深夜。私は目を覚ました。
カーテンの隙間から黄色い月が見える。
まだ眠り始めてから2時間程しか経っていない。
旅を長く続けていると、今自分がどこにいるのか分からなくなる時がある。
ここは確か、エンドールの宿屋だったはずだ。
眠い目をこすりながらカーテンを開け、窓の外を眺める。
エンドールの国旗が風に揺れていた。
上空を雲が流れ、時々月にかかる。
町はひっそりと静まり、かすかに虫の音が聞こえる。
昼間の喧騒が嘘のようだ。
夜明けまではまだゆっくりと休めるだろう。
激戦の日々には休息が必要だ。
よく眠り、体力を回復し、明日に備える。
まだまだ戦いに不慣れな私には睡眠はとても重要だ。
そんな訳で今夜もゆっくりと休みたいのだが、
今夜はこんな中途半端な時間に目を覚ましてしまった。
理由は、隣の部屋の話し声だ。
隣の部屋はマーニャさんの部屋だったはず。
マーニャさんの陽気な声が聞こえてくる。
もちろん一人で喋ってる訳ではない。
他にはミネアさんと、……姫様?
こんな時間まで起きてたらお体に響くというのに…
しかし女3人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
きっといつまでも話が尽きないのだろう。
私はそんな事を考えながらもう一度ベッドに入った。
「ところでさ、姫って最近胸大きくなってきてない?」
「え?分かる?」
「やっぱり。羨ましいわ〜」
!!?
壁越しに聞こえてきた言葉に、一瞬耳を疑う。
慌てて飛び起き、聞き耳を立てる。
一体何の話をしているのだろう…?
「今どれくらいあるの?」
「え〜っと、どれくらいだろう?サイズとか計ってないから分かんない」
「ふ〜ん。今してるブラは何カップ?」
「えっとね………」
「……………!」
「………!?」
「…………」
「…………………?」
「………!」
くっ…!よく聞こえない…!
意識していない時にはあんなによく聞こえていたのに、
聞こうとした途端に聞こえづらくなるのはどうしてだろう。
全神経を耳に集中させて………よし、聞こえる…!
「へ〜!大きいわねぇ!」
「そ、そうかなぁ?」
「そうよぉ、ミネアなんて姫くらいの年の頃なんてそれはもう貧乳で…」
「ちょ…姉さん!何を言ってるのよっ」
「なによ、いいじゃない女しかいないんだから」
「だ、だからって人に言うような事じゃないでしょう」
「でもミネアさん今は大きいよね?」
「そうなのよ〜。この子ったらどんどん成長しちゃって、今は生意気にも私より大きいのよ。悔しいわっ」
「へ〜そうなんだぁ」
へ、へー。そうなんだぁ…。ごくり…。
「でも姫はまだまだこれから大きくなるわね」
「そうなの?」
「そうよ。これから恋人が出来たりしたらもっと大きくなるわよ」
「恋人が出来ると大きくなるの??」
「そうそう。恋人に大きくしてもらうのよ」
「???どういう事?」
「ね、姉さん、あんまり変な事教えちゃだめよっ」
「は〜い。うふふふ」
「でも胸なんて大きくても邪魔じゃない?動きにくいし。戦う時不便でしょ?」
「そ、そうね…。あははは。姫に恋人が出来るのはずっと先になりそうね…」
「??」
はっ…!
私は何をしているのだろう。
思わず聞き入ってしまった。
盗み聞きなど、して良い事ではない。
ましてや私は姫様に仕えている身。
決して許される事ではない。
このまま布団をかぶって眠ってしまおう。
よし、そうしよう。
おやすみなさい。
「姫ってさ、男の人と付き合った事とかないの?」
「え?」
!!?
慌てて飛び起き、耳を壁に当てる。
ちょ…マーニャさん、何を聞いて……!?
付き合った事なんてあるわけない……はず…!
「付き合うって?」
「え?」
「付き合うって、何?」
「え、えっと……そうねぇ…。ミネア、説明してあげなさい」
「えーっと…困ったわね…」
「??」
「えっと…例えば、一緒にどこかに遊びに行ったり?」
「そうそう、そういう事!」
「あと、お茶を飲みながら楽しくお話したり?男の人とそういう事をするのを付き合うって言うのよ」
「お茶とかならクリフトとよくしてたよ?」
「あ、あ〜、クリフトさんね…」
「え?違うの?」
「ま、まぁいいわ。まだ付き合った事ないのね」
「そ、そうなのかな…?」
「じゃあ姫はまだキスとかもした事ないんだ?」
「キス?した事あるよ?」
なっ……!?
なんという衝撃の事実…!!
瞬間に心臓が跳ね上がる。
キス…誰と…!?
「え!?嘘!?本当に!?誰と?ねぇ、誰と!?」
「姉さん、興奮しすぎよ」
「お父様と。小さい頃だけど」
「え?あぁ、そういう事ね…」
「え?違うの?」
「ん〜、だからそういう事じゃなくてね…」
だ、だめだ…。
これ以上聞いてはならない。
私は最低だ。最低の人間だ。
もう一刻も早く眠ろう。
でないと、私の品性は地の底まで落ちてしまう。
私は布団をかぶり眠る事だけに集中する。
「ってか柔らかいわね〜姫の胸」
「や〜ん、マーニャさん触らないで〜」
!!?
慌てて飛び起き、壁にへばりつく。
い、いきなり何をして…!?
そんな破廉恥な行為…羨ま…!!
「ほら、ミネアも触ってみなさいよ。柔らかいわよ」
「え…わ、私も…?……あ、あら…本当ね。柔らかい…」
「え〜そうかなぁ?みんな柔らかいんじゃないの?」
「そんな事ないわよ。ちょっとミネアの胸触ってごらんなさい?固いから」
「ちょ…ね、姉さん…!あぁ…や…ん…」
「この子の胸は大きいだけで固いのよねぇ。こんな胸ダメよっ」
「え〜、でもミネアさんの胸も柔らかいよ。形も綺麗だし」
「あ、ありがとう…ん……あ…」
「マーニャさんは本当にスタイルいいよねぇ」
「うふふ、ありがと♪まぁ踊り子がスタイル悪かったら話にならないしね」
「でもミネアさんも負けてないと思うけど」
「それは褒めすぎよっ」
「なんでミネアさんは踊り子にならなかったの?」
「ミネアは暗いからだめなのよ。人前で踊るより影でジメジメとしてる方が好きなの」
「わ、私は…姉さんと違って…ぁ……目立つのが…ん……好きじゃないだけ……よ…」
い、いけない…!
私はなんと卑劣な真似を…!
これ以上は絶対に許されない。
もう本当に寝てしまおう。
眠れるとは思えないが、無理矢理にでも寝てしまおう。
頭を机にぶつけてでも寝てしまおう。
「ちょっ…あの…や……そろそろ…胸揉むの…やめてくれないかしら…?」
「何よ、ミネア感じてるの?」
「か…感じてなんか…ない…んっ…は…離して…姉さん…なんでこんな時だけそんな馬鹿力……や…」
も、もうだめ…だ…。理性が…崩れ…
「ちょ…二人とも…そのくらいでやめて…ん…や…」
「ミネアさん…なんか苦しそう…」
「姫、これは苦しい訳じゃないのよ?」
「そ、そうなの?」
「そうよ。だからもっと触ってあげて?」
「うん……分かった…」
「だ、だめ…姫……そんなとこ…あ…ん…」
「ミネアさん……」
「ね、姉さん…離して………お願い…止めて…」
「あら?本当に止めちゃってもいいのぉ?」
「っ…!」
「ほらぁ、やめて欲しくないんでしょ?」
「違っ……いいから…止めて…お願い…」
「ミ、ミネアさん……なんだか可愛い…」
「だめ…姫っ…ん…っ」
あああああああああああああああああああああ!!
神よ!私は今夜、聖職者としての道を外れてしまいそうです!
どうかお許しを!!
「うふふふ。じゃあ今日はこれくらいで許してあげる」
「も、もう…!姉さんはいつもいつも悪ふざけが過ぎるわっ」
「何言ってんのよ。そんなに嫌がってないくせに」
「そ、そんな事ないわっ」
「ごめんね、ミネアさん」
「姫は悪くないわよ。悪いのは全部姉さんなんだから」
「まぁまぁ、いいじゃない。姉妹のスキンシップよ」
「あははは」
「まったくもう…!」
え…?終わっちゃったの…?
嘘……
「じゃあそろそろ寝ましょうか。明日も早いし」
「うん、そうだね。二人ともまた明日ね〜おやすみ〜」
「おやすみなさい」
「おやすみ、姫」
姫様とミネアさんは部屋から出て行ったようだ。
もう耳を澄ましても隣の部屋からは何も聞こえない。
やけに大きく、自分の心臓の音が鳴り響いている。
夜明けまであと3時間。今夜は眠れるだろうか。
私はクリフト。聖職者です。
出典:ドラクエ
リンク:SS
エンドールの夜
(・∀・): 74 | (・A・): 21
