勇者「おーい、奴隷買ってきたぞー」 (笑える体験談) 45090回

2008/06/28 11:53┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:名無しの作者
勇者「おーい、奴隷買ってきたぞー」
僧侶「……ちょっと待ってください、今なんて言いましたか」
勇者「奴隷買ってきた。いわゆる人身売買、略してジバってやつ」
奴隷「………………」
僧侶「く、首輪につながれて……こんな小さな女の子に、なんてことを……」
勇者「まあまあ。料理とか洗濯とかダルいって言ってたじゃん、こいつにやらせようぜ」
僧侶「そ、それとこれとは別です! すぐに解放してあげてください!」
勇者「それもいーけどさー。この街ぜんぜん治安よくないじゃん」
僧侶「あ……」
勇者「ここでこいつを放しても、いいとこ野垂れ死にじゃない?」
僧侶「う、ううう」
勇者「よーし、じゃあ三人で魔王を倒す旅を続けようかー」
奴隷「………………」

奴「…………あの、う」
勇「なに? 飯ならパンがあるけど」
奴「ごはん……たべて、いいの?」
勇「そりゃまあ、食わせないと飢えて死ぬし」
奴「檻の中にいた時は……食べさせて、くれなかった」
勇「ふーん」
奴「ごみばこの中身を、食べろって……」
勇「あの奴隷商も無茶すんなあ。奴隷壊しても意味ないだろうに」
奴「わたし……なにをすれば、いいですか?」
勇「まあいろいろと。家事の他にも荷運びとか、お使いとか、旅先では見張り番とか、ゆくゆくは斥候とかもやってもらいたい」
奴「……がんばり、ます」
勇「あとエロいこともする」
奴「え……えっちな、こと?」
勇「超するよ超。おまえ、かーいいしね」
奴「い、いや……」
勇「嫌がってもするよー。ほのぼのレイプ」

僧「料理はできますか?」
奴「……へた、です」
僧「そう……なら、私が教えますね。大丈夫、すぐにできるようになりますよ」
奴「…………」
僧「……勇者様は、なんて言ってましたか?」
奴「おしごとするなら、ごはん、食べていいって……でも、えっちな事もするって……」
僧「こ、こんな小さい女の子に!? 何を考えてるのあの人は!」
奴「あたし、奴隷だから、しょうがないのかな……」
僧「そんな事ありません! 嫌なら嫌って言っていいの!」
奴「でも……」
僧「今日は私と一緒に寝ましょう? 大丈夫、あの人に手なんか出させません」
奴「……はい」
僧「本当に、何を考えてるのかしら。私には手を出そうとしなかったくせに……」
奴「?」
僧「……なんでもないわ」

勇「そろそろ旅立つか……の前に、こっち来い」
奴「……はい?」
勇「俺に鎧着せて、ほらこれ」
奴「わかり、ました……」
勇「今までは自分で着けてたんだけどなー、結構めんどいんだわ」
奴「鎧の着せ方……こう、ですか……?」
勇「そうそう。んー、快適快適」
奴「……重い。こんなのを着けて、戦ってるの?」
勇「慣れればなんとかなるもんよ。あ、おまえには後で靴買ってやるな」
奴「え。わたし、はだしでいい……」
勇「いやいや。ホビットじゃねえんだから、荒野を裸足で歩いたりしたら足がブッ壊れるぞ」
奴「……ゆうしゃさま、やさしい?」
勇「水虫になっても知らんけどな、中古だし」
奴「あう……」

勇「しゅっぱつー。ハンカチ持った? トイレ行った?」
奴「お、おもい……」
勇「ハンカチが重い……じゃなくて、荷物が重いか。俺たちと同じ重さの荷物しか持たせてないんだが」
僧「まだ小さいんですよ? ……貸して、少し持ってあげる」
奴「……あ、ありがとう」
勇「んじゃ、いい感じに正義の味方として魔物を蹴散らしてこようか」
僧「今回は、この子が襲われないようにうまく考えないといけないですね」
勇「まーな。ま、考えていこうか」
奴「わたしは、たたかわなくていいの?」
勇「んにゃ。隠れててもいいけど、戦え」
奴「……?」
勇「どんなに怖くても、荷物持ったまま逃げたら殺すよ。敵は殺さなくてもいいけど、役目は果たせってこと」

勇「……おっし。戦闘終了っと」
僧「じっとしていてください、今傷を治します」
勇「優しくしてねー。俺、実は初めてなんだ……」
僧「……なにがですか。回復魔法なんて慣れてるでしょ」
勇「いや、生まれてはじめて腹からモツがはみでかけてるんだ」
僧「す、すぐに治しますから喋らないでっ!」

奴「……お、おわった?」
勇「傷も治った。僧侶はえらいねえ、撫でようか?」
僧「い、いりませんっ! それに偉いっていうなら、私よりこの子の方が……」
奴「……わ、わたし、逃げません、でした」
勇「一回鳥のモンスターに目玉食われかけたのにな。これは有望かもしれん」
奴「えへへ……あ、でも、あの、その」
僧「?」
奴「あの、近くに川とか、えと」
僧「川? 何か水を使う用事でもあるの?」
奴「そ、それはその、つまりというか、ごめ、あう」
勇「ああ、小便漏らしたか」
奴「ふ、ふえええええんっ!」

勇「ではお楽しみの略奪タイムです」
僧「……生活していくためにしょうがないのは分かってるんですけど、気分は良くないですね」
勇「俺は気分いいのになー。とりあえず金貨とか宝物とか……ないか。ま、低級の魔物だしね」
奴「あのう、このメダルは……」
勇「ああ、それ鉛。価値はないな」
奴「……しょんぼり」
勇「だが魔物にはそれ以外の価値があるのだ。毛皮とかいい素材になるらしいよ」
僧「……このタイプなら、毛皮と角、それに目玉と息袋もいけますね」
勇「嫌がってる割には見立ては上手いね。ツンデレ?」
僧「なにがですか……早く済ませましょう、私も剥ぎ取りを手伝います」
勇「うい。やり方教えるから、奴隷ちんも手伝ってねー」
奴「く、くさい……」
勇「素材の上に吐いたら殴るから。あと肉も干し肉にしとくかね」

勇「ふーい。休憩しよっか」
奴「あのう、のどかわきました……」
勇「ちょびっと水をやる。水袋の中身そんなにないし」
奴「……んく」
勇「疲れた?」
奴「ゆうしゃさまは……疲れないんですか? あんなこわいまものと、たたかって……」
勇「慣れてるし。僧侶もいい援護を入れてくれるしな」
奴「あたしも、ゆうしゃさまやそうりょさまみたいに、強くなれるでしょうか……?」
勇「なに、剣でも習いたいの?」
奴「……うん」
勇「んー。ビミョーなとこだね、生兵法は怪我の元って言うし」
奴「だめ……ですか?」
勇「初歩の補助魔法なら教えてやるけど。僧侶も回復魔法とかなら教えてくれるだろうし」
奴「あ、ありがとう、ございます……」
勇「か、勘違いしないでね!? 別にアンタのためじゃないんだからっ! そう、俺たちの役に立つからで!」
奴「……?」
勇「いや、つっこめよ」

勇「しっかし、俺と僧侶もわりと長く旅をしてるけど、魔王の城まではまだまだ遠いね」
僧「ここはもう、魔王軍の領地にかなり近いのですけれど……」
勇「魔王軍の領地に入ってから魔王の城までが遠いんだよなー」
僧「国境を越えると、街がないのが問題ですね」
奴「……あの、でも、魔王軍も、街は持ってるって」
僧「ああ、魔王軍の街に人間が入ったら殺されちゃいますから」
勇「詳細な地図もない、保存食の調達もできない、武器の修理もできない。立ち寄る街なしに旅を続けるなんてムリのムリムリでございます」
奴「じゃあ、魔王は倒せない……んですか?」
勇「んー、どうだろ。ウチらの軍隊は魔王軍と絶賛膠着中だし」
僧「軍隊が魔王を倒してくれるなら、勇者なんて要りませんよ」
奴「ゆうしゃさまは、軍隊より強い……?」
勇「んにゃ。でも俺が軍隊を倒す事はできないけど、軍隊から逃げる事はできるんだよ」
僧「軍隊は軍隊から逃げられませんから。魔王の城にたどり着き、決着をつけられる可能性があるのは、それでも勇者だけです」
勇「まー、そゆこと。言ってみれば俺らは対魔王の暗殺部隊というか」
奴「……かっこいい」
勇「だろ」
僧「そ、そうかな……?」

奴「はう……いいなあ」
勇「何見てるの、こんな店で」
奴「あ、ゆうしゃさま。この服を……」
勇「ふむ。わずかなフリルと黒のスカートが瀟洒ですね」
奴「あ、あのう……もしだめじゃなかったら……」
勇「めっ!」
奴「ふぇっ!?」
勇「ウチにこんな高い服を買う余裕はありません。却下」
奴「……そうですよね。ごめんなさい、奴隷のくせに」
勇「まったくだ。あ、でもこれはやる」
奴「え? これは……」
勇「いわゆるところの給料ってやつ」
奴「……も、もらっていいの? ほんとに? も、もしかしてこれで服を買ったり」
勇「はい、今まで働いたぶんな」
奴「……銅貨、二枚?」
勇「にまい」
奴「えっと、それで、この服のねだんは……」
勇「銅貨にして二千枚くらいだったっけ、確か」
奴「ううう……」

仮に金貨一枚=1G、金貨一枚=銀貨百枚、銀貨一枚=銅貨百枚だとしたら、
奴隷の給料は0.0002Gという事に。

勇「おお、そういや忘れてた」
僧「嫌な予感がしますけど、何がですか?」
勇「そういや俺はまだ奴隷とえろい事をしてなかったじゃないか」
僧「……まだ諦めてなかったんですか。そんな事は、私がさせません」
勇「会って直後にやるって宣言したのに。そんな約束も守れずに俺はどうすればいい!」
僧「去勢でもすればいいのではないでしょうか」
勇「何気に凄い事言うね君。どーしても嫌? 別におまいにする訳じゃないのに」
僧「あの子は嫌がってます。それで十分でしょう?」
奴「あ、あのう……」
勇「おお、なんだ? 横から口を出してきて」
僧「ああ、あなたがはっきりその口から言えば、この人もきっと納得してくれるはず……」
奴「わたし……いやじゃ、ない、です……」
僧「そうですよね、嫌じゃな……え゛っ!!?」
奴「こ、今夜……おまちしており、ます……」
勇「わーい。じゃ、そういうことで」
僧「え……え、えー……?」

勇「よう」
奴「……こ、こんばんは。み、水浴び、してきました」
勇「うん、いいにおい」
奴「は、恥ずかしいです……」
勇「で、どういう風の吹き回し? 俺が言うのもなんだけど、どう見ても嫌がってたじゃん」
奴「あ、あのう……それは……」
勇「金?」
奴「あたしが、その、あの……すれば、お給料は、上がりますか?」
勇「上がりません、つったら帰る?」
奴「…………」
勇「アレは、買った靴とか食わせたパンの値段とか差し引いてアレだしな。低いレベルでだけど衣食住は保証してる分、給料は低くもなる」
奴「そうりょさまも、そう言ってました……」
勇「ま、仕事だからな。えろいことにも金はあげます」
奴「なら、あの……」
勇「でもさ、僧侶が言ってたけど」
奴「……?」
勇「“私たち旅人は、家の都合で結婚をさせられる事はない。
   だから旅人の女の子は、自分が本当に好きな人に、この身体を捧げる自由がある”って言ってた」
奴「………………」
勇「途中で泣き叫ばれてもアレだし、確認だけはしとくよ。本当にいいんだな?」
奴「あたしは……おんなのこじゃ、ないんです」
勇「うん?」
奴「にんげんじゃ、ないんです。どれい、ですから……そんな自由なんて、いらないんです」
勇「んー……」
奴「……ほんとう、です……」

行動安価 >>145
[抱く← →抱かない]
抱かない

奴「………………」
勇「やーめた」
奴「えっ?」
勇「俺は人間以外とヤる趣味はないし。おまいが自分は人間じゃないって言うんなら、やめとくわ」
奴「…………あ」
勇「ガタガタ震えながら声殺してる奴の股開かせてもなー。つーか、そんなのに金払うくらいなら娼館行きます」
奴「あ……う……」
勇「つうかさ。金が欲しいんだろ? 服が欲しいんだろ?」
奴「そ、それは……うん……」
勇「でも身体開くのはヤだったから、心を殺してるフリでもしたかったのか?」
奴「…………でも。あたしは、ほんとうに、奴隷なんです」
勇「うん、奴隷だな。でも、人間でもある」
奴「…………」
勇「納得した?」
奴「……ぐすっ」
勇「な、なんで泣いてんの?」
奴「ぐすっ……ふぇえ……ひくっ……」
勇「え、えーと。泣く子は苦手なので、とりあえず泣きやんでほしいんですけど」
奴「ふぇ……ご、ごめっ……うぐっ」
勇「うーむ。なでなで」
奴「ひく……」

勇「おはやう」
僧「……お、おはようございます」
勇「なに、その目のクマ。昨日寝てなかった?」
僧「だ、誰のせいで……い、いえ。その、ちょっと眠れなくて」
勇「奴隷ちんが心配だった?」
僧「……まあ、そうです」
勇「安心しろ。朝から晩まで五回戦、妊娠確実と言っても過言ではない」
僧「こ、殺スッ……!」
勇「冗談だってば。ほんとはなんもしてないっす」
僧「ほ、ほんとに?」
勇「マジでマジで。疑うなら奴に聞いてみ」
僧「……厳しい言い方をするようだけど、それは当たり前の事です。
  あの子に何もしなかったからと言って、“いい人”とか“優しい”とか、そういう事にはならないんですよ?」
勇「かもねー。ま、とにかく俺は何もしなかった訳で」
僧「まあ……私は、ほっとしましたけど……って、どこ行くんですか?」
勇「ちょっと娼婦買ってきまス」
僧「こ、この馬鹿っ!」

魔王「四天王軍は……砦を……ここは放棄……」
部下「……は、かしこまりましてございます……」
魔王「物資……魔法を……魔術書も……」
部下「……はい、陛下のおおせのままに……」
魔王「………………ああもう、毎日コレで頭が破裂しそうだわ! いったいいつまで人間どもとの戦争は続くの!?」
部下「は。かれこれ戦争の発端は二千年前、人類どもの王が卑怯にも……」
魔王「歴史の講義はいらないわよ! そんな設定なんて作ってないし!」
部下「へ、陛下、お心をお平らに」
魔王「わかってるわよ! はあ、そろそろ潮時かしらねえ……」
部下「潮時とは?」
魔王「そろそろ休戦の交渉をはじめようかってコト」
部下「な、なんと! あの人間どもと同等の地に立とうとおっしゃる?」
魔王「永遠に殺し合ってる訳にもいかないでしょ。人間の文化って奴にも理解を示してやらないとね」
部下「は。それでしたら、人間どもの文化を示した書がこちらに」
魔王「読んでみなさい」
部下「では、僭越ながら人間流の挨拶などわたくしが」
魔王「ふうん?」
部下「チィーっス♪ 魔王ちゃーん☆」
魔王「…………」
部下「…………」
魔王「……その書物は放棄しなさい」
部下「ぶっちゃけオッケティングー」
魔王(本を投げる)

勇「なにやら魔王城のあたりでゆかいな漫才が繰り広げられていた気がするが、それはともかく準備はできたかね」
僧「今回は、魔王軍に襲われそうな村の救援ということでしたけど……」
勇「さて、どーしたもんかな」
僧「……これが国王の命令だなんて、ひどい」
奴「…………?」
勇「いやさ、ぶっちゃけ魔王軍の数からして、俺らだけじゃどう考えても守りきるのは不可能なんだわ」
奴「え……」
僧「村までの日数的にも間に合うかどうか、ですね……」
勇「ぶっちゃけ結果なんてどうでもいいんだろ。あの村も貴族の所領だし、“守ろうとした”という建前だけの命令ってとこか」
僧「そんな事言わないでください! どんな村でも、そこで平和に暮らしてる人がいるんです!」
勇「そう熱くなるなって。とにかく行ってみるべ」
奴「あ、あの、でも……」
勇「うん?」
奴「そんな、たくさんの……ゆ、ゆうしゃさま、死んじゃったら……」
勇「あー、死ぬまで戦えって命令は受けてないから。いざとなったら逃げるし」
僧「…………」
勇「国王からの成功報酬はけっこうな値だしなー。まぁ努力はするけど、命までは別だぞ? 僧侶もそれでいいな?」
僧「……はい」

勇「……うし、とにかく襲撃前に間に合いはしたな。村長ってアンタ?」
村長「私が町長です」
勇「いやその発言一行で矛盾してるから」
村長「私が町長です」
勇「そのネタわかんない人多いと思うから。これからの戦略だけど、何か考えてる?」
村長「国から派遣された方は、あなたがた三人だけですかな?」
勇「うん」
村長「援軍などは……」
勇「来ないだろーね」
村長「……逃げるしかありませんかな」
勇「逃げ隠れる。しかし、村人の足よりは魔物の足の方が早いだろうね」
村長「我々も戦いましょう。戦える者は壁となってでも、女子供を逃がすべきだ」
勇「んじゃ、その方向でよろしく」
幼女「おにいちゃ、だれ?」
勇「おにいちゃはこの村の平和を守るためにやってきた勇者。超カッコイイのでちゅーさせてください」
幼女「え、えっとえっと」
村長「孫に手を出したら逆さ磔にするぞコラ」
僧「あなた、やっぱりロリコン……」
勇「冗談だってばー」

奴「………………おわった」
勇「ああ、終わったな」
奴「……あたしたち、生きてる」
僧「ええ、生きてます……」
奴「あたしたちだけ、生きてる……」
勇「ああ。さすがに魔王軍が撤退するまで戦えるとは思わなかったな」
僧「あなたが罠や仕掛けを駆使したおかげですよ、他にも兵糧を焼いて撤退を早めたり……」
勇「この村にもともとあった畑とかも焼かなきゃならんかったけどな」
僧「……お疲れ様でした」
勇「村長もきっちり死んだなあ。てっきりこいつが裏切るんじゃないかと思ってたが、ご苦労さん」
僧「…………え? あ、あの、何してるんですか?」
勇「いやさ。村長の死体がいい指輪をはめてるから、もらってこうかと」
僧「な……ほ、本気で言ってるんですか!?」
勇「うん。こいつは本物の値打ちものだな、神の祝福がかかってる」
僧「今すぐにやめなさい! それは人間としてやってはいけない行為です!」
勇「なんでさ。この死体はもう人間じゃないし、人間とは関係のない肉の塊だ」
僧「……っ!」
勇「……いたた。おまえに殴られるのなんて、はじめてだな」

行動安価 >>320

[指輪を渡さない
指輪を死体に返す
指輪を僧侶に渡す
指輪を奴隷に渡す]

僧侶に

勇「……いたた。おまえに殴られるのなんて、はじめてだな」
僧「……ごめんなさい」
勇「…………」
僧「……でも。それだけ、怒ってるんですよ? 私の心の動きは、全く理解できないものですか?」
勇「んー。でもまあ、ひとつ言ってない事があるんだけど」
僧「なんですか?」
勇「はいこれ。もともとおまえにやろうと思ってたんだ」
僧「……え?」
勇「はめてやるよ……っと。うん、よく似合ってる」
僧「ふ、ふざけてるんですか!? 私が受け取るわけ……と、とれない!?」
勇「おお。神は汝を選びたまう、みたいな?」
僧「何言ってるの! というかこれ、もしかして呪いの品!?」
勇「俺がはめてみた時はなんともなかったんだけどなー」
僧「のんきに言わないでください! い、いっそ指を切り落として……!」
奴「だ、だめー!」
勇「まあ俺からのプレゼントってことでひとつよろしく」
僧「嬉しくありませんっ! こ、こんな風じゃなければ素直に喜べるのに……」

幼「……こんにちは」
勇「や、どうも。あの村から逃げた後はどうなるかと思ってたが、元気にやってるみたいだな」
幼「……おねえちゃといっしょに、くらしてる」
僧「うん。あなたが幸せに暮らせば、村長……おじいちゃんも喜ぶわ」
幼「……おじいちゃは、どうしたの?」
僧「あ……」
幼「おじいちゃ、村にいて……こわいまものがいて……どうなった、の?」
僧「それは、その……だ、大丈夫。おじいちゃんは別の町にいって、今は戻ってこられないけど、元気で」
奴「死んじゃったよ」
僧「えっ!?」
幼「…………」
奴「おじいちゃん、死んじゃった。魔物に、殺されちゃった」
幼「……うん」
奴「あたしが埋めた。おじいちゃんは、天国に行ったの」
幼「おじいちゃ……」
奴「なでなで」
幼「う……ぐす……」
奴「なでなで。ぽんぽん」
幼「ぐひゅ……ふぇっ、うええええん!」
僧「……かれらの魂にやすらぎあれ。天界にて、名誉に値するだけの平穏を得られん事を」

僧「……ここが依頼人の指定した場所、ですか」
勇「どう見ても遺跡の最下層だな。ここで待ち合わせなんて、どれだけ秘密主義なんだか」
奴「あのう……あぶなくない、ですか? まちぶせとか、だましうちとか」
勇「その辺は一応調べといた。つか、君もすれてきたね」
奴「そ、そうかな……」
勇「成長したとも言える。はい、なでなで」
奴「はう……」
魔「あら、仲良さそうね」
僧「!? ……あなたが、依頼人ですか?」
魔「ええ。はじめまして、私が魔王です」
僧「……………………は?」
魔「いや、だから私が魔王なんだけど」
勇「さすがの俺もあまりの妄言っぷりに動揺が隠せないが。仮にも魔王なら、俺が勇者だって分かって来たのか?」
魔「失礼な人間ね? 魔軍の長として、れっきとした目的があるのよ」
勇「……よし、勇者として聞いてやろうではないか」
魔「話せば長くなるけど……」

魔「まず最初に、わたしは魔王として、人間の王国との和平を考えています」
勇「おおう。いきなり爆弾発言だな」
僧「そんな……本当に? あの凶暴な魔王軍の長が……」
魔「人間だって十分凶暴じゃない、私たちは力強いだけ。でもそんな魔軍も、永遠の戦いには勝ち抜けないわ」
勇「ま、それは俺たち人間も同じだな」
魔「だからあなた達の国王に、この話を持ちかけようかと思ったんだけど……この戦争真っ盛りの状態で、いきなり和平なんてできる?」
勇「熱くなって殴り合いの最中に、和やかに止められてもムカつくだけ、ってとこか」
魔「だから、まずは水面下での根回しから。貴族から平民まで、徐々に停戦論を浸透させていきたいの」
勇「ふむ。でも、それに俺たちがどう関わるんだ?」
魔「自由に旅ができる立場でありながら貴族との繋がりを持ち、いざという時のための戦闘力まで持つ。
  “勇者”というのは、和平の密使として理想的な立場の人間じゃない?」
勇「ふーむ……」
僧「なんというか……話が唐突すぎて、実感が沸かないですね」
魔「人間は金塊が好きなんでしょう? 密使の立場を受けるなら、金塊くらいならいくらでもあげるわよ」
勇「魔王よ、その人間に今この場でブチのめされるかも、とかそういう事は考えないのか?」
魔「ふふ。私に戦いを挑むなら、王として受けるしかないわね」
僧「……余裕、ですね」
魔「話を受けたふりをして騙し討ちをするなり、軍隊を呼び寄せて私を討とうと試してみるなり、それも自由よ」
勇「釘を刺すねえ。ま、考えとくよ」
魔「ふうん? じゃ、手付けにこの札をあげるわ。魔軍の札を持ってれば、人間でも魔軍の街に滞在できるの」
勇「どもー」
僧「この人も、なんでこんなに余裕なんだろう……」

僧「さっきの話ですけど……どう考えてますか?」
勇「人間と魔物の和平、か。成功させれば俺たちは戦争を終わらせたヒーローに!」
奴「じゃあ……」
勇「悪くすれば俺たちは人間の裏切り者、処刑されて終わりでございます」
奴「……うう」
僧「そもそも、彼女は本当に本物の魔王だったんでしょうか? 外見だけすれば、私より年下にしか見えませんよ?」
勇「この札が本物なら、魔王軍に属してる事は確かだろうな。和平の話が事実かどうかはまだ分からんが」
僧「でも、単なる嘘にしてはちょっと手が込みすぎてる気がしますね……」
勇「むつかしいねえ」
僧「……ひとつ、いいですか?」
勇「うん?」
僧「あなたは、何のために勇者として旅を続けてたんですか?」
勇「おまえは?」
僧「私は、世界を平和にするために旅をしています」
勇「即答だねえ」
僧「だからこの話が本当なら、喜んでお受けしたい……でも、あなたは?」
勇「ぜんぶ」
僧「ふぇ?」
勇「金と地位のためでもあるし、名誉も欲しいし、旅自体も楽しいし、世界も平和にしたいし、おまえといるのも楽しいし」
僧「……え?」
奴「あ……」
勇「ま、そゆことで。この旅が続くんなら、目的はちょっとくらい変わってもいいんじゃない?」
僧「………………」

勇「とにかく魔王軍の街とやらに行ってみる事にした。魔王ちんともう一度会って、もちっと詳しく話を聞こう」
僧「いざという時のために、すぐに逃げられるようにしておかないと……瞬間移動のスクロールを準備しておきますね」
勇「おうですよ。ああ、でもそれって割と短距離しか飛べないよな?」
僧「姿隠しあたりも調達しておきます?」
勇「うん」
奴「…………」
僧「あれ、どうかした?」
奴「あの……わたし、なにをすればいいですか?」
僧「え? えっと……」
勇「じゃ、お使い行ってきて。この前修理を頼んだ鎧がそろそろできてる筈だし」
奴「はい……」

奴「……ただいま帰りました」
勇「お疲れ。早かったね」
奴「つぎは、何をすればいいですか?」
僧「大丈夫よ、少し休んでて。……どうしたの? 少し、無理してない?」
奴「まおうと会ってから、ゆうしゃさまとそうりょさま、二人だけで話をする事が多くて……」
勇「ラブだね」
僧「茶化すのはやめなさい! ……えっと、だから寂しかったの?」
奴「……わたし、むずかしいことはよくわからないから。
  世界を平和にするためのお話なんてついていけないけど、でもそれでゆうしゃさまのお役に立てないのは、さびしくて」
勇「んー。給料分の仕事をしてくれれば、俺的にはそれでいいんだけど」
僧「そう、ですね……あなたは自分にできる事をすれば、それでいいんですよ?」
奴「でも……」
勇「まあまあ。なでなで」
奴「はうう……」

勇「ごぶさた」
魔「お久しぶり。お茶でも飲む?」
奴「……へんな薬とか、はいってないですよね?」
魔「ふふ、可愛いわね。そんな姑息な真似はしないわよ」
勇「まあ、それはともかく。おまいが強力な魔物なのは本当みたいだな、>>425でもらった札は効果覿面だ」
魔「当たり前でしょう?」
僧「けれど……正直なところ、まだあなたの話を、完全に信じられるような証拠はないと思います」
魔「…………」
僧「でも、私はあなたを信じます」
魔「へえ?」
僧「信じるしか、ありません。それが唯一、誰の血をも流さずに平和を手に入れられる道ですから」
勇「おーい、まだ話を受けるとは決めてないんだけど」
僧「……ごめんなさい。でも、これが私の正直な言葉です」
魔「うーん……はい、一筆」
勇「? この魔力がこもった紙は……」
魔「魔王のサインつき、密使任命状よ。魔族なら誰が見てもそれと分かるわ」
勇「ほほう。で、かたわらの袋は?」
魔「これはおまけみたいなものだけど。中身見てみる?」
奴「! きんとかぎんとか、すごい、いっぱい……!」
勇「よし、くれ。密使やります」
魔「……俗物」
勇「褒めてくれてありがとう。じゃ、契約成立って事で」
魔「当代魔王が、人の子に命令するわ。必ずや世界に平和をもたらしなさい」
勇「おう。努力しよう、完全ならざる平和のために」

勇「さて、まず俺たちは人間の有力貴族まで話を持ちかけにいく事になりました。ナレーションっぽく」
僧「結構遠いですね……そうだ、この指輪(>>345)」
勇「どうかした?」
僧「今のうちに鑑定してもらいに行ってきます、やっぱり呪いの品かもしれませんし」
勇「いってら」
僧「……呪われてたら、責任取ってくださいね?」
勇「結婚?」
僧「!? ば、ば、ばかっ!」
勇「おおう。いっちまった」
奴「あのう……」
勇「なに?」
奴「そうりょさまは……ゆうしゃさまのことが、好きなんですか?」
勇「んー、どうだろね。なにかとあいつには世話されてるけど」
奴「じゃあ、ゆうしゃさまは、そうりょさまのこと……」
勇「好きだよ」
奴「あ……」
勇「いや、赤くならないで。唇奪ったり処女奪ったり子供育てたりする好きじゃなくてさ」
奴「……ほんとに?」
勇「俺は、あいつの仲間なんだよ。守る義務っつうか、使命っつうか……まあ、大切なんだ」
奴「たいせつ……」
勇「大切にしたいから、手は出さない。口には出さないけどできる限り守る、家族みたいなもんだ」
奴「………………」
勇「うむ。俺の善良少年っぷりに感動したか?」
奴「……はい。ゆうしゃさまは、すごくやさしくていい人です」
勇「え? 今の、笑顔で返すとこ? ねえ?」

僧「ふう……あ、どうしたの?」
奴「そうりょさま、指輪のこと、わかりましたか?」
僧「……自己犠牲」
奴「え?」
僧「いえ……なんでもない。大したアイテムじゃなかったの、気にしないで」
奴「…………」
僧「それより、あの人はどうしてるかしら?」
奴「ゆうしゃさまは、遊んでるそうです」
僧「遊んで? もしかして、またどこかでいかがわしい職業の女性にでも声を……」
奴「……気になるですか?」
僧「え? ああ……仲間、だしね。何をしているかは、気になるよ」
奴「そうりょさまは、ゆうしゃさまの事が好きですか?」
僧「ふぇっ?」
奴「……好き、なんですか?」
僧「わ、わたしは……私も、人並みに男の人への憧れはあるから。誰かと一緒に暮らしたりとか、その」
奴「ゆうしゃさまと、結婚する……?」
僧「! ……う、ん。あの人になら、その……私を捧げても、いいと、思う」
奴「……ゆうしゃさまは、やさしいです」
僧「でも……あの人は、それを望んではいない。私を欲しがってない、それは、なんとなく分かるの」
奴「…………」
僧「たぶん、ひとつの街で女の子と静かに暮らすなんて、あの人には退屈なだけなんでしょうね……きっと、ね」
奴「さびしい、ですか?」
僧「大丈夫だよ。勇者様は、なんだかんだで優しいし……それに、あなたもいてくれる」
奴「うん……」

僧「ここが目的の貴族の屋敷……」
勇「やってきたぞと勇ましくー。ども、失礼しまっす」
貴族「チィーっス♪ 勇者ちゃーん☆」
僧「…………じ、事前にお話を差し上げた勇者一行です。しょ、少々お時間をいただけますか?」
貴族「ぶっちゃけオッケティングー」
奴「(小声)ヘンな人……」
貴族「このしゃべくりが今風みたいな? みた風?」
勇「んじゃ俺もぶっちゃけまス。魔王軍との和平活動に協力してくれませんかね」
貴族「コーヒー吹いた! なにそれ? マジネタ? ネタ?」
勇「マジです。魔王からの証書見ます?」
貴族「でーもーさーあー。俺様ちゃんって、直接兵を動かしてはいない立場でしょ?」
僧「それは……伺っておりますけれど」
貴族「言わば安全圏にいる訳よ、アンゼンケーン。わかる? 戦争があろうがなかろうが、損得には関わらない訳で」
勇「あー、確かに」
僧「そんな……戦争が続けば、貴方の領地も無事ではいられないかもしれないんですよ!?」
貴族「ああ、そりゃなし夫」
勇「自信ありげですね。ま、そりゃそうか」
貴族「あり夫ですが何か?」
勇「魔王から聞きました。この家、もともと人間を裏切って魔王軍との取引をしてるんですよね?」
貴族「うわお! わーい本物だー!」
勇「もしかして和平に協力しないのは、魔王軍との取引が露見するのを恐れてたから?」
貴族「なにそれー。協力しないとこの事をバラすとか? 殺すよ?」
奴「……あのう、いいですか?」
貴族「どしたの、そこの奴隷っぽい生き物」
奴「ちょっと、気になった事があるんですけど……」

奴「……和平を考えたのは、まおうさまです」
貴族「マジ流?」
奴「なら……あたしたちを殺しても、どうにもならない、ですよね? というか、まおうさまがおこって……」
貴族「あー、わあったわあった。何すりゃいいのさ? まさか俺のボデーが目的!?」
勇「他の貴族にこの話を広めてください。まず穏健派の貴族から、ゆくゆくは王族まで」
貴族「ういー。それだけ?」
僧「ええと……他の貴族に会う時のために、紹介状などいただけると助かります」
貴族「ういういー(酔っぱらい風)。ああ、そうだ。俺も気になってる事があるんでシタ」
奴「?」
貴族「その奴隷の顔、王様の夭逝した娘の顔に似てるかもだ。なんかに使えるかもだ」
奴「……わたし、が?」
勇「サラっと凄い事を言われた気もしますが」
僧「うーん……本当に?」

勇「そして>>747から、早くも十年の月日が経過したのであった」
僧「そんなに経ってません。……でも、あれから色々ありましたね。様々な場所を旅して、色々な人や、それに魔物とも話して」
勇「魔物相手の戦いもめっきりやらなくなった気がするね」
僧「……地味な展開ばかりでごめんなさい」
勇「だれに はなしているのだ」
僧「い、いえ。ええと、次に会う方は……難しいですね」
勇「主戦派の騎士の説得かー。ガチガチの武断主義の上に娘を魔物に嬲り殺された経験がある、と」
僧「…………」
勇「ヘタしなくても殺されるかもな、こりゃ」
奴「……わたしも、がんばってお話しします」
僧「あ、あなたはついてこなくてもいいのよ? 今度ばかりは、本当に危ないから……」
奴「でも……わたし、小さな女の子ですから。その騎士の子供も、ちいさなおんなのこだったから……」
勇「まあねー。やっぱ成長してるよな、なでなで」
奴「ふあ……」
僧「……この子が、国王陛下の娘……いや、まさか。似てるだけ、よね」
勇「いやいや、きっと彼女は本物の王の落とし種に違いない! 娘の死因には不可解なところがあったって言うし!」
奴「そんな、わたし……」
勇「間違いない! 絶対確実! いや、マジでマジで!」
僧「……なにをそんなに言いつのってるんですか?」
勇「いや、このくらい言っておけば“やっぱりただの他人の空似だった”って展開にしやすいと思って」
僧「おまえはなにをいっているんだ」

勇「出発前夜っと。うーん、緊張するなあ」
魔「あら、あなたでも緊張する事はあるのね」
勇「そりゃ、ある意味魔物の相手よりヤバいヤマだから……って、いつの間に」
魔「魔王ともなれば、位置や空間など自在なのよ。たまには城の外で遊びたいし」
勇「男遊び?」
魔「うん、それもある」
勇「素で答えられた! このエロ娘!」
魔「王への畏敬が足りないわね、あなた。踏みつけたりもぎとったりすれば正常になるかしら?」
勇「子犬のように腹を見せます。つうか王様がその辺の男の相手なんかしていいのか」
魔「男なんて酒杯と変わらないわよ。千も万も呑み干さなければ王とは言えないわ」
勇「独自の哲学がおありで」
魔「ふふ。あなたも、呑まれてみる?」
勇「んー……冗談じゃないっぽい?」
魔「うん……優しく、するわよ。気分次第だけど、ね」
勇「んー…………」

勇「ん、んん……」
奴「ゆうしゃさまー、あさです……」
魔「あふ……」
奴「あさです、おきてくださいー……え?」
勇「……やは」
魔「あら、おはよう」
奴「ゆ……しゃ、さま?」
魔「ああ。なかなか美味しかったわよ、あなたの勇者様」
奴「……は、はい」
勇「……」
奴「ご、ごゆっくり……」
魔「いや、もう帰るつもりだったんだけれど……あ、いっちゃった」
勇「もしかして俺、なんか悪い事した?」
魔「単に子供だからじゃないの? 私は、事情は知らないけれど」
勇「まあいいや。とにかくもう出発の時間だし」
魔「そう? じゃあ」

(ちゅ)

魔「……えへへ。じゃあ、ね?」
勇「……ああ」

勇「んじゃ、騎士さんのところまで行ってみようか」
僧「主戦派の騎士を説得しに行くんでしたね……でも」
勇「うん?」
僧「昨夜は何をしてたんですか? ちょっと、起きるの遅かったですよね?」
奴「…………」
勇「男には一度家を出ると七つの秘密があるんだ」
奴「……ばらしちゃ、だめですか?」
勇「うん、勘弁」
僧「まさかあなた、性懲りもなくこの子にいかがわしい事を……」
勇「ちがうよう。奴隷ちんはもう俺の妹みたいなものさ!」
僧「……ほんとに?」
奴「……ほ、ほんとに?」
勇「いや、ごめん。勢いで言ってみただけ」
奴「え、えー……?」

勇「ども、お邪魔しまっす」
騎士「……ああ、君たちの噂は聞いている」
僧「それなら、私たちが何の用で来たかもご存じですか?」
騎士「人間と魔軍の和平、か?」
僧「そこまでご存じなら……」
騎士「帰りたまえ、話す事など何もない」
奴「そんな……そう言われても、帰れません……」
騎士「奴隷か? 底が知れるな。勇者の称号を得ながら、こんな小さな娘まで自らの犠牲にしたのかね?」
僧「違います、この子は……!」
勇「いや、奴隷には違いない。もっとも俺は、俺の都合でこいつを殺す気は全くないですがね」
騎士「…………」
勇「あなたは魔王軍との戦いを最前線で続けている。だが、あなたは優秀な指揮官だ。容赦なく部下を戦いに駆り立てている」
騎士「王命と覚悟の元に、部下の命を背負う。騎士ならば当然の事だ」
勇「はい。あなたは魔王軍の侵略に抵抗し、反撃し、戦いを続けてきた。そのために部下の命を使うのは、ごく自然な行為です」
僧「…………」
勇「でも、その戦いが“侵略への抵抗”ではなく、和平の後にも続けられるのなら、それは単なる理不尽にしかならないんですよ」
騎士「……そもそもその和平自体が絵空事に過ぎまい。最前線のこの身には、気配も感じられんね」
勇「いいえ。誰も彼も――とは言わないけれど、戦いにうんざりしている人や魔物の数は、相当に多いです。俺はこの目で見てきました」
騎士「よかろう。仮に和平が成ったとして……だがそれが、魔軍どもが戦力を立て直すための策略でないという保証はどこにあるのかね?」
勇「…………」
騎士「和平が仮に成ったとして、それが永遠に続く保証は?」
勇「ありません」
僧「!」
勇「永遠に続く平和なんてないのは、俺だって知ってるんですよ。欺瞞と策略に基づいた停戦だって、戦争に比べればよほど良い」
騎士「…………」
勇「そしてそれが、俺たちに望める唯一の“世界の平和”じゃないですか?」

勇「そしてそれが、俺たちに望める唯一の“世界の平和”じゃないですか?」
騎士「……近視眼的な意見だな。欺瞞の和平の後、再度の開戦が更に悲惨を極めた時、その責任も取れない身で言う事ではない」
僧「……私たちは、相手を滅ぼさない限り戦争を終わらせられないほど、愚かですか?」
騎士「否。愚かなのは人間ではない、魔物だ」
僧「私たちは魔王軍の領地で暮らした事があります。自然のままに動く獣のような生き物も、理性をもった人間のような生き物もいました」
騎士「神も見放す野蛮な土地だ。そう思ったろう?」
僧「いいえ。神は祝福するでしょう、人間の世界と、何も変わりませんでしたから」
騎士「オークやゴブリンどもが、いかに野蛮で知性を持たない生き物か、知らない訳ではあるまい」
僧「いいえ、彼らのうち人間を襲う者は十分な教育を受けていない、それだけです」
騎士「ほう?」
僧「私は数学と神学を修めたゴブリンの教師と、話した事があります」
騎士「…………」
僧「彼は言っていました。“知る事と信じる事は、全ての生き物に許された自由だ”と」
騎士「……私にも、魔物を殺し続けた私にも、魔物を信じる自由があると、そう言うつもりかね?」
僧「あなたほど強い方なら、きっとそれができるはずです」
騎士「……全ては可能性の話に過ぎない! だが、魔物どもに殺された莫大な死者は現実だ!」
僧「騎士さま……」
騎士「私の娘がどのように魔物どもに生きたまま身を引きちぎられたか、とうに聞いているはずだ!」
僧「……!」
騎士「私が何人部下を殺したと思う? 私が憎まれるばかりの上官だったと思うか? その方がよほど良かったがな――だが、部下が魔物を憎まなかったとでも思うか?」
僧「それは……」
騎士「……死者は生者に報いない。故に私が背負った莫大な死者を、精算する方法は、魔軍を滅ぼし尽くす事だけだ」

騎士「……死者は生者に報いない。故に私が背負った莫大な死者を、精算する方法は、魔軍を滅ぼし尽くす事だけだ」
奴「……死者を、精算する? なかったことにする、っていうことですか?」
騎士「それは……私の心の中で、死者の情念を浄める事だ」
奴「きしさまのために死んだ人は、……きしさまの娘さんは、きしさまを恨んでいますか?」
騎士「恨みはしないと考えるほど、私は愚かではない」
奴「いいえ。きしさまはきっと、恨まれてなんかいません」
騎士「……何故かね?」
奴「だってあたしは、たとえゆうしゃさまのために死んでも、ゆうしゃさまを恨みはしないから」
勇「……!」
騎士「…………子供らしい言い分だな。さぞかしこの勇者に、甘い言葉をかけられているのだろう」
奴「きしさまの娘さんも、子供でした」
騎士「恨みはしないというのなら、一体何を思って死んだのだ? 手足も伸びきらずに、恋も知らずに死んだ私の娘は、いったい何をしているのだ!?」
奴「……それでもあなたを、信じているのではないでしょうか?」
騎士「……!」

奴「それでは、失礼します……」
騎士「……泊まっていってもいいのだが。まあ、今夜は一人でゆっくりと考えさせてもらうよ」
勇「自分でも説得だか脅迫だか泣き落としだかよくわからなくてアレでしたが、納得してもらえましたかね」
騎士「今はまだ考えをまとめきれていない。だが……」
僧「?」
騎士「……君たちに会えて、良かったとは思うよ」

勇「あー疲れた。今夜は飲むべ」
僧「……りんごのジュースがほしいです」
勇「健康的っすね、はいどうぞ」
奴「あのう、おみず……いいですか?」
勇「ジュースがほしいなら頼んでもいいけど」
奴「え? わあいっ」
勇「その分給料から引いとくけどな」
奴「……しょんぼり」
僧「そういえば、そろそろ誕生日ですね。お祝い、しますか?」
勇「おまえの誕生日ももうすぐだな。盛大にダラダラとやりましょうか」
奴「……たんじょう、び?」
勇「そういや、おまいの誕生日っていつ?」
奴「わたしの……ごめんなさい、よくわからないです。ほんとにちっちゃい頃から、檻の中にいたから……」
僧「そう……じゃあ、今決めちゃいましょう?」
奴「えっ?」
勇「ああ、そうするか。いっそ明日って事でも」
奴「えっ? えっ?」
僧「誕生日のお祝いは、嫌?」
奴「あ……」
勇「無条件に騒げる日があるってのは、いいもんだと思うんだよ」
奴「……ぅ……ん……」

僧「はい。好きなだけ食べてね」
奴「えへへー」
勇「ま、とにかく誕生日おめでとうってことで」
奴「へへへぇ」
僧「うん。今日はお金なんて気にせずに、好きなものを食べていいのよ?」
奴「うへへへへへへへへへ」
僧「……ど、どうしたの?」
勇「酒など飲ませてみました」
僧「何やってるんですかぁ!」
奴「たーのーしーいー。ふわわー」
僧「ああもう……だいじょうぶ? きもちわるくない?」
奴「ううん、ぜんぜん! すごくいい!」
僧「本当に大丈夫なのかしら……」
奴「そーりょさま、やさしい。すきー、すきすきー」
僧「あ、ありがとう……私も、あなたの事が好きだよ? まるで妹ができたみたいで、本当に……」
奴「おねえちゃん?」
僧「そう呼んでくれると、嬉しい……かな」
奴「おねえちゃん、だいすき!」
僧「わ、わっ。だ、だきつかないで……」
勇「え、なにこの百合展開」
僧「何の話ですか!?」
奴「ゆーしゃさま、うらやましい?」
勇「俺の胸に飛び込んできたまえ」
奴「べー。ゆーしゃさまはいじわるするから、きらい」
勇「そんな!」
奴「でも、ほんとはやさしいから、いいの」
勇「んー。お兄ちゃんと呼んでみる?」
奴「あたしは、ゆうしゃさまのどれい?」
勇「そう……だな。今は……でも、この戦いが終わったら……」
奴「?」

?「そしてようやく始まるのだ
  幻想の中の真実の物語が。
  勇者が魔王を倒す物語が」

魔王「……二国会談の時間ね。あれが、人間の国王か」
勇「同席させていただきますわ」
魔王「このたびの任務ご苦労だったわね。この会談によって、ようやく平和がもたらされるはずだわ」
僧「勇者様と共に密使の話を受けてから、もうどれだけ経ったかしら……」
奴「あのう……だいじょうぶ、なんですよね? おはなし、うまくいきますよね?」
勇「根回しは死ぬほどやってる。もう9割がた、話は決まってるはずだ……っと、始まるな」

国王「会談を始める前に、私からも労っておこうか。勇者一行、密使の役目ご苦労だった」
勇「光栄です」
僧「か、過分なお言葉、恐縮の限りです」
奴「……ありがとうございます」
国王「ふむ。彼女を連れてきた……いや、そもそも彼女を人買いから買い取った理由は、この私に対して何事かの利便を考えたからかね?」
勇「そっすね。ま、今となってはどうでもいい事ですが」
奴「え……?」

国王「はじめまして、魔の王」
魔「はじめまして、人の王」
国王「幾多の戦禍を越え、ここに祈りとしての正義を共有できる事を深甚に思う。和平のための会談を始めよう」
魔「手短に済ませましょうか。これは降伏ではなく停戦、その条件は対等である事を旨とする。いいわね?」
国王「うむ。双方の戦力は互角であるからにして」
魔「ただ、具体的な条件は……まず、国境のだけど……」
国王「なるほど……だが、兵の配備に関しては……」

勇「(小声)……長いな。会談自体はうまく行ってるらしいが」
僧「(小声)い、胃が痛い……」
国王「休憩を取るかね? 私も、少々喉が渇いた」
魔「そうね、少しの間――え?」

ひどく耳に触る音を立てて、会場の壁が爆裂し、崩壊していく。

大臣「な……しゅ、襲撃!? 馬鹿な、警備は完璧だったはずだ!」
勇「この辺り全域に侵入負荷の結界が張ってあっただろう!? 施術したのは誰だよ!」
魔「私自身よ! 魔王を上回る魔力の持ち主なんて、この世界にいるはずが……ぁ」
僧「もしや……」
魔「父上――先代魔王!」

国王「そうか、先代魔王。それが貴様の演じたい物語か」

スローモーション。
庇おうとする動きはあまりに遅い。

国王「だが、見くびるなよ。たかがこの程度で、我が国の民は間違いなどしない」

胸を張り、傲然と見据える。

国王「……が、っ」

魔力の矢は、過たず人間の王の心臓を貫いていた。

国王「ぐ……ふ……」
大臣「へ、陛下!?」
僧「い、今傷を治します、絶対に治します……っ!」
国王「……よい。それより、この後だ」
魔「王よ。あれは、私たちの敵だわ」
国王「そう、これが、魔の裏切りではないというのなら……精魂を賭け、先代魔王を討て。魔王と勇者は、共に戦うべきだ」
勇「……そう、だな。そう、すべきだ」
大臣「陛下、しかしそれではこの国が立ちゆきませぬ! この時に陛下が亡くなられ、このまま停戦など!」
国王「後継を立てよ……あらゆる王は、いずれ死ぬのだから……」
大臣「だがしかし、陛下にお世継ぎは……!」
国王「ふふ。そこに、世継ぎなら、そこにいるではないか……」
奴「……え?」
大臣「まさか……姫? そなたが、陛下のご息女だったのか?」
奴「う、うそ……あ、あたしが、そんなわけ、ない」
国王「老いたり、とはいえ……娘の顔を、間違えるものか……」
奴「おとう……さま?」
僧「……陛下の娘は、賊どもに掠われ、殺された。そのはずだったけれど、違ったのね」
国王「ああ――懐かしい。故に、もう悔いはない」
勇「……信じたくなかったな。本当に、そうだったのか」
奴「お父様――うそ、待って! やだ、待って……!」
国王「済まないが、待てん。後の事は大臣に聞くがよい、凡人だが忠義者よ」
奴「あ……」
国王「私は、今、死ぬ」

勇「…………」
魔「…………」
僧「…………」
魔「……準備はできた? 明日、魔軍の裏切り者を討ちに行くわ」
僧「あなたの、お父様……ですよね?」
魔「裏切り者よ。今となっては、名を与える必要も感じない」
勇「……奴隷ちんは?」
僧「公女殿下……は、城で、お休みされて、います」
勇「殿下ねえ。つーかマジか、夢でも見てるんじゃないかしらー。むしろ王様のとっさのハッタリじゃない?」
魔「現実逃避してる場合?」
勇「まーね。たとえハッタリでも、あいつが城から出られる訳じゃないんだし」
僧「あなたは、殿下……いえ、あの子を養子として迎えるつもりだったんですよね?」
勇「今となってはアレだけどな」
僧「……正直なところ、私もまだ混乱してます。ちょっと夜風に当たって、頭を冷やしてきますね」
勇「いってらー」
僧「後で、あなたも来てくれますか?」
勇「ん? ……うん」

勇「よう」
僧「……はい」
勇「お疲れ? 肩でも揉む?」
僧「無理しなくていいですよ。あなただって、疲れてるでしょう?」
勇「……まあ」
僧「……静かですね。少し前にあんな事があったなんて、やっぱり嘘みたいです」
勇「でも嘘じゃないらしいね。そのうち公女殿下も、殿下じゃなくて女王陛下になってるかもな」
僧「寂しい、ですか?」
勇「んー……」
僧「無理しなくて、いいんですよ」
勇「……うん」
僧「ふふ。勇者様、かわいいです」
勇「なでる?」
僧「はい。なでなで」
勇「ひぎぃ!」
僧「あはは」
勇「いつになく弄ばれてる俺……」
僧「あなたも、誰かがそばにいなくなる事を、寂しいと思う事があるなら……ひとつだけ、頼んでいいですか?」
勇「なんだろうな」
僧「私を、あなたのお嫁さんにしてください」
勇「――――」
僧「そうすればずっと、寂しくなくて済みますから」

僧「…………」
魔「お邪魔してもいいかしら?」
僧「どうぞ。最後の、夜ですから」
魔「珍しいものをはめてるじゃない。魂の焼棄の指輪ね」
僧「……ええ。神の祝福によって、戦闘における団体の士気と能力を極度に引き上げる指輪です」
魔「そして戦闘の終了の後、戦果と引き替えに使用者を確実に死亡させる」
僧「…………」
魔「その指輪は、自己犠牲の心根がある者だけを所有者として規定する。……でも、それは本当に祝福? やっぱり、呪いの類なんじゃない?」
僧「今となっては、どちらでも構いません。この指輪があの勇者に相応しくないことだけは、分かります」
魔「勇者様へのプロポーズ、受けてくれた?」
僧「……き、聞いてたんですか!?」
魔「聞こえちゃった」
僧「どうかと思いますよ? ……返事は保留みたいです。生きて帰れるか、分からないから、って」
魔「妥当なところね。私だって、ここで死ぬ訳にはいかないけれど、死ぬかもしれないし」
僧「……それでもなお、死ぬ訳には、いかないんです」
魔「指輪を使う気は、ないのね?」
僧「………………」

勇「ここが、先代とやらの居場所か」
魔「ええ、先代魔王城跡……間違いないわ」
僧「……結局、あの子とは会えませんでしたね」
魔「覚悟ができたなら、扉を開けるわよ」
勇「その前に、ひとつだけ聞いていいか?」
魔「なに?」
勇「先代とやらが生きてるのに、どうしておまえが魔王の座を継げたんだ?」
魔「……父上は、狂っているからよ」
僧「…………」
魔「誰よりも強かったけど、ね」

そうして、彼らは扉を開けた。

?「…………」
勇「……おまえが、か」
魔「私たちの敵よ。覚悟は、いいわね?」
?「…………」
僧「ひとつだけ、聞かせてください。あなたはどうして、会談を破壊し、戦争を続けさせるような事を……」
?「ゲ――ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」
僧「……え?」
?「キキッ……キキキキ! 物語を回し続けろ! 本当の真実を! 真実の真実の真実の真実の妄想を!」
魔「……言ったじゃない。狂ってる、って」
?「戦争の凱歌を永遠を続けろ! 完全な錯綜! 我らはすべからく狂人であるべきだ! そうだ、そう、そうあるべきだ――」
勇「ああ。こいつはうるさい、黙らせるぞ」
僧「いきます……!」
?「そうだ。我を狂っていると言い、討ち倒すならば――王殺しの呪いを完遂したまえ、我が娘よ」
魔「……っ!」
?「そうだ、故にこそ呪われてあれ……!」
魔「黙りなさい――こいつの魔法は私が封じるわ!」
僧「勇者様――あなたの剣は私が守ります。全ての結界と治癒を駆使します、決して、立ち止まらせはしません」
勇「じゃあ、いっちょ俺はこの剣で、敵の首を叩き落とすとするかね」
?「そうだ! 世界を救え! 世界を救え!」
勇「世界を救うのは俺じゃない」
僧「え……?」
勇「救うのは、テキトーに平和なままでやっていきたい、全ての人間と魔物だ――さ、行くぞ」

「しっ……!」

吐息すら弾丸のように熱い。
魔法の鎧の上に幾重もの結界を重ねがけし、勇者は黒い影めがけて走った。

「炎よ――」
「甘い!」

黒い影の魔術を、魔王は一息に打ち消す。

「神よ、神よ、神よ……!
 どうか、どうか、この戦いに生き残るだけの力をお与えください……!」

僧侶の精神の限界を越えた神聖魔法の連打。
配下の魔物の召喚を抑止し、場の邪気を払い、そして勇者の行く手を遮る邪悪な魔術を打ち払う。

「一撃で――!」

勇者が抜き放ったものは、王家より授けられた神代の名剣だ。
奴隷だった少女の名の下に、何かの約束のように渡された剣。
一撃だ。一撃で、終わらせる――

「――回れ」

影は笑う。
勇者よりも早く。
黒い影の抜き放った、漆黒の剣が、勇者の胴を貫いていた。

「が……!」

容赦など無い。
漆黒の剣は勇者の腹を抉り、臓腑を破裂させてゆく。

「……この剣が、勇者の死だ」

影は呟くように言って、剣を薙ぎ払った。
ごふ、と声をあげて、彼はボロ切れのように転がる。

「……っっ!!」

一瞬にして、僧侶の人生の中で最高に研ぎ澄まされた治癒魔法が発動する――それなのに、傷の治りは遅い。
漆黒の剣の呪い。それを、彼女は打ち払う事ができない。

「この……!」

魔王の一喝と共に、無数の魔力の槍が影めがけて飛ぶ。
ドラゴンすら串刺しにする威力を秘めたその魔術も、しかしこの戦いの中では足止めに過ぎない。

「拒絶せよ!
 愛を! 憎悪を! 善を! 悪を! 拒絶を! 受容を! 世界を! 世界以外の全てを!」

まるで哄笑するような絶叫。
影は手を高々と上げ、

「全ての物語は、破壊される事で完結を拒否する――!」

先の魔術に数倍する炎が、空間全てを呑み込んだ。

炎が消え去った後も、人影は健在だった。

「……まだ、です」

僧侶と魔王の魔術が組み合わさり、発動した、完璧に近い結界――

「……このっ……くらいで、死ぬものか……!」

それが影に敵対する者を、炎から保護している。

「そうだとも」
「……え?」

影は悠然と、結界が維持されている合間に、魔王へと歩み寄っていた。

「ガ……!?」

殴る。
殴る。
殴る。
鉄塊よりも堅い影の拳が、集中の直後の魔王の肢体を、微塵に叩き潰すように打ち据えていく。

「や、やめなさい――っ!」

僧侶の張った結界。それすらも、影の拳は殴り壊していった。

「そんな……」

激甚な魔術の連発による、精神の疲弊。
勇者という最大の戦力は斃れたままで、これから使える魔術も弱まっていき――だというのにこの敵には、傷ひとつたりともついていない。

スローモーション。
僧侶は思考する。

「は……あ……」

このままでは、間違いなく魔王は死ぬ。
そして影は勇者にとどめを刺し、疲弊した僧侶も殺すだろう。
……その後、この世界はどうなるのだろうか。
当代の魔王が消え、この影は殺戮を繰り返し、主戦派が実権を取り戻し、世界は再び戦禍の中で磨り潰されていく。
勇者のした事は何の意味もなく、全ての平和を願う意志も価値はなかった事になる。

――だってあたしは、たとえ。

奴隷――だった少女の言葉が、僧侶の脳裏で蘇った。

――だってあたしは、たとえゆうしゃさまのために死んでも、ゆうしゃさまを恨みはしないから。

痛み。
右手の中指――指輪をはめた指が、ひどく痛む。

――それでもあなたを、信じているのではないでしょうか?

ああ。……ねえ、きみは本当に凄いよ。
私はたった今まで、自分の勇者を信じきる事ができなかった。

スローモーション。魔王が倒れる。
黒い影が、勇者の首の上で剣を振り上げた。

――あなたに神の祝福あれ。
今こそ私は、すべき事を行おう。


行動安価 >>735
[指輪を使う← →指輪を使わない]

使う


指輪が、強く輝いた。
まるで、燃え尽きる寸前の蝋燭の、最後の輝きのように。

「……たたか、って」

僧侶は、血を吐くような呟きを搾る。

「戦って、戦って、戦ってよ……!
 お願い、最後まで戦って! 私のために! あなたと、最後まで戦いたいの――!」

「ああ――」

剣閃。

「――戦うとも」

勇者の白銀の剣は、漆黒の剣を受け止めていた。

「……そう、ね。さいごまで、たたかわ、ないと」

死亡寸前の傷を自己治癒しながら、魔王が立ち上がる。
黒い影から噴き出さんとする炎は、その片鱗すら見せずに打ち消された。
そして勇者の動きは時を追うごとに速く、力強くなっていく。
魔王と僧侶の、二人がかりの魔術の成果だった。

「ああ――」

楽しい、と僧侶は思った。
自分の生命が砕けていく確かな手応えを感じながら、勇者の剣の響きが心地良くてたまらない。

「……勝つ……!」

劣勢から互角へ、互角から優勢へ。
勇者の剣舞は鬼人の域に入り、黒い影の動きを圧倒していた。
あと一手。
あと一手で、影の心臓は貫かれるだろう。

「そうだ! そうだとも! これだ! ああ――なんとも、楽しいではないか!」

自分がまさに滅ぼされんとするその時ですら、影は言葉を止めなかった。
戦う事も、勝つ事も、滅ぼされる事にも、何も違いはないと言わんばかりに。

「……ええ。それだけは、私も同意見です」

勇者が口元を引き結ぶ。

「さようなら、父上――」

魔王の呟き。なぜかその表情は、勇者のそれに似ていた。
笑っているようにも、泣いているようにも、その顔は見えた。

「ああ、本当に――楽しかった」

白銀の剣が、黒い影を貫く。
その直後僧侶の視界は真っ赤に染まり、次いで白くぼやけていった。

「……おい?」

勇者が心配げに自分の手を取る。
それが僧侶に理解できた、この世の最後の光景だった。


「――“魂の焼棄の指輪”――」

誰かが何かを話している。
それが誰なのか、誰の名前なのか、耳から心が砕けて理解できない。

「魂が――砕けて――燃え落ちる――」
「たとえ蘇生魔法であっても――復活は――」

理解できない。
自分が何だったのか、誰のために何をしていたのか。
ただ、ひどく申し訳ない気分だった。

「――××××××!」
「……! ××! ××××××……!」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
わたしは、こうして死ぬまで、ずっとさびしくなかったです。
ひとりで幸せに死んで、いけないことです。

「………………」

ごめんなさい。
さびしがらせてごめんなさい。
どうか、どうか、誰かといっしょになってください。
誰かのために、自分のために、その人に優しくしてあげてください。

「……さよなら」

唇が塞がれる。
僧侶だった女の心臓は、その時静かに停止した。

そして、世界は救われた。

* * *

勇者「おーい、奴隷買ってきたぞー」
奴隷「…………」
勇者「奴隷買ってきた。いわゆる人身売買、略してジバってやつ」
奴隷「よろしいでしょうか?」
勇者「なんすか」
奴隷「一体あなたは、誰に向かって話しているのですか?」
勇者「あるじゃないですか。目の前に、立派なのが」
奴隷「……この墓が?」
勇者「うん。墓参りがてら、ちょっと報告をな」
奴隷「お知り合いの墓標、ですか」
勇者「ああ、僧侶をやってた」
奴隷「……お仲間、だったのですか?」
勇者「仲間だし、友達だし、家族でもあったかもしれない」
奴隷「家族……? 血が繋がっていたのですか?」
勇者「いや、ちょっと結婚などしてみた。死ぬ前に、一瞬だけ」
奴隷「……?」

魔王「やっほー。元気にやってる、元奴隷?」
女王「……疲れました。さがさないでください」
魔王「雑務って大変よね。押しつけられるところは押しつけた方が良いわよ? 仮にも王なんだし」
女王「大臣さんとか、みんな忙しいから、わたしもちょっとは手伝わないと……」
魔王「ま、今は忙しくした方が気が紛れるかもね」
女王「……そうりょ、さま」
魔王「……あの戦いで、私はできる事を全てやった。でも、たったそれだけしか、できなかったのね」
女王「…………わたしは、なんにも、できなかった。お城の中に、こもってるだけで」
魔王「――ただ存在するだけで、たった一人の人間である事で価値を持つ」
女王「え……?」
魔王「そんな人間だって、存在するのよ」
女王「……」
魔王「そうじゃない? ……ねえ?」

――だから俺は、俺のやりたいようにやろうと思う。

また奴隷を買った。今度は妙に質問が多くて身体が弱い、とりあえず殺さないよう頑張ってみようと思う。
この奴隷とどうなるかは分からない。金で繋がる関係で終わるのかもしれないし、それはそれでいい。
けれど本当は、その上の関係を見たいと思っているけれど。

女王陛下とはさすがにもう会いづらいが、手紙くらいは出してみたい。
もしかしてまた顔を会わせられたら、頭を撫でたい。不敬罪で打ち首になる危険を犯す価値はある。
たまには魔王とも会ってみようか。その時は手でも繋いで歩いてみようか。
僧侶とも会いたいけれど、会えないので、会えない時には泣いてやろう。

いつかこの身が朽ち果てて、あいつと本当にまた会える時には、せめて笑えるように。


出典:2ch
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