Tokyo Mobile (エロくない体験談) 103927回

2006/09/10 23:46┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
ケータイにメールが入った。
社会人2年目で学生時代の友達とも連絡が途絶えがち。
会社の同期とかとはあまり気が合わず、おまけにここ1年くらい彼女もいない。
最近入るメールといったら出会い系の迷惑メールくらいで、
その日も会社帰りの電車の中で疲れきった状態でそのメールを見たんだ。

ただの広告メールだと思って開いた。
案の定広告メールだったんだけど、内容は普段来るような奴とは一風変わっていた。
内容を要約すると月2万で20歳の女の子がメル友になってくれるというものだった。
「癒してあげます」という言葉に俺はひかれた。
もう毎日仕事で疲れきっていて、少しでも癒されたかったから。
申し込みのURLが貼ってないのも普通の出会い系のメールとは違ってた。
どこにも連絡先が書いてない。
とりあえず偽装のメルアドかどうか確かめようと思ってそのメールに返信をしてみた。
内容はどのくらいの頻度でメールくれるの?っていう質問。

返事はすぐに来た。
返信はできるだけすぐに返すし、こっちからもメール出したりもするよ、
という内容だった。
正直に言って、こんなメールのやりとり自体が久しぶりだった。
ずっと仕事のメールと迷惑メールしかこなかったからね。
ただそもそも、相手が本当に女なのかもわからないし、やっぱり怪しさ十分だった。
あとで変な請求書が来たりしないかな、と詮索してたらまたメールが着信した。
「とりあえず3日間お試し期間として無料で相手してあげるから、それで決めて」
フリーメールでもないし、携帯の生アドレス同士。
ちなみに俺はSE。
これで架空請求みたいな詐欺に合うことはないだろうと踏んで、
俺はそのお試し期間とやらをお願いし、メールのやりとりが始まった。

メールのやりとりは、まずお互いの自己紹介から始まった。
まずはお互いの名前。当然偽名。
俺は隆と呼んでもらうことにし、向こうは美紀と名乗った。
自分が会社員でSEであることなど、経歴を正直に書いていった。
向こうは仕事については秘密だそうだ。
案外これだけが収入源だったりするのかも知れない。
暇な主婦がやってるかも知れないし、実は無職のおっさんが相手かも知れないが、
そのあたりは気にしないことにした。
いつも死ぬほど長く感じる電車が、その日はあっという間に自分の駅へと到着した。
それだけでも何か癒された気になった。
恋愛は老人のボケ防止にいいと言うがきっと本当なのだろう。
架空の有料擬似恋愛のメールでも俺の気分は随分とフレッシュになった。

ちょうど電車が駅に付く頃、メールの返事もダレてどうでもいい内容になってきた頃だったので、
返信せずにメールのやりとりを一旦終了させた。
家に着くといつもの散らかったアパート。
とりあえず風呂にお湯を張り、着替えてお湯に使った。
少し冷静になり、メールの相手のことを考えた。
まず気になったのはどうやって俺のアドレスを知ったのか。
名前に誕生日というオーソドックスなメルアドなので、たまたまなのかということ。
あとはやはり本当に女なのかということだけが気になった。
25の仕事漬けの彼女もいない男が、
おっさんとのメールに喜んで金払ってたら悲しすぎるからね。

風呂上りにメールを出した。
「とりあえず、何か美紀が本当に女だってことを証明できないかな?
 メールだけだと性別もわからないから、これじゃちょっとね」
しばらくメールを待つ。この感じも久しぶり。
なんて返事してくるんだろうという期待感と、
怒らせるようなことを書いてしまったのではないかという不安感が入り混じった、
苦しくも心地よい感覚。
メールをまつ5分が10分にも15分にも感じられる。
しばらくするとメールが入ってくる。
「パソコン用のマイクついたヘッドホンか何かある?
 それで声聞いてもらえば証明になるかな」
なるほど。
こっちとしても電話番号は教えたくないのでこれなら確認できるだろう。
もしかしたら偽者を用意されるかもしれないけど、
夜の12時近くにそんな手際よく代打をたてるのも難しいだろう。
俺はそれで納得し、あとはお互いにスカイプの捨てIDを登録してメールで連絡しあった。

ログインしてPCの前でしばし待つ。
美紀らしい人物から承認依頼が来て、OKをするとすぐにコールが鳴った。
「もしもし」
「はい」
「もしもし、隆、聞こえる?」
何のためらいもなく呼び捨てにされる。
まあ擬似恋愛なのだから「さん」づけや「君」づけではおかしいんだが。
「うん、聞こえてる」
「どう?ちゃんと女の声でしょ?」
「うん、女の子だね」
「疑り深いねえ、まあ仕方ないけど」
意外と若い声。ちょっとギャルギャルしい話し方。俺とはあまり縁のないタイプの人種。
「若いね、声とか話し方とか」
「そうかな?でももうこれ以上は無しね。
 ケーヤクガイだから。ではとりあえず3日間、メールよろしく。」
挨拶をしてスカイプは切れた。
意外とサービス内容については厳しいようだ。
まあメールの方で品質が伴えば問題はないんだけどね。

コンビニ飯を腹に納めながらテレビを眺める。
しばらくしてメールが着信。
「女だってことは納得してもらえたかな?もう寝るね。オヤスミ」
元カノと別れたのが社会人になってすぐの頃だから、約1年ぶりのオヤスミメール。
「オヤスミ。その内、顔も見せてもらいたいな」
調子にのって写メを要求してみる。
「顔は無理〜。今度こそ本当にオヤスミ」
メールのやり取りだけだと完全に恋人気分。これなら2万払ってもいいかなと思う。
寂しい男だと思われるだろうけど女運と言うのは一度離れてしまうと中々戻ってこないもの。
最近じゃ合コンの誘いも少ないし、仮に誘われてもドンドン消極的になってる自分がいる。

その夜考えてたことは、お金の支払方法。
まさか携帯会社から請求はこないだろうし、カード決済も無理だろう。
そうなると振込みか手渡しになるのかな。などなど。
お金で手に入れる奇妙な関係。
傍から見ればこれほど虚しいものはないんだろうけど、
俺はまるで久しぶりに彼女でもできたかのような気分で久しぶりに上機嫌で眠りについた。
翌朝はいつもどおり6時起床。朝食は食べない方。
7時ちょい過ぎの電車に乗って出勤。
8時近くになって、まだ次第に混雑がひどくなる電車の中で携帯が震える。
「おはよー。もう起きてるよね?出勤途中かな。仕事がんばってね」
おはようメールまでくれるとは中々仕事熱心な業者さんだ。
ただ、鉄の棒を握って社内の混雑に耐えてるお兄さんには、メールは読めても返事は書けないんだな。
しばしお待ちを。
電車を乗り換えるターミナル駅で歩きながら返信。
「電車混んでて返信できなかった、おはよう。もうこの時期は車内蒸し暑くて地獄だよ」

またすぐに返信。
「あたし満員電車は絶対ダメ。もうせまいし気持ち悪いし、この季節は特にダメ」
ここまで強調するってことは、満員電車には乗ってないんだろうな。
これでOLとかの線は消えた。フリーターかニートかも知れない。
いやでもこのメールも「仕事」だからニートではないか。
こんな風にして、メールのやりとりは始まった。
ただ困ったのは話題だった。
基本的に向こうの素性は明かして貰えないので、質問はNGになってしまうことが多い。
あとは恋人同士なら週末にどこに行くかとかで盛り上がれるんだろうけど、
顔を会わせることの無い俺たちには無理な話題。
擬似恋愛の弱点がお試し期間中にすでに露呈。
そして3日が過ぎて、その日の朝にお試し期間終了のメールが来る。
「3日たったけどどうする?月2万で続ける?」
「ちょっと考えてもいい?」
「いいよ。できたら今日中に返事ちょうだい」

とりあえずこのメールが月2万に値するかを考えた。
とりあえず、彼女もいない残業だらけのSEとしては、別にこのくらいの出費は痛くない。
そしてなんというか、メールをやりとりする恋人のような存在がいると、
例えそれがお金で買った擬似的なものであっても、頭のキャパが結構そっちに裂かれて、
それがいい具合に仕事のストレスを軽減してくれるのだ。
すぐに話題が尽きるような気もするし、
やりとりがワンパターンになって飽きるかもしれない心配もあった。
でもまあその時は解約させてもらえばいいか。
その日の帰りの電車で俺は返事のメールを送った。
「あなたを私の有料メル友として採用いたします。ではしばらくの間よろしく。」
「やった!こちらこそよろしくね!」
メールの文面からも向こうの喜んでる様子がよくわかった。
顔がわからないのでイマイチ想像力がかきたてられないのが残念だったが。

こうして月2万の有料擬似恋愛の契約が結ばれ、話は料金の支払方法へと移った。
支払は毎月先払いで支払い方法は振込みとのこと。
メールで振込先が送られてきて、俺は翌日中に振り込むことを約束した。
翌朝、通勤途中にATMに立ち寄り、連絡のあった口座にお金を振り込んだ。
連絡があったのは、銀行と支店とと口座番号の4つ。
口座の種別と名義人名は書いていなかった。
口座はとりあえず普通口座を選択して、口座番号を入力した。
振込先の確認画面で出てきた口座の名義人名は「ワカバヤシ ミカ」。
美紀とミカ。
これが本人の口座だとしたらいかにも安易につけた偽名だ。
ひょっとして振り込む時に名義人名が出てしまうことを彼女は知らないのだろうか?
最初のメールを貰った時から、どうも素人くささが漂う。
なんらかの組織に所属してやるなら自分の銀行口座に直接振り込むなんてことはないだろう。
だいたい、広告メールを自分の携帯の本アカで送るなんて危なっかしすぎる。
今、俺とやりとりしてるアドレスは最初の広告メールを送ってきたアドレスそのままなのだ。

彼女とのメールは初めの内はルールがわからず戸惑うことが多かった。
設定としては恋人同士がするメールなのだが、
彼女の仕事などの現在の状態について聞くのはNGらしい。
その代わり、「今何してるの?」といったような当たり障りのない内容なら無難な返事が返ってくる。
あとは彼女の現在の話はダメでも、過去の思い出話なら平気だということも分かってきた。
俺の方はと言えば、特に隠し立てするようなこともないので、
実名や会社名こそ出さないものの、話したいことをどんどんとメールに書き連ねていった。
過去の恋愛、仕事の愚痴、最近見た映画、テレビの話。
メールの往復は一日数十回。
もし俺以外にも客がいるとしたら、
彼女は一日何通のメールをやりとりしているのだろう。
キーボードならともかく携帯でそんなに大量のメールをさばけるのだろうか。
しかし声の感じからすると、彼女は二十歳かそれ未満に感じられた。
この世代は中学校から携帯を持っててもおかしくない世代。
親指タイプ暦6年。
しかも中学生というもの覚えのいい時期から始めているんだ。
そのくらい出来てしまうのかもしれない。
おそるべし、親指タイプライター。

彼女のメールは実にマメだった。
朝のオハヨウメールから始まり、通勤電車、仕事の休憩時間、家に帰ってから寝るまでの間。
返信は光の速さで返ってくる。
待たされることはめったにない。
1回のメールのボリュームも少なすぎず多すぎず、話の内容も楽しかった。
なんというか、彼女は聞き上手なのだろう。
メールで『聞き』上手というのもおかしいかな。
正しくは『読み』上手?
会社でも喫煙所で頻繁にメールをしている俺の姿が目立ったらしく、
「彼女できたんですか?」とからかわれることが、たびたびあった。
さすがにそこで「彼女ができた」というのははばかられ、
「いや、友達ですよ」と返事をしていた。
だが暇さえあればメールをしている俺の姿から、
社内では気がづけばすっかり彼女持ちとして認識されるようになっていた。
一度も肯定してないんだけどな・・・・。
現在の彼女の素性を聞いてはいけないというNGはあったものの、
それでもお互いのことはしだいに理解が深まっていった。
どちらかというと慎重派で穏やかであることを望み、
我慢強い俺に対し、明るく自由奔放で、我慢をすることが嫌いな彼女。
人間、自分と似てない相手の方が魅力的に感じるのだろうか。
自分と違って社交的な印象を受ける彼女に俺はどんどん好感を持っていった。

どこかで読んだ話によると、
人間はその時、最も接触回数の多い異性に恋愛感情を抱きやすいらしい。
メールでのやり取りが『接触』と呼べるのかは定かではないが、
俺が彼女に恋愛感情を抱くのは時間の問題だった。
顔も知らない、声だってほとんど聞いたことない相手なのにね。
おかしいでしょ?
最初のひと月が経つ頃には、俺はメールだけのやり取りでは満足できなくなっていて、
顔も知らない彼女への想いで胸を苦しませていた。
ある夜、恒例のオヤスミメールの時、俺は思い切って
「オヤスミ、美紀。好きだよ。」
と送ってみた。
返信は即座に返ってきて
「あたしも隆が好きだよ。おやすみ〜」
と書いてあった。
自分でやっておいてこんなことを言うのもなんだが、虚しくなって後悔した。
恋人同士という設定での有料メールなのだ。
「好きだ」と言えば「好きだ」と、
「愛してる」と送れば「愛してる」と返事が来るに決まってるのだ。
「そうじゃない、顔も見たこと無いのに君のことが本当に好きになったんだ」
そんなメールは送れるはずもなく、俺の胸の苦しさはどんどん締め付けがきつくなっていった。

最初の1ヶ月が経ち、2月目をどうするかという話になった。
毎月10日は契約更新の日。支払はお早めに。
当然のことながら、この有料メールの生活にはまってしまっていた俺は契約の延長を申し込んだ。
そして彼女にちょっと無理なお願いをした。
有料メルカノは今後も続けたい。
でも美紀の顔写真が欲しい。
ピンボケしててもいいし、遠くから写して漠然としか顔が分からなくてもいいからと。
当然彼女は断ってきたが、相手のイメージすら全く分からないのでは、
擬似恋愛に感情移入がしきれないと説明し、俺は交渉を粘った。
今にして思えば、偽者の恋愛に感情移入をすることは愚かな行為でしかないわけだが。
しばらく考えさせてと彼女は言い、1時間後、写メが添付されたメールが送られてきた。
写真はピンボケもしてなくて、顔がはっきりと写っていた。
もっと派手な感じを想像していたが、大人し目の髪の色と、
可愛いというより美人系の整った顔立ち。

「本当に本人なのかな」と疑いながら送られてきた写メを眺めていると、
そんな俺の心を見透かしたかの様に、2つ目の写メが送られてきた。
今度の写メではさっきの写真と同じ女の子がメモを持っている。
『8/10 美紀(ハート)』これで本人確定。
俺はすぐにお礼のメールを送った。
そして自分で要求しておきながら
「こんなちゃんと顔が写ってる写真送って大丈夫なの?」
と彼女を心配するメールを送った。
矛盾する言動。馬鹿丸出し。
彼女が言うには、写真を送ってそれがネットとかに出回らないかが心配だったのだと言う。
でもこのひと月メールをしてみて、俺はそういうことはしない人間だと判断してくれたのだという。
顔を見せること自体は別に嫌ではないらしい。
信用してもらえたのは嬉しかったけど、それでもやっぱり無用心すぎると思った。
ひと月やそこらで、しかもメールだけのやりとりなんかで相手を信用しちゃダメだ。
自分の彼氏だって結構危険。
でないと、ネットに出回る数々のハメ撮り写真の説明がつかない。
付き合った相手だって、別れ際がこじれたら、何をしでかすかわからないっていうのに。
その夜は彼女にオヤスミメールを送った後も、なかなか寝付けず、
彼女の写メをベッドの中で眺めて、メールの相手が思いのほか美人であったことに、
なんだか得した気分を味わっていた。

その頃俺は、よく「恋愛感情とはなんなのか」についてよく考えていた。
何をもって、その対象を「好きだ」と人は感じるのだろうか?
顔だろうか。内面だろうか。
生物学的には性交できる確率が高いとそうなるんだろうか。
だとすれば、俺が彼女とセックスできる確率は果てしなくゼロに近いわけだが、
それでもその時点での俺の交遊範囲のなかで、もっとも交流の頻度が高い美紀を、
俺の脳は最もセックスできる確率の高い相手としてはじき出し、
彼女に対する恋慕の情を生み出しているのかもしれない。
そんな風に、どんなに考えて彼女への恋愛感情を正当化しようとしても、
一歩下がって客観視すれば、俺は金で買ったメールを喜んでいる寂しい男なのだ。
そんなことはずっとわかっていて、だから彼女が俺のことを「信用」して、
顔写真を送ってくれたことがよほど俺には嬉しかったのだろう。
このメールのやり取りは、初め思っていたほどビジネスライクなドライなものではない。
やり取りを重ねていくうちに向こうも段々と情を通わせてきている。
まあ情と言っても恋愛感情とは程遠いかもしれないけど。
キャバクラに通う人の気持ちが少しわかった気がした。
そして自分の嬉しさの表現と、写真の俺をかねて、俺は翌日3万円を振り込んだ。

こうしてメールを媒介とした俺と美紀の擬似恋愛生活は2ヶ月目を向けた。
実際に会ったことがないことと、彼女の素性が分かるようなことには触れてはいけない。
この2点を除けば、俺と彼女のやりとりは本当の恋人同士と何も変わらなかった。
まさかお金を払ってる相手と喧嘩まですることになるなんて。
ちょっとこのオプションはリアリティを追求しすぎだと思わない?
彼女から怒りのメールが届いたのは、お金を振り込んだ翌日の昼だった。
「なんか3万円振り込まれてるけど何で?」
俺は顔写真を送ってくれたお礼だと言ったが、それが彼女を怒らせたらしい。
写真を送ってくれたのは俺を喜ばそうとした彼女なりの善意であって、
それに対してお金を払われたことが彼女には不愉快だったのだ。
俺は彼女がこの契約関係をやめると言い出すのではないかとハラハラした。
恋人に別れ話を切り出されるのではないかと心配するかのように。
こんなサービスいりませんから。

俺の謝罪メールに対して、彼女は返事をくれなくなり、
ハラハラしながらその日は仕事を終え、家路についた。
帰りの電車の中と、家についてからと俺は謝罪のメールを出し続け、
彼女からのメールを待ち続けた。
その日、0時を過ぎた頃、ようやく彼女から返事が来た。
感謝の気持ちを表すのに、俺たちの関係上、
お金という手段をとってしまったのは仕方がないじゃないかという俺の主張を、
向こうはある程度納得してくれたらしい。
ただ、感謝の気持ちを表すのにお金を使うというのはもう止めてくれと彼女は言ってきた。
俺は彼女の要求を全面的に受け入れ、傷つけたことを再度謝罪した。
これに対し、彼女が「仲直りのしるし」と「罰ゲーム」として要求してきたのは
俺の顔がはっきりと写った写メールだった。
その夜、俺は風呂上りの頭を真夜中にセットしなおし、
できるだけ男前に写るよう、夜中の2時まで自分の携帯と格闘することとなった。

この事件がきっかけで、俺の彼女に対する想いはより一層深まった。
通勤電車、会社の喫煙所、家のベッドの中。
俺は彼女の写真を始終眺め、ため息をついては胸の苦しさを感じるほどだった。
あとはこの事件のお陰で、彼女は「怒る」という感情を示すほど、
俺との関係をちゃんとした人間関係として認めてくれているということがわかり、
俺はちょっとだけ彼女との未来に希望を抱いたりしていた。
だってそうでしょ?
本当にお金の為だけにメールのやりとりをしていたのなら、
お金を多く振り込まれても怒るはずがない。
そんな風に俺は彼女との今後に期待感を膨らませ、
この頃から彼女の気を引くように色々と小細工をしはじめた。
メールだけの関係でも色々と方法はあるんだよ?
メールの返事を少し遅らせてみたり、たまにはそっけなく、ちょっと冷たい返事をしてみたり。
そしてその後は、うんと優しく「愛してる」と伝えたり、感謝の気持ちを綴ったり。

でも一番努力したのは、彼女の聞き手にまわろうとしたこと。
これまでは一方的に自分の話したいことを話し、彼女はひたすら聞き役にまわり、
俺を慰め、生活に潤いを与えてくれていた。
今後はそうではなく、自分も彼女のよい聞き手になれるよう、自分なりに努力し始めた。
一方的に彼女を必要としてる関係ではなく、彼女にも自分を必要として欲しかったのだ。
月2万のお小遣い以外にもね。
メールの件でも分かるように、この頃には俺と彼女の間にある程度の信頼関係がなりたっていた。
だから彼女に自分の話をさせるよう仕向けることはそんなに難しくはなかった。
もちろん最初から彼女がペラペラと自分のことを書いてくるはずもなく、
俺はメールの中に少しずつ質問を織り交ぜ、少しずつ彼女の周りの壁をとりはらっていった。
素性が知れるようなことはいつまでたっても教えてくれないものの、
昔の思い出話、最近面白かったテレビ、その日の予定、楽しかったこと、頭に来た事など、
少しずつ彼女は自分から話すようになっていった。
俺はそれに対し、彼女の中で世界一よい聞き手になれるよう、
熱心に耳を傾け、練りに練った返信メールを彼女に対して送り続けた。

そうして彼女の話を聞くうちに、彼女のことが少しずつわかっていった。
3人兄弟の一番上であること。
両親が厳しいこと。
今は一人暮らしであること。
仲が良かったけど喧嘩して連絡をとってない友達の話や、昔の恋愛の話。
ひとつひとつ、それぞれの話を聞き、
それに対して意見を交換していく内に少なくとも俺は、
お互いを段々と深く理解して行っているのだと感じていた。
同じ空間を共有しない、電波とケーブルで届く文字だけのつながりだけどね。
こんな関係はやっぱり希薄な人間関係だと思うかい?
直接会って交流しなければ、やはり深い人間関係にはなれないのかな?
自分でもそういう限界はずっと感じていたんだ。
でも俺にはひとつだけ希望があった。
それは彼女の銀行口座のある支店が、結構俺の家と近いのだ。
とは言っても電車で20〜30分と言ったところだけどね。
一応写真でお互いの顔は知っている。
どこかで偶然に出会うのではないかと、
気が付けば俺は外出時には無意識の内に彼女を探すのが習慣になっていた。
でもこれだけ人口の多い東京で、そんな偶然は宝くじに当たるよりも確率は少ないんだろうけどね。
銀行口座だって本人のものか分からないし、その近所に住んでいるとも限らない。
でもこれが唯一の慰めだったんだ。
こんな風にして、毎日会社と家を往復し、
その間、彼女と一日中メールをやりとりし、
通勤時間にはそのメールの相手との偶然の出会いを求める生活が続いた。
彼女と時間と空間を共有したいという欲求は日増しに強くなっていった。

ある日俺は彼女にデートを申し込んだ。
一緒に映画を観ようって。
もちろん実際に会ってのデートは断られるに決まっているので、そこはひとつ工夫をした。
ふたりで同じDVDを借りて、週末の同じ時間に一緒にその映画を観るのだ。
こんなのがデートだって言えないのはわかっている。
それでも彼女と少しでもいいから時間を共有する感覚が欲しいという願いから、
俺はこんなことを考え付いたのだった。
まあ元ネタは昔雑誌で読んだ遠距離恋愛のカップルの記事なんだけどね。
俺のバーチャルデートのオファーは彼女に承諾され、
ある週の土曜日に同じ時間にそれぞれ別のレンタルビデオ店へと足を運んだ。
あらかじめタイトルを決めておいて、それぞれ別々に借りてもよかったのだが、
新作は全部貸し出し中になってる心配があったし、
旧作は置いてある店と置いてない店があるだろ?
だから同じ時間にビデオ屋に行って、
メールで相談しながらタイトルを決めることにしたんだ。
偶然同じビデオやでばったりと出会う。
そんな期待をしていたのは彼女には内緒。
実際そんな偶然は起こらなかったけどね。

新作は案の定、全部貸し出し中のものが多かった。
俺の方では借りれても向こうが借りれなかったり、その逆だったりしてあえなく断念。
色々相談の末、結局借りたのは去年あたりにリリースされた、
韓国の純愛映画。恋愛モノに誘導したのはもちろん俺。
だって初デートの映画ってそういうものでしょ?
帰りにコンビニでスナックと飲み物を買って準備完了。
彼女はじゃがりこを買ったみたい。
もし本当に一緒に映画を観ることがあったら、じゃがりこは勘弁して欲しい。
だってあれ、食べる時の音が大きいし。
14時ちょうどに映画をスタート。
話には聞いていたけど、韓国の映画は本当に話がゴテゴテしすぎてる。
この映画にしても、ヒロインの昔の恋人に主人公がそっくりだったり、
別れた二人がお見合いのようなものでまた偶然に再会したり。
それでも話自体は爽やかな純愛モノで、セレクションはまずまずだった。
観終わった後のメールも、結構盛り上がったしね。
それでも俺の物足りなさは解消されるはずもなかった。
同じ時間に同じものを観る。
それは確かに嬉しいけれど、
俺は映画のそれぞれのシーンで彼女がどんな表情をするのかが見てみたかった。
大体、肝心の映画の最中に、メールは出せないからね。
延々と続くないものねだりのループ。
クモの糸みたいに絡み付いて、
彼女を想う胸の苦しさは日を追うごとにますますひどくなるのだった。

こんな風にして、日々、彼女への想いを募らせながら、
時間はあっという間に過ぎていった。
そして3回目の契約更新と料金の振込みが終わり、
それから一週間が経った頃、運命の日は突然やってきたんだ。
その日は日曜日で久しぶりの晴れの日だった。
俺は洗濯や掃除をしながらダラダラとテレビを見たりしながら過ごしていた。
夕方ごろに彼女からメール。
「今日は飲み会だから夜はメールできないかも」
がっかりしたけど仕方がない。
この2ヶ月ちょっとの間、たまにこういうことがあった。
彼女にも忙しい時間は当然あるわけで、異議の申し立てなんてできるはずがない。
「楽しんでおいで」
とちょっと大人ぶった態度をとって、俺は寂しい週末の午後を過ごすことになった。
この頃、彼女とのメールの内容は一部のNGを除けばかなり深い話ができる位になっていた。
それでも彼女に彼氏や好きな人がいるのかなんて聞けるはずもない。
NGのど真ん中だし、仮に彼氏がいるなんて言われた日には、
この擬似恋愛は成り立たなくなっちゃうだろ?
彼氏がいたら、違う男とこんなにメールができるはずがないと、
希望的観測で自分を慰めてはいたけど、
もしかしたら、こんなことを許す心の広い彼氏だっているかも知れない。
どこか男の家に泊まりにいってるのかもしれない。
今日は合コンなんじゃないか。
そんな疑念が浮かぶたびに、また俺の胸は締め付けられた。
なるべく考えないように頭の中からそうした考えを振り払い、
寂しくコンビニ弁当を食べて週末の夜をひとり悶々と過ごした。

翌日は仕事なので、0時を過ぎた頃に彼女にオヤスミメールを出し、
返事を待たずにベッドに入った。
今頃どうしているのだろうと、中々寝付くことができず、寝返りばかりうっていた。
ようやくウトウトし始めたころ、
充電器にセットされた携帯のバイブ音が部屋に鳴り響いた。
ベッドから飛び起きて携帯をチェックすると、メールは彼女からだった。
「やばい、終電寝過ごして終点まで来ちゃった。
 帰れない。」
もう10月。
外で朝まで時間をつぶせる季節じゃない。
俺はまわりにビジネスホテルかマンガ喫茶でもないかと彼女に尋ねたが、
どうも泥酔しているようでまともな返事が帰ってこない。
『駅名を聞いて迎えにいったほうがいいんじゃないか?』そんな考えが頭をよぎった。
もし彼女がOKしてくれれば、ようやく恋焦がれた彼女に会うことが出来る。
しかしそれは明らかにルール違反だ。
しかし彼女が今連絡をとってきてるのは俺だ。
彼女が頼ってきているんだし、この場合ルール違反も仕方がないんじゃないか?
でもなんで彼女は俺にこんなことを言ってきてるのだろう。
直接の知り合いに言った方が彼女には都合がいいじゃないか。
泥酔してそんなことも分からなくなっているのだろうか。
色んな考えが頭の中を駆け巡る。
「大丈夫?
 意識まだしっかりしてる?
 自分が今いる駅の名前ちゃんとわかる?」
彼女に警戒されないよう、迎えに行くとは言わずに駅名だけでも聞き出そうと試みた。
すぐにまた震えだす携帯。
しかし画面を見るとメールの着信ではなく、番号非通知の電話の着信だった。

電話をとると、やはり相手は彼女だった。
ろれつが回っておらず、かなり酔っていることがすぐにでもわかる。
何故俺の携帯の番号を知っているのか不思議だったが、
そんなことを聞きだせる状態ではなかった。
ひどい酔い方で質問をしてもまともな返事が返ってこない。
携帯から酒の匂いが伝わってきそうな勢いだ。
10数分の電話でのやり取りの末、
ようやく彼女から駅名と今いる場所の目印を聞き出した。
駅は車なら30分くらいで付く距離の場所にあり、
彼女はその駅前のコンビニの前にいるそうだ。
俺は迎えにいくからと彼女に告げ、
絶対にコンビニの前から動かないよう彼女に繰り返し伝えた。
急いで着替えて家を飛び出し、最寄り駅にダッシュ。
駅前でタクシーを拾い、彼女のいる駅へと向かった。
途中、ちゃんとコンビニの前にいるか確認のメールを何度か出した。
メール全てには返信がないものの、駅につくまでの間、
2回だけ「ちゃんとコンビニにいるよ」と返事があった。

純粋に心配する気持ちと、やっと彼女に会えることへの期待と不安。
そして何故彼女が俺の電話番号を知っていたのかという疑問。
色んな考えが頭のなかを交錯し、タクシーはようやく目的の駅へと着いた。

俺の心臓は大袈裟ではなく、
ほんとうに口から飛び出しそうなくらい早鐘を打っていた。

タクシーを目印のコンビニの前に止め、
俺は運転手にここで待っててもらえるよう頼んだ。
急いで降りて彼女を探す。
コンビニの外。
いない。
コンビニの中に入り一周する。
いない。
半分パニックになった俺は彼女へメールを出す。
だが返事も来ない。
外へ出て、近所を探そうと走り出そうとしたとき、
タバコの自販機に寄りかかって眠っている彼女をようやく発見した。
待ちに待ったご対面。
とんでもなく酒臭い俺のお姫様。
「おい、美紀。迎えに来たよ。分かる?」
「うん・・・・・わかるよ・・・・・ありがと・・・・」
とりあえず彼女にここで待つように言い、
俺はコンビニの中で2リットルのミネラルウォーターを買い、
彼女を引きずるようにして一緒にタクシーへと乗り込んだ。
水を買ったのは彼女の水分補給と、
タクシーで吐きそうになった場合の袋の確保のためだった。
タクシーの中でも彼女は即座に寝てしまい、
自宅の場所を聞き出すことはとてもできなかった。
『仕方なく』俺は運転手に自分のアパートへと向かってもらった。
初めての彼女との対面。
眠って肩に寄りかかってくる彼女。
お酒の匂いがひどかったけれど、
俺にとってはようやく彼女と出会えた今も胸に残る素敵なワンシーン。

結局タクシーの中では彼女は静かに眠り続け、
車の中で吐くのではないかという俺の心配は杞憂に終わり、
30分ほどたって車はアパートの前へと着いた。
運転手に手伝ってもらって、眠ったまま起きない彼女をおんぶ。
アパートの2階にある自分の部屋へと彼女を連れて行った。
ベッドの上に彼女を下ろし、声をかける。
「美紀。聞こえる?大丈夫?とりあえず俺の部屋に連れてきたけど、いい?」
そのまま寝かしても良かったのだが、
一応今晩ウチに泊まることについて、了承を得ておきたかった。
だって手の早い奴なんて思われたくないでしょ?
美紀は大丈夫、分かる、となんとか返事をし、水が飲みたいと言ってきた。
俺はさっき買ったミネラルウォーターをコップに注ぎ彼女へ渡した。
ぐいぐいと水を喉に流し込む彼女。
実物がそこにいるという存在感。
目の前にある姿。水を飲む音。
そしてだんだんと慣れてきたお酒の匂い。
携帯のメールとは圧倒的に違う知覚神経に伝わる情報量の差。
やっと彼女と出会えたことに喜びつつも、
俺は彼女とのメールでの2ヶ月間に少しずつ自信をなくしていた。
所詮メールはメール。
今こうしてやっと会えた彼女は、
2ヶ月あまりの間メールを重ねたとは言え、やはり初対面も同然なのだ。

水を飲み終わると彼女はトイレに行きたいと言い、
よろよろと頼りない歩き方でトイレへと行った。
戻ってきた彼女に俺はベッドで寝るように促し、
自分はタオルケットと毛布を床に敷いて寝ることにした。
電気を消すと彼女はあっという間に寝息をたて始め、
その音を聞きながら俺はなんだか眠るのがもったいなく感じていた。
ずっと待っていた彼女との時間の共有。
同じ部屋で同じ音を聞き、同じ空気を吸う。
この素晴らしい時を少しでも長く味わっていたかった。
次の朝、いつものように6時に目覚まし時計が鳴る。
今日は平日。昨日はなんだかんだで眠りについたのは3時過ぎ。
さすがに寝不足。それに彼女のこともある。
俺は目覚まし時計を8時半にセットしなおし、もう一度短い睡眠をとった。
再び目覚まし時計が鳴ると、俺は会社に電話をし、体調が悪いと伝え休みを貰った。
めったにしないズル休み。電話の音で彼女が目を覚ます。
気分が悪そうなので水を勧める。水を飲み、再びトイレに行く彼女。
戻ってきてから胃薬はないかと聞いてくる。
胃薬を飲むと彼女は礼をいい、もう少し休ませて欲しいと言って再びベッドで眠り始めた。
俺の方はと言えば、多少寝不足ではあったのだけど、
現在自分が置かれている状況に興奮し寝ようと思っても眠ることができなかった。
とはいっても別に妙なことをたくらんでいたわけではないよ?
女性には紳士的なんです、ボク。

俺は彼女が起きた時に備えコンビニへ向かった。
だいぶ胃もたれをしているようなので彼女にはおかゆのレトルトを購入。
自炊は全くしないので、ウチには米の買い置きすらないんです。
俺は朝食のサンドイッチと昼か夜に食べる予定で弁当をひとつ購入。
家に帰り、彼女が起きるまでひたすら待つ。本を読んだりウトウトしたり。
起きたら何を話そうかと考え、なるべく長くこの部屋に居て欲しいと思った。
そして出来れば今のこの関係を打破したかった。
メールだけの関係から一歩前進したかった。
そんな関係になれるかどうか、それは彼女が起きた後にかかっていた。
彼女が起きたのは13時を過ぎた頃。
酔っ払って迷惑をかけたことに罰の悪そうな顔をする彼女。
そんな顔をしないで欲しい。
俺は君がこうして来てくれたことが本当に嬉しくてしょうがないんだから。
彼女はもう一度胃薬を飲み、俺は彼女におかゆを勧めた。
俺はさっき買った弁当を温める。初めての彼女との食事。
でもなぜか会話は弾まない。
まだ彼女は二日酔いだから、きっと元気がないのだろうと、
なるべく悪い方向には考えないようにした。
それでも俺はこの沈黙の時間に耐え切れず、何か話そうと空回りするうちに、
昨日から気になっていたことをつい聞いてしまった。
「ねえ、なんで俺の電話番号知ってたの?」
彼女は下を向き、長い沈黙が続いた。
そして鈍感な俺はこのときようやく気づいたんだ。
彼女はお金をとってメールのやりとりをする今までの行為に罪悪感を感じていたのだと。
そして彼女はゆっくりと話し始めた。
尋問された容疑者が自白をするように。
そんなつもりはなかったんだ。
感謝こそすれ、問い詰めるつもりなんて全くなかったのに。
彼女が話したのはだいたいこんな内容だった。

自分はフリーターで事情があって少しお金に困っていたこと。
アルバイトをしながらお金を稼ぐ方法として、有料のメル友を思いついたこと。
偶然彼女の働く店に俺が来て、ポイントカードを作ったので、
そこからメルアドと電話番号を調べたこと。
なんで俺を選んだのかと尋ねると、彼女は自分と同じで寂しそうだったからだと答えた。
彼女の自分を責めるような話し方が悲しかった。
俺は何も怒ってはいないし、むしろ感謝しているのに。
俺は一生懸命に彼女にそのことを伝えた。
君とのメールのやり取りが、どれだけ楽しかったか。
寂しかった心がどれだけ癒されたか。
灰色のモノクロームだった毎日が、彼女のおかげで鮮やかに色づいたことを。
彼女はただ「ありがとう」と言い、罰の悪そうな表情は最後まで消えることはなかった。

気まずい沈黙が続き、彼女は「ごちそうさま」と言った。
そして酔って迷惑をかけたことを改めて詫び、もう帰ると言った。
俺は駅まで送ると申し出て、ふたりでアパートをでて駅へ向かった。
重い沈黙は歩いている間もずっと続き、
駅まではあっという間に着いてしまうのだった。
通勤の時は毎日あんなに長く感じられるのにね。
駅の改札まで着くと、俺は嫌な予感が抑えられず、彼女に尋ねた。
「ねえ、メールは続けるんだよね?」
彼女はしばらく黙ったままで、
「少し考えさせて」
と言い切符を買いに行った。
切符を買って戻ってくる彼女。
なかなかサヨナラを切り出せない二人。
やがて電車の到着を告げるアナウンスが響き、彼女は
「じゃあ行くね」
と言った。
黙ってうなずく俺に彼女はそっと近づきキスをした。
人目は全く気にならなかった。
「バイバイ」
と言って彼女は改札に吸い込まれ、電車は走り去っていった。
俺は嫌な予感に押しつぶされそうになっていて、キスしたことを全く喜べなかった。
むしろそのキスが嫌な予感にとどめを刺していて、重い足取りでアパートへと戻った。
「考えさせて」と言われてしまい、メールが出せなくなってしまった俺は、
何度も携帯をチェックしながらその日を終えた。
すぐに返事が来るだろうという淡い期待は打ち砕かれ彼女からのメールは、
次の日になっても、その次の日になっても中々来ないのであった。

彼女とのメールのない日々は、
まるで胸の真ん中にぽっかりと穴を開けてしまったかの様に、
俺の毎日を空虚で味気ないものへと変えてしまった。
まるで体の半分を切り取られたみたい。
思えば朝起きてから夜眠るまで、食べた食事の内容や、満員電車の愚痴、
会社で起こった些細な出来事の全てを俺は彼女に伝えていたのだ。
日々体験する出来事を共有できる相手を失い、
俺の生活はまた灰色のモノクロームな世界へ戻ってしまった。
彼女からようやくメールが届いたのはその週の金曜日だった。
メールの内容はあっさり。
「色々考えましたが、やはりメールを続けることはできません。
 色々とご迷惑をお掛けしました。
 本当にごめんなさい。」
メールを受信したのは会社帰りの電車の中だった。
背中に冷や水を浴びせられたような感覚が走り、
視界はグラグラして、電車の中で倒れそうになった。
考え直して貰えるよう返事のメールを打とうとしたけど、
指先が震えてうまくボタンが押せない。
それに何を書いていいのかが分からない。
とりあえず落ち着こうと、
その場でメールを書くのはあきらめ、とりあえず家に帰ることにした。

いつものようにコンビニで弁当を買い、アパートへと戻った。
だが食欲が全くない。おなかは空いてるはずなのにね。
とりあえずシャワーを浴び、
水を飲んで気持ちを落ち着け、彼女へのメールを打ち始めた。
「できれば美紀が考えたことと、メールを続けられない理由を教えてもらえないか?
 俺の生活の中ではもう美紀とのメールは生活の一部で、
 ただこんな風にもうメールはできないと言われても、気持ちの整理がつかないよ。
 無理言ってごめん。」
あれこれと考えながら10分以上考えてこんなメールを打った。
だが送信したメールは宛先不明で戻ってきてしまうのだった。
美紀はメールアドレスを変えてしまった。
もうこちらからは連絡の取り様がない。
さっきのメールに続いて、今度の送信エラーで、
俺はその晩、完全にノックアウトされてしまった。
明日が土曜でよかった。
平日だったらまた2週続けて会社を休むところだった。

土曜日の俺は完全に抜け殻だった。
人の形をしたただの置物。
何もする気が起きず、近所のマンガ喫茶に行き適当に選んだマンガを読んでみる。
だがマンガもネットも何も頭に入らない。
深い絶望。
突きつけられた現実が受け入れられず、
俺の頭は外界の情報を遮断してしまったようだ。
せっかく5時間のパック料金ではいったのに、
俺は1時間も経たないうちに店を出てしまった。
前日に送ったメールは、何かの間違いではないかと思い、その後3回送りなおした。
しかし全て宛先不明で帰ってくる。
携帯会社のシステムトラブルではないみたいだ。
その日の帰り道、俺の頭にひとつのアイデアが浮かんだ。
彼女は俺がポイントカードに入会した店で、
俺のアドレスや電話番号を知ったと言っていた。
彼女からのメールが届いた直前に作成したカードを探せば、
彼女が働いていた店がわかるかも知れない。
家に帰って財布の中のカード類を全て床に広げてみた。
勧められたカード類は、
クレジットカードでもない限り大体加入してしまうので、俺の財布はいつもパンパン。
肝心のお金はあんまり入っていないのだが。
美紀からのメールが来たのは8月の頭。
その頃入会したカードはひとつだけ。
4駅先のターミナル駅にある大きな洋服店だった。

次の日、俺はその洋服店へと向かった。
ひとつ間違えればストーカーだけれど、このままでは終われない。
せめて理由が知りたい。
お金をとっていたことに彼女が罪悪感を感じていたのは、
あの日の表情で想像がついた。
でもだったら今度は普通に友達として、またメールを始めることだってできるだろ?
それとも彼女は俺とのメールが苦痛だったのだろうか?
実は俺はそれを一番恐れていた。
俺が喜んでメールをしていたあの期間、
彼女は本当はお金の為に、嫌々メールをしていたのだとしたらどうしようかと。
でもきっとそれは違うと信じていた。
だってメールをするのも嫌な相手に普通キスなんてしないだろ?
ただ理由が知りたい。
その一心で俺は店へと足を運んだ。
緊張しながら店内に入る。
ぐるっと店の中を一周し、彼女の姿を探す。
しかしそう簡単には事は運ばない。
店の中に彼女の姿はなかった。
俺は店の入り口のレジカウンターへと向かった。
すみませんと声を掛けると店長らしき人が応対してきた。
「あの、ワカバヤシさんは今日はいらっしゃいませんか?」
銀行口座の名義人名が本人の名前だと確認していたので、俺はその名前で尋ねてみ
た。
「ワカバヤシなら先週で店を辞めたよ。」
二日連続のKOパンチ。またも視界はグラグラし始めた。

動揺をなんとか表に出さないよう努力しつつ、それでも食い下がる俺。
「あの、私ワカバヤシさんの友人なんですけど、
 連絡先を教えていただけないでしょうか?」
こんな勇気を出すのは生まれて始めてかも知れない。
ただ返事は当然のことながら「そういった事は教えられない」と言うものだった。
個人情報の保護が叫ばれる昨今、店長の対応は正しいと思う。
それは分かっているけどあえて言わせてもらう。
ケチ!
「わかりました。無理を言ってすみません。」
そう言ってまた俺は店の中へと戻った。
もうこうなったら追い出されるまで片っ端から店員に聞いてやる。
俺は完全にやけくそになっていた。1人、2人と声をかけ、
店長にしたのと同じ質問をする。
どうやら彼女が先週で店を辞めたのは本当らしい。
連絡先については「わからない」「知らない」という返事が返ってきた。
まあ誰が見ても怪しいだろうからね。
知ってても教えてくれないでしょ。仕方がないよね。
ケチ!
3人目に声をかけたのは、小柄な女の子だった。
この時点で俺はすでに店内で完全に不審者としてマークされていたようで、
向こうの方で店員が俺のことをヒソヒソと話している姿が見えた。
3人目の女の子にも同じ質問。
「あの、ワカバヤシさんって先週で辞めてしまったんですか?
 私、ワカバヤシさんの友人なんですけど、
 連絡がとれなくなってしまって。」
女の子の返事は、これまでとは違った意味で、カウンターパンチだった。
「あなたもしかしてタカシさん?」

そうだと告げるとその女の子は店の隅に俺を連れて行き、
自分は5時であがりだからそれまで待てるかと言ってきた。
当然俺は待つといい、5時過ぎに駅前のファミレスで待ち合わせをして店を出た。
やっと少しだけ手がかりらしきものが掴めた。
嬉しくてじっとしていられないのだが、待ち合わせの時間までまだ4時間近くある。
外での時間の潰し方を知らない俺は仕方なく、
またマンガ喫茶へと入り時間をつぶすのであった。
俺って本当につまらない男。
昨日とはまた違った意味で、マンガもネットも頭に入らなかった。
店員の子は美紀と俺の間で使われていた俺の偽名を知っていた。
あの子は事情を知っている。
説明次第では彼女との連絡を付けてくれるかも知れない。
期待感で頭はいっぱい。
不毛な会話のシミュレーションをひたすら続け、
待ち合わせの時間をひたすら待ち続けた。
今にして思えば、マンガもネットもやってないんだから、
普通の喫茶店でよかった気がするね。
もったいない。
ようやく待ち合わせの時間が近づき、ファミレスへと向かった。
それでも早く着きすぎて20分くらい店の前で待つ羽目になったけど。
店員の子がようやくやってきて、待たせてごめんと言い、
俺たちはファミレスの店内へ入った。
店員の子は名前を川嶋さんと言った。
彼女は専門学校生で、去年の春、
美紀と同じ時期にあの店でアルバイトをし始めたのだという。

まず俺は川嶋さんがどこまで俺のことを知っているのか聞いてみた。
川嶋さんは先週の日曜の件以外は、大体を把握しているようだった。
美紀がお金に困っていたこと。
ポイントカード作成時に俺のアドレスを調べたこと。
俺と有料でメル友になったこと。
1日のメールの往復回数がとんでもなく多かったことや、
同じタイミングで映画を見た話。
ただ、先週の金曜日に俺が酔っ払った彼女を家に連れ帰り、
彼女がその後このメールのやりとりを止めると言い出した話は知らないようだった。
それどころかまるで信じられないといった表情で
「あんなに楽しそうにメールしてたのに、
 なんでそんなこと言い出したんだろう」
と彼女は言った。
この一言で俺はかなり救われた気分になった。
お金のために嫌々メールしてたのではなかったんだ。
やっとそう確信することができた。
「彼女は楽しそうにメールをしてたの?」
さらに確認するように俺は聞いた。
川嶋さんが言うには、初めの方こそメールのやり取りが大変そうだったけれども、
美紀にとって、俺とのメールはすぐに生活の一部になっていったそうだ。
俺が何かを相談したり悩んでいる時は、美紀はそれを本当に心配していたし、
逆に俺の方が相談にのった時は、そのことに本当に感謝していたと。

「あの子と一緒にお昼とること多かったんだけど、
 あなたの話たくさん出てきたよ。」
それに俺はお昼休みも彼女にメールを出し続けていた。
お昼を食べながら楽しそうにメールを打つ美紀の姿を、
川嶋さんはずっと見てきていたのだ。
仕事の最中も暇を見つけては俺にメールを打つ彼女を見て、
アルバイト先ではすっかり美紀は彼氏持ちとして扱われてたらしい。
ここまでの話を聞いて、俺は初対面の女の子の前で、
恥ずかしながら泣いてしまった。
店には他の客もいたっていうのにね。
だって嬉しかったんだ。
メールを楽しみにしていたのは俺だけじゃなかったんだ。
彼女にとっても俺とのメールは生活の一部になっていて、
俺の中にずっと彼女が居たように、
彼女の心の中にもずっと俺の存在があったんだって分かってさ。
ポロポロとひとしきり涙を流した後、俺はまた川嶋さんに質問をした。
「それで何故美紀はそんなにお金に困っていたの?」
川嶋さんはしばらく考え込んでいた。
勝手に俺にそんな話をしていいのかどうか考えていたのだと思う。
しばらく考えた後、川嶋さんは事情を話し始めてくれた。
「美紀が両親とうまく行ってなかったのは知ってる?」
その話ならしっていた。
3人兄弟の一番上で、下の弟と妹は出来がいいと言っていた。
自分だけが出来が悪いと美紀はコンプレックスを持っているようだった。

家庭の事情は人それぞれ。
放任主義の家で育った俺には全くわからない話なのだが、
美紀の両親は美紀が高校を卒業したあと、
大学に進学するか地元で就職することを望んでいたらしい。
美紀は両親の言いなりになるのが嫌だったのか、
自分の力で何かにチャレンジしたかったのかは分からないが、
両親に反抗して東京で一人暮らしを始めた。
ただ、一人暮らしのフリーター生活ではお金に困るだろうと、
両親はわずかながら1年限り仕送りをしてくれることを約束してくれた。
ただそれとは引き換えに、
1年経って生活の目途が立たないのであれば地元に帰れと言われていたそうだ。
目的もなしに上京したって、
1年やそこらでフリーター生活に劇的な変化が訪れるはずもなく、
1年後の今年の4月、両親からの仕送りはストップした。
しばらくの間は母親が内緒で仕送りをしてくれていたようだが、
それもすぐに父親にバレてしまい、美紀は生活に困ることとなった。
結果その足りない生活費を補っていたのが俺からのメール料金だったわけだ。
そして川嶋さんの口からは、俺にとっては最悪の話が飛び出した。
「ミカは今週実家に帰ったの。
 だから先週でアルバイトも止めたし、
 先週の金曜日はミカの送別会だったんだ。」

先週の彼女の泥酔の理由がこれでようやくわかった。
そして彼女は俺とはメールの外では、関係を築けないことを知っていた。
あの日の暗い表情の理由がだんだんとわかるような気がしてきた。
でもだからと言って、なんで俺とのメールを止めなきゃいけないんだ?
元々実際に会うことなしに築いてきた関係なんだ。
今更住んでる場所が離れたって関係ないじゃないか。
これが俺の正直な気持ちだった。
何故俺との関係をこんな風に絶たなければならないのか、
その理由をきちんと知りたい。
川嶋さんにそう告げると、彼女は美紀に連絡して、
今日俺が店に来たことをミカ(美紀)に伝えると約束してくれた。
「ずっと横から見守ってきた立場としても、
 こんな終わり方じゃ気持ちが悪いしね」
その時川嶋さんは、俺にとっての救いの神だった。
こうしてこの週の週末は終わり、またいつものように平日が始まり出し、
会社と家を往復する単調な日々が始まった。
単調とは言っても仕事はその週とんでもなく忙しく、
美紀のことを考える暇さえなかなか与えない環境は、返って俺にとってありがたかった。
そしてその週の金曜日、川嶋さんからメールが届いた。
「ミカからの手紙を預かってるんだけどどうする?」
本来、更に俺の家に郵送してもらうのが一番迷惑がかからないのだろうけど、
その時の俺にはそんな余裕はなく、その日の9時にバイト先のある駅で川嶋さんと待ち合わせをした。
仕事はたくさん残っていたけれど、周囲に謝り倒して無理やり会社を出た。
駅の改札にはすでに川嶋さんが待っていて、青い便箋を俺に渡してくれた。
俺はその場で便箋を破いて手紙を読み出しそうな勢いだったが、
「家でゆっくり読みなよ」
との川嶋さんの言葉で少し冷静さを取り戻し、その勧めに従うことにした。
川嶋さんには何度も何度もお礼を言い、俺は家路を急いだ。
期待と不安が頭のなかで交錯し続け、晩飯も買わずにアパートへと直行した。
部屋に入ると急いでハサミを探した。
俺は手先が不器用な方なので、
便箋を手で破くとしょっちゅう中身の手紙まで破いてしまうのだ。
それにしてもどうしてハサミというやつは、
こう必要な時に限って見つからないのだろう。
5分ほど散らかった部屋を家捜しし、俺はようやく見つけたハサミで便箋をあけた。
久しぶりに受け取る彼女からのメッセージ。
手紙の内容は概ねこんな内容だった。

まず、俺がバイト先を訪ねて驚いたこと。
そしてそんなに俺を狼狽させるほど唐突な別れを切り出してしまい、
それについてのお詫び。
その次には川嶋さんからすでに聞いていた、
実家に帰らなければならなくなった事情について書いてあった。
そしてたぶん、地元で就職することになるということ。
そしてようやく俺とのメールを止めることになった理由について書いてあった。
メールは元々、足りない生活費を補うために始めたこと。
初めの内は、なんとか俺のことを楽しませようと努力していたこと、
結果、自分はあまり楽しくなかったこと。
メールを続けていくうちに、彼女にとって、
俺とのメールが生活の一部になりだしたこと。
そして段々と俺からのメールを待ち遠しく思うようになっていったこと。
相談にのってあげられて嬉しかったこと。
話を聞いてもらって感謝したこと。
時には仕事がきつそうな時に、俺のことを本気で心配したこと。
そんな彼女の側から見た気持ちの移り変わりが書いてあった。
しかし俺とのメールが彼女にとっても支えになるにつれて、
お金をとっているという事実が彼女を苦しめた。
そして月に2万ではメールの通信料を差し引けば、
生活費を補うのに十分ではなかった。
毎月貯金の残高は減っていき、
自分の東京での生活は長くないことを彼女は自覚せざるを得なかった。

その内、メールの中に「好き」だとか「愛してる」といった単語は入りだし、びっくりしたこと。
本気なのかどうか驚いたこと。
そして段々と俺に対して恋愛感情を抱くようになっていったことが書いてあった。
「一回接客したことがあるだけで、
 メールしかしたことないのにおかしいでしょ?」
俺が感じていたことと、まったく同じことが書かれていた。
そして一度は俺と直接会って話したいと思っていたこと。
お金をとるのなんてやめて一から人間関係を作りたいと思っていたこと。
でもそれにはもう時間が足りないことが書かれていた。
それでもどうしても会いたくて、バイト先の送別会の会った夜、
酔ったはずみでとうとう俺に電話をしてしまったこと。
俺はすぐに迎えに来てくれたこと。
タクシーの中でとても幸せだったこと。
会えたことは嬉しかったけれど、週があければすぐに引越しで、
幸せな気持ちは長く続かなかったこと。
そのせいで、次の日は一緒にいても辛かったこと。

彼女は上京するときに、地元に彼氏を残してきたそうで、
遠距離恋愛でつらい思いをしたことが書かれていた。
半年で元彼との遠距離恋愛は終わり、
遠距離恋愛が長続きすることはとても大変なことなのだという彼女の持論が書かれていた。
ましてやメールでしか人間関係を築いていない自分たちには絶対に無理だと。
そしてメールの中だけで続けていく恋愛は不毛だし、
お互いにとってプラスにならないと。
彼女がきっぱりと俺との接触を絶ったのは、こういう理由だった。
遠距離恋愛など経験したことのない俺には、反
論のしようもなく、ただグッタリとベッドの上に倒れこむしかなかった。
手紙の文面から彼女の意思の強さが伝わってきて、
説得は困難だとはっきりとわかった。
それでもすんなりと納得がいく訳ではなかった。
確かに彼女の言うとおりだ。
こんな状況の俺たちが遠距離恋愛で上手くいくとも思えない。
めったに会うこともないメールがほとんどの関係で、
ちゃんとした愛が育つとも思えない。
でも、恋愛とはそんなに理詰めで考えていくものなのだろうか?
もっと感情のままに行動してもいいのではないだろうか?
どうしてもそれを伝えたくて、
俺は次の日、彼女への返事を書くために、文房具屋へ封筒と便箋を買いに行った。

彼女へ手紙に書いたのは、俺の側から見た気持ちの移り変わり。
最初は寂しさを紛らわすため。
そして段々と本当に彼女のことが好きになっていったこと。
彼女の「きっぱりと関係を絶つべきだ」という言い分には納得したこと。
でもそれでも俺は君が好きだし、恋愛はもっと感情的でいいと思っていること。
そして最後に、「俺の方の携帯のアドレスは、ずっと変えないでおくよ」と。
手紙の返事は川嶋さんに渡して美紀へと送ってもらった。

それから、毎日彼女からのメールを待っている。
名前の後ろに誕生日なんていうアドレスだから、
相変わらず迷惑メールはたくさん入る。
でも以前と違うのは、
受信する迷惑メールのひとつひとつをしっかりチェックするようになったこと。
もしかしたら彼女からのメールが混ざってるかも知れないからね。

結局あれから何年か経つけれど、
彼女からのメールは今のところ届いてはいない。
でも、迷惑メールでも必ず開いてしまう癖は、
当分治りそうに無い。



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