「この写真の男に何か見覚えはありませんか?」 そう言われて差し出された写真を受け取る手がかすかに震える。 あや子はその眼を見た瞬間に6年前の忌々しい出来事を思い出していた。 かつては魅力的だとも勘違いしたずる賢い狐のような切れ長の眼、高校時代の同級生、酒井慎一に間違いない。 今よりも40キロは太っていたあや子が、卒業直前にひっそりと酒井の机の中に忍ばせたラブレターをクラスじゅうにさらけ出し笑いものにした男だ。 「どうかいたしましたか?」 「あっ、いえ・・・この人、何したんですか?」 「区内で起きている連続コンビニ強盗の犯人です。 逃走に使ったと思われる原付が、まあ盗難車ですけどね、それがこの辺りで見つかったものですから、目撃情報等あたっている最中です」 何度も同じ説明をしているのだろう、刑事はやや早口で面倒くさそうに説明した。 ケチな男。 あや子は写真をまじまじとみつめながら考えた。 こんなにはっきりと顔が映っているのだから放っておいてもすぐに捕まるだろう。 だがこれは酒井に対してささやかな復讐を果たす絶好の機会、逃す手はない。 「見たことある、気がします」 「本当ですか。いつ、どこでですか?」 「あの、このあたりでリヤカーを引いて空き缶とかを集めている人たちいますよね。 そういう人たちと一緒にいて、若い人もいるんだなって思ったので覚えているんです」 「そのホームレス連中と一緒にいた若い男がこの写真の男なのですね?」 「すごく似ているって気がします。 直接そういう人たちに聞いてまわってみてはどうでしょうか?」 「わかりました。ご協力に感謝します」 そう言って足早に去っていく刑事の背を横目で見送りながら、あや子は思わず呟いた。 「捜査は足で稼げってね。せいぜいがんばって、酒井くん」 出典: リンク: |
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