「痛っ」 ドンッと背中を押され僕は前のめりに崩れ落ちた。 「っと、何するんだよ!さち・・・・・・さち?」 振り返ると、そこには粉々に砕け散った植木鉢と横たわったさち。 そしてそのさちの真っ白な身体を包み込むように広がっていく真っ赤な鮮血。 「よかった。怪我ない?」 そういってさちは震える口角をゆっくりと緩めた。 「なんなんだよ!おまえ幽霊だろ!なんで幽霊のお前が血流してるんだよ」 そう、さちは僕にとりついた幽霊だった。 いつも僕の背中越しに僕をからかっては喜んでいた。 「うわ、成績悪いのね。こんな頭でよく大学受かったわね」とか 「ホントに不器用ね。こんなまずそうな料理食べてたら、お腹壊すよフツー」とか 僕をいじめては得意げに 「私なんか女学院時代いつも主席だったのよ」 「私の作る鯖の煮付け食べたら、他のものは美味しくなさすぎて食べられなくなっちゃうんだから」 と小さな桃色の唇を休む暇なく動かしていた。 その小さな唇は、今はみるみるうちに蒼く血の気を失っていく。 「おまえ幽霊だから実体には触れないって言ってたじゃないか。どうしてだよ」 取り乱す僕をなだめるように微笑みながら小さく呟いた。 「幽霊のおきて破っちゃった」 思わず、さちの体を抱きしめる。 今まで悪態をつく彼女を殴りつけても素通りしていたが、今は手ごたえがある。 「おまえ幽霊なんだから、もう二度と死なないよな。しっかりしろよ。」 途切れ途切れに彼女が応える。 「掟を、破った、幽霊は、あの世、にも、この世、にも、おれなく、なるんだ。私、消え、ちゃう…」 腕の中の彼女がどんどん軽くなっていき、身体が透けはじめていく。 「さち、死ぬな!戻って来い。」 しかし、彼女の体は完全に消滅し、手についた鮮血も消えうせた。 完全に消える直前、さちの声が聞こえたような気がした。 「もっと、早く素直になっていれば良かった。」 出典:幽霊の掟 リンク: |
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