魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」 (オリジナルフィクション) 106440回

2012/01/25 12:30┃登録者:えっちな名無しさん┃作者:◆1UOAiS.xYWtC
登場人物 

勇者:文字通り。魔王城でタイトルの事態になって、七日間のお試し体験。 
堕女神:淫魔の国の王の身の回りの世話をしている。態度が硬いが、実はキス魔。料理も得意な元・”愛”の女神。 
サキュバスA:おちょくるような態度を取るお姉さんタイプのサキュバス。実はMの20942歳。 
サキュバスB:精神年齢低めのサキュバス。王にガチ惚れしてて色々悩む。3418歳。 
隣女王:隣国の淫魔を統べる女王。幼い姿のまま成長しない特性を持つ、褐色銀髪ついでに貧乳の15歳。真面目だが本性は…… 
魔王:勇者の動向を全て見ている。正直、さっさと快楽に溺れて堕ちてくれないかと思ってる。 
オーク:レイプ要員。空気も読める。 
ローパー:触手要員。ちょっとだけ芸もできる。 



 

勇者「な、なにを言ってるんだ……?」 

魔王「言葉通りだ。貴様の力に敬意を表して、淫魔国の国王に据えてやろうと言っている」 

勇者「ふざけるな! 俺はお前を滅ぼす為だけに―――!!」 

魔王「魔界の女はいいぞ、勇者よ。中には、堕ちた女神や堕天女もいる」 

勇者「だ、だからなんだ」 

魔王「ふふふ。あの者達の美しさたるや、地上の美姫など醜女に思えてくるほどだ」 

勇者「……!」 

魔王「交われば、もたらす快楽はそれこそ比類ない……神々ですら一度味わえば蕩け溺れる」 

勇者「ゴクッ」 

魔王「さらに魔界にしか存在せぬ性の魔具や魔導、淫の果実―――」 

勇者「マ……マジで? い、いや! そんな誘惑に惑わされる俺では……」 

魔王「淫魔の王になれば、その全ての歓待を独り占めできるのだぞ? 永遠の、無限の快楽だ」 

勇者「…………ちょ……ちょっと考えさせて?」 

魔王「いいだろう。じきに日付も変わる。よく考えるが良い」 

勇者「……どうしよう、マジで悩む」 

魔王「ならば、お試しでどうだ?」 

勇者「何?」 

魔王「まずは一週間、その国で王として過ごしてみよ。その後で決めるが良い」 

勇者「そんな事ができるのか?……あ、いや……迷ってるわけじゃないぞ!」 

魔王「無論だ。一週間後、貴様の返答を聞こうではないか」(何かゲート的な物が開く) 

勇者「……いいか、試すだけだぞ。試すだけなんだからな!」 

魔王「いいからさっさと行け。紳士が風邪引くべや」 


一日目 

勇者「……ん、ここは……?」 

???「お目覚めですか、陛下」 

???「もー!早く起きて下さいよー!」 

勇者「え、何……ええええええええ!?」 

目が覚めると、豪華なベッドに裸で寝ている事に気付き――そして、二体のサキュバスが両側に侍っていた。 

勇者「えーと……これ、どういう状況なんだ?」 

サキュバスA「どう、って。昨夜はあんなに激しかったのに、覚えてませんの?」 

サキュバスB「ねぇ。殺されるかと思ったよー。Aちゃんなんてすっごい下品な声出してたじゃん」 

サキュバスA「っ……貴女だって、『もう許してください』って泣いてたじゃないの」 

勇者「」 

???「失礼します」 

真っ黒なドレスを着た、闇のように黒い髪の女性が入ってくる。 
白目があるべき部分は黒く染まり、黒目があるべき部分は血のように赤く、瞳は爬虫類のように細い。 
それ以外は、勇者がこれまでに見た事もないような、抗いがたい魅力の美女だった。 

勇者「…げ、ちょ、待っ……あなたは!?」 

???「…?陛下の補佐を任されております、堕女神でございますが?記憶に障害が出る程とは。 
     ……差し出がましい事とは思いますが、少しお控えになられた方が」 

サキュバスB「あれ?陛下、なんで前隠してんの?」 

サキュバスA「……今さらですよ。そうだ。堕女神さんもどうです?朝の一発…」 

堕女神「…いえ。勤務中ですので」 

勇者「(……見えてきた。見えてきたけど何だよこれ……怖ェ。あまりに旨すぎて怖ェ……)」ガクガクブルブル 

勇者「えーっと、とりあえず着替えるから、出t……ゴホン。……着替えを持ってこい」 

堕女神「……失礼ながら、お体の調子が悪いのですか?普段なら、朝の猛りを鎮めるため、三回は……」 

堕女神が、勇者の額に手を添える。 
彼女の見た目や雰囲気とは裏腹に、どこか懐かしい暖かみのある手の感触が伝わった。 

勇者「あ、いや、その……そういう気分で、その」 

堕女神「…なんて事!?こんなに低いなんて!いつもの陛下なら、手が発火するほどなのに……!」 

勇者「普段はいったいどんな奴なんだよ!?」 

サキュバスA「え?…あ、本当ですね。陛下、私達に暖めさせていただけますか?B、手伝って」 

サキュバスB「はーい!」 

有無を言わさず、ベッドの上に引きずり倒され、両側から抱き着かれる。 
二人の蒼白い肌から体温が伝わり、二の腕にそれぞれ押し付けられた豊かな乳房。 
その柔らかさは、地上には到底存在し得ない、極上にして禁断の領域。 

勇者「(や、ヤバい……ヤバすぎる。勃つ。勃たない方がおかしいって……!)」 
息遣い、温もり、そして乳房に挟み込まれた二の腕には、とくん、とくんと脈打つ鼓動が伝わる。 

サキュバスA「……どうです?暖かいですか?」 

サキュバスB「…Aちゃんよりこっちの方が暖かいですよねー?」 

両側から囁かれ、首筋がぞくりと震える。 
まるで花のように芳しい吐息が勇者の鼻腔をくすぐり、意識を朦朧とさせた。 

堕女神「失礼します、陛下。……上になる無礼をお許し下さい」 

次いで、裸身となった堕女神が上から、覆いかぶさるように肌を重ねてくる。 
両側のサキュバスを上回る大きな乳房が勇者の胸郭の上で潰れて形を変える。 
偶然に乳頭同士がぶつかり合い、勇者、堕女神ともに小さく息を漏らす。 

勇者「だ、大丈夫だって。……もう治ったから。頼むから、どいて……無理。無理だって……もう…」 

限界を迎え、ついに勇者の剣がいきり立つ。 

堕女神「…んあぁ!」 
瞬間、堕女神の秘裂をなぞり、彼女の体が跳ね、背筋を反らせた。 

勇者「あっ……その、すみませ…」 

サキュバスA「ようやく元気になってくれたんですね」 

サキュバスB「うんうん。いつも通り、立派ですよー」 

勇者「うっ…頼むから、どいてくれないか。もうアルテマソードが……」 

堕女神「もう……。ここまで来て、『やめろ』とは言いませんでしょう?」 

勇者「え、その……いいんですくぁ」 

堕女神「もとより、この身は余すところ無く陛下のものでございます」 

勇者「……分かった、分かったから、一旦どいてくれ君達。命令するから」 

その言葉に、意外にも素直に従い、三人が身を起こす。 

勇者「(とは言うけど、どうすんだよ。いつの間にかマトモそーな人までノリノリじゃねーかよ)」 

堕女神「あの、陛下……」 

勇者「え、あー。ゴホン。……『口でしろ、堕女神。余さずに全て飲め』…なーんt」 

堕女神「はい、かしこまりました」 

勇者が訂正する前に、堕女神は勇者の陰茎に手を添える。 
直後――隆起したそれに口を寄せ、亀頭に軽いキスをする。 

勇者「うっ…!」 

柔らかく暖かい唇の感触が伝わり、震えた。 
先端を軽く吸いながら舌先で亀頭の切れ込みをなぞり、いとおしげに陰嚢をさする、たおやかな指先。 
淫魔二人に見られながら、堕ちた女神が、自分の不浄な部分に奉仕する。 
異常なまでの背徳感と、有り得ないシチュエーションに興奮が高まり、さらに陰茎は硬度を増し、グロテスクに血管を浮き上がらせる。 

続いて、亀頭全体を口内に収めていく。 
艶めかしく光る、赤い唇が勇者自身を飲み込む。 
絶え間なく動く舌が口内で裏筋をとらえた。 

勇者「ううあぁっ…!」 

気付けば、両手で堕女神の頭をがっちりと抑えていた。 
行き場を失った手が、快楽をもたらす彼女を遠ざけようとしたのか。 
あるいは――彼女の口を、まるで道具のように使って快楽を貪ろうとしたのか。 

どちらにしても、お構いなしに彼女は奉仕を続ける。 
ずずず、と、ゆっくりと陰茎を飲み込んでいき、七割ほどを口の中に頬張る。 

更に唇を進め、ついには根元にまで辿り着く。 
唇がぴったりと根元に張り付き、喉の窄まりまでも押し広げて収まった。 
頬の粘膜は温かく、それでいて喉の奥にはひんやりと、鼻から吸っている息が良い刺激となる。 

何より、通常の人間であれば喉奥にまで咥え込めば息苦しさに呻くであろう、この状況。 
にも関わらず、彼女は笑っていた。 
それどころか、快楽に打ち震え、秘裂からは雫が滴り落ち、シーツをじんわりと濡らしていた。 

今度は少しずつ唇から陰茎を抜いていき、亀頭先端まで達したところで、再び根元まで一気に咥え込む。 

勇者「っ!」 

今になって気付いた。 
彼女の唾液は、人間のものとは違う。 
さしずめ、媚薬効果を持ち、神経を昂ぶらせる濃密なローションだ。 
揮発した唾液の匂いが勇者の鼻へ届き、その香りは脳髄を直接殴りつけて麻痺させるかのような、 
あまりに濃厚すぎる、異世界の花の香り。 

香りに酔っている間にピストンは繰り返され、陰嚢が膨れ上がり、まるで張り詰めた風船と化したような錯覚を覚えた。 

勇者「っ……出る。出るよ……!」 

往復運動が20回を数えぬ内に、勇者は果てた。 
脳が文字通り真っ白にそまり、蕩けた脳が、内臓を道連れに陰茎から全て抜け出すような感覚。 
全身の筋肉が鋼のように硬く硬直し、直後に液体のように弛緩する、臨死の快楽。 

彼女の口内に、幾度と無く脈打ちながら白濁が注ぎ込まれていく。 
喉を鳴らして飲み下していくが、量があまりに多い。 
堕女神の両腕が勇者の腰に回され、根元まで咥えながら、飲み込む。 

二回、三回、四回。 
脈動が続き、尋常じゃない量の精液が、堕ちた女神の口内を埋め尽くす。 
やっとの事で収まり、つぅっと糸を引きながら彼女が唇を離す。 

口内に残っていた精液をこくり、と飲み干し、何度か息をついてから、口を開く。 

堕女神「……ご満足、いただけましたか?」 

勇者「……うn……(じゃないな)ああ、ご苦労。……『サキュバスB、お前の口で清めろ』」 

サキュバスB「はい!……えへへ、Aちゃん出番なしー」 

言って、進み出た爛漫な淫魔が口を近づける。 
堕女神の唾液と自身のカウパー、そして精液を舐め取っていく。 
幼さの残る顔立ちに、無邪気な笑みを浮かべながら。 

直後、再び陰茎が脈を打ち、サキュバスBの幼い顔に精液が吐き出される。 

サキュバスB「きゃっ……」 

勇者「あっ……!」 

サキュバスB「…えへへ、元気ですね。さすが陛下です」 

不満さえ述べず、白濁で顔を穢したまま、口で勇者自身を清めていく。 
拭おうともせず、不快感すら見せず、まるで、親に撫でられ、褒められた幼子のような表情で。 

勇者「もういい。ご苦労」 

言って、サキュバスBの後頭部からうなじにかけ、何度も撫でさする。 
気持ち良さそうに目を閉じ、達成感を味わう彼女。 

勇者「次、……サキュバスA」 

サキュバスA「……はい」 

勇者「……着替えを手伝え」 

サキュバスA「えっ……?」 

サキュバスAは戸惑ったような表情を浮かべた。 
蒼白い肌、二つの捩れた角、そしてどこか儚げな印象の淫魔だ。 

勇者「……着替えを手伝え、と言ったんだ」 

サキュバスA「……はい」 

哀しげに顔を伏せ、堕女神が持ってきた着替えを手に取る。 
勇者はベッドから立ち上がり、ひんやりとした大理石の床の上に立つ。 

着替えを手伝う間中、サキュバスAは不満げな表情を浮かべていた。 

勇者「ご苦労、サキュバスA。さて、堕女神。今日の予定は?」 

堕女神「はい。隣国の女王との謁見が控えております。……次いで、城下の視察が」 

サキュバスBですら、どうフォローしたか考えあぐねているようだ。 
まるで冷たくあしらわれる彼女に、まるでかける言葉が見つからない。 

勇者「……ああ、サキュバスA」 

サキュバスA「…は、はい」 

勇者「今夜は、お前一人で部屋に来い。分かるな?」 

サキュバスA「は……・?」 

勇者「二度言わせるのか?……今夜は、お前だけで来い」 

サキュバスA「は、はい!」 

サキュバスB「えー!ずるいよ、Aちゃんだけ王様独り占めしてー!」 

堕女神「陛下、そろそろ……」 

勇者「ああ。……さて、行くか」 

言って、勇者は堕女神に付き添われて寝室を出た。 

道中、何人かの使用人とすれ違った。 

黒い翼を持つ、スレンダーな肢体のメイド。 
蝙蝠の翼を持つ、肉感的な美女の園丁。 
廊下にはいくつもの絵画が飾られていたが、そのどれもが男女の交わりを描いていた。 

勇者「……隣国の女王、と言った?」 

堕女神「はい。会食の予定も含まれております」 

勇者「えーと、それって…どんな」 

堕女神「一言で言うと、『貧相』です」 

勇者「?」 

堕女神「まるで栄養が足りていません。胸なんて子供です。わが国では考えられません」 

勇者「把握」 

勇者「待たせたかな」 

玉座の間へ入る。 
壮麗な外観に威圧されなくもないが、そこは勇者、押さえ込む。 

堕女神を伴って玉座に腰掛けると、眼下には隣国の女王と思しき少女、そしてその従者が跪いていた。 
確かに胸は小さく、体つきも華奢。 
小さな蝙蝠の羽が生えているが、サキュバスのものとは違って遥かに小さい。 

勇者「……で、用件は?」 

隣女王「……」 

勇者「…申せ。余は暇ではない」 

気分を出して勇者が言うと、少女は身を強張らせた。 

隣女王「……我が国は、未曾有の飢饉に見舞われまして」 

勇者「………」 

隣女王「我が民を飢えさせる訳にはいかないのです。……どうか、お助け下さい。出来る事なら、何でもいたします」 

勇者は、酔っていた。 
淫魔の国の王となり、人界には存在しない美女達に、どのような命令も下せる権利に。 
善悪が頭の縁に過ぎってはいるが、勇者でさえ抗えないほどの強烈な魅力。 

勇者「……例えば、何をしてくれるのだ?」 

隣女王「…お救い頂けたなら、如何様にも」 

勇者「例えばだ。……この場で服を脱ぎ、純潔を捧げろと言っても?」 

隣女王「…!!」 

女王の顔は青ざめ、心臓を冷え切った手で鷲掴みにされたような感覚を覚えた。 
堕女神は驚かず、むしろ、当然だとでも言いたげな表情を、隣国の女王と従者に向けていた。 

勇者「それぐらいの覚悟はあるんだろ?」 

隣女王「……は、い」 

勇者「……冗談だ」 

隣女王「…え?」 

勇者「弱みを握ってどうこうしよう等とは思わないよ。可能な限り援助する」 

隣女王「あ、ありがとうございます!」 

勇者「さて、食事にしよう。……堕女神」 

堕女神「はい、準備はできております」 

勇者「うん。……さて、行こうか?」 


会食を終え、城下の視察へ入る。 

堕女神を始め、数人の護衛を伴い、城下を歩く。 
男性は一人もいない。 
堕天使、サキュバス、側近と同じく堕ちた女神、邪妖精。 

魔へと寝返った美女達が、彼へと熱狂的なエールを送る。 

勇者「……なぁ、変な事を聞いていいかな」 

堕女神「何でしょうか」 

勇者「彼女らは、いったいどうやって増えるんだ?」 

堕女神「……お言葉ですが。みな陛下のお情けで子種をいただいているのではないですか?」 

勇者「mjd?」 

更に時が飛び、夜。 
サキュバスAとの、約束の時間。 
夕食を終え、執務を終え、寝室に入る。 

勇者「……(おいおい、スゲーなこの国)」 

身を横たえ、しみじみと、目が覚めてからの事を振り返る。 
起き抜けに淫魔二人と戯れ、堕女神に献身的な奉仕をさせ、 
あどけなさの残る淫魔に処理させ、隣国の女王ですら性の玩具になり得る。 

勇者「…い、いかん!俺は勇者だ!勇者なんだ!!」 

サキュバスA「陛下。……入ってもよろしいですか?」 

勇者「あ、ああ。入れ」 

サキュバスA「はい、失礼します」 

勇者「…隣に来い」 

サキュバスA「……はい」 

勇者「Bと違うんだな、お前は」 

サキュバスA「私は…陛下のお傍にいられるだけで、満足です」 

勇者「…欲の無い淫魔もいるんだな」 

サキュバスA「はい……ん、んむ……ちゅ……」 

勇者「………これでも、まだ、か?」 

サキュバスA「……私のような者に口づけを頂けるのですか?」 

勇者「今夜は、お前が我が恋人だ。接吻の何が悪い」 

サキュバスA「身に余る光栄です、陛下……」 

サキュバスAの頬が赤く染まり、身をくねらせる。 
気恥ずかしげでもあるが、満ち足りた様子でもある。 
淫魔と言うにはあまりにも奥ゆかしい。 

勇者「身を任せろ。別に俺に取り入らなくていい」 

サキュバスA「陛下……」 

勇者「……足を開け」 

命令を受け、彼女は足を大きく開く。 
いやらしくぬめぬめと光る恥部が晒され、羞恥に顔が染まる。 

サキュバスA「い、いけません!そんなっ……んっ…だ、駄目です……そんな……」 

舌を這わされ、抗議の声を上げる。 
本来なら、自らが奉仕する立場。自らの恥部を舐めさせるなど、あまりにも恐れ多い。 
恐怖すら抱きながら、彼女は、足を閉じる事は出来ない。 

勇者「言っただろ?……今夜、俺とお前は恋人なんだ」 

びくり、と身を震わせ、彼女は軽く達する。 
淫核を唇で吸われ、あるいは陰唇を舌で弄ばれ、背筋を仰け反らせて。 

勇者「……気持ちいい?」 

サキュバスA「き、もち…いい、です……!」 

手で膝裏を持ち上げながら、彼女は荒く息をつきながら言う。 
禁断の快楽は、人間にだけのものではない。 
一介の国民に過ぎぬ淫魔に注がれる、王の惜しみない愛撫。 
それもまた、紛れも無く『禁断の快楽』だった。 

溺れる。 
それ以外に、表現の術は無い。 
舌を動かすごとに、息苦しさをも感じるほどに淫魔の蜜が溢れる。 
城下を通ると、ふわりと漂ってきた香り。 
何の事もない。彼女らは涙も唾液も、愛液も、尿ですら熟した桃のような、または咲きすぎたバラのような、 
様々に濃厚な香りをまとっていたのだ。 

淫魔もまた、口淫をされる側に慣れていないのか、腰が砕け、骨髄が凍てつくような快楽に溺れて。 

勇者「……俺を溺死させるつもりか?」 

サキュバスA「…いえ、そん……な、ああぁぁ!」 

下品な音とともに蜜を吸い上げ、硬くしこった淫核を甘噛みする。 
不意打ちについ脚を閉じてしまいそうになるが、必死で堪える。 

勇者「…そろそろ、か」 

膨れ上がった勇者のモノが、姿を現す。 
雁首が太く、反り返った、およそ人界においては「名器」とも呼ばれる逸物。 

淫魔は、その暴力的なまでの剣に魅入る。 
サキュバスとしては、彼女はあまりにも少数派だった。 
男性をかどわかし、精気を吸い取る事こそ心得ていたものの、奥底の被虐願望は常に燻っていた。 

今、彼女は尋常ではない興奮と充足感を得ていた。 
やっと――責めて、もらえる。 

息は荒く、目が潤み、蒼白の肌には気持ちほどの赤みが差す。 
充血した淫核も、蜜を垂れ流す裂け目も、擂鉢のような尻奥の窄まりも、城に向けて手を振る民衆のように、『王』を求めていた。 

サキュバスA「陛、下……どうか…お情けを下さりませ」 

淫魔の口から出たとは思えない、懇願と切望。 
それは、淫魔の国の王となったとはいえ、元は高潔なる救国の士であるはずの勇者にさえも。 

勇者「……『俺にまかせろ』」 

言って――太ももの付け根を掴み上げ、秘裂に先端を押し付ける。 

ぎちり、と湿った音を立て、ゆっくりと呑み込まれていく。 
肉の割れ目を強引に押し広げ、淫魔の秘所が貫かれる。 

サキュバスA「ぁ…う、大き……!」 

亀頭全体が飲み込まれ、カリが「返し」の役目を果たし、抜け落ちまいとする。 
先端が入っただけだというのに、彼女は口を割り、荒く不規則な息をついて悶える。 

勇者「大丈夫か?」 

サキュバスA「は……い。どうか……奥、ま、で……」 

勇者「ああ、分かった」 

そう言うのならば、と――勇者は、腰を入れ、奥まで一気に突き込む。 
子宮口にまで先端が達した瞬間、彼女は耳をつんざくような叫び声を上げた。 
男性を誘い、二度と戻れない快楽の沼地へと引きずり込む魔物。 
上げた叫びに、もはやその矜持は無い。 
その逆、インキュバスに魅入られた生娘、と言った方が近い。 

勇者「ぐっ……!(何て締め……っつか、中身一体どうなってんだ!?)」 

予想通りと言うべきか、中の具合も人間を凌駕していた。 
無数の暖かく湿った柔らかい粒が、まるで意思を持つかのように肉棒をしごき上げる。 
何十人もの小さな妖精にキスされているかのような、ひと時の油断すらさせない刺激。 
子宮口の先端がぴったりと亀頭に張り付き、艶めかしく動いて先端をくすぐる。 
名器というよりは、むしろ――『妖器』。 

サキュバスA「陛下っ……だめ、です。私、もう……」 

勇者「…駄目だ、許さん」 

達したい、という願いを却下し、一度、肉棒を出口近くまで引く。 

再び奥まで突く。 
その度に彼女の心臓にまで余韻が伝わり、背筋を弓なりに反らせて豊かな胸を強調しながら打ち震える。 
こなれてきた勇者が前後の運動をゆっくりと繰り返しながら目を向けたのは、彼女の、たわわに実った魔の果実。 

サキュバスA「ひっ…!」 

乳房を鷲掴みにされ、彼女の喉が震えた。 
痛み、それもあるが今彼女の脳裏にあるのは、恐らく彼女自身も気付いていないもの。 

吸い付いてくるような張りのある、瑞々しい感触。 
掴んだ手が、そのままどこまでも埋まっていくような、豊かさと柔らかさ。 
何より、かような大きさを持ちながら形は驚くほど美しく、そして感度も驚きに値する。 
重力に従って垂れ下がる事は無い。 
つん、と上を向いた乳首は、先端に僅かなへこみを持って存在を主張する。 

勇者「胸を弄ばれるのが好きなのか?」 

サキュバスA「い、いえ…そのような……!」 

勇者「隠さなくていいだろ?」 

言って、勇者は彼女の右の乳房に顔を寄せる。 
舌先で乳首を軽くつつけば、その度に軽く締め付けられた。 

舌先で乳首を弄ばれ、彼女は悩ましく吐息を漏らす。 

サキュバスA「…ひ、あ……止め、て…くださいませ…」 

左の乳房を指でこね回され、右の乳房に口による刺激を受け、力が入らず、手を握る事さえもはや叶わない。 
刹那、乳首を通し、脳髄に突き刺さるような快感。 

彼女は、「それ」が自分の声だと最初は思わなかった。 
どこかで、ナニか、自分ではない獣が上げたように聞こえた。 

乳首に爪を立てられ、甘噛みしたまま引っ張られ、全身を激しく仰け反らせ、それと同時に括約筋が一気に収縮する。 
快感に打ち震えている、と言うにはあまりにも、何もかもが激しい。 
ともすれば、このまま死んでしまうのではないか、とすら錯覚する。 

勇者「うぅっ…!」 

呆気なく。 
呆気なく、勇者の精は吐き出されてしまった。 

勇者「く、そっ……!搾り、取られ……!」 

射精の波は、収まらない。 
次から次に押し寄せ、洪水のように彼女の子宮に注がれていく。 
絞り上げられる。 
まるで全身の血液が全て精液へと化け、吸い上げられているかのようだ。 

射精の絶頂感が、まるで永遠に続いているように思える。 
脈動は留まる所を知らず、淫魔の子宮内へ、強烈な圧を持って精液を叩き込み続ける。 

ふと締め付けが緩み、かつて勇者が湖上の岩に刺さった剣を抜いた時のように、するりと抜け落ちた。 

生臭い精液に、甘ったるい愛液の香り。 
それら相反する二つをまとい、肉棒は凶暴性を潜めてしまっていた。 

勇者「……大丈夫か?生きてんの?おい?」 

サキュバスA「……う…」 

勇者「生きてたか。まぁ……考えてみればサキュバスだしなぁ」 

勇者「(……結局、あの後二回もしちまった)」 

サキュバスA「……身に余る光栄です、陛下」 

勇者「は?何が?」 

サキュバスA「私のような者と、二人きりで夜を過ごして頂けるなんて。普段は、四人は同時にお相手なさるのに」 

勇者「(おいおい、マジで普段どんなヤツなんだ)」 

サキュバスA「それに、語らうお時間に感謝いたします。普段は、二時間もしないうちに四人とも気絶させてしまうのに」 

勇者「(淫魔四人気絶させるって何なんだよもう誰とかじゃなく、いったい何をどうやってんだよおいー)」 

サキュバスA「こんなに満たされた気持ちは、235年ぶりですわ」 

勇者「え?」 

サキュバスA「え?」 

勇者「……お前、年は?」 

サキュバスA「ええと……20942歳ですわ」 

勇者「え?」 

サキュバスA「え?」 

勇者「サキュバスBは?」 

サキュバスA「…確か、3419歳……いや、18だったような……」 

勇者「あー……」 

サキュバスA「堕女神さんはこのお城でも古株ですけど、確か……」 

勇者「やめろ、もういい」 

サキュバスA「変な事を気になさりますのね」 

勇者「いや、ちょっとね」 

サキュバスA「さて、どうなさいます?私としては、あと20回は大丈夫ですが」 

勇者「遠慮しとく。もうゆっくり寝たい」 

サキュバスA「はい、それでは陛下、私は失礼し……!?」グイッ 

勇者「……一緒にいろよ」 

サキュバスA「…は、はい//」 


二日目 

勇者「……ん、朝か」 

サキュバスA「おふぁよう、ごふぁいまふ」 

勇者「っ何やってんだ!!」 

サキュバスA「なに、っへ……」 

勇者「んっ……。じゃなくて、咥えたまま喋んな!」 

サキュバスA「……お言葉ですが、以前、言われたでしょう。『俺より早く起きて、しゃぶりながら起こせ』と」 

勇者「いやー、それは流石に想定の範囲内だな、そろそろね」 

サキュバスA「続きを?」 

勇者「いや、今日はいい。ふやける」 

コンコン 

堕女神「失礼します、陛下」 

勇者「ああ、入れよ」 

堕女神「よく眠れましたか?」 

勇者「ああ」 

堕女神「早速ですが、今日の予定をお伝えいたします」 

勇者「頼むよ」 

堕女神「と、その前にひとつだけ」 

勇者「ん?」 

堕女神「『ゆうべはおたのしみでしたね』」 

勇者「で、今日の予定は?」 

堕女神「朝食後、昨日の隣国の女王が参ります。援助を表明いたしましたので、細かい打ち合わせを」 

勇者「うむ。…まぁ、他は後で聞く。着替えは?……先に言うが、今日はいい。一人で着替えるからな」 

堕女神「お珍しい。普段なら嫌がる私を無理y」 

勇者「あーあー!聞こえない!」 

堕女神「?」 

勇者「いいから、着替えるから出て行ってくれよ。命令するから」 

堕女神「はい。それでは……」パタン 

勇者「ったく、一体どういうヤツだったんだよ……前任者は」 

サキュバスA「さて、それでは私が御召し替えの手伝いを…」クリクリ 

勇者「あふぅっ……じゃねーよ、乳首摘まむなコラ!」 

サキュバスA「え?そういう事じゃありませんの?」 

勇者「お前さー、昨夜と全然キャラ違うよね?」 

サキュバスA「それを言うなら陛下も、朝から堕女神さんに咥えさせて、Bちゃんにお掃除させたじゃありませんか。 
         なのに今朝は人が変わったように……」 

勇者「……まぁ、男だからね。色んな意味でね」 

サキュバスA「成る程。私も、久々に満足させていただきましたので、しばらくは大丈夫ですわ」 

勇者「……何かもう、昨日は最初から最後までクライマックスだったけどさ」 

勇者「これはこれで、疲れるよなー……」 

勇者「……はぁ」 

コンコン 

堕女神「失礼します。お召し替えはお済みでしょうか?」 

勇者「ああ、今行くってば」 

サキュバスA「…変な陛下ですね」 


大食堂へ移動中 

勇者「…………」ピタッ 

堕女神「…どうなされました?」 

勇者「…おい、そこのメイド」 

メイド「はい、何でしょう、陛下」 

勇者「……裸になって、俺のをしゃb」 

メイド「はい、失礼いたします」ゴソゴソ 

勇者「ちょ、待っ……取り消す。服を着て仕事に戻れ」 

メイド「……?はい、かしこまりました」 

堕女神「……変な事をしますね」 

勇者「……そうか?」 

堕女神「はい。普段なら絶対にお止めになりませんわ」 

勇者「あー、そっちね。ハイハイハイ」 


食事中 

勇者「……美味いな」 

堕女神「お気に召したようで。……それでは、食後、中庭にて隣国の女王と……」 

勇者「いや、これマジで美味いって。本当に。今まで生きてきて一番……」 

堕女神「…………////」 

勇者「…ん、どうした?顔が赤いな」 

堕女神「……何でも、ありません」 

勇者「あ、もしかしてこれ作ったのって……堕」 

堕女神「いいから、早く食事を済ませてください!!」 

中庭 

勇者「……待たせたな」 

隣女王「…ごきげんよう、陛下。我が国への援助、感謝の言葉もありません」 

勇者「ああ、いや。気にするな」 

堕女神「それでは、まず最初に……」 

勇者「いや、ちょっと待ってくれ」 

堕女神「はい?」 

勇者「……少し、共に庭を歩こうか。隣女王よ。他の者はついてくるな」 

隣女王「はい、陛下。仰せの通りに」 

勇者「……」テクテク 

隣女王「……あの、どうなさったのですか?」 

勇者「……隣女王」 

隣女王「はい」 

勇者「…年は?」 

隣女王「15歳になったばかりです」 

勇者「はぁぁぁぁっ!!?」 

隣女王「!?」ビクゥッ 

勇者「いや、省略しなくていいから。本当は4015歳だとか、10万と15歳とか言うんだろ。そういうパターンだろ」ガシィッ 

隣女王「っ……いえ、本当に15歳なんです。生まれて15年しか経っていません」 

勇者「マジ?」 

隣女王「…あの、陛下。お手を離して……」 

勇者「………」モミッ 

隣女王「き、きゃああああああああ!何するんですか!!」 

勇者「す、すまない。つい……感覚が麻痺して……」 

隣女王「陛下の国の法にあった筈ですよ!?『1800歳以下の、せ、性行為を禁ずる』と!」 

勇者「そんなの分かるか!」 

隣女王「わ、私なんて……どう見ても1800歳以下じゃないですか!未成年ですよ!」 

勇者「ああ、何か俺が悪い気になってきた」 

勇者「いや、すまない。見た目同じぐらいで、3000歳超えてる奴がいるもので」 

隣女王「全く……」 

勇者「……重ね重ね変な事を聞くが、淫魔、なんだろう?」 

隣女王「はい、そうです。この国の方々と違って、翼は小さいですが」 

勇者「寿命も短かったりするのか?」 

隣女王「はい、長くても200歳ほど」 

勇者「長いのか短いのかわかんねぇよ」 

勇者「興味は尽きないが、まぁ、ともかく戻ろうか」 

隣女王「はい」 


堕女神「お戻りになられましたか」 

勇者「ああ、待たせたな」 

堕女神「陛下」 

勇者「何だ?」 

堕女神「未成年に手を出すのは流石にどうかと」 

勇者「いいから早く話を進めるぞ。突っ込む気力もねぇ」 

勇者「………という訳で、いいかな」 

隣女王「はい、陛下。まことに、この度は陛下の……」 

勇者「そういうのはいい」 

隣女王「ですが……」 

勇者「君と君の国は困ってて、我が国には救える。それだけの事だ」 

隣女王「……変わりましたね、陛下」 

勇者「何?」 

隣女王「噂では、同様の陳情に参った他国の女王に『毎日10人の若い処女を差し出せ』とお仰せになられたとか」 

勇者「俺はそれでもいいんだけどさ。……うん、それもいいな」 

隣女王「あ、い、いえ……失礼いたしました!」 

勇者「ジョークだったのに、さっさと帰っちまいやがった」 

堕女神「ジョークだったのですか?」 

勇者「俺、一体どんだけだったの?」 

堕女神「それはそうと、次の予定が控えております」 

勇者「聞こうか」 

堕女神「街外れにある駐屯地の視察です」 

勇者「あれ、軍隊なんてあったのか?」 

堕女神「軍隊の無い国なんてありますか?」 

勇者「おっしゃるとおり」 

堕女神「それでは、馬車の準備が出来ておりますので、どうぞ」 

勇者「……さすがに軍隊なら、変なアレは無いだろうさ」 


司令官「ようこそ、陛下。ご足労まことに痛み入ります」 

勇者「ああ、出迎えご苦労。……早速だが、案内を頼めるか?」 

司令官「無論です。こちらへどうぞ」 

勇者「へぇ、中々本格て……おい、繋がれてるアレは何だ?」 

司令官「アレとは?」 

勇者「ほら、アレ。なんかすんげー触手いっぱいで、もうデジャヴっつーかスゲー見覚えあるよこれ確実に」 

司令官「ああ、ローパーですよ。大丈夫、飼い慣らしてあります」 

勇者「あれ飼えるのかよ」 

司令官「はい、苦労しましたが。これから、地下に移送するところですが、ご覧になりますか?」 

勇者「まぁ、予想はできるけど。一応見とくか」 

司令官「はい。お足元にどうかお気をつけて」 

勇者「ほらほらもう、凄い湿った音と甘ったるい声が聞こえてくるもの」 

司令官「性欲処理、の目的もありますが、新兵に対しての罰として効果的なんですよ」 

勇者「淫魔なのに?これが罰になるのか?」 

司令官「淫魔は気位が高い種族ですから、ほかの魔物に犯されるのを嫌がるんです。 
     新兵は特に、鼻っ柱だけの跳ね返りが多いもので」 

勇者「ほう」 

司令官「万年発情で相手が雄なら何でもいい、と思われがちなんですがね、淫魔は」 

???「く、離せ!離せよ!!」 

勇者「あれは?」 

司令官「ああ、新兵のようですね。彼女は素行に改善が認められませんので、已む無く」 

勇者「……で、ローパーと一緒にする、と」 

司令官「ちなみにローパーにも色々いまして。私は、五番の檻にいるのがお気に入りですね」 

勇者「訊いてないよ」 

司令官「まぁ、せっかくですから見ましょう。ほらほら、檻の前の特等席へどうぞ」 

勇者「あ、ああ。うむ」 

司令官「何をしている?早くそいつを中へ入れろ」 

新兵「うわっ!」ドスンッ……ガシャン 

赤いショートカットが特徴的な、少年的な淫魔が無造作に檻の中へ突き飛ばされる。 
すぐに鍵がかけられ、その格子の向こうには、椅子に座った『男』と、駐屯地の司令官。 

新兵「出せよ!こんな事して、アタシが言う事を訊くと思ったら……」 

にゅるり、と何かが尻を撫でる。 
咄嗟に払いのけ、伸びてきた暗闇を目を凝らして見る。 
何かがいる。 
単なる懲罰用の独房だとばかり思っていたが――違う。檻の外にいる二人は、ニヤニヤとこちらを見ている。 

何かが、いる。 

新兵「ひぃっ……」 

彼女がその場に尻餅をつき、何とか逃れようと、遠ざかろうと、手を鉄格子に向かって伸ばす。 
その時、この檻の「主」が姿を現した。 

醜い。 
赤黒い無数の触手に阻まれ、奥にあるであろう「本体」は見えない。 
粘液を滴らせ、新兵の頬を一本の触手が撫でた。 

新兵「や、だ……やめろ、来るな!出せよ!ここから出せ、オイ!」 

司令官「駄目だ。これは、罰なのだ」 

新兵「だ、だからって……こんなの……嫌…」 

司令官「それに、お前はラッキーだ。……新しく入ったローパーの具合を、最初に試せるんだからな?」 

新兵「そん、な……くそ、ヤダ!ふざけんな、ローパーなんて…!」 

頬をなでる触手を払いのけようとした途端、 
何本もの触手が彼女の腕に巻きつき、同時に両足首にも巻きつく。 

そこから先は――不思議なほど、何もしてこない。 
手足に巻きつくだけで、それ以上の事はしない。 

とはいえ、それはあまりにも耐え難い嫌悪感をもたらした。 
糸を引く粘液をまとった、生臭さに包まれた触手がむき出しの手足を撫でる。 
ここに移される際、下着以外はすべて剥ぎ取られた。 
その時点で、こうなる事を予想できたのかもしれないのに。 
いや、予想できたとしても、防ぐ事はできなかった。 

勇者「……何もしないのか?」 

司令官「報告によると、あのローバーは簡単な命令を実行する知能をも有しているとの事です」 

勇者「つまり、命令を待ってるって事か」 

司令官「はい、陛下」 

勇者「なら、試してみるか」 

つかつかと檻へ歩み寄る。 
嫌悪感に耐え、必死で悲鳴を上げまいと涙を浮かべている淫魔には、まるで魔王のように映る。 

勇者「……『がんがんいこうぜ』」 

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]:2011/11/16(水) 22:39:22.81 ID:JqYKgVVdo
「命令」を受け取った瞬間、ローパーの本体がぴくりと反応した。 
10本、20本、闇の奥から触手がその数を増やして近寄る。 

新兵「…ゃ。嫌……!」 

四肢を弄んでいた触手が、少しずつその先端を進めていく。 
腕に巻きついていた触手は、乳房へ。 
脚に巻きついていた触手は、太腿を経て、下着に包まれた陰部へ。 

先端が、下着越しに柔い秘部をつつく。 

新兵「やめろ!…やめ……お願い、やめて……!」 

生臭い粘液がショーツに染み込み、恥部を穢す。 
不快感、恐怖、嫌悪感に支配されてしまい、ついには助けを求めてしまった。 

司令官「……言っただろう。これは、罰なんだ」 

勇者「なぁ、ちょっと可哀想になってきたな」 

司令官「いえ。ここで止めては教育になりませんし、何より…」 

勇者「何より?」 

司令官「収まりがつかない者達がおりますので」 

勇者「……野暮だったかな。あ、続けろ」 


その間にも、淫魔に対する蹂躙は続いていた。 
勇者自身、ローパーを見るのは初めてではなく、戦った事すら何度もある。 
だが、ローパーが淫魔と交わり…否、泣き叫ぶ淫魔を『犯す』事など見た事は無い。 

新兵「やめ、……あ、うぁっ!ん……!」 

薄い布越しに、感触を楽しむかのように陰部を刺激し続ける。 
粘液をなすり込むように撫でたり、割れ目を浮き上がらせるように押し込んだり、 
危険がないかを探っているようにも見えた。 

下だけではなく、ローパーは上もまさぐり始める。 
胸を隠す簡素なブラは既に取り除かれ、豊満とまではいかないものの、程よい大きさと美しい形、 
そして頂点の小さな飾りが露わとなっていた。 

二本の触手が近づき、ねっとりと二つの乳房に絡みつく。 
乳首に近づけば近づくほどに鋭敏な感覚が、彼女の身を震わせる。 
触手の先端が小さな乳首に、まるで挨拶するかのように軽く触れた。 

新兵「ひゃんっ……!」 

頓狂な声を上げ、びくん、と背筋を跳ね上げる。 
キモチイイ。 
そう感じてしまった事を激しく恥じながら、彼女は唇を噛み締める。 

彼女の羞恥を知ってか知らずか、乳房を重点的に責め始める。 
揉みしだき、乳首を弄び、乳輪をなぞり。 

そうしていると少し小さな、先端に穴の開いた触手が二つ、突き出されてきた。 

新兵「や……。何……?」 

薄れそうな意識の中、二つの触手に目を向ける。 
小さな穴が空いているのに気付いた瞬間。 

新兵「っ……!あ、ああああぁぁぁぁぁぁ!!」 

先端がめくれ上がり、無数の小さな触手を蠢かせる内側が明らかになる。 
まるで顎門を開いた蛇のように、両方の乳首にそれぞれ喰らいつく。 
乳輪を完全に覆い隠し、乳房を四分の一ほど呑み込み――無数の触手が、乳首を弄ぶ。 

内部でいかなる愛撫が行われているのか、勇者や司令官には分かろうはずもない。 
一つだけ言うとすれば、淫魔でさえも狂わせてしまうような、人外の快楽。 

もはや、彼女には抵抗の意思も、救いを求める意思もない。 
溺れているかのようにパクパクと口を動かし、涙を流しながら喘ぐ。 
脳神経が焼き切れてしまいそうな快楽に、脚を大きくばたつかせ、声にならない叫びを紡ぐだけ。 

その時、ローパーは触手を硬く強張らせ、彼女の両足を、開かせたままで固定する。 
もがく自由さえも奪われ、彼女は背を反らせ、僅かに気を紛らわす事しかできない。 

股布、両サイドのウエスト部分、三箇所に触手が引っかかり、力を込める。 
あっけなくショーツが引き裂かれ、陰部が白日の下に晒される。 

ややあって、乳首を犯していた二つの触手が外れた。 

肩で息をつきながら、激しくむせ返る彼女に、状況を認識する術はない。 
むせる毎にひくひくと収縮する二つの穴に、触手が近づく。 

呼吸を落ち着かせると、すぐに、秘所に近づく触手に気付いた。 
気付いたが、取り乱しはしない。 

頬を紅潮させ、被虐心と、異常な性的興奮が体に満ちる。 
願わくば、あの触手で膣内をめちゃくちゃにかき回してほしいという欲望。 
同時に、忌まわしい怪物に体を許してはならない、という激しい拒絶。 
二つは引き算ではなく『乗算』となり、彼女の身体を激しく昂ぶらせる。 

司令官「……効いてきたか」 

勇者「何だって?」 

司令官「あの顔です。元々彼女は淫魔の割りに初心でしたが……もう、その心配はありません」 

勇者「えっと……つまり?」 

司令官「…教育、もとい懲罰はこれにて終わりと」 

勇者「ダメだ、許さん」 

司令官「このまま見ていたいのはやまやまですが……見世物、という訳でもありませんので」 

勇者「おい、待て。せめてあと十分」 

司令官「いえ、たとえ陛下といえどもこれだけはまかりなりません」 

勇者「……どうしても?」 

司令官「…昂ぶらせ、途中で取り上げる事で彼女への教育が成し遂げられるのです。 
     最後までやらせ、満足させてしまっては『懲罰』の意味が無いではないですか」 

勇者「……なるほど」 

司令官「ご理解いただけて何よりです。……おい、彼女を出すぞ。ローパー、お前は奥へと引っ込んでいろ」 

新兵「あ……。ダメ、待って!行かないでよぉ!犯して、犯してってば……!」 

司令官「お前への懲罰は終わりだ。訓練に戻るぞ」 

新兵「やだぁ……!離して!離してください!」 

司令官「口の聞き方は覚えたようだな。分かっているだろうが、訓練中の自慰行為は許さん。見つけ次第、追放とする」 

勇者「鬼だな」 

司令官「陛下ほどではありませんよ。三ヶ月前に……」 

勇者「その話はもういい」 

司令官「…?はい」 

勇者「しかし、ローパーなんてよく飼い慣らせるな」 

司令官「淫魔の国では日常茶飯事です」 

勇者「何、これ犬とかそういう感じなの?」 

司令官「人界には、性的な目的で犬を飼う女がいるじゃありませんか」 

勇者「なるほど」 

司令官「教えたら、芸もしてくれるんですよ」 

勇者「ほうほう、例えば?」 

司令官「『拘束して二穴責め』と『媚薬注入』の二つがオーソドックスですね」 

勇者「やっぱりそうなるのかよ」 

司令官「ローパーがオーソドックスですが、中にはスライムを飼ってる者もいるとか」 

勇者「何すんの?」 

司令官「ローパーにはない肌触りと、最下級の魔物に犯される屈辱感が良いのだとか」 

勇者「色々極まってんなー」 

司令官「ああ、それと夏場はひんやりとしていて実に心地よいと」 

勇者「それはちょっと羨ましいな」 

司令官「さて、陛下。この後はどうなさいます?ご希望は?」 

勇者「……そうだな。実際の訓練を見ておこうか」 

司令官「はい、了解いたしました」 

勇者「ちゃんと戦闘の訓練なんだろうな?夜の格闘技とかじゃなくて」 

司令官「大丈夫です。今は白兵訓練の時間ですから」 

勇者「否定しなかったよな?マジで夜の戦いの訓練があるのか?」 


訓練場 

勇者「お、やってるやってる。何だ、普通じゃないか」 

司令官「今日は陛下がいらっしゃるから皆真面目に取り組んでおりますね」 

勇者「なーんか聞き捨てならないな」 

司令官「ともかく、ご安心いただけたでしょうか」 

勇者「うん、とりあえずな」 

司令官「さて、この後は?お試しになられますか?生え抜きの精鋭を20人ほど用意できますが」 

勇者「それってどっちの意味で?」 

司令官「両方です」 

勇者「……いい。帰る」 


城 

堕女神「お帰りなさいませ、陛下。どのような様子でした?」 

勇者「何かもー、あれだな、予想以上に予想以上だった」 

堕女神「お食事の準備を?それとも、先に沐浴なさいますか?」 

勇者「とりあえず、風呂に入りたい」 

堕女神「はい、かしこまりました。大浴場にてお待ちいたします」 

勇者「ああ。……ところで」 

堕女神「はい?」 

勇者「大浴場って、どこだっけ?」 

勇者「…あんな変な顔する事ないじゃないか」 


勇者「お、ここだな……」 

???「陛下!こっちですよ!」 

勇者「…?誰かいるのか?」 

サキュバスB「誰か、じゃないですよぅ!お忘れですか?」 

勇者「ああ、3419歳の幼女か」 

サキュバスB「え?違いますよ。3418歳ですよ、まだ。年間違えるなんて失礼ですねー」 

勇者「……すまんな」 

サキュバスB「そういえば、親戚のお姉さんに『永遠の1700歳』って言い張ってる人がいますよ」 

勇者「どう反応すりゃいいんだ、それ」 


勇者「で、何故お前がここにいるよ」 

サキュバスB「沐浴のお供です」 

勇者「愚問だった。とりあえず入ろうか、寒くなってきた」 

サキュバスB「はーい」 

勇者「ふぃー……」ザブーン 

サキュバスB「陛下、失礼しますっ」トプン 

勇者「お前も入るのか?」 

サキュバスB「ダメですかあ?」 

勇者「いや、構わん」 

サキュバスB「それにしても、陛下って昨日から変ですね」 

勇者「耳が腐るほど聞いたよ」 

サキュバスB「Aちゃんから聞いたんですけど、すごい優しくしてもらったーって」 

勇者「おい、自分の情事を人に話したのか?あいつ」 

サキュバスB「だって淫魔ですもん」 

勇者「それ話終わっちゃうよ」 

サキュバスB「『チューしてもらっちゃった』って嬉しそうに言ってました」 

勇者「想像つかないわ。詳しく話せ」 

サキュバスB「はいー」 

サキュバスB「…えっと、まず『昨日はどんな事したの』って話になって」 

勇者「すでに直球だな」 

サキュバスB「そうしたら、Aちゃんが詳しく、じっくり、音の一つ一つにいたるまで話し始めたんです。何故か三人称視点で」 

勇者「人間同士の猥談とはレベルが違う!」 

サキュバスB「で、内容の説明は終わったんですけど、感想を訊いてみたんです」 

勇者「それでそれで」 

サキュバスB「『陛下が優しくて、嬉しかった』って真っ赤になって言ってて、もーすごい可愛かったですよ」 

勇者「翌朝はサキュバスそのものの態度だったけどね」 

サキュバスB「あははは、きっと照れ隠しですって。それにしてもさすが陛下です!Aちゃんがあんなしおらしくなっちゃうなんて!」 

勇者「褒めてんのかそれ」 

サキュバスB「とにかくメロメロでしたよ、Aちゃん」 

勇者「喜ぶ所……なのかなぁ」 

サキュバスB「……それはそうと、どうします?」 

勇者「『何が?』……って言うのは野暮かな」 

サキュバスB「いつも通り、私がお口でしますか〜?」 

勇者「…いや、遠慮する」 

サキュバスB「残念です〜」 

勇者「その代わり。……昨日はAだったから、今日はお前だ」 

サキュバスB「え!?いいんですかぁ?」 

勇者「ああ。一人で来い」 


夕食 

堕女神「……どうでしょう、お口に合いますか?」 

勇者「ああ、美味いよ。…やっぱり、作ったのは堕女神か」 

堕女神「陛下の為に、腕を奮わせていただきました」 

勇者「……ところで、女神と言っても色々いる訳だが」 

堕女神「…?」 

勇者「堕ちる前は、一体何を司る女神だったんだ?」 

堕女神「…………『愛』です」 

勇者「わぁお」 

堕女神「まぁ、今は『性』ですね、さしずめ」 

勇者「あんまり変わらなくね?」 

堕女神「あ。以前依頼いたしました彫刻と肖像画が、明日届きます」 

勇者「肖像画?誰の?」 

堕女神「陛下の」 

勇者「へぇー(…普通に考えて、前の王のだよな?)」 

堕女神「国内でも随一の芸術家に依頼いたしましたので、きっとご満足いただけると思います」 

勇者「楽しみにしておこうか。……依頼したのはいつだったかな」 

堕女神「はい、三ヶ月前ですわ」 

勇者「なら大丈夫か」 

堕女神「?」 

勇者「いやいや、こっちの話。……ごちそうさま。美味しかったよ」 

勇者「うーん……。まだ二日目か」 

勇者「………なんだか、エロ関係なしに居心地が良いな」 

勇者は、魔王に辿り着くまでの道のりを思い描く。 

『お前は勇者の子孫だ』と祭り上げられ、武器を渡されて旅に出される。 
数え上げるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの危険を掻い潜り、何度も殺されかけてやっとの事で「手がかり」の一つを見つけ出した。 

行く先々の国では問題を押し付けられ、『勇者』と持て囃されていたのは、雑用をさせるためのゴマすりだったのか。 
魔王を倒したくない訳では無かった。 
ただ、王国を苦しめる魔術師も、旅人を襲う山賊も、強敵ではあったが『勇者』でなければ倒せない程の敵ではなかった。 

見捨てよう、等とは思わない。 
しかし、彼らの頼みを聞いている間に、それだけ魔王の手は進む。 
それだけ魔王は遠ざかる。 

「勇者殿の助けになりたいが、我が国は問題を抱えている」 

それは、彼らが勇者に「おねだり」をする時の、ありきたりなフレーズだった。 

魔王「……調子はどうかな、勇者よ」 

勇者「お前は……!どこだ、どこにいる!」 

魔王「陳腐だが、貴様の心に直接語りかけている。……随分と、お楽しみではないか?」 

勇者「黙れ!……お前は、何をした?」 

魔王「端的すぎるな。…何とは、『何』だ?」 

勇者「恍けるな。なぜ、この国の者は俺を『王』だと思っている!?」 

魔王「『王』である事に理由があるか?王を『王』だと思う事に何も不思議はあるまい。貴様の質問ではないな」 

勇者「お前が、この国の者達の記憶を操作したのか?」 

魔王「……さてな。どの道、明日になれば分かるだろう?……それに、まだ五日間もあるのだぞ」 

勇者「…………」 

魔王「クククク、おやすみ。……いや、貴様は仲間にこう言っていたかな。……『いろいろやろうぜ』」 

勇者「おい、待て!魔王!質問に答えろ……!」 

サキュバスB「……陛下、入っていいですかー?Bですよ」 

勇者「チッ……。ああ、入れ」 

サキュバスB「失礼しまぁす。……陛下、どうしたんです?息を切らして。それに顔が真っ赤……」 

勇者「何でもない」 

サキュバスB「でも……」 

勇者「何でもないと言っているだろうが!!」 

サキュバスB「っ……」ビクッ! 

勇者「………す、済まない」 

サキュバスB「い、いえ……すみません、陛下。わ、私なんかが……」 

勇者「すまない、と言っただろう。……こっちに来い」 

サキュバスB「え……?」 

勇者「いいから、来るんだ」 

寝台に深く腰掛け、少女の姿をした淫魔を呼び込む。 
意図を察し切れていないのか、ただ言われた通り近づいていく。 

勇者「……翼、しまえないか?」 

サキュバスB「…はい、仰せの通りに」 

蝙蝠に似た翼が、黒い霧へと変わって虚空に溶ける。 
そのまま歩みを進め、勇者に指示されたとおり、脚の間に挟まるように、背中を預けて腰掛けた。 

勇者「…………大声を出して、すまなかった」 

背中越しに抱き締められ、彼女は一度だけびくりと反応し、そこから先は大人しくなる。 
小さな肩を抱きしめる温もり、首筋に感じる息吹、背中から伝わる勇者の心音。 

それらは、遠い昔に誰かから与えられたもの。 
――彼女は、そんな感傷を覚えた。 

勇者「……お前」 

サキュバスB「……?」 

勇者「随分と鼓動が早いな」 

サキュバスB「……へ、陛下のせいですよ」 

勇者「…すまない」 

サキュバスB「あ、謝らないでくださぁい!」 

勇者「……いいのか?」 

サキュバスB「…はい」 

返事が返ってくると同時に、彼女を抱いたまま後ろに倒れこむ。 
仰向けに二人重なって寝転がった状態となり、勇者の胸に彼女の体重がかかる。 

サキュバスB「あ、あの……!咥えなくて、いいんですか?」 

勇者「いい」 

サキュバスB「でしたら……そ、そうだ、手でするのも練習したんですよ。Aちゃんに教わったんです」 

勇者「いらん。……今日は、俺が『してやりたい』んだ」 

ふっ、と彼女の耳に息がかかる。 
か細い声とともに吐息が漏れ、悩ましく身をくねらせた。 

勇者「…しかし、顔の割りに大きいな」 

両手で、そっと彼女の乳房に触れる。 
言動や容姿と反して、程よく大きい。 
ゆるやかにくすぐるように触っていき、その手は段々と頂点に近づき。 

サキュバスB「あっ……」 

そして、乳首に触れる事無く、再び下っていく。 

勇者「……どうした、残念か?」 

サキュバスB「そん、な、事……」 

勇者「じゃあ、触らなくてもいいんだな?」 

サキュバスB「………」 

勇者「黙っていては分からないな」 

つぅ、っと指先が乳輪の縁をなぞる。 
小さな声を漏らして、非常に小さく身を強張らせるのを、彼は見逃さなかった。 

勇者「……気持ちいいのか」 

サキュバスB「そ、そんな事……!」 

言葉を待たず、再び、下から頂点へ向かって揉み上げる。 
やわやわと、まるで小さな動物を撫でるかのように。 
指に吸い付くような感触、『王』に身を任せる緊張からか、かすかに汗ばんだ肌。 
小さく粒のようだった乳首は、少しずつ、硬さを増していった。 

勇者「どこかで聞いたような言葉だが。……体は、そうとは言っていないな」 

サキュバスB「ちが……」 

勇者「違うのなら、止めようか?」 

サキュバスB「………ぃで、ください」 

勇者「何?」 

サキュバスB「……やめないで、ください」 

勇者「……何を?」 

サキュバスB「……おっぱい、触るの……やめないで……」 

勇者「良く言えたな」 

指先を、頂に向かって進めていく。 
そして―――遠慮なく、乳首を捻り上げた。 

サキュバスB「あひぃぃぃっ!!」 

電流が走る。 
有り体にいえば、そうだ。 
お預けをくらって待たされた神経は、脳細胞が焼ききれるほどの快楽をもたらした。 
絶頂にこそ達してはいないが、ひとたび気を抜くだけで達してしまう。 
精神年齢が低めの彼女でさえ、ここで気を抜いてはいけないと感じている。 
淫魔の一人として、最も性的魅力に溢れた魔族として、達してはいけない。 
乳房を弄ばれただけで達するなど、まるで人間の淫売だ。 
達する訳には、いかない。 

サキュバスB「…っ……ん、はぁう……」 

乳首を重点的に責められながら、健気に耐える。 
こりこりと指先で嬲られ、その度に意識が飛んでいきそうになる。 

勇者「……顔を、向けるんだ」 

言って、彼女の顔を右へ向けさせ、自身の首を右へ若干曲げる。 
そのまま――仰向けに重なった状態で、唇を塞ぐ。 
彼女は眼を見開き、状況を把握しようと試みた。 

同時に両乳首を摘み上げる。 

彼女の痙攣が少しずつ大きくなり、やがて背筋を跳ね上げる。 
尿道が弛緩し、だらしなく尿を飛び散らせながら、彼女は達してしまった。 
きゅうっ、と秘所が収縮し、開き、括約筋を痺れさせる快楽に彼女は震える。 

サキュバスB「だ、め……ん、むちゅ……はぁ……い……っちゃう……」 

シーツに染みを作り、彼女は一気に現実に戻る。 
達したばかりか、失禁までしてしまった事に。 
それも、王の上に乗ったままで。 

サキュバスB「ご……ごめんなさい……!」 

勇者「……構わん」 

サキュバスB「すみません……陛下のベッドを穢してしまって……」 

勇者「いいさ。こんなに広いんだしな」 

サキュバスB「…怒らないんですか?」 

勇者「いや。むしろ、こっちこそ調子に乗ってすまない。……お前が、あまりに可愛くてね」 

前の陛下は失禁したら怒るのかそういう理不尽プレイもいいな 

サキュバスB「……Aちゃんが言ってた通りです」 

勇者「?」 

サキュバスB「陛下が、すごく優しくしてくれて、胸の中があったかくなるって」 

勇者「そうか?」 

サキュバスB「……もう一回、キスしてください」 

勇者「ああ。……いいよ」 

言って、彼女を隣に下ろし、横たわったまま唇を合わせる。 
艶のある薄い唇を割り、磁器のような歯、歯根を舌でなぞり、じっくりと味わう。 

サキュバスB「んふ……、む、ぷふぅ……」 

舌先に乗せた唾液が口内へ注がれ、同時に多幸感が過剰なほどに満ち満ちる。 
優しく、それでいて激しいキスが彼女の心を侵し、暖かなものが注がれていくのが分かる。 
下腹部にじんわりと熱がこもり、不思議な事に、それは単純な色情へ繋がらなかった。 

もっと、キスをしたい。 
もっと、肌の温もりを感じたい。 
もっと――抱き締めてほしい。 

それは、『王』へ対して、抱いてはいけない気持ちかもしれなかった。 
王の愛情を、この身に受けたい。 
ほかの誰にでもなく、自分だけを愛してもらいたい。 
しかし、それを望んではいけない。 
理解した時、彼女の双眸から、熱いものが零れ落ちた。 

勇者「……どうした」 

サキュバスB「え……?い、いえ、何でもないんです。ただ……嬉しくて」 

勇者「…そうか?」 


勇者が、指先で彼女の涙を拭う。 
金色の瞳を波立たせながら、彼女は彼の眼を見た。 

あまりにも、あまりにも暖かすぎる。 
淫魔として生を受けて以来、三千余年。 
自分を見る「男」の目が、こんなにも穏やかであった事など無い。 
『魅了』を受けた男の、蕩けたような我を失くした目とも違う。 
血走り、欲望をむき出した目とも違う。 
その目は、まるで。 

サキュバスB「……このまま、寝ちゃってもいいですか?」 

勇者「…ああ、いいよ」 

言って、勇者は彼女の後ろに回していた手を離す。 

サキュバスB「…お願いします、離さないで……ください」 

勇者「……ああ」 


三日目 

勇者「ん……」 

目が覚めると、すぐ目の前に、彼女の寝顔があった。 
左腕を枕にして、右腕を彼女の背中に回して、眠りにつく前と全く同じ体勢で。 

腕に倦怠感を感じるが、悪くは無い。 
彼女の安心しきった寝顔も、規則正しい寝息も、寝息とともに感じる甘やかな芳香も。 
窓の外から響く鳥の唄も、降り注ぐ陽光も、上等の寝台の温もりも。 
勇者がこれまでの旅で感じる事が無かった、時の移ろいをも忘れる一時。 

堕女神「失礼します、陛下。お目覚めですか?」コンコン 

勇者「……入れ。静かにな」 

堕女神「はい」 

勇者「…おはよう」 

堕女神「………これはまた珍しい」 

勇者「何が?」 

堕女神「彼女が、陛下の前で眠っているなんて」 

勇者「……誰だって、夜は寝るだろ?」 

堕女神「ですが、普段は朝に奉仕しながら起こすのが一般的な」 

勇者「いいんだ。……俺が、いいと言ったんだから」 

堕女神「陛下が良いのなら。……早速ですが、ご依頼の陛下の彫像と肖像画が届きました」 

勇者「……見に行きたいが、これではな」 

堕女神「起こせばいいでしょう」 

勇者「正論だな」 

堕女神「……では、後20分、部屋の外で待ちましょう。それまでに何とかしてください」 

勇者「ああ、助かるよ」 

堕女神「………」 

勇者「どうした?」 

堕女神「…いえ、何でも」パタン 

勇者「……おい、起きろ」 

サキュバスB「ううん……」 

勇者「起きろってば」 

サキュバスB「………」 

勇者「………俺にも考えがあるぞ」ズブッ 

サキュバスB「ひゃあぁっ!」 

勇者「おはよう、よく眠れたか?」グリグリ 

サキュバスB「い、ひ……お尻……に……」 

勇者「俺は、早く肖像画を確かめたいんだ。困らせないでくれよ」ヌプッ 

サキュバスB「…お尻なんて……汚いですよ」 

勇者「…その割に、随分と気持ちよさげだったじゃないか」 

サキュバスB「ち、違……びっくりしただけです……」 

勇者「さて、起きたんなら俺は行くぞ」 

サキュバスB「……はい」 

勇者「お前の寝顔、可愛かったな」 

サキュバスB「そ、そんな事ないですっ!」 

勇者「照れるなよ。……それじゃ」 

サキュバスB「……やっぱり、意地悪です」 

勇者「さっき、何か言いたそうだったな」 

堕女神「いえ、特に」 

勇者「……そんな事ないだろ?」 

堕女神「いえ」 

勇者「……ひょっとして、妬いてるとか?」 

堕女神「そんな訳はありません」 

勇者「つまり、俺に興味が無いと」 

堕女神「誘導尋問はやめてください」 

勇者「それはそうと、まず朝食にしたい」 

堕女神「はい、そう仰られると思って準備は整えております」 


食後 

勇者「……ふぅ。相変わらずのお手前」 

堕女神「少しお休みになられたら、肖像画をご覧になってください。玉座の間に運び込んでおりますので」 

勇者「堕女神は、もう見たのか?」 

堕女神「とんでもない。陛下より先になど」 

勇者「そうか。……さて、このお茶を飲み終えたら行くとしようか」 

堕女神「……陛下、お耳に入れたい事が」 

勇者「ん……?聞こうか」 

堕女神「取るに足らない事ではありますが。……南方のオークの群生地で、何らかの異変が起こったとの事」 

勇者「何かあったのか」 

堕女神「何者かに侵略を受けたのか、それとも他種族との諍いか分かりませんが、力を失いつつあるそうです」 

勇者「……あるいは内乱、という所か?」 

堕女神「定かではありませんが、不安の種には違いありません。現在、調査中です」 

勇者「ふむ」 

堕女神「さて、行きましょう。続きは玉座の間にて」 

勇者「ああ、分かったよ」 

勇者「ほう……。デカいな」 

玉座の間に入ると、すぐに、大きな幕で覆われた額縁が目に入る。 
その傍らには、小柄な、堕天使と思われる種族の画家が立っていた。 

勇者「……さて、早速だが見せてくれるか?」 

そう言うと、画家は幕の縁に手をかけ、一気に引き摺り下ろす。 
ばさ、と翻り、その下から、王の姿を描いた肖像画が現れた。 


勇者「………どういう、事だ」 

画家「……お、お気に召しませんでしたか?」 

勇者「……どうして」 

画家「え?」 
          
勇者「どうして……『俺』が描かれているんだ?」 

描かれているのは、紛れも無く……”勇者”だった。 
精密に、写実的に、誤魔化しも美化も一切ない、ありのままを描いた絵。 

画家「ど、どうしてと申されましても……陛下の肖像画を、との事でしたので」 

勇者「……いつだ?いつから描いていた?」 

画家「ご依頼をいただいてすぐ。三ヶ月ほど前から」 

勇者「…………そんなはずが、あるか」 

間違いなく、今日で三日目。 
淫魔の国の王となって、三日目。 
にもかかわらず、三ヶ月前の絵に「自分」が描かれていた。 

吐き気がする。 
何か、自分の理解を著しく超えた、何かの存在を感じて。 
この体験には、気楽に捉えられない何かがある。 
魔王の罠、というのも考えられた。 
ともすれば――この国自体が、勇者に対する罠、なのか。 

勇者「………すまん。寝室に戻らせてもらう」 

堕女神「陛下、お体の具合でも悪いのですか?」 

勇者「少しな。……誰も、部屋に近づけないでくれ」 

堕女神「……肖像画に、ご不満な点が?」 

勇者「違う。肖像画には……不満は無い。よくやった」 

画家「お、お褒めに与り光栄です」 

勇者「……少し休ませてくれ」 

堕女神「はい。……後ほど、薬と食事をお運びいたします」 


寝室 

勇者「どういう事なんだ!」 

魔王「……見てきたか。随分といい出来栄えではないか?『陛下』」 

誰もいない寝室で、虚空に向かって叫ぶ。 
間髪いれず、勇者にだけ聞こえる声が響く。 

勇者「この国自体が、貴様のまやかしか」 

魔王「……全く、貴様ら人間はいつもそうなのだな」 

勇者「何だと?」 

魔王「全てを我のせいにして、事態の説明をつけようとする。 
   我とて神ではない。不死身ではない。『魔王』も万能ではないというのに」 

勇者「では、一体何だ?何が起こっている!?」 

魔王「答え合わせは、七日目を終えた時だ。それまで考える事だな」 

勇者「……待て、まだ話は……!」 

勇者「………クソ、何なんだよ……意味が分からない」 

どこまで、魔王が関わっている? 
自分が何故、三ヶ月以上前からこの国の王となっている? 
欲望のままに生き、彼女らを激しく求めていたのも自分だった? 

勇者「畜生っ!!」 

白い壁に、衝撃が走る。 
叩きつけた拳の方が痛み、その痛みは、勇者を今少し落ち着かせた。 

無言でベッドに腰掛ける。 
どうやらシーツは未だ取り替えていないらしく、朝と同じ、乱れたままの状態だ。 
夜を共にした淫魔の香りもまだ残っている。 

勇者「魔王……全部、お前の生み出した幻なんだろう?そうだと言ってくれ……」 

無力感、頭を埋め尽くす無数の疑問符、そして魔王に対しての複雑な感情。 
それは堂々巡りを繰り返し、勇者の精神を蝕んでいく、毒。 

堕女神「失礼します。お薬をお持ちしました」 

勇者「………」 

堕女神「……陛下?入ってもよろしいでしょうか?」 

勇者「……入れ」 

堕女神「それでは、失礼いたします」 

勇者「おい」 

堕女神「はい、何でしょう?」 

勇者「……俺は、誰だ?」 

堕女神「…質問の意図が分かりかねます」 

勇者「…答えろよ!俺について、何を知っている!?」 

堕女神の細い首を片手で掴み、引きずり倒す。 
一瞬の事だった。 
彼女は小さな悲鳴とともに、ベッドの上に叩きつけられた。 

堕女神「陛下……!いったい…何を?」 

勇者「命令だ。……『俺』についてお前の知っている事を、全て言え」 

堕女神「…あなたは、『淫魔の国』の王です」 

勇者「いつからだ!?」 

堕女神「ぐっ……3年ほど前、あなたは王座に就かれました」 

勇者「その他は?」 

質問のたび、無意識のうちに首を掴む手に力が篭る。 
あとほんの少し力を入れただけで、へし折れてしまいそうなほどにか弱い。 

堕女神「…あな…た……は、か…つて……『勇者』……だった……」 

絞り出した声、紅潮して息苦しさに喘ぐ顔、紫色に残る指の痕。 
彼女の、淫魔の国の住人から初めて飛び出した、幾度と無く呼ばれた、『彼』を差す言葉。 

その二つが合わさり、やっと、彼は冷静さを取り戻した。 

首に巻かれていた手から力が抜けると同時に激しくむせ返り、 
遮断されていた分の酸素を取り込もうと彼女の鼻と口が一気に稼動する。 

勇者「……今……なんて…?」 

堕女神「はぁ、はぁ……。…お忘れになられたの……ですか?あなたは、人界の『勇者』だったのです」 

勇者「………え…?」 

堕女神「あなたが夜毎、添い寝役をいたぶりながら口にしておられた事です」 

勇者「何だ、それ」 

堕女神「陛下、何が起こられたのですか?……ここ三日ほどの陛下は、まるで別人です」 

勇者「……俺にも分からないよ」 

堕女神「…お体の具合は、戻られましたか?」 

会話の切れ目に発せられた言葉は、心から、勇者の体を案じているように受け取れた。 
突如締め上げ詰問を浴びせるという暴挙に出てなお、彼女は『女神』のような言葉を口にした。 

勇者「…すまなかった。許してくれ」 

堕女神「……いえ、お気になさらないで下さい。……『慣れて』おります」 

勇者「………」 

堕女神「陛下?」 

勇者「……今日、他の予定は?」 

堕女神「午後から、南方のオークの動乱を受け国境警備の見直しを。その後も雑務が少々」 

勇者「…分かった、行こう」 

堕女神「はい」 

内容として、そう難しくはならなかった。 
とにかくオークの内部で何かが起こっている。あるいは外部からの刺激を受け、オーク全体が不安定になっている。 
どのような事になるかの予想もつかないため、差し当たって、南方の砦へ援軍を送っておく。 
調査も並行して行い、事態の把握に努める。 

妥当な落とし処というか、それ以外にすべき事は見つからない。 

勇者「……オーク、か」 

亜人種としては耳慣れた存在。 
豚のように醜く、知能が低く凶暴、最低限度として族長を上に置いた階級社会が形成されているものの、 
その族長すら何度も入れ替わるという有様。 
性欲が異常なほど高く、エルフであろうが人間であろうが犯し、エルフ以外の全ての種族を受胎させる事が可能。 
魔族に対してもそうなのかは不明であるが、警戒するに越した事は無いだろう。 

堕女神「ここ数十年は落ち着いていたのですが、それだけに気になりますね」 

勇者「ふむ、なるほど」 

勇者「一度、視察に行きたいな」 

堕女神「…陛下が、御自ら……ですか?」 

勇者「いけないか?」 

堕女神「いえ、そのような事は……」 

勇者「それとも、『珍しい』?」 

堕女神「……畏れながら」 

勇者「…すまん、困らせた。……ともかく、視察には行きたい」 

堕女神「はい。……それでは、明日にでも出発いたしましょう」 

勇者「やけに段取りが早いな」 

堕女神「恐れ入ります」 

勇者が、憂愁に閉ざされた面持ちで、中庭から夕日を見つめる。 
分からない事だらけだ。 
自分の存在も、そもそもこの淫魔達の国は、人界なのかそれとも魔界なのか。 
四日後に、魔王とどんな面で戦えばいいのか。 
どこまでが、魔王の陰謀なのか。 

徐々に山の向こうに夕日が落ちていき、空が薄橙を経て紫へと変化する。 
美しい、と表現はできるが、それと同時に、虚しい。 

サキュバスA「お風邪を召されますよ」 

勇者「お前か」 

いつの間にか、隣に淫魔の一人が佇んでいた。 
中庭を望む小高いテラスに、並んで夕日を見つめる勇者と淫魔。 

サキュバスA「陛下、何かお悩みが?」 

勇者「……まぁな」 

サキュバスA「……あの日の朝から、まるで別人のようですわ」 

勇者「…ある意味、別人なのかもな」 

サキュバスA「さながら……『勇者』のように、活力と慈愛と、そして淀んでいない精力を感じますもの」 

勇者「お前に、何が分かるんだ」 

サキュバスA「……分かりますわ」 

勇者「………」 

サキュバスA「何より、『目』が違います。あの子も、今朝から様子が違っていて。 
      ……まるで、恋する乙女。いや、報われないと分かっていながら恋焦がれる乙女、でしょうか」 

勇者「淫魔らしい例えだな」 

サキュバスA「まあ。…心外ですわ」 

勇者「……ひとつ、訊きたい」 

サキュバスA「はい、陛下。なんなりと」 

勇者「『以前』の俺は、どうだったんだ?遠慮せずに教えてくれ」 

サキュバスA「……そうですわね」 


サキュバスA「一言では申せませんが……張り詰めた……いや、張り詰めたものが全て抜けたかのように、奔放な方でした」 

勇者「というと?」 

サキュバスA「肩の荷が下りたかのように、欲望のままに生きていらっしゃいました」 

勇者「………」 

サキュバスA「豪奢な料理と美酒に酔い痴れ、片時も空かせずに欲望を処理させて。 
         喜悦と快楽に顔を歪ませ、その実、誰にも気を許さずに生きていらっしゃいました」 

勇者「……ほう」 

サキュバスA「毎日何十人もの国民が情けをいただき、そのお顔は……まるで」 

勇者「……『魔王』?」 

サキュバスA「…有り体に表現するのなら。そうそう、堕女神さんに対しても」 

勇者「?」 

サキュバスA「一時期は、彼女をご寵愛なさっていましたね。……毎夜毎夜、彼女を激しくいたぶって」 

勇者「……何だって?」 

サキュバスA「嗜虐的というか、差し出がましいですが、彼女に対してだけは、 
         私達へとは違う情念をぶつけているように思えました」 

勇者「…何故だ?」 

サキュバスA「上手くは申せません。まるで……憎んでいるかのようにすらも」 

勇者「………」 

サキュバスA「いつか、殺されるのではないか。私達は、常に危惧しておりましたわ」 

勇者「そうか……」 

サキュバスA「兎も角、以前とは別人のようです」 

勇者「もう一つだけ、いいか?」 

サキュバスA「はい」 

勇者「…お前個人の答えでいい。以前と今、どっちの『俺』がいい?」 

サキュバスA「……難しい事を訊ねるのですね」 

勇者「構わずに答えてくれ」 

サキュバスA「私としては、『今』ですわ。……国民としては、『以前』です」 

勇者「国民、として?」 

サキュバスA「…慈愛に溢れ、添寝役にも惜しみない愛を下さる。それは、確かに理想ですわ」 

勇者「続けろ」 

サキュバスA「『王』として。あるいは、『勇者』としては。……今の陛下は、魅力的すぎるのです」 

勇者「つまり……?」 

サキュバスA「…『勇者』は、特別な一人を持つ事を許されないのです」 

その言葉に、心臓が跳ねる。 
自分ですらも理解していなかった、本質を突かれたかのように、彼女の言葉に聞き入る。 

サキュバスA「その愛は、恐らく……惜しみなく、苦難に打ちひしがれる全ての者に分け与えられるべきもの。 
         『勇者』は、全ての者に平等に『勇者』として接しなければいけません」 

勇者「……『勇者』」 

サキュバスA「言葉少なに、ただただ民を救い、その姿を以って人々に勇気を分け与える者。……故に、『勇者』。 
         願望の名前、重責の名前、そして……万人の希望の名前」 

勇者「………」 

サキュバスA「それ故に、特別な一人を持ってはいけない。誰かに愛を注いではいけない。 
         雨のように広く、望まれない場合もあり、望まれる場合もあり、仮に疎まれようとも演じなければならない」 

サキュバスA「『勇者』とは、生き方の名前なのです」 

勇者「……『王』もそうか?」 

サキュバスA「私のような者が口にするには、分を過ぎますが」 

勇者「いいから、続けてくれ」 

サキュバスA「『王』の愛は、特定の人物や層に向けるものであってはいけないのです。 
          全ての者に平等に愛を与える。あるいは――与えない。 
          それでも特定の人に愛を与えるとすれば、それは『妃』に」 

勇者「……なるほど」 

サキュバスA「……申し訳ありません。口が過ぎました。……如何様にも、処分を」 

勇者「いや、構わない。……もとより、俺が訊いた事だ」 

サキュバスA「……以前なら、『お前が口を開くのは、咥える時だけだ』と言って無理やりに」 

勇者「その話はやめろ!」 

サキュバスA「…ふふ、ようやく……戻ってくださいましたね」 

勇者「…あんな話を聞かされりゃな」 

サキュバスA「王としては、ともかく。……今の陛下は、好きです。生き生きとしていらっしゃいますよ」 

勇者「…お前の話、腹に染みたよ」 

サキュバスA「それは恐縮です。……もしお悩みの事がありましたら、私に。……全てを、受け止めますわ」 

勇者「ああ、ありがとう」 

サキュバスA「…それでは、私はこれにて」チュッ 

勇者「………!」 

サキュバスA「……失礼、します」 

すっかり日が落ちてしまった中庭から、城内へと歩みを進める。 
右頬にひり付くような熱を感じ、じんわりとした暖かさへと変わっていった。 
城内エントランスへ入ると、すぐに堕女神の姿を見つけた。 

堕女神「…?陛下、何かご用でしょうか?」 

勇者「ああ。訊きたいんだが、俺の『剣』はあるか?」 

堕女神「…はい、保管しております。……それが?」 

勇者「あとで、俺の部屋に持ってきてくれるか?」 

堕女神「はい、かしこまりました。何にお使いなさるのですか?」 

勇者「……懐かしくてね」 


夕餉を終え、自室に戻る。 
何度目かの素晴らしく美味な食事を終えて一息つけば、誰かが訪れた。 

堕女神「陛下。剣をお持ちしました」 

勇者「ああ、ご苦労。……どれ」 

何度も見慣れた、妖精の住まう湖上の岩から引き抜かれた剣。 
刀身は全てを切り裂き、魔王の喉首にすらも届きうる、希望の牙。 
幾つもの首を持つ巨大な竜。 
嘘のように肥大した体の、単眼の亜人。 
物質界の全てを素通りさせる、深淵の悪霊。 

その全てを切り伏せ、勇者を魔王の城へと送り届けた神の剣だ。 

勇者「……思った、通りな」 

堕女神「如何されました?」 

鞘から引き抜かれた刃からは、輝きが失せていた。 
勇者が『正義』をもって戦う限りは決して色褪せないと言われた、刀身の輝きが。 

今となっては――どこにでもある、数打ちの剣のようだ。 

勇者「今朝は、本当にすまなかった。気が動転していたんだ」 

堕女神「…お気になさらないでください」 

革製の鞘に剣を納め、机の上に置く。 
ランプの灯に照らされ、持ち主の物憂げな表情が浮かび上がる。 

勇者「……明日の段取りは?」 

堕女神「はい、朝食後、すぐに馬車を出します。その後、二日ほどかけ、南方の砦を目指します。 
    途中で宿を取って一晩過ごす事になりますが、よろしいでしょうか?」 

勇者「ああ、問題ない。……馬車の中で一眠り、ってのも悪くはないんだがね」 

堕女神「陛下……。それでは、面目が立ちません」 

勇者「言ってみただけだ。……慣れてはいるんだよ、野宿にも」 

堕女神「変な冗談はお止めください」 

勇者「真面目な奴だな」 

堕女神「真面目が売りですので」 

勇者「……遠い昔、夢を見た」 

堕女神「?」 

勇者「俺が年端もいかない子供の頃さ。夢に『女神』が出てきた」 

堕女神「…陛下、何の話を?」 

勇者「翌朝、目が覚めると……俺は、『勇者』になっていてさ。力が内側から溢れ出てきたよ」 

堕女神「…………」 

勇者「……変な話さ。村にいくらでも同年代の子供がいたのに、よりによって俺が『勇者』になってしまったんだ」 

堕女神「…なぜ、そんな話をするのです?」 

勇者「畑仕事をして、家畜の世話をして、薪を割って。……なのに目が覚めたら、勇者として『冒険の書』を書き連ねる事になった」 

堕女神「……後悔、していらっしゃるのですか?」 

勇者「いや」 

勇者「……ただ、『俺じゃなくてもいいんじゃないか』と何度も思ってたよ、昔は」 

堕女神「……その女神を、怨んでいらっしゃるのですか?」 

勇者「どうかな、分からない。……『勇者』だったから守れたものも、たくさんあるしね」 

堕女神「失ったものも?」 

勇者「そりゃ、あるよ。……平和な生活。命の危険のない日々。気を抜いて休む事ができる寝床」 

堕女神「他にも?」 

勇者「……柔らかい、女の人の手」 

堕女神「随分と、詩的な事を仰られるのですね。どうなさったのです?今日は」 

勇者「……さぁ。分からない。分かったら教えてくれよ」 

勇者「さて、引き止めて済まなかったな。他に仕事があるんだろう?」 

堕女神「この後にもいくつかの雑務と、明日の朝食の仕込みを」 

勇者「……いつもいつもすまないな」 

堕女神「陛下のご健康のためです」 

勇者「…ありがとう」 

堕女神「…………」 

勇者「顔が赤いな」 

堕女神「赤くありません」 

勇者「俺も寝るとするよ。……たまには、一人でのんびりとね」 

堕女神「はい、おやすみなさいませ、陛下」パタン 

勇者「おやすみ、良い夢を」 


勇者「……そうか。女神が、夢に出てきたんだったな」 

机の上の剣を眺めながら、一心地つく。 

思えば、そうだ。 
夢のお告げの翌日、勇者の力が目覚めた。 
その後も女神の導きに従って旅を続け、ついには魔王城へと辿り着く。 

もしかすると、自分は……その女神を、怨んでいた? 

勇者「そんなはずがない。………と、言い張りたいな」 

サキュバスAから聞いた話。 
今朝の、堕女神の反応。 
それらからして、堕女神へ対し、過剰につらく当たっていたのは間違いない。 
『自分』がそのように苛立ちをぶつけていたのなら、他に理由は思い当たらない。 

勇者「『俺』は、どこかで道を踏み外したらしいな」 

剣を手に取り、数cmほど抜いて、刀身へ語りかける。 
輝きを失った刃は、この国の王となった『自分』が、勇者をやめた事の証。 

勇者「………責めないよ、『俺』。……気持ちは、分かるからさ」 

刃を見つめたまま、深まっていく夜の城で、彼は睡魔に襲われるまで物思いに耽った。 


四日目 

目が覚めた。 
開ききらない瞼と覚醒しきらない頭のまま、『横』を探る。 

誰の肌にも触れない。 
手に伝わったのは、シーツの感触だけ。 
ああ、そうか。 
昨日は「一人」で寝たんだった。 

僅かな空虚感に苛まれながら、身を起こす。 

勇者「どうにも、具合が悪いなぁ」 

堕女神「何がですか?」 

勇者「うおっ!?」 

堕女神「御返事がありませんでしたので、入らせていただきました」 

勇者「……起こしてくれよ」 

堕女神「起こしましたよ」 

勇者「………」 

堕女神「朝食を?」 

勇者「ああ、貰う」 

堕女神「はい。それでは、お着替えが済みましたら食堂の方へ」 

勇者「分かった」 


朝の身支度を整える。 
四度目だが、今朝はそれに一つだけ、工程を加える。 
机の上に置かれていた、『剣』を腰に差す。 
やはりというか、この方が具合が良い。 
気楽に過ごせるのは素晴らしいが、やはり丸腰では不安である。 
全盛の力を失っているとはいえ、その握り心地と重さは変わらない。 

勇者「……うん、やっぱり落ち着くな」 

一人ごち、扉を開けて食堂へ向かう。 


移動中 

勇者「なんか、視線を感じるよなぁ」 

堕女神「お腰の物のせいでは?」 

勇者「ん、これ?」 

堕女神「はい。王座に就かれてから、すぐに宝物庫へと放り込まれましたね」 

勇者「……ひょっとして、怖がられてるのかな?」 

堕女神「……お似合いですよ、凛々しくていらっしゃいます」 

勇者「……ん、何か言ったか」 

堕女神「…い、いえ。何も」 


食後 

勇者「……さて、行くか」 

堕女神「馬車のご用意は済ませております。それでは参りましょう」 

勇者「おい、お前も来るのか?」 

堕女神「はい、陛下。僭越ではありますが、身辺警護も兼ねておりますので」 

勇者「それは心強い」 

堕女神「お望みでしたら、護衛として堕天使の兵士を10人ほど連れて行けますが。元「座天使」級の者もいます」 

勇者「物々しいのは嫌だな」 

堕女神「かしこまりました」 

勇者「……今さらだけど、もしかしてお前も相当強かったりするのか?」 

堕女神「自分で言うのも妙ですが、はい」 

勇者「意外というか、いや……当然、なのか?」 

堕女神「堕ちても女神ですから」 

勇者「…頼もしすぎるだろ」 

堕女神「それでは、こちらの馬車へ」 

勇者「意外とデカいんだな」 

堕女神「国王の馬車ですから当然です」 

勇者「……なるほどねぇ。お、中も広いな」 

堕女神「お席に着かれたなら、すぐに出ましょう。時間も押しております」 

勇者「はいよ。頼む」 


馬車に揺られながら、外を見る。 
未だ城下から出ていない。 
通りには活気があり、淫魔も、堕天使も、褐色の肌を持つ異国の夢魔も、皆、笑顔を浮かべている。 

魔王のいない世界があったとしたら。 
強大な敵のいない世界があったとしたら。 
どの街も、此処のように平和で、穏やかでいられるのだろうか。 

勇者は、そうではない事を知っていた。 
魔王が台頭する前には、勇者の育った国と、隣国との間で戦争を行っていた。 
たくさんの兵士が死に、たくさんの妻が路頭に迷い、たくさんの子が泣く事になった。 

魔王が世界を征服せんと活動し始めた時ですら、その二国はまるで手を取り合わなかった。 

旅の途中で訪れたが、仲間の戦士には侮蔑の言葉を吐かれ、僧侶には下賎な目を向けられ、 
勇者にすらも辛く当たられた。 

それでも戦争を止めたのは、魔王の影響による。 
真の危機が現れたから、二国は戦争をやめられた。 
真の危機が現れても、二国は歩み寄る事はなかった。 

勇者「………ハァ」 

堕女神「…いかがなさいました?」 

勇者「別に」 

堕女神「それなら良いのですが。…今朝方、報せが入りました」 

勇者「オークの?」 

堕女神「はい。どうも内部分裂があったようで。新しい族長が古い族長と一派を追い出したそうです」 

勇者「ふぅん」 

堕女神「結果、新しい住処を求めた旧族長達が、南方の砦付近で活発に行動しているとの事」 

勇者「掃いて捨てるほどある話だなぁ」 

堕女神「……隣国からも、同様の報告が上がっているそうです」 

勇者「……何?」 

堕女神「ですから、オーク達が隣国にも向かっているようです」 

勇者「確かか?」 

堕女神「はい。飢饉で弱っている隣国にとって、『泣きっ面に蜂』ですね」 

勇者「………」 

堕女神「…陛下、何をお考えに?」 

勇者「…………もし何かあったとして」 

堕女神「はい?」 

勇者「何かあったとして、お前の力で隣国に転移する事はできるか?」 

堕女神「……可能か否か、というのでしたら可能です」 

勇者「そうか……」 

堕女神「…恐らく、今の国力では、隣国にオークの侵攻を止める術はないでしょうね」 

勇者「そんなに多いのか?」 

堕女神「数もそうですが、隣国の淫魔達は寿命も短く魔力も少ない。繁殖のペースも遅いのです」 

勇者「……そういえば、どうやって増えるんだ?サキュバス(女性)だけの国だろ?」 

堕女神「人界の一種の生物と同じで、男性としての機能を持つ事も可能なのです。淫魔だけの特性ですが」 

勇者「つまり、あれか?サキュバス同士で?」 

堕女神「はい」 

勇者「……ゴホン。あー、話を戻そうか」 

勇者「ともかく、隣国は力に乏しいと」 

堕女神「そういう事です。一度オークに攻め入られれば首都まで一直線。後は……」 

勇者「なるほど」 

堕女神「陛下、どうかお聞きください。……くれぐれも、軽率な行動をなさらぬように」 

勇者「ああ。考えるさ」 

堕女神「オークに攻めさせ、しかる後に討伐、植民地に。小国とはいえ淫魔達の国を普通に相手にするより、遥かに勝算が」 

勇者「…リクツだな」 

堕女神「この国は、あなたにかかっているのです。国民の生活を豊かにする義務が、陛下にはあります」 

勇者「その割に、ずいぶん妙な顔をするんだな」 

堕女神「…………」 

勇者「捨てきれないのも、分かってるよ。どんな身になってもな」 

堕女神「………そう言っていただけると」 

勇者「…それにしても面白くない話題だな」 

堕女神「ええ、全くです」 

勇者「何か明るい話は無いのか?」 

堕女神「そう言われましても」 

勇者「まだ長いんだろ?……一つぐらいあるだろ」 

堕女神「……明るいというか、陛下が喜ぶ事が一つだけ」 

勇者「何だ?」 

堕女神「隣国の法の事です」 

勇者「……それで?」 

堕女神「隣国では、15歳から性交渉可能です」 

勇者「は?」 

堕女神「女王は15歳です。問題ありません」 

勇者「どっかから怒られそうだな、それ」 

堕女神「魔界の、それも一国の法ですから問題はありません」 

勇者「サラっと魔界っつったな」 

堕女神「今さら何をおっしゃいますか」 

勇者「ともかく、何で俺がそれで喜ぶんだ」 

堕女神「この前、隣女王の胸を鷲掴みにしたでしょう」 

勇者「見てたの?」 

堕女神「いえ。何です、本当にやったんですか?」 

勇者「カマかけに聞こえないからやめてくれ」 

堕女神「はい、控えます」 

勇者「……お前は、全く」 

堕女神「それはそうと、話している間に宿につきましたよ」 

勇者「意外と早かったな」 

堕女神「陛下、お降りください。お足元にお気をつけて」 


宿

勇者「……OK、わかった。とりあえず言いたい事がある」 

堕女神「はい、何でしょうか」 

勇者「…何で、俺とお前が同じ部屋なんだ?」 

堕女神「ご不満はもっともです。しかし、陛下をお守りするためなのでどうか」 

勇者「いやいや、ご不満とかじゃないけどさ」 

堕女神「……それでは、何が?」 

勇者「見たところ、ベッドが一つしかないんだけど」 

堕女神「はい」 

勇者「はいじゃなくて、なんで一つしかないんだよ」 

堕女神「淫魔の国では、普通は部屋にベッドは一つしかありません。しかし、大きさは十分だと思われますが」 

勇者「……ふとしたカルチャーショックってあるよな」 

堕女神「食事になさいますか?宿の者に準備は任せております」 

勇者「……そうか。しかし、随分と安っぽい場所だな」 

堕女神「ここも悪くしたものではありませんよ。これでも、10634年続く、伝統ある宿屋ですから」 

勇者「桁がすごいな、おい」 

堕女神「特に、サキュバス達には好評ですよ。料理も酒も美味ですし、何より女将の夜伽の腕前と言ったら」 

勇者「うーん、さすが淫魔の国」 

堕女神「……さて、日も落ちましたし、食事へ」 

勇者「わかった。……お前も一緒に?」 

堕女神「どうか、同じ食卓につく無礼をお許し下さい。毒見の為でもあります」 

勇者「いや、気にしないけど」 


夕食中 

勇者「………なかなかイケるな」 

堕女神「そうですね。特にこのスープなど。まるで湯のように透明、それでいて滋養が溶け込んだ味わい」 

勇者「堕女神の料理にはかなわないけどね」 

堕女神「………………」 

勇者「照れるなよ」 

堕女神「照れてません」 

勇者「実は結構可愛いよな」 

堕女神「変な事を言わないでください」 

勇者「いや、だって口の端がニヤけてるし」 

堕女神「……!」 

勇者「嘘だけど」 

堕女神「からかうのはどうか、お止め下さい」 

勇者「…そういえば、他の客はいないのか?」 

堕女神「はい。陛下がお泊まりになるので、貸切にさせていただきました」 

勇者「まぁ、当然の話かもね」 

堕女神「普段は大勢の客で賑わっているのですが」 

勇者「ちょっと悪い気もするな」 

堕女神「一日ぐらい、大目に見てくれるでしょう」 

勇者「………」 

堕女神「…何ですか?」 

勇者「いや。女神でも腹は減るんだなって」 

堕女神「意外ですか?」 

勇者「ちょっとだけ」 

堕女神「用足しにも行きますし、手淫だってしますよ」 

勇者「そこまでは訊いてない」 


食後 

勇者「…喰ってすぐ横になるのは、何故こんなに気分がいいんだろうな」 

堕女神「いつもそうなさっているじゃありませんか」 

勇者「そうなのか」 

堕女神「はい。食事を済ませたらすぐ『寝て』いました」 

勇者「アクセントの置き方で把握した」 

堕女神「食後の運動と称しておりましたね」 

勇者「ああ、なるほど。……まだ、眠らないのか?」 

堕女神「…少し、片付けておきたい仕事が」 

勇者「いつも助かるよ」 

堕女神「ですから、どうかお構いなく、お先にお休みください」 

勇者「……少し、外の風に当たってくる」 

堕女神「…それでは、私もご一緒に」 

勇者「いや、大丈夫だって」 

堕女神「万が一にでも何かあれば、私の責任です」 

勇者「それを言われると弱いな」 

堕女神「では、不肖ながらご一緒させていただきます」 

勇者「……一応、剣は持っていくかな」 

堕女神「ええ、それがよろしいかと」 

勇者「…外は意外と寒いな」 

堕女神「あまり長居されるとお体に障ります」 

勇者「……もうちょっとこっちに来い」 

堕女神「?」 

勇者「……」ギュッ 

堕女神「…陛下、何を?」 

勇者「やっぱりお前の手は、暖かいな」 

堕女神「そうでしょうか?」 

勇者「うん」 

堕女神「……一応、『愛を司る女神』でしたから」 

勇者「…声が硬いな」 

堕女神「……陛下が仰るのなら、そうなのでしょうね」 

勇者「なんでだ?」 

堕女神「分かりません。分かりませんけれど……」 

勇者「んー?」 

堕女神「……何故か、陛下といると……」 

勇者「何?」 

堕女神「な、何でもありません…」 

勇者「……そういえば、お前はまだだったな」グイッ 

堕女神「へ、陛下……何を?」 

引き寄せられ、こちらを向いた堕女神の唇へ、唇を寄せていく。 
驚いた表情が、少しずつ近づいていき――― 

堕女神「…ん、ちゅ……っは……な、何……んぅっ……!」 

冷静な彼女らしからぬ、戸惑いを孕んだ抗議の声が上がる。 
闇と血の色を映した瞳がにわかに潤み、心臓が高鳴っていくのを感じた。 

口付けに際し、感じたのは添寝役のサキュバス達と同じ。 
暖かさ、優しさ、そして、焦がれるような情念。 

唇を起点に意識と脈拍を全て共有しているかのような。 
唇を合わせる、それだけの所作から相手の全てを注ぎ込まれるような。 

未だ、唇を合わせたままだ。 
舌を差し入れて口内を陵辱する事もなく、互いの唾液を味わう事もなく、 
人界で恋焦がれる若き恋人たちのように、唇の柔らかさを確かめあうのみ。 

にも関わらず、軽く万年を生きる堕ちた女神の心は、容易くも支配されてしまった。 
口付けは、こんなにも優しく、心を埋め尽くすものだったのか。 

勇者「……っ。お前、なんで……?」 

堕女神「え……?」 

勇者「涙」 

唇を離し、銀の糸を引きながら彼が問う。 
闇の瞳からとめどなく流れる、熱い何か。 
頬を伝う感触で初めてそれに気付き、掌で拭う。 
その所作は平素の彼女からは考えられないほど、初々しく、そして洗練されていなかった。 

勇者「……部屋、戻ろうか」 

堕女神「…………はい」 

二人が、宿屋へと戻り、部屋へと足を急がせる。 
木製の床がぎぃ、と音を立てた。 

部屋に入ってすぐ、繋いだままだった手を放す。 
彼女が声を上げる間もなく、膝裏と背中に手を回し、横抱きの姿勢でベッドへと運ぶ。 
顔がぐんと近づき、頬に赤みを差させながら、従う他なかった。 

勇者「……いい、のか?」 

堕女神「……逆らう事は、できませんので」 

勇者「湿っぽいな」 

堕女神「……?」 

勇者「………何か、して欲しい事は?」 

堕女神「…、せ……」 

勇者「何だ?」 

堕女神「…せ、接吻を……。……駄目、でしょうか」 

ベッドに丁寧に、堕ちた女神の体を下ろす。 
ぎしり、と音を立て、彼女の身体が横たえられる。 

間髪いれず、勇者の身体がのしかかり、唇を奪う。 

堕女神「は、ふ……う、うぅん……!」 

唇を貪られながら、酔う。 
背筋を刺激し続ける快感に身をくねらせ、唇から伝わる、『温もり』に。 
鼻の芯がつん、と突っ張り、涙腺を刺激して落涙を催す。 

彼女の両手が勇者の腰に回され、さらに激しく唇の感触を求める。 
繰り返すが、未だ、ついばむかのような軽いキスの段階だ。 
激しく求め合う段階ではなく、体温を確かめ合うかのように。 

勇者「…っはぁ。お前……もしかして……キス魔、か」 

言葉を受け、彼女は身を大きく震わせる。 
漆黒のドレスと下着を、さらに黒く滲ませる生理現象。 
まるでサキュバスのように、自らを艶めかしく彩る性癖に気付かれまいと。 

勇者「伝わるんだよ。……さっきからな」 

高鳴る心拍を抑えながら、彼女は、圧し掛かる『王』を見据えた。 

堕女神「……い、え……そんな、事……んっ……!」 

再び、唇を奪いながら、彼女の身を包む、漆黒のドレスに手をかける。 
胸元を広げるように脱がせれば、重力に逆らうかのような乳房がまろび出た。 
それは――サキュバス達を凌駕する質量を以って、勇者の目を奪う。 

堕女神「っ……!どうか……見ないで、くださいませ……」 

勇者「……それは、無理だな」 

白い肌、立派なバストに、少し沈んだ乳頭。 
大きさは―――淫魔の国に迷い込んで、それでもなお頂点だ。 

勇者「さすが、女神だな?」 

堕女神「…そんな、事……!」 

抗議の声を上げる暇もなく、乳房に手の感触を感じる。 
乱暴ではない。 
まるで、恋人同士がそうするように、優しく揉みしだかれる。 
乳腺をゆっくりと揉み解すかのように、少しずつ、手の感触と体温が滲んでいく。 
同時に感じた唇の感触が、彼女の心を解かす。 

堕女神「…ひ、ゃ……!」 

唇を割り、舌が進入してくる。 
歯茎をなぞり、つるつるとした前歯を弄び、少しずつ、口内へと侵入してくる。 
彼女も気付いてない内に下着がしとどに潤い、いやらしい『雌』の匂いを放つ。 

勇者「……やっぱり、お前……」 

堕女神「……っ…知りませんッ……!こんな……はしたない……」 

勇者「…キス、好きなんだよな?」 

三度、堕女神の唇を奪う。 
いや、――奪われた、という方が正しい。 

彼女の方から引き寄せ、そして勇者の唇を求めたのだ。 
子供のように唇に吸い付き、舌先で割れ目をなぞり、その手は全く緩まない。 
涙すら浮かべて、まるで赤子が乳房を求めるかのごとく、唇を求める。 
閉じられた瞼から涙が流れ、飢えているかのように。 

勇者「っ……ちょ……待……!」 

堕女神「ふんっ……ん、くちゅ……!もっ……と……」 

今度は、彼女の舌先が、勇者の唇を割る。 
甘い蜜のような香りとともに侵入してきたそれは、勇者の口を激しく蹂躙した。 
前歯を嘗め尽くし、舌先を絡め合い、歯の裏側までも。 

その間も彼女の手は緩まず、ひたすら、ただひたすらに唇を、『体温』を求める。 

堕女神「へ、い……か……」 

勇者「ん?」 

堕女神「……もっと……抱き締めて……下さい、、ませ……」 

勇者「……分かったよ」 

勇者の両手が彼女の肩に回される。 
肌を密着させながら、外聞もなく甘えた声に従い、強く、強く抱き締める。 

堕女神「……っ!」 

舌先を激しく吸われながら、堕女神は悶える。 
長い――いや、『永い』時間の中で、これほどまで求められた事はない。 
永遠に唇を吸いあいたいと思いながら、両手に力が篭る。 
下腹部に押し付けられた硬いものにも意識を凝らし、それでいて、『王』との接吻に全霊を傾ける。 

堕女神「んっ……う、ん……んぅぅ……!」 

激しく求め合うキスの最中、堕女神は遂に達する。 
上等な下着を激しく濡らし、肉感的な身体を揺らし。 
唇を吸う、その単純な動作だけで。 

勇者「……凄いな、お前は」 

堕女神「ッ…は、うぅ……!」 

勇者「口付けだけで、こんなに乱れるなんてな。……淫らな奴だな。いやらしい」 

堕女神「っはあぁ……!ち、違い…ます……!」 

勇者「どう違うんだ?……接吻だけでこんなに感じて。……まだ、足りないか?」 

堕女神「……そん、な……」 

勇者「………引っ込みがつかない。お前も、手伝ってくれよ」 

そう言って、勇者は――今にもはち切れそうな、自らの欲望を、彼女の胸元に突きつけた。 

口元に運ばれた、昂ぶりきった肉茎。 
その一見するとグロテスクな逸物を見ると、心臓が高鳴った。 
頬には薄紅の色が差し、揺らぐ視界と激しく脈動する心臓が、判断力を奪っていく。 

勇者「……どうした?」 

堕女神「…それで、は……」 

おずおずと伸ばされた、白魚のような指先が怒張を優しく包む。 
彼女の手は、とても優しかった。 
まるで絵画に写し取られた、手を差しのべる聖人の肖像かのように。 
今行われている事を見ても、それでもただ、優しく美しい。 

少しの沈黙の後、ついに、怒張を…一切の遠慮会釈無く、根元まで呑み込む。 
口内には唾液が溜められていて、ずるり、とはしたない音とともにこぼれ、シーツを濡らした。 

勇者「うっ……!やっぱ……り…凄いな……」 

ゆらめくランプの灯に照らされ、影が映し出される。 
影絵のように重なり合う二人の姿が、状況と相まって、更に彼女を昂ぶらせていく。 

ややあって、怒張から口を離す。 
唾液にまみれた肉の茎がぬらぬらと光り、糸を引きながら女神の唇から離れた。 

勇者「ん……?」 

その感触に、一体何が当てはまるのか分からなかった。 
柔らかく、吸い付くような肉の壁に飲み込まれているようだ。 
暖かく、それでいて確かな震動が肉茎を通して伝わる。 

堕女神「……どう、でしょうか?」 

若干躊躇うような声色で訊ねられ、ようやく彼は、その感触を把握した。 

豊かで張りのある乳肉に挟まれ、しごかれているのだ。 
二つの果実に両手を添え、揉みしだくように肉棒を擦り上げるたびに彼女の口からも息が漏れ出す。 

勇者「お前……どこ…で、こんな……」 

堕女神「……今、思い……つき、ました」 

手馴れているようではない。 
探り探りやっているかのように、力の加減を調節しているかのように、不規則な動きをしている。 
不意に指先が乳首を捉えてしまい、身を強張らせながら声を抑えているのもそうだ。 

勇者「意外と……いやらしい奴だな、お前」 

堕女神「そんな事……ありません」 

その間にも双丘が絶えず形を変えながら、勇者の怒張を挟み込み、扱き上げる。 
順応してきたのか、不規則だった動きに秩序が見え始めた。 
女神の唾液、そしてじんわりと滲み出るカウパーが混じり合い、ぐちゅぐちゅと湿った音を立てる。 
柔肉を通してかすかに伝わるのは、早鐘のように打つ鼓動、そして息遣い。 
胎内に回帰したかのようにすら感じる、懐かしい感覚。 
女神の母胎の中で優しく育まれるかのような、快楽とはまた違う、それでいて確かな「安堵感」 

勇者「……くっ……」 

堕女神「…いい、ですよ。陛下。……いつでも、達して下さいませ」 

勇者「ぐぅ……!ま、だ……だ……」 

優しい言葉と、今も尚感じ続ける天上の快楽に、達してしまいそうになる。 
何とか堪えようと下腹部に力を込める、その時。 

勇者「ふ、っぅ……!?」 

亀頭を通して、甘く痺れるような信号が全身へとめぐらされる。 
乳房から三分の一ほど露出した先端に、彼女は口付けをしていた。 
胸を使って肉棒を圧迫するように、包み込むかのように絶えず刺激し、 
露出した部分に彼女は口を使って、小鳥が啄ばむかのように軽いキスを繰り返す。 

勇者「…やば、い……!」 

冷たい針を腰椎に突き刺されるような、薄ら寒さを覚えるほどの快楽を受け取り、刹那。 

堕女神「んぐっ……!?ふ……ん、ん……!」 

発作的に、勇者は体を前に倒した拍子に彼女の頭を抱え込んでしまう。 
自然と自らの肉棒を彼女の口に押し込め、喉深くまで突き入れてしまう形になった。 

不意に喉の奥まで咥えさせられ、さしもの彼女も息苦しさに喘ぐ。 
唇に肉棒の波打つのを感じた時、口内を生臭く粘性の高い液体が満たす。 
なんとか呼吸を確保しようと、飲み込み始める。 
一回、また一回と喉に絡みつく精液を飲み下すも、ペースが追いつかない。 

呼吸を遮断され、口内には今なお脈打つ怒張。 
意識が飛びかけるが、今できるのは、吐き出された精を飲み込む事だけ。 

直後、快楽に酔っていた勇者が、彼女を解放する。 
抜け落ちた拍子に残りが吐き出され、彼女の乳房を彩る。 

勇者「…す、すまない!大丈夫か?」 

声をかけるも、彼女の耳には入らない。 
口元を零れ落ちた精液が伝い、酸素を求め、激しく咳き込む。 
慌てて息を吸ったために、気管にも精液が入ったようだ。 

喉から息を漏らしながら、気管に入ったそれを追い出し、再び酸素を取り込もうとする姿は、 
堕したとはいえ、女神の姿ではない。 
弱々しく、儚く、簡単に壊れてしまいそうな「女」だった。 

堕女神「へ……か……」 

荒い呼吸とともに紡がれた言葉。 
その顔は恨みがましくもなく、まるで……許しを請うかのような。 

堕女神「……申し、訳……ありませ……全て……受けき……」 

彼女は、謝っていた。 
吐き出された精を全て受け止められなかった事。 
生娘のように咽返り、逆に吐き出してしまった事。 
そして冷静になった頭が、先刻の、分を超えた抱擁を求めてしまった事を悔いる。 

勇者「……いいんだ」 

堕女神「……っ」 

右頬に勇者の手が差しのべられる。 
いかなる罰を受けるのかと身を震わせてしまうのは、反射だろうか。 

勇者「何故、怯える?」 

堕女神「………」 

勇者「……『俺』のせいか」 

彼女に刻まれた、痛みの記憶。 
幾度と無く痛めつけられ、殺されかけた忌まわしい記憶。 
影を落としているのは、それか。 

彼女は、勇者の目を見た。 
憎しみをぶつけてくるような、どす黒く燃える眼差しではない。 
冷酷で、温度を感じない眼差しでもない。 
その目は、勇者が旅の途中、助けを求める人に向けてきた目。 
一度拒絶されても、その奥に秘めた悲鳴を見透かすような。 
魔物の惨禍を訴えてくる村人へ向けたような、優しく、それでいて力強い眼光。 

堕女神「……陛下」 

勇者「ん?」 

堕女神「………私を……許して下さるのですか?」 

勇者「許すも何も、酷い事をしてしまったのは俺だろう?……許してくれ」 

堕女神「初めて、ですね」 

勇者「何だ」 

堕女神「……初めて、私をそのような目で、まっすぐに見てくださいました」 

勇者「……そうか」 


堕女神のしなやかな指先が、勇者の肩に回される。 
勇者もまた、彼女を抱き起こすように腕を回す。 

何度目かの、軽い口付け。 
口内からは精液の臭いなど既に感じず、逆に旅先で訪れた花畑の情景が脳裏に過ぎる。 

十秒、二十秒。 
いや何分もその姿のまま、唇を奪い、奪われ、そしてきつく抱き締めあう。 

ランプの油が切れ、室内が闇に包まれても、水音高く、求め合う。 

勇者「……いい、か?」 

堕女神「…………はい…どうか……きて、くださいませ」 

衣擦れの音が、まず上に被さる勇者から。 
次いで、下で身を任せる、堕女神から。 

勇者が暗闇の中で、膨れ上がったモノを手探りし。 
きちり、と音を立て――ゆっくりと、女神の蜜壷へと呑み込まれていった。 
悩ましく漏れる吐息が、暗闇に響く。 
その後は、勇者に任せるように肌と肌が密着する音が、規則的に続く。 


五日目 

安っぽいベッドの上で目覚める。 
城の素晴らしい寝具になれた身には、早くも宿屋のそれは不足に感じた。 

光が注ぐ室内に目を凝らすと、隣には、シーツに包まって眠る裸身の堕女神。 
いつも隙なくこなす彼女の寝顔など、そうそう見られるものでもない。 

勇者「……おい、起きろよ」 

堕女神「……ん」 

勇者「起きろって。……昨夜はあんなに激しかったのにな」 

堕女神「……!!」 

囁かれ、耳元までを赤く染めながら枕に顔を埋める。 
昨日までの佇まいがまるで嘘かのように、分かりやすく「羞恥」に染まっていた。 

勇者「……すごかったよなぁ。涎垂らしながら喘いでたもんな」 

堕女神「……いいから……服を着て下さい!」 

勇者「はいはい。……なぁ、『目覚めのキス』は要らない?」 

堕女神「っ……。は、早く服を……」 

勇者「…今、お前迷ったな?ん?」 


堕女神「……さて、それでは朝食を召し上がったら、すぐに発ちましょう」 

勇者「すげー切り替えの早さ」 

堕女神「当然です」 

勇者「昨日なんて、両手両足で絡み付きながら『中に……子胤をくださいませ』って懇願するように」 

堕女神「…………」 

勇者「……目覚めのキス、する?」 

堕女神「……」コクッ 

勇者「(冗談のつもりだったんだが)」 

堕女神「……む、ん……ぷちゅ……くっ……ふぅ……!///」 



朝食中 

堕女神「それはそうと、陛下」 

勇者「何だ、キス魔」 

堕女神「………」 

勇者「悪かった。話せ」 

堕女神「……はい。オークに動きがあるとすれば、恐らく今日明日中に」 

勇者「早いなぁ」 

堕女神「それほど、オークの群生地は近くにあったという事です。彼らとて、流石に我が国は攻めないと思いますが」 

勇者「女神に堕天使、サキュバスから女怪まで取り揃えてるしなぁ」 

堕女神「旧族長の一派は以前、『アラクネ』の集落を襲って返り討ちにあっていますから、考えにくいですね」 

勇者「女日照りが続くと、本当に見境なくなるのな」 

勇者「……しかし、こういうとアレだけど隣国ってそんな弱いのか?」 

堕女神「はい」 

勇者「ストレートだな」 

堕女神「事実は事実です。寿命は短く、魔力も少ない。……そして何より、『幼形成熟』の特性があるのです」 

勇者「……あー、はい?」 

堕女神「つまりです。隣国の女王をご覧になりましたね?」 

勇者「ああ。子供みたいだったな」 

堕女神「あれ以上成長しません」 

勇者「俺をからかってんのか?」 

堕女神「いえ、陛下。隣国の淫魔は、幼い姿のまま歳を取るのです。人間のような老いもなく」 

勇者「……はー」 

堕女神「成長が止まる年齢に個人差はありますが」 

勇者「……それでもやっぱり、低級なオークすら倒せないほど弱いってのは考えづらいぞ」 

堕女神「私も驚きました」 

勇者「……………」 

堕女神「どうされました?」 

勇者「非常にいけない絵面が思い浮かんだ」 

堕女神「………ああ、なるほど」 

勇者「納得するなよ」 

堕女神「大丈夫です」 

勇者「何が」 

堕女神「大丈夫です、ぬかりありません」 

勇者「だから、何が?」 

堕女神「いえ、何でも。お気になさらず」 

勇者「追求はやめとこうか」 

堕女神「恐れ入ります」 

勇者「さて、そろそろ行こうか」 

堕女神「はい、陛下」 

勇者「ところで、朝から思ってたけど」 

堕女神「何でしょうか」 

勇者「ことあるごとに唇を気にしてるな」 

堕女神「……気のせいかと」 

勇者「いや、だって以前はそんなクセ…」 

堕女神「陛下、時間が押しております。早く参りましょう」 



到着 

勇者「ここが南の砦か。大きいじゃないか」 

堕女神「はい」 

勇者「……もしかしてここにもローパーがいたりしないだろうな」 

堕女神「もちろんいますよ。大型のものが」 

勇者「やっぱりかよ」 

堕女神「一度に六人までを相手にできるという噂です」 

勇者「だから訊いてねぇよ」 

堕女神「ここの司令官には話はつけております。城壁からご覧になられますか?」 

勇者「ああ、そうしようか」 

堕女神「……それでは、こちらへ」 

勇者「しかし、ここの奴らはやる気がすごいな」 

堕女神「はい。選りすぐりの精鋭を派遣しております。オークの他にも、コボルトや人狼の脅威も捨て置けませんので」 

勇者「重要拠点、って訳か」 

堕女神「それ故、彼女らは精力に満ちております」 

勇者「いや、むしろ持て余してるんじゃねーかな」 

堕女神「そうとも言えるでしょうか」 


城壁の上 

勇者「見晴らしはなかなかいいな」 

堕女神「はい。はるか前方の森がオークの群生地。その向こうにはコボルトが」 

勇者「込み入ってるな」 

堕女神「妙ですね」 

勇者「どうした?」 

堕女神「……オーク達の気配を感じません」 

勇者「詳しく話せ」 

堕女神「荒々しく尖った気配がありません。特有の獣臭も。……もしかして」 

勇者「もしかして?」 

堕女神「……既に、あそこを出発している?」 

勇者「詳しく調べられるか?」 

堕女神「……少々お待ちを」 

直後、堕女神を中心に風が吹き抜けた。 
その風がオーク達の森へ届き、木々を波立たせる。 

堕女神「分かりました。……これは?オーク達が、皆……一斉に、隣国を目指しているようです」 

勇者「……何?内乱ではなかったのか?」 

堕女神「内乱は事実の筈ですが……。何でしょう。一塊に隣国へ」 

勇者「ここからだと、追いつくのに何時間かかる?」 

堕女神「少なく見て、二日。恐らく、既にオーク達の先遣隊は到着している頃合です」 

勇者「…俺を、送れるか?」 

堕女神「はい。……ですが、ここは……静観……を……」 

薄情な、それでいて現実に則した台詞を紡ごうとする。 
しかし、喉が続きを紡いでくれない。 
締め付けられるような感覚が、心臓から喉から、彼女を襲う。 

勇者「……捨てきれない、だろ?」 

堕女神「…い、え」 

勇者「捨てきれなくて当然なんだよ。……お前は『愛の女神』で、俺は『勇者』だったんだ」 

堕女神「…本当に、行くおつもりですか?」 

勇者「どうやら、俺はまだ『勇者』だったらしい。……俺を、止めるか?」 

堕女神「陛下が、そうお決めになったのなら」 

勇者「お前も来るか?」 

堕女神「…はい。私は陛下の補佐であり、護衛です」 

勇者「素直じゃないな」 

堕女神「……陛下。その剣で……本当に、大丈夫なのですか?」 

勇者「ああ」 

左腰に下がっていた剣を、数cmほど抜き出し、刀身に目を落とす。 
その輝きは取り戻され……魔王城を目指していた頃と、遜色ない。 

勇者「――大丈夫だ、問題ない」 

堕女神「そんな装備で大丈夫ですか?」 

勇者「大丈夫だ、問題ない」 


二時間ほど前に遡る。 

飢饉で弱りきった隣国は、オーク達の襲撃を受けていた。 
白い石造りの家が立ち並ぶ街を、幼い姿の淫魔が逃げ惑う。 
外見にして、下は10歳、上でもせいぜい18歳。 
追いすがり、破壊に精を出すのは醜い豚面の怪物達。 
知性の欠片もなく、意味ある言葉も解さず、ただただ欲望のままに。 

幼い淫魔の一人が、オーク達に捕まる。 
細い足首を掴まれ、助けを求めながら、民家の一つに引きずり込まれる。 

獣のような蛮声を放つオークが彼女にのしかかり、身を包む簡素な衣を剥ぎ取る。 

幼魔A「っ…嫌、嫌ぁ!助けて、誰かぁっ!!」 

身に降りかかる事を予期し、助けを求める。 
しかし、通りには人はいない。 
皆、逃げてしまって……あるいは、逃げ遅れた者達も、同様の処遇となっているのだろう。 

何とか這って逃げようとする彼女に、豚のような鳴き声を上げながら、一匹のオークがのしかかる。 
尻肉の間に忌まわしく、ぬめる「モノ」を感じる。 

もはや、彼女は―――逃れる術など、なかった。 

幼魔A「やだっ……やだやだやだぁ!!やめて、やめてよぉ!」 

高く、幼い声が虚しく響き渡る。 
それでも助けを求め続ける彼女の頭、すぐ横に棍棒が振り下ろされる。 
衝撃と土埃に身を竦ませ、抉れた床を凝視する。 

逆らえば、殺される。 
静かにしゃくり上げながら、オークの機嫌を損ねないように、大人しく振舞う。 

人間の見た目にして、12歳ほどだろうか。 
彼女が大人しくなったのを見て、オークは口元を歪ませた。 

――前戯も何もなく、膨れ上がった欲望を彼女に叩きつけた。 

幼魔A「……痛っ……痛いぃ……!」 

幼い姿とはいえ、淫魔。 
その彼女にしても、濡れてもいない秘所へ、突き込まれるのは苦痛でしかない。 
嫌悪感が、彼女の心を蝕む。 

自分は、低級なオークに犯されている。 
その事実が彼女のプライドを挫き、屈辱感を植えつける。 

涙がとめどなく溢れる。 
「早く終わって」と願うしか、彼女に道は残されていない。 

腰を叩きつけられ、その度に全身がバラバラになりそうな苦痛が襲う。 
彼女の屈辱感や痛みを知る由もなく、オークは腰を振り続ける。 

類推するに、このオークは酔っているのだ。 
魔界の中でも高位の存在である淫魔を、征服している。 
自らの欲望の吐け口にして、涙を流して耐える事しかできない。 
征服感、という名称を知るはずもないが、ともかく――彼は、酔っている。 

幼魔A「んぁっ……うぅ、……ひゃぁっ……」 

驚くべき事に、彼女は感じていた。 
忌まわしく下賎な怪物に陵辱されながら、甘い声がときおり混じるのだ。 
異常な性的興奮が、彼女の体を満たす。 
嫌悪感や屈辱が、消えた訳では無い。 
消えてはいないが……それが、スパイスとなってしまっている。 

いつの間にか、涙は絶えていた。 
かわりに、甘やかな吐息と涎を垂らし、自ら腰を振ってさえいる。 

幼魔A「い…ぃ……オークの……ちんちん……気持ちいぃ…よぉっ……!」 

豚面の獣人に、その言葉が分かるはずもない。 
しかし、言いたい事は分かる。 

彼女は――自分に、屈した。 

一際高く呻き声を上げると同時に、リズムを上げる。 

深く突き入れるたびに甘い声が響き、抜くごとに細く息を吸う音が聞こえる。 
突くごとにオークを迎え入れるような淫声が木霊し、その度、笑うようにオークは声を上げる。 

幼魔A「……こわれ、ちゃう……!ひぃんっ!」 

彼女をそうさせたのは、淫魔の本能によるものか。 
それとも、命の危険に際しての、脳内麻薬のいたずらか。 

オークの身体が震え、精を吐き出さんと硬直する。 
瞬間、彼女の小さな尻を掴んでいた手が固まり、親指を彼女の尻の窄まりへとめり込ませた。 

幼魔A「ッ……ん、んぅぅぅ……!!」 

小さな身体が震え、オークのペニスを締め付ける。 
締め付けに堪えるように、太い親指が彼女の尻穴へ深く食い込んでいく。 

それすらも快楽として処理し、オークの精液を搾り取るべく、括約筋が稼動する。 

青臭く、指で摘まめるほどに濃い精液が、幼い淫魔の膣内を満たす。 
全てを吸い取られるかのような感覚に戸惑いながら、それでも腰を打ちつける。 

幼魔A「あぁぁ……!あーーーーー!」 

身悶えしながら、忌まわしく活きのいい精液を取り込んでいく。 
もはや彼女の目は、どこも見ていない。 
濁り、快楽に身を震わせる……ただの、『淫魔』。 

数秒後、狩猟用の罠のごとくオークの陰茎を締め付けていた秘所が、緩む。 
ずるりと抜け落ちた陰茎が、別れを惜しむかのようにつぅっと糸を引く。 

幼魔A「…はぁ……!はぁ……!……ダメ……もっとぉ……」 

頬を床土で汚しながら、彼女は両手で陰部を広げて見せた。 
開かれた無毛の陰部からオークの精液を滴らせ、見せ付けるように。 

視覚からの衝撃に今しがた精を放ったばかりのオークの陰茎が盛り上がり、力を取り戻す。 
同時に――入り口から、何体かのオークが入ってくる。 
手に手に武器を持ち、血糊がこびりついた斧さえも見受けられた。 

ああ――私は、彼らを満足させなければ、殺されるのだ。 
その恐ろしい未来すらも、もはや、彼女を発情させるための材料でしかない。 
小さな尻を振り乱しながら、オーク達を誘う。 
プギィ、と声を発し、オーク達は彼女に圧し掛かる。 

今しがた犯され、充血した秘所に再び押し付ける者。 
だらしなく開き、唾液を引く口腔に押し込む者。 
中には、彼女の小さく未発達な胸に、吸い付く者さえいる。 

幼魔A「……ひぃ…や、ぁぁぁぁぁぁ!!」 

秘所に再び突き込まれ、尻穴を指で弄ばれて。 
それでも心臓の高鳴りが抑え切れず、悲鳴にも似た声が漏れた。 
直後にペニスが口を埋め尽くし、舌が動き、オークに対し『奉仕』を始めた。 

繰り返す。 
力は無いとはいえ、彼女は魔界において最高位に近い存在、『淫魔』なのだ。 
にも関わらず―――彼女は、オークの欲望を受け止める事に、至上の快楽を感じてしまっている。 

隣女王「オークが、我が国に侵入したのですか!?」 

側近「はい。すでに、南方の領土は……」 

女王の城、玉座の間。 
城主である彼女が、信じられないといった面持ちで聞き返す。 
側近は、見た目では女王と同い年ほどだろうか。 

隣女王「……撃退せねば、我が領内が……!」 

側近「お言葉ですが……防衛隊は全て壊滅……今頃は……」 

隣女王「…忌まわしいオークめ……!」 


既に、南方の防衛軍は壊滅。 
形ばかりの防衛軍は、余すところ無く、オークの便器へと変わり果ててしまった。 

側近「……どうか、お逃げ下さい。……女王陛下まで穢されては……」 

隣女王「……それしか、ないのですか」 

直後。 
空間が歪み、隣女王の眼前に、隣国の王と、側近たる堕ちた女神の姿が現れる。 

隣女王「え…!?」 

勇者「……隣国の危機と知り、馳せ参じた」 

堕女神「同じく」 

信じがたい。 
まさか。 

勇者「状況をお教え下さい、女王陛下」 

隣女王「……領内に、オークが侵入。……城下が……」 

勇者「心得ました」 

堕女神「あとは、お任せください」 

虚空から現れた二人が、跪きながら、静かに。 

側近「ムチャです!少なくとも一万匹のオークがいますよ!?……いくら、なんでも……」 



勇者「……『俺にまかせろ』」 



城下に出ると、そこは既に地獄だった。
 
幼い姿の淫魔達がオークに犯され、抵抗した者は強引に穢され、更に抵抗するものは、見るも無残な姿に。 

勇者「………ああ、思い出したよ」 

堕女神「……何ですか」 

勇者「…これが、『怒り』だったな」 

堕女神「ええ。私も、陛下に影響されたようです」 

飛び掛ってきた三体のオークに、剣先が閃く。 
頭を割られ、胴を深く薙がれ、そして刃毀れしきった斧ごと胴体を両断され、 
瞬きほどの間に三体の獣人が事切れる。 

堕女神に目標を定めたオーク達は、突如として胸郭に大穴を開けて倒れた。 
その見えない「攻撃」の動作は、ただ彼女が腕を払っただけだ。 

勇者「……援軍は?」 

堕女神「遠距離念話で、既に。……ですが陛下。今この瞬間は、私達が『援軍』なのでは?」 

勇者「違いないな」 

幼い淫魔達を犯していたオークが、身の程を知らずに二人に飛び掛る。 
切り裂かれ、あるいは一瞬で灰となって退場する。 
物陰に隠れ、様子を窺っていたオークに堕女神が指先を向ける。 

一陣の風が吹きぬけ、その直後、真っ二つ……いや、賽のように切り裂かれ、無数の肉片へと化した。 

勇者「俺がオークどもをやる。……お前は、淫魔達を助けろ」 

堕女神「はい。……了解いたしました」 

振り下ろされた剣から、雷が次々と落ち、オーク達を葬っていく。 
勇者にのみ扱える雷光の剣技が、醜い獣人達を消し炭へと変える。 

輝きを取り戻した神剣がオークを切り裂く。 
襲ってくる者達に全て過たずカウンターの斬撃を浴びせながら、勇者は城下を往く。 

圧倒的すぎる。 
オーク達は畏怖さえ覚え、情けなく声を上げて退いていく。 
逃げるオーク達を深追いはしない。 
『魔王』であれば決して逃がしはしないが、『勇者』は違う。 
力量が敵わずに逃げようとする者を追おうとはしない。 

『勇者』は、逃げない者としか戦わない。 

勇者「……意外と骨のある連中もいるな」 

ぴたりと足を止め、剣を構え直す。 

周囲に少なく見て、今いるだけで20体のオーク。 
更に付近の民家からぞろぞろと現れ、勇者を取り囲む。 

もし彼らに言語を発する事ができるのなら、さしずめ、こんな所だろう。 

「俺たちの愉しみを邪魔するな」 


勇者がオークを蹴散らす中、堕女神は犯されている幼い淫魔達を救出にあたる。 

堕女神「………おや?」 

違和感。 
白濁を浴び、脱力しきった淫魔を抱き起こした時だった。 

城下を南方へ向けて進むのは、勇者。 
彼の後に付き従い、露払いをしながら淫魔達を助けているのは自分。 

しかし城下町のあちらこちらにぽつぽつと、魔力の高鳴りを感じる。 
無論、オークに魔術など扱えるはずもない。 

誰かが、戦っている? 

援軍が到着するにはまだ時間がある。 
仮に堕天使の翼でも、こんなに早く辿り着けるわけがない。 
索敵し、転移の魔術を使って、それでもオーク達の蛮行を止めるには間に合わなかった。 

堕女神「……一体、何が?」 



異変に最初に気付いたのは、民家で幼い淫魔を犯していたオークの一団だ。 
既に下腹部が膨れるほどの量を注ぎ込まれ、もう一つの穴はだらしなく開いている。 

幼魔B「……やぁっ……もっと、もっとぉ……欲しい…の……」 

後ろから両足に手をかけて抱え込まれ、結合部分を見せ付けるようにオークに身を任せていた。 
何体かのオークが犯し疲れて休んですらいるのに、彼女は自ら腰を振っているように見えた。 

刺激に耐え切れなくなったオークが硬直し、ペニスを脈打たせる。 
腕に力を入れてしまい、彼女の太腿に指が沈み込み、彼女は痛みに顔を歪めた。 
すでに数える事も忘れていた、子宮の奥に熱く注ぎ込まれる感覚。 

幼魔B「熱っ……!あ、う……あぁ…」 

凄惨な光景に蛮声を上げていたオーク達だが、少しずつその声は止んでいった。 
おかしい。 

今なお彼女を犯しているオークの射精が、止まらない。 
口の端から泡を吹き、全身を尋常ではない勢いでがくがくと震わせ、鳴き声がか細くなっていくのだ。 

幼魔B「……はぁ……きもちい……気持ちいいの……」 

噴き上げるような、長すぎる射精が終わった瞬間、彼女を犯していたオークが崩れ落ちる。 

死んではいない。 
ただ、外観がまるで――年老いて、死期を迎えたかのように変わっている。 
脂ぎった身体はひび割れ、無数の皺が刻まれ、両目が深く落ち窪み。 

彼らは、侮っていた。 
確かにこの国の淫魔はか弱く、体も小さい。 
だが、それでも……『淫魔』なのだ。 

彼らは、軽視していた。 
力の無い淫魔だから、弄び、自由にできるのだと。 
本質は、男をかどわかし、その精を吸い取って『力』へと変える恐ろしい魔の住人だというのに。 

幼魔B「…え……?何……こ…れ……」 

彼女も、高鳴るような、全身の血管に行き渡り、今にも溢れてしまいそうな力の流れに気付く。 
ぽっこりと膨らんでいた下腹部が縮んでいく。 
注がれた精液が溶け込み、さながら栄養として吸収されたかのようだ。 

オーク達は本能からか、じりじりと下がり始める。 
植え付けられていた高位の魔族への恐怖が、今目覚めた。 

仮にミノタウロスやトロールなら、確かに強力ではあるが数十人でかかれば倒せる。 
だが、淫魔に代表される『魔族』は、格が違う。 
強大な魔力を操り、微笑みさえ浮かべながら指一本触れずに自分達を殺し尽くせる存在。 

その存在を、目覚めさせてしまった。 


戸口まで後退していたオークが、外から何者かに蹴り込まれ、再び室内へと戻される。 

驚愕の表情でそちらを見れば、淫魔でもオークでもない、輝く剣を手にした者。 
魔族ではない。体格からして、恐らく『人間』だ。 
だが、何故だろう。 
何故、こんなにも勝てる気がしないのか。 

勇者「逃げるなら、俺は見逃そう」 

勇者は、意外なほどにあっさりと剣を下ろした。 

勇者「……だが、お前はどうする?黙って帰すのか?」 

幼魔B「え?」 

勇者「お前はどうしたいんだ?突如襲ってきて女達を犯し、旗色悪しと見るや逃げるこいつらに」 

幼魔B「わたしは……」 

勇者「強制はしない。選べ。……こいつらを許すのか」 


幼魔B「……わたしは……!」 

彼女の瞳が紫の光を発する。 
直後、一体のオークが紫色の炎に包まれ、断末魔を上げた。 

次いで、平手打ちを繰り出すかのように右手を振るう。 
円弧を描く中、彼女の小さな腕を、黒い無数の翼が取り巻いた。 
腕から無数に出現する魔力の蝙蝠が、その場のオーク全てに喰らいつく。 
肉を削ぎ取られ、血液の一滴までも吸い尽くされ、悲痛な絶叫が響き渡った。 

勇者「……力の使い方がわかるのか?」 

幼魔B「…はい。何でなのか……わかりませんけど」 

勇者「そうか。なら、行こう。……『反撃』にな」 

幼魔B「は、はい。あの、貴方はいったい……?」 

勇者「……通りすがりの『勇者』だ」 



堕女神「間違いない。これは……淫魔の……」 

無残に文字通り散らばっているオーク達の死骸の中心で、全身に返り血を浴びた堕女神が呟く。 
双子の淫魔が抱き合うように怯えている民家の一室。 
どうやら、彼女らは未だ、穢されてはいなかったらしい。 
寸での所で、助けが間に合ったようだ。 

堕女神「なるほど。きっかけが必要でしたか」 

街のあちこちで強まっていく魔力は、彼女の国の淫魔に僅かに及ばない程度。 
しかし、低級な魔物を撃退するには十分すぎる。 

堕女神「……それにしても、不憫な種族というか」 

部屋の隅で怯える、双子の淫魔達に近づき、膝をつき、目線を合わせて優しく頭を撫でる。 
言葉に交じる哀れみとは裏腹に、その表情は、あまりに優しく。 

堕女神「隠れていなさい。すぐに、オーク達は追い出します。……何か?」 

双子『あ、あの……』 

堕女神「?」 

双子『…た、助けてくれて…ありがとう……』 

堕女神「……礼なら、我が王に」 

素っ気無く言うと、彼女は足早に立ち去っていく。 
背中に注がれる、幼い淫魔の、憧憬を孕んだ視線に気付く事もなく。 

彼女の瞳が潤み、緋と闇の瞳から頬を伝って何かが毀れた。 
緩慢な足取りで家の外に出て、外壁に背を預け、天を仰ぐ。 

堕女神「……何故、涙が」 

遠くに聞こえる雷撃の音、オークの悲鳴、魔力が炸裂する空気の震動。 
それらが意識を引き戻し、再び両足に力を込める。 
ここは未だ戦場で、王からの命令はまだ続いている。 

思い出し、再びオークの気配を探して歩き出す。 
高密度の魔力が結界を形作り、歩みに合わせて付き従う。 

堕女神「……捨てきれない、か」 



その後、犯し尽くされ、限界点を超えて覚醒した幼い淫魔達の活躍により、オークを撃退する事に成功した。 
結果だけを見れば、オークの自滅、の身も蓋もない言葉に終止する。 
だが、犠牲者も出ている。 
抵抗してしまって殺された者、苛め殺された者、「家族」を守ろうとして死んだ者。 

勇者「……間に合ったのか?俺たちは」 

堕女神「陛下、気負う事はありません。……全てを救う事など、できないのですから」 

勇者「お前、何か変わったな」 

堕女神「そうでしょうか?」 

勇者「ああ。何か、すっきりして見えるよ」 

堕女神「……陛下がそう仰るのなら、そうなのでしょうね」 


女王の王宮に、目から精気を失った淫魔達が運び込まれる。 
順番に沐浴で身を清められ、粗末な布で体を覆い、未だ泣き濡れている者も。 

『覚醒』を遂げたのは、人数にして、多めに見ても30人ほどだろうか。 
その境地に達した者は、見れば分かる。 
有り体に言えば、面構えが違うのだ。 
自らの身にもオークによる陵辱が降りかかったはずなのに、凛とした佇まい。 
彼女らの姿は、勇者がいる国の淫魔達とかぶる。 

幾人もの男を迎え入れながらも、決して揺らがない魔族の矜持。 
それを感じさせる身のこなしを、身に着けている。 

勇者「………どういう種族なんだ」 

堕女神「恐らく……男の精を吸い取る事で、魔族としての力が覚醒するのでしょうね」 

勇者「淫魔は、最初から『淫魔』なんだと思ってた」 

堕女神「推測を加えるなら……条件は、『処女を奪われる事』も含まれるかもしれません」 

勇者「……とことん不憫というか何というか」 

隣女王「…よろしいでしょうか」 

勇者「ん?」 

隣女王「……この度のお力添え、感謝の言葉もありません」 

勇者「気にしなくていい」 

隣女王「いえ、そうは参りません。…何か、お礼できる事は?」 

勇者「そうだな。それじゃ……」 

隣女王「はい」 

勇者「彼女を風呂へ。……それと、飯を食わせてくれないか」 

隣女王「え?……それだけ、ですか?」 


勇者「……それだけ、とは何だ。領土を半分よこせ、と言って欲しかったのか?」 

隣女王「…い、いえそんな」 

勇者「ともかく、まず彼女を風呂へ」 

隣女王「は、はい!」 

堕女神が、女王の側近に導かれてその場を去り、浴場へ向かう。 
その間も、二人の国主が話を続ける。 

勇者「それにしても、随分と運が悪いな。飢饉に襲われ、オークに侵略され」 

隣女王「はい。凶事は続くものではありますけれど」 

勇者「それにしたって、ちょっと……」 

言葉を続けようとすれば、脳髄を何かが駆け抜けた。 
それは、一つの単語だ。 

すなわち、『魔王』と。 


勇者「考えられなくは無い、か」 

隣女王「え?」 

勇者「いや、別に」 

隣女王「……何故、ですか?」 

勇者「何が?」 

隣女王「何故、我が国を助けてくれるのですか。食料支援も、今回の事も」 

勇者「……変な事を訊くね」 

隣女王「見返りも用意できないのですよ?こんな……弱々しく痩せた国の甘えた頼みを、何故聞いてくれるのですか?」 

勇者「………」 

隣女王「どうして……ですか」 

その問いに、彼は表情を変えずに答える。 
当然かのように、ただ一言だけ。 


勇者「……『いのちをだいじに』」 


隣女王「それだけの理由……で…?」 

勇者「…十分すぎると思うが、隣女王はそうは思わないのか?」 

隣女王「………」 

勇者「さて、問答は休みにして腹を満たしたいんだが」 

隣女王「……大したものもご用意できませんが……こちらへ」 

勇者「表情が暗いな」 

隣女王「あ、い、いえ……そうでしょうか?」 

勇者「…俺の事を信じきれないか?」 

隣女王「そんな……滅相も…」 



その頃、大浴場では。 

堕女神「…………」 

居心地が悪い。 
未だ正気を取り戻していない者が、王宮の使用人に手伝われて身を清めている。 
体を洗いながら涙を流す者。 
使用人に指先を触れられただけで声を漏らし、怯える者。 
6割ほどの者は立ち直り、無邪気に沐浴しているが、その分乖離感が酷く、妙な気分になる。 

その空気もだが、何より。 

幼魔C「…お姉ちゃん、大きいねー」 
幼魔D「ねぇ、どこから来たの?」 
幼魔E「……っていうかお姉ちゃんって、サキュバス?」 

幼い姿の淫魔の中に、一人だけ、魅惑的な空気を漂わす大人の姿の堕女神。 
目立たないほうが妙な話だ。 

堕女神「…離れてくださいますか」 


幼魔C「ね、触ってもいい?」 

堕女神「…はい?」 

幼魔C「ちょっとだけだから。ね?」 

堕女神「…え、ええ」 

ちゃぷ、と水面が波立ち、幼魔Cの小さな手が伸ばされる。 
ぷかりぷかりと浮かぶ豊かな乳房に触れ、その感触を確かめるために。 

幼魔D「えー!ずるいよ、私も!」 

幼魔E「……私も」 

続いて二人の淫魔の手が伸びる。 
続け様に水音を立てながら、遠慮なしにこね回され、乳房が形を変える。 
その手つきは荒々しく、まさしく子供が玩具を乱暴に扱う、と言う表現が似合う。 

堕女神「い、痛っ……ん、ふぅ……」 

幼魔C「…あれ?お姉ちゃん」 

幼魔D「ねー、もしかしてキモチイイの?」 

堕女神「えっ……ちょ……」 

不味い。 
空気が変わっている。 
オークと同じ、侮ってしまった。 
彼女らは幼い姿でも、『淫魔』なのだ。 

幼魔C「ねーねー、おっぱい吸っちゃおうか」 

幼魔D「うん、いいね。……でも、一人余っちゃうね」 

幼魔E「……じゃ、私ちゅーしたい」 

堕女神「ちょっと、待……ん、むちゅ…………れろ……」 

抗議の声を上げる間もなく、立ち上がった淫魔から容赦なく口内を蹂躙される。 
唇をゆっくりと押し広げ、粘膜を嘗め尽くされる。 
白く美しい歯を舌先でなぞられ、頭を振って逃れようにも、がっしりと頭を押さえられている。 

堕女神「んっ……!?ひゃ、ひゃめ……っ……」 

一度引っ込められた舌先が、唾液を乗せて再びやって来た。 
一瞬で口内に頭の芯を痺れさせるような香りが広がる。 
まずい、これは――『淫魔の口付け』だ。 

恐らく、彼女はその行動の意味を分かっていない。 
自らが唾液を送り込む行為が、一体どういう結果をもたらすのか。 

堕女神「…んっ……」 

吐き出そうとした拍子に、胸から二つの快感がやってくる。 

幼魔C「…あれ?硬くなってきたよ」 

幼魔D「ほんとだ。いやらしーね、お姉ちゃん」 

幼魔C「ね、今度は噛んであげよっか」 

幼魔D「うん。もっと気持ちよくしてあげよ」 

小さな前歯が乳首を捉え、こりこりと甘噛む。 
その最中にも舌先が顎の中で乳首を捉え続け、背筋を仰け反らせながら耐えようとする。 

直接受ける快感に加え、感じるのは背徳。 
自分より小さく、弱く、幼い淫魔達に嬲られている現状。 
本気で抵抗すれば振り払う事は容易いが、何故かそうはできない。 


そうこうしているうちに、飲んでしまった。 
全身の神経を昂ぶらせ、認識を狂わせる、禁断の蜜を。 

幼魔C「あれ?……お姉ちゃん、どうしたの?」 

幼魔D「何したの?」 

幼魔E「……わかんない。ちょっと、よだれが出ちゃっただけなんだけど」 

三人が一度攻め手を休めているにも関わらず、小刻みに震えている。 
肌を撫でる湯の感覚も、昂ぶりきった神経には愛撫と受け取られた。 

幼魔C「とりあえず、お湯から出ようよ」 

幼魔D「うん、お姉ちゃんも」 

口々に言い、堕女神の体を支えながら浴槽を出る。 
浴場の床の上に仰向けに横たえられた彼女を淫魔達が取り囲む。 

幼魔C「…どうしよっか」 

幼魔D「……どうしよう。…へんな気持ち……」 

幼魔E「……もっと、遊んじゃおうよ」 

くすくすと笑いあう彼女らの声を、 
薄ら甘い靄がかかったような意識の中、堕女神は聴いていた。 



勇者「OK、分かった。俺が悪かった」 

堕女神「…………」 

勇者「俺が軽はずみな事を言ったせいでお前が大変な事になってたのは分かった」 

堕女神「……………」 

勇者「だから、こっちを向いてくれないか」 

隣女王「すみません!本当にすみませんでした!こちらから厳しい処置を下しますので、どうか……」 

勇者「なぁ、悪かったって。キスしてやるから機嫌直してくれよ」 

堕女神「……」ピクッ 

勇者「……お、ちょっと反応したな」 

隣女王「キッ……!?え、こ、こんな所で…ですか?」 

勇者「もっとすごい事をお仲間にされた訳だが」 

勇者「……それにしてもだ。恩に着せるつもりはないが、随分な仕打ちじゃないか」 

隣女王「誠に申し訳ございません……」 

勇者「ある意味オークより魔神より怖ぇーよ、この国の淫魔は」 

隣女王「……弁明させていただく訳ではありませんが、あの子達は『幼い』のです」 

勇者「…幼さ故の無邪気。そして、無邪気だから恐ろしい、か」 

隣女王「…………」 

勇者「…ったく。帰るぞ、堕女神」 

隣女王「えっ?」 

勇者「別に怒ってはいない。ただ、もうオークの脅威は去ったのだから長居は無用だろう」 

隣女王「…既に、お部屋を用意したのですが」 

勇者「……気持ちはありがたいんだが」 

隣女王「お願い申し上げます。どうか、一晩。一晩だけ、せめて心ばかりのおもてなしをさせてくださいまし」 

勇者「堕女神、どうする?」 

堕女神「……お受けするがよろしいかと」 

勇者「意外だな」 

堕女神「女王陛下に恥をかかせる訳にもいかないでしょう」 

勇者「ん、まぁ……そういう事なら」 

隣女王「ありがとうございます。では、お部屋に案内させていただきますね」 

勇者「念のため言うが、さっきみたいな事が起こらないようにしてくれよ、堕女神に」 

隣女王「はい、無論です」 

堕女神「…………」 



勇者「中々いい部屋じゃないか」 

隣女王「恐れ入ります。陛下をお泊めするにはいささか質素かと思われますが……」 

勇者「遜らなくていいよ。足を伸ばして寝られて、寒くなければそれで十分」 

隣女王「…不思議な言い方をなさるのですね」 

勇者「馬車の中で折り重なって寝たり、野宿同然に毛布に包まって寝る事が多かったのさ」 

隣女王「……陛下が?」 

勇者「昔の……、昔の話でもないな。どうにもおかしな気分だ」 

隣女王「?」 

勇者「いやこっちの話。で、堕女神の方は?」 

隣女王「はい、出来る限り良いお部屋を」 

勇者「襲うなよ。いいか、絶対に襲うなよ」 

隣女王「は、はい?」 

勇者「もう一度言う。絶対に襲うなよ。分かったな?絶対にな」 

隣女王「……はい」 

勇者「分かったのならいい」 

隣女王「陛下、晩餐の前に沐浴をなさってはいかがですか?」 

勇者「あー……昨日から入ってないし、オークの血も浴びたし、久々に戦ったし……いただこうか」 

隣女王「それでは、浴場にご案内しますね」 

勇者「…まさか、例の淫魔どもの中に放り込むつもりか?俺をどうするつもりだ?」 

隣女王「い、いえそんな。私や来賓のための別の浴場があります」 

勇者「(残念なような、安心したような)」 



浴場 

勇者「しかし、恐ろしいよなぁ……」 

堕女神に降りかかった災難をしみじみと想像しながら。 
あの冷静な彼女が唇を奪われ、よく育った乳房を弄ばれ、 
淫魔の蜜を飲まされ、その後も無邪気な笑い声とともに玩具にされ…… 

勇者「………見たかったな、いっそ」 

湯の中でむくむくと持ち上がったそれを一瞥する。 

勇者「それにしても、もしかしてここの淫魔って……」 

戦いながら、彼女らを助けていた時に感じた事がある。 
オークに暴行を受けていた彼女らだが、勇者や堕女神が踏み込んだ時、泣き叫んでいる者は殆どいなかったのだ。 
逆に快感に打ち振るえ、自らオーク達のいきりたった欲望を咥え込み、小さな尻を振り立てながら貪欲に求めていた。 
もちろん個人差はあるが、その様子は、勇者はもちろん堕女神にとってすらも異常だった。 
望まぬ行為の筈なのに。 
間違いなくレイプだった筈なのに。 
生存本能がそうさせた、と言うにはあまりに行き過ぎている。 

勇者「……もしかしてここの淫魔は俺達が思うより、とんでもないのか?」 



入浴後 

勇者「うーん………」 

隣女王「陛下、晩餐の準備が整っております」 

勇者「ああ…………」ジー 

隣女王「な、何でしょうか?」 

勇者「…いやいや、考えすぎだよな、うん」 

隣女王「え?何が……」 

勇者「まさかね。こんなあどけない顔でね」 

隣女王「???」 

勇者「気にしすぎだな、流石に」 

隣女王「は、はぁ…?」 

勇者「ところで、オークどもはあれからどうなったのかな」 

隣女王「はい、群生地へと戻ったようです」 

勇者「窮鼠に噛まれて驚いたか。……いや、突っ込んだら食い千切られた、の方が正しいかな」 

隣女王「…よく分かりませんが、それが何かはしたない例えなのは分かります」 

勇者「それは置いといて晩餐にしよう」 

隣女王「はい。……食材のほぼ全てが貴国からの援助という有り様ではありますが」 

勇者「あまり豪勢じゃなくていいよ」 

隣女王「そう言っていただけると」 

勇者「まぁ、積もる話は食後にしようか」 



食後の一時 

勇者「……ふう。この国の料理は味付けが薄いんだな」 

隣女王「お口に合いませんでしたか?」 

堕女神「私としては、素材の味が引き立っていて気に入りましたが」 

勇者「硬い言葉を使うんだな、全く。……俺も、美味かったよ」 

隣女王「ありがとうございます」 

勇者「…ところで、女王」 

隣女王「はい、何でしょう」 

勇者「………今回のオークの襲撃だが、不自然じゃなかったか」 

隣女王「と、申されますと」 

勇者「何故、決裂したはずの二つの勢力が手を取り合ってここに攻め寄せた?」 

堕女神「……気になりますね。これまで、どんな異変が起きても淫魔の国には手を出さなかったのに」 

勇者「恐らく、何者かに駆り立てられた……と俺は見ている」 

隣女王「それは、何故でしょうか?」 

勇者「勘だ。……というのは冗談だけど、何か、かなりの理由があったに違いないだろ」 

隣女王「理由……」 

勇者「まぁ、考えても今の所はお手上げさ。……さて、部屋に戻って一休みするよ」 

隣女王「はい、どうぞおくつろぎ下さいまし」 

堕女神「私も失礼いたします。……陛下、変な事を言ってないでしょうね?」 

勇者「……ああ。『絶対に堕女神を襲うな。絶対に』って釘を刺しておいたよ」 

隣女王「?」 

勇者「い、いや。何でもないよ。……それじゃ、失礼」 


ベッドに身を横たえる。 
きっと隣女王なら、「食後に横になるのは良くありませんよ」とでも言うのだろうか。 
そんないかにもな空想を描きながら、天井を見る。 
どこか異国の情緒を感じるパターンが描かれており、寝台の装飾にも同じものを感じる。 

勇者「………ん…?」 

ずぅん、と体に重みを感じる。 
無理もない、久々に剣を握って戦ったのだ。 
心地よい疲労感とともに、彼はその手を見た。 

勇者「俺は……そうだ。勇者だったんだな」 

手のひらに熱いものを感じる。 
……もしかすると、この無償の戦いは「王」としては失格だったのかもしれない。 
見返りもなく戦い、安い理由で食料支援を行い。 
「王」としてではなく「勇者」として判断してしまった。 

勇者「見捨てろ、か?……俺は、あの王達のようにはなりたくないんだ」 

砂漠の国の王がいた。 
彼は兵士を魔王軍との壮絶な戦いに費やし続け、街には寡婦と父無し子があふれていた。 
訪れた勇者の一行を快く迎え入れはしたものの、最寄の魔王軍の砦を攻め落とす手伝いをさせられた。 
結果として勇者の活躍によって勝利したが、その後も彼は無益な戦いを続け、 
今度は隣国に攻め寄せて返り討ちに遭って、その国は滅んだ。 

エルフの王がいた。 
彼は頑なに里から出ようとせず、自慰行為のように魔術や薬学の研究に取り組んでいた。 
ある日、間近にあるダークエルフの里が、魔王軍の襲撃を受けた。 
戦える若者達は救援を申し出たが、王は断固としてそれを跳ね除けた。 
終わりも無く、その始まりすら見失ってしまった憎しみによって、ダークエルフ達は死よりも辛い運命に置かれた。 
その後、力を増した魔王軍によってエルフの里も襲われ、勇者達が辿り着いたときには、そこは廃墟と化していた。 

絶えず戦を行っている、二つの国があった。 
魔王の登場まで何十年も戦争を行っていたその国は、もはや原因が何だったのかも忘れていた。 
共通の脅威に晒されても戦を止めただけで、手を取り合う事はなかった。 
あちら側の国にいけば、「あっちから来たのか」と唾を吐かれ、侮蔑の視線をぶつけられた。 
子供には石を投げられ、女達には水をかけられた。 
恐らく、魔王が倒れれば、再び戦争を始めるに違いない。 


勇者「……反動、なのかな?」 

手を返しながら何度も見る。 
そうしているうちに心地よい眠気に襲われ、ゆっくりと瞼が落ちていった。 
帳が落ちるように視界が閉じられていき、自分の手が見えなくなる。 

瞼が完全に閉じるのとほぼ同時に、勇者は眠りに落ちた。 



数刻すると、勇者の部屋に誰かが尋ねてきた。 
規則正しいノックとともに、幼く、それでいてよく通る声が聞こえる。 

隣女王「……陛下、入ってもよろしいでしょうか……?」 

勇者「んぁ……?寝てた、のか。……どうぞ」 

口の端から一筋の唾液を垂らしながら、入室を促す。 
恭しくゆっくりとドアを軋ませながら入ってきたのは、やはり女王だった。 

勇者「……何だい、一体」 

隣女王「…あ、あの……」 

勇者「?」 

隣女王「心ばかりのおもてなし……と申したのを、お覚えですか?」 

勇者「それが?」 

隣女王え、ええと……つまり……」 

勇者「つまり?」 

隣女王「……う、うぅ………///」 

勇者「……言わなきゃ分からないよ」 

隣女王「わ……私の……」 

勇者「私の?」 

隣女王「は、はじめて……を…差し上げ、ます…」 

勇者「………………待て」 

隣女王「え……?」 

勇者「……どう繋がるんだ、それ」 

隣女王「で、ですから…心ばかりの…」 

勇者「…そこがおかしい。何故女王自ら」 

隣女王「…ほかに、差し上げられるものがなくて……」 

勇者「いやいや、もうちょっと考えようよ」 

隣女王「…私では、だめですか?」 

勇者「っ……いや、そんな事ないけど」 

隣女王「それでは、何が?」 

勇者「……いや、そういうのは好きな人と……って、何を言っているんだろうか」 

隣女王「…私は、貴方が好きです」 

勇者「へっ!?」 

隣女王「我が民を救って下さいました。…我が民の命を救うために、自ら剣を握って下さいました」 

勇者「いや、ちょっと……」 

隣女王「……お願いします。私の、はじめての殿方になって下さいまし」 

勇者「…………」 

隣女王「おこがましい申し出かもしれません。……オークに穢された民を尻目に、私だけ……貴方と…」 

勇者「…分かったよ」 

隣女王「え?」 

勇者「……こちらへ、来てくれ」 

隣女王「……は、はい…」 

勇者「本当に、いいんだな?」 

隣女王「…はい」 

ベッドサイドまで進み出た彼女を抱き締める。 
細い身体は、力加減を誤るだけで折れてしまいそうだ。 
甘く、上質なミルクのような香りが鼻腔をくすぐる。 
女王の薄い褐色の肌が汗ばみ、僅かに震えている。 

勇者「……『俺にまかせろ』」 


抱き締めたまま、ベッドに倒れこむ。 
下が勇者、上側が女王。 
倒れこんだ衝撃に女王が声帯を震わせ、小声で喘ぐ。 

勇者「…キスを?」 

隣女王「……はい」 

勇者が自分から唇を寄せようとした、その瞬間。 

隣女王「んむっ……ちゅっ…はぅ……ん…」 

逆に、唇を奪われた。 
首に細腕を巻きつけ、洗練されていない、貪るような調子で。 

勇者「っ……待っ……!」 

隣女王「んちゅ……はぁ……」 

一心不乱。 
彼女は、脇目も振らず、一所懸命に勇者の唇を嘗め回す。 
まるで、本能に従うように――ただ、ひたすらに。 

勇者「んっ……んんん!」 

肩口を押して引き離すと、涎が別れを惜しむように糸を引いた。 

隣女王「……っはぁ……な、何か……?」 

勇者「…何で、こんないきなり?」 

隣女王「…分かりません。……頭がぼうっとして……こうしなきゃ、って……」 

勇者「………おいおい」 

彼女が再び口付けする前に、膝を入れ、位置を逆転する。 
今度は勇者が上に乗る形となった。 

勇者「……脱がすよ」 

胸周りを覆う、煌びやかな装飾を施された布のような衣類を押し上げ、脱がせる。 
下からは薄い胸と、桃色に色付いた、飾りのような乳首が現れた。 

隣女王「み、見ないで……恥ずかしいです……」 

勇者「…どの口で言ってるんだ?」 

両手を伸ばし、隣女王の薄く未発達な胸へと触れる。 
ほぼ乳首だけという胸に手をかけ、乳房、というより……胸筋をこね回す。 
薄さに反して感覚神経は発達しているのか、触れる度に吐息が漏れ、その度に彼女は顔を背ける。 

隣女王「あっ……ん……う、んん…ふっ…」 

彼女が口に両手を当て、声を漏らすまいと押さえ込んだ瞬間。 

隣女王「えっ……!?」 

勇者がその両手を左手で絡め取り、頭の上、枕に彼女の両手を押し付ける。 
直後――右手で、ピンク色の乳首を捻り上げた。 

隣女王「んあぁぁぁぁっ!ひゃ、あ……!」 

広い部屋全体に響くような、甘い悲鳴が吐き出された。 
背筋が硬直し、小柄な体が魚のように跳ねる。 



丁度、その頃 

堕女神「…………」 

堕女神が、ベッドに横たわりながら、今日起こった事を振り返っている。 
王とともに戦い、オーク達を駆逐し、そして……淫魔達を、救った。 

堕女神「…私でも、何かを救えるのでしょうか」 

上質なシーツに包まって、ぽつりと漏らす。 
あの双子は、私に礼を言った。 
「助けてくれてありがとう」と。 
その言葉は未だに残響を以って、彼女の心を震わせている。 

そして―――浴室で行われた、無邪気な陵辱。 

忘れたい事のはずなのに、心から消えてはくれない。 
熱っぽくリアルな感触が、今も体に残っている。 
小さな手が伸びてきて、敏感な部分を探り当て、競うように刺激を加えてくる感覚。 


思い出しているうちに―――彼女の手は、下着の上から、秘所をなぞった。 

堕女神「ひんっ……!」 

手触りは、既に濡れていた。 
下着が湿気を帯び、指先を湿らせる。 

堕女神「……こん、な……事……」 

言葉とは裏腹に、次に、左手が乳房を探り当てる。 
汗ばんだ胸元を左手が這い、乳首を摘まむ。 

堕女神「…ひぃ…あ…!」 

爪が乳首の先端を何度も引っかき、まるで自分の意思と反して動き出す。 
かりかりと爪を立てる度に意識が飛んでしまいそうになりながら、必死で堪える。 

こんな事、だめだ。 
『陛下』にならともかく――幼い淫魔に弄ばれた事を思い出し、自分を慰めるなんて。 
そう言い聞かせながら、指は止まってくれない。 

右手が下着越しに何度も秘所をなぞり、指先で陰核を刺激する。 
まるで、何かに操られているようだ。 

堕女神「嫌……こん、な……の……!」 

枕に噛み付きながら、襲ってくる異常な快楽に堪えようとする。 
思い出し、手淫しているだけでこの快感。 
手を動かしていると、不鮮明だった領域がハッキリとしてくる。 

小さな指が、彼女のクリトリスを摘んで笑っていた事。 
アヌスに侵入してくる、指の感覚。 
首筋に這わされた、ざらざらとした舌。 
膣内を何度もかき回し、こすり上げるいくつもの手。 

涙を滲ませ、溢れ出す愛液が、まるで失禁したかのように彼女の下着を濡らす。 
それどころか、もはやシーツがじっとりと濡れている。 
屈辱と背徳が入り混じり、彼女の心を侵す。 

ぽろぽろと涙を流して、彼女は堪えようと歯を食い縛る。 
依然として左手は乳房から離れず、右手はもはや、下着をずらし、指先を秘所に沈ませている。 
中指と薬指は、いやらしく濡れた内部へ。 
人差し指と親指は、真っ赤に充血したクリトリスへ。 

堕女神「くひっ……ひゃ……あぁ……!」 

二度、三度、四度。 
激しく身を強張らせると、同時に侵入していた指先がひどく食い締められる。 
きゅっ、きゅっ、と指先を締め付ける、秘所の感覚。 
意識が白く飛び散り、乳首と秘所からの感覚が交じり合い、脳髄を焼く。 

ともすれば、これほどの快楽は二度と味わえないのかもしれない。 
幼い、事実彼女よりも桁違いに幼い淫魔達に弄ばれ、それを種に自慰行為に耽る。 
背徳感が心を埋め尽くし、そして、愛する『王』が近くにいない寂しさが顔を出す。 

この火照りを、彼に鎮めてもらったらどれほどの快楽が押し寄せただろうか。 
あの逞しい棒で、ぐちょぐちょに掻き回して貰えたら、どれほど心が満たされただろうか。 

昨夜の素晴らしく満たされた時間を思い起こすと、それだけで胸が張り裂けそうだ。 
会いたい。 
愛してもらいたい。 
昂ぶった感覚神経が、未だに醒めない。 

堕女神「…はぁっ……はぁ、はぁ……」 

荒く息をついていると、首筋に薄ら寒いものが走る。 
誰かが、いる。 
この部屋に……誰かが。 

幼魔C「……いやだ、お姉ちゃんってば」 

幼魔D「自分でしちゃうなんて、はしたないのね」 

幼魔E「…ね、続き、する?……今度は誰もいないし、たっぷり遊べるよ?」 

首筋に息を吹きかけられ、動けなくなってしまう。 
どうして?なぜここに? 
それに……いつから? 

幼魔C「……ねえ、お姉ちゃん。今度は、もっと気持ちよくシテあげるね?」 

幼魔D「こわれちゃうかもね?」 

幼魔E「…ねぇ、色々持ってきたんだよ。たくさん遊びましょ?」 

堕女神「や、止めてください……!こんな……!」 

気付けば、既に彼女は拘束されていた。 
両手は後ろ手に組むように、両脚は、恐るべき事に、惜しげもなく広げたままで縄をかけられ、ベッドの頭側の支柱に固定されていた。 
俗世で言う「まんぐり返し」に相当する姿勢で、薄茶色のアヌスも、女陰も尿道もクリトリスも、 
そして、羞恥に染まる顔も、一直線に見える格好となる。 

幼魔C「うわぁ……いやらしぃ」 

幼魔D「全部見えちゃってるね。……匂い、嗅いじゃおっかな?」 

淫魔の一人が、彼女の膣に鼻先を寄せる。 
大げさに鼻を鳴らして香りを吸い込まれ、羞恥が彼女の顔を重ね塗る。 

幼魔D「すっごくえっちな匂いがするよー。……ね、どうしよっか?」 

幼魔E「……舐めてあげたらいいんじゃないかな?」 

幼魔D「あ、そっか。……ねぇ、聞こえる?お姉ちゃんのおま○こ、今からいっぱい舐めてあげるね」 

幼い淫魔の舌が、彼女の秘所を舐め上げる。 
ざらついた舌が陰唇を這い、時折、クリトリスを唇で吸い上げられ、意思に反して体が反応してしまう。 

堕女神「っ…やめ、やめて……お願い……っ……!」 

抗議の声を上げながら、びくびくと痙攣してしまう。 
拙く、興味本位の舌先だが、それ故に計算されていない不規則な快感を与えるのだ。 

幼魔C「ねーねー、これ何に使うの?」 

幼魔E「それ?…お尻に入れて使うんだよ。…こっちはね、おっぱいの先っちょに……」 

残った二人は、鞄を覗き込んで話しているようだ。 
その中身は、快楽を与えるための魔具で犇いていた。 
尻穴を弄ぶための、真珠が連なった形の器具。 
バネの力で締め付ける、金属製の小さなクリップ。 
魔力を使って振動する、小さな丸い石。 
男のモノをかたどった、野太い張り型。 

幼魔C「……迷うねー。どれからいこっか?」 

幼魔D「んー…迷うね」 



場面は再び、勇者の客室へ 

勇者「そんな声も出るのか」 

彼女の両手を封じ、乳首を指先で摘み、引っ張り、くりくりと捏ねながら。 
乳首がぴんと張りつめ、硬く勃起していく。 

隣女王「や、…ダメ、です……も…やめて……」 

許しを請うような言葉を努めて無視し、唇を、彼女の右乳房へと寄せていく。 
左の乳房は未だ弄ばれ、指が踊る度に艶めいた声とともに体が跳ねた。 
舌先を尖らせ、右の乳首に触れるか触れないか、という所で止まる。 

瞬間、思いついた顔をして舌を引っ込め、ふっ、と硬くしこった乳首へ息を吹きかける。 

隣女王「ひゃっ……」 

予想外の刺激が喉を震わせる。 
それと同時に、彼女の目が勇者を見据える。 

勇者「……どうしたんだ?何を期待した?」 

隣女王「……何、も……!」 

勇者「そう言われても、これだけ胸が薄いと鼓動がダイレクトに伝わるんだが」 

隣女王「………っ」 

言葉に顔が更に赤らむ。 
薄いと言われたこと。 
鼓動が隠せないこと。 
そして、反応を示してしまう顔を隠せず、見られていること。 
羞恥心に、思わず涙が滲んでしまう。 

勇者「ダメだな。これじゃ、まるで……」 

言って、彼女の両手を取り押さえていた左手を放す。 
傍目には強姦以外の何者でもなかった。 
客観視した結果、その行動に至る。 

勇者「……すまなかった」 

自由になった両手を下ろし、交差させるように胸を隠し、彼女はそっぽを向いてしまう。 
振り乱された髪が目元を覆い隠し、表情は窺い知れない。 
顔全体が赤く染まって、頬などは熟れた林檎のようだ。 

隣女王「……や…」 

勇者「…?」 

隣女王「やさしく……して、ください……」 

勇者「……ああ、分かってる」 

今度こそ、彼から唇を奪う。 
サキュバスや堕女神とも違う、薄く頼りない、少し間違えただけで裂けてしまいそうな。 
柔らかいというよりは最早「儚い」と表現できそうな、唇。 

強引に奪われた時とは違い、微かに震えているのが分かった。 
唇を触れ合わせ、動くたびに彼女の身体までも小さく震える。 
口付けに慣れていないためか、彼女の目は開かれたまま。 

鼻息が少しずつリズムを崩していき、合わせるように口付けも激しさを増していく。 
口先を寄せ合う軽いキスから、全体を押し付けあい、唇をぴったりとくっつけるように。 

女王の赤い瞳が、涙を染み出させて揺らぐ。 
場の空気に酔ったのか、それとも感極まり、行き場を失った感情が溢れたのか。 

勇者「何故、泣く?」 

隣女王「わ、分かりません……でも…」 

勇者「でも?」 

隣女王「……こんなに……心臓が……」 

勇者の右手を取り、左胸へと導く。 
自分での行為でありながら、勇者の手が胸にふれた瞬間、身を強張らす。 

まず感じたのは、火のような熱さ。 
褐色の肌に、殊更に赤みが差しているように見える。 

次いで、心臓の鼓動。 
まるで、彼女の胸越しに勇者の手を殴りつけているかのように、非常に激しい。 

隣女王「私……おかしく、なってしまったのでしょうか?」 

勇者「そんな事は無いさ」 

利き手を彼女の胸に当てながら、左手を下へと伸ばす。 
柔らかい腹部を指先で撫でながら、少しずつ、下へ。 

粘土に刃で切れ込みを入れたかのように美しい臍を経て、なおも下へ。 

隣女王「っ…そこ、は……」 

勇者「……駄目、か?」 

ゆったりとしたシルエットのパンツを腿の半ばまでずり下げる。 
現れた飾り気のない下着は、微かに湿っていた。 

勇者「……可愛いな」 

ウエストのゴムからクロッチまでを目で辿る。 
素材自体は悪くないにしても、飾り気がなく、股上の浅い下着のせいで彼女の印象が更に幼くなったようだ。 
布地を引き込み、割れ目に食い込んだ部分を見つけた。 
思わず、指先でなぞる。 

隣女王「ひっ……!」 

背筋が伸び、氷を突っ込まれたかのように情けない声が上がる。 
それが「快感」であるという事を、彼女はまだ知らない。 
怖い。 
ただ、怖い。 
覚悟をしてきたとはいえ、指で、それも下着越しに触れられただけでこの感覚。 
これから勇者のモノを迎え入れ、純潔を散らす事を考えると、それだけで、狂いそうなほどに怖い。 

隣女王「っ……ひっく……お、お願い……します…や、優しく……優しく、して……」 

勇者「ああ、分かってるよ。……俺を、信じてくれないのか?」 

隣女王「…こ、怖い……です……」 

ぽろぽろと涙を流し、それでも、顔は逸らさない。 
こちらを見つめる勇者の目が、あまりにも優しかったから。 

勇者「……脱がせてもいい?」 

微笑みかけ、彼の手が、零れた涙をぬぐった。 
その問いかけに、彼女は小さく、そして……確かに、頷いた。 

勇者「いいんだね?」 

確認しながら、まず、下がったパンツを少しずつ、引き摺り下ろしていく。 
太ももの触点をビロードの繊維が撫で、その度、小さな女王の体が震えた。 
太ももから膝、ふくらはぎ、くるぶしに布が過ぎ去る感触を覚え、そこからは、脚全体に、シーツの感触しか感じなくなった。 

勇者「綺麗だ。……ものすごく」 

細くまとまった脚に、視線を落とす。 
太ももは細く、それでいてしっかりとした張りがある。 
ふくらはぎには僅かに肉がつき、思わず触れてみたくなるような衝動を覚えた。 
小さな貝殻のように整えられた爪は、肌の色と相まって、その美しさに溜め息すらでる。 

隣女王「……恥ずかしい……です」 

口ではそう言うが、隠したりする素振りはない。 
それでも顔を横へと向けて表情を見られまいとする仕草に、どこかちぐはぐなものを見受けられた。 

再び覆い被さるようにして、右手を彼女の股間へ差しのべる。 
彼女の方も覚悟を決めたらしく、既に受け入れていた。 
人差し指で、下から上へと食い込んだ割れ目をなぞった。 
気持ち程度に指先が湿り、いやらしい香りが一瞬だけ匂う。 

勇者「…見たいんだ。いいか?」 

耳元に顔を寄せ、囁きかける。 
うなじが毛羽立つようにゾクゾクと昂ぶり、それだけで悩ましく喘いでしまった。 

隣女王「…………はい…」 

熱に浮かされたような感覚。 
ともすれば、自分自身の存在さえ晦ませてしまいそうに、体の奥が熱い。 
反面、跳ね上がりそうだった心臓の鼓動は収まり、静かにリズムを刻み始めていた。 
目は蕩け、どこにも視線が置かれない。 
クラクラするような高揚感が下腹部を基点に広がり、全身の末端まで染み渡る。 

足側に、誰かの存在を感じる。 
続いて、腰に誰かの手が触れる。 
ウエストを優しく撫でるその手は、いったい誰? 

足の付け根が、急激に涼しくなる。 
冷えた外気が火照った秘所を刺激し、心地良い。 

隠されていた尻にもシーツの感覚を覚え、妙にくすぐったい。 
太ももから足首まで、何かが通り抜けていくようだ。 

最後に―― 

足先から、何かがするりと抜け落ちた。 

遂に、彼女は生まれたままの姿になった。 
覆い隠されていた秘所には、彼女の毛髪と同じ、白金色の毛がまばらに生えている。 
ぴっちりと二枚貝のように閉じられた秘裂には既に染み出した愛液がまとわれ、 
窓から差し込む月明かりを反射して、てらてらと光っていた。 

その光りが消えぬうちにと、彼女の腿を掴み、ゆっくり、それでいて優しく足を広げさせる。 
勇者が広げられた足の間に顔を沈めていくのを、彼女はただ見ていた。 
もう、恐怖は無い。 

しかし、どこかおかしな気分だ。 
今まで誰の目にも触れる事のなかった場所に視線を向けられている。 
熱い息がかかり、くすぐったさ、恥ずかしさ、そして『期待』。 
まるで獣に見据えられているような。 
息がかかるような間近で、獣が牙を研いでいるかのような。 

再び、心臓が高鳴る。 
その間にも秘所に勇者の顔が近づき、遂に、その距離はゼロとなった。 

刹那、心臓から脳髄までを一気に駆け抜け、意識が灼かれる。 
声すら出なかった。 
初めは秘所に生暖かい何かを感じただけの違和感だったが、次の瞬間にそうなった。 

隣女王「はっ……わた、し……何、されて……!」 

事態が掴めない。 
焼かれるような、凍てつくような快感が続く。 
秘所を暖かく湿り気のあるもので何度も舐られ、息がかかる。 
掴まれている太ももにすら、こそばゆさの皮をかぶった快感が伝わる。 
尻穴に、液体が垂れてくるのを感じる。 
それが果たして彼の唾液なのか、それとも自らの垂れ流した快楽の蜜なのか、それすら分からない。 

そう激しく舐めている訳でもない。 
極めて普通のペースであり、特に早くもない。 
であるのに、彼女の反応はあまりに過敏すぎる。 
これまでの二人のサキュバスとも、堕ちた女神とも違う。 
死に直結しそうなまでに、敏感すぎるのだ。 
このまま続けていたら心臓を壊れさせてしまうのではないかとも思える。 

あまりの乱れぶりに、一旦舌を止めた。 

勇者「大丈夫か?」 

隣女王「はぁ……、はぁ……!だ、いじょぶ……です……それより……もっと……」 

彼女の手が、太ももの下から秘所へと伸びる。 

そのまま――彼女は、自らの秘所を、自らの手で、大きく広げた。 

さしもの勇者もその光景に面食らったが、希望に応えようと、再び愛撫を始める。 
まぎれもなく、彼女は「処女」なのに。 
先刻までの恥じらいが嘘のように、彼の舌を秘所に求めている。 

何度も何度も過ぎった言葉が、再び脳裏に過ぎる。 

その間にも舌先が未発達の陰唇を這い、包皮に包まれたクリトリスを刺激し、 
顔に似合わず肉厚な秘所に指を這わせ、こすり上げる。 

少女の声が、部屋中に甘く響き渡る。 
腰を浮かせながら嬌声を上げる姿に、控えめな女王の面影は既に無い。 
彼女は、「淫魔」となってしまった。 
勇者が、彼女を「淫魔」に変えてしまった。 

勇者「……そろそろ、入れて……いいか?」 

隣女王「えっ……!」 

流石にその言葉には、彼女も驚く。 
むき出しにされ、血管を浮き立たせたモノを見て、クールダウンしたように見えた。 

隣女王「……はい」 

意外にも、彼女はすんなりと受け入れる。 
小刻みに震え、かちかちと歯を鳴らしてはいるが、その視線は一瞬も逸らされない。 

勇者「いいんだな?」 

隣女王「はい。で、でも……お願いします、どうか…優しく…」 

勇者「……うん、分かってるから」 

腰を突き出し、赤黒く怒張したそれを彼女の濡れそぼった秘所に当てる。 
僅かに開いた秘貝に先端が押し付けられ、未知の感触に、ぴくりと震えた。 

隣女王「あっ……!」 

火傷しそうなほどに熱いモノが、ぷにぷにとした、柔らかく肉厚な秘所に触れる。 
まだ押し当てられただけで、入ってすらいない。 
前戯で生来の淫魔の性質が刺激された事により、彼女は一種のトランス状態にあった。 
破瓜の恐怖や、知る由も無かった快感への畏怖。 
それに反して、快感を激しく求め続ける、淫魔の性(さが)。 

二つの相反する感情に挟まれ、どうして良いか分からない。 
だけど、それでも。 
彼女の気持ちは動かない。 
目の前の男に、国を救ってくれた『勇者』に純潔を捧げる、その一点のまま。 

先端がほんの数mm、沈み込む。 
跳ね返すような圧を感じつつ、どうにか裏筋の基点までを飲み込ませていく。 

隣女王「…入り、ました……か…?」 

勇者「…まだ、入り口だよ」 

隣女王「そ…んん、なぁ……ふぁ…!」 

ぎちぎちと締め付ける内部へ、愛液とカウパーをまとって更に進入する。 
千切られそうなほどに締め付けられ、押し出そうとする圧力も強まる。 
負けまいと突き込ませていけば、途中、彼女が大きく反応し、唇を噛み締めた。 
目尻に浮かんだ涙が零れ落ち、枕へ落ちる。 

ここから先へ進めば、彼女は大切なものを喪失する。 
勇者には、それが分かった。 
それでも、最早、了解を取るような真似はしない。 
涙を滲ませて耐えようとする表情。 
きゅっとシーツを掴み、爪を立てて気を紛らそうとする仕草。 
いじましい姿を見ては、もう、彼女の心は変わらないという結論しか出ない。 

彼女の中へ、更に押し進める。 

ぷつり、という音が亀頭から伝わり、 

愛液とも違う、熱い何かの温もりが、勇者自身を包んだ。 

手応えを感じてからは、驚くほどスムーズに侵入を許した。 
彼女は声にならないくぐもった叫びとともに、熱っぽい視線で勇者を見上げる。 

隣女王「私……、もう……」 

勇者「入ったよ。……頑張ったな」 

隣女王「あ、あの……」 

勇者「ん?」 

隣女王「…も、もっと……動いて、下さいまし…」 

勇者「いいのか?」 

隣女王「……はい…」 

女王が答えると、半ばまで埋まった肉棒を引っ張り出し、入り口近くまで引き戻す。 
モノには奪われたばかりの神聖な血が絡み付き、愛液と交じって薄紅の糸を引く。 
完全に抜け落ちてしまう直前――再び、叩きつける。 

隣女王「んっ…ぐ、うぅぅ……!!」 

奪われたばかりの処女膜の残滓には、未だ痛覚が残る。 
傷跡を抉られるような痛みが彼女を襲った。 

経験したこともない、身が裂けてしまいそうな痛み。 
不揃いに大きな息をつき、少しでも痛みを逃がそうと試みる。 

更に引き戻し、そして肉を掻き分けて奥まで入り込む。 

隣女王「あぁんっ……!」 

一瞬、内壁を擦られ、苦痛とも違う感覚が届けられた。 
くすぐったさを更に押し進めたような、心臓にじかに伝わる、甘い電流のような。 
彼女は、妙な声を漏らしてしまった事に驚き、戸惑う。 

それも束の間、奥まで届いた瞬間に再び苦痛が襲う。 
痛い。 
確かに、痛い。 
なのに、何故……今、刹那の快楽は何故? 


黒い情念が燃え、悪魔の囁きを確かに感じる。 
だが彼女の胸中には、未だ女王のプライドが燻っていた。 
はしたなく求めるなんて、という理性。 
もっと気持ちよくなりたい、という本能。 
その二つが、今も尚戦っている。 

勇者「…痛いのか?」 

隣女王「あ、の……何か、変、なんです。…痛いのに。……気持ちいいんです……」 

勇者「………そう、か」 

体を前へ倒し、より深く体を密着させながら、唇を求めた。 
勇者の細身でありながら絞られた肉体に、彼女の吸い付くような肌理の細かい肌が触れる。 
屹立した乳首が押し潰されるようになり、じんわりとした快感が広がる。 
人肌の温かさが、彼女の苦痛を心なしか散らすようだ。 
そして、唇に感じる体温。 
唇を吸われ、小さな水音が頭蓋に響いて聞こえる。 
実質としてその音は大きくないが、彼女の耳には、 
まるで部屋中に響き渡るような大胆な口付けをしているように聞こえた。 

隣女王「んっ……ふ、ぅん………!」 

口付けの間に、三度目の抽送。 

内臓ごと引き抜かれるような感覚。 
直後、先ほど感じたような刹那の快楽。 
――いや、違う。 
先ほどよりも、快楽の時間が僅かに長い。 
代わりに、苦痛が薄れていく。 

隣女王「ぷはっ……!…も、もっと……いっぱい……」 

唇から一度逃れ、上気した笑みを浮かべてそれだけ言う。 
最後まで言い切る前にはっとした表情をして目線を逸らした。 
求めてしまった。 
自分から、情けを求めてしまった。 
それに気付いてか、彼女はもはや勇者を直視できない。 
自分に向けられる視線を見るのが、恐ろしかったから。 

彼は、何も言わなかった。 
言わないかわりに、首筋に唇を這わせ、そのまま耳たぶへと移っていく。 

隣女王「やっ……ぁ」 

反対に、少しずつモノは抜かれていく。 
そして、四度目。 

隣女王「い、あっ……!」 

更に伸びた、至福の時。 
苦痛はもはや感じない。 
凍てつくような快感が背筋を反って上りつめ、胸を震わせるような快感に襲われた。 

五度、六度、七度と前後に規則正しく運動を始める。 
突き込むたびに甘い声が耳をくすぐり、閉まりきらない口元からは唾液が漏れる。 

はじめは狭くきつかった膣内も、驚くべきペースでこなれてきた。 
泡立つ愛液には、薄く赤が混じって吐き出される。 
少しずつ、少しずつ、開かれていた彼女の脚が閉じられていき、勇者の腰を固く挟み込む。 
同時に両腕が胴に回されていく。 

突く度に彼女の全身が強張り、背が跳ね、爪が勇者の背を浅く掻く。 
先ほどまで喘いでいた彼女も、もはや声を出す事もできないのか、乱された息を漏らすのみ。 

勇者が、一気に奥までを刺し貫く。 
先端がぷにっとした柔らかく吸い付くものに触れたと思った瞬間、膣内が艶めかしく震え始める。 
しぼり取るかのようにモノを締め付けながら、全体へ刺激を与え始めた。 
触れたものが亀頭の先端にぴったりと張り付いて、暖かく湿った刺激をもたらす。 

彼女は、先ほどから体を弓なりに反らし、声にならない叫びを上げる。 
ゆるんだ尿道から断続的に飛沫を散らして、それでもなお秘所を締め付ける。 

勇者はかろうじて達してはいないものの、それでも、危うい所での均衡を保つ。 
気を抜けば、彼女の中に放ってしまいそうだ。 
それだけはいくらなんでも、抵抗がある。 
自分は王で、彼女は女王。 
不用意に放つ訳にはいかないのだから。 

隣女王「ッ……!!」 

勇者「……気持ち、良かった?」 

隣女王「………ッ……ァ……」 

勇者「女王?」 

隣女王「……」 

勇者「…女王、聞こえて――」 

手を伸ばした瞬間、視界が揺れる。 
背中に柔らかい衝撃を感じて、気付けば、いつの間にか位置が逆転していた。 
今度は自分が下になり、上には、女王が馬乗りになって。 

勇者「……いったい?」 

問いかけにも、彼女は答えない。 
乱れた髪で表情は見えず、まるで状況が把握できない。 

そのまま彼女は腰を沈め、再び勇者のモノを咥え込んでいく。 
盛大に濡れた秘所は、もはや抵抗もなく容易く飲み込んでいった。 

勇者「…じょ、女王って……!」 

遠慮会釈なく、根元まで一気にくわえ込まれてしまう。 
同時に、女王が背を反らせ、天を仰ぐようにして動きを止めた。 
僅かに痙攣しているようだが、それも無理は無い。 
達した直後の高まった状態で、再び奥まで迎え入れたのだから。 

数秒後、再び動き始めた。 
跨りながら、何度も上下に運動を繰り返す。 

勇者「くっ…!や、やめ……ろ…!」 

湿った肌の触れ合う音、ベッドのきしみ、切実な彼女の吐息、そして、上から犯される勇者の声。 
月光を浴び、彼女の顔が一瞬だけ覗かせた。 

その表情は、あどけなく真摯な「女王」ではない。 

夢枕に立って精を搾り取り、命を吸い取る、恐ろしい恐ろしい魔族の一柱。 
それを、人は「サキュバス」と呼び慣わす。 

彼女は―――嗤っていた。 


これが、本当に先ほどまで処女だった彼女の内部なのか。 
絶えず内部がうねり、暖かい肉が勇者のモノにまとわりつく感覚。 
加えて、横方向への腰の動きが更なる刺激を与える。 
亀頭を全方位から不規則に刺激する、熱い感覚。 
全体をぴったりと包み込み、離さずに蠢く魔性の秘壷。 

隣女王「……か…?」 

勇者「っ……な、何?」 

隣女王「…気持ちいい、ですかぁ?私の中…」 

勇者「…………!」 

ゾッとするような、愉悦に満ちた声。 
彼女は、愉しんでいる。 
性行為を、ではない。 
人外の快楽を与えられる、勇者の反応を。 

搾り上げられる。 
その形容が、まさに当てはまった。 

腰をくねらせながら上下動し、容赦なく男根を弄ばれる。 
堪えきれずに声を漏らすたびに、彼女は満足そうに口元を歪ませる。 
この状況とはいえ、彼女の未成熟な女陰は今もなお、きつい。 
処女の締め付けに、まるで年経た淫魔のような、快楽を貪る腰使い、そして練られたような内部の感触。 
肉ひだが吸い付き、子宮口が先端に貼り付き、ぶちゅぶちゅと音を立てながら加え込む、美しい割れ目。 
愛液に濡れた銀の陰毛が輝き、しなやかな髪が揺れ、傍目には、息を呑むほどに美しい。 

その実、勇者は堪え続ける。 
気を抜けば今にも発射してしまいそうだ。 
あまりに強烈すぎる快感に思考が遅れ始め、目の奥が時折暗転する。 
出したい。 
彼女の中に、ありったけを吐き出したい。 
膣内を、穢してやりたい。 

彼女は勇者のそんな心境を汲み取ったのか、更に激しく動き始める。 
内側をきゅっと締め付けながら上へ動く。 
そして、緩ませながら再び呑み込む。 
牛の乳を搾る手のような動きで、精液を搾り取らんとしている。 

勇者「……あ……ううっ…」 

人外の刺激に、もはや堪えられなかった。 
呆気なく……いや、人間としては、淫魔を相手によくもった方だろう。 
ひときわ強く締め付けられた瞬間、モノが震え、溜まった欲望を一気に吐き出す。 

隣女王「ああん……熱い、です……!」 

どくん、どくんと脈打つのを膣壁で感じながら、文字通り飲み込んでいく。 
焼け付くように熱く、濃厚な精液が子宮を満たす。 
さしもの彼女も、満ち足りた顔で一滴も零すまいと精道を揉み込むようにこすり上げる。 

隣女王「…気持ちいい……気持ちいいです……」 

終わりの無い脈動が、互いの意識を白く染め上げる。 
勇者は、全てが溶け込んでしまうかのような、止め処なく続く絶頂と射精に。 
女王は、全身を白く彩られ、心臓から脳天までを貫かれるかのような錯覚に。 

長すぎる射精を終えると、女王は、ぷつりと糸が切れたように勇者の胸板へ倒れ込んだ。 
勇者には、彼女を気遣える余力は残されていなかった。 
あまりに強すぎる快楽の余韻と、疲労感。 
数多の怪物を倒し、旅を続けてきた勇者にすらも耐えられないほどの疲労。 
さながら、命を吸われ、削られたかのような。 

勇者「………くそ、……女王…?」 

重くなった体を起こして、女王の髪へ触れる。 
柔らかい銀色の髪が指先に、さらさらとした手触りを届けた。 

隣女王「…………あ、れ……?私……?」 

反応が意外なほどに早く返ってくる。 
彼女の方も正気に戻ったらしく、その声色も、表情も、彼が良く知る女王のものだった。 

勇者「……覚えて、ないのか?」 

女王「…えっと……?なんで……私が、上に乗って……?」 

勇者「…やっぱり?」 

女王「それに………え?…なんで!?どうして……こんな……!?」 

秘所から、生温いものが出てくるのを感じて目を落とす。 
白濁した液にしか見えなかったが、彼女にはそれが何か分かった。 

隣女王「そんな…どうして……?」 

勇者「……女王が、無理やり絞り取ったんだろ。俺は止めたのに」 

隣女王「嘘……中に……出さ、れ……」 

事態の深刻さに、女王は青ざめ、涙を零し始める。 
彼が、無理やり膣内に出すようには思えない。 
事情はともかく、中へ…精子を注ぎ込まれてしまったのだから。 
それも、一国の女王が。 

隣女王「……ぐすっ……ど、どうしよう……私……私……」 

勇者「…本当に、何も覚えてないのか?」 

彼女はふるふると首を振って答えた。 

勇者「……もしもの事があったら」 

隣女王「……っ……ふっ……ひっく………」 

勇者「…もしもの事があったら、結婚しよう」 

隣女王「…えっ……?」 

勇者「こういう責任の取り方は嫌いだ。……だが、種をつけて後は知らん、なんてのはもっと嫌なんだ」 

隣女王「そん、な……早い、ですよ……」 

勇者「もしも、の話だ。…もしも子供ができていたら、結婚しよう」 

隣女王「………どう、答えれば……?」 

勇者「約束する。そうなっても、領土を奪うような真似はしない。……君と、君の民を幸福に導くと誓う」 

隣女王「…………」 

勇者「今答えなくてもいい。……しかし、堕女神の奴、怒るだろうな」 

隣女王「堕女神……さん?」 

勇者「…ああ、……そういえば、ちゃんと念押ししたよな?」 

隣女王「はい。…ちゃんと彼女の部屋には見張りをつけて、窓の外にも同様に。何人たりとも通しません」 

勇者「えっ?」 

隣女王「えっ?」 

勇者「……本当に?」 

隣女王「はい。……蟻一匹通さぬように、きちんと」 

勇者「…そう、か。いや、それならいいんだ」 

隣女王「???」 

勇者「……どうする、もう一回するか?」 

隣女王「………したい、ですけど」 

勇者「ですけど?」 

隣女王「…何か、すごく……疲れて……」 

勇者「まぁ、無理もないか」 

隣女王「申し訳ありません。このまま……眠っても、よろしいでしょうか」 

勇者「ああ、…勿論」 

隣女王「……暖かい、です。陛下の……体」 

勇者「ああ、こっちも」 

隣女王「…おやすみ……なさい、まし…」 

声を細くさせながら、彼女は、勇者の隣で眠りに就く。 




堕女神「……う…ん、……ふ、うぅぅぅ……!!」 

大股を開いた状態で拘束されながら、喘ぐ。 
尻には淫魔の国の玩具が深く突き刺さり、幼い姿の淫魔に弄ばれて。 

幼魔C「……あら、お姉ちゃん。もしかして、お尻が気持ちいいのかしら?」 

言って、尻に入れられた、真珠が連なった形の玩具が一気に引き抜かれる。 
口には球形の口枷が嵌められ、唾液を溢れさせながら、口を閉じる事はできない。 

堕女神「ッ……ん、んうぅぅ〜〜〜!」 

排泄に酷似した強烈な快感に襲われ、みっともなく声を上げてしまう。 

幼魔D「えへへ……気持ちいいでしょ?お尻。……次は、もっと太いのを入れましょうね」 

幼魔E「そーだ。目隠ししてみたらどうかな?…何されるのか、わかんなくなっちゃって面白いかも」 

幼魔D「うん、そーしよっか。……はい、動かないでね?」 

小さな手にアイマスクが握られ、彼女の顔にかけられる。 
視界を奪われた。 
叫ぶ自由も、もがく自由も奪われた。 
もう―――全てを、受け入れるしかない。 

幼魔C「うわっ……何、これ」 

幼魔D「…大きすぎじゃない?それに、このイボイボ……」 

幼魔E「大丈夫。……このお姉ちゃんすごくエッチだから、これぐらい入るよ」 

声しか聞こえない。 
それ故に、想像力に掻き立てられた恐怖が、彼女を襲う。 

幼魔C「うん……どっちに入れる?」 

幼魔D「だめだよ、喋っちゃ。……お姉ちゃんに聞こえちゃうよ」 

幼魔E「……それじゃ、こっちに入れちゃおうか?……賛成の人、手ー上げて」 

何秒か、後。 

陰唇に、何かが押し当てられる。 
二つの手が秘所に手をかけて大きく開かせ、中心へと、選ばれた玩具が突っ込まれる。 

堕女神「ぐぐぅっ……ん、ふ……うぅぅぅぅ!んぅ!……っ〜〜〜〜!!」 

涙が、アイマスクの隙間から染み出し、枕へと流れた。 



こうして、それぞれの夜は更けていく。 

片や、少女の姿の淫魔達に弄ばれて。 
片や、互いを求め合って。 

残る時間は、あと二日。 
二日後に、全ての答えが明らかになる。 

……そして、夜が明けた。 



六日目 


隣女王「……陛下、お目覚め下さい」 

勇者「……ん?」 

隣女王「朝です。どうかお目覚めを」 

勇者「…ああ」 

鈴を転がすような声に促され、体を起こす。 
はっきりとしない目を擦って見ると、女王は既に服を着ているようだ。 

勇者「……どこまでが現実なんだ」 

隣女王「……昨夜……褥を、ともになさいました」 

勇者「ああ。……それで、女王の中に……」 

隣女王「お、お止めください……!」 

勇者「堕女神はまだ寝てるのか?」 

服を着ながら、訊ねる。 
腰に剣を差して立ち上がり、体をほぐして。 

隣女王「そのようです」 

勇者「……起こしにいこうか」 

隣女王「はい、陛下」 

勇者「……女王、だよな?本当に」 

隣女王「…?」 

勇者「いや、なんでもない。行こう」 

隣女王「はい」 



堕女神の部屋の前 

勇者「……本当に、見張りがいるな?」 

隣女王「はい。信頼の置ける衛兵です」 

勇者「ふむ。……おい、異常はないか?」 

衛兵「はい。物音一つしませんでした」 

勇者「なら結構。……入るぞ?」 

二回、ドアを叩く。 
返事はない。 

勇者「……寝てるのか?入るぞ?」 

もう一度ノックする。 
またしても、返事はない。 
ドアノブを捻り、中へ入る。 

女王を伴い、室内へ。 
部屋に異常はなく、彼女も、ベッドの上で規則正しく寝息を立てている。 

勇者「……おい、起きないか。おい?」 

堕女神「う………?」 

隣女王「堕女神さん、お体の具合でも悪いのでしょうか?」 

堕女神「…じょ、女王陛下……?も、申し訳ありません、ただいま……!」 

布団を跳ね飛ばし、体を起こす。 
彼女のいつものドレスはベッドの上に畳んで置かれ、彼女は下着姿で眠っていたようだ。 

勇者「…慌ててないか?何かあったのか?」 

堕女神「………い、いえ……別に……」 

勇者「話すんだ」 

堕女神「本当に、……何でもないのです」 

勇者「…話せ。これは頼みだ。……何が、あったんだ?」 

堕女神「……実は」 

勇者「ああ」 

堕女神「昨夜、浴場で…会った淫魔達が、この部屋に。……そして……私、を……」 

勇者「…本当なのか?」 

隣女王「何かの間違いではありませんか?彼女らは、お二方の滞在中は罰則として地下牢にいる筈です」 

堕女神「いえ。……その証拠に縄の痕が………?」 

勇者「そんなの、ないぞ?」 

堕女神「え?」 

隣女王「……もしかして」 

勇者「何だ?」 

隣女王「考えられるのは……『夢』です」 

堕女神「私が……淫夢を見たと?」 

勇者「ああ、そうか。お前は、『夢』に入り込まれたんだ」 

堕女神「……!」 

勇者「忘れてた、って顔だな。……覚醒してたなら、それぐらいの力はある筈だ」 

隣女王「…それでも、彼女らは一介の淫魔ですよ?…堕女神さんほどの力の方の夢になんて」 

勇者「…俺が身をもって知ったんだよ。この国の淫魔は、そういうのに長けてるんだ。……女王も含めて」 

堕女神「……夢、だった」 

隣女王「………後ほど、彼女らに話を糺します」 

勇者「それで、いったいどんな夢を見たんだ?」 

堕女神「…………」 



朝食中 

隣女王「……申し訳ありません。やはり、彼女らでした」 

勇者「……予想通り?」 

隣女王「はい。三人とも淫魔として覚醒していました」 

勇者「……まるでサキュバスみたいな事をする」 

隣女王「いえ、サキュバスですから」 

堕女神「陛下、早く帰りましょう。……身の危険を感じて、仕方がありません」 

勇者「ああ、分かった。食事を終えたら、すぐに帰ろう。転移は使えるな?」 

隣女王「誠に申し訳ありませんでした。彼女らは、どうにも力を使ってみたくて仕方がなかったようです」 

勇者「新しい玩具をもらったら、そうなるか」 

勇者「それにしても、一体どんな夢だったんだ?」 

堕女神「…言えません」 

勇者「言いたくないならいいけど。全く、どういう国なんだ」 

隣女王「お詫びのし様もありません……」 

勇者「……アレコレと恩に着せるつもりは無いが、仇で返される謂れは、もっと無いな」 

隣女王「………」 

堕女神「へ、陛下。どうか……お平らかに」 

勇者「分かっている。嬲りたい訳じゃない。……ただ、どうしても収まらなかっただけだ」 

隣女王「…申し訳、ございません」 

勇者「………力の使い方を、きちんと教えてやってくれ。淫魔の本能が抑えられないのは分かっているつもりだ」 

隣女王「……」 

勇者「それでも、違えてはいけない領分があるという事を。……頼む」 

隣女王「……はい」 



食後 

勇者「さて、……帰ろうか、堕女神」 

堕女神「はい」 

隣女王「この度の御恩、決して忘れません」 

勇者「もう、オークが襲ってきても大丈夫だろ?」 

隣女王「そう願います」 

勇者「まぁ、駄目でもいいさ。いつでも助けに来る。……『勇者』である限り」 

隣女王「……勿体無きお言葉」 

勇者「さぁ、行こうか」 

堕女神「はい、陛下」 




淫魔の国 玉座の間 

勇者「……おー、流石に早いな」 

堕女神「…ようやく、帰って来れましたね」 

勇者「なんだか、酷く久しぶりな気がする」 

堕女神「同感です」 

勇者「……とりあえず、部屋で休みたい」 

堕女神「はい。その前に、サキュバス達に会いに行っては?」 

勇者「それもそうだな。何処にいる?」 

堕女神「今は昼前ですから……恐らく、庭園に」 

勇者「分かった、ありがとう。お前は休まなくて大丈夫か」 

堕女神「お気遣いなく。私は問題ありません」 

勇者「…そうか。それじゃ」 



庭園 

勇者「……ここに、いるのか?」 

サキュバスA「……陛下?」 

勇者「何してるんだ」 

サキュバスA「見ての通りですわ。……薔薇の手入れを」 

勇者「お前達の仕事だったのか?」 

サキュバスA「ええ、まぁ」 

勇者「……普段、何してるんだ?」 

サキュバスA「そうですわね。…庭の手入れ、城内の掃除、厨房の手伝い……それと、陛下の」 

勇者「ほう」 

サキュバスA「……ん?」クンクン 

勇者「どうかしたのか?」 

サキュバスA「……ひょっとして、隣国に行きませんでしたか?」 

勇者「ん、ああ……それが?」 

サキュバスA「……生還、心よりお喜びいたします」 

勇者「あ?」 

サキュバスA「よくあの国に行って、生きて帰って来れましたこと」 

勇者「話が見えない」 

サキュバスA「……あの国で夜を過ごすと、生きては帰れないのです。特に殿方は」 

勇者「…………そこまで言われてるのか?」 

サキュバスA「……ダー○シュ○イダーが壊れるレベルですわ」 

勇者「誰だよ」 

サキュバスA「さぁ?」 

勇者「………」 

サキュバスA「私達はただ度を超えて淫乱なだけですが、彼女らは男を文字通り殺しますからね」 

勇者「…よく帰ってこれたなぁ、俺」 

サキュバスA「『サキュバス』の剣呑なイメージの六割ぐらいは彼女らが担っています」 

勇者「……あの外見で?」 

サキュバスA「あの外見で」 

勇者「聞けば聞くほど、妙な種族だ」 

サキュバスA「私達でもドン引きしますよ」 

勇者「さっきから酷い言い様だな」 

サキュバスA「自分でも不思議ですわ」 

勇者「それで、サキュバスBは?」 

サキュバスA「あら、私とでは退屈でしたか?」 

勇者「絡むなよ」 

サキュバスA「ふふ。…あの子は、確かあちらで剪定を」 

勇者「ああ、ありがとう」 

サキュバスA「………?」 

勇者「…どうした?」 

サキュバスA「……あ、い、いえ……今、陛下が……」 

勇者「俺が?」 

サキュバスA「…一瞬、消えたように見えてしまって。……気のせいですわ」 

勇者「…消えた?」 

勇者「……変な事を言う奴だな」 


サキュバスB「あ、陛下!」 

勇者「お」 

サキュバスB「お帰りなさい。…どうしたんですか?」 

勇者「いや、別に。……それより何だ、酷く汚れてるな」 

サキュバスB「え、あ……さっき、木から落ちちゃって」 

勇者「飛べるんだろ?」 

サキュバスB「あ……。そ、そうでしたね……えへへ……」 

勇者「……こっちに来い」 

サキュバスB「…え?」 

勇者「(……こいつ、こんなに可愛かったか)」 

サキュバスB「陛下、何を……えっ!?」 

勇者「………」ギュッ 

サキュバスB「へ、へいか……?」 

勇者「…いい匂いがする」 

サキュバスB「…………!」 

勇者「……しばらく、こうさせてくれないか」 

サキュバスB「…は…はい……」 


そのまま、時間にして十分前後。 
勇者は、彼女を抱き締めていた。 
ふわりと漂う花の香り。 
さらさらとした髪の手触り。 
背中に回した手から伝わる、確かな鼓動。 

何故だろう。 
彼女が、いや。 
『淫魔』の体の温もりが、酷く切ないものに思えてきた。 

勇者「……今夜は、お前とA二人で来い」 

サキュバスB「え?」 

勇者「…嫌ならいい」 

サキュバスB「いえ、そんな事……」 

勇者「済まないな」 

サキュバスB「?」 

勇者「……いや、自分でも分からない」 

サキュバスB「……陛下、いったいどうなさったんです?」 

勇者「……今夜、話すよ」 

そう言って、勇者は体を離していく。 
表情はどこか哀しげで、それでいて、揺らがない決意を感じさせる。 

勇者「…ちょっと訊きたいが」 

サキュバスB「はい、なんですか?」 

勇者「俺……消えて、ないよな?」 

サキュバスB「…質問の意味が……」 

勇者「いや、分からないならそれでいいんだ」 

サキュバスB「はぁ……?」 

勇者「じゃあ、また夜にな」 

サキュバスB「はい、陛下」 

勇者は、自室へと帰って行く。 
言わんとする事を理解できない淫魔は、呆けたような、それでいて熱を帯びた視線を向けて見送った。 



勇者「………さて、と」 

自室に入り、鍵を閉める。 
いつの間にか「我が家」と同じ居心地を感じていた、『淫魔の王』の部屋。 
山羊の頭が象られた飾りのついたベッドに、腰を下ろす。 

勇者「…見ているんだろ?魔王」 

魔王「ああ、見ているとも。……あそこで精気を吸われて殺されていれば、我も手間が省けたものを」 

勇者「ふざけるな。俺は戻る。戻って貴様を、『魔王』を倒す」 

魔王「さて、そこだ。……我を倒して、いったい何になる?」 

勇者「…少なくとも、世界は貴様の脅威から救われる」 

魔王「その後は?」 

勇者「………そうだな。きっと俺の国と隣の国は、また戦争を始めるな」 

魔王「ククク、中々に現実を見る勇者もいたものだ」 

勇者「『世界を救った勇者』だからって、きっと贅沢な暮らしもさせてもらえないだろうな」 

魔王「大方、貴様を祭り上げて戦争にでも駆り出すのだろう?……人間というものは、全く以って救いがたいぞ」 

勇者「……それでも俺は、『世界』を救う」 

魔王「滅私……いや、殉教者ではないか。それはそうとだ。この世界の『王』の正体は分かったかな?」 

勇者「俺なりの答えには辿り着いたさ」 

魔王「それは重畳。……いや、流石は『勇者』かな?クク……」 

勇者「一つ答えろ」 

魔王「ほう?」 

勇者「南方のオークを追い立てたのは貴様か?」 

魔王「……きっかけは作ったな。オークほど扱いやすい手駒もそう無いのでね」 

勇者「…目的は何だ?」 

魔王「強いて言えば、貴様のための演出、といったところだ」 

勇者「何だと?」 

魔王「なに、身体が鈍るだろうと思ってな。ほぐすには手頃だったろう?」 

勇者「………それだけの、ために」 

魔王「奢侈と色欲に溺れ、感覚を鈍らせた勇者と戦うのも面白くあるまい」 

勇者「貴様!」 

魔王「怒りは、こちらへ戻って来た時のために取っておくが良い。……さて、我はもう貴様とは話さん。あと一日なのだからな」 

勇者「魔王……!」 

魔王「今日と明日。悔いの残らぬように過ごす事だ。……いや、貴様の選択次第では戻って来れるがな?」 

勇者「………」 

魔王「ではな。貴様の答えを楽しみに待つとしようか」 


それきり、魔王の声は聞こえなくなった。 
見てはいるだろうから、余計に居心地が悪い。 

窓から、外を覗き込む。 
眼下の庭園から、城下町、そして遠くの山までを一望できる。 
空は広く青く、流れる雲が表情を加えていた。 

深く、深く息を吸い込む。 
日が高くなり、緩んだ空気があたたかく肺を満たす。 
下を見れば、サキュバス二人をはじめとして、数人の園丁が庭を整えていた。 
薔薇の棘を落とし、伸びた枝を切り、仕事をこなしている。 
サキュバスAは危なげなく、洗練された物腰で薔薇の手入れをしていた。 
サキュバスBは少し外れた庭園迷路に手を入れているようだが、迷わないかが心配でもある。 

見ているだけで、楽しかった。 
時折視線に気付いた使用人が一礼を送り、すぐに仕事に戻る。 
満ち足りていた。 
園丁の一人一人にいたるまで、心底美しかった。 
外見の麗しいのは、疑う余地もない。 
魔王が言ったように、人界には望めないほどの美女ばかりだ。 

美しいと思えたのは、見た目だけではない。 
彼女らは、確かに生きていた。 
庭を整え、厨房で腕を奮い、自らの職務を全うし、それでいながら澱んでいない。 
その『活きる』姿が、美しいのだ。 

―――魔王を倒せたら、世界がこんな風になればいいのに 

その一文が、心を横切る。 
誰もが平和に生活を送り、子供らの成長を見届け、夜には暖かい食卓があり、日々を『活きる』世界。 

だが、望めない。 
勇者の故郷とその隣国は、既に情報戦を開始していた。 
互いの領地に斥候兵を送り、土地に浸透した間諜が本国へ早馬を送る。 
彼らは、既に人同士で殺し合う準備を進めていた。 

『勇者』が救ったあとの世界で、また、互いを殺し合う手はずを整えていた。 

旅の途中、『魔法使い』が病に倒れ、『戦士』と『僧侶』とともに薬草を採りに行った。 
冗談のような体躯を持つ氷の巨人を打ち倒し、間一髪のところで魔法使いの命は助かった。 

ある古城では、『僧侶』が吸血鬼に浚われてしまった。 
吸血鬼が彼女の首筋へ歯を立てる寸前に間に合い、その吸血鬼は灰と化した。 

またある時は、『戦士』と『勇者』が領主に囚われてしまった。 
処刑される前日、内通者を得た魔法使いと僧侶に救出され、領主に取り付いた魔物を倒す事ができた。 

数え上げる事も億劫なほどの、命の危険。 
野営すれば山賊に襲われ、海に出れば巨大な怪魚が姿を現した。 
命がいくつあっても足りないほどの旅の末、魔王を倒せたとしてもあるのは戦乱。 


強く精悍な『勇者』の頬を、 
涙が一筋流れ落ちる。 
ひどく虚しく、そしてどこまでも哀しい。 
窓から離れ、椅子に腰掛ける。 

誰もが『勇者』の勝利を信じ、応援していた。 
二人の国王は、勇者が勝つ事を計算に入れた上で、『戦争』の計画を立てていた。 

自分は、いったい。 
何のために、戦ってきたのだろう。 

勇者「…………ああ、もう」 

落ち込んでいくしかない思考に区切りをつけ、立ち上がる。 
魔王だけのせいではないが、どうにも暗く、唾液が苦くなるようだ。 

勇者「どっちにせよ、引き返せないんだ」 

旅の最中、出会った人々の顔を思い浮かべる。 
渋い顔をしていたが、襲ってきた怪魚を倒してから、勇者の為に船を使わせてくれるようになった船長。 
コボルトの被害に悩んでいた、ある村の長。 
ダンジョンの奥深くから助け出した、エルフの娘。 
勇者の生まれた国の、この世界の住人と比べても見劣りしないほど美しい姫君。 

何の解決にもなりはしないが、ネジを締めなおす事はできた。 
部屋を出て、どこへともなく歩いていく。 
気の赴くまま、城内を散策しようと。 

見て回ると、やはり淫魔の国の城と言うにふさわしい。 
男女の交合の絵画が、廊下を彩っている。 
その中には、『神』と『人』との交わりを描くものもあった。 
どれも悪趣味ではなく、芸術作品として完成されていた。 
それこそ、芸術に対し造詣が深くない勇者さえ、魅入ってしまうほど。 

勇者「……ふーむ」 

一つの絵画が目に留まった。 
描かれているのは、豪華な寝台に寝そべる若い男に這い寄る淫魔。 
その淫魔は、どうにも見覚えがあった。 

勇者「これって……どう見ても……」 

すぐに、その正体は分かった。 
絵の中の淫魔は、サキュバスAに似ているのだ。 
蒼い肌も、上質のアメジストのような瞳も、ねじれて天を向いた角も。 
いや、これは本人と言っても良い。 

サキュバスA「……気になります?」 

勇者「うぉっ!?」 

いきなり後ろからかけられた声に、驚いてしまう。 
すぐに後ろを振り返り――そしてすぐ、絵画と見比べた。 

サキュバスA「…これ、確かに描かれてるのは私ですよ。あの第二皇子は、中々に精力に溢れていました」 

勇者「……ちなみに訊くが、これはいつの事だ?」 

サキュバスA「今から……1039年前ですね」 

勇者「相変わらずケタが凄いな」 

サキュバスA「この時は、ただ彼の童貞を奪っただけですよ」 

勇者「ただ、で済ますあたり更に凄いな」 

サキュバスA「まぁ、いい思い出ですよ。……それはそうと、厨房に行ってみては?」 

勇者「何か面白いものでもあるのか?」 

サキュバスA「ええ。……くれぐれも、見つからないように?」 

勇者「何なんだ?」 

サキュバスA「行けば分かりますわ。…ふふ」 

勇者「……そこまで言うなら」 

サキュバスA「きっと驚きますよ」 

勇者「堕女神が、『おいしくなぁれ』とでも唱えながら仕込みをしてるのか?」 

サキュバスA「…………」 

勇者「おい」 

サキュバスA「…そういう日もありましたね、確か」 

勇者「何か、どんどんイメージが崩れていく」 

サキュバスA「い、いえ。……ともかく、行ってみてください」 

勇者「……分かった」 



物陰から、厨房を覗き込む。 
広い厨房の中には、堕女神と、手伝いが二人ほど。 
堕女神は大鍋の前から離れず、火加減を見ながら、ときおり灰汁を掬っているようだ。 

堕女神「……もう少し、塩……?」 

言って、塩を一つまみ投入する。 
かき混ぜ、小皿にスープを取る。 
左手で小皿を口元に運び、啜りこんだ。 

堕女神「…良いでしょう」 

得心がいったか、大鍋をかき混ぜながら小皿を置く。 
見ていれば、たまに唇に指先を当て、俯いていた。 
何日か前の朝食の時にも、その様子は見かけた 
彼女の癖なのか、それとも、つい最近になってからなのか。 
それは、勇者には分からない。 

堕女神「……『美味しい』と、言ってくださるでしょうか」 

灰汁を掬いながら、一人呟く。 
その様子を見て、勇者は顔を引っ込め、厨房から離れて行った。 



勇者「…………………」 

サキュバスA「あら、陛下。ご覧になられましたか?」 

勇者「……ああ」 

サキュバスA「いかがでした?」 

勇者「もう、何つーの。『お前誰だ』って感じ」 

サキュバスA「可愛いでしょう?……陛下も罪なヒトですわね、本当に」 

勇者「別に怒らないけど、お前は本当にアレだな、言葉遣いから何から」 

サキュバスA「私をそうさせたのは陛下ですわ」 

勇者「それも俺のせいか?」 

サキュバスA「ええ」 

勇者「即答かよ」 

サキュバスA「しおらしく振舞うのもわざとらしいでしょう?」 

勇者「自由な奴だな。初日とは大違いだ」 

サキュバスA「初日……?」 

勇者「ああ、いやこっちの話」 

サキュバスA「?」 

勇者「ともかく、五日前とは全然違うぞお前」 

サキュバスA「というより、これが素ですので」 

勇者「なぜ演じるのを止めたんだ?」 

サキュバスA「……今の陛下なら、受け入れてくれると思いましたので」 

勇者「…何だって?」 

サキュバスA「何故でしょうね。自分でもよく判りませんわ」 

勇者「………まぁ、続きは今夜だな」 

サキュバスA「さてと、そろそろお昼ですわね。……それでは、失礼致します」 

勇者「…何だと言うんだ」 

メイド「陛下、こちらにいらしたのですか?」 

勇者「何だ、どうした?」 

メイド「はい。お食事の準備が整いましたのでお呼びに」 

勇者「分かった、すぐ行くよ」 

メイド「沐浴の準備も済んでおりますので、いつでもどうぞ」 

勇者「ありがとう。……やっぱり、我が家が一番、か」 



食事中 

勇者「……なぁ」 

堕女神「はい、何でしょう」 

勇者「見すぎ」 

堕女神「…失礼しました」 

勇者「………」ズズ 

堕女神「お味はいかがでしょうか」 

勇者「美味いよ。視察のはずが色々と回るはめになったけど、これが一番だな」 

堕女神「勿体無きお言葉です」 

勇者「それだけか?」 

堕女神「と、申されますと?」 

勇者「……スープを火にかけながら、『おいしくなぁれ☆』って」 

堕女神「そんな事は言ってません」 

勇者「……言ってないのか、残念」 

堕女神「私はどういう位置付けなんですか」 

勇者「それはともかく、さっきから口元が緩んでるな」 

堕女神「………いえ」 

勇者「今さら引き結んでも手遅れだ」 

堕女神「…………」 

勇者「話を変えるが、この後何か予定は入ってるのか?」 

堕女神「いえ。予定では今頃南方の砦の視察から帰る途中ですので。今日は、体をお休めください」 

勇者「…言葉に甘えるよ。流石に、色々と堪えた」 

堕女神「お食事が済みましたら、体を清めて、少し眠るがよろしいかと」 

勇者「そうするかな。……さて、ご馳走様」 

堕女神「……残さず、食べて下さるのですね」 

勇者「…?」 

堕女神「私の作ったものを、残さずに」 

勇者「当たり前だろ?」 

堕女神「あの時、褒めて下さいましたね」 

勇者「それが?」 

堕女神「………貴方は、『誰』ですか?」 


喉の奥、うなじから上の辺りが重く、震えた。 
突飛すぎる。 
そのきっかけも、言葉も、全てが予想外すぎる。 
彼女の料理を褒め、そして残さず平らげた。 
それが―――彼女には、違和感だったと。 


勇者「質問の意味が、分からない……な」 

堕女神「あまりにも、違いすぎるのです」 

勇者「え…?」 

堕女神「隣国に対しての措置。私に対しての態度。……何もかもが」 

勇者「…………」 

堕女神「……差し出がましい事とは存じますが、どうかお答えを。……貴方は、『誰』なのですか?」 

勇者「……俺、は」 

堕女神「…はい」 

勇者「上手くは説明できない。明日の夜、部屋に来てくれ。……そこでなら、全てを話せる」 

堕女神「明日?」 

勇者「……ああ。明日が、俺が『ここ』にいられる、最後の日だ」 

堕女神「……分かりました」 

勇者「『俺』が嫌いか?」 

堕女神「…………」 

勇者「まぁ、いい。それも、明日だ」 

堕女神「はい」 

勇者「……だが、信じてくれ。お前の料理は、本当に美味かったんだ」 

堕女神「そう……申されても」 

勇者「今までに食べたどんなものよりも、美味かった。『勇者』をもてなす為の晩餐じゃない。 
    誰かが、心を込めて作ってくれる料理。……美味かった」 

堕女神「……」 

勇者「それじゃあ、な。……少し休んだら、風呂に入って少し眠るよ」 

少しの休息の後、勇者は浴場へ向かった。 
二回目だというのに、不釣合いに広い浴場は、馴染んだ我が家の風呂そのものだった。 

湯煙の中、適温に保たれた湯に体を沈める。 
肌から染み入るような、体表から毒素が抜けるような、何とも言えない至福の時。 
一瞬の至福の時を超えると、重苦しく、斧刃のように心に圧し掛かる事実。 

明日の夜に眠り、目が覚めると自分は消えている。 
魔王の前に、対峙する事になる。 
それを今さら恐れたりはしない。 
魔王を倒すという気概は、微塵も薄れていない。 

だが、失われる。 
この世界の、全てを。 
堕女神の料理を味わえない。 
サキュバス達との交合の快楽も。 
この素晴らしく満たされた時間の、全てが。 


勇者「一ヶ月って言えば良かったな」 

冗談めかして、鼻で笑いながら漏らす。 
無論、本気ではない。 
ただ、あまりに短くて。 
せっかく、あの堕ちた女神も柔らかい態度を見せるようになったのに。 
サキュバス達とも、気のおけない付き合いができるようになったのに。 
この世界を取り巻く環境と、力関係が理解できてきたのに。 
それが、あまりに惜しい。 

勇者「はぁ……」 

大きな溜め息が、誰もいない浴場に響く。 
一人ではあまりにも広い。 

勇者「上がろう、どうにも今日は落ちるな。……少し、寝よう」 

水面を波立たせて、立ち上がる。 

その時、踏み締めた床の感覚が消えた。 
鼻の奥から頭痛が昇って来て、それが頭頂に達するのを感じた途端、視界が歪んだ。 


次に感じたのは、したたかに左肩を強打する痛みと、床の冷たさ。 
最後に――少しずつ、暗転していく世界。 




誰かの、声が聞こえた。 
無意識下の幻聴なのか、それとも、本当に誰かが語りかけてくるのか。 

無造作に広がる茫漠とした韻律が、”こより”を作るかのように徐々にはっきりとしてくる。 

???「――起きてください」 

勇者「誰、だ」 

???「私を、お忘れですか?……『勇者』よ」 

勇者「…お前は」 

???「貴方に力を授け――いえ、目覚めさせた存在」 

勇者「……『女神』だな。堕ちていない方の」 

???「………」 

勇者「これは、夢か?……今度は、一体何を押し付けてくるんだ?」 

女神「……ごめんなさい」 

勇者「…謝る前に、何に対してなのか言ってくれよ」 

女神「貴方を……『勇者』にしてしまった事に」 

勇者「それの何が負い目だ?」 

女神「魔王の災いを止める為に、私は正しい事をしたと思っています。……『勇者』を覚醒させるしかなかったのですから」 

勇者「……謝りたいのはそれじゃない、か」 

女神「『勇者』でなければいけなかったのです。古来より、『魔王』は『勇者』に打ち倒される。その因縁は、私とて抗えません」 

勇者「……………」 

女神「絶対の真理なのです。『魔王から逃げる事ができない』のと同じように」 

勇者「……ふん」 

女神「……?」 

勇者「今言ったそれは、違うんだ。俺は、旅の中でそれを知った」 

女神「え?」 

勇者「魔王が怖くて逃げようとして、それでも逃げられずに殺されてしまう人も、確かにいるさ」 

女神「……」 

勇者「…でも、そうじゃなかった人達もいっぱいいた。無名の兵士だったり、叩き上げの十人隊長だったり、あるいは『父親』だったり」 

女神「と、言いますと……?」 

勇者「目の前に、世界を恐怖に陥れる『魔王』。一度逃してしまえば、次に姿を見られるのはいつなのか。 
    そもそも、命があるうちに対峙する事ができるのか分からない。そして、今自分は生きて目の前にいる」 

女神「…………」 

勇者「…逃げる事など考えられなくなる人がいる。ここで倒せば、それで世界は救われる。 
    ――だから、考えるんだ。『魔王から、逃げるわけにはいかない』って」 

女神「それは……無謀に過ぎます」 

勇者「分からないよ。貴女には。……ともかく、『魔王から逃げられない』は、魔王の言葉じゃない。俺達の、人間の言葉なんだ」 

女神「……つまり?」 

勇者「血を引く勇者の末裔ではなくても、『魔王』と戦う事はできるんだ。岩に刺さった剣を抜けなくても、雷電の剣撃を扱えなくても」 

女神「……ですが……」 

勇者「上手く言えないが。……『勇者』は、任命されるものじゃない。自分で『勇者』になるんだ」 

女神「………」 

勇者「ある若い新兵が、魔王に一太刀を浴びせ、血を流させるのを見た事がある。……彼は死んでしまったけれど、 
    その時は紛れも無く……『勇者』だったよ」 

女神「そんな……非現実的な」 

勇者「心配しなくていい。それでも俺は、魔王を倒す。……だから、もう。『勇者』を任ずる必要は、無いんだ」 

女神「…初めて、です。そのような言葉を頂いたのは」 

勇者「そうか。ともかく、世界は……貴女達が思うより、『大丈夫』なんだって事を俺は言いたいんだ」 

女神「……ごめんなさい。あなたの人生を、奪ってしまって」 

勇者「全く怨んでいない、と言えば嘘になるな。……この世界の俺は、『女神』を憎んでいるらしいから」 

女神「…憎んでください。怨んでください。……何ならば、魔王を倒してから、私を殺して下さっても構いません」 

勇者「そんなつもりは、今は無いよ」 

女神「え……?」 

勇者「俺は、力を貰ったおかげで護る事が出来た。仲間の命もそうだし、助けてくれた人達も」 

女神「…………」 

勇者「貴女がいたから、俺はみんなを守れた。………ありがとう。今は、そう言いたい」 

女神「…私に、礼を?」 

勇者「…ああ。貴女のおかげだ。貴女のおかげで、俺は守る力を得られた。感謝しているよ」 

女神「…………」 

勇者「さて、他に話はあるのかな?」 

女神「……いえ。そろそろ、目覚めの時です。………『勇者』よ、あなたは……紛れも無く、『勇者』です」 


女神の言葉が終わり、再び世界が明るくなる。 

少しずつ開けていく視界に、最初に映ったのは、堕ちた女神の顔。 
血と闇に染まった瞳が、勇者の顔を見つめていた。 
何故か、それは勇者の心に、底知れぬ安堵をもたらした。 

堕女神「気がつかれましたか?」 

勇者「……俺、は……?」 

堕女神「浴場で倒れているのを、使用人が見つけました。……僭越ではありますが、寝室に運ばせていただきました」 

勇者「そうか」 

堕女神「遠征の疲れが祟ったのでしょう。……少し、お休みを。夕食は、食べやすいものをこちらにお持ちしました」 

勇者「…助かるよ。本当に。ところで、今は何刻だ?」 

堕女神「日はとうに沈みました。……今、お食べになりますか?」 

勇者「ああ、頼む」 

堕女神「はい、承知いたしました」 

台車の上の、皿にかぶせられたクロッシュが外される。 
消化に良いように、ゆるく仕上げられたリゾットが載っている。 
上に振られたハーブの香りが鼻腔をくすぐり、疲れた体にも食欲を沸き起こさせる。 

堕女神「腕は、動きますか?」 

勇者「…………」 

問いに、勇者は沈黙で答える。 
わざとではなく、腕も、今はいう事を聞いてくれそうにない。 

堕女神「…………口を開けてください、陛下」 

スプーンを持ち、リゾットを一すくいして、まず堕女神の口元に運ばれる。 
唇が窄み、スプーンの上のリゾットに息を吹きかけ、冷ます。 
その後、勇者の口元へと持っていかれる。 

勇者「……うん。美味しいよ」 

堕女神「…………///」 

勇者「俺は、どれぐらい眠っていたんだ?」 

堕女神「五時間ほどです」 

勇者「…何か、寝言は言ってなかったか?」 

堕女神「いえ。静かに寝息を立てていらっしゃいました」 

勇者「……そっか」 

堕女神「……これを食したら、もう一眠りして下さいませ。休息が必要です」 

勇者「そうさせて貰うよ。…ありがとう、堕女神」 

堕女神「いえ、これが私の務めですから」 

勇者「硬いんだな」 

堕女神「…………」 

勇者「黙るなよ。……もう一口、くれ」 

堕女神「はい」 

ふー、と息をかけ、リゾットが口に運ばれる。 
良い温度に冷まされた米が口へと入れられ、良く煮込まれたスープの香りと、ハーブの香りが広がる。 
やわらかく煮られた米の感触が優しく、滋養が体の細胞一つ一つにまで染み込むようだ。 

――そうして、全てを平らげた勇者は、しばしの眠りに就いた。 



夜が深まった頃、寝室を訪れる者がいた。 
扉が叩かれるより早く、勇者はそれに気付いて目を覚ます。 

勇者「誰だ?」 

???「さぁて、誰でしょうか?」 

勇者「……呼んだのは俺だったな。入れ」 

???「失礼します」 

勇者「…待ってたよ。………と言うのも白々しいかな」 

サキュバスA「ええ、全くですわ」 

サキュバスB「陛下、体は大丈夫ですか?」 

勇者「ああ。多分疲れが溜まってるだけだと思う」 

サキュバスA「それとも、精気を吸われましたか?隣国の淫魔に」 

サキュバスB「えええ!?」 

勇者「……かもな。性器は吸われなかったけれど」 

サキュバスA「あら、中々の切り替えしですわね」 

勇者「お前に合わせたんだよ」 

サキュバスA「それで、どうなさいます?」 

勇者「……どう、って?」 

サキュバスA「ふふふ、分かっていらっしゃるのでは?」 

勇者「状況からしてそうなるよな、確実に。……ところで、B」 

サキュバスB「はい?」 

勇者「やけに静かだな」 

サキュバスA「そうねぇ。何だか様子がおかしいわ、最近ずっと」 

サキュバスB「そんな事……無い、です」 

勇者「…お前こそ、熱でもあるのか?」 

サキュバスA「……それとも、気が乗らないのかしら?」 

サキュバスB「い、いえっ!」 

勇者「別に怒らないぞ。……体調が悪いなら、正直に言ってくれ」 

サキュバスB「……怖いんです」 

勇者「何が?」 

サキュバスB「わかんないですよ。……嫌じゃないし、嬉しいんです。……でも、怖いんです」 

サキュバスA「……はー、そういう事なのね」 

勇者「?」 

サキュバスA「もう、野暮な方ですわ。……さて、夜は短いのですから愉しみましょう?」 

勇者「ああ。……こっちに来いよ、B」 

サキュバスB「はい……陛下」 

サキュバスA「久々ですわね、三人でというのは。最近はずっと二人きりで夜を明かしてましたものね」 

勇者「寂しかったのか?」 

サキュバスA「蜘蛛の巣が張ってしまいますわ」 

勇者「大げさな」 


サキュバスBを抱き締めながら、ベッドに背から倒れ込む。 
軽い衝撃に彼女の喉が震え、悲鳴ともつかない声が漏れ出た。 

サキュバスA「……ふふふ、久しぶりですね。……まず、は」 

次いで、もう一人の淫魔がベッドを軋ませながら這い寄ってきた。 
そのまま真っ直ぐ、勇者の股間へ手を伸ばす。 
下着とズボンの生地越しに、指先を感じた。 
猫の喉元を撫でるような、紅を引く時のような、優しい圧で。 

勇者「…っ」 

サキュバスA「あらぁ、もうこんなにさせてますの?……私に対して?それとも、その子?」 

サキュバスB「…私、ですよね?」 

耳元から、Bの子供が内緒話を囁くような声。 
下方からは、Aの挑発するような妖艶な声。 

勇者「……両方、じゃダメかな」 

サキュバスB「……ダメです」 

首筋に、暖かく吸い付かれるようなくすぐったさを感じた。 
ちゅ、ちゅ、という音が断続的に聞こえ、息をつく声も同じく。 

その間に、サキュバスAがズボンを下ろしにかかる。 
ベルトを外し、少しずつ、勇者の腰が浮いた瞬間を狙って、確実に。 

隣国の女王と、まるで立場が逆だ。 
思い至った勇者が、少しばかりの羞恥心を覚える。 
あの女王も、こんな気分だったのかと。 

思いを馳せている間にも首から鎖骨への愛撫が続き、こそばゆさに意識が何度も、何度も引き戻される。 

勇者「……っや、めろ……!」 

サキュバスA「そんなに熱っぽく仰っても、説得力がありませんことよ。……ほら、もう既に」 

流石は淫魔、というべきだろうか。 
ズボンはとうに脱がされ、彼の身を包むものはもう、下着のみとなっていた。 

サキュバスA「ふふ……凄いですわ。こんなに……盛り上がって……」 

再び、彼女の指先が這わされる。 
隆起した部分からゆっくりと下へなぞり、やおら指先を引く。 

そして――下着越しに、陰嚢を撫でた。 

張り詰め、硬直して敏感になっていた陰部への、奇襲とも言える刺激。 
それだけで、まるで達してしまったかのように背を反らせる。 

サキュバスB「Aちゃん、ずるいよ。……私も」 

首筋から彼女の口が離され、蛞蝓の這ったような、唾液の後が首筋から鎖骨へ残される。 
ところどころに吸われた痕も、赤く残っていた。 
口を離した彼女はベッドの上でもぞもぞと動き、勇者の胸の上に、またがるような姿で尻を向け、下半身の高まりへ向かい合う。 

サキュバスA「あら?……陛下の上に、なんてはしたないんじゃないかしら?」 

サキュバスB「だって、私も……見たいんだもん」 

勇者「…お前、ら……!」 

サキュバスA「ふふ。陛下、この子のお尻をじっと見ながら怒られましても」 

サキュバスB「…ねぇ、早く脱がせちゃお。苦しそうだよ」 

サキュバスA「いつの間にか、随分と楽しそうね。……ええ、その方がらしくていいわ。それじゃ」 

視界を小ぶりな尻で遮られながら、下着を脱がされる。 
小さな薄茶の窄まりと、毛の薄い秘所を目の前に突きつけられると、抵抗する気も失せてしまった。 
息がかかるほど間近で彼女の秘所を観察し、同時に自らのそれも観察されている。 

サキュバスB「わぁ……。こんなに大きくなるんですね」 

サキュバスA「ええ、…お口に入りきるかしら?」 

反り返ったペニスの、今にも破裂しそうなほどに膨れ上がった亀頭に息が吹きかけられる。 
うっすらと冷たい息が刺激となり、勇者の喉の奥が震えた。 
その反応を見逃さなかったか、妖艶な淫魔は、露わになった陰嚢へ、優しく掴むように手を伸ばした。 

勇者「うぅっ……!」 

触れた瞬間、足がぴんと伸びる。 
亀頭と陰嚢、先端と根元に同時に加えられた刺激に、耐えられずに生娘のような喘いでしまう。 

反射的に在り処を求めた手は、右は目の前に突き出されたままの臀部へと真っ直ぐに伸びて尻肉を掴み、 
左は、彼女の細い腰側から回りこみ、同じく尻肉を掴んだ。 

サキュバスB「うひゃっ……」 

驚いたような、しかし甘さも入り混じる声が下方から聞こえる。 
サキュバスAのくすくすという笑いと、声を出してしまった彼女をからかうような声も。 

勇者「……く、そ……!」 

されるがまま、という屈辱を誤魔化す為か、彼は指先を目標へと動かす。 
思い起こされるのは、彼女と夜を共にした、翌朝の出来事。 
悪戯心で放った行為は、彼にとっては意外な結果をもたらしたのだ。 

ずぷり、と音を立て、左手の人差し指が彼女の、”後ろの穴”へと吸い込まれた。 
中は熱く、指が折れそうなほどにきつく締め付ける。 

サキュバスA「?……息が荒いわね」 

彼女からは死角となっているため、サキュバスBの陰部になされている行為は見えない。 
確認できるのは、尻を捕まえられた彼女が、息を乱して勇者への奉仕を休めている事だけ。 

更に深く、ゆっくりとねじり回すようにして、第二関節までを沈めていく。 

サキュバスB「あっ……あ……」 

サキュバスA「…本当に、どうしたの?」 

目の前の同族に心配されながら、必死で彼女は堪えようとする。 
『尻穴を弄られて感じている』などと言える訳がない。 
異物感と、尻に感じる異常な熱さが彼女の心を侵していく。 
口はだらしなく開かれ、一筋の涎が垂れ落ちた。 

一度指を引き抜こうと試みる。 
しかし、あまりにきつく食い締められるため思うようにはいかない。 

サキュバスB「あうっ……ん……!」 

サキュバスA「陛下、一体何をなさっているんです?」 

好奇心に駆られたか、一度体を起こして回り込もうとする。 
されるがままの小さな淫魔は、それに気付いて、絶え絶えな声を捻り出す。 

サキュバスB「…だ、め……Aちゃ……見、ない……で……」 

当然というか、それを意に介する彼女ではない。 
巴型に絡み合う二人の横から回り込み、勇者が彼女の陰部に何をしているのか、じっと見つめた。 

サキュバスA「あらあら。……貴女、こんな事になってたのね?」 

恥ずかしさに、胸から顔までが赤く染まってしまう。 
溜められていた涙が、勇者の下腹部へ零れる。 

勇者「…っ……力、抜けって……!」 

サキュバスA「ほら、陛下がこう仰ってるんだから。……ね?」 

サキュバスB「ひっぃ……!」 

勇者のものとは違う、たおやかな指先を秘所に感じる。 
秘裂に指先が添わされ、不意打ちの感覚に締め付けが緩み、勇者は、その隙を逃すまいと素早く指を引き抜く。 

サキュバスB「うあぁぁっ!」 

熱の塊が、アヌスから一気に引き出される。 
不浄にも似た悦びが、全身の神経を引き締め、ぞわぞわと背筋を経由してうなじを冷たく、そして甘く痺れさせる。 
指先を失った穴が二、三度ヒクつき、快楽の余韻を吐き出しているかのようだ。 

サキュバスA「嫌ねぇ。…なんて声を出すのかしら。貴女が楽しんでどうするの?」 

勇者「……いや、俺も楽しいよ。お前もだろ?」 

サキュバスA「うふふ……陛下には、かないませんね。……さて、どうしましょうか。勿体無いですわね、このままだと」 

勇者「ああ、全く。……何か思いつくか?」 

サキュバスA「ええ。……陛下は、そのままの姿勢で弄びください」 

言われたとおり、再び、彼女の尻へと指先を走らせる。 
艶めかしく収縮を繰り返す小さな窄まりへ、まず息を吹きかけた。 
ぴくん、と反応して尻を咄嗟に引いたが、すぐに太ももに絡めていた左手に力を入れ、引き戻す。 

勇者「…濡れてる」 

アヌスから僅かに下、本来性交に用いるべき部分からは、とろとろと蜜が溢れていた。 
指摘しても、彼女からの目立った反応は無い。 
羞恥心を押さえ込みながら、唸るような声を上げ続けるだけ。 

次に、勇者は彼女の秘所から蜜を掬い採り、指先にまとわせる。 
糸を引く粘性の液が人差し指、そして中指にぬめりを加えた。 

勇者「いいか?……力を抜くんだ」 

いよいよと告げれば、気持ち程度、尻穴が脱力し、無駄な力が抜かれた。 
そこへ、愛液をふんだんにまとった中指がまず入り込む。 

潤滑剤のおかげか、それともこなれたためか、抵抗はほとんどなく半ばまで呑み込まれる。 
内部には柔らかく熱い肉が満ちて、指先を動かせば、熱い感覚に包まれた。 

サキュバスB「んっ……は、ぅ……」 

勇者「ひょっとして、苦しいのか?」 

サキュバスA「いえ、物凄く良いお顔をしてますわ。顔も赤くて、眼がうるうるして、涎まで……ああ、素敵よ」 

勇者「……悦に入ってるなぁ、おい」 

サキュバスA「倒錯者の演技も中々にクセになりますもの」 

勇者「多分聞こえてないな、こいつには」 


ぐにぐにと腸内を指先でまさぐられ、べったりと勇者の上に身を投げ出してしまっている。 
勇者の下腹部にだらだらと涎が垂れ、怯え竦ませるような、甘美な刺激に悶えるような、小さな声を上げる。 

サキュバスA「もう、ダメじゃないの。……ほら、しっかりしなさい」 

サキュバスB「…む……りぃ……無…理だよぉ……」 

サキュバスA「貴女も、陛下にご奉仕しないと。……ほら、ちゃんと握って」 

強引に手を取り、目の前に屹立した男根を握らせる。 
その熱さに、一瞬だけ意識がはっきりと取り戻された。 
時折さらに硬さを増すように全体が揺れ動く。 

サキュバスB「はぁ……、あ……う……」 

力なく男根を握り、ゆっくりと扱き始める。 
何とか応えようと思ってはいるようだが、あまりにも遅く、気が入っていない。 
中ほどを握り、ただ上下させているだけ、と言っても過言ではない。 

勇者「……おい、降参か?」 

腸内を思うがままに蹂躙していた中指を引き抜き、爪の根元が見えた頃、再び突き入れる。 
異物が出て行く感覚、そして再び侵入してくる感覚。 
赤く充血した腸壁が伝えてくる、焼け付いてしまいそうな圧倒的な快感。 
未だ、それには慣れる事ができない。 
背徳感、熱っぽい高揚感、それを見られ、楽しまれている羞恥心と湧き起こった被虐願望。 
脳が熱い。 
色々な感情が脳内を暴れ回り、熱を帯びていく。 

考える事などできない。 

そして、『全てを捨てて、みっともなく愉しんでしまえ』という悪魔の囁きが木霊する。 
求めてしまえば楽になれる。 
だけど、それだけは。 

悪魔の提示した選択肢と理性との間で揺れていると、外部から与えられる刺激の量が増大した。 

勇者「…何だ、お前も加わるのか?」 

サキュバスA「だって、可愛いんですもの」 

勇者「まぁ、いいかな」 

秘所に細い指が沈む感覚で、サキュバスBは何が起こったのか理解する。 
横から、サキュバスAが片手で前の穴へ愛撫を加えているのだ。 
洪水のように溢れ出す愛液と、何度も開いて閉じてを繰り返す、いやらしい部分へ。 
8の字に繋がった括約筋が、連動して収縮と弛緩のループを続ける。 

勇者「……そろそろ、もう一本増やすか」 

サキュバスA「ええ、よろしいかと。……たっぷり可愛がってあげましょう」 

指一本では既に余裕と見たか、中指に続き、人差し指をもアナルに沈めていく。 
たっぷりと愛液をまとった指を、押し返す余裕は無い。 
侵入の際は抵抗があり、苦しさとほんの少しの痛みを届けたが、すぐに人差し指まで、くわえ込まれてしまった。 
その後は、更に腸内を動き回らせ、バリエーションに富む動きで彼女の情念を昂ぶらせていく。 

指の間を広げ、肛門をほぐすように押し広げる。 
二つの指先で、腸内の熱い肉襞を傷つけぬように擦り込む。 
あるいは指を曲げ、膣の方向へと腸壁越しに刺激する。 
示し合わせたように、膣内を同じように蹂躙していたサキュバスAと、 
膣壁と腸壁をそれぞれ隔てて指先を付き合わせる。 

もう、限界だ。 
我慢などできるはずもない。 

サキュバスB「……せ…て……」 

サキュバスA「何か言った?……聞こえないわ」 

サキュバスB「イか……せ…て……くら……はい」 

勇者「…聞こえないよな?」 

サキュバスA「はい。声が小さくて聞こえませんわ」 

サキュバスB「お願い…イき…たいんです……!」 

勇者「どうやって?」 

サキュバスA「ええ、きちんと説明してごらんなさいな」 

明らかな焦らしに、流石に口篭る。 
分かっている。 
この二人は、意地悪く楽しんでいるんだ。 
分かってはいても、もはや火のついた本能に逆らう事はできない。 

サキュバスB「…お尻、と……おま○こ…を……めちゃくちゃに……掻き回して……イカせ、て…ください……」 

サキュバスA「はい、良く言えました。……でも、ダメなのよ。ごめんなさいね?」 

サキュバスB「え……?」 

サキュバスA「……もっと大きなものが、目の前にあるじゃないの」 

勇者「やっぱりそうなるのか」 

予想通り、と言わんばかりの勇者が彼女の尻から指を引き抜き、サキュバスAも同じく、指をぬるりと抜く。 
直後、まるで蛸のような身のこなしで彼女を後ろから抱え込み、太ももを掴み、足を大きく開かせた姿で勇者の上からどかせる。 
子供に排尿を促すようなポーズをさせたまま、後ろからがっちりと押さえつけた。 

勇者「………いい、のか?」 

サキュバスA「ええ。……お好きな方へどうぞ」 

勇者「正直、まだ怖いしな。……今日は、こっちにしておこうか」 

サキュバスA「あら、お優しいのですね」 

怒張しきった男根を軽く押さえながら、サキュバスBの「前」の穴へと誘導する。 
いくら淫魔であるとはいっても、指一本でもきつい位の穴に挿入するのはどこか気が引けるようだ。 
優しさというより、臆病と言っても語弊は無いかもしれない。 

鼓動が収まらない。 
屈辱的な姿勢を取らされておきながら、抵抗する気も起きず、そもそも体に力が入らない。 
入れて欲しい。 
はやく、あの逸り切った騾馬のような、凶暴なものを――。 

最後まで述べる間もなく、秘所へとそれが進入する。 
恥骨の軋む音さえ聞こえてきそうなほどに、彼女の小さな体に、不釣合いな逸物が。 
肉をかき分ける音、ずぶずぶに濡れた膣内が立てる卑猥な水音。 
彼女には、どこか現実味を感じられない。 
魂が抜けて上空から見ているような、酷く信じがたい淫靡な空気と、それに中てられた快感。 

サキュバスA「ふふふ……ほら、繋がってるのが丸見えよ。恥ずかしいわね。おま○こ、あんなに充血しちゃってるわ」 

耳元で状況を説明され、あまりの恥ずかしさに俯き、黙り込む。 
垂れた前髪で、サキュバスAはもちろん、正面から彼女に欲望を叩きつけている勇者でさえも表情が見えない。 

サキュバスA「……せっかくだし、私もいじめちゃおうかしら」 

脚を強引に開かせていた腕を閃かせ、両方の乳房を後ろから鷲掴みにする。 
ぎゅうっと強めに掴んだ為に、サキュバスBの顔が歪み、痛みを露わにした。 

サキュバスB「痛っ……痛い、よ……」 

サキュバスA「あら?……痛くされるの、好きじゃないの?」 

サキュバスB「それっ……は……Aちゃん……じゃ……」 

サキュバスA「聞こえないわね」 

わざとらしく話を切り、乳房の先端、痛々しいほどに硬く張った乳首を同時に抓り上げる。 
乳首が千切れてしまいそうなほどに潰れて形を変え、それでも相反しない痛みと快感に、声すら出せずに酔い痴れる。 

勇者「くぅっ……!急に……締め……」 

サキュバスA「あら、ごめんなさい。……ですが、陛下。我慢は体に毒ですわよ」 

子供じみたやり取りの間にも、手の中で、乳房が形を変える。 
下から持ち上げるように揉んだり、乳首を強く摘まんだり、押し潰すように力を加えたり。 
その度に切なげな声が聞こえ、犯されている膣内の締まりが強まる。 

サキュバスB「……お願……い…も…う……」 

サキュバスA「うーん、遊びすぎちゃったかしら?……いい感じに溶けちゃってるわねぇ」 

サキュバスB「イき…たいぃ……イきたい…の…」 

勇者「ああ。…俺も限界だ」 

ストロークが強まり、濡れた肌のぶつかり合う、間の抜けた音が響く。 
乳房への、サキュバスの手管による愛撫。 
太ましく膨張した怒張による、容赦ないピストン。 
乗算のように強まり、その快楽は留まる所を知らない。 

サキュバスB「っ…だめ……!もう……イ…く……!」 

びりびりと全身に広がる、快楽の波紋。 
呑み込まれながら、彼女の体は何度も何度も跳ね狂う。 
ぎくぎくと痙攣する膣の締めに、勇者も遂には耐えられなくなった。 

勇者「うっ……俺、も……!」 

奥深くまで叩きつけて、直後、身を折りながら彼女の中に吐き出す。 
腰が砕けるような快感と、痙攣した膣肉が蠕動するかのように震え、男根全体をマッサージするかのように吸い取る。 
何度めかの発射だが、やはりこの国は、「淫魔」の国だ。 
いや、世界自体が「淫魔の世界」と言ってもいい。 
未通であったはずの隣女王も、二人のサキュバスも、堕ちた女神も、例外なく、それでいて違う種類の「名器」である。 
淫魔の具合を100とするなら、人間は全て0だとも言えてしまいそうだ。 

射精が終わらない。 
陰嚢が虚脱してしまいそうなほど、干からびてしまいそうなほどに吸い込まれていく。 

サキュバスB「きっ……ぃ……っ」 

達した直後で敏感になっていた膣穴に、情け容赦なく大量の精液を叩きつけられ、一層強く全身が跳ね上がる。 
食い縛られた歯の隙間から、涎が溢れてくる。 
びくん、びくんと豊かな乳房を揺らしながら、背を反らして――『イキ狂う』。 
そして、少しずつ……静かに、なっていった。 

サキュバスA「……B?大丈夫かしら?」 

返事は、返ってこない。 
半開きのまま蕩けた目から、涙が溢れている。 

サキュバスA「…虐めすぎですわね。失神してしまったようですわ。全く、陛下ったら」 

勇者「っふぅ……ふぅ……。俺…のせいか?」 

サキュバスA「ふふふ……。さて。私にはお情けをいただけないのですか?」 

勇者「お、い……もう一戦、か?」 

サキュバスA「…陛下なら、きっと大丈夫ですわ。……とりあえず、お清めいたしますね」 

言うが早いか、サキュバスBの秘所から引き抜かれ、凶暴さが形を潜めた逸物へ口を寄せる。 
ベッドに脚を投げ出すようにして座っている勇者に、四つん這いになるようにして。 

半ばまで、一気に咥えられる。 
そして、こびりついた精液を丹念に舐め取っていく。 
手は使わず、口だけで。 
彼女の髪が太ももにさわさわと当たり、妙にくすぐったい。 

時間にして、30秒ほどか。 
根元に帯びた愛液、先端から僅かに染み出た精液の残滓までを清め終わり、一度口内に溜める。 

最後に、口の中でそれらをまとめ、味わってから――飲み下す。 
目を閉じ、喉を艶めかしく鳴らして、引っかかりを気にするように何度も、喉の奥に追いやる。 

サキュバスA「…ふふ、ご馳走様でした」 

目尻に涙を浮かべながら、微笑を勇者に向ける。 
収まったとはいえ、根元まで咥え込んだのだから、反射で涙腺が緩むのも無理はない。 

彼女の、そんな顔を見て。 

何故か――興奮ではなく、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。 

サキュバスA「陛下、どうしました?」 

勇者「………話したい、事があったんだ」 

サキュバスA「彼女が醒めていませんが」 

横目に失神したままのサキュバスBを見る。 
よほど深く達したのか、未だ反応はない。 
もしかすると、眠ってしまったのか。 

勇者「頼む、聞いてほしい」 

サキュバスA「……何でしょうか」 

勇者「言っても……まるで、信じがたいだろうな」 

サキュバスA「構いませんわ。仰ってください」 

勇者「……俺、は……」 

サキュバスA「はい」 

勇者「………」 

サキュバスA「……『王』ではない?」 

勇者「!?」 

サキュバスA「あの朝から、態度があまりに違いますもの。薄々と気付いていましたわ」 

勇者「……そうか」 

サキュバスA「あの夜伽、女王への態度、その他全て。違いすぎます、平素とは」 

勇者「どこで、確信した?」 

サキュバスA「……たった今ですわ」 

勇者「何だと?」 

サキュバスA「状況証拠の推論を口にしただけですのに、否定しませんでした。……詳しくお聞きしても?」 

勇者「…敵わないな。……俺は……魔王と……」 


彼は全てを語った。 
魔王城へと辿り着き、最後の戦いの前に魔王が条件を提示した事。 
提示された条件に、卑しい欲望を滾らせて迷った事。 
見透かされたように、七日間の体験を提案された事。 
そして――乗った事。 
後は彼女も知っての通り、と。 


勇者「……信じられるか?」 

説明を終え、一区切りついたところで問いかける。 
荒唐無稽な説明に、さしもの彼女も戸惑っているようだ。 
間の重さを誤魔化すように、勇者はベッドサイドのランプを点ける。 

サキュバスA「…信じますわ。今更、疑う事などいたしません」 

勇者「…そうか、信じてくれるのか」 

サキュバスA「堕女神さんには?」 

勇者「………まだ、言ってない。今日の昼餉からすると、気付いているのかもしれないけど」 

サキュバスA「恐らく、彼女は気付いていますよ。『あなた』の変化に一番影響を受けたのは彼女ですから」 

胸が、痛んだ。 
彼女は今、『陛下』と呼ばなかった。 
そう仕向け、話したのは確かに自分なのに、それだけで、言い知れない虚無感が心臓に燻る。 

勇者「……彼女が作ってくれた料理。すごく、美味かったんだ」 

サキュバスA「?」 

勇者「…残さず食ったよ。そして、賞賛した。……それを、『違和感』だと彼女は言った」 

サキュバスA「…………」 

勇者「…彼女と夜を明かし、口付けを交わした。夜が明けるまで、二人きりで肌を重ねた。……それもか?」 

サキュバスA「…それは……」 

勇者「……全部、違和感だったってのかよ」 

サキュバスA「……………」 

沈黙が、勇者にとっては『親切な返答』だった。 
時として、沈黙は100の言葉に勝る説得力を得る。 
それは、残酷なほどに。 

揺れる火が、室内をぼうっと照らし出す。 
未だ眠るサキュバスB。 
ベッドの上で、脚を投げ出して天蓋を見上げる勇者。 
そして、俯き、何も言えないサキュバスA。 

勇者「……参るな、これは」 

長く息をつき、誰に言うでもなく呟く。 
消化された虚無感が、脱力感へと化け始めた。 
彼女へ施した全てが、違和感だったと知らされて、倦怠感さえ指先から侵蝕する勢いに。 

サキュバスA「…差し出がましいですが、一つだけ」 

勇者「…何だ?」 

サキュバスA「……『あなた』には比べる事はできないでしょうが、彼女も、『あなた』が来てから変わりました」 

勇者「え?」 

サキュバスA「彼女が、『あなた』の為に健気な言葉とともに厨房に立つのを。……あれは、『あなた』の為なんですよ?」 

勇者「………」 

サキュバスA「…彼女は、笑っていました。私がからかうような言葉を投げかけると、頬を染めて言葉に窮していました」 

勇者「…想像がつくよ」 

サキュバスA「……そうでしょう。以前なら、この私にも想像できませんでしたわ」 


サキュバスA「隣国の女王。……彼女も、あなたのおかげで国難を乗り越えられましたね」 

勇者「単なる偽善さ。『勇者』に疲れて、それでも『勇者』を止められない男の」 

サキュバスA「『勇者』が重いのですか?」 

勇者「……重すぎて、引きずるしかないんだよ。手を離す事もできやしない」 

サキュバスA「………」 

勇者「ともかく。……そういう訳で、明日が終われば、お別れだ」 

サキュバスA「寂しくなりますわね」 

勇者「…心が篭ってないな」 

サキュバスA「泣きながら引き留めるのは、私の役目ではありませんし、柄でもありません」 

勇者「違いないな」 

サキュバスA「……明日は、堕女神さんとお過ごしなさいな」 

勇者「……言われなくても、そのつもりさ」 

サキュバスA「………残念、ですわ」 

勇者「今度は何だ?」 

サキュバスA「あなたがこの国にいる最後の日、夜を共に出来ない事が」 

勇者「……済まない」 

サキュバスA「この子も。……もし聞いていたら、今頃、泣いて大変でしたでしょうね」 

静かに寝息を立てる彼女の頬を優しく撫で、乱れて顔に垂れた髪をどけ、整える。 
その寝顔は、安らかそうで。 
この先にある離別を知らず、ただ穏やかに眠っていた。 

サキュバスA「……この子には、言わない事にしましょう」 

勇者「………それでいい、のか?」 

サキュバスA「良くはありません。……ただ、『いつも通り』になるだけです」 

勇者「………」 

サキュバスA「…分かってはいます。告げて別れた方が、誠実だという事を」 

勇者「それなら、何故だ」 

サキュバスA「…………残酷すぎるのです。『陛下』が別人で。彼女は『それ』に恋していた、なんて」 

勇者「……すまない………」 

サキュバスA「責めてはおりませんわ。……真実を告げるのは『正しい』けれども、優しくはありません」 

勇者「…………」 

サキュバスA「……このまま、眠りましょう。”明日”を、少しでも長くするために」 

勇者「……ああ」 


促されるまま、ランプを消して二人のサキュバスを両脇に侍らせた姿で横になる。 

このまま目を閉じれば、すぐにでも眠れてしまいそうだ。 
そして、朝を迎えて最後の一日が始まる。 
二人のサキュバスの寝顔も、温もりも、もう二度と味わうことは無い。 

魅了するかのように見つめてくるアメジストのような瞳も。 
あどけなく輝かせて見つめてくる金色の瞳も。 
二度と、『勇者』を見つめる事は無い。 

最後に、何か言おうと、サキュバスAの方に顔だけを向ける。 
しかし、声が紡がれる事は無かった。 

彼女は、もう眠ってしまっていた。 
規則正しく立てる寝息が、耳に心地良い。 
疲れていたのか。 
それとも、眠る事でしか振り払えない念があったのだろうか。 

もう、それを聞くことすらできない。 
聞いても、どうする事も自分にはできない。 
だから。 

――せめても、と。 
勇者は、両側の淫魔を抱き寄せ、自らもまた、眠りの世界へと落ちていった。 





最後の日 


目が覚める。 
両側に寝ていたはずの淫魔は、いなかった。 
僅かに残る温もりは、彼が起きるよりも少し前に寝床を発った事を示していた。 

七度目の朝。 
いつもと変わらず、鳥が歌う。 
暖かい日差しが窓から注ぎ、細胞へと活力を与えるようだ。 

どんな運命の朝も、いつもと同じだった。 
変わらず日が昇り、変わらず寝床で目覚め、変わらず腹が減った。 

普段というか、これまでなら彼女らが先に寝床を出る事は無かった。 
それが、何故か無性に悲しい。 
恐らくは、サキュバスAが気を利かせたのだろう。 
Bを何と言いくるめたのかは分からない。 

二つ、規則正しくノックの音が聞こえる。 
音で分かる。 
『彼女』だ。 

堕女神「陛下、お目覚めですか?」 

いつもと変わらない、彼女の声。 
身にまとう雰囲気とは裏腹な、妙に暖かみのある声。 
それも今日が、最後だ。 

勇者「ああ、入れ」 

堕女神「失礼します」 

きぃ、と扉を開けて入ってくる。 
黒く艶やかな髪は、相変わらず美しい。 
黒鳥のようなドレスを隙無く着こなし、その所作も完全に身についている。 

堕女神「朝食の準備が出来ております。……陛下?」 

勇者「え?」 

彼女が見つめてくるので、気付く事ができた。 
自分の目から、涙が一筋零れていた。 
熱くは無い。 
すぅ、と流れるように一筋だけ。 

堕女神「……まだ、お体の具合が悪いのですか?」 

昨夜、浴場で倒れた事を思い出す。 
彼女が、身を案じて食事を運んできてくれた事も。 
そして、サキュバスAの言葉が思い出される。 

勇者「…大丈夫だ」 

涙を拭い、服を着る。 
上質な白い絹のシャツを羽織り、ズボンを穿き、ブーツに足を突っ込む。 
最後に剣を腰に帯びて、立ち上がる。 

堕女神「本日は、特に予定は入っておりません。たっぷりと、休養なさって下さい」 

勇者「ああ。……それより、早く朝食にしよう」 

最後の日。 
最後の朝。 
それでも、腹は減る。 
どんなに哀しくても、辛くても、腹は減るのだ。 
それもまた、勇者が旅の中で得た経験値の一つ。 

長い廊下を歩いていると、様々な使用人とすれ違う。 
初日と同じく、様々な姿の淫魔が働いていた。 
中には、隣国の淫魔と思しき種族もいる。 
翼のサイズや、肌の色、そして幼すぎる外見で判別できた。 

途中、中庭が見えた。 
良く整えられた庭園に、勇者の姿をした銅像が建っている。 
その正体に確信を得た今では、既に違和感は無い。 

勇者「なぁ」 

堕女神「はい」 

勇者「……この国は、美しいな」 

堕女神「…はい」 

心から漏れ出すような言葉に、彼女は驚きもせず、同調でもなく、同意した。 
傍から見ればその表情は変わらないが、勇者には、柔和な微笑を浮かべているように見えた。 

時間を噛み締めながら歩いていくと、大食堂に辿り着く。 
金糸を織り込んだ赤の絨毯が敷かれた豪華な内装が目を引く、大きく天井が高い部屋だ。 
既にふわりと朝食の香りが立ち込め、鼻腔をくすぐり、胃袋を期待で既に満たされるかのようだ。 

前日の件を考慮してか、消化に優しく、それでいて確かな風味と滋養のあるメニューだった。 

最初に出されたスープは、口に運ぶと上品な香りと風味が広がる。 
どれだけ煮込んだものか。 
恐らく、勇者が倒れてからずっとか。 
夜を徹して灰汁を掬い、具材の栄養が無駄なく溶け込み、それでいて、くどくはなく、優しく染み込み、胃を労わるような。 
そんな難題を、彼女は一晩中、追求していたのかもしれない。 

その後も、勇者の身を第一に考えたメニューが続く。 
既に体力は回復していたのだが、一口ごとに体力が更に増すような。 
とにかく彼の体力を回復させようと、考え抜かれた皿ばかり。 

勇者は、舌鼓を打ちながら、ずっと脳裏から離れない『事実』をも同時に噛み締めていた。 

二度と、この国の朝を味わう事はできない。 
彼女が起こしてくれる事は無い。 
素晴らしい朝食も、穏やかで静謐な空気も、全てだ。 

勇者「……美味いよ。いつも通りね」 

堕女神「勿体無きお言葉です」 

褒められ慣れたか、慌てる事も、赤面する事も無い。 
だがそれでも、彼女の口元には綻びが見える。 

勇者「…ご馳走様。俺は、少し中庭で過ごすよ」 

堕女神「はい。……後ほど、お茶をお持ちします」 

勇者「頼む」 

食卓から離れ、伸びをしてから、中庭へと足を進める。 
今日は、良い天気だ。 
真っ赤に照り付けている訳でもなく、適度に雲がかかった、素晴らしい表情の空だ。 
こんな日は、風を感じ、空気や緑の匂いに包まれて過ごしたくなる。 
何より――命の危険が、ない。 

午睡するのもいいかもしれない。 
この世界にいる時間は減ってしまうが、きっと気持ちよく眠れるだろう。 

等と考えを巡らせていると、すぐに中庭に到着した。 
以前と同じテラスを目指し、白いテーブルにつく。 
風が気持ちよく、暖かい。 
ふわりと舞った花びらが、勇者の視界を横切り、整えられた庭園を飾る。 

勇者「……美しい、な」 


高く青い空の下、勇者は思う。 
これが、自分の人生で最後に許された『平穏』の時なのだと。 
血生臭く危険と波乱に満ちた、旅のような人生の中での一時の休息なのだと。 

夜に向けて、日が落ちていく。 
この青空を見ていられるのも、残り数時間。 

何をするでもなく、ただ、空を含めて風景を見やる。 
30分もそうしていたら、誰かが茶器を銀製の盆に載せてやって来た。 

堕女神「…失礼いたします。お茶をお持ちしました」 

彼女はそう言って、眼にも正しい動作で紅茶を淹れる。 
湯気が立ち上り、ふわっと芳しい香りが、まるで霧が広がるように勇者の鼻へと届く。 

勇者「………」 

椅子に背をもたれさせながら、彼女の手元をずっと見ていた。 
美しいのもそうだが、彼女の手は、とても優しいのだ。 
母親の手のように暖かく、柔らかく、そして、どう表現もしようがない程に、優しい。 

堕女神「…いかがなさいました?」 

勇者「……綺麗だな、って」 

堕女神「?」 

勇者「いや、何でもないよ」 

ごまかしきれてはいないが、それでも、彼が何でもないと言うから追求はしない。 
彼女は、全くもってよくできた侍従だった。 

勇者「…ちょっと、待ってくれ」 

茶を淹れ、菓子の載った盆を置いて去ろうとする彼女を、勇者が引きとめた。 
何か不手際があったか、と軽い緊張が走り、次いで、立ち上がった勇者へ眼を向ける。 

堕女神「何でしょうか?」 

勇者「昨日、俺に訊いたな。今、答えるよ」 

堕女神「昨日?」 

勇者「『夜』と言ったが。……何故かな。今、言っておかなくちゃいけない気がする」 

思い出したか、彼女が怪訝な顔をする。 
そして、少し経ち――気付く。 
彼があまりにも哀しげな、”笑顔”を浮かべている事に。 

勇者「俺―――『勇者』なんだ」 

風が、ざぁっと吹き抜けた。 
木々を揺らし、葉がざわざわと擦れる音が聞こえる。 

堕女神「……言っている意味が、分かりかねます」 

当然の反応だ。 
今まで夜に彼女を甚振りながら、まるで吼えるかのように話していた事。 
それを、今更正面から聞かされる意味が、分からない。 

勇者「『魔王』の力で、七日間だけこの世界に留まる事ができる。……そして、今日が七日目だ」 

堕女神「……え…?」 

魔王、というのが何を指すのかは即座には分からない。 
だが、後半部分は分かった。 
彼の言葉を正しく解釈すると、そうなる。 

堕女神「……嘘、ですよね?また私をからかっているのでしょう?」 

正面から、勇者の顔を見据える。 
彼女が口元をへらへらと綻ばせているのは、言葉通りに受け止めたくない気持ちの顕れか。 
対して、勇者は口を引き結び、押し黙る。 
その目は険しく、嘘をついていない。 

勇者「…俺は今日の夜、この世界を去る。……二度とここへは戻れない」 

堕女神「…冗談はやめてください。面白くありませんよ」 

冗談であればいいのに。 
彼は、そう思った。 

どうか冗談であってくれ。 
彼女は、そう願った。 

勇者「……今日が最後なんだ。……後は、前と同じ『王』の精神が戻る」 

堕女神「……嘘」 

勇者「………」 

堕女神「『嘘だ』と言ってください!」 

取り乱し、叫ぶ。 
声の大きさに、近くにいた使用人の一人が思わず振り返る。 

勇者「俺も、そう言いたいさ」 

苦々しげではない。 
変わらぬ決意を湛えた、『男』の顔。 

認めたくない。 
その一念が彼女の心を染める。 
心臓がぎりぎりと締め付けられ、呼吸するごとに取り込まれる空気が、苦い。 

いつまで待っても、彼は表情を崩して笑ってくれない。 

口の中に苦味が満ちて、それが鼻と口の奥をつんとさせ、更に上へと昇ってくる。 

いつまで経っても表情が変わらない彼の姿が、歪んだ。 
にわかに鼻が詰まり、思う通りに空気を取り込んでくれない。 
瞼が熱く、段々と、眼前の彼の姿が更に歪む。 

勇者「………ごめん、な」 

耐え切れずに放った言葉を引き金に、涙が溢れ出した。 
頬を滝のように伝う涙が、石畳に染みを作る。 
しゃくり上げると、つられて洟が垂れ、呼吸を著しく阻害された。 
声を激しく上げる事は無い。 
それでも、普段の彼女を知る者には想像すらできない、取り乱した泣き顔。 
何万年もの年月を生きた彼女を、ここまで動揺させる言葉があるのか。 
かつて彼女を崇めていた民も、思わなかっただろう。 

堕女神「……うっ…っく……うぅ……」 

声を出さないように、洟をすすりながら泣く彼女に、勇者が近づく。 

勇者「……ごめん」 

彼女の頭を優しく引き寄せ、胸へと抱く。 
暖かさと、勇者の匂いに包まれ、彼女が顔を埋めて泣き濡れる。 
じわりと染み込む彼女の涙を皮膚で感じた。 
こんなにも、熱いのか。 

自分との別れを、こんなにも哀しむものなのか。 


勇者「……もっと、早く言えば良かったのかな」 

縋り付いて泣く彼女の頭を撫で、左手で大きく開いた背中を抱き締め、擦りながら漏らす。 
こんなにも取り乱す彼女を見るのは初めてだ。 
恐らく、本来の『王』もそうだろう。 

勇者「…作ってくれた料理は、本当に美味しかった。……この七日、楽しかったよ」 

言葉が耳に届いているのか、分からない。 
反応は返ってこず、シャツの生地をきゅっと掴まれるだけ。 

再び、風が吹き抜ける。 
その風は――何故か、冷たかった。 
隙間風のように心に吹き込み、身を竦ませるように冷たかった。 

勇者「こんなに、別れを惜しまれるのは初めてだな」 

彼女の髪を撫でる。 
絹糸をまとめたかのように、上等な油に手を浸したように、さらりと指の間を通り抜ける。 
髪から漂う香りは、旅の途中で訪れた、季節を無視して様々な花の咲く天上の谷を思い出させた。 


どれだけの間、そうしていたのか。 
使用人達に幾度も視線を浴び、珍しいものを見るかのようだった。 

勇者「落ち着いたか?」 

しゃくり上げるような痙攣が治まり、呼吸も整いかけている。 
既にシャツは涙と洟でじっとりと濡れている。 

堕女神「……は、い。………お見苦しいところを……お見せ、しました」 

勇者の胸元から離れ、赤く腫れぼったい瞼と鼻を見られないようにして、彼女が言う。 
恥じ入るように隠して、何処から取り出したハンカチで鼻の下を拭う。 

堕女神「昼を回ってしまいましたね。今すぐに、昼食の用意を致します」 

勇者「ああ、いや。……昼を過ぎているし、軽いものでいい。……運んできてくれ、ここに」 

堕女神「はい、畏まりました。…お茶を、淹れなおします」 

勇者「いや、いい。お前が淹れてくれたんだからな」 

再び席につき、とっくに冷めてしまった紅茶を啜る。 
逡巡の後、彼女は遅い昼の準備を整えるため、足早に去って行った。 

その後、彼女が運んできた細めのパスタを平らげ、再び午睡するかのように目を閉じ、風を感じる。 
暮れなずむ空が青から橙へと色を変え始め、入り混じった薄紫の空が頭上に広がっていく。 

日が落ちる前にと勇者は席を立ち、城内へと入る。 
もう、空を見る事はできない。 
後は、ただ夜へと変わっていくだけ。 

勇者は一人ごちる。 
これは―――まるで、『死刑囚』の心境だ、と。 
二度と、空を見る事はできない。 
二度と、舌を楽しませる料理を味わう事はできない。 
二度と、人肌のぬくもりを感じる事はできない。 

最後の日は、あまりにも切なく、救いなく終わりそうだ。 

途中、サキュバスAを見かけた。 
日が落ちて庭の手入れを終えたのか、大きな鋏を手にしていた。 
彼女も勇者の存在に気がついたが、一礼を送り、すぐにその場を去ってしまった。 

自室に戻る気にはなれず、当て所なく城内を彷徨う。 
飾られた絵画を眺めながら廊下を歩き、思いついて謁見の間を覗き、まるで――最後に、目に焼き付けようとしているかのようだ。 


そうして彼が向かったのは、玉座の間だった。 
重厚なカーペットが敷かれ、壇上に金色の玉座が置かれた『王』の座する処。 

一歩一歩、踏み締めながら向かう。 
柔らかい感触がブーツの硬い底から伝わり、静かに音を立てながら歩いていく。 
『彼女』の涙で濡れたシャツが、冷えて張り付く。 
拭おうとも、着替えようとも思わなかった。 
これは、『勇者』の身を心から案じてくれた、一柱の堕ちた女神が流してくれたもの。 
『仲間』としてではなく、一人の『男』に対して別れを惜しんでくれた証。 

ずっと塞がらない穴があった。 
いつになっても隙間風が吹き込み、虚しく霜を降ろす心の一角。 
そこに、何かがはまったような気がした。 
傷が塞がった心は、もう寒くない。 

玉座の壇前に立ち、しばし、目を閉じる。 
今この瞬間は自らの座なのだが、それでも経験から染み付いた、心が引き締まる感覚。 

しゅるり、と剣を抜く。 
幾度と無く繰り返された抜剣の仕草は、今に至っても錆び付いていない。 

刀身は未だ輝いていた。 
白銀の刀身に、暁のように赤い光が不規則に射し込める。 
それは、今この瞬間にも、勇者が『勇者』であり続けていることの証明でもあった。 

切っ先を、眼前の玉座へゆっくりと向ける。 
まるで、敵にそうするかのように。 
眼光は鋭く前を向き、切っ先を通して玉座に殺気を放っているかに見えた。 

勇者「……『お前』は生まれない。絶対にな」 

そうして、数分後。 
ゆっくりと剣を下ろして、鞘へと納める。 

しばらく、玉座を見つめた後に踵を返し、背後の扉へと向かう。 
城内を回るうちに、日は既に沈んでしまったようだ。 
遅い昼食も歩き回るうちに消化され、胃が窄まるような感覚を覚えた。 

玉座の間の扉を開け、再び廊下に出る。 
日が落ち、冷えて引き締まった空気が身に沁みる。 
空気は冷たい。 
だが、『寒く』はない。 

自らを動かす機関の収まった左胸へ手を当て、ゆっくり、城内の散策を再開した。 



厨房で、彼女は一人晩餐の準備を進めていた。 
黙々、というよりは我武者羅に。 
幽鬼のように、感情が薄い表情で。 
感情を少しでも出せば、崩れて涙に化けてしまいそうだから。 

メインの肉を切ろうと、ナイフに手を伸ばす。 
良質なヒレ肉の塊に刃を当てると、まるで布を裁つような音と手応えで容易く両断された。 

感情を動かすまいと務めるが、あまりにも、真実は重い。 
覚悟はしていた。 
何かの変化が王に起こっていた、と。 
その変化も、いつかは消えると。 
それが、まさか――今日、なんて。 

サキュバスA「……お邪魔だったかしら?」 

入り口から声が聞こえた。 
目を向けるまでも無く、その正体は分かった。 
邪険にするつもりは無いにせよ、見られたくはない。 
何とか、孤独を保とうと唇を動かす。 

堕女神「…いえ。ですが……一人に、していただけないでしょうか」 

サキュバスA「…刃物を手にして思いつめた顔の女を、一人になんてできませんわ」 

頬を緩め、茶化しながら厨房へと入る。 
邪魔になりそうな翼を一時的に隠し、調理台の隙間を縫って堕女神に近づく。 

サキュバスA「その様子では、陛下の告白を聞いたようですわね」 

図星を突かれ、身を震わせる。 
刻んだハーブを肉に振り掛けていて、思わず手元が狂いそうになった。 

堕女神「貴女も、聞いたのですか?」 

サキュバスA「ええ。昨日の晩に」 

堕女神「何故、私には今日になっていきなり…?」 

サキュバスA「……心配しなくても。陛下は、貴女の事をきちんと想っていますわ」 

堕女神「なら、どうして……」 

サキュバスA「それは、陛下……いえ、『あの人』に直接聞いた方がよろしいかと」 

堕女神「……」 

サキュバスA「……最後の夜は、貴女とともに過ごしたいと、あの方は願いましたわね」 

手を止め、堕女神は彼女の方へ目を向けた。 
メインの肉料理の仕込みは終わり、後は焼き上げるのみとなっていた。 

堕女神「そう……なります」 

サキュバスA「あの方に取ってではなく、貴女にとっても、あの方と過ごせる最後の夜。……思い残さぬように」 

堕女神「……はい」 

サキュバスA「嗚呼、それにしても妬けてしまいますわ。……私達でも、女王でもなく、貴女を選ぶなんて」 

大げさに謡うように節回しながら、くるりと背を向ける。 
そのまま、厨房から出ようと歩を進めていく。 

堕女神「………泣いて、いるのですか?」 

サキュバスA「…まさか。貴女とも、あの子とも違いますもの」 

堕女神「…そう、ですか」 

サキュバスA「さて。晩餐の準備が整ったと知らせて参ります。……どうか、悔いを残さぬよう」 

堕女神「はい。……よろしくお願いいたします」 

城内を一回りした勇者は、いつの間にか、食堂近くの廊下へと戻ってきていた。 
ここにいれば誰かが見つけてくれるだろう、と思ったのもある。 
もう一つは――俗がすぎるが、併設された厨房からの、夕餉の香りに引き寄せられた。 

何気なく、飾られた銅像を見ていた。 
人間の女が、男の上に跨る姿勢で行為に耽っている像だ。 
上の女は喜悦に顔をゆがめているのに対し、男は、或いは必死に止めようとしているかのようだ。 

サキュバスA「……それは、原初の淫魔。『リリス』の像ですわ」 

真後ろから声をかけられる。 
距離が近いが、最終日ともなれば慣れたものだ。 

勇者「リリス?」 

サキュバスA「我々の祖です。彼女は快楽を求めるあまり、人類最初の男に拒絶され、楽園を出でて自らの国を作りました」 

勇者「……で?」 

サキュバスA「彼女の子供達は魔界へと追放され、人間の精を吸い取る魔族として恐れられるようになりました」 

勇者「…それが、お前達か」 

サキュバスA「はい。……あ、陛下。晩餐の準備が整っておりますので、食堂へどうぞ」 

勇者「分かった。……もう少し早く言ったらどうだ」 

大食堂へと続く目の前の扉を開けようとした。 
手を扉へ伸ばした瞬間、止まる。 

勇者「……なぁ」 

サキュバスA「はい?」 

呼び止められ、その場で返事をして彼に体を向ける。 
いつもと同じく、挑むような眼差しに、飄々とした物腰。 
それでも――彼には、伝わるものがあった。 

勇者「……ありがとう」 

体を捻り、じっと、彼女の顔を見つめる。 
目が僅かに赤く、纏う空気も僅かに沈んでいる。 
堕女神は分かりやすく取り乱した。 
サキュバスBも同じくそうするだろう。 
だが、彼女は? 

勇者「…忘れない。お前のおかげで、俺は最期まで『勇者』でいられそうだ」 

それだけ言って、彼は大食堂へと入っていく。 

彼が最後の晩餐へと消えた後、彼女は――悲しげに唇を震わせて、それでも微笑みながら、部屋へと帰った。 



彼が、一人ではあまりにも大きな卓につくと、すぐに前菜が運ばれた。 
茸を用いた固形の蒸し物に、野菜を添えられた皿だ。 
一口運ぶと、口の中に芳醇な香りが広がり、それによって食欲が更に増進された。 

物足りない量のそれを片付けると、次はスープ。 
朝に出たものとは味付けが違っている。 
よく煮込まれた玉葱と鶏骨のブイヨンが香り、メインに向けて更に食欲が増す。 

メインの肉料理。 
両面を良く焼かれているが、中はレア気味に、切ってみればグラデーションが目に楽しい。 
口に運べば、肉汁と酸味を持つハーブの香りが広がり、そして非常に柔らかい。 
飲み込むのが勿体無いと思えるほどに、勇者は何度も長引かせるようにそれを味わった。 
余計な脂の雑味は無く、ただ、肉の持つ旨味と最大限まで引き出している、単純だが嗜好の調理。 

そして、最後。 
少なくとも人界では希少な、チョコレートを用いた焼き菓子が運ばれる。 
フォークで割ってみれば、まるでパイ生地のように表面がさくりと割れた。 
内部には瑞々しい野苺に似た果物が仕込まれ、ほろ苦いチョコレートと絶妙に絡み合う。 

最後にして至高の晩餐を終えた後、茶が淹れられた。 
堕女神自ら、勇者の傍らで。 


勇者「…ありがとう。忘れられない味だったよ」 

ティーカップを傾け、礼を述べる。 
熱気を伴った香りが口内に満ちて、残った風味をリセットする。 

堕女神「…恐れ入ります。……陛下」 

勇者「何だ?」 

堕女神「……今日は、少し早めにお部屋に伺ってよろしいでしょうか?」 

勇者「…構わないが、それはまたどうして」 

堕女神「あなたは、今日を最後にこの世界から去るのでしょう。……少しでも、共にいたいのです」 

勇者「……ああ、分かったよ。待ってる」 

野暮な事を訊いてしまった、と。 
若干の反省とともに、茶を啜る。 

最後の一口を飲み終え、席を立つ。 
まっすぐに自室へと戻り、最後の夜を過ごすために。 

それ以降、彼女が部屋に訪れるまで、口を開く事は無かった。 



心地よい満腹感を得て、自室のベッドへ大の字に寝る。 
剣はエンドテーブルへ立てかけ、ズボンのベルトも緩め、楽な姿に。 

勇者「…魔王。待っていろ。……俺は、お前に屈する事は無い」 

天に手を伸ばし、ぎゅっと拳を握って呟く。 
見てはいるだろうが、『魔王』からの返答は無い。 
だが、聞こえていればいい。 
震えていればいい。 
勇者は、既に――対決に向け、心を締め直していた。 

暫くして、眠気が欠片ほど舞い降りた頃。 
毎朝聞かされる、規則正しいノックの音が転がった。 
いつものように、入室を促す。 

――彼女が、入ってきた。 
普段のドレスの上に、黒地に金糸で刺繍されたショールを羽織っている。 

勇者「……早い、な」 

堕女神「申し訳ありません」 

勇者「…いいんだ。……こちらへ」 


彼女が、近づく。 
上体を起こしながらベッドの上で待つ勇者へ。 

縁に腰掛け、靴を脱ぐ。 
踵が高くサンダルにも似て露出度の高い、勇者の世界では見かけないタイプの靴だ。 
片足、もう片足と順番に脱ぎ去ると、待たせた者の方へ体を向けなおす。 

四つん這いに、近づいていく。 
二人分の体重をかけられたベッドが軋み、ぎしぎしと音を立てる。 
ランプの灯に照らされた彼女の影が、室内を彩った。 

そのまま、止まらず――彼の胸元へ、体を預ける。 
しな垂れかかった彼女の体を受け止めると、ゆっくりと体を倒し、横になった。 

勇者「…もう、泣かないのか?」 

返答は無い。 
彼女はただ静かに、彼の胸に顔を押し付け、匂いと、温もりを感じていた。 
ひたすら、記憶に残そうとするかのように。 
細く、長い息遣いが妙なくすぐったさを伝える。 

堕女神「………忘れられない夜を、下さいませ」 

顔を胸に押し付け、きゅっとシャツの裾を握ったままで呟く。 
まるで薄いガラスのように、儚く、透き通った声で。 
顔は、見えない。 
見えないから、逆に――彼女の心が、伝わった。 

答えの代わりに、彼女の体を優しく抱き寄せる。 
彼女の顔が、勇者の首下へと上ってくる。 
俯き気味の顔を自由な左手で持ち上げさせ、横になったまま、見つめ合う。 

この世界に来て、恐らく最も長い時間付き合わせた顔。 
緋と闇の眼が、彼を真っ直ぐに、そして何かを求めるように見つめ返す。 

――ああ、お前は。 
――これが、好きだったな。 

左手で彼女の顎を軽く持ち上げ、ゆっくり、吸い寄せられるように唇を近づける。 
彼女は眼を閉じ、その瞬間を待ち侘びる。 

一秒、二秒。 
『彼』の唇が触れるまでの間を、彼女は永遠にも感じた。 
焦らされている? 
それとも――― 

思考がとりとめなく動いた時、口先に温度を感じる。 
瞬間、全ての雑念は消え、口元に全神経が集まったような、不思議な熱が篭る。 

唇が、ゆっくり合わさる。 
まるで、離れた二枚貝が再び組み合わさるかのように、ぴったりと。 
それは唇のみを表すのではなく、心も。 
こうある事が自然かのように、唇を通して二人の、――否、一人の男と、一柱の堕ちた女神の心が繋がった。 


彼は、決意していた。 
背負って歩んできた勇者としての旅を、嘘にしてしまわないために。 
旅の仲間たちとの時間を、無駄なものとしないために。 
それでも、彼は……哀しんでいた。 
心を繋いだ堕女神との別れを。 
二人のサキュバスとの、姦しい夜を失う事を。 
幼くも凛々しい、隣女王の姿を見られない事を。 


彼女は、抑え込んでいた。 
『勇者』がいなくなってしまう、無限に続く洞のような哀しみを。 
自分の作った料理を笑いながら食し、褒めてくれた勇者。 
堕ちた後にも燻っていた、『愛』の残滓を認めてくれた事。 
それでも、彼女は……望んでいた。 
彼が、元の世界を救う事を。 
勇者としての務めを全うし、世界の闇を討ち払う事を。 


互いの心が、唇という粘膜を通して流入する。 
魔法より、言葉より、その行為が互いの全てを語り尽くす、夜噺のように全てを語った。 

ランプの灯が揺れる部屋に、粘膜が擦れ合う淫靡な音が響き渡る。 
水音が絶え間なく続き、乱れていく息遣いが重なっていく。 


唇が離れる。 
もはやどちらのものかとも知れない唾液が、繋ぎとめようとするように糸を引いた。 

どちらとも、呼吸が荒い。 
酸素を取り入れる事すら忘れ、互いの唇を、心を求め合っていたのだから。 

勇者「……しよう、か」 

その言葉を合図に、体を起こし、身を包む衣類を取り去っていく。 
背中合わせに、勇者はシャツを脱ぎ、ブーツを放り捨て、ズボンを荒っぽく脱ぎ捨てる。 
堕女神はショールを折り畳んでエンドテーブルに置き、ドレスをゆっくりと脱ぐ。 
互いが、背中越しに衣擦れを聞き、ひりひりと増していく熱い空気を感じる。 
最後という哀しさを、無理やりに焼き切ろうとするかのように。 

勇者が全てを脱ぎ去って向き直ると、彼女は下着を足首から抜き、一拍遅れて振り向いた。 

堕女神「…どうか、私を満たして下さい。あなたが去った後も、忘れぬように」 

言葉が、勇者の耳に届く。 
数秒の後、勇者は彼女を、真っ白いキャンバスの上に優しく押し倒す。 
立てられた腕の間で、彼女は見つめてくる。 
在りし日の神性を取り戻したかのような、優しく輝く微笑みを湛えて。 


首筋へ、口を寄せる。 
透き通るような、白磁のようなしみ一つ無い肌。 
特に薄い首の皮からは、彼女の脈動、体温、そして肌理の細かさが伝わる。 

首筋へ口付けする。 
身をくねらせた拍子に、小さく、声帯から声が震え出た。 
吸い付くような、じわりとかいた汗を舐め取るかのような、優しく深い、キス。 
ちゅ、と吸えばその度に体が揺れ、悩ましく声を上げた。 

豊かな乳房に、右手を伸ばす。 
左の乳房に手を伸ばせば、偶然に、乳房近くに指先が触れた。 

堕女神「あぅっ……」 

高まった乳房の頂点近くを指先で擦られ、甘く声が漏れた。 
背筋が僅かに逸れ、ぶるん、と二つの果実が揺れる。 

勇者は、黙って、彼女の乳房を下から押し上げるように揉む。 
乳房の下側、アンダーと触れ合う部分にはたっぷりと汗をかいており、手に張り付くような、べたべたとした感覚が伝わった。 
それでも、不快感は無かった。 
むしろ、彼女の肌の質感を味わうための呼び水にすら感じる。 

指先が沈み込む。 
有り体だが、そう表現するしかない。 
指が埋まり、見失うほどの質量と柔らかさ。 
そして――大きさに見合わぬ、感度の強さ。 

指先を動かせば、応じて彼女の体が魚のように跳ねた。 
むにむにと沈み込んだ指先が乳房をこね回し、乳腺を揉み解されるような快感を届けるのだ。 
声帯はもはや、彼女の意思を離れている。 
体の各所から届けられる快楽の信号を受け取り、声を上げるだけの淫猥な機械へと化した。 

首筋を吸われ、舌を這わされ、鎖骨下まで降りていく彼の感触。 
そのまま、右の乳房を経由し――向かう先は。 

堕女神「ひっ…う、あぁぁぁぁん!!」 

遠慮会釈無く――頂点を吸われ、声帯が大きく震えた。 
背が大きく逸らされ、勇者を跳ね返すように暴れる。 
その瞬間、彼の左手が彼女の腰に回され、逃すまいときつく抱き締める。 
更に二つの乳房への愛撫を進めると、少しずつ、彼女は大人しくなっていった。 

だらしなく開けられた口元からは涎の筋が流れ、シーツに染みを作る。 
乳房を弄べば、体をくねらせる。 
乳首を弄べば、大きく口を開け、息遣いが激しくなった。 

二つの刺激から逃れようにも、腰を強く抱かれている為、身動きを取る事はできない。 
最早、されるがままに乳房をなぶられ、よがり狂う事しか許されていない。 

右手を離し、彼女の左乳房を快楽の螺旋から解き放つ。 
しかし、それは解放ではなかった。 
向かう先は、彼女の秘所。 
気付いていながらも、快感に溶けた心と、力の入らない四肢は、言う事を聞いてくれない。 

尻穴の近くから割れ目をなぞり上げる、精悍な指先。 
充血した陰核を擦られ、体を弛緩させたままで、びくびくと痙攣するように反応する事しかできない。 

既に濡れそぼって、『彼』を迎える準備はできていた。 
だが、彼はそうしない。 
指先を躍らせ、彼女を更なる高みへと導こうとする。 

入り口を指先で幾度かなぞり――人差し指と中指を、内側へと差し込む。 
尿道側に軽く指を曲げて、内側を強く擦る。 
裏側から刺激を受けた尿道が膀胱に刺激を送る。 
気を抜けば、緩ませてしまいそうなまでの感覚。 
耐えている間にも乳首を甘噛みされ、舌先で転がされ、意識を繋ぎ留める索が次々と千切れていく。 

下から聞こえる、下品とすら表現できそうな激しい水音。 
それを、彼女は自らの腺液の立てる音と認識しているだろうか。 
指が内壁をこすり、指先が特に敏感な部分を探り当てて、内側から耐え難い快感をもたらす。 

括約筋が二つの門を食い縛り、勇者の指先を締め付ける。 
もしも男根を挿入していたのなら、瞬く間に果ててしまいそうだ。 
それでも、勇者は手による愛撫と、唇を用いた愛撫を止めない。 

それは、彼女へ最後まで、愛を施そうとするかのように。 


指先を彼女の中で蠢かせていると、ある時気付く。 
尿道側に人差し指の第二関節を曲げた辺りに、彼女が、より身を強張らせる部位がある。 
偶然にその部位を指先で掻いた時、反応の違いは明白だった。 

二度、三度。 
おおよその当たりをつけて、その部位を絞り込むように、大雑把な円を描くように摩擦する。 
彼女の声、呼吸、内部の締め付け、体の緊張を加味して少しずつ範囲を狭めていく。 

堕女神「はぁっ……っく…ふぅ……っ!」 

勇者「……ここ、か」 

反応が濃く、長くなっていく。 
爪先までがピンと伸ばされ、淫らに喘ぎながら体を硬直させて耐える。 
『その場所』を指先が触れる度に、ぴりぴりと電流が走り、砂糖のように甘く脳髄に浸透していく。 
触れる端から通過点を甘く作り変えるような、煮詰まった砂糖の塊が背筋を駆け抜ける。 
送り込まれるペースも段々と速まり、快感の配達がやがて途切れ途切れの点ではなく、一本の線となった。 

指先が、その部位を執拗に掻く。 
切なく高まった快感の基点は、もはや彼女の正気をかき乱してならない。 
緊張して伸ばされていた脚は緩み、媚びを売る犬のように、はしたなく段々と開かれる。 
くちくちと音を立てて勇者の指先を飲み込み、稚児のようにしゃぶり上げる秘所を見せ付けるように。 

堕女神「ぃ…い…いかせ……て……」 

意味の無い嬌声を紡ぐのみだった唇と声帯が、久方ぶりに彼女の意思を伝えた。 
弱々しく、それでいてはっきりとした望みを。 

勇者は、何も答えない。 
ほんの一瞬だけ指先を止め――更に激しく、内部を擦りあげる。 
溶けてしまいそうなほど熱く高まった内側をめちゃくちゃに弄ばれ、 
反り返った背筋が勇者を跳ね除ける如く暴れる。 
腰を抱いたままの左手に更に力を込め、深く肌を密着させた。 
吸われ、舐られ、歯を立てられて硬くなった乳首は、痛々しいほどに膨れ上がっている。 

秘所の内側、快感の峰を掻く。 
それと同時に、乳首に歯を立て、軽く引っ張る。 
増幅された性感は留まる所を知らず、熱く、冷たく、そして甘く心臓と脳の奥底へと快楽の刃を突き立て、捻る。 

堕女神「くあ……ぁ……!ひ、ぃあぁぁぁぁぁ!」 


――意識が、白のインクを飛び散らせたように散っていく。 
火中に栗を投じたように爆ぜて、あらぬ方向へと意識が飛んでいってしまう。 
続け様に繰り返される快感の爆発で、既に正気は飛び、現状を把握する事はできない。 
自分が今何を口走っているのか。 
あのいやらしく長く喘ぐ声は、誰のものなのか。 
霊体が抜け、俯瞰で見下ろしているように現実感が消える。 
びくびく、と何度も痙攣し、その度に指先をきつく締め付ける。 
閉じる事すら忘れた口の端から、幾筋もの唾液が流れ出て、ぐっしょりとシーツを濡らす。 
目から溢れた涙は、眼前の男の姿をも滲ませ、明瞭とさせない。 

痺れが全身に広がり、体をろくに動かす事すらできない。 
意思に反して不規則に痙攣を繰り返すだけで、自由を取り戻せない。 

くたりと脱力した彼女は、身を震わせ、全身に満ちた快楽の余韻を味わう。 
心地よい脱力感、解放感。 
ぽかぽかと全身を快感のベールで包み込まれ、敏感になった全身の触点から伝わるシーツの感触、 
勇者の肌の暖かさ、流れ落ちる涙のくすぐったさ、全ての外的刺激を快感へと変換する。 

甘ったるく広がる余韻に打ち震えていると、間髪を入れず、勇者が圧し掛かってきた。 
膝の裏に腕を入れ、大きく脚を開かせる。 
先ほどまで指先を咥え込んで離さなかった秘所は、溢れ出した蜜によって、余分なほどに潤っていた。 

勇者「…いいな?」 

堕女神「待っ…て……!」 

抵抗はできなかった。 
今も、勇者がただ触れているだけの部分にさえ、じんじんと熱を感じる有様で。 
達したばかりの、それも余韻が抜けきっていない今、迎え入れてしまったら――どうなるのか。 
期待と、そして恐怖が心を塗りつぶす。 

入れて欲しい。 
でも――入れられたら、一体自分はどうなってしまうのだろう。 
ぐるぐると脳内を回り続け、その間にも、血管を浮かせて反り返った男根が近づいてくる。 

絶え絶えに吐息を繰り返していても、男根の先端から、まるで目を離せない。 
巨大な獣と遭遇した時のように、目を反らす事ができない。 


先端が押し付けられる。 
昂ぶって冷めやらない花弁から、より鋭い快楽の信号が送られる。 

本当に、未だ挿入されてはいない。 
それでも、先端を入り口で感じただけで、茨のように尖った快感を覚えてしまう。 
挿入した時のそれを10としたのなら、既に7ほどの快感が。 

勇者「一気に行くぞ?」 

堕女神「そっ……ま、待って……お願……ん、ぐっ……う、うぅぅぅ!!」 

順繰りにではなく、一気に――根元まで飲み込ませる。 
ぐぶっ、という鈍く湿った音。 
次いで、互いの腰が密着する快音が高らかに響く。 

堕女神「…は、ぁ……はぁ……!イ……ヤ……!また……!」 

突き込まれた衝撃で身体が揺れ、内部に熱した鉄の塊を突っ込まれ、 
感覚神経を削ぎ落としていくような悲痛なまでの快感が生まれた。 
その瞬間だけで、脳を焼かれ、心臓を冷えた手で握り潰されるように達してしまいそうになる。 

抑え込んでしまうのは、何故だろう。 
例え二度までも達してしまったとしても、目の前の相手は優しく受け入れ、微笑みをくれるはず。 
抑え込む理由は無い。 
なのに、何故か。 

答えは分かっている。 
一つに、今まではそれが許されなかったから。 
先に達してしまえば、打擲を受け、詰られた。 
首を締め上げられながら犯される事もあった。 
彼女は、その痛みを忘れる事ができず、心にいつしか殻を形作った。 

ほかにも幾つか理由は思いつきそうだが、 
その中には、考えたくないものもあった。 
淫魔の国に暮らす事をも否定してしまいそうな、唾棄すべき理由も。 

勇者「耐えなくていい。……構わずにな」 

そう言われるも、それでもつい、オーガズムへの欲望を抑え込む。 
歯を食い縛り、目を硬く閉じ、内側から暴れ回るそれを、封じ込めようと。 
あまりにも頑なに、快感を拒絶するかのように不要な忍耐を続ける。 

勇者は、それを見て取ったのか。 
微笑みとともに、繋がったままでのキスを試みる。 
目を瞑っていた彼女は、唇に被さる感触で初めてそれを認識し、目を開けた。 

堕女神「んぶっ……う、んっ……ぷぁ……」 

驚いたように目を剥き、抗議するようにくぐもった声を上げる。 
それでも、本心からの拒絶は無い。 
唇から、秘所から、挟み込まれた下腹部に熱を感じた。 
黒く燃え盛る淫獄の炎が、灯ったように錯覚する。 

唇を重ねたまま、腰が動き始める。 
ぴったりと張り付いた膣肉が、そのまま引き出されてしまいそうなほどに締め付ける。 
捻りを加えながら、入り口近くまで肉棒を引き出し、再びゆっくりと、奥まで入り込ませる。 
突き込む度、引き抜く度、何度も彼女の体が震え、膣内も一個の独立した生物のように蠢いた。 

上と下、両方からの淫靡な水音が重なる。 

硬く閉じていた歯は解かされるように薄開き、その間を逃さずに勇者の舌が滑り込む。 
ぬるりと侵入してきたそれは、彼女の歯の裏、口蓋、歯茎を順に舐り上げる。 
つるつるとした、歯の感触。 
触れる度に舌先を熱くさせる、唾液をまとった口内の粘膜。 
蹂躙を愉しむ暴君のように、舌が口内を暴れ回る。 
途中で彼女の舌も合わさり、口内で、舌と舌が触れ合って踊る。 
互いの口内を何度も逆転させて味わい合い、 
どちらともなく舌先に唾液を乗せて贈り合い、 
それ自体がもはや、完成した性行為にすら感じられた。 

いつしか、彼女は両腕を勇者の首に回し、脚は勇者の腰に絡み付いていた。 
爪先をすぼめて脚を組み合わせ、がっちりと。 

ピストンを繰り返す度、塞がれた口内から吐息が漏れ、そのまま勇者の口へ届き、肺を満たす。 
甘い快楽が溶け込んだような吐息が、ダイレクトに肺へ吸い込まれる。 


勇者「……っ…姿勢、変える、ぞ…」 

堕女神「えっ……?…きゃ……」 

息継ぎの間に、告げる。 
少し浮いた腰に両手を入れ、そのまま引っこ抜くように抱き起こす。 
脚を絡ませたまま、両手を肩に回したまま、体を起こされて距離だけが縮まる。 

向かい合ったまま、抱き合うように繋がる形となった。 
距離が近くなり、互いの息遣いは勿論、潰れるように勇者の胸元へ押し付けられた乳房から、鼓動まで伝わる。 

しばし、運動を止めて見つめ合う。 
互いの体温を最大限に感じる、その姿勢で。 
彼は、膣内に侵入したままの男根から、彼女の粘膜の熱さを感じる。 
彼女は、未だ体内に突き立てられたモノを通して、硬さと、熱を感じる。 

沈黙の後――再び、下から突き上げるように動き始める。 
指の後が残りそうなほどに、互いを深く抱き締め合って。 
乳房が潰れる圧迫感も、感じる体温と快感、充実感、そして幸福感に重ね塗られて消えた。 

前後ではなく上下へと変化した運動の最中、涙がぽろぽろと零れる。 
幸福感が箍を外し、涙へと化けてしまった。 
文字通り溢れんばかりの幸せの一時。 

―――本当に、これで最後なのだ。 


心の深い部分から、じわじわと雪が解けるように哀しみが消えていく。 
快楽に身を任せてはいない。 
ただ、最後だから――哀しみの涙で終わらせたくは無いから。 

勇者「…もう…っだ、出す……ぞ……」 

堕女神「は……い……!」 

一気に、運動が速くなる。 
壊れそうなほどにがくがくと彼女の身体が揺れ、おもちゃ箱を引っくり返したようなデタラメな快楽が体を跳ね回る。 
彼女は、その快楽に負けじと、腰を上下させて勇者のモノを扱き上げる。 
最後まで、名残を惜しむように。 
全てを吸出し、一滴たりとも零さぬように。 


膣内に飲み込んでいたモノが、脈動する。 
一回、二回。三回目の脈動で、腹腔内に熱いものが注がれるのを感じた。 

堕女神「…ん、ふぁ……熱い、です……!」 

叩きつけられるごとに、子宮が重力に逆らって持ち上げられるようだ。 
強烈な欲望の噴水が、膣内を熱く原初の海のように満たす。 
子宮内を満たされ、一拍遅れて彼女が達する。 

内側から侵蝕される熱に浮かされ、手足に一層力が篭る。 
思わず反れていきそうになる背筋を無理に押さえ込み、 
強く勇者に抱きつき、紅潮した顔をごまかすように、首筋に顔を埋める。 

弛んでしまいそうになる四肢に力を入れ、とにかく、離すまいと勇者にしがみ付く。 
精を吐き出した肉棒が、鎮まって秘所から抜け落ちる事さえ拒むように。 
押し寄せる快楽を封じ込めながら、荒く息をつき続ける。 
不規則に痙攣する細い体は、快感に耐え、それでも縋り付くように勇者に抱きついたまま。 

何度目かの快感の波が寄せてきた時――視界が、暗くなった。 


勇者「……抑え込むな、と言ったのに」 

呆れたような口調ではあるが、その顔は優しい。 
彼女の体をベッドに横たえ、その体を抱きかかえたまま横になり、顔を眺める。 
ふと、窓の外へ視線を送る。 

もう、そろそろか。 
鐘が鳴って『魔法』が解け、元の世界へと戻る時間は。 


数分後、堕女神の目が覚める。 
その時、彼女は気を失ってしまっていた事に気付き、慌てたように見えた。 

堕女神「あ、あの……陛下。…先に眠ってしまい、申し訳ありません」 

勇者「……硬くなるなよ。まだ『俺』だからさ」 

返答され、彼女は安心しながら、体を起こす。 
節々に倦怠感と余韻が残って、フラフラと安定しない。 
それでも上半身を起こし、勇者の方へ顔を向けた。 

勇者「でも、そろそろだな。……日付が変わって、『俺』はいなくなる」 

彼も体を起こし、彼女の隣へ座る。 

勇者「…世界を、救わなきゃいけないんだ」 

暗い部屋で、彼がどんな顔をしたのかは彼女に分からない。 
声から伝わるのは、相変わらずの堅い決意。 
泣いても、縋り付いても、揺らがないだろう。 


堕女神「…楽しんで、いただけたのでしょうか?」 

勇者「ん」 

堕女神「淫魔の国への滞在は、いかがでしたか」 

勇者「楽しかったよ。……嘘じゃない。こんなに、魅力ある日々を送れたのは初めてだ。……だから」 

―――もう、思い残す事は無い 

堕女神「?」 

勇者「いや、何でも。………こんなに、辛い別れは初めてだ」 

堕女神「……私もです」 

勇者「……すまない。お前には、かえって辛い思いをさせてしまうのかもしれない」 

堕女神「いえ、私なら大丈夫です。……『今夜』が残る限り」 

勇者「……本当に気が合うな」 

堕女神「あなたも、ですか?」 

勇者「俺も、七日間と『今夜』があれば。……最後まで、大丈夫な気がする」 

堕女神「…最後、というのは今ではないのでしょうね」 

勇者「ああ。……ん?」 

視界に何かが割り込む。 
映ったのは、ここではないどこか。 
禍々しく広い大広間、そして――― 

勇者「………済まない。もう、時間らしい」 

別れを告げよう、そう唇に意思を伝えた時。 
一瞬早く、暖かく唇が塞がれる。 

何度も脈動するかのようにフラッシュバックする視界の中に、目を閉じた彼女の顔が見えた。 

堕女神「……御武運を、お祈りします。『勇者』様」 


意識が、猛烈な勢いでどこかへと引っ張られていく。 
最後に伝わった彼女の声と温もりは―――いつまでも、胸にこだましていた。 

暖かな風が、心の中を埋めていった。 

もう、『寒く』はない。 





加速しながら引き戻される意識は、一気に減速して、『魔王』の城へと戻った。 
受肉したようにすっぽりと元の体に収まり、瞬間、耐え難い吐き気に襲われる。 
術法で意識を揺さぶられた事にもだが、 
淫魔の国で七日間を過ごした勇者に対し、禍々しく重い、圧し掛かるような殺気に満ちた魔王の城の空気は毒に感じる。 

勇者「うっ……ぶ……はぁ…」 

塩気の多い唾液が口を満たし、嘔吐の前兆をもたらす。 
それでも、必死で押さえ込み、身を折りながら必死に耐えた。 

魔王「ククっ…『おかえり』勇者よ。随分と満喫したようだな?」 

眼前には、玉座に座ったままの魔王。 
この世界では、どれだけの時間が経っていたのだろう。 

途上に現れた魔王の腹心を引き付けるため、戦士、魔法使い、僧侶の三人は残り、勇者だけがこの決戦の場に立った。 
三人は、倒してから必ず追いつくと約束していた。 
その約束は、疑わない。 

そして、三人は未だ現れていない。 
七日間経っている、等という事は有り得ない。 
筋力も萎えていない。 
恐らく、そう大した時間は経っていないのだろう。 

魔王「心配するな。貴様が行って戻ってくるまで、五分とかかってはいない」 

勇者「…魔王っ……!」 

魔王「さて、……淫魔の王の正体は、分かったか?」 

勇者「……ああ」 

魔王「流石は、勇者。我が最大の宿敵にして、『魔王』の対なる存在だ。聞こうではないか」 

勇者「……あの王の正体は、『俺』だろう?」 

襲い来る吐き気を落ち着かせ、重く、迫力を注いだ口調で問いかける。 
体を起こし、真っ直ぐに魔王を見つめて。 

魔王「…疑問に疑問を返すのか?……まぁ、正解には近いな。そうでなければ説明はつくまい」 

肘掛けに頬杖をつき、手応えの無い相槌を打つ。 
裏腹に真紅の眼は爛々と輝き、次の言葉を待っていた。 

勇者「あの肖像画と銅像。三ヶ月も前に作られていた」 

魔王「それだけでは根拠として弱かろう」 

勇者「俺の『剣』があった。輝きを失った状態でな。……この剣を扱えるのは、紛れも無く俺だけだ。 
   そして、オークと戦った時に輝きを取り戻した。つまりあの剣は、間違いなく『本物』て、それが『魔界』にあった」 

魔王「…我とした事が、ヒントを与えてしまったようだな」 

くっくっと笑い、愉快そうに推測に聞き入る。 
オークをけしかけてしまった事が、彼に結果として情報をもたらした。 
それを失態とは認識していないように見える。 

勇者「あの世界の『俺』は、勇者である事を放棄し、暴君と化した。……だから、剣は鈍らとなった。違うか?」 

魔王「いや。……及第点だよ、勇者」 

勇者「……結論を、言おうか」 

その言葉の後、一拍置いて生唾を飲み、腹を決めて言葉を舌に乗せる。 


勇者「………『王』は、貴様の言葉に乗った『俺』の姿」 



その言葉を聞き、ニィっと笑い、次の瞬間――狂ったように、笑い出した。 
馬鹿馬鹿しいほどに高い天井と、石造りの広間に反響して響き渡る『魔王』の哄笑。 
勇者でなければ、耳に残って神経症を患っても不思議ではない。 
魔王の笑い声を受けながら、勇者の視線は揺らがず、ただ一点を見据えていた。 
すなわち、歪ませて笑う魔王の顔を。 

魔王「…失敬。いや、流石は勇者。推理もだが、何より……事態を受け止めた上で、そう言える点が実に良い」 

勇者「貴様に褒められて嬉しいものか」 

魔王「答えも明かされた事だ。出題者は補足の説明をするものだろう?」 

勇者「……言ってみろ」 

勇者が、促す。 
殺気を滲ませ、全身に隙無く、研ぎ澄ました気迫を纏って。 

魔王「……正解、だ。貴様が首を縦に振れば、ああなるのだ。贅に溺れ、快楽に溺れ、権勢に溺れる。 
   美しい淫魔を片時も空かせず抱き、積もり積もった怨恨を堕ちた女神にぶつけ、何度も殺しかける」 

勇者「…………」 

魔王「その最中で勇者としての正義は消え、奢侈と色欲のみが支配する『怪物』となるのだ。 
   魔王を倒せず甘言を受けた背徳から、『自分は勇者だ』と口にしながら女達を嬲る」 

勇者は、黙ってそれを聞いていた。 
七日間で堕女神とサキュバスAから聞いた話と、見事なまでに一致する。 
そして、それが真実と成り得る事も――受け止める、しかない。 
否定の言葉が、欠片も出てこない。 

淫魔達と、絶技と淫具を用いた快楽の渦へと飛び込みたかった。 
それは――疑えない。 
だから自分は迷い、結果として淫魔の国で七日を過ごした。 


自分の人生を塗り替えた女神を、怨んでいた。 
今になれば、その醜さを受け止められる。 
事実として、勇者に選ばれ、血生臭い日々を送らされる事に心のどこかで抵抗を感じていた。 
怨みとまで昇華するのかは、分からなかった。 
分からなかった、というだけで、十分に可能性として考えられる。 


魔王「……だが、軽蔑しようとは思わないぞ、勇者よ。……本来、ヒトとはそういうものなのだからな」 

勇者「言っていろ」 

魔王「…人間の『王』は、貴様に誇りと強さと正義を求め、”魔王へ挑め”と命じたのだろう?」 

勇者「……それが?」 

魔王「しかし、我は違う。我は、醜さと弱さと悪を受け入れ、癒してやる事ができる。 
    
言葉の調子が一転し、優しげに語り掛けてくる。 
高圧的な魔族としてではなく、餌をばら撒いて「拾え」と命じる調子でもなく、ただ、危険な安堵感をもたらす。 

魔王「……我は、貴様を”救って”やりたいのだよ」 

甘い。 
人心を掻き乱す魔王の言葉が、ほのかに甘く、魅了の韻律を伴って吐かれる。 
命じられればその身を差し出してしまいそうなほど、その言葉には魅力を感じた。 

魔王「知っているのだ。……我を倒して祖国へ戻れば、英雄として妃を娶る事になるのだろう?」 

事実。 
一度力を付けて故郷に戻った時、もてなされた酒宴ではそういう話を持ちかけられた。 

魔王「…そして、”魔王を倒して終わり”の戦いではなく、絶え間なく続く人間の戦争へと身を投じる。 
   ………おお、おお。何と哀れな事か!いたいけな子供の時分に勇者へと任じられたばかりに!」 

大袈裟に、歌い上げるように言葉を続ける。 
反論は無い。 

――魔王の言葉は、間違えてはいないから。 
――危険なほどに、道理に満ちていた。 

魔王「貴様はもう――十分に、世界へ貢献した。人々を脅かす山賊を打ち倒し、海原の魔物を屠り、凶行に及ぶ騎士団を止めた。 
    勇者よ……人間の王達は、お前に何をくれた?」 

魔王「彼奴らは、貴様に『戦い』と『危険』を命じた。だが、我は貴様にそんな事はしない。 
   …もう、十分に戦った。その褒美として、貴様にはこれくらいあって然るべきではないか?」 

玉座から立ち上がり、一段、一段と壇を降りてくる。 

魔王「……今一度、言おうではないか」 

勇者の眼前、2mほどの距離で大仰に腕を開き、陶酔するかのように口を開いた。 


魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」 




最初の言葉を、魔王は再び唱えた。 
威圧するような口調ではない。 
只管に優しく、聖人が手を差しのべるかのように、抗いがたい空気を纏って。 

魔王「さぁ、勇者よ。貴様は、もう戦わなくていいのだ。……次代の勇者に望みを託し、淫魔達と永劫の快楽を愉しむが良いぞ」 

微笑みすら浮かべ、握手を求めるように手を差し出す。 
勇者は、何も言わない。 
俯き、あるいは迷うように――頭を垂れる。 

魔王「……嘘は吐かぬぞ。ヒトの愚かな王達とは違うのだからな。……貴様は、”救われる”べきなのだ」 

更に、優しすぎて悪意すら感じる言葉が、降りかかる。 
魔力を込めているのではないかとも疑えるほどに、魅惑的な言葉。 
王達から労われた事は、ほぼ無い。 
急き立てるように『魔王を倒せ』と命じるのみで、彼の心を慮る事は一度も無かった。 

魔王「さぁ。……再び、あの堕ちた女神と、淫魔達と、出会おうではないか。貴様には、幸福を手にする権利と機会があるのだ」 

『勇者』の心が折れかけていると信じて、言葉を紡ぐ。 
勝利を確信した笑いが顔に浮かび、もはや隠すつもりはないようだ。 


――――刹那、勇者の手が剣へかかる。 
瞬きすら挟めぬほどの速さで抜き放たれた白刃は、真っ直ぐに魔王の喉へと突きつけられた。 

微笑みを浮かべたまま、こちらを見据える勇者の顔を見つめた。 
獲物へ狙いを定めた鷹のような。 
旅の最中、理義の怒りに燃えて戦いを決意した時と、同じ目だ。 

魔王「……捨てるのだな?」 

声から、一種の神々しさが消え失せた。 
それは、勇者も良く知り、世界中の人々が恐れてやまない『魔王』の声。 

勇者「………会いたい」 

魔王「ほう?」 

勇者「出来る事なら、もう一度彼女らに会いたい。……抱き締めたい。感じたい。あの世界に骨を埋めたい」 

魔王「ならば、何故だ?この切っ先の意味は?」 

勇者「……お前は、俺を”救って”くれると言ったな」 

ぴったりと空中に固定されたかのように、剣先はぶれない。 
ただ、正確に魔王の喉を捉え続ける。 

勇者「俺も救いたいんだ、世界を。……例え、俺が救われる結末を迎えずともだ」 

魔王「理解に苦しむな」 

勇者「……さて、始めようか。『勇者』と『魔王』の、最後の戦いを」 



弾かれたように両者が距離を取る。 
魔王は壇上へ飛び、右手指先に五つの火炎球を形成して勇者へ放つ。 
火炎球が四つ、勇者の前後左右へ着弾して退路を断ち。 
残りの一つが、そのまま勇者へと向かった。 

勇者「………っ!」 

剣を左腰から後方へ引き、斬り上げる構えを取り、その瞬間を待つ。 
チャンスは、一度のみ。 

着弾。 
勇者の姿が火炎に包まれ、魔王の視界から消える。 
先に放たれた四つの爆炎と重なって、勇者は炎の中へ消える。 
燃え盛る魔力の炎は陽炎を発し、玉座の先、大扉を歪ませる。 
その熱波は、岩石をも溶かしてしまいそうだ。 

しかし魔王は、油断の色を浮かべない。 
これが小手調べであり、到底、勇者を倒し得ない事も分かっているから。 

業火の中から、魔王が放ったのと同じ威力の火球が返ってくる。 
真っ直ぐに、魔王のいる壇上へ。 

炸裂音が石造りの広間へ響き渡る。 
それは、命中して爆ぜた音ではない。 

魔王は、片手でそのカウンターの火球を受け止めていた。 
着弾の瞬間に何かが輝き、火炎を吸収したようにも見える。 
魔力の壁を自身にまとっている。 
高位の魔族は押し並べてそうであり、その長たる魔王が、魔力の攻撃を素通りさせて受ける筈が無いのだ。 

魔王「受け流す、とはな。それも正確に、我へと向けて」 

勇者「さて。――次は、こちらの番だ!」 

勇者を取り巻いていた火炎が、一瞬で消える。 
強風に煽られたように、刺すほど冷たい空気が勇者を中心に広がり、魔力の炎を打ち消した。 
波動は魔王へも届き、その冷たさに身じろぎを示す。 

魔王「これは……」 

感じたのは、自らを守る防御壁が凍らされ、砕かれた魔力の揺れ。 
生み出された波動は炎を打ち消し、魔王を守る魔力の障壁すらも打ち消してしまった。 

勇者「………喰らえ」 

開いた左手を突き出し、魔力を集中させる。 
荒々しく高まった魔力が魔王の周囲へ集まり、パリパリと音を立て、火花が散る。 
広間を支配した低温の波動によって乾燥した空気が擦れ合い、更に雷の種を増幅させる。 


―――轟音。 
広間が……否、魔王の城全体をも揺るがすほどの魔力の炸裂。 

幾つも束なった雷が、魔王の肉体を重ね塗った。 
半球状に魔王を包んだ帯電した空気が、内部の魔王へと強烈な雷撃を放ち、その威力は見た目通りだ。 

雷撃の振動が高らかに響き、勇者の耳をすら一瞬痺れさせる。 
勇者にのみ扱える雷光の呪文の中で、最も……”初等”の呪文。 

彼が、最初期に覚えた呪文の一つだ。 

それでも、この威力。 
練磨を重ねるうちに、一条だけであった雷の本数は増え、今では――30の雷撃を同時に浴びせる事すら可能となった。 


炸裂した地点及び、そこと勇者の左手の間に、帯電した空気が充満する。 
落雷で砕けた石畳と玉座が、砂埃を上げて視界を塞ぐ。 
魔王の肉体が焦げた匂いは漂わない。 
炸裂前に何らかの防御術を発動させていたとしても、魔力の残響を感じない。 

―――直撃の筈。 
命中の手応えはあるが、倒せた気は全くしない。 
何故なら、広間を埋め尽くす魔王の殺気が、微塵も弱まっていないから。 
逆に、強まっているとも感じる。 

埃が晴れ、視界がクリアになる。 
そこには――魔王が、いなかった。 

真後ろに、薙ぎ払われるような殺気が迫る。 
本能に従って身を沈めれば、直前まで首があった場所を氷の刃が通り過ぎる。 
隠すことも無い、濃い気配が背後へ移動していた。 
氷の刃が空間を進み、玉座にぶつかって砕け散るのを確認して、すぐに後ろへ向き直り、剣を構えた。 

魔王「やってくれるな、勇者よ」 

肉体に、目立つ傷は負っていない。 
体を包む暗黒のローブはところどころが炭化してぼろぼろと崩れ落ちる様相だが、魔王は未だ健在だった。 

勇者「無傷か。………いやになるな、全く」 

ふぅ、と溜め息をついた直後。 
魔王の背後、大扉が開き―――闖入してくる者達がいた。 

旅の最中で出会った、三人の仲間。 
戦士は鎧に無数の傷を負い、僧侶も、魔法使いも、同様に消耗しているようだ。 
回復の魔法は使ったようだが、それでも万全ではない。 

勇者「……挟み撃ちだな、魔王」 

魔王「惰弱。……せめて仲間が貴様の枷にならぬよう祈るのだな」 

魔王の肩越しに、戦士とアイコンタクトを取る。 
”同時に仕掛けるぞ”と。 

全く同時に、勇者と戦士が動く。 
勇者は上段、魔王の首を狙って。 
戦士は下段、姿勢を低め、足を狙って横薙ぎに。 

互いの太刀筋が避けあうように、魔王の体を裂く――筈だった。 

しかし、二つの刃は虚しく空を斬る。 

勇者「何……?」 

戦士「逃がしたっ……」 

二人が空中で交錯した、その瞬間。 
魔王は、再び玉座の前に立っていた。 
着地し、体勢を直したと同時に、尋常ではない魔力が魔王へと集まる。 
特に口元へ集中し、唱えられた魔術の言葉が、力を高まらせていく。 

魔法攻撃で詠唱を遅らせようにも、もう遅い。 
物理攻撃でかかろうにも、距離が離れすぎだ。 
万事休す。 

そう思った、次の瞬間。 

魔王を中心に、空気が揺れた。 
爆発が巻き起こり、吹き飛んだ床の欠片が、容赦なく襲ってくる。 
攻撃が発動した? 
――否。それなら、今頃自分たちは消し飛んでいた。 
ならば、と思い、飛礫から身を守りながら、勇者は魔法使いを見る。 

彼女は、魔力の盾で身を守りながら得意げに微笑んでいた。 

勇者「……助かったよ」 

魔法使い「魔王はきっと、あそこに転移すると思ったからね。いい読みだったでしょ?」 

勇者「流石」 

短く言葉を交わし、それでも緊張を保ったままで、魔王の動向を窺う。 
もうもうと立ち上る煙の中に、シルエットを見つけた。 
逃げてはいない。 
先ほど勇者の放った波動で、魔力の障壁は未だ消えたままの筈。 

――即ち、これも直撃の筈。 
――だが、もしもこれでも無傷、だったら? 


しかし、その懸念は杞憂に終わった。 
煙が晴れた時、魔王は全身いたる所に火傷を負い、膝をついていた。 
ローブは襤褸切れのように無残に焦がされ、痛々しく残るだけ。 

勇者「……どういう事だ」 

僧侶「…恐らく、発動直前に魔法を受けた事で、魔力が暴発した……のでしょう」 

勇者「狙ったか?」 

魔法使い「…と、当然よ」 

戦士「いい加減にしろ。……奴は、『魔王』なんだぞ。集中しないか」 

勇者と戦士が前衛に進み出て、後列に僧侶と魔法使い。 
年季の入った、戦闘の陣形。 
そのまま、武器を構え、魔王と対峙する。 

魔王「……予想外だな。まさか、自らの魔力を浴びる羽目になるとは。……やるな、ヒトの魔術師よ」 

膝をついたまま、荘厳に呟く。 

魔王「…芸が無いが、……ヒトの似姿では貴様ら四人を相手取るには役者不足か」 

魔法使い「『変身』でもするってワケ?安直よね」 

魔王「いや。……『変身を解く』のだよ」 


白煙を立たせたまま、その場で魔王が姿を変える。 

骨格が変形していく、不快な音が連続する。 
肉が裂け破れ、ぐちゃぐちゃと音を立てて、変形した骨格を軸に新たな肉体を形成する。 
漏れ出た体液が床へ落ち、黒い煙へと変じ、瘴気を撒き散らす。 

僧侶「…うっ……!」 

その香りを嗅いだ僧侶は、思わず口に手を当てていた。 
魔王が変形していくその姿より、その瘴気が、彼女には厳しいようだ。 
悪臭と、凝縮された邪なる魔力の塊。 
神職にある彼女にも、考えられない程に禍々しい。 

爬虫類のような下半身に、丸太のように太く長い、無数の棘を生やした尾。 
四本の鋭い爪を持つ、三対のひょろりと細く伸びた腕。 
不揃いな、骨の欠片のような牙を無数に生やした、竜のような、二つの鋭く凶悪に捩れた角を持つ頭。 
五つの、完全に血の色に塗られた眼球。 

その体長は、少なく見ても、7mはある。 

それは……あまりに、絶望的な光景だった。 
見た目の暴威に加えて、『魔王』の意思が完全に残り、魔力を行使する事すら可能。 


久しく忘れていた、絶望が。 
姿を現した。 



まず、最初に――『魔法使い』が脱落した。 

開幕直後、魔王が閃光の魔法を発し、陣形を薙ぎ払ったのだ。 
口内から放たれた高熱の魔力が床を薙ぎ、容易く溶かしてしまった。 

各々が飛ぶように回避すると、三手に分断された。 
戦士。魔法使い。そして、僧侶と勇者に。 

正面に位置した勇者が剣を構えなおし、僧侶は、その間に詠唱を始める。 
彼女が使える数少ない攻撃の魔法、その中でも最も威力の高いものを選んで。 

魔王の左手側の戦士が、盾で身を防ぎながらゆっくりと距離を取る。 

右手側には、孤立してしまった魔法使い。 
勇者は、彼女を助けに行こうとする。 
だが、間に合わなかった。 

振り回された腕が、彼女を捉えた。 
その異様な細さに似合わない腕力で、彼女の体を無造作に掴み――まるで、人形のように広間の柱へ向けて投げ飛ばした。 

大理石の柱に強かに身を打ちつけられ、柱が部分的に抉れるほどの衝撃が彼女を襲う。 

勇者は、見た。 
見ている事しか、できなかった。 

ぐるりと白目を剥き、血の泡を噴きながら、力無くその場へ崩れる彼女の姿を。 


必死で前に出ようとする体を、引き留める。 
魔法使いは、恐らく致命傷。現状の戦線復帰は不可能。 
だがこちらには、僧侶がいる。 
即死で無い限りは、彼女が治せる。 

それでも、冷静さを取り戻すのは至難。 

勇者「……戦士!」 

戦士「分かっている!」 

勇者が号令を飛ばすより早く、地を蹴って戦士が走る。 
兜のフェイスガードを下ろし、盾を前面に構え、大きく引いた剣を横薙ぎにする姿勢に。 

五つの眼球が、ぎょろりとこちらを向く。 
射竦めるような『魔王』の邪眼を向けられ、恐れを知らぬ『戦士』でさえ、悪寒に襲われた。 

―――殺される。 

その一念が、戦士の心を支配した。 
方向転換を許さない勢いで駆け出してしまった今、迎撃を避ける事は不可能。 
だからこそ、今更……逃げる手立ては無い。 
恐怖を覚悟で塗り潰し、その瞬間を待つ。 

―――戦士は、仲間の為に死ぬのが役目だ。 

酒場で仲間に聞いた言葉を木霊させながら、更に深く、加速していく。 


無拍子で生成され、放たれた氷塊が連続で飛来する。 
盾で頭と胴を守りながら、兜の装飾を毟り取られながら、脚甲を変形させながら。 
業物の盾でさえ、魔王の呪文の前では紙のようだ。 
左手に衝撃を感じ、その度に、骨が軋むのを感じた。 

盾を下げてしまった拍子に、左側頭を拳大の氷塊が直撃する。 
角飾りがへし折れ、視界が一瞬暗転し、足元がぐら付いた。 

まだ、倒れる訳にいかない。 

視界が、再び鮮明さを取り戻す。 
くずおれようとした脚に再び力を注ぎ、踏み出す。 
左腕に、もはや感覚は無い。 
盾は変形し、外縁部は欠け、もはや防御力は期待できそうになかった。 

だが、それは歩みを止める理由にならない。 
未だ、自分は剣を握っているからだ。 

勇者が声を張り上げているのが聞こえた。 
あの男の事だ。きっと、『無茶をするな』だとか『一度退け』だのと言っているのだろう。 

それでも、前を見据え、魔王の眼を睨み返す。 
変形したフェイスガードの隙間から、魔王が二本の左手を振りかぶるのが見えた。 
避けられない。 
握りつぶされるのか、それとも吹き飛ばされるのか。あるいは、甲冑ごと引きちぎられるのか。 

未来は、そんなところだろう。 

瞬間、一陣の風が吹く。 


僧侶の詠唱が終わり、魔力が解き放たれた。 
真空の刃を無数に生み出す呪文。 
彼女が唱えられる中で、最も高威力なものだ。 

見えない刃が魔王の体躯を撫で、いくつもの切創を生み出す。 
多くが漆黒の体液が僅かに滲む程度で、ぱっくりと開く傷が二つか三つ。 
ダメージは、与えられている。 
だが、それ以上に魔王の生命力が、高すぎるのだ。 

真空の刃に付随した強風が、ほんの一瞬のみ、魔王の体を押しとどめて動きを止めた。 
その一瞬は、『戦士』にとっては『永遠』と同義だった。 

本来なら、疾風の如き剣技で気を引き、勇者に魔法使いを救出させる時間を稼ぐはずだった。 
ダメージを期待してではなく、単なる繋ぎとして。 

だが今なら、当てられる。 
魔神の如き威力を生み出す、渾身の斬撃。 
避けられれば死ぬしかない、命ごと浴びせる文字通り”必殺”の技を。 

裂帛の気迫が、戦士を覆う。。 
剣が重くなり、同時に体が軽く感じる。 
超圧縮された闘気が全身へ漲り、全身の血液が沸騰しそうなほどに熱く滾る。 
全身に鈍色に輝く地獄の鎧を纏い、手にした剣が重力の塊へ化けたように思えた。 

剣先が届く寸前、魔王の胸中にある言葉が去来した。 

―――『魔神』と。 

会心の斬撃が、魔王の左腕に食い込む。 
二本の左腕が、まるで呆気なく根元から両断され、宙を舞った。 
主を失った腕は空中で黒煙と化して蒸発する。 

戦士はその勢いのまま、僧侶の眼前に滑り込む。 
満身創痍の有様で、盾も兜も、使い物にはならない。 
僧侶はすぐに、回復の呪文を唱える。 

勇者は、間隙を逃がさず倒れた魔法使いの下へ駆ける。 
さしもの魔王も腕を失えば、その痛みは抑えられないようだ。 
絶叫が広間に響き渡る、その間に――無茶苦茶に振り回される右腕の間を縫い、辿り着いた。 

勇者「おい、魔法使い!…しっかりしろ!」 

反応は、返ってこない。 
死んではいないが、すぐには意識は戻りそうに無い。 

勇者「……くそっ!」 

意を決し、左肩に彼女を担いで、僧侶のもとへ走る。 
動かしてよい状態かは分からないが、治せるのは僧侶だけだ。 
勇者の肉体には、彼女の体は軽く感じる。 
こんなにも細くか弱い体に、魔王の豪腕が襲い掛かったのだ。 
死んでいないのが奇跡としか思えなかった。 

回復を受けている戦士の傍らに彼女を寝かせ、魔王へと視線を向けた。 
左腕をまとめて失った痛みは、未だ響いているようだ。 
戦士が命を賭して稼いでくれた時間を、無駄にはできない。 

勇者「頼んだぞ、僧侶。…今度は、俺が時間を稼ぐ」 

僧侶「そんな!無茶です!あの魔王を相手に、お一人でなんて!」 

勇者「魔王が回復を待ってくれる訳が無い。……危険だというなら、急いでくれ。いつまでもつか分からん」 

僧侶「……はい、どうか……死なないでください」 

背に僧侶の懇願を浴びながら、剣を抜いて魔王へ向かう。 
ゆっくりと歩み寄る足取りは徐々に加速していき、攻撃が手薄になると思われる左手側から斬りつける。 

狙いは、脇腹。 
魔力で強化された刀身が、紫色の体表へ吸い込まれていく。 

勇者「っうあぁぁ!」 

硬い。 
勇者の剣に、強化呪文を乗せても、なお魔王の身体は硬い。 
今身を持って知っただけに、先ほどの戦士の攻撃が、いかに強力だったかを思い知る。 
勇者は皮膚を浅く薙いだだけ。 
それなのに、戦士は――こんな魔王の腕を、二本もまとめて切り落としたのだ。 

勇者「……クソっ……それなら!!」 

柄をぎゅっと握り直し、呼吸を整える。 
途中に襲ってきた魔王の右腕の一つを掻い潜り、再び距離を取る。 



旅の途中、鋼鉄のような皮膚を持つ魔物に出会った。 
その硬さは、今目の前の魔王と同じ、いやそれ以上。 

戦士と勇者は、それを倒す為にある技を思いついた。 
呼吸を整え、一撃に全てを込め、鋼鉄をも切り裂く剣技。 
幾度も失敗し、幾度も逃げられ、ようやく身につける事ができた秘剣。 

それならば、魔王の皮膚すらも切り裂けるかも知れない。 
試す価値は、十分にある。 

呼吸を深く、長く取る。 
極限まで集中しなければ、鋼鉄の魔物を斬る事はできないからだ。 

静寂が心を満たす。 
魔王の殺気の流れが、手に取るように分かった。 
今しがた味わった皮膚の感覚が手に残り、切り裂く様子を克明に思い描く。 

僧侶は今、戦士の治療を終え、魔法使いに回復を施している。 
今少し稼げば、体勢は整えられる。 

勇者「………!」 

正眼に構え、こちらに視線を向けた魔王を正面に捉える。 
痛みから回復した魔王は、口元に魔力を溜めていた。 

勇者は、一気に距離を詰める。 
まるで地が歪み、縮まったかのように瞬時に懐へ潜り込む。 
この歩法もまた、鋼鉄の魔物を、離脱されるより素早く斬るための鍛錬の賜物だ。 


――再び斬り上げられた剣は、更に深く、初撃で刻んだ傷をなぞり、血飛沫を上げた。 


魔王の嘶きが聞こえた。 
左腕に加え、脇腹の深手。 

いける。 
心の中でそう呟き、左手側に離脱して、反転して身を縮める。 
今なら、更にもう一太刀加えられる。 

小人めいた計算の下、勇者はその場から真上に飛ぶ。 
自由落下の勢いのまま、直上から兜割りに斬りつける算段。 
狙いは、頭。 

その時、痛みに狂乱していたはずの魔王が、突如真上の、勇者を見た。 

勇者「なっ……!?」 

魔王「……『魔王』ヲ侮ルナ」 

がちゃがちゃと牙を打ち鳴らしながら、魔王はぐるりと半回転する。 
空中で無防備となった勇者の左側から、巨木のような尻尾が襲って来た。 


僧侶は戦士の回復を終えて、魔法使いへと回復呪文を唱えていた。 
―――酷い。 
肋骨が四本。内臓をひどく傷めて、脊椎にもダメージがある。 
頭を含めた全身を強く打っているため、戦闘中に意識が戻るかどうかも怪しい。 
最上級の回復呪文を唱えて、細胞を活性化させて傷を塞ぐ。 
僧侶の魔力が彼女の細胞へ溶け込み、エネルギーと化して超高速で新陳代謝を促進していく。 
代償として、僧侶は魔力ががくんと削られていく、激しい疲労感と倦怠感を覚える。 
使いつけない攻撃呪文に加え、回復呪文の連唱。 
魔力が、底をついてしまいそうだ。 


集中していた僧侶の耳に、不吉な音が飛び込んできた。 
何かがひしゃげ、直後、壁に激突する大音響。 

ぞくり、と死神の鎌で背を撫でられるような悪寒。 
発作的に顔を上げる。 

勇者が、いなかった。 

魔王がこちらを向いて、歯を剥いていた。 


―――勇者は、空中でまともに尾の一撃を受けた。 
寸前で防御はしたが、大質量に遠心力の加護を受けた一撃は重すぎる。 
どこかの骨がみしみしと軋み、加重に耐え切れず、ゴキっ、とへし折れる音を勇者は聴いた。 

その勢いのまま飛ばされ、玉座側の壁へと吹き飛ばされ、叩き付けられた。 

最悪な事に、現状を整理すると……僧侶が、二人へ回復を施し、魔力が尽きかけている。 
魔王はそちらへ意識を向けている。 
勇者は直撃を受けて吹っ飛び、僧侶と魔王を挟んで遥か向こう側に。 

地響きとともに、魔王が近寄ってくる。 
消耗した体で、何とか立ち上がり、杖を構え、横たわる二人の前に、庇うように立ち塞がる。 
魔力の消耗で弱った体。 
加え、目の前には人界最凶の存在が、絶望的な威容を以て迫っている。 

脚が、止め処なく震える。 
根源的、そして不可避の恐怖がすぐ身近に迫り、涙が滲む。 

怖い。 
死にたくない。 
――でも、ここを……どくわけには、いかない。 


勇者は、魔王の向こう側の壁に叩き付けられた。 
戦闘能力のある二人は、戦士はともかく魔法使いは未だ昏倒している。 

――逃げる? 

いや、ダメだ。 
皆を見捨て、逃げる訳にはいかない。 
仲間達を置いて、一人だけ逃げるなど論外だ。 
十分に、それは理解している。 
なのに、何故か……頭から、食いついたようにその言葉は離れてくれない。 

魔王「……ソレモイイ。ダガ、知ッテイルノダロウ。……『魔王カラハ、逃ゲラレナイ』」 

逃げようと背を向ければ、その瞬間、背から引き裂かれる。 
炎の呪文で、骨まで灰にされる。恐ろしい歯で、生きながらに食い殺される。 
それとも――魔物の群れに放り込まれ、神職として最も恥ずべき、恐ろしい結末を迎えるのか。 

魔王「…シカシ。我ノ恐ロシサヲ知ラシメル、証人ガ必要ダ」 

僧侶「え……?」 

魔王「逃ゲルガイイ。見逃シテヤロウトイウノダ。……アワレナ仲間達ハ、置イテ行ッテモラウガナ」 

逃がして、くれると。 

魔王は、そう言っている。 

僧侶「…………」 

―――神よ、お許しください。 
胸中にその言葉を唱えながら、後ずさる。 
その所作に、魔王は……顔を歪め、嗤った。 

しかし、嗤い顔が続いたのは、ほんの一瞬。 

風が吹きぬけ、体表に傷とも呼べぬ傷が刻まれた。 
浅く、皮を切り裂くだけのひ弱な呪文で。 

―――神よ、お許しください。 
―――私は、迷ってしまいました。 
それが、密かな懺悔の続き。 

僧侶「……魔王…から、は…逃……げ…ない」 

今の呪文で、魔力は全て使い果たした。 
これで、本当に”空”だ。 

魔王「…勇者トイイ、貴様ラハ……救イガタイ。セメテ、終ワラセテヤル」 

魔力が揺れ、魔王の喉の奥へと集まっていく。 
逃げる事は、もう敵わない。 

勝手に足が動き、進み出た。 
大砲の筒先のように感じる、魔王の眼前に。 
せめてもの気休めに、戦士と魔法使いを庇うかのように手を広げ、盾となろうとして。 

僧侶「ごめんなさい。……私達、世界を……救えませんでした」 

涙が頬を伝う。 
今わの際、彼女の心へ降って沸いたのは、謝罪の念。 
あんなに、旅をしたのに。 
魔王の城まで、勇者とともにやってきたのに。 
魔王を、倒せなかった。 
倒せずに、ここで死んでしまう。 

思い出されたのは、神父の微笑み。 
教会にやってくる子供達の、魔王への恐怖からの不安に駆られ、それでも笑おうとしていた痛々しい姿。 
あの子達を救い、未来への道を開いてあげたかったのに。 

全てが、無駄だったのだろうか。 


そして――暗黒の炎が、吐息と化して放たれる。 

黒炎が視界を埋め尽くす中、僧侶は、黙って目を閉じ、運命を受け入れた。 




―――おかしい。 
―――いつまで経っても、身を焼かれない。 

眼を、ゆっくりと開ける。 
赤く輝く魔力の殻が、放たれた吐息を散らしていた。 
ちりちりと僅かな熱は感じるものの、殺傷性はほぼ完璧に殻に奪われていた。 

僧侶「これ、は……?」 

魔法使い「…ゲフッ……あんた、ね……怪我人、働かすんじゃ……ないわよ」 

彼女は、いつの間にか立ち上がっていた。 
前かがみの姿勢で脇腹を押さえながらという有様ではあるが、彼女は、回復していた。 
口元から血を垂らしながら防御結界を維持する彼女は、怨めしげに僧侶を睨みつける。 

戦士「…しかし、マズい。……俺も、立つのがやっとだ」 

次いで、戦士もよろよろと立ち上がる。 
壊れた盾は捨て、視界を塞ぐだけの兜も脱ぎ捨てる。 
顔を横断する刀傷が特徴的な、精悍な顔が現れる。 
言葉とは裏腹に……彼は、悲観的な表情をしてはいなかった。 


魔王「……小癪ナ」 

黒炎の吐息を吐き終え、魔王が更に近寄る。 
魔力の殻は、物理攻撃に弱い。 
あの豪腕で殴りつけられれば、たちまち崩れてしまう。 

魔王の姿が、強烈な閃光に打たれて浮かび上がった。 
ほぼ同時に、聞き覚えのある轟音が響き渡る。 

耳をつんざき、腹まで痺れさせるような、強烈な衝撃波。 
更に、閃光と轟音は続き、魔力の殻の向こうで、何度も魔王が身をよじる。 
肉の焼ける匂いが漂い、それは――魔王の体を、雷撃が灼いている証。 

魔法使い「まさか………」 

僧侶「……雷撃の、最強呪文です。本来、集団に向けて放つものを……魔王に集中させているようです」 

戦士「生きて、やがるのか」 

その間にも、絶え間なく雷撃が魔王の体を打つ。 
一発ごとに魔王が悶え、唾液を散らしながら絶叫する。 

数にして凡そ20の、極大の雷撃が収まったとき、魔王は全身に焼け焦げを作り、 
煙を上げ、残った腕で体を支えている有様だった。 

魔王「キサマ……!!」 

勇者「寂しいだろ。……俺を無視するなよ、『魔王』」 

幾らか頼りない足取りで、『勇者』が魔王の後ろから近づいていく。 
左腕はあらぬ方向にねじれ、ぶらぶらと力なく垂れ下がっていた。 
頭からは夥しい血が流れ、左目はずっと瞑られたまま。 
歩き方から見て、恐らく足の骨も折れたか、ヒビが入っているはずだ。 
肺をやられたか、咳き込む拍子に、血反吐が出る。 

勇者「……もう、限界だ。『お前を倒す程度』の力しか、残ってない」 

魔王「ヤッテミルガイイ!」 

吼えて、魔王は身を翻し、勇者へと駆けていく。 
巨体に見合わぬ俊敏さで、踏み出すたびに床を砕き、大きすぎる足跡を残した。 
先の雷撃で吹き飛んだ魔力の障壁を再構成し、全身を覆いながら。 

この巨体、速度で突進を受ければ、今の勇者は間違いなく即死。 
だが、勇者はその場から微動だにしない。 
剣を頭上に大きく振り上げ、身をかがめて力を溜める。 

刀身の光が、増幅していく。 
強く輝いていく光は、脈打つように”大きく”刀身を覆っていく。 
錯覚ではない。 
実際に光が刀身を覆って、直視できぬほど眩しい、光の刃を構成していく。 

光の粒が集まり、刀身と、勇者の周りで踊る。 
蛍が舞うが如く集まり、徐々に刃を膨れ上がらせ、最終的に……勇者の身の丈を越す、光の剣となった。 

勇者「――――っ!!」 

雄々しく叫び、飛び上がり、頭上から光の剣を、魔王へと振り下ろす。 
叫ばれたのは、この『剣技』の名前。 

勇者にだけ扱える、雷光の剣技。 
最高の剣技、そして最高の勇気を持つ者のみが扱えると伝えられる、伝説の剣。 


―――そして決戦の場は、眩い光に包まれた。 

光が止み、三人が視界を取り戻した時。 
眼に飛び込んできたのは、予想通りの、そして、精神を昂揚させる光景。 
彼らが、世界中の人々が、夢見てやまなかった事。 
過酷な旅を続けてきた、最大の理由。 

気付けば、眼から涙が溢れていた。 
潤んだ瞳が、揺らしながらその光景を映し続ける。 

魔王の巨躯は、袈裟懸けに真っ二つにされ、暗黒の体液をだくだくと流していた。 
勇者はその屍の上に、堂々と立っていた。 

―――『勇者』が、『魔王』を倒したのだ。 

神話のような光景が、目の前に広がっている。 
誰もが子供の頃に聞いた、勇者のおとぎ話が目の前にあった。 
誰もが子供の頃に憧れた、勇者の輝かしい勝利が目の前にあった。 

そして、あれは……おとぎ話などでは、なかったのだ。 

―――三人の仲間達は勇者へと駆け寄っていく。 
勝者を、称えるために。 


戦士が勇者の体を支え、前から抱きとめる。 
だらりと弛緩した体が、重く圧し掛かった。 
あまりに酷い怪我だが、驚くべき事に意識がある。 
すぐに彼を魔王の屍から下ろし、僧侶が進み出た。 

勇者「……あんまり、見えないんだ。……やった、のか?」 

戦士「ああ。……倒したぞ!『魔王』を倒した!」 

勇者「…そっか。………良かった」 

僧侶「…待っててください。今、回復しますから」 

勇者「いや、それはいい。……それより……」 

魔法使い「…何よ?」 

―――ぐらり。 

地面が揺れ、足元を危うくさせた。 
魔法使いは揺れた拍子に尻餅をつき、悪態を吐く。 

勇者「……やっぱりな。……『魔王城』は、『魔王』の魔力でもってたわけか」 

戦士「早く出るぞ。…これ以上、留まる意味は無い」 


城全体が細かく揺れ始め、天井から土埃と小石が降ってくる。 
立つことも徐々に難しくなり、四人はバランスを取りながら、その場に固まる。 
何故か――勇者が、ビクとも動かないのだ。 

魔法使い「ちょっと!出るわよ!魔王倒したのに生き埋めなんて、冗談じゃないわよ!!」 

僧侶「早くしないと、通路も塞がれてしまいます!」 

勇者「……それなんだが。……クソ、言いにくいな」 

戦士「何だ?さっきから、お前は何を言いたいんだ?」 

逃げようとしない勇者に苛立ちを募らせ、戦士が問い詰める。 
魔王城が崩壊し始めたという事は、間違いなく魔王を倒したという事なのに。 

勇者「……お前達だけで、逃げろ。…俺には、構うな」 

僧侶「なっ……」 

魔法使い「ちょ、何言ってんの!?ふざけるんじゃないわよ、こんな時に!」 

戦士「そうだ!さっさと……」 

仲間達が、口々に彼を攻め立てる。 
対し、彼は一言だけ言葉を発した。 

揺れは、一旦収まっていた。 
それだけに、はっきりと聞き取れた。 



勇者「……『めいれいさせろ』」 


冷たく放たれる、『勇者』の号令。 
身についた習慣が、脳に一時の冷静をもたらす。 

戦士「…何故だ!何故、そんな事を言う!?」 

勇者「分かってくれ。お願いだ、俺を置いてみんなは故郷へ帰るんだ」 

僧侶「嫌。絶対に嫌です!!」 

勇者「……そんな声出るんだな、僧侶」 

魔法使い「説明しなさい!……あんたを残して行くなんてイヤよ!」 

勇者「…ごめんな」 

口々に、勇者の真意を問い、そして連れ出そうと言葉を連ねる。 

戦士の激しい詰問にも。 
僧侶の涙ながらの拒否にも。 
魔法使いの口から出た、普段の苛烈さとは見合わない本音にも。 

勇者は、寂しく笑いかけるだけ。 
体を支えてくれていた戦士を軽く押しのけ、その場に危うげなバランスで立ち尽くす。 

再び、魔王城が大きく揺れる。 
大地震の前兆のように、何度も揺れと静止を繰り返す。 

いずれ、城を崩壊させる大きな揺れが襲って来る。 
こんな所で、押し問答をしている訳にはいかないのに。 

勇者「……『魔王』はもういない」 

魔法使い「そうよ、あんたが倒したんじゃない!だから、早く……」 

勇者「…じゃあ、もう。『勇者』もいらないだろ?」 

―――軽快な音が響く。 

魔法使いの右手が、勇者の左頬を打った。 
感情に任せて妙な打ち方をしたためか、手首を左手で抑えながら彼女は勇者を睨みつける。 

魔法使い「痛っ……。あんた……冗談でも、言っていい事とそうじゃない事が…あるでしょ」 

勇者「……怪我人ひっぱたくなんて、最後までお前らしいな」 


魔法使い「『最後』なんて言うなっ!!」 

悲鳴に似た叫びが、揺れの収まった広間に響き渡る。 
声帯が裂けそうなほどの、悲痛すぎる声。 
感情を隠さない彼女にしても、これほどまで取り乱すのを勇者は見た事が無かった。 


しん、と静まり返った空気の中。 
数拍遅れて、嗚咽が聞こえてきた。 

魔法使い「…ねぇ……お願い、だから……一緒に……逃げようよぉ…」 

勇者「………それだけは、ダメなんだ」 

涙を見せた彼女にも、勇者は譲らない。 
意固地になっているという訳でもなく、ただ、淡々と……何かを受け入れているかのように。 


勇者「……『勇者』は、『魔王』がいないと存在できないんだ」 

ぽつりぽつりと、語り始める。 
仲間達は、それに聞き入る。 

勇者「女神から貰った『勇者』の力は、『魔王』を倒すためのものだ。……俺は、それを戦争に使いたくない」 

戦士「……だったら…どこかで余生を過ごそう。平穏に、残りの人生を送ろう」 

勇者「それも、いいな。……でも、無理だ。無理なんだと分かったよ」 

僧侶「どうして、ですか」 

勇者「俺は、この世界に名と顔が売れすぎてしまった。今どき、『勇者』の風体を知らないほうがおかしいぐらいだ」 

戦士「…………」 

勇者「どこかで晴耕雨読の暮らしをしていても、いつか探し当てられる。目覚めれば、軍隊に囲まれている」 

魔法使い「…なんで……何で、そうなるのよぉ……」 

勇者「………俺は、この…救った世界の人々に、剣を向けたくない。『勇者』が最後に倒したのは、『魔王』であって欲しいんだ。 
   みんなとの、『世界を救うため』の旅を、嘘にしてしまいたくない」 

僧侶「酷いですよ。……貴方は……酷い人です」 

魔法使いに続き、僧侶も肩が震え始める。 
梃子でも動きそうにない勇者の姿に、あまりの決意の固さを感じてしまって。 
それは――『勇者とはこの場で別れ』という意味にしか感じられなくて。 


勇者「俺も……帰りたいよ。故郷の父さんと母さんに会いたい。妹の成長も見届けたい。 
   でもさ。……そうすると、もう逃れられない。再開された隣国との戦争に、参じなければならないんだ」 

たとえ王都に近寄らなくとも、故郷に帰ってしまえば噂が立つ。 
そして、その噂を聞きつけ……後は、お決まりだ。 
帰る事は、許されない。 
帰ったら、不可避の戦争が待っている。 

戦士「戦争が再開されるなんて限らないだろう!!……何故、そこまで悲観する!」 

勇者「隣国を訪れた時、俺と僧侶は『あっちの国』の人間というだけで蔑まれた。……『勇者』がだぞ? 
   魔王が現れても小競り合いは起こしていたし、既に情報戦も展開されてる」 

戦士「クッ……あいつら……!」 

勇者「…頼むから。もう、行ってくれ。……『僧侶』は人を癒し、正しい道へ導く役目がある。 
   『戦士』、は仲間を守り、正しき事のために剣を振るう事ができる」 

ゆっくり、勇者が後ろへ下がる。 
繰り返された揺れが段々大きくなり、その間隔も狭まってきた。 
―――そろそろ、本命が来る。 

勇者「……なぁ、『魔法使い』。お前の呪文は、人々をまだ救える。弱い人達を、守ってやってくれ」 

魔法使い「わかった……わかったから……お願い……」 

勇者「………俺は、一緒に行けない。『勇者』の役目は、これで終わりなんだ。……みんな」 

言葉を続ける前に、人間大の瓦礫が勇者と仲間達の間へ、幕を下ろすように降り注ぐ。 


勇者「『いのちをだいじに』」 

最後の、『作戦』が聞こえた。 



戦士「………行こう」 

屈強な戦士が、必要以上に険しい表情で二人を促す。 
まるで、何かを必死で押さえ込もうとしているように険しい。 

僧侶は涙ながらに、戦士に促される通りに動く。 
魔法使いは最後まで渋っていたが、戦士の表情を見て、素直に従った。 
―――離れたくないのは、自分だけなのではないと気付いたから。 

三人は、瓦礫の向こうにいるであろう勇者に、背を向けた。 
背を向け、足を動かす。 
それだけの事が、戦いよりも厳しく、辛い。 

戦士の顔は、いつにもまして強面に、硬く保たれている。 
戦友を置いて逃げ出す、その情けなさに耐え難いから。 
勇者のあそこまでの決意を、揺るがす事は出来ないと痛感したから。 

『世界を救った男』に、人殺しなどさせたくないから。 
その為には、置いて行く事しか許されないと気付いてしまった。 
涙腺を鍛える事などできないから、険しく塗り潰す事でしか、その哀しみには耐えられない。 

本格的に揺れ始めた魔王の城。 
三人の旅の仲間達は――歪みかけた大扉を開き、決戦の間から出た。 

振り返らずに、勇者の、最後の言葉を果たすために 




程なく、降り注ぐ瓦礫で魔王の間は埋まっていった。 

砕けた左腕にもはや痛覚は感じない。 
息を深く吸うと、折れた肋骨の先端が肺を引っかき、痛みとともに吐血を催す。 
左目は、開くことすらできない。 
残された右の目も、上手く焦点を結んでくれない。 

仲間が出て行った事を悟った勇者は、その場に片膝をついた。 
右手に握っていた剣は、半ばから折れてしまっている。 
最後の役目を果たした剣からは段々と輝きが失せていき、 
戦場のどこにでも転がる、『折れた剣』へと変わってしまった。 

勇者「………これで、いいんだ」 

折れた剣を鞘に戻し、一人ごちる。 
言葉にしてしまわないと、最後の最後で生への欲求がもたげてしまう。 
認めたくはない。 
だが、隠せない。 

―――死にたく、ない。 

―――あんまりだ。 

―――俺は世界を救ったのに、世界は俺を救ってくれないのか? 

―――こんなバカな話を、世界は受け入れるのか。 

声無き慟哭が、崩壊していく魔王城に響き渡った。 

仲間がいなくなった孤独な戦場跡で、勇者は『人間』としての、当たり前の感情を取り戻した。 
醜く、弱く、打算さえ備えていた、『人間』の心が露わになる。 
彼は、ようやく。 

『勇者』と言う名の呪いから、解放されたのだ。 


絶望が、心を侵蝕する。 
死にたくない。 
出来る事ならば、今すぐにでもここから出て行きたい。 
何をしてでも生き延びて、人並みかそれ以上の幸せを掴みたい。 

だが、殺したくない。 
救われた後でも結局救えない、戦火を再び灯らせる世界の中、無力感を噛み締めたくない。 
命と引き換えの覚悟で救った世界で、救った人々に刃を向ける事などできない。 

矛盾している。 
そんな事は、分かっていた。 

その矛盾もまた、『人間』の証明。 


打ちひしがれ、くずおれて最期の刻を待つ勇者が。 
俄かにうなじが毛羽立つ、覚えのある気配を感じた。 


魔王「だから、我は言ったのだ」 

地獄の底から響くような、本来の姿の魔王ではなく、人化の法でその身を変じさせた魔王の声。 
勇者は、弾かれたように頭だけをその方角へ向けた。 

勇者「貴様、まだ生きていたのか!?」 

その身を両断された魔王は、頭と右腕のみを切り裂かれた胴体で繋ぐ有様で、再び人へと化けていた。 

魔王「……いや、我はもうすぐ滅ぶ。魔王城の崩壊がその証だ」 

勇者「…なら、何故だ。最後まで俺をなぶりたいのか?……それとも、死ぬまでの暇潰しに付き合えと?」 

魔王「どちらも魅力的ではないか。だが、残念ながら違う」 

勇者「………もったいぶるな」 

魔王「…貴様、自分が救われないと思っているな?」 

勇者「何だと?」 

魔王「……我は滅び、世界は一応救われた。……そして、世界を救った自分に、救いが来ないと思っている」 

図星を突かれるが、募ったのは苛立ち。 
間違いなく、魔王は自分の事を理解している。 
それだけに――腹が立つ。 
頭に血が上りそうになるが、努めて平静に振舞う。 

勇者「……だから何だって言うんだ。言い当てて満足したなら大人しく死んでいろ、『魔王』」 

身も蓋もなく言い放って身を起こし、落ちてきた天井の破片に寄りかかる。 
その顔に、もはや生気は無い。 
心の中で弱音を吐き尽くし、重く圧し掛かる死の事実を受け止めようとしているかのように。 

魔王「…………つれなくするな。もはや、『魔王』も『勇者』も無いのだからな」 

勇者「言いたい事があるんなら、言え。……最後ぐらい、付き合ってやるさ」 

魔王「何、そう難しい話でもない。長くもな。……我の命と同じく」 

勇者「…で、何だ?」 

魔王「……我ながらくどいが、これが最後だ」 



―――世界の半分はもうやれないが、淫魔の国をくれてやろう。 




魔王が何を言っているのか、分からなかった。 
この状況で、何故―――? 

勇者「……何を、言っているんだ?」 

魔王「言葉通りだ。……ただし貴様がいた、七日目の時点ではない。その三年前へ、戻る。 
   王位に就き、国を手に入れる所からだ」 

―――『3年ほど前、あなたは王座に就かれました』 

あの国で、堕女神がそう言っていた。 
その時点に、戻る。 
という事は。 

勇者「……彼女らに、俺との記憶は無いという事か?」 

魔王「愚問だな。……だが、それが悲しいか?」 

勇者「………」 

魔王「貴様との愛の無い、ただ性を処理させられるだけの記憶。堕ちた女神が自らに受けた苦痛の記憶。それを無くしているのが?」 

勇者は、何も言えなかった。 
彼女らとの七日間の記憶が、なくなってしまうのが哀しくはある。 
だが、魔王の言うとおり。 

―――堕女神に辛く当たり、心を抑え込ませてしまった過去。 
―――ただただ欲望のままに生き、あの世界の『魔王』に成り果ててしまった過去。 

それを、持ち越す事は。 

魔王「……体験の『記憶』は、本編には持ち込めない。それだけの話だ」 


勇者「……何故だ」 

魔王「質問になっていないな」 

勇者「何故!俺にそんな話を持ちかける!?……お前は、もうすぐ死ぬんだぞ!?」 

叫んだ拍子に、肺に血が溜まり、息苦しさを感じて咳き込む。 
その様子を、魔王は黙って見ていた。 
嘲笑うでもなく、かといって優しげでもなく、ただ、見ていた。 

魔王「……我は『世界』の敵。世界の選択に逆らい、ただ自らの望む答えだけを求める者。……ゆえに、『魔王』」 

揺れが一時的に収まった。 
魔王が崩落を、自分の意思で遅らせているのかもしれない。 
でなければ、本格的に始まった揺れが収まるわけがない。 

魔王「……世界は、『世界を救った者』の存在を許さないのだろう。『勇者』のままにしておく事を、許さないのだろう?」 

語りかける言葉に、もはや魔王の威圧感は無い。 
致命傷を負い死を待つだけの、哀れな魔族。 
放っておけば死ぬ、弱々しい存在。 

魔王「………これが……我の、最後の、『世界』へ報いる一矢。征服はならずとも、我は、『世界』の選択に阿る事はしない」 

勇者「…………魔王」 

魔王「開くぞ?」 

勇者の眼前に、異界への扉が現れる。 
紫の光で縁取られた、簡素な、文字通りの『扉』が。 

魔王「貴様は、どうする?……世界を救った。『勇者』である必要はもうない。……自分に従え。 
    最後まで、『魔王』に抗うというのならそれもいい。『魔王』冥利に尽きるというものだ」 

勇者「…もう一度、会えるのか」 

足腰に無理に力を入れ、立ち上がる。 
膝は震えて、足裏の感覚はおぼろげで、立つ事でやっと。 

魔王「……行くがいい。彼女らと、堕ちた女神と、淫魔達と、隣国の女王と。再び――『出会い』直せ。 
    ……だが、しばし待つが良い」 

勇者が立ち上がったのを見て、諭すような言葉を紡ぐ。 
そして、引き止め――― 

勇者「何……を……?」 

全身を光が包み、負傷箇所に繭を形作るように光が舞い踊る。 
ねじれていた左腕は元通りに。 
潰れていた左目、頭部の裂傷、更には、痛めつけられた内臓までが癒えていく。 
ぼろぼろになっていた肺も修復され、呼吸が、たちどころに楽になる。 

魔王「舐めるな。……我は『魔王』なるぞ。死に際であろうと、ヒトを回復させる程度の魔力はある」 

勇者「…………」 




扉へ、手を添える。 
少し力をこめれば、簡単に開いてしまいそうだ。 

勇者「『魔王』」 

魔王「色気を出すな。……次の生では、必ずや『世界』を滅ぼしてやる」 

勇者「上等だ。またお前を止めてやるさ」 

魔王「……次は、負けん」 

そのやり取りだけで、別れの言葉は十分だった。 
『勇者』と『魔王』。 
対極にして、最も近しい存在。 
鏡に向かい合うような、正反対にして、自らの存在を確かめ合う事ができる存在。 

『勇者』は扉を開け―――光に包まれ、『向こう側』へと消えていった。 

『魔王』は勇者が消えていくのを見届け――大きな呼吸をひとつついて、命の灯を消し、末端から光と化して消えていった。 


―――こうして、この世界から、『勇者』と『魔王』は消えた。 







扉をくぐると、その先は『淫魔の王』の、城だった。 
細部は違っているが、恐らく、ここは玉座の間。 

眼前、遠くには玉座。 
そこまでの赤い絨毯の道を残して様々な姿の淫魔達が熱い視線を向けており、若干気圧される。 

勇者「……これは…」 

戸惑っていると、背後から、良く知る声が聞こえた。 

???「お進みください。今日この時をもって、貴方は…『王』となるのです」 

勇者「堕女神?」 

堕女神「……はい?何でしょうか」 

勇者「…いや。後でいい。……進めば、いいんだな」 

振り返り、声の主を確認した。 
そして、胸の奥から暖かくなるような喜びを感じて、玉座へと進む。 

―――また、会えた。 
―――彼女と、彼女達との時間を再び歩みなおす事ができる。 

足取りは軽く、そして深い。 
淫魔達の視線が惜しみなく注がれる中、玉座の前へ辿り着き、壇上から大きく振り返る。 


集まった者達の中に、二人の、良く知る淫魔の姿があった。 

一人は、どこか妖しい、悩ましい魅力を備えたサキュバス。 
一人は、幼い印象を持つ、利発そうな少女の姿のサキュバス。 

両者は、視線を向けられる事に困惑しているようだった。 
まるで――懐かしい者を見るような目だったから。 

玉座に深く、ゆっくりと腰賭ける。 

堕女神がその隣から、控えめな、洗練された動作で彼の頭に冠を下ろした。 

瞬間、民衆の沸き立つ声が聞こえる。 
玉座の間だけではない。 
同時に城の外からも響き渡るような、『王』を歓迎する声が。 


この日、淫魔の国は新たな王を迎えた。 

『世界』を救った勇者は、魔王によって『世界』から救われた。 

その後の彼の治世は、淫魔達のみが知るところ。 


―――ある一説では、堕ちた女神と交わり、半神の子を設けたとも。 
―――ある一説では、国難にあえぐ隣国へ、暖かく手を差しのべたとも。 
―――ある一説では、国の淫魔達へ惜しみなく愛情を分け与え、そして愛される王となったとも。 

そして、ある『勇者』の物語は、ここで終わりとなる。 




魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」 


  完 

出典:続編
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