生徒会は終了。気が楽になった。
しかし、生徒会が終ったからといって、ユキと復縁できるほど世の中は甘くない。
ユキにはすでにタカオがいる。俺の出る幕はないのだ。
高校受験の勉強のために、塾に通っていた。自転車での通勤である。
勉強の甲斐あって、レベルの高いクラスに移動することに。
その教室には、あろうことかミキコがいた。
しかし、会話をする気はない。
冬。寒かろうがなんだろうが、塾は開かれる。
さて、帰ろうとして自転車置き場に向かう途中で、ミキコに呼び止められた。
「あのさ―――」
「なんだ。」
「いや、方向一緒だから、一緒に帰ろうと思って。」
どこの口がそんなセリフを吐くんだ、と言い出しそうになった。
しかし、こらえる。
よくよく見れば、ミキコは美人である。
今までは、その醜凶悪な性格のせいで歪んでみえた表情も、綺麗に整って見えた。
寒さで顔面の筋肉が麻痺している、というわけではなさそうだ。
実際、ミキコは以前よりもはるかに大人しくなった。
やはり、キャンプの時にボロクソ言われたのが、彼女を変えたのだろうか。
「ああ。」
曖昧な返事をして、一緒に帰ることに。
2月のはじめである。寒さも極まり、手袋・耳あて無しでは外出できない。
ミキコが何も喋らないので、仕方なく話題を作ってやった。
「オメェも大人しくなったよな。」
「え?そうかな。」
「メチャクチャ性質が悪かったじゃないか。」
「………うん」
なにが「うん」だ。素直にでられると、腹が立ってくる。
「俺に2度も泣かされたのか堪えたかよ。」
「まぁ、ね。」
「おかげで、俺は悪者扱いだったがな」
またミキコが黙りだした。本当、どうしようもない奴だ。
だいぶたって、やっと口を開く。
「アキラ君は、私のこと嫌いだよね?」
………いい加減にしてくれ。
俺を惑わさないでくれ。
「別に。」
また出た。俺の馬鹿。目先の女の可愛さに、見事にだまされている。
「じゃあさ―――」
すっと、ミキコは手袋の手で、一枚の便箋を渡してきた。
「あ?」
なんだよコレ、と言おうとしたら、すでにミキコは自転車を加速させて、道を曲がって消えていった。
家に帰って便箋を見る。「アキラ君へ」だと。
もういい。わかったから、やめてくれ。
ここで、この中身を見て、ミキコに心が動いてしまったら………
俺はたぶん、タカオに殺される。ユキにも殺されるかもしれない。
自分の中で信義とかが崩れ去る気がする。
結局、読んだわけだが。
要するに、ミキコは昔から俺のことが好きだったらしい。
しかし、俺はユキをはじめ、ミキコの嫌いな連中とばかり付き合っていたので、それが気に入らなかったのだと。
ユキと付き合ったことを知って、自分を見失って、ユキに俺と別れるように仕向けたこと。
そのことについては、何度も謝罪の言葉が綴られていた。
そして、キャンプの時に俺にののしられて気持ちがごちゃまぜになり、
最終的には、俺のことを以前よりも好きになったということだ。
―――で、付き合って欲しい、とのこと。
………わけがわからない。特にキャンプのあたりが。
人間は信用できない。すぐに気持ちが変わるし、本当の気持ちは本人でもわからなくなる。
しかし、今にして思えば、だからこそ人間は面白い、ということか。
「好き」と言われて嬉しくない男はおるまい。相手が美人ならなおさらだ。
そして、性格が完璧なら文句は無い。
………困ったことに、この手紙を読む限り、ミキコが超極悪な女だとは思えなくなってしまった。
タカオに相談するわけにはいかない。「断らないなら死んでしまえ」と来るだろう。
自分ひとりで考えてみる。
ミキコと付き合えば、ミキコを手に入れる(嫌な表現だが)ことができる。
なんせ、久しぶりの彼女だ。セックスだって十分楽しめるだろう(若さ故に)。
しかし、その代わりにタカオに殺される。親友を一人失うことになる。
ミキコに断りを入れると、どうなるか。
………なにも変わるまい。タカオがいる。そしてタカオはユキと付き合ってゆく。
よく考えると、タカオがユキと付き合いだしてから、ろくに口を聞かなくなった。
ユキと二人で、俺からは疎遠状態。
(ひょっとして、すでに失ったものなんじゃないか。)
だから、後は二人に嫌われるか、嫌われないかの差があるだけだ。
………男と女。親友と彼女を天秤に載せた結果。
俺は、彼女をとることにした。
自分の信義、プライドなんて、頭からなくなっていた。
ミキコと付き合うことになったものの、学校ではなるべくお互い近寄らないようにした。
学校で噂になるのはマズイだろう。俺とミキコが話をするのは、塾の帰りと、休日だ。
しかし、それもいつかは人の知れるところとなるだろう。時間の問題だ。
受験は終った。ミキコと俺は同じ高校に通うことに。
卒業式もあっという間に訪れた。
校門までの道のり。最後ぐらいはいいだろうということで、俺とユキコは並んで手をつないで歩いた。
「あっ」
声がして、横を見ると、同じく手をつないでユキとタカオがこっちを見ていた。
動けなかった。気まずい、とかそういったレベルではない。
ミキコも、気まずいのだろう。完全にかたまっている。
―――噂は本当だったのか、とでも言いたそうに、タカオがこっちを睨みつけている。
その視線が死ぬほど俺の良心を攻め立てる。
「いこう。」
俺は、逃げるようにミキコの手を引いて校門へ向かった。
タカオは追ってはこなかった。
ユキがどんな顔をしているかなんて、怖くて見れなかった。
高校生活は順調であった。
携帯電話を持つようになり、中学時代の悪友とも連絡先を交換する。
高校生にもなると、友人たちの不良度合いはさらに上昇。
茶髪、ピアス、お金があればバイクを入手。
たまに夜中に呼び出されては、友人のバイクを眺めては、コンビニの前でアイスを食べた。
しかし、だんだんと彼らの素行もマズいところまで進んでしまった。
暴行窃盗。レイプ。そして、麻薬。
友人たちは、「犯罪しない組」か「犯罪組」にわかれた。
当然、俺は「しない組」とだけ遊ぶようになった。もっとも、二つの境界線は曖昧だ。
ある日のことである。悪友たちと遊んでいた時のことだ。
「アキラぁ、お前のメアド、ユキの奴が知りたいってよ。」
「えっ?」
どうやら、ユキはこいつたちと付き合っているようだ。
以前のことがあって、少々気が引けたが、俺はそいつにメアドと連絡先をユキに教えさせた。
ユキに呼ばれて、公園まで行くと、そこにはタカオも来ていた。
「テメー!どのツラさげて会いにきた!」
タカオが殴りかかってくる。やはり怒っていたのだ。問答無用である。
しかし、俺も喧嘩が弱いわけではない。タカオの振り回される拳をよけまくる。
「やめて」
ユキが言う。それでタカオも手を引いてくれた。
久しぶりに見たユキは、金髪に化粧。昔よりやせて見えた。
「それよりさぁ、アキラ。昔みたいに、また仲良くやろうよ。私、寂しかったんだけどな。」
物言いの明るさは昔のままだ。変わったのは外見だけだと知って、ほっとした。
だが、何かこのセリフはおかしい、と違和感があった。
そこで、タカオが言う。
「………まだあの女と付き合ってるのか?」
「ああ。」
「………別れろよ。お前さぁ、ユキがいなくなって寂しくなって、女なら誰でもよくなって付き合ったんだろ、アイツと。」
なかなか酷い言い草。おまけに、否定しきれないところが怖い。
「そんな女、価値ねーよ」
だが、この言葉にはカチンときた。
「価値あるわ!」
「セックスするだけならな」
違う。ミキコはそこまで捨てたもんじゃない。
美人だということもあるが、彼女は優しく、可愛い存在だ。ユキにも決して劣らない。
全て付き合ってから気付いたことだが、それでも大切な奴だということには変わりない。
「クソ野郎!」
今度は俺がタカオを殴る番だった。
タカオは、高校で部活に入っていないのだろうか。動きが酷く鈍い。
殴る、蹴るの連打で、あっという間にタカオは地面に沈んだ。
「やめてよっ!」
ユキの声が耳に入ったのは、タカオが既にうずくまっている時であった。
俺はもう、これ以上ここにはいたくない。
「ユキ、悪かった。ミキコはあれで、意外とイイヤツだったんだ。嫉妬でお前にちょっかいだしたらしい。お前にも悪かったと言っていた。」
「………知らない」
「まあ、俺はもう帰る。次はもう、ケンカはごめんだ。」
俺は、そのまま帰宅した。
それからしばらくの間は何にもなかったが、半年も経つとユキからメールが来るようになった。
内容は大したことはなかった。
やれ「今夜のメシはまずかった」だの「あのテレビの司会者は気に食わない」だの。
雑談程度なら、俺も快く付き合うことにした。
高校3年になり、勉強が忙しくなった。
ユキのメールに付き合うことも控えた。返信を遅くするようにしたのである。
最後には、「受験だから、あんまりメールできない」というメッセージも送った。
それ以来、ユキからメールはこなくなった。
加えて、次第に今まで付き合っていたミキコとは疎遠になっていった。
自然消滅、ということである。
あれほど好きだった相手なのに、熱が冷めるときはいともあっさりしている。
大学生になった。一人暮らしのために、地元を離れる。
ヒマになったことをユキにメールで伝えたが、返事は来なかった。
嫌われたのだろうか。仕方あるまい。
ミキコは違う大学に入学した。自分の夢を追いかけたというのなら、俺は何も言うことはない。
一人にもどり、大学生活を満喫した。
大学2年になると、突然ユキからメールがきた。
最初は、雑談と昔の思い出話だった。
しかし、突然話は変わる。
『ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけど。』
『なんだ?』
返信は、しばらくしてからやってきた。
『クスリを買って欲しい』
俺は、しばらく息をするのも忘れるほど硬直した。
最後の電話相手3
(・∀・): 31 | (・A・): 49
