イカの沖漬け (アニメキャラの体験談) 8015回

2015/03/29 22:41┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
イカの沖漬けとは、本来沖で釣った生きたままのイカを漬けダレに入れ、
イカがタレを飲むことで中まで味が滲み込みおいしくなるのだという。
その話を聞いた私は、さっそくミニイカ娘の"沖漬け"作りに挑戦してみた。

醤油に砂糖、みりんや酒などを混ぜ、最後に小エビの切身を入れて数日置き、まずは小エビの沖漬けを作る。
そしてミニイカ娘の身長とほぼ同じ高さのタッパーにタレを入れ、ミニイカ娘がよく出没するという某浜辺へ。

餌の小エビを放置してしばらく様子を伺うと、さっそくミニイカ娘が一匹現れた。
嬉しそうに「ゲソ、ゲソ♪」と鳴き、餌をあむあむと食べるミニイカ娘。
そこへ私が姿を現すと、ビックリして「ゲソ!?」とエビを落としてしまった。やはり野生は人間馴れしてない。
「ハワワワ…」と震えて駆け出そうとするミニイカ娘に、私は手の平に乗せたエビをそっと差し出す。
ミニイカ娘は警戒しながらも、触手をそぉーっと伸ばしてエビと私の手に触れる。
私がそのままの姿勢でいると、ミニイカ娘は緊張した様子でゆっくり近付き、その短い両手でさっとエビを奪った。
そのまま「ゲソ、ゲソ!」とトコトコ駆け出し、離れた位置で座り一心不乱にエビをパクつく。
すぐに食べ終わったミニイカ娘はこちらに振り返り、もっと欲しそうな表情を浮かべ「ゲソ…」と呟いた。
私はエビを一つ持ち上げて、プルプル振ってやる。言葉のいらない"良いんだよ"のジェスチャー。
それを見たミニイカ娘は、パァッと輝くような笑顔になり、「ゲソ!」と元気良く鳴くとトコトコ近寄って来た。
上を向き、まずは私のつまみ上げたエビをパクり!とやると、次は手の平のエビを「ゲソ!ゲソ!」と急いで食べだす。 
笑顔でエビを頬張るミニイカ娘を見ながら、もう警戒心は解けただろうと判断した私は、
エビが最後の一つになったところで、空いた片方の手でそっとミニイカ娘を掴む。
胴に手を回された瞬間、また「ゲソ!?」と驚いてエビを落としたが、すかさずもう片方の手で
それを拾って渡してやると、ミニイカ娘は再び「ゲソ〜♪」と上機嫌に戻った。
そのまま優しく握って持ち上げ、エビを食べ終えて満足そうなミニイカ娘のお腹をくすぐってやる。
すると「キャッキャッ」とはしゃぎ、触手をこちらの指に絡めてきた。
こうした例えるなら人間の子供のような無邪気さが、ミニイカ娘の人気の秘訣なのだろう。

もう完全に打ち解けたようだ。私は傍らのバッグからタレを入れたタッパーを取り出した。

このタッパーにはミニイカ娘のおよそ顔半分、鼻の上ほどの高さまでタレが入っている。
これは泳げないミニイカ娘の習性を利用しており、
中に入れられたミニイカ娘は溺れまいと必死タレを飲むのだ。

私はタッパーの蓋を開け、掴んだミニイカ娘をそれに近付けた。
ミニイカ娘は最初タッパーを見て、また何かもらえるんじゃなイカと嬉しそうだったが、
中の得体の知れぬ濃い茶色のドロりとした液体を見ると「ゲソ…?」と不思議そうな顔をした。
そしてむわっと広がった醤油の臭いに鼻をひくひくさせると、不快なのか「ゲソ!ゲソ!」と鳴きだした。 
私は素早くタッパーの中にミニイカ娘を押し込もうとした。
ミニイカ娘の足がちゃぷんとタレに漬かった瞬間、異変を察知し「ゲソッ!ゲソッ!」と大声で暴れ出した。
その必死な表情が面白く、私は力を緩めてしばらく抵抗の様子を眺めることにした。

十本の触手をまるで人間の手のごとく広げ、タッパーの淵をグイグイ押すミニイカ娘。
「ゲソォ〜ッ!」と唸りながら、手の中で必死に体をよじらせ、短い両腕を叩き続けるミニイカ娘。
それはまさに全身全霊、顔は気張って真っ赤に染まり、目を見開き「ゲェショォ〜ッ!」と変な声が漏れている。
しかし徐々に疲れてを見せ、ハァハァとだらしなく舌を出すと、口をすぼまし頬がむくっと膨れだした。
「お、吐くか?強く握り過ぎたか?」と私が思うと、ミニイカ娘は突然目をつむり、
私の顔めがけてスミをブブーッ!と吐き出した!

そうだった!連中にはこの能力があった!私は怒るよりもまず
すっかり忘れていたミニイカ娘の常識を思い出し、少し可笑しくなった。
確かミニイカ娘のスミ吐きは広範囲ではあるが量も少なく飛距離も無いのが特徴だ。

私はしばらくこの発見を観察していたが、スミで汚れた袖を見たら呆れにも似た怒りが湧き、
息継ぎのためミニイカ娘がスミ吐きを止めた瞬間、一気にタッパーの中へ押し込むこんだ。 
息(スミ?)継ぎのため大きく息を吸おうとしてたミニイカ娘は、
そのままタレを飲み込んでしまい沈み際に「ゲジョポッ!」と鳴いた。
私はバシャバシャと暴れまくるミニイカ娘を必死にタレの中に押さえ込み、
タッパーの淵を掴む触手を指で弾くように急いで落とすと、急いで蓋を閉めた。
パチンッとタッパーが閉まった瞬間、中でミニイカ娘が「ゲボォッ!」と一際激しく暴れた。
見るとタッパーの淵に残ってた二本の触手が、蓋を閉めた拍子に切れていた。もったいない。

ミニイカ娘は「ゴボッゴボォッ」とタレに溺れながら、必死に大暴れしている。
十本の触手が逃げ場を探して狭いタッパー内をミミズのように踊る様は見ていて気持ちが悪い。
触手が蓋を内側から押すので、私はガムテープでしっかり補強をしなければならなかった。
タレは顔半分の高さまでだが、暴れたせいで目に入って開けられないのだろう、それが混乱に拍車をかける。
かなり長い間暴れているので、このままミニイカ娘が溺死してしまわないか不安だったが、
よく見ると喉がぐびん、ぐびんと激しく動いており、タレをちゃんと飲んでいるようだ。

徐々にタレの高さが引いていき、ついにミニイカ娘の顎までとなった。
ミニイカ娘は「プヒャアッ!」と情けない声をだして顔を上げると、
肩で「ハァッ!ハァッ!」と息をしながら短い両手で必死に目をこすり、
やがて真っ赤に充血した両目を開いて、狂ったようにタッパー内をぎょろぎょろ見回していた。
それを眺める私と目が合うと、ミニイカ娘は一瞬ビクッとなり、「ゲショォ…」と怯えた声で鳴いた。
「出してくれ」と哀願してるのだろうか、その目には涙が溜まってきている。
少しは落ち着いたかな? 
自然界には存在しない濃い醤油をガボガボ飲んだため、ミニイカ娘は喉を痛めたようだった。
「ゲジョッガボッ…ゼー…ヒュー…」と、喘息患者のような苦しそうな息をしている。
だがこれで終わりじゃない、お前には新鮮な内からタレを飲み続けてもらわねばならない。
この浜辺から私の家に帰って新たにタレを足す、その僅かな間にでもだ。
予備のタレは持ってきてなかったが、その方法はもう考えてあった。

私はミニイカ娘をじっと見つめると、突然タッパーを正面からバンッ!と叩いた。
「ゲジョォッ!」とミニイカ娘が悲鳴を上げると、今度はすかさずタッパーを前に倒す。
「ゲゴボアッ!」と顔からタレに倒れこんだミニイカ娘が溺れると、そのまま正面からパンチ!パンチ!
再びミニイカ娘が激しく暴れ出すと、突然タレがジョワァ〜と黒く濁り出した。
そう、ミニイカ娘がスミを吐いて抵抗しているのだ。
タレとスミが混ぜ合わされば、さらに美味しくなる。
私はタッパーを叩いたり、起こしたり倒したりを何度も何度も繰り返した。
その度にミニイカ娘は「…ップ…!ゲジョッ…!ヒアァッ…!」と鳴き喚き、
タレから顔を上げてスミを吐き、溺れ、タレの中でスミをぶちまけ、さらに飲んだ。
私がタッパーを起こすと、ミニイカ娘は自らの吐いたスミで増量したタレで再び足掻いていた。

さて、そろそろ家に帰ろう。私が最後の仕上げにタッパーを上下に激しく振ると、
ミニイカ娘は「…ジョッ!ゲッ…!…ジョワァッ!プビャァッ…!」とかつてない狼狽ぶりを見せた。
そのまま無視してスミとタレがよく混ざるようしばらく振り続けると、ついに何も言わなくなった。
どうやら気絶したらしい。

私はタッパーをバッグに入れ、帰路についた。 
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帰路の途中、歩きによる揺れで顔にタレがかかるのだろう、その度にミニイカ娘は
「…プハァッ!!…ゲジョッ!ゴホッ!」と目を覚まし、うるさく暴れまくるため
私は何度も足を止めてタッパーを振らねばならなかった。

家に着くと机の上にどんとタッパーを置いてやる。
中のミニイカ娘は「ゲボァッ…!」と溺れかかっていたが、やがて苦しそうに
ごくん、ごくん、と喉を鳴らしてタレを飲みだし、ついに顎の高さとなった。
私はミニイカ娘をこの環境に慣れさせるため、しばらく放置して観察することにした。

中のミニイカ娘は始め、見慣れぬ人家の景色に「アワヮヮ…」と辺りを見回していたが、
タッパーが安定したためか、徐々に落ち着きを取り戻してきていた。
泳げないミニイカ娘にとって、全身のほとんどを液体に浸かるのは不快なのだろう、
出口を求めて十本の触手が必死にタッパーを内側から撫でている。
天井が開くというのは認識しているようで、特に蓋と壁面の境目を先端でまさぐっていた。
そのうちの二本の触手だけは先がちぎれて醤油がしみるらしく、動きが弱々しい。
顎の高さまであるタレは、ミニイカ娘が少し体を動かすと波となってすぐ口や顔にかかり、
その度にミニイカ娘は「…ップハァ!ゲショッ…ゴホッ…」と咳き込む。
そうした事態を避けようと常に顔をやや上に向けているため、首の筋肉が張り詰めていた。
私は"いっそ喉の高さまで飲んだら楽なのに"と思ったが、野生のミニイカ娘にとって
濃い粘性の醤油ダレは自然界には無い毒物のようなものなので、極力飲みたくないのだろう。
タレに漬け込んでから一日近くが経過した頃、
中のミニイカ娘は苦しそうに「ウ〜…ウゥ〜…」と唸ったかと思うと、
「げ〜じょぉ〜……げぇぇじょおおぉ〜……」と人間の子供のように泣きだした。
お腹がすいたのである。

私はタッパーにそっと近寄り、聞き耳を立ててみた。
ミニイカ娘のぽっこりとしたお腹から、ぎゅるる…と変な音がする。
紛れもない空腹の音だ。
私を見上げたミニイカ娘の顔はすっかりくしゃくしゃになっており、
充血は引いてきたものの若干腫れぼったくなった両目から涙を流している。
それはお仕置きで閉じ込められた子供が、出してくれと懇願する表情そのものだったが、
今このミニイカ娘は、解放よりも空腹を満たすことの方がお望みのようだ。

私がタッパーの底の方をトントンと叩くと、ミニイカ娘は「げしょ…?」と下に視線を走らせた。
タレの見えない底に転がる、いくつもの違和感。
タッパーを持ち上げカタカタと小さく揺らすと、ミニイカ娘は「げしょっ!げしょ!」と
溺れないように必死に足をかき回している。
そのときに踏み付ける、柔らかいコロコロとした物。
それはあらかじめ入れておいた小エビの沖漬けだった。
ミニイカ娘が踏んづけ蹴飛ばす度に、小エビはゴロゴロと浮き沈みしていた。
思えば浜辺や帰路で散々タレをかき回したのだから、中に何かあるのは分かったはずだ。
だがこの小エビはすでに何日もタレに漬かり、色や臭いは完全に別物となっている。
そもそもこの状況に混乱していたミニイカ娘が、その正体に気付かないのも無理は無いだろう。

私は何度もタッパーの底を叩いて示したが、ミニイカ娘は「げじょおぉ〜…げぇじょぉ〜…」と
泣いてばかりで、一向に足元の小エビに興味を示さない。
泣き声は徐々に大きくなり、私は怒りを感じて一気にタッパーの天地を引っくり返した!

「ピアッ…!!」ミニイカ娘は情けない悲鳴の途中で頭からタレに突っ込み、
そのままゴボガボッと溺れだした!
今まで一番激しい大暴れを演じ、頭を埋めるようにゆっくり沈んでくる小エビの山を
短い両腕で必死に掻き分け、触手は掴めるところを探して上へ下へタッパーをつるつると引っ掻く。
まるでブレイクダンスのヘッドスピンでもやろうとしてるように、ミニイカ娘は
頭を重心に全身をくねらせ、口からはジェットバスのように激しく気泡が上がっていく。
面白いのでつい眺めていると、突然口からブシャアとスミが広がったため、慌てて元に戻した。

ミニイカ娘は「…ブハアァッ!!」とタレから勢いよく触手ごと顔を飛び出させ、
「ッ…ハァーッ!ハァーッ!」と死に物狂いで息を喘がしている。
頭に乗った小エビが目の前にポチャンと落ちると、「ピャッ!」と奇声を上げて
必死に後ろに下がろうとしていた。切れ目の隙間に空気が入ったのか、
そのまま浮かんでいる小エビを、ガクガクと体を震わせながら凝視していた。 
いけないいけない、餌どころでは無くなるところだった。

少し放置して様子を見ていると、空腹が現実に引き戻してくれたのだろう、
浮かんでいる物体に何かを感じたようで、恐る恐る触手で突き始めた。
鼻がひくひくしているのを見た私が、小エビをタッパー越しにトントンと叩くと、
ミニイカ娘はまたビクッ!として怯えた目をこちらに向けたが、すぐに小エビに視線を戻した。
触手で少しずつそれを引き寄せ、それをそっと両手で掴み、正体を見極めんと絡んだタレを落とす。
まだ顔面は蒼白で体はプルプルと小刻みに震えていたが、その目には輝きが戻ってきていた。
タレを落としたそれは茶色く変色していたが、その形は紛れも無い大好物のそれだ。
ミニイカ娘はそれに鼻をくっ付けて、その臭いを大きく吸い込むと、
始めは「…オェッ!ゲホッ」と咽せたが、すぐにまた鼻を付けてひくひくと嗅ぎだす。
目はカッと見開き、無我夢中で醤油の臭いから僅かなそれの香りを探る。
この絶望の状況からささやかな希望を見出すように。
やがて遠慮がちに一口かじると、またすぐに「ゲェッ」とそれを口からこぼしたが、
手に持ったそれの断面から茶色い層に包まれたピンクの芯を見ると、迷い無く食べ始めた。

最初の小エビを食べ終えるとタレの底に目をやり、
足を蹴り上げて他の小エビを浮かそうとするが、浮いてこなかった。
ミニイカ娘は底に両腕を伸ばすと、「ゲソォ〜!」と唸って必死に小エビを取ろうとするが、
どう足掻いても届かない。この期に及んでもタレに潜るのは嫌らしい。
やがて気付いたように触手を伸ばして、ぬるぬると滑る小エビと格闘を続けた後、
四本もの触手で巻き付けるようにして小エビを掴むと、タレを落としながら夢中で食べだした。
ミニイカ娘は同じ要領で小エビを次々と拾い上げ食べていく。
やはりタレの染み込んだものは堪えるのか、途中何度も「オエッ」と嗚咽を漏らすが、
それでも一心不乱に小エビをかじり続けていた。

私はその様子を見ながら、浜辺でこのミニイカ娘に出会ったときのことを思い出した。
あの時ミニイカ娘は、私から小エビをもらうと喜び、笑い、「ゲソー♪」と鳴いていた。
もしこのミニイカ娘がタレの中から小エビを見つけたなら、
あの時と同じようにとはいかなくても、もっと喜ぶものだと思っていたのだ。

それがどうだろう、今このミニイカ娘は自らの状況も眼中に無く餌を貪っている。
口の周りはタレと小エビのカスで汚れ、繰り返される嗚咽の反応で目には涙が浮き、
「ゲボッ」「オェッ」「ゲェッ」と汚い不快な声を出しながらも、一向に食べることを止めない。
ろくに噛まずに痛めた喉に慌てて餌を詰め込むため、飲み込むのさえ苦しそうだ。
一般に知られる愛玩動物ではない、動物の本能を曝け出したミニイカ娘の姿がそこにあった。

やがてミニイカ娘は食事のペースが徐々に遅くなり、「フゥ…フゥ…」と息を切らすと、
食べかけの小エビをちゃぷんと落とすと、耄けたように目をしばたかせながら辺りを見渡した。
どうやら満腹になったことで興奮が冷め、現実に引き戻されたようだ。
顔を上げてタレに体を揺らしながら、「げそ…げそ…」と不安そうに小さく鳴いている。 
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それからしばらくのち、ミニイカ娘をタレ漬けにしてから丸一日が経った。
タレの中でもミニイカ娘はそう簡単に溺死しないと判断した私は、新たなタレを足すことにした。
冷蔵庫から醤油の空きボトルに入れた自家製ダレを取り出し、タッパーへ向かう。

ミニイカ娘は相変わらずタッパーを触手で撫でながら、キョロキョロとしている。
私がタッパーを掴み、その上部に手をかけると「ゲソッ!?」と驚いて、慌てて触手を引っ込めた。
固く封をしているガムテープをベリベリッ!と剥がすと、
「ヒィィ」と怯えて触手と両腕で頭を抱え、目をつむって震えている。
だが、蓋の半分ほどがカパッと開くと、ミニイカ娘は片目を上目遣いに開け「…げそ?」と鳴いた。
上から覗き込む私と目が合うと、解放されると思ったのか「ゲソー!ゲソー!」と両腕を振ってアピールしている。
私がタレを注ごうとした瞬間、「ゲソ!」と間髪入れずに触手が六本サッと外へ伸びてきた。
私は慌ててボトルを置き、タッパーの開け口を広げようとしていたその触手をまとめて掴んだ。
すでにミニイカ娘はタッパーの淵に掴まり、「ゲソ〜!」と外に這い出ようとしている。
どうやらここから出るのは当然で、私の機嫌を見たり許可を得ようという考えは毛頭無いらしい。
私が急いで蓋を押さえ込むと、負けじと「ゲショォ〜ッ!」とその大きな頭で蓋を押し開けようとしてきた。
隙間から四本の触手が伸び、私の両手に巻き付いたり叩いたりと攻撃してきたが、
そのうち二本は先端が切れている上、タレが染み込んで具合が悪いらしく弱々しかった。
私は蓋を力いっぱい押し、ミニイカ娘の触手と淵を掴んでいる両手を思い切り挟んでやった!

グシャッ!!! 「ゲショォッ!!」 

ミニイカ娘は悲鳴を上げながらタッパーの中へボシャンッ!と落ちた。
ちょっと人間の本気の力を出し過ぎたかな?
押した際ミニイカ娘の両手の骨らしいゴリッとした感触があったので、最悪折れたかも知れない。

私は片手で触手の束を掴んだまま、もう片手で急いでボトルを取り、
「プハァッ!」とタレから顔を出したミニイカ娘の頭上にボトボトかけてやった。
「ゲジョァッ!」、驚いたミニイカは滑って再びタレの中に落ちたが、
またすぐに顔を上げ、目も開けられず必死に「アプッアプッ」と空を掴もうとしている。
徐々に徐々に水位は上がっていき、私は触手を中に押し込むと素早く蓋を閉めた。
ブチュゥッと変な感触がし、見ると触手が一本切れずに潰れるようにして蓋に挟まっていた。

ミニイカ娘はタレに溺れながら、両腕を上げ必死に脚を掻き回していた。
底にたまった小エビに足を乗せる度、小エビの山が崩れてさらに溺れている。
触手が連なって蓋を開けようとしていたが、私は手でしっかり押さえながら再び封をした。
慌てていたため足したタレの量が少なく、水位が顎にかかる高さとなるのはすぐだった。
しばらくするとミニイカ娘は「ガハァッ!…アハァッ!ハァッ!」と顔を上げて呼吸をし、
何度も咳き込みながら、両目をグチャグチャと必死こすっている。
腫れて充血した両目を開くと、先ほどの出口を求めて上ばかり虚しく見回していた。 

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ミニイカ娘は狂ったように蓋を見回していた。
タレがよほどしみるらしく何度も目をこすっているが(そんなにこすると却って悪くなるだろう)、
よく見ると手を使わずに、曲げた手首の関節でこすっている。
両手に重大な怪我をしたことは間違いないようだ。

やがてミニイカ娘は、自分の両手をこわごわと観察しだした。
やはり骨をやられたらしく、両手はパンのようにむくれ、半開きのまま固まっている。
ミニイカ娘は痛みに耐えながら、懸命に握ったり開いたりしようとしていたが、
両手は小刻みに震えながら、指が弱々しく動くだけだった。
長い寿命を持つミニイカ娘だが、恐らくコイツは今まで骨折した事が無かっただろう、
外傷も無いのに激痛がし、思い通りに動かない両手にショックを受けたように呆然としている。
その目には、初めて経験する類いの痛みに対する怯えの色が浮かんでいた。

ミニイカ娘という生き物は好奇心の旺盛さで知られるが、
その特徴がこの状況下でも発揮されていることに、私は呆れながらも感心した。
しばらくするとミニイカ娘は思い出したように天を見上げ、
「げそ…げそ…」と蓋に向かって触手を伸ばし始めた。まだ脱出を諦めていないようだ。
触手が蓋をまさぐろうとすると、一本だけがピンと張って動かない。
ミニイカ娘は「げそ?」とその違和感に振り返り、目に入った光景に顔をしかめた。
先ほどの蓋に挟まれた触手である。

ミニイカ娘は「んっ、んっ」とその触手を引っ張ってみるが、
潰れた肉が蓋の溝とタッパーの淵にしっかり挟まり、びくともしない。
焦ったミニイカ娘はさらに触手を両手で掴み同様のことを試みたが、
骨折した手では満足に握ることも出来ず、つるつると滑るだけだった。
「キィィ〜ッ!」とミニイカ娘は涙目になって癇癪を起こし、他の触手も伸ばして
挟まった触手に巻き付かせると、意を決して「ゲソォッ!」と引っ張った。

「んんんいいぃぃぃっ……!、げそそそおおぉぉぉぉっ……!」
ミニイカ娘は歯を食い縛り、顔を紅潮させて痛みに耐え、首筋には血管が浮いている。
挟まれた触手は絞られるようにギュゥッと細くなり、ミシミシと音を立てていた。

しばらく押し問答が続き、疲れの見え始めたミニイカ娘が渾身の力を込めて
「ゲッソオォッ!」ともう一踏ん張りすると、触手はついにブツッ!!と切れたのだった。 
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「ゲソッ!?」ガンッ!!
触手が切れた反動でミニイカ娘は後ろに倒れ、後頭部をタッパーに激しく打ち付けた。
そのまま足を滑らせてタレの中に沈んだが、すぐに「…ガハァッ!」と起き上がった。
「げそぉ…」、ミニイカ娘は打ち所をさすろうと両手を後頭部に回したが、
誤って骨折した箇所を触れさせてしまい「ヒギッ」と鳴いた。

両手の代わりに伸ばした二本の触手で後頭部をさすりながら、
ミニイカ娘は先ほどの切れた触手の様子を観察しだした。
挟まれた箇所は潰れて幅が二倍に広がり、その先端は千切れた肉がほうきのように垂れている。
触手が挟まっていた蓋の溝には、繊維状になった青色の肉片がつまっていた。
ミニイカ娘の触手は切れても速ければ一日で再生することが出来るというが、
こうも原型を留めずにグシャグシャになっては、それも難しいのではないだろうか?

ミニイカ娘はその触手を悲しそうに眺めていたが、「…うっ…うっ…うううぅ…」と嗚咽を漏らすと、
「ゲソーッ!ゲェソーッ!ゲーソーッ!ゲェソオーッ!!」と大声で泣きだした。
余りにもうるさいので、私がタッパーをガンッと叩くと、ミニイカ娘も負けじと
イカスミをブブーッ!と吐き出す。それでも泣き止まぬミニイカ娘に、私はさらに
タッパーを激しく叩くが、ミニイカ娘はやはりイカスミを吐いて泣き喚くだけだった。
もはやこれはミニイカ娘と私の意地の張り合いである。 
「ゲーソオーッ!ゲェソォーッ!ゲェーソオーッ!、ブブーッ!!ブゥーッ!!」
なおもうるさく泣きイカスミを吐き続けるミニイカ娘に、私の堪忍袋の緒も限界だった。
頭上から千枚通しを突き刺して一気に殺したい衝動を抑え、タッパーを掴んで激しく振る。
「ゲジョアアアッ……!……アップ!…………ップ……ッ……!」
タレのバシャバシャ混ざる音と共に、ミニイカ娘が頭や体を打ち付ける音が何度もしたが、
私はもはや奴がこのまま死んでも構わないつもりで、ひたすらタッパーを振り続けた。
やがて何も言わなくなったので、死んだか気絶したと思いタッパーを置いて中の様子を見ると
ミニイカ娘は目一杯伸ばした触手で顔と全身を覆い、縮こまって震えていた。
どうやら観念したらしい。私はタレのボトルを冷蔵庫に戻した。

今は夕方の6時過ぎ、これからは6時間おきにタレを足してやるつもりだったので
夜の12時になるまではあえてタッパーに近寄らず、遠巻きに見張ることにした。

しばらくするとミニイカ娘は触手の隙間から「…げそ?」と片目を覗かせた。
恐る恐る触手を解きながら顔を上げ、私の姿を探している。
私がタッパーより遠くにいて、どうやら危険が去ったらしいことを認識すると
最初は大人しくしていたが、やがて気を紛らわすように底の小エビを食べ始めた。
骨折した両手では持ちにくく、何度も落としては「ゲソッ…ぐぬぅ…」と悪戦苦闘している。

それから夜になるまでの間、タッパーからは出口を探して触手が撫でるツルツルという音と、
何をしているのかは分からないが「げそ…げそ…」という声が時折聞こえてきていた。 
夜の12時となり、私は就寝前にタッパーにタレを足すことにした。
私にも自分の生活があるので、しばらくタッパーを気に懸けていなかったが、
外が暗くなり始めた頃から先ほどのような触手の音も声も聞かなくなり、
代わりに時折パシャッというタレが跳ねる音と、その度に
聞き取れないほどの小声でミニイカ娘が短く鳴くだけだった。

私はボトルを持つとタッパーに近付き、中のミニイカ娘の様子を伺ってみる。
見るとミニイカ娘は、とても眠そうに頭をゆらゆら揺らしていた。
タッパー内のタレはミニイカ娘が立った姿勢の顎までの高さがあった。
熟睡するにはこのミニイカ娘が座った姿勢の安全な高さまでタレを飲めば良い話だが、
さすがに量が多過ぎるし、私も減らしてやる気は一切無い。

ミニイカ娘の目は虚ろで、ぼんやり開いた口からは呪詛のように「ぇ…げ…」と声が漏れている。
上体がふらふら揺れる度、それにつられて不釣り合いに大きな頭も振り子のように揺れる。
時々膝を折ってガクッとタレに落ちそうになるが、すぐに「げそっ」と立ち直り、またゆらゆら。
それは満員電車の中で立ったまま寝る人間のようで、実に可笑しかった。

そんなに辛いならいっそ起こしてやろうと、私はタッパーの蓋をベリベリと開ける。
ミニイカ娘は「ぇそ…?」とこちらに顔を上げたが、眠過ぎてまともに物事を認識出来ないのだろう、
ボトルを頭上にかざしても、ボンヤリとそれを眺めているだけだった。
ミニイカ娘の頭上から一気にタレを注ぐと、「ゲショーッ!」と驚いて
触手で頭をガードしている。どうやら目は完全に覚めたようだ。
どんどんタレの水位が上がっていき、ついにミニイカ娘はあっぷあっぷと溺れだした。
私は急いで蓋を閉めて、ボトルを冷蔵庫に戻す。
それからタッパーの様子を見ると、ミニイカ娘はまだ溺れていたが、
やがてごくん、ごくんと喉を大きく鳴らしがらタレを飲み始めた。
以前と比べると素早い反応だ。飲んで水位を下げるという対処法を分かってきたようだ。
再びタレは顔を出せる高さとなり、ミニイカ娘はプハッと顔を上げた。
両目を手首でグチャグチャこすると、うつむいて「ひっく…ぴぃ…ぴぃ…」と
あまり聞いたことのない、堪えるような声ですすり泣き始めた。
おそらく普通にゲソゲソ泣いたら、また私を刺激することになると思ったのだろう。

私は明かりを消して寝ることにした。
夜の暗闇の中から、ミニイカ娘のすすり泣く声がまだ聞こえている。
ミニイカ娘の一日の生活サイクルは、人間やその他多くの動物と変わらないものだろう。
その一日の全てが拷問のような過酷な環境で過ぎた。
夜になっても自分には寝る暇すら与えられぬという現実に、悲嘆に暮れている。
しばらくすると、ミニイカ娘は小声で「げぇそぉ〜…げぇそぉ〜…」と鳴き始めた。
それは仲間を呼ぶ声だった。
ミニイカ娘は他の動物と比べて、より人間に近い豊かな感情を持ち、個々の結びつきも非常に強い。
同じ種族同士でとても仲が良いことで知られ、野生下では群れのようなものを結成する。
日中はそれぞれが思い思いに過ごし、夜は隠れ家に仲間達と集まって皆で寝る。
その夜になって孤独が身に沁みたのだろう、このミニイカ娘は仲間達が愛おしくて仕方が無いのだ。

やがて鳴き声も徐々に間隔が遠くなり、そのうち聞こえなくなった。私もそのまま眠りについた。
夜中に何度かミニイカ娘がタレに沈んでバシャッと跳ねる音で目が覚めることもあったが、私は無視した。 
翌朝、目覚まし時計のアラーム音で私は目を差ました。
時刻は6時、ミニイカ娘にタレを注ぐ時間だ。目覚めは最高に良い。
まずは自分のことを諸々こなすと、冷蔵庫からボトルを取り出しタッパーへ。
ミニイカ娘は昨夜よく眠れたかな?まだ起きてるかな?といらぬ心配をする。
もちろん、同情心など欠片も無い。

タッパーは静かだった。まさか溺れて死んだのではなイカ?この心配はするべきだ。
そっと中を見てみると、ミニイカ娘はタッパーの角に寄り掛かり、うつむいたまま動かない。
やっぱり死んでなイカ?いや、肩がゆっくりと上下している。眠っているだけのようだ。
ミニイカ娘がこの極めて寝苦しい環境でどのような手段を取ったのか、私は観察してみた。
昨夜は大分タレを飲んだらしい。水位は喉の高さにまで減っており、お腹がぽっこり膨れている。
底の小エビを一角に寄せ集めて山にし、その上にご自慢の十本の触手を丸めて重ね、
そうして出来た即席の背もたれに体を預けている。
なるほど、これなら角なので体が左右に傾くこともない。私は素直に感心した。
その寝顔は世間でよく言われる"可愛い"の評判にはちょっと遠いようだ。
目の下にはくまが色濃く浮き、頬もどことなくやつれて見える。
顔には睡眠の安心感が全く感じられず、まさに"泥のように眠る"ときの表情だった。

私はミニイカ娘を起こしてしまわぬよう、封をゆっくりと剥がした。
慎重に蓋を開け、中を覗き込むが、幸いにも目を覚まさなかった。
ボトルをミニイカ娘の頭上に掲げ、スタンバイOK。
寝起きドッキリの時間だ。私は囁いた。「(おはようございま〜す)」。 
「ゲジョオアアァーッ!!??」
大量のタレが頭上から勢い良く降り注ぎ、ミニイカ娘が悲鳴を上げると
同時に驚いた触手が背中からバッと広がった。まさに全身で目を覚ましていた。
その途端に山から崩れた小エビに足をすくわれ、タレに「ゲジョッ…!?」と沈む。
鉄砲水のように水位がぐんぐん上昇していき、パニックになったミニイカ娘は
見えない敵へイカスミを撒き散らしながら、「グアァッ…!ゴハァッ…!」と溺れている。
とにかく掴まれるものを求めて、水面上で短い両腕を必死にフリフリ、
徐々に深度の増すタレで踏んばれる底を探して、水面下で脚をバタバタ、
朝から期待を裏切らないその死に物狂いの様があまりに面白く、私は思わず笑ってしまう。

やがてタレを撒いて暴れていた触手が外に飛び出し、私はそれを掴んで放ると急いで蓋を閉めた。
昨夜の学習内容をもう忘れたのか、ミニイカ娘は長い間全身をぶつけて大暴れしていた。
水っ腹ではタレを飲むのは苦しいらしく、度々吐き戻しているのが確認された。

どれほどの時間が経ったのだろう、私が飽きて朝食を食べていると、
「…プハアァッ!!ゲジョッゲホォッ!ハァーッ…ハァーッ…」という解放の声がした。
私が様子を見ると、ミニイカ娘は充血した目を丸く開きながら荒く息をしていた。
やがて「うっ…うっ…うっ…」と顔を仰け反らせると、「ぉえ゛っ…」と
消化しかかった小エビの破片が混ざったタレを吐瀉物のように吐き出す。
鼻からはイカスミとタレの混合液まで鼻汁のように垂らし、非常に汚らしい。
あまりにも汚いので私が見るのも嫌でいると、ミニイカ娘と目が合った。
ミニイカ娘はこちらをじっと見て、何かを思い出そうとしているようだったが、
やがて辺りをキョロキョロ見回しながら、触手でタッパー内をツルツルとまさぐり始める。
どうやら昨日からの自分の仕打ちは夢だとでも思っていたらしい。

基本のんきな習性のミニイカ娘らしい、呆れた奴だと私は思い、その場を後にした。 
ようやく現実へ覚めたミニイカ娘は「ゲショゲショ!」と鳴くと、
改めて確認するように、蓋とタッパーの境目を触手でまさぐったり、
タッパー内をぐるぐる周りながら両腕で全ての壁を叩いたりしていたが、
やがて「ハァ…」とため息をつくと、顔をうつむき、肩が小刻みに震えだした。
朝から自分の置かれた境遇を思い知らされて、絶望に打ちひしがれそうになる。
この無垢な心を持った小さくか弱い生き物には、あまりにも大きい重荷のはずだ。

その目に涙が溜まり、頬をつたって流れだそうとしたとき、
突然ミニイカ娘は両手首で目をこすって涙を拭き、頭を振って気を保った。
「…ゲソッ」と言って触手をタレに潜らせ、底の小エビを一心不乱に探っている。
食事で気を紛らわせるつもりだ。そうしなければ押し潰されてしまうのだろう。

本当にこの生き物は人間臭い。多くの人がそこに騙されてコイツを可愛がる。
しかしそれ故計算高く、厚顔無恥で傍若無人、人馴れすれば我侭も言いおべっかも使う。
その証拠に、ミニイカ娘は食事を終えるとしばらくは大人しくしていたが、
やがてそぉ〜っと私の方をチラチラ伺い、触手でペチペチと音を出してみたり、
わざとらしく小声で「…げそ、げそ」と鳴いてみたりしてきた。
それでも私が何もしてこないと分かると、ミニイカ娘は出口を求めて再び
触手で蓋を内側から押したり、タッパーを叩いたりし始めたのだった。
どうやら、少なくとも脱出しようとする自分の努力は怒られない、と判断したらしい。

本当に呆れた奴だ。私は昼の12時にその考えを改めさせてやろうと思った。 
昼になる頃には、ミニイカ娘はさらに図々しくなってきていた。
私がその場にいようがまるで関係無く、何とか脱出しようと常に足掻いている。
「ゲソッ!…ゲッソ…!」と呻きながら触手を蓋の隙間にグリグリ押し付け、
時々「きぃぃっ」と軽い癇癪を起こし、全身を使ってタッパーをカタカタ揺らす。
そのあまりに無遠慮な態度に、私は奴をタッパーごとブッ飛ばしてやりたい衝動を抑えていた。

怒りを紛らわすためにも、私はミニイカ娘の漬け込み具合やその他を観察することにした。
体の色に変化があるのかどうかは、タレの中なので全く分からない。
少なくとも顔色は、タレにほとんど漬かっていないので一切変わっていない。
昨日骨折した両手は今ではよくタッパーを叩いているので、一見回復したと思えたが、
よく見るとやはり曲げた手首の部分を当てるようにして叩いている。
腫れは昨日に比べて若干ひいてはいるが、指は曲がって半開きのまま固定してしまっていた。
特に目を引いたのは怪我をした三本の触手だった。
タッパーを撫でる十本の触手のうち七本は元気が良かったが、
この三本だけは他の触手と比べて、明らかに動きが弱々しかった。
最初の切れた二本は切り口からタレがよく染み込んだようで、先が茶色に変色しており
ミニイカ娘はその二本の先端を、起きてるときも寝るときも常に丸めている。
最後に千切れた触手も、ちぢれた先端によくタレが染み込んで茶色くなり、
タッパーを撫でる様子などモップがけをしているようにしか見えない。
ミニイカ娘もこの三本はこれ以上悪化させたくないようで、底の小エビを取る作業には絶対に使わなかった。

もし味見をするなら、この触手から頂くことにしよう。
私はそう思って時計を見遣り、12時になったのを確認するとボトルを取りに冷蔵庫へ向かった。 
ミニイカ娘はタッパー内を漁るのに夢中だったが、
私がボトルを持って現れたのを見つけた途端「ゲソッ!?」と驚くと、
「あわわゎ…」とタレをちゃぷちゃぷ波打たせながら、逃げ場を求めて右往左往しだした。
私が封をベリベリ剥がすと、狭いタッパー内ではその音が大きく反響し「ひぃぃっ」と怯えて耳を塞ぐ。
蓋を開け、ボトルの口を身を竦ませて動かないミニイカ娘の頭上にロックオンする。
するとミニイカ娘が顔を上げ、「ゲショッ!?」とさらに驚いてその場から慌てて離れた。
タッパーの隅に移動すると、ピンとつま先立ちし、首を精一杯伸ばして顔を上げ水位の上昇に備えている。
私はゆっくりボトルを傾けて、いつもより静かにタレを注いだ。

タレは緩慢な速度でじわじわ水位を上げ、ミニイカ娘は必死に身体を上に伸ばしている。
タレが顎の高さまで達すると、ミニイカ娘は「んっ…」とさらに全身に力を込めた。
ぐぐっと必死に伸ばした首には血管を浮き、顔は紅潮して鼻息が荒く、頭がプルプル震えている。
やがてタレの水位が鼻の穴にかかると、それを鼻から吸ってしまい「ブゴッ!!」と汚い音を出し、
むせた拍子に足を滑らせて、お馴染みの通りタレにバシャンッと沈んでしまった。

私はそれを見届けると蓋を閉めて封をし、中の有様を見てみた。
今回の様子はいつもと違い、ミニイカ娘は金魚のように水面下で口をパクパクしている。
その表情は明らかにタレの飲み過ぎによる苦痛で歪み、時折つま先立ちで
無理矢理水面上に顔を出しては、「ずずっ、ずずずぅ〜っ」と行儀悪くタレをすすっていた。

非常に長い時間をかけてようやくタレを適当な水位に下げたミニイカ娘は、とても苦しそうだった。
水風船のようにタプタプ膨らんだお腹を何度もさすり、時々タレを「げえ゛っ」と吐き出す。
思い出したように出口を求めて触手で蓋をまさぐりもしたが、やがてそれすらもしなくなった。 
時刻が夕方に迫る頃には、ミニイカ娘はだいぶ回復していた。
まだお腹が若干ゆるいらしく、タッパーの外からも聞こえるほどの音量で
ぐじゅるるる…と変な音がする度「げしょぉ…」と辛そうにお腹をさすっていた。

しばらく観察していて、ある疑問が浮かんだ。ミニイカ娘は脱出を完全に諦めたのだろうか?
ミニイカ娘は時折蓋を見上げると、何かを考え込むようにして私と交互に見渡す。
蓋へ触手を伸ばすこともあったが、大抵はそのまま何もしないで引っ込むか、
ちょこちょこ軽くまさぐって、すぐに私の方を見て引っ込めるかのどちらかだった。
やがては蓋も見上げなくなり、代わりに私の方をよく見るようになった。

やはり何か考えがあるらしく、私が何らかの用で立ち歩いてタッパーの近くを通ると、
「ゲソ、ゲソ!」と声を上げて呼びかける。
私ははっきり言って、タレを注ぐときと食べるとき以外に奴に構う気は全く無いので、
そのまま無視して通り過ぎるが、そうするとミニイカ娘は顔を動かして私を目で追っていた。

調子の良いミニイカ娘のことだ、どうせろくな事は無いのだろう。
夕方の6時になり、私はボトルを片手にタッパーへ向かう。
そこでミニイカ娘が何をしようと、タレだけは必ず注ぐ。私はそう決意した。 
私に気付いたミニイカ娘は、今までと違い逃げも怯えもせず「ゲソ!ゲソ!」と呼びかけるように鳴いた。
蓋を開け、ボトルを注ごうとすると、慌てた様子で「ゲソ!?ゲソゲソ!」と両腕をこちらに伸ばして手を振る。
何なんだコイツは?この期に及んでまだ何か策があるのか?
私は興味をそそられたので、タレを注ぐことを一旦止めることにした。

私がボトルを置いたのを確認したミニイカ娘は、不安そうな表情を浮かべると
「げそ、げそげそ…、げそぉ…げそげそ…げそげそぉ…」と、
私を極力刺激しないよう気を付ける様子で、ボソボソ話し掛けてきた。
コイツは何を言ってるのだろう?今さらただ"出してくれ"と哀願しているとは思えない。
そこで私は先程の様子を思い出してみた。もしかしたらコイツは、タレを注がれるのは
自分が悪い事(=脱出)をしようとしたことへの罰だと思い、それを詫びているのではないだろうか?

なおもミニイカ娘はボソボソと喋り続けていたが、その上目遣いの目は私の反応を必死で見逃さまいとしていた。
ミニイカ娘という生き物は、人間に匹敵するほど発達した感情筋による
豊かな感情表現を持つことで、他の動物とは大きく差別される。
それゆえコミュニケーション能力が非常に高く、人間を相手にもすぐに順応出来る。
時には人間が容易く迎合されやすい要素―おべっか、可愛いそぶり等―を見付け、
それを利用することを動物の本能で理解する。

私がこのまま永遠に黙っていてもコイツはずっとげそげそ言ってそうだったが、
私は観察のためにも、あえて反応を返してやることにした。 
私はわざと笑顔を作り、「うん、うん。そうだな」と大声で頷いてみた。
するとミニイカ娘は一瞬キョトンとしたが、言葉は分からなくてもその反応が
好意的なものだと理解し、途端に「ゲショ、ゲショゲショ!」と元気良く鳴き始めた。
それからミニイカ娘は「ゲソ、ゲソゲソゲソ!」と、私に話し掛けるように鳴き続けた。
私はそれに相づちを打つように、大袈裟に「うんうん」と頷いてみせる。
時々ミニイカ娘の鳴き声が途切れ、私の様子をちらっと伺うこともあったが、そんなときはこちらから
すかさず「うん、うん」とでも言ってやれば、またすぐに「…ゲソ!ゲソゲソ!」と調子を戻した。
ミニイカ娘は、私の機嫌を損ねまいと必死に盛り上げようとしていた。
緊張を隠そうとした固い笑顔を浮かべ、「ゲーソ、ゲソゲソォ!」と両腕をこちらに振り、
私が頷く度に、いかにも友好的に、楽しそうに反応してみせた。

…だが、そうしたやり取りが長く続くと、徐々にミニイカ娘は調子付いてきたようだった。
いつのまにか笑顔から不安の色が消え、「ゲーソゲソ、ゲソォ♪」と鳴いてリズムをとる始末。
私は頷くのを止め、真顔で眼下のミニイカ娘を見下ろし、観察してみた。
もはやミニイカ娘は私の態度を一切気にかけず、相変わらず「ゲソーゲソゲソ♪」と鳴き、
タレをちゃぷちゃぷ波打たせながら小さく跳ねている。
私を上手く迎合させたと思っているようだ。完全に調子に乗っている。
完全に相手を懐柔させたと思い込んだこのミニイカ娘は、
一人で楽しそうに「エヘヘェ、ゲソ!ゲソゲソ♪」と私に笑いかけている。
こうしたやり方は如何にも人馴れしやすいミニイカ娘らしいな、と思いながら
私はサッとボトルを取ると、ぱくぱく開いたその口へ一気にタレを注ぎ込んだ。

「げそげガハアァッ!?」あまりに突然の出来事にミニイカ娘は驚く暇も無く、
そのままタレを直飲みしてしまい「ゲジョゲボォッ!!お゛ぅえ゛ッ!!」と激しくむせた。
タレを注ぎ続けると、上昇する水位に「あっあっあ゛っあ゛っ」とパニックを起こし、
ついには足を滑らせて「あ゛っげじょぉ゛っ…!!」と自ら溺れてしまった。
私は前回、ミニイカ娘がタレを飲むのに非常に長い時間がかかったことを踏まえて、
今回はちょっと背伸びをすれば簡単に顔を出せる水位で止めたが、混乱したミニイカ娘は、
掴まれる所を求めて両腕や触手をバタつかせながら、「…ガハッ!…っぉぷ!」と勝手に溺れている。

やがて私がゆっくり蓋を閉め始めると、それに気付いたミニイカ娘は慌てて
「げっ、げしょぉ〜っ!!」と鳴きながら、バシャバシャこちらに駆け寄って来た。
蓋が閉まる直前、ミニイカ娘はその真下に到達し、「げじょお゛ぉ゛〜っ!!」と
懇願するように、必死に両腕と触手をこちらに伸ばした。

私が蓋が閉めると、ミニイカ娘は「げじょおお゛ぉ゛ああ゛あ゛ぁぁぁっ〜!!!」と絶叫したのだった。 
「げじょお゛ぉぉ〜っ!!…あっあ゛っ、げえぇじょお゛お゛おぉぉ〜っ!!」
タッパーからはまだミニイカ娘の絶叫が聞こえていた。
私は始め元気の良い奴だと思ったが、しばらく経って少し様子がおかしいことに気付いた。

ミニイカ娘の悲鳴は「…っふ!あ゛あ゛あぁぁっ!!」「ぴい゛い゛ぃぃぃ〜っ!!」
「あっ、あっ、あっ、げしょおぉぉ〜っ!!」と奇声に変わり、タッパーをガタガタ揺らし続けている。
時折奇声が止むと、「ハッハッハッハッハッハッハッハッ」と犬のように過呼吸をし、
それに合わせてミニイカ娘の小さい胸が驚くほど激しく上下するのが見てとれた。
顔には生気が無く目は怯えたように見開かれ、辺りをギョロギョロ伺うとまたすぐに
「ハッハッハアッ…げ、げじょお゛お゛おぉぉっ!!」と突然絶叫して暴れ出す。
脱出も叶わず、懐柔策も通じず、ついに発狂してしまったようだ。

これは少し困った事態だ。
多少うるさくても構わないので、このまま何事も無ければ良いのだが、
タレで溺死したり小エビを詰まらせて窒息死する可能性もある。
私は今奴を出してやろうか思案したが、このまま放っておくことにした。
別にこのミニイカ娘が死ぬこと自体は大して問題ではないからだ。
仮に死んだとしても、冷蔵庫に入れれば鮮度を保てるし、タレも染み込む。
とりあえず12時になったらまた様子を見ることにし、私は悲鳴の上がるタッパーから離れた。
なんとなくミニイカ娘がタレの底の小エビに頭を突っ伏して死んでる姿を想像して、可笑しく思った。 

出典:うまそう
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