うたがい3 (その他) 4043回

2019/05/09 00:02┃登録者:えっちな名無しさん◆v9xSRo9k┃作者:名無しの作者
ほっとゆるみかけていた意識。 
これで外せるという安堵感、同時に、ジクジク裸身を疼かせる、物足りないような 
もったいないような残念な気持ち‥‥ 
異変に気づいたのは、もう5分近くもお湯に手枷をひたしたかと思う頃だった。 
手首の拘束が、まるで楽にならない。 
固く食い込んだまま、リングの端をピタリと閉じたままなのだ。 
‥‥遅すぎたの、私は‥‥? 
ヒヤッとしたそれは、うたがいようのない直感だった。 
ぶわっと湧きあがる焦りと衝動を、かろうじて胸の奥に押しもどす。 
大丈夫だ。 
だからこそ、用心のためドアにスリッパをはさんで、失敗した時でも戻れるように 
してあったんだから。家に戻れば給湯器だって風呂場だってある。どうにか‥‥ 
そこで気づいた。 
私‥‥ドアの閉まる音を、たしかに聞いていなかっただろうか? 
ギョッとして振り返る。この場所からでは遠すぎた。 
もはやひりつく実感となって全身を鳥肌立たせる感触に追われ、私はもつれながら 
四つん這いで自分の部屋に戻っていく。はさんであったスリッパがのぞいていれば、 
このカラダでもどうにか割って入れるのだ‥‥ 
‥‥だが。 
ドアはぴたりと閉まっていた。不自由な手ではノブを回せない。 
真実の恐慌が、パニックが私の心を飲みつくすまで、たっぷり3秒近くかかった。 
完全な『嵌まり』‥‥ 
私は、抜けだす手段を失ったのだ。

最初に訪れたのは、真っ白な衝撃。そびえたつ無慈悲な鉄扉をみつめるばかりで。 
‥‥絶望は、あとから深く、音もなくやってきた。

ほんの数時間前に‥‥ 
あるいは昨日、獣の拘束具を試そうと思ったときに‥‥ 
いや、もっと前、奇妙な夢に飛び起きた、夏休みの始まりのあの朝に‥‥ 
私の無意識は、この無残なセルフボンテージの失敗を夢見て知っていたというのか。 
あとはただ他人の目にさらされ、辱められるしかない、浅はかな興奮に舞い上がった 
惨めな自縛のなれの果てを。 
「ふっ‥‥ふぅっッ‥‥」 
全身が凍りついて、身動きさえできない。 
尻尾のプラグにアナルを犯され、お尻を振りたてながら裸身をひくつかせているだけ。 
両手両足の自由を完璧に奪われた、いやらしい牝犬の拘束姿。いつ、誰に見られても 
言いわけできない倒錯したマゾ奴隷の、艶姿がこれなのだ。 
ねっとり重みをはらんだ乳房の先が、痛いほどにそそり立ってクリップに食い込む。 
オッパイを絞りつくす革の拘束具は汗を吸って裸身になじみきり、わずかな身じろぎ 
すら甘い疼痛にすりかえてギリギリ食い込んでくる。 
「っふぅ、グ‥‥んむッッッ」 
無残に噛みならすボールギャグさえいやらしくヨダレにむせかえり、糸を引いている。 
ウソ‥‥嘘よ、こんなの。 
冗談なら、夢ならさめて欲しいのに‥‥ 
必死になって首を揺すり、拘束された腕を不自由に手枷の中でのたうたせてあらがう。 
アパートの廊下に這いつくばったまま、何をすべきかも、どうすべきかも分からない。 
この瞬間もなお、発情しきった汗みずくのカラダは一人よがり狂ってしまうのだ。 
声もなく、めくるめく被虐の怒涛が真っ白になるまで意識を吹き飛ばし、エクスタシ 
ーの極みへと裸身を持ち上げていく。 
二度と味わうことのないだろう甘美な絶望の味を噛みしめ、完膚なきまでに残酷な現 
実で、私を打ちのめして‥‥ 
断続的に意識がとぎれ、快楽をむさぼって白濁し、ふたたびふっと鮮明に戻ってくる。 
どうしよう‥‥ 
縛られたままで、私、どこへもいけない‥‥ 
気づけば、私はすがりつくように隣の907号室の扉に身をすり寄せていた。 
まるで扉ごしに甘えれば、水谷君が私を助けてくれるかのように。ご主人さまの顔を 
作って出てきた彼が私を抱きしめ、守ってくれるかのように。 
‥‥バカ。すぐに思いだす。水谷君はバイト中なのだ。無人の部屋の前で、私は何を 
錯乱してしまっているのだろう。 
「うぅぅぅぅ‥‥」 
やましかった。浅はかな欲望に溺れて自制を失った、自分自身が。 
安全なセルフボンテージの手段はいくらでもあった‥‥なのに、私はもっとも危うく、 
リスクのある行為を選び、なるべくして失敗したのだ。 
四つんばいの裸身がもつれ、びっちりアームサックで固められた肘がズルリと滑った。 
顔から床に突っ込みかけ、必死でカラダを泳がせる。 
ゾブンと、甘くキツい衝撃が戦慄めいて不自由な下半身を抉りぬいた。 
瞬間、遠吠えする獣のように背中が反ってしまう。 
「ンァ‥‥んぁぁぁァッッ!」 
ヤァッ、すご‥‥感じちゃう‥‥ッッ‥‥!! 
腰をねじった拍子に、濡れそぼるヴァギナの奥をバイブが突きこまれ、窮屈な角度で 
肉壁をえぐりぬいたのだ。 
場所も状況も忘れ、私は緘口具の下からみだらな悲鳴を吹きこぼしていた。 
次々こみあがった喜悦のほとばしりを抑えようと懸命に口腔に嵌まったボールギャグ 
をくわえ込む。こんなアパートの廊下でよがり声なんか出していたら‥‥ 
いくらお盆とはいえ、住人はまだかなり残っているはずなのだ。 
「‥‥ッ」 
あごの下を喰い締めるボールギャグの革紐が、チリチリ情けなさをかもしだす。 
人として喋る自由を奪ったボールギャグを、自分から噛みしめる屈辱感が肌を震わす。 
与えられた轡に喜んで噛みつく馬と、どれほど差があるというのか。 
私、ケモノじゃないのに‥‥ 
あふれかえる刺激を抑圧するしかない苦しみすら、心をゾクゾクと嬲りたてるようだ。 
それでもマゾの辱めに耐え、なす術もない拘束の痛みを噛みしめながら、残った理性 
をかき集めて、私は自分自身を注意深く瞳でたしかめ、全身を揺すりたてた。 
ギギ、ギュチチ‥‥ 
音高く食い入る革の痛みさえ、興奮しきった私には誘惑となって揺さぶってくる。 
ひょっとしてゆるみかけた拘束はないのか。ほどけそうな部分がないのか。 
‥‥拘束は、完璧に柔肌をとらえていた、 
むしろ、もがくほど汗がしみこみ、一層いやらしく全身が絞りたてられてしまうほど。 
ゆるむどころではない。折りたたんだ肘はアームサックでビッチリ腕の形が浮きだす 
ほど縛められ、太ももの枷はかすかに血行を阻害している。 
「う、ウグ‥‥」 
とっくの昔に、肌で理解しているとおりに‥‥ 
もはや、私が自力で拘束をほどくことは不可能なのだ。 
理解がいきわたった瞬間、裸身はただれた快楽に渇き、ドクンと心臓が跳ねあがる。 
私に残されているのは、それ一つだけ‥‥逃げだす自由を失い、夢中になってバイブ 
の動きを咀嚼し、犯される苦しさに身をうねらせるだけなのだ。 
不自由な事が、逃げ場のない絶望が、終わりのないアクメが、これほど甘美だなんて。 
めくるめく衝撃は神経を灼き、アヌスを滑らせ、とめどなくクレヴァスを潤していく。 
クライマックスに終わりはなかった。 
イッてもイッても、よがり狂った疼きと盛りはいや増すばかりだった。手枷の奥で指 
を握りしめ、瞳をギュッと閉じ、裸身をぎくしゃくとはずませて‥‥ 
まだ、まだイクッ‥‥ 
止まらない、腰がはねて‥‥切ないのに‥‥ 
どうしてだろう。縛られて、苦しいのに。手枷が外せないのに、そんな焦りさえもが 
こんなにもイイだなんて‥‥調教されたカラダが、勝手に反応しちゃう‥‥ 
「ん、んくぅぅぅ!」 
もはや、ボールギャグのしたたりとともに喘ぎ声さえかすれてほとばしる。 
じっとり濁った夏の夜気は冷静な思考を汗に滲ませ、あっけなく快楽に砕けちった。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥

「‥‥クフッ、かっ、かハッ」 
思いだしたように、ときおり喘ぎ声の残骸めいた吐息が唇のはしから洩れだす。 
ぐったりと気だるい自虐の惨めさに身を灼かれ、はぁはぁと呼吸をくりかえすばかり。 
つらく、長い道ゆき。 
自分が何をしているかはっきりしないまま、私はよたよたおぼつかない仕草で四肢を 
動かし、少しづつアパートの廊下を歩いていく。 
‥‥そう、まさに四肢、だった。 
指先まで自由を奪われた両手は、ただのケモノの四つ足と変わりないのだから。 
お尻の穴がギシリと疼痛できしみ、尻尾がいじわるくお尻の肉をぶつ。 
「ふぅっ、ふぅぅ」 
四つん這いで映る視界は驚くほど狭く、不自由だ。汚れた床だけを見つめ、みっちり 
下半身を串刺しにされたまま、肘と膝を使い、快楽のうねりに飲まれて歩く。 
一歩ごとにダイレクトな振動が胎内の異物をギジギジと揺らし、微妙に下半身を犯す。 
本当に男のモノを受け入れ、なすすべなく突かれてよがり狂っているかのような掻痒 
感が、たぎりきった蜜壷をグジュグジュに灼きつくす。 
鼻の頭からは、ポタポタしたたる涙滴の汗。 
かすかに不快で、けれど窮屈な束縛を施された両手では満足にぬぐうこともできない。 
顔を流れる汗はケモノの浅ましい興奮と奴隷のいやらしさをひきたてるかのようだ。 
四つんばいのカラダにも、少しづつなじんできた。 
カチャ、カチンと金属音を奏でて、足首と太ももを繋ぐ金属バーが歩行を制限する。 
住人に聞こえてないだろうか、不審がられて出てこられたら‥‥足を進めるたびに、 
目撃される恐怖と甘いスリルとが交互に心をむしばみ、トロリと下腹部が熱い粘液を 
こぼしてそのヒリつきを主張しだすのだ。 
「ンク‥‥ンッッ」 
かふ、かふっとボールギャグを咥えなおしては、浅く息苦しい呼吸をくりかえす。 
エレベーターホールにたどりついた時、下半身はわきたつほど甘く沸騰し、バイブを 
緊めつける革の貞操帯はドロドロに糸を引いて汚れきっていた。 
ちらりと振りかえると、私の歩いた後には点々としずくがこびりついていた。ヨダレ 
と汗、愛液がブレンドされた女のしずく。ぬぐうことのできない痕跡に、カァァッと 
頬が上気する。 
わたし‥‥なにを、してるんだっけ‥‥? 
ぐずぐずに溶けくずれた意識でぼんやり目的を思い返した。 
そうだ‥‥ご主人さまを、ここで待とうと思って‥‥ 
水谷君がバイトから戻ってくるまでに、誰かが来ないとも限らない。だから、せめて 
逃げ場のあるエレベーターホールにいようと思ったのだ。 
「くぅぅ‥‥ゥン」 
快楽に翻弄され、残酷な手枷の中で指がつっぱった。 
アームサックからのぞく手首は、絶望めいた形状記憶合金のリングが嵌まったままだ。 
どんなにビクビクあがいても、緩みもしない金属の枷。これが食い込んでいる限り、 
絶対に私は自縛を解けないのだ。睨みつける瞳が悔しさでうるむ。 
見つめるカラダは奴隷の標本だった。 
丸くバイブの底を覗かせ、ぷにっと爛れた土手を裂いて革ベルトはお股に埋もれきっ 
ていた。コリコリに尖ったクリトリスを潰す革紐は、無数の痛みをもたらすばかり。 
寝静まった深夜のアパートで、ひとり欲望に耐えかね、這いつくばって悩ましく身を 
焦がす自分があわれで、また愛とおしい。 
とことこと、エレベーターの前に歩み寄って‥‥ 
そこで、誰かが上がってくるのに気づいた。ゆっくり数字が上昇してくるのだ。 
ご主人さまが戻ってきた。 
思いかけて、なぜ、と思った。 
なぜ、このエレベーターに乗った相手が、水谷君だと思ったのか。 
「‥‥!!」 
はっと、冷水をあびせられたようにわれに返る。 
誰が来たか見極めもしないで、ホールの中央にいるつもりだったのか。冗談ではない。 
まず隠れて、状況をうかがうのが先のはずなのに。 
ごぼっと、苦悶のようにボールギャグからヨダレがあふれだし、廊下にしたたる。 
焦ってもつれる手足を動かし、わきの階段へと逃げた。暗い踊り場で一瞬たちすくむ。 
‥‥ポーン。 
「‥‥っっぅ!」 
エレベーターのチャイムに飛び上がり、私はあちこち壁にぶつけながら必死の思いで 
階段を駆け昇った。ガチャガチャンとやかましい金属バーが、なおさら冷や汗を噴き 
出させる。 
「おい、なんか今、そこにいなかったか?」 
「え〜、なに、ほっときなよぉ」 
軽薄そうな男女の会話が、背筋を凍りつかせる。 
中谷君じゃない、違った‥‥あと一瞬、遅ければすべてが終わっていたのだ。 
びっしょり背筋を流れくだるのは、本当のおののきなのだ。 
「いや、気になる。ちょっとたしかめるさ」 
「なに言ってんの、やめなよー」 
不審げな男の声に焦りがよみがえり、私は追い立てられて階段を上っていった。打撲 
で腫れ、ずきずき軋む手足をかばいながら、できる限り静かに這っていく。 
このときはまだ、気づいていなかった。 
なぜ階段を上がったのか。 
ごく簡単なこと。このカラダでは、階段を下りることなど不可能そのものなのだ‥‥

              ‥‥‥‥‥‥‥‥

「ンッッ」 
ぼんやり厚い雲に覆われた空を目にして、わけもなく涙があふれた。 
とうとうここまで来てしまった‥‥ 
ヒワイすぎる縛めを施したきり、文字どおり丸出しの裸身で、私はさえぎる物もない 
広い屋上に追い立てられてしまったのだ。 
9階から階段を上がると、すぐに屋上に出る。眺めのいいこの場所も、今はねっとり 
した真夏の夜風になぶられ、闇の濃さをきわだたせている。 
厳しい縛めの下で、関節が悲鳴をあげていた。 
獣さながらにブルリと全身を震わせ、もはや降りることのできない階段を見つめる。 
闇の中うずくまる女の裸体は、拘束された汗だくの白い四肢は、人目にどう映るのか。 
化け猫かも‥‥思ってから、ちょっと哀しくなった。 
私は誰にも飼われていない。飼われることを、尽くす悦びを知らない寂しいペットだ。 
ふぅふぅと、荒い息のたびに波打つ腹部がいとおしい。 
抱きしめて欲しい。唐突にそう感じた。 
ペットがかわいがられるように、飼い主の手に包まれて撫でられてみたい。 
いくらでも甘え、時にお仕置きされて、ご主人さまの望みどおり躾けられて、逃れる 
ようのないマゾのカラダに調教されていくのだ。 
「ん‥‥くぅぅン」 
鼻声が耳をつき、こみあげる寂しさにギョッとする。 
私のご主人さまはどこにいるんだろう。 
志乃さんあての拘束具は、つねに、私のカラダを計ったかのようにフィットする。私 
と志乃さんの体格が似ているだけかもしれない。けれど本当は、誰かが、私のサイズ 
を目で測っているのではないか。革製の拘束具は気軽に買える値段ではない。まして、 
ここまで特殊なカスタマイズがされていればなおさら‥‥ 
それだけ大事に調教してくれるご主人様なら、どうして私を助けてくれないのか。 
「っふ、くふ‥‥」 
トクン、トクンと裸身だけは火照りつづけ、めくるめくアクメをむさぼって断続的な 
痙攣をくりかえしている。どうしようもない刺激。どうしようもない拘束‥‥絶望の 
ふちで、最後の快楽の火花がひときわ激しく燃え上がるかのように。 
ゾクゾクッと神経を灼きつくす快楽の波に呑まれ、何度も弓なりに背中がそりかえる。 
初めから、危険だと思っていた。 
危うい拘束具だと分かっていたのに、なぜ私は杜撰な自縛を選んでしまったのか。 
いけない、そう思う。 
朦朧とした意識が、間違った方向へ動いている。考えちゃいけない‥‥ 
けれど。 
本当の私は、なす術もなく自由を奪われるこの瞬間を待ち望んでいたのではないか? 
ドクンと、心臓が大きく脈を刻む。 
セルフボンテージに嵌まっていったのも、そう。 
二度と感じることのない究極の絶望を私は味わいたかったのか。OLではない本当の、 
拘束されたマゾとしてアパート全員のさらしモノにされ、嬲られたいと願っていたの 
ではないか。 
ならば、残酷きわまるこのシチュエーションこそ、最高の快感なのではないのか。 
もはや私には、自縛から逃れる手など何一つ残されていない。 
こうして怯えながら一睡もせずに夜明けを迎え、やつれきった白い肌に固く革を食い 
込ませた無残な姿で他の住人に発見されるのを待つしかないのだ。 
牝の匂いをまき散らして‥‥それが、私のエクスタシーなんだから‥‥

「ッグ、ひぅ、いぅぅぅ‥‥んぁァッ!」

思った瞬間、狂乱が下腹部を突き抜けていた。

灼熱の怒涛と化して、濡れそぼったクレヴァスから異様なほどの愛液がこぼれだす。 
ぬめりきった熱い蜜壷はぞぶぞぶとバイブを噛みしめ、一斉に微細な蠕動をはじめた 
肉ヒダから、過敏になった神経はめくるめくアクメの波を、不自由な全身のすみずみ 
にまで送りこんでくるのだ。 
ゾクン、ゾクンと律動めいた絶望が、子宮から津波の勢いで全身をひたしていく。 
鈍くだるかった手足や、拘束されたカラダさえ昂ぶる被虐の波に呑み込まれ、絶頂を 
おそれて激しい身もだえを繰り返してしまう。 
アナルプラグをきゅうきゅう拡約筋で絞りたて、生々しい異物感に心奪われたまま。 
ニップルチェーンをおっぱいにあてては、ぐぅっと一点に集約する痛みを味わって。 
こんな‥‥ 
発情した獣のように、とめどなくイカされてしまう‥‥ 
どれほど強くもがいても、どれほど嫌がり、心で抵抗しても。 
逆らえば逆らうほど、甘い奴隷の悦びばかりが全身にふきこぼれてきて‥‥ 
ボールギャグにギリギリ歯を立て、ほとんど絶息しながら私はマゾの高みに昇りつめ 
ていった。

               ‥‥‥‥‥‥‥‥

曲げた膝を90度に固定されたままでも、膝立ちの要領で上半身を起こすことはできた。 
縛り上げられた両手でカラダを支え、肘を振りあげてエレベーターのボタンを押す。 
回数表示が動きだし、やがて、屋上で止まる。 
‥‥ポーン 
チャイムから開くまでの一拍、緊張のあまり全身がヒクンと収縮した。 
ドアが開く。 
無人だった。 
開いたエレベーターは無人だった。当たり前だ。深夜のこんな時間、わざわざ屋上に 
やってくる住人などいない。ふぅ、ふぅぅっと、四つんばいの拘束姿で身構えたまま 
全身の毛が逆立ち、ひきつった裸身が恐怖の余韻で跳ねている。 
惨めな子猫だ‥‥ 
わななく被虐の戦慄はそのまま快感の波浪となって子宮の底に流れこみ、渦をまいて 
熱いしぶきをふきあげた。ひときわ濃い蜜液がトロリと下の唇を彩り、なめまわす。 
よく躾けられた、発情気味の猫。 
乗り込んだエレベーターの中で同じポーズを取り、9階のボタンを肘で押す。 
沈みこむ感覚が、下半身をそっと慰撫するようにかき乱した。 
‥‥ポーン 
再び開くドアの前で、私はギクギクと緊張しきっていた。 
こんなにもおののいて、疲弊して。 
私が私でなくなっていく、そんな感じさえするのだ。 
9階のエレベーターホールに降りた私は、脱力した四肢をつっぱってのろのろと廊下 
を戻っていく。 
もう、かまわないと思った。 
だれに見られてもかまわない。住人に出会っても、悲鳴をあげられても‥‥あるいは、 
犯されても。それだけのミスをしたのだと思えてならないのだ。 
907号室の窓からは、さっきと違って細く明かりが見えた。水谷君が帰ってきている。 
なら、私にできることは一つきりだった。 
のろのろと自分の部屋の前に、四つんばいで向かう。 
水谷君を呼び出して助けてもらうのだ。どれだけ恥ずかしくても、耳たぶまで真っ赤 
になってしまっても、それ以外にこの残酷な自縛を解く方法なんてないのだから‥‥ 
カツン、と足を固定する金属バーがひっかかり、反響が消えていく。 
足が、止まっていた。 
「‥‥‥‥!!」 
目にしたものが信じられず、全身がすくみあがった。 
充血し、汗ばんでいた裸身がみるみる鳥肌だっていく。そんな、まさか。 
たしかに確認したはずなのに‥‥

「ニャー」

心細げにテトラの声が響く、私の家のドアは。 
つっかかった靴べらがはさまって、うっすらと開いていたのだ。

              ‥‥‥‥‥‥‥‥


「どうしたの、早紀。なんか嬉しそう。彼氏でもできた?」 
「ん?」 
運転席からバックミラーごしにこっちを見る友人に、私は笑いかえす。 
結局、あの後‥‥ 
どうにか部屋に戻った私は、床に転がっていた給湯器のリモコンに救われたのだった。 
浴槽からお湯をあふれさせ、形状記憶合金の手枷をひたして外したのだ。 
その後、もどかしい縄抜けは30分以上かかり、曲げっぱなしだった肘も膝もしばらく 
しびれきっていた。 
絶望の底を舐めつくした、震え上がるような奴隷の一夜。 
「ふふ、ひさびさの腐れ縁じゃないの。楽しくないはずないじゃない」 
「うわ〜、腐れ縁だって。大学時代、どれだけ私が早紀に尽くしてあげたか忘れた?」 
「ん〜、合コンのダブルブッキングで冷や汗かいたこととか?」 
そらっとぼけると、二人の友人はころころ笑う。 
同乗するのは大学時代の友人たち。一人は私と同じOL、もう一人は共働きの主婦を 
している。二人とも、危ういSMなど興味もないだろう。 
私にとって、セルフボンテージはつかのまのスリリングな遊戯だ。 
それが日常であってはならない。ときおり快楽のふちをのぞく‥‥だからこそ、興奮 
はいや増すのだ。 
もちろん、あの夜の謎は残っている。 
閉じてたはずのドアがどうして開いたのか。テトラが何かしたというのか。 
あるいは、私が早とちりしただけで最初から薄く開いていたのか。 
たしかに閉じたドアを私は確認したと思う。思うけど、あの混沌と、朦朧とした記憶 
をどこまで信じれば良いのか‥‥ 
けれど、私は深く考えないことにしていた。 
もし、あれがまだ見ぬ誰かの行ったささやかな介入なら、それでも良いと思うのだ。 
「‥‥」 
いや、うん、室内を見られちゃったりするのは、やっぱり、イヤだったりするけど。 
やっと分かったのだ。 
ご主人さまが誰か、どこにいるのか、私が悩む必要などない。 
こうして遠隔調教を受けているだけで、私のカラダは開発されていく。それで充分だ。 
このカラダが、完璧な調教を施された時‥‥ 
あるいは、本当に私がセルフボンテージから抜けだせなくなり、助けを必要とした時。 
ご主人さまは必ず現われてくるとそう思えるのだから。犯人探しのように、うたがい 
を抱く必要などない。 
水谷君からのお誘いも、喜んでうけることにした。 
旅行から戻ってきたら、彼がその「ちょっと良いお店」に連れて行ってくれるらしい。 
素直に喜んでいる自分がいるし、それでいいって感じている。 
分かってしまえば簡単なこと。 
私は、私のままでいればいいのだ。 
いつご主人さまが現われたって、私は、奴隷として尽くす用意ができているのだから。 
ご主人様のために、いくらでもいやらしくなれると思う、私は‥‥ 
「ほらぁ、早紀、またにやけてるぅ」 
「え、ええっ? 失敬な」 
「失敬な、じゃないよ。なんだ〜、なに隠しごとしちゃんですか〜。このこの〜」 
大学時代のような、無邪気な笑いが車内にあふれていく。 
そうして、私はつかのまのじゃれあいにすべてを忘れ、旅行に向かったのだった。

                                  (fin)


出典:萌えた体験談DB
リンク:http://www.moedb.net/articles/1245122270
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