彼岸花(それじゃ、またね) (ジャンル未設定) 7995回

2015/09/25 10:19┃登録者:あでゅー◆UokxQKgo┃作者:あでゅー
20150811-『彼岸花(それじゃ、またね)』byあでゅー


私の命はもう少しで消えようとしています、たった19年で・・・


<4月>・・・高校3年の春

「お母さん、なんか私おかしい・・・」

朝着替えをしているときに異変に気づいた。
手が痺れてそれが中々消えない。

「冬実、何ふざけているの?
早く支度なさい」

「手が痺れて、それが中々消えないの」

私が不安そうに言うと、母はさっと顔色を変えて本当?と言った。


私は制服で病院に来ている。
順番を待っている間、母は私の痺れた左腕をずっと摩り続けた。

「先生、腕が痺れて中々取れないんです。
腕を枕に眠った時みたいに」

そう私が言うと、先生は私の腕を取り、手のひらを裏返したり、腕を上げ下げしたりした。

「検査してみましょう」

脳の検査だった。
30分程度で検査は終わり、私たちは再び呼ばれた。

「・・・。
腕の痺れは、肘を長時間圧迫したために起こったのでしょうね。
一ヶ月分の薬を出しておくので、朝昼晩に飲んで下さい。
お大事に」

なんだか拍子抜けした。
途端にお腹がすき母と一緒にファミレスで大好きなトンカツを塩で食べた。
学校には午後から出た。

一週間経ち、二週間たっても痺れは取れなかった。
不安になり薬の効用をネットで調べてみた。
ビタミン剤だった。
それを母に言うと、それが利くのよと言った、無理して笑って。


<5月>

一ヶ月経っても痺れは取れなかった。

そして再び診察日。
薄々感じてはいたがそれを聞いた時、ああやっぱりねと言う予想通りの結果に、脱力した。
病名は脳腫瘍。
それも最悪の場所に出来て、除去が不可能だということらしい。
余命2年。
余りにも無慈悲で、余りにも短い余命。

死までにあちこちが痺れたり、動かなくなったりして、最後は意識が無くなり死ぬ。

私が何をした。


涙も枯れて、布団の中から出れたのは丸一日経ってからだ。
水を飲み、ご飯を食べ、オナニーをして寝た。
朝が来てシャワーと朝食を済ませて、お気に入りの服を着て電車に乗り込んだ。

今会いたい人がいる。

「お嬢さん何処から来たの」

人の良さそうなおばさんに話しかけられた。

「札幌からです」

「まあ!それじゃ随分寒いでしょう?」

そう言えばちょっと肌寒い。
帯広を通り過ぎ釧路にあと30分ほどで着く。
ジャンバーなど着てこなかった事を後悔した、が貰ったおにぎりは暖かくて美味しかった。


おじさん(お兄さんと呼ばないと返事をしない人だが)は釧路駅裏2kmほどの距離にあ
る高校の教師だ。
35歳だ。
教室をこっそり覗くと目が合った。

(えっ!?)

ちょっと驚いていた。
休み時間になり物理準備室で話をした。

「どうした?」

突然の訪問に、何かあったと言うことだけは伝わった。

「ちょっとね」

ちょっとだけで移動する距離じゃないし、今日は平日だ。

「あと1時限で今日は終わるから家で待っていて。
それにしても寒そうだな。
このジャンバー着ていて」

そう言って心配そうに私を見送った。


おじさんは帰ってくると黙って私の話を聞いた。
そして全部聞き終えて、こう私に問いかけた。

「2年間に一生分の人生を堪能しよう!
お前は何がしたい?」

私は意を決して言った。

「おじさん、私がここに来た理由気づいているよね?」

おじさんの目が右に左に泳いだ。

「おじさんの子供を生みたい!
ううん、その前におじさんが好きなの!」

言ってしまった!
恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのが分かる。

「えっ!?」

「・・・・・」

無言で俯き合う二人。

「・・・また何だってこんなおじさんの子供だなんて・・・」

「ううん、そんなに老けて無いよ」

「私が生きてきた証として子供を生みたいの。
夏頃までになら間に合うってお医者さんが教えてくれた」

「・・・でも俺一人じゃ育てら・・・・」

そこまで言って黙ってしまった。

「育てるのはお父さんとお母さん!」

「・・・俺は?何もしないの?」

「そんな大変な事頼めないよ」

「・・・・・・・・・・」

あらためて言うが、私とおじさんとは歳は離れているが、従兄妹である。
結婚には問題ない。
おじさんは複雑な表情で何も話さず、只じっと考えていたが

「本当俺でいいのか?」

私はコクリと頷いた。

「よし!結婚しよう!
あっ、その前に・・・」

ふーと息を吐き、身構えた。

「冬実。
ずーと好きでした。
結婚して下さい」

私はきっと目を潤ませていただろう。

「はい!」


そして電話をした。

「母さん、私結婚するからね。
相手は春彦おじさん!」

電話の向こうで、驚きとああやっぱりと言う反応が返ってきた。
そして涙声でようやく言ってくれた。

「おめでとう冬実」

「ありがとう。お母さん」

電話を切っても涙は、止まらなかった。
いつしか春彦にすがり付いて泣き続けた。
我慢をしてた、ずっと。
それが今、一気に全ての感情を解き放ってしまった。
死にたく無い、もっと生きたい、と言う悲鳴にも似た泣き声だった。
その間春彦は頭を撫で続けてくれた。


翌日、父さんと母さんはワザワザ釧路に来てくれた。
春彦の両親も集まった。
そして世にも奇妙な超簡略な式が始まった。

「皆さん、カメラの用意は出来ましたか?」

「電話で言われたから、持ってきたけど?」

「では、はじめます」


彼は突然真顔になって、私に向き合った。

「冬実!
好きだ!
結婚してくれ!!」

「は、はい。
よろしくお願いします」

当然の事に驚いたが、涙で目が落ちそうだ。
言い終えると唇を奪われた!
1分は過ぎただろう長いキスだった。
その間にお互いの両親は「は!」と気が付き急いでシャッターを切り始めた。
みんな、そうかこう言う事だったんだ、と納得した。


次に彼は私の両親の前に正座をして頭を下げた。

「お父さん、お母さん。
お嬢さんを僕にください。
幸せにします」

「こちらこそよろしくね」

母は涙声で承諾した。
私は春彦さんの両親の前に正座して、彼の真似をして頭を下げた。

「不束者ですけど、よろしくお願いします」

「こちらこそ。
こんなおじさんでごめんね。
返品は無しだからね」


そして、いつのまに用意したのか、彼が手を開くと2個の指輪が準備されていた。
私の頭にはレースのベールが掛けられ、彼が天を仰ぎ言った。

「はい!誓います!」

何に誓っているか分からないが、私も真似てみた。

「はい!誓います!」

そして指輪の交換をして再び誓いのキス!


ケーキが用意され二人で入刀!
この頃には両親たちはテキパキした動きで、写真を撮り、レースのベールやホールケーキ
、それにご馳走を準備してくれた。
みんなこの超簡略な式を楽しんだ。
ちなみに彼が用意したのは、寿司とザンギとビールと、そして指輪だ。


その日の内に計画は出来上がった。
二人は直ちに入籍して、私は釧路江南高校に転向しておじさんと一緒に住む。

そして北大を受ける。
でも受かっても進学はしない。
これはお母さんが馬鹿じゃないと言う事を、子供とおじさんに証明するためだ。

後日、高校はくれぐれも結婚の事は、生徒に伏せるようにと言ってくれた。
かなり寛大な措置だ。

そんなこんなで新生活が始まった。


季節外れの転校生の挨拶が済み、言われた机についた。
三年二組の教室。
おじさんが昔学んだ教室だ。
机、イス、黒板、チョーク、石炭ストーブ、窓から見える満開の桜、そして黄色い校舎・
・・。
私は深く息をしてそれらをお腹一杯堪能した。

しかし直ぐに問題が起きた。
教科書がまだ終わっていないのだ。
札幌の私の学校では、教科書は2年で終わらせ、そこからは練習問題をひたすらこなすの
だ。

仕方なく勉強はおじさんに教えてもらった。
主に練習問題と応用問題の解き方だ。
物理、化学、数学、英語はおじさんの得意科目だ。
授業中、教科書を見ずに練習問題をする私に、先生は見てみぬ振りをした。

転向した頃は物珍しくて話掛けてきた生徒も、みんな遠巻きに見ているだけになった。
私もそんな事に囚われている分けにはいかない。
何としても目標に到達しなければならない。


<6月>

「今日も誰とも話さなかった」

夕飯におじさんの買って来たクリームコロッケを頬張りながら話す。

「そうか、寂しいかい?」

「ううん。
でもいつも見ている人がいるの」

「何!
気が有るのか!?
けしからん!!」

箸は動いたままだ。
全然本気に怒っていない。
それを見て何だか笑ってしまう。

「おい。
野菜も食べないといけないぞ」

「どうせ死ぬんだら関係ないと思いつつも、まだ見ぬ子供のためか」

「そうだ子供のためだ」

「おい。
お前の為だからね。
こんな不味い草なんて食べるのは」

「そうだ、母さんはお前の為に草を食べているんだ」

「しかし、むしゃむしゃ、このフキノトウは美味いな。
懐かしい味がするぞ」

「どう言う事?
ふー。ずずずー」

私もフキノトウを食べてみた。
確かにシャキシャキして旨みがある。

「昔おじさん家は農家でね、高台に家があったんだ」

「その坂道の溝に春になるとフキノトウが一杯なったんだ」

そう言うとちょっと目を潤ませた。

「当時は貧乏でねえ。
腹いっぱい食べれる春がずっと好きだった」

「ちゃんと食べれば、もっと身長が伸びたのにねえ」

「そうだ!
ストップ貧乏!」

「そうだ!
あっちへ行け貧乏!」

むしゃむしゃ。
ぱくぱく。
ふー。
ずずずーー。


洗物をしている時、痺れたままの腕をぶんぶん振り回してみる。
この頃病状が進行して左の二の腕全体が痺れている。
一緒に洗物をしていた春彦が後からそっと抱きしめる。
ほっとする。

ああいいな、こんな瞬間!

「ねえ。
いつ抱いてくれるの?」

「逆算して、夏休みの初日!」

「それ以上早くすると受験できないだろう?!
それに、」

「まだ何かあるの?」

「夏休みだから好きなだけ出来る!」

「ふふふ。
お主も悪じゃのう」

そうか、お腹が目立つ前に受験できる。
この人はそこまで考えてくれている。

「ありがとう」


そんな風に一日一日が過ぎてゆく。
同時に私の残された時間も一日一日と減ってゆく。
それでも、私は朝起きて、顔を洗い、朝食を食べ、行ってきますキスをして、学校へ行き
、勉強をして、帰ってきてキスをして、夕食を食べ、おじさんに勉強を教えてもらい、お
休みのキスをして、一日が終わる。
そして最後に、今日も一日ありがとう私の身体、と祈る。

そう、いつしか私はキリスト教を信仰した。
もっとも形だけだが。
おじさんに、いつも泣いてすがり付くには、余りにも気の毒だった。
そんな時におじさんの家で三浦綾子の小説を見つけた。
衝撃だった。
世の中には、こんな過酷な生き方を選ぶ人がいるのか、と。
それでキリスト教を信じれば、きっと私も残りの人生を最後までしっかり過ごせるんじゃ
ないだろうか、と思った。

首にこっそりと十字架を忍ばせ、朝晩祈り、辛いときに握り締める。
ちょっとだけ強く成れたような気がした。


<7月>・・・夏休み

そして時間は過ぎ、ついに夏休みがきた。

どきどき、そわそわ。
朝からその事にばかり気を取られている。
うまくリードしてくれるかな・・・心配。
作法なんて無いよね?
とか、防水シートを忍ばせた方が安心だ。
色々悩んでとうとう夜が来た。

「・・・・」

「あのね。
私バージンなの」

彼はくすっと笑い

「そうだと思った」

「だからホテルを取らなかった。
汚れたら悪いし」

「それに防水シートも用意した」

「えっ!!私もよ!」

いきなり二人で大声で笑い出した。
なかなか笑いの壷からでれない。
意を決した私が、いきなり抱きつきキスをした。
それが開始の合図だったのだろうか、私は彼の腕に抱かれ、この世のものとは思えない程
の、興奮と苦痛とそして快楽を味わった。


<8月>・・・2学期初日

それは当然来た!
朝歯を磨いている時だった。

「おえっ」

ようやく吐き気が止まった。
そして「はっ!」気が付く。
ご懐妊か?
(皇族じゃないけどね。って一人つっこみ。)

「ねえ、春彦!春彦!
ぜーぜー。
出来たみたい!」

ピースサインを出した。
彼は「大変だ、大変だ」と慌てていた。
その日は学校を休み、二人で婦人科へ行った。

受付を済ませ、待合室で待っている間、彼は私の痺れた左腕を摩りながら、診察室の入り
口をまだかまだかと、ジート待ち遠しそうに見ていた。
やがて私の番が来て診察室に入って行くと、彼は両手を合わせ祈るような格好をしていた。
思わず噴出しそうになった。

「春彦。
やめてよー。
お腹が笑いすぎて辛い」

こう言うと、しゅんとしてしまった。
さらに私のお腹は苦しかったのは言うまでもない。

診察室を出ると彼が待ち構えていた。

「それで・・・」

「うん。
出来てわよ」

そう言った途端に、私の目から涙があふれて来た。
彼も泣いていた。

「よかったなー。
よかったなー」

しばらく二人で涙が止まらなかった。
車に乗ってもしばらく二人で抱き合って泣いた。
その涙は赤ちゃんを授かった喜びと、これで間に合うと言う安心からの涙だった。

「今日は学校をお休みしよう。
どうせ始業式で授業は無いから」

「うん。賛成!」

本当は泣きはらした目を、生徒に見られないのだ。

ショートケーキ、ロールケーキ、シュークリームを買った。
私のいつものお祝いの品だ。
これらを順番に美味しそうに食べて、その合間にコーヒーを飲む。

「美味しいね。
頬っぺたが落ちそうだよ」

彼もそれらを好きだが、余り食べられない。
私が食べるのを見て気持ち悪そうだ。

「まったく冬実のお腹はブラックホールだ」

「いいよ、残しても。
私が食べるから」

彼はネスカフェのコーヒーをお代わりした。
そして、いかにも上手そうに飲む。
安上がりだ。


その日から彼女には月に一度の定期健診が課せられた。


<9月>・・・2回目の定期健診

「どうだった?
検診」

二回目の定期健診から一人で行くようにした。
教師は授業を1日休むと時間のやり繰りが大変だから、私がそう決めた。

「まだエコーではっきりと写らないの」

そう言うと彼は写真をみて

「でもちゃんと写ってる!」

豆粒ほどの影を、にこにこいつまでも見入ってる。
私も改めて眺め、二人して幸せを噛みしめた。


改めて思う。

私は大急ぎで人生を全うしようとしている。
それも2年間で一生分。
只死を待っていたら、こんな幸せは噛みしめられなかった。
改めて春彦がいて、こんなに好きな人がいて、私の我がままを聞いてくれる人がいて、私
はラッキーだと思った。

そしてそっと十字架を握り締め、祈った。


今日新しい症状がでた。

右手の小指がちょっと痺れている。
もしも右手が動かなくなったら、と思うと恐怖だった。
鉛筆が持てなくなったら、歩けなくなったら、目が見えなくなったら、・・・それらがも
しも受験前に起こったら、もしも出産前に起こったら・・・。

私は恐怖で立ち尽くした。

でも誰に相談しても良くなる事ではない。
彼も言えない。
自分にきっと痺れるだけで大丈夫だと言い聞かせた。
その恐怖だけは誰にも話さないでいようと思った。
それから痺れを感じては、十字架を握り締めた。


<10月>・・・3回目の定期健診

漸く怪獣から人間に近づいた。
エコーの写真だ。
知ってはいたが、自分のお腹の中で怪獣を製造しているなんて、なんてデインジャラス!
彼はまだ動かないのにお腹に耳を当て中の様子を伺っている。
私も買ってきた聴診器を当てて音を聞く。
きっと羊水の中ですやすや寝ているんだろうね。


勉強も順調に進み、模試の結果はA+だった。
彼にはまだ言って無いけど、これは医学部の判定だ。
言いたくて、ウズウズするけど、センター試験の結果が出ないと何とも言えない。
73の偏差値ってどうよ?
と一人で悦に浸る。

病気方は今は停滞中だ。
頼むから進行しないでくれ、と神に祈る。


それから、受験勉強の追い込みの為に、書き込みは1ヶ月で1枚と制限する事にした。
さあ、ラストスパートだ!
気合入れていくぞ!


<11月>・・・4回目の定期健診

人間だ!

お腹の中にあるのは!
でもデパートで買ってきた怪獣の写真を彼に見せよう。
実は私は人間じゃないの!
怪獣なの!
って言って驚かせよう。


こんな馬鹿ばっかりしていると・・・。
実は私の病気は全部どっきりじゃないかと、この頃思う。
私と春彦おじさんを結びつける為に、みんなが仕組んでいるんじゃないかと思う。

手の痺れだって普段は気にならない程だ。
赤ちゃんが生まれてから、実はって事なのかもしれない。
だって、勉強だって急に伸びたし、良い事ばかりじゃない?

もういいよ!
出てきて!
どっきりだって言ってよ!


<12月>・・・5回目の定期健診

定期健診の3日前、私の誕生日だった。
私の両親と彼の両親からお祝いのメールと一緒に、赤ちゃんの乳母車、哺乳瓶、ベッドが
送られてきた。
ちょっと早すぎるけど、ありがたく頂いた。

彼が買ってきた、ショートケーキ、ロールケーキ、シュークリームが当たり前に私の前に
並んだ。
二人でハッピーバースディの歌を歌い終えると私はまずショートケーキからかぶりついた。

ああ、幸せ!
お腹の赤ちゃんもきっと幸せだろう。


検診から10日後、突然膝が抜けた。
それから歩く度に気をつけた。
それでも膝が抜ける日が徐々に短くなってきた。
怖い。
でも落ち着いて考えた。
もしも歩けなくなっても、車イスがある。
高校だって1月から受験のシーズンだから休んだって大丈夫。
皆にはばれない。


心配事は解決した。
さあ、受験勉強だ。
進め私。


<1月>・・・センター試験

とうとう歩けなくなった。
覚悟する時間はたくさん有った。
仕方なく札幌の両親にお世話になる。
しばしの別れに涙する二人。
彼は直ぐに会いにいけるよ。
大丈夫、って言ってくれた。

さあ歩けなくなった。
でも手は動く。
只ひたすら勉強した。
私は鬼神になる。


センター試験を受けた。
車イスで。
お父さんがワザワザ会社を休んで押してくれた。
感謝!
多分、英語、数学、物理、化学は満点だろう。
正直ほっとした。


<2月>・・・北大受験

北大医学部の受験を済ませた。
春彦に会いたい!
と思ったら、日曜日にかけて会いに来てくれた。

「会いたかった」

「僕もだよ」

「受験ね。医学部きっと受かった」

「えっ、理学部じゃないの!?」

「これで自慢できるね。
お前のお母さんは北大の医学部に受かったんだぞ、ってね」


<3月>・・・合格

大学は無事受かっていた。
本当に勿体無いね、と彼は電話で言ったが、私には十分だった。
記念と証明の為に、受験番号の写真を撮ってきてもらった。

「あっ、動いた!」

お腹に手を当ててじっとしていると、再び動いた。
この子も喜んでくれている。

幸せだ。


私の証明も無事済んで今は毎日呆けている。
窓から見える景色は全部雪化粧で、今までの私ならウンザリしていただろう。
しかし、病気になった今年は、いつまで見続けても飽きない。
天から降り注ぎ地で積もる、そして春には溶けていく。
こんな当たり前の事がこんなに愛しい。

記憶に残しておこう。
こんどの冬は越せそうもないから。


<4月>

おじさんは釧路から札幌の開成高校に移りました。
そう、私の前にいた学校です。
今は私の両親の家で暮してます。
そして学校から帰るとずっと私の傍にいてくれます。


実は十字架を彼に発見された。

そして毎日祈っている事を白状すると、彼はちょっと待っていて、と言ってどこかに電話
した。
神父さんが来たのはそれから1時間後だった。
彼は、こくりと頷き、私に促した。

私は夢心地で洗礼を受けた。

私の目から涙が止まらなかった。
この人は私の気持ちが分かる。
今の私に必要な事、それは最後までしっかりと生きる事。
その為には、信仰の力が必要なのだ。
初めは形だけだったけど、今正式に入信できた。

私たちは強く抱き合った。


今日おじさんお誕生日だった。
いつものように、ショートケーキ、ロールケーキ、シュークリームでお祝をした。
もっとも買ってきたのは彼だったが。。。

「ハッピー バースディー ツユー ・・・♪(以下略」

「ホールケーキの方が良かったね。
だってロウソクが36本乗るからね(けらけら」

「人の気にしてる事を・・・(わーーーん」

「そう言えば、いつからロウソク立てないようになったんだろう?」

「18本で無くなったような気がする。
18才で旅立つ、もとい家を出るからだろう」

「ふーーん。
深いねー」

「そう、俺は高校から下宿だったから、15才で無くなった」

「そうか大人になるのが早かったんだね」

これが私の祝える、最後のおじさんの誕生日なんだ、とつい思ってしまう。
途端に涙があふれてきてしまう。

ごまかす為にキスをした。


<5月>

生まれた。

帝王切開でしか選択肢は無かった。
でも元気な男の子だ。
ほっとした。
脳腫瘍の影響が無いか心配したが、稀有だった。

腕に抱いてみた。
ほわほわして暖かい。

私の両親はもとより、彼の両親と弟くんや妹くんまで見にきた。
わいわい煩すぎて看護師さんに怒られていたと、後で聞いた。

残念な事だが、母乳で育てかったのに、私のお乳はその機能を果たさなかった。

悔しい。


あかちゃんを生んでから、急に身体が疲れやすくなった。
きっと、目標を二つとも達成したからだろう。


<6月>

左腕が動かなくなった。
右手だけでパソコンを打つのは大変だ。
とにかく遅い。
特に大変なのはFnキーが届かないのだ。
脳溢血を
煩った叔父さん(本当の)の苦労が良く分かる。


赤ちゃんの世話は全部母にお世話になっている。
車イスに片腕だ。
もう何も出来ない。

しかし、可愛いいな!
今日私の手を”にぎにぎ”した。
あんなに小さいのに機能だけはそろっている。

思わずほっぺにチューした。


<7月>

この頃いつの間にか気を失ってしまう。
もう駄目だ。
病院に入院させて貰った。


その人は突然やってきた。

釧路江南高校3年2組の関君だ。

「こんにちわ」

「えっ!」

「関君じゃない。どうしたの?」

そう言うと関君はイスを引いて私のベットに近づけ座った。

「驚いたよ。
君がこんな事になっているなんて」

「・・・」

「ずっと好きだったんだぜ。
だから北大の理学部に必死になって受かったんだ」

「えーー。
凄いじゃない!」

「それなのに君は医学部合格だなんて、飛びぬけているよ」

「えへへへ。
先生が良かったから」

「おまけに大学進学はしないで、いきなり入院だなんて・・・」

「もっと驚く事教えてあげる。
実は子供を生んだのよ私」

「えーーーー!」

「一体どうなっているんだ?
どっきり??」

私は事の顛末を話した。
それを関君はだまって聞き、私が話し終えると言った。

「なーーんだ。
そうだったのか。
ずずずー」

いつの間にか彼は泣いていた。

「そうか、君は今幸せなんだね」

こくり頷く。

「よかった。
よかった」

そして私の首にかかっている十字架を見つけた。

「もしかして君、クリスチャンなの?」

「そうよ、にわかクリスチャンだけどね。
入信ほやほやよ」

そう言ってお互いに笑った。

関君はそれから自分の夢を話した。

「教師になって俺みたいな馬鹿を北大に入れる事が夢だ」

「そうすると、私は受験の伝説の女神だね」

って言ったら笑わないで「そうだ」って言ってくれた。
そして私に聞いた。

「君の事を話していいか?」

「みんなを感動させてよ」

言うと「勿論!語り継がせるよ」って真面目に言った。
また来るよ、って言って関君は1時間も話していった。
久しぶり楽しかった。
やがて私は話し疲れて、いつ間にか気を失ってしまった。

その日、私は夢を見た。
大学に通い授業を受けてる夢だ。
私の横には春彦が座っていて、私はほっとして眠ってしまう夢だ。
久しぶりにいい夢だった。


おじさんは毎日会いに来てくれます。
そして他愛もない話をして私を笑わせてくれています。
そんな事にどんなに気を紛らわせているか。
笑い死にそうです。

感謝!


<8月>

春彦です。
書いているのは。
冬実に代わって代筆しています、パソコンで。

私は成し遂げただろうか?

この短い人生で、一人の男性を愛し、大学に受かり、子供を生み、そして終わろうとして
いる。

心残りは我が子の成長を見られないことだ。
そして我が子の子育てを、両親と彼に託す事をすまないと思う。

でも許してくれるよね?
私はこんなに頑張って生きたんだから。
神様も祝福してくれるよね。


今日、赤ちゃんにビデオを残せば?
って母に言われた。
死んでから映像に残るのは嫌だ。
私は写真で十分と言った。
だって動かないのが分からないじゃないの。(笑い


赤ちゃんは、今日も元気に泣いております。
オシメかと思ったらオネムの時間だったり、ご飯かと思ったら、何か気に障っただけだっ
たり。
ほんと赤ちゃんの翻訳機がなぜ無いのか、ふと思う。

犬ちゃんの翻訳機があるのに・・・。
と真剣に悩んだりしてます。
(春彦です。
それは赤ちゃんの鳴き声がどんな時も同じからだと思います。)


<9月>

もう手足も満足に動かせない私だが、心だけは自由だ。

そう、心だけは自由だ。

だけど心配事で頭が一杯になる。

私の子供は元気にすくすくと育つだろうか?
病気に成りはしないか?

春彦は毎日泣き暮らさないか。
再婚して幸せになって貰いたい。

私の両親は長生きしてくれるだろうか?
健康で幸せな人生を送って貰いたい。


<10月>

少し早かったけど、どうやら私の命はあと数ヶ月らしい。
無理な受験と出産が余命を早めたらしい。

最後に言いたい。


おじさん、楽しかったよ。
愛してる。

赤ちゃん、生まれてきてありがとうね。
愛してる。

みんなありがとう。

それじゃ、またね。



<12月>
春彦です。
彼女は行きました、たった19年で・・・
それでも素晴らしい人生を駆け抜けました。
たくさんの輝かしいものを残して。
それでは失礼します。



(終わり)

出典:オリジナル
リンク:オリジナル
  投票  (・∀・):457  (・A・):113  →コメントページ
読み終わったら評価を投票してください。押してもらえるだけで更新意欲がわくです。
コメント書かなくても投票だけでもできます。
作者の創作意欲を削ぐような発言は絶対に止めてください。
既出や重複の登録を見つけたら掲示板までお知らせください。
イイ→ イクナイ→ タグ付→
ココ
コメントがあれば下に記入してから押してください(30秒規制)
名前: トリップ:
コメント:

  トラックバック(関連HP)  トラックバックURL: http://moemoe.mydns.jp/tb.php/41991/
トラックバックURLは1日だけ有効です。日付が変わるとトラックバックURLが変わるので注意してください。
まだトラックバックはありません。
トラックバック機能復活しました。

  Google(リンクHP)  このページのURLを検索しています
検索結果が見つかりませんでした

TOP
アクセス解析 管理用