絵里と千春6 (オリジナルフィクション) 19264回

2012/10/29 21:38┃登録者:ゆうじ◆2XKpuVss┃作者:ゆうじ
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2人黙り込む。三角座りをして千春はずっと下を向いていたが、やがて
ポツリと
「赤ちゃんがね?できた時、嬉しかったよ?だけどね。あぁこれでゆうちゃんが
迎えに来ても、応えられないなぁって」

「さっきも言ったけど、ずっとね。ずっと迎えに来てくれると思ってた。
ありえないのは分かってるの。でもどこかでね?期待してた。そしたら
本当偶然。パーキングエリアでゆうちゃんを見かけてさ。あぁゆうちゃん
変わってないや、すごい懐かしくなって。声をって思ったら…あの娘が
傍にいて、ね」

「可愛いなぁ、あたしと全然違うタイプで、ずっとゆうちゃんの傍にいてて、
白と赤のつなぎって言うの?それ着てかっこいいって。あたしはバイク
乗れないし、よく分からないしね。なんだろう…その…自分がすごく惨めに
思えたよ」
「……」

「お似合いじゃん、あの2人。なのに…。って。」

「あたしはこの街から出た事なかったけど、出て行く気もないし。でも凄く
ゆうちゃんの住む街に行って見たくなって、それで、たけさんにお願いして
ゆうちゃんのお家とバイク屋さん調べてもらったの」
「たけさんて…社長?」

「そう、子供の父親よ」
「……俊夫知ってたのか?」

「知ってたよ…。俊夫が出て行って、社長もずっと独り身だったし、お世話に
なってたし、仕事終わりに時々食事とか身の回りの世話して」

「そのうちにね…あたしさぁ、そういう女なんだよねw。たけさんはあたしの
事、知らない間に俊夫と話しをしたみたい。俊夫も何も言わなかった」

正直…引いた。千春の今の住まいは俊夫の家。あいつが帰ってきたら一緒に
いて、海に出ると、仕事終わりに社長の世話を焼いていたらしい。奇妙な
共同生活。そんな付き合い方もあるんだろうけれど…。

「お腹に赤ちゃんがいるからって反対されたけど、たけさんにお願いして、
ゆうちゃんの街に連れてってもらったの。最初はゆうちゃんち。でも居なかったら
バイク屋さんに行って。そしたら彼女がいたんだよ」

「彼女びっくりしてたよ、それは本当。それでお願いして、近くの喫茶店で話しを
して」
「……わからん。なんでわざわざ?」

「ん〜。自分でも分かんないや。そん時はね。あの娘に興味を持ったって事か
なぁ?で、もうすぐ赤ちゃんが生まれます。私の変わりに○○(俺の苗字)の事
よろしくお願いしますって伝えて、他も少ししゃべった」

「彼女ずっと黙ってたんだけど…、そしたら急に、ゆうじはあなたの事を忘れず
あなたがした事で今も苦しんでいます。どうして今ここにいるんですか?
赤ちゃんの事を私に話して、ゆうじに父親になって欲しいって事ですかって」

「そう言われて初めて気が付いたんだよ。そうなんだって。だからここに来たん
だって」
「それ…でも…」

「分かってる。ハッとした顔してたと思うよ。彼女ね、ゆうじをこれ以上苦しめな
いで下さいって、さって席立って、珈琲代置いて出て行っちゃった」


なにそれ?どこのB級昼ドラマ?今時そんな演出で誰が見んだよって、けれど
絵里は全部知っていたんだ。赤ちゃんの事も。流れがつながる。だから…。
結局、のぼるの店で千春にあった時、あの時点で妊娠していたって事か。


「そうだよねぇ。ゲームの裏技じゃないんだから、どうひっくり返ったって、
ゆうちゃんが子供の父親になるわけないじゃない。ね、だからその後はもう、
ゆうちゃんに会わずに帰ったんだ」

…しかし。。。
今回、俊夫との事はあまり言いたがらなかったが、全ては俊夫との性体験や
暮らしが、色んなモラルのハードルを下げてしまったのか?ぶっちゃけ言って
いる事は無理があるし、俺が会社まで千春に会いに行った時も、絵里に聞い
て、迎えに来てくれたのではないかと思ったらしい。でもそれが違うと分かり、
あの暴言につながった。と。

女の粘着質な嫌な部分。したたかさって言うか。うまく言えないが、小さな頃の
千春を知る俺にとっては、正直別の生き物に感じた。

「今思ってる事大体分かるよ?それに今更遅いのは分かってるし。ただね、
ゆうちゃんを失いたくなかった…」

「…それだけよ」




………………俺の中にある最も遠い、千春との記憶。

ばあちゃんに水筒にお茶を入れてもらい、財布に往復分のバス料金と少しの
お小遣い。リュックサックを背負って近くのバス停に向かう。小学1、2年?の
頃だった。バスに乗って遠くに行くことを覚えた俺は、もうそれだけで大人に
なった気分。町一番の図書館へ向かう。

宇宙や星、惑星の本が好きだった。今日はどんな本を見て借りてこようか、
わくわくしながら、バス停のベンチで足をブラブラさせて、バスを待っていた。

「○○君どこ行くの?」    「…」

たまたま通りがかったんだろう。千春が声を掛けてくる。俺はその頃まだ転校
して来たところで、学校の友達は少なく、女の子とも殆ど口をきいてなかった。

「…」    「ねぇ?どこ行くの?」

「…図書館」   「へぇ、図書館行くの」

「あたしも一緒に行っていい?」
「お金ないぞ」

「お金持ってるもん」

行きがかり上何故だか、千春と一緒にバスに乗る。

その後の記憶は定かでないんだけど、本を一緒に読んで、近くの公園で遊んだ
と思う。そして帰りのバスに乗る時。

「○○君、あたしお金持ってないんだけど」
「…おまえ、持ってるって言ったじゃん」

その後どんなやり取りをしたか。とにかく2人で元来た道を歩いて帰る事に
なった。しかたねぇなぁって思ったのは覚えているw

最初は軽快に2人歩いて帰ってたんだが、日も暮れかかり、小学生の歩く距離
なんか知れている。歩いても歩いても、家に帰れない。道は単純だから間違える
事はなかったが、やがて日も暮れると、怖くなったのか千春が疲れたと泣き出
した。俺は残り少ない水筒のお茶を千春に飲ませると、おんぶして歩き出す。

「○○君やさしいね」   「……」

それ処ではなかった。重い…。こっちも実は心細くて泣きそうになってたんだけど、
意地を張ってたw

「○○君、お腹すいたよ」
「お金ないよ」

俺にどうしろって言うの?ぶっきらぼうに答えたのは覚えている。こっちだって
お腹ぺこぺこだった。本当泣きそう…。

結局パトカーに拾われた。親も俺達を捜していて、捜索願を出していたらしい。

「よかったねぇ」
千春と2人パトカーに乗せられると、笑顔で俺にそう答えた。お前な…ってなんか
理不尽に感じたんだけどなw そんで帰ってからも親にこっぴどく怒られて、更に
理不尽さを感じてしまったw

あぁ1つだけはっきり覚えている。千春の体温と重さ、首筋にかかる千春の髪の毛。
いい匂いがしてたのを思い出す。なんて事のない記憶。……………。



遠くで船の汽笛が聞こえる。

…なんて言葉を発せば良いのか?本当、分からなかった。でも…でも一つ
分かった事はある。もう千春に対して愛情はない事。これからも何度か
会う事はあるだろう。だけど、仲間として接することはあっても、

恋人や妻としては、ない。千春と出会って4半世紀近く。
その言葉の頭にやっと「元」の文字をつける事へ、ためらいが消えようと
してた。

何も言わない俺の顔を見て、千春も千春なりに察したのだろう。それから
また2人、海の景色をしばらく眺めていた。

…………。

「ねぇ、これであたしの話はおしまい。で、ここからはゆうちゃんへお届け物
です」
「お届け物?」

「前に言ったでしょ?渡したい物があるって」
「あぁ?でも何なの?」


「絵里ちゃん。来たんだよ?ここに」
「えっ!!!えぇ!?」

とにかくびっくりした。ここに絵里が?なんで?はぁ???わけが分からずに
素っ頓狂な顔をしていたんだろうな。そんな俺の顔を見た千春は

「みっともない顔してんじゃないよww、ちゃんと説明してあげるから少し落ち
着いてw、あたしも気になったから聞いたけど、住所はずっと前から知って
たらしいよ。ゆうちゃんちで調べたんじゃないの?郵便物とか、仕送り品とか」
「…あぁ」

「絵里ちゃんこの街に来て、のぼるの話しは何度もしてたんでしょ?店を
彼女で見つけてね。のぼるから連絡が来てさ、それでここを待ち合わせにして、
2人で会ったの」

「のぼるの店か…まぁあの界隈なら居酒屋あそこだけだもんな」
しかし、あいつ俺に何にも言ってなかったな…後で…〆る…。

そして絵里はこの堤防に来たんだ。この景色を見たんだ。

「2人でここに座ってね。彼女ね、けじめを付けにここに来ましたって。
本当はあなたに会いたくなかったけれどって。もう腹立つじゃないよww
けれど会わないといけない気がしてって、奥さんと同じ事してゆうじを
苦しめちゃいましたって。もう顔向けできないから、向こうの街を出たって
聞いたよ。あたしと同じ立場になって初めて分かったってさ。それで
これを渡して欲しいって」

「本当はね捨てても良かったんだけどね。さすがにあたしの良心がストップ掛けた
わwはい、これ」

…それは白い横長の封筒で、俺宛の手紙だった。

「それでさ、それならゆうちゃんに直接送ればいいじゃんて言ったんだけど、ゆう
ちゃんが何時かここに来たときに見せて欲しい手紙なんですってさ、それと
誰にも言わないでって」

「かっこいいよね絵里ちゃんのバイク、つなぎと合わせて、白と赤の。なんて名前?」
「ヤマハFZR250」

「そこのゆうちゃんの青いのは?」
「排気量違うけど、おんなじFZR400だよ」

「バイクもおそろいじゃないよww 憎いねぇちきしょーw」
「千春…キャラ変わってるぞ…」

「あはっwまぁ読んでみたら?」

千春の問いかけに無言で封を切り、便箋を取り出した。封筒を千春に預けて
改めて便箋を見る。懐かしい絵里の書いた文字がそこに並んでいた。



ゆうじへ

元気にしてますか?お仕事頑張っていますか?

この手紙を見るのは何時の事でしょう。本当は直接ゆうじに言わなければ
ならない事を文章で伝える事。どうか許して下さい。

黙って居なくなってごめんね。いつかゆうじは田舎から何もかもほったらかしで
逃げたって言っていましたが、私も同じ事をしちゃいました。人の事言えないね。
けれど色々考えての決断でした。私が側にいると、きっとゆうじに良くないと
思いました。

田舎に帰ってきてしばらくゆっくりしていましたが、今は役所の臨時職員を
しています。そう言っても殆ど雑用で、近所のおばあちゃんやおじいちゃんと
いつもおしゃべりしています。はは。

色んな事を伝えたくて、ペンを取りましたがいざとなったら何も書けませんね。
なので、決まった事だけ書きますね。

婚約をしました。お相手の人は町の小学校の先生で、ゆうじと同じメガネを
掛けています。いつも一生懸命で、ゆうじみたいにすぐ怒って怒鳴ったりしま
せん。ははっ 誠実で優しい人です。私にはもったいない。

婚約するまでに彼に全てをお話ししました。ゆうじとの事、ゆうじを傷つけて
この街に帰ってきた理由。彼はそんな私なのに、それでも、その気持ちも一
まとめにして受け止めますって言ってくれました。泣いちゃいました。そして
今はそんな彼の気持ちに、答えようと思います。

そして、改めてしてしまった事に後悔をいっぱいして、どんなに謝っても、
悔やんでも、取り返しのつかない事があるんだって、身をもって知りました。
本当にごめんなさい。

ps
婚約した事だし、いっぱい思い出が詰まっているFZRですが、この機会に
手放そうと思いました。それで最後のツーリングに、1人海の見えるゆうじの
育った街を選びました。本当はこのまま黙って帰っても良かったのですが、
最後に、この手紙を千春さんに託します。

19XX年6月○日その日が私の結婚式です。

どうかゆうじも幸せになって下さい。




読み出したら涙が溢れるのかとも思ったが、そんな事はなかった。
ショックか?いやなんかそんな気持ちでもなくって。ただ月日は確実に
過ぎてて、絵里もまた別の道をしっかり歩き出しているんだって思った。

ジューンブライド。6月○日…6月の花嫁。

…それは今日から3日前の日付。


なにもかも…。そうなにもかも。

千春が言うには、絵里がこの街に来たのはその年の3月。もしも、もしも
俊夫の葬式の後に、それとも5月のゴールデンに帰ってて、その時
千春から手紙を渡されていたら…。

俺はどうしていたんだろう?


「ゆうちゃんさぁ。行って来たら?彼女のところ。」
「もう結婚したってよ。今行ってどうすんの?迷惑掛けるだけだよ」

「最後にね結婚式の日付け書くなんて、それまでに来て欲しい気持ち
いっぱいあったに決まってんじゃん。普通書くかぁ?wそれにあたしに
わざわざ預けてさぁ、何時来るかに掛けてたんじゃないの?」

「けじめつけて来なよ、あたしはつけた。彼女もつけたんだと思うよ。
つけてないのはゆうちゃんだけ。今更かっこ悪いって言ったって昔から
冴えないんだからwwなんでこんなの好きになったんだろうねww」
「おいww」

「彼女ならさ、結婚してても少しくらい時間作ってくれると思うよ。
メッセージ受け取ったんだから、ちゃんと話しをして、会って
くれないならそれが答えじゃん。ちゃんとさよならしてきなよ」

[さよなら]の言葉を聞いてやっと、あぁそうなんだ俺と絵里はまだちゃんと
お互いさようならを言っていない。

「それで寂しくなったらあたしが相手してあげるw何なら今からでもうち来る?w」
「ばかwwお前本当いい加減にしろww」

2人でくすくす笑いあった。

謝らないといけない。伝えないといけない。だけど、そのうち幾つの事がちゃんと
伝わって、謝れているんだろう。多くはそのままになっているのが本当のところ。
今日できる事を明日に先延ばすのが俺の癖。

でもこの時だけは千春の言うとおりかなって思った。

なら話は早い。俺もこのバイクで、絵里の街に行く事でFZRを手放そう。そして
新しいバイクを手に入れよう。

もうすっかり日は傾き、オレンジ色の空とキラキラ光る海辺。

行って見るか。絵里住む街へ

出典:さえたスレ
リンク:さえたスレから独立
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