のび太「ドラえもんとか、実際無理だろ」 (エロくない体験談) 19881回

2012/05/09 02:13┃登録者:えっちな名無しさん◆NLwLxWRE┃作者:名無しの作者
学生「どうかしました?野比先生」
のび太「ううん、何でもないよ。それより研磨は終わったかい?」
学生「はい。これでもうバリはないはずです」
のび太「本体側のインターロック回路も大丈夫?」
学生「はい、動作確認済みです」
のび太「よし。じゃあモータを駆動してみようか」
青い球体の中にギアボックスを収められるのを、のび太は少し離れて見守っていた。 
中学卒業と同時に、ドラえもんが未来に帰った。
 のび太がもう一人立ち出来る、別れを割りきれる年齢と判断したらしい。
 高校の類型選択で、のび太は何となく理系を選択した。数学や理科が得意なわけ
ではないが、国語や英語も別に得意ではなかった。
 相変わらずの適当さでのらりくらりと高校を卒業し、藤子大学の工学部に入学し
たのび太は、そのまま大学院まで進学し、博士課程を修了する。
 今ではその藤子大学工学部ロボット工学科で助手をしていた。
 その日の午後、のび太が大学生協でラーメンを食べていると、不意に声をかけられた。
???「野比先生!」
のび太「ん?ああ、しずかちゃん」
しずか「うふふ。まさかのび太さんのことを先生って呼ぶことになるとはね」
のび太「慣れないなあ、その呼び方」
 のび太はガシガシと頭を掻く。ボサボサの髪の毛が余計ボサボサになる。
 高校が別れてから疎遠になりがちだったしずかと、藤子大学の図書館で再開したのは
 つい最近のことだった。彼女は大学図書館で働いているらしい。
しずか「それより、のび太さんまたラーメン?」

のび太「うん。でも昨日はカップの塩ラーメンで、今日は生協の醤油ラーメンなんだよ」
しずか「…………」 
しずか「のび太さん、そういうところは変わらないわね」
のび太「そうかな?でもこないだしずかちゃんに言われてから、ヒゲは毎朝剃るようにしたんだよ」
しずか「それだけじゃダメよ。他に……」
のび太「他に?」
しずか「そうね、まずその伸ばしっぱなしのボサボサ髪を綺麗に切って整えて、
    丸眼鏡をオシャレフレームに変えて、背筋を伸ばして、ヨレヨレの白衣を洗濯してアイロンかけて……」
のび太「………いろいろダメみたいだね」
しずか「そんなことより、ここへ来る途中に研究室の前を通ったんだけど……」
のび太「ん?」
しずか「のび太さんの研究室で作ってるアレ……ドラちゃん?」
のび太「……うん。といっても、形だけだよ」
しずか「そうよね……」

のび太「情報工学科との共同開発でね、言語学習型のコミュニケーションロボット。
    そのロボットのデザインを、ドラえもんにしてみたんだ。
    周りからはなんでそんなデザインに』って言われたけど」

しずか「のび太さんらしいわ」
のび太「けど、本物のドラえもんには程遠いよ」
のび太「実際、今の科学じゃドラえもんは無理なんだ」
出来杉「やあ、野比先生にしずかちゃん」
しずか「あら、出木杉さん」
のび太「出木杉くん……その呼び方はやめてよ」
出木杉「いいじゃないか。助手になったのはのび太くんの方が先なんだし」
のび太「君のいる情報工学科とは違って、うちは慢性的な人手不足だから……それだけの理由だよ」
出木杉「謙遜するなって」
のび太「そんなことないよ……現に今の共同開発だって君が皆を引っ張ってるしね。
     出木杉くんの方が、やっぱり僕より優秀だよ」 
出木杉「そうかな。それより、ドラえもんの話をしていたみたいだけど?」
のび太「ああ、あのコミュニケーションロボットの方のね」
しずか「言葉を学習するって聞いたわ」
出木杉「まあ、多少はね。でも22世紀からきた、あのドラえもんほどのAIはとても無理だ」
しずか「そう……」
のび太「……本当に、ドラえもんの言っていたような未来が来るのかな?」
しずか「どういうこと?」
のび太「ドラえもんが言っていた年までに、今の科学があそこまで進歩するなんて思えないよ」
出木杉「僕もそう思うな。今の科学では到底無理だ」
しずか「でも、ドラちゃんはそう言ったのよ?」
のび太「それが気になるんだ……どうしたってドラえもんの言っていた年には間に合わない」
のび太「なぜドラえもんは嘘をついたんだ?」 
 その日の夜、居酒屋に懐かしい5人がそろった。
 のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫、出木杉。
 のび太としずかと出来杉の3人が顔を合わせたので、
 どうせならみんなで飲もうという話になったのだ。
ジャイアン「しかしのび太が大学の先生だなんてよー、何回聞いても笑えるよな」
スネ夫「出木杉はしっくりくるのになwww」
のび太「どうせ馬鹿ですよーだ……」
ジャイアン「で、なんなんだよ?話って」
出木杉「いや、実はね……」 
スネ夫「なるほど、ドラえもんか……」
 呟いたスネ夫がスーツのポケットから煙草を取り出そうとし、しずかの方を見てやめた。
 ジャイアンは逞しい腕を組み合わせ、考えこんでいる。 
 スネ夫は大学卒業後親の会社に入り、ジャイアンは高校を中退して剛田商店を継
 いだと聞いている。
スネ夫「僕はのび太や出木杉みたいに専門じゃないけどさ、今の科学でドラえも
    んが作れないことはわかるよ」
ジャイアン「待てよ、俺テレビで見たぜ。二足歩行したり、会話するロボット」
出木杉「ああいうのとはレベルが違うよ」
ジャイアン「でもよぉ……そもそもドラえもんが出来たのっていつだ?」
スネ夫「確か、2112年」 
ジャイアン「何だよ!まだ100年以上あるんじゃねぇか!それなら……」
出木杉「無理だよ。今の開発段階からドラえもんまでの間にある壁は、あまりにも高く厚い。
    感情を持って、思考して、なめらかな動作も必要。今のロボットはね、走るのさえ難しいんだよ?」
しずか「それにドラちゃんより先に秘密道具が必要よ」
のび太「うん、秘密道具はドラえもん誕生以前に出来てたはずだよ。
    それに、ドラえもんの話が本当ならタイムマシンはもう出来てるはずなんだ」
ジャイアン「え?」
のび太「ドラえもんは言ったんだ……タイムマシンが発明されたのは2008年だって」
 ジャイアンは黙ったまま、店内を見回した。
 そして、カレンダーを見ると目を見開く。
ジャイアン「2008年って、去年じゃねぇか!!」
スネ夫「反応遅っ!」
出木杉「……その話は僕も初耳だったな」
のび太「つまり、ドラえもんの話にはすでに矛盾が生じてるわけだ」 
しずか「でも……」
 カルーアミルクのグラスを置いて、しずかが口を開いた。
 みんなの酒のペースは格段に遅くなっていた。
しずか「でも、まだドラちゃんが嘘をついたとは限らないわ」

スネ夫「ま、断定は出来ないね」
ジャイアン「おい、何でだよ。俺にわかるように言えよ」 
出木杉「つまり、ドラえもんがいた未来と僕らの 未来は違う……未来が変わった可能性もある」
スネ夫「本来は今年中にタイムマシンが出来てるはずなのに、その未来がねじ曲げられた」
出木杉「そう。その可能性は高いだろうね」
のび太「問題はどこまで未来が変わったのかだね。タイムマシンが遅れただけならいいけど、最悪……」
しずか「ドラちゃんが、作られない?」
スネ夫「かもね……」
ジャイアン「おい、何でだよ。俺にわかるように言えよ」 
スネ夫「こういうのは考えられないかな?」
出木杉「なんだい?」
スネ夫「確かに、今の科学じゃドラえもんの道具やドラえもん自体の開発は考えられない。
    でも、今の科学を急激に発達させる何かがあったとしたら?」
のび太「何かって?」
出木杉「戦争があると技術が発達するっていうよね」
しずか「そんなまさか……」
スネ夫「待って待って!そんな物騒な話じゃないんだ。例えば、宇宙人が地球に来たとする。
    彼らは未知の文明を持っていて、彼らの技術を参考に地球の科学が爆発的に飛躍するんだ」
しずか「宇宙人が……?」
のび太「確かに、なくもない」
出木杉「おいおいのび太くん、科学者らしからぬ発言だね」
のび太「いや……僕らはドラえもんの道具で何度か宇宙に行き、その星の文明に接しているんだ。
    宇宙人を否定できない」 
スネ夫「まあ、宇宙人でなくて もいいんだ。未来人が秘密道具を落としていったとか……
     とにかく、爆発的な科学の進歩によって2112年までにあのレベルに達する。そういう可能性もあるんじゃない?」
のび太「ありうるね。それならタイムマシンが遅れただけのことになる」
しずか「確かに……」
出木杉「考えられなくはないな。未来人か……」
ジャイアン「さっぱりわからん」 
しずか「もし……未来が変わったんだとしたら問題ね」
のび太「でも未来が変わるのを、タイム・パトロールが見逃すかな?」
スネ夫「大きい変化なら見逃さないだろうけど、小さい変化なら自然修復できる
    って考えじゃない?」
のび太「でもさ、2008年にタイムマシンが出来なくなったのなら、ドラえもんがその情報を
    持っているはずがない。すると僕がそれをドラえもんから聞くこともないはずなのに、
    僕は聞いて、今も覚えている。これって矛盾しないかな?」
出木杉「タイム・パラドクスか……」
ジャイアン「まず俺のパラドクスを何とかしてくれ」 
のび太「結局、僕らは何もわかってないってことなんだろうね」
しずか「あんなにドラちゃんと一緒にいたのにね……」
スネ夫「どう足掻いても無駄さ、僕らは現代人なんだもの」
のび太「現代人……か」
出木杉「結局、僕らは僕らの科学を進めるしかないんだろうね」
しずか「のび太さんと出木来杉さんのロボットみたいに?」
スネ夫「へぇ。なんなのさ、そのロボットってのは?」
出木杉「僕のいる情報工学科とのび太くんのいるロボット工学科の共同開発で、
    コミュニケーションロボットを作ってるんだ」
スネ夫「へぇ……のび太のくせに生意気だなww」
のび太「懐かしいな、そのセリフ」
ジャイアン「ようやく俺にもわかる話題になってきたぜ!」 
 結局その日は、ジャイアンがピッチャーを一人で飲み干したところでお開きとなった。
 もともと酒の弱いのび太は途中からソフトドリンクに切り換えていたし、しずか
と出木杉とスネ夫はホロ酔い程度、ジャイアンに至ってはあれだけ飲んでまったく変わりがない。
スネ夫「もう一軒……はさすがに無さそうだなww」
しずか「みんな明日も仕事だもんね」
ジャイアン「よぉ、みんなはどうやって帰るんだ?」
出木杉「僕とのび太くんとしずかちゃんは方向が同じだから、3人で一緒に電車で帰るよ」
のび太「いや、僕は大学にいったん戻るから……」 
出木杉「今から?じゃあ、しずかちゃん。2人で帰ろうか」
しずか「ええ……」
スネ夫「僕はタクシーを拾うよ。のび太も乗ってく?」
のび太「いいよ、スネ夫ん家と方向逆だし」
ジャイアン「俺は歩いて帰るぞ」
しずか「武さん、大丈夫?」
ジャイアン「なーに、しずかちゃん。この俺様に怖いものなどない!さ、行くぞのび太!」
のび太「えぇ?なんで」
ジャイアン「いいから一緒に帰ろうぜ!心の友よ!」 
ジャイアン「なぁ、のび太」
 帰り道でふと、ジャイアンが口を開いた。
のび太「ん?」
ジャイアン「よかったのか? しずかちゃんを出木杉と二人で帰してよぉ」
のび太「……どうして? 僕は別にしずかちゃんの恋人じゃあないよ」
ジャイアン「でも、未来の結婚相手だ」
のび太「それも、どうかな」
ジャイアン「??」
のび太「未来は変わった……そう考えるなら、ドラえもんが見せてくれた僕としずかちゃんとの
    未来だって怪しいよ。だったら僕にしずかちゃんを繋ぎ止める権利なんかない」 
ジャイアン「建前はわかった。本音はどうなんだ? おまえはしずかちゃんのことが
      好きじゃあないのか?」
のび太「僕は……」
ジャイアン「難しいこと考えすぎんな。頭こるぞ」
 そういってジャイアンはのび太の頭をはたいた。
 その痛さを妙に優しく感じたのび太だった。 
スネ夫はマンションの前でタクシーを降りた。
 オートロックの入り口をくぐり、エレベーターを待つ。
スネ夫(のび太はしっかりしたようで、やっぱり相変わらずだな。しずかちゃんを
    出木杉に持っていかれちゃってさ)
 エレベーターに乗り込み、上昇を感じながらスネ夫は昔を思い出した。
 いつからだろうか、スネ夫はのび太としずかの結婚を望むようになっていた。それ
はタイムテレビで見た幸せな光景のせいだろうか?
 あの未来だけは変わってほしくない。そう思っている自分にスネ夫は驚く。昔は自
分だって、しずかのことが好きだったはずなのに。
スネ夫(ドラえもんのせい、かな)
 自分の部屋の前に着くと、ポケットに手を突っ込んで鍵を探す。
 と、そのときスネ夫は違和感を感じ、顔を上げた。
 窓から明かりが漏れていた。出掛けに明かりは全部消したはずなのに。
スネ夫(誰か……いる) 
 極力音を立てないよう慎重に鍵を開けると、スネ夫は静かにドアを開け警戒しながら
 玄関に身を滑り込ませた。傘立てからお気に入りのバーバリーの高級傘を引き抜くと、
 両手で構えながら部屋の中へ入っていく。
 そのときだった。
 突如開いたウォークインクローゼットから人影が飛び出し、飛びついてきた。
 傘をそちらに構えなおす暇もなく、スネ夫は自由を奪われる。
???「スネちゃま、お帰りなさいざーます!!」
スネ夫「……ママ、何でいるの?」
 抱きついてきた母親を引き剥がし、スネ夫は傘を床に置く。
スネ母「スネちゃまが心配でつい来ちゃったざます」
スネ夫「ママ、僕ももういい年なんだからさ。ママが心配してくるようなこともな    いんだよ」
スネ母「いーえ、スネちゃまはまだまだ子供ざます」
スネ夫「もう子供じゃな……」
 言いかけたスネ夫は母が手に何か握っていることに気づいた。
 それが何であるかスネ夫が認識するより早く、その「何か」はスネ夫の腹部に突き立
 てられていた。
スネ母「スネちゃまは子供ざます。そして子供のまま……死ぬざます」
 スネ夫は母の手に握られた包丁が自分の腹に突き刺さっているのを見て、呆然としていた。
 いったい、なぜ……
 包丁が引き抜かれる。激痛とともに血液が噴出し、スネ夫はその場に崩れ落ちた。 
スネ夫「マ……マ、どうし……がぁあ!!」
 言いかけたその背中に再び包丁が突き立てられる。
 視界が歪む中、必死でスネ夫は顔を上げる。目の前に母の顔があった。
 笑っている。鼻が少し赤かった。
スネ母「死ぬざます死ぬざます死ぬざます!!!!」
スネ夫「く……そ……」
 バーバリーの傘を探すが、手が届かない。
 スネ夫は最後の力を振り絞り、拳を突き出した。抵抗にも攻撃にもならない、その力
ない一撃がゆっくりと母の顔面を打つ。
 すると突如、母の動きが停止した。そして、空気の漏れるような音とともに母の体が萎み、
 人形へと変わっていく。
スネ夫(コピー……ロボット? そうか、鼻のボタンに拳が当たったから……)
 そこまで考えたところで意識が遠のき、スネ夫の視界は黒で塗りつぶされていった。
 そのころ、のび太は辟易していた。 
 ジャイアンがしつこく、「俺の家で飲みなおそうぜ」と誘ってくるのだ。
 明日も仕事だから、と断ろうとするとすぐに昔のガキ大将の顔を覗かせるのだから
 困ったものだ。
ジャイアン「いいじゃねぇか。ほら、最近いい芋焼酎仕入れたんだぜ。一緒に飲もう
      じゃねぇか」
のび太「いや、今日は遠慮しとくよ」
ジャイアン「それにさ、留学していたジャイ子が今ちょうど帰ってきてるんだよ。あいつも
      おまえに会いたがってたぜ。それにな、ここだけの話あいつ昔はおまえのこと……」
のび太「いや、遠慮しとく」
ジャイアン「それにあいつ、海外のファッションに影響されたのか最近すごくお洒落に
      なったんだぜ? 今日なんかすげぇミニスカートを……」
のび太「断固、遠慮しとく」
ジャイアン「しょうがねぇな、とっておきの情報教えてやるよ。
      俺知ってんだ。ジャイ子のやつ今日は安全日……」
のび太「遠 慮 し と く」 
 無理やりジャイアンに引っ張られ、ついに剛田商店まであと十数メーターというとこ
 ろまで来てしまった。 
 ここまで来たらもう覚悟を決めるしかないだろう。のび太は腹をくくった。
のび太(さよなら……僕の童貞……)
 そのときだった。
???「キャアアアアアアアアアアアアアアッ!」
のび太「!? ジャイアン、今の悲鳴……」
ジャイアン「ジャイ子の声だ」
 ジャイアンの顔が蒼白になった。
 ドアをぶち破る勢いで二人が剛田商店に飛び込むと、縛られ猿轡をされたジャイアンの
 母と、わき腹を押さえてうずくまるジャイ子の姿があった。わき腹を押える手の隙間から
 血が流れでいる。 
ジャイアン「ジャイ子ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
のび太「落ち着くんだジャイアン!!とにかく止血を……ぐあっ!!」
 横っ腹に衝撃を感じると同時に、のび太の体は蹴り飛ばされタンスに叩きつけられた。
 ジャイアンが振り返ると、のび太を蹴り飛ばしたと思われる二人組が立っていた。二人
 とも黒服にサングラス。その手には血のついたナイフが握られていた。
黒服1「大人しくするんだな。騒がしいのはごめんだ」
黒服2「しかし野比のび太まで一緒とはありがたいな……手間が省けた」 
ジャイアン「……おまえらか?」
黒服1「あ? 何がだ?」
ジャイアン「ジャイ子と母ちゃんにこんなことしたのはおまえらかって聞いてんだ!」
 返事を待たずにジャイアンが突撃する。ジャイアンのラリアットが黒服の二人を吹き飛ばした。
黒服1「がはぁ!!」
黒服2「ぐほぁぁ!!」
ジャイアン「貴っ様ら、よぉくも〜〜〜!!!!!!!」
 咆哮しながら、ジャイアンは馬乗りになり二人を殴り続ける。
黒服1「が!!ちょ……やめ……ぐほぉ!!」 
黒服2「く……そ!!いい加減にしやがれ!!」
 黒服の蹴りがジャイアンの腹にヒットし、後退したジャイアンと黒服二人の間に間合い
 ができる。
ジャイアン「よくも、よくも母ちゃんを!ジャイ子を!のび太を!!」
黒服1「はぁ……はぁ……こいつ、何だよ。化け物かよ」
黒服2「このままじゃ分が悪いな。あれ、使うか」
黒服1「しかし、未来の痕跡を残すわけには……」
黒服2「言ってる場合か? 保身が優先だ」
 そう言うと黒服のうち一人がポケットに手を入れ、銀色の筒状のものを取り出す。
 男はそれを指にはめ、拳銃よろしくジャイアンのほうへ構えた。 
 銀色の筒を指にはめ構える――何も知らない現代人が見たら意味不明な行動。
 普通なら油断してやられていただろう。
 しかしジャイアンは知っていた。
ジャイアン(あれは……空気ピストル?)
 未来のひみつ道具、空気ピストル。
 「バン」という声に反応して空気の塊を射出する。射程距離は10メートル前後。
 ジャイアンは瞬間的に身をよじるとテーブルの上の大理石の灰皿を手に取る。
黒服2「くらえ!!バ……」
 「バン」と言い終えるより早く、ジャイアンがアンダースローで放った大理石の灰皿が
 空気ピストルを黒服の指から弾き飛ばしていた。指ごと粉砕していたかもしれない。
 元・ジャイアンズピッチャーの豪速球は健在だった。 
黒服2「がぁぁぁっ!!!指が!!指がやられた!!」
黒服1「くそ、大丈夫か!仕方ない、逃げるぞ!!」
 黒服二人が廊下へと逃げていく。
ジャイアン「逃がすかよ!!」
 再び投げた灰皿が今度は別の黒服の背中にヒットする。
 黒服が何かを落とした。
黒服1「がぁ!!……あ、待て!!ビッグライトを落とした!!」
黒服2「拾ってる暇はねぇ!どうせバッテリー切れだ、放っておけ」
 そのまま黒服は廊下を曲がっていく。
 ジャイアンがあとを追いかけ廊下を曲がると、男たちの姿はなかった。
 代わりに、ピンク色のドアが消えていくの見えた。 
のび太「う……ジャイアン」
ジャイアン「のび太!!おまえ大丈夫か!!」
のび太「ああ、僕は蹴られただけだから……あいつらは?」
ジャイアン「逃げたよ……どこでもドアでな」
のび太「なんだって!? ……いや、それより今はジャイ子ちゃんの手当てが先だ」
ジャイアン「ジャイ子!!ジャイ子は助かるのか!!」
のび太「わき腹だからたぶん致命傷ではないと思う。僕は専門じゃないけど……
    止血して急いで病院に連れて行けば……」 
 一方その頃出木杉はというと、しずかとの間に微妙な空気を感じつつあった。
 小学校の頃からしずかとはよく遊んだし、彼女からの好意も少なからず感じる。
 間違いなくいける、そう思うのに何故のび太に遠慮してしまうのだろう。
 別にのび太としずかは付き合ってるわけではないはずだ。なのに、どうして?
出木杉(これが正しい未来ではないからか? やはりしずかちゃんはのび太くんと結ばれる
    はずだからか……? いや、そんなの僕らしくない。それじゃまるで運命を認める
    ようなものじゃないか……)
 自分自身が何を願っているのかわからない。
 しずかの気持ちがわからない。
 何となく、逃げ出したいような気持ちに駆られた。 
しずか「あら?」
出木杉「どうしたんだい、しずかちゃん」
しずか「あれ……スネ夫さんじゃない?」
出木杉「え? スネ夫くんはタクシーで帰ったはずじゃ……」
しずか「でも、ほら……」
 しずかの言うとおり、少し先の路地に黒のトヨタ車が停められいてその横にコートを着たスネ夫が立っていた。
出木杉「スネ夫くん!どうしたんだい? 帰ったんじゃあ……」
スネ夫「いや、ちょっと用事を思い出してね。家からすぐに引き返してここで君たちを待    ってたんだ」
しずか「スネ夫さん、でも飲酒運転じゃないの?」
スネ夫「細かいことは気にするなよ。ほら、全然酒臭くないだろ? もうアルコールは抜けたよ」 
出木杉「で、用事って何なの?」
スネ夫「それはね……」
 そのとき、出木杉の上着の中で携帯が震えた。
出木杉「あ、ちょっとごめん。電話が……」
 電話を取ろうとして出木杉はいぶかしむ。スネ夫の携帯からの着信表示が出ていたか
らだ。不思議に思いつつも電話に出る。
出木杉「もしもし……」
スネ夫『……出木杉くん? すぐに、しずかちゃんを連れて逃げ……るんだ』
 驚いて出木杉は目の前のスネ夫を見る。彼は電話を持ってないし、何も喋っていない。
 しかし、電話の向こうの声もスネ夫に違いなかった。
スネ夫『逃げて……僕は刺された。さっきまで意識がなかったんだ……相手は……』
 そこでスネ夫の声が途切れる。また意識を失ったのかもしれない。
 そのとき、目の前のスネ夫がコートの内ポケットから包丁を取り出し突進してきた。
 しずかの短い悲鳴。
 出木杉は包丁を鞄で受け止めると、しずかの手を引き逃げる。車を挟んでスネ夫と対峙した。 
出木杉「君は……君はいったい誰だ?」
スネ夫「何を言ってるんだい? 僕はスネ夫じゃないか」
出木杉「嘘だ!今電話してきたのが本物のスネ夫くんだろう。君は偽者だ!」
しずか「鼻……」
出木杉「???」
しずか「鼻が赤いわ!!出木杉さん、あれはコピーロボットだわ!未来の道具なの……鼻
    のボタンを押せば止まるはずよ!」
出木杉「鼻のボタンを……」
 言いながら出木杉は偽スネ夫が乗ってきた車を見ていた。
 キーがついている。そして、偽スネ夫がいる助手席側のドアはロックされている。
出木杉「しずかちゃん……運転できるよね?」
 小声でしずかに言う。 
しずか「ええ、出来るけど……」
出木杉「僕が奴を止める。その隙に君はこの車に乗って逃げるんだ。のび太くんか剛田
    くんに連絡を取ってスネ夫くんを助けに行ってくれ」
しずか「そんな!出木杉さんが危ないわ!!」
出木杉「大丈夫、僕は柔道をやってたから……それに、本物のスネ夫くんが怪我をしてる。早く助けに行かないと」
しずか「……わかったわ」
出木杉「よし、合図でいくよ。1……2の……3!!」
 しずかは運転席のドアをあけ素早く車に乗り込むと、キーを回した。
 二人の意図に気づいた偽スネ夫が、ボンネットを飛び越えるようにして襲い掛かってきた。
 その偽スネ夫に鞄を投げつけると、出木杉は包丁を持った手に組み付く。
偽スネ夫「くそ、離せ!!」
出木杉「離……すもんか!しずかちゃん……急いで!!」
 しずかは頷くと、アクセルを踏み込む。少しばかり無茶なスピードで、車が発進した。 
 しずかが無事逃げたのを確認すると、出木来杉は偽スネ夫の鼻に肘鉄を叩き込もうとした。
 が、偽スネ夫は一瞬早く身を引き、出来杉と距離をとる。
 偽スネ夫と出来杉は少し間合いを取って向き合う。
 突如、偽スネ夫は出木杉に背を向けて走り出した。
 そのまま駅の駐輪場へと逃げ込んでいく。
出木杉「!? 待て!!」
 すぐさま後を追って出木杉も駐輪場へ入った。駐輪場は暗く、雑然と自転車が置かれて
 いるため見通しが悪い。
 周囲を見渡していいると、右後ろから物音がした。偽スネ夫が包丁を持って向かってくる。
 出木杉はすばやく偽スネ夫を掴むと、軸足を素早く踏み出しもう片足で偽スネ夫の足を刈り上げた。 
 大外刈り、一本。頭から落ちる危険な技だが、ロボット相手に容赦も何もなかった。 
 鼻のボタンを押そうと手を伸ばし、出木杉は手を止めた。
偽スネ夫「これでも押せるかい?」
 偽スネ夫は、どこかのバイクから拝借したのかフルフェイスのヘルメットを被っていた。
 これでは、鼻のボタンは押せない。
 一瞬の隙を突いて、偽スネ夫が包丁を振るう。 
 慌てて出木杉は身を引いた。先ほどまで出木杉の顔があった位置を包丁が通過する。
出来杉(くそっ!ボタンが押せない!!)
 出木杉はとっさに周囲の自転車を引き倒した。
 無数の自転車が偽スネ夫の上に倒れてくる。
 自転車に動きを封じられた偽スネ夫から離れると、出木杉は駅へ向かって脱兎のごとく逃げ出した。 
 しずかは、のび太、ジャイアンと合流し病院にいた。ジャイ子とスネ夫が搬送された病院だ。
 ジャイ子はのび太の見たとおりわき腹を包丁が掠めただけのようで、軽症であった。スネ夫の
 ほうは二箇所を刺されており重症だったが、一命はとりとめ先ほど意識も回復したらしい。
 警察の事情聴取には「強盗に襲われた」と口裏を合わせることにした。未来の道具などと
 いっても信じてはもらえないだろうし、むしろ自分たちが疑われかねない、という懸念のため
 だった。しずかたちが襲われた件については、出木杉から電話があり彼の無事が確認され
 たので警察に話さないことにした。
 1時間ほど遅れて出木杉が病院にやってきた。
出木杉「みんな、大丈夫?」
しずか「出木杉さん!!」
のび太「君のほうこそ大丈夫?」
出木杉「ああ。でもコピーロボットは倒せなかった。奴がついてこないように遠回りをして    
きたら遅くなっちゃって……スネ夫くんは?」
のび太「命に別状はないって。さっき意識を取り戻して、今病室で警察の人と話してる」
出木杉「剛田くんは?」
しずか「武さんはジャイ子ちゃんの病室よ」
出木杉「そうか……」 
のび太「出木杉くん。悪いんだけど……」
 そう言うと、のび太は出木杉の顔を……特に鼻の辺りを手で撫で回す。
のび太「うん、赤鼻を塗装したわけじゃなさそうだね。本物だ」
出木杉「もちろん、本物さ」
のび太「ごめん。でもこういう事態だから……」
出木杉「わかってるよ。今のところ、鼻で区別するしかないからね……」 
 しばらくして、警察がスネ夫の部屋から出てきた。入ってもいいとのことなので、しずかがジャイアン
 を呼びにいき、5人が病室にそろった。
出木杉「とにかく、偶然じゃない。一晩でここにいる5人全員が襲われたんだ。しかも、ひみつ道具が使われてる……」
ジャイアン「あいつらは、未来人なのか?」
のび太「だろうね……どこでもドアを使ってるし」
スネ夫「……僕らを殺す気なのかな」
出木杉「たぶん。しかも未来ってことは……」
しずか「ドラちゃん?」
出木杉「うん。メンバーから考えてもドラえもん絡みである可能性が高い」 
しずか「わたしは……ひょっとしてのび太さんがドラちゃんを作るからかなって」
のび太「それじゃまるでターミネーターだ。それに僕にドラえもんは作れない」
出木杉「でも、僕らを殺さなきゃいけない理由って何だ?」
ジャイアン「俺たちは昔の冒険で未来の悪人に恨まれてることあるかもしんねぇけど、出木杉はそうでもないだろ?」
出木杉「いや、わからないよ。そんな区別してないのかもしれない」 
ジャイアン「そうだ!これ……」
 ジャイアンはポケットから銀色の筒と懐中電灯のようなものを取り出した。
のび太「!!……それは、空気ピストルに……ビックライト!?」
ジャイアン「ああ、おまえが部屋で倒れてるときにあいつらが落としていったんだ」
 のび太はジャイアンの手から空気ピストルを受け取ると、指にはめてみる。昔冒険の主力
武器だった空気ピストル。懐かしく感じた。
 空気ピストルをスネ夫から受け取った枕に向けて構える。
のび太「バン!」
 何も起こらない。
ジャイアン「俺、思いっきりその空気ピストルに灰皿ぶつけちまったからな。それに、そっちのビックライトはバッテリー切れらしい」
のび太「いや、完全に切れてるわけじゃないよ。たぶんあと一回……少しくらいなら使えると思うよ」
ジャイアン「どっちみち、スモールライトもないんじゃ武器になんないな」
しずか「……武器?」
ジャイアン「え、ああ。またあいつらが来たらギッタンギッタンにしてやらなきゃいけないからな!!」
しずか「また来るのかしら」
のび太「来るだろうね」
ジャイアン「あいつら、未来の痕跡は残せないとか言ってたぜ」
スネ夫「だから包丁だったんだ。ひみつ道具は下手に使えないんだよ、きっと」
出木杉「ならまだ勝ち目はある……といっても、いざとなったら向こうもひみつ道具を使ってくるだろうけどね」
スネ夫「パパが昔使ってた猟銃がある……僕の部屋だ。それを使ってくれ」
しずか「駄目よ、そんなの!相手が死んじゃうわ!」
スネ夫「僕は刺されたんだよ……これは昔の冒険とは違う。殺し合いなんだ……現代の道具で立ち向かおうとしたら、そういうことになる」 
のび太「今回は、ドラえもんもドラミちゃんも無しなんだ」
 のび太は皆の顔を見回す。
 戸惑うしずか。
 怒りに燃えるジャイアン。
 苦痛に顔をゆがめるスネ夫。
 思案を練る出木杉。
のび太(この5人で戦うんだ……未来と) 
 ジャイアンは、翌日から剛田商店を休みにした。
 ジャイ子もスネ夫も同じ病院なので、護衛がてら泊り込むことになった。釣竿のケースに入れて、スネ夫の父の猟銃も病院に持ち込んだ。
のび太と出来杉としずかは平常どおり出勤することにした。
3人とも同じ藤子大学の職員であるので、むしろ職場にいたほうが安全と判断したためだ。
学生「野比先生」
のび太「ん?」
学生「研究室に情報工学科から電話がかかってきてます。メールに返信がないからって」
のび太「ああ、ごめんね。今日パソコン見てなくて……出木杉先生?」
学生「はい」
のび太「わかった。すぐ行くよ」 
のび太「もしもし、出木杉くん? 僕だけど」
出木杉『ああ、よかった。何かあったのかと思ったよ……どこにいたの?』
のび太「DR-1の共同研究室だよ。機械をいじってないと落ち着かなくて」
出木杉『DR-1……ドラえもんのとこだね』
のび太「うん。初期の対話システムだけ組み込んでみた。電源を入れると挨拶するやつ」
出木杉『そう。順調?』
のび太「うん、ちゃんと時間ごとに違う挨拶を聞かせてくれたよ。時間があまったからね…
     …ついでに面白いものも作ったよ」
出木杉『面白いもの?』
のび太「今度見せるよ」 
のび太「で、空気ピストルはどうだった?」
出木杉『そうそう。それをメールしたんだ。あれはすごいナノマシンだよ』
のび太「だろうね。あのサイズで空気圧縮や音声認識をやるんだから……」
出木杉『こっちでの詳しい解析結果はメールに添付しておいたから。あとは、そっちの専門分野だろ?』
のび太「厳密には違うけど、とりあえず了解」
出木杉『それと、しずかちゃんがお昼一緒に食べようって』
のび太「ああ……わかった。生協?」
出木杉『うん、12時50分に』 
 時間より5分遅刻して、のび太は生協で二人と合流した。
 しずかはドリア、出木杉はスパゲッティを食べている。のび太は豚骨ラーメンの器を
 テーブルにおいて、腰掛けた。
しずか「のび太さん、またラーメン?」
のび太「ん? うん。昨日は醤油だったから今日は豚骨」
出木杉「不健康だなぁ」
 しばらく取り留めのないことを話しながら食事を楽しむ。
 全員が食べ終わったのを見計らって、出木杉が本題に入った。
出木杉「昨日コピーロボットが出たのはスネ夫くん家と、駅の駐輪場付近だよね。で、実は
     安孫子大学の都市環境工学科があの辺に実験用の電磁波の測定装置を設置していたんで、
     ちょっとそのデータを見せてもらったんだ」    
 そう言うと、出木杉は鞄の中からA4の用紙を何枚か取り出した。 
出木杉「これが、コピーロボットが出た時間帯の両地域の測定データなんだけど、コピーロ
    ボットが出た時間にどちらの装置も微弱なマイクロ波を測定している。もっと厳密
    に言えば極超短波帯なんだけど……つまり準マイクロ波だ。おまけにこの周波数は
    現代では観測例がない」
のび太「つまり、コピーロボットがその発信元だと?」
出木杉「可能性は高い。同じものが観測されたらすぐに観測地域を連絡してもらえるよう安
    孫子大には頼んであるから、うまくすればコピーロボットの位置を把握できるかも
    しれない」
のび太「すごいな」 
出木杉「驚くのはまだ早いよ。これは、黒服の男たちが剛田くんの家でどこでもドアを使っ
    た時間帯の測定データ。剛田くんの家からはだいぶ離れた場所に設置されていたに
    も関わらず、強い電磁波を測定している。どこでもドアの影響だろうね。その
    直後、東久留米市の一部地域で多大な電波障害が発生している。おそらく、その近
    辺がどこでもドアの出口になったんだと思う」
しずか「じゃあ、武さんたちを襲った人たちは東久留米にいるの?」
出木杉「だろうね。どこでもいいなら隣の市なんて中途半端な場所には逃げないと思う。た
    ぶん奴らの拠点がそこにある」
のび太「時空を曲げるどこでもドアだからね……強い影響が観測されてもおかしくない」
出木杉「これである程度向こうの動きが把握できる」
のび太「実は僕もちょっと対策を考えてきたんだ」
 のび太は紙袋から無骨な機械をいくつか取り出す。
のび太「まずは、受信機。特定の周波数を感知できるんだ。急いで作ったから精度はあまり
    良くないけど、相手がコピーロボットかどうかはくらいは確かめられる」
出木杉「やっぱりのび太くんも電磁波の可能性は気づいてたか」
のび太「いや、出木杉くんほど正確には掴んでなかったよ。それと、こっちはスタンガン。
    研究室にあったコンデンサを改造して作ったんだ。これも急ごしらえだから使い捨
    てだけど、かなりの威力があるよ。コピーロボットに効くかどうかはわわからないけど、ロボットである以上は強い電流には弱いと思う」
出木杉「なるほど……鼻のボタンを押すよりはやりやすそうだ」
のび太「それと、ちょっと面白い機能もついててね……」
 そう言ってのび太はニヤリと笑った。 
ジャイアンはスネ夫の病室にいた。
 ジャイ子の怪我は軽かったのですぐに退院できるとのことだった。退院し次第すぐに田舎
 の祖父の家に療養に行かせる話になっていた。どこでもドアがある以上安心はできないが、
 とりあえず東京にいるよりは安全だろう。
スネ夫「コピーロボットってもともと人間を襲うことが出来るように出来ているものなのかな?」
ジャイアン「は? そうなんじゃねぇの。現に昨日おまえを襲ったんだろう?」
スネ夫「いや、未来じゃ市販されてるくらいのものだからさ、だったら安全装置というか…
    …人に危害を加えるようなことは出来ないように作られてるんじゃないかなって思
    って。でなきゃ犯罪し放題じゃん」
ジャイアン「じゃあ昨日おまえを襲ったやつは?」
スネ夫「違法改造じゃないかな。ジャイアンだって高校のころ改造バイクに乗ってたことあ
    ったでしょ? ひみつ道具だって改造するやつがいてもおかしくない」 
ジャイアン「そうなると、どうなる?」
スネ夫「やつらが持ってるひみつ道具は僕らが使ってたのより威力が高いってことになる。そもそも
    、僕らがコピーロボットの鼻を押さなきゃコピーロボットは僕らに変化できない。でも、マ
    マはコピーロボットの鼻を押した記憶はないって言ってる……おそらくそれも改造だろう。
    奴らのコピーロボットは誰にでも化けれるのかもしれない」
ジャイアン「面倒くせぇな。男なら直接拳で来いってんだ」 
 ジャイアンはシャドーボクシングをして勇んで見せながら窓際のほうへ行った。
 スネ夫は苦笑しながらそれを見る。 
ジャイアン「ん?」
スネ夫「どうしたの、ジャイアン」
ジャイアン「出木杉が、いる。病院の門の辺りでこっちを見てるぞ」
スネ夫「そんなまさか。だってあいつら大学にいるって……」
 二人は顔を見合わせた。
 ジャイアンはすぐに病室を飛び出すと、携帯電話使用可能スペースへ行って出木杉に電話をかける。
出木杉『もしもし、剛田くん? 何かあった?』
ジャイアン「おい出木杉、おまえ今どこにいる?」
出木杉『え? 大学生協の食堂だよ。のび太くんとしずかちゃんも一緒だけど……まさか』
ジャイアン「ああ、おまえのそっくりさんが病院の前でこっちを見てやがんだ」
出木杉『……ちょっと待ってて。すぐにかけ直すから』
 電話が切れた。とりあえずジャイアンは携帯の電源を入れたままスネ夫の病室に戻った。 
 窓の外を見ると、偽出木杉はまだ病院の前に立っている。
スネ夫「どうだった?」
ジャイアン「やっぱり、本物の出木杉は大学にいる。ってことはだ、ありゃあ偽者だな」
スネ夫「ここがバレたのかな?」
ジャイアン「わからん」
 すぐに、出木杉から電話がかかってきた。今度は病室でそのまま出る。
ジャイアン「おう、俺だ」
出木杉『その病院付近の観測装置が準マイクロ波を測定している。コピーロボットで間違い
    ないと思う。少なくとも単なる僕のそっくりさんじゃない』
ジャイアン「何だ、その純マイク派ってのは?」 
出木杉『準マイクロ波だよ。極超短波帯。まぁ説明すると難しいんだけど、それを調べれば
    コピーロボットの居場所がわかるんだ』
ジャイアン「なんかわかんねぇけどすげぇな。さすが出木杉だぜ」
出木杉『とりあえず、僕は今日は病院には顔を出さないよ。もし僕が病院に現れたら、コピ
    ーロボットと思ってぶちのめしてくれ』
ジャイアン「わかった」
 その一時間後、偽出木杉は病院前を去っていった。そして、その日はもうコピーロボット
が現れることはなかった。
 余談だが、その翌日事前連絡して行ったにも関わらず、本物の出木杉はジャイアンにぶち
のめされたのだった。まったくもって理解力のないジャイアンである。 
 最初の襲撃から2週間ほどが経過した。
 のび太たちの予想を裏切り、あれ以降特に襲撃らしい襲撃もなかった。相変わらずコピー
ロボット準マイクロ波やどこでもドアによる電波障害は観測され続けていたがが、目立った
動きはないままだった。
スネ夫「何を考えてるんだろう、あいつら」
出木杉「様子を見てるんじゃないかな。何にしても、準備する余裕があるのはこっちとしてはありがたいよ」
しずか「ジャイ子ちゃんたちの方にも変わったことはなかったらしいわね」
出木杉「でも……安心ははできないね」
スネ夫「僕もいろいろ調べたんだ」
 スネ夫はひざの上のノートパソコンを閉じて言った。
 このノートパソコンはスネ夫の自宅にあったもので、病室での使用は許可されていた。
スネ夫「都内だけに留まらず、全国のニュースを調べて、ひみつ道具が関わっていそうなものを探してみた。
    あまりこれといったものはなかったけど、ロシアのサンクトペテルブルクで
    大規模な電波障害が8回。どこでもドアかもしれない」
出木杉「いや、そのうち4回は今までのデータと比べると規模が大きすぎる。もっと強い電
    磁波を出すもの……どこでもドア以上に時空をゆがめるものだと思う」
スネ夫「とすると……」
しずか「タイムマシンかしら?」
出木杉「だろうね。拠点は東久留米でも、タイムマシンの出入り口はサンクトペテルブルクにあるのかもしれない」 
 病室のドアがノックされ、のび太とジャイアンが入ってきた。
 ジャイアンは段ボール箱を抱えている。
のび太「出木杉くん、頼まれたもの持ってきたよ」
出木杉「ああ、実用化できた?」
のび太「一応ね」
 ジャイアンが持ってる段ボール箱を開け、エアキャップに包まれた携帯電話を取り出す。 
しずか「携帯?」
出木杉「そう。企業に依頼されてうちの研究室で開発した最新式のGPS携帯。かなり小さい誤差で相手の居場所を確認できる。
    のび太くんに頼んで実用レベルにしてもらったんだ」 
のび太「実用レベルとは言っても、通話は無理だよ。ただGPSでみんなの居場所がわかれ
    ば、違う場所にあらわれた場合コピーロボットと疑うことが出来る」
ジャイアン「でもよ、勝手に使っていいのか? 企業のだろ?」
出木杉「大丈夫だよ、その企業って……」
スネ夫「うちの会社なんだ」
 スネ夫はニヤリと笑った。 
スネ夫「僕のこのパソコンでGPS情報をチェックできる。僕がオペレーターになって、みんなの位置を把握する。
    コピーロボットの準マイクロ波も同様にね。のび太の作った電磁波受信機と合わせれば、
    コピーロボットに騙されることはないはずさ」
出木杉「ここまでやれば、コピーロボット対策は大丈夫だと思う」
ジャイアン「問題は、黒服の野郎どもだな……あいつらどんだけひみつ道具を持ってるかわからねえ」
      
出木杉「どのみち、向こうからこない限り、何も出来ないね」
 出木杉はそう言ってため息をついた。
 防戦一方である。 
しずか「のび太さん、最近忙しそうね」
 病院からの帰り、しずかが心配そうに言った。 
 出木杉はこのまま家に帰ると言って行ってしまった。珍しく、しずかと二人っきりだ。
のび太「ちょっと、作ってるものがあるんだ」
しずか「……ドラちゃん?」
のび太「ん……そうだよ。それだけじゃあないけどね」
しずか「しゃべるのよね、確か」
のび太「うん。今のところまだそんな複雑な会話は出来ないけど。電源入れるとね、朝は『おはよう』、
    昼は『こんにちは』、夜は『こんばんは』って挨拶をするんだ」
しずか「ドラちゃんの声で?」
のび太「うん、出木杉くんが頑張ってくれてね。ドラえもんそっくりの声が出来たんだ。ま
    あ研究室のみんなは『何でもっとかわいい声にしなかったんだ』って文句言ってるけどね」
    
しずか「まぁ、うふふ」
 しずかは笑った。のび太も笑った。
 久しぶりの和やかな会話だった。彼女を自分のものに出来なくたっていい。こうやって話すことが出来るなら、自分の気持ちを伝えなくても……

 しかし、その和やかさは長くは続かなかった。 
 その夜、のび太がスネ夫からの緊急コールを受けたのは研究室でだった。
 DR-1――ドラえもんの調整作業と、他の道具を作るために、しずかと別れたから研究室に戻ったのだ。
  どちらの作業もちょうど終わったところだった。
スネ夫『準マイクロ波、電波障害の頻度が激しい。コピーロボットの動きが活発化してるんだ……のび太は今研究室だよな?』
    
のび太「うん、そうだよ」
スネ夫『病院の前にものび太がいるよ……3人ほど』
のび太「気持ち悪いなぁ」
スネ夫『ああ。とりあえずこっちはジャイアンがいるから大丈夫。そっちはまた3人で合流
    して、しずかちゃんを頼むよ』
のび太「わかった」
 のび太はすぐに上着を着ると、研究室のドアを開けた。
 外へ向かいかけたところで思い直し、研究室に戻り先ほど完成した道具の入ったジェラルミンケースを手にする 
 ジェラルミンケースを持つと、今度こそのび太は外に飛び出した。 
 出木杉はタクシーを拾うため駅前に向かっていた。
      病院のスネ夫との連絡は密にとっている。前と同じ駐輪場付近で準マイクロ波が測定され
       てるとのことなので、そちらは避けて別ルートで駅に向かう。
      ルートを変えた直後のことだった。
 
      携帯電話が急に圏外になる。
      電波障害だ。
      そう思った直後、前方数メートルのところにピンクのドアが現れる。
 
出木杉(やはり、どこでもドアか……)
      ドアが開き、中からスネ夫が――いや、スネ夫のコピーロボットが現れる。
偽スネ夫「やあ、出木杉くん。僕のこと覚えてるかい?」
出木杉「ああ……あのときのコピーロボットだね。今日はノーヘルかい?」
偽スネ夫「ああ、改造してもらったんだ。今の僕は本物のスネ夫のスペックを遥かに超えている。
       もちろん、君のスペックもね。そして鼻のボタンは無効化した」
出木杉「ボタンなんか押さなくたって君には負けないと思うけど」
偽スネ夫「出木杉の……出木杉のくせに……」
偽スネ夫「生意気だ!!!!」
 偽スネ夫が突進してくる。 
 速い。前とは比べ物にならない。
 咄嗟に体を横に逸らし、第一撃を避ける。
 が、偽スネ夫の間接がありえない方向に曲がり、ポケットからナイフを取り出し突き出し
てくる。
 頬をナイフが掠める。出木杉はわざと体制を崩し、地面を転がり距離をとった。
出木杉(落ち着け……落ち着いて構えれば、組み付くこともできるはずだ) 
 偽スネ夫が再び向かってきた。やはり速い。
 だが、今度は素早く身を翻しナイフを持った腕を掴むことに成功した。
 一瞬、偽スネ夫の動きが止まる。素早く、軸足を踏み出す。
 肘を顎に向かって突き上げ、一気に足を刈り上げる。
出木杉(一本!!!)
 前回より見事な大外刈りが決まった。頭から落ちた偽スネ夫は、受身を取るまもなくコン
クリートブロックに後頭部を強打した。
出木杉(……やったか?) 
偽スネ夫「痛いなぁ、ひどいじゃないか出木杉くん」
 偽スネ夫がゆっくりと起き上がる。首がありえない方向に曲がり、後頭部が陥没している
にも関わらず、立ち上がったのだ。
 思わず恐怖を感じる。
出木杉(駄目だ、やはりとどめを刺さなければ)
 出木杉は上着のうちポケットからのび太の作ったスタンガンを取り出し、偽スネ夫のむき
出しの首めがけて突き出した。
 その瞬間バキッと音を鳴らし、エクソシストよろしく偽スネ夫は上体を反らし攻撃をかわ
す。そしてすぐに体を起こし、出木杉の腕を掴み驚異的な力で捩じ上げた。
出木杉「ぐああああああああああああ」
偽スネ夫「何これ、スタンガン? これで僕を倒すつもりだった? 危ないなぁ」
出木杉「うあぁああ、腕が、腕がああああ!!」
偽スネ夫「ロボットを倒せるくらいのすごい電流を、もし人間がくらったらいったいどうなるんだろうね」
 出木杉の手からスタンガンをもぎ取ると、偽スネ夫は出木杉の体を近くのフェンスに叩きつける。

出木杉「うがっ!!はぁ……はぁ……」
偽スネ夫「出来杉のくせに僕を倒そうなんて、生意気なんだよ」
出木杉「ぐ……あ……」
偽スネ夫「君はどうせしずかちゃんを手に入れることもできない。
      脇役に過ぎないんだよ、ちょっと人よりできるだけで、調子に乗りすぎたね」
 出木杉の首に、スタンガンの電極が押し付けられる。
偽スネ夫「じゃあね、生意気な脇役くん」
 偽スネ夫がスタンガンのスイッチを押した―― 
 ――パァン!!
 閃光とともに火花が飛ぶ。口から煙を出し、痙攣しながら……偽スネ夫が崩れ落ちる。
偽スネ夫「なん……なん……な……んで……」
 最後に大きく痙攣してコピーロボットは動かなくなった。
出木杉「ぐ……危なかった……」
出木杉「しかしのび太くんも意地の悪い武器を作るよな」
 足元から、焦げたスタンガンを拾いあげる。
出木杉「スイッチから電流が流れるスタンガンなんてさ」 
 2週間前、スタンガンを渡しながらのび太が説明していた。
のび太「このスタンガンはね、特殊な装置がついてるんだ。グリップの底についてる小さな
    つまみなんだけど……これを右にひねると普通にスタンガンとして使える。ところ
    がこれを左にしておくと、回路が切り替わり電極ではなくスイッチから電流が流れ
    るんだ」
しずか「どうしてそんな機能を?」
のび太「威力の高い武器ほど相手に奪われたときの対策が必要なのさ。自分が使うとき以外
    はつまみを左にセットしておく。これなら敵にスタンガンをとられても、知らずに
    向こうがこれを使えば自滅させられる」
出木杉「なんというか、さすがのび太くん……悪知恵が働くね」 
スネ夫「……!? おかしい」
ジャイアン「どうした、スネ夫」
スネ夫「準マイクロ波の反応はそのままなのに、外のやつらの姿が消えたんだ」
ジャイアン「なにぃ!?」
スネ夫「おかしい……周波数から見てもコピーロボットがいるのは間違いないのに、何で見
    えないんだ?」
ジャイアン「おい、どうすんだ!やつらこっちに来るんじゃないか?」
スネ夫「ちょっと待ってよ……周波数を変えて測定データを検索……!! 今までに測定さ
    れてない微弱な電磁波がコピーロボットの準マイクロ波と同調してる……そうか、
    石ころ帽子だ!!」
ジャイアン「どうすんだよ!向こうの姿が見えなきゃ戦えないぞ!!」
スネ夫「電磁波受信機だ!あれで敵の方向を確かめて、GPSと合わせて僕が向こうの位置情
    報を出す!ジャイアンはそれに合わせて戦うんだ」
ジャイアン「やるしかねぇみたいだな」 
 スネ夫が高速でパソコンのキーボードを叩く。
 ジャイアンは念のため釣竿ケースから猟銃を取り出し、弾を込めておく。
スネ夫「きた!!この病室の外の廊下、右方向だ!」
ジャイアン「おう!」
 猟銃をドアに向けて構える。入ってきたらすぐに発砲できる状態だ。
スネ夫「まだだよ、ジャイアン……壁の向こう、すぐ近くにいるけどそこで止まってるみた
    いだ。ドアが開いてもすぐには撃たないでね」
 ゆっくりとドアが開く。しかし、スネ夫の指示がないのでジャイアンは焦りをこらえなが
らじっと待つ。
スネ夫「きた!今だ!!」
ジャイアン「うおおおおおおおっ!!!」
――ドォン!!
 猟銃が火を噴き、何もないはずの空間に弾があたり火花を散らした。
 近くに石ころ帽子が転がり、コピーロボットが姿を現す。のび太の姿をしていた。 
偽のび太「痛いじゃないか、ひどいよジャイアン」
スネ夫「!!まだ生きてる!」
ジャイアン「へっ……銃で撃たれても平気なんて、のび太のくせに生意気じゃねぇか」
偽のび太「やれるもんならやってみなよ。心の友を本気で殴れるかい?」
ジャイアン「…………」
偽のび太「無理だよね? だって僕らは心のと……がぁあ!!!」
 ジャイアンの右ストレートが偽のび太の顔面にクリーンヒットする。
 そのまま倒れた偽のび太に馬乗りになると、ボカボカボカボカ殴り続ける。
ジャイアン「殴れるかだとぉ? 殴れるに決まってるじゃねぇか。
      のび太をいじめんのはなぁ、俺のライフワークなんだよ!!」
スネ夫(……のび太の姿してきたのは奴の最大の失敗だな) 
 そのとき、スネ夫は見た。
 コピーロボットを殴り続けるジャイアンの背後にピンクのドアが開くのを。
スネ夫「ジャイアン!うしろ……」
黒服2「バン」
 言い切るより早く男の空気ピストルが発砲された。肩口を射抜かれてジャイアンが体勢を
崩す。
ジャイアン「うがぁ!!」
スネ夫「ジャイアン!!」
黒服2「おおっと、動くなよ。俺の空気ピストルは改造してあるからな。人間を撃ち殺すこ
    となんて簡単なんだよ」
スネ夫「おまえ……いったい誰なんだよ!!」
黒服1「ただの未来人さ。といってもテロリストだがな」
スネ夫「テロ……リスト?」 
黒服1「そうさ。過去に逃亡したはいいが、タイム・パトロールに追って来られると面倒だ。
    だからこの時代に来てタイムマシンの発明者を殺したわけさ。これで未来は変わり、タイムマシンの発明は遅れることになる。 
    俺のいた時代にはタイムマシンは発 明されていないから当然タイム・パトロールもいない。 
    もっと未来になればタイム・パトロールも出てくるが、それ以前にタイムマシンがあったはずもないから
    奴らに俺たちの存在がばれる事はない」 
スネ夫「そんな……いや、おかしい。そしたらおまえたちのいた時代にはタイムマシンはな
    いわけだから、おまえたちがタイムマシンを持つことも出来ないはずじゃないか」
黒服1「普通なら、な。だが俺たちはタイムマシンの製作者を、タイムマシンに乗りながら殺した。
    わかるか? つまり未来が変わったその瞬間、俺たちはタイムマシンの航行する
    四次元空間にいたわけだ。未来が変わったことによる修正も、四次元空間には干渉できない。
    だから、俺たちはタイム・パラドクスの修正の影響を受けなかったってわけさ」
スネ夫「じゃ、じゃあ未来が変わった瞬間偶然タイムマシンに乗っていた他の人間は?」
黒服2「あ? 全員殺したよ」
黒服1「あとは、タイムマシン発明以前にタイムマシンの存在を知ってしまったおまえらを
    殺せば俺たちの計画は完璧だ。誰も俺たちを追うことは出来なくなる」
ジャイアン「てめぇら、そんなことのためにジャイ子を、スネ夫を、こんな目に合わせやが
      ったのか!!!」
黒服2「威勢がいいな、ゴリラ野郎が……バン」
ジャイアン「ぐぁああ!!」
 空気ピストルがジャイアンの脚に穴を開ける。さしもの豪傑ジャイアンもたまらずのたうちまわる。
スネ夫「ジャイアン!!!」
黒服1「おっと、動くなよ。傷口がまた一個増えるぜ?」 
黒服2「しかし、このゴリラ……剛田武だっけ? とんでもねぇ奴だな。コピーロボットを
    素手で壊しちまいやがった」
黒服1「まるで人間凶器だな。さっさと殺しとけ」 
スネ夫(人間凶器?……そうだ!!)
スネ夫「ジャイアン!歌うんだ!!大声で歌うんだ!!」
ジャイアン「な……!?」
スネ夫「早く!!!!」
黒服2「ごちゃごちゃうるせぇ!バ……」
 その瞬間、ジャイアンは咆哮した。
 昔口ずさんだあのガキ大将の歌を、全力で歌った。
黒服1「ぐあああああ!なんだ、この怪音波は!!」
黒服2「バン!バン!……駄目だ!うるさすぎて空気ピストルの音声認識が出来ない!」 
ジャイアン「おぉぉぉおぉれぇぇぇはジャイアァァァァァン!!」
 歌いながら、豪傑・ジャイアンが立ち上がる。
 肩と脚から血を滴らせ、歌いながら黒服に向かっていく。
ジャイアン「がぁぁぁぁぁっきだあいしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
黒服2「うががががががががが」
 黒服の首をジャイアンの豪腕が思いっきり締め付ける。
 ――メキメキメキメキ
 ついに黒服の男は気を失い、ジャイアンの手から滑り落ちる。
 しかし、その直後ジャイアンの歌声が止まる。
黒服1「調子に……乗りやがって」
 もう一人の男の手に握られたナイフが、ジャイアンの腹部に突き刺さっていた。 
スネ夫「ジャイアン!!」
ジャイアン「ぐ……おお……スネ夫、逃げろ!!」
スネ夫「!!」
ジャイアン「逃げろ!このことをのび太たちに知らせるんだ……早く行けぇぇぇ!!」
 ジャイアンは血を滴らせながら黒服に掴み掛かる。
 黒服の男はジャイアンを引き離そうと必死だ。
ジャイアン「行けぇぇぇっ!スネ夫!!!」
スネ夫(ごめん、ジャイアン。ごめん!!)
 スネ夫はベットから転げ落ちると、コピーロボットの使っていた石ころ帽子を拾い、
 傷む傷口を押さえながら病室から駆け出していった。
 走りながら院内を眺める。医師から患者から、皆眠らされていた。殺されている者もいる。
スネ夫(僕らのせいで……)
 スネ夫は泣きながら走った。 
 のび太としずかは駅前で何とか出木杉と合流に成功した。
 出木杉は腕を折られていたが、コピーロボットを一体倒したとのことだった。
出木杉「それより……スネ夫くんたちとさっきから連絡が取れないんだ」
のび太「うん、それは僕らも心配してたんだ。出木杉くんと合流したら病院に行ってみよう
    かって話してた」
しずか「……待って!スネ夫さんから電話が……もしもし、スネ夫さん?」
スネ夫『ああ、しずかちゃん。実は……』 
出木杉「そんな……テロリストなんて」
のび太「だからタイムマシンの発明が遅れたのか」
出木杉「で、スネ夫くんは大丈夫なの?」
しずか「石ころ帽子を被って逃げてるって。でも武さんが……」
???「剛田武なら、ここだよ」
 振り向くと、そこには黒服の男が立っていた。地面には血まみれのジャイアンが横たわり
、その首にはナイフが突きつけられている。
しずか「武さん!!!」
のび太「おまえは、ジャイ子ちゃんたちを襲った……」
黒服1「覚えていてもらって光栄だよ。野比のび太」 
出木杉「剛田くんを離せ!」
黒服1「それは出来ん。こいつのせいで相方を失ったんだ。コピーロボットも全部壊されて
    しまったからね……あとは俺が自分で君たちを殺さねばならん」
出木杉「なら……さっさと殺せばいいじゃないか」
黒服1「そうはいかない。骨川スネ夫がまだ石ころ帽子を被って逃げている。あいつを誘き
    寄せるまで生きててもらわなきゃいけない。GPSでおまえたちの居場所がわかるん
    だろ? ならスネ夫はかならずここへ来る。そして、全員殺す」
しずか「そんな……」 
 のび太はジュラルミンケースを持つ手に力を込めた。
のび太(まだだ……まだチャンスはある。この道具さえ使えれば……)
 しかし、そのとき黒服の目がのび太のジュラルミンケースをとらえた。
黒服1「おい、そのジュラルミンケースをこっちによこせ」
のび太「!!」
黒服1「後生大事に持ってるところ見るとよっぽど大事なものらしい。起死回生のアイテム
    ってところか。お得意の電磁波受信機か? スタンガンか? それとも新しい武器で
    も開発したか……何にせよ俺にとって邪魔な物に違いはない。使われると面倒だ。
    こっちへよこせ」
のび太「…………」
黒服1「早くしろ。心の友の剛田が死んでもいいのか?」
出木杉「のび太くん……しかたがない。何が入ってるのかわからないけどそれを……」
しずか「のび太さん……」
 のび太は唇を噛み、黒服を睨み付けるとジュラルミンケースを胸の前に持ち、黒服の方へ
とゆっくり歩いていく。
 黒服まで2メートル位の場所まで近づく。 
黒服1「そうだ、それでいい。そこへジュラルミンケースを置け」
のび太「残念だったね」
黒服1「何?」
のび太「おまえの負けだ」
 のび太はジュラルミンケースの下部のボタンを押した。
 ケースの側面がスライドし、中から砲身が現れる。
のび太「バン!!」
 射出された空気の塊が黒服の体を吹っ飛ばした。 
 吹っ飛ばされた男はコンクリートの壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
 すぐにしずかがジャイアンのもとに駆け寄る。
しずか「武さん、大丈夫?」
ジャイアン「う……なんとか」
出木杉「のび太くん……それ、空気ピストル?」
のび太「土壇場で完成させたんだ。まさかこのジュラルミンケースそのものが武器だとはあ
    いつも思わなかったろうね」
出木杉「しかし、どうやって……」
のび太「空気ピストルは確かにすごいナノマシンだ。しかし、あのサイズにすることを諦め
    れば、性能こそ劣るものの現代の科学で代用しうるものだったんだよ。音声認識は
    DR-1のときに使ったものがあるしね。そして、どうにもならない部分は……」
 懐から、のび太はビックライトを取り出す。
のび太「ビックライトで壊れた空気ピストルを大きくして、そこから直接取り出したんだ。
    全部が全部壊れてるわけでもなかったしね。撃つ前に空気の圧縮に20秒ほどかか
    るのが難点だけど……それにこんなに大きいと、空気ピストルというより空気砲だ
    しね。あはは……」
出木杉「まったく……敵わないよ。のび太くんには」 
のび太「これで……終わったのかな」
出木杉「たぶんね」
しずか「――!!待って、おかしいわ!!」
のび太「どうしたの、しずかちゃん?」
しずか「のび太さん、緊急コールのときスネ夫さん何て言ってた?」
のび太「えっと……準マイクロ波と電波障害の頻度が激しいって。それと病院前に僕に化け
    たコピーロボットが3体いるって」
しずか「つまり、最低でもコピーロボットは3体いる……そして、1体は出木杉さんが倒し
    たのよね?」
出木杉「ああ」
しずか「武さん、あなたはコピーロボットをいくつ倒したの?」
ジャイアン「……ひとつだけ……だ」
出木杉「!!」 
のび太「1体……足りない。でもどういうこと? あの男は『コピーロボットも全部壊され
    た』って……」
出来杉「まさか!」
 何かに気づいたように、出木杉が横たわる黒服の男に近づいていく。
 上着のポケットから電磁波受信機を取り出すと、黒服に近づけた。
 
 ランプが赤く点灯する。
出木杉「こいつ……コピーロボットだ!!」
???「よく気づいたな。だがもう遅い……ドカン!ドカン!ドカン!」
 背後から空気砲を打ち込まれ、のび太、しずか、出木杉が昏倒する。 
黒服1「俺が本物だ」 
 のび太が目を覚ますと、そこは藤子大学の共同研究室だった。
 DR-1を作っている部屋だ。作業台の上にドラえもんそっくりのDR-1が乗っている。
 部屋の中には他に、出木杉とジャイアンとしずかもいた。3人も、そしてのび太自身も口
にガムテープを張られ、体をロープで縛られている。
 目の前には、黒服の男。その指には空気ピストルが装着されていた。
黒服1「剛田武は知っているだろうが、この空気ピストルは改造品だ。貫通力もあるし、十
    分に人間を殺す威力がある」
 男はその空気ピストルの銃口をしずかの眉間に向けた。 
黒服1「安心してくれ。骨川スネ夫が来るまでは君たちは殺さない。奴を呼ぶための餌にな
    ってほしいんでね……。しかし、ただ待っているのも退屈だ。ちょっとした遊びを
    しようじゃないか」
 黒服はそういうと、ジュラルミンケースを――のび太が作った空気ピストルを机の上に乗
せ、銃口を自分の方へと向けた。
 
黒服1「空気の圧縮はしておいた。つまり、君たちの誰かが"あの言葉"を口にすれば、この
    空気ピストルで俺を倒せるということになる。
    ――ところで、見たところ君の作った空気ピストルは誰の声でも反応するようにできているらしい。
    しかし、普通はそれじゃ暴発の可能性がある。だから ら俺の空気ピストルは、
    登録した人間の声だけに反応するようになっている。同時に登録できる声は5人まで。
    そして……今この空気ピストルには俺、死んだ相棒、野比のび太、
    出木杉英才、剛田武の声が登録されている」 
黒服の男は近づいてくると、のび太の口のガムテープをはがした。
 続いて、出木杉、ジャイアンのガムテープもはがす。
 そして再び空気ピストルをしずかの眉間に向けた。
黒服1「さあ、言いたければ言え。"あの言葉"を言えばおまえらの空気ピストルが作動して
    俺を倒すことが出来る。ただし、同時に俺の空気ピストルも作動し、源静香が死ぬ
    ことになるがな」 
 のび太、出木杉、ジャイアンの3人は黙っていた。
 「バン」と言えば黒服の男を倒すことが出来る。しかし、同時にしずかも死ぬ……
ジャイアン(言えねぇ……言えばしずかちゃんが死んじまう)
出木杉(……奴の空気ピストルに登録されている声は、僕、のび太くん、剛田くん、黒服の
   男たち……ということは)
のび太(奴の空気ピストルに声を登録されてない人間……スネ夫が奴に見つかるより先に
   「バン」と言えば僕らの勝ちだ)
 しずかが、「わたしに構わず言って」と言いたげな目で3人を見ている。
 しかし、その選択肢は3人にはなかった。
出木杉(やるしかない……)
 出木杉は後ろ手で携帯電話を操作し、スネ夫の携帯に電話をかけた。 
 GPSで藤子大へ向かっていたスネ夫が出木杉からの電話に出ると、彼が何を言うより早く出
 木杉の大声が受話器から聞こえてきた。どうも自分ではなく、別の相手と話しているらしい。
スネ夫(あの言葉……?)
出木杉『スネ夫くんがここへ来て、おまえに見つかるより早く"あの言葉"を言えば僕らの勝ちなんだ。僕らはそれを待つ!』 
黒服1『無駄だ。ここにはセンサーがたくさん仕掛けてある。スネ夫が来ればすぐに俺には
    わかるさ。スネ夫に空気ピストルを撃たせることは不可能だ』
スネ夫(出木杉と黒服の会話だ……GPSから見てのび太もジャイアンもしずかちゃんも、出木
   杉と一緒に奴に捕まってる……)
スネ夫(出木杉は僕に何を言わせようとしてるんだ? ……あの言葉……空気ピストル……そ
   うか!!)
 出木杉は自分に「バン」と言わせようとしているのだ。
 事情はよくわからないが、おそらく彼らは「バン」と言えない状況にいる。だから代わり
 に自分に「バン」と言ってくれと言ってるのだ。
スネ夫(しかし、みんなのいる藤子大には黒服の言葉どおりならセンサーが……そうか、電 話越しに叫べば!!) 
黒服1「待て」
 黒服が出木杉の背中を蹴り上げる。
黒服1「変に説明くさいことを言いやがって。何を企んでる?」
出木杉(頼む!スネ夫くん、言ってくれ……)
スネ夫『バン!!!』
 電話からスネ夫の声が聞こえてきた。 
出木杉(駄目だ……何も起こらない!やはり電話越しじゃ声が小さいんだ!)
黒服1「ふ……電話か。今のはヒヤッとしたぜ」
 黒服は出木杉の腹を蹴り上げると、電話を奪った。
黒服1「骨川スネ夫くん、残念だったね。君の声は小さすぎて空気ピストルには届かなかったようだよ。
     腹の傷が痛んで大きい声が出せなかったか?」 
スネ夫『くっ……』
黒服1「さっさとここへ来い。でなきゃ大事な友達が先に死ぬことになるぜ」
出木杉(だ……めだ……失敗だった)
ジャイアン(くそ、このままじゃ……でも言えねぇ!言ったらしずかちゃんが)
しずか(お願い、わたしのことはいいから「バン」って、誰か言って!!)
スネ夫(くそ、急がなきゃ……けど、行ってどうすればいい?)
のび太(どうすればいい? どうすればいい? 助けてよ、ドラえもん……) 
 そのときだった。のび太の頭にひとつのアイディアが浮かんだ。
のび太(そうだ、うまくいけば……)
のび太「ねぇ、ひとつ聞いていい?」
黒服1「あ? 何だ?」
のび太「今の時間を教えてほしいんだ」
黒服1「時間だと? …………23時48分だ。それがどうした」
のび太「いや……別に。それより、あのロボットを見たかい?」
黒服1「ああ、あれか。気になってはいたんだ。22世紀のネコ型ロボットに似ている」
のび太「あれは僕が作ったんだ。そして電源は普通のスイッチじゃない」 
黒服1「おまえ大丈夫か? もうすぐ俺に殺されるってのに、そんな話をしている余裕がどこにある」
のび太「話しかけてやればいいんだ、それで起動する……」
黒服1「黙れ。死にたいのか?」
のび太「こう言うんだ……ドラえもぉぉぉん!!!!」
 のび太が叫んだ。
 その声に反応し、DR-1の電源がONになる。
 ブゥン、という音とともにドラえもんの鼻が光り……彼はしゃべった。
DR-1「こん"バン"わ。ぼく、ドラえもん」
 空気の塊が黒服の身体を至近距離から吹き飛ばす。本棚に叩きつけられた黒服男はそのまま気を失った。
 すぐに駆けつけたスネ夫によって4人は縄を解かれた。
 そして、目を覚ましかけた黒服にジャイアンが強烈なラリアットをかまし、
 もう道具を持っていないことを確かめたうえでロープでぐるぐる巻きにしておいた。 
 のび太と出木杉がスネ夫とジャイアンにそれぞれ肩を貸して、5人は屋上へと上がった。
 屋上は深夜とは思えないほどの光りに満ちている。
 空にはぽっかりとタイムマシンの出入り口が開いていた。
 そしてそこから出てきたのは……
のび太「タイム……パトロールだ」
スネ夫「戻ったんだ!未来が元に戻ったんだ!」
ジャイアン「何だって!!」
スネ夫「僕らがあいつを捕まえたから……これで僕たちを殺すことは出来なくなって、タイムマシンの情報は抹殺されない。
    そのうえあいつらは焦って未来の道具をたくさん使ってしまったから、それがタイム・パトロールに発見されたんだ!」 
 タイム・パトロールの巡視艇が屋上に着陸し、中から隊員たちが降りてくる。
隊員「野比のび太くん、剛田武くん、骨川スネ夫くん、出木杉英才くん、源静香さんだね。
   タイムテレビで様子は見ていた。協力、どうもありがとう」
スネ夫「歴史は元に戻ったんですね?」
隊員「いや、残念ながら多少の変化が生じてしまった。タイムマシンの発明者が死んでしまったからね……
    タイムマシンの発明は、本来の2008年より遅くなることになる」 
出木杉「それでも、タイムマシンは完成するんですね?」
隊員「ああ。もともと奴の計画は読みが外れていたんだ。仮に4次元空間で歴史を変えても
   我々はそれを感知する極秘機関を4次元空間内に設置している。あとは彼らが逃げた
   時代を特定するだけだった……君たちの思わぬ抵抗に焦った奴らが未来の道具を使っ
   てくれたおかげで、この時代と特定できたんだ」
ジャイアン「でもよぉ、もう少し早く来てくれりゃあ俺たち怪我しなくて良かったのに」
のび太「そう言うなって。これで未来が変わらずに済んだんだからさ」
???「そう言い切るにはまだ早いよ、のび太くん」 
 のび太はその声に懐かしさを感じた。
 いくら近い声を作っても何か違っていた。願っていた声が今、耳に入ってきたのだ。
のび太(そんな、まさか……)
 ゆっくりと振り返る。
ドラえもん「やあ、のび太くん。久しぶり……大きくなったね」 
 それから数分間のことをのび太はよく覚えていない。
 みんなから聞くと「子供のように泣きじゃくっていた」「『ドラえもん、ドラえもん』と
何度も何度も叫んでいた」とのことだ。
 どうしてもたどり着けなかった、ネコ型ロボット。
 研究しても研究しても作ることの出来なかった無二の友達。
 それが――ドラえもんが帰ってきたのだ。
ドラえもん「やっぱりのび太くんは駄目なままだね。君が心配でタイム・パトロールの人に
      頼んで連れてきてもらったんだ」
のび太「そんなこと……ないよ。僕だってやるときはやるんだ」
出木杉「そうだよ。ドラえもん……僕らはのび太くんにたくさん助けられた。
    のび太くんはすごいよ」
ドラえもん「それでも、まだまだ駄目だよ」
 ドラえもんはクスクスと笑う。
 そして、小声でのび太に言った。
ドラえもん「のび太くん、まだしずかちゃんに"好き"って言ってないでしょ?」
のび太「うん……」
ドラえもん「だめだなぁ。君がしずかちゃんと結婚しないと、僕は作られないんだよ?」 
のび太「え……? それってどういうこと?」
ドラえもん「君には言ってなかったけどね……僕らネコ型ロボットがどうしてこういうデザインになったかわかるかい?」 
 のび太は首を横に振る。考えたこともなかった。
ドラえもん「今からそれを教えてあげるよ……」
 そう言って、ドラえもんは話し始めた。 
ドラえもん「のびたくん・・・いや、父さん」
のびた「!?」 
 2049年、ある日本人が人工知能を有するロボットの発明でノーベル賞を受賞することになる。
 大きな技術革新に繋がったそのロボットのデザイン。その偉業に敬意を払って、
 そのロボットのデザインが2112年に開発されたネコ型ロボットに採用された――
のび太「その日本人が、僕? でも僕は事業に失敗してセワシの代まで借金を残すんじゃ……」
ドラえもん「そうだよ。もちろんノーベル賞をとるのは君じゃない……出木杉くんさ」 
のび太「出木杉くんが?」
ドラえもん「そう。君としずかちゃんが結婚した翌年、出木杉くんに誘われて君たちは再び共同研究を始める。
      研究のために君は多額の借金をするんだけど、完成間近についに資金が底を付いて、
      開発から手を引くんだ。でも出木杉くんはその後も研究を続け、君が手をを引いた2年後、 
      画期的なAI搭載コミュニケーションロボット『DORA-121』が完成。
      ノーベル賞を受賞するのさ。その『DORA-121』は君たちが作ってる
      このDR-1のデザインをそのまま使ってる……もう、あとはわかるよね?」
のび太「あのロボットが……。でも、僕としずかちゃんが結婚しないとドラえもんが出来ないってのは?」
    
ドラえもん「もし出木杉くんとしずかちゃんが結婚したら、君は出木杉くんと共同研究が出来るかい?
       出木杉くんと顔を合わせたくなくて、断るんじゃない?」
のび太「……そんな気がする」
ドラえもん「そこへいくと出木杉くんは人間が出来てるから、君としずかちゃんが結婚しても嫉妬せずに
      のび太くんを研究に誘ってくれるってわけ。出木杉くん一人じゃノーベル賞まではいけないからね」 
のび太「そこまでハッキリ言わなくても……」
ドラえもん「まぁまぁ。これは本来の筋書きさ。
      僕が未来から来たことで、のび太くんにこらえ性ができる。
      その結果、借金が出来た後もノーベル賞こそとらないものの地道な発明を続け、無事に
      借金を返すと言うわけさ」
のび太「なるほど……」 
 タイム・パトロールが黒服の男を連行していく。
 黒服の男の持ち込んだひみつ道具も次々と押収されていった。
のび太「ドラえもん……もう帰るの?」
ドラえもん「うん……もう役目は終わったからね」
のび太「そっか・・・」 
ドラえもん「のび太くん、君は立派な大人だよ。親友の僕が言うんだから間違いない……そ
      れに僕がいなくなったって他に4人も親友がいるじゃない」
のび太「大丈夫だよ、僕は」
ドラえもん「約束だよ、のび太くん。僕を作ってね」
のび太「うん……」 
 タイム・パトロールが帰っていき、少ししてからジャイアンとスネ夫も病院に向かった。
 しずかは二人に付き添っていく。
  
 出木杉とのび太の二人だけが屋上に残り、夜空を見上げていた。
のび太「出木杉くんは病院に行かなくていいの? 腕折れてるんじゃない?」
出木杉「あとで行くよ。でも、その前にのび太くんと話がしたくて」
のび太「そっか。僕もだよ」 
出木杉「帰ってったね。ドラえもん」
のび太「うん」
出木杉「最後に、ドラえもんと何を話していたの?」
のび太「約束をしたんだ。いつか必ず、僕がドラえもんを作るって」
出木杉「……君の作るロボットは、全部ドラえもんだよ」
のび太「え?」
出木杉「いつも思ってた。僕はどうして科学者として君に追いつけないのかって……勉強は
    僕の方が出来たのに」
のび太「……………」
出木杉「きっと想像力なんだ。のび太くんは僕には思いつかないようなことを思いつく。それはたぶん、
    ドラえもんといた日々のおかげだよ。君はいつもドラえもんを目指していたんだ……
    理屈に絡められすぎた僕には出来ない発想だよ」 
のび太「……出木杉」
 初めて、のび太は出木杉のことを呼び捨てにした。
出木杉「どうしたんだい、のび太?」
 出木杉も、初めてのび太を呼び捨てにする。
のび太「しずかちゃんのこと、譲らないよ」
出木杉「そう……。これで僕も本気を出せる。今までは、変に遠慮してたんだ」
のび太「手加減なしだよ」
出木杉「望むとこだよ。君には負けないさ」
 少し、沈黙。
のび太「助手になったのは僕が先だろ?」
出木杉「ただの人手不足って言ってなかった?」
 
 お互い、ニヤリと笑いあう。
 子供のころ夢見た未来に、少し近づいてる。
 そんな気がした二人だった。 


出典:1
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