さらばクッシー (ジャンル未設定) 5582回

2017/05/15 08:09┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者



 たぶん一度は聞いたことがあると思う。北海道東部の屈斜路湖には、クッシーと言う謎の生物が住んでいるらしいと言うことを。体長三から四メートルはあろうかと言う代物で、見た目は首長竜に近いが、背中に二つのコブが付いていることから明らかに違う謎の生物だ。僕の予想では、そう大きくは違わないだろうと思うのだが。
 僕ら××高校の生物部の有志は、クッシーの姿をひとめ見ようと、一九九七年の夏休みを利用してキャンプ場にバスでやって来た。メンバーは、僕、竹下仁(ひとし)と、本郷武士(たけし)と、佐竹直之(なおゆき)。三人とも二年で百七十センチほどでメガネを掛けている似た者同士だ。
 屈斜路湖に着くと、さっそくテントをはった。と言っても、一応取説は付いていたけれど、やってみると難しくて、三人でテントをはるのに二時間もかかってしまった。汗だくで、ようやくでき上った時はうれしくって、記念にとった写真は今も大事に持っている。
 それから海水パンツに着がえ、湖を泳いだ。だが、湖底はゴツゴツした岩で足を着くとひどく痛かった。本当にこれが海水浴場かと首をひねった(ここは海でないから湖水浴場と言うのだろうか?)。湖底に砂をひけばいいのだと思うが、透明度が落ち、生態系にも影響しかねないから、やらないのだろう(もっともカルデラ湖なのでたび重なる湖底の噴火で弱酸性に傾いており、ほとんど魚などの生物はいないようなのだが)。我慢して浅瀬で水浴びをしていたが、すぐにあきてしまった。おとなしく冷えた身体を、砂を掘って砂湯をつくり温めた。
 飯は、おもにレトルトのカレーとシチューを食べた。自炊してもいいのだが、僕たちはクッシーを見つけることを目的に来たから、料理に時間をかけるわけにはいかない(そのキャンプ場には、肉や野菜、それに各種調味料が売っていて、お金さえあればなんでも手に入るのだが)。それなら、なぜ海水パンツを持って行ったのかと思うかもしれないが、クッシーは水生生物だと考えると、必需品だ。

 僕たちは、無理して昼寝をして、探索をはじめたのは夜中になってから。頭にヘッドライトともし、服の下には濡れてもいいように海水パンツをはいた。そして、一晩千円で借りたボートに乗って、中島めざしてこぎだした。中島と言うのは、ちょうど湖のまんなかに島があって、湖の全周五七キロに対して、島の全周は十二キロ。なかなか大きい島だ。僕らは、この中島にクッシーがひそんでいると検討をつけた。
 岸からこぎ出して、約三十分。僕らはヘトヘトになってようやく中島に到着した。途中こぎ手を代わるためにボートの上に立ったが、ちょっと怖かった。だが、一人でこぎ続けるには、僕らの体力はたらなかった。
 三十分ほど休憩して、よれよれの僕らは中島の中を探索を開始した。ヤブを分け入って三十分ほど行くと、とつぜんなにも生えていない場所へ出た。それは、なにかがいることを暗示していた。僕ら三人は急に無口になりひとかたまりになり身体を震わせ耳をそばだてた。
 ここにいては、クッシーはきっと出てこないだろうとの本郷の意見により、僕らはヘッドライトを消してヤブの中に隠れてクッシーの登場を待った。
 一時間が立ち、二時間が立ち、六時間ものあいだ息をひそめてクッシーの登場をまったが、結局表れたのは名前のわからない一羽の鳥だけだった。やがて、夜が明けて来て、ボートを返さなくてはいけない時間となり、仕方なく僕ら三人はボートをこぎ出した。
 体力が限界近くになり、こぎ手をひんぱんに代えた結果、やらかしてしまった。僕は、ボートからバランスを壊して落ちてしまったのだ。まわりは月明かりがかすかに見える程度で、どちらが上かもわからない。無我夢中で手足をバタつかせたのだが、ついに力つきる。思い切り水を飲み込んで、僕の身体は湖の奥深くに沈んで行った。



 僕が気が付くと、クッシーらしい恐竜が心配そうにのぞいていた。そして、本郷と佐竹はクッシーの隣で、やはり心配そうにしていて、僕は思わず笑ってしまった。
「ゴホ。なに三人で心配そうに見ているんだ?」
 その時の本郷たちとクッシーの顔は、ホッとして力が抜けたようだった。
 僕は、もうろうとした頭で必死で考える。もしかして、僕はクッシーに助けられたのか? そして、僕の言葉がわかるようなクッシーの表情。まさか、僕たちと同等な知能を持って、僕たちの言葉がわかるなんてことは……。
 思わず、僕はクッシーに向かって話しかけた。
「もしかして、君が助けてくれたの?」
 僕のその言葉に対して、クッシーはコクリとうなずいた。
「……。ありがとう」
 クッシーは、右前足で気にするなよと言うようなジェスチャーをした。
「な、クッシーは僕たちの言葉がわかるんだ。驚くべきことだ」
 本郷は、目をキラキラさせてそう言った。佐竹も興奮ぎみに何度もうなずいた。

 この時の僕の思考は、さらに想像をめぐらせた。もしかしたら、何億年もの間、恐竜は進化して我々と同等な知能を持っていたのではないかと。だが、人間と恐竜たちの間には大きな違いがある。それは、我々は言葉が話せるし、文字だって持っていることだ。
 イルカとクジラは、人間と同等な知能を持っていると言われている。だが、言葉も文字も持っていない彼らは、その知能を使いきれていない。それと同じように、このクッシーも十分に知能を使いきれていないのではないかと。あらためて人類に神が与えたエコひいきの大きさを思う。だが、それが進化ではないのかと言われれば、うなずくしかないのだが。
 もしも、犬が言葉を話して、文字を持ったら。
 もしも、牛が言葉を話して、文字を持ったら。
 もしも、イルカが言葉を話して、文字を持ったら。
 もしも、恐竜が言葉を話して、文字を持ったら。
 今、地球を支配して、君臨したのは彼らだったかも知れない。そして、人間は家畜となって肉にされて売られるんだ。そう思うと、ぞっとした。

 でも今、恐竜が僕の命を救い、心配してくれた。そのお返しとして、せめて僕たちは彼らの生存のジャマだけはしないようにと話し合った。



 あれからクッシーは僕たちに気を許したのか、生体観察をさせてくれた。きっと、僕たちはクッシーに害を与える存在ではないことがわかったためだろう(だが、いくら生体がわかっても、クッシーの安全のためにどこにも発表はできないのだが)。
 体長はおよそ三メートル。皮膚はアザラシのような毛でおおわれており、実際の年齢はわからないが、たぶん成獣だろう。寿命はとうぜんわからないが、希望的推測でカメなどと同じで四〇〇才くらいだとうれしいのだが。それから性別は、チンコが付いていたから、たぶんオスだろう。
 クッシーのほかに少なくともつがいのメスがいるのだろうが、警戒して姿を表さないから、個体数やつがいの確認、それと生殖能力の有無はわからなかった。
 クッシーが食べているのは主に水草、それがなくなった時は樹々の葉っぱなどをなどをしぶしぶ食す(決して肉食ではなかったのが僕のラッキーだったことだ。もしも、そうなら今ごろはクッシーの胃袋の中だったろう)。食べる量は一晩でおよそ一キロ。決して少ない量ではないが、そのくらいは湖のまわりだけ、四五頭は補えるだろう。
 食事をする時間帯は、夜中から明け方まで。だが、これは人間に見つからないようにするためだろう。おそらく、四六時中食べていられると思われる。
 冬の植物が少ない間は、冬眠をして過ごすのだろう。そうすると、中島以外に別の巣穴があるはずだが、僕たちにも決して見せようとはしなかった。
 このように、弱酸性で魚が少ない湖でも生きていける生体であることがわかった。

 クッシーは、遊び好きである。ビーチボールを投げると、鼻先をポンとあてて返してくる。間違って変なところへボールを飛ばしても、なんなくひろうと言う、運動神経の良さだ。しかし、地上での運動には体力的に限界があるようで、すぐにバテテしまう。やはりその巨体は、水中で生きるようにできているようだ。クッシーは水中でさまざまな曲芸をやって見せた。だが、人に見つからないような水音が立たない比較的おとなしめのものだが。
 クッシーは、好奇心がなかなかおうせいである。僕たちがパソコンをやっていると近づいて来て画面をのぞく。どうやら、文字も読めるようで、ページを読み終えると、次のページをさいそくする。どこで文字を覚えたんだと質問すると、看板を指さした。なるほど、立て掛けられた看板は、無数にある。クッシーほどの知能があるならば、読み取ることは難しくないだろう。きっと、知能指数は二百を越えていると思われるが、文字が読めても、あのヒレではボールペンを持てないし、パソコンのキーだって小さすぎて打てないので、それを証明することはひどく困難なのが残念である。



 ある日、クッシーは僕たちに地図をさいそくした。なぜだと言うと、クッシーは答えた。俺たちは、もうここには住めない。どこか遠くへ行くんだと。ジェスチャーと表情からそう読み取れた。
 おそらくクッシーの祖先は、数万年に渡って屈斜路湖にすんでいたのだろう。アイヌだけがいたころは、そっとしてくれだだろうが、本州の人が大量に押し寄せる今の時代となっては、もはや住みやすいところではなくなったのだろう。それに、クッシーを捕獲しようとするやからもでてきている。
 僕たちは、悲しみをおさえて地図を買って来た。そして、見やすいように釧路川を赤くぬりつぶして、途中にはダムがないから海に出られると教えた。クッシーは、その地図を読み終えると、ありがとうとジェスチャーした。そして、君に出会えてよかったと表現した。

 最後にクッシーの姿を見たのは、夏休みが終わる三日前。僕らは、涙を流して別れをおしんだ。クッシーも泣きそうな表情だった。僕たちのバスが屈斜路湖から離れていくのを、四つのコブがいつまでも見送っていた。

(終わり)

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