「半年持たないかもしれません」 主人の余命がそう宣告されて二人で泣いた日、 「今日を最後に泣かずにいよう」と約束した。 彼は随分と憔悴した。 見せまいとしても、痛む姿を目の当たりにした。 彼は手術を受けると言った。 命が延びなくても、その延命手術を受けて死にたいと言った。 医学の役に少しでも立つならそうしたいと、「いいよね」と私に言った。 たぶん、それで死ぬことを分かっていたんだと思う。 手術を受ける前の日、家族で集まった。 お別れだと、誰もがわかっていたけど励ましてた。 彼の弟の子供、3歳になる私の甥っ子も、彼と笑って遊んでいた。 私は妊娠しづらい体質だった。 「焦らないでいいよ、時間はあるから」彼はいつもそう言っていた。 けれど、子供は出来ないまま、時間は余りに早く過ぎた。 彼は甥っ子の頭をくしゃくしゃに撫でながら抱き締め、 「リョウ。パパとママの言う事聞いて、いいコにすんだぞ。 じーじとおばあちゃんに優しくすんだぞ。マリともたまには遊んでやってな」 そう話していた。 リョウちゃんは彼にとてもなついていた。 彼は子供が好きだった。 子供を持てずに死んでしまう気持ち、両親に孫を抱かせてやれない気持ち、 彼の悔しさを思うと、涙が止まらなかった。 「大丈夫だよ、マリ。簡単な手術だから」 彼はそれでも、約束を守れなかった私に笑って言った。 面会時間の終わりが来て、別れが近付いた。 笑って病室を後にしよう、それは今日の約束だった。 けれどリョウちゃんは、彼のベッドにしがみついて離れなかった。 「にーにと一緒にいる。にーにと遊ぶ」 リョウちゃんは泣き叫んでいた。 私は泣いた。 彼の目にも涙が浮かんで、溢れて落ちた。 義父さんも義母さんも、義弟も義妹も、みんな泣いていた。 結局、手術は予想した通りの結果だった。 あの日病室で、みんなが帰ったあと、私は彼に言った。 「子供を産んであげられなくてゴメン。約束も守れなくてゴメン」 「幸せにできなくて、俺こそゴメンだよ。 でも、一緒になってくれてありがとう。本当にありがとな」 それが、彼が私に残した最後の笑顔だった。 その笑顔を見て、私はやっぱり泣くしか出来なかった。 「ありがとう」って、涙がボロボロこぼれた。 |
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