中2の時の理科の担当は、新学期に転入してきた女の先生だった。
先生は年齢が20代半ばで、身長160?くらいの細見体型。
ロングヘアだけど清潔感のある、優しいお姉さんっぽい雰囲気の人だった。
実際見た目どおりの優しい先生で、教え方もわかりやすく、生徒達からも当然のように人気があった。
そんな先生とのちょっとした話。
ある日のこと、午後最初の授業が終わった後だったと思う。
午前中の理科の授業で気になる点があった自分は、先生に質問しに行こうと職員室に向かった。
途中階段を上ってる時、小走りに階段を降りてくる先生とばったり出会った。
ちょうどいいと思い、先生に声をかけた。
「あ、先生、ちょっと質問が…」
「ごめんF君(自分の仮称)、悪いけど後でね」
最後まで言い終わらないうちに、ぴしゃりと言葉を遮られてしまった。
先生の声色は、珍しくちょっと怖い響きを含んでいた。
表情も険しくて、いつもの優しげな雰囲気とはまるで違う。
そのまま先生は自分の横を通り過ぎると、走って階段を駆け下りていく。
いつもと違う先生の様子に心配になり、自分も走って後を追いかけた。
全力ダッシュで先生に追いついた自分は、
「先生どうかしたの?何か変だよ?」
と尋ねながら、思わず先生の手首を掴んでしまった。
我ながら大胆かつ失礼な行動をしたもんだと思うけど、この時は本気で心配だったのだ。
先生はびっくりした顔でこっちを振り向いた。
かと思うと、掴まれた手を振りほどこうと腕をすごい勢いでぶんぶん振り、焦った声で叫んだ。
「ちょっと…もれちゃう!」
………!?!?
「ご、ごめん先生!」
その一言で全て納得がいった自分は、慌てて掴んでいた先生の手を離した。
自分の手が離れると、先生はわき目も振らず一目散に近くのトイレへ走って行った。
残された自分は思いもよらぬ展開に、しばしその場で呆然となった。
先生も授業中にトイレ我慢してることがあるんだなぁとか、そんなことをぼんやりと考えた。
少しずつ時間が経つにつれ、今目撃した先生の姿、しぐさ、声などが勝手に脳裏に浮かび始めた。
何よりも、もれちゃう!という叫びが頭の中で何度も再生されてしまい、心がドキドキした。
しばらくして、先生はトイレから出てきた。
先生は申し訳なさそうな表情で自分の方へ近づいてくると、
「さっきはごめんね。ちょっと本気で危なかったから…本当にごめん」
と、別に何も悪くないのに謝ってくれた。
「こっちこそ本当にごめんなさい」
自分も同じように謝ったが、『本気で危なかった』の辺りでよからぬ想像を掻き立てられ、ますますドキドキしてしまった。
気を取り直し、改めて本来の目的、授業中疑問に思ったことを先生に質問した。
先生は授業の時みたいにわかりやすく、親切丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございました」
お礼を言って教室に戻ろうとすると、
「あ、ちょっとF君…」
と呼びとめられた。
「恥ずかしいから、さっきのことは絶対に内緒にしてね?」
先生は恥ずかしそうにはにかみ、自分に釘を刺してきた。
もちろん言いふらすつもりは最初からなかったけど、試しに聞いてみた。
「もし誰かに言ったらどうなりますか?」
「………」
数秒の沈黙。
すると突然、先生の表情が一転して悪戯っぽいものへと変わった。
にやっと薄く笑いながら、
「くすぐりの刑にしちゃおっかなぁ〜」
と冗談っぽく言い、指をこちょこちょと動かしながら手を自分の方へと伸ばしてきた。
自慢じゃないが超くすぐったがりな自分は思わず、
「うひゃっ!」
と情けない声をあげ、身をのけぞらせてしまった。
自分のオーバーな反応がおかしかったのか、先生はくすくす笑い出した。
「約束ね!」
先生は自分にウインクをして、ふわっと微笑んだのだった。
先生が自分の中学にいたのは結局1年間だけ。
次の年度には、再び別の学校へ転出していった。
あれからかなりの月日が経つけど、今ごろどうしてるんだろうか?
そういえば実験の授業中、誤って試験管を割ってしまったとき。
怒られると思い憂鬱な気分で先生に報告すると、
「大丈夫?ケガはない?」
と言いながら手のひらをさすってくれ、
「誰にでも失敗はあるんだから、気にしないでね」
と優しく慰めてくれたこともあった。
先生との思いでは、今も自分の心に刻まれている。
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中2の理科の先生
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