1.電話 「はい、もしもし?」 「田川君?」 「そうだけど」 「私スミレ、藍沢スミレ」 「藍沢さん!どうしたの、ビックリしたよ」 「うん。高校の時以来だから、もう7年経っているね。元気してた?」 「うん。僕は元気だよ。で、どうしたのさ。あんまり話したことなかったけど、何か相談?」 「うん。久しぶりに声を聞きたくてさ。…迷惑だったかな?」 「そんな事ないけど、いやむしろ久々の女性からの電話で嬉しいっていうか…。今、俺がどこ住んでいるか分かる?」 「群馬の工場でしょ?」 「何で知ってるのさ?」 「田川君のお家の人に聞いて」 「何だ?何も言ってこないぞ。もしかして弟が出た?」 「うん、弟君。あれから田川君頑張ったんだね、○○大学に受かっちゃうし。もう、遠くの人に成っちゃったって思ってた。…でも、一度位はトライしなきゃって」 「…」 「田川君」 「…はい」 「私はあなたの事が…」 「…うん」 「好きでした!」 「…」 「…もしかして知ってた?」 「何となく。…ほら内海の奴が一度ちゃかしてたでしょ。それで…」 「知ってたか…。でも放置って事は駄目なのね?」 「いや、好きだった。…あの頃は自分に自信が持てなくて。それで、声を掛けれなかった」 「だったら、大学受かった時に言ってくれれば良かったのに。何で?」 「それは…、遠くの大学へ行って離ればなれになるから、言っても無駄と思って…」 「何?それじゃ大学で良い人でも見つけようとしてたんでしょ。それじゃなかったら、俺はもっと頭の良い女が合うと思ってた訳!?」 「落ち着けよ…。そんな自信は無いさ。いつもね」 「…ごめんね。一人で熱くなっちゃって。でもね、私の気持ちを知ってて放置した田川君が悪い」 「ごめんよ」 「…うん。許す」 「でも、君の気持ちには答えられない」 「…どうして」 「僕には…婚約者がいるんだ」 「…」 「所長の娘さんでね…。もう断れないんだ。だから、ごめん」 「…」 「藍沢さん?」 「ぐっすん…。どうせ駄目だろうって思ってた。で、私の敗因は何?」 「それは…、俺の意気地の無さ」 「ねえ、どの位私の事好きだった?」 「今でも好きさ!…夢に出るほど」 「だったら!…だったら、何で私に声を掛けてくれなかったの?」 「…ごめん」 「ごめん、ごめんってねえ…。あーあ、何でこんなヘタレを好きになっちゃかな。…ねえ、その所長の娘は何才?」 「…18才」 「はぁ?!今年高校卒業?」 「…うん」 「若い方が良いんだ…」 「そんな事ないよ!藍沢さんの方が美しいし…」 「何?言いたいことがあれば言いなさいよ」 「グラマーだ!」 声が急に小さくなった。何かブツブツ言ってる。 「分かってるんじゃないの。そうよ、私は顔も身体も美しんだから。それをこんなヘタレの為に取っていたなんて…」 「聞こえないよ。何?」 「だから、私の処女欲しくないの?」 「えっ!何で今まで」 「それは田川君の為に取っておいたんじゃない。そりゃ今まで勇気を出して告白しなかった私も悪いわ。でも田川君のヘタレぶりには呆れるわ。今までの私の時間を返してよ!」 「…タイミングかな…。ごめん」 「ねえ、一度会って話をしない?気持ちが変わるかも知れないし」 「僕も会いたい。でも、所長の娘さんを抱いたんだ」 「……へーー。そんなの関係ないでしょ。会社辞めたって家の店で働けば」 「会社辞めろって言うのか!?」 「駄目?私の為に」 「…僕は、今まで自分の夢の為に一生懸命頑張ってきた。今の仕事もやりがいがある。それを今捨てるなんて…」 「夢って言ったってノーベル賞は取れないでしょ?知ってたよ。それが夢だって。もう良いでしょ?頑張ってある程度の事は出来たんだし」 「ノーベル賞か。小学校の夢だ。しょせん、こんなもんだ俺なんて」 「だったら」 「でも今までの苦労が無駄になる」 「私を手に入れる事が出来るのよ?」 「…ああああ」 「…」 「分からないよ…」 「ねえ、一度遊びに行って良い?」 「それって…」 「うん。あなたに抱かれに」 「…」 「止めって言わないのね」 「…」 「今田川君は立っているね」 「…」 「私を想像して勃起してるよね?」 「…うん…」 「今度の日曜日、家に来て。私の決意を見せるから」 「うううう」 「泣いているの?何で?」 「うううう。自分の努力はしょせんこの程度で、君を手に入れる事に比べたらちっちゃい事なんだ。それが、悲しくて。でも君を手に入れる事が出来たら、きっと僕は幸せだろうと思う」 「うん」 「でも、何も残らない。何も残せない」 「田川君には他に凄い才能があるじゃない。それは小説よ。あなたの文章には、いつも心揺すぶられていたのよ」 「いつ読んだんだ?」 「投稿サイトで読んだの」 「いつから?」 「高校1年の時から今まで」 「全部読んでくれたんだ、嬉しいよ。でも才能は無いよ。君も知ってる通り人気無いんだ」 「それでも、全く新しい物を次々と生み出せるって、凄い事だわ」 「数少ないファンか。大切にしないとね」 「そうよ。大切にしなさい」 「実は…」 「何?」 「就職する時、地元に小さな研究所があって、そこと迷ったんだ」 「うん」 「そこへ転職していいか?」 「いいよ。一緒に住めればね」 「分かった。君の家に婿養子に入るよ」 「嬉しい!本当に良いのね?私達一緒になれるのね?ありがとう、ありがとう」 「でも、所長の娘さんには申し訳ない事をした。これから謝罪しに行くよ」 「待ってるから、あなたの来るのを待ってるから」 「それじゃ」 2.手紙 返事が遅くなって申し訳ありません。 あれから僕は所長の家に謝りに行きました。所長の怒りはもっともで、只平謝りして床に頭を擦りつけて詫びました。しかし、それ以上に娘さん、サトコの落胆は激しく、部屋に引きこもってしまいました。 僕は婚約破棄の代償として、500万円払うように言われました。僕にとっては決して少ない額じゃありませんが、娘さんの気持ちを踏みにじった代償としては、当然の事です。親にくめんして貰う事にしました。 でも、これで終わりではありませんでした。娘さんが自殺未遂を起こしたのです。急いで病院へ駆けつけると、左手首に包帯を巻いたサトコが寝た居りました。鎮静剤でようやく眠ってくれたの、と涙ながらにお母さんが言っていました。 カウンセリングの先生に呼ばれ話を伺いました。傷は深く手首のケンまで達していたそうです。後遺症が残るでしょうと言われました。もしも、このまま自殺を繰り返すと何れ死んでしまう。もしも、本当に救う気持ちがあるのなら、結婚してはどうか、と言われました。僕は頷くより他は有りませんでした。 もしも、このままサトコが死んでいたら、僕は人殺しです。そして、これから死んだとしてもやはり人殺しです。だから、片時もサトコのそばを離れませんでした。そして、二人は結婚したのです。今は、お腹に子供も出来、大分落ち着いてきました。僕は前の様に仕事にも行ってます。 本当にごめんなさい。 約束を果たせなくって。 これで、最後です。 さようなら。 出典:オリジナル リンク:オリジナル |
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