うたがい2 (その他) 1812回

2019/05/08 23:57┃登録者:えっちな名無しさん◆v9xSRo9k┃作者:名無しの作者
907号室に住んでいる大学生、水谷碌郎(みずたに ろくろう)。 
隣人である彼は、朝のゴミ出しや帰宅途中によく一緒になる、すがすがしい年下の好 
青年で、ゴミ出しにうるさい階下の吉野さんなどに比べたらはるかによき住人だ。 
しかし‥‥思い返すと、気になることはいくつかあった。 
たとえば、いまでも私は自縛しての危うい夜歩き、露出プレイを行っている。 
志乃さんのプレイほどではないけど、リスクを犯せば犯すほどマゾの官能は燃え盛り、 
全身がアクメにとりつかれたかのように打ち震えるのだ。人に見られ、脅され、犯さ 
れたら‥‥残酷なファンタジーが私をドロドロに焦がしていく。 
だからこそ、私は他人の生活パターンに敏感になっている。なのに、たいていの住人 
の生活パターンが見えてきた今でも、彼だけはまるで分からないのだ。 
初めての自縛も、きっかけは彼だった。冗談半分で後ろ手錠を試したときに訪問され、 
冷や汗をかいて応対するなかで自縛のスリル・快感を思い知らされた記憶がある。 
身近なようでいて、どこか水谷君は謎めいているのだ。 
ついさっきの出来事はどうだろう。 
私は朝からずっと家だったのに、『コンビニでは』と断言した水谷君が宅配業者を引 
き止めてくれた。そのためだけに廊下に顔を出した彼が、かろうじて私を救ったのだ。 
‥‥そんな都合のイイ話があるだろうか? 
論理的じゃないし、私の発想は飛躍しすぎかもしれない。しかし。 
まるで、水谷君の行動は「奴隷」を守る「ご主人さま」のように思えないだろうか? 
(バカみたい。考えすぎよ) 
疲れた頭で思う。思うのだけど、けれど‥‥ 
こうして、水谷君から渡された小包の、その中身が私の動悸を激しく煽りたてるのだ。 
『佐藤さん、夏休みなんですね』 
小包をわたしながら、にこやかに彼は微笑んでいた。 
『今年は冷夏ですし、あまり海とか遊びに行く気分なんないすよね』 
ええと答えると彼ははにかみ、雰囲気の良いバーが最近駅前にできたので、誘っても 
いいかと声をかけてきたのだ。その姿は少し大胆になった自分にまごつく青年という 
水谷君のイメージそのままだったのだけれども。 
(分からない、私には) 
以前にもこんなことがあったはずだ。きわどい自縛の直後に水谷君が小包を持ってき 
て、そそのかすような背徳的な中身に釘づけになった記憶が。 
どうして、こうもタイミングが良すぎるのか? 
セルフボンテージにはまっていた前の住人、佐藤志乃さんあてに届く淫靡な小包。 
「‥‥ケモノの、拘束具」 
口にしただけでゾクゾクッと惨めったらしい快楽の予感が背筋を這いあがってきた。 
膝で丸まるテトラに目をやって身震いし、逸る胸をおさえて指をのばす。

猫耳をあしらうカチューシャと一体形成になったボールギャグ。 
犠牲者を四つんばいに拘束する残酷な手足の枷。 
ローター入りのアナルプラグをかねた尻尾が、私を誘うかのように光沢を放つ。

中身は、奴隷を4つんばいの獣に縛り上げるための、マニアックな拘束具だったのだ。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥

コツ、コツと足音が近づいてくる。 
自縛から抜けだす手段を失い、私は四つんばいのまま、震える裸身を縮こめていた。 
逃げ場もない。拘束から逃れる手段もない。なすすべもなく震えているだけ‥‥ 
階段を上がりきった足音が、エレベーターホールに入ってきた。 
見られた‥‥ 
すべて終わりだ‥‥私、もう‥‥ 
悲鳴をあげることも出来ず、バイブの律動に身を捩じらせて耐えるだけの私。 
つぅんと、甘やかな後悔が背筋を突き抜けていく。 
静かに私の正面にやってきたその人影は、しかし驚きの色もなく声をかけてきた。 
「‥‥‥」 
その声。柔らかい声。 
はじめてなのに聞き覚えがある、どこか懐かしい、待ちわびたそれは。 
間違って‥‥ううん、あるいは意図的に、かって佐藤志乃さんが住んでいたアパート 
にみだらな器具やビデオを送りつけてきた人物。志乃さんを調教していた、ご主人様。 
きっと、このままこの人に飼われるなら。 
もう逃げる必要なんて、隠す必要なんてないんだ‥‥

がばっとベットから飛び起きるのも、一瞬現実が混濁するのも昨夜と同じ。 
二晩続けての、じっとりぬめる奇妙な悪夢。あまりにもリアルで生々しい、手ざわり 
さえ感じられそうな夢の余韻に、不安さえ覚えて私はじっと天井を見つめていた。 
すでにほの明るいカーテンの外。 
これはいったい‥‥予知夢か、警告か、何かなのだろうか? 
ぼんやりしているところへ、電話がかかってきた。

「高校時代にも一度、授業の一環でドラクロワ展を見に行ったことがあったわ」 
「じゃ、早紀さんにとっては二度目の出会いなんですね」 
電話は後輩OLの中野さんで、誘われるまま2人で美術館に行ってきた帰りだった。 
表層的なつきあいの同僚ばかりが多い中、大学時代のように本当に親しくできるのは 
彼女を含めた数人程度だ。 
「でもいいの? せっかくのチケット、彼氏と行った方が良かったんじゃない?」 
「駄目なんです。あの人、からきし芸術音痴で‥‥」 
それに彼とは昨日会いましたし、そう言って目を伏せる中野さんの、むきだしの腕に 
かすかなアザを見つけ、私はひそかに口元をゆるめてしまう。 
「ふふっ、中野さん、また手首にアザつけて‥‥相変わらず、SM強要されるの?」 
「あ、いえ‥‥違いますよー」 
軽いイジワルをこめて話をふると、彼女は面白いほど赤くなった。 
「その、私も少しは、いいかなって思うようになって。縛られるのだって、慣れたら 
彼、優しいですし」 
「あらら、ごちそうさま。一人身には切ない話題ね」 
「早紀さんこそ、最近どんどんキレイになってます。実は彼氏いたりしません?」 
「いたら私ものろけ返してる」 
笑いつつ、ふと頭に浮かんだ水谷君の顔に、私は動揺しかけていた。 
いつから恋愛がこんなに不自由なものになってきたんだろう。 
ただ素直に、好きとか一緒にいたいとか、そう思うだけの恋愛ができない。良さそう 
な異性がいても、まず相手の職種や年収に意識が行ってしまう。 
ある意味当然だけど、OLも3年目だし先を見すえないと‥‥なんて思ってる自分が、 
時々本当にうっとうしいほど重たく感じてしまうのだ。 
水谷君だって、今までなら決して悪い相手じゃないはずなのに‥‥ 
「あ、やっぱ気になる人いるでしょう」 
「え。え、えぇっ?」 
のけぞって思わず後悔する。珍しく、受け身な中野さんが目を爛々と光らせていた。 
この子、こんなカンがよかったっけ‥‥悔やんでも後の祭り、だ。

結局彼女に迫られて、普段と逆に水谷君のことを根掘り葉掘り聞きだされてしまった。 
彼女自身の結論はシンプル、気になるならつきあってみればいい、だ。 
打算や損得抜きの恋愛も良いじゃないか。アパートの隣同士ってのはあまり聞かない 
けど、だからって別れる時のことまで最初から計算する恋愛はないんだから。 
それだけなら彼女の言うとおり。 
‥‥例の、あの小さなうたがいと疑問さえなければ。 
「志乃さんのマスター‥‥」 
呟いて、ベットに転がったまま天井を見上げる。 
年下の彼。さわやかでちょっと虐めがいありそうな男の子。誘われて悪い気はしない。 
だけど、もし彼が、私の探しているご主人様、佐藤志乃さんを調教していたマスター 
だとしたら‥‥ 
彼は、ささやかな手違いで、私の人生を狂わせてしまった憎むべき男なのだ。 
それとなく間接的にほのめかされ、そそのかされ、いつか私はどうしようもないマゾ 
の奴隷にまで堕ちてしまった。セルフボンテージでどうしようもなく躯を火照らせる、 
ヒワイな躯に調教され、開発されてしまったのだ。 
だから、もしご主人さまに会えるなら私はなじってやりたいのだ。こんなにも人一人 
を変えてしまった彼の手違いを。その残酷さを。 
そして、意識もなくなるほどドロドロに、深く、ご主人さまに責められたい‥‥ 
「‥‥ッッ」 
トクンと胸が波打ち、カラダがうずく。 
ありきたりなSMのご主人様なんていらないのだ。そう‥‥あの人以外には。 
水谷君がその彼なら、尽くすべき相手なら、私は今すぐにでも捧げられるだろう‥‥ 
だが彼が本人だと、どうやって確かめうるというのか。 
推測だけを頼りに真正面から切りこんで聞くことなど、できるはずもないのだ。 
堂々巡りの思考をたちきり、送られてきた小包に目をやって、うずきだす息苦しさに 
私は目をつむった。

軽い興奮に寝つかれず夜食を買おうと外に出たところで、夜のこの時間には珍しく水 
谷君に出会った。話を聞くと、バイトをしてるらしい。 
「いつも夜にシフト入れてる友人が夏休みとってて、一週間だけ俺が入ってるんです。 
しばらくは帰宅も午前の1時、2時ですよ」 
「そうなんだ、頑張ってね」 
お盆をひかえた帰省のこの時期、人の減ったアパートの廊下は怖いくらいに静かだ。 
このさわやかな青年が、本当は私の主人様なのだろうか? 
奇妙なやましさがこみあげ、目を合わせていられない。うつむいて通り過ぎようとし 
たとき、彼が呼びとめた。 
「お休みの間、早紀さんはどこか旅行とか行かれます?」 
「ええ、あさってから、大学時代の仲間と」 
国内でゆっくり避暑にでも行こうかという話がある。 
そういうと、彼はゆっくり笑った。 
「そうですか。じゃ、今日明日中に急いで小包の中身を味あわないとダメでしょうね」 
えっ‥‥? 
小包って‥‥獣の拘束具‥‥ 
虚をつかれて息を呑む私に、水谷君はそのまま告げた。 
「『生もの、お早めに』って、貼ってあったじゃないですか‥‥小包の、中身」 
あまったら、おすそ分けしてくださいよ‥‥

彼が部屋のドアを閉じた後も、私は壊れそうな動悸を抑えこむのがやっとだった。 
ゾクン、ゾクンと下半身がおののいている。 
あまりに意味深な言葉の意味。それが、分からぬわけなどない。


私、いま、ご主人さまに直接、命令されたのだろうか‥‥?

             ‥‥‥‥‥‥‥‥

コンビニから戻った私の呼吸はさっき以上に動悸でうわずり、なにを買ったかも分か 
らないほどだった。くりかえしくりかえし、水谷君の台詞がりフレインする。 
(一週間だけ、深夜のバイトを入れた‥‥) 
(今日明日中に味わってみないといけないでしょう‥‥) 
わざわざ予定を教えてくれた彼。この一週間はアパートの人も少なく、ちょうど自縛 
した私が夜歩きする時間帯が、彼の帰宅と重なることになる。 
『今日明日中に味わいなさい』‥‥命令調ともとれる、あまりに意味深な啓示。 
もし彼が私のご主人さまで、私が気づいたことを知って言ったのなら。 
私の、私自身の調教の成果を見せろというのなら。 
‥‥つまりセルフボンテージを施した、恥ずかしい私自身を見せろということなのか。 
緊縛された無力な姿の私と、ばったり出会うことを望んでいるのか。 
「‥‥いけない。なに妄想してるの」 
はっとわれにかえって呟く。 
興奮しすぎるのは、セルフボンテージを行ううえで致命的だ。いかに酔いしれても、 
最後は自力で束縛から抜けだすしかない。ムチャな自縛は怪我や事故につながりかね 
ないのだ。 
だいたい彼が、水谷碌郎が志乃さんをしつけたご主人さまかどうか断定できないのだ。 
とはいえ、彼の一言が大きな刺激になっているのも事実だった。 
普段より何倍も緊張に踊る私の心。今ならはるかにスリリングで、興奮できる自縛を 
楽しめるに違いないのだ。 
どのみち、送られてきた器具はいつか必ず使うのだから‥‥ 
「‥‥」 
ゆっくり、動悸が静まっていく。いや。静まるというのは間違いだ。相変わらず高い 
テンションのまま、気持ちがゆっくり波打っているのだ。 
体の芯から広がり、指先のすみずみまで広がっていく甘い被虐のさざなみ。 
火照る自分のカラダがいとおしいほどに、気持ちが柔らかい。 
「明日。明日の、夜に」 
小さく呟いて、淡いランプに照らされたリビング中央の箱を、私はそっと撫ぜた。 
今までとまったく違うタイプの拘束具に、心が逸り、想像だけがあわあわと広がる。

ケモノの拘束具には、はずすための鍵がなかった。

形状記憶合金を使った、ケモノのための手枷と足枷。強靭な革を丸く手袋状に編み、 
袋の口に手枷がわりの合金の輪がはまっている。 
お湯につけてあたためると開き、その後常温でゆっくり元に戻る仕掛けらしい。 
いわばカギのない錠前つきの、危険な拘束具なのだ。指先まですっぽり覆うこの手枷 
を身につけたら、ふたたびお湯につけぬ限り、決して外すことができない。 
奴隷自身にはどうしようもない不可逆性。 
初めての拘束。初めての邂逅。危うい罠から、私は逃れることができるのか。 
それとも‥‥

今度こそ、奴隷として、囚われてしまうのか。

目が覚めた時すでに日は高く、肌を灼く夏の日差しでベットルームを照らしていた。 
ひざびさの、じっとり粘つく夏日になりそうだ。 
「‥‥ッッ」 
眠りとめざめの気だるい境界線で寝がえりを打ち、シーツをぎゅっと膝でからめとる。 
今日、これから行うセルフボンテージのことをまどろみつつ思い、無数の泡のように 
生まれては消えていく小さな期待をしみじみと噛みしめる。 
「‥‥ね、テトラ」 
いつの間にか、私の枕元に丸まっていた子猫に鼻を擦りつけて呟いた。 
「私、お前と同じになるんだよ、今日は」


シャワーを浴び、ほてった全身を冷やしていく。 
余りもので冷製パスタを作り、ブランチをすませた私は、小包の中身をじっくり点検 
することにした。手枷、足枷、ボールギャグ‥‥一つづつ点検していく。 
「‥‥」 
金具の構造や感触を調べれば調べるほど、脈拍が速く、不自然になっていく。 
これは‥‥一度のミスですべてを失う、危険な拘束具だ。 
手首が肩に触れるほどきつく折りたたんだ両手と肘を筒状のアームサックで絞りあげ、 
金属のリングで固定する手枷。しかも、手枷は指先までを包みこむミトンタイプの革 
手袋と一体化している。 
一度手を入れてしまったら形状記憶合金の枷が手首に食い入り、立ち上がれないのは 
当然、指を使った作業さえできなくなる。 
つまり、ふたたびお湯にひたして鉄の枷を開かないかぎり、拘束されてしまった私は 
ドアのノブをつかむことさえ、いや、万が一の時に刃物で拘束具を切り裂くことさえ 
不可能になるのだ。 
‥‥これがどれほど危険なことか。 
給湯器で調べてみたが、ひたすお湯が39度をきると枷は開ききってくれない。 
たとえば、脱出のために用意したお湯を、こぼしてしまったら。 
何らかの時間のロスで、お湯が冷めてしまったら。 
ふせぎようのない些細なアクシデントさえ、致命的な事故につながってしまう。そう 
なれば二度と、私は自力では拘束をとけなくなってしまうのだ。 
そう、誰かの手でも借りない限り。 
「‥‥‥‥」 
‥‥ 
無力に打ち震え、廊下の隅で丸まっておびえる全裸の私。 
水谷君が、ケモノのように自縛した惨めな私を見下ろし、汗だくのお尻を平手で撲つ。 
首輪を引きずって私を連れ込み、そうして人知れず私は監禁されてしまう‥‥ 
私はただ、彼に飼われるだけのペットになるのだ‥‥ 
‥‥‥‥‥‥ 
‥‥‥ 
‥‥ 
かくんと膝が力を失い、白昼夢がさめた。全身がじくじく疼き、わなないている。 
何を‥‥なにを、期待しているの、私は、心の底で‥‥ 
ぽたり、と何かが手の甲にしたたる。 
充分にクーラーの効いている室内で、私は玉のような汗を浮かべていた。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥

久しぶりに夏をふりまいた夕日の残照が、のろのろとビルの谷間に沈んでいく。 
空気だけはなお熱く、熱帯夜を予感させる湿り気だ。 
夕食はうわのそらで、震える手で何度もフォークを取り落とした。 
テトラにも異様な興奮は伝播してしまったらしく、今日はしきりに毛を逆立て、私の 
膝にしがみついて離れようとしない。 
ドクンドクンと乱れる脈拍。今ならまだ、やめることができる‥‥ 
やめようと思えば、簡単にやめられることなのだ‥‥ 
時計の針が、深夜に近づいていく。 
まだ、まだ大丈夫。引き返せるんだから。 
自分でも白々しいばかりの言葉を心に投げかけ、私は立ち上がって用意をはじめた。


鏡の前でショーツを脱ぎ、ブラウスを肩からすべらせる。 
衣ずれの音を残し、一切の衣服からほてるカラダが解放された。淡いショーツのシミ 
が、頬を赤くさせる。充血し、張りつめた乳房の上で、敏感な突起が尖りつつあった。 
すでに、小包の中身はテーブルに広がっている。 
真新しい革のつやに目を奪われつつ、私は太ももまでの長い革ブーツを両足に通した。 
女王様めいているが、実は奴隷の拘束具。その証拠に、ブーツにの太ももと足首には 
革の枷がついていて、脱げないように絞ることができるのだ。 
「‥‥」 
陶酔のせいで呼吸が乱れるのを感じながら冷たいフローリングに四つん這いとなり、 
私は獣の拘束具を取りつけていった。膝を曲げ、太ももと足首の革枷を金属のバーで 
連結する。バックルを施錠すると、きゅうくつな姿勢のまま下半身は自由を失った。 
これで、私はもう立ち上がれない。 
次は猫耳つきのボールギャグだ。舌を圧迫するサイズのボールは、口腔の奥深くまで 
咥えても歯の裏に密着してしまう。ヘッドギアのように十時に交差したストラップの 
水平な一本は頭の後ろで結び、もう一本は頭頂部に猫耳を貼りつけながら、あごの下 
を通し、口を開くことさえできないように完璧な拘束を施した。 
施錠する間も、たちまち唾液が溜まりだす。 
口の中にあふれたヨダレは、やがてどうしようもなく唇を伝って垂れていくのだ。 
カラダには、首輪と、いつもの革ベルトの拘束具。要所要所を絞り、オッパイを誇張 
するようにベルトからはみ出させていく。 
「ンッ、ン」 
自由を奪われていくスリルにみたされ、はしたなく声があふれる。 
濡れはじめたクレヴァスを指で押し開き、私は待ちわびるそこへバイブを咥えさせて 
いった。甘くヒダが蠢く気配。這い上がってくる快感をぐっと押し殺す。 
まだ溺れちゃダメ、メインはこっちなんだから‥‥ 
ふさふさとした尻尾つきの、小さなアナルプラグを震える手でとりあげる。したたる 
愛液で濡らし、ひくひくすぼまるお尻の穴へあてがう。 
ツプンと飲み込まれると、腸壁がプラグを咀嚼し、苦しいほど絡みつく感触に喘ぎが 
止まらなくなった。一人遊びの惨めさが、たまらない愉悦に反転していく。なにより 
獣にさせられた屈辱感が、カラダをどうしようもなく爛れさせるのだ。 
尖りきった乳首にニップルクリップを噛ませてチェーンでつなぎ、バイブを固定する 
革の貞操帯を履きおえた頃には私は発情しきったメスになっていた。 
目の前には、お湯で温められ、口の開いた手枷。 
肘を折りたたんだ両腕を、それぞれ革の袋に押しこんでベルトで縛り上げる。自由に 
なるのは肩と手首から先だけ。そこに、革のミトンと一体化した手袋を嵌めるのだ。 
手枷が締まれば指は完全に使えなくなり、拘束をほどけなくなる。 
「‥‥」 
最後の瞬間、ためらいが再びわきあがる 
時間が無いのは分かっていた。始めるなら、急ぐほかない。 
それでも‥‥ 
形状記憶合金のリングは、閉じるとバックルに相当する部分の凸凹がカチンと嵌まり、 
まったき真円になる。本当にそうしたいのか。リスクが高すぎないか。今だって充分 
ハードな自縛だし、カラダは甘い悦びを感じているのだ。 
施錠したすべての鍵をしっかり握りしめ、心の中のやみくもな衝動を探ってみる。 
なぜなのか、と。 
「‥‥」 
答えは簡単だった。 
試さずにはいられない。被虐的な陶酔を、絶望のふちで湧き上がるアクメの激しさを、 
身をもって私は知ってしまったからだ。危ういほど、快楽の深みも増すのだから。 
だからこそ、私はセルフボンテージに嵌まっているのだから。 
静かに、左右の手を手枷に押しこんでいく。 
手首の一番細いところに合金のリングがあたるのを確かめて、私は、自分から‥‥ 
床に屈みこんで顔を洗面器の脇にすりつけ、用意しておいた氷水に片手を差し入れた。 
いつになく意識は乱れ、カラダはいじましくバイブの動きに反応していた。 
前も後ろも口さえも、すべての穴をいやらしく埋められて、私は‥‥ 
バチン 
思いのほか大きな音がして、ビクンと裸身がひきつった。手枷のリングが細くなり、 
深々と手首を喰い締めている。見下ろすリングは水をしたたらせ、継ぎめの無い金属 
でびっちり接合されていた。 
あまりにもいやらしく完璧な拘束に、マゾの心が波打って震えだす。 
熱に浮かされ、私は残った手首も氷水につっこんだ。 
ひやりと冷たい現実の感触とは裏腹に、たがが外れたかのように妄想が加速しだす。 
後戻りできなくなる‥‥ 
これで、私は‥‥ 
「!!」 
二度目の音は、甘く淫らなハンマーとなって私の躯をうちのめした。 
またしても全身がのたうち、ひくひくとアクメによじれる。 
快楽と理性のあやうい狭間で必死に自分を保つ。 
溺れてしまえばそれで終わり、この困難な脱出を成功させることはできないだろう。 
立ちあがる事のできないカラダ。 
握りしめた拘束具のカギは、すべて手枷に閉じ込められ、取り出す事さえできない。 
手枷を開くためのお湯の蛇口は、手の届かないキッチンのシンクの上だ‥‥ 
「ン、んぁッ‥‥」 
ブルリと、火照った裸身を身震いさせる。 
私自身の手で完璧な拘束を施されたカラダは、一匹のはしたない獣、そのものだった。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥

どのくらい、呆けていたのか‥‥ 
フローリングにしたたったいくつもの水音が、とろけきって散漫な意識を引きもどす。 
汗、ヨダレ、そしてクレヴァスからしたたるオツユ‥‥ 
四つん這いの格好は不自由で、まるで動けない。 
肘も膝も、折り曲げたカラダは借り物のようにギシギシ軋みをあげていて、そんな中、 
バイブを二本挿しにされた下腹部だけがゆるやかに律動しているのだから。 
気持ちイイ。 
快感を止められなくて、流されるだけで、すごいイイ‥‥ 
何もかもが異様なほど意識を昂ぶらせ、心の中を被虐のいろ一色に染めあげていく。 
「んふ、ふァァ‥‥」 
等身大の鏡に映りこんだ私みずからの裸身に見とれ、うっとり熱い息を吐きだす。 
なんて貪婪で、浅ましいマゾ奴隷だろう。あどけなく色づいた唇にあんなにもボール 
ギャグを頬張って、顔を醜くゆがめさせられて。あごの下のストラップに圧迫されて 
喘ぎ声さえろくに出せず、だらだらヨダレまじりに虐めがいのある瞳をうるませて、 
こっちを見ているんだから‥‥ 
これが、こんなのが、私の心が望んだ本当の私の姿なんだから‥‥ 
ゾクゾクッと背筋がわななき、弓なりに激しくたわんで引き攣れてしまう。それでも 
私は拘束姿のまま、おぼつかない肘と膝を張り、四つん這いでこらえるしかない。 
セルフボンテージは、MとSが同時に同居する、不思議なSMのありようだ。快楽に 
溺れつつ、自縛した者はおのれの理性を保ちつづけて抜けださねばならない。 
相反する快楽と理性の螺旋、それが私を狂わせる。 
我慢させられることで、Mの悦びは何倍にも膨れあがるのだから。 
想像してはいけない。感じすぎてもいけない。冷静に、すべて把握しないとダメだ。 
「ンッ、ン」 
今日の私、変だ。一昨日より全然カラダが感じちゃってる‥‥ 
もつれる意識を振りはらい、私はおそるおそる動いてみる事にした。 
脱出のための手段は今日も屋外にある。どのみち、拘束具を送ってきご主人様の意図 
は、私をケモノの姿にして這いずるさまを鑑賞することなのだろうから。 
膝から下と肘だけを頼りに、私は自らアパートの廊下を歩いていくしかないのだ。 
ギシ‥‥ 
おそるおそる踏みだす足は、金属のリングのせいで歩幅を稼げない。アームサックの 
底にパッドが入っているとはいえ、一歩ごとに肘にかかる負担も大きく、亀のように 
のろのろ歩くしかない。 
「‥‥っく」 
2・3歩玄関に向かいかけ、たまらず立ち止まって呻く。 
ぎいぎい革鳴りの軋みをひびかせて歩くたび、たゆんたゆんとはずむ乳房の先でニッ 
プルチェーンが揺れ動き、妖しい痛みと衝撃で裸身がヒクヒクのたうつ。外しようが 
ないと分かっていても、充血した乳首が重みでブルブル引っぱられるたび、腰が凍り 
ついてしまう。 
ンァ‥‥ダメ、やっぱりつらすぎるかもしれない‥‥ 
立ち止まってちゃいけないのに。 
四つんばいのまま廊下に出て、端に置いてきたバケツの熱湯に(もうだいぶ冷めて 
そうだが)手袋をひたさなきゃいけないのに。 
戦慄めいた焦りばかりが裸身をかけめぐり、じっとりカラダがうるみだす。 
拘束が、抜け出せない恐怖が、気持ちイイのだ。 
汗を吸ってぬらつく革は、ほんのり上気した肢体になじんですでに肌と同化している。 
びっちり吸いつく空恐ろしいほどの一体感。悩ましく、ただただ狂ったように全身を 
燃え上がらせてしまうのだ。 
「‥‥」 
ポタタッとしたたるのは、ひときわ深く緊縮しきったクレヴァスからあふれたオツユ 
だった。みっしりと埋め込まれ、薄い肉をへだてて掻きまわされ、その快美感に私は 
ボールギャグの下でむせぶしかない。 
「あぅ、ン!?」 
太ももを大きく動かせばお尻の谷間にもぐりこむ貞操帯が微妙に位置を変え、バイブ 
の角度が変わってさらに濡れそぼったヒダを突き上げてくる。 
断続的な悲鳴をあげながら、四つん這いでリビングを抜け、玄関に向かった。 
とことこと歩くお尻をときおりファサッと尻尾の毛がなでていく。くすぐったい感触 
が、ケモノの姿に堕とされたという私の現実を強く意識させた。 
幾度となくわきあがる被虐の波を、ボールギャグを思いきり噛みしめてやりすごす。 
こんなところでもうイッてしまったら、それこそ終わりだ。手枷だけでも外さないと。 
「‥‥」 
床に転がった給湯器のリモコンを蹴飛ばしかけ、よろけた。バケツに熱湯をみたした 
とき、よほど焦っていたらしい。踏んで壊さぬようによけて歩いていく。 
ようやく冷たい玄関の扉にもたれかかり、私は一息ついた。 
玄関ドアには、スリッパをはさんで閉じないようにしてあった。拘束されてしまえば 
ドアを開けることなどできない。そのための仕掛けだ。 
はぁ、はぁ‥‥ 
ボールギャグで乱れっぱなしの呼吸をととのえ、静かに外の様子をうかがう。 
扉のすきまから流れてくるむっと熱い夜気以外に、人の気配はない。そろそろ日付が 
変わった頃だ。お盆のさなかだし、誰もいないだろうと思う。 
あとは、決断するだけだ。 
今まで試したことのないスリリングな、一子まとわぬ姿での行為を。 
隠しようのない全裸で、どころか手も足も括られ、喋る自由さえないこの拘束姿で、 
アパートの廊下に出て行く‥‥みずから野外露出にいどむ、最後の決断を。 
心臓が、鼓動が、破れそうな勢いで脈をうっている。 
「ふぅ‥‥んぅぅ‥‥」 
一度出てしまえば、この鈍い歩みだ。誰かやってきても逃げたり隠れる自由さえない。 
文字どおり惨めなさらし者の奴隷になる。 
‥‥本当は、心のそこで、それを望んでいるのではないのか? 
「ンクッ‥‥ふぅ、ふぅぅっ‥‥」 
ドクンドクンと、狂ったように動悸が苦しかった。 
下腹部がグリグリとバイブの振動で満たされ、太ももがビショビショに濡れそぼって 
いる。気づかぬうち、軽いアクメに何度も襲われ、カラダがイッてしまっているのだ。 
情けなさと同時に、この自縛のおそろしさがチリチリこころをむしばんでくる。自分 
を制御できない‥‥それは、セルフボンテージでは失敗を意味するからだ。 
実際、海外では陶酔の中、拘束をほどけず事故死してしまうマニアさえいるのだ‥‥ 
「クッ」 
きりっと歯を食いしばり、妄想をぐっと押しつぶす。 
私のカラダは甘くひりつき、マゾの快楽を求めている。ケモノの姿で野外に歩きだす 
スリルを、刺激を。危うい妄想は、その快感を加速させるだけだから‥‥ 
息を殺し、周囲をうかがった。 
何度もイキながら、声だけは無意識に殺していたのだろうか。両隣には気配もない。 
外の様子をうかがい、そして、ゆっくり頭と肩で玄関ドアを押し開ける。 
ギィィ‥‥ 
ねっとりした夏の空気が、裸身をひしひしと押し包む。 
尻尾と首輪のリードがはさまりそうになり、両足をつっぱってぐいと扉を開いた。 
段差に気をつけて踏みだした私は、冷えた廊下の感触をしみじみと噛みしめていた。 
ザラリとした小さな砂や、埃で汚れたコンクリートの感触。 
これが、そう。 
本当に私は、ケモノの姿でアパートの廊下にいるのだ‥‥ 
見あげてみると、部屋のドアが呆れるほど高く、遠い。まるで、幼い子供の視点だ。 
あるいはペットの。 
目を落とし、拘束具の首輪からたれたリードに目をやる。 
これを手にするご主人さまが私にいてくれたなら‥‥ 
「ンク‥‥ンッ」 
甘やかな被虐の思いが、疲労の残る下腹部をたちまちカァァッと燃え上がらせる。 
パタンと扉がとじる。その音を合図に‥‥ 
じくじくっとしたたる雫に目元を赤らめ、私は一歩一歩、歩きだした。 
お尻を振りたて、肘と膝で弱々しく歩く。自然と首は下がり、汚れた廊下ばかりを 
眺めてしまう。視界のせいか心細く、絶望感でアソコがビリビリ感じきっている。 
今の私はもう人じゃない。発情した、いやらしいペットそのものだ。 
乳首を噛むチェーンは、さしずめ牛の首に下げるカウベルのような感じだろうか。 
「くふッッ、かはァ‥‥」 
もどかしいほどカラダは爛れ、のたうつ快楽が喘ぎとなって殺到する。 
私の部屋が908号室、廊下の端は910号室の先だ。二部屋きりだけど、人がいるかも 
しれない部屋の扉の前を、私は横切っていかないといけないのだ。 
各部屋とも、玄関ドアと一緒に窓がついている。 
暑い熱帯夜のこと、クーラーを惜しむ住人が、窓を開いて自然の風を求めでもして 
いたら‥‥ 
おびえた目で窓を見あげ、ビクッとしながら拘束された手足を動かす。 
「ンンッッ」 
必死になってボールギャグを噛みしめ、猫耳を震わせて、私はのどからほとばしる 
呻きをかみ殺していた。残酷なボールギャグのせいでまだしも声は抑えられている。 
とはいえ、あごの下を通るストラップは私の惨めさをあおりたてていた。いかにも、 
ケモノに噛ませるための道具。馬がはみを噛まされているかのように、私のカラダ 
も容易に操れるだろう。 
この姿では、なにをされたって、抵抗などムダなのだ。 
ゆっくりと‥‥ 
おそろしくもどかしい速度で、廊下の端に置かれたバケツが近づく。 
不意に私は、時間が気になった。あの瞬間、玄関前でイッていた私はどれほどムダ 
な時間をついやしたのか。遅すぎて、バケツのお湯が39度を切ってしまったら‥‥ 
「んぐ‥‥ッッ!!」 
今や、たとえようもない切迫感と、嫌な予感が不自由な身を駆り立てていた。夢の 
なかで私は絶望し、逃げ場を失っていた。まさか、あの二の舞が‥‥ 
ズキズキと手足を疲労させ、もつれさせてバケツに近づく。 
そう‥‥ 
あとは、この中のお湯に‥‥ 
ようやく、バケツにたどり着いた。お湯に手枷をひたし、じっと待つ。

何も、起きなかった。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥
(3へ続く)

出典:萌えた体験談DB
リンク:http://www.moedb.net/articles/1245122270
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