ハンナとジェームス (ジャンル未設定) 7689回

2012/03/27 14:35┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者


小さな絶対君主制のある王国に、世界一が誕生した。
その主役はハンナばあさん。
御年115歳。
そう、長寿世界一となったのだ。
王様はたいそう喜んで、

「なんとめでたい。お祝いに、ハンナの望みを何でもかなえてあげるが良い。」

と勅命を出した。
この国では王の命令は絶対。
逆らえば首が飛ぶ、
文字通りに。
早速、大臣がお祝いの品を届けに行き、希望を尋ねた。

「王様のご厚意により、何でも望みをかなえてしんぜる。何なりと申してみよ。」

 

「おかげさまで、この歳まで元気に生きられました。
 足腰もしっかりしていて、家事も一人でこなせます。
 資産もあるので、生活にも困りません。
 ただ、私は天涯孤独。身寄りがありません。
 どなたか素敵な殿方と一緒に暮らせたらと思います。」

「あい分かった。どのような者との同居が望みじゃ。何なりと申してみよ。希望をかなえてしんぜる。」

「はい、外見は良いにこしたことはありませんが、あまりこだわりません。
 お金もいりません。強いてあげれば、年上が好みです。」

「ハンナの望みをかなえてやれ。期限は1ヶ月以内じゃ。」

報告した大臣は慌てた。
ハンナより年上の男性など、この国はおろか、世界中にも存在しない。
記録漏れの可能性も否定できないが、見つける困難さは海岸の砂利を数えることに匹敵するだろう。
大臣は良い解決策を思いついた。
この問題を家来に丸投げしたのだ。
これで大臣の首はつながった。
家来はその部下に、部下はまたその下っ端に、次々に丸投げしていった。
とうとう福祉課の若干25歳のトムにお鉢が回ってきた。
トムには丸投げする相手がいなかったのだ。
期限は残り3週間。
トムは暗い知恵に身をゆだねることにした。 
トムは捜しまわった。
そしてとうとう見つけた。
ジェームスだ。
ジェームスは、トムの考えた条件に、ただ一つをのぞいて、ぴったり当てはまっていた。
その反していた条件も、ジェームスの出生証明書を改ざんすることで、クリアされた。
トムは自分が福祉課にいて、書類を改ざんするチャンスがあったことを神に感謝した。
 トムとジェームスがハンナの家を訪れたのは期限のちょうど1週間前だった。

「初めまして、ハンナさん。ジェームスです。外見は若く見えますが、
 間違いなくあなたより年上です。この出生証明書を見てください。」

確かにジェームスのひげは真っ白であったが、どう見てもハンナより若い。
というより若すぎる。
実はジェームスはトムと同じ年に生まれ、すぐに両親と死に別れていた。
かわいく、かわいそうな赤ちゃんを養父母は愛情込めて育てた。
ジェームスは美しい若者に成長した。
顔立ちが整っていたおかげで、事情を知らない若奥さんや女学生達はジェームスをアイドル扱いした。
しかし、性格は最悪だった。
反抗を繰り返し、しょっちゅう家出ばかりしていた。
外泊も日常茶飯事で、家に帰ってくるのはけんかの傷を治すときくらいだった。
仲間を引き連れて夜の徘徊、盗み、器物損壊、小動物の殺害など、人殺し以外は何でもやった。
親戚連中は施設に送ることを提案したが、養父母は25年間ジェームスを育て続けた。

トムはハンナの反応を観察していた。
死刑か執行猶予付き懲役か判決を待つ容疑者の気持ちであった。
もちろん、ハンナの判決が死刑の時には言い訳も用意している。
しかし、それは杞憂に終わった。
ハンナはまるで、100年前の乙女に戻ったような表情をしていた。
目尻は下がり、ほおに赤みが差し、甘えるような声で、ジェームスに話しかけた。

「おおジェームス、あなたと一緒に暮らせたらうれしいわ。家にはお金がたくさんあるから、
 贅沢させてあげるわよ。あなたは何もしなくて良いの。お世話は全部私がしてあげる。
 だからお願い。ここで一緒に暮らしましょう。」

ジェームスは振り返り、トムに向かって目を細めた。
その目は「うまくいったぜ」と物語っているようだった。
そして、ハンナの目をまっすぐ見つめ、116歳にしては不釣り合いな猫なで声で応えた。
その声にハンナはますますジェームスに夢中になった。トムはまさかの逆転無罪に有頂天になった。
後は王様に報告するだけだ。
ハンナの相手はジェームスがうまくやってくれることだろう。

ハンナは幸せだった。
一気に若返ったようだった。
世界一長寿のおばあちゃんは世界一元気なおばあちゃんになった。
発言通り、ジェームスの世話をすべて行った。お風呂も一緒に入りたがった。
ジェームスはさすがに一瞬いやそうな顔をしたが、抵抗はしなかった。
ハンナは115年間で一番幸福な時を味わっていた。
そんなハンナの幸せは1週間しか続かなかった。
同居を始めて1週間目の深夜、ジェームスは異様な気配に目を覚ました。
音もなく立ち上がると、となりで寝ているハンナをのぞき込んだ。
ハンナは息をつめ、胸のあたりを手で押さえていた。

「ああジェームス、胸が、胸が苦しいの。」

ジェームスは慌てて救命措置を、とらなかった。
病院に電話すらしなかった。
だんだん青白く冷たくなっていくハンナを、黙って、冷ややかな目で見下ろしているだけだった。
そして、ハンナの眉根から力が抜け、安らいだ表情になったとき、ハンナの口元に顔を近づけた。
生死の確認とも、お別れのキスとも見えた。
そして、もう息をしていないハンナを前に、しばらく小首をかしげて考え込んだ後、闇夜の中へ消えていった。

国を挙げての葬式が盛大に執り行われた。
葬儀委員の中にはトムもいた。
トムはジェームスの姿がないことに気がついていたが、何も言わなかった。
うすうすその理由は察していた。
葬儀が終わると、王様からトムに直々にお声がかかった。

「トム、このたびの働き、見事であった。ハンナも満足して逝ったことであろう。」

「はい、最期の時にジェームスと一緒に暮らせて、50も若返り、
 はつらつとしていたと近所の者達も申しておりました。」

「ところで、そのジェームスの姿が見えなかったが、心当たりはあるか。」

「確実ではありませんが、老猫は死すとき姿を消すと申します。
 ジェームスも25歳、人間でいえば116歳の高齢です。
 おそらくハンナと同じ時に自らの寿命を察し、人目に付かぬところで天寿を全うしたのでございましょう。」

トムはハンナの遺影に向かい、心の中でわびた。

「ハンナさん、喜んでもらえてうれしいよ。でも、一つだけ嘘ついてたんだ。ごめんよ。
 ・・・実は、ジェームスは、メスなんだ」


出典:2chの
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