神憑き (エロくない体験談) 17504回

2012/11/26 21:37┃登録者:33-4◆c1D/rBfI┃作者:33-4
 当時高校生で夜遅くまで部活に励んでいた俺はその日、いつもの様に電車に乗って帰宅した。電車が出発した時、もう夜9時は過ぎていたと思う。都会の人からしたら驚くかもしれないが、俺の住む田舎では、この時間の電車が終電となる。
 友達や部活仲間も大勢乗っていた。だが彼らは新興住宅地の駅で降りていく。俺はそこから更に2駅、終点地点の一つ前という奥地まで電車に揺られなくてはならなかった。バスケット部でレギュラーやってて、当時は地区予選前だったから練習も普段より厳しく、どうしようもなく疲れていた俺は、友達が降りると少し眠ってしまった。
 起きると、電車は止まっていた。ヤベッと思って窓から外を見ても真っ暗で、駅のホームも明かりが落ちていてすごく暗かった。電車の中だけが明るい。そして、電車の中にも、誰も乗っていなかった。駅員すら居ない。
 不気味になって、俺は電車を降りた。暗闇に目が慣れてくると、確かにここは駅のホームであると確認できた。看板には平仮名で『くらじ』と書かれている。そんな駅名、聞いたこともなかった。
(俺が知らないってことは、ここが終点なのだろうか?)
 俺は終点の駅に行ったこともなければ興味もなかった。だが、こんな駅名だったかどうか、違和感は残る。
(……ラジオも聞こえない。山の奥まで来ちゃってるのか)
 更に、普段帰りながら聞いているラジオも通じなかった。まぁ10年以上前の電波事情なんてたかが知れているし、自分の家ですらラジオにノイズが入るなんて当然な時代のことだ。ある意味慣れているというか、田舎者としては普通なことだった。
 きっと寝過ごしてしまったのだろう。仕方ない、と俺は駅から出た。ここが終点だとすれば、線路沿いに歩いていけば、その内自分の駅につくはず。ホームから出た俺は、駅の前の舗装されていない田舎道を、線路に添って歩き始めた。
 月はでているのに地面を照らしていないような、不思議な暗さ。虫の鳴き声や風が草木を揺らす音、そして、土を踏み歩く自分の足音だけが聞こえる。不気味で、不自然だ。だって、それ以外聞こえないっておかしいだろう? なんで駅の周りなのに、民家すらないのかと。それに気が付いてしまった俺は、叫びながら走って逃げ出したい気分になった。
 途中、線路とは反対側に鳥居があった。鳥居の向こう側には、如何にも急勾配な石階段が伸びている。最初、俺はその鳥居を無視した。怖いし、さっさと帰りたい一心だった。
 だがしばらく行くと、また鳥居があった。さっきと同じ、古ぼけた赤い鳥居。伸びている階段にも見覚えがある。これ、さっきも見なかったか?
 ゾッとした。暗いから見間違えたのかもしれない。それでも、よくわからない暗く不気味な空間を一人黙々と歩き続けて疲労していた俺に恐怖感を植え付けるのは簡単なことだった。
 俺は本当に怖くなって、走って逃げ出した。早く俺が降りるはずだった駅についてくれ。涙目になりながら強く願い、走った。
 けどまぁ、部活で相当疲れていたせいで、あまり長くは走れなかった。疲れで地面に座り込んだ俺の視界の先に、また赤い鳥居が見えたんだ。
(俺は山に食べられちまったのか?)
 同じ所をグルグル回っている感覚。単に神社が多い地域だったとしても、もうそろそろ山から下ってもいいはず。それだけの距離は移動した。だが、視界は開けない。
 鳥居の奥に伸びる石階段は急だが、高さもありそうだ。
(登ったら周りを見渡せないだろうか。大きな道でもあれば…)
 田舎とはいえ、隣町は市街地なのだ。ここはそのベットタウンとして人気だ。車通りは、決して少なくはない。車のライトくらいは見ることが出来るかもしれない。そうしたら、大体の現地点と家までの残りの距離はわかるだろう。
 しかし、急な石階段を必死に登りきっても、視界は開けなかった。巨木が空すら遮っていたのだ。より一層、不気味な空気に包まれた。だが、もう逃げ出す気力は残っていなかった。疲れすぎたのだ。重い足を引きずって長い階段を登ったのになんの成果も得られなかった。俺は動く気力を失って、その場に荷物を置いて座り込んでしまった。
 息を整えつつ、水でもないものかと周囲を見渡す。参道の奥には古ぼけた神社が見える。だがその神社も、崩壊寸前のようだ。巨木が神社を押しつぶすように伸びている。
 ここまで見渡して、ようやく俺は不思議に思った。
(下の道はあれほど暗かったのに、なんでここは、空も覆われているのに、視界がいいんだ?)
 思いの外明るい、というよりは、よく見える。勿論、それは「夜にしてはよく見える」というわけであって、決して明かりが灯されているというわけではない。まるで月に照らされているかのような明るさ。
 ハッとなった俺は石階段の下を覗きこんだ。ドス黒く巨大なモヤモヤが、ベタッ、ベタッ、と、這いずるように階段を登ってきているのが分かった。
 あまりの恐怖に、ヒィッ、と情けない声を上げて腰を抜かしてしまった俺は、尻餅をついたまま後ずさり、荷物を持って境内に避難した。
(神様助けてくださいお願いします!神様助けてくださいお願いします!)
 何度も願った。本当、orzみたいな体勢になって、頭の前で両手を握って、床に額をこすりつけながら死に物狂いで願った。
 ギ…
 と床を踏む音が聞こえる。
 驚いて顔を上げると、俺の目の前に、白いモヤモヤが浮いていた。
 不思議と、安心感が湧いてしまったのかなんなのか。俺はこの白いモヤに、泣きながら、縋るように助けを乞うた。この時の俺、安心感から泣いちまったんだ。今でも、なんでこのとき安心したのかはわからない。直感で、コイツは悪いやつじゃない、って思えたのかもしれない。あまりに追い詰められていて、もう判断力とか色々と狂っていただけかもしれない。ともかく俺はこの白いモヤに、こんな事があったんです助けてくださいって、泣きながら言ったんだ。
 俺の願いを聞き届けたのか、白いモヤモヤが俺に纏わり付く。ギュって、抱きつくように。暖かく、優しい抱擁だった。
 次の瞬間、俺は電車の中に居た。
「○○駅、○○駅です。○○駅の次は終点、終点☓☓駅です。お忘れ物のないよう…」
 聞き慣れた車掌さんのアナウンスが聞こえる。俺の降りるべき駅だ。俺は荷物を急いで担いで、慌ててホームへ降りた。いつもの見慣れたホームが、そこにはあった。
(戻ってこれた……助かったんだ……)
 安心した俺は、一人泣きだしてしまった。駅員さんに不思議がられたが、俺は涙を止めることができなかった。
 家に帰ると、両親と妹が心配してくれた。なんで泣いているのかを説明すると、妹は「変な夢でも見てたんでしょ」と茶化すのだが、特に父親の顔色がすぐれない。母も深刻そうな顔をして、どこかへ電話をかけ始めた。
「……お前は『クラジ様』に巻き込まれたんだ。詳しくは明日言う。明日は学校を休みなさい。」
 父はそう言って、よく帰ってきたな、と俺を抱きしめて泣きだした。俺も父親に心配してもらって嬉しくて、また泣きだしてしまった。妹だけが、何やってんだコイツら、と納得行かないと言いたそうな表情を浮かべていた。

 翌朝、俺と妹、両親とその親族3名、そして地区長(昔は村だったのが町と合併したため地区長と呼ばれている元村長)も交えて色々話を聞かされた。
 俺が遭遇したのは『クラジ様』という、この土地の神様が眠りから覚めた時に起こる現象だとされていること。クラジ様とは、クラとは倉=崖や断崖を意味する、ジ=神、である。崖神様とも呼ばれる。嘗てはこの地区に山を真っ二つにしたような美しい断崖があり、その上に神社が建てられていた事。そしてとある震災の時に山が崩落し、神社もろとも崩れ落ちてしまった事を聞かされた。
 地区長曰く、
「クラジ様とは、その崖に住んでいた神様。崖が崩れて以降は眠っておるようだが、度々起きては、悪さをしたり、時には災いを知らせてくれたりしておると言われておる」
 今回俺は、クラジ様の悪さに巻き込まれてしまったのだろう。クラジ様の悪さに巻き込まれて帰ってきた人は初めてじゃ、と俺お祖父ちゃんがボソッと言った時、背筋が凍る様な寒気がした。
 けど、少し気になる部分もいくつかある。俺は、自分が助かった時の様子を、洗いざらい説明した。すると俺のお祖父ちゃんが、ハッとして言った。
「その白い方のモヤモヤがクラジ様じゃ。赤い鳥居に急勾配の石階段、崖の上の、クラジ様を奉っておった神社と同じじゃ!」
 クラジ様は孫を救ってくれたのじゃ。そういってお祖父ちゃんは、山に向かって深々と礼を繰り返した。
「だとすると、坊やの言う黒いモヤは、なんだ?」
「何か災いが迫っているのかもしれん。用心するよう地区の皆に伝えなさい。」
「わかった。役所にも言っておく」
 何か爺さんたちだけで納得したように話が進められていき、その日の夜は宴会が営まれた。

 俺は、クラジ様という神様に救われたらしい、ということだけ分かった。あの黒いモヤモヤが何だったのか、今でも全くわからない。
 だがあの事件から2週間後、集中豪雨で地区の一部が浸水するという被害が出た。死者も出したくらい、ひどい被害だった。
 もしかしたら、あの暗い道=水の底、というイメージだったのかもしれない。ということは、あの暗いモヤモヤもクラジ様で、結局俺は、クラジ様に取り込まれていたのか…?
 
「もしかしたら、クラジ様は豪雨のことを伝えたかったんじゃないかなぁ」

 と言うのは隣町にあるお寺の住職。この人も親戚だったりする。霊感が特別強いというわけではないそうだが、そういった事象をよく耳にする人の意見は貴重だった。
 そして俺は、高校卒業と同時に家を出た。一度憑かれた者は、他のモノも寄せやすくなる。ここから出た方がいい、と住職やお祖父ちゃんからアドバイスも貰って、他県の大学へ進学したのだ。そして、同じ土地に5年以上は居ない方がいい、とも言われた。俺は普通の霊ではなく、大地や神様に憑かれた可能性が高いのだ。何故ならば、あの霊の知らせた災いが事故などの人災ではなく、豪雨という天災だったからである。神にとり憑かれたものは、それと同格なものを寄せてしまう。神とは自然そのものであり、その存在が人間に良い事をもたらすということはそう多くない。

「出来る事ならば、お前には死んでもらいたい。だが神に憑かれたものを殺すと、神に取り殺されるとも言う。それに孫に死ねというのも癪じゃ。……5年以上はいかん、いいな?」

 お祖父ちゃんの言葉を肝に据える必要が出たのは大学4年の時。『バイトから戻ってくると、部屋の家具の配置が変わっている。誰かが侵入した形跡なし』という現象が起きた。俺はすぐに、寄せてしまったモノの仕業だと理解できた。

「神様は奇妙な隣人だ。それ以外の何者でもない。その対象が自分から他人へ移る前に、自分からいなくなる必要がある。神様は土地に関わっていることが多く、遠くに離れられると効力も失うはずだ」

 お祖父ちゃんの言葉通りに、俺は4年に一度引っ越すという生活をしてきている。
 そんなお祖父ちゃんも昨年天寿を全うした。お葬式に出るために久しぶりに故郷へ戻る時、あの路線を利用した。俺の降りる駅の手前くらいのトンネルの中。座席に座る俺の隣に、白いモヤモヤが現れ、数秒で消えた。
(お久しぶりです。あの時はお告げを伝えることができず、申し訳ありませんでした)
 俺は心の中でそう謝罪した。確かに人の手で、頭を撫でられた感覚がした。あの優しくも暖かい抱擁に似た、懐かしさを感じさせるものだった。




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