渡せなかったチョコレート (エロくない体験談) 49099回

2004/07/09 21:22┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
私は20代後半のオッサン会社員です。私の幼馴染について書いてもいいかな、
と思えるようになってきたので書いてみたいと思います。
彼女との出会いはずうっと昔、もしかしたら生まれる前から知り合いだったかもしれま
せん。というのも、私達の母親どうしの仲が良くて、小さい頃はよく一緒にままごとで
遊んでいたという話をしてましたから。残念ながらその頃の記憶はほとんど残っていませ
んが・・・
彼女と私は生まれた病院も一緒で、しかも生まれた日も一緒で、近所に住んでいるという
幼馴染の典型みたいな感じです。
私の彼女との記憶の中で一番古い記憶は小学校1年の時に初めて学校に登校して、
帰りに2人で並んで帰った時のことです。あの時はまだ彼女の方が力が強くて、重い教科書を
持ってもらいながら帰った記憶があります。
割と仲は良かったほうで、毎年バレンタインにはチョコをくれました。と言っても直接
持ってくるわけではなくて、うち母が「はい、これ○○ちゃんから」とポンと義理チョコ
を渡してくれるだけだったのですが・・・
あまり憶えていませんが彼女とは保育園から一緒だったらしく、小学校では1年生から4
年間同じクラスになって、中学では1年と3年で同じクラスになりました。
私はあまり目立たない存在でしたが、彼女は中学になったあたりから徐々に不良として
頭角を表し始め、学校ではそこそこなスケ番(死語)でした。
私はどちらかといえば真面目な方だったので、次第に疎遠になって小学の時は仲の良さは
どこへやら、中学3年の時はほとんど話さなくなっていました。
ですが中学も終わろうかという2学期後半になって突如彼女が休み始めました。
今のワルな女子学生と違って、昔のワルは学校を休まないのが普通でしたから彼女がいき
なり長欠したのにはクラス中が驚きました。
それから一週間たっても、二週間たっても、1ヵ月たっても彼女は戻ってきません。
さすがにクラスの仲間も「どうした?」という話になって彼女の家に行ったりしたのです
が、彼女のお母さんに「ちょっと今、体調がすぐれないから」と丁寧に玄関で
帰されました。私達も「お母さんがそう言ってるから、大丈夫だろう」とそのまま帰って
きました。
ところが12月のある日の朝、私のところに1本の電話が掛かってきました。
その日はひどく冷え込む朝だったのを覚えています。当時、まだ携帯どころかポケベルも
無い時代でしたから電話は家に1個、玄関の近くに置いてありました。
母が「○○ちゃんからだよ・・・」この時、母は少し落ち込んでいたような感じでした。
私は何か変な胸騒ぎを覚えつつ、保留のスカボローフェアが鳴る寒い玄関に出ました。
「久しぶり」文字通り久しぶりに聞く彼女の声でした。ですが彼女のイメージとは程遠い、
どこか元気の無い声だった気がします。
「どうしたの?休んでるけど大丈夫?」
「うん・・・そっちこそ元気?」
「俺は元気だよ、皆心配してるよ?」
その言葉に彼女はしばらく沈黙しました。
私はどうしようもない胸騒ぎに襲われていました。
その後、彼女と少し話した後「暇なんだ、そのうち遊びにこない?」と彼女が言いました。
そして彼女が今居る所が病院だという事がわかりました。
まさか?・・・まさか・・・私は必死に悪い考えを打ち消していました。
母は「今日は学校はいいから、行ってあげな。先生には言っておくから。」私は母の言葉を
聞いて嫌な感覚に襲われたのを今でも覚えています。
背中からジワーッと変な汗が出てきて止まりませんでした。私は早鐘のようになる心臓を
止める事が出来ません。急いで病院に向かいました。
教えられた病室を探しながら病院をウロウロと歩きまくります。そのうち親切な看護婦
さんが部屋まで案内してくれました。「○○ちゃーん、彼氏が来みたいよ〜」と看護婦さん
がデカイ声で言うので、回りのベットの人が一斉に私を見ます。心の中で「ちょっと待っ
てくれよ!」と思っていると中から「えっ?!ちょっと待って!」と彼女の声がしてガサ
ガサと音がします。結構待ったと思います、いや針のむしろのような状態だったので長く
感じただけかもしれません。
「いいかな?」と看護婦さんが言った後に「いいよ」と返事がして看護婦さんは彼女の
ベットのカーテンをさっと開けました。久しぶりに見る彼女です。彼女はおっ!とした
表情でこちらを見ています。
「よかったわね、じゃ、後はごゆっくり」と言うと看護婦さんは消えていきました。
私はあまりの事に頭に血が上っていました。彼女はベットから起き上がると「来たんだ?」
と少し驚いた表情でこちらをみます。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
何を話していいのかわかりません。私は伏し目がちにぼーっと立っていると「座ったら?」
と椅子を勧めてくれました。彼女は室内なのに毛糸の帽子を被っていました。今ならその
意味がわかるのですが、その当時は想像もつきませんでした。
「来てくれたんだ?」
「もちろん」
「今日、学校は?」
「ん?休んだ」
「結構、度胸あるじゃん?」
この言葉に可笑しさが込み上げてきて、それを誤魔化すように「そんなことねぇよ」と強
く言い放ちました「ふ〜ん・・・」彼女の大きい瞳が私を捉えます。漆黒で大きな瞳は引
きずり込まれるような、そんな魅力を放っていました。
「ずーっと寝てばっかだと暇なんだよね、遊ぶ?」
私たちはトランプをしました。彼女が治療を受ける時間や休む時間は待合室で待ちました。
そんな風にしていると、夕方に彼女のお母さんがやってきました。
「今日はありがとうね」おばさんからそう言われました。「またこいよ」彼女はそう言って
手を振ってくれました。
それから三日に一回ほど、放課後に病院に見舞いに行くようになりました。
学校の話をすると「へぇー」「ふーん」「いいなぁー」と私の話を食い入るように聞きます。
そしてそんな生活が結構続きましたが、彼女が入院しているという話はどこからともなく
広まって、私以外にもだいぶ見舞いにくるようになり、私は徐々に見舞いに行く回数が
減っていきました。そして高校受験も終わり、自由登校になった時の事です。
私は彼女から電話をもらいました。その日はもう夜なのに「遊びに来なよ」という
電話でした。
2月の寒寒とした夜。私は黙って家を出て、無言でチャリを飛ばしました。
そして面会時間はとっくに過ぎている病院に入ると気が付かれないように病室に向かいま
した。
彼女は同じフロアの個室に移っていました。
「コンコン」
軽く部屋をノックすると中から「はい」という彼女の声が聞こえてきました。私は静かに
ドアを開けました。
そこにはいつも点滴などをして痛々しい姿の彼女は居なく、代わりに綺麗なブルーの
パジャマを着た彼女がいました。部屋は月明かりでやんわりと照らされています。
そして、彼女はセミロングの髪型になっていました。昨日まで毛糸の帽子だったのに・・・
しかしそれにしても似合っています。
「きたんだ?」
笑みを見せてベットから上半身を起した彼女が私に言います。
「うん」
静けさの中、私はゆっくりと彼女に歩み寄りました。ふわーっといい香りがしました。
ブーケのような、甘い・・・切ない香りです。
「こっちきなよ?」
私は彼女のベットに腰掛けました。そして彼女は・・・彼女は化粧をしていました。
薄いピンクのルージュがとても似合っていました。私が驚いた表情をしたのでしょう
「驚いた?」と軽く微笑みながら彼女が言いました。
「う、うん」彼女の姿は、もはやこの世の物とは思えないくらい美しかった・・・そんな
風に記憶しています。
パジャマの上に軽くカーディガンのようなものを羽織ると、一度ベットから出て私の隣に
並ぶように腰掛けました。
「ねぇ、憶えてる?昔さぁ・・・」そこから滝のように2人で昔の話をしました。
運動会は一緒にリレー走ったよね・・・俺が何故かアンカーで彼女が俺にバトン渡した
んだよな・・・夏のキャンプで朝、俺が寝てる彼女を起したよな・・・何かドッチボール
で彼女が俺ばっか狙ってきて、あんときは終わった後揉めたよね・・・
子供会のクリスマス会の時、2人でケーキ作ったよね・・・あれは失敗だったな・・・
中学の体育祭ではフォークダンスで順番が回ってくる直前で終わったんだよね・・・
今となってはそんな楽しい思い出しか浮かんできません。
「楽しかったね・・・」彼女がポツリと呟きました。
「うん・・・」
彼女が私の手を握ってきました・・・とても冷たい手でした。私は暖めてあげたい、
そう思って彼女の手を両手で包みました。彼女も両手で私の手を握ります。
あっ・・・
彼女と視線が合います、でも今の私は目を逸らさない。そして彼女はゆっくりと目を
閉じました。彼女の息遣いが聞こえるほど静かな部屋で、私はゆっくりと彼女にキスを
しました。
月明かりに照らされた彼女は本当に綺麗で、私は「俺はもうどうなってもいいな」と
思っていました。
彼女がゆっくりと自分のベットに入ります。私も手を引かれベットに入りました。
ベットの中で彼女の体を抱きしめました。細い・・・あまりにも細い体でした。私は涙を
押さえる事が出来ませんでした。
「ばか、何で泣いてるの・・・」
彼女も泣いていました。2人で泣きながらお互いの体を探りあうように抱き合いました。
その日はそのまま2人で寝ました。次の日の朝、看護婦さんが部屋に入ってきて私達に
「昨日は良く眠れた?」と何事も無かったように聞いたのを憶えています。
今になって思えば、この時すでに全てが決まっていたんだな、と。
そして彼女の容態が急変するのに、それほど長くはかかりませんでした。

寝ても覚めても、もうずっと覚めない夢を見ているようでした。今までずっと近くにいた
彼女が、近すぎて空気みたいな存在だったけど、常に自分の近くにいた彼女がいなくなっ
てしまう。
そんな事は当時の私には理解不能でした。
葬式にも最初は行かないつもりでした。ですが母が「最後くらいちゃんと挨拶しなさい」
と言われ無理矢理連れていかれました。
クラスの仲間や知り合いに会いたくなかったので葬儀の最中、私は外で待っていました。
葬儀が終わっても式場に入っていく勇気が出ず、それでも1歩だけ踏み込むと、彼女の
遺影が飾ってあるのを見て力が抜けてその場にへたり込みました。
そんな私を彼女の親戚の人と私の弟が棺の近くまで運んでくれました。
それでも彼女の顔は見れませんでした。彼女の棺の前で泣き続けている私に彼女の
お父さんが「ありがとうな・・・ありがとうな」と言ってくれました。

それからどのくらい経ったでしょうか、ある日彼女のお母さんが私を尋ねてきました。
「△△ちゃん・・・これ○○の病室の棚に入ってたんだけど・・・・」
それはバレンタインのチョコでした。包みには私の名前が書いてありました。
私はびっくりして急いで部屋に戻って中を開けました。そこにはチョコレートと手紙が
入っていました。
私は躊躇しました。何が書いてあるのか・・・
私は悩みつつも手紙を開けてみることにしました。
中には写真が1枚入っていました。
それは中学3年の修学旅行に行ったときの写真、私がぼーっと側にいる鹿を見ている横で
彼女がピースサインをしている、ありふれたスナップ写真でした。
(この写真・・・いつ撮ったんだ?)
私はふっと裏側を見てみました。
好き
と書かれていました。私は絶句しました。
そしてしばらく呆然と立ち尽くした後に座り込んで泣きました。

毎年冬になると、ふっと彼女の事を思い出します。
彼女と遊んだ公園や坂道、一緒に通った道をもうどのくらい季節が過ぎたのか。
それでも彼女と一緒にいた季節は今も私の心を奮い立たせ、勇気付けてくれる大切な思い出です。
つまらない話を長々と書いてしまい申し訳ありませんでした。
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