転生 (ジャンル未設定) 5090回

2015/09/25 01:39┃登録者:あでゅー◆UokxQKgo┃作者:あでゅー
20150921-『転生』byあでゅー


1.今は昔

平安時代、10世紀中頃の秋の事だった。

竹取の翁が竹を切っておりますと、突然目の前に若い女性が現れた。
その女性は、たいそう美しく、翁は一目で恋に落ちた。
美しい竹林が切られる事に心痛めていたその女性は、どうにかして切らずに済む方法はないかと、翁に問おた。

すると翁は、その女性に求愛して、彼女の願いに答えた。
その男らしい求愛と、歌のような物言いに、心奪われた娘は恋に落ちる。
二人は愛し合い、寝所を共にした。

しかし、彼は源の弱小の家の出、彼女は源の有力な家の娘、二人の仲は許される訳もない。
程なくして、別れさせられ別々の道を歩む事を強いられた。
男は悲しみの内に、『竹取物語』を記した。


その男は嵯峨源氏の一族で『源順(したごう)』、女は清和源氏の一族で源満仲の娘『源香耶(かや)』、物語の中では『かぐや姫』その人だった。

二人は共に来世で会おうと分かれた。
その後、男は一生一人だった聞く。
女のそれからは、分からない。

42才の男と、20才の女の悲話であった。


2.新・竹取物語

1998年、冬。
私はその頃22才の大学生で、留年して仕方なく毎日ネットで掲示板に投稿していた。
まだ、小説家の夢を諦めきれない私は、自分の文章を人に読んでもらう事で、僅かな可能性にしがみ付こうと、もがいていたのかもしれない。

そして、その日も、何かしら文章を書く為に、頭を痛めていた。
煮詰まってネットで『物語』を検索していると、『竹取物語』の文字が眼に留まった。
ああ、こんな話が書ければなー、と思った。

それによると、竹取物語の作者の一人に源順(したごう)がいる。
年代は10世紀頃か・・・。
すると、突然閃いた。
源順と有力貴族の娘の悲話だ。
私は、『新・竹取物語』を一気に書き上げた。
・・・と言っても本当に短い文章だが・・・

分からないのは、何故一気に書けたのか、昔の言葉らしい言い回しが何故出来たのか、それと香耶という名前を一体何処から持ってきたのか、分からない・・・。
不思議だったが、それ以上追求しなかった。

そして、忘れてしまっていた。


3.再会

2015年、春。
私は、今年39才で漸く小さい出版社の編集長になれた。
小説雑誌を5冊ほどを束ねている。
この歳になると、自分で書く事も億劫になり、人の批判ばかりしている。
若い頃の情熱は何処へ行ったんだ?
そう思うこの頃だが、飯の為には仕方がない。

ある日、高校生が小説の持ち込みにやって来た。
あいにく、担当者は皆席を外していて、仕方なく私が対応する事にした。
待合所に入ろうとした時、彼女を見て一瞬足が止まった。
身体が痺れたように動かない。
その位、少女は美しかった。

「よろしくお願いします」

そう言って女子高校生は頭を下げた。
礼儀がしっかり入っている事が分かり、ちょっとホットした。

「そ、そ、それで小説はこの中にあるんですね?」

いかん、どもってどうする。
私は気を引き締めUSBメモリを受け取り、そこに置いてあるノートPCに差し込んだ。

文章を読んでまず思ったことは、引き込まれる内容だった、と言う事だ。
まず、文章のさわりに衝撃的なツカミを持ってきて、説明は最小限に、運命だとも思えるストーリーが主人公を終わりまで持ってくる。
そして、これしか無いと思う悲劇が主人公を待っている。

私は思わず、涙ぐんだ。
はっ、遺憾と思い強い目線で彼女を見た。
その時だった!

彼女は、泣いていたのだ。
私の瞳を見つめて、静かに涙が頬を伝って机に落ちる。
私は見とれた。

「会いたかった、順(したごう)様」


はらはらと更に涙で机は濡れた。

「私です、香耶(かや)です」



香耶?
そう言えば、昔そんな名前を使った事がある。
だが、私は「したごう」では無い、と思う。
転生?
そんな荒唐無稽な事がある訳は無い。
そう思ったが、この娘は素晴らしい才能がある。
話を合わせる方が、良いのか?
いや、どうせばれる。
正直に言おう。

「残念ながら、私は順では有りません。
いや、正確には分からないのですが・・・。
何か気にやむ事が有るのですね。
よかったら、聞かせて貰えませんか?」

私は黙って彼女の話を聞いた。

それによると、話は千年前、私は源順、彼女は源香耶で、二人は愛し合っていた。
でも、身分の違いから別れさせられた。
そして、二人は生まれ変わって、再び再会を願った。
それが、千年前の願いだったというのだ。

やはり、私の書いた新・竹取物語の設定なんだな。
でも、やはり思い出せない、いや、分からない、そう彼女に言った。
それに、私は今年でもう40だぞ。
昔なら初老って言われた年だ、爺さんだ。
で、こんなおじさんでも良いのか?

「ご免ね、分からないよ」

「良いです。
ゆっくりと思い出すのを待ってますから。
それまで、二人は友人と言う事にします」

こんなおじさんでも良いんだ・・・。


それからの二人は、出版社で週1日会って小説のアドバスをした。
もっとも、それは決まり事を教えるだけで、内容は全面的に彼女を尊重した。
彼女の発想は、私の想像を遥かに超えていて、いちいち私を唸らせる物だった。

そして、彼女の本が出版される時が、遂に来た。

「遂に、出版されるね。
きっと、ベストセラー間違い無しだ」

「有難うございます。
でも、順様は書いていないのですか?」

「えっ、私なんぞ、あなたに比べると、とっても読めませんよ。
紙の無駄ですよ」

「何を言っているのですか。
あなたは前世では、有数の文学者だったのですよ。
あの竹取物語もあなたが書いた物なのですよ」

「えっ!・・・」

私はしばしの間考えていた。
そんな才能が有ったら、もう書いているよ。

「私はもう40だよ。今更だよ」

「何言ってるんですか。
竹取物語は50を大分過ぎた時に書いたんですよ。
大丈夫!
きっと、間に合います」

ベストセラー作家が太鼓判を押してくれた。
仕方ない。
表向きはやっている様に見せるか。


4.転落

彼女の本は良く売れた。
同年代の作家に多い、ベタベタの恋愛物が主流の中で、彼女は純文学に近い完成度を見せた。
それ故、直木賞に最も近い作家の一人に挙げられた。
私は有頂天だった。
毎回、ベストセラーを挙げる作家を手中に出来て、雑誌の売り上げも、ハードカバーの売り上げも、近年希に見る勢いだ。
この分だと、来年は常務か、とほくそ笑んでいた。


そんな時だった、事件が起こったのは。
子飼いの作家の一人が、盗作容疑で訴えられたのだ。
私も加担した仲間の一人として、取調べを受けた。
全く根も葉も無い事で容疑は晴れ、自由になったが、社会的には許されない。
私は、責任を取らされ、平に格下げされた。
そして、盗作を指南したと言うレッテルは、私の編集者としての自由を奪い、程なくして辞職した。

この業界は狭い。
一度付いたレッテルは、何処までも付いてきて、私は編集者としての再就職を諦めた。
暫くはほとぼりが冷めるまで、他の仕事でもやろかと思ったが、私はこの年まで編集一筋で何も出来ない。

どうせ独り身だ。
とっくに妻には出て行かれた。
俺一人、暫く食ってける蓄えも少なからず有る。
そう思い、駄文を作って掲示板に投稿して、暇を潰していた。

しかし、このサイトは才能の宝庫だね。
まあ、でも金を払っても読みたいかどうかは別だが・・・。
そう言えば今頃どうしているかな、彼女は。
確か、今年の春に卒業したって聞いたけど、元気かなー・・・。



そして、彼女は突然やってきた!

「こんにちは!」

なんだ、なんだ!
ここは教えて無いのに何故、来たんだ?

「香耶くん。
何をしに来たの、こんな落ちぶれた奴の所へ」

私は、恥ずかしかった。
今の私は、会社の編集長と言う肩書きも無く、只の隠居生活の身だ。
何も誇れる物も無く、落ちぶれた姿を見られたくは無かった。
その最も見られたくなかった彼女の目線が、痛い。

「順様。
私はこの春、高校を卒業しました」

「そうだってね。
おめでとう。
で、何をしに来たんだい?
私を笑いに来たのか?」

私は、年甲斐も無く子供の様にふて腐れて、苛立っていた。
彼女は悲しそうな顔をして、

「高校を卒業したからもう良いですよね?
会いたかった、順様」

彼女はそう言って、身体を私に預けた。
まさか、そういう事に成ろうとは思わなかった私は、硬直して直立不動のまま一歩も動けなかった。
シャンプーの良い香りがする。
そして、彼女の香りが、男を狂わせる香りがする。
いかん、と思い、私は彼女の肩をそっと引き離した。

「駄目じゃないか。
君は自分を分かっていない」

一呼吸置いて、

「君は若くて美しい!
そして、きっと良い所のお嬢様だろう。
私みたいな、おじさんを相手にすべきじゃない。
もっと相応しい人と、こういう事はするべきだ」

「でも・・・」

「さあ、もう帰ってくれ」

彼女の腕を掴んで、玄関から追い出した。
玄関の戸を後手に閉め、肩をわなわなと震わせる。
正直、彼女が欲しかった、夢に見るほどに。

「順様!順様ーーー!」

彼女の涙する声が木霊する。
思わず私の両の眼から涙がこぼれる。
勘弁してくれよー・・・。

彼女の泣き声は、それから1時間以上続いた。


5.その後

源香耶、本名仲田ゆみこ、は部屋に閉じこもっていた。
源順、本名中田たすく、に拒絶されたのだ。
正確には、彼女の将来の為に、身を引いたのだ。

こんなに、愛しているのに。
千年も待ったのに。
何故?

そのショックが彼女の髪を白くした。
そう、彼女の髪の毛は、一夜のうちに白く色が抜け落ち、まるで老婆のように成ってしまった。
だが、誰が彼を攻める事が出来よう。
彼女の事を思ってしたことなのだ。

香耶は、遠い記憶が蘇った日を思い出す。
再び転生して二人一緒なろうと誓ったのに。
記憶が戻らない順が恨めしい。
記憶さえ戻ればきっと二人は一緒になれたのに。
彼女は1年の間部屋に閉じこもっていた。
やがて、香耶は髪の毛を黒く染めて、彼を忘れるように努力した。


それからの香耶は人が違った様に誰とでもデートをした。
しかし、求婚されると、難題を出して、それを拒絶した。
元々、美しく教養のある彼女だから、求婚する男はたくさんいた。
それに、次期総理大臣の呼び声高い父親のお陰で、彼女を是非妻に、と言う男はたくさんいた。
加えて、有名作家を妻に出来るとなると、政治家には垂涎の的だった。
誰が彼女を射止めるか、皆話題にした。

そんな時、一人の男が現れた。
彼は彼女に対して求婚はせずに、只友人として接した。
彼女の心を溶かすように、毎日とりとめの無い会話をした。
次第に心を開いた彼女は、そんな彼の優しさを受け入れた。
そして、彼に求婚をして、二人は結ばれた。
2018年の事である。


それを知った源順は穏やかに、良かった、良かった、と繰り返した。
そして物語を書くのである。
たくさん、たくさん、たくさん、書くのである。
まるで、それが香耶への恋文のように・・・。

源順42才の事であった。


それから、源順が50を超えたとき、名作を書くかどうかは・・・、今は分からない。


(終わり)

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