空には雲がポツリポツリとあるだけで、すがすがしいまでの秋の日の日曜日。私は川沿いの道を歩いて買い物に出かけた。やっと過ごしやすい季節になって、心まで落ち着いている気がする。 ふと、川で釣りをしている男を見つけた。その人はワイシャツの袖をめくって腕組をして、コックリコックリとうたた寝をしている。その時、私はなぜかいたずら心が起こって、大声で叫んでしまった。 「お客さん。引いているよ!」 私の声に飛び起きた男は、釣り竿を力まかせに、ぐいっと引いた。驚いたことに、針には大きな鯉が掛かっていたのだ。私は、あわててタモ網を取ると鯉をすくった。 「いやー、ありがとう。危うく大物を逃すところだったよ」 その男は、短髪に薄っすらと無精ひげを生やしていて、白い歯を見せて愉快そうに笑った。 私は、お礼を言われたことをこれ幸いに、おねだりをしてみた。 「その鯉、私も食べたいなー」 「あ、いいですよ。僕はどうせサバクことはできないし、どうぞ持って行ってください」 「それだったら、あなたのお家でお料理させていただいていいかしら?」 「えっ! 本当にいいんですか? あ、でも内は父と住んでいて、お袋はいませんけど?」 「もし、ご迷惑じゃなかったら」 「迷惑なんて、とんでもない。僕は、大歓迎ですよ」 「よかった。それじゃ、案内してください」 この男は、顔を真っ赤にして照れている。私は、気付かないふりをして彼に着いて行く。 舗装された小道をゆっくりと歩いて行くと、じきに落ち着きのある平屋が見えてきた。家の門から見える庭には、紫陽花の花がきれいに咲いており、よく手入れされているのが分かる。むさ苦しい所ですが、どうぞと玄関の戸を開くと、下駄が二揃え並べてある。上り口から床を見ると家の中はさっぱりと掃除されているようで、私は気持ちよく靴を脱いだ。 テレビを観ていた老人は、突然のお客に驚いたようで、必要以上に丁寧な挨拶してきた。私も深々と礼をして、台所へ立った。後ろで、老人が男に何か言っている。所々聞こえた内容は、「お前もついに結婚する気になったか」だった。私は、気をよくして料理をした。 鯉の料理は、三十分ほどででき上った。刺身、握り寿司、煮物、それとあら汁。腕によりを掛けて調理をした。男と老人は、美味しいおいしいと言って食べてくれた。 食事がすみ、私が後片付けをしていると、男が恐縮がって、僕がやるのにと言っている。私は、なんとか男をなだめて、後片付けを再開した。 一通り洗い物を終えると、包丁がなまっていたので砥石(といし)で研ぐ。私は、包丁の具合を見てほしいと言って、男の前にかざした。 「どう、これくらいでいいかしら?」 「はい、上出来です。わざわざ、こんな事まですみません」 男は、包丁の切っ先に指を当てて確かめている。 その瞬間、私は包丁を男の胸に突き刺した。指も一緒に落としてしまった。 「なぜ?」 と疑問を投げ掛けながら男は絶命した。 私は、その光景を見て泡を吹いた老人に笑いかけながら近付くと、包丁を老人の胸に突き刺した。 私は、あらためて頂きますと言った。 まず、ハンマーで頭蓋骨に穴を開けて、男の脳味噌をすすった。 次に、包丁でお腹を引き裂いて、男の内臓を食べた。やはり、心臓が一番美味しい。 それ以上は、お腹がいっぱいになって食べられなかった。鯉を食べたのは失敗だったか。 私は、男の残りと老人を手際よくさばくと、冷蔵庫の中を空っぽにしてそれらを詰めた。そして、床を丁寧に水拭きすると、鍵を掛けて男の家を後にした。 私は「やっぱり食欲の秋よね」とつぶやいて、川沿いの道を歩いて帰った。 出典:ー リンク:ー |
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