うたがい1 (その他) 9598回

2019/05/08 23:51┃登録者:えっちな名無しさん◆v9xSRo9k┃作者:名無しの作者
お盆が近いせいか、社員もまばらなオフィスはどこか空気がゆるんでいる。 
窓の外には変わらぬ鈍色の街並み。 
オフィスの向こう側では後輩OLが小声で私語を交わしていて(たぶん休暇の話だ)、 
暇そうな課長も不機嫌そうにそちらばかり睨んでいる。 
両隣の同僚は休暇中で、PCのモニタと書類の束がうまく私の姿を隠している。 
誰も、私を見ていない。 
「ンッ‥‥」 
(あ、ダメ、声が出ちゃ‥‥) 
ゾクンと四肢を犯しぬく被虐の波に鼓動が止まりかけ、私は大きく息を喘がせた。 
どっと冷や汗が流れ、息を殺して肩でオフィスの様子をうかがう。 
大丈夫。 
まだ誰も、倒錯した私の遊戯に気づいていない。 
ランダムな振動で淫らに私を責めたてるのは、浅ましく男を模したバイブレーターだ。 
会社の制服の下、かすかに波打つスカートの奥にみっちり埋め込まれたソレは、細い 
革紐でお股に縛りつけられ、どんなに腰をよじっても抜けないようにされているのだ。 
肉の合わせ目から、愛液がにじみでる。 
ヒクヒク咀嚼するクレヴァスのうるおいは、下着をはいていない今の私にとって致命 
的だ。このままではあっというまにエッチなオツユがストッキングに浸透し、制服の 
スカートに惨めなしみを作ることになる。 
後ろ手に組んだ両手が痙攣している。 
根元のスイッチを止めるだけなのに、自分の胎内に埋まったソレに触れられない焦り。 
分かっている。どうにかしてこの姿から逃れないと。 
なのに。 
「ん、フッッ」 
カチンと、聞きなれた残酷な施錠の音が、手首からじかに体の芯にまで響いてくる。 
‥‥これで、本当に私は拘束されたわけだ。 
「完成。もう逃げられないね、私」 
そ知らぬ顔で書類に目を落とすふりをしつつ自分に呟き、私はゆっくりつっぷした。 
いまや、キーボード上に置かれた小さなキーリングに私の命が委ねられているのだ。 
(本当にやっちゃった‥‥私、仕事中にいけないことしてる‥‥) 
うるんだ瞳で見下ろす私の、後ろ手の手首に‥‥ 
清楚な半そでの制服には似あわない無骨な革手錠がしっかり食い込んでいるのだ。 
バックル部分に鍵までついたソレは、見ただけでマニアックな道具だとわかる淫靡な 
光沢を放っている。 
革と金属で織り成された、非力な女の力では絶望的な拘束具。 
どうにかして机の上のキーリングで南京錠を外さない限り、私はバイブの責めからも 
自縛したいやらしい姿からも二度と抜け出せないだろう。 
「‥‥」 
ひくりと不自由な手首が背中でくねる。 
後戻りできなくなるこの一瞬、いつも突き上げる快楽でカラダがわれを見失っていく。 
スリルと裏腹の快感をむさぼる、刹那的な快楽。 
破廉恥な自縛を、仕事場に持ちこむ極限のスリルのすさまじさときたら‥‥ 
チラリ、チラリと肩越しに視線を落とすたび、とろけるような被虐の波が制服の下を 
走りぬけ、子宮の底からカラダがキュウッと絞り上げられるのだ。 
もし、カギを床に落としてしまったら。 
もし、後ろ手錠から逃れる前に上司や同僚にこの姿を見られたら。 
ほんの些細な行き違いで、すべては破滅につながるのだ。 
自分で自分を追いつめていく恐怖が、ゾクゾクッとたまらない陶酔に変わっていく。 
ひとしきりジクジクッとアソコが異物を食い締め、ショックめいた刺激が背筋を這い 
上がった。 
気持ちイイ‥‥こんな惨めなのに、追い込まれているのに。 
職場で拘束されちゃってるのに‥‥バイブで、とろけさせられちゃってるのに‥‥ 
「あ、そ〜なんだ。それでその日に」 
「ちょうどツアーの申し込みに間に合ったんです。だからね‥‥」 
はっと気づいた時、後輩たちのささやきはまだ続いていた。 
一瞬、あまりの昂ぶりで意識が飛んでいたらしい。その事実に血の気が引いた。 
急がないといけないのに、私、なんて危ういんだろう‥‥ 
ドクンドクンと早鐘のように心臓が跳ねまわり、下腹部だけがみっしりバイブを噛み 
しめて濡れそぼっている。 
肩を揺すり、私は薄れかけている理性を呼びもどした。 
後ろ手に、足首に、股間に食い入る縛めをたしかめなければいけない。 
「ん‥‥ンクッ」 
不自由なカラダをキシキシ小さくくねらせ、私自身の施した大胆な拘束に酔いしれて 
吐息をもらす。後ろ手の手錠同士をつなぐ鎖は椅子の背もたれに絡みつき、両足首も 
キャスターの調節金具に固く縛りつけられて座面の裏から吊られたまま。 
キャスター椅子と一体化した四肢は、もはや立ちあがる自由さえ奪われているのだ。 
(まず、キーリングを‥‥) 
上体を屈め、首を伸ばした私は唇をひらいてキーボードに口づける。 
キーリングを歯で咥え、それを膝に落とす。その後、不自由な背中の両手をひねって 
どうにかカギを手に取り、そのカギで南京錠を外す。それから革手錠をほどき、最後 
に両足をほどいて、スカートがオツユまみれになる前に化粧室にかけこむ。 
‥‥はっきり言って、かなり絶望的だ。 
「ダメ」 
小さく、ほんとにちいさく自分を叱咤する。 
危うければ危ういほど、スリルを感じるほど、私のカラダは濡れてしまう。そうなっ 
たらもう、自分をコントロールできないのだ。 
いろづく喘ぎをひた隠し、前歯でキーリングを咥えたままそっとあごを引き戻す。 
慎重に膝の上に落とさないといけない。弾んだキーリングが床に落ちたら、私は拘束 
から抜けだす手段を失うのだから。腰を丸め、カギを咥えたまま顔を下げていく‥‥ 
「‥‥‥‥!」 
と。不意に、圧力めいたものを感じてカラダが反応した。 
まさか。 
そんなはずはない、気づかれるはずがない。最初から、周到に時期を練っていたのに。 
今日だって、目立たないように振舞っているのに。 
なのに。 
おそるおそる、顔を上げる。 
‥‥自分のデスクから、かっと目を開いた課長が食い入るような凝視を向けていた。


横たわっていたカラダがガクンと弾む。 
全力疾走の直後のように、呼吸も、鼓動も妖しく乱れきっていた。 
バレてしまった‥‥全身が冷たく汗ばみ、パールホワイトの壁を睨みつづけている。 
やがて、徐々に、私の意識が現実の輪郭を取りもどしてきた。 
「課長‥‥私、天井‥‥ユメ‥‥?」 
そう‥‥ 
ユメだった‥‥リアルすぎる、あんなの‥‥ 
悪夢だったと気づいても、なお全身の震えがとまらない。火照るカラダのあの疼きは、 
まぎれもない、かっての私自身の経験の再現なのだから。 
死ぬほどおののいた今のアレが、私の夢‥‥ 
「一人えっちの‥‥やりすぎのせい?」 
広々した天井に問いかけてみる。答えなど当然ない。 
静かなベットルームに、時計の針に交じって雨音が響いてきた。ザァァっと激しい音。 
どうも、これに浅い眠りを破られたらしい。 
ていうか、夢の中でまで、セルフボンテージしてよがってるなんて。私‥‥私って。 
さりげなくネグリジェの中に手を差し入れ、そうして、やはり赤面してしまう。 
反応していた私のカラダ。 
無意識にもやもやが溜まっていたのかもしれないけど、それにしたって。 
「‥‥あは」 
誰に見せるでもなく、照れ笑い。 
いい年した女が、少女のような夢を見るなんて‥‥はっきり言って恥ずかしい。 
大きく寝返りをうって窓の方に向きなおると、横たわるカラダを包んだタオルケット 
めがけ、にゃーと声を上げてテトラが飛び乗ってきた。ペットの子猫の瞳には、動揺 
する主人の顔がどんな風に映っているのか。 
「よしよし、おはよ」 
「ニャー」 
無邪気な子猫の顔に苦笑は深まるばかり。そして、夢と同じく空は鈍色に濁っている。 
‥‥私の夏休みは、嵐からはじまった。

               ‥‥‥‥‥‥‥‥               

「ありえないよね、会社でSMなんて」 
とりあえず点けたリビングのTVは、主婦向けのバラエティを流している。 
お気に入りの場所らしい私の膝にじゃれかかるテトラに話しかけつつ、私はぼんやり 
夢の余韻を味わっていた。慣れた小道具を手の中で転がし、もてあそぶ。 
あれを‥‥あの異常な体験の意味を、私は理解している。 
自分で自分を拘束し、マゾの悦びと脱出できないかもしれぬ絶望感に酔いしれる行為。 
それはSMプレイの1ジャンル、いわゆるセルフボンテージだ。 
一月前、アパートの前の住人、佐藤志乃さんに届いた小包が、すべての始まりだった。 
私、佐藤早紀と同じ苗字‥‥小包の中からでてきた奇妙な革の衣装‥‥送られてきた 
志乃さん本人の自縛シーンを映したビデオ。偶然が重なってセルフボンテージという 
特殊な性癖に私は興味をもち、いつかそのしびれるような快楽に溺れてしまったのだ。 
ネットを通してか、誰かに調教されていたらしい佐藤志乃さん。 
あまりに耽美な姿は今も私を虜にしている。 
自分自身に不自由な拘束を施し、人目にふれるリスクを犯す、そのたまらないスリル。 
被虐的な陶酔に呆けつつ、必死に縄抜けの手段を試みるいじましさ。 
誰に何をされても抵抗できない無力感。 
そして、普通のセックスやオナニーではとうてい到達しえない、深すぎるマゾの愉悦。 
けれど‥‥ 
セルフボンテージに嵌まる一方で、悩みもまた深まりつつあった。 
「彼氏‥‥できないよね。こんな変なクセ、カラダにつけちゃったら満足できなそう」 
「ミ?」 
首をかしげる私につられてテトラも顔を傾ける。 
会社のOL仲間はむろん、友人にも、周囲の人間にも、私は自分の性癖をひた隠して 
いる。拘束されないと、縛めに酔わないと、感じることもできないカラダ。のぞんで 
自分を作り変えたとは言え、やはり彼氏を作りにくいのもたしかなのだ。 
「やっぱSM系の出会いとか、か‥‥でも、あれは怖いよね」 
そうなのだ。 
セルフボンテージにのめりこむうち、本当のご主人さまが欲しくなって奴隷になって 
しまうなんて話はわりにSMの出会い系サイトでも目にする。 
けど、たぶんそれは私の心の望みじゃない。 
たとえば好きな人ができて私と一緒にいてくれた時、その彼氏がご主人様の顔をして 
私を虐めてきたりしたら、 
ちょっと目を閉じて、想像してみる‥‥けれど。 
「うわ」 
‥‥うん、ダメだ。なんかくつろげない。嫌な感じ。自分が自分じゃない気がする。 
私にとっての自縛は、自分を安売りするものじゃない‥‥なんて言ったら、SM好き 
な人間は怒るだろうか。私の中にはSもMも均等に存在しているのだ。自分を虐め、 
溺れながらも見失わない。その危ういコントロールがまさに私をとらえて離さないの 
だから。 
それに、もし誰かに調教されるのなら、私がSMに嵌まるきっかけを作った志乃さん 
のご主人さま以外は嫌だ。こっちの方が気持ちの大きな比重を占めてるかもしれない。 
ふぅ。 
朝から何を考えているんだろう、私は。 
夢の余韻がじんじんとカラダに広がって、理性を取り戻すどころか、だんだん‥‥ 
「やだ‥‥なんか、したくなってきちゃった‥‥」 
ボソボソと一人言。 
休暇の初日から一人エッチをして過ごすなんて不健康な気がする。すごく、するけど。 
ためらいがちな瞳を向けるその先には、拘束具や手錠、ボールギャグを収めた私専用 
の調教道具入れがあり、私のカラダを欲している。幻想じみた、甘い誘惑。 
さっきから手の中でもてあそぶソレに目を落とす。 
使い込まれ、私の手首の味を覚えこんだ革手錠の光沢が、主を魅了していた。

いつものように、いつもの準備。 
何度となく慣れているはずの行為なのに、心は逸り、体温がとくとくと上昇していく。 
私自身のための縛めを一つ一つ用意していく、その過程自体が被虐的なのだ。 
革の光沢と、金属のきらめき。 
革手錠といっても警官の手錠とは形からして違う。中世の奴隷が手首にはめるような 
頑丈な革の腕輪が短い鎖で繋がり、ベルトのバックル部分には勝手にはずせないよう 
南京錠が取りつけられる。 
悶える奴隷の汗を吸う革手錠は、小さいながらも無慈悲で、強固な牢獄なのだ。 
「んぁ‥‥もう、こんなに」 
ノーブラのブラウスの上からでも分かるほど、乳首がツンと勃ってきている。 
今の私はだぶだぶのブラウスをハダカの上に引っかけただけ、まさに1人暮し仕様だ。 
ルーズなこの格好は前の彼氏のお気に入りなんだけど、思いだすとブルーになるので 
頭の隅に記憶を追いはらう。 
どのみち、すぐに服なんか着れなくなっちゃうんだから‥‥ 
ゾク、ゾクッと走るおののき。 
弱めにしたクーラーが、緊縛の予感にほてりだす肌をすうすうなでる。 
服を脱ぎ捨てて裸身をさらけだし、全身にまとう拘束着を広げながらこっそり指先で 
まさぐってみると、秘めやかなとばりはすでにじっとり潤いだしていた。 
ベルベットのように柔らかく、危うい自縛の予感。 
肌を食い締めるだろう窮屈な感触を思いだすだけで、どこもかしこも充血していく。 
今日は‥‥どうやって、自分を虐めようか。 
迷って、普段使うことのない麻縄の束を手にしてみた。ろうそくやムチと並んで縄を 
使った緊縛はSMの代名詞の一つだろう。女性の肌を噛みしめる後ろ手の美しい緊縛 
はMッ気のある子なら誰でも憧れるけど、一人きりのセルフボンテージで後ろ手縛り 
はほとんどムリに近い。 
それでも、縄が肌を締めあげていく淫靡さや独特の軋みは、たしかに心を震わせる。 
「‥‥」 
久々の縄の手ざわりに息をのみ、フローリングの床にペタンと座った。大きくお股を 
開いて足首を水平に重ね合わせ、手際よく縛り上げていく。いわゆるあぐら縛りだ。 
曲げた左右の膝の上下にも縄をかけ、太ももとふくらはぎが密着する体勢をとった。 
思いきり裂かれたお股が、ひとしれぬ惨めさにぷっくり充血していく。 
もちろん、期待にうるむクレヴァスへの責めも忘れない。 
さっきの夢にも出てきた、革の固定ベルトを腰にまわした。垂直にたれるY字の細い 
革紐を、お尻の方から下にまわしていく。谷間にもぐりきったところで一度手を休め、 
小さな逆三角形のプラグを取りだした。 
丁寧に口でしゃぶり、塗らしてからお尻の穴にあてがう。 
「ん‥‥っッ」 
つぷん。 
お尻いじめ専用のアナルプラグが、きゅうくつな括約筋を広げつつ胎内に入ってくる。 
マゾの女の子は、アヌスでも感じることがある‥‥ネットで仕入れた生半可な知識を 
元に始めたお尻虐めの儀式は、いまや私をやみつきにさせていた。 
ノーマルじゃない刺激とタブーが、入れてはいけない場所、感じるはずのない汚れた 
場所に異物を挿入する背徳感が、たまらないのだ。 
にるにると、意志に関係なく菊花が拡張されていく異物感。プラグが抜けないように 
ベルトで押しこみ、お股をくぐらせていく。カラダの前でY字の部分を広げ、女の子 
のとばりを左右にかきわけて革紐を食い込ませた。にちゃりと粘つく肉ヒダを奥まで 
さらけだされ、恥ずかしさがカァッと肌を火照らせる。 
「んあっ、ァァ‥‥」 
顔を赤くしながら、私は充血した土手に埋もれる革紐をきゅうっと引っぱりあげた。 
つっかかっていたお尻のプラグが根元までスポンと嵌まりこみ、くびれた部分を括約 
筋が深々と咥えこむ。そのまま腰のベルトを固定してしまうのだ。 
しだいに昂ぶる快感にせかされ、私は上半身にもどかしく革の拘束具を着ていった。 
乳房の上下をくびり、腕とカラダを一体化させる残酷な上衣。 
本来、佐藤志乃さんが着るはずだった縛めが私のカラダを這いまわる。わりと自信の 
あるオッパイが革紐のせいでたぷんと大きく弾み、チリチリしたむず痒さが、拘束着 
の食いこんだ肌をビンカンな奴隷のそれに作り変えていく。 
最後にバイブのスイッチを入れてから濡れそぼった肉のはざまに深々と呑みこませ、 
首輪から吊りさげた手錠に後ろ手を押しこんでいく。たどたどしく手錠の革ベルトを 
絞りあげ、手首が抜けなくなったのをたしかめて、震える指先でバックルに南京錠を 
嵌めこんだ。 
カチンと澄んだ音色が、私の心をすみずみまで深く揺り動かす。 
「ん、ンフゥゥッ」 
完成‥‥ 
かってないほどハードで、ただの呼吸さえつらい自縛が私の自由を奪ってしまった。 
これでもう、私は戻れない。逃げられない‥‥ 
自力で抜けだすしかないんだ‥‥ 
とっくにリング状の革の猿轡をかまされて声を失った唇が、甘い睦言をつむぎだす。 
後ろ手緊縛の完璧さを感じたくて、私はギシギシと裸身を揺すりたてた。 
「ンッ、くぅっン!」 
とたんにミシリと裸身がひきつれ、革ベルトの痛みで全身が悲鳴をあげる。 
ウソ‥‥どうして、予想より全然ヒドい、激しすぎる‥‥ 
首を突きだしたまま、私は焦りにかられて思わぬ呻きをあげていた。 
あぐら縛りの縄尻が首輪の正面リングに短く結ばれ、もはや私は不自由な前かがみの 
拘束された姿勢のまま、床を這いずることさえ不可能になってしまったのだ。 
ぞくに海老縛りと呼ばれる、残酷な拷問用の緊縛。 
その緊縛を自分自身に施してしまった今、下半身も両手も達磨のように軋むばかりで 
なに一つ自由にならないのだ。この自縛姿から逃れるためには南京錠のカギを外し、 
なんとしても後ろ手の手錠をほどかねばならない。 
それが、唯一の望みなのに‥‥ 
今の私に、本当にソレができるのか‥‥ 
快感に理性が狂って、無謀なセルフボンテージに挑戦してしまったのはないのか‥‥ 
「にゃ、ニャニャ?」 
いつになく興奮して室内をうろつきまわるテトラを見つめ、私はうっとり絶望感に酔 
っていた。彼女の首輪から下がった小さなカギ。あれを取り戻さない限り、私が解放 
されることはないのだ。 
後ろ手のこのカラダで、一体どうすれば子猫の首から鍵を取リ戻せるというのだろう。 
ブブブブ‥‥ 
必死に脱出プランを練る私をあざ笑って、バイブの振動はオツユをしたたらせるクレ 
ヴァスをぐりぐりかき回し、残酷にも私から思考能力さえ奪いさろうとする。 
あぁ‥‥ 
思いつきかけたアイデアがふつんと甘くとぎれ、私は淫らな吐息に溺れきっていた。 
かって一度もしたことのない、ギリギリの危ういセルフボンテージ。 
もはや、このステージから降りる道はない。

             ‥‥‥‥‥‥‥‥

静かに室内に響くのは、深く胎内をえぐりまわすサディスティックなローターの振動。 
ふぅ、ふぅぅっと荒い呼吸が、リングギャグの輪の中からあふれでる。 
「ンッ、んぐぅ」 
すでに、自縛を完成させてから50分近くが経過していた。 
いつもならとっくに甘い快楽をむさぼりつくし、おだやかな余韻にひたりながら手錠 
の痕をさすっているぐらいの時間‥‥ 
緊縛されきった私の肢体は、座りこんだ場所からほんの1ミリも移動していなかった。 
縛めを皮膚に食いこませたまま、自分の無力さにさいなまれたまま灼けつく焦燥感に 
身を焦がすだけの、絶望しきった奴隷の終わり。 
なのに容赦なくトロけきったマゾのカラダだけは、意志と無関係に昇りつめていく。 
焦りが、おののきが深くなればなるほど、スリルは快楽の深みを増し、毛穴さえ開い 
た裸身のすみずみまで、くまなく刺激を伝達していくのだ。 
「ぐッ‥‥!」 
口の奥まで咥えこんだ鉄のリングにぎりぎり歯を立てる。 
何度となくわき上がる淫らなアクメを噛みしめ、共鳴しあう2本のバイブがもたらす 
疼痛の激しさにだらだら涎をこぼしつつ、私は必死に汗をほとばしらせてイキそうな 
カラダを押さえつけていた。 
ダメ‥‥ココでイッたら、また頭がおかしくなる‥‥その前に‥‥ 
早くテトラから鍵を取り返さないと‥‥ 
「くぅ‥‥ン、ンンンっっ」 
しかし。 
やけになってギシ、ギシッと悶えても念入りに締めつけたベルトがゆるむわけもなく、 
拘束具が軋み、あぐら縛りの縄とともに重奏を響かせるばかりだ。 
縛り上げられた全身を、キリキリ苦痛めいた拘束の衝撃が走りぬけていく。どんなに 
深くても、のけぞるような快感の波でも、私は海老縛りの苦しい格好ですべてを飲み 
つくすしかない。 
自分でコントロールできない、ムリヤリな刺激の狂おしさ。 
べったりとフローリングの床にお尻を押しつけているせいで、いやでも括約筋の根元 
までプラグが食い込み、前のクレヴァスに埋まったバイブと一緒に直腸を擦りあげて 
しまうのだ。おぞましい器具をくわえ込んだ下半身の粘膜は、しずくをあふれさせて 
ヒクヒク咀嚼を始めていく。 
カーテンを開け放った窓からは、嵐の昏い街並み。 
アパートの9階だけあって、周囲から私の部屋を覗けるビルはないだろう。それでも、 
恥ずかしい自分を窓の外にさらけ出しているというスリルが、とめどなく熱いオツユ 
をクレヴァスからあふれさせるのだ。 
「んっ、んん〜〜〜〜」 
ダメ、イク‥‥また、またいクッッ‥‥ 
高々と被虐の快楽に載せあげられ、目を見張ったまま、私は部屋の隅を凝視していた。 
服のチェックに使う鏡に、今はそそけだつほど悩ましい、たゆんたゆんとオッパイを 
揺らして、うるんだ瞳でSOSを訴えかける女性が映っている。どう見ても抜けだす 
望みのない、完璧な拘束姿。腰をひねるたび、血の気を失いつつある後ろ手の手首が 
視野に映りこみ、痛々しさをより深めている。 
そして何より感じきっている証拠。 
お股の下の床に、お漏らしのように広がる、透明な液体の池‥‥ 
ぶわっとトリハダが全身を貫いた。 
これが‥‥AV女優みたいなSM狂いでよがるこの格好が、私の本当の姿なんて‥‥ 
ウソ、違うのに。ほんの少し、エッチな気晴らしが欲しかっただけなのに‥‥ 
「ぐ‥‥うぅ、うんっッンンッッ!!」 
しまった‥‥思ったときにはもう遅かった。 
エッチな姿を再確認したことで、理性でねじ伏せていた被虐の炎がむらむらと大きく 
燃え上がったのだ。惨めで、エッチで、助かりそうもない私。恥ずかしい姿で、この 
まま最後の最後までイキまくるしかないなんて‥‥ 
ゾクン、と律動が、子宮の底が、大きくざわめく。 
ぞわぞわバイブに絡みつき、その太さを、激しい振動を、寂しさをまぎらわす挿入感 
を堪能していた肉ヒダがいっせいに蠢きだし、奥へ奥へと引き込むようにバイブへと 
むしゃぶりついていくる。 
足の指が引き攣れそうな、とめどない衝撃と、めくるめくエクスタシーの大波‥‥ 
お尻が、クレヴァスが、シンクロした刺激のすべてが雪崩を打って全身を舐めつくす。 
トプトプッと革紐のすきまからにじみ出るオツユの生暖かささえ気持ちが良くて。 
びっしょり汗にまみれて魚のヒレのように一体化した上半身の縛めが、後ろ手に固く 
食いこんでくる革手錠の吸いつきさえもがたまらなくよくて。 
「ふごぉぉ!」 
怒涛のような昂ぶりに押し流され、メチャクチャになった意識の中で泣きわめく。 
もうイイ。もう刺激はいらない。イキたくないのに。 
良すぎて、視界が真っ白で、もう充分だよ‥‥腰が抜けるほどイッたんだから‥‥ 
イヤァ‥‥許してェ‥‥ 
壊れちゃうよ、こんなの、知らなかった‥‥ 
よがってもよがっても、何度高みに達しても、すぐにその上をいく快楽の大波にさら 
われていく恐ろしさ。尖りきった乳首から母乳でも噴きだしそうなほど、オッパイが 
コリコリにしこりきって、その胸をぷるぷる震わすのが最高の快感で‥‥ 
あまりの拷問に、瞳からじわりと苦しみの涙が流れだす。 
背中を丸め、何も出来ないままブルブルとゼリーのように拘束された裸身を痙攣させ 
つづけて‥‥エクスタシーの、絶頂の頂点に上りつめた私は、さらに深い奈落の底へ 
転がり落ちていく。

               ‥‥‥‥‥‥‥‥

ゆっくりと、失っていた意識が浮上してくる。 
カラダがほてって熱い。それになんだろう。疲労がぎしぎし溜まっていて‥‥ 
「‥‥!」 
そこでようやく、頭が元に戻った。 
変化のない室内。乳房の先が太ももに触れるほど折りたたまれた海老縛りのカラダ。 
私は、私自身の流しつくした汗とオツユ溜りのなか、固く後ろ手錠に縛められた姿勢 
そのままで座りこんでいた。 
と同時に、ヴィィィィンと鈍く痛烈な衝撃が咥えこんだクレヴァスから広がってくる。 
前と後ろから胎内を掻きまわすバイブが、再び快感を送り込んでくるのだ。 
あの、めくるめくエクスタシーのすばらしさときたら。 
このままイキまくって、二度と拘束姿から抜けだせぬまま衰弱死してしまってもイイ 
‥‥そんな呆けた思考さえ浮かぶほどの、甘美で残酷なマゾの愉悦。 
どうしよう‥‥どうしよう、本当に拘束具がほどけない‥‥ 
このままじゃ、衰弱して私倒れちゃう‥‥ 
急速につきあげた焦りをぐいとねじ伏せ、時計に目をやる。気絶したのは5分足らず。 
単調なTVの音声だけが、室内を支配している。 
テトラはどこにいるの? 
とっさにそれを思った。彼女の首輪につけた南京錠のカギ、あれがなくなったら私は 
終わりなのだ。外に行ってしまわないように、窓などの戸じまりは念入りにしてある。 
どこか他の部屋にいるはずの、あの子を見つけ出さないと。 
「ンッ」 
ぐいっと足に力を込め、膝をいざらせる。 
なにも起きなかった。 
背中を丸めたまま仏像のように固まったカラダは、濡れたフローリングの床でかすか 
に揺れただけだ。やはり、どうカラダをよじらせても、移動などできるはずもない。 
顔からつっぷして這いずるのは、ケガをしそうな恐怖があった。 
背中高く吊りあげてしまった後ろ手錠も、自由な指が動かぬほどしびれきり、見込み 
の甘さを無慈悲なカタチで突きつけてくるのだ。 
やはりムリなのか、テトラが戻ってくるのを待つしか‥‥ 
「‥‥ッッ!」 
こみあげた甘い悦びがふたたびカラダの芯に火をつけ、私は舌をならして喘いでいた。 
もうダメだ、もう一度あれを味わって理性をとりもどす自信は、私にはない。 
けれど次の瞬間、アイデアが頭をよぎっていた。 
「‥‥ッッ」 
舌を鳴らし、喉声をあげてみる。テトラを呼びよせる時、私はよく舌を鳴らしていた。 
運悪く子猫が眠ったりしていなければ、きっと。 
「ニャー」 
「ん、んんーーッ」 
ふにゃっとした顔でベットルームの方から這い出てきたテトラに、私は踊りあがった。 
子猫の首にはカギが下がっている。そう。そのまま私の方に来て、その鍵を早く‥‥

ピンポーン

大きく鳴りひびくドアチャイムの音が、一人と一匹をすくませた。 
「佐藤さーん、お届けものでーす」 
ある事実に気づき、猿轡の下でさぁっと顔があおざめる。 
致命的なミス。 
スリルを増すため、私はわざと、玄関のカギをかけていなかったのだ。

凍りついたまま、息もせずに様子をうかがう。 
ドアが開いていると気づけば、宅配業者は入ってくるかもしれない。玄関からは扉を 
一枚はさんだだけ、首を伸ばせばリビングの私は丸見えなのだ。 
チャイムが興味をひいたのか、近寄ってきていたテトラの足も止まっていた。 
かりに宅配業者が部屋に入ってこなくても、開けたドアからテトラが外に出て行って 
しまったら‥‥ 
ギシギシッと食い込む縄の痛みが、革の音が、気づかせてしまうのではと恐ろしい。 
冷や汗が、前髪の貼りついた額を濡らす。 
「‥‥ッッ」 
息をひそめてテトラに舌打ちで呼びかけながら、私は焦りとうらはらのマゾの愉悦に 
犯され、気も狂わんばかりにアクメをむさぼりつづけていた。踏み込まれたらなにを 
されてもおかしくない。フェラチオ用の猿轡を嵌められて発情しきった緊縛奴隷を前 
に、彼は私になにをするのだろう。 
どれほど犯され、嬲られようとも、私は這って逃げることさえ叶わぬカラダなのだ。 
テトラが私の鼻先で首をかしげた時、ドアノブの回る音がした。 
ウソ、駄目、ドアが開けられちゃう‥‥ホントに、すべて終わっちゃう‥‥ 
「‥‥‥‥ッッ」 
ガチャリと言う音に息をのみ、目をつぶる。 
だが、聞こえてきたのは業者の驚きの声ではなく、すぐ隣に住む好青年の水谷君の声 
だった。 
「なんです‥‥は? ドアが? 佐藤さんの。はぁ」 
「‥‥」 
「あぁ、佐藤さんはさっき出かけましたよ。近所のコンビニかなにかだと思いますが」 
「‥‥」 
「いや、開いてるからってドア開けちゃうのはマズいなぁ‥‥おたく、どこの宅配屋 
さんですか?」 
苛立っているような業者と会話を交わしていたが、やがて代わりに荷物を受け取って 
おくことになったらしい。荷物を受け渡す音がきこえ、そして玄関は静かになった。 
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥」 
信じられないほど呼吸が乱れきっている。 
ぽとぽとと、熱くたぎったオツユが太ももを伝っていく感触。ビクビクンとさざなみ 
のように震えの波がくりかえし押し寄せてくる裸身。 
私、2人の会話を聞きながら、何回もイッチャってた‥‥‥‥ 
ぞくん、ぞくんと、拘束具に食い締められた裸身がおののきをくりかえす。折りたた 
まれた両足も、何重にも縄掛けされた足首さえも、痙攣がおさまらないのだ。 
革手錠を嵌められ、高々と吊り上げられた無力な後ろ手がのたうち、カチャカチャと 
冷たい音を奏でて背中で弾んでいる。 
見られるかも‥‥犯されるかも、本当にそう思って‥‥ 
怖くて、絶望に溺れるのが、最高に気持ちイイなんて‥‥まだカラダが狂ってる‥‥ 
うあぁ‥‥来るッ、またお尻が変になるぅ‥‥ 
かろうじて、ほんの首の皮一枚の危うい局面で水谷君の誤解が私を救ってくれたのだ。 
「みゃ?」 
うっとり陶酔し、バクバク弾む動悸をかかえて浅ましく裸身をよがり狂わせる私の姿 
がどう見えたのか、テトラは楽しそうに私のおっぱいにしがみついてきた。 
ツプンと食い込む、肉球の下の小さなツメ。 
残されていた最後の理性が薄れ、痛みがめくるめく快楽をよびさます。 
絶息じみた喘ぎ声を残して、私ははしたなく、深く、長く、アクメをむさぼっていた。


このとき、私の胸に一つのうたがいが浮かんできたのだ。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥
(2へ続く)


出典:萌えた体験談DB
リンク:http://www.moedb.net/articles/1245122270
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