油絵 (恐怖の体験談) 5316回

2020/07/20 15:57┃登録者:えっちな名無しさん◆Eg2dVo4A┃作者:名無しの作者
 これは知人から教えてもらった、田中さん(仮名)という方が体験されたお話です。
 当時、田中さんはとある不動産会社で働いておられたそうです。そんなある日、会社に一本の電話がかかってき、田中さんが対応されました。
 電話の相手は、田中さんの会社が扱っていた中古物件に以前住んでいた元家主で、山本(仮名)と名乗る男性でした。
「引っ越しの際に、リビングに飾っていた油絵を置いたまま出て行ってしまった。今は遠方で暮らしていてなかなか出向く事が難しいため、申し訳ないけれど、そちらの方で処分しておいてくれないか」
 そんな感じの事を山本さんは言ってきたそうです。
 油絵くらいなら別に支障はないだろうと、田中さんは軽い気持ちでその旨を承諾し、山本さんとの電話を終えました。
 後日、仕事の所用でたまたまその物件の近くに行く機会があり、田中さんは山本さんの電話を思い出し、ついでにその場所へと向かったそうです。
 そこは二階建てのごく普通の一軒家。建てられてからかなりの年月が経過している様子で、外壁は汚れていたり表面が剥げていたりと、新居を探している人間にはイマイチ心惹かれる物件ではなさそうでした。それでもまだまだリフォームをすれば再活用出来そうで、そこまで老朽化が進んでいる訳でもなかった様です。
 田中さんは会社から持ってきた鍵で玄関を開け、中へと入りました。
 玄関を上がった途端、それまで青空の穏やかな天気だったのが一転、突然外ではかなり強い風が吹き出したようで、開けっ放しにしていた玄関のドアがバタンッ!と勢いよく締まり、ガタガタガタガタ!とガラス戸や雨戸が一斉に鳴り出したため、田中さんは思わずビクッとなり大変驚かれたそうです。
 それでも薄暗い廊下を歩き、田中さんはリビングへ。電話で言っていた通り、そこに油絵があったそうです。
 家財道具は跡形もなく撤去された部屋の片隅に、20号程のサイズの額縁に納められたその油絵は、壁に立て掛けられていました。
 絵は、長いブロンド髪に白い肌の十五歳前後といった風貌の少女が描かれており、椅子に彼女がちょこんと座っているのを、真正面から見た構図だったそうです。少女の身なりや服装からして、十七〜八世紀くらいのヨーロッパ貴族のお嬢様といった感じで。理知的な雰囲気と端正な顔立ちの美少女でした。田中さんはしばらくその油絵に魅入ってしまったそうです。
 それまで田中さんは、同じ様な少女がモデルの絵画にこれといって興味を抱く事はなかったそうですが、なぜかその時だけは、その少女の油絵に釘付けとなり、堪らない愛おしさを覚えたとの事でした。そしてその感情は徐々に、この絵を自分のものにしたいという欲求へと変わっていき、
(処分してくれって言ってたんだから、俺がこの絵を貰っても問題ないよな)
 そう思った瞬間、もう田中さんの中ではこの少女の絵を我がものにするの一択になっていたそうです。
 田中さんが絵を持って帰ろうとしたちょうどその時、突然ガチャッと玄関の戸が開く音が聞こえ、
「おい、誰かいるのか?」
 そう言って家の中に入って来たのは、田中さんが勤める不動産会社の社長でした。
 後で聞くと、社長もその日たまたま田中さんとは別の用事でこの家の前を通りかかり、会社の車が停まっていたため不審に思い、家の中へ入ってきたとの事でした。
 お互い顔を見合わせてビックリし、
「こんなとこで何してるんだ?」
「いや……あの、違うんです……」
 慌てて田中さんは、社長に事の経緯を説明したそうです。以前ここの家主だった山本さんから電話があった事。この家に残された油絵を処分しておいてくれと言われた事。
「山本さんから電話……」
 なぜか田中さんの説明に対し、社長は困惑の表情となったそうです。
「どうかしましたか?」
 社長の様子に、田中さんは思わずそう問い掛けました。
「あのさ……その人、本当にここの家主だった山本って名乗ったのか?」
「はい」
「………」
「社長?」
「あり得ない……そんな事は、あり得ないんだよ……」
「え?」
「十年前まで、確かにここには山本さんとその家族が暮らしてたんだ。君が入社する前の話だから知らないだろうけど、その山本さん……一家心中してるんだよ」
「………」
 あまりに予想外な社長の返答に、田中さんはしばらく茫然自失だったそうです。
 すぐさま社長は、そんな田中さんの腕を半ば強引に引っ張り、二人でその家から出ました。
 家を出て、ようやく田中さんは冷静さを徐々に取り戻し始めましたが、
「今日はもう帰っていいから、ゆっくり休みなさい」
 社長は田中さんへそう気遣ってくれたそうです。ただ今回の一件は他言無用だと、厳しく念を押されたとの事。田中さんも今から会社に戻ったところで、冷静に頭が回る自信がなかったため、社長の好意に甘える事にしたそうです。
「こんなのどかな小春日和に、君も最悪な目に遭ったなぁ」
 社長のその言葉に、田中さんは先程の急な突風がいつの間にかすっかり治まっている事に気付きました。
「そういえばさっき、急にすごい風が吹いてビックリしましたよね」
 何気にそう田中さんが口にすると、社長は首を傾げ、
「え?そんなきつい風、さっき吹いてたか?」
 それから何年も月日は流れ、田中さんも現在は転職されて、住所も職場も別の所だとの事。あの家にはまだ少女の油絵が残されているのか、そもそもあの家自体がまだ存在しているのか、今となっては確認の仕様もないとの事です。
 なぜあの時、自分があそこまであの少女の絵に魅入られ執着してしまったのか、まるで分からないとの事。ただ当時の事を振り返りながら、
「超常現象みたいなのがあるのかないのかは別にしても……あの時あの絵を持って帰っていたら、何かとんでもない事が起こってた気がするんだよなぁ……」
 と、田中さんは仰られていたそうです。

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