小学生の時、古本屋の親父さんと仲良くなってね 本ばっかり読んでる暗い子供だったけど、家が貧乏で新刊本は手が出なかったから本はもっぱら図書館で借りて、小銭を貯めてはその古本屋の50円均一の文庫コーナーに行くのが唯一の楽しみでさ そのうち親父がおすすめの本や作家を薦めてくれるようになって、小銭がなくてもよく立ち寄るようになったんだよ 服や靴で貧乏だってのが分かったのか たまに全集の半端ものなんかを「どうせ売り物にならんから」ってタダでくれてさ ほんとうれしかったな お礼に本棚にはたきかけたり、本を運ぶの手伝ったりしてさ 今考えるとずいぶん邪魔したんだろうけど、楽しかったよ ある時、親父さんが店を閉めることになったって言ってきて「これやるよ」って山岡荘八の「徳川家康」全32巻が入った段ボールをどんっと出してきたんだ そのころ歴史小説にハマってた俺の気に入るものをと思ったんだろうな でも俺は親父さんがいなくなるのが悲しくてろくにお礼も言えず泣いてた それから毎日数巻ずつ徳川家康を持ち帰った 天井まで本が積み上がってた店内もどんどん片付いていって寂しかったよ 最後の日、残った1冊を取りに行ったら親父さんが待ってて「お前が最後のお客さんだ」って言ってしっかり包装した本を渡してくれた 「お金払えなくてごめんなさい」って泣いたら「そんなの気にするな、本屋にとっては本が好きな客が一番いい客なんだ」ってさ 家に帰って包装紙をはがしたら、1万円分の図書券が入ってた 「もう古本屋は辞めるからこれはただの近所のじじいとしての小遣いだ」って手紙が入ってた 次の日、お礼に行ったらもう古本屋は閉まってて誰もいなかった 親父さんがその後しばらくしてがんで亡くなったって知ったのはだいぶ後になってからだ もう一度会ってちゃんとお礼を言いたかったな 俺がずっと本好きでいるのが何よりの恩返しだと今は思うようにしている 「徳川家康」はもうぼろぼろだけど一生捨てられない 出典:2ch リンク:2ch.net |
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