去年の7月、もうすぐ4歳になる娘を連れて2人で蛍を見に行った。 あたりの暗さが徐々に増すと、空中を飛ぶ蛍の数が一段と増えた。 「クリスマスみたいだね?パパ。」 森をバックに点滅しながら飛ぶ蛍や、木の幹や枝、葉っぱに止まって光る蛍。確かにクリスマスツリーのイルミネーションを見ているようだ。 生まれて初めて見る蛍に興奮気味の娘。 一匹の蛍が舞い降りてきたかと思うと、ふわりと娘の手に止まった。淡いグリーンの光を放ち、ゆっくりと点滅を繰り返す。 娘は満面の笑みを浮かべながら、じっとその姿を見つめていた。 ほんの僅かな時間だったが、やがて森の方にゆらゆらと飛び去った。 「Aちゃんがまだママのお腹の中にいる時、パパとママはここに蛍を見に来たんだよ。Aちゃんと同じように、その時もママの手に蛍が止まったんだよ。」 「じゃあ、さっきの蛍はママのと同じ蛍かな?」 「そうだね。同じかもしれないね…。」 そう答えると思わず涙が出てきてしまった。 「また来ようね、パパ。」 そう嬉しそうに言った娘をぎゅっと抱きしめた。 Aの予定日の1ヶ月前、大きなお腹をしたお前の手を引いてこの場所に来たね。 お前の手に止まった蛍を見て、2人で一緒に喜んだね。 蛍も無事に元気な子を産めるように励ましてくれてるよ。きっと良いことあるよって。 来年は3人で来ようねと約束したのに……。 さっきのAの笑顔は、あの時のお前と同じ顔をしてたよ。 妻は娘が1歳になる前に先立ってしまったため、娘には母親の記憶など無い。 母と娘を結び付ける体験をさせてくれた蛍に感謝した。 出典:いい子に育ってるから リンク:心配しなくていいよ |
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