おっさん乙 (エロくない体験談) 15647回

2012/06/22 11:50┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
何てことのない話で申し訳ないが、あるレンタルビデオ店でのこと。
書き手の視点が、客か店員か、あるいは神かっていうのは、ちょっとあれなのではっきりさせないでおく。

50代と思しきそのおっさん客は、毎回決まった曜日の決まった時間(夜)に来ることと、名の知れた企業名が刺繍された作業服を着ている、という条件がなければ、無職かホームレスと思われても仕方がないような小汚い風貌だった。
蛭子さんをイメージされるとこの話の印象が悪くなりかねないので、どうかそれ以外でお願いしたい。

おっさんがDVDを返却すると、店員はマニュアル的にこのようなことを聞く。
「画像の乱れ、再生不良等ございませんでしたか?」

おっさんは決まってこう答える。
「俺は見とらんが大丈夫。かーちゃん何も言わんで」

「かーちゃん」とは、妻とも母親ともとれる言葉だが、おそらく妻だと思われる。根拠はない。
どうやらおっさんは、海外ドラマ好きの「かーちゃん」のために、週1回か2回のペースで、毎回5枚から10枚程度のDVDをレンタルしているようだ。

ある時、お目当ての物が貸出中と分かり、棚の前で途方に暮れているおっさん。
そこへ店員がやって来て、その日返却されたばかりのDVDが、空だったケースに戻された。
「ヨッシャっ」と小躍りして喜ぶおっさん。
汚い歯を見せて「良かったわー」とつぶやくおっさん。
自分は見ないくせに、ドラマの続きを楽しみにしているかーちゃんの、喜ぶ顔が目に浮かんだんだろう。
あるいは余程尻に敷かれていて、借りて帰らないと叩かれるのかも知れないが、それだけではない愛情というものが、この小汚いおっさんから滲み出ていたのは確かである。
おっさんは常に、人気商品ではなく旬を過ぎたドラマを選ぶことで、貸出中の憂き目になるべく遭わないよう気を遣っていたようである。

そんなある日おっさんが、中盤まで数枚ずつ借り続けていたドラマを、一気に最終巻まで抱えてカウンターへ。
しかしそれは、一度にレンタル可能な枚数を超えていた。
マニュアル通りにその旨を告げる店員。

おっさんは深いため息をつくと、これ以上ない寂しそうな声を絞り出した。
「…そうかー。…間に合わんがや…」

最終巻まで数枚を残し、借りられるだけ借りて、おっさんは帰って行った。
見た分を返却しながら追加で借りれば早く借りられるわけだが、おそらくおっさんはそんなことまでは知らなかったようだし、わざわざ教えることでもなかった。
間に合わん、とはどういうことだろうか。
少しでも早く、かーちゃんに最終回まで見せてやりたい、理由があったのかも知れない。
かーちゃんに何かあったのかも知れない。
それを尋ねる者はいなかった。

まさか、余命数日のかーちゃんのために…なんて、そんな美談めいた展開は小汚いおっさんには似合わない。
きっと旅行か何か、その前にキリのいいところまで見せておきたいんだろう。そうでなければならない。

一週間後、前回分の返却と同時に、前回借りられなかった最終巻を、寂しそうな笑顔で借りて行くおっさんの姿があった。
しかし、やはりと言うべきなのか。それ以降、おっさんが海外ドラマを借りに来ることはなかった。

その後、店内ののれんの前で身を引き締めるおっさんと、返却の際に「肝心なところが見えせんけど、どーしてくれるの」と若い店員をからかうおっさんの姿が目撃されている。


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