泣かない約束 (泣ける体験談) 43156回

2006/03/01 17:52┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
「半年持たないかもしれません」
主人の余命がそう宣告されて二人で泣いた日、
「今日を最後に泣かずにいよう」と約束した。

彼は随分と憔悴した。
見せまいとしても、痛む姿を目の当たりにした。
彼は手術を受けると言った。
命が延びなくても、その延命手術を受けて死にたいと言った。
医学の役に少しでも立つならそうしたいと、「いいよね」と私に言った。
たぶん、それで死ぬことを分かっていたんだと思う。
手術を受ける前の日、家族で集まった。
お別れだと、誰もがわかっていたけど励ましてた。
彼の弟の子供、3歳になる私の甥っ子も、彼と笑って遊んでいた。
私は妊娠しづらい体質だった。
「焦らないでいいよ、時間はあるから」彼はいつもそう言っていた。
けれど、子供は出来ないまま、時間は余りに早く過ぎた。
彼は甥っ子の頭をくしゃくしゃに撫でながら抱き締め、
「リョウ。パパとママの言う事聞いて、いいコにすんだぞ。
じーじとおばあちゃんに優しくすんだぞ。マリともたまには遊んでやってな」
そう話していた。
リョウちゃんは彼にとてもなついていた。
彼は子供が好きだった。
子供を持てずに死んでしまう気持ち、両親に孫を抱かせてやれない気持ち、
彼の悔しさを思うと、涙が止まらなかった。
「大丈夫だよ、マリ。簡単な手術だから」
彼はそれでも、約束を守れなかった私に笑って言った。

面会時間の終わりが来て、別れが近付いた。
笑って病室を後にしよう、それは今日の約束だった。
けれどリョウちゃんは、彼のベッドにしがみついて離れなかった。
「にーにと一緒にいる。にーにと遊ぶ」
リョウちゃんは泣き叫んでいた。
私は泣いた。
彼の目にも涙が浮かんで、溢れて落ちた。
義父さんも義母さんも、義弟も義妹も、みんな泣いていた。

結局、手術は予想した通りの結果だった。

あの日病室で、みんなが帰ったあと、私は彼に言った。
「子供を産んであげられなくてゴメン。約束も守れなくてゴメン」
「幸せにできなくて、俺こそゴメンだよ。
 でも、一緒になってくれてありがとう。本当にありがとな」
それが、彼が私に残した最後の笑顔だった。
その笑顔を見て、私はやっぱり泣くしか出来なかった。
「ありがとう」って、涙がボロボロこぼれた。
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