度を見る限りは。
本当にこいつは信用できそうに無いよな。
信用しちゃいけない、のが正しいか。

 『それに関しては説明はないので、今説明させていただきます。正義、それは『枷』と共に課せられる名称です。正義が悪にならないよう、正義が悪になるくらいならば、自分が悪になってしまうのなら正義のまま死にたい! そのための自爆装置なのです』

 で正義的には自爆装置、現実的には処刑用具ってわけね。
納得そして了解。
だが賛成は出来ねえな。
俺達は正義という檻に閉じ込められちまったかわいそうな人間ってか?
笑えると思うなよ、マジで。

 「意外と練られてるんだね……。うん、ありがとう。予想外にこのゲームって計画的なんだね」

 と、軽く柔らかく日乃崎は笑っていた。
俺の反応とは真反対にこの日乃崎と言う男は笑っていた。
何かを知って何かを企むかのように、怪しく、可笑しく、歪んだように顔を柔らかくしている。
それがとても人間の深く醜い部分を直に覗いているようで、なぜか俺自身を見ているようで気持ち悪いと思ってしまう。

 気づくと優花が俺の右手を握っていた。
いや楽観視しすぎか。
優花は俺の手を抓っていた。

 その表情を見ると不安に塗りつぶされていた。
理由など聞くまでも無い、俺と同じなんだ。
目の前にいる自分と同じ人間がおかしく見える、じゃあ自分もおかしいのか? って思ってる。
俺はそれに一つしか言うことが出来ない。
だからそれを口にする、精一杯なその言葉を。

 「大丈夫」

 俺の言葉にキョトンとした優花。
だけどその表情も直ぐに笑顔に変わった。
やっぱ女子は笑顔が一番良いよな。
世界一の宝だ。

 いいものはやっぱり大切にしなくちゃな。
照れ隠しなのか抓る力が強くなってる、痛い痛い。

 『それはお褒めの言葉として受け取っておきましょう。では次の説明の続きをさせていただきます。処刑用具と言いましたこの首輪の処刑方法は2つ、ギロチンと爆破です。内容は…名称から判断していただきましょうか』

 首切りと爆発、か。
本当にこのゲームの主催者は趣味が悪いと思う。
日乃崎の言葉を信じるわけじゃないがこのゲームにはなにか仕組まれた裏設定があるような気がしてならない。
【悪】と【正義】か。
勧善懲悪っていう感じでもなさそうだしな……。

 『どうしてもというのであれば、自らやっていただいてもよろしいですがオススメはしませんね。そして続いては作動する条件についてです。首輪の解除に失敗する、つまり勝利条件を満たせなくなったプレイヤーと解除条件を満たしていない状態で首輪を外そうとした場合に首輪が作動します。ですので無論解除するための機械が破壊された場合にも首輪は作動いたします』

「質問です!それじゃあもしかして……他に何かの理由で死んだ人間は死んだ上に首輪が作動するって言うの?」

 後ろにいる優花が声を荒げてそう言った。
優花はやっぱり俺よりも頭が回るな、とか冷静に判断している場合じゃない。
確かに死ねば勝利条件を満たすことは絶対に不可能だ。
ならば無論……爆破するのだろう。

 『はい、もちろんです。』

 「そん……な……。そんなの酷すぎる……」

 ……爆破するのだろう。
俺は黙って優花の手を握った。
そうしないと脆く崩れてしまいそうで、それほどに優花が儚くて意識せずに自然に俺の手は動ていた。

 所詮俺も一端の高校生だ、こんな状況で女子に話す言葉なんてわからない。
仕方ない、しょうがない、どうしようもない。
自身にそう言い訳を聞かせて必死に無力さを押さえ込む。
そうしないと次は自分が崩れてしまいそうで怖いから。
逃げるように心の隅でぶつぶつと。

『質問は以上のようなので続けさせていただきます。皆様の最初の装備は拳銃、名称ジャッジ一丁に銃弾五発、それに各自に持っていただいた機械です。これは奪うも自由ですのでそこは各自の判断でお願いいたします。この『箱』内部にも存在する球体型のボックスを開けていただくと、その中にはアイテムが入っておりますのでお探しください』

 俺だけが持っているものかと思っていたのだが実はみんな持っていたようだ。
少し予想外……。
横にいる優花も銃を持っていたということに俺は多少なり動揺したがそれを精一杯隠すことにした。
隠していたのは俺も優花も一緒だから。
これでお相子とは言わないが、暗黙の了解へと持ち込むことくらいには可能だろうから。
俺は優花の顔を見て皮肉っぽく笑った。
優花は笑わなかった。

 『このゲームの中で殺害ついてのルールは次の通りです。1、正義が正義を殺してはいけない。2、悪の人間は正義を殺してもよい。3、『枷』をクリアし首輪を解除した者は正義の人間を殺してもよい。』

 「はい、質問です」

 遊李が手を上げた。
まあなんの質問をするかはおおよそ予想はつく。
恐らく『枷』についてだろう。
機械の中にもあったその単語に俺も興味は少なからずあったしな。

 『ちなみにですが『枷』についてでしたら後に説明いたしますので質問を撤回していただけるとありがたいです』

 それぐらい私達も予想してますってか。
流石計画的誘拐愉快犯だ、ぬかりがないな。
その言葉に遊李は小さく舌打ちして、質問をやめた。
やっぱり『枷』についての質問をしようとしてたのか。

 『続いてはこのゲームの賞金についてです』

 賞金? そんなものが支払われるのか。
これがゲームだから、という単純な理由からだろう。
もしくはそれか健闘を称えて、見たいな感じかな。

 いや、逆にこのゲームを盛り上げるためだけに賞金の話をちらつかせたのだとしたら?
ありえる、その可能性は大いにあった。
むしろそれが本来の目的か。

 賞金自体が問題なんじゃなくて問題はもっと別の所だ。
そう、その賞金をどうやったら手に入れられるか。
それがもしあの条件だったりしたら……最悪だ。

 『このゲームの賞金。それは生存プレイヤーが一人の場合は三億円。二人以上のプレイヤーが生存した場合は五億円を生存したプレイヤーで均等にわけあっていただきます』

 悪い予感は当たってしまった。
人数が減れば減るほど賞金が上がる制度。
こうなってしまうと自ら殺しに手を染める人間が出てきてしまう可能性が少なからずあるからだ。
特に怪しいのが日乃崎。
こいつなら高笑いをしながら人殺しをしないと考えられなくも無い

 そうならないのが最高なんだが……止める手段が思いつかないな。
チラッと、日乃崎の表情を伺ってみるとやはりというか、当然の様に笑っていた。
もちろん声を出してではないが、ニヤニヤと何かを狙う狐のように笑う。
嘲るように、捻くれるように、狂わせるように。

 『質問はないようなので続いてのプレイヤーの種類及び『枷』と特殊機能について説明させていただきます。プレイヤーの皆さんには各自プレイヤーコードと言うものを割り振っております。それはメニュー画面の『枷』と『特殊機能』の欄や、メニュー画面を表示させる前の画面でも確認することが出来ます。
プレイヤーコードは悪は単純に【悪】のみ。正義の方は【偽善】、【平和】、【調停】、【孤独】、【信頼】、【絆】の六種類となっております』

 これで「正義と悪の見分け方」についての答えは出された。
答えとしては、メニュー画面の前に表示されるあの文字か、二つの項目で確認できる、だな。
しかしこれが分かった時点で正義側はかなり有利になった。
全員で見せ合えばその時点で【悪】が判明する。【悪】が見せるにせよ見せないにせよだ。
それはともかく俺と優花が【悪】ではないことはもう判明しているのだからとりあえずは一安心。
とりあえずはあせって行動を起こす理由もなくなったしな。

 『続いては『枷』についての説明です。これは簡単に言うと各自の首輪を外すための条件。ですので実質的な勝利条件となりますね』

 これもどうせ正義を縛ってる枷が無くなれば悪になるとか言うのだろう。
そうすればさっきの『枷』をクリアしたプレイヤーが正義を殺して言いというルールも納得がいく。

 でこれが満たせなくなっても首輪が作動すると。
俺の場合は「自分の手で4つの機械を壊せなくなった」ときに首輪が作動してしまうってわけか。
纏めてみると、「俺が死ぬ」か、他の誰かが二個以上機械を壊してしまう。
その時点で俺の首はぶっ飛ぶわけだ(正確には三個だが自身の機械は壊せないためこれで正しいよな)
優花の場合は「優花が死亡する」だけが首輪の作動条件になるわけだな。
あとならないとは思うが、「制限時間の12時間が来る」も作動条件に入るのか。

 『次は特殊機能についてです。特殊機能とは各機械に初期設定されている固体別機能のことです』

 特殊機能。
俺の機械の特殊機能は「『箱』内にある壊れていない機械の位置を表示することが出来る」。
これは確かに俺の『枷』を満たす上では中々便利なものだということに今気がついた。
他の機械もそうなのだろう。

 例えば優花の機械の特殊機能は「一度半径3メートル以内に入れたプレイヤーにメールを送ることが出来る。しかし一方的で相手は返事を返すことが出来ず、誰から送られてきたかを知ることは出来ない」。
最後まで文字通り【孤独】なので暇を解消するのに最適とも言えるだろう。
いや、もしくは安全に停戦協定を結ぶのにも使えるか。
まあどちらにせよ、生存プレイヤーの表示が普通に考えれば一番いいのだが……。
それは恐らく既に他の機械の機能になっているのだろう。

 『その『枷』とそれぞれの特殊機能については以下の通り部屋の前方に配置されているモニターをご覧ください』

 すると前方にあるモニター(俺は色と建物的に黒板かと思っていた)に文字列が整えられる。
それを上から眼で追う。
モニターに書いてあったのはこんな感じの文章だ。

 『各プレイヤーの枷について

 【悪】
「特に無し」
自分の機械を他の機械に偽装できる。首輪はしているだけで作動することはないし、いつでも外すことが出来る。

 【偽善】
「建物内でプレイヤーが三人以上死亡するか、建物内で三台の機械の破壊が確認される」
他の機械の特殊機能を無効化できる。

 【平和】
「自分の手で機械を四つ破壊すること」
『箱』内にある壊れていない機械の位置を表示することが出来る。

 【調停】
「三人以上が自爆装置を解除する」
カメラ機能がついている。

 【孤独】
「ゲームの終了する30分前まで生存する」
一度半径3メートル以内に入れたプレイヤーにメールを送ることが出来る
しかし一方的で相手は返事を返すことが出来ず、誰から送られてきたかを知ることは出来ない。

 【信頼】
「『箱』の内部のどこかに存在する球体を3つ以上開ける(箱の場所は各プレイヤーの機械の中に示してある、悪の持っている情報の箱を開けると腕輪が起動)」
メモを書き込むことが出来る。

 【絆】
「ゲーム開始時から三十分以内に指定したプレイヤー一人のゲーム終了30分までの生存」
指定した二人の位置を表示することが出来る。   』

 俺はこのモニターを見た途端に背筋が凍ったのがわかった。
【悪】、これはこのゲームで想像以上にやっかいなものになりそうだからだ。
なにせさっき俺が言ったように全員で見せ合えば安心、ということにもならなくなってしまった。
むしろそんなことをしても二人同じ名称の【正義】がいればどちらかが【悪】ということになってしまう。
そこで悪を直ぐに殺せればいいが、間違って【正義】を殺そうものならばその殺した【正義】も死ぬ。
この時点で二人が死亡、この隙に他のプレイヤーを【悪】が殺してしまえば、【調停】と【絆】のプレイヤーも首輪が作動してしまうかもしれない。
【信頼】と【平和】(俺だが)のプレイヤーもこのときに誤って機械が壊れてしまえば、首輪が作動する

 最悪のシナリオが描かれれば生存するのは【正義】でなく、【悪】
こんな全滅騒ぎにならない可能性は0じゃない。

 となればだ、のうのうと機械を見せる人間が常識的に考えているだろうか?
答えは間違いなく考えられないだ。
万が一被ってしまえば殺される確立が跳ね上がってしまうから。

 しかも一番恐ろしいのは今の段階で【悪】の特殊機能を暴く方法は直接一つだけしか提示されていないこと。
他に何か方法がないと【偽善】以外のプレイヤーが【悪】を暴く方法がなくなってしまう。
それを聞くためにも俺は手を真っ直ぐ天高く上げて挙手。

 「質問、いいですかね?」

 『はい構いません、どうぞ夕凪様』

 聴きなれた機械音が俺の耳を触った。
なんか自分の名前を機械音が呼ぶのは気味が悪い。
出来れば今後はこういうことが無いようにしたいね。

 「【偽善】の機械の能力以外で【悪】の特殊機能である偽装を解除する方法、もしくは偽装した状態で【悪】かどうかを判断する方法はありますか?」

 『はい、あります。特殊機能の偽装は一回に二時間までなのでそれが切れると自動的に偽装が解除されます。そうなると次は30分以上空けなければ偽装をすることは出来ません。以上の二つが【悪】の偽装が解除される条件となります』

 でもこの方法と他人の協力が必要なものだけってのはやっぱりきついところがある。
簡単には【悪】を暴くことは出来ないってことかよ。
まあ簡単すぎたら単純な【悪】の虐殺ショーになりかねないんだけどな。

 『以上でこのゲームの説明を終えさせていただきます。最後になにか質問が――――』

 「ふざけるな」

 教室に凛とした声が響き渡った。
誰の声か、その答えを言うならばあの美少年、鏡峰湊の物だ。
だがその声は綺麗なだけでなくどこか――――れどころか全てが怒りを込めたものの様にも聞こえた。

 『どうなさいましたか、鏡峰様』

そう呼ばれたのに反応し机を思い切り腕で叩く湊。
声には怒りを動きにも怒りをってな感じの様子。
とりあえず怒って何をするか、わかったものじゃないため、後ろの優花と湊の間に俺の体を割り込ませた。
そういうことするようには見えなかったとかは理由にならないよな、特に現代のこの社会では。
だってよくインタビューであんなことするようには見えなかったとか言われるじゃん。
ってそんなことはどうでもいいんだ。

 「俺の名前を気安く呼ぶんじゃない、下衆が。さっきから黙って聞いていれば殺し合い? 死亡? 首輪が作動? 枷? ハッ、ふざけるなよ。お前らはこの日本という国を舐めてるな、平和大国と呼ばれるほど平和な日本を。一気に七人も誘拐した上に殺し合いまでさせるとなったらこの御国の警察は黙っちゃいない」

 日乃崎とはまた違う喧嘩腰の姿勢を見せる湊。
たしかに湊の言っていることは的を射ている。
だが射ているだけでこの主催者達を倒せるわけじゃない。

 『では、例えばですがこの日本の警察までもが我々の味方だとしたら?』

「なにを……言っている」

 ギリッと歯軋りをする湊。
まるで自分の想像していた最悪のシナリオが今目の前で展開されているかのようなそんな表情を見せていた。
いや、そのとおりか。
俺は途中から気づいていた、目の前の敵の大きさに。

 まず初めにこの機械。
当然安いはずもなく値段はなかなか張るもののはずだ。
それをポンと七個も支給していること、これが第一の理由。

 そしてそれに加え七丁の銃に三十五発の弾丸。
こんなもの日本の中で簡単に手に入るものではない。
しかもそれの使用許可なんてのはそれこそ警察か国家でもバックについてないと無理だろう。

 最後にこの建物。
廃校になった学校と最初に俺は推理したがそれにしても簡単にこんな建物を自由に使う許可なんてのは降りないだろう。
それに偶然にも人に見つかる可能性も0ではない。
ここが山奥の学校だったりすれば別だが。
もしくは壊す寸前の校舎ということにして、辺りにクレーン車などを配置していれば大分違和感もないから一般人も「ああ、工事すんのか」みたいに思うだけだろう。
だがそれもちょっとやそっとの金では出来そうにない。

 以上三つを踏まえると相当な金がかかっているのは容易に想像できる。
更には俺達七人を誘拐すると言うのもなかなか難しいだろう。
以上を踏まえるとやはりこの主催者達は只者ではないことは容易に想像できる。

 『私達のバックには色々な国の組織がついているのです。なので貴方達が人を殺してもそれは問題にはなりませんのでご安心ください』

 清清しいくらいのしらばっくれっぷりに虫唾が走った。
これ以上何を言っても仕方ないとわかった湊は黙って拳を握り締めて黙った。
それが賢明な判断だと俺は思う。
これ以上歯向かって首輪を作動させられても笑えないからな。

 『それではただいまを持ってこのゲームをスタートさせていただきます!』

 モニターに制限時間と思わしき時間が表示される。
12:00:00という表示からだんだんと数字が減っていく。
【悪】か【正義】の死亡までのカウントダウンが刻々と刻まれていく。
これが俺の死亡までのカウントダウンにならないことを願って優花の手を更に強く握る。

 「優花」

 そして俺は優花の名前を呼んだ。
優花は俺の方を今までの日常とは違う表情で俺を見る。
弱そうで果敢なそうで壊れてしまいそうなその表情。
いつもは俺に攻撃的な優花が今は恐怖と動揺でつぶれそうになっている。
そんな優花はいつもの表情を作って――――

 「どうしたの?」

 と言った。
俺はそれを見て安心した。
俺の日常はまだここにあるんだって心が言ってる。
力強く必死に優花は自分を作っていた。

 なら俺に出来ることは、俺も作ってでも日常のままでいることだと思った。
この感情に名前をつけるとしたら、虚勢が正しいのかもしれない。
虚勢でも構わない、俺は俺でいてやる。
それが一つ目の誓い。

 そして俺は人知れずもう一つの誓いを立てる。
これだけは絶対に、弱い俺でも絶対に守ると決める一つの誓いを。

 ――――何に変えても優花を守ってやる、と一つの誓いを。


-----------------------------

【PLAYER】 2

 ―――鏡峰 湊は絶句する。

『私達のバックには色々な国の組織がついているのです。なので貴方達が人を殺してもそれは問題にはなりませんのでご安心ください』

 その言葉に湊は逆に笑ってしまいそうになる。
目の前の理不尽に手が届かないことに。またしても俺が無力なことに。
考えると最初から俺がどこか冷静でいられたのはどこかで「これはせいぜい愉快犯の仕業。警察がなんとかしてくれる」と思っていたからだろう。

 そんな普通の普遍的な考えを誰が否定できる?
困ったときは110番という常識を誰が否定できる?
俺は間違っていたか?俺は勘違いをしたか?俺は異常か?俺は異端か?
疑問の答えは返ってこない、誰からも、どこからも、いつまでも。
気が狂ってしまいそうだ、頭が痛い。

 「湊くん大丈夫? 顔色悪いよっ?」

 俺を現実に戻したのは初音の声だった。
マイナスにいた俺を引っ張り上げるようなその言葉に救われる。
落ち着けここがどこであろうと、相手が誰であろうと、何があろうと、俺は俺だ。
鏡峰湊は他の誰でもないし、誰にも替えが効かない存在、そのはず。
じゃあ俺がやるべきことはなんだ。
そりゃあ当然――

 「俺らしいことに決まってるよな」

 横で初音がいつものようにニッコリと笑っていた。
俺の日常は今も横にある、横にいる。
それが解れば十分に十二分だ、俺でいる為の条件は揃った。
さてこの場を仕切るとするか

 「とりあえず自己紹介といこうと思うのだがいいか?」

 モニターに表示された11:55:52の文字を横目で見つつ俺は提案した。
既にルールの説明が終了してから5分が立っていることに、自身の行動の遅さを痛感したが後悔していても仕方が無い、今できることを精一杯しよう。
冷静に考えてみるとこのゲームは全員が協力さえすれば、【悪】だけを殺して全員生存することは可能なのだ。
【悪】のプレイヤーがこのゲームに巻き込まれたのか、それとも自分から望んだのかは定かではない。

 だがだ、だからと言って俺達が見す見す殺されろというのは考えられない。
可能ならば全員を救いたい、だが救えない。
ならば出来るだけ多くの人間を救いたいと俺の目標が掲げられた。
そのための第一手段がこの自己紹介、というわけだ。

 「いいな、それ! 俺は賛成だぜ」

 俺の言葉に一番早く返事を返したのはこの部屋に最初からいた唯一の男だった。
こいつは日乃崎とは違い本当の好青年っぽかったため、こういう風に俺の意見に賛同してもらえたのはありがたい。
それに乗るように全員が順に了解の意を見せる。
しかし他の全員が賛成しても、最後の日乃崎は賛成をしないかった。
強制はしたくなかったのだがこの場合は仕方ない。
一人だけしないとなるとそいつの今後が危険になってしまう。

 「賛成してないのはお前だけなんだが、日乃崎。お前は自己紹介に参加しないのか?」

 「参加、して欲しいんだ。こんな僕に」

 にやりと笑ってそう言う虚は明らかに挑発をしているように思えた。
だからと言って俺が喧嘩を買う必要はない。
っておい待て、これなんかデジャヴだ。
まあ落ち着け俺。

 「そうだ、お前がどんな悪人であろうがお前は【正義】かも知れないだろう? 俺がお前に参加して欲しい理由はそれだけで充分だ」

 「本当はさ、そんなことどうでもいいんんじゃないの」

 「なに?」

 教室のムードが+の方向に向かい始めていたのにまた−方向に真っ逆さまとなる…気がした。
初音を初めとした教室にいる七人の人間のほとんどが押し黙る(まあ初めから喋れんやつもいるが)。
空気が凍ったとも言う状況。
というかそんなことを言っている場合じゃない。

 「それは、どういう意味だ?」

 「そのままの通りだよ。実は君、自分が助かりたいだけなんじゃないの?」

 椅子で二本足(地域によって呼び方は違うかもしれないが俺の地域ではそう呼んでいる、椅子の後ろ二本の足だけで立つ座り方のことだ)を作りながらケラケラと笑う日乃崎。
倒れてしまわないかという心配もしたがこいつのことだ、問題ないだろう。
いや、むしろ倒れろ。
一回痛い目に会うべきだ、こいつは。

 「違うな。俺はここにいる全ての人間を救いたい」

 「それは愚かって言うんだよ。自分が正しいと思っている人に限ってありがちな妄言ってね」

 指をくるくると回しながら天井かどこかを見ているような目線で喋り続ける。
まるで「俺は目の前にいるお前を見ていない」というアピールをしている風に見えなくも無い。
本当にこいつは表と裏の差が激しいらしいな。
まあ裏の顔しか俺は見てないが。

 「俺は正しいとは思ってない。正しくなろうとしているだけだ、適当を言うな」

 「ちょっと、湊くん。もういいじゃんここで言い争いしても時間の無駄だよっ」

 後ろにいる初音が見かねて俺と日乃崎の口論(?)を止めに入った。
正確には俺を止めただけだが細かいことはどうでもいい。
とりあえず俺は無言で初音の前に手をかざし、初音を座らせる。
初音は一瞬迷ったようだが、俺を信頼してか大人しく席に着いた。

 「正しいねえ。正しい人、このゲーム的に言うのであれば正義だね。正義とは脆いよね。一つ道を違えば自殺しちゃうくらいに」

 「俺は自殺などしない」

 日乃崎の言葉の最後の方はどこか本当のことを言っているようにも聞こえた。
それは気のせいなのかもしれないし、勘違いなのかもしれないし、真実なのかもしれない。
確認する方法を俺は持たないためそれが本当なのかどうなのかはわからないがどこか憂いを帯びている表情を一瞬見せたのを俺は確かに見た。
確かに気のせいでもなく、勘違いでもなく、真実で見せていたのだ。

 「じゃあ自分が死なない分、人を殺す?」

 だがそれは本当にたった一瞬で消え、すぐさまいつもの日乃崎に戻った。
出来れば戻らずにいて欲しかったが願望は所詮願望でしかない。
俺の願望は一つではない。
もう一つの願望であり本心、それを日乃崎へと言う。

「俺は人を殺したりしない。俺はただ人を救う、それだけだ」

 人を救う、それが俺の唯一の存在理由であり生存意義。
そして意味であり、価値。
あいつとの――約束。

 この約束を俺はあの日以来一度も忘れたことがない。
あいつを失ったあの日以来、ひと時たりともだ。

 「そんなの戯言だよ。どうせそんなことは出来はしない。君は所詮正義なんかじゃなくて、正義のなりそこないでしかないんだよ。パチモンもパチモン、ここまで出来が悪かったら逆に褒められると思うね?」

 突然に椅子を蹴り飛び上がる日乃崎。
左の方にいた華が体を震わせたのを俺は見逃さなかった。
日乃崎は俺の顔の前にその憎たらしい顔を精一杯近づけると、水を得た魚のように口から言葉を吐き出し続ける。

 「悪を殺せば【正義】はみんな救われる、だけど【悪】は死ぬ。逆に【悪】を殺さなければ【悪】は救われるけど代わりに正義は救われない。こんな矛盾の中で君は正義になれるというのか? 答えはノーでしょ? イエスなんて言えないよね?そんなことは出来やしないんだから」

 言える限りの全ての正しい言葉の暴力を吐き終えると満足そうに日乃崎は自分の元々座っていた椅子を取りに行く。
かすかに見えた表情が笑っていたのは見間違いではなかったはずだ。
やはりこいつは根からの悪人なのか?俺はこいつを…。
そのとき後ろから小さな力を感じた。
学生服の端をぐいぐいと引っ張る俺と比べるとかなり小さな力。
後方を確認するとそこには特徴である外はねの髪をゆさゆさ揺らしながら服を引っ張る小動物、もとい初音がいた。
表情を読み取って俺は安心した、直後それを安堵したと言い換える。
俺は深呼吸でリズムを整えて、日乃崎の後姿に訴えかけた。

 「黙れ」

俺は教室に冷気を放った。
日乃崎がやったのよりも更に強烈で、冷たい空気をたった二字で醸し出す。
最初の目的と変わっている気がするがそんなことは小さな問題だ。
俺は日乃崎にここで言われる放題言われて、返さなければ、このゲーム中ずっと日乃崎に負けたような感覚になってしまう。
別にそれが嫌というわけではないがそのせいで日乃崎が孤立してしまう可能性も大いにありえた。
俺が完璧ではないからこいつを自然に避けてしまう可能性もある。

 日乃崎が【正義】だったら…こいつは救われないまま、一人で死んでいく。
そんな理不尽を受け入れられるほど俺は間抜けじゃない。
だから俺は、日乃崎に俺の意思をはっきりと告げる。

 「俺のことを偉そうに貴様が語るな。俺のことは俺が決める。不可能かどうかも同じだ。俺の全てのことは俺が決める」

 くすくすと後ろで初音が笑ったのがわかった。
それは嘲笑ではなく、心の油断が理由で出てきた笑顔だと信じたい。
いやそうであると断言できる。
なぜなら俺の知っている滋賀井 初音という人物はそういう人間だからだ。

 「第一だ、俺は一言も【悪】を救うなんて言ってないだろうが。悪なんてのは人じゃなくて、ただのゴミだ。そんなのを人間としてカウントした憶えは一瞬たりともない。だからもう一度言ってやろう、俺のこのゲームでの目的を。悪をぶっ殺して正義を全員救う。日乃崎、貴様も例外なくだ! 愚かだというならば笑え、妄言だと思うなら嘲れ。勝手にしろ」

 日乃崎はぽかんと口を開けていた。
顎を止めていた螺子が外れたかのようにだらしなく開けて何も言わない。
そして数秒の間を作って口を閉じた。
閉じたと思うとすぐさま口を大きく開き笑い始めた。
げらげら、ギャハハと机を叩きながら下品に大笑いを始める。
やっと笑いが収まってきた思われるところで、息切れを起こしながら言葉を喋りはじめた。

 「はっは、君最高だね。僕を救う?いいじゃん最高にイカれているよ。うん、自己紹介だっけ? 参加してあげるよ」

「本当か?」

 俺は声のトーンを上がりかけたがそれを何とか抑えた。
これもこいつの罠という可能性もある、ここで油断するのは得策じゃあない。
と考えていたのだがそれは杞憂だった。

 「とりあえず自己紹介がしたいのは僕も同じだったからね、だからそれぐらいは一緒にしてあげようかと思うよ」

 どうやら俺は試されてたらしい。
いや試されというより相手と状況からして遊ばれていたが正しいか。
制限時間が来れば首がぶっ飛ぶというのにお遊びとは、本当にこいつは何を考えているのかわからんな。
ともあれ、これで全員の自己紹介の参加が決定した。

 「言い出しが最初に名乗るのは常識、というわけで俺から自己紹介を始めようと思うがいいな?」

 数人がこくこくと首を縦に振ったのを見て俺は自己紹介を始める。
こういうのは名前と出身学校それに、趣味辺り言っておけば問題ないよな。
と言っても俺は無趣味なため前2つのみとなるが。

 「俺は鏡峰湊。出身高校は尾崎高校、そこの三年で生徒会長をやっている。さっきも言ったように俺の目標は【正義】全員の救出だ」

 最後によろしく、とつけるか迷ったがそれは俺のキャラとは少し違うため却下。
無難な感じに済ませたが問題はなかっただろうか?
個人的には生徒会長って言うのは言わなくて良かった気もする。
むしろ言ったことで自慢ぽくなってしまうのが少し気になった。
まあ生徒会長にそこまで憧れる高校生がいるのか、と聞かれると返事に困るのだがな。

 「へえ、生徒会長やってるんだ。偶然だね、僕もだよ」

 手をヒラヒラとしながら日乃崎がそう言った。
聞かなくても知っていたが・・・まあ本人が言いたいみたいだしその辺は自由にさせてやろう。
気に入らないといえば気に入らないが、自分から協力を煽ったのだから我慢するか。

 「それじゃあこの流れのまま僕が自己紹介させてもらうね。僕の名前は日乃崎(ひのざき) 虚(うつほ)。日食高校三年の生徒会長。趣味はボランティアと人助け、よろしくね」

 人に気に入られやすそうな笑顔のままスラスラと喋る日乃崎。
今言ったプロフィールは多分表の顔であれば嘘ではないのだろう、裏の顔でどうかは言うまでもないが。
ボランティアと人助けね、確かに日乃崎の噂でよく聞く半分はそういう面での「良い人」な側面の噂だ。
例えば「ボランティア精神の塊」だの「電車に引かれかけていた猫を助けた」や「年間10万以上寄付をしている」とかいうもの。
逆にだ、逆にもう半分での噂は、
「エゴイスト精神とナルシスト精神の塊」だの「死に掛けていた猫に止めをさしていた」や「年間100万以上寄付(集金?)されている」などだ。
ここまで裏表の差がくっきりとしていると笑えてくるな。

 「次は私でいいかなっ?」

 寝癖を悪化させたような外はねの髪をゆさゆさと揺らし手を上げる初音。
唯一の顔見知りである俺がしているから流れに乗ろうといった考えだろう。
まあ反対意見のやつがいるわけでもないため、自己紹介を始めた。

 「私の名前は滋賀井初音。湊くんと同じ尾崎高校三年生だよっ。湊くんとは小学校からの幼馴染なのですっ!」

 一斉に視線が俺の方を向く(初音と日乃崎を除く)。
別におかしなことでもないと俺は思っていたのだが一部の人間はそうは思わないのだろうか?
まあ人の感性はそれぞれということだろう、一笑すると言うのは無粋だと俺は思った。
俺とは違い初音は最後に思い出したかのように、「あっ、あとよろしくっ!」と付け加える。
流石愛想と可愛さだけが取り得の女子高生と自称するだけはあるな(あくまで自称、ここが大事)。

 「あーなんか誰もしない感じなんで俺するよ? 俺の名前は夕凪春。四季咲高校三年だ、よろしく」

 自分もそうなのだが男の自己紹介とはやはりなにか味気がないな(日乃崎の自己紹介は別の意味で衝撃的だったが)。
とはいってもこんな状況下で特別美味しい自己紹介をしろと言うのも無理があるか。
シンプルイズベストとは先人達も良い言葉を残したものだ。

 「それじゃあ次は私がするわね。私は暁 優花、学校は春と同じ。そして春とは小学校以前からの幼馴染よ」

 特に触れる点は無し。
しいて言うなら俺と同じように春も目線を集めたところか。
夕凪はあははとごまかしていたのが俺との違いと説明しておこう。
それから俺達が入る前から教室にいた華と同じくらいの少女が自己紹介を始めた。

 「私様は入戸遊李、見境中学の二年です。みなさんとは4つ程年齢が違いますがよろしくお願いします」

 随分礼儀正しい少女と話を聞き流していただけだったら思っていたことだろう。
だが冷静に言葉を思い返してみると一人称が「私様」となっている。
こういうところから人間の本性ってのは見え隠れするもんだよなと改めて実感させられた。
続いては、というか最後の一人となった華なのだが緊張しているのか自己紹介を始める様子がない。
言い出したのは俺だしな、少し背中を押してやるか。
華の近くに寄って俺は声を掛けた。

「緊張してるのか?」

 俺がそう聞くと華は恥ずかしそうに首を縦に振った。
華は中学生で周りは年上ばかり、唯一の同じ中学生である入戸もこの通り偉そうな性格。
そうとなれば緊張もするだろう、まあ仕方が無い。
となれば俺がするべきことは一つ。
間違っても俺が代わりに華を紹介してやることではない。
それだと例えその場では難なく済んだとしてもこれから華は結局一人で何一つすることが出来なくなってしまう。
俺が望んでいるのはそんなことじゃあない。

 「みんなすまない話を聞いてくれ」

 俺に目線が集まる。
今更こんなことで緊張する柄ではない、が注目を浴びるというのはあんまり慣れるものじゃあないな。
一呼吸を置いて俺は、

 「この子は昔の怪我のせいで喋れないらしい。だから筆記で自己紹介をする、見てやってくれ」

と言った。

 俺の言葉に華は表情をぱーっと明るくして笑う。
それから鞄からメモ帳を取り出してそこに慣れた手つきで字を書く。
丸文字ということばがすっきり当てはまりそうな文字を綴る。
書き終わるとペンを鞄の中に入れ俺に視線を送ってきた、どうやら書き終わったからOKみたいな感じのようだ。
俺は少し微笑みながら華書いたメモ帳の一ページをみんなに見えるように提示する。
そこに書いてあったのはこんな感じの言葉だ。

 『私の名前は園影(そのかげ) 華(はな)です。界味(かみ)中学校二年です、よろしくお願いします』

 紙を見た後はそれぞれ華を見て笑顔で「よろしく」とか言って、それに華も言葉の代わりに優しく微笑んでいた。
そう言えば俺は基本的に人を苗字で呼んでいるのだが、華だけは名前で呼んでしまっている(ちなみに初音は幼馴染なため除外)
苗字である園影と言い方を変えるかと思ったが今更呼び方を変えるのもなんかおかしいと思いやめた。
まあ別にこだわりがあるわけでもないし、まあ問題ないだろう。

 それにしても俺の勘違いかもしれないが…何故か華は会ったことがあるような気がする。
この距離で見て始めて気づくほどの記憶にしか残ってない程度なため、勘違いの可能性も大いにありえるが。
しかし界味中学なんて聞いたことがないしな。
このままでは気になって仕方ないし、聞いてみることとしよう。

 「なあ華。もしかすると俺と昔に会ったことあるか?」

 俺の言葉に華は少しぽかんとして、考える仕草をした。
それから数秒唸ってから首を横にブンブンと振る。
やっぱり俺の思い違いか。
まあ同級生の中学の頃の顔が似ていたとかそんなものだろう。
このことはさっぱり忘れるか。

 さて、これで自己紹介は終わったな。
一段落ついたため椅子に腰掛け顎に手を当てて次に何をするかを考える。

 とりあえずアイスブレイクとは少し違うかもしれないが、それに順ずることをとりあえずしようかと思う。
まだプレイヤー全員が協力できる状況ではないと思うしな。
よしそうするか。

 「次は軽くそれぞれのここに来るまでの記憶を思い出せるまで語ってもらおうと思うんだが構わないか? 思い出せる限りでいいし、言えないなら語らなくてもいい」

 俺の言葉で他の七人はそれぞれ思考を始めた。
それは参加するかどうかの思考か、それとも思い出すための思考かは定かではない。
もしかしたらこの話の中で【悪】が判明するかもしれないと少しの思惑もあるのだが、それはあくまでおまけ。ついでの話だ。
【悪】のやつがそんなボロを出すとは考えにくい。
だからわかれば運がよかった程度に思っておくのが適当だろう。

 …よく考えると【悪】と言うのはどういう立場にいるんだろうか?
俺は頭の中で「このゲームを企画した人間と同じ立場の者」と思っていた。

 だが「俺たちと同じ境遇で偶然ここに連れられてきた」と言う可能性はないだろうか。
そうだとすれば俺が一方的に殺すと言ったのは本人にとってはいきなり参加させられて他の参加者から殺害宣言をさせられたと同じではないか。
俺が考えていたように【悪】と言うのが本物の悪ではなく、【悪】にさせられた善良な一般人だったとしたら?
そいつを真っ先に殺すというのは間違っているのではないか?

 それじゃあ逆に俺達が一方的な殺人鬼だ。
狼の檻の中に六匹の羊が入れられたかと思っていたら、狼六匹の中に狼の格好をした羊を入れられていた。比喩としては最適だろう。
純粋な思考の中に一つの不純な要素が投げ入れられ、混合的な思考となる。
【悪】が悪なのか俺たちが悪なのかの区別が曖昧になり、わけがわからない。
何が合っていて、何が正しくて、何が見えていて、何が明瞭になっていて、何が理解できて、何がわかっているかがわからなくなる。
俺は正しくあれているのか?俺は正しい今を生きているのか?
答えを教えてくれ……愛羅(あいら)

 「湊…くん?」

 「はっ?」

 思考を中断し眼の前を見てみると他のプレイヤーが俺の方を見ていた。
どうやら急に黙ってしまった俺を気にしたようだ。
深く思考しすぎて意識が飛んでいたみたいだな。
よく考えてみればさっきの問題など考えるまでもない。
俺は【悪】を殺すなんてのは、別に目的の為の一過程にしか過ぎないのだ。
初音の生還、俺はそれだけを目指しているのだ。
それはあいつとの約束であり、俺の今がある意味。
だからそれは全ての出来事よりも優先される。
俺は考えすぎる余り足元を見ていなかったのだ。

「悪い、少し考えごとをしていた。で、お前らは語るのはどう思う?」

「みんなするって言ってるよっ」

 そうか、と適当に返事をして席を立つ。
腰掛ける対象を椅子から机に変えるだけの動作をするだけの特に意味はない行為。
やはり言いだしたやつから喋るという法則の通り、俺から経緯を語ることにした。
記憶の少し靄がかかっている部分を払って、あのときの記憶を引き出す。
そうしてやっと思い出した、俺がさらわれたときのあの状況を。

 「俺は生徒会の居残りで夜遅くまで学校にいた。それで疲れる眼を擦りながら家へと帰る道を歩いていたら、後ろから変な二人組みの男に羽交い絞めにされて・・・。確か眼の前から三人目の人間に口に布を当てられて意識が落ちた」

 思い出してみると気分が悪くなった。
まるでドラマや漫画のようにありふれた誘拐シーン。
それが実際に自分の元に起こるとどんな気分になるかが今回の経験でよくわかった。
自分より圧倒的に体格のいい人間に羽交い絞めにされ、抵抗さえ許されないまま強制的に意識を消される。

 無力感を味わい、脱力感が体に訪れ、そして全てが白に返った。
怒りと気持ち悪さがミックスしたようなよくわからない感情が俺を襲うが、どういうリアクションをとるのが正解かがわからない。
天井を仰いで頭の中をリラックスさせ、感情の抑揚を最小限にとどめる。
深呼吸を二、三回して心臓の脈打つ鼓動が元に戻ったのを感じ正面に顔を戻した。

 「ねえ、ちょっと質問なんだけどいいかな」

 そう言ったのは日乃崎だった。
どうせこいつのことだ、またろくでもないことを聞いてくるに決まってるな。
という感じの先入観を既に抱いている俺はどうなんだろう。
まあ相手が相手だということで許されるはずだ、と言うか許されろ。

 「…構わない」

 自分でもわかるほどの嫌そうな顔をしながらそう答えた。
とても了解の意を出してる表情には見えないだろう。
そりゃあ自分でそう思ってしたからな、はは。

 「じゃあ遠慮なく。最初の二人は間違いなく男って言ったよね?」

 「ああ、そうだ。力、体格、わずかに洩れた声からして俺を羽交い絞めにした二人は間違いなく男だった」

 「じゃあさ、なんで最後に薬を嗅がせたのは男って言わなかったの?」

 やはりそこを聞かれたか。
自分でもそこは少し気にかかっていた。
普通誘拐犯は男が基本だ。
それはもちろん抵抗されないようにするため、そして女では最終的に邪魔にしかならないから。
でも俺は最後に薬を嗅がせたやつを男だとは断言できなかった。
背丈は確かに男だとしたらとても高いとは言えず小柄だと言えただろう。
だけど俺はそれだけで男と言わなかったわけじゃない。
他になにかそいつを男と断言できない条件があったはずなのだがそこだけはどうやっても靄が晴れなかった。
やはり一番最後の薬を嗅がされる直前の記憶というのは思い出せないのだろう。
どうとも答えられなかったので、とりあえず俺の思ったとおりに言葉を出した。

 「俺はそいつを男と断言できない理由があった。だけどそこは記憶が靄がかかったように思い出せない」

 俺の言葉を聞くと日乃崎は顎に手を当て恐らくだが、思考を始めた。
自分の経験と俺の体験を合わせて矛盾点でも探しているのだろう。
もしくはその先でも考えてたりな。
とそこまで俺が日乃崎の思考を読んだところで日乃崎は言葉を語りだした。

 「…そうか。実はさ僕もまったくといって言い程湊と一緒の状況を経験してたんだよね」

 「なんだと?というか俺のことを気安く名前で呼ぶんじゃない」

 「さっきも言ったように僕も曲がりなりにも生徒会長をやっててね、それで帰るのが遅れちゃったんだよね。それで後はまったく同じってわけ。別にいいじゃん、減るもんじゃないしさ」

 「それは随分な偶然だな。いや、むしろ狙った可能性もあるか…。減る、主に俺の魂辺りがな」

 「そうだね、それは僕も思ったよ。もしかすると僕達の学校にこのゲームの主催者側の人間がいたのかもしれないね。魂って、昔のカメラに対する迷信じゃないんだからさ」

 「だとすれば他のみんなも同じような状況にある可能性があるな。だとすれば主催側の人間はどれだけ大きな組織なんだか・・・。貴様は昔のカメラ異常に性質(たち)が悪いだろうが」

 「僕達の予想を遥かに超える大きさ…って可能性もあるよね。じゃあ苗字と名前を縮めてかみっちとでも呼ぶことにするよ」

 「確かに警察や国家を味方に入れている組織だしな、ありえんこともないか。じゃあ俺は縮めてミジンコと呼ぶことにする」

 「はあ、敵にするなんて考えが浮かんでこないほど大きいとなると気分が滅入るね。それはどこを縮めたのかな?身長?というか体長?はいはい、鏡峰と呼べばいいんでしょ?」

 柄でもなく熱くなって口喧嘩をしてしまった。
これが人を挑発に乗せれる人間か、相手にするとここまでイライラするのか。
今後絶対相手にしたくないな、本当に虫唾が走りそうだ。

 それから順に初音を初めとする五人のプレイヤーにも話を聞いてみたが全員が置かれた状況が違うくらいで結果は同じようになっていた。
初音と華は塾に行く前に、入戸と夕凪は友達の家からの帰りに、暁は妹の見舞いに行った病院の帰りにとそれぞれのシチュエーションでの誘拐。
ちなみに俺と日乃崎を含んで誘拐された時間は全て八時前後らしい。
八時というのは丁度人通りも少なく、適度に暗い時間だからな。
確かに誘拐などの犯罪をするにはちょうどいい時間ではあるだろう。
だからと言ってそれが容易に出来るとはとても言わない。

 ともかくこれでアイスブレイク自体は出来た。
そのお陰かプレイヤー同士の交流も増えてきた印象だ。
あとはこれから【悪】をあぶりだして全員の首輪を解除するだけか。
俺の機械は【絆】、指定したプレイヤーはもちろん初音。
だから俺は目標を達成すれば同時に『枷』もクリアできる、これはもの凄く効率がいい。

 しかしこの状況は都合が良すぎる。
まさか主催者は愛羅のことまで知っているんじゃないだろうな…?
だとしたら…本当に主催者側の組織というのは馬鹿にならない規模なのかもしれない。
一個人の過去までを調べられる情報網というとやはり警察か。
もしくはさっき話しにも上がっていた学校にいる主催者側の人間か。
クソ、情報が多すぎて上手く整理出んな。
情報量が多く脳のキャパシティがギリギリまで詰め込まれているせいか、頭も上手く回らない。
仕方ない、この場でするのはあまりいいとは思えないが、少し寝るか。
近くには初音がいるからそれなりに安心もできるしな。

 「初音、俺は少し寝る。」

 「えっ!? 湊くんが寝て、大丈夫なのかなっ? 纏めていた湊くんが寝ちゃったらなんかまたバラバラになっちゃわないかなっ」

 「それなら心配はいらない。あいつらはそれぞれで情報を交換し合っているようだしな。残り時間は・・・」

 モニターを見ると時間の表示は11:15:45を表していた。
十五分、それくらい寝れば仮眠には丁度いい。

 「残り時間が11時間を切ったら俺を起こせ。わかったな?」

 「え、ちょ、ちょっと湊くんっ!」

 それ以上は初音の言葉にも耳を貸さず眠りにつくことに専念した。
意識が落ちるのは予想よりも大分早く、五分だったか、一分だったか、十秒だったかは定かではなかった。
それでもいつも眠りに着く時間よりも早かったのは間違いではない。
まあこれ以上眠るまでの過程について語るのは無粋、そして無意味。
じゃあとりあえず、おやすみだ。

†††††††††††††††††

 最悪の夢を見た。
あの日の夢だ。
愛羅が自殺をしたあの日の夢。
俺が無力さを味わい、代わろうと決意したあの日の夢。
一人の女性がいじめを苦に自殺を決心して飛び降りようとしたあの日の夢。
もう一人の幼馴染だった愛沢(まなさわ) 愛羅(あいら)という女性がいなくなったあの日の夢。


 俺は偶然にも愛羅が飛び降りる瞬間に立ち会ってしまった。
そしてあいつが生涯で話した最後の相手になった。
俺なんかでよかったのか、と聞くのは今になっては出来ないがそれでも答えは気になる、求めてしまう。



 その日突然昼飯を食べている途中に愛羅から携帯に電話があったため何気なしに出た。
出るとその相手はいきなりに屋上に来て、と言われ一方的に切られる。
その電話が気になり屋上へ走っていくと、そこには立てかけてあるフェンスの向こう側にいる愛羅がいた。
何故そんなとこにいるのかはわかっていた。
飛び降り自殺をするためだ。

 愛沢愛羅はいじめられていた。
誰かにと言うよりも学年中の女子全員に。
愛羅はその性格の問題もあり、いろいろな女子に眼をつけられている。
最初の方はたいした問題もなく、いつも通りにやられたらやりかえすをきちんと実行していた。
あいつの大好きなその言葉を。
だがいつからか、相手が大きくなりすぎやり返すことが出来なくなった。
一クラスから始まり、そこから伝染するように学年中に広がる。
そしてその結末がこれだ。

 「ごめんね、湊。私は弱いからもう逃げるよ」

 「ふざけるな、お前が死んだら、残されたお前の妹は、両親は、初音は、俺は悲しむッ! 他の人間が嘲り笑おうが俺達は悲しむッ! だから自殺なんてやめろ!」

 俺は必死に愛羅を引きとめた。
必死だったが嘘はつかないで本心だけをひたすら並べて。
生きるのが辛いと言われようが聞かずにただ無心にこの世にいてもらおうとした。
だがそんな俺にも愛羅はいつも通りの鋭い言葉で俺を刺す。

 「じゃあさ。湊が私を殺してくれる?」

 「ッ!? 出来るわけ…ないだろうが、そんなこと!」

 俺がそう言うと愛羅はおどけるように笑った。
楽しそうな声なのに声が枯れているのは、何故だったんだろう。
今となっては知る術も無い。

 「ははは、やっぱり湊には無理だよね。私もそんなことは望んでないからね、とか言ってみたり」

 何故笑っている、などとは聞けなかった。
柵の向こう側に果敢なげに立っている愛羅を止めるための策を考えろ。
勉強だけは優秀だったはずだろうが、俺!
選択問題なんてものの正答率は八割を超えてるはずだろうが!
今でもうらみ続けている、何故このとき残りの二割の方へと傾いてしまったかを。

 「これはさ、私の最後の攻撃なんだ。神風特攻ってね。私の死を持って私をいじめてたあいつらに『ざまあみろ』って言ってやるんだ。だからそのためにあいつらにはもう花束を贈ってあるよ」

 一緒に手紙をつけてさ、と愛羅は言った。
手紙の中には「これで満足か、いじめっ子」って書いてあるとも言った。
ストレスがたまるだけになって、溜め込んでいって、割れてしまおうとしている。
俺が空気を抜くことが出来なかったか、そんな後悔が今でも俺を締め付ける。

 「だからさ、私が死んだら教師にでも虐めがあったって言っといてよ」

 「死ぬな…。」

 「死ぬよ、私は。やったらやり返す、私が大好きなのは知ってるでしょ?」

 「そんなの知らん。じゃあ直接やり返せばいいだろうが」

 「そんなのしたらさ、私はいじめに屈して暴力に訴えた馬鹿になっちゃうじゃん」

 「じゃあ今お前がやろうとしてることは屈したことにはならないのか」

 「うーん、やっぱり湊って堅物だね。私みたいな曲物相手にしてもまったく折れないんだもん」

 「ごまかすのもお前の十八番だったか」

 俺はこのときにもう愛羅を助けることを諦めていたのかもしれない。
このときに初めて人と向き合うことを逃げた。
最後まで綺麗な愛羅を見ていたくて、愛羅の汚い部分を見ないで逃げた。
ここでまだ向き合っていれば、という後悔が俺の心を引っ掻き回す。

 「これ以上話してたら、決意が鈍っちゃいそうだよ。んじゃあそろそろ行って来るよ」

 まるで登校するように。
まるで明日また会うかのように。
まるで――今から死ぬかのように愛羅は言った。

 「やめろ、死ぬなッ!」

 「ここにある遺書。これさ、湊に当てたものなんだよね。だから絶対読んでよね。なんかラブレターみたいだね、照れちゃうや」

 死ぬ間際とはとても思えないほど可愛らしい表情を作り、両手で顔を覆う。
もしかするとそれは涙を拭っていたのかもしれない。

 「やめ…ろ」

 俺は渇いた声で愛羅を止める。
声の抑揚もはっきりとしない、

 「じゃあね――バイバイ」

 「愛羅ぁぁぁああ!」

 そして愛羅は屋上から飛び降りた。
まるで宙に浮遊するかのようにふわっと屋上から離れる。
だが人間はなにも持たずに浮遊することなんて出来ない。
重力に従って真下に落下して行く愛羅。
俺はそれを見送った。
見送ることしか出来なかった。
助けることが出来なかった。

 三階層下のコンクリートの上でトマトがつぶれたような音が微かに聞こえた。
下を除くと赤いキャンバスが出来ている。
誰のかも解らない女生徒の叫び声が聞こえ、それを引き金に学校全体に広がる。
柵にすがって、横に置いてある遺書といわれたその封筒を手に取った。

 封筒の上部分を破り中にある手紙を読む。
内容を要約すると「初音を守ってやれ」だの「正義の味方になるように」とか「人助けに尽力せよ」などといつもの愛羅の口調でつづられていた。
それを見ている途中にも涙が零れかけたが俺は必死に引き止める。
書いてあることを実行するために強がったんだ。

 しかし我慢していた涙は最後の一行で溢れ出してきた。
こんな言葉は反則だろうがッ!
こんなことを言われたら俺はッ、俺は…。
そこに書いてあったのは、

 『好きだったよ。だから助けて欲しかった』

だった。

 紙が塩分を含んだ水でふやける。
何年も流していなかったそれが流れ続ける。
止まることを知らずにひたすらと。
ただただ滝の様に流れ続けた。

 「わかった、代わるよ。代わればいいんだろうがっ!」

 フェンスを思い切り殴りつける。
軋んだ音が耳に届き、錆がパラパラと屋上から地面へと辿った。
それはまるで愛羅の飛んだその道をなぞるかのようだった。
制服の袖で涙を拭い、立ち上がる。
そして最後に俺はあるはずのない愛羅の幻影に向かってこう言う。
幻を振り切るように、後悔の言葉を。

「精々俺を、地獄からでも見守っててくれよな。それと――」

「俺も好きだった。愛羅」

屋上の扉を思い切り閉じた。
俺の思いと同じく、二度と開くことのないように。

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【PLAYER】 3

 ――――夕凪 春は悩む

 俺は説明を聞いて以降数度に渡りルールについて思考を繰り返していた。
だが何回繰り返しても明らかにこのゲームは【正義】側が不利すぎる。

 まず、【正義】の勝利条件が首輪を外してなおかつ、【悪】の死亡。
【悪】の死亡は首輪の作動がないため【正義】の誰かがリスクを犯してでも殺さなくてはいけないってことになる。
これだけでも既に条件が厳しい。
なぜなら簡単に人を殺そうと考える人間がいるとはとても考えられないから。

 でもそれ以上に【悪】の勝利条件が簡単すぎるのだ。
なぜなら正義全員の死亡と制限時間がくることなんて、どちらも何一つ自身が行動をせずとも勝手に満たされるんだから。
制限時間が来れば、正義は自然に全員が死亡する。
つまり本当になにをせずとも勝利することが可能だからだ。

 その上【悪】には殺害許可までが出ていると来た、こりゃあ理不尽だ何てもんじゃない。
これじゃあまるで公平なゲームをすることよりも、正義の全滅を狙っているような…。
そんなことを狙うとすれば主催者か?
いや、それともまさかこのプレイヤーの中か…?

 そんな考えの人間がいるとすれば・・・【悪】のプレイヤーそいつだけだろう。
恐らく【悪】のプレイヤーは主催側の人間だ。
その根拠としてはどう考えても一番生存率が高いのが【悪】のプレイヤーだからだ。
生存率が高いと言う理由は前述したとおりに、条件が楽だから。
こんなことまでするのだから主催側の目的はどう考えても複数人の死亡だ。
だとすれば出来るだけ多く人間を殺すためにはどうしたらいいか。
その手段は生き残りにくい方の【正義】に全員を集めること。
この方法ならば悪が勝利すれば主催側の人間は一人も死なずに、殺したい人間は全員殺せる。
以上の理由から俺は【悪】の人間が主催側の人間だと推理した。

 と考え事を続けていた俺の表情をジト眼で見続ける少女がいた。
入戸遊李だ。
俺の表情をつまらなそうにムスーっと見ている。
そしてその口を開いた。

 「春さん、私様は暇なのです。なのでそんな気持ち悪い顔をせずに私様とお話しましょうよ」

 「気持ち悪くて悪かったな。お話って、遊李とは年代も性別も違うんだから何を話していいかわからねえよ」

 俺の言葉に遊李はうーんとうねり始めた。
どうやら何を話すかまでは考えてなかったらしい。
まあ話の内容とか考えてから会話をしようと切り出す人間も珍しいか。
仕方ないな、年上らしくく俺から話題をだしてやるとしよう。

 「えと、さ。遊李は誰か好きな人とかいたのか?」

 「なっ!? いきなり何を言うですかっ!?」

 俺の言葉に遊李は顔を赤らめた。
どうやら予想外の言葉だったらしい。
赤く染まった顔を隠すために手を顔を前でぶんぶんと振る遊李。
その様子がいつもの高飛車な態度とは正反対で可愛らしかった。

 ――――なんだかんだ言ってもやっぱり遊李もただの中学生なんだよなあ

 それがわかってなんだか笑みがこぼれた。
下手に抑えようとして、にしし、と笑って逆に気味が悪くなったが気にしない気にしない。
まだ赤い顔を手で仰ぎながら俺に質問を返す。

 「逆に春さんはどうなんです? 例えばそこの優花さんとは幼馴染らしいじゃないですか」

 と言って遊李は後ろでうとうとしている優花を指差した。
コクンコクンとするたびにポニーテールも連動して動いているのがなんだか面白い。
目も虚ろでどこを向いているのかもはっきりとしてなくて、今にも寝てしまいそうだった。
いや、そこまで眠たいなら早く寝ろって。

 「優花とは、そんなんじゃないよ。ただの幼馴染、今のとこはそれ以上になるつもりも予定もないからさ」

 あはは、と笑ってなんとか遊李をごまかす。
遊李も飽きたのか、そこで会話はばったりと終わった。

山の天気みたいに気まぐれなやつだねえ。

 俺は横目で他のプレイヤーの様子を確認する。
まず優花はさっきも言ったとおり、うとうとしていた。
寝かけては「はっ」と起きてという行動を何回も繰り返している。
いやだから、寝ろって。

 で続いては湊と初音。
知らない間に湊は眠りについていて、その横で初音がにやにやとしていた。
本当に仲いいなだなこの二人。
思わず見ている俺の方までにやにやしてきちまったよ。
それでも何故か二人の表情には陰りがあるように見える。
二人で心から笑いあっていても、どこかかけているようなそんな感じ。
…いや、考えすぎかねえ。

 次は虚の方へ…。
えっ、あれ、なんか近づいてきてるし。

 「ねえ君は。いや春はさ、今の状況についてどう思ってるのかな?」

 日乃崎 虚はいきなり俺にそう話しかけてきた。
まるで俺の観察を見て、決めたかのような足取りで俺に近づいてきていたため、何か目的があるのは明確だろう。
とりあえずあっちも名前で呼んでくれてるし俺も名前で呼ぶことにしようかな。

 「俺はこの均衡状態を崩すべきだと思うよ。このまま均衡が続けば、誰かが、最悪の場合主催者達の方がなにかをしない可能性も零じゃないしさ」

 「君の言ったことは正しいよ。でもそれが出来ないからこそこの均衡状態が続いてるんじゃない」

 虚の言っていることは正しい。
否定したいがその言葉が正しく今の状況を形作っているんだから、どうしようもない。
【悪】という最悪のジョーカーがあり簡単に機械を見せ合えないことからこの均衡が続いているのだ。

 それはもし見せてその中に同じ機械が一組でもあれば最悪、一瞬でこの教室が戦場になってしまうと言うリスクを負っているからこそ起こっている。
それは出来るだけ避けたい。
誰しもそう思うはずだ。
だからこそ首輪を解除できずあっさりゲームオーバーと言う可能性も出てくる。
しかもこお陰で【悪】のやつは機械を晒すリスクも減ると言う好条件と来てる、なんて悪循環だよ。
そういう意味でもこのゲームは不条理かつ、理不尽に出来ている。

 「それはそうだけど、時間も迫っているし何か行動を起こさないとさ。」

 俺はモニターを指差す。
その画面を見ると残り時間は11:10:12となって今も動き続けていた。
死までのカウントダウンは刻一刻と迫っている、やっぱり急がないといけない。
それに対して最適の手段は無論俺が機械を見せることだ。
そうすれば俺の機械の条件を満たすために協力してくれて、その後みんなが機械を見せてくれれば次々に首輪を外すことが出来る。

 だがそれは俺の予測どおりに綺麗に物事が進めばの話だ。
もし俺が見せた直後に「私も同じ機械です」みたいなことを言うやつがいれば、まずいことになる。
そうなって【偽善】のプレイヤーが特殊機能を使って協力してくれれば最高だ、だが簡単にそう行くとは限らない。
【偽善】のプレイヤーが例えば賞金目当てで名乗らず、そのまま俺とその言いだしたやつが殺しあわなければいけなくなったら・・・。
他のプレイヤーもみんな同じようなことを考えては無理だと留まるの無限ループをしている。

 だから誰も動けない、動かないのではなくて。
じゃあその均衡を崩す役を俺がするか?
そうすれば最悪の場合にも二人死んで悠花ちゃんを助けるための金がまた増えるしハッピーエンドへと進めるかもしれない

 暁 悠花、それは暁 優花の妹にして優花の唯一の家族だ。
六年前の事故で優花の両親は亡くなった。
その上妹の悠花ちゃんはその事故で全身がズタボロになっており、入院生活が何年も続いている。
事故の当時こそ医療技術が発展しておらず治療は不可能かと思われていたが近年になって環境が変わってきた。
手術さえすれば悠花ちゃんの入院生活にピリオドを打つことは可能なのだ。

 だが手術にかかる費用は二億、それは並みの高校生が一人で簡単に稼げる金額なはずがない。
毎日のように放課後優花はバイトをしているがそれでも生活費を稼ぐのがやっとで手術費用を払うほどの余裕はない。
そういう意味ではこのゲームは優花にとっては渡りに船とも言える。
俺は別に金の使い道は無いためもし生きて帰ることが出来たら優花にあげようと思っていた。
全員生存して生還したら二人合わせても二億には届かない。

 だからと言って殺しに手を染める気は俺にはない、俺には。
だが優花はどうだろうか?身を粉にしてまで可愛く思っている妹のためだ、人を殺すこともいとわない…かもしれない。
って、俺何言ってんだ。
優花が人を殺すわけないだろうが。

 「それも全部、【偽善】の機械を持っているやつがいれば直ぐに【悪】もわかるんだけどね」

 それは確かに、そう思う。
ついでに言うと俺の機械は【平和】なため、【偽善】の『枷』との相性はいい。
そのため【偽善】のプレイヤーと早く接触を試みたいのだが…。
しかし【偽善】のプレイヤーはその特殊機能からして、一番【悪】に狙われやすい。
と言うわけで、【偽善】のプレイヤーと接触するのはかなり難しいだろう。
誰だって自分の身が一番に大事なんだ、仕方がない。

 俺はそのとき虚に「虚の機械はなんなんだ」と聞こうとした。
だが俺は寸前で中止する。
どうせ、教えてはくれはしないだろうからな。
そこで隣で窮屈そうに見ていた遊李が口を開いた。

 「ねえ、話題ないみたいだから私様が気になっていることを質問してもいいです?」

 右足を一歩前に踏み出してない胸を偉そうに張りながら質問するとは思えない表情が少し印象的。
まあ若いうちは少しくらい偉そうにしているのが丁度良いだろう、と俺はない髭をさすりながら言ってみる。
特に逆らう理由もないわけだから、首を縦に振って肯定を示した。

 「気のせいでしたら申し訳ないですが、園影さんってもしかして私様と会った事あったりしますか?」

 遊李の言葉に華が一瞬体を震わせた、気がした。
次の瞬間にはいつものメモ帳に字を書き始めていたため、真実は謎のまま。
まあ気にするほどのことじゃないだろうけど、流石に少し気になった。
本人が言いたくないのなら無理には聞かない、それが俺のポリシー。
そして華が掲げたメモ帳に描いてあった文字を見てみた。

 『ええと…多分無いです。少しすれ違ったことがあるとかならありえるかもですけど…。あと私のことは華で構いません』

 「勘違い、ですか。このイルカ並みの脳を持つ私様が思い違いをするとは思えないのです。一応もう一度私様の名前を呼んでいただいても言いです?『高貴なるお嬢様入戸遊李様』と」

 イルカの脳って人間並にいいんだったっけか? 俺の記憶では人間以上という科学根拠はなかったはずだが。
と言うか後半のやつは単純に遊李の趣味と希望だろうが。
華喋れないし、前半部分絶対意味ないだろ。
しかも様重複してるし。
まあ今更遊李にこんなツッコミしても意味ないか。
なんだかんだでその文字を書いている華、変なところで真面目だなあ。

 『鋼機なるお嬢様入戸遊李様』

 「私様はロボットか何かですッ!?」

 真面目とか言ったのを全力撤回。
意外と小悪魔。
華はもちろん人間なので変換ミスと言う可能性もない。
わざとこういう風にしているわけだ。
静かそうな見た目に見えて、意外とユーモアセンスか人を馬鹿にするスキルを持っているというのは少し意外だった。
後者の方のスキルを持っていないことを祈るばかりである。
こういう静か系な人は意外と腹黒だったりするからなあ。って見えないところで悪口を言うのはよくないよな、反省反省。
まあ華の場合は素は良い人みたいだから気にする必要はないか。

 「まあ、覚えが無いと言うなら仕方がありません。また思い出したら言って下さいです」

 何処か腑に落ちない様子で、諦める遊李。
思い出せないことを何度も聞くほど無茶苦茶なやつでもないようだ。
まあ人を顎で使ってそうなやつではあるが。
あっちなみに想像での話だからな。

 遊李の動向を見ていると華の近くに寄っていた。
何を話してるんだろ? うんうん、と頷いた華。
続いて何かを話す遊李。
そして華はお得意のメモ帳を取り出し、字を書き始めた。
ここから見えるギリギリだが眼を細めて文字を見てみる。
『やっぱり痴漢はダメだと思う』
どんな話ししてるんだっ!? すごい気になるんだが…。
あれ、遊李が否定してる。
聞き間違えたのか、謎が解…いやまて、なんて聞き間違えたのか気になるんだが!?
そんな感じの盗み聞きに近いことをすると再び虚が話しかけてきた。

 「春さ、もしかしてさっき僕が話しかけたとき『誰も動かないなら自分から動かなきゃ』とか思った?」

 ずばり心を読まれていた。
エスパーかと疑いたくなるぐらいに綺麗さっぱりに思考を読まれている。
そんなに俺、読まれやすい表情をしていたのか?
うーむ、謎である。
勘で言ったのが偶然当たったと言うのが考えにくいのは相手が虚だからだろうね。

 「そりゃあ思ったよ。だけどさっき虚が言ったみたいに動けないなら無理に動く必要はないだろ、そんなリスクは踏む必要はない。いいや違うか、踏みたくない」

 俺は心中を正直に吐露する。
隠す必要はないと思うし、隠すことが通じる相手とも思わなかったから。
なら正直に言うってのが人間的にも状況的にも正しいことだと思った。
空気に読むことに定評のある春くんだからこそ出来る技だぜ、と自信満々に言う空気ではないはずだ。

 「じゃあリスクがなければ動くんだよね」

 「…どういう意味か、気になるね」

 俺の言葉に虚は軽く笑う。
俺に向けてただ可笑しそうに愉快そうにただ笑った。
それを気持ち悪いとは思わない。
少し、気味が悪かっただけだ。

 「どういう意味もこういう意味もないよ。簡単な話さ、さっき僕が言ったとおり【偽善】の機械を持っているやつを探すのさ」

 【偽善】の機械。特殊機能は他の機械の特殊機能の無効化。
確かにそれの持ち主の協力を仰ぐことが出来ればリスクもなく行動することが出来る、そのことはさっきも言ったな。
偽善と言う正義の中では一番敵みたいな名前の機械のくせにもっとも正義の役に立つとは皮肉が出来ている。

 しかもこの作戦であれば確実に【悪】を探すことが出来る、と一瞬思ったが一つだけ疑問点があった。
ここに【偽善】に偽装した【悪】の機械があるとしよう。その両者が同時に特殊機能を使った場合どうなるんだろうか。
いやまったくの同時のタイミングで構えば怪しまれるためこれもクリアした問題と言うことでいいのだろう。
それでも一応虚に聞いてみた。

 「じゃあさ、機能が構えないようにみんな机にでも機械を置いてもらえばいいじゃないかな」

 おお、そりゃあ中々いいアイデアじゃないか。ベッターにベターな正解だ。
俺は適当な感嘆の声を漏らしておいた。

 「なんだかんだ言っても一番の問題は誰が協力してくれるか。ってことだよね」

 手詰まりで困っていると言った具合に笑う虚。
そこに嘲りの感情は見えない。
俺も合わせて笑う中で聞いたりはしないが、「こいつの機械はなんなのだろうか」と考えていた。
読み合いをして騙しあうというこのゲームの本質を俺は既に理解し始めていたと気づくのにたいした時間はかからなかった。
この思考を卑怯と嘲られても、姑息と笑われても俺は今の自分の今の行動を恥ずかしくは思わない。
これが生きると言うことだと思っているからだ。
生きることを恥と思う人間はいないだろう。

 「確かに、な。だけど俺が第三者であれば絶対にやらないと思う」

 「へえ、そりゃまたなんで?」

 隠してはいるが虚の表情は少し憤りの色を見せていた。
間接的にとは言え協力を拒んでいるようなものだからな。
ある程度こうなることは予想していたがそれでも俺は正直に言葉を言っておこうと思った。
今ここで隠していてもいつかはバレるんだからな。だったら俺は正直者を突き通す、正義を通す。

 「【悪】が何をするかを考えられないからだ。もしかしたらこの提案に乗っかった人間を全員殺すとかも考えられないわけじゃない。そんな大きなリスクを犯すくらいなら俺は、ゆっくりと仲間を探すか諦めて死ぬ。人を巻き込むなんて俺は嫌だから」

 「・・・へえ」

 さっきと同じ言葉なのにまったく意味合いが代わっている、と俺は思う。
人の言葉の真の意味なんて所詮本人しかわからないんだから考えて詮索するだけ無駄だ。
相手が長年の友人ではないのであればそれは尚更。
だから俺は思うだけで留める。

 それから一人で勝手に納得して虚は教室の隅に行った。
壁によりかかって何かを計算するような仕草を始めている、俺の情報を修正ってか。

 後ろを振り向いてみると気づいてみると優花は寝ていた。
ついに限界が来たのだろう
いつも凛としている表情は緩みきっていてポニーテールも解いていた。
他人には見せない表情を俺には見せてくれる、それはイコールの信頼で結ばれるんだろうな。
キツイイメージで固まっている優花がこんな姿を人目に晒したら人気が爆発するかもな。
ギャップ萌えってやつ?

 まあそんな冗談半分は置いといても今の優花は異常に可愛かった。
弱点を晒して無防備な姿を晒されると俺も男なわけで。
胸の動悸がどくんどくんとペースを上げていた。
思考が緊張と興奮で埋まって何も考えられなくなる。
いや、でも、流石にまずい…よな。

 でも俺って幼馴染だし、子供の頃は風呂だって…。
あの頃よりも無駄に一部だけ育ちやがって。どことは言わないけど。
あれマジで俺の今の思考まずくね?
優花にバレたら殺されるレベルじゃね?
とか言いつつ、俺の思考は止まらずに無意識に俺の手が優花へと動く。
置かれている状況下との効果も相まって、俺の思考に制限が減っている。
ドクンドクンと心臓が動悸を繰り返えす。
そして手は優花の一番成長しているところに…。

 「現行犯を撮影です」

 パシャリとシャッター音がした。
ギギギと重たい首を横に動かすとそこには機械のレンズと思われる箇所を俺と優花にピントを合わせた遊李がいる。
舌をぺろりと出したりしては居らず、ただ冷たい眼で機械と同じく俺を捕らえていた。
背筋が凍った、世界が止まった、体が停止したまま動く気がしない。
そして優花が眼を覚ます。強制的に世界の針が進んだ。
起きたばかりで未だに眼の焦点が合ってない優花。
口からは「うにゅー」とか漏らしている、マジで破壊すごいな。主に胸とのギャップが。
遊李が優花の横に小動物の様に移動して機械の画面を見せる。
恐らくさっき撮った写真を見せているのだろう。

 「あ、あ、あ、あ…」

 言葉が上手く纏まらない。
何かを言おうとする最初の文字だけがひたすらに口から溢れ出る。
優花のオーラが可愛いから、怖いに一変。歯がギチギチと鳴って止まらない。
そして優花の最初の言葉は、

「触ろうとしたの?」

だった。

 疑問文なのだがどこか決定的。
嘘を許さないその質問に俺はただイエスと答えを返すだけ

 「なら…言ってくれれば良かったのに」

 「「え?」」

 俺と遊李の声が重なる。
知らない間の俺の体の緊張は解けて自由に動けるようになっていた。
優花は顔を赤く染めながら視線を泳がせ、両腕を組んでいてその上に大きな胸が乗っかっているのがまた…。
でもこんな風に言われたら嫌でもこうなってしまうと思うぜ、これマジ。長い黒髪を指先で遊んでいるがそれがまたどこかぎこちない。

 「いやいや優花さん、あなた今寝ている間に襲われかけたですよ?」

 「そうだけど! でも、春が相手なら…嫌じゃないというか、なんと言うか…」

 優花がこんな風に歯切れ悪く喋るなんてそうとう照れてるのな。
まったく愛しちまうぜ、おい。
こんな場面に遭遇したことのない俺は何をしようか迷った。
困ったと言ってもいい。
今はともかく、小さい頃はどうしたかを思い出す。
小さい頃に優花が困っていたときに何をしていたか。恥ずかしながら思いつかない。
じゃあ逆に何をされていたか。
それなら直ぐに思い出せる。

 「え、え?」

 俺の『行動』に優花はさっきの俺と同じく最初の言葉だけが出て続きが出ていなかった。
ゆっくりと優花の頭の上に乗せた右手を少し動かす。
恥ずかしいから無言で。
昔俺が年上の男子に集団でいじめられていたのを助けてもらったときにされた、この『行動』。

 人がやられて嫌なことはやるな。
逆説で人にやられて嬉しいことは人にやり返せ、そう言うことだ。
優花はずっと同じ言葉を繰り返し、俺も同じ動きを繰り返す。傍から見たらこいつら何やってんの?
となりそうだが俺は止めない。それで優花の気持ちが落ち着くまで。

 「・・・。それは私の役じゃない」

 「たまには男をたたせろってんだよ。気にすんな」

 ニカッと笑う。
赤くなっている優花の顔を見て俺も少し恥ずかしくなるが我慢我慢。
遊李は隣で飽き飽きしていた。
何このバカップル? 見たいな感じの表情ね。
華は華でくすくすとむず痒いものを見ているものみたいな笑いを浮かべている。
虚はと言うとまぶしすぎんだろ、見たいな表情でうんざり。
なんか勘違いしている人がいるかもだけど一応俺達付き合ってないんだぜ?

 「…いっつもはだらしないのにたまにこれなんだから」

 小さく呟いたその優花の言葉は俺には届かなかった。
でも、なんとなく言いたいことは解った気がする。
そんなに俺頼りないですか? そーですか。

 「お二人みたいな仲良い友達がいなかった私様にはかなりうらやましい光景ですね。まったく嫉妬しちゃいますよ」

 ぷんぷんと冗談っぽく怒りながら言う遊李。
遊李は友達とか多そうだからそんなことを言うのは少し意外だった。
何処か追求しちゃいけない気がしたため俺は詳しく話を聞くことはしない。
自分から言ってるからトラウマとかではないだろうけど、他人に友達いないだろとか言われたら嫌に決まっている。
遊李にもそういう弱点とかって言う人間らしい部分もあったんだなと人並みに失礼なことを思ってみた。
それにくすりと来て笑いかけるが上を向くことで何とか耐える。

 雑談に区切りがついたところで俺はモニターの時間表示を見た。
11:02:54、それが一人か六人に残された時間。

 俺はふと思い出したように首についている処刑具――『自爆装置』に触れた。
残り11時間と少しが過ぎるまでにコレを解除できなければ首がぶっ飛ぶ。

 今更これを理不尽と文句を言うつもりはない、悪態をついたところでなにも変わらないのに言っても意味がない。
そんなことを言う暇があれば少しは動け、それは昔に俺が優花に言われた言葉だったと思う。
閉ざされたこの『箱』とか言う世界の中で起こる全ての出来事が終わったときに、誰がここに立っているのだろうか。
誰かここに立っているだろうか。

 その答えは誰も教えてくれない。
聞けば教えれくれるような都合のいい風にこの世界は出来ていない。
誰が言ったのかも覚えていないけれどそれは今になって本当なんだな、と思った。
手の届く位置にいつも答えはあるのに、いつでも答えを選ぶことは出来るのに、それが正しいかなんてのは誰にもわからない。
世界は理不尽だ。

 俺は手の届く位置にいる優花を守ることが出来るのか。
それもわからない。でも手を伸ばすのは勝手にしてやる。
それが合っているのかはわからないけれど。

 「え、どうしたの春?」

 俺が突然手を繋ぐと焦った声音が聞こえた。
誰のものとは言うまい。
疑問を出されても俺は答を返さなかった。
別に意地悪をしたわけではない、ただ答えなかっただけだ。

 ただ無言でいるのが正解と言う可能性もないわけじゃないだろう。
だから俺は何も言わなかった。
それが正解だったかどうかを知るのは…まだ早い。

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【DROP OUT】 1

 ――――湊は眼を覚ました

 重たい意識を持ち上げて、さっき見ていた夢を振り返る。
悲しい昔話を。
思い出したくないと拒否して忘れてしまうのは簡単だ。
なにせ人間は嫌なことは消せる都合のよい機能を持っている便利な生き物なのだから。
だがそれでも俺は忘れたいとは思わなかった。

 愛羅を忘れてしまえば俺は何を目標に生きればいいのかがわからなくなるから。
何を目指して生きればいいのか、それさえも忘れてしまうから。
だから俺は忘れない、忘れられない。

 しかし、たまに一瞬だけあの過去から逃げたくなる。
『だから助けて欲しかった』と言う言葉(のろい)から。

 あの言葉が確実に今でも俺の心臓を突き刺していて、俺の体を縛っている。
それが痛くて、抜いてしまおうかと思ってしまおうかと思う。

 それが俺の弱さなんだろうと、俺は理解している。

 ――弱さから逃げるな、向き合え。

 確か手紙にはそう書いてあった気もする。
これも確かに一つの呪いなんだろうな。
死してなおあいつは俺に固執して笑いかけるんだな。
からからと鳴りそうな喉を押し付け、俺は立ち上がった。

 「わわわ、湊くん起きちゃったっ」

 俺が立ち上がると何故か初音が驚いた仕草をしていた。
その様子を見ると俺に何かをしようとしていたみたいだが…。
しばしの思考を始める。

 …ああそうか、初音は俺を起こそうとしていたのか。
確か俺は残りが11時間を切ったら起こせと頼んでいたからな。
だとしたら初音を一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。
しかしそれでも若干の時間のずれは生じているかもしれない、一応モニターを確認しておくか。

 『10:47:59』

 「…オイ、初音」

 前言撤回だ。
数分なら仕方がないかとも思ったが流石に15分は許せるものじゃない。
俺の言葉にビクンと体を震わせているところから見るに初音はこのことに気づいているようだ。
気づいてやったとすれば罪は重くなるって言うのが常識のはず。
とりあえず……でこピンで済ますか

「痛っ。うぅ…いきなりでこピンってなかなか痛いんだよ?」

 「知らん。とりあえず俺の15分を返せ」

 にはは、と笑う初音。
ちなみに「にはは」と言う笑い声は始めて聞いた。
恐らくもう聞くことはないだろう。

 それにしても初音の笑い方がいつもと違いぎこちない。
髪も揺れてないしな。
もしかすると俺が寝ている間に何かあったのか?
いや、それなら真っ先に俺に言うか。

 だとすれば…俺自身が何かを何かをした?
しかし寝ているときにそんなことが出来るわけがない。
あと俺は寝相はいい方だと思っている。

 とりあえず一人で思考を循環させていても仕方がない。
素直に初音に聞くとしよう。
俺は初音を少し睨むような目つきで睨みつけ、

 「なにかあったか?」

 と言った。

 「エッ!? いやなんにもないよっ」

 次はわかりやすく声を裏返して動揺を見せた。
ついでに大きく外はねも動いている。
たまにあの髪は生きてるんじゃないかと錯覚させられるのは俺だけだろうか?

 と言うか初音はもう少し嘘をつけるようになったほうがいいな。
このままでは絶対将来損をする。
と言うかこの建物にいる十二時間中にも絶対に損をするだろう。

 っと、そんなのはどうでもいい。
とりあえず早めに初音から情報を聞き出さなくてはいけない。
後手を踏んだ後に知り、手遅れになることは避けたい。
そのため、こればかりは早く聞き出すべきだ。

 少し強引にでも、この際は仕方ない。
ぐいと俺は初音に近づいた。
このとき初音との距離は1メートルもない。

 「正直に言え。手遅れになってからでは問題だ」

 「えっ、えっ?」

 顔が赤くなっている。
そう言えば何年か前のバレンタインのときもこんな場面があったような気がする。

 ……どうもさっきから話が逸れ気味だがさっさと話を聞きだしたいところだ。
そんな風に赤くなられても困る。
いいから早く答えろ。
そういう期待を向けた視線を送っても初音はまるでなにも反応を示さなかった。

 俺の希望とは逆ベクトルに真っ直ぐ直進している初音をどうするか。
今の俺の悩みはそんなところだ。
まったく暢気だと自分でさえ思う。
しかし暢気に雑談をしている暇さえないと思いながらも、少しこう言う日常も悪くないと思う俺も確かに存在していた。

 「えとっ。喋るからさ、とりあえず……距離取ってよねっ」

 ぽん、と軽く両肩を押された。
突き飛ばされたとも言う。
予期せぬ行動だったため俺の体は殆ど抵抗もなく後方にバランスを崩した。

 と、と、と、と三拍子を足で奏でた後に机を利用し手で体を静止させる。
こういう風に初音に攻撃(?)されるのは初めてだったため少し驚いているのが現状。
初音自身も驚いているようで俺の方へと外はねをピョンピョンと動かしながら近寄ってきた。
大丈夫? と言ったニュアンスの言葉を俺に掛けてきたため俺は適当に肯定を返す。

 寝起きで少し体が立っている体制に慣れていないのか少し四肢の駆動率が低い。
ゆっくりと体の節々を再起動。
体勢を完全に立て直したところで俺は改めて初音に尋ねる。
そこで返ってきた答えは予想外のものだった。

 「いやですね、あまりに湊くんの寝顔が可愛いものでね、ついつい眺めていたら時間が過ぎちゃってっ。とか言ってみたり、えへへ」

 とか言いながら自分の頭を軽く小突く動作をする初音。
その動作は人によっては愛らしいと思うだろうし、人によっては憎らしいと思うだろう。
俺はその中間辺り。
でも相手が初音と愛羅以外であればイラッと来ていただろうな。

 なんと言うかその回答は予想外と言うか奇想天外だな、と少し肩透かしを食らったような気分。
初音の頭の中は小宇宙とはよく言ったものだ。誰が言ったかは知らんが。
怒ろうにも怒れない理由を言われたため持ち上げた左の拳が宙をぶらんぶらんと切っていた。
やる気のないマリオネットの様にブランブランと。
はあ、とため息をつくことでこの件は終了としようと思う。
うむ、それが懸命だろう。せえの、はあ…。

 そう言えば俺はなんだかんだでいままで初音の機械を聞いていなかった。
俺の自爆装置の解除の条件の間接的な条件でもあると同時に、俺の目的でもある初音の機械を知る権利が俺にはある
いや、知る義務がある。
たいした決意もせずに俺は初音に機械を聞いてみた。

 「ところでだが初音。お前の機械はなんだ?」

 「え、【信頼】だけど?」

 即答だった。
考えずに感じるままに思いついたことを直ぐに言ったと言った様子だろうか。
俺としては相当ありがたかったのだが、今後はそう言うのは控えて欲しい。と俺は軽く初音に説教をした。

 「り、理不尽だっ」

 「いや、合理的だ」

 そんな感じの言い合いも混ぜながら俺は初音に説教をする。
初音は表情こそ笑っているが内心はしっかりと反省しているのだろう。
こいつはそう言う人間だ。

 それにしても【信頼】か。
確か『枷』は「『箱』の内部のどこかに存在する球体を四つ以上開ける」だったか。
とりあえず俺の協力で一つ大丈夫としても他に三人の協力が必要となるわけだ。
出来ることならその中には【偽善】のプレイヤーが含まれているのが望ましい。

 その理由は簡単で、【悪】のプレイヤーの情報の箱を開けると即首輪が作動となるためだ。
それを回避するためにも【偽善】の機械の特殊機能である他の機械の偽装解除が必要になってくる。
これでやるべきことが大分はっきりとしてきたな…。

 「まったく……。次からは本当に気をつけろよ。――――にしても、なんだか部屋が俺の起きる前よりも三割り増しくらいでうるさくなっている気がするんだが気のせいか?」

 「うーんとね、多分気のせいじゃあないよ。ちと夕凪くんと暁さんの仲に進展があったようでねえ」

 にやにや、と頬の筋肉を緩ませる初音。
こんな状況で色恋に現を抜かすとは気楽なもんだな。
ある意味その能天気さが羨ましい。

 とりあえず俺が寝ている間の夕凪と暁の状況は把握できた。
華と入戸は年齢的にもたいしたことは出来ないだろうから、気にならない。
しかし、日乃崎だけは気になる。
気になるより知らないと不安になると言った方が正鵠を射ているか。

 あいつの一挙一動を知るのと知らないのとでこのゲームの今後は左右されると言っても過言ではない。
だからこそあいつの行動には気にかけてはいるのだが、流石に寝ている間まで注意力を向けることは出来なかった。
初音に日乃崎が何をしていたかの説明を聞いても無駄な気がしたため夕凪に聞いてみることとした。
気楽そうに見えて意外と抜け目のない夕凪は俺に正直に全て教えるとは思えなかったが、それでも日乃崎自身に聞くよりも何倍もましだろう。
それに、交流と言うメリットも付加価値も一緒についてくるのだから夕凪と会話をしない理由はないよな。と言う欲望丸出しの理由で俺は夕凪に近づく。
横に暁も一緒にいるため少し遠慮しようかとも思ったがさすがに命との天秤には載せられない。

 「夕凪少しいいか?」

 「ん? どった?」

 俺が夕凪に話しかけるなり暁は席を外して初音の元へと向かった。
それは空気を読んだのか、それとも俺と言う壁がなくなって初音に近寄りやすくなったのかは定かではないが、どちらにせよありがたい
相手が(まともな精神をした)同性と言うこともあり俺は肩の力を抜いた。
さっきまで暁が座っていた席に俺は座る。
そして体を机に預けながら気を楽にして夕凪に話しかけた。

 と思ったら夕凪の方は体を緊張させていたため最初から本題に入るのはやめ少し世間話をしよう。
緊張したまま話されても上手くないようが伝わらないかもしれないからな。
こういう話を切り出すのは俺のキャラとは少し違うから難しいんだが、さてどうしたものか。
無難な感じに切り出すとしようか。

 「ところでお前は暁と付き合ってるのか?」

 「はぃっ!? ちょ、湊、何言ってんのさ!?」

 湊、と夕凪は俺を呼んだ。
ほんの些細な問題だがそれを信用の形と受け取るには日乃崎の例があり抵抗があった。
別に夕凪が日乃崎のような人間だと言っているわけではない。
でもだ、それでもついさっきそう言う意図に呼ばれた名前で呼ばれるというのは警戒心をともなうわけだ。
まあ信用とは両者の信頼があってこそ生まれるもの。だったら俺が信じなくては夕凪の信用はありえないのだ、なら俺は夕凪に無償で信じられよう。
それで夕凪の協力を仰げるなら安いものだ。

 と言うかこいつも色々と日乃崎に近い部分を持っていると思ったら、意外と普通の感性で初音みたいにわかりやすく動揺したりもするんだな。
意外といえば意外、少しクスリと来るものがあった

 「冗談だ、気にするな」

 少し柔らかめの笑顔を夕凪に向けながら俺は言う。
緊張は言い感じに溶けたかな。
さて、本題を切り出すとするか。

 「ところで俺が寝ている間に日乃崎に何か動きはあったか? あったなら出来るだけ細かく教えてくれ」

 俺は表情を厳しいめのそれとした。
こういう会話のときは真面目になっておかないと冗談で流されてしまうからな。
俺はそういうタイプの人間――――愛沢愛羅と昔知り合いだった経験があるから間違いないはずだ
つまりは夕凪はそういう人間に近い空気を持っているため、こういう対応をしておこうと言う自己予防線ってわけだ。
たいした意味こそないが重要性はある。

 夕凪は俺に合わせるように真面目な顔をして少し考え始めた。
首を捻ってこれは言って良いものか、じゃあこっちは? と考えているのだろう。
脳内事業仕分けと言ったところか。

 恐らく、だが俺に怪しまれると言うことは承知した上での行動だ、それは俺が信用しきっているわけではないと理解しているのだろうな。
やっぱりこいつは頭がキレる。
もしかすると単純にそんな風には思っていないのかもしれないが、まあそのときはそのときだ。
数秒の間の後に夕凪は重たい口を開いた。

 「なにかって程じゃないけど、俺と話したよ。内容は――――」

 そうして語られた内容は、日乃崎が【偽善】の機械の持ち主を探せば直ぐに首輪が解除できるというのを提案したこと。
でも夕凪は協力を出来ないと断ったということ。この2つだ。
内容自体はさっきの俺とまったく同じだったのだが、問題はそこじゃない。
一番驚いたのは当たり前のように自分に優位になるような話を持ちかけた日乃崎にではなく、それを冷静に判断して断った夕凪だろう。
普通なら甘い蜜を目の前に垂らされた虫のようにのっかる話し、だが夕凪はそれを蹴った。

 この話は一見は有利そうに見えるが真実はただ日乃崎に疑いの目をまったく見せるとこをなく非難を夕凪に乗せることが目的。
それを少しの思考で理解すると言うのはなかなか出来ることではない。
それこそ初めから人を疑っているような人間でなくては。

 話を聞いた限りでは日乃崎はそこまでの行動はしていないようだな。
てっきり俺が寝ている間に全員と接触して自分の独壇場にでもするかと思ったのだが。
こうして俺と夕凪が接触するということを予想していたのか、それか日乃崎も気づいたのかもしれないな。
夕凪春と言うプレイヤーの危険性に。

 「……。」

俺はジッと夕凪を睨む。
この瞬間も何かを狙っているかもしれないその眼を。
さっきから俺ではないどこかをちらちらと見ている
日乃崎とは逆方向の初音と暁の方を見ている。

 こいつも既に何かを暁に命令していた、とかはどうだろうか?
それで俺が離れたと同時に暁は初音に近づき何かを吹き込む。
まさか…と思考。だが可能性は0とは言いきれない。
寧ろ十二分にありえる。
だとすれば何を夕凪は命令した?

 俺を裏切れ? もしくは単純に機械の種類を教えろ?
そのどれよりも一番考えられるのは単純に仲間になれか?
ここで俺が聞いて正直に答えるかはわからない。
なら後から初音に聞くのが一番早いだろう。
あいつならば俺に嘘はつけないだろうしな。
だがそれだけじゃ何も進展はしない。

 ただ俺が夕凪に対する猜疑心に駆られ、このゲームで最後まで信用できないだろう。
それは出来ることが避けたい。俺の機械の枷は実質的には無理だ。
更に言えば初音の機械は一人では絶対にクリア出来ない。
だとすればここで俺がするべきは疑うのではなく、本人から直接聞き出し信用出来る状態にすることだろう。

 「夕凪、もう一つ質問だ。お前は何故さっきから暁の方ばかり見ている?」

 「エッ!? いや、あの、ほら、あのな、うん」

 動揺といえば動揺はしているがさっきと同様の何か日常的な物と言うかなんと言うか。
しかしこれが演技、と言う可能性がないわけでもない。
更に俺は問い詰める。

 「さっさと言え。沈黙は金なり、とは言うが金がなによりも優先されるわけじゃないからな」

 「なんでそんなに怒ってるのさ。いやね単純に…優花の、あの、胸がですね」

 「………。」

 さっきとは別の意味で俺は沈黙した。
冗談にしては別ベクトルに信用が下がり過ぎる内容だったから、ある意味では信用に値するのだが
それでも女の胸を見ていたとここまではっきり言うとは…。
本当に恐ろしいな、夕凪春。

 確かに暁は初音と楽しそうに会話していて飛んだり跳ねたりしていて黒髪やら胸やらが弾んではいるが…って違う!
にしても確かに初音の発育は悪いわけでもないのにそれでも暁の発育はそれの数倍は超している。
本当に雑念が俺に混じり始めているな、精神が疲れているのだろうか
とまあ内容はともかく、夕凪は嘘をついているわけではないとほぼ断言できた。
それでも一応初音には聞いてみるが。

 「と言うか…その、違ってたら悪いんだけどさ、もしかして俺のこと疑ってたりした?」

 胸を針で指されたような動揺が襲った。
心の中を綺麗に見透かされたようななんとも言えない感情。
なんと言って答えようか。
正直に「はい」と答えるか、それとも嘘をついて「いいえ」と答えるか

 考えはしたが迷いはなかった。
俺は正しくある、それなのに嘘を簡単につくわけがない、ついていいはずがない
俺が思考したのは「はい」か「いいえ」かではなく、その細かい内容についてだった。
それが纏まったため俺は正直に答える。

 「そうだ、俺は夕凪を疑っていた。それは隠しようのない信実だ。だが今俺は夕凪を信用している。だから夕凪は――どうなんだ?」

 俺の言葉が予想外だったのか夕凪は面食らっていた。
だがそれも一瞬、直ぐにいつも見せる明るい笑顔になる。
そのまま俺に手を差し出してこう言った。

 「信用してるに決まってんだろ! よろしくな、『湊』」

 迷うことなく俺はそれに応じて言葉を返した。

 「こっちこそよろしく、『春』」

 夕凪ではなく春と呼んだ。
それは紛れもない信用の証。
心の中で俺はもう初音に確認する必要はないな、と呟いた。
こんな混じり気の一切ない純粋な笑顔を疑うことなんて出来なかったから。

 少し甘いかもな、と自分では思いつつ後悔はしていない。
このときこそが最後まで春を信用していようと思った瞬間だった。
だがそんな信頼の時も直ぐに終了してしまう。魔の警報によって始まった悪夢のせいで。


 二人が握手を交わしてから一分と立たないうちにピーピーピーピーと目覚ましの初期設定音にも聞こえるその音があのスピーカーから鳴り出した。
突然の音声に俺たちは体を震わせて、反応した

 ――なんだッ!? 誰かの首輪が作動した?

 ―――いや、誰も条件に引っかかるような行動はしていないから違う

 ―――ならなおさら何故だ?

 一瞬のうちに複数の思考が交錯し、様々な疑念を呼び起こす。
誰かがなにかをしたかと思うとまっさきに想像されるのは、日乃崎の暗躍。
だがその日乃崎でさえ突然の警報に動揺し、首輪を構ったり機械を見たりを繰り返したりしている。
その額から滝の様に流れ出る汗を見る限りとても嘘をついているようには見えなかった。

 クソ、自分の想像し得ないことが起こるとここまで気分の悪いものか…。
日乃崎の策略はまだマシだ。何故なら目の前にその本人がいるんだから最悪暴力を振るうことも出来るから。
だが相手が目の前にいないどころか、自分の命の手綱を握っているとなると不快感と恐怖感は図り得ない。
俺の疑問に答えるようにスピーカーからただの音ではなく、機械音でこそあるが言葉の音声が流れる。

 『突然の放送すみません。突然でありますがモニターの制限時間が10:30:00を切ったそのときより簡単なミニゲームを開始させていただきます。このミニゲームの結果次第によっては参加者が増減いたします』

 「なんだとッ!?」

 俺は感情よりも早く言葉を発し、それに遅れるように立ち上がった。
異常なほど拳に力を込めながら握り締める。
俺の疑問に答える様子もなく、機械音は言葉を紡ぎ続けた。

 『簡単に申し上げますとミニゲームの内容は、クイズゲーム。十問を皆さんに回答していただきその正答数を競っていただきます』

 このゲームが理不尽なことはわかってたじゃないかッ。
それで何故俺は今まで行動を起こさなかったッ。
何故――悠長に眠ったりしていたッ。

 多分俺は心のどこかで、「いきなり主催側が動くはずがない」と油断していたのだ。
その油断の結果がこれだ。
最悪の事態にならなければいいが…。

 『このゲームはモニターに表示されております制限時間が10:30:00を過ぎるまでに「お一人でも『自爆装置』が作動する」または「お一人でも『自爆装置』を解除していただく」のどちらかをしていただければ中止させていただきます所存でございます』

 「そんなことが出来るはずないだろうがッ!」

 一時間半かけて出来なかったことを十分と少しでやれなんて、無理だ。
その上ここで動けるプレイヤーも大分限られる。
解除できるような条件のプレイヤーは…。
待て、もしかして…実質的に初音しかいないんじゃないか?

 【悪】は初めから除外するとして、【孤独】、【調停】、【絆】は今動きようがない。
そして【偽善】と【平和】も他のプレイヤーが『自爆装置』を解除していない以上、機械を壊すことが出来ない。
だとすれば…出来るのは、初音の【信頼】だけだ。

 だがあの条件も十分やそこらで出来るとは思えんな。
と言うことは待つしかないと言うのか…。
チッ、と思い切り舌打ちをして自身の怒りを晴らす。
この怒りを必死に噛み締めながら、十分間耐えるしかないのか…。

 俺の予想を他所に、一人の人間が口を開く。
そう、日乃崎 虚が、行動を起こしたのだ。
席に座りながら日乃崎はこう提案する

 「さてと。ねえ――――【信頼】の機械の人、さっさと動いてくれないかな? そうしないと不毛にも変なミニゲームで命を落としちゃうよ?」

 俺はその言葉に怒りを通り越し一種の無感情になった。
何を言っているのかまるで理解できず、思考が停止する。
数秒たってようやく、初音の命が危ないことに気がつき、俺は頭の回転を始めさせた。

 このまま、こいつの策に乗れば間違いなく初音は死んでしまう。
根拠はないものの、嫌な予感がさっきからして止まないのだ。
こういうときの予想と言うのは…奇しくも良く当たる。

 「おい、何を言っている日乃崎……」

 「別に変なことを言ったつもりはないけど? 何かおかしかったかな」

あくまで白を切る気か。
こいつは本当になにを考えてやがるんだか…。

 しかし依然俺は何が日乃崎の目的なのかがわかっていない。
だがこいつが何も考えずに発言するなんてことは絶対にありえん。
一を目的にして、二を得ることを前提として、十を狙う。
そんな思考を持っているであろう日乃崎が、何も考えてないなんて楽観的思考も行き過ぎている。

 「こうしてさ、話している時間も無駄だとは思わない? 湊が何を考えてるかは知らないけどさ、僕は目的も何もなく単純にみんなのためを思って発言してるのさ。本当だったらこんなことを言ったりして自分の身を危険に晒すような善人じゃないことも湊ならわかってるでしょ?」

 本当にこいつは何を考えていやがる…?
日乃崎虚と言う人間はこんな御託を並べるようやつだったか?
冷静に頭を巡らせろ…こいつは今何を考えているかを、必死で思考しろ。
考えることは猿でも出来るような簡単なことだろう…。

 「だからさ、早く【信頼】の機械の人。早く名乗り出てきてよ」

 まさか…?
いや、そんなことがありえるのか?
まったくの妄言と言うことはないだろう。
だがこんな可能性がありえるか?

 ――――日乃崎は本当に目的無しにこの発言をしているなどと言うことが、有り得るのか?

 正確に言うとまったく何も狙っていないわけではないんだろうが、それでもたいした成果を狙わずしてこう言う発言をしている可能性は充分にある。
例えば、単純に【信頼】の機械の持ち主を知りたいだけ。

 今、日乃崎を除いた六人のうち、俺と初音、春と暁は互いに幼馴染の関係にいる。
その上両方が互いの機械を幼馴染同士で教えあっている。(春と暁の方は予想であるが恐らくそうだろう)
だとすれば、六人のうちの四人の誰かが【信頼】の機械の持ち主であればこの時点で発覚する可能性があるのだ。
幼馴染の相手が危険に晒されているとなればそりゃあ慌てる。
それこそ丁度今の俺の様に。

 それが、いや――それだけが日乃崎の狙いか?
違う、それで【信頼】の機械のやつが出てくればそれを確認するために【偽善】の機械の持ち主も炙り出す気か…!
これで自身の機械を含め三人、参加プレイヤーの約半分の機械が判明する。
ここまで考えての行動か……。

 こっからは完全に考察ではなく予想の範囲であるが、日乃崎はもしかすると首輪の作動が本当かも確認しようとしているかもしれない。
そうだとすれば本当に初音の命が危なかった可能性があるな…。
やはり俺の勘は正しかったようだ。

 「日乃崎、それはやめておけ」

 急な俺の言葉に日乃崎は豆鉄砲を食らったように驚く。
直ぐに悔しそうな感情を磨り潰したような表情になり、俺を睨んだ。
それすらも一瞬でまた表情を変え、いつも通りの何を考えているのか良く分からない物へと変わる。
本心を隠したような調子で日乃崎は言葉を発した。

 「どうして……かな? 僕にはまるで理解できないのだけど」

 俺と一対一だったら睨みつけるくらいはやっていたのだろうが、今は周りに他のプレイヤーも居る為、そうはしなかった。
あくまで温和な印象を崩さないように笑顔で表情を固めている。
それが効果的かどうかは別にして、単純に気味の悪い印象を与えることには成功している裏目っぷりだった。

 「嘘を吐くな。お前ほどの人間が気づいていないはずがないだろう? この十分もない短時間で首輪を、しかも複数人の協力を必要とする【信頼】の機械の持ち主の首輪を解除出来るなんて思っているはずがないだろうが」

 そんな言葉にたじろぐ様子も見せずに日乃崎は直ぐに言葉を返す。

 「それは気づかなかったねえ。ありがとう、このまま急いで人を殺してしまうところだったよ。僕もいきなりミニゲームが始まるところだったから焦ってたんだよね。」

 ヒラヒラと手を振って謝罪をする日乃崎。
表情こそ申し訳なさそうだが、目はまったくと言っていいほど笑っていた。
冷たく、機械的に、ただつまらなそうにどこかを見つめている。

 そしてあっという間に十分間が過ぎた。
ピンポンパンポーンと、間抜けな音楽が部屋に振動し耳に数回到達する。
結局、何も出来なかった。
俺はなにか行動を起こしてこの場面を避けることに失敗したのだ。

 この選択肢が間違っているわけではない。
この場面ではこれが最善だった、それだけの話だ。
俺は後悔をしない。

――――後悔したことを悔やみたくないから。

 そしてミニゲームが開始した。




 ――――日乃崎 虚は早くもこのゲームの理不尽を受け入れた

 そもそも、僕は端からこのゲームを理不尽と言うほど理不尽とも思っていない。
だってこんなもの、『ただ男女七人がどこかもわからない建物に閉じ込められて実質的に殺し合いをするように求められている』だけじゃないか。
しかもその上生き残れば賞金まで出ると言われたんだ。
そうだとすれば、この程度の殺し合いを、理不尽などと言っていては本当に理不尽に殺されたものが可哀想だよね。

 僕はこの建物で目覚めてからまず、このジャッジと呼ばれる拳銃の銃口を『自分のこめかみ』に押し付けた。
ひんやりとした感触と死を導くような感覚が僕の体へと流れる。
そうしてようやく僕は、「ああ、ついに僕も人を殺さなくちゃいけない日が来たのか」と大笑いをした。

 笑ったところまでは良かったのだけど、ここから何をするべきなのかがわからない。
機械置いてあった電子端末を見たけど内容はさっぱりだった。
首輪がしてあったから誘拐されて、愉快な事件に巻き込まれたのまではわかった。
だからと言って拘束しているわけではなくて、その上他にも誘拐された人間がいるというのも同時に把握。


だから僕は仕方なく『手短にいた女』を襲おうとした。
仕方ないよ、だって何も解らなかったんだから。
何も解らなければ仕方なく人間を襲うのはしょうがないだろう。

 ――――それが人間だ

 だけど襲おうとしたところまではいいんだけど、そっからなんか変な男にいきなり攻撃された。
今だからわかるけど、そいつの名前は鏡峰 湊。
僕と同じ生徒会長をしている人。

 湊は面倒なくらいの善人気質なんだろうね。
だからこんな僕を殴るのには一切躊躇をしなかった。
悪を倒すのが正義の定めと言わんばかりに。
それが常識だと言わんばかりに。

 でも僕はそんな湊が嫌いなわけじゃなかった。
僕が−の正義なのだとして、湊は+の悪なんだから二人の絶対値は同じ。
だから寧ろ僕はそんな湊に興味があった。
湊の行動全てに興味があった。

 ――――僕が何かをするとき、湊は何をするんだろうか?

 ――――僕が湊を襲ったら、湊は僕を襲うんだろうか?

 ――――僕が湊の提案を断ったら、湊は僕になんと言うんだろう?

 ――――僕が彼が眼をつけている頭の回る春に話しかけたら、湊はどんな対策を取って来るんだろうか?

 ――――僕が誰かの命を狙う素振りを見せたら、湊はどうやってそれを回避するんだろうか?

 僕には全てが疑問だった。
そして全てが欲求の対象だった。

 僕のこの『箱(セカイ)』での行動原理は全てが疑問解決への欲求。
疑問の為に動き、欲求の為に行動し、自己満足の為に全てを乱す。
それに巻き込まれた人はごめんね、謝らない。

 じゃあ僕は、欲求が無くなったら、何を求めるんだろう?
そんなことはありえないと思うけど、それでもふと思いついてしまった。
もしそんなことになってしまったなら……

 「全部、無くなればいいんじゃないかな」

 そんなことにならないように僕は精々このゲームをぐちゃぐちゃに引っ掻き回すとしよう。
この楽しいゲームが更に楽しくなるような適度なエッセンスを、適当な調味料を、適切な香辛料を撒き散らしていこう。
最後に笑ってるのは僕じゃなくて構わない。
それは春でも、暁でも、滋賀井でも、園影でも、入戸でも、もちろん湊でも誰でもいい。

 ただ僕の最後が高笑いしながら最高に楽しそうに死ねばそれで大満足だ。
もちろんみんなで笑って終われればそれもいいと思っているよ。
でもそれが最高に楽しいとはまったく思わない。
誰かの死に誰かが落胆して、誰かの落胆に誰かが絶望して、誰かの絶望に僕が希望を見出せる。
それが一番最高に楽しいじゃないか。

 だから僕はこのゲームの悪となる。
正義である必要がないからね。

――――でも悪になるときは今じゃない。
僕が悪になるそのトリガーはそうだな……。
そうだ、誰かが死んだときでいい。

 悪になった僕を鏡峰 湊が僕を止めてくれることに期待して。
このゲームにいる他の参加者五人を手駒として、このゲームを最高に盛り上げよう。
それが僕をこんな最高の宴に巻き込んだやつらへの意趣返しだ。
後悔するほどに、楽しませてあげるよ。

そんな感じに思っていてもこのゲームが本当に殺し合いのゲームなのかは未だにはっきりとしていなかった。
全員が自爆装置と言う名の首輪こそしているものの、誰一人作動していないから。
それに、誰も自分が持っている拳銃、ジャッジを撃とうとしないからね。
だからこの拳銃が本物かもわからない。

 僕の欲求解決の為に一発撃ってみてもいいけど…。
それだと偶然誰かに当たっちゃって僕の安全装置が作動しちゃうかもしれないしね。
まあ、それはそれで首輪の作動が本物ってわかっていいんだけど……とか言う風に前向きに考えられる僕じゃあないからね。
だから銃については保留。

 にしても、何故僕達がこの建物に集められたんだろう?
正確に言うと、「何故この建物に集められたのが僕達だったんだろう」か。
簡潔にするならここに集められた僕達が、僕達であった必要があるのかってこと。

 このメンバーに何か共通点があるとは思えないし……。
いや――――もしかして、僕が気づいていないだけでなにかあるのか?
でもこの様子を見ると誰もそんなことには気づいてないみたいだし、僕の考えすぎかな。

 そう言えば、鏡峰って苗字。
どこかで聞いたことがあるような…?
単純に生徒会長だから名が知れているってレベルじゃなくて、どっかではっきりとその名前を聞いたことがあるような。
気のせいと言ってしまえば早いんだけどね。
でも今の状況が状況だからこう言うこともはっきりとしておかないと後から聞けなくなっちゃ元も子もないし。
もしかしたらうちの父が生きてる頃にいろいろな業界とコネがあったからその中のどこかで知り合っていたのかもしれないね。

 ついでに言うとさっき入戸が話していて思ったけど……僕も何か華には見覚えがあるんだよね。
これも気のせいじゃなくてどこか確証的に。
でも最近じゃなくて、結構前かな、この記憶の思い出し方的に。
会った事はあるのに、会った事がないような不思議な記憶。
僕の記憶が弄繰り回されてるってのは流石にないか、話が飛躍しすぎてる。

 これ以上は考えても仕方ない……か。
不満だけど仕方なく、思考を中止した。

 そう言えば、もう少ししたらミニゲームとか言うものが始まるんだったっけ?
完全に忘れてたよ。
どうせ僕はこんなとこでは死なないんだからね。
この言葉に根拠は無い。
ただ絶対的な自信があっただけだ。

 僕はこんなところで絶対に死なない。
こんなところで死ぬような運命に僕はいないと、どこかで確信しているのだ。
人間にはそれぞれ役割が決まっていて、いつ死ぬか、何故死ぬか、どうやって死ぬかは全てが生まれた瞬間から決まっている。
強制されているとも知らずに人間はその決められていることを全うするだけ。
それを人生だとか言ったりするのかもしれない。

 その人生を生きるうえで僕がこの建物で与えられた役割は、間違いなく――――

 ――――悪になること、かな

 誰かが僕にそう言った訳じゃない。
自分でそうだと思っただけ。
でもそう言うのを、「自分を信じる」とか言うじゃないか。
人間とは便利だねえ、全ての物事に言い訳がつけられている。

 物事を失敗すれば、「失敗は成功の元」
嫌なことがあれば、「ポジティブに考えよう」
悪いことをしても、「ごめんなさい」

 嗚呼、なんて人間とは便利な生き物なんだ。
だからこそ僕は人間が大嫌いだ。
言い訳なんてせずに、しっかりと絶望を、不条理を、理不尽を、現実を受け止めなよ。
そうだね、丁度僕みたいにさ。

 このミニゲームが終わったあたりが丁度良い頃合だろうね。
僕が悪になるには。
恐らく、あくまで僕の予想だけど。
このミニゲームでは誰かが死ぬ。

 だから僕はその死で動揺したそいつを誑かして仲間にする。
それで他の全員と同じ舞台にたち、なおかつ協力と言う前提をなくして暗躍する。
湊がそれを止めてくれると、湊が僕のクリアを邪魔してくれると信じて。

 そして僕はゆっくりとミニゲームへの準備を始めるとした。 






 ――――夕凪 春はいつも通りの機械的な音声を待った。

 ミニゲームの開始が宣言されてから十分後、まずは気の抜けるような音楽が鳴る。
俺は初めからこの機械音の後に何かアナウンスが入るのだろうと予想しているため、黙って声を、機械のような声を待つ。
そして望んでいた声がスピーカーを通して俺の耳に届く。

 「誰も自爆装置の解除または起動がなかったようですので、ミニゲームを開催いたします」

 ここまではなんら問題なく予想の範囲内。
問題はゲームの内容なんだ。
今判明しているのは『プレイヤーの人数が減少する可能性もあるゲーム』と言うこと。
このプレイヤー数の減少が『死亡』と言う意味なのか、それとも『自爆装置の解除』と言う意味なのかは定かではない。
とにかくこのゲームが大事なのはよくわかった。

 「これから皆さんにしていただくゲームは……」

 俺はごくりと喉を鳴らす。
そのときに改めて俺は首に首輪が巻きついているのだということを実感した。
右手の指でそれをゆっくりとなぞり、指先がひんやりとしたのを感じる。
これが俺の生命線だと考えると指先と同じように背中も冷たくなった気がした。
そしてミニゲームの内容が公表された。

 「クイズです」

 ……一瞬俺は言葉が出てこなかった。
なんと言うか肩透かしを食らった気分だ。
こんなおかしなゲーム内でのミニゲームと言うのだから、また物騒なものを想像していたのだ。
それなのに実際はクイズだと言うからなんと言うか、微妙な心境だった。

 「これから皆さんにいくつかのクイズを出しますので、それに答えていただきます。問題は全十問ございます。回答方法はそれぞれの機械に送信させていただく機能を利用していただきます」

 やはりここまで言われても何か可笑しなところはない。
ここまで『普通なこと』をされると返って怪しく感じるのが人間と言うものだ。

 「なお、このクイズの正答数が一番少なかったプレイヤーの方は自爆装置を作動させていただきます。逆に正答数が一番多かったプレイヤーは自爆装置が解除されます。正答数が最低だったプレイヤーが複数人いた場合はその中の一人の首輪をランダムで作動させていただきます」

 ……やっぱりか。
こんな簡単なミニゲーム一つで人の命一つが奪われる。
たった一つのニアミスだけで、死んでしまう可能性すらもこのミニゲームは孕んでいた。
それがどれだけ精神に負担の掛かることか。
逆にそれが原因で何かミスをしてしまうことも十二分に考えられるのだ。
そう言う意味でもこのミニゲームは最高に性質が悪い。

 「待て、質問だ」

 湊が口を開いて機械的な音声へと疑問を口にする。

 「このミニゲーム、仮に全員の正答数が0だった場合はどうなる?」

 そうか、確かにこのミニゲームは一番少なかったプレイヤーの安全装置を作動させるもの。
逆に言えば、全員が同じ正答数だったら誰一人安全装置が作動することはない。
それを確かめるためにもこの質問はかなり効果的だろう。
さすが湊だ、こう言うことにもちゃんと頭が回っている。

 そう言えば、今関係がないことかもしれないけど湊があそこまで正義の為に躍起になっているのはなぜだろう。
湊は初音を守ることと、自分が正しくあろうとすることに並々ならないこだわりを持っている。
それは言い方を変えれば異常とも取れる程に。
なんでなんだろう?
俺の好奇心が常識を倒そうとするが、それを良心で押しつぶした。

 それはまたあとから聞けば良いだろう。
自身に言い訳をして、軽く笑った。
世界は俺にいつまでたっても笑いかけない。

 「はい、その場合は誰の自爆装置も作動しません。しかし逆の場合――つまり全プレイヤーが全問正解した場合は少し違います。誰の自爆装置も作動しないのは同じですが、その上プレイヤーの中から【悪】のプレイヤーを除くランダムで一人の首輪が解除されます」

 それは甘い蜜だった。
なぜならこれは全員で協力すれば誰も死なずに簡単にクリアできるかもしれなかったからだ。
それどころか、ランダムで一人の自爆装置が解除される。
これは余りにも上手い話しすぎた。
この話にどこか落ち度を見つけるとしたら……。
そうだな、恐らく――――。
俺は指先を天井に向け挙手をした。
そしてそのまま、

 「質問、です。このミニゲームですが、回答者同士での教えあい等は許可されていますか?許可されてないのであれば、犯した際にはどのようなペナルティがあるかを教えてください」

と言った。

 その質問の答えは直ぐには返ってこなかった。
とは言っても数秒程度だが、いつもよりも若干遅く感じた。
こんな質問が来るとは考えてなかったのだろうか?

 「教えあい等は許可されています。ただし、この中には貴方方のうちの六人の死亡を願っている一人もいることを忘れないでください」

 ……そう来たかい。
確かに教えあいは自由ってわけだ。
ただし、全員が正しい答えを教えるわけじゃあないよ、ってか。
このぐらいなら予想の範囲内だな。
俺が安堵していると思い出したように機械音が言葉を続けた。

 「それと、このミニゲーム中はそれぞれの機械に特殊な加工をさせていただくので、各々の許可が無ければ回答は見れない使用となっております」

 これで一応裏切りがしやすくなっているわけだ。
本当にどこまでも『悪』に有利なゲームなことで。

 そう言えば、やっぱり『悪』は主催者側の人間なのだろうか?
なんでこんな風に考えてるのか、って言うと単純にこのゲームが『悪』に有利だから、と言うだけではない。
このゲーム自体が何を目的に行われているかと言うのを考えてだ。
誘拐犯に誘拐され、こんな殺し合いをさせられているこの状況だけでまず、常識的な考えは捨てるべきだとして考察してみよう。

 このゲームの目的として考えられるものは二つ。
一つは誰か趣味の悪い金持ちとかが金を賭けて俺たちが騙しあいをして、殺しあう姿を楽しんでいると言うこと。
これならば幼馴染同士の俺と優花、湊と初音を連れ去っていることも、「幼馴染同士が殺しあう様子を楽しむ」と言う理由が出来る。
そして何より、こんなすごい建物、機械、首輪を用意できることにも納得がいくのだ。
以上の理由からこの考えは今のところかなり有力だと言える。
 
 そしてもう一つ。
これは少し話しが飛躍しすぎているし、なにより根拠も無いの。
だが今の状況的に考えられないこともないのだ。
それは、「誰かの個人的な怨恨によって行われている」と言うものだ。

 だがそうなってくると必然的にこのメンバーの共通点が必要になってくる。
しかし俺と優花、湊と初音、もしかすると遊李と華。
このように一部だけは繋がっていても、全員が繋がっているわけではない。

 でも、このゲームの理不尽な部分を説明しようとすればこの可能性も無いとは言いきれない。
普通に考えて、ゲームを見て楽しもうと思うならば、ルールはあくまで平等にするはず。
だがこのゲームはどう考えても平等に作られていない。
もしかすると俺がまだこのゲームの真の意図に気づいていないだけかもしれないが……。

 それをどっちかと判断するにはまだ情報が少ないから断言は出来ない。
誰かに相談してもそいつも混乱しちゃいそうだからなあ。
俺だけでもう少し考えときますか。

 「これ以上質問がなければただいまよりミニゲームを開始しようと思うのですがよろしいでしょうか?」
 
 全員特に聞きたいことはないらしく、誰も手を挙げたり、声を上げたりはしなかった。
それは=でミニゲームの開始を示している。
誰もそれに対して逆らおうとしない。
逆らっても――――どうせ無駄だ。

 「ではゲーム開始とさせていただきます」

 それはいつも通りの機械音だった。
恐らく錯覚だが。
多分聞き間違いか、ちょっとしたスピーカーの音質などの影響かもしれない。
だが俺の耳にはその機械音は――――

 ――――どこか愉快そうに聞こえた。


-----------------------------

【DROP OUT】 2

 ――――鏡峰 湊は精神を集中させていた

 このミニゲームで最悪誰かが死ぬ。
教えあいは許可されているとは言え、全員が正直に物事を話すとは限らない。
だから俺は全てを鵜呑みにはせずに、他人を疑いながら全員の生存への手を選ぼうと決めた。

 「ゲーム開始の前に少し訂正をいたします。先ほどの教えあいは可と申しましたが、それでは少し解釈が人それぞれ代わってしまいそうなので一応補完をしておきます。
教えあい、と言う言葉を夕凪様は使われました。このミニゲームで許可されているのは『ヒントや回答を導くための手がかりとなるもの』です。
なので直接答えを言う、『写す真実と書いて写真』の様にあからさまに答えを誘導する表現で答えを示す等は許可されておりません。それらを犯した場合はペナルティを受けていただきます。」

 俺個人としてはどうでも良い話だ。
だが俺たち全体としてはとても重要な内容だった。
この説明が無ければ俺は間違いなく、直接答えを教えていただろう。
それで俺はペナルティを喰らっていただろうな…。
危ないところだった。

 となると、ヒントの出し方等もこのゲームの重要なポイントになるわけだ。
下手に答えに近すぎると誤って直接言ってしまう可能性があるからな。
それに少し余計な言葉を追加しただけで、思考を捻じ曲げる可能性さえ出てきた。
これ等を踏まえて一番危険なのは、やはり日乃崎。

 と言うことは、あいつの妄言がどこまで俺たちの未来を歪ませるか、それさえも計算に入れなくてはいけない。
クソ、本当にめんどうなやつだ。
まさかそこまで計算してやってるんじゃないだろうな?
……流石に考えすぎか。

 「日乃崎。わかっていると思うが出来る限り、全員生存に協力しろ。いいな?」

 俺の言葉に日乃崎は数秒考え始めた。
オイ待て、そこは即答する場面じゃないのか。
そこで思考するということは、否定の可能性もあるということに変わりない。
本当に勘弁してくれ……。

 「出来る限りでいいんだよね? だったら僕は出来る限りのことをしよう」

 ん……?
もしかして今こいつは協力すると間接的に肯定したと言うのか?
逆に怪しくて仕方ないため、俺は日乃崎に言葉を投げかけた。

 「協力するんだな?」

 たった一文のただの疑問だった。
特に意味を込めるわけでもなく、ただの疑問。

 「うん、僕は出来る限りの協力はしよう」

 日乃崎がここまであっさりと肯定しただと……?
なにか怪しい――――が、根拠もなく疑うのはよくないな。
今は信頼が全てだ。
とりあえず、こいつを信じてみよう。

 「ありがとう。信頼してるからな」

 「えっ?」

 俺が感謝の念を込めて言葉を言った途端に日乃崎は感情を留められずにあふれ出したような表情をした。
気の抜けたような、肩透かしを食らったような表情を隠そうともせずに日乃崎は口をぽかんと開けている。
それから取り繕うように、表情をいつもの食えない表情に戻しいつものトーンで喋り始めた。

 「いや、この僕だよ? この日乃崎 虚をそんな簡単に信用してもいいの?」

 いや、訂正。
言葉のトーンだけはいつもよりも慌てたようになっている。
何が原因でここまで取り乱しているのかが俺にはいまいち理解できなかった。
しかも相手が日乃崎となれば尚更だ。
だからと言って聞いたところで正直に答えてくれるとは限らない。
どうしてこんなにコイツは面倒なんだか。
ため息が俺の思考と同調してか出てきた。

 「何を言っているんだお前は……。お前が誰であろうと俺は俺だ。だから俺はお前を信用する、わかったか?」

 そして再び鳩が豆鉄砲を食ったような表情。
しかしそれも一瞬で、直ぐにいつもの日乃崎の表情に戻――――らなかった。
そのままどこか疲れた表情のまま言葉をなくして近くの席へと倒れこむ。

 ――――本当に日乃崎はどうしたんだ?

 ――――もしかしてこいつもゲームに疲れ始めているのか?

 ――――いや、飽き始めた……?

 『それでは早速第一問を言わせていただきます』

 俺の思考を急遽遮るように機械音がアナウンスを吐き出す。
辺りの灰色の壁に当たって反響。
そして数重に重なって俺へと届く。
恐らく他の六人にも同じように届いているだろう。

 『では第一問。最初の人類とされ、エデンの園を追放されたのは誰と誰? 制限時間は三分です』

 抑揚のない一本調子の声の質問を聞くと突然機械の画面がのっとられたように黒く侵食された。
そしてその黒を払うように白の空欄が湧き出す。
その下にはキーボードを模した、文字入力のキーが表示された。
どうやらこれで文字を打てということらしい。

 ―――確かこの答えは……アダムとイヴだったか。

 俺は速攻で答えがわかったため、タッチで答えを打ち込みエンターを押した。
すると上から零れてきた黒で埋め尽くされ、「一度回答したら変えられませんよ」と言わんばかりの画面になった。
確かにこうすれば答えは変えられない上に、見られないのか…。
それに横からの覗きも禁止するように出来ていると。
本当にこの機械はどれだけのものなんだか……。

 じゃなくて、これの問題の答えがわからないやつを聞くべきか。
俺が回答を打つまでにかかったのは三十秒足らずだったから残りはあと二分と少しくらい。
こんな短い時間で全員にわかるようなヒントが与えられるかは怪しいから出来るだけ多くの人間が答えを分かって欲しいものだ。

 「おい、今の問題わからなかったやつはいるか?」 

 部屋の中が静寂に包まれる。
と言うことは全員が答えをわかったのか
俺は安堵から胸を撫で下ろす。
本当ならこの程度で胸を下ろしていても仕方がないのだが、気が緩むのは仕方が無い。

 「えーと……ごめん湊くん。私わかんないっ……」

 ……はぁ。
いや、なんとなく予想はついてた。
こいつがそういう歴史系に疎いのはよくわかっていたからな。
イヴはともかくアダムの説明はどうしたものか。
待て、あれは片方を説明すればセットでわかるはずだ。
確証はないが、これが時間的に選べる手段でもっとも有益な選択だろう。

「片方のヒントは出す。それとセットの人間と考えれば自然と答えは出てくるはずだ。」 

 うんうんっ、と元気良く首を縦に振る初音。
外はねも相変わらず元気のようだ。
俺は言葉を続ける。

 「ヒントは前日、前夜などと言う意味がある言葉だ。有名なのだとクリスマスなどか。これでわかるか?」

 「うんっ、わかったよ! ありがとね、湊くんっ!」

 にかっと笑顔を満開に咲かせながら機械をタッチで操作する初音。
その手つきはかなりしなやかだった。
これだったら機械を構うときに俺の助けはいらないか。
なんて、保護者のような安心をする俺は少し過保護すぎか?

 『では制限時間の三分が経過いたしました。では不正解者の人数は……』

 ゴクリと固唾を呑む。
一問目からこの緊張感と言うのは最後までかなり疲れるんじゃないだろうか。
俺のそんな心配を意に介さず言葉の続きが放送される。

 『0人です!』

 初音の肩の力が一気に抜けたのがわかった。
まだ九問もあるんだぞ、と言うのは言わない方がいいだろうな。
俺は黙って初音の背中をバンと叩く。

 「ひゃうっ!」

 小動物のような可愛らしい声を初音が上げる。
予想外なその声に俺自身驚いたのだがそこは、なんとか声をこらえた。
しかしそれは初音にはバレているようで、ニヤニヤと笑われる。
初音にこういう風に笑われると異常にイラつくのは何故だろうか。

 そっから続いて四問は順調に全員正解を重ねていった。
途中日乃崎が邪魔することも無く、ただただ順調に正解を重ねるだけだった。
表情を見てみると、瞳にまるで生気が宿っておらず、ただの器の様にも映った。
演技……には見えない。
正真正銘の心ここに非ずな様子のようだ。

 そして六問目が訪れた。
一定の声音過ぎることで、逆に不協和音にも聞こえるそれを聞き始めてそろそろ耳も慣れてきたところだ。
いつもの様に問題が口頭で読まれる。

 『1から100の全てを足した答えは?制限時間は一分半です』

 これは初めての数字を使った問題だった。
そのためキーにも変化が現れていた。
とは言っても単純に数字だけの表示に変わっただけだが。

 しかしこの問題。
これはある計算方法を知らなければ、一分半で解くことなど不可能だ。
それをこいつらが知っているかだな…。
初音は昔に俺が教えたから問題は無いだろう。
夕凪と暁もそれなりに頭はよさそうだから大丈夫だろうな。

 問題は華と遊李だ。
中学生で習うところもあるらしいが、それが全国一律とは限らない。
今からそれを教えて間に合うか…。
残りは一分ってところ。
間に合わせるか。

 「とりあえずわかるやつも分からないやつも全員纏めて説明するからよく聞け。
この問題は数の多さに騙されやすい。しかしだ、これは実は簡単な式で求めることが出来る。それは1+100、2+99……の様に端から計算していくと101×50になることがわかるだろう?
あとは各々計算するがいい」

時間はギリギリってところだ。
計算式自体は簡単なため間違うことはないだろう。
これで残りはあと四問……。

 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……』

 後四問もこの調子であれば全問正解は容易いな。
これで一人は首輪が外れるわけだ。
それで誰が外れるかも重要だが、とりあえずは外れることに意味がある。

 っと、いきなり油断していた。
まだ決まったわけではないのに、こういう風に気を抜いているのはよくないな。

 『一人です』

 なんだとっ!?
あの説明で不正解者が出たというのか?
華と遊李もちゃんと内容を理解していた様子だったのに、何故……。

 『その不正解者は、日乃崎虚様です』

 日乃崎が?
こいつがこの程度の問題をわからないわけがない。
じゃあ何故間違えた。
わざと? なんのメリットがあって?
こればかりは俺だけで考えていても仕方が無い。
日乃崎本人に聞くとしよう。

 「おい、日乃崎。何故こんな簡単な問題を落とした! 普段のお前ならば考えられないミスだろうがっ!」

 なんで俺はここまで声を荒げているのだろうか?
それは日乃崎に生きていて欲しいから。
でも本当にそれだけなのか?
俺はもしかしてただ単純に面白がっているだけじゃないのか?
面白がっている? この殺し合いのゲームを、か。
そんなはずがねえ。

 「ごめん、ボーっとしてて計算間違いしちゃった。ごめんね、これで僕の安全装置が作動するのも時間の問題だよね」

 「馬鹿か、そんなこと俺がさせん。すまん、聞いてくれ。日乃崎がこの問題を落としてしまったから、次の問題は日乃崎以外はみんな間違えてくれ。いいか?」

 もちろんそれに反論する人間はおらず、皆無言の肯定をしていた。
正確には初音だけ首と髪を動かしていた。
俺はそれに胸を撫で下ろし、座っていた椅子に腰を落とす。
しかし、これで誰かの首輪が外れることはなくなったか……。
残念だがこればかりは仕方ないな。

 にしても日乃崎は本当にどうしてしまったんだろうか。
俺が日乃崎を心配する言葉を掛けたあたりからいきなりこんな風な抜け殻の様になってしまった。
何がそこまでこいつの心に刺さったのか、それが俺は知りたくてたまらない。
だがこの状態のこいつじゃあ、ろくな話は聞けそうに無い。
クソがっ、本当にめんどうなことをしてくれる。

 『ではこのまま、第七問目へと移らせていただきます。第八問、別名PDBとも表される原子は何。制限時間は二分でございます』

 確か答えはパラジクロロロベンゼンか。
この問題は都合がいい、多分殆どの人間がこの問題はわからない。
しかし日乃崎は恐らくこれぐらいならばわかる。
何故なら日食高校が、理数を専工している学校だからだ。
誤って正解してしまうということが少ないのはなかなか運が良かったといえる。

 俺は画面のキーを構って適当に「二酸化炭素」と書いて解答、そして近くにいる初音を見た。
やはりと言うか初音は困惑した表情をしており、どうやらわからないようだ。
そりゃあそうだ、ただでさえ初音は科学が苦手なのに、こんな問題がわかるはずがない。
華と遊李もこんなものを中学で習うはずが無いからな。

 そして不正解者の人数を発表するアナウンスが始まる。
これも特に緊張するほどのものじゃあないのだが、さっきの例もあるため自然と身が硬くなった。
いっそこのまま言われなければ良かったのに、とは流石に思わないがな。

 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……五人です』

 よし、予想通――――ん?
おかしいぞ、七人のうち五人不正解ならば、正解者が日乃崎以外にも一人いることになる。
誰だ、俺たちを裏切ったのは……?

 『不正解者は鏡峰様、滋賀井様、夕凪様、暁様、園影様です』

 今名前が言われなかったのは誰か、直ぐにわかった。
入戸遊李、その名前だ。
あいつが俺たちを――――裏切った。

 「入戸、どういうつもりだ……?」

 「いえ、別に何かを企んだわけではありませんよ。偶然にも正解してしまっただけです。私様はなんとなく思いついた原子名を言っただけなのですから」

 それが本心かどうか俺に確認のしようはない。
だが入戸のやたらと落ち着いた様子が逆に怪しかった。
疑われたのに、疑われるのを想定していたかのような落ち着きは少しおかしい。
まるで「これさえも想定の範囲内」とでも言いたいかのような……。

 待て待て、疑うのをやめよう。
所詮一回ミスっただけじゃないか、まだあと三問もあるだろうが。
焦るな、この焦りが最終的な死に繋がる。
残り三問もあれば、全員の正解数を等しくさせる程度は簡単だろう。
だからとにかく落ち着け、俺。

 すうはあ、と深呼吸をして気分を落ち着かせた。
よし気分は良好、頭の働きも大丈夫だ。

 「わかった。今は入戸、お前を信じよう。ただし、次はないからな?」 

 それに入戸は言葉を返さなかった。
無言の肯定か、沈黙の否定のどちらかは解らない。
今の俺には知ることが出来ない。
知りたいとも思わなかった。
そのまま沈黙を通すかと思っていたが入戸は喋り始めた。

 「信用、ありがとうございますです。信用とは何にも変えられないです。大事にします」

 にこり、と珍しい笑顔を俺に向ける。
俺はそれを信用の代価と受け取ることにした。
それ以上は入戸を言及せず、次の問題を待つことにする。
人の神経に氷を詰める様な機械音声の問題を。

 『では続けて、第八問へと行かせていただきます。第八問、プレイヤーでもある日乃崎虚様の通り名は? 制限時間は五分です』

 いきなり問題の性質が変わった?
今までは一般な問題だったのに、八問目からこのプレイヤーの中でしかわからない問題に何故変化したのだろうか。
その理由を考えるのもいいが、今はこの答えをみんなに教え、正解数を調整しなければならない。
とりあえず俺は答えがわかるので、「藁人形」と機械に打ち込んで解答。

 「じゃあこの問題のヒントを言う。ヒントは丑の刻参りなどに使うもの、だ。あとは釘を刺されるものだな。入戸、お前は正解するなよ? 間違って正解しないように適当に自分の名前でも打ち込んでおけ」

 この問題は非常にヒントが難しい。
だがそれでも俺のヒントは答えやすいものに出来たと自分でも思う。
これで、また不正解者が出ると今後の問題での調整は難しくなってくるから、正解して欲しいものだ。

 「なあ湊、これって俺たちも知ってる単語が答えか? いまいち思いつかないんだけど」

 困ったような顔で俺に尋ねる春。
さすがにヒントがあれだけじゃあ厳しいか……。
だがこれ以上に有益なヒントが俺には思いつかない。
どうしたものか……。

 と、俺が困っていると横に座っていた初音が立ちあがり胸を張っていた。
何故こいつが……? と思ったがそう言えば初音は答えを知っているんんだ。
その理由はこの建物で俺と初音が遭遇したときに、俺はその単語を口走っているから。

 『お前まさか……日食高校の藁人形か?』

 この言葉を初音は恐らく覚えているからこんなにドヤ顔をしているのだろう。
と言うかここまでやっておいて知らなかったら本当に説教が必要だな。

 「初音、答えがわかったのか? いや、覚えていたのか?」

 「私が湊くんの言った言葉を忘れるとでもっ?」

 ……嬉しいことを言ってくれるな。
とか言って、先週俺が先に帰ると言ったのを忘れて二時間くらい学校で待っていたのは誰だったか。
しかもそれを言ったら俺が逆ギレされたって言う理不尽っぷりだ。
だが初音が怒っても大した迫力がないのが救いだったな。

 「だからさ、私がヒントを出してもいいかなっ?」

 「いいが、とりあえず俺に言って聞かせろ。そうしないと情報が混乱する可能性がある」

 「はいはい、了解しましたようっ。えとね、『帽子の種類にもある素材で作った、お雛様とかの種類のこと』とかどうかな?」

 具体例などを出して、解答へと間接的に導く方法ってわけか。
だがそれは同時に危険を孕んでいる。
それを言ったらもしかすると、『あからさまに答えを誘導する表現で答えを示す』に引っかかる可能性が無くもないのだ。
そのため、これは初音の身を守るためにも、避けるべきだろう。

 「悪いが、それはやめたほうがいいな。」

 「えっ、なんでっ!? 結構良いアイデアだと思ったんだけどなぁ……」

 初音がしゅんとし始めた。
やばい、凄くやりにくい。
いや、尚更理由を伝えやすくなったんじゃないか?
そうだそう考えよう!

 「いや、お前のそれ自体はわかりやすい。だが分かりやすすぎて、逆にルールに引っかかる可能性があるんだ。だからお前の身を守るためにもそれを言うのはやめておけ」

 「あっ、そっか! やっぱり湊くんは頭が回るねっ。それに優しいですな」

 たまにこいつの能天気さには助けられる。
甘いものを食べると頭が回るみたいな、なんと言うか休息の場所の役割をしてくれているのだろう。
日常の在処とでも言うかな。
俺に必要な人間だということは確かだ。
初音を俺は守って、初音は俺の居場所である。同時に拠り所でもある。
俺は実際に初音に助けてもらっているのかもしれない

 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……0人です』

 それを聞いて俺はチッと舌打ちをした。
不正解者が0と言うことは、だ。
『入戸遊李も一緒に正解しているということ』だからだ。

 「入戸、何故お前が正解している……?」

 「何故って――――私の名前が正解だったんじゃないです?」

 そうか、こいつは俺たちを裏切って自爆装置を解除としているのか――――。
確かにこれほど安全な自爆装置の解除の手段はない。
しかも今の段階で首輪を外せば、他のプレイヤーを五人殺すことも可能になる。
逆に言えば、【悪】のプレイヤー以外に殺されることも無いのだ。
俺は失念していた、日乃崎以外が裏切るという可能性に。

 「入戸、何故俺たちを裏切る?」

 「裏切るなんて酷いですね。ただ私様は『誤って正解を打ち込んでしまったり』、『何かの偶然で私の解答が正解になった』に過ぎないのです。むしろ、私様も被害者みたいなかんじです」

 その言葉を言っているとき終始入戸の表情は笑っていた。
まるで自身の勝利を確信するかのように、ニタリと。
恐らくこれが入戸ではなく日乃崎であったら俺は今すぐ殴りかかっていただろう。
だが相手が年下、ましたや女であるなら殴りかかるなんてことはできない。

 だがまだ入戸の勝利が決まったわけじゃない。
俺たちの誰かの死亡が確定したわけではないから、入戸を止める手段を考えるべきだ。
と言っても強硬手段が存在しない上に、実質的な妨害策が存在しないのが現状。
こうなったら単純に入戸に答えを教えないしか――――ない。

 だがいいのか、そんなことをして……。
これは俺が入戸を裏切っているのと同じなんじゃないか?
考えすぎだと思えればいい、だがこれは本当に裏切っているとしか考えられない。

 こんなのが正義?
これなものが俺が、愛羅が望んだ正義なのか?
俺は正義とそうでない何かの間で迷う。
無様に、醜く、酷い様で。

 『では、第九問へと行かせていただきます。第九問、ここにいる全員の年齢の和は? 制限時間は五分です』

 また計算問題か。
しかも今回は参加者全員の年齢を覚えてなければ答えられないときた。
面倒な問題だ。

 年齢は、俺と初音と春と暁と日乃崎が18、遊李と華が14だったはずだ。
だから和は、118か。
さて、どう伝えたものかな。
恐らく全員の年齢を言えば大丈夫だろう。

 これが間接的な答えの提示に繋がらない可能性も無くはない。
だが六問目で同じ手段を取っているから、大丈夫か。
さて、入戸には聞こえないようにヒントをそれぞれに言っていくか。
いやそれよりも回してもらう方が早いな。

 早速俺は初音に言葉を伝えることにした。

 「おい、初音」

 「ひゃあっ!」

 俺が耳元で話しかけると初音は大声を出して驚きを表現した。
小さな体が大きく膨らむ。
そして直ぐに縮んだ。

 「もう、湊くん耳元で話しかけるのはやめてよっ。くすぐったいじゃんっ」

 外に跳ねる髪を元気に揺らしながらぷんすか怒る初音。
本当に怒っている姿が可愛らしいから怖くないな。
そのため俺は初音にでこピンで反撃を試みて、話を続けた。

 「いいから、少し耐えろ。お前は、華と暁に全員の年齢を回せ。出来るだけ早くだ、わかったな?」

 「わ、わ、わ、分かったから早く離れてよっ!」

 顔を真っ赤にしながら俺から離れて行く初音。
まったく幼馴染の俺にこんなことされた程度で何故あそこまで恥ずかしがっているんだ?
俺にはまったく理解できんな。
そう思いつつ、日乃崎と春にこのヒントを伝えようとしようか。

 「春、こっちへ寄れ」

 「ん、何?」

 俺の方へとてくてく歩いてくる春。
なんだか小動物っぽい動きでえさを上げたくなるな。
……冗談だが。

 「この問題のヒントだ。俺を含む五人が18才、華と入戸のみが14才だ。いいな?」

 「OK、了解したぜ」

 流石にさっきの日乃崎の様に計算間違いをすることはないよな。
これ以上は俺にはどうしようもないため、祈るだけだ。
残り二問で正解数を調整するのは非常に難しいため、出来る事ならばやめて欲しいものだな。

 次は日乃崎に近づく。
相変わらず眼に生気が宿っておらず、最初に見たときのような企みを含んだような眼をしていなかった。
こう言っては不謹慎かもしれないが、この状態の日乃崎は助けてもどうしようもない気がする。
このゲームから生きて帰っても直ぐにでも自殺してしまいそうな危うさを今の日乃崎は持っているのだ。
だからと言ってそれは助けない理由にはならない。
こいつが【悪】であろうが【正義】であろうが生きて帰って欲しいのは俺の本心だ。

 「日乃崎、この問題のヒントだ。俺と――――」

 「いいよ、わかってるから。教えてもらわなくても今回は間違えない」

 そしてそのまま俺から逃げるように教室の端へと行った。
本当にあいつは今、何を目的に動いているのだろうか?
何も目的もなく、ただ生きているのだとしたらそれは――――死んでいると同じだ。

 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回の不正解者は……一人です。不正解者は入戸様』

 やっぱりあいつはこの問題を落としたか。
何故この問題を落とすとわかったかと言うと単純で、入戸は他人の紹介を聞いてないと思ったからだ。
この問題は他の人間の自己紹介を聞いていなければ正解は不可能。
それだけの話だ。

 これで全員の正答数が8で並んだ。
次の問題を全員が正解すれば、誰の首輪が作動することも無い。
よし、最後まで気を抜かずに行くぞ。

 『では最終問題へと行かせていただきます』

 そして最終問題のアナウンスが始まった。
一瞬で部屋全体の空気が引き締まったのがわかる。
これで間違ってしまえば、死んでしまうのだからそれは当たり前だ。
俺でさえ、緊張している。

 「最終問題は、各自問題が容易されています。順番に解答ください。なお、この問題中のみ他のプレイヤーとの会話を禁止させていただきます。」

 「なんだとっ!? おい、それじゃあルール違反だろう!」

 いきなりルールの変更だと!?
そんなのは考えてもいなかった。
まさかさいしょから最終問題で正答数が並ぶのを予想していたのか?
ありえる、何故なら最初からヒントの出し合いを許可していたから、全員の回答数が並ぶのは予想がつくからだ。
ふざけるな、こうなればどうやって確実に全員が正解できる……?
俺は必死に頭を捻り、解答を導きだす。

 ……そうか筆記ならば、いける!
会話は禁止されているが、筆記による助言の出し合いは禁止されていない。
だが、筆記するための道具がない。
クソッ、どうすれば……。

 『では最初は、夕凪様へ問題です。入戸様の所属している中学校は? 制限時間は二分です。』

 慌てる様子もなく、あっさりと答えを導きだす春。
なんと言うかさすがだ、焦る様子を見せて俺たちに動揺を与えないようにするための策でもあるのだろう。
こういうのを思いやり、と呼ぶのだろう。

 その次は俺で、少しの思考で解けるような問題を提示された。
続くように、暁。その次は初音。華、日乃崎と全員が全員正解することが出来た。
そして問題の入戸の解答の番となる。
俺たちに出題された問題が他のプレイヤーに関する問題だった以上、間違いなく次の問題も似たような問題になるだろう。
それを入戸が答えられるわけがない。

 『では入戸様問題です。鏡峰様と滋賀井様は何年来の付き合いでしょうか? もしくはいつからの付き合いと言う答え方でも構いません。制限時間は二分です』

 「あ、あ、あ、あ……。いやぁいやぁ。」

 入戸はやっと自分の命の危険に気づいたのか、情けない声を吐き出していた。
恐らく今入戸は後悔していることだろう。
何故さっき裏切ってしまったのかと。
俺は入戸が八問目で裏切らずちゃんと間違えていれば、さっきの問題は正解してもらっていたと思う。
これは今だから言えるのだが、最終問題で不正解になっていたほうが今のように問題の形式が変わった場合にも対応できたからだ。
今言ったのも、入戸が絶対に裏切らないと仮定した上での思考だが、恐らく俺はそうしていたと思う。

 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。謝るですから許してください。だからお願いです、この問題のヒントを誰か教えて下さい、お願いします」

 入戸はプライドを噛み殺しながら、必死に言葉を口にしていた。
だが会話は禁止されているため、誰も喋ろうとはしない。
そして入戸は涙を流し始める。
己の行動を悔いて、己の発言を悔いて、己の感情を悔いて。

 「お願いですから誰か助けて……。ねえ……」

 そして入戸は華の方へと向かい歩き始める。
華は体をびくりとさせ、俺たちの方へと逃げようとするがそれよりも早く入戸に捕まる。
声の出ない、喉を震わせてながらと首を横へと振る。

 「ねえ、園影さん! お願いですから私様に答えを教えてください! 頼みます、そうしないと私様が死んでしまうんです! ねえ!」

 首元を捕まれて入戸から必死に懇願されている華。
だがその口から言葉は出てこない。
いや、出せない。

 ん、待て華は話せない。
ならどうやって今まで華は俺たちと意思の疎通を取っていた?
そうだ、華ならば筆記用具を持っているじゃないか!

 そうとなれば急いで行動を始めなくてはいけない。
残りの時間はもう少ない。
俺は華の元へと寄り、入戸を剥がして華へジェスチャーで俺の意思を表現する。
必死の表現が伝わったのか、華は首を縦に傾け、メモ帳とペンを取り出した。
そして文字を描き始め――――

 「そんなメモ帳に字を書いている場合じゃないです! 早く説明するです!」

 ――――ようとしたところで入戸がメモ帳を払い飛ばした。
何をしているんだと思ったが、今の入戸はパニック状態に陥っている。
そのせいで冷静な判断が出来ず、華が直接話せないことも忘れているんだ。
しかもルール的にも話してはいけないのも忘れている。

 飛ばされたメモ帳は既に取りに言っていては制限時間に間に合わない位置にあった。
手遅れ? いや、まだ間に合うかもしれない。
俺は脚を踏み出し、メモ帳へと走り出した。
そしてメモ帳を取る。

 「ああ、そうですか。皆さん私なんかにはヒントはくれないですか! いいです、じゃあ私は勘で解答するとするですかね!」

 声を出すことが出来ないため必死にキッと睨みつけるが入戸の視覚には入っていない。
俺はメモ帳に急いでヒントの「3×4」と言う文字を書くが、それを見ずに入戸はただ機械を構っている。
俺の思いは届かないのか?

 「そうですねえ、六年? 九年? それとも五年とかだったりしてえ? あはははは!」

 ダメだ、入戸の精神が壊れてしまっている。
俺たちが何を言っても声は届かないだろう。
そして入戸は画面をタッチして解答を出した。
断言しても言い、それは絶対に正解していない。
それはこの問題が勘で当たるような問題ではないからだ。

 『ではこれをもって回答を締め切らせていただきます。今回入戸様の回答は……、不正解です』

 最悪だ。なんでこうなってしまったんだ……?
これで入戸だけ正答数が8。俺たちは9。
たった一の差だがこれは大きい。
この差は絶対に越えることが出来ない。
そして無くすことも出来ない。

 つまりこの瞬間――――入戸の死亡が確定してしまった。

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【CM】

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【DROP OUT】 3

――――夕凪 春は自分の考えの甘さを痛感する。

 自分はどこかで「このゲームで実際に死人なんてでないんじゃないか?」などと甘い考えを抱いていたようだ。
その証拠に今目の前で遊李が死ぬことが確定してやっと焦り始める。
本当ならば湊の様に俺も積極的に行動して、どうすれば全員が助かるかを考えるべきだっただろう。
だが俺はそれをしなかった。
いや、出来なかった。

 「私様が……死ぬ? 嘘、嘘、嘘! そんな、私が死ぬはずなんて……ないです、ありえないです!」

 眼から涙を流し必死に自分の死を否定する遊李。
その様からは最早最初に出会ったときのような、偉そうな態度は微塵も感じられない。
これから自分の身に何が起こるかもわからず、ただ体を震わせるその姿はただの中学生でしかなかった。
さっきまで立っていた足も力が入らなくなっているのか、膝をカクンと折り冷たい床についている。
涙は顔を伝うだけでは足らず、床にも零れ、小さな水溜りを作ろうとしていた。

 「――――ッ」

 湊は自分が守れなかった後悔からか、歯を思い切り噛みスピーカーを睨みつけていた。
もっともそれが何にも繋がるわけではないのを知っているのにそれでも止めないのは、そうでもしないと怒りのやり場がないからだろう。
そんな湊のことを知ってか知らずかスピーカーからはいつもと同じような声音でアナウンスが流れ始めた。

 『お疲れ様でした。ミニゲームの結果入戸様のみが八問正解で最下位。なので入戸様の自爆装置をこのアナウンス終了一分後に開始させていただきます。ではこれからもゲームのクリアに尽力を尽くして下さいませ』

 と、そんな言葉を残しアナウンスは終了した。
遊李を含む女性陣は皆これから何が起こるかを想像して奥歯をガチガチと鳴らしている。
誰一人自身が助かったことを喜ぶような素振りは見せない。
喜んだりしそうな日乃崎は未だに原因不明の無気力で生きているのかも怪しいほどだった。

 「うああ……。うあああああ……。嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁァァァ!」

 恐怖に襲われただ嘆き叫ぶ遊李の姿は見ていられなかった。
眼は虚ろでどこを見ているのかもはっきりせず呪いを掛けられたんじゃないかと思うほど全身に汗が滴っている。
涙も一向に止まらずに汗と同時に流れることで大量の水分を奪っているのだとわかった。

 湊が何か声を掛けようとしているが、口を開けたり閉じたりするだけで言葉は出てきていなかった。
これから死ぬという人間になんて言葉をかければ言いというのだ。
俺も直ぐに行くからとでも言うか?
そんなはずがない。

 この状況で言える言葉など皆無。
だからこう言っては失礼かもしれないが、今湊がしようとしていることは全て無駄なのだ。
そう言って黙っていることが有効な手段とは言わないが。

 「誰かお願いです。助けて下さい……。私様はまだ死にたくないんです! まだ友達と話していたいんです! お願いです、誰か助けて下さい!」

 必死に泣いて懇願するがそれに誰も手をさし伸ばさない。
いいや違う、伸ばせないのだ。
この状況で下手な希望を与えて遊李には何が残るという。
ただ最後には裏切られたという絶望だけじゃないか。
だから俺は冷酷だと自分で思いながらも、あえて何も口にしない。
それが返って絶望に繋がるのならば俺は厳しくいるしかないのだ。

 「あっ、そうです。これは夢なのです! だから眼を閉じればまたいつもの日常が目の前に戻ってくるですよね?」

 ――――ッ。

 俺は奥歯を思い切り噛み締めた。
そうでもしないと俺も「これは現実だ。夢なんかじゃない」と言ってしまいそうだったから。
俺の感情を察してか優花が俺の右腕を掴み俺を振り向かせた。
首を横に振り、涙をこらえながら何かを伝えようとしていた。
俺には優花が何を伝えたいかがなんとなくだが、わかる。

 ――――これは何か悪い夢なんだよね? 遊李の言うとおりまた日常に帰えれるんだよね?

 そのことがわかると余計につらかった。
今目の前で、二人の女の子が泣いていることがわかったからだ。
それがどれだけ辛いか、どれだけ無力感を味わうかわからない俺ではない。
だからと言って俺に何をしろって言うんだ!
俺もただの高校生でしかないのにッ。

 どうしようもなく俺は歯をギリッと更に力を入れて噛みつけた。
歯と歯の噛み合わせがはずれ歯茎を切る。
痛い、これは夢じゃないんだと改めて痛感した。

 「首輪の起動まで十秒を切りました。周囲のプレイヤーは距離を取って下さい」

 どこからかいつもの機械音とは違う、女性のような声で警告が鳴った。
音源は恐らく遊李の機械からだろう。
遊李の耳にはこの音声は聞こえていない――――いや、届いていないようだ。
自分だけの世界を作ってその耳に現実世界の音は入っていないのだろう。

 「では皆さんは私様の夢に出てきた架空のお友達と言うことなのですか。この夢の話を学校で話せばなかなか盛り上がりそうです。そろそろ眠くなってきたですし、今日はこの辺にしておきましょう」

 現実逃避者。
それが今の遊李に一番合う言葉だろう。
夢に逃げていると言ってもいい。
だけどそれを俺は否定することが出来なかった。

 死から逃げる恐怖が背後から迫ってきて、遊李は精神を殺されたんだ。
中学生の脆い精神が。
そんな少女を救ってやれない自分の無力さを嘆く。
嘆いたところで現実は変わらない。
目の前の少女の精神は戻ってこない。

 そして遊李は言葉を吐いた。
夢から覚めるためのその言葉を。
夢へと逃げるその言葉を。

 ――――遺言となるその言葉を

 「それではみなさん――――ごきげんよう」

 直後、遊李の自爆装置が爆発した。
爆発の衝撃で起こった風で全員が後ろへ仰け反る。
俺は反射的に眼を瞑って体の前で腕をクロスさせた。
床に積もっていた埃が舞い鼻腔を襲う。
口の中にも入り込んだため咳払いで吐き出す。

 眼を開け、腕をのけると目の前には血溜まりが広がっていた。
その中心に位置するのは遊李『だった』体。
首は焼け焦げており、その上に合ったはずの顔面は見当たらない。
恐らく爆発の衝撃でどこか遠くに飛んだのだろう。

そして部屋に漂い始める鉄の香り。
机や俺の制服にも付着している血。
何より目の前に落ちている遊李だったその体。

 これらが眼の前の少女、遊李は絶対に死んでいると断言させる。
俺たちの目の前で人が一人死んだ。
あの偉そうに生命力の溢れていた遊李の死。
それは俺の精神を想像異常に蝕もうとしていた。

 遊李と同じように精神が追い込まれていくのがわかる。
後ろから姿も見えない死神が迫っている画が想像できた。

 「あ、あ、あ、あ……」

 口から恐怖が洩れる。
抑えようにも口が閉じない。
そうか、これが死に対する恐怖と言うものなのか。
これが死を目の目にした人間の心境なんだな。

 「春、これを暁に見せるな! 今すぐに隠せ!」

 声に呼び寄せられ振り向くと、そこには詰襟を脱ぎそれを遊李の体へとかけた湊がいた。
俺は湊の言葉の意味に気づき、恐怖を一時的に退け優花の体の前に体を割り込ませる。
なんとか優花の視界に入る前に隠せたようだ。

 「ねえ春……。遊李は死んじゃったの……?」

 視覚での情報はなかったものの聴覚、嗅覚、知識から遊李の死はわかってしまっているようだ。
その眼からは涙が溢れかけている。
涙が留まっているのはまだ直接的な遊李の死を見ていないからだろう。
優花の質問に俺は正直に隠さず伝える。

 「ああ……。殺されたよッ……」

 俺の言葉を聞き優花の瞳から涙が零れる。
それを見て俺からも無意識に涙が落ちた。
落ちた涙が遊李の血液と同じように床にたまり小さな水溜りを作る。
俺は涙を乱暴に拭って少し強がった。
だけどダメだ、直ぐに次の涙が溢れてしまう。

 「クソッ、なんでだよ……。なんで遊李が死ななけりゃいけなかったんだよ! あいつは確かに偉そうで自己中で俺達を裏切ったりしたけど、だからって他人から理不尽に殺されていい理由になんかならねえだろうよ!」

 何故こんな理不尽が起こらなければいけないのか、俺にはわからなかった。
つい数十分前まで俺達と冗談を言ったりして笑っていた、少女が突然首が爆発させられてしまう理由が俺には思いつかない。
最初は俺といがみ合って険悪な空気になったのに、出会ってからまだ数時間しか経っていないのに、何故俺はこんなに涙を流しているのだろうか。
目の前で、親しくなった人間がここまで簡単に命を奪われた理不尽が納得出来ないからなんて難しい理由じゃない。
ただ単純に、一人の人間の死に耐え切れなかっただけだ。
たったそれだけのことなのに涙が一向に止まらない。

 後ろを見ると湊が制服で遊李の胸を中心にその体を隠していた。
そして眼を閉じ合掌。
ギリリと歯を噛み締め自分の無力感を耐えていた。

 本当なら湊も泣きたいくらいなのだろう。
だがそれを耐えている湊は正直に強い人間だな、と感心。
もしかしたら昔に同じようなことを体験しているのかもしれない。

 初音と華も嗚咽を交えながら涙をひたすらに流し続けている。
特に初音の方は酷く、腰が砕けて足を床に倒しひたすらに泣いていた。
部屋全体の泣き声が酷く不快なハーモニーを奏でている。
それを打楽器のような湊の机の叩く音が壊し、続きとなる言葉を吐く。

 「ここを出るぞ……。せめて死んだ後くらいはそっとして置こう」

 詰襟を脱ぎシャツを気崩している湊が初音の手を引き先導する。
それに続くように俺と優花も教室を出た。
だが虚と華は部屋を出ようとしない。

 「どうしたよ二人? さっさと出ようぜ……。ここにいつまでも居たら――――」

 俺は言葉の続きは言わなかった。
だがそれだけで二人には伝わっていたようだ。
華はいつものメモ帳に文字を書き俺に意思を伝える。

 『私は最後に入戸さんに黙祷をしたい。最後に入戸さんを信じなかったことも謝りたいし……』

 メモ帳の端の方が水滴によって濡れているのがわかった。
華も派手には泣いてはいなかったのだ、それは辛いことだろう。
だから俺は無言で頷きそれに賛同した。
で後は虚だけなんだが……。

 「あはは……」

 こいつ笑っている?
いや、まさか目の前で人が死んでいるのに笑うなんてありえないよな。
聞き間違いに決まってる。

 俯いている虚に改めて声を掛けようと近づく。
そうすると虚はいきなり立ち上がり、感情を露にした。

 「あははははははっ! くはは! ぎゃははは!」

 聞き間違いじゃない。
確かに虚は愉快そうに笑っていた。
部屋に流れていた静かな空気を払うようにただ軽快に笑う。

 「あはは、これだ、コレだよ! 『俺』が求めていたのはこういうのだ! 楽しいじゃないか、最高じゃないか!」

 不謹慎、なんてレベルじゃなかった。
死者に対する冒涜とかではなく単純に頭がおかしいとしか思えない。
俺は拳を握り、殴りかかろうと考えた。
だがここで殴りかかると言う勇気がなかったのだ。
そんな俺の代わりに虚に殴りかかったのは湊だった。

 「何を笑っている。今、目の前で人が死んでるんだぞ? それを『楽しい』? 『最高』? ふざけるなッ! お前は主催者共と同じ、いやそれ以上のクソ野郎だ」
 
 それだけ吐いて湊は教室を出た。
何を言っても無駄だと判断したのだろうか。
この部屋の空気に耐え切れなくなった俺も湊に続いて退室する。
一瞬華を置いていて大丈夫だろうか、と心配したが流石にこれに懲りて虚も問題を起こしたりしないだろうと決め部屋を出た。

 「……あはは、わか―――――な。湊――――んだよ」

 部屋を出るとき俺と一緒に出た、虚が聞こえたがなにかを言っていたがはっきりとは聞き取れなかった。
状況と今の虚の状態的に会話をしたくなかったため、わざわざ聞き直すことはしない。
と言うよりも俺自身怒りをこらえるのに必死だったから話したくなかったのだ。
こればかりは自己嫌悪することもなく、仕方のないことだと俺は思う。

 廊下を歩き、改めてこの『箱』と言う建物が学校を似せて作っているものだと実感した。
外の景色はシャッターに閉ざされて見えない。
そのため廊下や教室も人工的な光で明かりを確保しているだけで、太陽の光は一切差し込まない。
今の時間さえもそのせいでわからなかった。

 俺は湊の背中を追いながらさっきのことを思い出した。
遊李の死までの最後の一分半のことを。

 みんなを裏切った代償に自分が死ぬことになるなり混乱し錯乱する姿。
まさか嘘吐きが死の始まりになるとは思って居なかっただろう。
そして自分に迫る恐怖から逃げ、最後には現実から逃げて死んだ。

 こんな状況に追い込ませておいて、ただの中学生に恐怖から眼を背けるなと言う方が酷だ。
多分遊李が死に追い込まれる様を主催者側の人間は笑いながら見ていたんだろうな。
ケラケラと笑いながら、「滑稽だと」嘲りながら大笑いしていたんだろう。
さっきの虚みたいに面白がって笑って。

 ――――なんだよそれ! そんな理不尽……信じられねえよ。

 俺も最後にはあんな風になるのだろうか。
恐怖と戦うことを諦め現実から逃避しあっさりと死ぬ。
それを考えると体の震えが止まらなかった。
さっき一時的に退けた恐怖が帰ってきたのだろう。
無様にのたうちながら、必死に死に対する言い訳を探して、醜く首が切れて死ぬのを俺は耐えられない。
理不尽に殺されるのを想像すると情けなくてたまらない。

 でも俺には優花を守ると言う誓いもあるのだ。
ここでブルってるわけにはいかない。
俺の最終目標は優花と一緒にここから帰ることだと言うことを再確認した。
だったら俺が想像するのは、死ぬ瞬間じゃなくて俺がゲームをクリアする瞬間だ。
こうやって俺は恐怖を払うことに成功した。
俺にはあのときの遊李みたいに、まだ追い込まれていないからこうやって追い払えたのだろう。

 遊李の死を超えて俺は一つ生に対する貪欲さを見につけたことになった。
それは皮肉でもなんでもなく、ただの事実。
遊李に悲しいけど、失礼だけど、それは事実だった。

 だけどそんなのも所詮、遊李の死は無駄ではなかったと思いたかっただけの言い訳にしか過ぎなかった。

†††††††††††††††††

 ――――日乃崎 虚はドアの影に隠れる

 春には後から追いつくと言っておいたからバレることはないだろう。
場所は一応聞いておいたけど……まあ多分俺は合流しないかな。
さっきのいざこざのせいでって言うのもあるけど、別にもう一つ理由があるんだよね。

 で今俺が何をしているかと言うと……。
正直に言うと覗き見だった。
園影が部屋の中で何をしているかが気になったから単純に見ているんだよね。
成果は……まあ、無くは無いかな。

 「死体をあさるなんて随分な趣味だね」

 俺はドアから出て教室の中に居る園影に話しかける。
園影が部屋の中で何をしていたかと言うと、単純に入戸の死体を探っていたのだ。
黙祷を捧げるなんて嘘、単純に入戸の死体を調べたかっただけなんだろうね。

 何を目的にしているか、と聞かれたら答えづらいけど……多分機械を探してるんじゃないかな。
それが理由としては一番自然だし容易に想像できるから。
そうでもなければわざわざ死体をあさったりなどはしないだろう。

 俺は園影に近づく。
スキップをするように軽快なリズムで。
目の前まで近づくと、園影はいつものメモ帳に文字を書き始めた。

 『見た?』

 そこに書かれていた一文はいたって簡単な言葉でつまり俺はイエスと答えればいいのだろうね。
正直に答えるなら、だけど。
俺ははぐらかす様に手を上げて「さあ?」と言う。
その行動に園影は特に怒った様子も見せずに、続けてメモ帳に文字を書き連ねる。

 『別に変な意味はない。単純に入戸さんのどこかに盗聴器などがないかを調べていただけ。だから他の方に余計なことを言わないようにお願い』

 書いている途中も表情に変化はなかった。
ポーカーフェイスなのか、それとも単純になんとも思っていないのか。
どちらにせよ、こいつも意外と面倒なプレイヤーなのかもしれないね。
だからこそ……丁度良い。

 「とか言ってさ、機械探してたんでしょ?」

 俺の言葉に初めて園影は動揺した。
それを見て俺は心を弾ませ、相手が適度に利用しやすいことも把握。
こんなに都合よく物事が進むと逆に怪しく感じる、などと言う人間も居るみたいだけど、そんなのはただの自分が信じられないことに対する言い訳だ。
本当に都合よく物事が進んでいるときは、そんなことを疑う必要も無いほどに好調に進むんだよ。
弱者の逃げ道、失敗の為の予防線だ。

 『そんなことない』

 字がいつもほど綺麗ではないことが容易に判断できた。
動揺して筆が焦ってるのかな。
愚かしいねえ、本当に。

 「嘘を吐かないことだよ。じゃあなんで入戸の死体をあさった後に床を思い切り叩いていたのかな? それは当然、『自分の思惑が誰かに読まれていたから』でしょ?」

 本当は僕も機械が欲しかったのだけど、まさか僕と同じ考え方の人間があの中にいるとは思ってなかったから先を越されてしまったんだよね。
だから僕は覗き見なんて形で教室の中を見てたんだ。
その上それが園影だとはね……静かそうだと思っていたけど、人は見かけによらないとはよく言ったものだね。

 と言うことは園影の機械は機械関連の【平和】か【偽善】か、間接的に必要になる【信頼】かな。
いや、【悪】という可能性もあるか。
だとしたら上三人の勝ちの芽を摘み取るって目的かな。
それが最終的に勝利に繋がるわけだしね。

 『……。で、貴方の目的は?』

 へえ、話しがわかるじゃないか。
こりゃただの世間知らずのお嬢様とかって言う訳でもないようだね。
どっちかと言えば、不自由な家庭で育っていたりするのかな?
ま、そこはどうでもいいんだけどね。

 最初から僕の要求は唯一つ。

 「単刀直入に言うよ。俺と手を組まない?」

 俺の言葉に園影はピクリと眉を動かす。
そして直ぐにペンを動かし、質問をメモ帳に書いた。

 『何故? 私と組んでもメリットなんてない』

 質問の内容は別に意外性もない普通の質問だった。
組むことに反対なんじゃなくて、何故組むのかに疑問を持っているわけだね。
それは確かに正しい目のつけ方だ。

 園影の言うとおり、俺には園影と組んでもメリットはない。
今まで見た感じだと別に運動能力が高いわけでも突出した知能があるわけでもない。 
正直に言って園影と組むよりも、湊や春と組むメリットの方が大きからね。
だけど園影と組む理由は別にある。

 「簡単さ、逆だよ。君と組むメリットがあるんじゃない、君と組むのが一番俺のデメリットが少ないんだよね」

 そう園影以外のプレイヤーには圧倒的なデメリットがある。
デメリットとは幼馴染同士の関係があるから、僕とはまず協力しない。
運よく協力出来てもその後にバレれば、その幼馴染の相手に絶対に裏切られる。
まずその運よくが達成できる気がしないしね。

 そして園影には俺と組む理由がある。
それは入戸の死体を探っていたことを他のプレイヤーに言わないよう見張るためだ。
俺と組んで湊たちのグループと離れればこれを言われて下手に敵対することもない。
ただ、俺に誑かされて無理やり組んでいると思わせられるだろう。

 ついでに言うと僕にも組みたい理由はある。
僕の機械の『枷』の性質上味方は多い方がいいからだ。
湊たちとは上の理由で組めない他にも、単純に正義ぶるのも飽きたからって言うのもある。
悪になるならとことん悪になり切って、正義のみんなをかき乱そうって言う気持ちなんだよね、今の僕は。
だったら正確には園影とは『組みたい』んじゃなくて『利用したい』が正しいか。

 『なるほど、で私にもメリットがあると……』

 苦虫を噛み潰した表情でこの交渉の有益さを理解したみたいだ。
自分に一切のデメリットがなく、メリットのみがあることに。
それを一度理解した後に、この交渉を蹴るのはなかなか難しい。
それこそこの交渉の最大の穴を見つけない限り。

 「で、どうかな? 俺と組む気にはなった?」

 俺は最高の笑顔で園影を見る。
笑顔の仮面を貼り付けたその表情で園影を見つめる。
それに園影は思考の後に一つの回答を出した。

 『わかった、貴方と組む』 

 俺は滲み出てきそうな笑みを必死に表情の奥に押し込める。
企みがここまで上手く行くとは予想外だったけど、これは嬉しい誤算だ。
こんなに早い段階で、しかも大した交渉材料を払わずに仲間が手に入るとはね。
これで俺のクリアへの道が一歩進んだ。

 ――――僕の悪としての勝利への道が

 『ただし条件を三つつけて欲しい』

 ……まあ元々少しは代償は払おうと思っていたから我慢しよう。
この交渉自体あっちが不利だからここから少し条件がついたところでそこまで重くないものだろうしね。
許可するにしろ、拒否するにしろまずは園影の話を聞くとするか。

 「……とりあえず、聞いてみようか」

 俺の言葉に園影はどこか嬉しそうに、メモ帳に文字を連ねる。
そして自慢げに箇条書きで条件を提示してきた。

 『私が求める条件。それは

 1、この部屋にメモを残させて欲しい。
その代わり、内容は貴方には見せる。

 2、お互いに機械を提示すること。
私が先に機械を見せてもいい。

 3、私の安全を第一に優先すること。
ただし、貴方の自爆装置の解除に私は協力する』

 これはまた絶妙な条件を提示してくるね……。
一つ目は問題ない。
別に手紙を残すだけならば何か状況が変わるわけでもないだろう。
しかも内容を確認できるなら、なおさらだ。
これだったらむしろ湊たちにバレて俺が悪だと言う証明にもなるしね。

 二つ目、これは協力関係になるなら仕方がないことだろう。
正直あんまり見せたくはなかったが、これを条件に悪である僕と協力関係になるんだから大丈夫かな。
それにあっちから見せてくれるって言ってるから、俺だけが見せると言うこともないだろうしね。

 そして三つ目は協力関係なら当たり前だと思うから問題ないかな。
しかも最後の文のお陰で俺が協力するメリットが生まれている。
二つ目の条件はこの為でもあるのか。

 結果的に言えばこの三つの条件は俺にとって影響のあるものは一つもない。
だけどそれはあくまで表面的には、だ。
とは言っても裏にどんな思惑があるのかは判断できないけど。
この条件は単純に自分の身を守るためだけの保険か……?
そうではないとすれば、逆に何が目的だと言うんだろう。

 例えば園影の機械の『枷』が、【孤独】か【調停】であると言うのは?
もしくは、【絆】と言う可能性もあるか。
だから守って欲しいと言う条件を追加させている。
【絆】の『枷』で俺を指定していれば、相互協力にメリットもあるしね。
これらだと機械を見せるデメリットも少ないし、理には適っている。

 あとは、【偽善】と言う可能性もあるかもしれない。
一つ目の『三人以上の死亡』というのは後二人死ぬだけで満たせるんだから守ってもらうだけで達成できるだろう。
もう一つの『機械の三台以上の破壊』と言うのを満たしていけば運よく【平和】の機械の人間も死ぬかもしれないから、一つ目の条件ともかみ合ってるしね。
そして最初に入戸の死体から機械を探っていたのも納得できる。

 どちらにせよ、俺にデメリットは存在しなかった。
ならば俺がそれを下手に拒否する必要はない。

 「いいよ。その条件を呑もう」

 こうして俺と園影の協定は結ばれた。
協定が結ばれると直ぐに園影はメモ帳に文字を書き始める。
さっきの条件にあったメモだろう。
覗こうかと思ったが、後から見ればいいと思い遠慮した。

 ふとモニターを確認する。
09:42:29。
それがこのゲームの残り時間。
その間にもしかしたら俺は死ぬかもしれない。
だから?

 俺の前では死すらも障害ではない。
欲求の解決に尽力を注ぐだけだ。
俺が死んだらなら、それはそれで『死後の世界がどうなっているのだろう』と言う疑問を解決できる。
何事も前向きに、だったかな。

 俺は前向きな悪となろう。
後ろ向きな正義ぶるのはやめよう。
言い訳するのは、嘘を吐くのは、もう飽きた。

 こんこんと机が鳴った。
どうやら園影がペンで机を叩いたらしい。
手にはメモを持っており、これを見ろと言う意思表示なのだろう。
仕方なくメモを読む。

 『しばらく一人にさせてください。死と言うのは私にとって……重過ぎました』

 これは園影の本心なのだろうか。
それともただの虚言?
聞こうとも思ったけど、面倒だった。
別に解決したいとも思わない。

 俺はそれを黙って奪い取り入り口のドアへと歩いた。
そしてドアを出ると足元にメモを投げ捨てる。
それを飛び越えて園影が俺に着いてきた。
強制してもないのに着いて来る時点で園影は既に俺と組むことに意義を見つけたのだろう。

 俺と園影は階段を登る。
湊たちとは別の道を行く。
上へ、上へと階段を上がる。

 ――――さて湊、悪と正義の戦いはこれからだよ

 心底楽しそうな表情を俺は浮かべて俺は前向きに歩いた。

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