5年前くらいに、引っ越してしまった彼女がいた。 小柄で、顔が可愛くって、甘えん坊で、しかもやさしい性格の人。 付き合ってた時はケンカもしたが、すぐに仲直りできるような仲だった。 Hはしてないが、それ目当てじゃなかったからそれで良かった。 幸せだった。別れる前までは。 引っ越すってわかったとき、あいつの両親に怒りをぶつけたよ。 「なんでつれてくんだよ!俺らの仲を知ってんだろ!?」 他にも色々話した。いや、叫んだ。 相手の事情も知らずに。 相手が黙ってるのをいい気に叫びつづけた。 なのに・・・ 「もういいよ。二人ともわかってるんだよ。だから、責めないで。お願い。」 あいつはそう言った。 その言葉を聞いた時、矛先をあいつにかえた。 「どうして!?おまえだって嫌だろ!?別れなんて!! 決めたじゃないか!一緒にいるって!絶対離れないって!!」 そう叫んだ。けど、あいつは泣きながらこう言った。 「ごめんなさい。でも、どうしようもないの。仕事だから・・・。」 あいつの父さんは、道路の建築が仕事でよくいろんな県にまわっていたから、止まる事はなかった。 その言葉を聞いたとき、一気に熱が冷めた。 怒りがどっかへ吹っ飛んだ。 「済まない・・・。本当に済まない・・・!」 あいつの父さんは、机に頭がぶつかりそうなぐらい、頭を下げた。 母さんは声を上げて泣いた。 俺は何も言わなかった。言えなかった。 そのまま、この家を後にした。 引越し当日。俺は彼女に指輪を渡した。二つ渡した。 「また会える様に、俺の分も渡しとく。次に会ったら、結婚しよう。」 はっきりした声でそう言った。あいつは、目を大きく見開いた。 そして、頬を赤らませながら、嬉しそうに頷いた。 「・・・うん。」 そういって、あいつは抱きついた。 俺も抱き返した。あいつは、肩を震わしながら、泣いていた。 少しおさまったのか、少しだけ離れた。 あいつは俺の方を見て、すっと目を閉じた。 俺はそれに答えるように、唇を合わせた。 人の目なんか気にしなかった。 「・・・またな。」 「・・・うん。」 名残惜しそうに、唇を離して、そう言った。 アレから5年。 俺は、大学から帰る為に駅の中にいる。 券売機の前で、困ったようにきょろきょろしている女の子がいた。 遠くから声をかけようかどうか迷っている時に、視線に気付いたのか、こっちを見た。 そこにいたのは・・・ まぎれもなく、あいつだった。 首には、俺の渡した指輪が、ペンダントになってつけていた。 すぐに気付いて、あいつは俺の方へ走ってきて、俺の胸に飛び込んだ。 俺は抱きしめて、一言、本当に一言だけ言った。 「お帰り。」 あいつも、一言だけ言った。 「ただいま。」 |
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