「タイムカプセルを開けた日」の続きです。 さくらと同居して2か月ほどたってから、結婚した。 結婚式はジミ婚にした。出席者はお互いの両親とさくらの店の唯一の店員の美樹ちゃん(仮名)。 美樹ちゃんはさくらの高校の部活(新聞部)の1年後輩で、当時からさくらとは大の仲良し。ちなみに見た目は。。。オタクっぽい。黒縁メガネのせいだと思う。ちょっと雰囲気が暗くて接客はさくらのほうがうまいけど、商品知識はさくらよりすごい。俺とはマンガの趣味が似ていて、話が合う。 さくらと結婚した後は、普段はさくらと美樹ちゃんがお店に出て、自分が家事全般と少しお店の経理をやっており、たまには店にも出るようにした。 定休日の前日はちょくちょく家で3人で飲んでいる。結構いい感じな日々だった。 さてそれから1年ちょっとたったころ、さくらが体の不調で病院に行った。 すると乳がんの疑いとのことで即入院となった。 精密検査をしたうえでお医者さんから説明があった。「病状はだいぶ進行しており、完治を目指すのはかなり難しい状態」とのこと。ただ幸い現状では症状は安定しているとのことで、なるべく痛みを抑えながら治療していくとのことだった。 さくらの希望で、お店で余っていたノートパソコンやUSBメモリとかをさくらの個室に運んだ。病室で暇な時はいつもパソコンに向かっているようだ。 さくらが入院したのでお店が美樹ちゃんメインになった。一人だと大変なので、俺は家事を控えめにしてなるべく店を手伝うことにした。その一方でお見舞いは20分ぐらいだけど、毎日行った。世間話とか、店の様子とか。常連さんの顔と名前がなかなか覚えられないと愚痴をこぼしたこともある。さくらはにこっと笑って、「わかった。なんとかする。」と言った。 次に見舞いに行ったとき、さくらは上機嫌だった。翌日の外泊許可が出たからだ。見舞いから帰る時に、「コースケの好きな色って何色?」と聞かれたので、「青だね」と答えた。 外泊の日。昼すぎに、さくらを病院に迎えに行った。今日は定休日だが、お店の打ち合わせとかもあるので、美樹ちゃんには午後から出勤してもらうことになっている。 帰宅して、久々に3人がそろった。美樹ちゃんがさくらにデパートの紙袋を渡していた。 さくらが「コースケにおみやげ。」といって、大学ノートを出した。「常連様メモ」と表紙に書いてある。中を開くと、お店の常連さんの名前・似顔絵・年齢・好きな商品ジャンル・好きな話題・嫌いな話題などが細かく書いてあった。さくらが「常連さんあってのお店だからね。まとめてみたから、これをとにかく覚えて。」と言った。その後、お店の打ち合わせをした。今後は美樹ちゃんが店長になる。美樹ちゃんは責任感で緊張している様子だった。 美樹ちゃんが帰ったあと、さくらが「ちょっと横になりたい」と言ったので、リビングに布団を敷いて休んでもらった。その間自分はさっきの「常連様メモ」をひたすら読んでいた。すごくきれいにまとまっていて、宝物にしようと思った。 夕食を食べて、少しおしゃべりをした後で、さくらが22時まで仮眠をとりたいといった。一緒に寝ようといわれたので、2人で眠った。 22時になった。交代でお風呂に入って、パジャマに着替えた。そして2階の寝室に上がって、ベッドに横になった。 さくらが小さな声で「抱いて。」と言ってパジャマを脱いだ。 パステルブルーの、セクシーな下着だった。 「美樹ちゃんに色とサイズだけ伝えて、買ってきてもらったんだ。派手すぎる?」 「いや、すごくきれいだけど、体に悪・・・」 「今度外泊できたら、絶対にこう過ごしたいって思ってたんだ。思い出作りだと思って、付き合ってよ。だめ?」 久々の、さくらの肌だった。 そのあとは、しばらく抱き合っていた。寝る前にさくらが自分をまっすぐ見つめて言った。 「コースケさ、生まれ変わっても、また私と結婚してね。おやすみ。」 闘病が始まってから、自分はさくらの前では涙を見せないことにしていた。でもこのときだけは泣いた。すごく泣いた。さくらが無言で自分の頭を抱きしめた。 翌朝、さくらは開店前のお店の売り場を周って、「いいお店だなあ」とつぶやいた。そのあと病院まで送った。 病院に戻って2週間ほど調子は安定していたように見えた。でも少しずつ体力は落ちていたのだろう。次の3日間、「こん睡状態」になった。見た目には眠り込んでいるようだった。でももう目は覚まさないのだろう。自分は病室に泊まり込んで、さくらの髪をなでたり、話しかけたりしていた。 そして「危篤状態」になった。お店は臨時休業にして、さくらのご両親と自分と美樹ちゃんで病室に詰めた。 やがてその時が来た。お医者さんが臨終を告げ、握っていたさくらの手が少しずつ冷たくなっていった。 この時、自分は泣かなかった。涙は外泊の時に出し尽くしたのかもしれない。 病室を引き払う時に、さくらの荷物に「美樹ちゃんへ」と書いてあるUSBメモリがあったので、美樹ちゃんに渡した。 通夜、葬式、火葬を終えて家に戻った。お店はとりあえず1週間臨時休業にしていた。 何もする気が起きず、食欲も全くなかった。丸2日間ほどこんな状態だった。 次の日、家のチャイムが鳴った。美樹ちゃんだった。 一瞬、美樹ちゃんと気づかなかった。コンタクトにしていたからだ。「シュークリーム買ってきたんで。。。食べませんか?」と言った。 とりあえずシャワーを浴びて、着替えた。そのあとシュークリームを食べた。おいしかった。 ちょっと落ち着いたところで、美樹ちゃんが「さくらさんのUSBメモリに私あての手紙があったんで、プリントアウトしてきました。読んでいいですか。」とたずねた。 うなずくと、美樹ちゃんが読み上げた。こんな内容だった。 「美樹ちゃんへ いろいろお世話になったね。本当にありがとう。 店長は大変だけど、やりがいがあるよ。きっと面白いはず。 私は闘病を始めてから、心残りがないように行動してきました。お店は美樹ちゃんに引き継いだから、きっと大丈夫。1人だと大変だからコースケをこき使ってやってください(笑)。 唯一の心残りはコースケです。なぜかというとコースケはきっと、私に遠慮して生涯再婚しないとか言いそうだからです。でも人生まだ長いし、生きていれば楽しいことはこの先きっとあると思います。 そこで相談ですが、よかったらコースケをもらってくれませんか。もちろん美樹ちゃんの気持ちが最優先だけど。でも私のカンでは美樹ちゃんはコースケのことはちょっと好きなんじゃないかな?そんな気がしてます。それにコースケも美樹ちゃんのことを気に入ってるよ。2人はいい組み合わせだと私は思います。 もし美樹ちゃんがその気なら、この手紙を読んであげてください。そうでなければ、そっと捨ててください。 P.S.コースケへ おせっかいすぎたかな。でもコースケは誰かが背中を押さないとね。うん。」 手紙を読み終えて。美樹ちゃんが「私は。。。その気ですけど、コースケさんの正直な気持ちを教えてください。」と言った。 自分はしばらく考えて、「1年間、時間が欲しい。美樹ちゃんのことは確かに好きだけど、今はまださくらを一人にするようで、先には進めない。さくらの一周忌が済んだら、俺から改めて気持ちを伝えたいと思うんだ。それまで待ってもらってもいいかな。」と言った。 それから1年間、2人で仕事をしているうちに少しずつ気持ちが通い合っていくような気がした。 さくらの一周忌が済んだあと、美樹ちゃんに結婚を前提に付き合ってほしいと言い、美樹ちゃんはうなずいてくれた。その1か月後に結婚した。最初にさくらの墓前に報告した。 やがて、子供が欲しいと美樹ちゃんがいった。自分はためらっていた。メンヘラーに父親が務まるのか不安だったからだ。でも美樹ちゃんは笑顔で「ちっちゃいコースケさんか、ちっちゃい私が生まれてくるんですよ。きっとかわいいですよ。」と言った。 そして娘(チビミキ)が生まれた。やっぱかわいい。美樹ちゃんの小さいころの写真を見ると確かにそっくりだ。うちの両親も孫はすっかりあきらめていたので大喜びだった。 お店の定休日はチビミキをベビーカーに乗せて、3人で近所の公園に行くことが多い。そのそばにさくらのお墓がある。 こないだ公園に行くときに、美樹ちゃんが「あいさつして行こうね」と言って、3人で墓参りをした。 美樹ちゃんがチビミキに「チビミキのもうひとりのお母さんだよ。大きくなったらいっぱいお話ししてあげるね。」と話しかけた。 自分は幸せ者だと思った。 出典:なし リンク:なし |
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