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僕だけのアフロデーテ
登録者:えっちな名無しさん
作者:名無しの作者
(・∀・)15(・A・)32


「ねえ、先生。わたしを描いて」
 辻茜はそう言って、美術室のドアから顔をのぞかせた。僕は筆をとめ、この珍入者に思わず目を細めてしまう。放課後の美術室が冬の夕暮れに包まれようとしている中、彼女は僕に歩みよった。
「辻君。君、突然どうしたんだ?」
「今のわたしを、残してもらいたくて」
 その言葉に僕の胸は高鳴った。前々から描きたいと思っていた、この気品高い辻茜を。だが、その彼女の方から描いて欲しいと言っているのだ。僕はうれしさを隠して、さも平然と言った。
「いいよ、実は僕も静物画ばかりで飽きてたところなんだ」
「ありがとう。じゃあ、今からお願い」
 僕は急いで新しいキャンパスを用意していた。だが、衣擦(きぬず)れの音がして振り返ってみると、辻茜はセーラー服の上を脱いでいる。シミーズの白が、僕を激しくあわてさせた。
「えっ! な、なに脱いでいるんだ!」
「なにって、描いてもらうのは裸に決まっているでしょ?」
「待て! 僕は裸を描くなんて一言も言ってない。早く服を着なさい!」
「イヤ! 裸を描いて! それとも、わたしじゃ不服?」
「そうじゃなくて……、立場上よくない」
 辻茜の裸体が描けるなら、僕は教師を首になってもいいとさえ思った。だが、ここで描いていたら、いつか誰かに見られて、彼女が傷つくことになる。それは、耐えがたいことだった。
「でも、先生。いいモチーフがないって、嘆いていたよね。わたしが、それを買って出るのよ。それに、いい記念になるし。ね、お願い」
「……分かった。描かせてもらうよ。ただし、ここじゃなくて、僕のアトリエでね」
 僕は、こうして辻茜の申し出を受け入れた。彼女には、誰にも言わないように言った。それが、僕の唯一の条件。彼女はそれを素直にのんだ。
 教師と生徒。それも裸体を描くなどと、本当なら拒否する。だが、彼女の裸体を描ける。その魅力には、僕はあらがえなかった。
 辻茜。彼女は気品高く、今にも弾けそうなみずみずしい身体をしていて、もうすぐ開くであろうときを、今や遅しと待っている。その裸体を描けるという機会に恵まれて、僕の胸は高鳴った。
 僕はその日、どうやって帰ったのか分からなかった。

 冬休み最初の日。僕は朝から落ち着かなかった。あと少ししたら辻茜が来る。僕は気を静めようとして、コーヒー豆をすり、ゆっくりドリップして、彼女が来るのを
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