17才年上だった彼女 (オリジナルフィクション) 11156回

2015/12/10 13:54┃登録者:あでゅー◆UokxQKgo┃作者:あでゅー
20151206-『17才年上だった彼女』byあでゅー


落ちた。今年もまた志望学部に。
もう5度目だ。もう駄目だ。諦めよう。

僕の志望学部は医学部。世の為人の為に、いや親の期待に応えて目指したが、その願いは遂に叶わなかった。そして他の学部には行く気になれず、めでたく高卒だ。

その晩、親元を黙って出て一人暮らしを始めた。そこには、もう期待だとか、見栄だとかはもう無い。世の中のしがらみが切れて、晴れやかな気分だ。しかし、食べれなければ即死ぬと言う怖さがある。僕は必死で仕事をした。

高卒の僕が働ける所は、アルバイト、しかも給料の安い飲食店だ。少しでも給料を上げる為に夜のシフトで働く。観察してると、そこに現れる人も、皆同じような境遇だと感じ、少し親近感がわいた。そこに来る人は家族の影は無かった。皆一人だろう。



「いらっしゃいませ!ご注文が決まりましたら、お知らせください」
年配の女性客にお茶を出した。
「今日も冷えますね。この分だと明日は雪ですか。いやな季節になりましたね。運転にはお気を付けくださいね。それでは」
「ねえ、あなた。タイヤ交換できる?」

それから、バイトが終わる朝7時にタイヤ交換の約束をした。免許は浪人2年目に取った。だから、金の掛からない様に車の手入れは全部自分でした。車も親父のお下がりのオンボロを譲ってもらった。

「お願いね」
「はい」
言葉使いは冷たいけど、悪意が感じられない。きっと、お嬢さん育ちだろう。
彼女は僕の作業を熱心に見ていた。
「出来ました。後、ガソリンスタンドで空気圧のチェックを忘れずに」
「助かったわ。幾らでいいかしら?」
「要らないですよ。サービスの一環ですよ。いつも、喫茶モンテをご利用ありがとうございます。これからも、ごひいきに!」
「ふふふ。こんなおばさんにも優しいのね。いいわ、今度夕食でも奢ってあげる」
「ありがたい。それだったら今からどうです?」
「ふふふ。いいわよ」


僕はバイト先の店で奢ってもらった。ハムサンドとコヒー、それとアイスを。
「頂きまーす」
パク、ムシャムシャ、ゴックン、フーフーゴック、ゴックン。
僕は自分の店のメニューを初めて頂いたが、中々旨い。ハムに振ったブラックペッパーが良いアクセントになっている。わずか、600円のメニューとは思えない。もっとも、ブラックペッパーに変えたのは僕の提案だったが。

家にいた時からそうだが、なんでも一工夫して良くしてしまう事が得意だった。5浪もしていたのだから、出来るだけ家に負担を掛けないようにしていた。それ故、一工夫で良くなる事は大方やった。

例えば、屋根付きガレージに吹き込む雪の為に、長さ1m幅10cmのゴムのすだれを付けた。ゴムはぶつかっても車が傷まない様に、長さ1mは車が有る事が分かる様に、幅10cmは強風でも弾き飛ばされない様に。


「ご馳走様。美味しかったです」
「ねえ。このメニュー食べた事が無いって言ってたけど、どうして?」
「実は、僕家を出て一人暮らしなんですよ。それで、ここのバイトで食っているんすけど、もう一杯いっぱいで…。そう、俺ビンボーなんであんな高い物食べられないんですよ」
残りのコーヒーを大事に飲んだ。

「それだったら、私の家に住む?家賃只でいいから、その代わり雑用して」
「…残念ですけど、僕一人で生きてくって決めたから、それは出来ません」
「別に、ツバメになれって言ってる訳じゃないのよ。只、時々暇な時に雑用をしてく……。ふふふ、ツバメじゃなくても、こんなおばさんと一緒に住むのが嫌なんでしょ?」
僕はちょっと考えてから
「では、電話を下さい。バイトが無い時は直ぐ駆けつけますから。
大丈夫ですよ。これでも、恋人はいませんから案外暇なんです。あははは」
「分かったわ、それで良いわ。よろしく」
僕たちは握手した。
「でも、それだったらモンテ以外の店で食べたいな」
「お安い御用で」
こうして、僕たちは契約を交わした。


ある時は電球を変えに、またある時は掃除機のフィルターを変えに、またある時は玄関のタイルを変えに、またある時は水道の蛇口を取り換えに行った。細々した事の報酬は、まとめて食事に連れてってくれた。彼女は大分家の使い勝手が良くなったって言っていたし、僕は色んな店に連れてって貰えて、良い勉強になった。


そんなある日、彼女が提案をしてきた。
「ねえ、あなた。将来お店をやって見たいんでしょ?」
「ええ、まあ」
「それだっら、私がオーナーであなたがマスターでやってみない?」
「あのー、それってプライベートで付き合えって事ですか、それとも契約ですか?」
「…」
彼女は黙ってしまった。僕は、意を決して言った。
「好きです。最初に会った時から」
彼女は泣いてしまった。周りの客が心配そうに見てる。
「でも、私今年で40よ。こんなおばさんなんて」
「それでも、あなたは美しい。だから、もうそんな事言わないで」

僕たちは付き合い始めた。避妊はしなかった。子供はどうせ出来ないだろうし、もしも出来たとしたら結婚しようと決めた。
それから店の事だが、もう少し勉強してからと申し出を断った。



ある日、彼女は話があると言って来た。朝、店を終わり彼女の家に行った。
彼女は改まって話始めた。
「私と結婚して。お願い」
目がオドオドしている。この言葉を言うために、どれ程の決心と恐れがあったのか分かる。
「分かった。結婚しよう」
正直、結婚までは考えていなかった。だが、彼女の決意を踏みにじる程、僕の気持ちは強くなかった。それに、彼女との生活は案外良い物だと思っている。なにせ、束縛が無い。夜遅くに帰っても、ちょっと遠くへ出かけた時も、彼女は黙って僕を見守ってくれた。結局、凄く居心地が良い場所を得て僕は満足していた。


結婚式当日。僕は直前までバイトをしていた。そしてギリギリの時間で間に合った。僕を咎めることも無く、優しく微笑む彼女は、ますます魅力的だった。僕たちは幸せを噛み締めた。

結婚式も無事終わり、日常の生活を取り戻したとき、彼女は突然姿を消した。そして、彼女から一通の手紙を受け取る。


マモル。あなたは私に喜びを与えてくれました。それは、この40年生きて来た中でも飛び切りの。本当にありがとう。
しかし、私は大事な事を隠してました。それは、私は癌で余命が後半年なのです。
本当に申し訳ありません。ごめんなさい。

けれど、私の気持ちを分かって欲しい。私には今貯金が5千万ほど有ります。これを受け取って欲しくて結婚しました。
どう使っても良いです。店の開業資金でも、何でもいいです。あなたの為に使ってくれたら。

私は後半年で死ぬでしょう。けれど、あなたと出会えた事は、私の中ではもう何よりも代えがたい幸運でした。その代わりにあなたに残せる物は、お金しかありませんでした。せめて、これをあなたに残して死にたいのです。最後のお願いです。どうか、貰って下さい。

そして、私が死んだら、誰か良い人を見つけて結婚して子供を作ってください。子供が出来なかった私ですから、それを誰かに託したいのです。

ありがとう。本当に今までありがとう。もしも、許してくれるなら、○○病院サナトリウムへ会いに来てください。私の最後の場所です。


その晩、サナトリウムには抱き合い涙を流す二人の姿があった。



その17年後、一人の男が医療の現場で戦っていた。それは、あの5浪で諦めてしまったマモルだった。彼はあれから再び医学部を目指し、見事合格して医者になった。そして、今日も多くの人の命を救っている。彼女を救えなかった事を償うように。…そして、今年で彼は彼女とやっと同い年になった。



(終わり)

出典:オリジナル
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