30代キモデブのおっさんに舞い降りた天使 (オリジナルフィクション) 56952回

2012/08/08 21:02┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
正直しょっぱい人生だった。
虐められこそしなかったが、女性の私への感想設定は全て
「生理的に無理」とか「気持ち悪い」というのがデフォルト設定になっていた。

デブだから当然運動も苦手、勉強は可もなく不可もなく
デブでキモイ以外にこれといった特徴がないことがかえってキモデブの属性を引き立てた。
デブなのはまあ私の自己管理の問題ではあったのだが

その後もまったく女性に縁がなく
童貞は二十の時にプロに捧げた私は、事後大した感動もなく一度きりで辞めた
今思うと心のつながりのないなんの感動もない作業的なセックスに失望したのだと思った
快感だけならオナニーで十分だというのもあった。

実家の家業である農家をついで細々と農作業に明け暮れる日々
日々の重労働で体重はある程度減ったものの生来のキモイ顔は相変わらず
このまま女性となんの縁もないまま終わるのだろうかと思っていた。
お見合いの話は勿論幾つかあった。
だが、「生活力があれば顔なんて」と言ってくれる女性も
私を一目見ると「御免なさい」となった。
一番堪えたのは、数回デートを重ね、これはイイんじゃなか、今回はいけそうだ
と期待した挙句最後に「ご、めんなさいやっぱり無理です!」
と私の外見を我慢しようとしたが結局土壇場で拒否されたのが一番堪えた。

もう一人でいいや、と私も両親も諦めていた。
そんな30代前半の私に天使が舞い降りた

その日いつものように農作業を終えて帰宅する途中
いつも通る農道の用水路に自転車が落ちているのが見えた
「誰かすてていったのか?」
近所の悪ガキが自転車を盗んではこういうところに捨てていく事は良くある
私はとりあえず水路から拾い上げようと軽トラを停めて水路にひっくり返る自転車に近寄った

「おい君?!」
びっくりした、近所の中学の制服を着た女の子が
自転車ごと水路にひっくり返って気絶していたのだ
幸い水路はその時期大して深くなくて彼女は辛うじて呼吸ができているようだったが
私は急いで携帯を取り出して救急車と警察に連絡した。
というもののよく見ると道路には明らかに目新しいブレーキ痕がありヘッドライトか
フロントガラスの欠片のようなものがわずかに落ちていたからだ
私は動かしていい物か迷ったがとりあえず彼女の上に乗った自転車を取り除いて
彼女に声をかけた
「おい!大丈夫か?!」
「う・・・・」
何度か大声で声をかけると女の子の目が開いた
「君、どこかおかしい所や痛いところはあるか?」
「う・・・」
「手足の感覚がないとかそういうのはない?」
医学の知識はないものの考えつく限り症状を聞いておこうと思って質問した。
「頭が痛いです・・」
おそらく落ちた時かぶつかった時に頭を打ったのかもしれない
ヘルメットは近くに脱げて落ちていた。
私あ頭を確認してみたが、結構大きなコブができていたが出血はなかった
しかし、頭の怪我となると何が起こるかわからない
私は下手に動かすこともできない状況でとりあえず救急車を呼んだ事と
親御さんに連絡するために女の子のカバンから生徒手帳を取り出して学校に電話した。

そうこうしているあいだに救急車がやってきて女の子は運ばれていき
行き違いに学校の先生とほどなく親御さんが血相かえてやってきた
私はのんびりやってきた警察に事情聴取
危うく私がはねたと思われるところで少しムッとしたが
事情を説明すると疑いは晴れた
「まあ、あらためて詳しいお話を聞きたいので免許書と連絡先だけ確認させてください」
疑いが晴れたあともなんだか犯人を見るような態度でさらにムッとした。

私は行きがかり上気になったので病院にいくと
頭に包帯を撒いた女の子がベットで親御さんと一緒に医者の話を聞いているところだった
「どうもありがとうございました」
彼女のお父さんとお母さんは申し訳なさそうに私に丁重にお礼を言った
女の子も一緒にペコっとお礼をしてくれたのが可愛かった。
とっさの事だったのでその時は気にならなかったが
よく見ると目のぱっちりしたアイドルみたいに可愛い子だった。

ご両親の話を聞くとやはりひき逃げだったようで
警察が捜査線を敷いて探しているらしい
道路に残ったブレーキ痕とガラスの欠片から車種は既に特定したようで時間の問題らしい
女の子は目立った外傷はないものの大事をとって数日病院で経過を見て大丈夫なら退院できるそうだ
私はホッとしてその日は親御さんと電話番号と名刺を交換して帰宅した。

あくる日私は後遺症や脳の障害で大変な事になっていないか心配になり
自分の家でとれた野菜をもって彼女の病室を尋ねると
お母さんと女の子が丁度話をしているところだった。
「先日は本当に娘がお世話になりました」
と深々と頭を下げられ恐縮しつつもお見舞いの品を渡すと
「まあ、こんなにたくさんありがとうございます」と二人に感謝された。
どうやら礼儀や躾がしっかりしてる家のようだ
今のところ後遺症などの変調もなくとりあえず安心という事らしい
私はそれだけ聞くと農作業があるのでと部屋を出ようとしたが
よかったらお茶でもとお母さんに誘われて喫茶店で30分ほど世間話をした。
そうこうしてると私の携帯に警察から連絡が入り、現場発見時の様子を正確に調書にとりたい
というような連絡がきて日取りを決めた。
「お忙しいのに娘のためにお手間をおかけします」
と一部始終を聞いていたお母さんが察してまた頭を下げられた

思えば私の人生でこんなに人に感謝されることは今まで一度もなかったかもしれない
そんな感じで女の子が無事に退院する頃にはひき逃げ犯人も無事につかまり
私の捜査協力への義務もとりあえず一段落した。

しばらくして私がいつものようにハウスで農作業をしていると
あの女の子が私を訪ねてハウスに顔をだした。
「こんにちはおじさん!」
女の子は加奈子 中学1年生 私のハウスから少し離れた住宅街に住んでいた。
「あれ、加奈子ちゃん、もう体はいいのかい?」
思わぬ来客に私の心はうかれた。
「はい、もうすっかり良くなりました」
加奈子は私にもう一度お礼が言いたくてこの数日この辺をウロウロしていたらしい
すると丁度私がこのハウスに入っていくのが見えて追いかけてきたようだ

ハウス内は結構な温度なのでじっとしていても汗がでてくる
私は自販機でジュースを買ってやりふたりで日陰で一休みしながら話をした。
「お仕事は大変ですか?」
加奈子は農作業に興味があるようで色々な質問をしてきた
私の家ではスイカやトマト きゅうりなどを栽培しているからその当たりを中心に答えているうちに
彼女がお礼に仕事を手伝いたいと言ってきた。
時期は丁度夏休み直前、彼女は夏休みの自由研究のために
農業を手伝ってみたいと言うのだった。

夏場は勿論忙しいし人手は確かに欲しい
収穫作業などバイトやパートを雇うこともできるが人件費が馬鹿にならない
正直嬉しい話ではあったが、ご両親の許可もなくそんなことは決められないよ
と言うと
女の子はすぐに携帯電話を取り出してお母さんにメールしている
「あの事故があってから用心のために携帯を買ってもらえたんです」
いいでしょと言いながらニコニコしていると
お母さんから私の携帯に電話がかかってきた
「娘がまたご迷惑をおかけしてしまって」
と慌てた様子で恐縮していた
「いえいえ」
「お忙しいのに、ご迷惑でしょう」
「いえいえ、仕事はそんなに難しくないですし人手が多いと助かりますよ」
「どうやら夏休みの自由研究のためらしいですし、私の方は別に構いません」
「そうですか?ご迷惑でなければ」
というような感じで女の子が夏休み週3位で手伝いに来てくれることになった。

まあ正直この時点ではそれ程戦力的にあてにはしていなかった
ただ、日頃年老いた父と母と私とパートのおばちゃん達でやっている農作業に
こんなに若い子が来てくれるのが単純に嬉しかった
勿論邪な期待はなかった、単純に華やいだ仕事場を想像して嬉しかったのだ
それくらい私の私生活は枯れていたから

私はそれから毎日夏休みが来るのを楽しみに過ごした。
加奈子は夏休みになるまでも学校の帰りに私の仕事するハウスの前を通り
私を見かけると買い換えた新品の自転車をおりて私のところで
30分ほど世間話をしていった。

夏休みに入る
毎日の出荷作業は朝早いうちに行うが毎回加奈子は元気にやってきた
慣れないながら私や周りの大人の話をよく聞いて仕事をこなした
期待していた以上に一生懸命やってくれたので私は当初予定していなかった
バイト代をちゃんと払うことにした。
「えっいいよ」
と加奈子は遠慮したが
「いいからジュース代だとおもって」
と私の父親に言われ受け取った。
加奈子が仕事を手伝いに来てくれる間は本当に父と母が嬉しそうだった。
こんなに明るい我が家は久しぶりだった
孫娘が出来たようだと目を細める父と母に私は少し申し訳なくおもった。
夏休みがあけることには、加奈子のお母さんまでが私の家の仕事を手伝ってくれるようになっていた。
まあ、作業がおわって加奈子が帰ろうとするたびに家で採れた野菜などを
お土産で山ほど渡していたから、あ母さんが申し訳ないとうちに挨拶に来るのも仕方がない話だった。
そうこうしているあいだにお母さんも農家の仕事に興味があったようで
二人揃って仕事を手伝ってくれるようになっていた。

私と加奈子は夏休みの間ずいぶん長く一緒に過ごし
色んなことを話した。
私の人生で最も長く母親以外に話した異性が加奈子だった。
私はとても幸せな気分だった
初めて私を気持ち悪いと言わず接してくれる女の子だった。

加奈子は私を年の離れた兄のようにしたってくれていたので
私は必死にそれにこたえようとしていた。
そうして夏が終わる頃には我が家と加奈子の家は親戚付き合いのように親しくなっていた。
加奈子のお父さんやお母さんからの信頼も厚く
夏祭りの花火大会には私が忙しくていけないお父さんの代わりに
加奈子を花火大会に連れていくということまで許可してくれた。
浴衣姿で無邪気に腕を組んでくる加奈子はとても可愛くて私は本当に胸がときめいた。
でも、それ以上の事は望まなかった、それで十分な位には私は幸せを感じていたし
なにより調子にのって全てを台無しにしたくないと思っていた。

夏が終わり加奈子の体育祭に私はお父さんとお母さんと一緒に応援席に座った。
クリスマスには両家であつまって食事会もしたしお正月も両家であつまって祝った。
その頃には加奈子は私を本当の兄のようにしたってくれて
洋介兄ちゃん 加奈子 と呼び合うようになっていた。
そして二度目の夏が来てその年も加奈子は家を手伝ってくてて
そのあとは受験生として勉強を始めたから中々会えなかったが
それでもたまの息抜きには私と何処かへ遊びに連れていってとねだってきた
バレンタインも毎年くれた

でも二人に恋愛感情なんてものはないと思っていた。
加奈子と知り合って3度目の夏が過ぎていよいよ受験生としての追い込みがかかる
年末、加奈子が久しぶりに我が家に顔をだした。
父と母は喜んで加奈子を迎え入れてこたつに入って世間話をしていた
ちょうど私も家にいて4人でTVを見ながら話していると
父親が不意に加奈子に言った
「かなちゃんは洋介をどうおもとるね?」
「えっ?」
加奈子は突然のふりに意味がわからなかったのかキョトンとした顔をして私と父の顔を交互にみた
「父ちゃんなんばいいよっとか」
私は焦った
「あっ・・」
私の焦った様子をみて意味を悟ったのか加奈子が俯いた
「私と父ちゃんはカナちゃんが洋介のところにお嫁に来てくれたらこんなに嬉しいことはないが」
「か、母ちゃんまで何を言うんだ!!」
私は頭に来て立ち上がった
「俺も母ちゃんもいつまでも生きとらん、カナちゃんみたいな農家も好きで元気な子が嫁に来てくれたら、わしら財産なんか全部あんたにあげても惜しいことはないとおもっとるんよ」
「勉強もなんでもかなちゃんの好きにしたらいいけ、考えて貰えんね?」
私が真っ赤になって大声で怒っているのに父親はお構いなしで加奈子に向かって話す。
「いい加減にせんか!15歳の娘になんちゅうことばいうね!」
私は父と母がずいぶん年をとってから生んだ子だった
だから子供の頃は周りの若いお父さんやお母さんに比べて年老いた両親が嫌だった
でも、焦った・・父と母がまさかこんなことを言い出すとは思いもよらなかった。
私と父はそのまま加奈子を挟むかたちで口論になった。

加奈子はしばらく俯いて黙っていたが
私が「子供相手にそんな事ができるか!!」と大声をあげて父と母に怒鳴ると
こたつから飛び出して玄関に走りそのまま家を飛び出して帰ってしまった。
「私は悪いことをしたとはおもとらんよ」
と父も母も反省の色がなく私も腹が立ったのでその日は二階にはけた
それからしばらく、加奈子が私のところに顔を出すことはなかった。

私は落ち込んでいた、父と母が余計なことを言ったばかりに
これまでの二人の関係が壊れてしまったと思った。
私はあれで満足していたのだ、特別な関係など求めない
今のままでも十分に私は幸せだったのだから


年が明けて春も近づくある日
加奈子が久しぶりに私の所へ訪ねてきた
「洋介さん久しぶり」
「うん・・」
加奈子は高校の制服を着ていた
「高校受かったみたいやな、よかったな」
「一番に洋介さんに見て欲しくて着てきた」
「そうか・・綺麗になったな加奈子」
いつの間にか私を洋介さんと呼ぶようになった加奈子はどこか大人びて見えた。
最初にあの水路で助けた時は私の胸にも届かなかった背も今は私の首位まで伸びていた。

「あの時はすまんかったな・・」
「・・・・」
私はあの時のことを謝ろうと切り出した
「親父達も酒飲んで言い出したことだから、加奈子は気にしなくていいからな」
「・・・・」
「許してやってくれや、そんでよかったら顔出してやってくれ、最近加奈子の顔みないから親父達も元気がないけん」
「・・うよ」
「ん?」
「違うよ」
加奈子が少し悲しそうに言う
「何が?」

「私があの時飛び出して行ったのは洋介さんのせいよ」
「えっ?」
「洋介さんは、言ったでしょ私が子供だって、子供となんてできんって」
「・・・・・」
「私ショックだったのよ」

加奈子の告白には私は足が震える位に驚いていた。
「そ、それは・・」
舌がもつれてうまくしゃべれない
これは夢だろうか?夢だったらひどい夢だ、目覚めた時死にたくなるに違いない
「あの時は私も理由がわからなかったけど、あとになってなんであんなふうに家を飛び出したのかわかったの」
「ち、ちょっとまて加奈子何をいいだすんだ」
ありえない事だ、こんなに可愛い子がなんだって俺なんかを
「洋介さん私本気だよ」
「馬鹿言うな、お前みたいに若い子がなんで俺みたいな中年の事を」
他に山ほどの選択肢があるだろう、加奈子程の器量よしなら引く手あまただ
にも関わらず一番ありえない選択肢だ
「歳は・・うん・・確かに離れてるよ、歳なんて関係ないとは私も思わない」
「でも・・・」
決定的な言葉を続けようとする加奈子を私は思わず抱きしめて遮る
「まて、それ以上言っちゃならん・・俺はお前と毎日楽しく話ができてればいいんや・・」
「私は洋介さんと毎日楽しくお話したい・・洋介さんのお父さんもお母さんも大好きよ」
「ありがとう・・お前の気持ちはすごく嬉しい」
そう・・泣きたいほど嬉しい
「でもこんな事は加奈子のお父さんとお母さんに顔向けできん」
「洋介さん・・」
ギュッと抱きしめ返してくる加奈子を私はゆっくり引き離す
「もうこの話はしないと約束してくれ、じゃなかったらもうお前とは会わん・・」
「・・・はい・・」
少しだけ時間を置いて加奈子はそう言った。

それからまた私と加奈子はよく話をするようになった。
だけど、少しだけ二人のあいだに距離が出来た気がした。
前のように無邪気に接してこなくなった
高校は中学より忙しいから加奈子ともそう毎日は会えない
友達も沢山いる加奈子は忙しく学生生活を送る
私も年老いた父と母に代わって仕事をこなす量が増えた。
1年が過ぎて2年・・かねてから足の弱っていた母が体調を崩して入院し
家の家事を私と父で交代にこなすようになった。
それを聞いてか加奈子と加奈子のお母さんが家事を手伝いにきてくれるようになった
「いいのか?お前来年は受験やろう、こんな事してたら」
「いいの、私はこれでも優秀だから」
そう言って気丈に振舞う加奈子を見て胸が痛む
加奈子の母親にそれとなく聞いて知っていた。
加奈子は私達の家事を手伝うために部活をやめた
本人は受験に専念するためだからと言っていたけど

それに、加奈子のお父さんが失業してしまって家計が苦しいから
受験を諦めようといってお父さんに泣きながら頬を叩かれた話も

その日も家事をしてくれた加奈子を家に送り届けたあと
話をするために俺は父親と一緒に母親の病室にいった。
病室で顔色のよくなってきた母と父に俺は思っていたことを切り出した。
はじめは驚いていたけど、父も母も最後は
「お前はもう我が家の代表やから、お前の思う通りすればええ」
と言ってくれた。

私と父はその日慣れないスーツを着て
約束した料亭に行った。
加奈子ちゃんとお父さんとお母さんは約束の時間前に着ていた。
今までに何度も両家で外食をすることはあった。
でも、こんなかしこまった場所でかしこまって食事をする約束をしたことなどなかった。
だから多分お父さんもお母さんも私たちがどんな話をするつもりなのか予想していたと思う
二人とも緊張していてこわばっていた。

「今日はこちらの都合でお呼びだてして申し訳ありません」
慣れない敬語で緊張しながら話す。
一言一言誤解をうまないよう、丁寧に
二人とも最初は当然うんとは言わなかった。
でも、俺は精一杯精神誠意で話した。
そして最後にお父さんに「あの子がそれでよければ」と言ってもらえた。

「加奈子さんへは私から話します」
「分かりました」

加奈子ちゃんはその日も学校が終わったあと私の家にやってきた。
「かなちょっと大事な話がある・・」
私の様子に加奈子はすぐに何かを悟ったように黙って頷いてついてきた
居間で二人正座して向かい合う
「カナ、昨日お前のいない時にお前のお父さんとお母さんと話をした」
「カナは高校受験諦めて就職するつもりらしいな」
「・・・・」
「お父さんもお母さんも俺たちも、お前にはちゃんと大学まで出て欲しいと思ってる」
「でもうちには・・おか・」
「お金はある!」
「カナは金の心配なんかしないでいい、ちゃんと勉強して行きたいところへ行くんだ」
「お金は俺が何とかしてやる」
「うちにはこの通り子はもちろん嫁もおらん、今までカナには沢山助けてもらった」
「うちのじいさんも婆さんもお前のためなら金は惜しくないと言ってる」
「そんなのダメだよ!」
「黙って聞きなさい!」

「カナのお父さんと俺はある約束をしたんだ」
「約束?」
「そうだ」
「いいか、加奈子の大学へ行くための費用をうちが全部出す」
「それで加奈子がちゃんと大学をでて一人前になった時に、」
「それでも加奈子が俺の事が好きだったら結婚を許してくれることになってる」
「そんな・・私は絶対!それにそんな約束洋介さん達には良いことなんて一つもないじゃない!」

「違うよ、これは俺にとっての大事なきっかけなんだよ」
「胸をはってお前みたいに年の離れた娘を嫁にもらうために必要な事なんだ」
「カナが心代わりをしても俺は別に構わないと思ってる、内の者は恨んだりもしない」
「俺は覚悟はしてるし後悔もしないよ」
「だから大学へいくと言ってくれ、加奈子」

私は加奈子の両親に約束した
一人前になりあの子がちゃんと選べるようになるまで
絶対に手を出さないと、仮に加奈子が負い目から私と結婚したとしても
彼女に後悔の念を感じたらいつでも離婚を受け入れると
どんなことがあっても我が家の財産も何も全てあの子に残すと

加奈子には約束の全てを話してはいない
多分あの子はそんな約束をしていたと知ったら怒るだろう
でも、それが加奈子にしてあげられる私の精一杯のことだった。

加奈子は複雑な気持ちを抱えながらそれでも周りの人たちのために
最後は大学へ行くことを受けれた。
今思えば彼女なりに大人になって心配をかけないようになりたいと思ったのかもしれない
実際彼女は稼ぐようになってからお金を返すつもりだったようだ

大学へ通う間、私と加奈子のあいだには何もなかった。
手を繋ぐ事すら
本当に賢かった加奈子は遠くのいい大学に受かったから
たまにメールや電話で少しだけ話をするだけ
正月彼女が帰ってきても俺は直接会うことはしなかった。
彼女も自分から会いたいとは一言も言わなかった。
加奈子のお母さんには足腰の弱った父と母に代わって
家で農業を手伝ってもらうようになった。
パート代を払いますといったがかたくなに拒否された。
なんとか形の悪い野菜を好きに持って帰っていいという約束は取り付けた。

時間はあっという間に過ぎる
加奈子と私が出会ってから9年以上が過ぎていた。

加奈子の卒業の日も私は家で作業をしていた
迎えに行くつもりなどなかった。
諦め・・悟り・・なんでもいいが私は満足していた。
男として立派に一人の女の人にできることをしたと思った。
父と母には申し訳ないことをした事が心残りだが仕方がない

私はその日なんとなくジャスコのショーウインドウで、コーギーの子犬を見かけた
後で聞いたが本来は人気のある犬らしいが生まれつき片目が見えないために売れ残ったそうだ
私はその子を買って帰った。
年老いた父も母も犬を抱いた私に驚いていたが、何も言わずに子犬を受け入れてくれた。
孫の顔は見せてやれなかったからせめてコイツを代わりにとおもった。
二人が生きている間だけでもと思った。犬はオスだったので片目なのもあって
政宗と名づけた

加奈子が卒業してから数日後
仕事を終えて帰宅すると家の庭先に見慣れない軽自動車が止まっていた
「親父、お客さんかね?」
玄関で声をかけても誰もいなかった
「?」
ふと見ると玄関には女物の靴が一つあった
居間からは政宗のじゃれる鳴き声がする

私は恐る恐る居間へいく
「あっ洋介さん、ただいま」
「カナ・・」
そこにはさも当たり前のように、まるで当然のように
畳に座って政宗と戯れる加奈子が居た
「もう、洋介さんいつまでたっても迎えにこないから私からきたわよ」
加奈子はびっくりして言葉が出ない私に微笑みながら言う
「洋介さんが言うから大学はでたけど就職難だから仕事先がないのよ」
「責任とって洋介さんのところで雇ってもらうってお父さん達にも言ってきたんだ・・」
私は思わず加奈子を抱きしめていた、びっくりして政宗がまた吠える
「かなこ・・・うううっ・・」
涙が止まらなかった・・いい年したキモイおっさんが若い子にすがって泣くさまは
さぞ汚い絵面だったろう・・政宗が吠えるのも無理はない
「指輪は要らないから一生大事に愛してくださいね」
加奈子は嬉しそうに私を抱きしめてくれた
その日私と加奈子はベットを共にした。
加奈子は天使だった・・私にはもったいないほどに美しかった。
彼女と一つになったとき私は信じられないほどの幸福感で絶頂にたっした
快感よりも幸福感で達したと思える程に
自分がまるで浄化されるような気持ちになった。

加奈子はああ言ったけど私はすぐに彼女に指輪を買った。
誰にも恥ずかしくない式もあげた
親戚の中には、キモイ中年の農家の親父が若い娘にたぶらかされて財産も全部とられた
なんて心無いことを言う人もいた
でも、私も加奈子も気にしない、父も母も最高の嫁さんをもらったと喜んでいる
加奈子のお父さんもお母さんも祝福してくれた。ついでに政宗も元気だ
私にはそれが一番だった

今日も昼からは35度を超える猛暑になるらしい
政宗が朝露で濡れたハウスの中を元気に走り回る
数ヶ月前まで毎日一日中一緒に農作業していた彼女の姿は今はない
身重の彼女の代わりに彼女のお父さんとお母さんもうちで働いてくれている
いや、もう家族だからその表現もおかしいかもしれない
足腰の弱っていたうちの爺さんと婆さんも孫の顔が見れると聞いた途端に
嘘みたいに元気になって「100歳まで生きてひ孫の顔をみる」と言っている

終わり

出典:子は嫁似だと
リンク:いいんだけどね
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