むかしのはなし。 (ジャンル未設定) 15706回

2018/06/24 21:18┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:E_jan
 むかしのはなし。 
日時: 2007/06/09 18:18 名前: E_jan 

E_janです。
「キャバ嬢を愛して」と、多少クロスオーバーする部分はありますがサイドストーリーというより、昔話です。
まったく別の話ですが、書いてみました。


時代背景はバブル崩壊直後、平成初頭あたりをご想像下さい。


その1

渋谷のはずれ、入り組んだ路地の脇に、ひっそりとたたずむその店には「隠れ家」という趣があった。
蔦の絡まる白壁と、重そうな木製の大きな扉。なんとも言えない雰囲気には年輪を感じさせるものがあり、まだ23歳だった俺がそのドアを押すのには、多少ならぬ勇気が必要だった。

それでも、敢えてその店を選んだのは、『14』という店名に惹かれたからだ。
自分の誕生日が14日だという事以外に、野球少年だった頃憧れた、伝説の投手・沢村栄治の背番号であったり、中学の時とき、好きだった娘の出席番号であったり、好きな曲であるベートヴェンの『月光』がピアノソナタ第14番であったり、とにかく俺にとって特別お気に入りの数字だったのだ。

『Ber 14』という小さな四角いプレートの付いた重い扉を開けると、ちりん、と小さなベルが鳴る。
最初に眼に飛び込んできたのは、圧倒的な品揃えのバック・バーだった。
長いカウンターの向こうに、壁全面を覆うようにしつらえられた5段の棚には、何百本というボトルが並んでいる。
広い店ではない。席はカウンターだけの細長い造りだ。

これは……上級者向け、かな?
安酒しか呑んだことのない俺は、それだけで圧倒されてしまう。
「いらっしゃいませ」
入り口で躊躇している俺にそう声を掛けてきたのは、アルバイトだろうか。
たぶんまだ30歳前後。茶髪をオールバックにした若いバーテンダーだった。
客も含め、ほかには誰もいない。

壁、棚、カウンター、それに椅子。すべてが黒で統一された落ち着いた内装のなか、そのバーテンダーだけが浮いていた。
しかし、それが俺の気分を楽にしてくれたのも事実だ。
思い切って、10席あるカウンターの、ど真ん中あたりに座る。
「いかがいたしますか?」
バーテンダーはおしぼりを差し出しながら聞いた。
正直なところ、俺は酒に詳しくない。

「……すごい数の酒ですね」
「ええ、趣味が高じて店を始めたもので……いろいろ珍しいバーボンが揃っていますよ」
「俺は酒、よくわかならいんで、オススメをください」
「そうですね。手頃なお値段で……これなんかいいですよ」

『Very Old Barton』
聞いたこともない酒だった。
「マイナーなバーボンですが、すごくいい酒です。香りが高く、口当たりがいいから飲みやすい。それでいてしっかりした喉ごしがあります」
そういって、ショットグラスに注ぐ。

「普段は水割りかロックで呑まれてると思いますが、ストレートでやってみてください。その方が美味しいですし、実は悪酔いしないんですよ」
「そんなもんですか?」
「ええ。自分がどれぐらい呑んでいるか、もう一杯行けるのかどうか、よくわかりますからね」
そういって、ショットグラスとチェイサーを置いた。

ふわっと甘い香りが広がるのがわかる。
バーボンの香りを楽しむ、なんて考えたこともなかった。

バーテンダーは荒木と名乗った。
聞けば、ここは彼がオーナーの店だという。
「脱サラして、2年他の店で修行して、半年前にやっとオープンすることが出来ました」
「なんかもっと歴史のある名店かと思いましたよ、風格あるじゃないですか」
「ああ、ここは前もバーで、その店は20年やっていたそうですよ。店構えが気に入っていたので、外装はちょっと手を加えただけで、ほとんどそのままなんですよ」
「それで、か」
「まあ品揃えは外面に負けていないと自負していますけどね」

ちりん、とベルが鳴り、ドアが開いた。
「こんばんわ、マスター」
元気な挨拶とともに二人連れの女性が入ってきた。
ひとりは紺地に細いストライプの入ったスーツを着た40歳ぐらいのちょっと太めの女性、もうひとりはいかにも、というリクルートスーツを着た、眼鏡を掛けた女性だった。

「いらっしゃいませ、結城さん。ひさしぶりですね」
「仕事、忙しくてね」
年上の女性……結城さんは肩が凝りました、という風にとんとん、と自分の肩を叩く。
太めではあるが、それが愛嬌を生みだしており、元来の美しさに不思議な色香を加えている。俺の好みではないが、間違いなくモテるタイプだろう。

「あ、この娘、私の姪なのよ。芙美代ちゃん。今ね、就職活動中でさ、こっちに出てきてるんだ」
「よろしくお願いします、芙美代さん」
そういって、荒木はおしぼりを差し出す。
就職活動中か。俺も去年のこの時期、なかなか就職先が決まらずに焦っていたな、と懐かしく思い、改めて芙美代と呼ばれた女性を見た。
先ほどは照明の暗さもあってわからなかったが、彼女は相当な美人だった。

「私はターキー。ふみは……カクテルがいいかな?」
「あ、私、あんまりお酒呑んだことないので」
彼女はおどおどした口調で言う。

大きな瞳、すっと通った鼻、愛嬌のあるアヒル口。
すべて俺の好みのど真ん中であった。
ただし、それだけの素材でありながら、彼女はまったくといっていいほど洗練されていなかった。無造作に肩の辺りで切りそろえた黒髪といい、あか抜けない化粧といい、純朴さとダサさの瀬戸際を彷徨っている風だ。

「そんなにジロジロ他のお客様を見るのはマナー違反ですよ」
いつの間にそばに来ていたのか、芙美代に見とれている俺に、マスターが小声で言った。
「あ……」
ふふっと結城さんが笑う声が聞こえた。
「ふみちゃん、美人でしょ?」

あまりの恥ずかしさに、急激に血が頭にのぼる。
「お、お会計お願いしますっ」
いたたまれなくなり、席を立つ。
「あら、ゆっくりしていけばいいのに」
結城さんの声を無視して、俺はさっさと金を払い、逃げるように店を出る。

「また、お待ちしております」
その背に、マスターが優しいトーンでの声を掛けてくれた。



2ヵ月が過ぎ、あの店に行きたくなった。
恥ずかしい思いをして店を飛び出したときは、二度と行くものかと思ったが、不思議とあの店が忘れられない。そんな雰囲気のある店だった。

同僚の高山恵利瀬を誘ったのに、深い理由はなかった。
ただ単に、ひとりで顔を出すのに抵抗があったからにすぎず、暇なやつなら誰でもよかったし、女性ならばなお都合がよかった。それだけのことだったのだ。

『14』のマスターは、にこやかに俺たちを迎えてくれた。
まあ、当たり前だろう。俺が自意識過剰なだけだってことぐらいは理解している。
それでも当時の俺にとって、『女に見とれている』ところを指摘され、注意されるというのは耐え難い屈辱のように思えたのだ。

「すごい……。江口って、いつもこんなところで飲んでるの?」
俺も圧倒されたバック・バーを見て、恵利瀬は驚きを隠さない。
「まあ、たまにね」
恵利瀬をエスコートして、カウンターの一番奥に座った。

「いらっしゃいませ。ご無沙汰ですね」
そういって、マスターがおしぼりを差し出した。
「わ。なんか、かっこいいじゃんマスター。ちょっと吉田栄作っぽい?」
恵利瀬は当時、ブレイク中だった俳優の名を口に出し、はしゃぐ。
確かに細く優しげな眼や雰囲気は、その俳優に似ていなくもない。年齢は30歳ぐらいだというのに、それなりの風格を漂わせてもいる。
多分、『14』という店そのものが持つ、オーセンティックな雰囲気も一役買っているのだろう。

「バートンを。あと、彼女になにかカクテルを」
前回奨めてもらったバーボンを頼む。
マスターは鮮やかな手つきでシェイカーを振り、瞬く間に薄紫色のカクテルを作り上げた。
「ブルームーンです」
「綺麗ね……」
恵利瀬は、その魅惑的な色合いのカクテルに見とれていた。

続いて、ヴェリーオールドバートンをショットグラスに注いで、俺の前に置く。
「気に入ってもらえましたか?」
それはバートンのことなのか、この店のことなのか。
どちらでも同じことだ。
俺は無言で頷くと、芳醇な香りを放つ茶色い液体を喉へと流し込む。
かっと喉が焼けた。

「なんか、かっこいいね。今日の江口」
「そうか?」
「うん。バーボン似合ってるじゃん」
そういいながら、煙草を銜え、火を付ける恵利瀬。
「んで、今日はどうしたの。珍しいじゃない江口から誘うなんて」
「んー。なんとなく恵利瀬と飲みたいな、と思ってさ」

恵利瀬は一般的に見ていい女といえるだろう。飛び抜けて美人というわけではないが、細く切れ長の眼が印象的な整った顔立ちをしている。身長も高く、大きな胸に細い腰と、メリハリの効いた抜群のスタイルを誇っている。連れて歩くのにはもってこいの女といえるが、俺の好みではなかった。
この春、同期として同じ会社に入り、同じ部署に配属された。妙に話の合うところがあり、たまに一緒に飲みに行くこともあるが、ふたりっきりというのは、これがはじめて。その程度の関係だった。

「ふうん。……江口、彼女とかいないの?」
「しばらくいないなあ。恵利瀬は?」
「私は……いるよ。っても、もう半年も会ってないけど。就職でこっちに出てきたからさ」
確か恵利瀬は岐阜の出身だ。

「そんなに遠くないんだし、会いにいけばいいのに」
「うん、そうなんだけどね。なーんか面倒くさくなっちゃってさ」
「へぇ。じゃあ今日の酒の肴はその話だな」
「……けっこう意地悪いね、江口って」

3杯目のカクテルに入ったころから、恵利瀬は饒舌になっていた。
「そんなわけで、馬鹿みたいに束縛が厳しいわけよ。就職、東京でしようと思った理由のひとつがそれ。ちょっと逃げ出したかったんだ」
「へえ。それっきり?」
「ゴールデンウィークに会ったけどね。やっぱりこっちにいると雰囲気ちょっと変わるじゃない?」
確かに、出会った頃の恵利瀬は長い黒髪に地味なスーツの、どこか素朴な感じの女性だったはずだ。今では艶っぽい化粧も覚え、髪もショートに整えている。
「それが気に入らなかったみたいでさ。新しい男が出来たんじゃないかとか疑りまくりで。毎日必ず電話が掛かってくるのよね。今日も帰ったら留守電の嵐よ、きっと」
当時はまだ携帯はほとんど普及していなかった。もし携帯があったなら、すぐにでも鳴り出していたシチュエーションだろう。

「そんな男、やめちゃえばいいのに」
下心があるわけではなかった。
ただ、俺が女連れでいるところをマスターに見せたかっただけなのだ。
だが、寂しそうに笑う恵利瀬を見ているうちに、思わぬ劣情をかき立てられているのも、隠せぬ事実だった。
「別れたら、江口、付き合ってくれる?」
そういって、寄り添う恵利瀬。悪い気はしなかった。 
 

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 Re: むかしのはなし。 ( No.1 ) 
日時: 2007/06/09 18:36名前: 琵琶丸

新ストーリーですね。
期待しています。

好みのタイプの女性はマナー違反なのは
わかっていても見てしまいますよね。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.2 ) 
日時: 2007/06/09 19:33名前: 名無しのゴンベエ

バーボンハウスへようこそ。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.3 ) 
日時: 2007/06/09 19:34名前: 名無しのゴンベエ

待ってました! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.4 ) 
日時: 2007/06/09 19:38名前: バラバラ

おっ新作ですか?
またも大人の恋愛話ですね。
所謂バーって行ったことはないんですが(酒飲むときはもっぱら安い居酒屋です。(笑))こういう独特の雰囲気で味わうのもいいですよね。

複数の女性が絡んできそうでこれからが楽しみです♪
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.5 ) 
日時: 2007/06/09 19:41名前: のり

前のが終わってしまい、ちょっとがっかりしていましたが、新しいストーリーにも期待しています。
E_janさんの話は、とても読みやすく、どのように展開していくのか、とても期待しています。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.6 ) 
日時: 2007/06/11 07:43名前: E_jan

コメントありがとうございます。
> 琵琶丸さん
前の話とはかなり趣が違うと思いますが、お楽しみいただければ幸いです。
>No2さん
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
>No3さん
よろしくお願い致します。
>バラバラさん
大人の恋愛というか、大人になりきれなかった頃の話ですね。バーはいいですよ。
>のりさん
ご期待に添えるよう、頑張ろうと思います。


その2

同僚を抱く。
それがどれほど厄介なことかなど、当時の俺にはまったくわかっていなかった。
そこに大きな愛情があれば、それは大した問題ではなかったのかもしれない。

しかし、恵利瀬に対して俺が抱いていたのは劣情でしかなかった。
ただ肉欲だけが俺の背中を押していたのだ。

そんな行動に疑問を挟む余地がないぐらい、恵利瀬の肉体は素晴らしいものだった。
その豊満な胸を揉みしだけば、恵利瀬は歓喜の声を上げ、それを受け入れる。
たるみ無く前方へと張り出した胸の頂上に指を這わせ、首筋にキスをする。
いきり立つ乳首を指先で転がし、弄ぶ。

そんな一挙手一投足に、恵利瀬の肉体は敏感に反応する。
声が、汗が、そして細かく痙攣する筋肉が、大袈裟なほどに俺の愛撫を受け入れていく。
白い肌を赤く染めるキスに喘ぎ、濡れそぼった秘部を蹂躙する指に哭く。
はじめて見る同僚の嬌態に、軽い違和感を覚えたが、それが行動のブレーキになるわけではなかった。
妙に冷めた部分を奥底に秘めながらも、俺は恵利瀬を攻め続けた。

やがて、彼女は俺にまたがると、細く長い指先で、硬くなったモノをそこへと導いた。
そして、ゆっくりと腰を下ろし、熱い襞で怒張を包み込んでいく。
「っはあ……」
一番奥へと到達すると、恵利瀬は動きを止めた。

瞳を潤ませ、俺を見下ろす恵利瀬。
「江口と……つながっちゃったね」
その顔を見上げ、感じるなんとも言えない違和感。
俺は無言のまま、緩やかに腰を突き上げる。
深い快感が生まれ、それが違和感を消し去っていく。

「あっ、いい、きもちいい……、江口のが、きもちいいっ……江口っ」
今、誰と繋がっているのか、誰に膣奥を許しているのか。
それを確認するかのように、俺の名を繰り返す恵利瀬。
きつく目を閉じ、眉をひそめ、ひたすら快感に身をゆだねている。

きっと彼女も同じなのだろう。
心の底で冷える理性を、どこかへと放り出そうとするかのように、快楽を貪っているのだ。

俺は、そんな彼女のことが少しも、愛おしくなかった。

シャワーを浴び終わった恵利瀬は、全裸のまま、ベッドの上で膝を抱え、テレビを眺めていた。
ラブホテルらしく、AVが放映されており、ケバい女が後ろから犯され、悶えている。
俺は情事のあとの気怠さに身をゆだねながら、そのケバ女のわざとらしい喘ぎ声を聞いていた。
「嘘くさいね」
恵利瀬はぽつりといった。
AVのことだろうか、それともこうして裸で同じベッドの上にいる俺たちのことだろうか。

「たまには悪くないね。愛のないセックスってのもさ」
努めて明るい声で恵利瀬が言った。
「そうね……」
俺は覇気のない声で答える。
不思議なくらい、恵利瀬を抱いたことに後悔はなかった。
そして、同じくらい、愛情やこだわりもない。
そんな、最初から分かり切っていたことを、彼女が求め、俺が応えた。
それだけのことだと思っていた。
後悔はないが、「それだけのこと」で身体を重ねられてしまう俺と恵利瀬が、少しだけ悲しかった。

「また、気が向いたら抱いてね」
恵利瀬は、そういって寂しそうに笑った。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.7 ) 
日時: 2007/06/10 23:25名前: バラバラ

返レスありがとうございます。
いきなり女性とのベッドを共にした話ですか?
こういっては失礼かもしれませんが、若気の至りで女性と寝ることってありますよね。(笑)
エッチの描写も変にドぎつくなく抑えた感じがいいですね。
私はE_janさんより2,3歳位下になりますがあの時代の雰囲気を思い出してしまいそうです。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.8 ) 
日時: 2007/06/10 23:26名前: 名無しのゴンベエ

うわー、HB(ハードボイルド)っぽくていいねぇ。コレはコレで面白い! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.9 ) 
日時: 2007/06/11 15:36名前: E_jan

コメントありがとうございます。
昔すぎて細部忘れてますが、いろいろ思い出して書いていこうと思います。

その3

「ちょっと、江口くん」
社内会議から部署に戻ると、すぐ、先輩の宮内瞳に声を掛けられた。
「あれっ瞳ちゃん、どうしたの?」
瞳ちゃんは4歳年上の先輩で、俺たち企画部1課の新人教育係を務めている。
背が低く、美人、というより美少女といった面持ちで、後輩からも「瞳ちゃん」と呼ばれているが、決して舐められているわけではない。慕われているのだ。
もう27歳だというのに、セーラー服でも着せれば今でも現役女子高生で通りそうな外見ながら、抜群に仕事が出来る。俺たちに対する指導も的確で厳しい。
中身はバリバリのキャリアウーマンだった。

「喫煙室行かない?」
彼女にしては険の強い表情でそう言った。
「俺、またなんかやっちゃいました?」
その誘いが甘ったるい展開に繋がるものでないことは、彼女の雰囲気から十分に伝わってくる。
「いいから、来て」
瞳ちゃんは、いつもの柔らかな笑顔を完全に封印し、上司の顔になっていた。
これは、かなりヤバい気がする。
「……はい」
そう答える俺を無視して、瞳ちゃんはさっさと部屋を出て行ってしまった。
俺は抱えていた書類を机の上に投げ出すと、引き出しから煙草を取り出す。
「どうしたの?」
斜め後ろのデスクにいた恵利瀬が心配そうな顔をしている。
「わからん……」
そう答え、俺は足早に瞳ちゃんの後を追った。

いつも思うことだが、瞳ちゃんに煙草は似合わない。
アイドル顔した女子高生が無理して煙草を銜えているような、そんなそこはかとない滑稽さがあるのだ。
とはいえ、瞳ちゃんの煙草さばきは堂に入っている。
「江口くんさ、最近評判悪いよ」
ふうっと煙を吐き出し、とんとん、と軽く灰を落としながら言った。
「……そうですか」
「この前の企画書。あれ、手抜きにもほどがあるでしょ。出来の善し悪しを言う以前に、企画書の体裁を成していないじゃない」
「はあ、すみません」
めったに吸わない煙草を銜えながら、とりあえず形だけ頭を下げる。
「仕事やる気あんの?」
「……あるつもりです、一応」
そうは答えたものの、実際のところほとんどやる気はなかった。

そもそも、入りたくて入った会社ではなかった。バブルに浮かれる大学の先輩たちを見て、俺もああなるんだろうと思っていた矢先にバブルが崩壊。
一気に就職活動は冷え込み、内定をもらったこの会社にすがるような思いで入社したのだ。
それだけに、目的意識もなく、ただ与えられた仕事を場当たり的にこなし続けてきた。やがて、それなりに仕事のコツを覚え、手抜きの仕方もマスターすると、あとは坂道を転げ落ちるようにグダグダな毎日になっていった。

「江口くん、仕事つまんない?」
「まあ、あまり面白くはありません」
正直に言った。瞳ちゃんはしばらく黙って煙草をふかしたあと、顔を上げた。

「じゃあ、私が面白くしてあげる」
そういうと、勢いよく煙草をもみ消した。
「来月のコンペ、知ってるわよね?」
「ええ。来年度後半の出版物のラインナップ決める奴ですよね」
「それに企画出して。シリーズもので、10冊ぐらい積めるやつ」
「はあ……」
チャンスを与えてくれようとしているのだろうか。
たしかに新人が参加できるコンペではない。先輩たちが練る企画に必要なリサーチやデータ作りをするというのが俺たちレベルでの役割である。
そこに加えてもらい企画を競うというのは、やりがいのある仕事かもしれない。ただし、やる気のある奴にとっては、だ。

「そのコンペで、企画通しなさい。もし出来たら……抱かれてあげる」
そういって2本目の煙草に火を灯した。
「……マジ……すか?」
あまりにも瞳ちゃんのイメージとはかけ離れた提案に、俺はド肝を抜かれてしまった。
「賞品、あったほうが張り合いあるでしょ?」
「いや、それはそうなんですが……」
「あら、高山さんの方がいい?」
そういって微笑む瞳ちゃんに、その本性を見たような気がした。
こいつ、とんでもねえ女だ。

「わかりました。コンペ、頑張ります。もし、俺の企画が通ったら、瞳ちゃん、俺の好きにさせてもらっちゃいますよ?」
「ええ」
ふうっと吐き出した煙の向こうで、瞳ちゃんが妖しく笑っている。
できるもんですか。その目がそういっているように思えた。
「言っておくけど、コンペ私も参加するから。もちろん手加減なしよ。あと……もし企画通せなかったら」
「俺が抱かれてあげましょうか?」
余裕たっぷりの瞳ちゃんに精一杯の皮肉をぶつける。

「あは。いいわね、それ。でも、それじゃ罰ゲームにならないから。企画通らなかったら、会社、辞めてね」
さらっと受け流し、俺の想定どおりの提案をする。
「……いいですよ。それじゃその条件でいきましょう」
ぼそっ音を立て、手に持ったままだった煙草の灰が落ちた。
半分以上がそのままの形で灰になってしまった煙草を灰皿に投げ捨てる。
手のひらに汗がにじんでいるのがわかった。

この会社に未練はない。無職になるのはやっかいだが、それはそれだ。
だが、負けるわけにはいかないと思った。

こいつ、絶対に犯ってやる。
実力と美貌を兼ね備えた「社内のアイドル」を、俺の肉欲で汚しまくってやる。

蒼ざめた興奮のまっただなかに俺はいた。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.10 ) 
日時: 2007/06/11 16:23名前: 名無しのゴンベエ

本に出来るね 
 Re: むかしのはなし。 ( No.11 ) 
日時: 2007/06/11 18:57名前: バラバラ

前回とは打って変わってキツイ感じになってきましたね。
はてさてどうなりますやら…。
逆襲をかけることができますか?
期待大です! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.12 ) 
日時: 2007/06/12 00:19名前: E_jan

>バラバラさん
今回もキツイ感じかも。

その4

「へえ……すげえな、ここ」
佐山は『Ber 14』のバック・バーを見て、心底楽しそうな顔をした。
「オレさ、バーボン大好きでさ」
そういって、立ちつくすように並んでいるボトルを眺め続けていた。
俺は恵利瀬と日高を先にカウンターに着かせ、佐山を呼んだ。

佐山慎吾、日高恵美、高山恵利瀬。それに俺を加えた4人は、去年4月に入社し、企画部に配属された同期だ。
俺と恵利瀬が1課、佐山と日高は2課と、課は違うが、仕事の内容は似たようなもの。常に情報交換をし続ける戦友たちだ。

「マスター、ベリー・ベリー・オールド・フィッツジェラルドください」
佐山はボトル群のなかから、意中のバーボンを発見したらしく、嬉しそうな声でさっそく注文している。とても23歳には見えない老け顔の持ち主で、渾名は『おっちゃん』。
性格もクールで、不思議な年輪を感じさせる、若者らしくない若者だ。
「あたしはラムね。なんかテキトーなのちょうだい」
明るい元気者の日高は、酒そのものに詳しくはないが、とにかく半端ない量を呑んでケロっとしている。かなりの酒豪だ。目の細いキツネ顔で、トレードマークの八重歯がかわいらしい。一部の先輩に絶大な人気を誇っているという噂も聞く。

恵利瀬はブルームーンを、俺はいつものようにバートンをオーダーした。

「んで、どったのよ、えぐっちゃん」
日高が細い目をさらに細めて聞く。
「急に『同期会』集合掛けるなんて、なんかあったのか?」
佐山も身を乗り出して聞く。
「もしかして……昨日、瞳ちゃんに呼び出されてたのと関係ある?」
恵利瀬は鋭い。女のカンってやつだろうか。

「そう。昨日、瞳ちゃんに呼び出されてさ」
「えええ、なによそれ。瞳ちゃんから呼び出し? いいなあ」
瞳ちゃん大好きを公言する日高が大袈裟に驚く。
「ちっともよくねえよ……。俺さ、なんか次の『年次コンペ』に参加させられることになってさ」
「へえ、1年目からかよ。大抜擢だな、江口」
クールな親父顔のままではあるが、そう言った佐山の声には感嘆の色が含まれていた。
「だから、そんないいもんじゃないんだよ」

俺は瞳ちゃんとの会話を、かいつまんで説明した。……もちろん「賞品」のことは伏せて。
「まあ、つまりそのコンペでしくじると俺はクビってわけだ」
「あはは。ある意味自業自得だね。えぐっちゃん、ホント2課でも評判悪いもん」
「そうね、江口の仕事荒すぎるわよね」
「短い付き合いになりそうだな、江口」
3人は口々に勝手なことを言う。冷たい同期だ。
「まあ、そういわずにさ、ちょっと脳みそ貸してくれよ。さすがに俺ひとりだと分が悪いけど、4人集まれば、なんか大きな事できそうだろ?」
俺はなりふり構ってはいなかった。どんな手段を使ってでも、瞳ちゃんに勝つつもりだ。

「ふうん、でも面白そうじゃん。あたしら新人の合同チームで先輩たちに挑戦するっての」
腕組みをしながら日高が言う。
「そうだな、江口が代表で、っていうのは納得いかないが、オレたちの力を試すにはいい機会かもしれない」
佐山も乗ってくる。
「……そうね」
恵利瀬も頷いた。
「悪いな。すまんが力を貸してくれ」
そういって、ショットグラスを掲げる。
佐山も日高も、そして恵利瀬も同じようにグラスを挙げた。
「先輩たち、一泡吹かせてやろうぜ?」

方向が別の佐山、日高と別れたあと、俺は恵利瀬をラブホテルに誘った。
無性に女が抱きたかったのだ。
恵利瀬は黙ってホテルまでついてきた。

恵利瀬を抱くのはこれで3度目だった。
張りのある大きな胸、くびれた腰、そして締まりのいい膣。
ほとんど完璧といっていい肉体を勿体ぶることなくフル活用し、貪欲に快感を求める恵利瀬。その赤裸々なセックスに俺はハマりかけていた。

今日の恵利瀬は寡黙だったが、それでもフェラはねちっこく、いつもよりも情熱的だった。
ベッドに腰掛けた俺の股の間にうずくまり、深く、浅く俺を銜え、見事なまでに舌を踊らせる。
その間、片手は俺の袋を弄び、もう片方の手で自らを刺激し続けている。
エロすぎるだろ、恵利瀬。
冷めた自分がその姿を見下ろしていた。

「ねえ、江口……」
ふと、動きを止めた恵利瀬が俺のモノから口を離し、切なそうで見上げる。
「瞳ちゃんのこと、好き?」
馬鹿げた質問だと思った。
「大嫌いだよ」
そうだ、大嫌いだ。犯したいほどに。
「そう。じゃあさ……私は?」
「……わかんない」
俺の答えに、潤んだ瞳を閉じた。
そして、再び目を開いたとき、その顔には、微笑みを湛えていた。
「正直だね、江口は」
そういったあと、恵利瀬は挿入をせがんだ。
俺は無言で恵利瀬を4つんばいにさせると、後ろからねじ込んだ。

だって、仕方ないだろ、本当にわからないんだから。
俺が恵利瀬を抱きたいのは、恵利瀬を好きだからじゃない。恵利瀬とのセックスが好きだからだ。でも、本当に身体だけが目当てなのか?
わからない。そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。

冷めた心と完全に乖離した熱い性欲。こんなものをわかった上で受け入れてくれるのは恵利瀬しかいないだろう。
今の俺には恵利瀬が必要だ。こんな無茶苦茶な俺を受け止めてくれる恵利瀬が。

強く、深く恵利瀬に突き込みながら、やっぱり頭の奥は冷静だった。
俺は、恵利瀬を必要としている。それが歪んだ形であっても。
それは、愛なのか? そんなわけはない。
じゃあ、この気持ちはなんなんだ?

細い腰を抱き、熱くうねる膣内を犯す。
「ああっ、江口……いいっ、きもちいいの……」
喘ぐ恵利瀬。
「すご……いい……えぐちっ……」
「ああ。俺もだ。気持ちいいよ、恵利瀬」
いつしか、それに応えている俺。高まる射精感。
「いくっ、えぐち、いっちゃうっ、ああっ……」
絶頂の瞬間が訪れる。
俺は恵利瀬の背中に欲望を吐き出していた。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.13 ) 
日時: 2007/06/12 00:39名前: 名無しのゴンベエ

ウヒョー 
 Re: むかしのはなし。 ( No.14 ) 
日時: 2007/06/12 00:48名前: バラバラ

今回は作戦会議といったところでしょうか?
しかも大嫌いな女を犯そうとする相談を。(笑)
確かに今回のエロ描写は前々回よりもキツイかも。
かなり大胆になっていますね。(笑)
そういうセフレのような関係を見せるところもそうですがバーの描写も細かいですよね。
酒のことはよくわからないので(居酒屋で呑むと書きましたが実際はあまり酒は強くないんです。(笑))こういうのって面白いです。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.15 ) 
日時: 2007/06/13 16:13名前: E_jan

その5

「へえ、マスターって結婚されてるんですか!」
「ええ、これでも既婚者ですよ」
「奥さんって、どんな人なんですか?」
「そうですね……穏やかな人、ですね」
お好み焼き屋での『同期会』企画ミーティングのあと、佐川たちと別れ、俺と高山恵利瀬は『Ber 14』へと流れていた。
慣れないビールを飲んだ恵利瀬はホロ酔い気味で、いつになくマスターに絡んでいる。

「いいなぁ、結婚かあ」
寂しそうな横顔の恵利瀬を見ながら、俺は面倒くさそうな話になった、と、こっそり肩をすくめていた。
ちらっと、マスターがこちらを見た気がしたが、当然のように無視し、残り少なくなっていたバーボンを飲み干した。

恵利瀬との関係は、たぶんマスターにはバレている。
最初に恵利瀬を抱いたのは、この店での会話がきっかけだったし、その後、何度となくふたりで訪れている際、ときどき交わされるきわどい会話は耳に届いているだろう。
もちろんマスターは知らぬ顔で「仲のいい同期」として俺たちを扱ってくれている。
ありがたくはあるだが、その白々しい態度が鼻につかないわけでもない。

もし、企画が通ったら、抱く前に瞳ちゃんをここに連れてこよう。
そして、マスターの前で露骨なネタばらしをしてやろう。
そのときマスターはどんな顔をするのだろう?
低く流れるBGMのジャズに身をゆだねながら、そんな馬鹿馬鹿しいことを考えていた。

「ねえ、田上さん対策は大丈夫なの?」
ぼーっとしていた俺に恵利瀬が心配そうな顔で話しかけてきた。
田上隆俊は、瞳ちゃんの同期で、企画部きってのやり手と言われている男だ。
配属の歓迎会の時に一緒に呑んだ感じだと、実に多弁でお調子者、という印象しかないのだが、それはそのまま、彼の魅力であり、交渉力にも直結しているようだ。

コンペに参加する先輩たちは、多かれ少なかれ、データの作成やアンケート等のリサーチを下っ端たちにやらせている。つまり、今回自分の企画で手一杯の俺を除く3人は、なんらかの形で先輩たちの企画に関わっている。
それだけに、「敵」の情報を入手し、自分たちの企画のブラッシュアップに役立てることができる。俺が『同期会』に求めていた機能のひとつがそれだった。

しかし、田上さんは常に大きなプロジェクトを廻しているため、あまりオフィスにいることがなく、俺たち新人との接点は少ない。今回のコンペでも、ほとんど部下を頼らず、自分自身のネットワークを使って企画を練り上げている。

「田上さんはブラックボックス状態。ときどき落ちてくるデータ収集の依頼からじゃ、企画内容は想定できないのよね」
恵利瀬はため息をつく。
「まあ、あんまし相手に振り回されるより、自分たちの企画を完璧にしてけばいいさ」
すでに田上さん以外のコンペ参加者の企画に関しては詳細な内容を把握できているし、これらを打ち倒せるだけのポテンシャルを持った企画は手の内にある。あとは未熟な俺たちで、どこまでプレゼンのクォリティを上げられるか、だろう。
「そうね……あと半月、頑張るしかないわね」
恵利瀬は真剣な眼差しで言った。
仕事モードの顔だった。

「ね、今日これからウチ来ない?」
仕事モードのままの口調だ。
意外そうな顔をしている俺に、勘違いしないで、と小声で言う。
「データ作るのにアドバイスが欲しいの。江口の論理展開に沿ったまとめ方にしとかないとマズイでしょ?」
そういって、書類で膨らんだ鞄をぽんぽんと叩いた。
「……そうだな。おじゃまさせて頂くよ」

店を出ようとドアを開けると、目の前に見覚えのある女性が立っていた。
たしか、結城さん。
初めてこの店に来たときに、恥ずかしいところを見られた人だ。

「あら、ご無沙汰。もうお帰り?」
彼女も俺を覚えていたらしく、向こうから声を掛けてきた。
俺は軽く会釈をすると、恵利瀬の手を引いて外に出る。
「残念ね、これから『ふみ』もくるわよ?」
すれ違いざまに、くすっと笑いながら結城さんがいう。

その声を無視し、無言のまま、恵利瀬の手を引いて通りまで早足で歩いた。
「ねえ、今の人は?」
「あの店の常連さん。前に会ったことがある」
そう言った声がいかにも不機嫌だったのには自分でも驚いた。

恵利瀬はなにか言いたげだったが、結局黙ったまま、早足で駅へと向かう俺の後に付いてきた。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.16 ) 
日時: 2007/06/13 16:39名前: バラバラ

おっ知っている名前が出てきましたね。(笑)
徐々にそれぞれのキャラが見えてくるのでしょうか?
次が楽しみです。
早く〜っ!(笑) 
 Re: むかしのはなし。 ( No.17 ) 
日時: 2007/06/13 17:04名前: 琵琶丸

返レスありがとうございます。
「キャバ嬢を・・・」と違い、
少しダークなお話になってきましたね、楽しみです。

常連さん2人もどう絡んでくるかワクワクしてます。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.18 ) 
日時: 2007/06/13 21:06名前: 名無しのゴンベエ

最高です!!!!!!!!!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.19 ) 
日時: 2007/06/13 21:57名前: E_jan

コメント、ありがとうございます。
>バラバラさん
大昔のことなんで、向こうのキャラはあんまり出てきません。
田上さんぐらいかなぁ。

>琵琶丸さん
ひねくれてた頃のお話ですんで、どうしても……。

>No18名無しさん
励みになります、頑張ります!


その6

恵利瀬の部屋に入ったのは初めてだった。
綺麗に整頓されている、というより極端に物が少ないワンルーム。
そんなシンプルな部屋で、女性の部屋という感じではなかったが、カーテンやベッドなど、モスグリーン基調で統一されているところは、恵利瀬っぽいと思った。

「元彼ので悪いけどさ」
そういって、濃紺のスウェット上下を投げてよこす。
「元? ……例の岐阜の独占王?」
「うん。1ヵ月ぐらい前にこっち来てね。喧嘩して、別れた」
「……聞いてないなあ」
ネクタイをほどきながら、恵利瀬の表情を伺う。
「言ってないもん」
ハンガーを手渡しながら、ちょっと拗ねたような口調だ。
俺は返す言葉を探したが、上手いのが見つからなかった。
「さ、着替えたらデータまとめちゃお!」
気まずい沈黙が訪れるのを拒むかのように、そう言うと、鞄から書類の束を取り出した。

まだ寒い時期だった。
俺たちはコタツにあたりながら、あーでもないこーでもないと論議しながら膨大なデータをまとめていった。
俺が項目や数値を読み上げ、恵利瀬が当時まだあまり普及していなかったラップトップPCにそれを入力していく。
あらたかの体裁が整ったのは午前4時前のことだった。

「ふぅ。これでひと安心ね」
そういって仰向けに倒れる恵利瀬。
「助かったよ、ホント」
俺もごろりと転がる。
「ねえ、江口」
「ん?」
「キス、してよ……」
「……やだ」
一瞬のうちに、さまざまな考えが脳裏を駆け抜けたが、俺の出した結論はそれだった。
「やだ、かぁ。そうだよね」
冷めた声だった。
「ごめん」
「謝らないでよ、馬鹿」

沈黙が怖い。
この静かな1秒1秒がすぎるごとに、俺と恵利瀬の距離が少しずつ離れていくような感じがした。
俺は今、恵利瀬を失おうとしているのかもしれない。
そう思って、どきりとした。

失う? 恵利瀬を?
違う。もともと恵利瀬は俺のものじゃない。
失うも何も、最初から手に入れる気もなかったくせに。
でも……。

「ねえ、江口。最近、好きな人できた?」
感情のない、フラットな声だ。
「……そうだな。好きな人いるかもな」
そうだ。好きなんだ。

「……瞳ちゃん?」
「それはない」
「へえ、違うんだ」
「女のカンも当てにならないな」
俺が好きになった人。絶対に教えてやらない。

「コンペに対する執着、すごいからさ。瞳ちゃんにいいところ見せたいのかと思ってた」
ある意味、正しい。でも、それは好きだからじゃない。

「そっかあ。江口が惚れるのってどんな人なんだろ?」
絶対に教えてやんない。いまさら、言えるか。

「いいなあ……。その人」
そういって、もそもそと起きあがる恵利瀬。
切れ長の目に、これ以上ないほどの涙を溜めていた。
ぼろっ、という感じでそれがこぼれ落ち、頬に筋を引くと、そのあとは止めどがなかった。

声を出さず、嗚咽を漏らすこともなく。
ただ涙を流して、恵利瀬は泣いた。
「もう、江口とは終わりにするよ」
さすがに声は震えていた。
「恵利瀬……」
お前が好きなんだよ。
喉元まで出かかっている台詞が、どうしても言えない。

恵利瀬は立ち上がると、自ら服を脱ぎ始めた。
白い肌が、形のいい胸が、濃い茂みが、すべてが露わになる。
俺は黙ってそれを見つめていた。
「いい同僚に戻る。だからさ、……今日だけ抱いて」

俺は恵利瀬を抱きしめた。
何故、言えない?

そして、優しくキスをした。
伝われ。この想い。
伝えられない、この想い。何故だ?

ベッドに押し倒すと、そのまま恵利瀬を抱きしめ続けた。
俺の、恵利瀬。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.20 ) 
日時: 2007/06/13 23:15名前: あんり

いつも読ませていただいております♪

「キャバ嬢を愛して」からの大ファンです^^
これからも楽しみにしています。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.21 ) 
日時: 2007/06/13 23:17名前: バラバラ

まるでドラマのような展開ですね♪
でもE_janさんの心の葛藤ともいうべき心情が現れていいですね。
恵利瀬さんも一人の女性になっていますよね。
大人になりきれなかったころという意味がなんとなくわかるような気がします。
次の展開が気になります。

>大昔のことなんで、向こうのキャラはあんまり出てきません。
確かにそうですね。(笑)
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.22 ) 
日時: 2007/06/14 00:14名前: E_jan

更新できるときにまとめて。

>あんりさん
個人的な理由で、ちょっとどきどきしちゃうお名前です。
今後ともよろしくお願いいたします。

>バラバラさん
いつもコメントありがとうございます。
頑張って書き進めていきます。


その7

佐川や日高、そして恵利瀬の熱心な協力により、企画の進行は想像以上に順調だった。
毎日、会社帰りに4人で集まって企画を煮詰めていくのが面白くてたまらない。
日高の持ち出す奇抜なアイデア、冷静な佐川の分析、的確な恵利瀬の助言。
すべてが刺激的で、俺も負けずに多くの提案をする。
入社以来、はじめて仕事が面白いと感じていた。

しかし、同時に恵利瀬の存在が気になって集中しきれていないのも事実だった。

あの晩、俺は恵利瀬とセックスすることができなかった。
ただ、ひたすらに彼女を抱きしめたまま、遅い夜明けを迎えたのだ。
以降、俺に対する恵利瀬の距離の取り方が明らかに変わった。
もう、ふたりきりで呑むことは、ない。

それでも、あのときの言葉どおり「いい同僚」として、献身的にこのプロジェクトに力を貸してくれている。
それが、とにかく痛々しいし、俺もまた、痛かった。

「それにしても驚いたよ。江口、お前統括の才能あるんだな」
行きつけとなったお好み焼き屋で、仕事の話が一段落した頃、佐川が言った。
「ほーんと。びっくりするね。こないだまでえぐっちゃん、『企画部のお荷物』とかいわれてたのにね〜」
ケラケラと日高が笑う。
……そこまでいわれていたとは、さすがに初耳だった。
その表情を読んで、恵利瀬が頷く。
「一時期、本当にダメダメだったもんね、江口」
「うるせーなあ。……でも、自分でも驚いているよ。仕事がこんなに楽しいなんてさ」
それは偽らざる実感だった。

「でもさ、それが瞳ちゃんの狙いだったんじゃな〜い?」
「そうだな。上のやつら、オレたちがつるんで江口の企画手伝ってるの、絶対わかってると思うけど、なんも言わないもんな」
「それどころか、最近雑務減らしてくれてる気、しない? こっちに力入れられるようにさ」
「そうだな。たしかに」
「うーん、さすが瞳ちゃん、ってところ?」
「えぐっちゃん、完全にノセられちゃったねえ」
「本当だな。瞳ちゃん、自分が悪者になって、江口だけでなくオレたち新人のモチベーション上げようと目論んでたんだろうな」
「さすが、やるわね……」

3人は口々に『瞳ちゃんの陰謀説』を褒め称える。
なるほど、理にかなった見解だ。
実際、俺自身、コンペの結果そのものよりも、企画を練り上げることの面白さの方に意識が向いている。
それに4人とも明らかにスキルアップしている。
これが瞳ちゃんの策だというのなら、大した上司である。

しかし、俺にはどうしても納得がいかなかった。
『企画通らなかったら、会社、辞めてね』
そう言い放ったときの、瞳ちゃんの冷酷な視線と、もし俺の企画が勝利を収めた場合の『賞品』のことを思い合わせると、そんななまやさしい状況ではないように思えて仕方がない。
あの時、俺が感じた悪意は本物だったはずだ。

『同期会』を終えると、俺は『Ber 14』へと向かった。
同僚との会話で身体の中に溜まった熱と、恵利瀬への冷たい想い。
そのふたつをアルコールで消毒しておく必要があるように思えたのだ。

もちろん、恵利瀬は一緒ではない。
ひとりでこの店のドアをくぐるのは久しぶりのことだった。

低く流れるジャズが、いつもより大きな音に感じる。
カウンターの真ん中に座ると、おしぼりに続き、オーダーもしていないのに、ショットグラスが置かれた。
「いつものやつです」
マスターは静かにそういって、チェイサーを並べた。
考えてみれば、この店に来て以来、俺はこれしか頼んでいない。

いつもの、甘いバートンの香り。
50度という、それなりのアルコール度数なのに、すっと呑める。
それでいて申し分のないアタックがあり、しっかりと喉を焼く。

呑み慣れたその味は、不思議なくらい恵利瀬を連想させる。
忘れよう、と思った。

「マスター、たまには別の呑もうかな」
「それでは、趣向を変えて、カクテルなんていかがですか?」
「カクテルか……。オススメは?」
「ブラッディ・シーザーなんていかがです?」
「シーザー? メアリーなら知ってるけど」
ブラディ・メアリーはウォッカをトマトジュースで割るポピュラーなカクテルだが、シーザーは聞いたことがなかった。
「同じようなものなんですけど、クラマトっていう特別なトマトジュースを使います。ウチではペルツウォッカっていう唐辛子フレーバーのウオッカを使ってます。けっこうハマる味ですよ」
説明を聞いてもよくわからない。とにかくそれをオーダーした。
バートンとブルームーンじゃなければ、なんでもいい。そんな気分だった。

ちりん。
マスターご推薦のシーザーに口を付けようとしたとき、ドアが開いた。
「こんばんわ」
入ってきたのは、あの「ふみちゃん」だった。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.23 ) 
日時: 2007/06/14 00:16名前: あんり

>>個人的な理由で、ちょっとどきどきしちゃうお名前です。

そ、そうなんですか?
私には嬉しい共通点?ですw 名前覚えてもらえそう・・・^^

ふみちゃんとの絡み、楽しみにしてます><
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.24 ) 
日時: 2007/06/14 01:13名前: バラバラ

結局あの後恵利瀬さんとのエッチはなかったようですが、残念のような気もします。
実際に距離を置くような関係になってしまっただけにね。
今回はまたバーの描写に拘りを感じます。
う〜ん、私にはウォッカはキツそう。(笑)
ふみちゃんに気持ちがシフトしていくのでしょうか?
次回の更新も期待して待っています☆ 
 Re: むかしのはなし。 ( No.25 ) 
日時: 2007/06/14 14:55名前: E_jan

>あんりさん
基本的にここに書くときは登場人物みんな仮名ですが、「キャバ〜」の方の登場人物のうち誰かの本名or源氏名が「あんり」さんでした。

>バラバラさん
カクテルにするとウォッカは軽く感じます。
まあ、それがヤバいんですけど。


その8

薄い水色のダッフルコートがよく似合っている。
以前見たときも綺麗な娘だと思ったが、さらに磨きがかかったように思う。
ちょっと髪が伸びただけで、ずいぶん野暮ったさが解消されている。
もしかしたら、化粧の腕前も上達しているのかもしれない。

ふみちゃんは俺に気が付くと、ちょっと恥ずかしそうにちょこんと頭を下げた。
俺も軽い会釈を返す。
同じ失敗を繰り返さないよう、俺は素早く目線を切り、目の前のブラッディ・シーザーに集中した。
びりっと適度辛さの効いた美味いカクテルだった。

「久子さん、まだなんですね」
「ええ、まだこちらにはいらっしゃってませんよ」
久子さんというのは、たぶん結城さんのことだろう。
俺は思案にふけるような振りをしながら、「ふみちゃん」とマスターとの会話を盗み聞きする。
高く澄んだ声。
ちらっとだけ盗み見ると、「ふみちゃん」はコートを脱ぎ、カウンターに着くところだった。
シンプルで上品なイメージの、グレーのワンピースがよく似合っている。

「ふみさんは結局、ずっと東京にいらっしゃるんですか?」
「ええ。就職も決まったし。久子さんのところに住むことになりました」
「どんなお仕事かお聞きしてもいいですか?」
「小さな印刷会社です。営業職で、やっと引っかかりました」

すでに2月も終わろうとしている。
この時期になって、やっと決まった就職に、心底ほっとしているようだった。

「江口さん」
ふいにマスターが俺を呼んだ。
「あ、はい?」
「こちら、ふみさん。ご存じですよね?」
「え……ええ」
「就職が決まったそうですよ。どうです、お祝いに一杯ごちそうして差し上げては?」

マスターはどういうつもりなのだろう。
カウンターに並んでいれば、客同士仲良くなることはままにある。
この店でも田辺さんというディーラー勤めのおじさんと、何度も同席しているうちに仲良くなっている。
しかし、マスター主導でお客さん同士を、それも男女を絡めることは稀だ。
それはバーテンダーとしての領域を大きくはみ出した行為のように思えたし、なによりも「荒木」という男には似合わない行為に思えたのだ。

それでも、そんな風に話を振られれば断るわけにもいかない。
「ぜひとも一杯奢らせてください。なに飲みますか?」
本来なら、『マスター、彼女に○○○を』などと言えれば格好が付くのだろうが、残念なことに俺は酒に詳しくない。
「いえっ、そんないいです、申し訳ないですっ」
あわてるように言い、ふみちゃんは俯いてしまった。
当然だろう。俺でもよく知らない人に急に酒を振る舞われたら恐縮してしまう。

「だめだめ、ふみさん。結城さんに頼まれてるんですから」
「そ、それはそうですけど……」
あの女、なにを頼んだんだ? 
怪訝そうな顔をしている俺に気が付いたのか、マスターは種明かしをはじめた。
「ふみさんは男の人がとても苦手だそうです。でも、もうすぐ就職すると、そんなことも言ってられないじゃないですか。それで結城さんが心配して、ここで出会う『安心できる常連さん』にふみさんを紹介して、ちょっと男に慣れてもらおう、って。ね?」
ふみちゃんは無言のまま頷く。完全に恐縮しきっているようだ。

「なるほど……」
そういいながらも妙に納得できていなかった。
安心できる?
マスターは本気で俺のことをそう思っているのだろうか?

「信頼を裏切らないでくださいよ?」
笑いながら、見透かしたようにマスターが言う。
……これじゃ、手錠を掛けられたようなものだ。
案外、そちらが狙いなのかもしれない、と思ってしまうほど鮮やかな展開だ。

「それじゃ……あの、私、バーボンって飲んでみたいです」
勇気を振り絞るように、ふみちゃんは顔をあげた。
「なんか、すごく大人のお酒って感じがするんで……。就職祝いなら、バーボンがいいですっ!」
そういって、にっこりと笑う。
まるで太陽のような。
陳腐な表現だが、他にいい言葉を思いつけない。
ふみちゃんは、まるで太陽のような笑顔を見せた。

その笑顔に、ぞくぞくした。
といっても、このときの俺の気持ちは、「惚れる」、というより「萌える」に近いものだった。
無性に明るく、騒ぎたくなる、そんな気分だった。

「初心者なら、このあたりを試してみるといいでしょう」
マスターは数多くのボトルの中から、4輪の赤い薔薇をあしらった黒いラベルのものを選び、カウンターに置いた。
これならば、俺でも知っている。
フォア・ローゼス。
通常のものはイエローのラベルだが、その上級にあたるのが、このブラックラベルだ。

はじめてバーボンを飲むという娘にも、マスターは容赦をしない。
水割りだ、ロックだなどという要望も聞かず、躊躇なくショットグラスにフォアロゼを注ぐと、チェイサーとともにふみちゃんの前に並べた。
「ストレートが大人の飲み方です」
そういって、あとふたつグラスを取り出し、俺用と自分用に注ぐ。

ふみちゃんは緊張した面持ちでゆっくりグラスへと手を伸ばす。
「香り、強いですね……」
フォアロゼはそれほど香るタイプのバーボンではないが、初心者にとっては強烈な刺激臭に感じるのだろう。
「ゆっくり、飲んでくださいね。今日はその1杯だけでいい、ぐらいのつもりでのんびり味わって見てください」
そういって、マスターが軽くグラスを掲げ、声を出さずに乾杯した。
くいっと、軽い調子でグラスを傾けるマスターと俺。
いつものバートンに比べると、明らかに軽い。

ふみちゃんはおそるおそる、といった感じでグラスに口を付ける。
「……大人の味だあ」
「慣れれば、美味しくなってきますよ」
「うん……頑張る」
眉をしかめつつ、ふた口目にチャレンジするふみちゃん。
なんとも微笑ましい。

俺は、久々に緊張感から解放されている自分に気が付いていた。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.26 ) 
日時: 2007/06/14 15:46名前: バラバラ

大人の扉を開けたふみちゃんてところかな?
バーボンって度数どれくらいでしたっけ?
「萌える」ということはこの板に合っているということですね。(笑)
ふみちゃんへの気持ち、どうなりますやら。
次回期待しています。

ということで続きマダー??(ってスレ違うって。(笑)) 
 Re: むかしのはなし。 ( No.27 ) 
日時: 2007/06/14 16:39名前: 名無しのゴンベエ

ふみちゃんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.28 ) 
日時: 2007/06/14 17:09名前: 蜃気楼

キタ━━(`・ω・´)━━ !!!! 希望通りの流れ!

ワクワクしちゃいますね〜
続きが楽しみです  ○┓ペコリ

ハッ!('▽';;)バラバラさん・・

ということで続きマダー??・・同じ事書こうと思ってました

il||li _| ̄|○ il||li  遅かった・・ 
 Re: むかしのはなし。 ( No.29 ) 
日時: 2007/06/14 17:51名前: 琵琶丸

この流れは次回も盛り上がりそうな予感?
バーでこんな出会いがしたい。
酒強くないですがw

Wikiでバーボン・ウイスキーは
アルコール度数は40%以上であることが義務付けられている。
となっていますね。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.30 ) 
日時: 2007/06/14 21:05名前: バラバラ

ちょっと感想とは離れますが

>琵琶丸さん
バーボンの件サンクスです☆
私も酒が弱いですがこういう出会いがしたいものですねぇ。

>蜃気楼さん
ハッハッハッ、ネタ先に使っちゃいました。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.31 ) 
日時: 2007/06/14 21:16名前: E_jan

余録ですが。
バーボンのアルコール度数面での定義は琵琶丸さんの書かれたとおりです。

現在のバーボンは下限の40度ジャストが主流です。
もちろん、50度以上のものもありますが。

フォア・ローゼスも今は40度ですが、ふみちゃんが飲んでいた当時は43度でした。
今は当時の43度オールドボトルは稀少品ですねー。
江口くんの好きなベリーオールド・バートンはBIB(ボトルインボンド)というバージョンで50度。
今は日本では売ってないですね。手にはいるのは40度のやつです。
蘊蓄臭くてですみません。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.32 ) 
日時: 2007/06/14 22:01名前: 直刃

前作も読ませていただきましたが
なにか文章全体に知的な雰囲気が漂ってますね。
これからもがんばってください。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.33 ) 
日時: 2007/06/15 03:24名前: E_jan

>直刃さん
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。

その9

どうしても最初に会ったときの照れが抜けず、なかなか直接ふみちゃんに話しかけることができない。
彼女も俺に遠慮して、あまり直接は話しかけてこない。
ふたりともマスターを介して会話に加わる、というのが精一杯だ。


そんなわけで、自然とマスターへのツッコミが会話の主流となる。
「荒木さんの奥さんってどんな人なんですか?」
「そうですね……穏やかな人、ですね」

こないだ恵利瀬と交わしたのとまったく同じ会話になった。
「年下なんですか?」
「そうですね。年下です」
「へえ、何歳?」
「秘密です」
「けちー」
「バーテンダーはちょっと謎めいていた方が魅力的なものです」

そのとき、店の電話が鳴った。
失礼します、といってマスターはバックルームへと引っ込む。
取り残された俺とふみちゃんの間に、沈黙が漂う。
話しかけたいが、どんな話を振っていいのかわからない。
俺はいつからこんなに青臭くなったんだ?

「あ、あの……」
ふみちゃんが遠慮がちに声を掛けてきた。
「江口さんって……独身ですよね」
「あ、はい。独身です」
「そうですよね、やだな私なにいってんだろ」
真っ赤になるふみちゃん。
こちらからもなにか話しかけなくては、と思っているところへ、マスターが戻ってきた。

「結城さん、今日来れなくなったそうです」
「ええっ!」
「お仕事の都合だそうです。『お金のことは気にせずテキトーに呑んでって』といってましたよ」
「……そうですか」
急に不安そうな顔になる。

ちらっと腕時計に目を走らせると、すでに午前1時を廻っている。
これ以上、ここに俺がいても、彼女に緊張を強いるだけだろう。
同じ男でもマスターとはうち解けているようだし、ここは早めに退散しよう。
「んじゃ、そろそろ俺は……」
と、マスターに会計を促す。

「お帰りですか?」
マスターはちらりと視線をふみちゃんへと走らせる。
「ふみちゃん、江口さんに送っていただいたらどうです?」
「えっ? いや、そんな……」
あわてたようにふみちゃんが立ち上がる。
「送るってのはちょっと……」
俺も困惑を隠しきれない。
今日はじめて話した女の子を俺なんかに送らせるなんて、マスターはなにを考えているのだろう。
「男の勤めです」
そう言いながら会計伝票を手渡すマスター。
「ああ見えて彼女、かなりキテます。申し訳ありませんがお願いします」
最後に小声で付け加えた
「紳士的に、ね」

ふみちゃんと並んで店を出ると、確かにその足元はふらついている。
「……2杯しか呑んでないのに。バーボンってけっこう効きますね」
「はじめてだしな」
「本当に申し訳ありません……」
俯き加減でぼそっと謝る。
「男の勤め、らしいですから」
「江口さんっていい人なんですね」
そういってにこっと笑うふみちゃん。
眼鏡の奥の大きな瞳が本当に魅力的だ。

表通りに出て、タクシーを停めようする俺の手を、ふみちゃんが引っ張った。
「もうちょっと歩きませんか? なんかぽーっとしちゃって、風に当たりたい」
「あ、いいけど……」
他の女なら、「誘ってんのか?」と思うところだが、ふみちゃんの無邪気な笑顔を見ると、そんな下衆の勘繰りが恥ずかしくなってくる。

同時に俺は確信した。
この娘は、天然だ。それもかなり危険な部類の。
結城さんが心配するのが、そしてマスターが俺に送らせた気持ちがわかるような気がした。

「東京は慣れた?」
「いえっ。まだまだです」
声が緊張している。
さっき、『もうちょっと歩きませんか』と、大胆発言した娘と同一人物とはとても思えない。
「入社まであと1ヵ月ぐらいでなんとか慣れたいんですけどね。地下鉄の乗り換えとか、ぜんぜんわかんないんです。通勤が不安で……」
「まあ、すぐ慣れると思……」
と、言いかけたとき、ふみちゃんはくにゃっとその場にへたり込んでしまった。

「お、おい、大丈夫?」
「すっ、すみません」
あわてて立ち上がろうとするふみちゃんに手を貸してやると、そのまま腕にすがりつくような形になる。
「ご、ごめんなさいぃ。なんか思った以上に酔ってるかも」
コート越しではあるが、それでも大きな胸の膨らみが腕に押しつけられているのを感じる。

もう、これ以上は俺の理性が持たない。
かといって、襲うという気にもなれない。

「やっぱ、タクシー乗ろう」
そういって、手を挙げるとすぐにタクシーが止まった。
紳士的に、紳士的に。
普段は思い浮かべることもない単語を頭の中で念仏のように唱えながら、俺はふみちゃんをタクシーへ押し込んだ。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.34 ) 
日時: 2007/06/15 04:38名前: 名無しのゴンベエ

最高!!!!!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.35 ) 
日時: 2007/06/15 07:55名前: バラバラ

ふみちゃんとの2ショットですか!
もしかしてこのまま…な展開になるでしょうか?
それまではあくまでも紳士的に、まだ野獣の本性は現さないでほしいですね。(笑)
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.36 ) 
日時: 2007/06/15 12:24名前: 名無しのゴンベエ

キャバ嬢を愛しての大ファンです。
こっちもすごくおもしろい!
内容だけでなくE_Janさんの文体はクオリティ高いし次が読みたくなります。

せりふの前に名前が付いているタイプの文章はわかりやすいけどのめりこめないんで(あくまで僕個人の感想です。他の作家さんを中傷する意味は無いのでおゆるしください)、そういうのなしで書き分けているの本当にすごいと思います。
キャラがたっているっていうんでしょうか・・・
これからも楽しみにしています。がんばってください!!!!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.37 ) 
日時: 2007/06/15 12:36名前: 蜃気楼

今回の流れでマスターのウェートって大きいですよねー
すっごくかっこいいイメージで読んでますw

それ以上にE_janさんに抱かれる女性は自分の好みにしっかり当てはめて
読んでいます。
ふみちゃんは誰にしようかな〜〜 只今 流れ待ちです

ちなみに千佳さんは 浅野温子 です ハァハァ(*´Д`*)

千佳〜〜〜〜!(≧▽≦)♂シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ

いや〜お世話になっております ○┓ペコリ
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.38 ) 
日時: 2007/06/15 13:32名前: のぞき屋

>蜃気楼さん
千佳さん、浅野温子かあ〜。
27歳ごろの彼女ならはまるかも!

恵利瀬さんは誰のイメージなんだろ???
僕は篠原涼子なイメージです(笑)

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.39 ) 
日時: 2007/06/15 15:14名前: E_jan

コメントありがとうございます。

イメージ、ですか。
いいセンいってるかもw


その10

「紳士的」など、俺には合わなかったのだろう。
翌日は、自家中毒でも起こしたかのように、朝から調子が上がらなかった。
とはいえ、週明けには例のコンペが待っている。
ほとんど体勢は整っているとはいえ、細部の見直しは怠れない。

だというのに、今日ばかりはどうにも集中力が持続しない。
ふみちゃんと恵利瀬、ふたりの顔がどうしても脳裏を過ぎる。
細かいチェックには不向きの精神状態だった。

……煙草でも吸うかね。
気分転換のつもりで1階にある喫煙所へと向かったが、それが失敗だった。

「あら、江口くん。ご休憩?」
喫煙所には瞳ちゃんがいた。
今、一番会いたくない相手だ。
俺は無言で会釈した。

「新人チーム頑張ってるみたいね〜。コンペ勝てそう?」
ニコニコ笑う瞳ちゃんは、「優しい先輩」モードだ。
「……まあ、頑張ってみますよ」
「江口くんもやればできるってとこ、見せてね」
「ええ。なんとか頑張ります」

「まあ、それでもコンペは通らないと思うけどね」
ふう、っと煙を吐き出すと、それまでの、語尾にハートマークが付きそうな口調から、急にとげとげしいものに変わった。
この人の二重人格ぶりには呆れてものが言えない。
「約束は約束だからね。再就職先、探してる?」
「……今はそんな余裕ないです」
「ふーん。どっか紹介してあげようか?」
「……瞳ちゃん、そんなに俺のこと嫌いですか?」
「そうね。きらい」

まあ、そうだろうな。
しかし、なんでこの人にそこまで嫌われたのだろうか。想像もつかない。
「わかりました。んじゃ、瞳ちゃんもマンコ掃除して待っててくださいね。万が一のために」
俺はもう、言葉を選ばなかった。
「そうね、その時は奴隷にでもなんでもなってあげる♪」
くすっと笑って、言った。
その余裕ぶりに、俺は焦りを覚えていた。
瞳ちゃんは煙草をもみ消すと、じゃあね、と笑って手を振る。

そして、喫煙室を出る間際に、こう言い残した。
「もしもの時は、恵利瀬ちゃんよりもいい仕事してあげるわよ♪」

なんだ、それは。
そこでどうして恵利瀬が出てくるんだ?
そういえば、前回も恵利瀬のことを言っていた。
……もしかして、俺と恵利瀬の仲を嫉妬しているのか?

「いやあ、すごいね瞳ちゃん」
ふいに声を掛けられた声に驚き、振り返ると、そこには田上さんがいた。
「わりいな、聞いちゃったよ」
「あ……」
「大人げないよね、あいつも」
銜え煙草に火を灯し、にやにやしながら田上さんがいう。
「俺もさ、ちょっと瞳ちゃんには思うところがあってさ。……だからえぐっちゃん」

なんともいえない、実に下品な笑顔だった。
「協力してあいつ、俺らの奴隷にしちゃわない?」
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.40 ) 
日時: 2007/06/15 15:49名前: バラバラ

瞳さんには何もかも筒抜けですか?
怖いものですねぇ。
おっ何か悪巧みの相談が始まったようで…。(笑)
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.41 ) 
日時: 2007/06/15 21:40名前: E_jan

その11

いつものお好み焼き屋には、『同期会』の4人と、田上さんが集まっていた。
田上さんはここまで、俺たちが総力を結集してまとめあげた企画書に目を通している。

「なんで田上さんがいるんだ?」
「そうよ、どういうこと?」
「ちょっと説明してよ」
佐川、日高、恵利瀬は、田上さんと距離を置き、俺の周りに集まってこそこそと俺に耳打ちをする。
と、言われても説明するのはなかなか難しい。
というか、本当のことを言えるはずもない。

「正直、田上さんが協力してくれるのはありがたいけど……オレたち新人だけの企画っていうの、重要だったんじゃないのか?」
佐川らしいもっともな意見だった。
日高も恵利瀬も頷いている。

たしかに、このプロジェクトは、もう俺だけのものではない。
ここまで4人で団結して進めてきたことは、すでに俺たちにとって財産になっている。
それをいきなり課のやり手が入り込んでかき回すんじゃやりきれない、という気持ちはよくわかる。

「なんだ? そんな心配するなよ。俺がヘンに手を加えなくても、いいデキだぜ、この企画」
そんな雰囲気を察知してか、田上さんが俺たちに声を掛ける。
現金なもので、一気にみんなの表情が明るくなる。
「そうですかっ! イケますよね?」
「見てください、このアンケート、私が設問作ったんですよっ」
「作表、私の担当で〜す、いいでしょ、ね、見やすいでしょ?」
今度は田上さんに群がり、わきあいあいとした雰囲気となる。

「驚いたよ。やるなぁお前ら。独創性あるし、熱意と工夫も感じられる。いい企画書だ」
田上さんのお墨付き。それは神の啓示に思えた。

わーい、と女性ふたりが抱き合って喜んでいる。
あのクールな佐川が涙ぐんで、それに加わる。
「あー。ただ2カ所だけ指摘しておく。パブリッシングの見積もり、甘過ぎ。やり直した方がいい。あと、ここのデータ余計。すっきりさせとけ。以上」
「はいっ!」
4人の声が見事に揃った。

「ただなぁ……。いい企画だけど、コンペは通らないかもな」
「えっ?」
「いや、企画そのものが問題じゃないよ。問題なのは選考側なんだよなぁ……」
「そ、それはどういうことですか?」
「んーと。……あのな、ここだけの話なんだが、瞳ちゃんって常務の愛人なんだよね」
「はぁ?」
俺たちは揃って絶句してしまった。
「まあ、新人のお前たちの耳にまでは聞こえてこないだろうけど、一部ではわりと有名な話なんだな、これが……。常務はコンペの総責任者だし、あいつがあれだけ自信満々に『勝てない』っていうからには、それなりの仕込みしてんじゃねえかな」

「……それって」
「ひどい」
「嘘でしょ?」
「本当だから俺が出しゃばるんじゃねえか。企画そのものはお前らに任せた。俺はこのコンペがフラットな状態で行われるように動いてみるわ」
あまりのことに、誰も二の句が継げない。
もちろん、俺も。

「でも……なんでそんなに江口を辞めさせたいんだ?」
佐川が聞く。
「んなの、俺が知るかよ。仕事態度だらしないからじゃないの?」
「……まあ、心当たりはなきにしもあらず、だけどな」
田上さんは困った顔で言った。
その顔を見て、閃いた。
そうか、瞳ちゃんは……。

「その理由は今は伏せさせてくれや。おいおいわかると思うんで」
そういって、田上さんは席を立つ。
「まあ、あともうちょっとだ。頑張れよ、若者諸君!」

残された俺たちは魂の抜けたような状態だった。
「しかし、なんなんだ田上さんって」
「わかんないけど、かっこいい〜! 惚れたわ〜」
「うん、かっこいい。口悪いけど」
目がハート状態の女性陣には、ぜひともあの時の下卑た田上さんを見せてやりたい。
百年の恋も一瞬で冷めるはずだ。

「しかし、瞳ちゃん、怖いなぁ」
「ホントね。てっきりえぐっちゃんの更正プログラムかと思ってたのに」
「……ねえ江口、本当に心当たりないの?」
恵利瀬が心配そうな顔で聞く。
「わからん……」
もしかしたら恵利瀬がらみかもな、とはさすがに言えなかった。


翌日、昼休みに喫煙所に行くと、瞳ちゃんがいた。
「あれ、瞳ちゃん。ご休憩ですか?」
今日はこちらから声を掛ける。
今日の瞳ちゃんはグレー地に白いストライプの入ったパンツスーツを着ている。
かわいい系の瞳ちゃんにはそれほど似合っているわけではない。
キャリアOLというより、女子高生が気張っておめかしした、という感じだ。

……などと、服装の感想を思い浮かべる程度の余裕があった。
考えてみれば、昨日の瞳ちゃんの服装など、思い出すことも出来ない。
それほど、あのときはテンパっていたのだ。

「楽しい社会人生活もあと3日で終わりね、江口君」
瞳ちゃんは俺の余裕になにかを感じ取ったのか、いきなり『ダーク・サイド』丸出しで来た。
「こそこそ新人が集まってなんかやってるようだけど、そんな付け焼き刃で通るほど年次コンペは甘くないわよ?」
「そうですね……やっぱりだめかなあ」
俺は弱気を装った。ちょっと試してみたいことがあったのだ。

「今頃気が付いた? コンペで恥かく前に逃げ出してもいいのよ?」
「それも……考えています」
ふん、と勝ち誇ったように鼻から煙を吐く瞳ちゃん。
やっぱり似合わないよ、煙草。

「それで、コンペ落ちたとき、俺ら新人4人で一緒に辞表出そうかって話してるんです」
もちろんブラフだ。同期を巻き込むわけはない。
しかし、瞳ちゃんは過敏に反応した。

「え? なにそれ?」
「いや、俺らチームだってもう先輩方に知られてるみたいだから」
「ちょ、ちょっと、なにいってんのよ、そんなのダメよ! 辞めるのはあなただけよ!」
「いや、俺もそういったんですけど、みんなそういって聞かないですよ。特に高山が。ほら、俺ら付き合ってるじゃないですか……」
顔面蒼白の瞳ちゃん。
やっぱりそうなんだ。
あんた悪役に向かないよ。

「そ、そんなのゆるされないわよ。いい、江口、あんたはコンペ落ちたらクビなの。でも、他の3人は解雇にはしない。辞表出したって受理されるわけないわ」
「へえ、そんなもんなんですか? 辞める自由はない?」
「そ、そうじゃないけど、私が説得して辞めさせません、絶対」
「ふーん。そんなに好きなんだ。恵利瀬のこと」
俺の指摘に、瞳ちゃんは固まった。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.42 ) 
日時: 2007/06/15 22:03名前: バラバラ

「キャバ嬢を愛して」とは一転して仕事がらみの話がリアリティを感じさせていいですね。
それにしても江口さんは駆け引きがうまいですよね。
瞳ちゃんを動揺させるなんてね。
でも彼女がそんな趣味だったとは…。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.43 ) 
日時: 2007/06/16 02:10名前: 名無しのゴンベエ

た〜さんステキ(ハート 
 Re: むかしのはなし。 ( No.44 ) 
日時: 2007/06/16 11:46名前: 名無しのゴンベエ

すっげぇ面白い!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.45 ) 
日時: 2007/06/16 12:09名前: 名無しのA

ふ〜ん つまり瞳ちゃんの差し金なんだ。
恵利瀬ちゃんはスパイみたいだし・・。
江口さん負けるな!頑張れ。
次回楽しみです。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.46 ) 
日時: 2007/06/16 12:37名前: E_jan

コメント、ありがとうございます。
本当に励みになります。


その12

恵利瀬と瞳ちゃんは新人と指導係という関係上、よく話をしている姿を見かける。
女同士、仕事の後に連れ立って飲みに行くこともある。
たぶん、俺と恵利瀬の関係については、恵利瀬から直接聞いたのだろう。
酒の席での話だけに、恵利瀬は「俺に弄ばれている」ぐらいのことを言ったのかもしれない。
まあ、事実それに近い関係だっただけに、本当にそうだとしても文句は言えない。

問題だったのは、レズっけのある瞳ちゃんが恵利瀬に惚れていたことだ。
……仕事もできない『お荷物野郎』が自分のお気に入りを蹂躙する。
それは許せないことだったのだろう。

「図星かぁ」
「な、なにいってんのよ、そんなわけないでしょ!」
予想していたとはいえ、あまりにストレートな反応を示す瞳ちゃん。
もうちょっといじめてみたくなる。
「そうなんですか? おかしいなあ、恵利瀬から聞いたんだけどなぁ」
もちろん嘘だ。
「……何を聞いたのよ」
「いや、あいつの勘違いみたいなんで、いいです」
「よくないわよ、言いなさい。だいたい、あなたと高山さん付き合ってるわけじゃないでしょ?」
おお、やっぱりそこに食らいつくか。
「情報古いなぁ、瞳ちゃん。俺ら正式に付き合うことにしたんですよ。一緒に企画すすめてるうちに愛深めちゃって」
「黙りなさいっ!!」
髪を振り乱して瞳ちゃんが叫ぶ。
小さな身体が怒りにぶるぶると震えているのがわかる。

ガヤガヤと外の方から声が聞こえてきた。
見ると、喫煙室でよく見かける営業課の連中が大勢、やってくる。
「んじゃ、今日はこのへんで」
そういって、俺は喫煙室を出る。
ちらっと振り返ると、瞳ちゃんは鬼の形相でこちらを睨み付けている。

……ちょっとやりすぎたかなぁ。
『ダーク・サイド』瞳ちゃんの逆襲を想像し、ちょっと背筋が寒くなる。
たのみますよ、田上さん。
俺は心の中で『田上大明神』に手を合わせた。

早足で部署に戻ると、忙しそうにしている恵利瀬を捕まえ、強引に社外へと連れ出した。
瞳ちゃんが恵利瀬にコンタクトをとる前に、事情を説明しておきたかったのだ。

「なによ、重要な話って」
「……例の、瞳ちゃんの動機について、だ」
「わかったの?」
「うん。わかっちゃった。……その、なんというか、原因は、恵利瀬おまえだ」
「え? なんで?」
やはり、恵利瀬はまったくわかっていない。

「瞳ちゃんに相談したんだろ? 俺とのこと」
「あ。……相談っていうか、ちょっと愚痴ったことはあるけど……まさか、それで?」
「瞳ちゃん、恵利瀬に惚れてたらしくてね」
「惚れるって……え? レズ?」
「みたい」
「ちょ、ちょっとまってよ。だって瞳ちゃん、常務の愛人なんでしょ?」
「んだな。だから、正確にはバイ・セクシュアルってことになるか。ただ、常務の方は愛だ恋だ、というより、もっと打算的に結んだ関係なんだと思う」
俺は、喫煙室での出来事を洗いざらいぶちまけた。
もちろん『賞品』のことも、田上さんのことも。

「なるほどね」
思っていたよりも恵利瀬は冷静だった。
「江口にとっては、復讐の意味合いもあるコンペだったんだね」
「まあ、すでに復讐って気分じゃなくなったけどな」
「ふーん。でもコンペ通ったら、瞳ちゃん抱くんでしょ?」
「わかんない。その権利は田上さんに差し上げようかなぁ、とも思ってる。といっても、綺麗事じゃなくて、正直なところ、あんなおっかない女の前で勃つ自信ないんだよ」
本音だった。『賞品』にこだわるなら、恵利瀬にはその部分だけでも隠し通したとだろう。

「なるほどね」
もう一度、そういうと、コーヒーを一口飲み、にやりと笑った。
恵利瀬には珍しい、下品な感じの笑みだ。
「『賞品』、ちゃんと受け取りなさいよ。ただし……」
「ん?」
「私もまぜて」
「え?」
「発端なんだし、コンペも手伝ったんだし、私にもその権利あるでしょ?」
「は?」
「よしっ! 会社戻ろう。パブリの経費見直し、仕上げちゃわないと」
そういって、伝票を掴んで立ち上がる恵利瀬。

なんなんだ、この展開。
妙にキラキラした表情の恵利瀬を見上げ、俺は困惑のまっただなかにいた。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.47 ) 
日時: 2007/06/16 13:03名前: バラバラ

何かハードな展開になってきましたね。
瞳ちゃんの本性もわかったことだしこの後の展開が何となく読めるような…。
ところで恵利瀬さんのラストの台詞からすると満更でもない? 
 Re: むかしのはなし。 ( No.48 ) 
日時: 2007/06/16 15:43名前: 名無しのA

もしかで恵利瀬ちゃん 苛めるの好きなんじゃ・・
と思ってしまう俺って変?
ますます目が離せませんね。
続き楽しみです! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.49 ) 
日時: 2007/06/16 17:56名前: 名無しのゴンベエ

ウヒョー!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.50 ) 
日時: 2007/06/16 21:06名前: E_jan

久しぶりのエロ展開w


その13

早足で会社へと向かう恵利瀬を追いかけながら、その背に問いかける。
「なんでだ?」
「なにが?」
恵利瀬は振り向かずに言う。
「いや、まぜてくれって。ヘンじゃないの?」
「……私もそれなりに瞳ちゃんに恨みがあるのよ」
「え? そうなの?」
「うん」
「……手込めにされた、とか?」
「あはは。江口じゃあるまいし」
「……」
言葉もない。

「今日、呑みにいこうよ」
「え、いいけど」
「そんで、抱いて」
「いや、それは……」
恵利瀬はぴたっと立ち止まると、くるっと振り返る。

「いいから、抱け」
真顔で言ってから、にこっと笑った。
「……はい」
逆らう気は失せていた。
恵利瀬もまた、ダークサイドを持った女なのだろう。


ラブホテルに着き、部屋にはいるとすぐ、恵利瀬は俺の前に跪き、ベルトを外しにかかる。
「ちょ、ちょっと恵利瀬」
無言のままチャックを降ろすと、すでに硬くなったモノを取り出した。
「なあ、シャワー浴びようぜ?」
俺の声に耳を貸さず、いきなり深く、それをくわえ込んだ。
「う……」
深く、浅く。速く、遅く。
絶妙すぎるフェラだった。
俺はコートも脱がないまま、恵利瀬の口淫に悶えて立ちつくすほかない。

口を離すと、今度は根本から先まで、舌を伸ばして舐めあげる。
さらに横笛のように銜え、執拗な愛撫を繰り返す。
「江口、きもちいい?」
上目使いで見上げる恵利瀬。
「ああ。すごいよ」
そう答えると、満足そうな笑顔を浮かべ、再び深く銜えていく。

「ん……ん……はあ……」
ちゅぷちゅぷとという唾液の音と、恵利瀬の小さなうめき声が静かな部屋に大きく響いている。
恵利瀬のフェラはいつも情熱的だが、今日は度を超している。
よく見れば、恵利瀬の指は自らの股間に伸びている。
腰を揺すりながら、リズミカルなストロークで俺を責めている。

もしかして、今日は恵利瀬に犯されるのか?
なにかヤバいものを感じる。
のんびりと受け身でいるわけにはいかない、と思った。
俺は恵利瀬の後頭部を掴むと、乱暴に腰を突き入れる。
「ぐっふ……」
喉の奥を突かれて恵利瀬が咳き込む。
それを潮に、口からモノを抜くと、恵利瀬を立たせ、鏡張りの棚に手を付かせて後ろへと回り込む。

来たままだったロングのコートとその下のタイトスカートを強引に捲り上げ、パンストの上から「そこ」に指を当てる。
「ああ……」
悲鳴にも似た嬌声を挙げ、恵利瀬が腰を振る。
ストッキングとパンティをまとめてずり下げると、間髪おかずに恵利瀬の唾液でぬめるモノを、背後から突き立てた。
「ああひゃあ……ん」
背筋を反らせ、恵利瀬は艶っぽい声で哭いた。
同時に肉襞が痙攣するように俺のモノを締め付ける。
入れただけで、軽くイってしまったらしい。

完全に牝だった。
こいつは恵利瀬じゃない。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.51 ) 
日時: 2007/06/16 21:46名前: バラバラ

いきなり怒涛の展開!(笑)
泣いて「抱いて」といった恵利瀬さんからは考えられないですね。
まさか瞳ちゃんに対して何か込上げるものがあるとか?(笑)
ハードなガチンコでこちらも我慢できなくなってしまいそうで…。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.52 ) 
日時: 2007/06/16 23:57名前: しょう

先の読めない展開が凄くいい!!
続きが楽しみです。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.53 ) 
日時: 2007/06/17 00:49名前: 名無しのゴンベエ

恵利瀬さん会社辞めるつもりなのかなぁ?

続きが気になる展開です。
頑張って下さい。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.54 ) 
日時: 2007/06/17 01:46名前: sai

 瞳ちゃんに嘘でも付き合ってると言ったことが嬉しかったのかな?それがきっかけで封印していた気持ちが爆発したのか・・・まあ、女心をつっこむのは野暮だからここまでにしときますが、これだけは言わせてください。
 主人公が羨ましい・・・
 今後の展開、楽しみです!がんばってください。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.55 ) 
日時: 2007/06/17 23:27名前: 名無しのゴンベエ

いいなぁ。この硬質な文章。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.56 ) 
日時: 2007/06/18 12:42名前: 蜃気楼

うーん またまたいい展開になってきましたね
なんかドキドキしちゃいますネ
次回の盛り上がりに期待します ∠(`・ω・´)ピシュ

エロ度の上昇にもドキドキwしてますw 
 Re: むかしのはなし。 ( No.57 ) 
日時: 2007/06/18 12:51名前: E_jan

思い出すのも辛くて、更新遅れ。
なんか、期待を裏切る展開なのかもしんない。


その14

顔を上げると、目の前は鏡だ。
そこに映し出されているのは、お互いコートを着たまま、呆けた顔で繋がっている雄と雌。
急激に気分が冷めていくのを感じる。

なんだ、これは。
恵利瀬は俺を使い、俺は恵利瀬を使って、オナニーしているようなもんじゃないか。
気持ちと共に萎むモノを悟られないように、素早く恵利瀬の中から引き抜く。
はぁん、と艶っぽい声を上げながら、恵利瀬はその場にへたり込んだ。

どうして恵利瀬は再び俺に抱かれようなんて思ったのだろう?
そして、どうして俺は恵利瀬を抱いてしまったのだろう?
本当はお前のことが大好きだ、って、素直に言えないのならば、抱いてはいけなかったはずだ。
すでに恵利瀬は、こんな風に、欲望に任せて抱いていい女じゃないはずだ。

でも……「それ」を恵利瀬は望んでいた。
理性を吹き飛ばした雄と雌として、心ではなく身体を交わすことを。
「なあ、恵利瀬。とりあえずシャワーを浴びないか?」
そして、お互い、一度頭を冷やそう。
その方がいいと思った。

「気にしなくていいよ……」
ぼつりと恵利瀬が呟いた。
「江口も瞳ちゃんも……私の身体が欲しいんでしょ?」
鏡の中の恵利瀬は泣いていた。

「心なんて、必要ないんでしょ?」
恵利瀬の嗚咽は低く、静まりかえった部屋に響いた。
ぐうの音もでなかった。

「……シャワー、浴びてくる」
そういうと、恵利瀬は立ち上がり、膝の当たりで絡まるストッキングとパンティをそのままに、ぎくしゃくした歩みで、バスルームへと向かう。
その後ろ姿を見ながら、俺も泣いていた。
本当に終わってしまった、と思った。
恵利瀬は、強烈な『さよなら』を突きつけるために、俺に抱かれに来た。
いや、違う。俺を抱きに来たんだ。
『いい同僚』として、そばにいることすらも捨てるつもりなのかもしれない。

俺はコートを脱ぎ捨てると、ふらふらと恵利瀬のあとを追った。
脱衣所にはコートやスーツ、そして下着が乱暴に脱ぎ捨てられていた。
まるで、恵利瀬の残骸、とでもいうかのように。
それを踏み越え、水音の響くバスルームの扉を開ける。

立ち籠もる湯気の向こうに、頭のてっぺんからシャワーを浴びながら、立ちつくしている恵利瀬の後ろ姿があった。
俺はなにも言わず、その背中にすがりついた。

「江口、スーツ脱がないと……」
抑揚のない声で言う唇を強引に塞ぐと、恵利瀬は首を振って抵抗を示した。
「やめて」
「いやだ」
それは恵利瀬に対して発した、初めての本音だった。
「いやだ」
離したくない。
抵抗の力が弱まる。
ふふっと恵利瀬が耳元で笑った。
そして、やさしく俺を抱きしめながら言った。
「もう、遅いと思わない……?」

スーツを叩く、パラパラという乾いた水音だけが、バスルームに木霊していた。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.58 ) 
日時: 2007/06/18 13:03名前: バラバラ

うわ〜ぁっ、急激に現実的な展開になってきましたね。
ついに本当の気持ちを打ち上げたものの悲劇的な結果になりそうな気配。
辛い過去かもしれませんがこの後が気になります。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.59 ) 
日時: 2007/06/18 15:34名前: E_jan

その15

それは人生始まって以来の大失恋だった。

自分に惚れている女の気持ちを弄んでセックスフレンドにしているうちに本気になり、その気持ちを伝える前に相手から切られてしまった。
馬鹿な話だ。
ぐしょ濡れのスーツを脱ぎ捨てながら、途方に暮れる。
とりあえず全部服を脱ぎ、もう一度シャワーを浴びた後、バスルームを出ると、恵利瀬は全裸のままベッドのの上で膝を抱えて蹲ってテレビを眺めている。
シャワーから出たときにはもう恵利瀬はいないかもしれないと思っていただけに、その姿を見つけて、俺は心底胸をなで下ろした。

暗い室内にを照らすテレビの光が、恵利瀬のしなやかな身体を闇に浮かび上がらせていた。
初めて恵利瀬を抱いたときも、恵利瀬はそうしていたっけ。
画面では、ケバいおばさんが大股開きで男を受け入れている。
俺は恵利瀬の隣にごろりと身を投げ出した。

「お前さ……」
俺は喉に力を込め、言葉を絞り出す。
「会社辞めんの?」
「わかんない」
そういいつつも、その響きに否定のニュアンスはなかった。

俺はゆっくりとした動きで起きあがると、恵利瀬を押し倒した。
恵利瀬を抱きたいと思った。
性欲ではなく、愛情が、恵利瀬を抱きしめたがっていたのだ。

もう、遅い。
わかっていた。抱いたって、なにも変わらない。
でも、どうしても抱きたかった。

恵利瀬は優しくそれに応えてくれる。
俺を見上げる切れ長の、綺麗な瞳には、慈愛の色が浮かんでいる。
ただ、抱き合い、見つめ合ったまま、俺は腰を進め、ゆっくりと恵利瀬の中へと入っていく。
愛撫ひとつ無いというのに、そこはこれまでにないぐらい、ぐしょぐしょに濡れている。
身体を密着させ、一番奥まで貫いたところで、動きを止めた。
熱く、ねっとりとからみつく恵利瀬の中。
動くことなく、じっとそれを堪能する。
幸せだった。

「たまには悪くないね。愛のあるセックスってのもさ」
恵利瀬が言った。
「めいっぱい、愛して」

愛し合う二人の、最後のセックスは、激しくもあり、優しくもあった。
泣きながら、俺は恵利瀬の中に愛情を吐き出していた。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.60 ) 
日時: 2007/06/18 16:14名前: バラバラ

悲しいですよね。
読んでいるだけでも気持ちがこちらに伝わってきます。
気持ちいいものではなく身も心も繋がるための行為。
そう思っても恵利瀬さん曰く「遅い」というなのですね。
思い出すだけでも辛いという意味がわかりました。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.61 ) 
日時: 2007/06/18 18:01名前: 名無しのゴンベエ

むぅ・・・
心が痛いなぁ〜

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.62 ) 
日時: 2007/06/18 18:43名前: 新参者

( ゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシ
 
(;゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) …!?
( ;゜Д゜)
工工エエエエ(;゜Д゜)エエエエ工工

No.53のレスをした者です。

私も心が痛いです。

頑張って下さい。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.63 ) 
日時: 2007/06/19 08:16名前: さく丸

E_janさん

重いけど面白いです。

先が全然読めません!

期待してます。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.64 ) 
日時: 2007/06/19 12:28名前: 蜃気楼

確かに重くなってきましたが 同じ男として
よく判りますねえ・・・
若いときならではの経験ですよね
自分の若いときをつい思い出してなんだかほろ苦い味が・・・。・゚・(ノω・`)・゚・。

次回がどうなるか楽しみです ○┓ペコリ 
 Re: むかしのはなし。 ( No.65 ) 
日時: 2007/06/19 14:38名前: 名無しのゴンベエ

切なくて重い話だけど、心にしみる。
E_janさんは本物のストーリー・テラーですね。

続き、お待ちしております。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.66 ) 
日時: 2007/06/19 22:35名前: E_jan

鬱展開すんませんです。
でもまあ、底まで落ちたんで、あとは登るだけということでw


その16

いろんなことがどうでもよくなりかけていた。
仕事も何もかも投げだし、このままどこか遠くへ行ってしまいたい。
そう思ってみたものの、協力してくれた佐川や日高、そして傷つきながらもずっと企画に携わってくれた恵利瀬のことを思えば、自分勝手に消えるわけにはいかない。

企画書の提出日は明日に迫っている。
社内中から集まってくる企画書は1週間掛けて上層部で吟味され、選りすぐりの企画だけが最終プレゼンの機会を与えられる。いわば書類選考と2次面接だ。
重い身体を無理矢理にベッドから引きはがし、会社へと向かうと、日曜日だというの社内は騒然としていた。

その割に企画課のフロアは閑散としていた。
奥の席からよお、と日高が手を振る。
「まだ1年目だからわかんなかったけど、年次コンペって超大ごとみたいね」
「そうだな」
と、いいながら、壁にある会議室の使用状況を示すボードを見る。
すべて使用中を示す赤い磁石が貼り付けられていた。
皆、それぞれ散らばって最終調整に勤しんでいるのだろう。
なにしろ年次コンペは出世コースへの近道といわれているらしいのだ。
考えてみれば、新人の身で、それに挑戦し、あまつさえ企画を通そうというのは、大胆すぎる行いである。
真剣に企画に打ち込んでみて、はじめて事の重大さが把握できたのだから、無知というのは恐ろしい。

「他のふたりは?」
「佐川は阿久津先輩の手伝いにかり出されてる。恵利瀬は……」
日高はそこで言葉を濁した。
「休むってさ。体調崩したみたい」
「……そうか」

「あのさ、えぐっちゃん」
「ん?」
「余計なお世話かもしれないけど……恵利瀬のフォロー、ちゃんとやっといた方がいいよ」
「ああ……そうだな」
日高は俺と恵利瀬の関係を知っていたのだろう。
傷口に塩を塗りたくるような所行ではあるが、日高に悪意がないのは百も承知している。

「恵利瀬、強そうに見えて、けっこうモロいとこあるから」
日高は俺とまったく逆の感想を口にした。
同性からはそう見えるのだろうか。

俺の知っている恵利瀬は、モロそうにみえて、実はとてつもなく強い。
それに、俺たちの関係は、すでにフォローなど必要ない段階にある。
「でも……もう、終わっちゃったことなんだ」
そう呟くのが精一杯だった。
「そっか……本当に余計だったね。ごめん」
「いや、悪かったな、気を遣わせちゃって」

そんな、気まずい雰囲気を打ち破るように、勢いよく佐川が飛び込んできた。
「悪い。阿久津さんの方、まだぜんぜん終わらないんだ」
「おつかれー」
「大変そうだ」
「ああ。先輩たちは通常業務の合間にちょこちょこ企画やってるから、どうしても最後の追い込みでバタバタになっちまうみたいだ」
むろん、俺たちにも通常業務はあるが、大きな仕事を抱えている先輩方とは負担が比べものにならない。

「阿久津さんの企画見てる限り、俺たちの方が数段、上だ。間違いなく一次審査はイケると思うよ」
「わーい、すごいじゃん!」
日高は、細い目をさらに細める、独特の『日高スマイル』で笑った。
口元から覗く八重歯とあいまって、『親父殺し』の秘技と社内で恐れられている笑顔だ。
じじい世代だけでなく同世代の俺から見ても、相当破壊力を感じられる。
たぶん今日も、この最終兵器をフル活用して先輩の手伝いを回避したのだろう。

「あれ? ところで高山は?」
「あ、なんか体調崩したみたいなの」
日高がフォローする。
「そうか、ここんとこみんな根詰めまくってたからなぁ……。お前らは大丈夫か?」
佐川が老け顔を曇らせる。
「うん、大丈夫! 佐川ちゃんのぶんまでふたりでチェックしとくから、安心して阿久津先輩のお手伝いしてきてね☆」
『日高スマイル』全開だ。
「おお、済まないな。んじゃちょっと行ってくるわ」
ばたばたと課を後にする佐川。

「ふう……」
張り付いた笑顔を解除して、日高がため息を付いた。
「日高、本当にすまん。感謝している」
俺は深々と頭を下げた。
「あはは、お礼はコンペ通ってから」
そういって、下げた頭を日高がぺちぺち叩く。

佐川といい、日高といい……俺は本当にいい同期に恵まれた。
また、恵利瀬とも『いい同僚』に戻れたら……。

いや、今はそんなことを考えているときではない。
俺たちの企画書の、最後のブラッシュアップに専念しよう。

「よし、日高。あとちょっと、頑張ろうぜ」
「はいな。がんばりましょ☆」
最高の『日高スマイル』が、俺の背中を押してくれた。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.67 ) 
日時: 2007/06/19 23:07名前: バラバラ

前回とうって変わって仕事の話になりましたか。
同僚同士の友情のドラマになる…のでしょうね。
(でも結局江口さん以外は…となるのですが。)
これから現実的な話になるようですが、話がどう転んでいくのか楽しみです。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.68 ) 
日時: 2007/06/20 11:26名前: 名無しのゴンベエ

なんかすっげー仕事へのやる気が起きた 
 Re: むかしのはなし。 ( No.69 ) 
日時: 2007/06/21 09:04名前: E_jan

>バラバラさん
いや、まだまだトンデモ展開が続きます。

>68さん
なんか嬉しいです。
コメントありがとうございました。


その17

すべてのデータの再チェック、そして全文の誤字、脱字チェックが終わったのは午後9時を回ったころだった。
「終わった……」
「もうだめ。死ぬ」
日高はデスクに突っ伏したまま動けない様子だ。
俺も付箋だらけのプリントアウトの山に頬を乗せて脱力していた。

「あら、こんな時間までごくろうさま」
不意に掛けられた声に頭を上げると、書類を山のように抱えた瞳ちゃんがいた。
「新人チーム、ずいぶん頑張ってるご様子ね。コンペ、楽しみね」
言葉とは裏腹に、瞳ちゃんの顔は険しい。
「あーがんばりますー」
さすがに相手にしている余裕もなく、怠惰に返事をするのが精一杯だった。
それが瞳ちゃんの神経を逆撫でしたらしい。
「無駄なあがきでもしておかないといいわけもできないものね」
日高がいるというのに、ダークサイド全開だ。

「一次審査の結果楽しみだわ。あなたたちの身の程をわきまえない挑戦が、どんな結果を招くのか……。日高さんも大変ね、こんなのが同期で」
「いやいや、瞳ちゃんが同期だっていうのよりはましですよぉ」
さらりと言ってのける日高。
瞳ちゃんの目がつり上がる。

「なんですって?」
「あはは。すいません、つい本音が」
「……日高さん、あなたも江口と一緒にクビになりたいの?」
「瞳ちゃんの部下やるぐらいなら、それもいいかな〜」
日高は悪びれもせずに言う。
瞳ちゃんの顔が怒りで真っ赤に染まる。
日高に向かって振り上げた平手を、俺が押さえた。

「瞳ちゃん、暴力はやめ……」
言いかけたところへ、反対の腕が飛んできた。
脇腹に拳がめり込む。
不意打ちだっただけに、かなり効いた。
とはいえ、利き手ではなかったこともあり、無言で耐えることができた。
ちょっとした悲鳴すら、聞かせてやりたくない。

「コンペの参加資格、取り消すから」
ぼそりと瞳ちゃんが言う。
「なんだって?」
「あんたたち新人がコンペに参加できるの、誰のおかげだと思ってんの? 私が上層部に進言してあげたからじゃない」
「いや、それは確かにそうかもしれないけど」
「わかる? そんな無理難題を通せるぐらい、私は実力があるの。逆に参加を認めなさせない事なんて、簡単なのよ」
ぼさぼさに乱れた前髪の奥で鬼の目が輝いている。
ぱっとに女子高生にしかみえない瞳ちゃんだけに、そのアンバランスさは異様な迫力を生みだしていた。

「でも、コンペ出ろっていったの瞳ちゃんだし。……それは本末転倒なんじゃないか?」
「うるさいっ! 絶対にコンペには参加させない。あんたたちの努力、全部無駄にしてやるわ。その上で江口、あんたはクビよ」
ここがどこだかも忘れたように絶叫する瞳ちゃん。
「……最低ね」
日高がため息を付く。
「日高さん、あなたも就職先、探しておきなさいよ」
「はーい。会社辞めたら常務の愛人にでもしてもらおうかなぁ☆」

「ヤバい、逃げろ日高」
俺は書類の束をひっつかむと、日高の手を引いて、脱兎のごとく逃げ出した。
「○×$%&!!! &%$#△◇#$%&〜〜〜〜!!!」
わけのわからない獣の咆哮を背に受けながら、俺たちは全力疾走した。
どかん、がっしゃん、となにかをひっくり返したような音が聞こえる。
「やりすぎだよ、日高」
「うん、びびった」
そういいながら『日高スマイル』。
こいつも相当なタマだ。

「とにかく、いったん会社を出よう。そんで……田上さんに相談しよう」 
 Re: むかしのはなし。 ( No.70 ) 
日時: 2007/06/21 09:38名前: バラバラ

え?これから大事でも起きるのでしょうか?
瞳ちゃん大爆発の状態。
何か滑稽にも見えますが、これが後々に関わってくるような気配。
う〜ん、女のヒステリーは怖いものですねぇ。(笑)
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.71 ) 
日時: 2007/06/21 11:47名前: さく丸


なんか凄い展開ですね。

ほんて女のヒスには・・・・。

では楽しみに続きをまってます。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.72 ) 
日時: 2007/06/21 14:56名前: E_jan

その18

スタバで時間を潰した後、忍び足で社に戻り、こっそりと課を覗いた。
鞄やら何やらを全部置いて逃げ出したため、どうしても戻らなくてはならなかったのだ。

もう、瞳ちゃんはいないようである。
俺と日高はほっと胸をなで下ろした。
「いやぁ、ごめんねえぐっちゃん。なんかものすごーく腹立っちゃってさ」
「いや、言いたいことズバッといってくれて気持ちよかったよ」
「あはは。そっか☆」
照れくさそうに笑う日高。
こういう笑顔もなかなかいい。

そのとき、ぽん、と肩を叩かれた。
背筋がぞくっとする。まさか。
「まだいたんだ」
その声は田上さんのものだった。
俺と日高は抱き合うようにしてへたり込む。
「お、脅かさないでくださいよぉ」

「ん? どうした?」
困惑した顔の田上さんに、さきほどの修羅場の様子を説明した。
「そりゃぁ……すごいな日高」
「ははっ、やりすぎちゃいました」
「まあ、コンペの方は問題ないだろ。すでに話は付いてるから、瞳ちゃんの力じゃどうしようもないはずだ」
どんな手を使ったのかわからないが、とにかく瞳ちゃんの小細工による最悪の事態だけは回避されたようだ。

「それより、準備終わったか? コンペは公平に行われる。勝てるかどうかはお前ら次第だ。くだらない誤字とか全部つぶしとけよ」
「もちろん、ばっちりっすよ!」
ぴょんぴょんと日高が飛び跳ねる。
「そいつはよかった。んじゃ、飲みに行くか?」
「そうっすね、いきますか」
そういって日高を見る。
「あたしはパス。さすがに疲れました」
ぬへっ笑う日高。本当に疲れているようだ。
まあ、あの怪獣と対決したのだから、精神的にもぐったりなのだろう。

連れて行かれたのはキャバクラだった。
俺にとっては課の新人歓迎会のあと、田上さんに連れて行ってもらって以来、人生二度目のキャバだ。
色とりどりの、いわゆるボディコンを身に纏った女性がフロアにあふれかえり、ビートの効いたBGMがガンガン鳴り響いている。
ちなみに、ジュリアナ東京全盛時代の話である。

バブルとやらはすでに崩壊の一途を辿っているのだが、この空間にいると、まだまだ日本経済は大丈夫だ、と勘違いをしてしまいそうだった。
田上さんはいつも指名をしている春希という娘を呼び、俺はフリー。
春希ちゃんは推定Eカップの胸をぶるんぶるん言わせながら科を作って話すエロ系キャバ嬢で、俺に付いた娘も似たようなタイプだった。
席に着くなりいきなりドリンク・オーダー。そしてコールとともに一気呑み……。

どうにも落ち着かない。
楽しそうに春希ちゃんと盛り上がる田上さんを横目で見ながら、俺は、なんでキャバなんかが好きな男がいるんだろうと首を傾げていた。
時間ごとに高い金払って、さらに馬鹿高いドリンクやフードを与えて、やることといえば女の子と話すだけだ。横でぶるんぶるんいってる巨乳に触れることすら許されない。
なんとも馬鹿馬鹿しい空間ではないか。
……などと、その頃の俺は思っていたわけだ。

つまらなそうな顔をしていたのだろう。田上さんが女の子越しに話しかけてきた。
「お疲れか?」
「いや、ちょっとこの雰囲気に当てられちゃって」
「わはは。キャバ楽しめるようになれば、一人前だぞ」
そんなもんなんだろうか、と思った。
キャバはさておき、はやく一人前になりたいと、強く思っていた。
田上さんのように。

フリーだと、女の子がコロコロと変わる。
3人目についた女の子は、これまでの娘とはちょっと毛色が変わっていた。
ひなちゃん、と名乗ったその娘は俺と同い年だった。
「入店してまだ3日目で、なかなか雰囲気に慣れないんですよ」
と、短いスカートの裾を気にしながら言った。
ストレートな黒髪が綺麗な、素朴な感じの娘で、ちょっと東北訛りがあった。

「あ、あのドリンクいただてもいいですか……。お客さんには必ず呑ませてもらえって言われてて……」
「ああ。どうぞ」
すみません、すみません、と謝る姿を見て、なんとなく癒されるような気がした。
キャバクラ、という場所がどうこうではなく、結局は女の子次第なのかもしれない。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.73 ) 
日時: 2007/06/21 15:53名前: 21

春菜じゃなく春希チャンなんだね♪

期待してます!!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.74 ) 
日時: 2007/06/21 16:11名前: バラバラ

ついにキャバクラデビュー?ですね。
これが江口さんのキャバクラを楽しむ客としての導入になるのでしょうか?
「キャバ嬢を愛して」の前史として考えると面白いですね。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.75 ) 
日時: 2007/06/21 22:27名前: non

コンペの結果が気になる!!!

続きが早く読みたい>。< 
 Re: むかしのはなし。 ( No.76 ) 
日時: 2007/06/22 06:28名前: ドイツ人

なんか、だんだん面白くなってきました!! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.77 ) 
日時: 2007/06/22 11:45名前: 名無しのゴンベエ

「キャバ嬢を愛して」とシンクロして
楽しみ倍増です。
続き楽しみにしてます。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.78 ) 
日時: 2007/06/22 12:58名前: E_jan

たくさんのコメント、本当にありがとうざいます。
こっちもついにキャバ展開w

話がごちゃごちゃしてきますが、どうかお付き合いよろしくお願いいたします。


その19

「もうそろそろお時間ですが、いかがいたしますか?」
ボーイがテーブルにやって来て、延長を促す。
「そうだなぁ……江口っちゃん、どうする?」
腕時計に視線を走らせると、12時を廻ったところだった。
「んー。お任せします、先輩」
「じゃあ、延長で」
間髪入れずに延長を告げる田上さん。
わーいうれしー、と春希ちゃんが声を上げて田上さんの腕にすがりつく。

「あと、その娘、場内指名。……で、いいんだろ?」
そういって、田上さんがひなさんを指さす。
さすが、というか、なんというか。俺の気持ちなんてお見通し、か。
「あ、はい。場内お願いします」
どきどきしながら、ボーイに指名を告げる。
これが人生初の「指名」である。

ひなちゃんは照れたように頭を下げ、ありがとうございます、と小声で言った。
「ほれ、もっと元気よくご挨拶しないと! あんた初めてでしょ、指名取れたの」
わはは、と豪快に笑う春希ちゃん。
「へえ、初指名か。江口っちゃんも初めてだろ、女の子指名したの」
「わー。指名処女と指名童貞だ! なんか初々しいねぇ!」
「さ。あのふたりはほっといて、春希は俺と遊ぼうぜ。処女と童貞の初夜を邪魔するのは無粋ってもんだ」
「そおね。がんばってねぇ」
そういう表現をされると、あまりにも恥ずかしくて……とても顔を上げていられない。

盛り上がる田口さんと春希ちゃんを横目に、中学生のようにもじもじする俺とひなちゃん。
ふと見ると、彼女も顔を真っ赤にして俯いている。

今にして思えば、あまりにもかわいすぎるキャバクラ人生のスタートだった。


1次審査を無事通過し、プレゼンの日程が公示された。
その日、瞳ちゃんは会社を休み、恵利瀬は久しぶりに出社していた。
「おめでとう」
掲示板を見つめる俺に恵利瀬が声を掛けてきた。
ちょっとやつれたような気がする。
コンペの提出日も顔を見せずじまいだった恵利瀬と合うのは、ほぼ1週間ぶりである。
日高とは電話で連絡を取っていたようだが、俺にとっては久しぶりに聞く恵利瀬の声だった。

「1次は無事通過ね」
「まあ、本番はこれからだけどな」
張り出された1次通過者はわずか7人。そのなかには瞳ちゃんと田上さんの名前もあった。

「……恵利瀬、大丈夫なのか?」
「ダメに決まってるじゃない。今日は辞表を出しに来たの」
「……やっぱり辞める、のか」
「まあね」
「……すまん」
「謝らないでよ馬鹿。……でも、瞳ちゃんいじめるときは読んでね。ちゃんと参加するから」
「ああ。コンペ通ったらな」

そうはいったものの、瞳ちゃんとの約束なんて、正直なところ、どうでもよかった。
このところ、ずいぶんと凹ませてやったし、日高の暴言も含め、言いたいことは全部言った気がする。
それに1次を通過したということは、田上さんの策が功を奏したということで、それはそのまま瞳ちゃんの面子を潰すことになったはずだ。今頃きっと「愛人」と揉めてるだろう。
十分な仕返しはできたように思う。
それに、コンペに通れば通ったで、なんだかんだ屁理屈をこねられて、そんな反社会的な約束は反故にされてしまうに違いない。

「なあ、恵利瀬。お前、辞めるなよ」
「……そんなこと言ったって」
「俺の顔見たくないなら、俺が辞めるからさ」
「なにいってんのよ。同情ならやめて」
「同情じゃねえよ」
「じゃあなによ?」
恵利瀬は怒るでも呆れるでもない、フラットな表情と声で言った。
まあ、言って聞くような性格じゃないのはわかっている。

「……本当に可愛くない女だなあ」
「悪かったわね」
「俺はなあ、お前のこと……」
愛してる、なんて言えるわけもない。
「……大事に思ってるんだぞ」
「……ありがと。それ、聞けただけで、この会社に入った甲斐あったよ」
寂しそうに笑って、恵利瀬は背を向ける。
なんとも言えない喪失感が胸を締め付けた。


酒が呑みたい。
仕事が終わると、『Ber 14』に自然と足が向いた。
この店に訪れるのも久しぶりだ。
重いドアを開けると、優しく響くジャズが俺を迎えてくれる。

カウンターにはふみちゃんがいた。
「こんばんわ」
いつものように、ぺこりとお辞儀するふみちゃん。
その美しさに、さらに磨きが掛かったような気がする。
俺は隣に座り、バートンをオーダーした。

「この間は本当にすみませんでした。送ってもらっちゃって」
「まあ、紳士の勤めですから。ね、マスター」
「そのとおりです」
そういってマスターはショットグラスを置いた。

ふわっと香る甘い香り。
ぐいっと半分ぐらいを一気に呑む。
やっぱり、恵利瀬の味だ。

終わったことをいつまでもぐじぐじ考えていてもしょうがない。
恵利瀬を呑んで、踏ん切りを付けようと思ったのだ。

「あの、江口さん、クラシックとか聞かれますか?」
ふみちゃんが聞いた。
「え? ああ。聞きますよ。詳しくはないけど」
「よかったら、これ」
そう言って差し出したのは有名楽団のコンサート・チケットだった。
「こないだのお礼というか……一緒に行きませんか?」
「いや、そんな……」
そういいながら、ちらっとマスターを見ると、笑いながら頷いていた。
俺はチケットを受け取った。

「ありがとう。是非、ご一緒に」
「よかった〜」
ぱあっと表情を輝かせて笑うふみちゃん。
それは『日高スマイル』などまったく相手にならない、黄金色の微笑だった。

この娘とデートする。
そう思っただけで、気持ちが高揚し、幸福感が心の底からわき上がってくるのを感じる。

俺は残りのバートンを呑み干した。
喉元を、恵利瀬が通り過ぎていった。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.79 ) 
日時: 2007/06/22 14:38名前: さく丸


仕事の出来る男には

自然と女の子が寄ってくるもんなんすね

羨ましい!

しかし読みやすくて面白い

先の読めない展開が最高です。

この先も宜しく 
 Re: むかしのはなし。 ( No.80 ) 
日時: 2007/06/22 20:42名前: バラバラ

もうこれで完全に恵利瀬さんとは離れてしまったんですね。
やはりわかっていても悲しいものです。
ところで恵利瀬さんはクライアント先に行ったということなんでしょうか?

さてキャバデビューにふみちゃんとの付き合いの始まり。
新展開の予感ですね。
これからが楽しみです! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.81 ) 
日時: 2007/06/23 02:10名前: 名無しのゴンベエ

先が楽しみだなー本当に。
エロスは他で補充w 
 Re: むかしのはなし。 ( No.82 ) 
日時: 2007/06/23 13:04名前: 名無しのゴンベエ

たしかにエロ少ないね。

面白いからいいけどw
この先の展開楽しみw
たまにはエロもおながいしますwwww 
 Re: むかしのはなし。 ( No.83 ) 
日時: 2007/06/23 13:17名前: オールドルーキーm

E_janさん、はじめまして!
いつも楽しく読ませていただいております。
特に、前作も良かったですが、今回は、私の青春時代そのものです。
 
よき時代が思い出されます。

ほろ苦く辛い部分も有るでしょうが、頑張って下さい。


 
 Re: むかしのはなし。 ( No.84 ) 
日時: 2007/06/23 15:44名前: ZOOM

こちらはこちらでまだ別物語としても質が高くておもしろいですね〜

まじで本出せますね、E_janさん。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.85 ) 
日時: 2007/06/23 17:08名前: しぇ〜くすぴあ

我に光を!ならぬ、我に続きを…! 
 Re: むかしのはなし。 ( No.86 ) 
日時: 2007/06/23 23:53名前: E_jan

毎回コメントしてくださるバラバラさんをはじめ、
さく丸さん、オールドルーキーmさん、ZOOMさん、しぇ〜くすぴあさん、
そして、ゴンベエのみなさん、本当にありがとうございます。
コメント、すごく嬉しいです。

仕事が忙しくなりつつありますが、がんばって更新していこうと思います。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


その20

それにしてもクラシック・コンサートとは、ふみちゃんらしい。
俺などではデートのシチュエーションとして思い浮かびもしない選択肢だ。
チケットに印刷された日付は一週間後。
プレゼンの翌日だ。
果たして、このデートに笑顔で出かけられるのかどうか……。

「あの、日にち、大丈夫ですか?」
ふみちゃんが不安そうな目で聞いた。
「ああ、大丈夫。ふみちゃんのお誘いなら意地でも予定は空けるよ」
「あ、いえ……。忙しいようだったら、無理しなくてもいいですよ」
「大丈夫。楽しみにしてるよ」
そういって、チケットを内ポケットにしまう。

「あ、あのっ、ブルームーンくださいっ」
照れるように俯いて、カクテルをオーダーするふみちゃん。
ブルームーンか。

ごく稀に、ひと月のうちに2回満月が訪れることがある。
その2回目の満月を「ブルームーン」というのだそうだ。
なんとなく、恵利瀬とふみちゃんを「ふたつの月」に見立ててみる。
すぐに、ちょっとロマンチストすぎるな、という思いとともに、「ブルームーン」が、“馬鹿げたこと”という意味を持つスラングとしても使われていることを思い出した。
マスターはそのことを知っていて恵利瀬にブルームーンを勧めたのだろうか?

「江口さんは次、何にしますか?」
いつもなら注文も聞かずにバートンのおかわりを持ってくるマスターが、次の酒を聞いた。
なんもかんも見透かされているような、そんな雰囲気だ。
「んじゃ、俺もカクテル。グラッド・アイ」
挑戦的に「女性に色目を使う」という意味のカクテルを頼んでみる。
マスターは「ほぉ」と、驚いたような顔をした。

「そんな名前が出るとは、江口さん、お酒詳しくなりましたねぇ」
単純に感心したのか、それとも深読みしてくれた上でのことか。
どちらとも判断の付かない反応だ。
「この前、カクテル辞典ってのを読んだんですよ」
以前、ふみちゃんに一杯奢ろうとしたとき、まったく酒の名前が出てこなかった。
それを恥じて、ちょっと勉強してみたのだ。
もちろん、ブルームーンについてもその時に仕入れた知識である。

薄紫色のブルームーンと、濃い緑色のグラッド・アイがカウンターに並ぶ。
俺とふみちゃんは、自然とグラスを合わせる。
この乾杯は、何に捧げようか?

次の日、出社すると恵利瀬が席にいた。
「おはよう」
「ああ、おはよう。いつまで?」
退社時期を聞いたつもりだ。
「うーん、それが……」

結論から言うと、恵利瀬は仕事を続けることになった。
田上さんをはじめとする上司たちに説得され、結局、恵利瀬が折れたようだ。
ただし、来月付で宣伝営業部へと配置転換することになった。
それが最低限の彼女の意向だった。
なんにしても、恵利瀬が会社に残ってくれる気になったのは、俺としても嬉しいことだった。
だが、俺には掛けてあげるべき言葉が見つからなかった。
「へえ、そうなんだ」
と、馬鹿のように頷くのが精一杯である。

俺たちの関係は過去のものだし、今となっては『いい同僚』ともいえない。
ただの『同僚』だ。
でも、それでいい。
それ以上、なにも望まないし、望んではいけない。
恵利瀬もそう思っているはずだ。

一方、同じフロアにいるはずの瞳ちゃんはこのところ姿が見えない。
出社はしているらしいのだが、どこにいるのやら……。
しばらくは喫煙室には近づかないで置こうと思った。

田上さんの話だと、常務と揉め、その関係を解消させられたらしい。
今後は出世コースから外れることは間違いなく、近いうちに社を去るだろう、とのことだ。
自業自得とはいえ少し可哀相になってくる。

考えてみれば、仕事が楽しくなったのも、佐川や日高、そして田上さんと親しくなれたのも、瞳ちゃんの策謀のおかげだ。
恵利瀬とは、瞳ちゃんがどうこうではなく、いずれは気まずくなっていたと思う。

「はあ? 人がいいね、えぐっちゃん。あたしはあんな黒々しい女に同情なんてできないわ」
そんなことを日高に話したら、笑って一蹴された。
もともと「瞳ちゃん大好き」を公言していた日高だけに、裏切られたという思いが強いのかもしれない。
「そんなことより、プレゼンの準備、進んでる? どんだけいい企画でもあんたのプレゼンがまずかったら意味ないんだからね」
「だよなぁ。頑張るよ」

重役たちを前にして、持ち時間20分で企画をアピールする「最終プレゼン」は5日後だ。
まだ、本格的なプレゼンの経験がないだけに、やり方からなにから、全部が手探りだ。
じっくり時間を掛けられた企画書作りとは違う一発勝負だけに、不安は大きい。
今度ばかりは誰にも助けは借りられない。
過度のプレッシャーがのしかかるのを、感じずにはいられなかった。

ふと、今晩は、ひなちゃんのいるキャバクラ『ポイズン』に行こうと思った。
 
 Re: むかしのはなし。 ( No.87 ) 
日時: 2007/06/24 00:22名前: バラバラ

お仕事で忙しい中更新お疲れ様です。
忙しいのでしたらゆっくりと更新していけばよろしいのでは?
お仕事もそうですが、あまり無理をなさらずに。

調べたとはいえなかなか博学ですねぇ、江口さんも。
酒のことは全然知らないのでこういう世界に触れるのって面白いです。
ホントこれって大人の世界ですよね。

恵利瀬さんもとりあえず残ることになったものの「何もない関係」でしかなくなりましたし、瞳ちゃんもいろいろあって会社を離れることになりそうだし、周りにも微妙な変化が現れてきました。
以前書いていたトンデモ展開というのが始まってきたのでしょうか?
そして仕事のほうでも大詰めを迎えてきているようで、どうなるのか楽しみです♪ 
 Re: むかしのはなし。 ( No.88 ) 
日時: 2007/06/24 02:10名前: 名無しのゴンベエ

話が面白い、とは思いつつ、
瞳チャンがどエロい罠にかかるのを見たい、と思う自分もいるわけで…w 
 Re: むかしのはなし。 ( No.89 ) 
日時: 2007/06/25 01:02名前: Jiang

公私共に緊張感が良く表現されてます。
続きが楽しみです。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.90 ) 
日時: 2007/06/25 14:13名前: E_jan

コメントありがとうございます。
なかなかエロくならなくてすみませんです。
はあ。


その21

『ポイズン』のドアの前に立つ。
中から重低音が漏れ響いている。
ここまで来ておきながら、俺は、そのドアを開けることに躊躇していた。
すでに2回訪れているし、ドアの向こうに何が待っているのかなんて、よくわかっている。
顔見知りの女の子だっている。
それでもまだ、当時の俺は、「キャバクラ」に対して胡散臭さや侮蔑意識を感じていたのだ。

それに、今回は俺ひとりきりでの来店である。
仕事上の付き合いでも、仲間内でのノリでもない。
完全なる自発で、俺はキャバクラへとやって来た。
……このドアを開ければ、その事実は確固たるものとなる。
それが少し怖かったのかもしれない。

立ちつくしている俺をあざ笑うかのように、ドアが開いた。
……その瞬間、大音量のジュリアナ風ハイパーテクノが押し寄せ、場の雰囲気を完全支配した。
店の前の路地までが、キャバの色に染まったのだ。

やや遅れてサラリーマンと見送りの女の子ふたりが姿を見せた。
そのうちのひとり……ひなちゃんと視線が合う。
「あ……」
ちょっと驚いたような表情を見せたひなちゃんだが、すぐににこっと笑って会釈してくれた。
その直後、俺を無視するように、店を出るサラリーマンに寄り添い、二言三言会話を交わし、手を振って見送った。

手を振り返すサラリーマンが辻を曲がるまで、そのまま「お見送り」を続けている。
その姿が見えなくなってから、やっとこちらを振り返り、「来てくれたんだ」、と嬉しそうに言った。
そして、ひなちゃんに手を引かれ、店内に入る。
ついに、俺は「ひとりキャバ」デビューを果たしたのだ。


指名には入店直後に女の子を指名する「本指名」と、フリーなどで入店したあと、店内で見かけたキャバ嬢を指名する「場内指名」の2種類がある。指名料はどちらでも変わらない場合が多いが、キャバ嬢にとって重要なのは本指名の方だ。
場内指名には、いわば「お試し」みたいなニュアンスもある。
気まぐれな場内指名の客をいかにして次回以降の本指名に繋げるかが彼女たちの腕の見せ所だ。
その意味では、ひなちゃんは上手くやった、といっていいだろう。

前回、会った時よりも、ひなちゃんは店に馴染んでいた。
ぎこちなかった笑顔も板に付き、水割りを作る手つきからもたどたどしさは薄れていた。
「だいぶ、慣れたみたいだね」
「そうですね、週4でお店に出てますから、けっこう慣れてきたかも」
言葉の端には、まだ訛りが残っている。
完全に標準語をマスターする頃には、きっと立派なキャバ嬢になっているのだろう。

「あ、これ……」
そういって、彼女は名刺を差し出した。
「この前は緊張してて渡すの忘れちゃった」
当時は携帯電話もメールもほとんど普及していなかったため、店の電話番号、住所、と『ポイズン』のロゴが印刷されただけのもので、そこに手書きで「ひな」と書き込まれている。

「江口さん、なんか疲れてるみたいですね」
ぼーっとしながら名刺を受け取る俺を見て、ひなちゃんは心配そうな顔で言う。
「んー。ちょっと仕事が大変でね」
「そっか。それじゃひなが癒してあげないとね」
そういって、手を握る。

ひなちゃんはちょっと変わった。
でも、俺もちょっと変わったと思う。
前回感じた素朴さよりも、今回彼女が身に纏っている親密感の方に、俺は好感を抱いていた。
彼女が「キャバ嬢」になろうとしているように、俺もまた「キャバクラの客」になろうとしていたのだろう。

前回、あまり話せなかった俺自身のことや、彼女の身の上話など、他愛のない会話で盛り上がる。
気楽だな、と思った。
言いたくないことは言わないで済むし、面倒くさい部分は小さな嘘で繋ぐ。
杯を重ね、時間が過ぎ、気が付けば、ボーイに2度目の延長を促されていた。

ふと、料金が不安になる。
なにしろこちらは社会人1年生だ。給料なんてたかがしれている。
一応の料金体系は理解しているものの、ドリンクもけっこう頼んだし、サービス料とかが何パーセントか加算されるらしいので、それも気になる。
「あの、今のところ代金いくらになってます?」
困惑気味の俺を見て、ひなちゃんが助け船を出してくれた。
ちょっと計算してきます、と言ってボーイはキャッシャーの方へと向かった。

「江口さん、あんまり無理しないでいいよ」
笑って言うひなちゃん。
それが営業的な台詞なのか、本当に心配して言ってくれているのか、わからなかった。

戻ってきたボーイが告げた金額は想像よりも高額だった。
とはいえ、驚くほどでもない。
あと1時間延長するとこれぐらいです、と、さらに高額の料金を告げる。
カードを使えば払えない額ではない。

まだ、帰りたくなかった。
俺はカードでの支払いが出来ることを確認し、延長することにした。

「ありがとう。……嬉しい」
はにかむように笑ってひなちゃんが、俺の肩にもたれかかる。
俺はきっと、ハマったのだろう。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.91 ) 
日時: 2007/06/25 16:32名前: 名無しのゴンベエ

キャバハマリキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
カードで支払うとヤバいですwww 
 Re: むかしのはなし。 ( No.92 ) 
日時: 2007/06/25 17:36名前: バラバラ

一人でキャバに行っちゃいましたね。
でもまだ場慣れしていないせいか状況がつかめないようで。
しかしこれからキャバの名人になる江口さんですから、ひなちゃんとの関わりがどうなるのか見守りたいところですね。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.93 ) 
日時: 2007/06/25 20:27名前: 名無しのゴンベエ

話としてすごく面白いです。
これでもうちょっとエロがあれば神なんですけどね。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.94 ) 
日時: 2007/06/25 22:25名前: 名無しのゴンベエ

続き、きになります・・・・ 
 Re: むかしのはなし。 ( No.95 ) 
日時: 2007/06/26 15:29名前: E_jan

キャバ話はこれから、っすね。
エロは……そろそろです。


その22

ひなちゃんが俺の手を握る。
「今度さ、ご飯でも食べにいこっか?」
「え? そ、そうね」
いきなりの店外デートのお誘いだ。

ケータイやメールのない時代の話である。
当時のキャバ嬢の「営業」は、今のように楽ではない。
店外デートや同伴などをフル活用して客を掴むのが一般的であった。
だから、ひなちゃんのように初指名直後に店外デートに誘われることも珍しくはなかったのだが、なにしろウブな俺にはそんな事情がわかるわけもない。

思わず緩む頬を引き締め、これは営業だ、これは営業だ、これは営業だ、と心の中で3回唱えてみたが、ニヤつくのを押さえることは出来なかった。
「何食べたい?」
それどころか、リクエストを聞く始末だ。
「んーと、お寿司とかいいなぁ」
「そっか、んじゃ今度な。今ちょっと仕事が忙しいから、暇になったらまた店に顔出すから」
「うん。待ってる」

そういって、ぎゅっと手を握るひなちゃん。
俺は一生懸命、冷静を装っていた。


佐川と日高を前に、模擬プレゼンを繰り返したおかげで、本番もそつなくこなせた、と思う。
常務を含めた重役たちの鋭い質問にも、日高の意地悪な模擬質疑応答のおかげで、なんとか対応できたし、佐川の提案で作った補則のプリントも好評だった。
やるべきことはすべて、やった。大きな失敗はないはずだ。

最後に一礼し、会議室を出る。
ドアを閉めたとたんに、その場にへたりこんでしまった。
どっと汗が出る。
ふと、目の前に手が差し出された。
見上げると、恵利瀬が笑っていた。
「おつかれ様」
「あ、ああ……」
恵利瀬の手を借りて、立ち上がる。
「上手くいった?」
「……大丈夫だと思う」
久々に見る笑顔の恵利瀬。
久々に触れる長くしなやかな指。

「佐川くんたち、屋上で待ってるよ」
「お、おお」
脱力感一杯の身体に鞭打って、恵利瀬と一緒に屋上へと向かう。

屋上は、基本的には立ち入り禁止だ。
しかし、それを律儀に守る社員はあまりいない。
俺も最近は喫煙室に行きづらいので、屋上で煙草を吸っていた。
非常階段を上り、屋上へ続くドアを開けると、春の日差しと暖かい風が吹き込んできた。

大きな、青い空の下、手すりに寄りかかって佐川と日高が缶ビールを飲んでいた。
「いいのか? 業務中だろ?」
そういいながら、日高の差し出した缶ビールを受け取り、栓を開ける。
ぷしゅっ、という、心地よい音が響いた。
「おつかれ」
佐川が缶を上げる。
「おつかれさん」
そういって勢いよく缶をぶつけると、日高も恵利瀬もそれに続いた。

「……よく頑張ったよな、俺たち」
しみじみと佐川が言う。オヤジ面がよりいっそうオヤジっぽく見える。
「がんばったよー。すげえがんばった!」
日高も笑顔を輝かせる。
恵利瀬は無言で笑っていた。

「みんな、ありがとうございましたっ!」
深々と頭を下げる。
心から感謝している。俺に仕事の楽しさを、仲間のありがたさを教えてくれて、ありがとう。
「礼をいうのはこっちだよ。いい経験させて貰ったぜ?」
「ほーんと、仕事の奥深さ知ることが出来たよん☆」
「人生のほろ苦さもね」
と、恵利瀬が付け加えた。

「瞳ちゃんね……。おどろいたなぁ、あんな強引なことする上司って本当にいるんだな」
なにもしらない佐川がしみじみ口調で言ったが、日高と俺は苦笑するしかなかった。

「発表は明日だっけ?」
「そう、朝礼で」
「そっか……。終わっちゃったね」
「また、集まってなんかやればいいさ」

「そうだな。また、みんなで楽しいことしようぜ」
そういって、俺は一気にビールを呷った。

長かったようで短い、俺たちのコンペ挑戦は、終わった。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.96 ) 
日時: 2007/06/26 15:50名前: バラバラ

これで一つの戦いが終わりましたね。
そのときの開放感はビールに象徴されるように最高のものだったのでしょうね。
さてさてひなちゃんとはかなり急接近のようす。
営業に乗せられないように必死に自分を保とうとする江口さんがまだ慣れていないのがよくわかります。
店外デートが無事行われるのか楽しみですねぇ。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.97 ) 
日時: 2007/06/26 19:14名前: さく丸


凄く美味しいビールだったでしょう

達成感を共有出来る仲間っていいですね

これからの展開も楽しみにしています。

 
 Re: むかしのはなし。 ( No.98 ) 
日時: 2007/06/27 13:58名前: TOPS

エロ少な目でもいいんじゃない?

「ちょいアダルトなハチクロ」みたいになってきたな。

同期の人たちを巻き込んでの群像劇に発展すると面白いんだけど・・・・

一人称視点じゃ無理か。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.99 ) 
日時: 2007/06/27 19:06名前: 名無しのゴンベエ

コンペの結果とふみちゃんと二つの楽しみが出てきました。
続きよろしくです。 
 Re: むかしのはなし。 ( No.100 ) 
日時: 2007/06/27 23:14名前: E_jan

次スレ、いきます。 
 



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