両親は、仲が悪いのだと思っていた。 冷たく見えるぐらい素っ気なかったから。 両親の兄弟姉妹などから、幼なじみで大恋愛だったとか、周りの反対を押しきって結婚したんだとか聞かされても、到底信じられなかった。 母が子宮癌で手術を受けた。 手術の終わる時刻を見計らって病院へ行くと、父が母のベッドの傍に座り、好きな歴史小説を読んでいた。 麻酔から覚醒したのか、母が痛い痛いと呻きだした。 父は即座に小説を閉じ、母の右手を両手で包み込んだ。 『ユミ、大丈夫だよユミ…』 まだ意識が戻りきっていないながらも、父の声に母が反応して答えた。 「タカちゃん…痛いよ…タカちゃん…」 父と母が名前で呼び合うのを聞いたのは、それが初めてで、最後だった。 母の通夜の後、棺の中の母の頬を何度も何度も父は撫でていた。 黙って撫でていた。 出典:ほんわか リンク:2ちゃんねる |
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